潮干狩りと海の幸

マスター:葉槻

シナリオ形態
イベント
難易度
やや易しい
オプション
参加費
500
参加制限
-
参加人数
1~50人
サポート
0~0人
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/05/18 19:00
完成日
2015/05/25 22:01

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●シーズンの到来
 珍妙な蝉っぽい何かの雑魔が居着いた事により、深刻な睡眠不足と騒音によるイライラに悩まされていた港町があった。
 しかし先月末、見事ハンター達がその脅威を撃退してくれたお陰で、住民の健康被害も落ち着き、漸く通常の生活が戻ってきていた。
「そろそろアサリ漁を解禁にしようと思うんだが、どうだね?」
 町の重役会議では、一つの相談が行われていた。
 船着き場から南へ下った所には砂浜が広がり、そこはこの時期頃から6月末ぐらいまでの二ヶ月間のみ潮干狩り漁に一般開放していた。
 それはこの町にとって大切な収入源の一つであり、名物の一つでもあった。
「そうだな、先日見てみたが、ほどよい大きさにアサリ達も育っていた。むしろ去年より大きいかも知れない」
「それはいい。あんな訳の分からない雑魔のお陰でアサリにまで被害が出ていたらどうしようかと思っていたんだ」
 重役達がほっとしたように、笑い合う。
「そう。あの蝉っぽい雑魔のお陰でこの町は危うく死の町になっていたかもしれなかったが、それをハンターの方々が退治して下さったお陰で、今の平和がある。……そこで、解禁初日にはハンターの皆さんをご招待しては、と思うのだが、どうだろうか?」
 町長の申し出に、おぉ、と賛同の声が上がる。
「そうだな。ついでに宣伝して貰えると、今後なお、集客が望めるかもしれないしな。よし、ハンターオフィスに連絡してこよう」
 反対意見のない提案に、広報担当の男が立ち上がった。

 ――かくして、ハンターオフィスに一枚のチラシが貼られることとなった。

●おいでませ潮干狩り!
「……ということで、前回の依頼完遂のお礼を込めて、町がハンターの皆さんを潮干狩りに招待して下さるそうです」
 説明係の女性は、チラシを見て質問してきた若いハンターにざっくりと説明をする。
「普段ですと、料金が発生するそうですが、この日に限って、ハンターであれば無料招待だそうです」
 彼女はチラシを見て、注意事項を羅列した。
 ・潮干狩りの道具(貝採り器具やバケツ)などは貸与可能
 ・服装は水に濡れても良いものを推奨
 ・干潮からの前後2時間(合計4時間)が潮干狩り可能時間
 ・捕った貝をその場で調理し、食べることも可能
 ・2cmより小さい貝は海に帰す
「以上の事が守られていれば、楽しめるはずです。……あぁ、気になる方は日焼け止めとか熱中症予防とかは各自でされた方がいいかもしれませんね」
 泳ぐにはまだ水温が冷たい為許可が下りていないが、潮干狩りをしなくとも、砂浜で遊んだり、調理済みの海産物に舌鼓を打つなどしてもいいだろう。
「折角のご招待ですから、くれぐれも常識ある範囲内で楽しんで来て下さいね」
 彼女はそう言うと珍しく「いってらっしゃいませ」と笑顔で送り出したのだった。

リプレイ本文

●10時
「潮干狩り道具、貸して下さい!」
「やぁ! ようこそおいで下さいました、ハンターの皆様。今日は時間ギリギリまで是非楽しんで行って下さい!」
 笑顔の町長から潮干狩りセットを受け取った【貝細工】のクレール(ka0586)は張り切って水際まで行くと、えぃ! と熊手型シャベルを下ろした。
「家族のために、気合い入れてたくさん取るわよ~!」
 横から聞こえた声にちらりと目をやると、腕まくりをして服の汚れも気にせずに掘り進めていく辰川 桜子(ka1027)と目が合った。
 お互いソロで来ていたのもあり、今日は思いっきり海で遊ぼうと意気投合してドンドンと貝を掘り進めていく。
「ねぇ? この貝使ってネックレスとか作って見ない? 私道具持ってきたの」
 食用以外にも、面白い形や綺麗な形の貝が取れたのでクレールがそう提案すると、桜子も喜んで頷いた。
 綺麗な貝を削ったり穴を開けたりと加工し、模様を描いていく。
「図工みたいで楽しいわね♪」
「図工?」
「あー、学校でね、こういう授業があったのよ」
 クリムゾンウェストとリアルブルーの違いを語り合いながら、2人は次々にネックレスを量産したのだった。

 Hollow(ka4450)は前回この町に来た時に会った漁師と再会し、穏やかに談笑を交わしていた。
「……あの時は散々な想いをしましたが、このような静かな平和な海に戻って何よりです。苦労して、退治した甲斐があったというものです」
「本当にあんた達のお陰だ。今日はゆっくり楽しんで行ってくれ」
 漁師に紹介して貰った店を尋ね、彼の紹介だと女将に告げると、まだ何も注文していないのにスープがテーブルの上に置かれた。
「うちの秘伝の魚介スープだ。あの蝉退治してくれたハンターさんなんだろ? 普段は常連にしか出してない逸品だよ、食べてみておくれ」
 色味はコンソメスープのようだが、一口啜るとその凝縮されたうま味と深い味わいに思わず笑みが溢れた。
「これは……素晴らしいですね」
「何か苦手なモノはあるかい? 任せて貰えれば特製コースの……」
「是非それをいただけませんか?」
 まだまだ色気より食い気のお年頃のHollowは、この後、女将特製絶品コースをガッツリ堪能したのだった。

