ゲスト
(ka0000)
ゴブ姐さんからの緊急依頼
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~15人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/05/19 19:00
- 完成日
- 2015/05/20 02:23
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ゴブ姐さんがやってくる
少し前にオカマであるゴブリン、通称ゴブ姐さんが「ゴブリンの男は口説いても無駄だ、どうせ散るなら華々しく、見目麗しい人間の男性を口説くべし!」と同じ嗜好のゴブリンたちと一緒にナンパに繰り出し、ハンターたちが「良い男は自分で育てるものだ。バーでもやってみたらいいんじゃないか」とアドバイスした事件……事件? と「?」マークがつく珍事があったことを覚えているだろうか。
そのゴブ姐さんたちのバーも開いてみれば悩み相談にやってくる男性で意外と盛況で、お礼にと一度招待されたハンターも何人かいることだろう。
そのゴブ姐さんの住まいでどうやら揉め事が起き、ハンターの助けを要している、らしいのだが。
「今日ハ、しばらくぶりネ。今日はちょっと相談に乗って欲しいノヨ」
綺麗な服を着て爪もしっかり整え、ゴブリン(そして本来の性別は男性)であるという最大の違和感を除けば面倒見のいい姐さん(年的にはオバちゃんなのかもしれないが姐さんは姐さんである)は堂々とルカにあてがわれたオフィスにやってきて口を開いた。
「嗜好がノンケ……男のコなら女のコ、って言う風に一般的な恋愛嗜好を持つ人ってノンケっていうのヨネ? そういうゴブリンの一人が隣の集落からアタシたちの店に来たのヨ。
最初は冷やかし半分だったみたいなんだけど、だんだん店のコに本気になっちゃってネ。
自分は女性ゴブリンが好きなはずなの二どうしテ、って凄く悩んでるの。
店のコも好意は抱いてるみたいなんだケド、困ったコトに向こうには妻子が意てネ、身を引こうとしてるんだけど、向こうはすっかりお熱デ。
アタシたちの意見はどうしても店のコに近くなっちゃうから、ハンターの皆に、それもできれば大勢の人二意見ヲ聞きたいのヨ。
お相手の奥サンと子供サンも慌てふためいちゃっててそっちを宥める人ト、男性カラ話を聞く人に分かれて貰えたらベストかしラ。
店のコはね、好意は嬉しいケド家庭を壊してまで一緒になってもきっと幸セになれないっテ男性ヲ説得してるんだケド……理屈で引っ込むナラ恋じゃないのヨネェ」
多分一時の気の迷いだと思うんだケド、とゴブ姐さんは太いため息を吐いたのだった。
少し前にオカマであるゴブリン、通称ゴブ姐さんが「ゴブリンの男は口説いても無駄だ、どうせ散るなら華々しく、見目麗しい人間の男性を口説くべし!」と同じ嗜好のゴブリンたちと一緒にナンパに繰り出し、ハンターたちが「良い男は自分で育てるものだ。バーでもやってみたらいいんじゃないか」とアドバイスした事件……事件? と「?」マークがつく珍事があったことを覚えているだろうか。
そのゴブ姐さんたちのバーも開いてみれば悩み相談にやってくる男性で意外と盛況で、お礼にと一度招待されたハンターも何人かいることだろう。
そのゴブ姐さんの住まいでどうやら揉め事が起き、ハンターの助けを要している、らしいのだが。
「今日ハ、しばらくぶりネ。今日はちょっと相談に乗って欲しいノヨ」
