ふみづきや

マスター:香山さくら

シナリオ形態
イベント
難易度
普通
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~25人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2014/07/08 07:30
完成日
2014/08/01 21:34

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●ハンターオフィス

 三人の少女が目の前を漂う依頼の内容を確かめながらなにやら話し込んでいた。
 揃いの制服を見ると、どうやらリアルブルーの学生出身ハンターらしい。
「七夕? そう言えばもう七月だね」
「日本の七夕を辺境の村に伝道するの? でも七夕って歪虚のお払いするにはちょっと地味かも」
 目を輝かせる美鳥の声に、咲良は無表情に首を傾げる。
「そこはプロデュース次第よ。前日から準備っていうから盛大な祭りにしちゃえば?」
「たしかに『六日も常の夜には似ず』って言うから、昔の日本でも前の晩辺りからそわそわする男女も多かったみたいね」
「なによそれ?」
「松尾……なんとかって人の句よ。有名かどうかは知らないけど」
「どっかで聞いたような…… そうだ! たしか幕府の隠密として諸国を歩き回ってたので有名な伊賀忍者だよね?」
「……どんなソースよ」
 美鳥の反応に咲良がため息を吐く。
「で、なんで男女がそわそわしたりするんだ?」
 忍者ネタで勝手にテンションを上げていた美鳥が、改めて疑問を投げかける。
「織女と牽牛が年に一度のデートをする日だから、感情移入とかで前の晩辺りからそれっぽい雰囲気が漂うんじゃないかっていう話だけど」
「なるほど。クリスマスイヴの向うを張って七夕イヴか! 前夜祭って感じでいいじゃないか」
「そっちのイヴは前夜じゃなくて正味25日の晩みたいよ。暦の関係で24日は日没で終了だったらしいから」
「でも、日没前からけっこういちゃついてるカップルとかいるよな?」
「まあ、元々の日本人は大方がそっち方面の信仰とか関係ないから、由来とか置いといて盛り上がれば良いって感じでしょうね」
「そうだよな。祭りは盛り上がってなんぼだよ」
 我が意を得たりとばかりに満面の笑みを浮かべる美鳥に、咲良も黙って頷いた。
「それじゃ、行ってみましょうか?」
 二人のやり取りをなんとなく聞きながら宙に浮かぶ依頼を眺めていた怜奈が、そろそろ潮時と思ったかおもむろに口を開く。
「おう!」
「えぇ」
 返事とともに三人は依頼を受けるため窓口へと向かうのだった。

リプレイ本文

●七夕といえば
 七夕祭りを運営するために集まった村の世話役とハンター達。
「まずは定番の笹の用意だな。つーか、この世界に笹はあるのか?」
 開口一番、加山 斬(ka1210)が、現地の世話役に問いかけるのだが。
「とりあえずあるみたいよ」
 運よく実物の七夕笹飾りを手に入れてきた幸地 優子(ka0922)が、1mほどに作られた携帯版を見本に指し示す。
「簡単に言うと竹笹に願い事を書いた短冊を吊るして願い事をするという風習なのよね」
 色とりどりの華やかな装飾に混じって、願い事を書くための七夕短冊もぶら下がっていた。
 とはいえ村を一巡りした感じでは村の中には自生していないようだ。
「こんな植物がこの辺りに生息してないかね? もちろん祭り用にはもっと大きいほうが良いのだがね」
 優子の見本を指して高嶺 瀞牙(ka0250)も植物自体は説明の手間が省けたとばかりに尋ねると、竹か笹かはっきりしないが村から少し離れた場所に群生しているらしい。
「やりー、じゃあ適当な数を用意しておこうぜ」
 斬がにやりと笑って親指を立てる。
 頷いた瀞牙がふと思い出したように問いかける。
「ぱむだは……どうかねぇ?」
 笹と言えばつきもの感もあるが、見た目はともかく襲ってきた場合それなりに手ごわそうな相手だ。村の古老達に外見を説明すると嘗て東方に居たという珍獣らしいことが分る。いないと断言はできないが、どうやら近くでの目撃例は無いらしい。
「笹と一緒にぱむだ、も生息して、いない、です?」
 やり取りを聞いていた氷蒼 雪月花(ka0235)はちょっと残念そうに瀞牙をつつく。少し期待していたのかもしれないが、さすがに笹と違ってどこにでもいる動物ではなさそうだ。
 ともかく村人の案内で、なぜか頭の先から足元までまるごとうさぎに身を包んだこなゆき(ka0960)も含め5人が笹を取りに出かけることになる。

