ゲスト
(ka0000)
静かなる通貨輸送
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/22 12:00
- 完成日
- 2015/05/29 05:40
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
王都【イルダーナ】の第一街区に存在するグラズヘイム王立銀行はクリムゾンウエスト全土に多大な影響を持つ存在である。何故なら通貨の鋳造から流通のすべてを取り仕切っているからだ。
ある日、馬車二両と荷馬車五両が王都を出発した。王立銀行と深い繋がりがある大商人が所有する商隊であり、その荷は鋼鉄製の鎧などの防具とされている。
しかし真実は違う。古都【アークエルス】の銀行へ届ける大量の通貨が積まれていた。
本来ならば王立軍が護衛について輸送を担うのが道理なのだが、それが難しい事情があるらしい。使い道は貴族への恩賞だと噂されている。どうやらその功績が表沙汰にできないもののようだ。
すべてが嘘で別の理由が真実なのかも知れない。ともあれ荷馬車の積み荷を秘密裏に輸送することに変わりはなかった。
大商人はハンターズソサエティを通じて口の硬いハンター達を護衛として雇っている。
片道六日の旅の間、何があっても荷が盗まれないように護りきるのがハンター達の役目だ。敵はいろいろと想定されているが、一番厄介なのは賊の類いである。
安全に配慮して夜間の移動は行わない。村や町の宿で夜が明けるのを待ってから翌朝出発する。但し、三日から四日にかけての一晩だけ人里離れた土地で野宿をしなければならなかった。
三日目の暮れなずむ頃、商隊は人家がまったくない丘陵地帯のど真ん中に停まった。そして野宿の準備を始める。
事前に万全の準備を整えていたハンター達は警戒を強めるのだった。
ある日、馬車二両と荷馬車五両が王都を出発した。王立銀行と深い繋がりがある大商人が所有する商隊であり、その荷は鋼鉄製の鎧などの防具とされている。
しかし真実は違う。古都【アークエルス】の銀行へ届ける大量の通貨が積まれていた。
本来ならば王立軍が護衛について輸送を担うのが道理なのだが、それが難しい事情があるらしい。使い道は貴族への恩賞だと噂されている。どうやらその功績が表沙汰にできないもののようだ。
すべてが嘘で別の理由が真実なのかも知れない。ともあれ荷馬車の積み荷を秘密裏に輸送することに変わりはなかった。
大商人はハンターズソサエティを通じて口の硬いハンター達を護衛として雇っている。
片道六日の旅の間、何があっても荷が盗まれないように護りきるのがハンター達の役目だ。敵はいろいろと想定されているが、一番厄介なのは賊の類いである。
安全に配慮して夜間の移動は行わない。村や町の宿で夜が明けるのを待ってから翌朝出発する。但し、三日から四日にかけての一晩だけ人里離れた土地で野宿をしなければならなかった。
三日目の暮れなずむ頃、商隊は人家がまったくない丘陵地帯のど真ん中に停まった。そして野宿の準備を始める。
事前に万全の準備を整えていたハンター達は警戒を強めるのだった。
リプレイ本文
●
通貨輸送の商隊が王都【イルダーナ】を出発して早三日目。
夜間は町や村で宿をとり、夜明けを待って移動を続けてきた。しかし今晩は違う。野宿で一晩過ごす予定となっている。
輸送隊の殿を務めていた馬上のセシル・ディフィール(ka4073)が周囲を見渡す。草木が生えた丘陵が何処までも続く。
「賊からすれば今夜が襲う絶好の機会ですね」
誰が推理してもおそらく答えは同じであろう。
「コーシカ、颯、今晩の見張り番は一緒だよ。頑張ろうね」
戦馬に跨がる時音 ざくろ(ka1250)は、併走していたコーシカ(ka0903)と八劒 颯(ka1804)が見えるように身体を逸らす。
「こうしてざくろと走れるのは楽しいけれど、襲われるのならそろそろよね」
重装馬を走らせなからコーシカが胸の前で腕を組んだ。
