ゲスト
(ka0000)
愛の指輪を取り戻せ!
マスター:sagitta

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~8人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/13 19:00
- 完成日
- 2015/05/20 16:45
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
今年で32歳になるジョルジオ=ヴァルトロマイは、まじめな運送業者だ。
父親のやっていた小さな会社を引き継いでから10年。ほかの業者たちがいやがる長距離の行商や買い付けもすすんでやり、法に触れるようなものをのぞいて、あらゆる種類の荷物を受け入れて会社を大きくしていった。
ジョルジオが港湾都市ポルトワールに構えるヴァルトロマイ運送は、派手さはないが堅実で信頼できる業者として、商人たちに知られはじめている。
そんなジョルジオの目下の悩み事は、仕事が忙しくてデートの時間がとれないことだった。実は、同業者の集うパーティーで知り合い、1年ほどまえからおつきあいをしている女性がいるのだが……仕事の都合上、さまざまな都市間を飛び回っているジョルジオは、めったに彼女と二人きりの時間をつくれずにいた。ジョルジオは、そろそろ年齢的に結婚も考えたい、などと思っていたりするのだが……。
「でもようやく、ようやく10日間の休みをとることができたんだ。今度こそ、彼女にプロポーズするぞ……!」
そのことを思えば、長くてつらい長距離の船旅も何のその。彼女が、こくんと頷いて、ほほえむ姿を思い浮かべてゆるみそうになる頬を、必死でおさえているような有様だった。
プロポーズのための準備は万端。彼女が行きたがっていたヴァリオスへ向けた、貸し切りの船も手配済み。
そしてそして、忘れちゃいけない、プロポーズの際にプレゼントする指輪、これも辺境のドワーフの職人にわざわざ特注でつくらせた彼女の名前入りのものを用意してある。辺境に仕事で買い付けに行った帰りの荷物の中に、万一山賊に遭ったときのカモフラージュのために貴重品を積んだ荷馬車ではなく、果物やら野菜を載せた荷馬車の方に潜ませて、準備は万端、あとはポルトワールに到着するのを待つばかり……!
「ジョルジオ様、たいへんです!」
「いったいなにごとだ?」
自室に慌ただしく駆け込んできた部下に、ジョルジオの嫌な予感センサーが反応した。どうしたことか、嫌な予感だけはよく当たる彼である。
「に、荷馬車が亜人の賊に襲われまして……荷物が奪われました! あ、でも、幸いなことに、襲われたのは貴重品の荷ではなくて、果物と野菜のやつですんで、被害額はそれほどでも……」
「だあああああ!」
思わず、天を仰ぐジョルジオ。
「急いで、ハンターを雇って、荷を取り戻すのだ! 絶対に、絶対に取り返してやるぞおおおお!」
主人の予想以上にはげしい反応に、部下は慌ててハンターオフィスへと走ったのだった。
父親のやっていた小さな会社を引き継いでから10年。ほかの業者たちがいやがる長距離の行商や買い付けもすすんでやり、法に触れるようなものをのぞいて、あらゆる種類の荷物を受け入れて会社を大きくしていった。
ジョルジオが港湾都市ポルトワールに構えるヴァルトロマイ運送は、派手さはないが堅実で信頼できる業者として、商人たちに知られはじめている。
そんなジョルジオの目下の悩み事は、仕事が忙しくてデートの時間がとれないことだった。実は、同業者の集うパーティーで知り合い、1年ほどまえからおつきあいをしている女性がいるのだが……仕事の都合上、さまざまな都市間を飛び回っているジョルジオは、めったに彼女と二人きりの時間をつくれずにいた。ジョルジオは、そろそろ年齢的に結婚も考えたい、などと思っていたりするのだが……。
「でもようやく、ようやく10日間の休みをとることができたんだ。今度こそ、彼女にプロポーズするぞ……!」
そのことを思えば、長くてつらい長距離の船旅も何のその。彼女が、こくんと頷いて、ほほえむ姿を思い浮かべてゆるみそうになる頬を、必死でおさえているような有様だった。
プロポーズのための準備は万端。彼女が行きたがっていたヴァリオスへ向けた、貸し切りの船も手配済み。
そしてそして、忘れちゃいけない、プロポーズの際にプレゼントする指輪、これも辺境のドワーフの職人にわざわざ特注でつくらせた彼女の名前入りのものを用意してある。辺境に仕事で買い付けに行った帰りの荷物の中に、万一山賊に遭ったときのカモフラージュのために貴重品を積んだ荷馬車ではなく、果物やら野菜を載せた荷馬車の方に潜ませて、準備は万端、あとはポルトワールに到着するのを待つばかり……!
