ゲスト
(ka0000)
千の影
マスター:剣崎宗二

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/20 07:30
- 完成日
- 2015/05/23 06:59
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
辺境の部族。こと、戦いを尊ぶ者たちの中には、こんな言い伝えがある。
「戦士には、いつか試練が訪れる。
千の影、其は戦士たちの死神
如何なる数もその強さ揺るがす事能わず
真の強者のみ、その手の元から生きて戻れる」
この言い伝えを、多くの者が迷信と断じるのも、また無理はない。
だが、確かに、『帰らなかった者』は存在するのだ。
帰った者もその多くが口を閉ざし、真実を語ろうとはしない。その中には体に障害が残り、二度と戦えなくなった者たちも…また、多い。
●夜歩く影
「へへっ、いいもん運んでるんじゃねぇか。」
山道。
このクリムゾンウェストの辺境にも、『山賊』と言う物は出没する。或いはそれは、生存に困った部族の民だったり。はぐれ者ゆえに己の部族を追い出された者たちだったり。それとも、どこかの軍から放逐された者たちが流れ着いたのか。いずれにしろ、彼らが目の前の商隊を脅かしている事実に、代わりは無い。
山賊の一人に睨まれた、馬に乗った女性が、ヒッ、と息を呑む。
其れに気を良くしたのか、山賊の一人がその馬に近づき、その女性の腕を掴んだ。
「ほら、降りろ!」
「嫌です!助けてください!!」
その瞬間。
「ぐあっ!?」
後ろにいた山賊の一人が、まるで牛にでも突き飛ばされたかのように吹き飛び、岩壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
山賊たちは、彼らが襲った商隊とともに、あっけに取られてしまう。
幸運な事に、状況を把握するのが早かったのは、商隊の方。一斉に馬車を回転させ、彼らは、その場から逃げ去ったのであった。
「おい、何してくれんだこのアマが……」
山賊の頭と思しき男が、後ろから彼らを襲った――その女性を睨みつける。
タンクトップに半そでのジャケット。それに短パン。動きやすさを重視したと思われるその服装の下に包まれたのは、豊満な肉体。特に胸の大きさは半端ない。
「よくみりゃ、こいつもいい体してんじゃねぇか…野郎ども、やっちまえ!」
襲い来る5人の男たちを見て、女性は、にたりと、笑いを浮かべた。
「さて、どれくらい楽しめるかなー」
「戦士には、いつか試練が訪れる。
千の影、其は戦士たちの死神
如何なる数もその強さ揺るがす事能わず
真の強者のみ、その手の元から生きて戻れる」
この言い伝えを、多くの者が迷信と断じるのも、また無理はない。
だが、確かに、『帰らなかった者』は存在するのだ。
帰った者もその多くが口を閉ざし、真実を語ろうとはしない。その中には体に障害が残り、二度と戦えなくなった者たちも…また、多い。
●夜歩く影
「へへっ、いいもん運んでるんじゃねぇか。」
山道。
このクリムゾンウェストの辺境にも、『山賊』と言う物は出没する。或いはそれは、生存に困った部族の民だったり。はぐれ者ゆえに己の部族を追い出された者たちだったり。それとも、どこかの軍から放逐された者たちが流れ着いたのか。いずれにしろ、彼らが目の前の商隊を脅かしている事実に、代わりは無い。
山賊の一人に睨まれた、馬に乗った女性が、ヒッ、と息を呑む。
其れに気を良くしたのか、山賊の一人がその馬に近づき、その女性の腕を掴んだ。
「ほら、降りろ!」
「嫌です!助けてください!!」
その瞬間。
「ぐあっ!?」
後ろにいた山賊の一人が、まるで牛にでも突き飛ばされたかのように吹き飛び、岩壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなる。
山賊たちは、彼らが襲った商隊とともに、あっけに取られてしまう。
幸運な事に、状況を把握するのが早かったのは、商隊の方。一斉に馬車を回転させ、彼らは、その場から逃げ去ったのであった。
「おい、何してくれんだこのアマが……」
山賊の頭と思しき男が、後ろから彼らを襲った――その女性を睨みつける。
