ゲスト
(ka0000)
お母さんを探せ!
マスター:秋月雅哉

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~15人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/05/20 09:00
- 完成日
- 2015/05/21 00:47
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●迷子がハンターオフィスにやってきた
その女の子は初めてみる帝国の景色に目を輝かせていた。
視線はあちらへふらり、こちらへふらりと一定の場所に留まらない。
何に対しても興味を持つ年頃なのも今回は悪かった。
「お母さん、みてみて、あれ凄い! ……お母さん?」
返事が返ってこなかったことを訝しんでつないでいたはずの手の先を辿る。
先を辿るまでもなかった、つないでいたはずの手はいつの間にか外れてしまっていた。
人並みの中、少女はたった一人になってしまった。
「で、この子がその迷子なんだけど」
砂糖をまぶしたような淡い金髪に蒼い瞳。尖った耳はエルフの地を引いていると何より雄弁に語る。
ルカ・シュバルツエンド(kz0073)は泣きそうな顔で母親を呼んでいたからとりあえず保護したんだ、と若干疲れた調子で言葉をつづけた。
「自警団に任せようかと思ったんだけどね、なんか向こうの方でも取り込み中らしくてオフィスが取り持ってくれると助かる、と言われてしまってね。
一人じゃ手が足りないし、帝国へは一週間の滞在の予定らしいから早く探し出さないといけないと思って君たちに声をかけたわけ。
迷子だって事は自覚してるんだけど……どうも珍しいものを見ると突っ走っちゃう性格みたいだから、この子のお守り役が何人かいた方がいいんじゃないかな。
あとは母親を探すメンバーね。どっちがいいかは集まった人たちに任せるよ。
僕も要請があれば手伝うけど、要請がない場合はこっちで情報収集に回ろうかな」
母親の特徴は月の光のような淡い金色の髪に夜色の瞳、服装はごく一般的なドレス。
はぐれて数日が経っているため着替えている可能性の方が高いので服装はあまりあてにしない方がいいだろう。
「お母さんの性格ってどんな感じ?」
内面は顔に出るからか、ルカがエルフの少女に尋ねると「ふわふわした感じ!」と何ともイメージしにくい答えが返ってきた。
「……まぁ、これも人助けだと思って力を貸してよ。懐かれちゃってね、他の仕事がたまり始めてるんだ。……痛い痛い! 髪の毛引っ張らないでくれないかな……っ」
子供をあやすために人力の馬の真似をしながらルカはため息をついて協力を要請したのだった。
その女の子は初めてみる帝国の景色に目を輝かせていた。
視線はあちらへふらり、こちらへふらりと一定の場所に留まらない。
何に対しても興味を持つ年頃なのも今回は悪かった。
「お母さん、みてみて、あれ凄い! ……お母さん?」
返事が返ってこなかったことを訝しんでつないでいたはずの手の先を辿る。
先を辿るまでもなかった、つないでいたはずの手はいつの間にか外れてしまっていた。
人並みの中、少女はたった一人になってしまった。
「で、この子がその迷子なんだけど」
砂糖をまぶしたような淡い金髪に蒼い瞳。尖った耳はエルフの地を引いていると何より雄弁に語る。
ルカ・シュバルツエンド(kz0073)は泣きそうな顔で母親を呼んでいたからとりあえず保護したんだ、と若干疲れた調子で言葉をつづけた。