綺麗な服を着て爪もしっかり整え、ゴブリン(そして本来の性別は男性)であるという最大の違和感を除けば面倒見のいい姐さん(年的にはオバちゃんなのかもしれないが姐さんは姐さんである)は堂々とルカにあてがわれたオフィスにやってきて口を開いた。
「嗜好がノンケ……男のコなら女のコ、って言う風に一般的な恋愛嗜好を持つ人ってノンケっていうのヨネ? そういうゴブリンの一人が隣の集落からアタシたちの店に来たのヨ。
最初は冷やかし半分だったみたいなんだけど、だんだん店のコに本気になっちゃってネ。
自分は女性ゴブリンが好きなはずなの二どうしテ、って凄く悩んでるの。
店のコも好意は抱いてるみたいなんだケド、困ったコトに向こうには妻子が意てネ、身を引こうとしてるんだけど、向こうはすっかりお熱デ。
アタシたちの意見はどうしても店のコに近くなっちゃうから、ハンターの皆に、それもできれば大勢の人二意見ヲ聞きたいのヨ。
お相手の奥サンと子供サンも慌てふためいちゃっててそっちを宥める人ト、男性カラ話を聞く人に分かれて貰えたらベストかしラ。
店のコはね、好意は嬉しいケド家庭を壊してまで一緒になってもきっと幸セになれないっテ男性ヲ説得してるんだケド……理屈で引っ込むナラ恋じゃないのヨネェ」
多分一時の気の迷いだと思うんだケド、とゴブ姐さんは太いため息を吐いたのだった。
リプレイ本文
●どうにも珍事になりやすい
ノンケの、妻子持ちのゴブリンがオカマバーの店員ゴブリンに恋をして、自分は店員の意見に近くなってしまうから、とオーナー……通称ゴブ姐さんがこの泥沼三角関係を何らかの形で終わらせてほしい、という珍妙な依頼に赴いたのは四人のハンターと一人の斡旋人。
「ヨク来てくれたワネ。とりあえず一人ずつ言い分ヲ聞いてもらうのがイイと思うノ。その間他の子ニハ席を外して貰って、本音ヲぶちまければすっきりして案外解決方法が見つかるカモしれないデショ?」
まず話を聞くことになったのは自身はノンケの筈なのにオカマバーの店員に惹かれてしまい、妻子を捨てるというところまで入れ込んでしまった隣の集落の男性ゴブリンだ。
(普通に考えてまともに成就しそうにないし、正攻法で応援しとけばいいかねえ……)
ビシュタ・ベリー(ka4446)が真っ先に口火を切った。
「ダメだと思ってたらダメに決まってんだろう!? 家庭をぶっ壊すつもりで突撃すりゃいいんだよ!
少なくともあたしならそうするね! 実際そうしてきたし、その結果刺されたよ」
啖呵を切った後で本人も周りと同じ速さで気づいた。刺されるのは駄目だろう。下手したら死ぬぞ、と。
「まァ……刺されても愛に殉じる、というのは本人ガ納得ずみナラありかもしれないケレド……うちの店が関わってるゴブリン模様で殺人事件ハちょっといただけないワネェ……」
アルコールが入ると纏まる話もまとまらなくなる可能性が高いので人数分のお茶を入れながらゴブ姐さんが口をはさむ。
次に口を開いたのはシャルル=L=カリラ(ka4262)だった。
「そうだネ、恋は盲目。でもその気持ちは本物であり、決して偽物ではない。
世界はラブ&ピースに溢れているヨ?
そこで質問だけれど、妻子を捨ててまで、と思い詰めるということは妻子にはもう愛も未練もないのかナ?」
「妻と子供のコトハ大事に思っている……だがそれ以上二あの子に惹かれルンダ……」
他人にとっては珍事でも本人にとっては人生を揺るがす大問題。
百歩譲ってこれが妻子持ちの男性ゴブリンが別の女性ゴブリンに惹かれた、だったら種族が違うだけでよくある不倫劇なのだが……新しい相手がオカマ、しかし妻子持ちというところが今回のややこしいところだ。
「お店のゴブリン嬢のどこに惹かれたの? 優しくしてくれるから? それとも、もっと別の理由?
