ゲスト
(ka0000)
蛇ですか? いいえスライムです
マスター:白河ゆう

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/25 19:00
- 完成日
- 2015/06/04 12:12
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
すっかり裏返った悲鳴を上げて、誰かが向こう側から駆けてくる。
と思いきや、再び迸る白光と轟音。
「ぎゃあああああっ!!」
相当に雷が嫌いなのであろう。悲鳴が絶叫に変わる。
フード付きの黒いマントをすっぽり被っていて顔は判らぬが、声からすると女性のようだ。
「いやぁっ! ひいぃっ! ぎゃああっ!」
自分達一行と擦れ違うのも気付く余裕もないようで、荷物をかなぐり捨てて、脇の獣道へと駆け去ってゆく人影。
更に落雷。今度は結構近い。
「ぎゃああああああっ!!!!」
一刻も早く屋根のある場所へ帰りたい気持ちもあるが。
単独行、しかも理性を失った人間を放置していってよいものだろうか。
金具の付いたベルト。落とした時に貨幣が入ってそうな音を立てた革袋。鞘に入った剣。眼鏡……。
持ち主にとって、投げ捨てて構わぬ物とも思えない。
荷物を拾い、盛大に上げ続けている悲鳴を頼りに追いかけると。
そこは切り立った崖で、人が入れそうな大きさの洞窟が口を開けていた。
「あひぃっ! ひゃあっ! うわあああっん!」
ずぶ濡れになってうずくまった人影は、尚もまだ狂乱した奇声を発していた。
声を掛けても、まったく反応しない。うわ言のようにぶつぶつ呟いてはまた雷に反応して絶叫。
とうとう失神した。
外は相変わらずの豪雨。洞窟は奥の方がやや高く傾斜していて水が流れ込んでくる心配は無さそうだ。
この人数が落ち着けるような広さではないが、天候の回復を待つにはいいだろう。
とりあえず濡れた衣服をどうにかしないと皆して風邪を引いてしまいそうだが。
失神しているこの人も自分達も、身体がすっかり冷え切っている。
ちゃぷんっ。
突き当たりの壁に人の拳位の大きさで幾つか空いた穴の中から妙な音が聞こえた気がした。
異臭が穴の奥から漂ってくる。何か嫌なモノが近付いてくる気配。
雑魔。
にゅるにゅると穴より出でしモノ達は形状だけで言うなら蛇に似ていた。
頭部に相当する部分は無い。やたらに細長いが、半透明なゼリー状の質感はスライムに近いか。
そして臭い。泥臭いならまだしも誰かが密閉空間で屁をこいたような悪臭を纏っている。
穴の奥に続いていると思われる長さは一体どれほどあるのか不明である。
総勢6匹。足元、側面、天井と、重力など存在しないかのように這いずってきた。
動きを考えれば、洞窟の狭さは二人が肩を並べて戦う事すら困難である。
外は相変わらずの天候。しかも無防備に通路のど真ん中で失神している人間が一名。
後ろに下がれる程の広さもない。どうしたものか。
と思いきや、再び迸る白光と轟音。
「ぎゃあああああっ!!」
相当に雷が嫌いなのであろう。悲鳴が絶叫に変わる。
フード付きの黒いマントをすっぽり被っていて顔は判らぬが、声からすると女性のようだ。
「いやぁっ! ひいぃっ! ぎゃああっ!」
自分達一行と擦れ違うのも気付く余裕もないようで、荷物をかなぐり捨てて、脇の獣道へと駆け去ってゆく人影。
更に落雷。今度は結構近い。
「ぎゃああああああっ!!!!」
一刻も早く屋根のある場所へ帰りたい気持ちもあるが。
単独行、しかも理性を失った人間を放置していってよいものだろうか。
金具の付いたベルト。落とした時に貨幣が入ってそうな音を立てた革袋。鞘に入った剣。眼鏡……。
持ち主にとって、投げ捨てて構わぬ物とも思えない。
荷物を拾い、盛大に上げ続けている悲鳴を頼りに追いかけると。
そこは切り立った崖で、人が入れそうな大きさの洞窟が口を開けていた。
「あひぃっ! ひゃあっ! うわあああっん!」