 リシャーナ(ka1655)、シャルア・レイセンファード(ka4359)、秋桜(ka4378)、ドラグニル=ヴァルツァー(ka3138)の4人は、貸出セットをそれぞれ受け取って海と対面していた。
「皆で潮干狩りなのですー♪」
 シャルアの元気よくバケツを振り上げると、中に入れたタオルがふさぁっと風に舞う。
「ふわぅ!?」
 舞ったタオルはドラグニルが確保。
「わ、ヴァルツァーさんありがとうございます」
 ん。と頷きつつ、シャルアに手渡す。
「潮干狩り、こちらの世界でもあったとは……」
 少し懐かしい気持ちになりながら、麦わら帽子にTシャツ姿(なおその下は白のビキニだ!)で日焼け止め対策ばっちりの秋桜が、アイドルらしく右足先をちょんちょんと海水につける。その左脚にカニがかさかさっと乗ってきて「ぎゃーっ!?」と凄い悲鳴を上げて飛び上がった。皆の元まで逃げ戻る途中、さらに砂に足をとられて転びそうになったのを、リシャーナがさり気なく支えて事なきを得た。
「よかった……潮干狩りをする前に怪我しちゃだめよ?」
「うん、ありがとう、リシャーナさん」
 微笑む秋桜にリシャーナも笑みを返す。
「ジジイには重労働だわ……」
 ドラグニルは海になんて来るのはいつ以来だろうと想いを馳せながら、女子3人が潮干狩りを始めたのをパラソルの下から眺めながら一休みしていた。
 一方リシャーナは秋桜とシャルアのダブルうっかりさんを微笑ましく見つめながら、幸せだった頃の懐かしくも切ない子どもの頃を思い出していた。しかし、目の前の2人を穏やかに見つめて緩やかに首を振って思考を切り替えると、立ち上がってドラグニルの元へと行った。
「ドラグニルさんも、ほら、手伝って下さい」
 傍観者を決め込んでいたドラグニルを太陽の下へと引っ張り出して、バケツと熊手を押しつける。
「……じゃ少しやるか、食糧確保のために」
 肩をすくめて了承すると、ブーツを脱いで波打ち際にしゃがみ込んだ。
「取れた貝は焼きます。食べます」
 そんなシャルアの宣言に、一同は笑いながら賛同。
「私、スープが良いな」
「私、醤油と冷たいお茶を持ってきましたよ」
「リシャーナ姉、準備いい!」
「あー、俺食べる専門で」
「えー、ドラグニルさんずるいー」
 わいわいと騒ぎながら、4人はそれぞれバケツにいっぱいの貝を集めて昼食の準備へとかかったのだった。

「おまたせ」
 リューナ・ヘリオドール(ka2444)の声に、ビスマ・イリアス(ka1701)は「おかえり」と言いかけて言葉に詰まった。
 そこにはセクシーな黒い水着に身を包んだリューナが気恥ずかしそうに立っていたからだ。
 豊満な胸元を強調するようなデザイン。普段は服に隠されている引き締まったウエストのくびれからヒップ、太腿にかけての曲線に目の行かない男など居るだろうか? いや、居ない。
 しかし、思春期の少年でもあるまいし、その感情を素直に表すのはリューナに失礼だろうと、深く息をして心を落ち着けると目を逸らしてあえて感想を述べるのを止めた。
 そんなビスマの深呼吸に嘆息に似たものを感じたリューナは、自分が女に見られていないのかとそっと溜息を吐いた。
「どうした?」
 リューナの溜息に気付いて声をかけるが、リューナは首を横に振って「何でもないわ」と告げた。
「さあ、沢山アサリを獲って帰りましょう。青薔薇亭の料理として出せるくらいの量は欲しいわ」
 気を取り直してリューナが明るく言うと、ビスマもほっとしたように笑みを浮かべて頷いた。
「酒蒸し……クラムチャウダーも美味しそう。アサリのパスタも良さそうね」
「そうだな、貝は実に旨味の塊で酒とも良く合う。……そのまま豪快に浜焼きというのもあるな」
「勿論、ビスマが作ってくれるのよね? 楽しみだわ。帰ったらアサリに合うワインを開けましょ」
 楽しそうに笑うリューナにビスマも「今夜の試食会が楽しみだ」と笑って返した。

「海ですか-。久しぶりに来ましたね。折角なので、思いっきり楽しみましょう」
 日焼け止めもしっかり塗ってシャルティナ(ka0119)は砂浜に降り立つと、パラソル付きの椅子とテーブルを置いた。
その傍らには愛刀「白霞」。愛刀とバカンス。『あいとうとバカンス』何てステキな響き。シャルティナは1人満足気に笑った。
「たまにはこういうのも悪くないですね……」
 静かに海を眺め、昔を思い出してみたり、ただ波の音と周囲の楽しそうな声をBGMにゆっくりと過ごす。
「ふぁ……少しだけ寝ますか……」
 「白霞」を抱きかかえてそのままシャルティナは夢の世界へと落ちていった。

 そんなシャルティナの横をとてもアンニュイな雰囲気を持った日傘の未亡人――クロリエ・ハンフピィ(ka4754)が通り過ぎた。
 なお一応断っておくが、クロリエ自身は確かに黒いドレスに身を包んでいるし、気怠そうな雰囲気を醸し出してはいたが、本人は別に気怠くもないし、現状を凄く楽しんでいる。
「おや、お嬢さんお一人かね?」
 すれ違い様に町人が声をかけてきたが、それに対してクロリエはひっそりと笑うと視線を海へと向けた。
「夫との思い出を……」
 その言葉を聞いた町人は「お、おぅ……じゃぁ気をつけてな」と通り過ぎていく。
 なお実際には特に思い出もないのだが、そう言う事に意義がある。
 何故なら、自称不幸体質、不幸キャラを確立する為に日夜努力しているからだ。
「うふふ……いい不幸感」
 そんな彼女は今日も美味しい目……もとい、酷い目に遭っている人を探して歩いて行った。