優しくしてくれるだけなのが理由なら……それは此処がそういうお店だってことを弁えるべきだヨ?」
「彼女……あえて彼女というガ、彼女が夢を語るときのキラキラと輝く瞳が好きナンダ。
嬉しい時は無邪気に笑ッテ、からかえば怒ッテ、褒めればはにかみながら喜んでクレル……どの反応も新鮮デ、気付いたら彼女に夢中二なっていた。
傍デ見守りタイ、夢を追いカケル彼女ヲ一番近くデ応援してイタイ……」
気まずげに、けれど店員ゴブリンの魅力を語る男性ゴブリンにシャルルは言葉を重ねる。
「恋と愛は違う。キミはゴブリン嬢に何処まで何ができる? 妻子に何処まで何が出来る?」
「妻ハ立派な女性ダ。私ニハもったいナイくらい魅力的な面モある。ケレド彼女二惹かれる私ヲ許しはしないダロウ。
夢を追いかけるあの子ニハ金銭的ニモ精神的ニモ助けガ必要ダ。彼女ガ私ヲ選んでくれるナラ、初メは罪悪感デ苦しめてしまうガ……夢ヲ追いかけることに疲レタとき、そっと寄り添ウ存在二なりたいと願ッテいる」
屋外(ka3530)がその言葉を受けて口を開く。
「話は聞いたが、本当に一緒になる必要があるのか?
その気持ちは相手を形で繋がないと霧散する程度なのか?
相手の都合を考えない気持ちなんて単なる自己満足にすぎない、そう思わないか?
世界は点ではないんだ。周囲へ気配りの出来ない者に他者を愛する資格なんてない。
最初は冷やかしだったのだろう? 恋愛感情と興味、親が子に向ける感情とをはき違えているんじゃないか?」
「気の迷イだと、単なる好奇心ダト何度モ自分二言い聞かセタ。そのたび二彼女への恋慕と妻と子供を裏切っている罪悪感二苛まされるンダ」
男性ゴブリンは頭を抱え込んでしまう。それまで確固としてあった妻子を慈しむ感情が同性のゴブリンによって揺らいだことに酷くショックを受け、また困惑しているようだった。
「私はこれからも妻子と一緒に暮らしていってほしいと思っているんだ。
家族を持つということは責任を伴う。君は夫として、父親として、これからも家族を養っていかなければならない。
言い方は悪いのだが、店員君をとるということはその責任を放棄して私利私欲に走ったと同じさ。
果たしてそれを君はもちろん、君の家族や店員君は望むだろうか?
この選択をした時、結局幸せになるのは君だけで、周りの人は全員悲しむことになるんだよ。
君が店員君を大切に思う気持ちを否定するわけじゃない。だからその愛を捨てろと言っているのではないんだ。
ただし、周りにいる人たちのことも考えねばな。
皆が幸せになれるような選択が一番良いと思うんだ」
常胎ギィ(ka2852)が依頼を受けたハンターの最後の一人として自分の考えを述べる。
「周りが悲しむというノハ、言われるまでもナイ。それヲ理解シテいないナラ、ここまで悩まなかッタ。
彼女ヲ大切に思ウト同時に家族モ大事に思ってイル。ダガ元の鞘に納まりたいトいったところで気持ちヲ裏切ッタことに変わりハナイ」
「許せるかどうか、奥さんを呼んで聞いてみるかい?」
ギィの提案で個別面談ではなく夫婦での話し合いが取り持たれることになった。
できる事なら元の鞘に収まって欲しいと考えたギィと屋外の説得は、妻のゴブリンにも届けたいものだったからだ。
「家族ノ問題二巻き込んでシマッテ申し訳ありまセン……」
身だしなみは整っているが男性ゴブリンより更に憔悴した様子の女性ゴブリンが席に着く。
ゴブ姐さんは黙って新しいカップに薫り高いお茶を入れて差し出した。
「さて、ご主人の心変わりについてだけれど。君は許せるのかな。それとも許せないから離婚も辞さないというほど怒っているのかな」
妻子と男性が元の生活に戻って欲しいというのがギィにとっての理想だが、妻のゴブリンが完全に愛想を尽かしたというのならまた別の道を模索する必要が出てくるので問いかけてみる。
「気の迷いデあって欲しいト願ってイマス。私にトッテは生涯の伴侶ト決めたタダ一人の存在デスカラ……」
「アイリーン……すまない」
どうやら妻のゴブリンはアイリーンという名前らしい。
「貴方二とって私と子供ハもうお荷物ナノ? 愛ハ何処ニモ残ってイナイの?」
「君タチのコトハ大事に思っているヨ。でも彼女……サキのコトも大切二感ジルようにナッテしまったンダ……」
「これは提案なんですが、えぇと、サキさんですか。その方との交流が増えた結果の心変わりなのでしょう?