タンクトップに半そでのジャケット。それに短パン。動きやすさを重視したと思われるその服装の下に包まれたのは、豊満な肉体。特に胸の大きさは半端ない。
「よくみりゃ、こいつもいい体してんじゃねぇか…野郎ども、やっちまえ!」
襲い来る5人の男たちを見て、女性は、にたりと、笑いを浮かべた。
「さて、どれくらい楽しめるかなー」
リプレイ本文
●三方戦
「これまた……随分と状況判断が甘いですね」
山賊とは、もう少し状況判断に優れていた物だと思っていたのだが。
ため息をつきながら、未知の歪虚と山賊たちの間に割って入る米本 剛(ka0320)。
ずっしりしたその体で、歪虚側からの視線を遮りながら、落ち着いた口調で山賊たちに語りかける。
「…我々はハンターで彼女は歪虚です、大人しく御縄になって下さるならば…彼女からは守りますよ?」
だが。
「なーに言ってんだ?てめぇ、俺らを捕まえに来たのか?」
――そもそも、この山賊たちに強さと言う物の判断が出来たのであれば、さっさと逃げ出している筈である。最初から、この状況には陥らなかったのだ。
「言葉が通じるなら、亜人等よりはやりやすいと思ったのですがね…」
武器を振り上げた彼らに、行き成り言葉では無理があったか、と判断した剛が、また、ため息一つ。
「抵抗するならば仕方ない、抵抗する気概を…言葉ではなく、武力で折りましょう」
飛び掛ってきた一人を、八角棍で一殴りして、吹き飛ばす。
「やあ、美人さん♪ 僕と良い事しないかい? 野豚は――放っておいてさっ!」
それと同時に、歪虚に近づくように見せかけていたアルファス(ka3312)が、ノーモーションでジェットブーツを吹かせ、急速に後退。そのまま後ろへの回し蹴りが、山賊たちのリーダーと思われる男を、大きく歪虚から離す。
すぐさま近づき、それに雷撃を加え、体の自由を奪う。
「で、残りの山賊さんはどうするんだい? あれ、『千の影』って言って――高位の歪虚なんだけど」
脳裏の辺境知識をフル動員し、表面的な情報を引き出し、言葉にする。
山賊たちに敵の能力を測る術はない。だが、頭目が一撃でやられた以上、彼らの統制は途絶えた。そこへの、アルファスの言葉の追撃。
「逃げても追われて殺されるし、命だけでも助かりたいなら頭目と僕等のトコ来れば守ってあげるよ?」
が、それを
「面白くないねぇ……」
そう感じたのか。その瞬間、歪虚が動き出す。
五つの体が、一斉に構える。
「こっちだ!!」
大声で注意を引くと共に、投擲されるたいまつ。
それに僅かに戦場の全員が気を取られた瞬間、メル・アイザックス(ka0520)もまた、山賊たちと歪虚の間に割って入る。
放たれる三本の光。二本はそれぞれ、歪虚たちに回避されてしまう。動きは迅速。並みの歪虚とは比べ物にはならない。が、残りの一本が、運よく足に直撃。バランスを崩した歪虚に、飛び掛る影。
(「今の私の全力を出し切るだけ。ヴァフラームと一緒なら、きっと――」)
振り下ろされる、金の炎を纏ったハルバード。体重を乗せた逢見 千(ka4357)の一閃が、歪虚の一体を断ち切る。
敵の速度は速い。だが、得られた手応えは、そこまで硬くない。精々ゴブリンと同等――その程度の耐久力、と言う訳か。
その勢いのまま、ハルバードの先にくくりつけたLEDライトを、別の歪虚の影に向けて照射する。
――しかし、その影に、何ら怪しい物はない。普通の影と同様、光に照らされれば薄れる。無論、歪虚自体には何の影響もない。
直後、虚像であっただろう歪虚が、一斉に消え去る。
「へぇ……あたしと遊んでくれるのか。んじゃ……行くとするかな!」
笑みを浮かべたかと思うと、その巨大な胸が揺れる。と共に、分身たちが、再度出現する。その数、九体。
「そう簡単に死んでくれるなよ?『排影』――ッ!」
全ての分身たちが、横一列に並んだかと思うと、それが一斉に突進からの直拳を繰り出す。
その数は、そのまま『攻撃範囲の広さ』と化し。千、そして――退避するか迷っていた、山賊たちを襲った。
頭目を含む二名は、剛とアルファスにより戦場から叩き出されたが故に、衝撃の嵐に巻き込まれるのは避けられたのだが、他の山賊たちは一瞬にして肉片と化す。
「っ…少し臆病な位が…ってね。」
メルだけは、ジェットブーツの反動によりギリギリで幻影の攻撃範囲を脱し、回避に成功していた。
――恐らく、歪虚側に確かな「山賊たちを抹殺する」という意は無かった筈だ。だが、彼女には、山賊たちに「配慮する」理由もまた、ない。