「ジョルジオ様、たいへんです!」
「いったいなにごとだ?」
自室に慌ただしく駆け込んできた部下に、ジョルジオの嫌な予感センサーが反応した。どうしたことか、嫌な予感だけはよく当たる彼である。
「に、荷馬車が亜人の賊に襲われまして……荷物が奪われました! あ、でも、幸いなことに、襲われたのは貴重品の荷ではなくて、果物と野菜のやつですんで、被害額はそれほどでも……」
「だあああああ!」
思わず、天を仰ぐジョルジオ。
「急いで、ハンターを雇って、荷を取り戻すのだ! 絶対に、絶対に取り返してやるぞおおおお!」
主人の予想以上にはげしい反応に、部下は慌ててハンターオフィスへと走ったのだった。
リプレイ本文
●ジョルジオの懇願
「……というわけなんです」
ハンターたちに向けて一通り状況を説明したジョルジオが、情けなさそうな顔で部屋の中を見回した。
ここは、ジョルジオの執務室。
彼の大事な大事な指輪を取り戻すために集まったハンターたちが、依頼主であるジョルジオに挨拶に来たのだ。あらわれたハンターたちに、ジョルジオはすがりつかんばかりの勢いで指輪が奪われた経緯について語りはじめたのだった。
ちなみにハンターたちにはそれぞれ椅子がすすめられ、ていねいに紅茶まで振る舞われている。どんなときでも礼儀は欠かさないのが真面目な運送業者、ジョルジオの偉いところだ。
「高価な装飾品や貴重品を載せた荷馬車ではなく、あえて野菜や果物の荷馬車に載せておけば、盗賊に狙われることはないだろうと思っていたのですが……まったく、肝心なところでいつもついていない自分の運命を呪いたい気分です」
「備えあれば憂いなし、とは言いますが……少々、裏目に出ちゃったみたい、ですね」
天を仰いで嘆くジョルジオに、苦笑いで応じたのはパティ=アヴァロンウッド(ka3439)だ。育ちのよい彼女は、心から同情する表情を浮かべている。
「指輪なんて形式ばったものにこだわるか。……ま、おいそれくだらないとは言えないけどね」
ジョルジオに聞こえないように、小さくつぶやいたのはタディーナ=F=アース(ka0020)だ。素っ気ない態度とは裏腹に、実は面倒見のよい彼女は、すでに頭の中で指輪を取り返す作戦を練りはじめている。
「ジョルジオ殿の一世一代の晴れ舞台のために、依頼を果たさなければなりませんね」
レオン・フォイアロート(ka0829)がそう言って、ジョルジオを安心させるようにしっかりとうなずいた。
「ぷろぽーず、うまくいくといいのですー」
「ふふふ、結婚ですか。羨ましいですね。その幸福、不幸にしないようにがんばりましょう。うふふふ……」
蜜羽(ka4585)とクロリエ・ハンフピィ(ka4754)は、もうすでに依頼が成功した後のことを妄想して、それぞれニコニコ、ニヤニヤしている。
「ううう、なんていい人たちばかりなんだー! みなさま、こんな私のために、うっうっ」
思わず涙ぐむジョルジオ。実は感動屋さんなのである。
「感激するのは、依頼が成功してからにしようよ。今回の件、本当の主役はあくまでもジョルジオさんで、僕たちはその手助けなんだからね」
