グリフォンと釣り日和

マスター:植田誠

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/05/10 19:00
完成日
2015/05/19 00:43

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 海のど真ん中に浮かぶ船上、そこから幾人かの男たちが釣り糸を垂らしていた。
 それだけ見るとなんということは無い、単なる釣りの風景である。ただそこにいた男たちは少しわけありの人間ばかりだった。
「やはり川釣りとは違うな。案外難しいぞ」
 そう言った男は釣竿を右腕だけで抱えていた。左腕は無い。
「そんなこと言っとる割には結構釣れとるじゃないか。儂の方はさっぱりじゃ」
 男にそう言って笑いかけた老人。この老人は両足が義足だった。この他にもびっこを引き歩く者や腕が上がらない者等……この船に乗っているのは大きな外傷などを受けて戦うことが出来なかった元帝国軍人たちばかりだ。
「釣れないじゃ困るぜ? 数が無きゃ海に来た意味がねぇんだからな」
 そして、こちらの男は顔を鉄仮面で隠している。戦闘で負った傷を隠すためらしい。この男がこの海釣りを企画した。
 最前線で戦うには足手まといとなるため引退した兵士たち。だがその心根は帝国を守る帝国軍人のそれであり、彼らはいつも帝国の為に何か役に立つことは出来ないだろうかと考えていた。とはいえ、前線で今まで戦い続けていた彼らはそのほとんどが叩き上げであり、戦闘以外のことはからっきしであった。その為後方で事務などに従事することも出来ず、結局片田舎に引きこもって唯一の娯楽である釣りに興じるより他なかった。
 そんな彼らを見かねて鉄仮面の男が提案したのが海釣り。前線では似通ったものしか食べることができないだろうから、ここで釣った魚を特注のクーラーボックスで保存して前線に送り、腹の足しにしてもらおう。そう言ったのだ。
(それに、場所を変えた方が気分転換にもなって一石二鳥、ってなもんよ)
 鉄仮面の男はそう考えながら満足げに頷く。
 無論海には危険もつきものだ。海賊、歪虚と敵も多い。
「……お? 噂をすればってか」
 海面を覗いていた男の目に映ったのは、敵の姿。魚……のように見えるが、動きが明らかに自然のそれではない。もっとも、こういう時の為にわざわざハンターも雇っておいたのだ。
「さて、仕事してもらうぜハンターの諸君……って……あれ?」
 さぁこれから戦いだ、と……男の上にふと影が落ちる。
(今日は快晴、雲一つなかったはずだが?)
 そう思い見上げると、その影の主が空にいた。
「……なんでこんなところにグリフォンが?」
 普段山岳部にいるはずのグリフォン。それが海の上にいるのは何故か。
「それに、人食いならすぐに襲ってきそうなもんだが……様子を窺っている? 何を狙っていやがる……」
 鉄仮面の男は首をかしげたが、その理由を考えている時間は無かった。

リプレイ本文


「右舷4時からアンノウン。タダの魚じゃないね。迎撃するよ」
 水中から顔を出したクドリャフカ(ka4594)がそう報告してきたのは鉄仮面の男が敵の接近に気付いたのとほぼ同時だった。
「護衛に来たとはいえのんびりと出来ると思っていたのですが……」
 海に来たのは久しぶりだったエリス・カルディコット(ka2572)は銃に弾丸を装填しつつ肩を落とす。とはいえ、これが彼女たちの仕事なのだ。気持ちを切り替え、表情を引き締める。
「相手が何だろうと、海なら俺は負けん……が、あなた達はそうもいかないからな」
「ファリス達が戦うから、おじ様たちは少し下がって欲しいの!」
 接近する敵に対応するためラグナ・アスティマーレ(ka3038)と共に船の縁へやってきたファリス(ka2853)は、そう大声で元軍人や船員に呼びかける。
「いい天気ね……お魚をかっ飛ばすにはちょうどいいかも……あら?」
 手に持つロッドを軽く素振りしていたサラン・R・シキモリ(ka3415)は空を仰ぎ……そこにいたグリフォンを視界にとらえた。
「グリフォン……なんでここにいるのでござろうな?」
「さぁ……お魚さんが欲しいのかしら?」
 烏丸 薫(ka1964)と天川 麗美(ka1355)は空を旋回するグリフォンを眺めて呟いた。山に餌が無くなって人座値に降りてきた熊のようなもの……そう薫は考えたが、熊とグリフォンではその危険度に大きな開きがある。空中を自在に飛び回るグリフォンが敵対してくるなら非常に厄介なことになるだろう。
「……でも、攻撃してくる素振りは見せないね。一体どういうつもりなんだろう」
 空を眺めてメイム(ka2290)は考える。
「もしかして、味方をしてくれるつもりなのかな?」
 そうであれば嬉しい……そんなことを考えながらも依頼達成の為にメイムも気を引き締めた。