 祭りの象徴は確保できる目処が立ったところで、辺境の村人達に七夕の概要やら大雑把な段取りを説明することになった。
 仲良く並んだエルフ3姉妹の次女ネフィリア・レインフォード(ka0444)が、勢いよく挙手すると立ち上がって七夕の知識を披露する。
「七夕は知ってるのだ♪ 確か7日間夕方に笹を飾って、短冊に書かれた料理を皆で食べるんだよね♪」
 商店街の催しとかなら7日間くらいやるかもしれない。なにげに短冊がお品書き扱いなのは気のせいだろうか。
「……ネ、ネフィ? 其れは本当に、正しい知識なのかしら?」
 その辺りの知識に疎いことは自覚していたため、説明は妹達に任せていたフローレンス・レインフォード(ka0443)だが、どう考えても怪しげな内容に思わず問いかけた声が上ずってしまう。
(……ネフィ姉様、今回のお祭りのコト、勘違いしてるっぽい……)
「えっと、七夕……って、笹にお願い事を書いた短冊を吊るして願掛けしたり、お星様を楽しむお祭り……って、何かの本に書いてあった」
 RBの風習を勉強してきたらしい末妹のブリス・レインフォード(ka0445)が姉の言葉に訂正を入れる。
「あれー? 前に聞いた時そんな感じだった気がしたんだけどな?」
 ネフィリアは少し頬を赤らめながら首をひねった。
「ブリスは物知りね。頼りになるわ、ふふふっ」
 そんなネフィリアの様子にフローレンスはちょっと苦笑を浮かべたが、ちゃんと覚えてきたブリスへは頭を撫でてやる。
「……えへへ、お勉強の成果、出たかも……♪」
 褒められたブリスは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。

 一方でRB出身ではあるものの東洋の風習である七夕には馴染みの無いシュネー・シュヴァルツ(ka0352)。
 人見知りな性格から普段は従兄の陰に隠れているか部屋に篭りがちであるシュネーだが、稀には外に出なさいと言う従兄に放り出されてきたらしい。
(どうしてこんなことに……)
 と心の中でぼやきながらも、仕事である以上知らないと言う訳にも行かず、道中怜奈達3人組に聞き取り調査を行っては来ていた。
「七夕の伝承は、大事な人と一緒にいたければお仕事しなさい、という事ですよね……頑張ろう」
 天帝が働き者の娘織姫を川向こうの同じく働き者の牽牛に嫁がせたところ、2人とも新婚生活にかまけて機織や牛飼いの仕事をしなくなったため、怒って娘を実家に戻し1年に1度しか合わせなくしたと言う伝承を聞いたシュネーは我が身のことに置き換えて決意を新たにしたようだ。
 とはいえ今回裏方に徹するつもりで村の大人達の相手は他のハンター達に任せ、会議では大人しく聞き役に徹している。

 日本で行われていた神事としての七夕は6日のうちに用意を整え、7日の午前1時ごろに主となる神事を終えて朝には片付けてしまうものらしいのだが、時間帯的にも祭りとしてもそれはちょっと寂しい。
 辺境では明かりと言っても篝火やランタン程度しかなく、日暮れから深夜をまたいでの祭りは厳しいのも確か。このため、笹飾りは6日の夕刻までに完成させ、祭りのメインとなる宴は7日の日没後となった。

 優子は七夕祭りをこの地で重視される歪虚祓いとどう結び付けるかかにも言及した。RBでは笹の葉の殺菌性が高い事から魔除け・神聖なものと扱われてきた経緯があるらしいことを踏まえて、歪虚を祓うという方向性に持っていこうと提案する。
(ちょっとこじつけかもしれないし、祭りとしては地味だけど、添え物程度にはなるかしら)
 恋人同士がナントカカントカという点ではクリスマスより適しているようにも見えるが、とりあえずそちらは歪虚祓いに結びつきそうもないかと言葉には出さずに置く。

 宴を盛り上げるべくサーシャ・V・クリューコファ(ka0723)とディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は即席の音楽祭を催すという。
 楽器伴奏も担当するディアドラがギターはないかと村人に尋ねた。
「演奏するものが無ければ始まらないからな」
 ギターを知らないらしい村人に、地面に絵を描いて説明する。共鳴胴に弦を張って音階を操るための棹が付いた楽器はどうにかあるらしいので、それを借りることにした。