「テントを張るのは颯におまかせですの!」
八劒颯はゴースロンの馬上で握り拳を振り上げる。
「ようやくこの荷馬車が活躍するときがきたようだな」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は、列の後ろから二番目を走る荷馬車の御者を務めていた。
この荷馬車は囮。テントや照明器具が積まれている。貨幣用の木箱も載せられていたが、中身は食料ばかりである。
商隊長が乗り込んでいる馬車が先頭を走っていた。副商隊長の馬車は最後尾。荷馬車五両は間に挟まれながら大地を駆ける。
「単調だと余計に……」
先頭の馬車に乗っていたサントール・アスカ(ka2820)は欠伸をこらえる。昨晩の深夜から朝まで見張りを担当して、そのまま日中の護衛を務めてきたからだ。
「冷めているけれど、眠気覚ましにちょうどいいはずよ」
同乗していた八原 篝(ka3104)がカップにお茶を注いでくれた。濃いお茶のおかげでサントールはもうしばらくがんばれそうである。
「あの丘の裏側に隠れられたらわかりませんの」
戦馬で斥候を務めていたファリス(ka2853)が丘の上から駆け下りる。気になった個所を確認しては商隊の列に戻るを繰り返す。
しばらくして商隊所属の護衛達と一緒に野宿に適した場所を探しに向かう。戻ったファリスは商隊長に報告。いくつかの候補地の中から商隊長が野宿の場所を決めた。
停まった馬車から下りた八原篝がふと空を見上げる。
「間違いなく降るわね。……敵はきっと、雨に紛れて来るはず」
厚い雲に覆われていたせいで、周囲は日の入り直前のように暗かった。
●
一時間の内に野宿の準備は完了する。
焚き火を囲みながらで料理を食べて空腹が満たす。その後は就寝の時間だが、それが完全に許されたのは御者全員と一部の者達だけである。ハンター達にとって夜間の警戒も重要な任務だった。
商隊長の招集によってハンター全員と商隊所属の護衛役十名が一所に集められる。役割分担はすでに決められていたのに関わらず。
「今回の輸送計画、通貨の輸送は二の次なのだ。王立銀行内の裏切り者を洗いだすのが真の目的である」
商隊長の説明に多くの者が驚いた。何となく察していた者も幾人かいたようだが。
囮以外の荷馬車で通貨を運んでいるのは本当である。但し、通常の半分に抑えられていた。万が一大失敗に終わったとき、賊側に不信感を持たれないようにするための事前の策である。
「この半年の間に五回も襲撃を受けている。通算で三車両分の通貨が奪われてしまった。情報がどの辺りから洩れているのか、それを調べるのが今回の最重要任務だ。今回はいくつか符号がすでにばらまかれている。それらを知るために一人か二人、生きたまま連れてきて欲しい。賊の中で偉い者を頼むぞ」
商隊長からの説明が終わる寸前、まるで示し合わせたかの如く雨が降りだしてきた。
解散して夜の見張りが始まる。深夜に交代する約半数は眠りに就く。
「寝静まった頃か、明け方か……その辺りが襲撃の狙い目だろう」
余っていた干し肉を飲み込んだサントールはテントの中で横になった。
「これでよし。ランタンも用意して万端だな」
ディアドラは女性の護衛役二名と一緒に荷馬車内で眠ることにする。襲撃でたたき起こされてもすぐに動けるようにランタンを天井に吊して灯しておく。
「全然遠くが見えないですの」
「この暗さはかえって有利かな。光に注意しておけばよさそうだし」
テント内のセシルとファリスは入り口を捲り上げて双眼鏡で外を眺めた。
月光や星明かりがあれば夜間の行動も比較的容易い。しかし普通の者が暗闇の中で行動するのは絶対的に不可能である。灯りがなければ賊であっても身動きでないはず。そうセシルとファリスは判断した。
交代に備えて二人は横になる。雨音のおかげかすぐに夢の中へと誘い込まれた。
時音、コーシカ、八劒颯は降りしきる雨の中で野外に仕掛けを施す。
「賊を誘うつもりだったなんて、そういうことはもっと早くいって置いて欲しかったですねぇ~」