今にも泣き出しそうなジョルジオを制して、ラク(ka4668)がもっともな意見を述べる。
「ジョルジオさんの力も、貸してほしいんだ。この辺の地理とか、詳しいでしょ?」
「もちろんですとも!」
ラクの言葉に、ジョルジオが力強くうなずく。
「ふむ、では作戦会議とゆくか。まずは奪った者たちのアジトを探すところからかのう」
紅薔薇(ka4766)が話をまとめると、ハンターたちはテーブルを囲んで作戦を練りはじめた。さすがに手練れのハンターたちだけあって、囮を使って賊をおびき寄せる作戦がみるみる組み立てられていく。
……ちなみに。
部屋の端でひとり、ジョルジオのプロポーズの話に興味を示すこともなく、完全に別のところで怒りを燃やしているものがいた。野菜大好きベルセルクの岩井崎 旭(ka0234)だ。
「野菜、野菜が奪われただとっ! 農家の人たちが汗水流して美味しくなるよーに育てた野菜を! それを亜人どもが奪っただぁ? ゆるさん! すり潰す!」
可能な限り野菜を奪い返してやろうと、ひとり、心に決めたのであった。
●囮作戦
人気のない、寂れた街道。
食料を積んだ荷馬車がゆっくりと進んでいた。賊をおびき寄せる、「囮」の馬車だ。
御者に扮して馬の背に乗っているのはレオン。タディーナとパティが馬車の両脇をゆっくりと歩く。賊を警戒させないために、装備は最小限、残りは馬車のそこにくくりつけてある。
「……狙い通り、おびき寄せられてくれればいいが」
馬車を操るレオンが、表情を変えないまま小さくつぶやく。
「仕掛けも上々、準備は万全、っと」
タディーナが、荷馬車のかごから伸びた仕掛けのひもを横目で確認しつつ空を仰ぐ。
「ここなら、彼らも襲いやすそう、ですよね……来るとしたら、そろそろでしょうか」
あたりを気持ちよさそうに見渡しているように装いつつ、周囲を注意深く観察していたパティがつぶやいた。荷馬車は、ジョルジオに事前に確認していた、賊の多くあらわれるあたりにさしかかっている。
三人はしばらく、緊張しつつもそのそぶりを見せないように心がけながら、ゆっくりと馬車をすすめた。
そのとき。小枝が踏み折られるかすかな音。同時に、視界の端で黒い影が動いた。
三人が目配せを交わすのと同時に、飛び出してきた複数の小柄な影が馬車の行く手をふさぐ。
「……ゴブリン、なんでこんなところに!」
「チッ、楽な仕事だと思ったら、冗談じゃないよ!」
パティとタディーナが口々に言って、あわてふためいた様子を装う。
「こ、これはやるから命だけは助けてくれ!」
レオンがそう言いながら、荷馬車に載せた籠を示してみせる。籠にたっぷりと盛られた果物を目にして、ぱっとゴブリンたちが色めき立つ。
やはりゴブリンたちの目的は食料だったらしい。抵抗するそぶりを見せない三人には目もくれず、5匹ほどが籠に手をかけ、一気に持ち上げる。意外な重さに一瞬戸惑ったそぶりを見せたものの、持ち上げられないほどではない、と思い直したのか、渾身の力を込めて担ぎ上げた。
(よし! 果物の下には石がたっぷり入っています。これで、アジトに行くまでの時間が稼げますね)