でしたら今はお互い気まずいかもしれませんが定期的に『丸一日家族の日』を設けてみるのはどうでしょう。
家族全員で遊んだり、食事をしたり、今後やりたいことを水入らずで話し合うんです。
好きとかの次元を超えた絆のような物が家族にはあると思うんです。簡単に切ってしまってはきっと後悔する」
屋外の言葉に夫婦は暫く考え込む。
「捨てるには想像以上の覚悟がいるし、お互いに未練があるなら後を引くもんなんじゃないのかい? 割り切れるなら二人ともそこまで憔悴しないだろう」
ビシュタがやつれた二人の姿を見て口をはさんだ。
「僕は一度サキ嬢の話を聞いてみたいな。その間にもう一度二人で話し合ってみてくれるかい?」
シャルルが促すとゴブリンの夫婦は蹌踉とした足取りで、それでもお互いを支え合いながら急きょ控室として使うことになった店員ゴブリンたちの支度部屋へと戻っていった。
入れ替わりにサキという名前が判明したオカマゴブリンがやってくる。
早速シャルルが口を開いて問いかけを開始した。
「妻子のことはこの際、置いといて、ホントのところ、あの男性ゴブリンのことはどう思ってる?
生涯、付き合っていけると思う? 身を引こうと思ったのは妻子への罪悪感のみなの?」
「頼りにナル方ダトハ思ってイマス。ケレド私ニとってノ第一ハ、夢であるママのような、全部を受け入れテ、それぞれノ話ヲ聞いテ、気持ちヨク飲み食いシテ、一時の憩イにナル……騒ぎが起きる前のこのお店のような場所ヲ、自分で作ルことナンデス。今ハ……それに今後も、タダ一人のタメには生きられないと思ってイマス」
自分の考えをより適切に表す言葉を探すように宙に視点を置きながら一言ずつサキが言葉を紡いでいく。
シャルルはその言葉を聞いたあとゴブ姐さんに視線を転じた。
「ゴブ姐さんの視点から見て、二人の様子はどんな感じ? 奥さんも合わせると三人かな。
全てを踏まえて……もし男性が妻子を愛し、けれどどうしてもサキ嬢を愛することもやめられないなら。
僕は男性ゴブリンの包容力を試してみるのも一興だと思うナ。
だって愛は無限だもの。大切なモノは大切、好きなモノは好き。それじゃダメかな?」
「最後ノ提案二関してハ奥さん二言った方ガいいと思うケレド……アタシから見てあの二人は夢を追いかけてル子と、そのファンでありスポンサーという立場二見えるワ。
興味本位で近づいたカラ距離ノ取り方ヲ間違エテ恋愛感情と錯覚シテしまったんジャないカシラ。
応援したい、とイウ気持ちガ大きくなりすぎチャッテ釦を掛け違えてる……ソンナ印象ね」
「なるほどね……じゃあ後は三人そろった状態での意見のすり合わせかな」
「男性ゴブリンが自分の気持ちの正体に気づいて納得して、奥さんが許せば解決……なのかい、この依頼は」
ビシュタの問いかけにギィは多分そうだと思う、と返事を返す。
どんな結末になるかと若干心臓に悪い思いをしているハンターたちのいるテーブル席に夫婦が帰ってきた。
「貴方ガ、サキサン……初めマシテ、コリンの妻のアイリーンデス」
「サキ、です。この度ハ家庭ヲお騒がせして済みマセン……」
男性のゴブリンにしては小柄で華奢な体を縮めながら挨拶をするサキをじっと見つめた後アイリーンは口を開いた。
「他人マカセにシテモ本当ノ解決ニハならない気がシテ、失礼ダトハ思いましたガ、扉越し二夫ト話ヲ全部聞かせて貰いマシタ」
話を聞いた過程でなにか心の変化があったのか、アイリーンの瞳には何かを決意した色がある。
「サキサン」
「ハイ」
「養子二、来ませんカ?」
その場にいた誰もが咄嗟に反応を返せない程、アイリーンの言葉は唐突過ぎた。
「エット……?」