「ほらほら、老人方は中央に寄るでござるよ~」
「そうだ。急いでくれ……動きにくければ俺が背負っていく」
 薫、ラグナが男達を誘導している。
 今のところグリフォンが攻撃してくる様子は無い。ならば外側から攻撃する歪虚に対するために護衛対象を一か所に纏めることが肝要である。
「義足のおじさん大変かもしれない……船員さん手伝ってー」
 メイムに呼ばれて船員の一人が義足の老人に肩を貸す。
「すまんな。普段なら年寄り扱いするなと言いたいところじゃが、この状況ではそうも言ってられんからな」
 その様子を見てうんうんと頷く薫。歴戦の勇士だからこそ、状況をちゃんと理解しこちらの指示にも従ってくれている。毎度こうであれば楽なのだが……
「しかし、拙者守る戦いは苦手でござるな~」
 どこかほのぼのとした口調で呟く。だが、その視線は油断なく周辺……そして上空へと向けられている。
「グリフォン……正直油断は出来ないな。戦闘に参加されても困る」
 同じように空を見るラグナ。ラグナは精霊と覚醒にグリフォンが関係している。だからだろうか……グリフォンを放っておくことはどうにも出来ない。
「敵か味方か分からない……なら、俺は味方にしたいが……」
 そうこうしている間に、メイムの指示で護衛対象者たちが円陣を組むような形で集合。攻撃を受けるたびに中の人と交代していき大怪我を防ぐ策だそうだ。
 そして、態勢が整ったことを確認したメイムはクーラーボックスから魚を取り出した。
「どうするでござるか?」
「これでグリフォンに呼びかけるの」
 そう言うと、メイムはグリフォンに向かって魚を振り回しながらアピールを始める。
「お願い、私たちと一緒に戦って!」
 メイムの言葉に反応したのか、グリフォンが興味ありげに目線を向ける。
「それがだめなら、せめてここで戦いが終わるのを待ってて!」
 魚を振り回しながらグリフォンの注意を引くメイム。その近くにはラグナが控え、いざという時に備える。
(奴が俺達を襲う意思があるなら、仕掛けてくるはず……)
 そう考え注意深く観察するラグナ。だが、グリフォンは意外と素直に、メイム達に従うかのようにゆっくりと降りてきた。
「……どういうことだ?」
「あら、どうしたのおじ様」
 気持ちが通じたんだと喜ぶメイム……その様子に円陣の前周にいた鉄仮面の男が訝しむように呟く。それを聞いたサランが問いかける。
「いや、あれは間違いなく野生のグリフォンだと思うが……普通野生のグリフォンは気性が荒くてあんなふうに人間に懐くようなそぶりは見せねぇはずなんだ」
「でも現にあのグリフォンはこちらの誘導に応じてるように見えるでござるが?」
「もう一つ……グリフォンってのはものすごく頭が良いんだ。知ってたか?」
「……それじゃ……あれはもしかして擬態かもしれないってこと?」
 狙いは魚ではなく船上の人間であり、それを隠すために魚に釣られているようなふりをしている? そんな可能性が頭に浮かんだサランと薫は、一気に警戒を強める……その時だった。
「え?」
 あっという間の出来事だった。グリフォンが不意に加速し、メイムの頭上を飛び越え、獲物……魚のたくさん入ったクーラーボックスを前足で掴みとった。
「そっちなの!?」
 グリフォンと護衛対象者たちの間に割って入るように動いていたサランだったが、当てが外れた。尤も、この動きすらも擬態かもしれない。そうなると彼らの側から離れるわけにはいかない。
 逆に打って出たのは薫。
「敵対するなら……」
 その首を斬り落とす。そう決断し、ランアウトで一気に接近する。
「戦うしかないのか……!?」
 メイムの側にいたラグナも弓を引き絞りグリフォンを狙う。だが、すぐにグリフォンは上昇。刀の間合いからは離れ、放った矢も躱してしまう。
 そのままグリフォンは一度も振り返ることなくクーラーボックスを持って飛び去っていく。
「……そういうことか」
 その様子を見ていた鉄仮面の男は呟いた。
 グリフォンの狙いは一匹の魚……ではなく、魚が詰まったクーラーボックスだったわけだ。
「さすがに頭が良いな……人を狙わなかったのも手痛い反撃を受けないためか?」
 肩透かしを食らった気分で、ラグナ。そしてメイムは飛び去るグリフォンを見送る。逃げるならそれでいい。これで当面水中の敵だけに集中できるのだから。
「しかし……あれ、特注で高かったんだがなぁ……」
 鉄仮面の男はそう言って多少肩を落としていたが。