●11時
 日焼け対策できゃっきゃうふふしているのはリリティア・オルベール(ka3054)と鹿島 雲雀(ka3706)だ。
「大丈夫、手がわきわきしてるとか気にするな」
「く、くすぐったい……ひゃっ!! どこ触ってるんですか!」
「ふーははー! 隅々まで塗りこんでやるからそう思えっ」
 なお2人ともナイスバディなれっきとした女子でTシャツに半ズボンという服装。肌が露出しているところはもちろん、服の中まで日焼け止めを互いに塗り合っていく。
「んもー……ちゃんと塗りますから、じっとしててくださいね?」
 リリティアが丁寧に雲雀の身体にクリームを塗りこむと、2人は揃って海へと向かう。
「そんじゃま、掘った数で勝負といこうか?」
 不敵な雲雀の物言いに、望むところとリリティアも胸を張る。
「やるからには負けませんよ?」
 やたらめったら深く掘り進めていくリリティアを見て、雲雀はそうじゃないよと潮干狩りのコツを伝授する。
 暫くして雲雀は、リリティアが何かを探すような素振りを見せ始めたのに気付いた。
「今日ここに来たことを、忘れないようにって……」
 2人で取っておける貝殻を探していたらしい。
 一緒に探し始めてすぐに、綺麗な二枚貝を見つけた雲雀が、それを一枚ずつに分けた。
「こういう思い出の品ってのも、いいもんだよな」
 同じ形の貝殻を互いの手の平に乗せて、2人は笑い合った。

 ミオレスカ(ka3496)は潮干狩りセットを借り受けたついでに、潮干狩りのレクチャーを受けてから、もくもくと潮干狩りに挑んでいた。
 自分が食べられる分だけの量を取って、砂抜きされた貝と交換して貰う。
「お嬢さん、こっちで焼いていったらどうだい?」
 セットの貸出をしているテントのすぐ傍で、バーベキューセットなどを貸し出ししていた漁師が声をかける。
 ミオレスカは特に断る理由も無いのでお邪魔することにした。
「そのまま焼いても、塩味が、程よいですが、やはりしょう油がいいです。舌鼓がとまりません」
 幸せそうに貝の身を頬張るミオレスカに、漁師がカラカラと笑って、一回り大きい貝を差し出した。
「え? ここからさらにバターですか? それはしょう油に対する冒涜では」
 「まぁいいから食べてみなさい」という言葉に恐る恐る貝の端に口を付ける。
「な、なんということでしょう」
 口の中に広がるバターの風味と焦げたしょう油の香ばしさ。味の異世界融合に感動して、ミオレスカは次々に貝を頬張っていったのだった。

「わぁーい、また来ちゃったのなーっ♪」
 蝉っぽい雑魔退治の時にもこの港町に来た黒の夢(ka0187)が、すっかり静かになって過ごしやすくなった砂浜を見て「よかったのなー」と笑う。たゆん、と揺れるその豊満なバストを支える水着はやたらと布面積が小さい。しかし動きやすくて黒の夢的にはお気に入りの一着だ。
町人と2、3言葉を交わした後、一緒に来た【もぐ】のみんなを振り返り、人数分の潮干狩りセットを借りて手渡していく。
 レイ=フォルゲノフ(ka0183)は丁重に断って、調味料が入っている鞄を掲げる。
「あー、俺はええ。それより調理の準備せな。本日のメニューは豪華やで?」
 おぉ! と一同から期待の歓声が上がる。
「ではぼくは頑張って潮干狩りします」
 きりっとした表情で宣言したシグリッド=リンドベリ(ka0248)に「頼んだで」とレイは拳を付き合わせる。
「早く海行こーよー」
 薄手のポンチョに身を包んだウサミカヤ(ka0490)が先へと走り出したのを見て、黒の夢とシグリッドは慌ててその後を追った。
 シグリッドは砂浜の程よい場所にパラソルを差しピクニックシートを広げると、飼い猫のシェーラを籠から出した。そしてまず自分に日焼け止めを塗り始めた。
 その様子を興味深げに見つめている黒の夢に気がつき、照れくさそうに笑う。
「男なので焼けるのはいいんですけど痛いのは嫌なので」
「我輩も焼けたら痛いのよー……」
「じゃぁ、あんのうんさんも塗りますか? うさぎさんも、どうですか?」
 離れたところで早速潮干狩りを始めたウサミカヤに声をかけると、ぴょん、と跳ねて2人の元までやってきた。
「カヤちゃんはこっちなのなー♪」
 じゃじゃん、とどこからか取り出すのはオリーブオイル。
「!? 食べる気だ!? あーちゃん、あたしのこと、食べる気だ!!」
 バッとその場から飛び退くと、ウサミカヤは再び先ほどまで潮干狩りをしていたポイントへと戻っていった。
「……で、どうしてお前らこんなにグショグショなんや?」
 アサリをバケツいっぱいに収めた3人がレイの元に帰ると、よく冷えたジュースを差し出しながらも心底呆れたという表情のレイに迎えられた。
「あの、うさぎさんが、後ろからわーって」
 しゅん、と項垂れたシグリッドが言うと、ウサミカヤは「面白かったよ」と悪びれた様子無く笑う。
「ほう」
「だから、水鉄砲で応戦したのな」
 なお、黒の夢の言う水鉄砲とはウォーターシュートのことである。
 結果、3人とも仲良くずぶ濡れになった、という事らしい。
「……そういや、肉が足りないんやったな……買い出しに行こか、ウサギ肉」
「ぴゃっ!?」
 ウサミカヤはレイの笑顔と言葉に飛び上がって脱兎の如く逃げ出そうとして、襟首を掴まれ阻まれる。
「冗談や。みんなよく頑張って来たな~♪ いっぱい食えよ~♪」
 レイが腕によりをかけて作ったボンゴレ、酒蒸し、貝ご飯……テーブルの上に乗りきれない品数に一同から歓声が上がる。
「レイおにーさんのごはんが一番美味しいです!」
 シグリッドの真っ直ぐな言葉と眼差しに、レイは照れくさそうに笑ってお礼を言った。