「無理二引き剥がせバ、今ハ釦の掛け違いで済んでいても会えない間二美化ガ進んデ本気ノ恋二なるカモしれマセン。
けれど今までのようにこの店に通ッテいては私モ少々不安デス」
「それで養子、ですか?」
呆気にとられながらも屋外が合いの手を入れればアイリーンは毅然と頷く。
「応援シタイという感情ヲ、私ハ一種の保護欲ト認識シマシタ。家族トシテ、親トシテ、子供の成長を見届けるノハ自然ナ流レデス」
「……貴方ハ……それでイイのですカ? 泥棒猫を招き入レル結果二なるカモしれないのに」
「貴方ノ夢ヲ聞イテ、その心配ハないと判断シマシタ。もし見込み違いダッタラ、その時ハ女同士デどちらガ歓心を得られるか勝負デス。
店の性質上、そういう経験ガあっても損ニハならないデショウ?」
「いやはや、女性は強いねぇ……」
「私たちが横やり入れる必要、なかったんじゃないか?」
シャルルの感心したような声にギィが胡乱げな言葉で返事をする。
「イイエ。皆サンにサキサンが本音ヲ打ち明けル今という時間ガなかったら、泥沼二なっていたと思いマス」
「コリン殿はそれでいいのですか?」
「本当二保護欲ナラ……養子二なってクレレバ私モ冷静二なれるト思ウ。アイリーンハやはり私ニハもったいないくらいいい妻ダ」
「ゴブ姐さん的にはどうなのかな。この結末」
「本人たちガいいなら試してみるのもいいんじゃないカシラ。
貴方タチが上手ク三人ノ心ノ内ヲ吐露サセタ結果ネ。
中立じゃないトこの結末ニハならなかったト思うワ」
「……そうは言われてもこっちは結末が予想外過ぎてついていけないんだよね」
ビシュタが頬をかきながらぼやく。
「まァ丸く収マッテよかった、ト考えマショ。
前向き二捉えることが楽シク生きるコツよ」
三人の門出に乾杯しましょうか、とゴブ姐さんが酒杯を取り出す。
未成年者にはノンアルコールカクテルという名のミックスジュース類が振舞われ、ゴブ姐さんの手料理でハンターたちはもてなされたのだった。
ノンケの、妻子持ちのゴブリンがオカマバーの店員ゴブリンに恋をして、自分は店員の意見に近くなってしまうから、とオーナー……通称ゴブ姐さんがこの泥沼三角関係を何らかの形で終わらせてほしい、という珍妙な依頼に赴いたのは四人のハンターと一人の斡旋人。
「ヨク来てくれたワネ。とりあえず一人ずつ言い分ヲ聞いてもらうのがイイと思うノ。その間他の子ニハ席を外して貰って、本音ヲぶちまければすっきりして案外解決方法が見つかるカモしれないデショ?」
まず話を聞くことになったのは自身はノンケの筈なのにオカマバーの店員に惹かれてしまい、妻子を捨てるというところまで入れ込んでしまった隣の集落の男性ゴブリンだ。
(普通に考えてまともに成就しそうにないし、正攻法で応援しとけばいいかねえ……)
ビシュタ・ベリー(ka4446)が真っ先に口火を切った。
「ダメだと思ってたらダメに決まってんだろう!? 家庭をぶっ壊すつもりで突撃すりゃいいんだよ!
少なくともあたしならそうするね! 実際そうしてきたし、その結果刺されたよ」
啖呵を切った後で本人も周りと同じ速さで気づいた。刺されるのは駄目だろう。下手したら死ぬぞ、と。
「まァ……刺されても愛に殉じる、というのは本人ガ納得ずみナラありかもしれないケレド……うちの店が関わってるゴブリン模様で殺人事件ハちょっといただけないワネェ……」
アルコールが入ると纏まる話もまとまらなくなる可能性が高いので人数分のお茶を入れながらゴブ姐さんが口をはさむ。
次に口を開いたのはシャルル=L=カリラ(ka4262)だった。
「そうだネ、恋は盲目。でもその気持ちは本物であり、決して偽物ではない。
世界はラブ&ピースに溢れているヨ?
