ゲスト
(ka0000)
香り高い紅茶
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/08 19:00
- 完成日
- 2015/05/15 06:02
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国の南部平原。
開墾された畑には数多くの低木が並んでいた。濃い緑の葉が生い茂るそれは『チャノキ』である。
この地域は紅茶の産地として有名だ。
気候としてはもう少し暖かい土地の方がチャノキの育成には適している。それでも魔術師協会が改良した品種によって、この地でも充分な収穫が見込めた。
王国内で飲まれる紅茶のほとんどが南部産である。
茶摘みの時期は四月後半から寒くなるまで続く。春摘み、夏摘み、秋摘みの三回に分けて行われていた。
「まさかのこの時期に」
茶畑を所有する村の長老が白い顎髭を撫でながら呻る。
つい先日、村近くの丘陵が崩れて重要な生活道路が塞がれた。その後の復旧作業中、再度崩れて村人達が土砂の下敷きになってしまう。
死者こそでなかったものの、骨折した村人が十三名にものぼった。それによってこの時期に摘む必要があるというのに人手が足りなくなる。
近隣の村や集落も茶摘みで忙しく、応援を頼める雰囲気ではなかった。
「ハンターの方々に頼むのはどうでしょうか?」
ある村の娘がハンターに依頼しようと長老に進言する。
「ハンター……なるほど。じゃが引き受けてもらえるかのう」
「農作業を手伝ってもらった集落もあると聞き及んでいます。きっと茶摘みも手伝ってもらえますよ。それに美味しい紅茶も飲んで頂きましょう」
「そうじゃな」
茶摘みの他に発酵させる工程もあるので、猫の手も借りたいぐらいの忙しさだ。期待してハンターズソサエティの支部に遣いの者をだす。
依頼はすぐに冒険都市リゼリオのハンターズソサエティへ。公開された情報は多くのハンター達の目に留まった。
開墾された畑には数多くの低木が並んでいた。濃い緑の葉が生い茂るそれは『チャノキ』である。
この地域は紅茶の産地として有名だ。
気候としてはもう少し暖かい土地の方がチャノキの育成には適している。それでも魔術師協会が改良した品種によって、この地でも充分な収穫が見込めた。
王国内で飲まれる紅茶のほとんどが南部産である。
茶摘みの時期は四月後半から寒くなるまで続く。春摘み、夏摘み、秋摘みの三回に分けて行われていた。
「まさかのこの時期に」
茶畑を所有する村の長老が白い顎髭を撫でながら呻る。
つい先日、村近くの丘陵が崩れて重要な生活道路が塞がれた。その後の復旧作業中、再度崩れて村人達が土砂の下敷きになってしまう。
死者こそでなかったものの、骨折した村人が十三名にものぼった。それによってこの時期に摘む必要があるというのに人手が足りなくなる。
近隣の村や集落も茶摘みで忙しく、応援を頼める雰囲気ではなかった。
「ハンターの方々に頼むのはどうでしょうか?」
ある村の娘がハンターに依頼しようと長老に進言する。
「ハンター……なるほど。じゃが引き受けてもらえるかのう」
「農作業を手伝ってもらった集落もあると聞き及んでいます。きっと茶摘みも手伝ってもらえますよ。それに美味しい紅茶も飲んで頂きましょう」
「そうじゃな」
茶摘みの他に発酵させる工程もあるので、猫の手も借りたいぐらいの忙しさだ。期待してハンターズソサエティの支部に遣いの者をだす。
依頼はすぐに冒険都市リゼリオのハンターズソサエティへ。公開された情報は多くのハンター達の目に留まった。
リプレイ本文
●
「この斜面をのぼればすぐですよ」
南部平原にある紅茶栽培の村を訪れたハンター一行は村娘の案内で茶畑へと向かう。茶畑は丘を挟んで村と隣接するように広がっていた。
「クリス、普段飲んでる紅茶はああいう木の葉から出来るんだゼ? 面白ェと思わねーか?」
「茶葉が生い茂っているところを見たのは初めてですの!」
ヤナギ・エリューナク(ka0265)とクリスティン・エリューナク(ka3736)の兄妹が丘の上からチャノキの列を見渡す。
茶の香りがほんのりと漂っていた。視界いっぱいの茶畑に澄んだ青い空。小鳥たちの囀りが耳に届いて心地よい。