「やだー、知々田ちゃんったら今日もキュート! なんていうか、『浜辺に佇む清楚で可憐なお嬢様仕立て~春風に乗せて~』って感じ!」
「ほんと? ありがとー。Nonちゃんもすっごく素敵よー! それ彼T? やだー隅に置けないわー」
 麦わら帽子に白のワンピ、白のヒールで大人しめに纏めた日浦・知々田・雄拝(ka2796)のファッションをべた褒めしてくれたNon=Bee(ka1604)に対して、そのTシャツが本人物では無いという鋭い観察眼を発揮した知々田。なおこの二人、身長170cmオーバーの男性である。だが心は乙女。続く会話も女子力が高い。
「あら。Nomちゃん応急手当の道具持ってるなんて女子力高いわー」
「だって、貝の破片で切ったり、砂浜も中々危険なのよね。ほら、ビーチでイケメンが怪我でもしようものなら、ジェットブーツで駆け寄ってすぐ治療するわよ」
「えー。あたしなんて熱中症予防の飲み物しか持って来なかったわー。じゃあ、熱中症で倒れたイケメンにマウスToマウスで飲ませてあげるわー」
 あたしは瞬脚からのランアウトかしらー? なんて盛り上がっている。
 ……女子力? きっと女子力。
 そんな2人は仲良く貝殻でアクセサリー作り始めると、お互いにプレゼントした。
 Nonからは髪留めを。知々田からはコサージュを。
 互いに付け合って、笑い合う。
「とっても可愛いわぁ、知々田ちゃんったら何でも似合うんだから!」
「もー煽てないでよ-。Nonちゃんだって素敵よー」
 2人はきゃっきゃとじゃれ合いながらひとときの休息を楽しんだ。

●12時
『お魚ー! サザエー! 海の幸ー!!!』
 ステラ・ブルマーレ(ka3014)は漁港の市場内をキラッキラした瞳で見て回り、一番近い定食屋に入る。
 壁には様々魚介類の料理名が並んでいる。どれも美味しそうで決めかねて、店員に尋ねることにした。
「すみませーん、今日のオススメって何かありますか?」
「今日ならサザエかね。まずは刺身でいっとくかい?」
 恰幅の良い女性が朗らかに教えてくれて、おぉと心が躍る。
「じゃあ、それで刺し盛りと、あれと、これと……スープパスタ風ボンゴレ!」
 テーブルいっぱいに広がった料理を前に、いただきますをすると、少し贅沢な昼食を楽しんだ。

 三河 ことり(ka2821)は実際今日何をして遊ぶのか知らなかった。
 ただ、【クラビス】の友人である御崎・汀(ka2918)、五月女 和香(ka3510)、真白・祐(ka2803)、園藤 美桜(ka2822)に連れられて来たのだ。
 そしてその【クラビス】内でも、何をして遊ぶか纏まっていなかった。
「潮干狩り」
 祐の言葉に頷くのは汀。
「えー、グルメツアー行こうよー」
 和香の声に美桜も頷きつつ、でも自分から声を大にして発言は出来ず。
 結局、中間を取って、午前中は祐と汀が潮干狩り、和香と美桜はグルメツアーに行き、12時に再び砂浜で集合しようと言う事になった。
「わぁっ!」
 砂に足を取られて転ぶ汀を、祐は「ドジ」と評しながら手を差し出して立ち上がるのを助ける。
「どっちが綺麗な貝をプレゼントできるか競争な」
 祐の言葉に、汀はこっくりと頷いて腕まくりをしたのだった。
 一方、和香と美桜は市場で様々な魚を見て、刺身や磯焼きなどを買い歩いていた。
 漁師料理という、魚のあら汁を人数分購入して2人が砂浜に戻ると、祐がバーベキュー部長となって、貝を焼き始めた所だった。
 全員が揃ったところで、ことりを囲むと、汀が両手を差し出しながら言った。
「ことりちゃん。お誕生日おめでとうですよ♪」
 その両手には綺麗な貝殻がいっぱい収められていて、ことりは驚きながらその貝殻を受け取る。
「ことり、誕生日おめでとな」
 焼けた大きな貝を皿に取り分けて、ことりに差し出す祐。
「コトリンの誕生日をお祝いしちゃうよー」
 和香が綺麗に包装されたプレゼントをことりに渡す。
 中身は『CWの星に関する書物』。帰ってから読んでねー、と付け加えながら。
「みんな、ありがとう!」
 ことりは満面の笑顔でプレゼントを受け取る。
「三河さん、おめでとう御座います」
 美桜は、祐が次々に焼く魚介類を取り分けてことりの元へと運ぶ。
 その様子はマネージャーのようだ。
「美桜ちゃんもありがとう。サプライズ、みんなと一緒だから楽しいの」
 ことりの笑顔に美桜も微笑みながら、わいわいと賑わう仲間を見て呟いた。
「こういう状況下で誕生日を祝うのも、なかなか良いですね……」

 ケンジ・ヴィルター(ka4938)は子どもの頃以来の潮干狩りの機会を楽しもうと、帽子のつばを持ってきゅっと被り直しながら気合いを入れた。
 貝の習性を思い出し、呼吸するための小さな穴が無いか探すと、熊手を下ろした。
「お。よっしゃ、見ーつけたっと」
 程よい大きさの貝が手に入り気をよくしたケンジは、ずっと同じ姿勢でもくもくと掘り進めていく。
「……割と腰にくるなぁ」
 一度立ち上がり、大きく伸びると腰をトントンと叩いた。
 持ってきたジュースで水分を補給しつつ、でも、軍の訓練思い出せばどうってことねーや、と独りごちる。
 セットの貸出をしてくれたテントの横で場所を借りて、貝を焼く。
 調味料なしの素材の味が、久しぶりの潮干狩りに疲れた身体に染み入るように美味しかった。

