ゲスト
(ka0000)
【アルカナ】 再来、亜人サーカス
マスター:桐咲鈴華

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/12 19:00
- 完成日
- 2015/05/19 22:48
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
夜の闇の中、とある街道の一角。誰の目にも止まらぬ木の影にもたれかかる人影。
人間にしてはやや小柄で、まるで道化師のように派手で奇抜な格好をしているそれは、ゴブリンによく似た亜人。……しかし、それが纏う雰囲気は異質なものであった。
「くふふ……我が同胞も目覚め始めたようですね。中々に心躍る時代となりそうです」
彼は一人ごちる。誰に聞かせるでもなく、夜の闇へと笑い声を滑りこませるように。
「しかし、まだ駄目です。これではまだ面白くない。『ゲーム』はもっと互いに駆け引きをするべきなのです。それに至るにはまだ、人間様方には『手』が不十分でしょう……」
ふらり、と身を預けていた木から道化師は離れ、そしてふらふらと歩き出す。ステップを踏むように、軽快に愉快に、夜の街道を跳ねる。そしてふと、あることを思い出した。
「……『喝采』。ふふ、なるほど。享楽は個人で愉しむ物と思っていましたが、なかなかどうして、甘美な響きではないですか」
彼はとあるハンターから言われた言葉を思い出していた。
「ならば再びお魅せしましょう。新たな享楽を紡ぐ為、そして……更なる娯楽を生み出すために」
ぽんっ、というコミカルな爆発音と共に、彼の姿は夜の闇の中へと消えていった。
●
「……それで、こんなものが届いた、というわけですか」
受付嬢から受け取った手紙を眺め、エフィーリア・タロッキ(kz0077)は嘆息する。彼女は歪虚群『アルカナ』に対抗する為に、タロッキ族がソサエティに派遣した代表だ。そんな彼女の手には、小洒落た便箋が握られていた。
『御機嫌よう、ハンター様方。いつぞやは当サーカスにご来場下さり、誠にありがとうございます。
長らくお待たせしましたが、此度より更なるサーカスを催したく思う所存でございまして
そちらにハンター様方をご招待させて頂きたく存じます。
おっと、ご安心を。以前のように『凡人を舞台にあげて愉しむ』などといった事はしません。
寧ろ此度は、あなた方ハンター様方を主演として雇用したいと考えております
我々の指揮の元、多くの喝采を手にしてはみませんか?
勿論、報酬もご用意致しましょう
そうですね……貴方方が既に何度か相対している
『アルカナについての情報』……など、如何ですかな?
お返事は直接、お聞かせ頂きましょう。それではどうか御機嫌よう』
「……これがオフィスに送られてきた、と」
「はい。明らかな怪文書だと思ったのですが……『アルカナ』の文字が見えたので、エフィーリアさんにお回しした方が良いと思いまして」
エフィーリアは暫し考える。ペラペラと持参した古文書をめくり……やがて、言葉を発する。
「……もしこの手紙が本物だとするならば、こんな酔狂な事をするのは『アルカナ』において一体しか居ません。
……『The Fool』。アルカナの中でも異質な立ち位置に居る存在」
「異質、ですか?」
受付嬢が言葉を返し、エフィーリアが頷く。
「彼は『アルカナ』に属していながら……行動理由は他の『アルカナ』とは全く別物なのだそうで……。時には戦士達に情報を与え、時には戦士たちを翻弄する。伝記の中でも、敵か味方かはっきりしない立ち回りで、『時代をかき乱した道化』と伝えられているのです」
「歪虚なのに、情報を? そもそも、『アルカナ』の目的って、一体?」
受付嬢が気になって尋ねるも、エフィーリアは首を横に振った。
「…...解りません。伝記においても、彼らは人間勢力にそれぞれが持つ力で攻めこんできた。それによって人間はかなりの痛手を受けた。故に、彼らは倒すべき敵だと、そう伝えられて来ています」
伝記を閉じつつ、エフィーリアは言葉を続ける。
「……もしこの手紙が本当なのならば。……彼ならば直接問いただす事が出来るかもしれません。伝記においても、彼は戦士達の取引に対しては真摯だったと聞きます。彼の望む通りの結果を提示すれば、『アルカナ』の謎に迫る……手がかりがつかめるかもしれません」