「この葉っぱが紅茶になるんですね……。あんな味になるのかと思うと、不思議です」
丘を駆け下りたブランシュ・リゴー(ka4795)は腰を屈めてチャノキに顔を近づける。春の今頃こそが新茶の季節だ。
「お茶の香りがいいですね」
「紅茶作り体験って一度してみたかったんだよね」
ミオレスカ(ka3496)と菊開 すみれ(ka4196)は収穫中だった女性に籠の中を見させてもらう。摘まれていたばかりの茶の新芽でいっぱいである。
「こういうんは実際にやって覚えるんが一番やからな」
アカーシャ・ヘルメース(ka0473)は発酵作業を手伝うつもりだが、茶摘みも気になっていた。
次に案内されたのが茶畑のすぐ近くに建てられていた作業用の建物。二棟が並んで建てられている。立ち入る前からとてもよい紅茶の香りが周辺に漂っていた。
中に入ったクリスティンはヤナギが指さした方を覗き込む。二十三番の数字が振られた桶の中身はすでに揉まれて広げられた茶葉だった。担当者によって隣の棟へと運ばれていく。
「僕は茶摘みに力を入れますが、こうして見学の機会があるのは嬉しいです」
「大好きなお茶を、茶葉から作れるだなんてこのような機会は滅多に無う御座います」
村の女性達が行う茶揉み作業を眺めながら、アスワド・ララ(ka4239)とデュシオン・ヴァニーユ(ka4696)が瞳を輝かせる。
案内の村娘によれば休憩時間に紅茶を自由に飲んで構わないという。そのための茶葉や道具類は用意されていた。
それを聞いたデュシオンが思いつく。
「帰り際にはお茶会をしませんか? 自分たちで作った茶葉でお茶会だなんて、素敵だと思いませんこと?」
デュシオンの提案に仲間達が賛成する。
隣の棟では発酵と煎る作業が行われていた。
「ヤナギにーさま、もう琥珀色になりかけていますの!」
クリスティンが先程見かけた二十三番の桶を眺めて大いに驚く。
ここでハンター一行は二手に分かれる。
茶摘みに参加するのはヤナギ、クリスティン、菊開、アスワド、ブランシュの五名。発酵作業を手伝うのはアカーシャ、ミオレスカ、デュシオンの三名だ。
さっそく動きやすい格好に着替えて作業に取りかかるのだった。
●
「皆さんには新芽の部分だけを採る三葉のこき摘みをやってもらいます。こうやって親指と人差し指で挟んで――」
茶摘みの五名は熟練者から指導を受ける。まだ柔らかい先端部分の新芽だけを採って背中の籠に溜めていく。摘んだ葉に陽の光を当てないよう注意しながら。
教えてもらったところで実際の茶摘み作業が始まった。
「クリス、実はな。一芯二葉摘みの紅茶も美味いんだ。芯が入ることに因ってまろやかな味になんだゼ」
ヤナギの言葉にクリスティンが瞳を大きく開いた。
「ここでもそうやっているときがあるはずだゼ。特別製ってやつだな。数日経って慣れたところで村のもんに話してみっか」
「クリスの知らない事を沢山知っている、にーさまは、やっぱり凄いですのv」
低いチャノキが殆どだったが、小柄なクリスティンでは届かない枝も稀にある。ヤナギが代わりに採ることもあるが時には肩車をしてあげた。
「採れたか、クリス。それに眺めは」
「ヤナギにーさまの普段目にしている景色は、こんな感じなのでしょうか。ですの」
兄妹は仲睦まじく茶を摘んでいく。
菊開とアスワドは茶摘みをしなから好きな茶を話題にする。
「紅茶とか烏龍茶とか緑茶って同じ葉から作るんだよねー」
「僕はチャイが好きなんです。チャイには粉状になった茶葉の方がよいみたいなんですが」
「せっかくだし緑茶とかフレーバーティーとか作らせて貰おうかな?」
「いいですね。新しい商売に繋がりそうです。うちの店でも扱いたいですね」
菊開はリアルブルーでアイドルをしていたという。そしてアスワドは商売人でもある。
「あっ!」
背後から聞こえてきた声にアスワドが反応した。振り向きざまに倒れかかっていたブランシュを支える。
「大丈夫? 怪我はないかな?」
「は、はい」
菊開も近寄ってブランシュを心配した。
「有り難う御座います。結構、腰がつらくてそれで……つい蹌踉けてしまって」