「麗しのロロ様。お美しい柔肌が日差しに負けなければ良いのですが……」
 そう言いながらディードリヒ・D・ディエルマン(ka3850)が差し出した日焼け止めをロロ・R・ロベリア(ka3858)はぶん投げる。
 ……岩に当たって瓶が割れたが、中の液体がかかった岩がじゅぅ……という音を立てたのは気のせいではない。
「お水もご用意しておりますよ?」
 差し出された水をディードリヒの顔面に向けて投げたが、華麗に避けられる。
 ……割れた瓶から溢れた水が、岩の間を走っていたフナムシに当たってその命を奪う。
「あ、お食事もご用意しておりますが……」
 差し出された皿ごとパイ投げの要領でディードリヒの顔めがけて投げる。
 しかしその皿も首をちょっと動かしただけで避けられる。
「うぜぇ……! 爛れろ! 爛れろ!」
「そんな怒り狂うロロ様の表情すら愛おしいです」
「黙れ変態くそ野郎」
 手当たり次第投げつけられるモノを尽く避けながら、徐々に楽しくなってきたディードリヒがスキップを始める。
「スキップすんなああああああああ!!」
「おや? どうなさいましたロロ様? もっと本気で追いかけて下さりませんと私は捕まえられませんよ?」
 涼やかな笑顔で言われ、ロロは投げつけようと手に持っていた流木を握力だけでバキャッと砕いた。
「……上等じゃねぇかブッコロス!!」
 鬼の形相でディードリヒを追いかけ始めたロロ。浜辺の鬼ごっこはリア充の定番ではあるが、あまりにこれはロロの表情が表情なので青春の思い出には含まれない事になった、とか。

●13時
「海だー!」
 【CTS団】のリツカ=R=ウラノス(ka3955)は叫ぶと同時に波打ち際へと走り出した。
 その後ろをミコト=S=レグルス(ka3953)が走って追いかけ、そんな2人をルドルフ・デネボラ(ka3749)とトルステン=L=ユピテル(ka3946)が呆れたような諦めたようなそんな微妙な表情で見送る。
「ミコ、あんまり張り切りすぎて他の人に迷惑かけないようにね」
 ルドルフの言葉に、熊手を振りながら「貝探し頑張るーっ!」とかみ合わない言葉が返ってきた。
「……多分料理を期待されている気がする、すごくする」
 トルステンが頭を抱えて溜息を吐いた。
「……ルドも手伝えよ」
「もちろん」
 そんなわけで、女子2名が食材調達に精を出している間に男子2名が料理の準備を始めた。
「何かこう、広い砂浜で立っていると挑まれている気分になるよね」
 ふぅ、と掘り続けていた手を止めてリツカが言うと、「?」を浮かべながらミコトは「そうかな」と曖昧に同意。
そんなミコトのバケツには、リツカの倍以上の量のアサリが入っている。
「ミコちゃん、いつの間に!? ま、負けないもんね!?」
 2人は目を合わせて頷くと、猛然と掘り始めた。
「ミコ……」
 精も根も尽き果てたという様子の2人を迎えて、ルドルフは溜息を吐くと、用意していたタオルを2人に渡した。
「着替えたら、ご飯にしよう」
 ご飯、の言葉にミコトとリツカは顔を輝かせ、すぐさま着替えに走って行った。
「酒蒸し、バター焼き、お醤油かけても美味しいよね……!」
 網の上でぱかっと開いていく貝を見て、ミコトが歓声を上げた。
「では、大規模作戦の打ち上げを兼ねて……いっただきまーす!」
 リツカが両手を合わせる。3人はそういえばそんな名目だったかと思い出しながら、同じくいただきます、と声をかけて実食へと。
「美味い! 流石ステン、いい味付けだね」
「ルドっちもトリィもずるいよね! 何でこんなに美味しいの!」
 もっちゃもっちゃと頬張りながら、ルドルフとリツカが幸せそうに笑う。
「こんなん料理って程でもねぇ。獲れたてならどうやってもうめーんだよ」
 トルステンが手際よく貝を開き、紐を切り、片面が焼けてきた所でひっくり返す。
 女子2人に押しつけられてきた為上達した、とも言える料理の技術だが、トルステンの場合は、持ち前の面倒見の良さと付き合いの良さの相乗効果の結果とも言える。
「ほら、バター乗っけてたんと食え。手洗えよ! がっつくんじゃねぇ!」
 自分が食べる暇無く、みんなの皿へと焼けたものを放り込み、世話を焼く。
 そんなトルステンの活躍もあり、【CTS団】は笑顔の絶えない楽しいひとときを過ごしたのだった。