目の前に敵が『二名』出現した。
それらを『纏めて』攻撃するために、範囲攻撃を選択した。
その範囲に、山賊たちが居た。
――単に、それだけの事であったのである。
「これは面倒ですね――」
山賊の首根っこを掴んで後退しながら、剛がフラッシュを発する。光の波動が辿りつく前に、既に攻撃を終えた分身たちは消えていたが。光は本体である、残った歪虚に叩き付けられる。
広がる光は、歪虚の影を一瞬、掻き消すが――
「へー。おっさんもやるんだ。じゃ、遠慮をする必要はないよね」
相変わらず、歪虚の口元には、戦いを楽しんでいるかのような、笑みが浮かんでいる。
●強襲と強襲
隠れていた二人は、この瞬間を見逃す事は無かった。
飛来する、ケイ・R・シュトルツェ(ka0242)が放ったロングボウの矢が、彼女の影に突き刺さる。それに、歪虚が気を取られた瞬間――
「ったく…山ン中で美女と会えるワケねェだろうが。しかも馬みてぇに蹴り飛ばすんだぜ? チンピラのオレちゃんでも分かるヤバさだぜ。 ――さぁて、ギャンブルのお時間だ」
続けざまに放たれた氷霜の矢が、恐るべき精密度を以って彼女の太ももに傷をつける。
冷気が、僅かに彼女の動きを鈍らせる。
「へぇ…面白い。さっきからこそこそ何をしていたかと思ったけど、奇襲を待ってたのかー。いやー、これは一本取られたなー」
新たな遊び相手を発見したような表情。その瞬間、分身たちが再度出現する。その数――11体。
「さーて、鬼ごっこかな?付き合ってやるよっ」
爆発的な加速を持って、彼は二発目の矢を放った方――lol U mad ?(ka3514)の方へ向かっていった。ロルの攻撃に付与されていた冷気は確かに彼女の敏捷性を多少、低下させていたが――それは僅かな物であり、また純粋な直線的な加速力には影響を及ぼしていない。
「あれ、僕とはもう遊べないのかな?」
アルファスが放った光条は、然し歪虚の速度に後塵を拝す。そもそも、敵が並みの疾影士だったとしても、若しも全力を『移動』に傾けたのならば、移動しながらの攻撃でその敵を捉える事は光条の射程では無理だったのである。
「対峙した人数だけ増えるっテェのはマジだとして、こう簡単にコッチがバレるってのは予想外だったぜ…!」
予測では、もう二発ほど余裕があったはずだ。だが、ハンターマントを被っててもバレたと言う事は、弾道を読まれていたのか――それとも、気配察知か。どちらにしろ、恐るべき精密性で、敵はこちらへと駆けて来た。
「ンな毎回毎回分身し直すってんなら、本体確認してても無駄っテェ事かよ」
同時に襲ってくる、八体の敵。今から動いても、マントの解除等から間に合うまい。
が、ただではやられはしない。分身の中で一体だけ、動きが鈍い物。それが、一発目の氷の矢を受けた本体だ。距離はまだある。一手だけでは届きはしない。
狙い済ました一撃が、歪虚に向かう。
パン。矢は分身の一体を貫き、氷像にして打ち砕いた。
「マジかよ……」
決して、ロルの狙いが間違っていた、等と言う事は無い。
分身の一体が、本体を庇い。代わりに矢を受けたのである。次の矢をつかえた瞬間。敵は既に、目の前にまで迫っていた。
「はい、鬼ごっこはおしまいね」
「だからオレちゃん、こんな怖ェ姐ちゃんと顔合わせたくねーんだよ…」
ロルを倒した歪虚。然し、背後から襲い掛かる矢が、その腕を掠める。
「ありゃ。もう一人いたのか。続行かなぁ」
再度、全て消えた筈の分身が、彼女の後ろに現れる。
向かう先は、次々と隠蔽場所を変えながら射撃するケイ。
――結論として、これは泥沼の戦いに陥った。
射撃ごとに次々と場所を変えるケイを明確に捉えるまでには歪虚は時間を要したが、ケイの方も分身を全て防御に回した歪虚の防衛線を貫く事はできない。お互い移動しながらであるが故に、近接攻撃が主体であった他の味方が援護する事もできなかった。純粋に、全力移動に追いつかなかったのである。
が、然し、移動するごとに草木に触れ音を立てたその僅かなヒントを頼りに、少しずつ距離は詰まっている。
「なら――こうするまでね」
ケイは、逃げるのを止めた。
息を潜め、機を待つ。
敵の分身が消える。その一瞬を。
そして、その機が見えた時。彼女は木の上から、ナイフを構え、飛び掛った。狙うは頭頂部。落下突きによる一撃必殺――!