八劒颯は握っていたハンディLEDライトで周囲を照らした。この辺りは丘の狭間にある窪んだ土地で道のようである。
「ここ、お願いできるかな?」
「ざくろがいうのなら、仕方がないわね。その代わり……」
コーシカに耳裏へ息を吹きかけられた時音が飛び跳ねた。
真っ赤に顔を染めた時音が見られて満足したコーシカは足元の草を結んで罠を仕掛ける。時音は雑木の間に鳴子付きの縄を張っていく。
その頃、八原篝は商隊がこれまで通過してきた経路を遡っていた。
地面には馬蹄や車輪の跡がくっきりと残っているのでとてもわかりやすい。つまり、これを目印にすれば誰でも商隊のところまでたどり着けてしまう。賊にとっても利用価値大のマーキングである。
「それにしても依頼で隠し事されるなんて。報酬を弾んでもらわないとやっていられないわ」
八原篝は隠れるのに良さげな枝葉が茂った雑木を見つける。その下で雨を凌ぎながらしばらく監視を続けるのだった。
●
商隊所属の護衛役十名も交代で警戒に当たる。
ハンター達も深夜に代わった。特に何事も起こらない時間だけが過ぎていく。
護衛任務の最中で気になるのは降りしきる雨のことだけ。厳しい自然環境の割りには怠惰の雰囲気が漂い始める。
夜明けまで一時間を切った頃、セシルは八原篝の代わりに商隊が移動してきた経路を雑木の下で監視していた。
「あれは……?!」
小さな光が遠方に見えたので双眼鏡を覗き込む。すると一つの輝きではなく、複数の集まりだった。
身一つで近づいて姿と会話を確認。間違いなく通貨輸送の商隊を狙う賊である。セシルは茂みの中に隠しておいた戦馬に跨がって雨の中を駆け抜けた。
十数分後、商隊長に賊接近の報が伝えられる。起きていた者達は戦闘と出発の準備を整えた。寝ていた者達は迅速かつ静かに起こされる。
まもなく賊との戦闘が始まるのだった。
●
「視界悪いし、……嫌ねぇ。雨で透けないといいけど」
「この颯、初めての依頼は盗賊狩りでした。故にいまさら対人戦に戸惑うことなどありません」
コーシカと八劒颯は岩陰に隠れつつ、遠方の灯りに照準を定めて銃爪を絞る。
自分達から少し離れた岩の上には輝くランタンが置かれていた。賊共が勘違いするのには充分な効果があり、飛んでくる矢の殆どがランタンを狙っている。
まもなく賊との距離を測っていた時音が岩陰から飛びだした。
「行くよ……。敵の攻撃はざくろに任せて!」
ジェットブーツの勢いに乗って賊に急接近。コーシカと八劒颯の支援のおかげもあって賊の死角へと回り込む。
一呼吸ついた時音は追いかけてきた賊に超重練成で大きくした大剣を叩きつける。わざと大振りすることで賊の意識を引きつけていく。
時音を追いかけようとした賊共が次々と転倒。この辺りにも草を結んだ罠が仕掛けてあった。
「この弾熱いらしいから、当たるとそうとう痛いわよ?」
岩陰から飛びだしたコーシカが『魔導拳銃「イグナイテッド」』で賊の肩や足を狙う。時音だけに攻撃が集中しないよう、このときのコーシカは腰にランタンをぶら下げていた。
「こっちですよ」
八劒颯は強力なLEDライトの輝きを利用して賊を誘いだす。一所に集まった賊目がけてファイアスローワーによる炎噴射を浴びせかける。
「びりびり電撃どりるぅ~!!!!」
さらにエレクトリックショックを発動。持ち替えていた魔導ドリルを賊の馬車へと激しく突き立てた。
戦闘不能に陥らせた賊が二十を越えた頃、新たな賊の騎馬集団が少し離れた草原を駆け抜けていく。
その数十二。だが実際に商隊の近くまで辿り着いたのは七。草を結んだ罠が功を奏して賊が次々と落馬したからである。
頃合いを感じた三人は隠してあった愛馬に騎乗。野宿の地から出発した商隊を追いかけるのだった。
●
雨脚が強まる中、商隊の馬車二両と荷馬車五両が暗闇の中を駆ける。移動を心がけたのは賊に囲まれる危険性を排除するためだ。
「来たか。後は頼んだぞ」
「大王たるボクが残るのだ。安心しておくがよいぞ」
ディアドラに声をかけたサントールが荷馬車から飛び降りる。