 スヴィトラーナ=ヴァジム(ka1376)とアンドレイ=ヴァジム(ka1377)は手を繋いで砂浜を散策していた。
「ふふ、風が気持ちいいわね? たまには、こういう時間も良いと思わない?」
「うん、そうだね、ゆっくりするのも、久しぶりだね?」
 柔らかに微笑みながらスヴィトラーナの言葉に応えるその様子を端から見れば仲睦まじい恋人同士だが、実のところこの2人は姉弟である。
 アンドレイが料理を始めたので、その間スヴィトラーナは砂浜で貝殻探しを始める。
 手にしようとした貝に、同じように伸びてきた小麦色の指先が触れてスヴィトラーナは驚いて手を引っ込める。
「あら、ごめんなさい。あなたも貝集め?」
 口調こそ女言葉だが、麻のシャツにカットソー、クロップドチノにサンダルという出で立ちと背格好から見ても男性のようだ。
「えぇ。貝殻ね、思い出にと思って……綺麗に洗って飾るのもいいし、飾りでも良いと思わない?」
「そうね。装飾品に加工したり、インテリアのデコにしてもいいわよね」
 そう言うとこれまでに集めた貝殻やシーグラスなどを取り出してスヴィトラーナに見せる。
「お気に召した物があればプレゼントするわ」
「でも、いいの?」
 初対面の人間からという抵抗もあり、最初は遠慮していたスヴィトラーナだが、結局「思い出作りに一役買えたならあたしも嬉しいワ♪」という彼の言葉に、有り難く譲って貰うことにした。
「私はスヴィトラーナ。あっちで弟が料理をしているの。よかったら食べていって?」
「ラーナ嬢ね。あたしはルキハよ。お邪魔して良いの? なら遠慮無く」
 アンドレイはルキハ・ラスティネイル(ka2633)の登場に驚きつつも、穏やかに笑う姉の前で否を唱えられるわけも無く、完成した料理を机の上に並べた。
「えっと、パエリアとかいう料理を、真似して作って見たんだけど……えと、どう……ぞ」
 ルキハに怯えつつ、震える手で料理を差し出すと、他の料理を運ぶために踵を返す。
「ふふ、私の弟よ。優しい子よ……優しすぎて、心配もあるけれど」
「優しさは強さの一つだと思うわ。男の子は知らない間に成長していくから……きっと大丈夫よ」
 一瞬スヴィトラーナの表情に陰が差したが、それを払拭するようにルキハが笑う。
「アンディ君、料理上手なのねぇ♪ ワインとか欲しくなっちゃう」
 ルキハの言葉にアンドレイが困ったように姉を見る。その視線にスヴィトラーナは微笑みを返した。

 田中 月子(ka4536)は衝撃に打ち拉がれていた。
「海入るのが禁止……そんな悪逆非道の限りを尽くすのは誰ですか。誰を締め上げれば解決しますか」
「待って、月子さん待って、落ち着いて下さい」
 ガスマスクの下でしょぼくれた顔をしている月子を、必死に観那(ka4583)は宥めて、落ち着かせて、砂浜で遊びましょうと説得した。
「砂遊び。腕がなりますね月子さん……!」
 ニコニコと微笑む観那に促されて、月子は渋々といった風に砂を寄せて山を作る。
 一方で、土台を固めたり、海水で砂を固めたりとかなり本格的に砂を弄る観那。
 そんな観那の動きに触発されて、徐々に興が乗ってきた月子は大きなモノを作ろうと観那に提案した。
「ええ、張り切ってお手伝いします」
 どんどんと砂を集め、固め、削って……徐々に出来上がってくる形に観那は既視感を抱く。
「あの、月子さん? そ、それはひょっとしなくても、私でしょうか……!?」
「できました。ふへ」
 「巨大かんなちゃん砂像デデーン」と効果音まで口にして月子が拍手する。
「この地の守護神として崇め奉りましょう。おお、大いなる我が神よー」
 あい、あい、と拝みだしてしまった月子をおろおろと見守るしか出来なかった観那だが、月子が疲れ果てて寝落ちてしまったのを見て、ゆっくり休めるようにと日陰を作ると膝を月子に貸したのだった。

●14時
 桃園ふわり(ka1776)は漁港市場をぐるりと回って、その場でお刺身を食べさせて貰ったり、屋台で香ばしくかつシンプルにしょう油だけで味付けされた焼き貝を食べたり、とその場その場で楽しんでいた。
「わーん、幸せ-。ぷりぷり、しっとり、口の中にじゅわっと旨みがー」
 両手で落ちそうになる頬を支えながら、お土産を選ぶ。
「お姉ちゃん美人だからサービスしとくよ!」
 そう言われて、きょとんと瞬いた。
「僕、男だけどいいのかな?」
「へ? 男の子だったのかい? わはは、可愛いは正義だなぁ!」
 屋台の主は豪快に笑って、おまけされたままの荷物を渡してくれた。
「ありがとう!」
 桃園は満面の笑顔でそれを受け取ると、うきうきと次の屋台へと足を向けた。

「来たぜ潮干狩りー! ……って何やるんだ?」
 海について、とりあえず吠えてみたルシエド(ka1240)の後ろで、天宮 紅狼(ka2785)ががくっと転けた。
「この熊手でその辺の砂浜掘ってみな。貝が出てくるから」
 促されて、波打ち際ギリギリまで来て掘ると、ころころとした貝が出てきた。
「お、これが『アサリ』か? 紅狼」
「そうだ。見つけたらバケツにいれるんだぞ」
 ルシエドは初めて見るアサリを物珍しそうに眺めた後、バケツに放り込んで再び砂を掘り始める……が。
「紅狼-、掘るの飽きた! 泳いでくる!」
「ちょ、待て! まだ寒いから海は……!」
 『遊泳禁止』という看板も目に入らなかったのか、ルシエドが海へとダイブして……すぐ悲鳴を上げて帰ってきた。
「さむっ! なんか寒い!」
「ったく、風邪引いたらどうすんだよ」
 紅狼は念のためにと持ってきたタオルでルシエドの頭をガシガシと拭くと、砂浜の奥で焼き物を売っている店へとルシエドを連れて行き、火に当たらせた。
 不満げに頬を膨らませるルシエドに紅狼は仕方が無いな、と笑う。
「風邪引かないように焚き火当たっとけよ。今日はアサリで上手い飯作ってやるから」
 その言葉にぱあぁぁと顔を輝かせてルシエドが頷いたのを見て、その間に紅狼は必要量のアサリを掘りに行く。
 暫くして紅狼が帰ってくると、ルシエドはすっかり眠りこけていた。
「しょうがねえなあ」
 すやすやと眠るルシエドを抱きかかえると、紅狼は店を後にした。