「成る程。それでは、ハンターさん達に声をかけてみますね」
「ええ、よろしくお願いします……」
夜の闇の中、とある街道の一角。誰の目にも止まらぬ木の影にもたれかかる人影。
人間にしてはやや小柄で、まるで道化師のように派手で奇抜な格好をしているそれは、ゴブリンによく似た亜人。……しかし、それが纏う雰囲気は異質なものであった。
「くふふ……我が同胞も目覚め始めたようですね。中々に心躍る時代となりそうです」
彼は一人ごちる。誰に聞かせるでもなく、夜の闇へと笑い声を滑りこませるように。
「しかし、まだ駄目です。これではまだ面白くない。『ゲーム』はもっと互いに駆け引きをするべきなのです。それに至るにはまだ、人間様方には『手』が不十分でしょう……」
ふらり、と身を預けていた木から道化師は離れ、そしてふらふらと歩き出す。ステップを踏むように、軽快に愉快に、夜の街道を跳ねる。そしてふと、あることを思い出した。
「……『喝采』。ふふ、なるほど。享楽は個人で愉しむ物と思っていましたが、なかなかどうして、甘美な響きではないですか」
彼はとあるハンターから言われた言葉を思い出していた。
「ならば再びお魅せしましょう。新たな享楽を紡ぐ為、そして……更なる娯楽を生み出すために」
ぽんっ、というコミカルな爆発音と共に、彼の姿は夜の闇の中へと消えていった。
●
「……それで、こんなものが届いた、というわけですか」
受付嬢から受け取った手紙を眺め、エフィーリア・タロッキ(kz0077)は嘆息する。彼女は歪虚群『アルカナ』に対抗する為に、タロッキ族がソサエティに派遣した代表だ。そんな彼女の手には、小洒落た便箋が握られていた。
『御機嫌よう、ハンター様方。いつぞやは当サーカスにご来場下さり、誠にありがとうございます。
長らくお待たせしましたが、此度より更なるサーカスを催したく思う所存でございまして
そちらにハンター様方をご招待させて頂きたく存じます。
おっと、ご安心を。以前のように『凡人を舞台にあげて愉しむ』などといった事はしません。
寧ろ此度は、あなた方ハンター様方を主演として雇用したいと考えております
我々の指揮の元、多くの喝采を手にしてはみませんか?
勿論、報酬もご用意致しましょう
そうですね……貴方方が既に何度か相対している
『アルカナについての情報』……など、如何ですかな?
お返事は直接、お聞かせ頂きましょう。それではどうか御機嫌よう』
「……これがオフィスに送られてきた、と」
「はい。明らかな怪文書だと思ったのですが……『アルカナ』の文字が見えたので、エフィーリアさんにお回しした方が良いと思いまして」
エフィーリアは暫し考える。ペラペラと持参した古文書をめくり……やがて、言葉を発する。
「……もしこの手紙が本物だとするならば、こんな酔狂な事をするのは『アルカナ』において一体しか居ません。
……『The Fool』。アルカナの中でも異質な立ち位置に居る存在」
「異質、ですか?」
受付嬢が言葉を返し、エフィーリアが頷く。
「彼は『アルカナ』に属していながら……行動理由は他の『アルカナ』とは全く別物なのだそうで……。時には戦士達に情報を与え、時には戦士たちを翻弄する。伝記の中でも、敵か味方かはっきりしない立ち回りで、『時代をかき乱した道化』と伝えられているのです」
「歪虚なのに、情報を? そもそも、『アルカナ』の目的って、一体?」
受付嬢が気になって尋ねるも、エフィーリアは首を横に振った。
「…...解りません。伝記においても、彼らは人間勢力にそれぞれが持つ力で攻めこんできた。それによって人間はかなりの痛手を受けた。故に、彼らは倒すべき敵だと、そう伝えられて来ています」
伝記を閉じつつ、エフィーリアは言葉を続ける。
「……もしこの手紙が本当なのならば。……彼ならば直接問いただす事が出来るかもしれません。伝記においても、彼は戦士達の取引に対しては真摯だったと聞きます。彼の望む通りの結果を提示すれば、『アルカナ』の謎に迫る……手がかりがつかめるかもしれません」
「成る程。それでは、ハンターさん達に声をかけてみますね」
「ええ、よろしくお願いします……」
リプレイ本文
●ザーカスの開演