そこで質問だけれど、妻子を捨ててまで、と思い詰めるということは妻子にはもう愛も未練もないのかナ?」
「妻と子供のコトハ大事に思っている……だがそれ以上二あの子に惹かれルンダ……」
他人にとっては珍事でも本人にとっては人生を揺るがす大問題。
百歩譲ってこれが妻子持ちの男性ゴブリンが別の女性ゴブリンに惹かれた、だったら種族が違うだけでよくある不倫劇なのだが……新しい相手がオカマ、しかし妻子持ちというところが今回のややこしいところだ。
「お店のゴブリン嬢のどこに惹かれたの? 優しくしてくれるから? それとも、もっと別の理由?
優しくしてくれるだけなのが理由なら……それは此処がそういうお店だってことを弁えるべきだヨ?」
「彼女……あえて彼女というガ、彼女が夢を語るときのキラキラと輝く瞳が好きナンダ。
嬉しい時は無邪気に笑ッテ、からかえば怒ッテ、褒めればはにかみながら喜んでクレル……どの反応も新鮮デ、気付いたら彼女に夢中二なっていた。
傍デ見守りタイ、夢を追いカケル彼女ヲ一番近くデ応援してイタイ……」
気まずげに、けれど店員ゴブリンの魅力を語る男性ゴブリンにシャルルは言葉を重ねる。
「恋と愛は違う。キミはゴブリン嬢に何処まで何ができる? 妻子に何処まで何が出来る?」
「妻ハ立派な女性ダ。私ニハもったいナイくらい魅力的な面モある。ケレド彼女二惹かれる私ヲ許しはしないダロウ。
夢を追いかけるあの子ニハ金銭的ニモ精神的ニモ助けガ必要ダ。彼女ガ私ヲ選んでくれるナラ、初メは罪悪感デ苦しめてしまうガ……夢ヲ追いかけることに疲レタとき、そっと寄り添ウ存在二なりたいと願ッテいる」
屋外(ka3530)がその言葉を受けて口を開く。
「話は聞いたが、本当に一緒になる必要があるのか?
その気持ちは相手を形で繋がないと霧散する程度なのか?
相手の都合を考えない気持ちなんて単なる自己満足にすぎない、そう思わないか?
世界は点ではないんだ。周囲へ気配りの出来ない者に他者を愛する資格なんてない。
最初は冷やかしだったのだろう? 恋愛感情と興味、親が子に向ける感情とをはき違えているんじゃないか?」
「気の迷イだと、単なる好奇心ダト何度モ自分二言い聞かセタ。そのたび二彼女への恋慕と妻と子供を裏切っている罪悪感二苛まされるンダ」
男性ゴブリンは頭を抱え込んでしまう。それまで確固としてあった妻子を慈しむ感情が同性のゴブリンによって揺らいだことに酷くショックを受け、また困惑しているようだった。
「私はこれからも妻子と一緒に暮らしていってほしいと思っているんだ。
家族を持つということは責任を伴う。君は夫として、父親として、これからも家族を養っていかなければならない。
言い方は悪いのだが、店員君をとるということはその責任を放棄して私利私欲に走ったと同じさ。
果たしてそれを君はもちろん、君の家族や店員君は望むだろうか?