心の中で快哉をあげたのは、パティだ。
「た、助けておくれよ!」
タディーナが逃げ惑う演技をしつつ、密かにひもを引いた。ひもは籠の底に入れられた瓶のふたとつながっている。タディーナが引いたことで瓶のふたが外れ、瓶に詰められた液体が一滴、地面にしたたり落ちた。
(ばっちり思惑通りだ)
地面に垂れたのは絵具を溶かした色水だ。籠の中に入れた仕掛けによって、籠を移動させると、少しずつ色水が垂れるように細工してある。ゴブリンたちは気づかぬままに、自分のたどった道筋を点々と残していくことになるのだ。
「さてと……首尾よくいったな」
去って行くゴブリンたちの背中を見送りながら、レオンが言った。
「ああ、あとはのんびりこの色を辿ればいいさ。急ぐ必要はない」
タディーナが満足げにうなずく。パティは服の下に隠していたトランシーバーを取り出した。
「これで追跡班に連絡しましょう。あとは指輪を取り戻すのみですね」
●アジト急襲
「わんわんっ!」
籠の中に潜ませていた香草の匂いを追いかけていた犬が、得意そうに吠えた。
「アジトはっけーん、なのですー!」
蜜羽がうれしそうに言う。
色水を辿る、香草の匂いを犬に追いかけさせる、という二重の手段が功を奏し、彼らは賊のアジトにたどり着いていた。ゴブリンたちのアジトは、山の中にある小さな洞窟だ。
「やっぱり、ジョルジオさんがだいたいこのあたりじゃないかと予想していた通りの場所だったね」
ラクが感心したように言う。
「野菜を奪った奴らはここか! 一匹たりとも、逃がしはしねぇ!」
旭が興奮した様子で斧を握りしめる。戦馬・シーザーにまたがったまま突撃したいところだが、残念ながら狭い洞窟の中とあっては降りるしかなさそうだ。
「見張りはいないようじゃな。一気に突入するのがよさそうじゃ」
紅薔薇も気合い十分といった様子で、刀を抜き放つ。
「お仕置きなのですー!」
蜜羽の、いささか気が抜けるかけ声とともに、旭、紅薔薇、クロリエ、ラクの4人がそれぞれの得物を手に洞窟に突入した。
「ギイーーーッ!!」
突然の闖入者に、慌てふためくゴブリンやコボルドたち。かろうじて武器を手に取るものもいるが、完全に腰が引けてしまっている。
「覚悟は出来てんだろーなァ! オイッ!」
旭が斧を振り回すたび、吹き飛んだゴブリンが壁にたたきつけられる。
「ふふふ、敵の目の前なんて不幸ですね……」
不気味に笑いながら、クロリエが両手のジャマダハルで敵を貫いていく。
「一匹も逃しませんよ。他の人がまた襲われても不幸ですからね」
「グ、グギイーッ!」
リーダー格のゴブリンが、破れかぶれ気味に斧を振りかぶった。だがそれはラクの構えた盾にやすやすと受け止められてしまう。
「仲間は傷つけさせないよ。守るのが僕の役目だからね」
「はあっ!」
ひるんだゴブリンを、紅薔薇の渾身の一撃がとらえた。もんどり打って倒れるゴブリン。
「まぁ、運が悪かったと思って諦めるのじゃ。街道の治安も守らねばならんからのう」
こうして、洞窟内のゴブリンとコボルドすべてが討伐されるのに、さほど時間はかからなかった。
●そしてプロポーズ!