 星を見ながら集まって酒を飲むのを新しい七夕の風習にしようと考えたレイオス・アクアウォーカー(ka1990) はカクテルの材料やらつまみやらを持参してきていたし、七夕にちなんで星見の宴を催すと聞いて来た日下 菜摘(ka0881)も同様につまみや酒を持ってきている。
 レイオス所望の乳酒の類は、ある程度村人が持ち寄ってくれることになったが、基本は毎日消費した分を注ぎ足して再生産する性格上、飲み尽くせば次の日から作れなくなる代物だけに量は大して期待できない。
 アルコールの度数も低めの物が多いため、当初の予定通り持参したウィスキーと牛乳のカクテル『カウボーイ』が活躍しそうだ。

「えと、ぼ、僕は料理を用意しようと思います。お祭りですから、そういった物も必要だと思いますので」
 はにかんだ様にそう説明する燈京 紫月 (ka0658)や、天竜寺 詩(ka0396)は料理を作って宴に供しようと計画していた。
「よかったら美鳥さん、咲良さん、玲奈さんも一緒に作らない?」
 詩が3人組にも声をかけると、3人も喜んで誘いを受けた。

 ほかにも手作りの料理や食材などを持参しようとしていたハンターは何人かいたのだが……
 リゼリオ辺りでならサルヴァトーレ・ロッソ由来のRB産品も含めて色々と入手しやすいかもしれないが、なにぶん限られた時間で辺境へ移動するには転移門に頼るしかない。装備や携帯品の持参とペットの同行程度が限界で、数百人の村人に振舞えるほど大量の料理やら食材やらを辺境に持ち込むことはできなかったのだ。
 このあたり、転移門を利用した物資の流通が成立しない所以でもある。
 宴の本番は明晩となるため、ほとんどの調理は7日の午後から夕方にかけてでかまわない。素材の選択などに多少のアレンジを加えれば、とりあえず材料くらいは村の中でもなんとかなりそうだ。

 ヴァイス(ka0364)は、夏といえ夜間であれば冷えてくるだろうと予測して、村人達に毛布や羽織るものの準備を依頼する。
「ああ、あと途中で眠くなるやつもいるだろうから安眠スペースも何箇所か欲しいところだぜ」
 見た目も口調も豪放磊落そのものといった印象のヴァイスだが、存外気働きのできる男らしく、祭りの後片付けの段取りにまで細かく気を配っていた。

 祭りの手筈が着々と整っていく中、全く別の思惑を心に秘めたハンターもいる。
 その1人セリス・アルマーズ(ka1079)は仲間達と村人の会話を聞きながら自身の計画に思いを廻らす。
(タナバタ……どんな祭りかさっぱりだけど、祭りなら人が集まるわよね? 布教のチャンス!)
 人手が不足すれば進んで手伝う程度の気は一応あるらしいが、祭りにかこつけて布教活動を行うつもりのようである。


●行動開始
 七夕の説明と祭りの打ち合わせが終わると、ハンター達はそれぞれ準備に取り掛かった。
 雪月花・瀞牙・優子・こなゆき・斬の5人は数人の村人と荷車を借りて笹の採取に向かう。
 笹の採取に時間をとられそうだと踏んだ斬は、持参した七夕短冊を村人に預ける。似たような材料を用意して帰るまでに皆で必要な数を作っておいて欲しいと託して出かけていく。

 一方では、音楽祭のためのステージ設営も進んでいた。
 サーシャが村人の手を借りてステージを組み立てる脇では、ディアドラが事前に歌詞を確認したサーシャの歌う曲を一部デュエットもできるよう借りた楽器に落とし込んでいる。
 他にも祭りの間に流そうとハンター仲間から聞き取った七夕にちなんだ曲の練習にも余念がない。
「七夕、というのはお祭りの事……なのですか?」
 賑やかな祭り支度を眺めながら準備中のステージへと近づいたマリエル(ka0114)が楽器を爪弾くディアドラに声をかける。
「詳しくは知らないが、まあ要はお祭りなのだろう?」
 ディアドラはいたって軽く受け流す。サーシャも近づいてきて、マリエルは改めて自己紹介した。
「私はマリエルと言います。普段はお店でウェイトレスしてます。どうぞよろしく」
 店での衣装だというメイド服らしきものを身にまとっている。
 暫く話し込むうちマリエルも音楽祭へと出演することになった。

 祭りの準備が進む中エヴェリーナ・C(ka0017)は黙ったまま遠くからその様子を冷ややかに眺めている。
(星に願掛けなど、くだらない……)
 エヴェリーナにとって異世界の祭りなど知らぬ事。そも彼女の集落に存在したのは祭りではなく儀式のみだった。それすらも既に過去形でしか語れない。
 もはや存在の欠片も残らぬ集落。残っているのはエヴェリーナ自身と、守護の誓いを心に刻んだ美しき魔女のみなのだ。