この選択をした時、結局幸せになるのは君だけで、周りの人は全員悲しむことになるんだよ。
君が店員君を大切に思う気持ちを否定するわけじゃない。だからその愛を捨てろと言っているのではないんだ。
ただし、周りにいる人たちのことも考えねばな。
皆が幸せになれるような選択が一番良いと思うんだ」
常胎ギィ(ka2852)が依頼を受けたハンターの最後の一人として自分の考えを述べる。
「周りが悲しむというノハ、言われるまでもナイ。それヲ理解シテいないナラ、ここまで悩まなかッタ。
彼女ヲ大切に思ウト同時に家族モ大事に思ってイル。ダガ元の鞘に納まりたいトいったところで気持ちヲ裏切ッタことに変わりハナイ」
「許せるかどうか、奥さんを呼んで聞いてみるかい?」
ギィの提案で個別面談ではなく夫婦での話し合いが取り持たれることになった。
できる事なら元の鞘に収まって欲しいと考えたギィと屋外の説得は、妻のゴブリンにも届けたいものだったからだ。
「家族ノ問題二巻き込んでシマッテ申し訳ありまセン……」
身だしなみは整っているが男性ゴブリンより更に憔悴した様子の女性ゴブリンが席に着く。
ゴブ姐さんは黙って新しいカップに薫り高いお茶を入れて差し出した。
「さて、ご主人の心変わりについてだけれど。君は許せるのかな。それとも許せないから離婚も辞さないというほど怒っているのかな」
妻子と男性が元の生活に戻って欲しいというのがギィにとっての理想だが、妻のゴブリンが完全に愛想を尽かしたというのならまた別の道を模索する必要が出てくるので問いかけてみる。
「気の迷いデあって欲しいト願ってイマス。私にトッテは生涯の伴侶ト決めたタダ一人の存在デスカラ……」
「アイリーン……すまない」
どうやら妻のゴブリンはアイリーンという名前らしい。
「貴方二とって私と子供ハもうお荷物ナノ? 愛ハ何処ニモ残ってイナイの?」
「君タチのコトハ大事に思っているヨ。でも彼女……サキのコトも大切二感ジルようにナッテしまったンダ……」
「これは提案なんですが、えぇと、サキさんですか。その方との交流が増えた結果の心変わりなのでしょう?
でしたら今はお互い気まずいかもしれませんが定期的に『丸一日家族の日』を設けてみるのはどうでしょう。
家族全員で遊んだり、食事をしたり、今後やりたいことを水入らずで話し合うんです。
好きとかの次元を超えた絆のような物が家族にはあると思うんです。簡単に切ってしまってはきっと後悔する」
屋外の言葉に夫婦は暫く考え込む。
「捨てるには想像以上の覚悟がいるし、お互いに未練があるなら後を引くもんなんじゃないのかい? 割り切れるなら二人ともそこまで憔悴しないだろう」
ビシュタがやつれた二人の姿を見て口をはさんだ。
「僕は一度サキ嬢の話を聞いてみたいな。その間にもう一度二人で話し合ってみてくれるかい?」
シャルルが促すとゴブリンの夫婦は蹌踉とした足取りで、それでもお互いを支え合いながら急きょ控室として使うことになった店員ゴブリンたちの支度部屋へと戻っていった。
入れ替わりにサキという名前が判明したオカマゴブリンがやってくる。
早速シャルルが口を開いて問いかけを開始した。
「妻子のことはこの際、置いといて、ホントのところ、あの男性ゴブリンのことはどう思ってる?