ジョルジオは執務室で、ハンターたちが来るのを今か今かと待ちわびていた。彼の向かい側にはひとりの女性が椅子に腰を下ろして、心配そうな表情でジョルジオを見つめている。
「少しは落ち着いて、ジョルジオ、心配しすぎは身体によくないわ」
「あ、ああ、私は落ち着いているよ、エスメラルダ」
「さっきからそわそわしてばかりじゃない。ねぇ、盗まれた荷物って、そんなに大切なものだったの?」
エスメラルダ、とよばれた女性の言葉に、ジョルジオはぶんぶんと首を振る。
「い、いや、そういうわけではないんだけれどね。ほ、ほら、商品はすべて大切だからさ!」
「それはそうだけど……」
なおも怪訝そうな表情のエスメラルダが、さらに尋ねようとしたとき。
「ジョルジオ様、ハンターの方々が」
「おお、来たか!」
伝言してきた従業員の言葉に、ジョルジオが勢いよく立ち上がる。
続々と執務室に入ってくるハンターたち。
「ただいま、ジョルジオさん。あれ、隣にいる女性はもしかして……」
ラクの言葉に、ジョルジオがこくんこくん、とうなずく。
「そ、それで、例のものは取り戻せたのですか?」
「おう! 野菜のことだな! こんなに取り返したぞーー!」
旭が両手いっぱいの野菜を見せつけて、がははと胸を張ってみせた。
「い、いや、そうじゃなくてーーー!!」
……ジョルジオ、今にも泣きそう。
「これですよね?」
クロリエがにっこり笑って握った拳を差し出した。そしてゆっくりとその手を開く。そこには、美しい金細工で百合の花を象った指輪が。
「こんな時代ですから、結ばれたのなら離してはダメですよ。離れてしまうことは不幸ですから。……くくく、成功を祈っておきます」
そう耳打ちをしてから、ジョルジオに指輪を渡す。
「最初の一歩を踏み出すには勇気がいるかもしれません。ですが、その一歩さえ踏み出せれば道は開けると思います。ご武運を」
「ジョルジオさま、がんばってくださいなのです……っ!」
レオンと蜜羽が、ジョルジオに励ましの言葉を贈る。
「ほれ、依頼された物は見つかったのじゃ。あとは頑張るのじゃぞ。ここから先は妾達では手助けしてやれぬからのう」
紅薔薇の言葉に、ジョルジオはしっかりとうなずいて、つばを飲み込み――エスメラルダの方に向き直った。
「え、エスメラルダ」
「どうしたの? 真面目な顔して」
「そ、そのこれ、実は、君へのプレゼントなんだ!」
そう言って指輪を差し出すジョルジオ。エスメラルダは思いもよらないことに、驚きを隠せない表情だ。
「そ、それで、その、わ、私と……結婚してください!」
「えっ」
言った。ついに言った。ジョルジオの思い切った言葉に、一同固唾をのんでエスメラルダの返事を待つ。そして……。
「えっと、その、よろしくおねがいします……」
「やったあああああ!!」
今まさにここに、新たな夫婦が一組、誕生した。
「おふたりとも、おしあわせにーなのですー」
蜜羽の心からうれしそうな祝福の言葉が、二人の新しいスタートを飾ったのだった。
「……というわけなんです」
ハンターたちに向けて一通り状況を説明したジョルジオが、情けなさそうな顔で部屋の中を見回した。
ここは、ジョルジオの執務室。
彼の大事な大事な指輪を取り戻すために集まったハンターたちが、依頼主であるジョルジオに挨拶に来たのだ。あらわれたハンターたちに、ジョルジオはすがりつかんばかりの勢いで指輪が奪われた経緯について語りはじめたのだった。
ちなみにハンターたちにはそれぞれ椅子がすすめられ、ていねいに紅茶まで振る舞われている。どんなときでも礼儀は欠かさないのが真面目な運送業者、ジョルジオの偉いところだ。
「高価な装飾品や貴重品を載せた荷馬車ではなく、あえて野菜や果物の荷馬車に載せておけば、盗賊に狙われることはないだろうと思っていたのですが……まったく、肝心なところでいつもついていない自分の運命を呪いたい気分です」