リゼリオの近郊、まだ日差しも高い昼頃の街路の途中にそのテントはあった。『本日サーカス開演』と大きく掲げられた看板の元、多くの人がそのテントへと集まっている。元々リゼリオにて今回の事は宣伝されており、道行く人も物珍しさにテントへと近づいてくる。テントの前で騎士剣を振るい、舞い踊るレオノーラ(ka3821)にもまた、多くの人が引き寄せられていた。
「さあ、お立合いお立合い! 世紀のサーカスが始まるぞ、見たい者だけ寄ってこい!」
派手な動きで剣を捌く彼女の流麗な姿に道行く人も歩みを止め、サーカスへ興味を示して中へと入ってゆく。
サーカステントの中は外とは違い、薄暗い。入り口の垂れ幕が動く度に僅かな光が入るくらいで、その殆どは足元を僅かに照らす照明のみで視界が確保されている。中央に鎮座する台も薄暗くライトアップされ、立入禁止の旨を示す赤い光によって囲われていた。
暫くして、開演時間となる。足元や赤い照明も消え、暗闇の中に閉ざされるテントの中、一筋のスポットライトが舞台の隅に立つ人物を照らし出す。青く長い髪の艶が光り、メトロノーム・ソングライト(ka1267)の姿が闇の中で浮かび上がる。。
「本日は、当サーカスにご来場頂き、誠にありがとうございます。此度は皆様を、覚める事も惜しむような夢の世界へとご案内致しましょう……」
恭しく礼をしつつ、メトロノームが語り始める。
「それでは始めましょう。許されぬ恋をした2人の男女の、数奇なる運命を紡いだ物語を……」
●其は儚き夢と共に
メトロノームを照らすライトが落とされると、一抹の静けさのちに舞台の中央にライトが向けられる。照らされたのは謎のまんまるな毛玉。もこもこしたそれが突如として映し出された事に観客は一瞬困惑するが、もこっとそれらから手足が伸び、ぴょこりと上げた頭からぴんっと耳が立つ。それはうさぎの着ぐるみに身を包んだリズリエル・ュリウス(ka0233)だった。その様子にあわせ、メトロノームが物語を紡ぐ。
「何もなくなってしまったひとつの部屋。ひとつのぬいぐるみに命が宿る。ぬいぐるみの名はくらうんらびっつ。縫ってくれた姫の為、その名を受けた主君の為……彼は彼女を助けに行くのです」
ふりふりと愛くるしい着ぐるみの仕草に観客は表情を緩ませる。そうしてスポットライトが追うようにうさぎ(リズリエル)はどこかへと去っていく。舞台の開幕と共に少しずつ軽快な音楽が流れてくる。うさぎがフェードアウトした逆側へライトが照らされ、軽快な動作で黒い物体が入ってくる。また着ぐるみか? と思われたそれはエニグマ(ka3688)。黒い熊の姿をした謎の小さき者は、そっと赤鼻を懐から取り出し、じーっと眺めている。
「ぐまっ」
そっとその赤鼻を自分の鼻につけると、虚空に手をぴったりとくっつけ、ゆっくりとした動作でジェスチャーする。パントマイムをしながら彼はせっせと、舞台の準備に取り掛かる。その愛くるしい仕草に、準備すらも演目の一環なのだと思う観客。その影、目立たぬところでこそこそと動く人影が。
ピエロメイクで自身を彩った彼は壬生 義明(ka3397)。オペラ座の怪人を思わせるダンディな衣装とマスクに身を包んだ彼は、エニグマが場を温めつつ準備をしている最中、目立たぬ所で 舞台の重要な準備を施してゆく。
それでも舞台をよく見ている客には見つかるもの。『ピエロだ!』という子どもの声にはぺこりと一礼を返し、準備を続ける。
闇の中で、エニグマはドライアイスを配置する。もくもくと蒸気が立ち込める中で二人が準備を終えると、舞台には再び光が浮かび上がる。その上部で照らされたのは、ドレスに見立てたワンピースで着飾ったレオノーラと、亜人……ゴブリンの姿だった。観客はテント前で客引きをしていた彼女と気付いて声援を送り、傍らに居る亜人には『精巧なメイクだ』と思い思いの感想を口にする。どうやら本物の亜人がここに居るという考えには至らなかったようだ。
「姫と男は恋をした。人間の姫と、亜人の男……夜のテラスで出会った彼女らは、静かに城を抜け出す。男は、軟禁された姫を助ける為に――」
スポットライトがゆっくり動く。レオノーラらが立っている場所は綱渡りの台だ。レオノーラ演じる姫は不安そうな仕草を身振りで訴える。すると、そこへ先ほどのくらうんらびっつがひょっこりと現れ、大きな耳をふりふりとさせながら、そろりと綱へ差し掛かる。一歩、また一歩と歩を進めるの様子を観客が固唾を呑んで見守る。自信もなく、不安定な動きに、テント内に緊張が高まる。やがてくらうんらびっつは無事、綱を渡り切る。