ブランシュは真剣に摘み続けている間に自身の限界を超えてしまったようだ。しばらく自分の腰をさすっていた。
「根を詰めるとよくないからね。実は私も黙々作業って苦手なんだよね。でもテレビのお仕事でこういう体験コーナーしたかったなあ……」
「あ、あの……テレビってどんなものなんですか?」
菊開が魔導伝話みたいなものだとブランシュに説明していると、遠くから鐘の音が聞こえてくる。
「ちょうど休憩時間だ。さてここの紅茶を頂くとしようか」
アスワドが菊開とブランシュを誘って一緒に休憩をとった。
村の人達が用意してくれた紅茶を野外で頂く。用意されていたのはストレートティに好みで砂糖やミルクを足す。ヤナギとクリスティンもやってくる。
一同は春風に吹かれながら和気藹々とお茶を楽しむのだった。
●
アカーシャ、ミオレスカ、デュシオンは一時間ほど茶摘み体験をしてから発酵作業を手伝った。
自らが摘んだ新芽を使いたかったが、一、二日ほど日陰で萎びさせる必要があったので後日のお楽しみとなる。
「心を込めて、少しずつ丸めるのですね」
「この桶の半分ぐらいまで溜まったら、広げてもらえるかしら」
「えっと、破れないように、ですか?」
「程々にやれば大丈夫よ。終わったら併設されている隣の発酵の建物まで持っていってね」
ミオレスカは熟練者に指導を仰ぎながら両手で新芽の葉を揉んでいく。
(なるほどな。生の茶葉の善し悪しはああやって見分けるんか。囓ったりもするんや。経験がものをいいそうや)
アカーシャは茶を揉みながら熟練者達の作業をさりげなく観察した。丁寧に揉んだところで隣の棟へと桶を運んでいく。
二重の扉を途端、むわっとした熱気が感じられる。煮立つ釜によって熱と蒸気が満ちていた。
(熱源は発酵止めの鉄板と共用のようや)
アカーシャが桶を所定に置いて砂時計をひっくり返す。発酵が終わるまでは三時間といったところである。
仕切られた向こうの部屋では鉄板で煎って発酵を止めていた。後は適度な大きさにして容器に詰めれば紅茶が完成する。
(このまま発酵を長引かせれば烏龍茶になるんやないか?)
作業をこなしながら烏龍茶試作の計画を立てるアカーシャだった。
エプロン姿で茶揉みをしていたデュシオンに熟練者が声をかける。
「茶揉みは様になってきたわね。こちらの手が足りないので手伝ってもらえるかしら?」
「あいな、承りましたの」
は隣棟に移ったデュシオンは鉄板で発酵し終わった茶葉を煎った。
「これほどの紅茶の香りは体験したことがありませんの」
熱くて大変な作業だが全身に紅茶を浴びているような気分になれる。
熱さで体力を消耗するので持ち回りで行われた。しばらくしてアカーシャやミオレスカも茶葉を煎る作業を担当する。
休憩の時間、アカーシャ、ミオレスカ、デュシオンも紅茶を頂いた。
その美味しさに三人の会話も弾んだ。
デュシオンは作ってきたマカロンを一同に分ける。仲間達と約束した茶会の席でも新たに作ったマカロンを振る舞うつもりであった。
●
しばらくしてハンター達が望んだ様々な茶作りの許可が村の長から下りた。作業の合間に作られる。
ヤナギとクリスティンは一芯二葉摘みの芯入り特別紅茶を完成させた。青空の下、普通の紅茶と飲み比べをする。
湯の中で充分に茶葉を躍らせて抽出。ヤナギがカップに紅茶を注いだ。
「クリス、どっちが芯入りでどっちが芯無しだ……?」
「むむむっ……ヤナギにーさまの芯ありの紅茶は、きっとこっちですの」
「クリス、当たりだ。じゃあ、どう違う? 美味いのはどっちだ?」
「まろやかな、ヤナギにーさまが用意した芯ありですの♪」
ヤナギに頭を撫でられてクリスティンはとても嬉しそうである。スコーンを茶菓子にしながら二人きりの時間を過ごした。
アカーシャは完成した茶を持って村長の屋敷を訪ねる。
「今淹れたこれは烏龍茶っていうもんや。あ、砂糖やミルクは入れんといてな」
アカーシャに勧められて村長がまず一口。紅茶とは違う風味に驚きつつも飲み干す。
「ここまで醸すとまた違った味わいになるのじゃな。知らんかったわい」
「リアルブルーのモンがこれを飲んだら懐かしさを感じるはずや。うちらクリムゾンウェストのモンは物珍しさやな。リゼリオに卸すならきっと儲かるで」