「備えあれば憂いなし、とは言いますが……少々、裏目に出ちゃったみたい、ですね」
天を仰いで嘆くジョルジオに、苦笑いで応じたのはパティ=アヴァロンウッド(ka3439)だ。育ちのよい彼女は、心から同情する表情を浮かべている。
「指輪なんて形式ばったものにこだわるか。……ま、おいそれくだらないとは言えないけどね」
ジョルジオに聞こえないように、小さくつぶやいたのはタディーナ=F=アース(ka0020)だ。素っ気ない態度とは裏腹に、実は面倒見のよい彼女は、すでに頭の中で指輪を取り返す作戦を練りはじめている。
「ジョルジオ殿の一世一代の晴れ舞台のために、依頼を果たさなければなりませんね」
レオン・フォイアロート(ka0829)がそう言って、ジョルジオを安心させるようにしっかりとうなずいた。
「ぷろぽーず、うまくいくといいのですー」
「ふふふ、結婚ですか。羨ましいですね。その幸福、不幸にしないようにがんばりましょう。うふふふ……」
蜜羽(ka4585)とクロリエ・ハンフピィ(ka4754)は、もうすでに依頼が成功した後のことを妄想して、それぞれニコニコ、ニヤニヤしている。
「ううう、なんていい人たちばかりなんだー! みなさま、こんな私のために、うっうっ」
思わず涙ぐむジョルジオ。実は感動屋さんなのである。
「感激するのは、依頼が成功してからにしようよ。今回の件、本当の主役はあくまでもジョルジオさんで、僕たちはその手助けなんだからね」
今にも泣き出しそうなジョルジオを制して、ラク(ka4668)がもっともな意見を述べる。
「ジョルジオさんの力も、貸してほしいんだ。この辺の地理とか、詳しいでしょ?」
「もちろんですとも!」
ラクの言葉に、ジョルジオが力強くうなずく。
「ふむ、では作戦会議とゆくか。まずは奪った者たちのアジトを探すところからかのう」
紅薔薇(ka4766)が話をまとめると、ハンターたちはテーブルを囲んで作戦を練りはじめた。さすがに手練れのハンターたちだけあって、囮を使って賊をおびき寄せる作戦がみるみる組み立てられていく。
……ちなみに。
部屋の端でひとり、ジョルジオのプロポーズの話に興味を示すこともなく、完全に別のところで怒りを燃やしているものがいた。野菜大好きベルセルクの岩井崎 旭(ka0234)だ。
「野菜、野菜が奪われただとっ! 農家の人たちが汗水流して美味しくなるよーに育てた野菜を! それを亜人どもが奪っただぁ? ゆるさん! すり潰す!」
可能な限り野菜を奪い返してやろうと、ひとり、心に決めたのであった。
●囮作戦
人気のない、寂れた街道。
食料を積んだ荷馬車がゆっくりと進んでいた。賊をおびき寄せる、「囮」の馬車だ。
御者に扮して馬の背に乗っているのはレオン。タディーナとパティが馬車の両脇をゆっくりと歩く。賊を警戒させないために、装備は最小限、残りは馬車のそこにくくりつけてある。
「……狙い通り、おびき寄せられてくれればいいが」
馬車を操るレオンが、表情を変えないまま小さくつぶやく。
「仕掛けも上々、準備は万全、っと」
タディーナが、荷馬車のかごから伸びた仕掛けのひもを横目で確認しつつ空を仰ぐ。
「ここなら、彼らも襲いやすそう、ですよね……来るとしたら、そろそろでしょうか」
あたりを気持ちよさそうに見渡しているように装いつつ、周囲を注意深く観察していたパティがつぶやいた。荷馬車は、ジョルジオに事前に確認していた、賊の多くあらわれるあたりにさしかかっている。
三人はしばらく、緊張しつつもそのそぶりを見せないように心がけながら、ゆっくりと馬車をすすめた。
そのとき。小枝が踏み折られるかすかな音。同時に、視界の端で黒い影が動いた。
三人が目配せを交わすのと同時に、飛び出してきた複数の小柄な影が馬車の行く手をふさぐ。
「……ゴブリン、なんでこんなところに!」