続いて亜人が、それに続いて橋を渡り始める。姫は亜人とうさぎを交互に見つめ、心配そうな演技をする。
ここで、綱渡りをしている亜人がふらつく。亜人はFoolの断片であり、芸の完成度に難がある為だ。ぐらぐらと揺れ始め……。
そこへ瞬脚によって突如現れたエニグマが、横合いからタックルをかました。
突然の襲来にバランスを崩す亜人は、エニグマと共に綱から落下、観衆の息が止まる――。
が、二人はの身体は地面に激突する前に、ぽよんと跳ねる。先程の準備で予め張っておいたネットの弾力に、二人はぽよんぽよんと跳ねる。上に注目していたうえ、ドライアイスの蒸気によって見えにくくなっていた為、観客はネットの存在に気付けなかったのだ。
「ぐまっ」
ぐっ、と皆に見えるように親指を立てるエニグマ。緊張の糸が切れた観客に笑顔が戻る。続いてレオノーラも下に飛び降り、3人でぽよんぽよんと跳ね、上では一人だけ見事に渡りきったうさぎが、得意気に綱の上でぴょこぴょこと軽業を披露している。自信のない先程の演技とはうって変わった、軽業師の動きだった。
「少しドジな亜人の男。しかし彼には黒い熊の守護霊がついていたのです」
メトロノームの語りによるフォローで観客は落下も演出のひとつと認識したのだろう。上で軽業を披露するうさぎと、下で可愛らしく跳ねる3人のコラボレーションは新鮮な感覚を抱かせる。
そうして、再び舞台は暗転し、エニグマは再び舞台裏へと戻る。
「しかし、姫は亜人に狙われる存在。亜人の王は逃げる彼らに、追っ手を差し向けたのでした……」
姫達がネットから降りた時、ぐるりと取り囲むように亜人達が現れる。その手にはナイフが握られている。
姫と亜人は、ステージ上をぐるりと回るように逃げる。亜人達は彼女らを狙ってナイフを投擲すると、暗幕やポール、そして予め用意されていた壁などにナイフが突き刺さっていく。
これはメトロノームの配慮で、ナイフ投げの対象の立ち回りを意識する事で、仮に投擲が失敗してもナイフが客席に飛ばないようにする為だった。
ナイフの雨を掻い潜る2人。突然の襲来で上に居たうさぎも、わたわた、と慌てて落っこち……たように見せかけて他の綱へと着地し、観客に『おおっ』と感嘆の声を漏らさせる。そしてポール、ネットを軽快に蹴ってステージに着地し、3人と亜人達の間に立ち塞がるような仕草をする。
追い詰められた一行。そこへ、馬の蹄の音が遠くから聞こえてきた。
「しかし、一行を追うのは亜人達だけではありません。姫をの父である王の遣いもまた、一行を追っていたのです」
バッとステージに馬に乗って躍り出たのは柊 真司(ka0705)だった。執事服を身に纏い、執事役として参上したのだった。
「ふっ!」
馬に乗ったままの不安定な姿勢からナイフを投擲。取り囲む亜人(の背後に隠して設置された風船)目掛けて放たれたそれは、パンパン! という音と共に紙吹雪が舞い飛び、その音に合わせてばたばたと亜人達が倒れていく。
狭いステージ内、馬はぐるぐると走り回り、観客は目を奪われる。その間に密かに動いていたエニグマと義明が、ステージにこっそりと障害物となる段差を設置。一周周ってきた真司は馬を駆使してそれらの段差を飛び越えつつ、馬のジャンプに合わせて更にナイフを投擲する。騎乗し、更に跳躍しながらも正確に風船を撃ち抜く様に、観衆は喝采を送る。
そして、最後の風船が割れると共に、姫と同行していた亜人の男も倒れる。驚く姫。馬から降りた執事はそのまま姫の手を引き、ステージの裏へと連れていってしまう……。
「放たれた追っ手、連れ帰られてしまった姫。姫は、前よりも更に高く……高くの牢へと、幽閉されてしまうのでした……」
場面は暗転し、再び義明がセットに入る。綱渡りの綱よりも更に高所に設置されたセット、空中ブランコの準備をする際にも、脚の裏から噴射したマテリアルによりポールとポールの間を飛び、一気に高所へと到達。準備すらも演目に組み込まれてるのかと錯覚する軽業に、観客は拍手で応じる。
やがて暗転がなくなり、照明が照らし出される。ブランコを隔てた対岸に、亜人、姫がそれぞれ立って、スポットライトを浴びていた。