「自警団に任せようかと思ったんだけどね、なんか向こうの方でも取り込み中らしくてオフィスが取り持ってくれると助かる、と言われてしまってね。
一人じゃ手が足りないし、帝国へは一週間の滞在の予定らしいから早く探し出さないといけないと思って君たちに声をかけたわけ。
迷子だって事は自覚してるんだけど……どうも珍しいものを見ると突っ走っちゃう性格みたいだから、この子のお守り役が何人かいた方がいいんじゃないかな。
あとは母親を探すメンバーね。どっちがいいかは集まった人たちに任せるよ。
僕も要請があれば手伝うけど、要請がない場合はこっちで情報収集に回ろうかな」
母親の特徴は月の光のような淡い金色の髪に夜色の瞳、服装はごく一般的なドレス。
はぐれて数日が経っているため着替えている可能性の方が高いので服装はあまりあてにしない方がいいだろう。
「お母さんの性格ってどんな感じ?」
内面は顔に出るからか、ルカがエルフの少女に尋ねると「ふわふわした感じ!」と何ともイメージしにくい答えが返ってきた。
「……まぁ、これも人助けだと思って力を貸してよ。懐かれちゃってね、他の仕事がたまり始めてるんだ。……痛い痛い! 髪の毛引っ張らないでくれないかな……っ」
子供をあやすために人力の馬の真似をしながらルカはため息をついて協力を要請したのだった。
リプレイ本文
●おっとりお母さんとじゃじゃ馬姫
保護した当初は泣き出しそうな顔で母親を呼んでいたというのが信じられないくらい、その迷子は元気いっぱいだった。
具体的にはハンターと合流するために連れてきた仮の保護者であるルカ・シュバルツエンド(kz0073)の白衣と上着を引っ張って、ルカを窒息させかける程度には。
「いやはや、参ったよ。子供って結構力強いんだね。身近にいないから知らなかった。……別に知らなくてもよかったけど」
むしろ知りたくなかったかもしれないとでも言いたげなルカの頭髪は、なんだかいつもより白く見える。
これが元々濃い色の髪だったら疲労で色が抜けて若白髪が出来ていたかもしれない。
それだけの破壊力を有するエルフの少女は、見た目だけなら文句なしにかわいらしかった。
「この齢で母親とはぐれるのは何とも心細い事でございましょう……と、思ったのですが……いやはや、なんとも元気な子エルフ殿でございまする。
寂しさが訪れぬうちに母上殿を見つけてやらねばなりませぬな」
「寂しさを乗り越えた結果のハイテンションらしいけどね。おかげで服が伸びて何着か駄目になった」
弥栄(ka4950)の微笑ましげな視線に子供エルフにまとわりつかれているルカはげんなりと肩をすくめる。
「子エルフどの、じゃないよ。リィンベルって名前が、ちゃんとあるんだから! 皆はベルって呼ぶよ」
子供エルフもといリィンベルが唇を尖らせて抗議する。どうやら子エルフ殿、という呼びかけが御不満らしい。
「ではリィンベル殿。母上殿の名前や性格、外見についてもう少し詳しくお話をお聞かせ願えますかな?」
「えっとね、名前はアイラ。月の光みたいな色の髪の毛を結ってて、性格はふわふわした感じって皆に言われてるよ。
のんびりしてて優しいの。でも本気で怒ると結構怖い。本気で怒ったところ、あんまりみたことないけど。
いつもにこにこしてるから人当たりがいいねって近所のおばさんたちが褒めてた」
元気にふるまっていても母親と金輪際会えなくなるのは困るのだろう、リィンベルは思い出せる範囲で客観的な母親像を挙げていく。
「あとね、目の色は夜空みたいな、深い色なの。黒でも藍色でもなくて……うーん……夜空みたいな色!」
上手いたとえが思いつかなかったらしく最終的にそこに戻った。