 レインボーストライプ&ローレグの三角ビキニの上に、簡易的な外套を羽織ったアデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)。
 シンプルに競泳水着でスポーティに攻めるイレーヌ(ka1372)。
 あでやかな赤のモノキニに身を包んだ舞桜守 巴(ka0036)。
 そしてスリングショットの上から白いパーカーを羽織っているコーシカ(ka0903)。
 VS
 ちゃんと男物の水着を来て、白いシャツも羽織っている時音 ざくろ(ka1250)。
一触即発の様相を成していた【ざくろ】の戦いの火蓋は、ざくろの一言によって切って落とされた。
「可愛いし綺麗だし、みんなよく似合ってる」
 女性陣のセクシーな姿に見惚れ頬を染めたざくろを見て、巴が不敵に笑う。
「ふふ、皆見てますわよ-。ざくろってば女の子独り占めですものね?」
「ふふふ、逃がさないんだから……この際行くところまで行ってあげるわ」
 両手をわきわきと動かしながらざくろへの距離をじりじりと詰め始めるコーシカ。
「さて、それではこちらも楽しむとしましょうか?」
 そんな女子3人の様子をイレーヌは冷静にじっくりと観察して堪能する。
 『こういう場だからこそ、楽しめるもの』は逃したくない。
「え? あ、これは、ざくろが追いかけられる……? あれ?」
 ざくろが漸く事態を把握した時には、女子3人が割と本気の形相で鬼の首を獲りに来ていた。
「わーっ!?」
 走り出したざくろを追う3人。……うち、イレーヌは手を後ろに組みながら歩いて追う。そのゆっくりさ加減が逆に怖いわけだが、彼女には彼女なりの計算があった。
ランアウトまで使ってざくろを追い越した巴が行く手を阻み、人混みもあって、ついにざくろは海を背に女子3人に完全に包囲されていた。
 慌てて抜け出そうと海側へ踵を返したところで、足が縺れたざくろが悲鳴を上げつつ転ぶ。
「あ」
 イレーヌは予想の斜め上の展開に額を抑えた。
 ざくろの下にはイレーヌが事前に協力を要請した筋骨隆々の男(一般人)がおり、その豊かな大胸筋の上にざくろが俯せに倒れ込んでいたのだ。
「「きゃーっ!?」」
 きゃーなのか、ぎゃーなのか分からない悲鳴を女性陣が上げ、漸く事態を把握したざくろも「わー!」と叫びながら起き上がろうとして、更に足を砂と波に取られ、イレーヌと巴を巻き込んですっ転ぶ。
「ふむ。結局こうなったか」
 結果、ざくろが無事ラッキースケベを達成した様子をイレーヌは冷静に観察した後、協力してくれた男性に礼を言って立たせた。
「はぁい捕まえましたっ、これでざくろは私達のモノですわねえ……」
「みっ、みんな大丈夫? ……って、事故、事故だからっ、わぁっ!」
「ふふふ、つーかまえたー」
 人目も憚らずキャッキャうふふといちゃつき始めた3人を、イレーヌは満足そうに笑って見つめていた。

 スウェル・ローミオン(ka1371)は浜辺の熱い日差しに倒れそうになりつつも、灼藍(ka3079)との外出に胸躍らせて喜んでいた。
「……ったく、いつまでも船ん中でクサクサしてられちゃ、俺の方が滅入るんだっつーの」
 灼藍としては滅多に出歩かない彼を心配してこうして連れ出した訳だが、先ほどからふらついているため更に心配が募るばかりだ。
「あの、ええと……う、嬉しいです」
 いよいよ噛み合わなくなった会話に、灼藍が訝しんだ時には時既に遅し。
 浜辺を歩きほのぼのとした時間を過ごしたいと頑張ったスウェルの体力に限界が来て、きゅうと倒れてしまった。
「倒れんの早え!?」
 ギリギリ抱き留めることに成功して、肩に担ぐと日陰まで運び込んだ。
「おい、スウェル。起きねーと浜に埋めて置いて行くぞ」
 声が届いているのか居ないのか。浅い呼吸を繰り返すスウェルを見て「ちょっと待ってろ」と断ってから灼藍は彼の元を離れた。
 スウェルは倒れてしまったのが恥ずかしくて、情けなくて、そして離れていってしまう気配が寂しくて、何とか追いかけたいと願うが指先が砂を掻くだけで身体は全く動かない。
 そうしている内に近付いて来る気配に気付き、目を開けようとしたところを、顔布越しに冷たいボトルを押し当てられて思わずびくりと身体を震わせた。
「おら、俺がわざわざ水貰って来てやったんだからさっさと起きろ、飲め」
 乱暴な口ぶりとは裏腹に優しい手の平に支えられ頭の下に差し込まれた太腿の気配。
「ごめんなさい……あの、もっと頑張れるように、なります、から」
 精一杯の決意表明に、灼藍は笑って「おう」と応えた。

 響ヶ谷 玲奈(ka0028)は大好きな親友のエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)の手を引っ張って砂浜へと飛び出した。
「あ、ちゃんと日焼け止め塗らなきゃ。折角の白磁の肌なのだから、大切に守らなくてはね」
 そういって玲奈は手の平いっぱいにとった日焼け止めをエヴァの首筋に当てて塗り広げる。
 声の出せないエヴァのその表情と唇がくすぐったさに破顔して戦慄く。
 仕返し、と言わんばかりに日焼け止めを手に取ったエヴァが玲奈のつま先からふくらはぎまでを両手で揉むように擦りあげる。
 そのくすぐったさに玲奈も笑い転げながら逃げようともがく。
 日焼け止めを塗り合うだけで体力をかなり消耗した玲奈が砂の上で寝転んでいると、エヴァが画材一式を広げだした。
 玲奈はエヴァの邪魔をしないようにと傍で静かにしていたが、暫くしてエヴァの犬たちと砂浜で遊ぶことにした。
「ふふ、ふ、くすぐったいって!」
 元気いっぱいにじゃれつく犬たちと一緒に砂の上に転がって笑う玲奈の声に、潮干狩りの絵を描いていたエヴァが我慢できなくなって混ざりに行く。
「絵はもういいの?」
 飛び込んできたエヴァを受け止めて玲奈が聞くと、エヴァはうんうんと頷く。
 ――暫くして、砂遊びを満喫した2人と2匹が去った砂の上には砂の城が残されていた。
 潮が満ちてきて、波が押し寄せる。
 砂の城は波に崩され消されても、思い出はいつまでも2人の胸の中に残ることだろう。