商隊の列は人の足でも追いかけられる程度の進み。騎馬の賊が追いつくのも時間の問題だった。
覚醒した猫背になって低いうなり声をあげる。
迫り来る賊の騎馬団。
飛んでくる矢を避けながらすれ違いざまの馬の横っ腹に拳を叩き込んだ。落馬した賊は泥まみれになりながらも戦いを挑んでくる。
サントールは高速の足捌きで賊を翻弄してジャブで距離を測った。どうやら覚醒者らしく、放ったストレートは躱されてしまう。そうとわかれば手加減はいらない。
足を引っかけて姿勢を崩させる。腕を取りつつ地面に転ばして使い物にならなくしておいた。そうやって賊の騎馬四体の足止めに成功。さすがにすべてを阻止するのは難しく、賊の騎馬三体が最後尾の荷馬車へと迫る。
「車輪にイタズラしようとしてもそうはさせないぞ」
ディアドラは御者を代わってもらっていた。縁に片手で掴まりつつ、後部車輪へと放たれた槍を『シールド「トゥルム」』で受けきる。
ファリスの放ったウインドスラッシュが命中。槍で攻撃を仕掛けてきた賊が落馬して闇の中へと消えていく。
「ファリス、待ち伏せが心配なの」
「それはありえるな。セシルは四方から囲まれることを心配しておったぞ」
ファリスとディアドラが話題にしたセシルは先頭の馬車の御者台に座っていた。
リトルファイアによる魔法の火球は商隊出発まで役立つ。今はファイアアローで遠方の状況を確かめる。
「商隊長、待ち伏せがいます」
いち早く気がついたセシルは併走させていた戦馬の背中へ跳び乗った。
先行したところで賊の待ち伏せを目視。急停止して火球を作りだし、後方からやって来る商隊へ合図をだす。
先頭馬車の屋根で腹ばいになっていた八原篝は、オートマチックピストルの銃口を待ち伏せの賊共へと向ける。
「手加減なんてしない。けど、なるべく死なないでよね? わたしの目覚めが悪くなるから!」
ここぞというときの連続射撃。待ち伏せの賊よりも早く攻撃して事前の動きを抑え込んだ。さらにセシルが放ったファイアーボールによって待ち伏せの隊列に隙間が空く。
先頭馬車がその隙間に楔を打ち込むように突入。商隊の列が賊共の中央を駆け抜ける。
すれ違う際、八原篝はターゲッティングで向けられた賊の武器を弾いていく。降雨の最中でも激しい火花が散った。
「……泥棒は許さないの!」
最後尾荷馬車のファリスはスリープクラウドで賊をまとめて眠らせる。去り際には後方に向けてファイアーボールを撃ち込む。
賊共は負った怪我もさることながら精神的に酷く参ったようである。それ以上、追ってはこなかった。
●
時音、コーシカ、八劒颯は後方で指揮を執っていた賊一名と接触。捕縛に成功していた。
サントールもハンター仲間の協力を得て、待ち伏せの中にいた賊一名を捕縛する。
夜明けまで雨は続いていたが昼前には止んだ。
賊二名の尋問は安全な町に着いてから行われた。別々の場所で心を揺さぶり、疑心暗鬼を誘発させる。
ハンターに尋問の見学や参加は許されていたが、興味を持たない者もいた。
「風呂があってよかったですね。雨はどうしても冷えますし」
サントールは宿の共用風呂で汚れを落とし、雨で冷えた身体を温める。小腹が空いていたので宿の庭で調理していた料理人の元へ。
「なんだ、サントールではないか」
先客としてディアドラの姿がある。
塩漬けの脂身ソーセージを使った鍋を二人でさっそく味見。近隣で採れたトマトも使われていて、とても美味い。椀に一杯ずつ頂く。他の料理もよい香りがして夕食が楽しみな二人である。
時音、コーシカ、八劒颯は自分達が捕まえた賊の尋問を隣室で見守った。
「捕まえるときに足を射ったけど、とりあえず生きてるようね。元気に抵抗しているし……まぁ、大丈夫よね」
コーシカは少々やり過ぎたと感じているようだ。
「符号ってなんだろうね?」
時音は昨晩、商隊長がいっていた言葉が気になる。
「銀行内の疑わしい人物にわざと輸送計画を流したはずですの。それにきっと細かな違いが、例えば通貨を届ける相手先の担当者が違うとか?」
八劒颯の説明に時音は納得した。