「殺気が重いんだよ。距離を置いてるなら兎も角、この距離であたしが殺気を探知できない訳がないんだよ」
カン。左の拳でナイフが逸らされ。
ドン。右の拳によるボディーブローが叩き込まれる。よろめいたケイが、僅かに後ろに下がる。然し、それは飽くまでもポーズだけ。恐るべき敏捷性で、逆の手に拳銃をスライドさせ、それを目の前の歪虚に向け――
――そして、その手は掴まれた。
いや、その全身が、十体の分身の手によって、掴まれたのであった。
「『鎖影』――いやぁ、お姉さんはよーくがんばったよ。あたしもここまで楽しめたのは、久しぶりだったかなぁ」
叩き込まれる、連打。
●そして状況は戻り
奇襲を仕掛けた二人を倒した歪虚は、改めて、残りのハンターたちと対峙していた。
――ここで、ハンター側の作戦の齟齬が、露呈する。
攻撃を以って山賊たちを無力化し、確保したのはいい。然し、誰がそれを『戦場から脱出させる』のだろうか?
そこに、認識の違いがあった。皆、目の前の歪虚との交戦に、気を取られていたのだ。
「フンッ!」
剛が棍を振り回し、円盤のようなその面から、光が放たれる。光は影を掻き消し、そして視覚を妨害し、歪虚に隙を作り出す。
「名前だけでも、聞かせてもらえないのかな?」
メルが機杖から放つ光束――デルタレイは、一本のみが、歪虚の方へと向かう。
何かしら、視覚以外の方法で攻撃の到来を探知したのか。体を捻るように螺旋を描き、掠めるようにして、歪虚はメルへと飛び掛る。それを迎撃しようとするアルファスのデルタレイも、また同様に回避されてしまうが――
「難しく考えることはないよね。真の強者であることを証明してみせればいいんだから」
振り下ろされる金に光るハルバード。腕を交差してそれを受けた歪虚が、大きく後ずさる。
「おー。しびれるねぇ。流石力入ってるぅ!」
ブン。その後ろに、再度八体の分身たちが。
「『連影』――ッ!」
次々と、分身たちが千に襲い掛かる。堅守するには聊か遅い。それは敵の攻撃が来る事を先読みし、準備しておく。構えておくタイプの技なのだ。
ハルバートを盾にガードする。攻撃の一発一発は、それ程重いわけではない。精々ゴブリン程度だろう。
が、最後の二体による攻撃の際。左胸に突き刺さった一発だけは、途轍もない重さを持ち、千は思わず、胸元を押さえる。
(「スピードは全員見分けがつかないけど…本体だけパワーは桁違いか」
痛みに歯を食いしばりながらも、全力でハルバードを振り上げる。攻撃を終えた分身たちが消えうせた瞬間を狙い、一気に振り下ろす。
「あたし一人ならやりやすいと思った?残念だね!」
ヒュッ。
奇妙な動きで、横からハルバードの柄が叩かれる。僅かに目標をずれたハルバードが地を割り、それを、片足で踏みつけるようにして、歪虚は押さえ込んだ。
「一撃は重いさね。けど、手足は自由に動かせるんだ。――重い武器で、全身の力を入れて当てられるってのは、ちょっとあたしを甘く見すぎじゃないかな?」
拳が、腹部に叩き込まれる。
「とりあえずこの場から脱出しなさい。後でもう一回、捕まえに行くから」
残るハンターは三人。守りながらでは、分が悪い。そう判断したアルファスが、背後に居る頭目に逃走を促す。少しは体力も回復していたのか、コクコクと頷き、這い蹲るように、逃げていく。
「さーて…君も、楽しみたいんだろう?」
構えを取る。それに興味を持ったのか、歪虚の注意が、アルファスに向けられる。
その体は、四つに分身する。
(「やっぱり、相手の数に応じて分身しているみたいね」)
この場でまだ動いているのは、三人のハンターと、剛が押さえ込んでいる山賊のみ。
メルは、相手の能力の『条件』については、ほぼ確信を得ていた。
拳銃を握った手で、手刀を形成する。そのまま、円を描くような動き。リアルブルーのとある国に伝わる拳法か。