商人としての一押しと交渉を忘れないアカーシャである。
ミオレスカ、デュシオン、ブランシュは協力して緑茶を完成させた。半日の休みをもらったとき、石窯を借りてお菓子を作る。
「バターたっぷり入れて……あ、バニラの種を忘れてしました」
ミオレスカはビスケットを焼こうとしていた。用意した型で生地をくり抜くと花の形になる。
「石窯の余熱は充分です」
ブランシュは二人のお菓子作りを手伝う。
「これなんてどうですの?」
デュシオンはマカロンを作った。家からもってきた分は好評ですでに手元にはなにもない。
余分に作られたビスケットとマカロンは世話になった村の人達にも配られた。
フレーバーティ作りに挑戦したのは菊開である。興味を持ったアスワドが手伝う。
「この瓶の中身は何なのですか?」
「乾燥したベルガモットだよ~。村の人に柑橘系でよい感じの物はないかって聞いたら、これを教えてくれたんだ~♪」
村の人に教えてもらった通りの分量で紅茶の葉と混ぜ合わせる。試しに淹れて飲んでみた二人は非常に驚く。出来たて紅茶の素晴らしい香りにしばし言葉を失った。
●
ハンター達が手伝ったおかげで紅茶の収穫と加工は捗った。硬くなってしまう前に茶畑の新芽が摘み取られる。
そして滞在の最終日が訪れた。
「では、これより感謝の意を込めて、小さな御茶会を始めたいと思いんす」
野外のお茶会はデュシオンの挨拶から始まる。
最初はヤナギとクリスティンが用意した特製紅茶が振る舞われた。新芽の二葉と芯が使われているもので、普通の紅茶よりも柔らかい風味が特徴だ。
「もうすぐですの♪」
クリスティンが紅茶を淹れている間、ヤナギはベース演奏を披露する。普段弾く激しきロックやメタルではなく、茶畑の景色と合う爽やかな調べが奏でられた。
「では俺も飲むか」
淹れたての紅茶を飲んだヤナギが頷く。クリスティンも嬉しそうにカップに口をつける。
「これも食べてな」
アカーシャはプレーンクッキーを仲間達に勧めてから紅茶を味わう。
「なるほど、こういう味なんか」
ストレートで味を確かめ、その上で用意した砂糖、ミルク、レモン、蜂蜜等のフレーバーを加えるかどうか悩んだ。
「となると……これを入れてみると良えかな?」
蜂蜜を足した特製紅茶がアカーシャの好みのようである。
「これ、私が作ったアールグレイなの。茶葉にベルガモットを足してみたんだ♪」
菊開はメイド風の格好で紅茶を淹れる。動く度にフリルの袖が靡く。
「その格好、とても似合っていますよ」
「ありがと♪」
アスワドは菊開が淹れた紅茶のカップを顔に近づけた。菊開と一緒によりよい配合比率を探ったアールグレイは素晴らしい出来映えである。普通の紅茶とは違う香り付けが鼻腔をくすぐった。
「マカロンととても合います♪」
「お替わりどうぞ~♪」
デュシオンの空になったカップに菊開がアールグレイを静かに注ぐ。
次はアスワドのお茶である。
「僕はチャイが好きなんです」
チャイ用の茶葉には敢えて質のよくない粉状のものを使う。高級な茶葉を使っても美味しいチャイが作れないところがとても面白い。
弱火で茶葉を煮ていき、色が出てきたら一旦火から下ろす。大量の牛乳に、砂糖、カルダモン、シナモン、ジンジャーを足して、再び弱火にかけて濾せば完成である。
「チャイは茶の葉を無駄なく使えるんだゼ」
「ミルク味で美味しいですの♪」
ヤナギとクリスティンはマカロンと一緒にチャイを味わった。
アカーシャが用意する茶は紅茶よりもとても濃い色をしていた。
「これな、烏龍茶いうねん。これだけでも美味いんやけどな。脂っこい料理と一緒に飲むとすごくいいんや」
村が用意してくれたものの中にこってりとした肉料理がある。ミオレスカとブランシュが肉を一口分食べたあとで烏龍茶を飲んでみた。
「すごく口の中がすっきりします!」
「これもリアルブルーのお茶なんですね……。さっぱりしてなんだか不思議です」
エルフの二人にとって烏龍茶の効果はとても不思議に感じられたようだ。
そして最後はミオレスカ、デュシオン、ブランシュが作った緑茶である。ミオレスカが湯を沸かし、ブランシュが淹れ、デュシオンがカップを運んだ。
「私も緑茶作ろうと思っていたの♪」