賊の様子からして、もうすぐ証言が得られそうである。
別室にいたもう一名の賊はやけに派手な格好をしていた。服装だけを見れば貴族のようだ。自分はどこどこの血筋の由緒正しき貴族だと強弁し続ける。
「何、いってるんだか……」
見学していた八原篝だが途中で飽きて立ち去った。仲間達が風呂に入るとのことなので一緒につき合う。
「貴族って言い張っていたんですか?」
「だからといって盗んでもいいというのはおかしいですの」
八原篝は湯に浸かりながら尋問で見聞きしたことをセシルとファリスに話す。
予定よりも遅れたが、商隊は無事アークエルスへと到着。大量の硬貨は銀行へと無事届けられた。
ハンター達の護衛任務はここで終了。転移門で帰路に就く。
後日、事件の顛末を知る機会がある。捕まえた賊一名が貴族だというのは真っ赤な嘘だった。自称貴族の周辺を洗いだすことで加担した賊三十七名が逮捕される。
王立銀行内の裏切り者も特定されたようだ。
すべては決着をみる。通貨輸送を狙う不届き者はひとまず一掃された。
通貨輸送の商隊が王都【イルダーナ】を出発して早三日目。
夜間は町や村で宿をとり、夜明けを待って移動を続けてきた。しかし今晩は違う。野宿で一晩過ごす予定となっている。
輸送隊の殿を務めていた馬上のセシル・ディフィール(ka4073)が周囲を見渡す。草木が生えた丘陵が何処までも続く。
「賊からすれば今夜が襲う絶好の機会ですね」
誰が推理してもおそらく答えは同じであろう。
「コーシカ、颯、今晩の見張り番は一緒だよ。頑張ろうね」
戦馬に跨がる時音 ざくろ(ka1250)は、併走していたコーシカ(ka0903)と八劒 颯(ka1804)が見えるように身体を逸らす。
「こうしてざくろと走れるのは楽しいけれど、襲われるのならそろそろよね」
重装馬を走らせなからコーシカが胸の前で腕を組んだ。
「テントを張るのは颯におまかせですの!」
八劒颯はゴースロンの馬上で握り拳を振り上げる。
「ようやくこの荷馬車が活躍するときがきたようだな」
ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)は、列の後ろから二番目を走る荷馬車の御者を務めていた。
この荷馬車は囮。テントや照明器具が積まれている。貨幣用の木箱も載せられていたが、中身は食料ばかりである。
商隊長が乗り込んでいる馬車が先頭を走っていた。副商隊長の馬車は最後尾。荷馬車五両は間に挟まれながら大地を駆ける。
「単調だと余計に……」
先頭の馬車に乗っていたサントール・アスカ(ka2820)は欠伸をこらえる。昨晩の深夜から朝まで見張りを担当して、そのまま日中の護衛を務めてきたからだ。
「冷めているけれど、眠気覚ましにちょうどいいはずよ」
同乗していた八原 篝(ka3104)がカップにお茶を注いでくれた。濃いお茶のおかげでサントールはもうしばらくがんばれそうである。
「あの丘の裏側に隠れられたらわかりませんの」
戦馬で斥候を務めていたファリス(ka2853)が丘の上から駆け下りる。気になった個所を確認しては商隊の列に戻るを繰り返す。
しばらくして商隊所属の護衛達と一緒に野宿に適した場所を探しに向かう。戻ったファリスは商隊長に報告。いくつかの候補地の中から商隊長が野宿の場所を決めた。
停まった馬車から下りた八原篝がふと空を見上げる。
「間違いなく降るわね。……敵はきっと、雨に紛れて来るはず」
厚い雲に覆われていたせいで、周囲は日の入り直前のように暗かった。
●
一時間の内に野宿の準備は完了する。
焚き火を囲みながらで料理を食べて空腹が満たす。その後は就寝の時間だが、それが完全に許されたのは御者全員と一部の者達だけである。ハンター達にとって夜間の警戒も重要な任務だった。
商隊長の招集によってハンター全員と商隊所属の護衛役十名が一所に集められる。役割分担はすでに決められていたのに関わらず。
「今回の輸送計画、通貨の輸送は二の次なのだ。王立銀行内の裏切り者を洗いだすのが真の目的である」