「有難うございます、リィンベル殿。人ごみで私めどもとはぐれましても問題ですし、肩車などいかがですかな?」
「高いところ、好き!」
ルカから離れて弥栄に向かうリィンベルを肩車するときゃっきゃと嬉しそうな声を上げる少女。
そこまではいいのだが髪の毛を引っ張って馬扱いである。
「……抜けない程度にお願いしますぞ。まだてっぺん禿にはなりたくありませぬ故」
「はーい」
返事はいいがぐいぐい髪を引っ張るのは止めないリィンベルに「菓子はいかがですかな?」と髪の毛を案じた弥栄が声をかけた。
「ただしこの菓子、味が皆目見当つきませぬ。
ははは、私自身西方に来たばかりであります故、リィンベル殿、一緒に街の様子を見て回って楽しみましょうぞ」
「お菓子! 欲しい!」
味が分からないという点に興味を惹かれたらしくリィンベルがパッと髪から手を離す。
「再発防止、って魔法に何かいいのありませんか?」
下手すると迷子の二重奏になる、と聞いていた屋外(ka3530)が呟きながらリィンベルと一緒に行動するメンバーにガトーショコラキットを差し出す。
そういう魔法があったらあちこちで相当数の需要がありそうだが、残念ながら、おそらくないだろう。
「もし探索にリィンベル殿が飽きてしまって帰りたがったりした時はこのキットで暇つぶしをさせてください。
最悪我々だけで探しますので。あぁ、ルカ殿は、リィンベル殿の料理のご様子を見ててください。
決して、決して材料の用意を手伝ってはいけません」
「僕は料理の材料自体は普通の物を使っているけれど、まぁ親御さんのもとに帰すときに気絶してたら面倒だしね。手は貸さないよ」
他にもクマノミのぬいぐるみをリィンベルに渡す屋外。
「シェパードに匂いを覚えさせたいのですが母上殿の匂いのついていそうなものはありますかな?」
屋外に聞かれお菓子を頬張りながらクマノミのぬいぐるみを振り回していた少女は少し考え込むとハンカチを取り出した。
「これ、返し忘れたお母さんのハンカチ」
微かに香水と化粧品の匂いが残っているそのハンカチをシェパードに嗅がせて捜索の手掛かりに。
胴体にトランシーバーを一つずつ、起動状態でつけて解き放つ。
「まずは帝国の広場に行ってみますね。確かそこではぐれたのでしたね?
少女を探している女性がいないか聞きこんでみます。
情報が得られたらルカ殿にお渡ししたトランシーバーに連絡しますので」
そう言って屋外が一礼して帝国の広場へ向かって歩き出す。
「随分と元気だけど……迷子かい……どんな親だったとしても親とはぐれるのはつらいものさ。優しい親なら尚更ね。探してやりたいね」
ビシュタ・ベリー(ka4446)はジプシーの芸人として楽器演奏や占いや剣舞で人を集めて見物料がわりに手掛かりがないか聞いてみる、とまずは表通りへ。
本当は熊回しがしたかった、とは本人談だが熊がいないのでそれは今回は断念。
リィンベルが興味を示して行きたがっては大変なので表通りに行くとだけ告げたが、そちらで情報が得られなかった場合は裏通りで後ろ暗い情報収集を行うつもりだった。
相手の弱点を突き、ばらされたくなければ協力するよう脅すという子供の教育にはよろしくなさげな、アングラの情報収集である。
あとはスラムほど酷くはない裏通りなどで酒をおごったり小銭を握らせたり色気を見せたり。
こちらも子供に見せるものではないがリィンベルを連れて歩くメンバーは治安のいい場所を歩くだろうから見られる心配はないだろう。
「それじゃ、あとで」
ビシュタもトランシーバーを使える状態にしたうえで集団から離れていく。
「跳ねっ返りの娘といってもやはり子供だ。
母親といて初めて安息を得る、子供とはそういうものだろう?