菊開は柏餅を仲間達に勧めてから緑茶を頂く。とても懐かしい味が口いっぱいに広がる。柏餅も食べるとそれが倍増した。
「花の形をしたバタービスケットは香りがとてもいいな」
「ば、バニラおかげなんです」
アスワドは感心しながらミオレスカが作ったビスケットを囓る。ミオレスカ自身も緑茶とビスケットを一緒に味わった。
「緑茶の苦味が沁みます。まめしに合いそうです。この近くでは、まめしは作ってないでしょうか?」
「村の方に聞いても残念ながらわからなかったですわ。代わりにこちらは如何でしょう?」
ミオレスカとデュシオンはビスケットとマカロンを交換してそれぞれの茶菓子を味わう。
「これがリアルブルーのお茶なんですね……」
ブランシュは緑茶を一口飲んで感慨深く呟いた。湯に溶けた澄んだ緑色は目の前の茶畑を封じ込めたようである。
すべての茶は製法と一緒に村へと伝えられた。
「手伝って頂けただけでなく、新しい茶まで教えてもらえるとは」
村長から深い感謝と共にハンター達へ紅茶が贈られる。
「出荷や流通の際、ヘルメース商会をよろしゅうなー♪」
「僕のところも一枚噛ませてもらえると嬉しいです」
流石、アカーシャとアスワドは商売人だ。別れ際にアピールするのを忘れない。
村人の何名かは快復してもうすぐ働けそうである。
こうして紅茶作りの手伝いは幕を閉じるのだった。
「この斜面をのぼればすぐですよ」
南部平原にある紅茶栽培の村を訪れたハンター一行は村娘の案内で茶畑へと向かう。茶畑は丘を挟んで村と隣接するように広がっていた。
「クリス、普段飲んでる紅茶はああいう木の葉から出来るんだゼ? 面白ェと思わねーか?」
「茶葉が生い茂っているところを見たのは初めてですの!」
ヤナギ・エリューナク(ka0265)とクリスティン・エリューナク(ka3736)の兄妹が丘の上からチャノキの列を見渡す。
茶の香りがほんのりと漂っていた。視界いっぱいの茶畑に澄んだ青い空。小鳥たちの囀りが耳に届いて心地よい。
「この葉っぱが紅茶になるんですね……。あんな味になるのかと思うと、不思議です」
丘を駆け下りたブランシュ・リゴー(ka4795)は腰を屈めてチャノキに顔を近づける。春の今頃こそが新茶の季節だ。
「お茶の香りがいいですね」
「紅茶作り体験って一度してみたかったんだよね」
ミオレスカ(ka3496)と菊開 すみれ(ka4196)は収穫中だった女性に籠の中を見させてもらう。摘まれていたばかりの茶の新芽でいっぱいである。
「こういうんは実際にやって覚えるんが一番やからな」
アカーシャ・ヘルメース(ka0473)は発酵作業を手伝うつもりだが、茶摘みも気になっていた。
次に案内されたのが茶畑のすぐ近くに建てられていた作業用の建物。二棟が並んで建てられている。立ち入る前からとてもよい紅茶の香りが周辺に漂っていた。
中に入ったクリスティンはヤナギが指さした方を覗き込む。二十三番の数字が振られた桶の中身はすでに揉まれて広げられた茶葉だった。担当者によって隣の棟へと運ばれていく。
「僕は茶摘みに力を入れますが、こうして見学の機会があるのは嬉しいです」
「大好きなお茶を、茶葉から作れるだなんてこのような機会は滅多に無う御座います」
村の女性達が行う茶揉み作業を眺めながら、アスワド・ララ(ka4239)とデュシオン・ヴァニーユ(ka4696)が瞳を輝かせる。
案内の村娘によれば休憩時間に紅茶を自由に飲んで構わないという。そのための茶葉や道具類は用意されていた。
それを聞いたデュシオンが思いつく。
「帰り際にはお茶会をしませんか? 自分たちで作った茶葉でお茶会だなんて、素敵だと思いませんこと?」
デュシオンの提案に仲間達が賛成する。
隣の棟では発酵と煎る作業が行われていた。
「ヤナギにーさま、もう琥珀色になりかけていますの!」
クリスティンが先程見かけた二十三番の桶を眺めて大いに驚く。
ここでハンター一行は二手に分かれる。
茶摘みに参加するのはヤナギ、クリスティン、菊開、アスワド、ブランシュの五名。発酵作業を手伝うのはアカーシャ、ミオレスカ、デュシオンの三名だ。
さっそく動きやすい格好に着替えて作業に取りかかるのだった。