「追い詰められた二人の、最後の逃避行。空から吊るされる命綱……果たして彼女らは、逃げられるのでしょうか」
奥側のブランコから飛んで現れたのは、くらうんらびっつ。もふもふとしたうさぎは姫の傍らに降り立つと、『さあ、こうやって!』と自信たっぷりにジェスチャーし、ブランコで再び宙を舞う。ブランコからブランコへ、伝うように飛び移り、亜人の居る対岸へと着地した。
次は姫の番。姫は不安そうに、ブランコを握りしめる。姫役のレオノーラの本分は騎士。本業のリズリエルとは違って立体感覚や軽業技術を持っている訳ではない。落ち着けと自分に言い聞かせ、練習を思い出す。そうしてるうちに、向こう岸の亜人はブランコを掴み、宙へと躍り出る。
相手を信じ、意を決して同じく宙へと躍り出る姫。ブランコが揺れ、ブランコからブランコを伝って飛び移っていく二人、やがて、姫は亜人の伸ばした手を目掛けて、ブランコを離して、宙へと飛び移った――。
ぱしっ、と亜人と手をつなぐ姫。その瞬間にぱんぁっと仕掛け花火が照明と共に弾け飛び、結ばれた二人を演出する。クライマックスの盛り上がりに、観客の喝采がテント中に響き渡った。
「人間の姫、亜人の男……許されぬ二人の恋。果たして、その結末は……。此度の物語は、此れにて終焉としましょう……」
杞憂していた落下もクライマックスでは起きず、舞台は終幕する。メトロノームの語りで締められ、舞台は暗転する。暗くなった舞台に向けて、拍手は絶えず送られていた。
●終幕、そして
「ブラボー! お見事でした皆様! サーカスは無事終幕、お客様の大喝采とは何と心地良いものなのでしょう!」
サーカスも終わり、熱狂冷めやまぬ観客が去って静まったテントの、舞台裏。このサーカスの支配人であり、元凶であり、『アルカナ』でもある道化師風ゴブリンの姿をした歪虚、Foolはハンター達を前にぱちぱちと拍手をしつつ出迎える。
「そしてリズリエル様も、以前と同じく見事な芸でした。いやはや……まさかまたお会い出来るとは思っていませんでしたねぇ。やはり人が何を楽しいと言うのか、よく解ってらっしゃる」
着ぐるみを脱いだリズリエルに大袈裟に感動の素振りを見せるFool。対してリズリエルはふん、とつまらなそうに鼻を鳴らしつつ答える。
「人が何を楽しいとするかなど、私にもわからん。それでも新たな楽しさ、娯楽を作るのが芸人だ。掌の上で自体を捏ね回すのは、道化のやる事じゃあないな」
彼女の道化としての矜持におやおや、と肩を竦めるFool。
「これはこれは……確かに『喝采』を求めるならば、あえて出来の悪い部下を使う事もなかったですかねぇ……」
「何?」
「おおっと、何でもございません」
Foolは大袈裟に口を抑え、飄々と視線をかわす。リズリエルだけでなく他のメンバーも、今の発言に対して思うことがあったか、鋭い視線を投げかけている。
「それよりも、これでお前は満足したんだろう。取引の報酬……『アルカナ』についての情報を吐いて貰おうか」
そしてFoolに対して歩み寄る真司。彼は過去にもアルカナとの戦いに身を投じており、今回の依頼にはFoolの提示した報酬――情報に対して、大きな感心を抱いていたのだった。
「そうですね。ハンター様方には難しい依頼を見事成し遂げて頂いたのです。約束通り、情報をお聞かせする場を、日を改めてご用意致しましょう……」
そう言い終わるとFoolは踵を返し、去ろうとする。
「待て、今じゃないのか? そう言って逃げるつもりじゃないだろうな」
「約束は守りますよ。しかし、今はサーカスの余韻を楽しみたいのでね。……それでは」
ぱちん、とFoolが指を鳴らすと、その姿がテントごと、消える。ハンター達は何もない街路の脇に立っていたのだった。
こうしてFoolとの取引に応じ、その成果をあげたハンター達。
それから数日後、エフィーリアの元に再び、謎の便箋が届いたのだった……。
リゼリオの近郊、まだ日差しも高い昼頃の街路の途中にそのテントはあった。『本日サーカス開演』と大きく掲げられた看板の元、多くの人がそのテントへと集まっている。元々リゼリオにて今回の事は宣伝されており、道行く人も物珍しさにテントへと近づいてくる。テントの前で騎士剣を振るい、舞い踊るレオノーラ(ka3821)にもまた、多くの人が引き寄せられていた。
「さあ、お立合いお立合い! 世紀のサーカスが始まるぞ、見たい者だけ寄ってこい!」