「へぇ……『侠』か。見るのも何年ぶりだろうね」
体勢を低くして、一撃をかわす。生成するは、三つの分身。然しそれらは、メルの放つ光条によって正確に狙撃される。本体は間合いを詰めたかと思うと、急激なしゃがみ込み。回し蹴りが、アルファスの足を狙う。
「っ」
猛烈な震脚。大地を然りと踏みしめたその脚と、蹴撃が激突する。だが、アルファスのバランスは揺らぐ事は無い。鈍い痛みが脚を走る。一撃をまともに受けたのだ。無傷とは行くまい。せめて生きて戻れるように――との友の願いが、負傷を軽減したのだろう。
が、この間合いこそ、アルファスの狙い。即座に剛が回復術を施したのもあり、動きは妨害されてはいない。
「この距離なら、回避できないでしょ?」
踏み込みの勢いそのままに、肘打ちが歪虚の頭部を狙って打ち下ろされる。
必勝を確信した瞬間、歪虚の体が、大きく後ろに仰け反る。
――尻の辺りを中心にして、縦回転。バック転するように脚で蹴り上げ、そのまま歪虚は体勢を立て直した。
「いやははー。中々の剛拳。けど――『柔を以って剛を破る』。『小円を以って大円を破る』事もできる訳さ」
「あんたのその武術も、そうなのかな?」
本能的に、敵が使うのも、同じ『原点』から来る武術である事を、アルファスは察する。
「『鏡影功』。ま、今では使うのはあたし以外いない訳だから、忘れても構わないけどね」
そして、再度出現した分身たち。だが、今度狙ったのは、メル。
「同じ手は食わないよ」
目の前の三体を、一気に炎で焼き払いながら、ジェットブーツで後退するメル。然し、本体だけは、その背後に回りこんでいた。
強烈な、一撃。
●消耗戦の終わり
激戦の後、アルファスもまた、分身を盾にし、その剛拳の威力を分散させた後のカウンターによって倒れた。残るは、唯一残る山賊を守っていた剛のみ。
「さっきの嬢ちゃんが気にしてたみたいだからね。一応教えておく。あたしは――龍道 千影」
「分かりました。後で伝えておきましょう」
ケイが時間を稼いでいる間ならば兎も角。今は逃げ切れないだろう。杖を強く握り締め。剛は目の前の歪虚と激突した。
――山賊たちの6名の内、5名が死亡。
――頭目は逃逸し、行方不明となる。
「これまた……随分と状況判断が甘いですね」
山賊とは、もう少し状況判断に優れていた物だと思っていたのだが。
ため息をつきながら、未知の歪虚と山賊たちの間に割って入る米本 剛(ka0320)。
ずっしりしたその体で、歪虚側からの視線を遮りながら、落ち着いた口調で山賊たちに語りかける。
「…我々はハンターで彼女は歪虚です、大人しく御縄になって下さるならば…彼女からは守りますよ?」
だが。
「なーに言ってんだ?てめぇ、俺らを捕まえに来たのか?」
――そもそも、この山賊たちに強さと言う物の判断が出来たのであれば、さっさと逃げ出している筈である。最初から、この状況には陥らなかったのだ。
「言葉が通じるなら、亜人等よりはやりやすいと思ったのですがね…」
武器を振り上げた彼らに、行き成り言葉では無理があったか、と判断した剛が、また、ため息一つ。
「抵抗するならば仕方ない、抵抗する気概を…言葉ではなく、武力で折りましょう」
飛び掛ってきた一人を、八角棍で一殴りして、吹き飛ばす。
「やあ、美人さん♪ 僕と良い事しないかい? 野豚は――放っておいてさっ!」
それと同時に、歪虚に近づくように見せかけていたアルファス(ka3312)が、ノーモーションでジェットブーツを吹かせ、急速に後退。そのまま後ろへの回し蹴りが、山賊たちのリーダーと思われる男を、大きく歪虚から離す。
すぐさま近づき、それに雷撃を加え、体の自由を奪う。
「で、残りの山賊さんはどうするんだい? あれ、『千の影』って言って――高位の歪虚なんだけど」
脳裏の辺境知識をフル動員し、表面的な情報を引き出し、言葉にする。