旅行で訪れていたようだし早く探してやらねばならんな。
イヤサカ、子守は任せたぞ。責任は私が持つ」
そういうオルドレイル(ka0621)はビシュタ同様芸を披露しながら、こちらは親のことを芸の合間に触れ回りながら聞く戦法だ。
剣舞を三節梶用にアレンジしたものと華やかな衣装、ギブアンドテイク用にブランデーとチーズを持って適当な酒場か広場辺りを情報の収集場所に。
彼女はトランシーバーではなく魔導短伝話を連絡の手段とするという。
「私は帝国出身だからこの辺のことは大体わかっているつもりだが……はて、どこにいることやら。
できれば日の出ているうちに見つけてやりたいものだな」
残ったのはイヤサカとルカ、迷子の当事者であるリィンベルと母とはぐれたリィンベルに、母親を探しながら少し旅をしてはハンターとして活動していたため自分と少し彼女を重ねて見ている金刀比良 十六那(ka1841)、そして迷子防止の実質的最終手段として背中に背負うタイプのリードをつけ、子供か女性が持った方が犯罪に見られないだろう、と持ち手に立候補したハーレキン(ka3214)だ。
「迷子の子供のお母さんを探すということで……向こうも探しているでしょうし、おっとりした性格の方なら、人手の多いところを探すと言っても治安の悪い酒場や夜町にはあまりいないでしょう。優先順序としては喫茶店や公園などの比較的ライトな、人の集まる場所でどうでしょうか」
ハーレキンの提案に十六那が頷く。
「子供連れで治安の悪い場所に行くのは避けた方がいいでしょうし、賛成。
リィンベルちゃん、疲れたり、飽きたら手を繋いで一緒に歩こうね」
自分の母親を見つけるよりは簡単だから、頑張れば絶対に見つけられるからと十六那は気負っているようだ。
「途中、食べたい物とか、そういうのがあったら、す、少しくらいなら寄り道してもいいかしら……!
や、別に甘くないわよ? 甘くないからね?」
リィンベルが本当は不安がっているのではないかという心配からか、自分の心細い経験を思い出してか甘やかしたくなるらしく。
こうしてそれぞれがアイラお母さん探しのために動き始めた。
リィンベルがいる関係上、一番人数が多い首班はハーレキンが手品や舞踊で人を集める中、弥栄と十六那がそれらしい人がいないかを探し、ルカがリィンベルが脱走しないかを見張り、リィンベル本人にも母親を探してもらう。
きらびやかで人目を引く衣装で踊ったり動いたり、マリオネットを動かしたり手品でお菓子を出して子供に配るハーレキン。
曰く、動きがあり、短時間でネタの内容が分かったり、プレゼントがもらえたり、音を出したりするのは街頭芸人の定番のやり口なのだそうだ。
ハーレキン自身は見世物をすることに集中し、そこから情報を引き出すのは仲間に任せる。
それが一通り済んでも芳しくない時はリィンベルに特徴を聞きながら母親の似顔絵を描いて心当たりがないかを道行く人に尋ねる作業が始まった。
細かい気づかいをみせる十六那と、自分を肩車しつつおおらかに接する弥栄にリィンベルも懐いたようで一行は怪しまれたり職務質問を受けたりすることなく母親探しに集中することができた。
これがリィンベルが心細さや他の理由で泣いたりぐずったりしていたら流石にこの子は迷子で母親を探している、といっても周りの視線が気になるところだっただろうから、元気いっぱいのエルフっ子のはしゃぎっぷりが更に迷子になる危険を除けばプラスになった。
「月の光のような淡い金色の髪に夜色の瞳の美麗な女性を探している、この辺りでは見ない顔だろうから知っている御仁がいるなら教えてくれ」
オルドレイルが広場を根城にする無宿人にチーズとブランデーを振舞いながら尋ねるとこの間からあちこちの広場で見かけるエルフの女性のことか、と手ごたえのある返事が返ってきた。
「いつも通りに回っているなら今頃は此処から少し離れた東の広場にいると思うよ」
「そうか。協力感謝する」
「女房と子供と生き別れた身としては迷子になった我が子を探す母親ってのは見捨てておけないもんさ。
ブランデーとチーズの礼もあるしな」
無宿人に礼を言ったあとバラバラに行動しているメンバーたちに手掛かりを伝える。
一番近い場所にいる屋外が真っ先にたどり着けるであろうことから、母親を見つけたら足止めするように頼み、捜索隊は東にある広場に向けて集結していった。