派手な動きで剣を捌く彼女の流麗な姿に道行く人も歩みを止め、サーカスへ興味を示して中へと入ってゆく。
サーカステントの中は外とは違い、薄暗い。入り口の垂れ幕が動く度に僅かな光が入るくらいで、その殆どは足元を僅かに照らす照明のみで視界が確保されている。中央に鎮座する台も薄暗くライトアップされ、立入禁止の旨を示す赤い光によって囲われていた。
暫くして、開演時間となる。足元や赤い照明も消え、暗闇の中に閉ざされるテントの中、一筋のスポットライトが舞台の隅に立つ人物を照らし出す。青く長い髪の艶が光り、メトロノーム・ソングライト(ka1267)の姿が闇の中で浮かび上がる。。
「本日は、当サーカスにご来場頂き、誠にありがとうございます。此度は皆様を、覚める事も惜しむような夢の世界へとご案内致しましょう……」
恭しく礼をしつつ、メトロノームが語り始める。
「それでは始めましょう。許されぬ恋をした2人の男女の、数奇なる運命を紡いだ物語を……」
●其は儚き夢と共に
メトロノームを照らすライトが落とされると、一抹の静けさのちに舞台の中央にライトが向けられる。照らされたのは謎のまんまるな毛玉。もこもこしたそれが突如として映し出された事に観客は一瞬困惑するが、もこっとそれらから手足が伸び、ぴょこりと上げた頭からぴんっと耳が立つ。それはうさぎの着ぐるみに身を包んだリズリエル・ュリウス(ka0233)だった。その様子にあわせ、メトロノームが物語を紡ぐ。
「何もなくなってしまったひとつの部屋。ひとつのぬいぐるみに命が宿る。ぬいぐるみの名はくらうんらびっつ。縫ってくれた姫の為、その名を受けた主君の為……彼は彼女を助けに行くのです」
ふりふりと愛くるしい着ぐるみの仕草に観客は表情を緩ませる。そうしてスポットライトが追うようにうさぎ(リズリエル)はどこかへと去っていく。舞台の開幕と共に少しずつ軽快な音楽が流れてくる。うさぎがフェードアウトした逆側へライトが照らされ、軽快な動作で黒い物体が入ってくる。また着ぐるみか? と思われたそれはエニグマ(ka3688)。黒い熊の姿をした謎の小さき者は、そっと赤鼻を懐から取り出し、じーっと眺めている。
「ぐまっ」
そっとその赤鼻を自分の鼻につけると、虚空に手をぴったりとくっつけ、ゆっくりとした動作でジェスチャーする。パントマイムをしながら彼はせっせと、舞台の準備に取り掛かる。その愛くるしい仕草に、準備すらも演目の一環なのだと思う観客。その影、目立たぬところでこそこそと動く人影が。
ピエロメイクで自身を彩った彼は壬生 義明(ka3397)。オペラ座の怪人を思わせるダンディな衣装とマスクに身を包んだ彼は、エニグマが場を温めつつ準備をしている最中、目立たぬ所で 舞台の重要な準備を施してゆく。
それでも舞台をよく見ている客には見つかるもの。『ピエロだ!』という子どもの声にはぺこりと一礼を返し、準備を続ける。
闇の中で、エニグマはドライアイスを配置する。もくもくと蒸気が立ち込める中で二人が準備を終えると、舞台には再び光が浮かび上がる。その上部で照らされたのは、ドレスに見立てたワンピースで着飾ったレオノーラと、亜人……ゴブリンの姿だった。観客はテント前で客引きをしていた彼女と気付いて声援を送り、傍らに居る亜人には『精巧なメイクだ』と思い思いの感想を口にする。どうやら本物の亜人がここに居るという考えには至らなかったようだ。
「姫と男は恋をした。人間の姫と、亜人の男……夜のテラスで出会った彼女らは、静かに城を抜け出す。男は、軟禁された姫を助ける為に――」
スポットライトがゆっくり動く。レオノーラらが立っている場所は綱渡りの台だ。レオノーラ演じる姫は不安そうな仕草を身振りで訴える。すると、そこへ先ほどのくらうんらびっつがひょっこりと現れ、大きな耳をふりふりとさせながら、そろりと綱へ差し掛かる。一歩、また一歩と歩を進めるの様子を観客が固唾を呑んで見守る。自信もなく、不安定な動きに、テント内に緊張が高まる。やがてくらうんらびっつは無事、綱を渡り切る。
続いて亜人が、それに続いて橋を渡り始める。姫は亜人とうさぎを交互に見つめ、心配そうな演技をする。
ここで、綱渡りをしている亜人がふらつく。亜人はFoolの断片であり、芸の完成度に難がある為だ。ぐらぐらと揺れ始め……。