●飾り付け
 午後をだいぶ回ったところで数本の笹が到着した。
 それぞれの笹に飾り付けを担当するハンター達が振り分けられ、村人にも参加させて準備しておいた飾りを括り付けていく。

 笹を持ち帰った雪月花と瀞牙はさっそく持参した七夕短冊に願いを書いて笹につるす。
 雪月花の願い事は、『いつも、せーがと豆乳と』。相棒と並び称するほど豆乳が大好きらしい。
「えへへ」
 相好を崩しながら糸を結びつける。
 一方瀞牙の願いは『雪月花と共にいつまでも楽しく』と、いたって常識的な範囲内。
「やっぱこれかねぇ」
 とちらりと相棒に目をやり、穏やかな笑みを浮かべた。

 方やレインフォード家の3姉妹も笹の1本を担当していた。
「笹に短冊を飾るのはあってたのだ♪ えっと、きっと1番上に飾った方が願い叶えて貰いやすいと思うのだー♪」
 末妹から七夕の正しい知識を教わったネフィリアは、『いつまでも3人仲良く暮らせますように』と書いた短冊を笹の1番上に取り付けようと張りきる。
「ほら、2人共。高い所には私が付けてあげるから、下の方をお願いできるかしら?」
 2人の妹と頭ひとつ分以上長身のフローレンスが妹達に声をかけた。
 準備中は飾り付けがしやすいように傾けてあるのだが、さすがに天辺付近はネフィリアの身長では届かないと見えて姉へと託す。
 一方『いつまでも、姉様達と一緒に居られますように』と書いたブリスは、手の届く高さの笹を選んで大切そうに短冊を結ぶ。
(……フロー姉様、ネフィ姉様。ずっとずっと、一緒だよ……。……大好き)
 心の中でそう呟くと仄かに頬を赤らめた。

 東京生まれだと言う時音 ざくろ(ka1250)も、別の笹を担当している。村の住人達への説明もかねて、ざくろの誘いに応じて一緒に来たアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)にも七夕の由来やらを語りつつ飾り付けを指導していた。
「だから、織り姫と彦星が1年に1度だけあえる、恋人の日なんだよ。後、笹に願い事書いた短冊を吊すと、叶うんだって……良かったら、一緒に」
 最後の一言はどうやらアデリシアに向けられたものらしい。
「良いですよ。それにしても変わった習慣もあるものですね……恋人同士が過ごす日ですか。実際に恋人同士でしたら、もっとロマンチックな日になったでしょうか?」
 七夕の説明に半ば感心しつつ応じながら、なんとなく自分を意識しているらしいざくろの様子に目を細める。
「ざくろ、アデリシアと一緒に、七夕を楽しんでみたかったから」
 ちょっとお姉さん目線なアデリシアの謎掛けにざくろは屈託の無い笑顔を返した。
 2人並んで短冊に願いを書くことに。
 ざくろは願いに合わせた黄色い短冊に『アデリシアや皆ともっと仲良くなって、ずっと一緒に冒険できますように』と書き付ける。
 一方アデリシアの願い事は『子ども達が平和に生きられる世界になりますように』というものなのだが。
(さて、願い事ですか……神官が神?頼みというのも理にかなってはいますね。……神じゃない? なら余計に都合がいいというものです)
 誰かに願うと言うより、平和な世界を作るのはアデリシア達の本業に近いものでもあるので緑の短冊を。仕事は自分達で頑張るとして、願掛けとしてなら良いだろうと願いを書き込んだ。
「1年に1度しか会えないって凄く寂しいよね……ざくろ、皆と一緒に暮らせて良かった」
 ざくろは書き上げた短冊を手に結びつける場所を選びながらアデリシアへ笑顔を向ける。
 村人達の短冊で混み合った辺りを避け、付けやすいように高い部分の笹を引いてあげようと手を伸ばすのだが。爪先立ちするざくろに寄り添うようにアデリシアが手を添えた。

「七夕祭り、みんなと参加できたら良かったけど……仕方が無いわね」
 カップルや姉妹での参加者達を眺めながら夕影 風音(ka0275)は小さな溜息を吐く。
 本当なら仲の良い幼馴染や弟妹と参加したかったのだが、予定が合わず1人で参加していたからだ。
 少し寂しい気もするが、短冊には皆に代わって『みんなが健やかでありますように』と書いて飾ることにした。

 色々七夕の知識をしこんだシュネーも七夕の内容を村の子達に教えたりしながら飾りや短冊を付ける手伝いをしている。
「あの枝に願い事を書いた紙を吊るすそうです」
 小さな子が高い位置を希望すれば抱き上げて結ばせたりとかいがいしく世話を焼いていた。