それまでリィンベルを肩車しながら彼女の記を引くものを時々一緒に見て回っては声をかけたりしながら捜索していた弥栄がまた自分の髪の毛を弄り始めた少女に声をかける。
「母上殿らしき方の目撃情報がありましたぞ。もう少しで再会できるやもしれませぬ。もう暫し我慢してくだされ」
「お母さん、見つかりそうなの?」
それまで元気いっぱいに肩の上ではしゃぎまわり、弥栄が落とさないように細心の注意を払う羽目になっていた少女がぴたりと動きを止める。
目に涙がにじんだのは怒られることを恐れているからではなく、それまで忘れようとしていた母親とはぐれた寂しさが一気に湧き出したためだろう。
「大丈夫だよ、リィンベルちゃん。きっと会えるからね」
十六那が優しく声をかけ、小さな手を握ってあやすとリィンベルは何度もコクコクとうなずく。
そこにビシュタから連絡が入った。
屋外が見つけたエルフの女性がリィンベルの母親で間違いないことと、ナンパされていたのを二人で追い払ったという知らせだった。
全員が広場に到着し、先に着いていた屋外とビシュタ、オルドレイルを目印に母親エルフであるアイラのもとへ。
「娘が御迷惑をおかけして……。慣れない土地柄、何処を探せばいいかもわからず往生しておりました。
なんとお礼を申し上げたらいいか……」
「再会できて何よりだよ。今度ははぐれないように気を付けて」
ビシュタの言葉にアイラは何度も何度もうなずく。
弥栄がリィンベルを降ろすとリィンベルは久しぶりに再会できた母親にギュッとしがみついた。
「許可なくリィンベル殿に菓子類を食べさせてしまいました。お許しくだされ」
「お詫びするのはこちらの方です。お手間を取らせてしまった上にお菓子まで……リィンベル、もう一度ちゃんとお礼を言いなさい」
「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「もう迷子にならないようにね。お母さんも、気を付けてくださいね。街の中心部は人が多いですから……」
十六那の言葉にアイラは再び深くお辞儀をすると娘としっかり手を繋いで辞去の言葉を口にする。
笑顔で去っていく親子を見送りながら、自分もいつか再会できるだろうか、と手掛かりの少ない母親のことを十六那は思い出していた。
「見つかってよかったですね。離れ離れになってしまうのは悲しい事ですから」
「そうだな。元気にふるまっていた姿が嘘とまではいわないが、やはり心細かったのだろうな」
ハーレキンとオルドレイルがそんな会話を漏らし、迷子騒動は無事解決したのだった。
保護した当初は泣き出しそうな顔で母親を呼んでいたというのが信じられないくらい、その迷子は元気いっぱいだった。
具体的にはハンターと合流するために連れてきた仮の保護者であるルカ・シュバルツエンド(kz0073)の白衣と上着を引っ張って、ルカを窒息させかける程度には。
「いやはや、参ったよ。子供って結構力強いんだね。身近にいないから知らなかった。……別に知らなくてもよかったけど」
むしろ知りたくなかったかもしれないとでも言いたげなルカの頭髪は、なんだかいつもより白く見える。
これが元々濃い色の髪だったら疲労で色が抜けて若白髪が出来ていたかもしれない。
それだけの破壊力を有するエルフの少女は、見た目だけなら文句なしにかわいらしかった。
「この齢で母親とはぐれるのは何とも心細い事でございましょう……と、思ったのですが……いやはや、なんとも元気な子エルフ殿でございまする。
寂しさが訪れぬうちに母上殿を見つけてやらねばなりませぬな」
「寂しさを乗り越えた結果のハイテンションらしいけどね。おかげで服が伸びて何着か駄目になった」
弥栄(ka4950)の微笑ましげな視線に子供エルフにまとわりつかれているルカはげんなりと肩をすくめる。
「子エルフどの、じゃないよ。リィンベルって名前が、ちゃんとあるんだから! 皆はベルって呼ぶよ」
子供エルフもといリィンベルが唇を尖らせて抗議する。どうやら子エルフ殿、という呼びかけが御不満らしい。
「ではリィンベル殿。母上殿の名前や性格、外見についてもう少し詳しくお話をお聞かせ願えますかな?」
「えっとね、名前はアイラ。月の光みたいな色の髪の毛を結ってて、性格はふわふわした感じって皆に言われてるよ。