そこへ瞬脚によって突如現れたエニグマが、横合いからタックルをかました。
突然の襲来にバランスを崩す亜人は、エニグマと共に綱から落下、観衆の息が止まる――。
が、二人はの身体は地面に激突する前に、ぽよんと跳ねる。先程の準備で予め張っておいたネットの弾力に、二人はぽよんぽよんと跳ねる。上に注目していたうえ、ドライアイスの蒸気によって見えにくくなっていた為、観客はネットの存在に気付けなかったのだ。
「ぐまっ」
ぐっ、と皆に見えるように親指を立てるエニグマ。緊張の糸が切れた観客に笑顔が戻る。続いてレオノーラも下に飛び降り、3人でぽよんぽよんと跳ね、上では一人だけ見事に渡りきったうさぎが、得意気に綱の上でぴょこぴょこと軽業を披露している。自信のない先程の演技とはうって変わった、軽業師の動きだった。
「少しドジな亜人の男。しかし彼には黒い熊の守護霊がついていたのです」
メトロノームの語りによるフォローで観客は落下も演出のひとつと認識したのだろう。上で軽業を披露するうさぎと、下で可愛らしく跳ねる3人のコラボレーションは新鮮な感覚を抱かせる。
そうして、再び舞台は暗転し、エニグマは再び舞台裏へと戻る。
「しかし、姫は亜人に狙われる存在。亜人の王は逃げる彼らに、追っ手を差し向けたのでした……」
姫達がネットから降りた時、ぐるりと取り囲むように亜人達が現れる。その手にはナイフが握られている。
姫と亜人は、ステージ上をぐるりと回るように逃げる。亜人達は彼女らを狙ってナイフを投擲すると、暗幕やポール、そして予め用意されていた壁などにナイフが突き刺さっていく。
これはメトロノームの配慮で、ナイフ投げの対象の立ち回りを意識する事で、仮に投擲が失敗してもナイフが客席に飛ばないようにする為だった。
ナイフの雨を掻い潜る2人。突然の襲来で上に居たうさぎも、わたわた、と慌てて落っこち……たように見せかけて他の綱へと着地し、観客に『おおっ』と感嘆の声を漏らさせる。そしてポール、ネットを軽快に蹴ってステージに着地し、3人と亜人達の間に立ち塞がるような仕草をする。
追い詰められた一行。そこへ、馬の蹄の音が遠くから聞こえてきた。
「しかし、一行を追うのは亜人達だけではありません。姫をの父である王の遣いもまた、一行を追っていたのです」
バッとステージに馬に乗って躍り出たのは柊 真司(ka0705)だった。執事服を身に纏い、執事役として参上したのだった。
「ふっ!」
馬に乗ったままの不安定な姿勢からナイフを投擲。取り囲む亜人(の背後に隠して設置された風船)目掛けて放たれたそれは、パンパン! という音と共に紙吹雪が舞い飛び、その音に合わせてばたばたと亜人達が倒れていく。
狭いステージ内、馬はぐるぐると走り回り、観客は目を奪われる。その間に密かに動いていたエニグマと義明が、ステージにこっそりと障害物となる段差を設置。一周周ってきた真司は馬を駆使してそれらの段差を飛び越えつつ、馬のジャンプに合わせて更にナイフを投擲する。騎乗し、更に跳躍しながらも正確に風船を撃ち抜く様に、観衆は喝采を送る。
そして、最後の風船が割れると共に、姫と同行していた亜人の男も倒れる。驚く姫。馬から降りた執事はそのまま姫の手を引き、ステージの裏へと連れていってしまう……。
「放たれた追っ手、連れ帰られてしまった姫。姫は、前よりも更に高く……高くの牢へと、幽閉されてしまうのでした……」
場面は暗転し、再び義明がセットに入る。綱渡りの綱よりも更に高所に設置されたセット、空中ブランコの準備をする際にも、脚の裏から噴射したマテリアルによりポールとポールの間を飛び、一気に高所へと到達。準備すらも演目に組み込まれてるのかと錯覚する軽業に、観客は拍手で応じる。
やがて暗転がなくなり、照明が照らし出される。ブランコを隔てた対岸に、亜人、姫がそれぞれ立って、スポットライトを浴びていた。
「追い詰められた二人の、最後の逃避行。空から吊るされる命綱……果たして彼女らは、逃げられるのでしょうか」
奥側のブランコから飛んで現れたのは、くらうんらびっつ。もふもふとしたうさぎは姫の傍らに降り立つと、『さあ、こうやって!』と自信たっぷりにジェスチャーし、ブランコで再び宙を舞う。ブランコからブランコへ、伝うように飛び移り、亜人の居る対岸へと着地した。