商隊長の説明に多くの者が驚いた。何となく察していた者も幾人かいたようだが。
囮以外の荷馬車で通貨を運んでいるのは本当である。但し、通常の半分に抑えられていた。万が一大失敗に終わったとき、賊側に不信感を持たれないようにするための事前の策である。
「この半年の間に五回も襲撃を受けている。通算で三車両分の通貨が奪われてしまった。情報がどの辺りから洩れているのか、それを調べるのが今回の最重要任務だ。今回はいくつか符号がすでにばらまかれている。それらを知るために一人か二人、生きたまま連れてきて欲しい。賊の中で偉い者を頼むぞ」
商隊長からの説明が終わる寸前、まるで示し合わせたかの如く雨が降りだしてきた。
解散して夜の見張りが始まる。深夜に交代する約半数は眠りに就く。
「寝静まった頃か、明け方か……その辺りが襲撃の狙い目だろう」
余っていた干し肉を飲み込んだサントールはテントの中で横になった。
「これでよし。ランタンも用意して万端だな」
ディアドラは女性の護衛役二名と一緒に荷馬車内で眠ることにする。襲撃でたたき起こされてもすぐに動けるようにランタンを天井に吊して灯しておく。
「全然遠くが見えないですの」
「この暗さはかえって有利かな。光に注意しておけばよさそうだし」
テント内のセシルとファリスは入り口を捲り上げて双眼鏡で外を眺めた。
月光や星明かりがあれば夜間の行動も比較的容易い。しかし普通の者が暗闇の中で行動するのは絶対的に不可能である。灯りがなければ賊であっても身動きでないはず。そうセシルとファリスは判断した。
交代に備えて二人は横になる。雨音のおかげかすぐに夢の中へと誘い込まれた。
時音、コーシカ、八劒颯は降りしきる雨の中で野外に仕掛けを施す。
「賊を誘うつもりだったなんて、そういうことはもっと早くいって置いて欲しかったですねぇ~」
八劒颯は握っていたハンディLEDライトで周囲を照らした。この辺りは丘の狭間にある窪んだ土地で道のようである。
「ここ、お願いできるかな?」
「ざくろがいうのなら、仕方がないわね。その代わり……」
コーシカに耳裏へ息を吹きかけられた時音が飛び跳ねた。
真っ赤に顔を染めた時音が見られて満足したコーシカは足元の草を結んで罠を仕掛ける。時音は雑木の間に鳴子付きの縄を張っていく。
その頃、八原篝は商隊がこれまで通過してきた経路を遡っていた。
地面には馬蹄や車輪の跡がくっきりと残っているのでとてもわかりやすい。つまり、これを目印にすれば誰でも商隊のところまでたどり着けてしまう。賊にとっても利用価値大のマーキングである。
「それにしても依頼で隠し事されるなんて。報酬を弾んでもらわないとやっていられないわ」
八原篝は隠れるのに良さげな枝葉が茂った雑木を見つける。その下で雨を凌ぎながらしばらく監視を続けるのだった。
●
商隊所属の護衛役十名も交代で警戒に当たる。
ハンター達も深夜に代わった。特に何事も起こらない時間だけが過ぎていく。
護衛任務の最中で気になるのは降りしきる雨のことだけ。厳しい自然環境の割りには怠惰の雰囲気が漂い始める。
夜明けまで一時間を切った頃、セシルは八原篝の代わりに商隊が移動してきた経路を雑木の下で監視していた。
「あれは……?!」
小さな光が遠方に見えたので双眼鏡を覗き込む。すると一つの輝きではなく、複数の集まりだった。
身一つで近づいて姿と会話を確認。間違いなく通貨輸送の商隊を狙う賊である。セシルは茂みの中に隠しておいた戦馬に跨がって雨の中を駆け抜けた。
十数分後、商隊長に賊接近の報が伝えられる。起きていた者達は戦闘と出発の準備を整えた。寝ていた者達は迅速かつ静かに起こされる。
まもなく賊との戦闘が始まるのだった。
●
「視界悪いし、……嫌ねぇ。雨で透けないといいけど」
「この颯、初めての依頼は盗賊狩りでした。故にいまさら対人戦に戸惑うことなどありません」
コーシカと八劒颯は岩陰に隠れつつ、遠方の灯りに照準を定めて銃爪を絞る。