 笹の飾り付けを終えて短冊に吊るす願い事を書きに集まる村人達の間を、セリスが忙しく駆け回っている。
 セリスの手にはいつの間に用意したのかエクラ教のパンフレットのような物の束。
 通りすがりの村人達に声をかけては、せっせと布教活動を繰り広げている。
 成果のほどはともかく用意したチラシがなくなると、教えられた通り自身の願い事を書きに向かう。吊り下げた短冊に書かれていた願いは『世界平和』の4文字だった。

 飾り付けが終わり人垣も疎らになるとエヴェリーナは笹飾りに近づいた。たくさんの願いの書かれた短冊が風に揺れ、手を伸ばすでもなく眺めるといくつかの願いが読み取れた。
(ただの紙切れにまじないなど、愚かしい……)
 エヴェリーナにとって幸せとは願うものでも得るものでもない、力を持ってして与えるものだ。
『平和や安堵、安らぎ。ただ1人を、命を賭して、その身を犠牲に守りきることこそ全て。それこそ存在価値の全て』『力は己の価値そのものだ。力無き者は無価値に等しい』
 エヴェリーナはそう教えられて生きてきたし今でもその通りだと信じている。
「まじないと呪いは似ている……」
 呟くと踝を返した。


●天体観測
 日付が6日から7日に変わった頃。リーリア・バックフィード(ka0873)は満天の星の配置を写し取っていた。
 次の夜に予定された祭りのため、七夕との関連性を作るため新たな星座を作ろうというのだ。
 RBでは、2世紀から16世紀にかけて西欧を中心に使われていた北半球の48星座に、南半球の星座などを加えた88星座が確立されていたが、CWにはそれほど統一的な国際組織が存在しない。というより世界の大半は歪虚による闇の向こう側、存在自体すら怪しい状況なのだ。
「この世界の星に願いと想いを託せるように……」
 リーリアは、七夕が『純粋な願いを叶える』という逸話を広めたいと考えていた。
(儚くも尊い願い。子供の頃に描く夢は尊いものです。記念すべき日の願いは実現せずとも心に刻まれるはず。その大切な瞬間は未来の宝になる。未来の子供の為に、そんな日にしましょう)
「見上げた空が希望の象徴になるなら最高です」
 観測で得た星の配置図を眺めながら、CWで有名なモノを星座に考える。
 RBでは実在しないペガサスやユニコーンもこの世界では実在するのだから。
「あの星は綺麗ですね」
 夜空と見比べながら星座の配置図に印をつける。星座の要になりそうだ。
 作った配置図は本にする予定。
「本が広まれば私は星座の作り手ですかね?」
 うまく行けば『トレミーの48星座』の向うを張って『リーリアの○○星座』が広まるかもしれない。


●七夕料理
 詩と紫月は共に七夕のメニューとして素麺を作ろうと考えていた。
「七夕ですから、RBで伝統的として良く食べられている素麺や索餅を作ろうと思います。その、素麺は出来れば七夕飾りに合わせて五色素麺にしたいですし、索餅には砂糖を塗したり、つけるための蜂蜜も用意したいです」
 紫月がもう1品上げた索餅は素麺の原型とも言われている。確かに小麦粉に塩に水と材料も一緒だし、形も引き伸ばす前の素麺にそっくりな揚げ菓子なので、揚げずに油を塗って熟成させながら引き伸ばしていけば素麺になるのかもしれない。
「えと、素麺や索餅を食べる理由は諸説ありますけど、病よけの意味があったはずですし、五色には魔除けの力があるはずですから、ぴったりかな、と」
 一緒に料理する仲間達に向かって紫月はそんな風に料理の由来を説明した。
 詩は素麺の飾り付けにこだわりを見せる。
「素麺を湯掻いて、1束を胡瓜の薄切りにしたもので巻いて、その上に人参やハムを星形に切った物や、錦糸卵を載せようか。ちなみに素麺は紐じゃないからね♪」
 更に詩は食後のデザートも作る予定だ。
「それと果汁やヨーグルトをそれぞれ混ぜた寒天、それに果物を星形に型抜きしたものをシロップに浮かべたフルーツポンチなんかもいいかな?」
 サルヴァトーレ・ロッソの技術であれば割りと季節を問わず食材の入手もできたのかもしれないが、さすがに辺境で入手できる食材は限りがあるようだ。
 他方で菜摘も持参したつまみの他に酒の肴なりそうな料理を作っていた。