 護衛対象を甲板中央に移動している間、こちらでは敵歪虚の迎撃態勢を整えていた。
「おおっ、すげー……」
 水の上に立てることに感嘆したのか、つい普段の口調が漏れる麗美。だがすぐにゴホンと咳払いを入れ「これは便利な魔法ですね♪」と言い直す。
「ファリス様、お手数ですがこちらもよろしくお願いいたします」
「了解なの!」
 ファリスは、麗美に続いてエリスにウォーターウォークを使用する。水の上を歩けるようにする魔法だ。
「水の上を立つなんて不思議な感覚ですね……」
 ファリスの魔法を受けるエリスは、水を踏みしめるように歩く。この経験だけでも、海に来たかいがあったかもしれない。とはいえ、重要なのはここからだ。
「クドリャフカ様が抑えてくれていますし、早く援護しないと……」
「そうですね、急ぎましょう」
 エリスに従い、麗美も動き出す。
 一方水中のクドリャフカ。
(くっ……ちょこまかと……)
 心中で毒づきながら戦闘を続ける。かなり苦戦していた。水中にいるのはクドリャフカだけであり、敵歪虚は水中での戦闘に向く。この劣勢は当然の物といえる。
 尤も、これはクドリャフカの意図した状況でもあった。誰だって自分が有利な状況で戦いたい。有利なフィールドに相手がいるなら当然そちらを優先する。つまり……
(私は生餌……まぁ猟犬の流儀ってことで)
 そのおかげで、ファリスが仲間にウォーターウォークを使用する猶予が稼げたのだから、
 距離があった間はまだよかった。シャープシューティングにより射撃能力を向上させていれば水中での揺れも考慮するに値しなかったからだ。だが、敵に寄られるとそうはいかない。敵の動きで水は揺れ、それらが射撃に影響を与える。
 ただ、無論やられっぱなしというわけではない。クドリャフカは気持ち下側を狙った銃撃に徹していた。多少回避をさせやすくしてしまったのは否めないが、この攻撃はどちらかといえば水上の味方を援護するためのもの。
(こうして浅いところを進むように仕向けてやれば、上から狙いも付けやすいね……)
 軽く上方を見ると、麗美とエリスの姿。戦闘できる状態にはなっているようだ。
(これ以上はちょっと厳しい……一度船に戻らないと……)
 息もそろそろ持たなくなってきており、歪虚の体当たりが体に無視できないレベルのダメージを与えている。クドリャフカは全力で船の方に泳ぐ。
 当然歪虚もそれを追うが……それを阻むのは麗美のファイアスローワー。
「焼き魚にしちゃういますよぉ」
 扇状に広がる炎の魔力は水に入っても消えることは無く、跳び上がろうとしていた歪虚を焼く。すでにクドリャフカによってダメージを与えられていたのか、その魔法で息絶える個体もいた。だが無論それがすべてではなく、反撃しようと飛び出し水弾を撃とうと試みる。
「では、狙い撃たせていただきます」
 だが、水弾を撃つことは叶わなかった。炎を抜け出た歪虚は、そこを待ち構えていたエリスの正確な射撃に貫かれる。
「もう一度、いきますよぉ!」
 さらに複数の敵影。再度麗美はファイアスローワーを使用。加えてエリスも水中めがけてフォールシュートを使用。出てくるタイミングと銃弾が降り注ぐタイミングはぴったり合い、炎と弾雨に晒され複数の歪虚が倒される。
「……来た……」
 敵の全てが麗美とエリスに向かったわけではない。後退しているクドリャフカを追ってきたものもいた。その姿を捉えたファリスは、アースバレットを使用。
「……魚型歪虚だから土礫が一番効くはずなの!」
 だが、その効果の程を確認している余裕はない。すぐにクドリャフカを引き上げてやらなければ、気絶してそのまま沈んでいってしまっては事だ。ファリスは再度アースバレットを使用して牽制しつつロープを持つ。クドリャフカが準備していたもので、先には浮き輪が付けられている。
「こっち……!」
 浮き輪に手を伸ばすクドリャフカ。
「行かせませんよぉ!」
 船に接近していく個体の方へ向かいタイミングを計って機導砲を使用。水弾を撃ち込もうと水面から出た瞬間を捕えられた歪虚は魔導機械から発せられた光を受け、消滅した。
「大丈夫?」
「ええ……ありがとう」
 ファリスが傷ついたクドリャフカを引き上げる。目線を上げるとエリスが軽く手を振っている。すでに武器を降ろし警戒を解いているその姿から、今麗美が倒した歪虚が最後の一匹だったことを告げていた。