次は姫の番。姫は不安そうに、ブランコを握りしめる。姫役のレオノーラの本分は騎士。本業のリズリエルとは違って立体感覚や軽業技術を持っている訳ではない。落ち着けと自分に言い聞かせ、練習を思い出す。そうしてるうちに、向こう岸の亜人はブランコを掴み、宙へと躍り出る。
相手を信じ、意を決して同じく宙へと躍り出る姫。ブランコが揺れ、ブランコからブランコを伝って飛び移っていく二人、やがて、姫は亜人の伸ばした手を目掛けて、ブランコを離して、宙へと飛び移った――。
ぱしっ、と亜人と手をつなぐ姫。その瞬間にぱんぁっと仕掛け花火が照明と共に弾け飛び、結ばれた二人を演出する。クライマックスの盛り上がりに、観客の喝采がテント中に響き渡った。
「人間の姫、亜人の男……許されぬ二人の恋。果たして、その結末は……。此度の物語は、此れにて終焉としましょう……」
杞憂していた落下もクライマックスでは起きず、舞台は終幕する。メトロノームの語りで締められ、舞台は暗転する。暗くなった舞台に向けて、拍手は絶えず送られていた。
●終幕、そして
「ブラボー! お見事でした皆様! サーカスは無事終幕、お客様の大喝采とは何と心地良いものなのでしょう!」
サーカスも終わり、熱狂冷めやまぬ観客が去って静まったテントの、舞台裏。このサーカスの支配人であり、元凶であり、『アルカナ』でもある道化師風ゴブリンの姿をした歪虚、Foolはハンター達を前にぱちぱちと拍手をしつつ出迎える。
「そしてリズリエル様も、以前と同じく見事な芸でした。いやはや……まさかまたお会い出来るとは思っていませんでしたねぇ。やはり人が何を楽しいと言うのか、よく解ってらっしゃる」
着ぐるみを脱いだリズリエルに大袈裟に感動の素振りを見せるFool。対してリズリエルはふん、とつまらなそうに鼻を鳴らしつつ答える。
「人が何を楽しいとするかなど、私にもわからん。それでも新たな楽しさ、娯楽を作るのが芸人だ。掌の上で自体を捏ね回すのは、道化のやる事じゃあないな」
彼女の道化としての矜持におやおや、と肩を竦めるFool。
「これはこれは……確かに『喝采』を求めるならば、あえて出来の悪い部下を使う事もなかったですかねぇ……」
「何?」
「おおっと、何でもございません」
Foolは大袈裟に口を抑え、飄々と視線をかわす。リズリエルだけでなく他のメンバーも、今の発言に対して思うことがあったか、鋭い視線を投げかけている。
「それよりも、これでお前は満足したんだろう。取引の報酬……『アルカナ』についての情報を吐いて貰おうか」
そしてFoolに対して歩み寄る真司。彼は過去にもアルカナとの戦いに身を投じており、今回の依頼にはFoolの提示した報酬――情報に対して、大きな感心を抱いていたのだった。
「そうですね。ハンター様方には難しい依頼を見事成し遂げて頂いたのです。約束通り、情報をお聞かせする場を、日を改めてご用意致しましょう……」
そう言い終わるとFoolは踵を返し、去ろうとする。
「待て、今じゃないのか? そう言って逃げるつもりじゃないだろうな」
「約束は守りますよ。しかし、今はサーカスの余韻を楽しみたいのでね。……それでは」
ぱちん、とFoolが指を鳴らすと、その姿がテントごと、消える。ハンター達は何もない街路の脇に立っていたのだった。
こうしてFoolとの取引に応じ、その成果をあげたハンター達。
それから数日後、エフィーリアの元に再び、謎の便箋が届いたのだった……。
依頼結果
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【質問卓】 柊 真司(ka0705) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/05/09 23:30:54 |
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好評嘖々の相談卓 メトロノーム・ソングライト(ka1267) エルフ|14才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/05/12 18:45:02 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/08 01:31:09 |