●宴の始まり
 陽も沈み、辺りが夕闇に包まれるとともに広場の篝火が灯され祭りが始まった。
 先陣を切って音楽祭が始まる。
 篝火に照らされてサーシャ・ディアドラ・マリエルの3人がステージに上がった。
「最初の曲は『天の川の流石』だ! 諸君、我々の美声を聞き給え!」
 気恥ずかしさを振り払うようにサーシャが客席に向かって場を盛り上げるように叫ぶと、ディアドラの伴奏が始まる。
「夜空に浮かべた川辺で、転がる石屑に願った……」
 踊りながら楽器を奏でるディアドラのアップテンポな演奏に、サーシャの歌声が乗って会場に流れていく。
 『夜空に浮かべた川』には天の川を『転がる石屑』は流れ星をイメージした星と恋がテーマのオリジナル曲らしい。
(祭りを盛り上げるなど大王たるボクにとっては容易い事だな!)
 会場の盛り上がりにディアドラもすっかり気を良くしている。
「どうか、どうか、いつまでも。君の無垢な笑顔を見ていさせて」
 最後は声を合わせて歌い上げた。

「あ、あまり上手くないので笑わないで欲しい、です」
 と、前置きして今度はマリエルがCWで習い覚えた歌を披露する。
 RBの出身と言う素性も含めてマリエルにはCWに来る前の記憶がなかったからだ。
 更にRBの七夕にちなんだ歌なども披露され、音楽祭は盛況の内に幕を閉じた。

「お疲れ。おかげで楽しいひと時だった」
 ステージを降りた3人はサーシャの音頭でジュースを掲げて乾杯しながら宴に加わる。
 宴の合間もディアドラは時折BGM的に楽器を爪弾く。
 一方マリエルは参加者達の話す七夕の由来などを嬉しそうに聞いている。自身が思い出を持たない故か人の思い出話や歌を聞くのは殊の外好きらしく微笑みながら祭りの喧騒を楽しんいた。

 レイオスは車座になった一団に、日中井戸水で冷やしておいたウィスキーと牛乳でカウボーイを作って回る。氷がないのは残念だがビルド系のカクテルなので各自の持ち寄った器に材料を注いで攪拌すればいいだけなのがありがたい。
 もちろん子供達には牛乳だけであるが。
「星々が映りミルキーウェイから掬ったような乳白色の酒を楽しみ語り合う。悪くないと思うぜ」
 などと言いながら一通り酒を配り終えると、自らもグラスを満たし、
「美しい星空に乾杯っ!」
 とグラスを掲げる。やはり酒は大勢で飲む方が美味いようだ。
 チーズや干し肉を肴に、村人の持ち寄った乳酒やその他の酒も差しつ差されつ。
「いっそ飲み比べするか?」
 レイオスは更にエールなども取り出し、酒宴は続いていった。

 エリシャ・カンナヴィ(ka0140)も村人の輪に入って星見酒を楽しんでいる。こんな風に野外でわいわい騒ぎながらも悪くはない。
 焚き火の脇に陣取って酒のつまみに干し肉や魚を焼く世話をする。
「あ、魚はちゃんと遠火で焼かないと外が焦げて中が生焼けになるわよ」
 早く焼きたいのか焚き火に魚を近づけすぎる村人には火箸をかちかちと鳴らし注意を促したり。
 ついでに子供達には作り置いたマシュマロなども焼いておやつにする。エリシャとしては林檎なども焼きたいところだったが、どうやら収穫時期の一番早いものでも来月くらいにならないと出回らないようだ。
「そういえばRBには星図盤って言うのがあるんだったかしら? こっちでも作れば売れるかしら?」
 宴の最中も天体観測に余念のないリーリアを見やって、RB出身のハンターに問いかけた。

「ゆっくりと星を眺めるというのも良いものですね。せっかくの機会ですし、こちらの星空を楽しむ事にしましょう」
 シードルとつまみのチーズやナッツに加えて夕方作り置いた簡単な料理を振舞いながら菜摘がにっこりと笑う。無論他の参加者や村人の提供する酒やつまみも美味しく頂きながらである。
 CW出身の参加者には、この世界での星に関わる神話や伝承・物語が無いかを尋ね、簡単でも良いからと語って貰う。
 そのお返しにには七夕の逸話やギリシャ神話などからの星座の逸話を話して聞かせ、
「……世界は変わってもやっぱり人は星空を眺めて、そこに何かを感じて物語を紡いで行くんですね」
 と、何か納得したように頷く。
「せっかくですから、この素敵な星空に乾杯しません?」
 周りに集まった一団とこの日何度目かの杯を掲げた。