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「皆さんには新芽の部分だけを採る三葉のこき摘みをやってもらいます。こうやって親指と人差し指で挟んで――」
茶摘みの五名は熟練者から指導を受ける。まだ柔らかい先端部分の新芽だけを採って背中の籠に溜めていく。摘んだ葉に陽の光を当てないよう注意しながら。
教えてもらったところで実際の茶摘み作業が始まった。
「クリス、実はな。一芯二葉摘みの紅茶も美味いんだ。芯が入ることに因ってまろやかな味になんだゼ」
ヤナギの言葉にクリスティンが瞳を大きく開いた。
「ここでもそうやっているときがあるはずだゼ。特別製ってやつだな。数日経って慣れたところで村のもんに話してみっか」
「クリスの知らない事を沢山知っている、にーさまは、やっぱり凄いですのv」
低いチャノキが殆どだったが、小柄なクリスティンでは届かない枝も稀にある。ヤナギが代わりに採ることもあるが時には肩車をしてあげた。
「採れたか、クリス。それに眺めは」
「ヤナギにーさまの普段目にしている景色は、こんな感じなのでしょうか。ですの」
兄妹は仲睦まじく茶を摘んでいく。
菊開とアスワドは茶摘みをしなから好きな茶を話題にする。
「紅茶とか烏龍茶とか緑茶って同じ葉から作るんだよねー」
「僕はチャイが好きなんです。チャイには粉状になった茶葉の方がよいみたいなんですが」
「せっかくだし緑茶とかフレーバーティーとか作らせて貰おうかな?」
「いいですね。新しい商売に繋がりそうです。うちの店でも扱いたいですね」
菊開はリアルブルーでアイドルをしていたという。そしてアスワドは商売人でもある。
「あっ!」
背後から聞こえてきた声にアスワドが反応した。振り向きざまに倒れかかっていたブランシュを支える。
「大丈夫? 怪我はないかな?」
「は、はい」
菊開も近寄ってブランシュを心配した。
「有り難う御座います。結構、腰がつらくてそれで……つい蹌踉けてしまって」
ブランシュは真剣に摘み続けている間に自身の限界を超えてしまったようだ。しばらく自分の腰をさすっていた。
「根を詰めるとよくないからね。実は私も黙々作業って苦手なんだよね。でもテレビのお仕事でこういう体験コーナーしたかったなあ……」
「あ、あの……テレビってどんなものなんですか?」
菊開が魔導伝話みたいなものだとブランシュに説明していると、遠くから鐘の音が聞こえてくる。
「ちょうど休憩時間だ。さてここの紅茶を頂くとしようか」
アスワドが菊開とブランシュを誘って一緒に休憩をとった。
村の人達が用意してくれた紅茶を野外で頂く。用意されていたのはストレートティに好みで砂糖やミルクを足す。ヤナギとクリスティンもやってくる。
一同は春風に吹かれながら和気藹々とお茶を楽しむのだった。
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アカーシャ、ミオレスカ、デュシオンは一時間ほど茶摘み体験をしてから発酵作業を手伝った。
自らが摘んだ新芽を使いたかったが、一、二日ほど日陰で萎びさせる必要があったので後日のお楽しみとなる。
「心を込めて、少しずつ丸めるのですね」
「この桶の半分ぐらいまで溜まったら、広げてもらえるかしら」
「えっと、破れないように、ですか?」
「程々にやれば大丈夫よ。終わったら併設されている隣の発酵の建物まで持っていってね」
ミオレスカは熟練者に指導を仰ぎながら両手で新芽の葉を揉んでいく。
(なるほどな。生の茶葉の善し悪しはああやって見分けるんか。囓ったりもするんや。経験がものをいいそうや)
アカーシャは茶を揉みながら熟練者達の作業をさりげなく観察した。丁寧に揉んだところで隣の棟へと桶を運んでいく。
二重の扉を途端、むわっとした熱気が感じられる。煮立つ釜によって熱と蒸気が満ちていた。
(熱源は発酵止めの鉄板と共用のようや)
アカーシャが桶を所定に置いて砂時計をひっくり返す。発酵が終わるまでは三時間といったところである。
仕切られた向こうの部屋では鉄板で煎って発酵を止めていた。後は適度な大きさにして容器に詰めれば紅茶が完成する。
(このまま発酵を長引かせれば烏龍茶になるんやないか?)