山賊たちに敵の能力を測る術はない。だが、頭目が一撃でやられた以上、彼らの統制は途絶えた。そこへの、アルファスの言葉の追撃。
「逃げても追われて殺されるし、命だけでも助かりたいなら頭目と僕等のトコ来れば守ってあげるよ?」
が、それを
「面白くないねぇ……」
そう感じたのか。その瞬間、歪虚が動き出す。
五つの体が、一斉に構える。
「こっちだ!!」
大声で注意を引くと共に、投擲されるたいまつ。
それに僅かに戦場の全員が気を取られた瞬間、メル・アイザックス(ka0520)もまた、山賊たちと歪虚の間に割って入る。
放たれる三本の光。二本はそれぞれ、歪虚たちに回避されてしまう。動きは迅速。並みの歪虚とは比べ物にはならない。が、残りの一本が、運よく足に直撃。バランスを崩した歪虚に、飛び掛る影。
(「今の私の全力を出し切るだけ。ヴァフラームと一緒なら、きっと――」)
振り下ろされる、金の炎を纏ったハルバード。体重を乗せた逢見 千(ka4357)の一閃が、歪虚の一体を断ち切る。
敵の速度は速い。だが、得られた手応えは、そこまで硬くない。精々ゴブリンと同等――その程度の耐久力、と言う訳か。
その勢いのまま、ハルバードの先にくくりつけたLEDライトを、別の歪虚の影に向けて照射する。
――しかし、その影に、何ら怪しい物はない。普通の影と同様、光に照らされれば薄れる。無論、歪虚自体には何の影響もない。
直後、虚像であっただろう歪虚が、一斉に消え去る。
「へぇ……あたしと遊んでくれるのか。んじゃ……行くとするかな!」
笑みを浮かべたかと思うと、その巨大な胸が揺れる。と共に、分身たちが、再度出現する。その数、九体。
「そう簡単に死んでくれるなよ?『排影』――ッ!」
全ての分身たちが、横一列に並んだかと思うと、それが一斉に突進からの直拳を繰り出す。
その数は、そのまま『攻撃範囲の広さ』と化し。千、そして――退避するか迷っていた、山賊たちを襲った。
頭目を含む二名は、剛とアルファスにより戦場から叩き出されたが故に、衝撃の嵐に巻き込まれるのは避けられたのだが、他の山賊たちは一瞬にして肉片と化す。
「っ…少し臆病な位が…ってね。」
メルだけは、ジェットブーツの反動によりギリギリで幻影の攻撃範囲を脱し、回避に成功していた。
――恐らく、歪虚側に確かな「山賊たちを抹殺する」という意は無かった筈だ。だが、彼女には、山賊たちに「配慮する」理由もまた、ない。
目の前に敵が『二名』出現した。
それらを『纏めて』攻撃するために、範囲攻撃を選択した。
その範囲に、山賊たちが居た。
――単に、それだけの事であったのである。
「これは面倒ですね――」
山賊の首根っこを掴んで後退しながら、剛がフラッシュを発する。光の波動が辿りつく前に、既に攻撃を終えた分身たちは消えていたが。光は本体である、残った歪虚に叩き付けられる。
広がる光は、歪虚の影を一瞬、掻き消すが――
「へー。おっさんもやるんだ。じゃ、遠慮をする必要はないよね」
相変わらず、歪虚の口元には、戦いを楽しんでいるかのような、笑みが浮かんでいる。
●強襲と強襲
隠れていた二人は、この瞬間を見逃す事は無かった。
飛来する、ケイ・R・シュトルツェ(ka0242)が放ったロングボウの矢が、彼女の影に突き刺さる。それに、歪虚が気を取られた瞬間――
「ったく…山ン中で美女と会えるワケねェだろうが。しかも馬みてぇに蹴り飛ばすんだぜ? チンピラのオレちゃんでも分かるヤバさだぜ。 ――さぁて、ギャンブルのお時間だ」
続けざまに放たれた氷霜の矢が、恐るべき精密度を以って彼女の太ももに傷をつける。
冷気が、僅かに彼女の動きを鈍らせる。
「へぇ…面白い。さっきからこそこそ何をしていたかと思ったけど、奇襲を待ってたのかー。いやー、これは一本取られたなー」
新たな遊び相手を発見したような表情。その瞬間、分身たちが再度出現する。その数――11体。