生涯、付き合っていけると思う? 身を引こうと思ったのは妻子への罪悪感のみなの?」
「頼りにナル方ダトハ思ってイマス。ケレド私ニとってノ第一ハ、夢であるママのような、全部を受け入れテ、それぞれノ話ヲ聞いテ、気持ちヨク飲み食いシテ、一時の憩イにナル……騒ぎが起きる前のこのお店のような場所ヲ、自分で作ルことナンデス。今ハ……それに今後も、タダ一人のタメには生きられないと思ってイマス」
自分の考えをより適切に表す言葉を探すように宙に視点を置きながら一言ずつサキが言葉を紡いでいく。
シャルルはその言葉を聞いたあとゴブ姐さんに視線を転じた。
「ゴブ姐さんの視点から見て、二人の様子はどんな感じ? 奥さんも合わせると三人かな。
全てを踏まえて……もし男性が妻子を愛し、けれどどうしてもサキ嬢を愛することもやめられないなら。
僕は男性ゴブリンの包容力を試してみるのも一興だと思うナ。
だって愛は無限だもの。大切なモノは大切、好きなモノは好き。それじゃダメかな?」
「最後ノ提案二関してハ奥さん二言った方ガいいと思うケレド……アタシから見てあの二人は夢を追いかけてル子と、そのファンでありスポンサーという立場二見えるワ。
興味本位で近づいたカラ距離ノ取り方ヲ間違エテ恋愛感情と錯覚シテしまったんジャないカシラ。
応援したい、とイウ気持ちガ大きくなりすぎチャッテ釦を掛け違えてる……ソンナ印象ね」
「なるほどね……じゃあ後は三人そろった状態での意見のすり合わせかな」
「男性ゴブリンが自分の気持ちの正体に気づいて納得して、奥さんが許せば解決……なのかい、この依頼は」
ビシュタの問いかけにギィは多分そうだと思う、と返事を返す。
どんな結末になるかと若干心臓に悪い思いをしているハンターたちのいるテーブル席に夫婦が帰ってきた。
「貴方ガ、サキサン……初めマシテ、コリンの妻のアイリーンデス」
「サキ、です。この度ハ家庭ヲお騒がせして済みマセン……」
男性のゴブリンにしては小柄で華奢な体を縮めながら挨拶をするサキをじっと見つめた後アイリーンは口を開いた。
「他人マカセにシテモ本当ノ解決ニハならない気がシテ、失礼ダトハ思いましたガ、扉越し二夫ト話ヲ全部聞かせて貰いマシタ」
話を聞いた過程でなにか心の変化があったのか、アイリーンの瞳には何かを決意した色がある。
「サキサン」
「ハイ」
「養子二、来ませんカ?」
その場にいた誰もが咄嗟に反応を返せない程、アイリーンの言葉は唐突過ぎた。
「エット……?」
「無理二引き剥がせバ、今ハ釦の掛け違いで済んでいても会えない間二美化ガ進んデ本気ノ恋二なるカモしれマセン。
けれど今までのようにこの店に通ッテいては私モ少々不安デス」
「それで養子、ですか?」
呆気にとられながらも屋外が合いの手を入れればアイリーンは毅然と頷く。
「応援シタイという感情ヲ、私ハ一種の保護欲ト認識シマシタ。家族トシテ、親トシテ、子供の成長を見届けるノハ自然ナ流レデス」
「……貴方ハ……それでイイのですカ? 泥棒猫を招き入レル結果二なるカモしれないのに」
「貴方ノ夢ヲ聞イテ、その心配ハないと判断シマシタ。もし見込み違いダッタラ、その時ハ女同士デどちらガ歓心を得られるか勝負デス。
店の性質上、そういう経験ガあっても損ニハならないデショウ?」
「いやはや、女性は強いねぇ……」
「私たちが横やり入れる必要、なかったんじゃないか?」
シャルルの感心したような声にギィが胡乱げな言葉で返事をする。
「イイエ。皆サンにサキサンが本音ヲ打ち明けル今という時間ガなかったら、泥沼二なっていたと思いマス」
「コリン殿はそれでいいのですか?」
「本当二保護欲ナラ……養子二なってクレレバ私モ冷静二なれるト思ウ。アイリーンハやはり私ニハもったいないくらいいい妻ダ」
「ゴブ姐さん的にはどうなのかな。この結末」
「本人たちガいいなら試してみるのもいいんじゃないカシラ。
貴方タチが上手ク三人ノ心ノ内ヲ吐露サセタ結果ネ。
中立じゃないトこの結末ニハならなかったト思うワ」
「……そうは言われてもこっちは結末が予想外過ぎてついていけないんだよね」
ビシュタが頬をかきながらぼやく。
「まァ丸く収マッテよかった、ト考えマショ。
前向き二捉えることが楽シク生きるコツよ」
三人の門出に乾杯しましょうか、とゴブ姐さんが酒杯を取り出す。
未成年者にはノンアルコールカクテルという名のミックスジュース類が振舞われ、ゴブ姐さんの手料理でハンターたちはもてなされたのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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MVP一覧
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
【相談卓】 常胎ギィ(ka2852) 人間(クリムゾンウェスト)|12才|女性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/05/18 21:49:58 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/18 21:37:29 |