 こうして、ハンターを招待しての潮干狩り解禁初日は平和に終わったのだった。

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重体一覧

参加者一覧

  • 笑顔を掴む者
    響ヶ谷 玲奈(ka0028
    人間(蒼)|20才|女性|聖導士
  • 雄弁なる真紅の瞳
    エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • 母親の懐
    時音 巴(ka0036
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 《臆病》な心を斬伏せる者
    シャルティナ(ka0119
    エルフ|15才|女性|疾影士
  • 優しさと懐かしさの揺籠
    レイ=フォルゲノフ(ka0183
    エルフ|30才|男性|疾影士
  • 黒竜との冥契
    黒の夢(ka0187
    エルフ|26才|女性|魔術師
  • 優しさと懐かしさの揺籠
    シグリッド=リンドベリ(ka0248
    人間(蒼)|15才|男性|疾影士
  • 優しさと懐かしさの揺籠
    ウサミカヤ(ka0490
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • 明日も元気に!
    クレール・ディンセルフ(ka0586
    人間(紅)|23才|女性|機導師
  • 戦神の加護
    アデリシア・R・時音(ka0746
    人間(紅)|26才|女性|聖導士

  • ルーティア・ルー(ka0903
    エルフ|12才|女性|霊闘士

  • 辰川 桜子(ka1027
    人間(蒼)|29才|女性|闘狩人
  • 孤狼の養い子
    ルシエド(ka1240
    エルフ|10才|男性|疾影士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • おどおど一生懸命
    スウェル・ローミオン(ka1371
    エルフ|24才|男性|霊闘士
  • 白嶺の慧眼
    イレーヌ(ka1372
    ドワーフ|10才|女性|聖導士
  • 猛獣を御す閃鞭
    スヴィトラーナ=ヴァジム(ka1376
    人間(紅)|28才|女性|霊闘士

  • アンドレイ=ヴァジム(ka1377
    人間(紅)|23才|男性|霊闘士
  • Beeの一族
    Non=Bee(ka1604
    ドワーフ|25才|男性|機導師
  • 慈眼の女神
    リシャーナ(ka1655
    エルフ|19才|女性|魔術師
  • 未来に贈る祈りの花
    ビスマ・イリアス(ka1701
    人間(紅)|32才|男性|疾影士
  • お菓子な仲間
    桃園ふわり(ka1776
    人間(蒼)|15才|男性|機導師

  • リューナ・ヘリオドール(ka2444
    エルフ|23才|女性|猟撃士
  • 真実を包み護る腕
    ルキハ・ラスティネイル(ka2633
    人間(紅)|25才|男性|魔術師
  • 漂泊の狼
    天宮 紅狼(ka2785
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 美ドワ同盟
    日浦・知々田・雄拝(ka2796
    ドワーフ|20才|男性|疾影士

  • 真白・祐(ka2803
    人間(蒼)|18才|男性|機導師

  • 三河 ことり(ka2821
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 局地的雨女
    園藤 美桜(ka2822
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人

  • 御崎・汀(ka2918
    人間(蒼)|18才|女性|魔術師
  • 海と風の娘
    ステラ・ブルマーレ(ka3014
    人間(紅)|16才|女性|魔術師
  • The Fragarach
    リリティア・オルベール(ka3054
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • 海賊兄貴は意外と心配性
    灼藍(ka3079
    人間(紅)|28才|男性|霊闘士
  • 穏和な翠眼
    ドラグニル=ヴァルツァー(ka3138
    エルフ|20才|男性|猟撃士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 花言葉を貴方へ
    五月女 和香(ka3510
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 無類の猫好き
    鹿島 雲雀(ka3706
    人間(蒼)|18才|女性|闘狩人
  • カウダ・レオニス
    ルドルフ・デネボラ(ka3749
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 黒の刻威
    ディードリヒ・D・ディエルマン(ka3850
    エルフ|25才|男性|疾影士

  • ロロ・R・ロベリア(ka3858
    人間(紅)|16才|女性|闘狩人
  • Q.E.D.
    トルステン=L=ユピテル(ka3946
    人間(蒼)|18才|男性|聖導士
  • コル・レオニス
    ミコト=S=レグルス(ka3953
    人間(蒼)|16才|女性|霊闘士
  • スカイラブハリケーン
    リツカ=R=ウラノス(ka3955
    人間(蒼)|18才|女性|疾影士
  • 想い伝う花を手に
    シャルア・レイセンファード(ka4359
    人間(紅)|18才|女性|魔術師
  • ブリリアント♪
    秋桜(ka4378
    人間(蒼)|17才|女性|魔術師
  • 復興の一歩をもたらした者
    Hollow(ka4450
    人間(紅)|17才|女性|機導師

  • 田中 月子(ka4536
    人間(蒼)|15才|女性|闘狩人
  • 清淑にして豪胆
    観那(ka4583
    ドワーフ|15才|女性|闘狩人

  • クロリエ・ハンフピィ(ka4754
    人間(紅)|23才|女性|舞刀士
  • 頼れるアニキ
    ケンジ・ヴィルター(ka4938
    人間(蒼)|21才|男性|舞刀士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 海遊びのご相談っ!
クレール・ディンセルフ(ka0586
人間(クリムゾンウェスト)|23才|女性|機導師(アルケミスト)
最終発言
2015/08/15 16:57:55
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/05/18 11:20:02