のんびりしてて優しいの。でも本気で怒ると結構怖い。本気で怒ったところ、あんまりみたことないけど。
いつもにこにこしてるから人当たりがいいねって近所のおばさんたちが褒めてた」
元気にふるまっていても母親と金輪際会えなくなるのは困るのだろう、リィンベルは思い出せる範囲で客観的な母親像を挙げていく。
「あとね、目の色は夜空みたいな、深い色なの。黒でも藍色でもなくて……うーん……夜空みたいな色!」
上手いたとえが思いつかなかったらしく最終的にそこに戻った。
「有難うございます、リィンベル殿。人ごみで私めどもとはぐれましても問題ですし、肩車などいかがですかな?」
「高いところ、好き!」
ルカから離れて弥栄に向かうリィンベルを肩車するときゃっきゃと嬉しそうな声を上げる少女。
そこまではいいのだが髪の毛を引っ張って馬扱いである。
「……抜けない程度にお願いしますぞ。まだてっぺん禿にはなりたくありませぬ故」
「はーい」
返事はいいがぐいぐい髪を引っ張るのは止めないリィンベルに「菓子はいかがですかな?」と髪の毛を案じた弥栄が声をかけた。
「ただしこの菓子、味が皆目見当つきませぬ。
ははは、私自身西方に来たばかりであります故、リィンベル殿、一緒に街の様子を見て回って楽しみましょうぞ」
「お菓子! 欲しい!」
味が分からないという点に興味を惹かれたらしくリィンベルがパッと髪から手を離す。
「再発防止、って魔法に何かいいのありませんか?」
下手すると迷子の二重奏になる、と聞いていた屋外(ka3530)が呟きながらリィンベルと一緒に行動するメンバーにガトーショコラキットを差し出す。
そういう魔法があったらあちこちで相当数の需要がありそうだが、残念ながら、おそらくないだろう。
「もし探索にリィンベル殿が飽きてしまって帰りたがったりした時はこのキットで暇つぶしをさせてください。
最悪我々だけで探しますので。あぁ、ルカ殿は、リィンベル殿の料理のご様子を見ててください。
決して、決して材料の用意を手伝ってはいけません」
「僕は料理の材料自体は普通の物を使っているけれど、まぁ親御さんのもとに帰すときに気絶してたら面倒だしね。手は貸さないよ」
他にもクマノミのぬいぐるみをリィンベルに渡す屋外。
「シェパードに匂いを覚えさせたいのですが母上殿の匂いのついていそうなものはありますかな?」
屋外に聞かれお菓子を頬張りながらクマノミのぬいぐるみを振り回していた少女は少し考え込むとハンカチを取り出した。
「これ、返し忘れたお母さんのハンカチ」
微かに香水と化粧品の匂いが残っているそのハンカチをシェパードに嗅がせて捜索の手掛かりに。
胴体にトランシーバーを一つずつ、起動状態でつけて解き放つ。
「まずは帝国の広場に行ってみますね。確かそこではぐれたのでしたね?
少女を探している女性がいないか聞きこんでみます。
情報が得られたらルカ殿にお渡ししたトランシーバーに連絡しますので」
そう言って屋外が一礼して帝国の広場へ向かって歩き出す。
「随分と元気だけど……迷子かい……どんな親だったとしても親とはぐれるのはつらいものさ。優しい親なら尚更ね。探してやりたいね」
ビシュタ・ベリー(ka4446)はジプシーの芸人として楽器演奏や占いや剣舞で人を集めて見物料がわりに手掛かりがないか聞いてみる、とまずは表通りへ。
本当は熊回しがしたかった、とは本人談だが熊がいないのでそれは今回は断念。
リィンベルが興味を示して行きたがっては大変なので表通りに行くとだけ告げたが、そちらで情報が得られなかった場合は裏通りで後ろ暗い情報収集を行うつもりだった。
相手の弱点を突き、ばらされたくなければ協力するよう脅すという子供の教育にはよろしくなさげな、アングラの情報収集である。
あとはスラムほど酷くはない裏通りなどで酒をおごったり小銭を握らせたり色気を見せたり。
こちらも子供に見せるものではないがリィンベルを連れて歩くメンバーは治安のいい場所を歩くだろうから見られる心配はないだろう。
「それじゃ、あとで」
ビシュタもトランシーバーを使える状態にしたうえで集団から離れていく。
「跳ねっ返りの娘といってもやはり子供だ。
母親といて初めて安息を得る、子供とはそういうものだろう?