「チッ、楽な仕事だと思ったら、冗談じゃないよ!」
パティとタディーナが口々に言って、あわてふためいた様子を装う。
「こ、これはやるから命だけは助けてくれ!」
レオンがそう言いながら、荷馬車に載せた籠を示してみせる。籠にたっぷりと盛られた果物を目にして、ぱっとゴブリンたちが色めき立つ。
やはりゴブリンたちの目的は食料だったらしい。抵抗するそぶりを見せない三人には目もくれず、5匹ほどが籠に手をかけ、一気に持ち上げる。意外な重さに一瞬戸惑ったそぶりを見せたものの、持ち上げられないほどではない、と思い直したのか、渾身の力を込めて担ぎ上げた。
(よし! 果物の下には石がたっぷり入っています。これで、アジトに行くまでの時間が稼げますね)
心の中で快哉をあげたのは、パティだ。
「た、助けておくれよ!」
タディーナが逃げ惑う演技をしつつ、密かにひもを引いた。ひもは籠の底に入れられた瓶のふたとつながっている。タディーナが引いたことで瓶のふたが外れ、瓶に詰められた液体が一滴、地面にしたたり落ちた。
(ばっちり思惑通りだ)
地面に垂れたのは絵具を溶かした色水だ。籠の中に入れた仕掛けによって、籠を移動させると、少しずつ色水が垂れるように細工してある。ゴブリンたちは気づかぬままに、自分のたどった道筋を点々と残していくことになるのだ。
「さてと……首尾よくいったな」
去って行くゴブリンたちの背中を見送りながら、レオンが言った。
「ああ、あとはのんびりこの色を辿ればいいさ。急ぐ必要はない」
タディーナが満足げにうなずく。パティは服の下に隠していたトランシーバーを取り出した。
「これで追跡班に連絡しましょう。あとは指輪を取り戻すのみですね」
●アジト急襲
「わんわんっ!」
籠の中に潜ませていた香草の匂いを追いかけていた犬が、得意そうに吠えた。
「アジトはっけーん、なのですー!」
蜜羽がうれしそうに言う。
色水を辿る、香草の匂いを犬に追いかけさせる、という二重の手段が功を奏し、彼らは賊のアジトにたどり着いていた。ゴブリンたちのアジトは、山の中にある小さな洞窟だ。
「やっぱり、ジョルジオさんがだいたいこのあたりじゃないかと予想していた通りの場所だったね」
ラクが感心したように言う。
「野菜を奪った奴らはここか! 一匹たりとも、逃がしはしねぇ!」
旭が興奮した様子で斧を握りしめる。戦馬・シーザーにまたがったまま突撃したいところだが、残念ながら狭い洞窟の中とあっては降りるしかなさそうだ。
「見張りはいないようじゃな。一気に突入するのがよさそうじゃ」
紅薔薇も気合い十分といった様子で、刀を抜き放つ。
「お仕置きなのですー!」
蜜羽の、いささか気が抜けるかけ声とともに、旭、紅薔薇、クロリエ、ラクの4人がそれぞれの得物を手に洞窟に突入した。
「ギイーーーッ!!」
突然の闖入者に、慌てふためくゴブリンやコボルドたち。かろうじて武器を手に取るものもいるが、完全に腰が引けてしまっている。
「覚悟は出来てんだろーなァ! オイッ!」
旭が斧を振り回すたび、吹き飛んだゴブリンが壁にたたきつけられる。
「ふふふ、敵の目の前なんて不幸ですね……」
不気味に笑いながら、クロリエが両手のジャマダハルで敵を貫いていく。
「一匹も逃しませんよ。他の人がまた襲われても不幸ですからね」
「グ、グギイーッ!」
リーダー格のゴブリンが、破れかぶれ気味に斧を振りかぶった。だがそれはラクの構えた盾にやすやすと受け止められてしまう。
「仲間は傷つけさせないよ。守るのが僕の役目だからね」
「はあっ!」
ひるんだゴブリンを、紅薔薇の渾身の一撃がとらえた。もんどり打って倒れるゴブリン。
「まぁ、運が悪かったと思って諦めるのじゃ。街道の治安も守らねばならんからのう」
こうして、洞窟内のゴブリンとコボルドすべてが討伐されるのに、さほど時間はかからなかった。
●そしてプロポーズ!