 ヴァイスは酒盛りで賑やかに盛り上がる一団には参加せず、ゆったりと酒とつまみを楽しんでいた。
 広場の一方からは音楽祭の楽器の音や歌声が流れてくる。
(星を見ながら酒が飲める、最高のシチュエーションだな)
 そんなことを思いながら静かに風流を楽しむ。参加者達が七夕に纏わる話をするのに耳を傾けつつ、様々な想いを馳せた。

 酒は飲まない斬も星見の宴には参加していた。専らアルコール抜きの飲物と各種の食べ物がメイン。
 CWからの参加者にこちらの星に纏わる神話等を聞きながらゆったりと時を過ごす。事前に調べておいたCWの星に関する本の記述と比べたりしながら。

 祭りで賑わう広場をふらふらと横切る月架 尊(ka0114)。
「フランと一緒に来たかったんですがしょうがないですよね。けど、うう、男が一人で祭りを回るなんて寂しいですね……」
 何気に半泣きになりながら、ぶつぶつと恋人と同行できなかった事を零していた尊だが、ある程度気が収まったのか周囲を見回す。
「七夕……ということはこちらも天の川が見えるんですね。星はあちらよりもよく見えるのでしょうか」
 夜空を見上げれば、どうやら銀河の構成はこちらもあちらも大差ないらしく、帯状に星が密集しているのは見て取れる。空気中に煤煙や塵埃の少ない辺境だけに星の輝きも幾分明るい。
 星の配置が日本で見た様子と違っていることに気付くと尊はほんのりと笑みを浮かべた。
 帰ってから恋人と話題にできるように異世界の七夕をしっかり目に焼き付けていこうと思う。 
 星を肴に牛乳片手にパンとチーズを食べながら、酒を飲んで盛り上がっている一団や、皆と離れて独りしみじみと杯を傾ける仲間にもちらりと目をやった。
 牛乳より風情が出るなあとは思いつつも、少女のような外見を自覚しているため飲酒には微妙に抵抗がある。こちらの世界では12歳程度で大人の仲間入りらしいが、規律を重んじる軍人だった尊は生まれ育った日本的な何かが引っかかるようだ。
 飲み終えた食器を返しながら再び祭りをぶらつく。
 音楽会を覗くとステージに顔見知りのサーシャの姿が見える。手を振ってみるのだが篝火に照らされたステージからは暗がりに沈む客席が見えていないらしい。
 後で挨拶をしておこうかと考えながら暫くはサーシャ達の歌に聞き入るのだった。

 風音も他の参加者の催し物を眺めたりしながら七夕祭りを楽しんでいた。
「綺麗な空。こっちの世界にも天の川はあるのかしらね」
 空を眺め、RB出身の参加者ならば一度は行き当たる疑問をふと口にする。
 お1人様と見てか村の若者にも声を掛けられるが、「ごめんなさい」と断っていた。
「今度はみんなと来れたらいいな」
 やはり祭りは気心の知れた仲間と一緒の方が楽しいようだ。

 会場の一角では瀞牙が大鍋に作ったカレーを集まった皆に振舞っていた。
「笹を意識したグリーンカレーだ」
 村人に説明しながら、それぞれが持ち寄った器にご飯と一緒に盛り付けていく。
「七夕の伝統的な祝い料理です」
 などと時折付け加えているそばでは、雪月花がもっさもっさとカレーを頬張っていた。


 ハンター達が用意した夕食の類もあらかた村人達の胃の腑に収まり、音楽祭が終わっても、星見の宴は続いていた。
 RBとは星の配置が違うと聞いた雪月花は、豆乳を飲みながら必死に豆乳座を探し始める。
「あるはず、なの、です」
 暫くはぶつぶつと呟きながら夜空に見入っていたが、突然満面の笑みを瀞牙に向けて豆乳を手渡した。
「せーが、あれが、とうにゅう、ざ、です」
 受け取った豆乳を口に運びつつも瀞牙は面食らったように訊ねる。
「豆乳座……ど、どこがどんな感じで?」
 雪月花は自慢げに豆乳座の説明を始めた。

 村の子供達に七夕にまつわる話を聞かせていたシュネーも、子供達が引き上げて大人の時間になってくると共に手が空いてきた。
 なんとか仕事はこなせたらしいとほっと一息吐きながら星空を眺める。
(軍時代にはろくに星を見なかったのですが、これは綺麗……)
 改めて星空の美しさに感慨を新たにした。相変わらず引き篭もっているには違いないのだが、ここに来て少し余裕が出来たのかもしれない。