旅行で訪れていたようだし早く探してやらねばならんな。
イヤサカ、子守は任せたぞ。責任は私が持つ」
そういうオルドレイル(ka0621)はビシュタ同様芸を披露しながら、こちらは親のことを芸の合間に触れ回りながら聞く戦法だ。
剣舞を三節梶用にアレンジしたものと華やかな衣装、ギブアンドテイク用にブランデーとチーズを持って適当な酒場か広場辺りを情報の収集場所に。
彼女はトランシーバーではなく魔導短伝話を連絡の手段とするという。
「私は帝国出身だからこの辺のことは大体わかっているつもりだが……はて、どこにいることやら。
できれば日の出ているうちに見つけてやりたいものだな」
残ったのはイヤサカとルカ、迷子の当事者であるリィンベルと母とはぐれたリィンベルに、母親を探しながら少し旅をしてはハンターとして活動していたため自分と少し彼女を重ねて見ている金刀比良 十六那(ka1841)、そして迷子防止の実質的最終手段として背中に背負うタイプのリードをつけ、子供か女性が持った方が犯罪に見られないだろう、と持ち手に立候補したハーレキン(ka3214)だ。
「迷子の子供のお母さんを探すということで……向こうも探しているでしょうし、おっとりした性格の方なら、人手の多いところを探すと言っても治安の悪い酒場や夜町にはあまりいないでしょう。優先順序としては喫茶店や公園などの比較的ライトな、人の集まる場所でどうでしょうか」
ハーレキンの提案に十六那が頷く。
「子供連れで治安の悪い場所に行くのは避けた方がいいでしょうし、賛成。
リィンベルちゃん、疲れたり、飽きたら手を繋いで一緒に歩こうね」
自分の母親を見つけるよりは簡単だから、頑張れば絶対に見つけられるからと十六那は気負っているようだ。
「途中、食べたい物とか、そういうのがあったら、す、少しくらいなら寄り道してもいいかしら……!
や、別に甘くないわよ? 甘くないからね?」
リィンベルが本当は不安がっているのではないかという心配からか、自分の心細い経験を思い出してか甘やかしたくなるらしく。
こうしてそれぞれがアイラお母さん探しのために動き始めた。
リィンベルがいる関係上、一番人数が多い首班はハーレキンが手品や舞踊で人を集める中、弥栄と十六那がそれらしい人がいないかを探し、ルカがリィンベルが脱走しないかを見張り、リィンベル本人にも母親を探してもらう。
きらびやかで人目を引く衣装で踊ったり動いたり、マリオネットを動かしたり手品でお菓子を出して子供に配るハーレキン。
曰く、動きがあり、短時間でネタの内容が分かったり、プレゼントがもらえたり、音を出したりするのは街頭芸人の定番のやり口なのだそうだ。
ハーレキン自身は見世物をすることに集中し、そこから情報を引き出すのは仲間に任せる。
それが一通り済んでも芳しくない時はリィンベルに特徴を聞きながら母親の似顔絵を描いて心当たりがないかを道行く人に尋ねる作業が始まった。
細かい気づかいをみせる十六那と、自分を肩車しつつおおらかに接する弥栄にリィンベルも懐いたようで一行は怪しまれたり職務質問を受けたりすることなく母親探しに集中することができた。
これがリィンベルが心細さや他の理由で泣いたりぐずったりしていたら流石にこの子は迷子で母親を探している、といっても周りの視線が気になるところだっただろうから、元気いっぱいのエルフっ子のはしゃぎっぷりが更に迷子になる危険を除けばプラスになった。
「月の光のような淡い金色の髪に夜色の瞳の美麗な女性を探している、この辺りでは見ない顔だろうから知っている御仁がいるなら教えてくれ」