作業をこなしながら烏龍茶試作の計画を立てるアカーシャだった。
エプロン姿で茶揉みをしていたデュシオンに熟練者が声をかける。
「茶揉みは様になってきたわね。こちらの手が足りないので手伝ってもらえるかしら?」
「あいな、承りましたの」
は隣棟に移ったデュシオンは鉄板で発酵し終わった茶葉を煎った。
「これほどの紅茶の香りは体験したことがありませんの」
熱くて大変な作業だが全身に紅茶を浴びているような気分になれる。
熱さで体力を消耗するので持ち回りで行われた。しばらくしてアカーシャやミオレスカも茶葉を煎る作業を担当する。
休憩の時間、アカーシャ、ミオレスカ、デュシオンも紅茶を頂いた。
その美味しさに三人の会話も弾んだ。
デュシオンは作ってきたマカロンを一同に分ける。仲間達と約束した茶会の席でも新たに作ったマカロンを振る舞うつもりであった。
●
しばらくしてハンター達が望んだ様々な茶作りの許可が村の長から下りた。作業の合間に作られる。
ヤナギとクリスティンは一芯二葉摘みの芯入り特別紅茶を完成させた。青空の下、普通の紅茶と飲み比べをする。
湯の中で充分に茶葉を躍らせて抽出。ヤナギがカップに紅茶を注いだ。
「クリス、どっちが芯入りでどっちが芯無しだ……?」
「むむむっ……ヤナギにーさまの芯ありの紅茶は、きっとこっちですの」
「クリス、当たりだ。じゃあ、どう違う? 美味いのはどっちだ?」
「まろやかな、ヤナギにーさまが用意した芯ありですの♪」
ヤナギに頭を撫でられてクリスティンはとても嬉しそうである。スコーンを茶菓子にしながら二人きりの時間を過ごした。
アカーシャは完成した茶を持って村長の屋敷を訪ねる。
「今淹れたこれは烏龍茶っていうもんや。あ、砂糖やミルクは入れんといてな」
アカーシャに勧められて村長がまず一口。紅茶とは違う風味に驚きつつも飲み干す。
「ここまで醸すとまた違った味わいになるのじゃな。知らんかったわい」
「リアルブルーのモンがこれを飲んだら懐かしさを感じるはずや。うちらクリムゾンウェストのモンは物珍しさやな。リゼリオに卸すならきっと儲かるで」
商人としての一押しと交渉を忘れないアカーシャである。
ミオレスカ、デュシオン、ブランシュは協力して緑茶を完成させた。半日の休みをもらったとき、石窯を借りてお菓子を作る。
「バターたっぷり入れて……あ、バニラの種を忘れてしました」
ミオレスカはビスケットを焼こうとしていた。用意した型で生地をくり抜くと花の形になる。
「石窯の余熱は充分です」
ブランシュは二人のお菓子作りを手伝う。
「これなんてどうですの?」
デュシオンはマカロンを作った。家からもってきた分は好評ですでに手元にはなにもない。
余分に作られたビスケットとマカロンは世話になった村の人達にも配られた。
フレーバーティ作りに挑戦したのは菊開である。興味を持ったアスワドが手伝う。
「この瓶の中身は何なのですか?」
「乾燥したベルガモットだよ~。村の人に柑橘系でよい感じの物はないかって聞いたら、これを教えてくれたんだ~♪」
村の人に教えてもらった通りの分量で紅茶の葉と混ぜ合わせる。試しに淹れて飲んでみた二人は非常に驚く。出来たて紅茶の素晴らしい香りにしばし言葉を失った。
●
ハンター達が手伝ったおかげで紅茶の収穫と加工は捗った。硬くなってしまう前に茶畑の新芽が摘み取られる。
そして滞在の最終日が訪れた。
「では、これより感謝の意を込めて、小さな御茶会を始めたいと思いんす」
野外のお茶会はデュシオンの挨拶から始まる。
最初はヤナギとクリスティンが用意した特製紅茶が振る舞われた。新芽の二葉と芯が使われているもので、普通の紅茶よりも柔らかい風味が特徴だ。
「もうすぐですの♪」
クリスティンが紅茶を淹れている間、ヤナギはベース演奏を披露する。普段弾く激しきロックやメタルではなく、茶畑の景色と合う爽やかな調べが奏でられた。
「では俺も飲むか」
淹れたての紅茶を飲んだヤナギが頷く。クリスティンも嬉しそうにカップに口をつける。
「これも食べてな」
アカーシャはプレーンクッキーを仲間達に勧めてから紅茶を味わう。
「なるほど、こういう味なんか」