ジョルジオは執務室で、ハンターたちが来るのを今か今かと待ちわびていた。彼の向かい側にはひとりの女性が椅子に腰を下ろして、心配そうな表情でジョルジオを見つめている。
「少しは落ち着いて、ジョルジオ、心配しすぎは身体によくないわ」
「あ、ああ、私は落ち着いているよ、エスメラルダ」
「さっきからそわそわしてばかりじゃない。ねぇ、盗まれた荷物って、そんなに大切なものだったの?」
エスメラルダ、とよばれた女性の言葉に、ジョルジオはぶんぶんと首を振る。
「い、いや、そういうわけではないんだけれどね。ほ、ほら、商品はすべて大切だからさ!」
「それはそうだけど……」
なおも怪訝そうな表情のエスメラルダが、さらに尋ねようとしたとき。
「ジョルジオ様、ハンターの方々が」
「おお、来たか!」
伝言してきた従業員の言葉に、ジョルジオが勢いよく立ち上がる。
続々と執務室に入ってくるハンターたち。
「ただいま、ジョルジオさん。あれ、隣にいる女性はもしかして……」
ラクの言葉に、ジョルジオがこくんこくん、とうなずく。
「そ、それで、例のものは取り戻せたのですか?」
「おう! 野菜のことだな! こんなに取り返したぞーー!」
旭が両手いっぱいの野菜を見せつけて、がははと胸を張ってみせた。
「い、いや、そうじゃなくてーーー!!」
……ジョルジオ、今にも泣きそう。
「これですよね?」
クロリエがにっこり笑って握った拳を差し出した。そしてゆっくりとその手を開く。そこには、美しい金細工で百合の花を象った指輪が。
「こんな時代ですから、結ばれたのなら離してはダメですよ。離れてしまうことは不幸ですから。……くくく、成功を祈っておきます」
そう耳打ちをしてから、ジョルジオに指輪を渡す。
「最初の一歩を踏み出すには勇気がいるかもしれません。ですが、その一歩さえ踏み出せれば道は開けると思います。ご武運を」
「ジョルジオさま、がんばってくださいなのです……っ!」
レオンと蜜羽が、ジョルジオに励ましの言葉を贈る。
「ほれ、依頼された物は見つかったのじゃ。あとは頑張るのじゃぞ。ここから先は妾達では手助けしてやれぬからのう」
紅薔薇の言葉に、ジョルジオはしっかりとうなずいて、つばを飲み込み――エスメラルダの方に向き直った。
「え、エスメラルダ」
「どうしたの? 真面目な顔して」
「そ、そのこれ、実は、君へのプレゼントなんだ!」
そう言って指輪を差し出すジョルジオ。エスメラルダは思いもよらないことに、驚きを隠せない表情だ。
「そ、それで、その、わ、私と……結婚してください!」
「えっ」
言った。ついに言った。ジョルジオの思い切った言葉に、一同固唾をのんでエスメラルダの返事を待つ。そして……。
「えっと、その、よろしくおねがいします……」
「やったあああああ!!」
今まさにここに、新たな夫婦が一組、誕生した。
「おふたりとも、おしあわせにーなのですー」
蜜羽の心からうれしそうな祝福の言葉が、二人の新しいスタートを飾ったのだった。
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依頼相談掲示板 | |||
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指輪奪還作戦 タディーナ=F=アース(ka0020) 人間(リアルブルー)|24才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/05/13 01:15:39 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/10 21:14:58 |