「ハァ……」
 結局グリフォンと意思疎通が出来なかったメイムは溜息を吐きながら友人であるエリオットの言葉を思い出す。彼は講義しつつ最後には「難しいと思う」と言っていた。やはり野生のグリフォンと協調するのは難しかったようだ。
「今度は一緒に戦えるといいな……」
 メイムの隣で釣竿を握っていたラグナは、そう言ってメイムを慰めた。
「……よし! とりあえず減った分の魚を取り戻そう!」
 そう言ってメイムも切り替えて、ラグナに倣って釣竿を持った。
 すでに戦闘が終わり、周辺に敵影なし。とはいえまだ日は高い。時間は十分ある。
「釣りは~楽しいでござーるな~♪」
 そう言うわけで、時間を使ってハンターたちも釣りを行う。薫などは鍛錬の合間によく釣りに行ったとかで鼻歌交じりに手慣れた様子で釣り糸を垂れる。
「……おじ様、おじ様。ファリスにお魚を釣り上げるコツを教えてほしいの!」
「よっしゃ、こっちに来な。教えてやるぜ」
 ファリスは片腕の男に釣りのコツを教わっており……
「ほぉ……これは初めて見るわい」
「イカ釣りのものです。このような簡単な仕掛けでも量が獲れますから」
「イカか……さすがにイカは川にはおわんからのぉ」
 こちらでは逆に義足の老人がエリスの釣り方に驚かされていた。直前まで戦闘があったとは思えないほどのどかな雰囲気だ。誰か一人でも大きな怪我を負い……あるいは死んだりしていたらこうはいかなかっただろう。そう言う意味でハンターたちの為した成果は大きい。
「釣れたお魚さんでおいしい料理を作って……みんなで食べられたらいいかなー」
「そうね、私もそう思うわ。美味しいお魚、期待してるわ~。だから頑張ってね、おじ様っ」
 麗美やサランのそんな声を聞いて「おう」「任せとけ!」等と声を上げる退役兵たち。だが、そう応答した中で鉄仮面の男だけは、海面を見ておらず……ただグリフォンが飛び去って行った方角へ顔を向けていた。
「……クーラーボックスは残念だったね」
「ん……あぁ、まぁな」
 サランのヒールで治療を施してもらった後、釣りの光景をスケッチしていたクドリャフカ。だが、鉄仮面の男の様子が気になったからか、ふと手を止め、声をかけた。
「……あんまり残念、って感じじゃないわね、おじ様」
 仮面故に表情は読めないが、口調からそんな気配を感じ取ったサランが続ける。
「残念だぞ? あれは高かったんだ……だが……」
「だが?」
「……もしかしたらそれ以上に凄い拾いもんをしたかもしれねぇな」
 その言葉に何人かが鉄仮面の男……エルウィンと同じようにグリフォンが飛び去った方角を見た。だが、その先にはただ水平線が広がるのみだった。

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MVP一覧

  • 遥か遠きプレアデス
    クドリャフカka4594

重体一覧

参加者一覧

  • 心の友(山猫団認定)
    天川 麗美(ka1355
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • 月日星の剣
    烏丸 薫(ka1964
    人間(蒼)|18才|男性|疾影士
  • タホ郷に新たな血を
    メイム(ka2290
    エルフ|15才|女性|霊闘士
  • ピロクテテスの弓
    ニコラス・ディズレーリ(ka2572
    人間(紅)|21才|男性|猟撃士
  • 新航路開発寄与者
    ファリス(ka2853
    人間(紅)|13才|女性|魔術師
  • 同盟海軍の協力者
    ラグナ・アスティマーレ(ka3038
    人間(紅)|25才|男性|霊闘士

  • サラン・R・シキモリ(ka3415
    人間(紅)|16才|女性|聖導士
  • 遥か遠きプレアデス
    クドリャフカ(ka4594
    人間(蒼)|17才|女性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン プレイング
メイム(ka2290
エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/05/10 10:20:14
アイコン 相談卓
メイム(ka2290
エルフ|15才|女性|霊闘士(ベルセルク)
最終発言
2015/05/21 04:58:59
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/07 16:54:29