自分達から少し離れた岩の上には輝くランタンが置かれていた。賊共が勘違いするのには充分な効果があり、飛んでくる矢の殆どがランタンを狙っている。
まもなく賊との距離を測っていた時音が岩陰から飛びだした。
「行くよ……。敵の攻撃はざくろに任せて!」
ジェットブーツの勢いに乗って賊に急接近。コーシカと八劒颯の支援のおかげもあって賊の死角へと回り込む。
一呼吸ついた時音は追いかけてきた賊に超重練成で大きくした大剣を叩きつける。わざと大振りすることで賊の意識を引きつけていく。
時音を追いかけようとした賊共が次々と転倒。この辺りにも草を結んだ罠が仕掛けてあった。
「この弾熱いらしいから、当たるとそうとう痛いわよ?」
岩陰から飛びだしたコーシカが『魔導拳銃「イグナイテッド」』で賊の肩や足を狙う。時音だけに攻撃が集中しないよう、このときのコーシカは腰にランタンをぶら下げていた。
「こっちですよ」
八劒颯は強力なLEDライトの輝きを利用して賊を誘いだす。一所に集まった賊目がけてファイアスローワーによる炎噴射を浴びせかける。
「びりびり電撃どりるぅ~!!!!」
さらにエレクトリックショックを発動。持ち替えていた魔導ドリルを賊の馬車へと激しく突き立てた。
戦闘不能に陥らせた賊が二十を越えた頃、新たな賊の騎馬集団が少し離れた草原を駆け抜けていく。
その数十二。だが実際に商隊の近くまで辿り着いたのは七。草を結んだ罠が功を奏して賊が次々と落馬したからである。
頃合いを感じた三人は隠してあった愛馬に騎乗。野宿の地から出発した商隊を追いかけるのだった。
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雨脚が強まる中、商隊の馬車二両と荷馬車五両が暗闇の中を駆ける。移動を心がけたのは賊に囲まれる危険性を排除するためだ。
「来たか。後は頼んだぞ」
「大王たるボクが残るのだ。安心しておくがよいぞ」
ディアドラに声をかけたサントールが荷馬車から飛び降りる。
商隊の列は人の足でも追いかけられる程度の進み。騎馬の賊が追いつくのも時間の問題だった。
覚醒した猫背になって低いうなり声をあげる。
迫り来る賊の騎馬団。
飛んでくる矢を避けながらすれ違いざまの馬の横っ腹に拳を叩き込んだ。落馬した賊は泥まみれになりながらも戦いを挑んでくる。
サントールは高速の足捌きで賊を翻弄してジャブで距離を測った。どうやら覚醒者らしく、放ったストレートは躱されてしまう。そうとわかれば手加減はいらない。
足を引っかけて姿勢を崩させる。腕を取りつつ地面に転ばして使い物にならなくしておいた。そうやって賊の騎馬四体の足止めに成功。さすがにすべてを阻止するのは難しく、賊の騎馬三体が最後尾の荷馬車へと迫る。
「車輪にイタズラしようとしてもそうはさせないぞ」
ディアドラは御者を代わってもらっていた。縁に片手で掴まりつつ、後部車輪へと放たれた槍を『シールド「トゥルム」』で受けきる。
ファリスの放ったウインドスラッシュが命中。槍で攻撃を仕掛けてきた賊が落馬して闇の中へと消えていく。
「ファリス、待ち伏せが心配なの」
「それはありえるな。セシルは四方から囲まれることを心配しておったぞ」
ファリスとディアドラが話題にしたセシルは先頭の馬車の御者台に座っていた。
リトルファイアによる魔法の火球は商隊出発まで役立つ。今はファイアアローで遠方の状況を確かめる。
「商隊長、待ち伏せがいます」
いち早く気がついたセシルは併走させていた戦馬の背中へ跳び乗った。
先行したところで賊の待ち伏せを目視。急停止して火球を作りだし、後方からやって来る商隊へ合図をだす。
先頭馬車の屋根で腹ばいになっていた八原篝は、オートマチックピストルの銃口を待ち伏せの賊共へと向ける。
「手加減なんてしない。けど、なるべく死なないでよね? わたしの目覚めが悪くなるから!」
ここぞというときの連続射撃。待ち伏せの賊よりも早く攻撃して事前の動きを抑え込んだ。さらにセシルが放ったファイアーボールによって待ち伏せの隊列に隙間が空く。