「さーて、鬼ごっこかな?付き合ってやるよっ」
爆発的な加速を持って、彼は二発目の矢を放った方――lol U mad ?(ka3514)の方へ向かっていった。ロルの攻撃に付与されていた冷気は確かに彼女の敏捷性を多少、低下させていたが――それは僅かな物であり、また純粋な直線的な加速力には影響を及ぼしていない。
「あれ、僕とはもう遊べないのかな?」
アルファスが放った光条は、然し歪虚の速度に後塵を拝す。そもそも、敵が並みの疾影士だったとしても、若しも全力を『移動』に傾けたのならば、移動しながらの攻撃でその敵を捉える事は光条の射程では無理だったのである。
「対峙した人数だけ増えるっテェのはマジだとして、こう簡単にコッチがバレるってのは予想外だったぜ…!」
予測では、もう二発ほど余裕があったはずだ。だが、ハンターマントを被っててもバレたと言う事は、弾道を読まれていたのか――それとも、気配察知か。どちらにしろ、恐るべき精密性で、敵はこちらへと駆けて来た。
「ンな毎回毎回分身し直すってんなら、本体確認してても無駄っテェ事かよ」
同時に襲ってくる、八体の敵。今から動いても、マントの解除等から間に合うまい。
が、ただではやられはしない。分身の中で一体だけ、動きが鈍い物。それが、一発目の氷の矢を受けた本体だ。距離はまだある。一手だけでは届きはしない。
狙い済ました一撃が、歪虚に向かう。
パン。矢は分身の一体を貫き、氷像にして打ち砕いた。
「マジかよ……」
決して、ロルの狙いが間違っていた、等と言う事は無い。
分身の一体が、本体を庇い。代わりに矢を受けたのである。次の矢をつかえた瞬間。敵は既に、目の前にまで迫っていた。
「はい、鬼ごっこはおしまいね」
「だからオレちゃん、こんな怖ェ姐ちゃんと顔合わせたくねーんだよ…」
ロルを倒した歪虚。然し、背後から襲い掛かる矢が、その腕を掠める。
「ありゃ。もう一人いたのか。続行かなぁ」
再度、全て消えた筈の分身が、彼女の後ろに現れる。
向かう先は、次々と隠蔽場所を変えながら射撃するケイ。
――結論として、これは泥沼の戦いに陥った。
射撃ごとに次々と場所を変えるケイを明確に捉えるまでには歪虚は時間を要したが、ケイの方も分身を全て防御に回した歪虚の防衛線を貫く事はできない。お互い移動しながらであるが故に、近接攻撃が主体であった他の味方が援護する事もできなかった。純粋に、全力移動に追いつかなかったのである。
が、然し、移動するごとに草木に触れ音を立てたその僅かなヒントを頼りに、少しずつ距離は詰まっている。
「なら――こうするまでね」
ケイは、逃げるのを止めた。
息を潜め、機を待つ。
敵の分身が消える。その一瞬を。
そして、その機が見えた時。彼女は木の上から、ナイフを構え、飛び掛った。狙うは頭頂部。落下突きによる一撃必殺――!
「殺気が重いんだよ。距離を置いてるなら兎も角、この距離であたしが殺気を探知できない訳がないんだよ」
カン。左の拳でナイフが逸らされ。
ドン。右の拳によるボディーブローが叩き込まれる。よろめいたケイが、僅かに後ろに下がる。然し、それは飽くまでもポーズだけ。恐るべき敏捷性で、逆の手に拳銃をスライドさせ、それを目の前の歪虚に向け――
――そして、その手は掴まれた。
いや、その全身が、十体の分身の手によって、掴まれたのであった。
「『鎖影』――いやぁ、お姉さんはよーくがんばったよ。あたしもここまで楽しめたのは、久しぶりだったかなぁ」
叩き込まれる、連打。
●そして状況は戻り
奇襲を仕掛けた二人を倒した歪虚は、改めて、残りのハンターたちと対峙していた。
――ここで、ハンター側の作戦の齟齬が、露呈する。
攻撃を以って山賊たちを無力化し、確保したのはいい。然し、誰がそれを『戦場から脱出させる』のだろうか?