オルドレイルが広場を根城にする無宿人にチーズとブランデーを振舞いながら尋ねるとこの間からあちこちの広場で見かけるエルフの女性のことか、と手ごたえのある返事が返ってきた。
「いつも通りに回っているなら今頃は此処から少し離れた東の広場にいると思うよ」
「そうか。協力感謝する」
「女房と子供と生き別れた身としては迷子になった我が子を探す母親ってのは見捨てておけないもんさ。
ブランデーとチーズの礼もあるしな」
無宿人に礼を言ったあとバラバラに行動しているメンバーたちに手掛かりを伝える。
一番近い場所にいる屋外が真っ先にたどり着けるであろうことから、母親を見つけたら足止めするように頼み、捜索隊は東にある広場に向けて集結していった。
それまでリィンベルを肩車しながら彼女の記を引くものを時々一緒に見て回っては声をかけたりしながら捜索していた弥栄がまた自分の髪の毛を弄り始めた少女に声をかける。
「母上殿らしき方の目撃情報がありましたぞ。もう少しで再会できるやもしれませぬ。もう暫し我慢してくだされ」
「お母さん、見つかりそうなの?」
それまで元気いっぱいに肩の上ではしゃぎまわり、弥栄が落とさないように細心の注意を払う羽目になっていた少女がぴたりと動きを止める。
目に涙がにじんだのは怒られることを恐れているからではなく、それまで忘れようとしていた母親とはぐれた寂しさが一気に湧き出したためだろう。
「大丈夫だよ、リィンベルちゃん。きっと会えるからね」
十六那が優しく声をかけ、小さな手を握ってあやすとリィンベルは何度もコクコクとうなずく。
そこにビシュタから連絡が入った。
屋外が見つけたエルフの女性がリィンベルの母親で間違いないことと、ナンパされていたのを二人で追い払ったという知らせだった。
全員が広場に到着し、先に着いていた屋外とビシュタ、オルドレイルを目印に母親エルフであるアイラのもとへ。
「娘が御迷惑をおかけして……。慣れない土地柄、何処を探せばいいかもわからず往生しておりました。
なんとお礼を申し上げたらいいか……」
「再会できて何よりだよ。今度ははぐれないように気を付けて」
ビシュタの言葉にアイラは何度も何度もうなずく。
弥栄がリィンベルを降ろすとリィンベルは久しぶりに再会できた母親にギュッとしがみついた。
「許可なくリィンベル殿に菓子類を食べさせてしまいました。お許しくだされ」
「お詫びするのはこちらの方です。お手間を取らせてしまった上にお菓子まで……リィンベル、もう一度ちゃんとお礼を言いなさい」
「ありがとう、お兄ちゃん、お姉ちゃん」
「もう迷子にならないようにね。お母さんも、気を付けてくださいね。街の中心部は人が多いですから……」
十六那の言葉にアイラは再び深くお辞儀をすると娘としっかり手を繋いで辞去の言葉を口にする。
笑顔で去っていく親子を見送りながら、自分もいつか再会できるだろうか、と手掛かりの少ない母親のことを十六那は思い出していた。
「見つかってよかったですね。離れ離れになってしまうのは悲しい事ですから」
「そうだな。元気にふるまっていた姿が嘘とまではいわないが、やはり心細かったのだろうな」
ハーレキンとオルドレイルがそんな会話を漏らし、迷子騒動は無事解決したのだった。
依頼結果
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捜索相談。 イザヤ・K・フィルデント(ka1841) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/05/20 02:34:52 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/18 02:26:40 |