先頭馬車がその隙間に楔を打ち込むように突入。商隊の列が賊共の中央を駆け抜ける。
すれ違う際、八原篝はターゲッティングで向けられた賊の武器を弾いていく。降雨の最中でも激しい火花が散った。
「……泥棒は許さないの!」
最後尾荷馬車のファリスはスリープクラウドで賊をまとめて眠らせる。去り際には後方に向けてファイアーボールを撃ち込む。
賊共は負った怪我もさることながら精神的に酷く参ったようである。それ以上、追ってはこなかった。
●
時音、コーシカ、八劒颯は後方で指揮を執っていた賊一名と接触。捕縛に成功していた。
サントールもハンター仲間の協力を得て、待ち伏せの中にいた賊一名を捕縛する。
夜明けまで雨は続いていたが昼前には止んだ。
賊二名の尋問は安全な町に着いてから行われた。別々の場所で心を揺さぶり、疑心暗鬼を誘発させる。
ハンターに尋問の見学や参加は許されていたが、興味を持たない者もいた。
「風呂があってよかったですね。雨はどうしても冷えますし」
サントールは宿の共用風呂で汚れを落とし、雨で冷えた身体を温める。小腹が空いていたので宿の庭で調理していた料理人の元へ。
「なんだ、サントールではないか」
先客としてディアドラの姿がある。
塩漬けの脂身ソーセージを使った鍋を二人でさっそく味見。近隣で採れたトマトも使われていて、とても美味い。椀に一杯ずつ頂く。他の料理もよい香りがして夕食が楽しみな二人である。
時音、コーシカ、八劒颯は自分達が捕まえた賊の尋問を隣室で見守った。
「捕まえるときに足を射ったけど、とりあえず生きてるようね。元気に抵抗しているし……まぁ、大丈夫よね」
コーシカは少々やり過ぎたと感じているようだ。
「符号ってなんだろうね?」
時音は昨晩、商隊長がいっていた言葉が気になる。
「銀行内の疑わしい人物にわざと輸送計画を流したはずですの。それにきっと細かな違いが、例えば通貨を届ける相手先の担当者が違うとか?」
八劒颯の説明に時音は納得した。
賊の様子からして、もうすぐ証言が得られそうである。
別室にいたもう一名の賊はやけに派手な格好をしていた。服装だけを見れば貴族のようだ。自分はどこどこの血筋の由緒正しき貴族だと強弁し続ける。
「何、いってるんだか……」
見学していた八原篝だが途中で飽きて立ち去った。仲間達が風呂に入るとのことなので一緒につき合う。
「貴族って言い張っていたんですか?」
「だからといって盗んでもいいというのはおかしいですの」
八原篝は湯に浸かりながら尋問で見聞きしたことをセシルとファリスに話す。
予定よりも遅れたが、商隊は無事アークエルスへと到着。大量の硬貨は銀行へと無事届けられた。
ハンター達の護衛任務はここで終了。転移門で帰路に就く。
後日、事件の顛末を知る機会がある。捕まえた賊一名が貴族だというのは真っ赤な嘘だった。自称貴族の周辺を洗いだすことで加担した賊三十七名が逮捕される。
王立銀行内の裏切り者も特定されたようだ。
すべては決着をみる。通貨輸送を狙う不届き者はひとまず一掃された。
依頼結果
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面白かった! | 4人 |
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- 絡みつく慚愧の鎖
サントール・アスカ(ka2820)
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/19 19:39:34 |
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相談用 サントール・アスカ(ka2820) 人間(クリムゾンウェスト)|25才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/05/21 12:44:10 |