 こなゆきは祭りの人だかりから少し離れた場所で、一人静かに酒を味わっていた。
 初めて七夕を体験するこなゆきは、笹の採取や七夕飾りの準備には積極的に参加していたのだが、今夜は1人静かに過ごしたい気分。でなければ音楽祭のステージにも興味は引かれたのだが。
 時に、風に揺れる笹鳴りに寄り添うように横笛を吹き、『彼』に思いを馳せる。
(七夕については、師である『彼』から少し聞いた事がある程度……だったでしょうか?)
 短冊への願いは少し考えた末に見送った。願いが無い訳ではない。縁があればいずれ会える時も来るだろうと信じればこそであった。


 夜も更け気温も下がってくると、酒が入り過ぎて足元のおぼつかない者や、その場で寝込んでしまった者などが風邪を引かないように、ヴァイスは予め用意してもらっていた毛布の類を配り歩く。

 瀞牙相手にはしゃぎまわっていた雪月花も疲れ果てたらしく。
「せーが、疲れた、ですー。だっこ、おんぶ、連れて帰って、ですー」
 と、駄々を捏ね始める。
「はいはい、帰るぞ~」
 言うなり、大暴れする雪月花を軽々と抱きかかえた瀞牙は、周囲に残る仲間達に軽く挨拶を送りつつ宿泊場所に向かって歩き始めた。

 こうして祭りの夜は更けてゆくのだった。

依頼結果

依頼成功度大成功
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MVP一覧

  • ハレに祈る巫女達
    氷蒼 雪月花ka0235

  • 高嶺 瀞牙ka0250
  • 冥土へと還す鎮魂歌
    日下 菜摘ka0881

  • 幸地 優子ka0922
  • 賢者モード
    加山 斬ka1210
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカーka1990

重体一覧

参加者一覧


  • エヴェリーナ・C(ka0017
    エルフ|25才|女性|聖導士
  • 戦闘鬼
    月架 尊(ka0114
    人間(蒼)|16才|男性|疾影士
  • 聖癒の奏者
    マリエル(ka0116
    人間(蒼)|16才|女性|聖導士
  • 優しさと厳しさの狭間
    エリシャ・カンナヴィ(ka0140
    エルフ|13才|女性|疾影士
  • ハレに祈る巫女達
    氷蒼 雪月花(ka0235
    人間(蒼)|17才|女性|聖導士

  • 高嶺 瀞牙(ka0250
    人間(蒼)|21才|男性|闘狩人
  • 大王の鉄槌
    ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271
    人間(紅)|12才|女性|闘狩人
  • 心強き癒し手
    夕影 風音(ka0275
    人間(蒼)|20才|女性|聖導士
  • 癒しへの導き手
    シュネー・シュヴァルツ(ka0352
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士

  • ヴァイス・エリダヌス(ka0364
    人間(紅)|31才|男性|闘狩人
  • 征夷大将軍の正室
    天竜寺 詩(ka0396
    人間(蒼)|18才|女性|聖導士
  • 爆乳爆弾
    フローレンス・レインフォード(ka0443
    エルフ|23才|女性|聖導士
  • 爆炎を超えし者
    ネフィリア・レインフォード(ka0444
    エルフ|14才|女性|霊闘士
  • ヤンデレ☆ブリス
    ブリス・レインフォード(ka0445
    エルフ|12才|女性|魔術師
  • シークレット・サービス
    燈京 紫月(ka0658
    人間(蒼)|15才|男性|猟撃士
  • まないた(ほろり)
    サーシャ・V・クリューコファ(ka0723
    人間(蒼)|15才|女性|機導師
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士
  • ノブリスオブリージュ
    リーリア・バックフィード(ka0873
    人間(紅)|17才|女性|疾影士
  • 冥土へと還す鎮魂歌
    日下 菜摘(ka0881
    人間(蒼)|24才|女性|聖導士

  • 幸地 優子(ka0922
    人間(蒼)|15才|女性|霊闘士
  • アイドルの優しき導き手
    こなゆき(ka0960
    人間(紅)|24才|女性|霊闘士
  • 歪虚滅ぶべし
    セリス・アルマーズ(ka1079
    人間(紅)|20才|女性|聖導士
  • 賢者モード
    加山 斬(ka1210
    人間(蒼)|17才|男性|闘狩人
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 王国騎士団“黒の騎士”
    レイオス・アクアウォーカー(ka1990
    人間(蒼)|20才|男性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 【色々】相談スレッド【相談】
高嶺 瀞牙(ka0250
人間(リアルブルー)|21才|男性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2014/07/07 21:26:48
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/07 19:49:45