ストレートで味を確かめ、その上で用意した砂糖、ミルク、レモン、蜂蜜等のフレーバーを加えるかどうか悩んだ。
「となると……これを入れてみると良えかな?」
蜂蜜を足した特製紅茶がアカーシャの好みのようである。
「これ、私が作ったアールグレイなの。茶葉にベルガモットを足してみたんだ♪」
菊開はメイド風の格好で紅茶を淹れる。動く度にフリルの袖が靡く。
「その格好、とても似合っていますよ」
「ありがと♪」
アスワドは菊開が淹れた紅茶のカップを顔に近づけた。菊開と一緒によりよい配合比率を探ったアールグレイは素晴らしい出来映えである。普通の紅茶とは違う香り付けが鼻腔をくすぐった。
「マカロンととても合います♪」
「お替わりどうぞ~♪」
デュシオンの空になったカップに菊開がアールグレイを静かに注ぐ。
次はアスワドのお茶である。
「僕はチャイが好きなんです」
チャイ用の茶葉には敢えて質のよくない粉状のものを使う。高級な茶葉を使っても美味しいチャイが作れないところがとても面白い。
弱火で茶葉を煮ていき、色が出てきたら一旦火から下ろす。大量の牛乳に、砂糖、カルダモン、シナモン、ジンジャーを足して、再び弱火にかけて濾せば完成である。
「チャイは茶の葉を無駄なく使えるんだゼ」
「ミルク味で美味しいですの♪」
ヤナギとクリスティンはマカロンと一緒にチャイを味わった。
アカーシャが用意する茶は紅茶よりもとても濃い色をしていた。
「これな、烏龍茶いうねん。これだけでも美味いんやけどな。脂っこい料理と一緒に飲むとすごくいいんや」
村が用意してくれたものの中にこってりとした肉料理がある。ミオレスカとブランシュが肉を一口分食べたあとで烏龍茶を飲んでみた。
「すごく口の中がすっきりします!」
「これもリアルブルーのお茶なんですね……。さっぱりしてなんだか不思議です」
エルフの二人にとって烏龍茶の効果はとても不思議に感じられたようだ。
そして最後はミオレスカ、デュシオン、ブランシュが作った緑茶である。ミオレスカが湯を沸かし、ブランシュが淹れ、デュシオンがカップを運んだ。
「私も緑茶作ろうと思っていたの♪」
菊開は柏餅を仲間達に勧めてから緑茶を頂く。とても懐かしい味が口いっぱいに広がる。柏餅も食べるとそれが倍増した。
「花の形をしたバタービスケットは香りがとてもいいな」
「ば、バニラおかげなんです」
アスワドは感心しながらミオレスカが作ったビスケットを囓る。ミオレスカ自身も緑茶とビスケットを一緒に味わった。
「緑茶の苦味が沁みます。まめしに合いそうです。この近くでは、まめしは作ってないでしょうか?」
「村の方に聞いても残念ながらわからなかったですわ。代わりにこちらは如何でしょう?」
ミオレスカとデュシオンはビスケットとマカロンを交換してそれぞれの茶菓子を味わう。
「これがリアルブルーのお茶なんですね……」
ブランシュは緑茶を一口飲んで感慨深く呟いた。湯に溶けた澄んだ緑色は目の前の茶畑を封じ込めたようである。
すべての茶は製法と一緒に村へと伝えられた。
「手伝って頂けただけでなく、新しい茶まで教えてもらえるとは」
村長から深い感謝と共にハンター達へ紅茶が贈られる。
「出荷や流通の際、ヘルメース商会をよろしゅうなー♪」
「僕のところも一枚噛ませてもらえると嬉しいです」
流石、アカーシャとアスワドは商売人だ。別れ際にアピールするのを忘れない。
村人の何名かは快復してもうすぐ働けそうである。
こうして紅茶作りの手伝いは幕を閉じるのだった。
依頼結果
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- 師岬の未来をつなぐ
ミオレスカ(ka3496)
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【相談】美味しいお茶のため ミオレスカ(ka3496) エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/05/08 01:42:38 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/04 09:49:36 |