そこに、認識の違いがあった。皆、目の前の歪虚との交戦に、気を取られていたのだ。
「フンッ!」
剛が棍を振り回し、円盤のようなその面から、光が放たれる。光は影を掻き消し、そして視覚を妨害し、歪虚に隙を作り出す。
「名前だけでも、聞かせてもらえないのかな?」
メルが機杖から放つ光束――デルタレイは、一本のみが、歪虚の方へと向かう。
何かしら、視覚以外の方法で攻撃の到来を探知したのか。体を捻るように螺旋を描き、掠めるようにして、歪虚はメルへと飛び掛る。それを迎撃しようとするアルファスのデルタレイも、また同様に回避されてしまうが――
「難しく考えることはないよね。真の強者であることを証明してみせればいいんだから」
振り下ろされる金に光るハルバード。腕を交差してそれを受けた歪虚が、大きく後ずさる。
「おー。しびれるねぇ。流石力入ってるぅ!」
ブン。その後ろに、再度八体の分身たちが。
「『連影』――ッ!」
次々と、分身たちが千に襲い掛かる。堅守するには聊か遅い。それは敵の攻撃が来る事を先読みし、準備しておく。構えておくタイプの技なのだ。
ハルバートを盾にガードする。攻撃の一発一発は、それ程重いわけではない。精々ゴブリン程度だろう。
が、最後の二体による攻撃の際。左胸に突き刺さった一発だけは、途轍もない重さを持ち、千は思わず、胸元を押さえる。
(「スピードは全員見分けがつかないけど…本体だけパワーは桁違いか」
痛みに歯を食いしばりながらも、全力でハルバードを振り上げる。攻撃を終えた分身たちが消えうせた瞬間を狙い、一気に振り下ろす。
「あたし一人ならやりやすいと思った?残念だね!」
ヒュッ。
奇妙な動きで、横からハルバードの柄が叩かれる。僅かに目標をずれたハルバードが地を割り、それを、片足で踏みつけるようにして、歪虚は押さえ込んだ。
「一撃は重いさね。けど、手足は自由に動かせるんだ。――重い武器で、全身の力を入れて当てられるってのは、ちょっとあたしを甘く見すぎじゃないかな?」
拳が、腹部に叩き込まれる。
「とりあえずこの場から脱出しなさい。後でもう一回、捕まえに行くから」
残るハンターは三人。守りながらでは、分が悪い。そう判断したアルファスが、背後に居る頭目に逃走を促す。少しは体力も回復していたのか、コクコクと頷き、這い蹲るように、逃げていく。
「さーて…君も、楽しみたいんだろう?」
構えを取る。それに興味を持ったのか、歪虚の注意が、アルファスに向けられる。
その体は、四つに分身する。
(「やっぱり、相手の数に応じて分身しているみたいね」)
この場でまだ動いているのは、三人のハンターと、剛が押さえ込んでいる山賊のみ。
メルは、相手の能力の『条件』については、ほぼ確信を得ていた。
拳銃を握った手で、手刀を形成する。そのまま、円を描くような動き。リアルブルーのとある国に伝わる拳法か。
「へぇ……『侠』か。見るのも何年ぶりだろうね」
体勢を低くして、一撃をかわす。生成するは、三つの分身。然しそれらは、メルの放つ光条によって正確に狙撃される。本体は間合いを詰めたかと思うと、急激なしゃがみ込み。回し蹴りが、アルファスの足を狙う。
「っ」
猛烈な震脚。大地を然りと踏みしめたその脚と、蹴撃が激突する。だが、アルファスのバランスは揺らぐ事は無い。鈍い痛みが脚を走る。一撃をまともに受けたのだ。無傷とは行くまい。せめて生きて戻れるように――との友の願いが、負傷を軽減したのだろう。
が、この間合いこそ、アルファスの狙い。即座に剛が回復術を施したのもあり、動きは妨害されてはいない。
「この距離なら、回避できないでしょ?」
踏み込みの勢いそのままに、肘打ちが歪虚の頭部を狙って打ち下ろされる。
必勝を確信した瞬間、歪虚の体が、大きく後ろに仰け反る。
――尻の辺りを中心にして、縦回転。バック転するように脚で蹴り上げ、そのまま歪虚は体勢を立て直した。
「いやははー。中々の剛拳。けど――『柔を以って剛を破る』。『小円を以って大円を破る』事もできる訳さ」
「あんたのその武術も、そうなのかな?」
本能的に、敵が使うのも、同じ『原点』から来る武術である事を、アルファスは察する。
「『鏡影功』。ま、今では使うのはあたし以外いない訳だから、忘れても構わないけどね」
そして、再度出現した分身たち。だが、今度狙ったのは、メル。
「同じ手は食わないよ」
目の前の三体を、一気に炎で焼き払いながら、ジェットブーツで後退するメル。然し、本体だけは、その背後に回りこんでいた。
強烈な、一撃。
●消耗戦の終わり
激戦の後、アルファスもまた、分身を盾にし、その剛拳の威力を分散させた後のカウンターによって倒れた。残るは、唯一残る山賊を守っていた剛のみ。
「さっきの嬢ちゃんが気にしてたみたいだからね。一応教えておく。あたしは――龍道 千影」
「分かりました。後で伝えておきましょう」
ケイが時間を稼いでいる間ならば兎も角。今は逃げ切れないだろう。杖を強く握り締め。剛は目の前の歪虚と激突した。
――山賊たちの6名の内、5名が死亡。
――頭目は逃逸し、行方不明となる。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/17 02:41:41 |
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相談卓 米本 剛(ka0320) 人間(リアルブルー)|30才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/05/19 21:43:58 |