ずぶ濡れになってうずくまった人影は、尚もまだ狂乱した奇声を発していた。
声を掛けても、まったく反応しない。うわ言のようにぶつぶつ呟いてはまた雷に反応して絶叫。
とうとう失神した。
外は相変わらずの豪雨。洞窟は奥の方がやや高く傾斜していて水が流れ込んでくる心配は無さそうだ。
この人数が落ち着けるような広さではないが、天候の回復を待つにはいいだろう。
とりあえず濡れた衣服をどうにかしないと皆して風邪を引いてしまいそうだが。
失神しているこの人も自分達も、身体がすっかり冷え切っている。
ちゃぷんっ。
突き当たりの壁に人の拳位の大きさで幾つか空いた穴の中から妙な音が聞こえた気がした。
異臭が穴の奥から漂ってくる。何か嫌なモノが近付いてくる気配。
雑魔。
にゅるにゅると穴より出でしモノ達は形状だけで言うなら蛇に似ていた。
頭部に相当する部分は無い。やたらに細長いが、半透明なゼリー状の質感はスライムに近いか。
そして臭い。泥臭いならまだしも誰かが密閉空間で屁をこいたような悪臭を纏っている。
穴の奥に続いていると思われる長さは一体どれほどあるのか不明である。
総勢6匹。足元、側面、天井と、重力など存在しないかのように這いずってきた。
動きを考えれば、洞窟の狭さは二人が肩を並べて戦う事すら困難である。
外は相変わらずの天候。しかも無防備に通路のど真ん中で失神している人間が一名。
後ろに下がれる程の広さもない。どうしたものか。
リプレイ本文
「フロー姉様もネフィ姉様も……凄い濡れて……」
「あれれ、おねーさん気絶しちゃってるよ? 雨も楽しいし、雷がなって綺麗なのに~♪」
「ダメよ、動けないじゃないっ。ほら、変なのが出てきたから! 如何にかしないといけないわ!」
片や甘えん坊、片や能天気。緊迫した状況などお構いなしの妹達に、ああもう私がしっかりしないと……凹凸に満ちた体躯に力を漲らせるフローレンス・レインフォード(ka0443)。
「人の出入りがなければ、ファイアーボールで一掃したのですけれどねぇ……」
後ろから微笑ましく眺めながら、アミグダ・ロサ(ka0144)がおしとやかに過激な発言をぶちかます。
その間にも容赦なくスリープクラウドを放つが、一瞬の霧の後の風景は変わらない。
「あの~、それって私達全員吹き飛びますから? アルトさん、突っ込むので敵をお願いします!」
「了解!」
燃え盛る幻炎を帯びた二つの影が悪臭漂う洞窟の最奥へと身体を向ける。
長身のアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が雑魔の進行を阻止すべく立ちはだかり、手早く口元をバンダナで覆った天乃 斑鳩(ka4096)が倒れている人物へ。
(兎にも角にも、重傷からの復帰戦……)
治癒箇所の違和感は感じないが、どこまで体調が戻っているかはやはり戦闘ともなれば動いてみないと確信は持てない。
相手は雑魚ともいえる相手だ。試すにはちょうどいい相手だろう。
対する細長き蛇のような物体は岩肌沿いに6体。ところが露出部が少ないアルトを無視して後方へ突き進もうとする。
闘気に満ちた自分を完全に無視するものとは。そんな驚愕が掠めた思考より先に身体が反射的に動く。
「待て!! うぁ!?」
得物を手にした両の腕では間に合わないと、咄嗟に四肢全てを犠牲にして阻もうとしたのは他者の被害を最小限に抑える選択。
自らの強靭さと充分な武装に自信があってこそ可能な捨て身。初撃を一斉に受けたとて大事には至らぬ。
最大数を捉えようとした結果、身体を開いた状態で巻きつかれてしまった。
(何処まで伸びてるんだ、このスライム)
まだ穴より這いずる長躯の後端を視界に掴めない。
締め上げる特性に合った粘りのある単純な生命体。さすがに四肢同時では振りほどくのに姿勢も厳しい。
だが過半数の進行を一身をもって阻止できた。まずは救出に要する時間を稼げればいい。それが最優先だ。
「ぐ……結構重いですね……」
革鎧を着込んでいる上に撥水を凌ぐほど激しかった豪雨にマントがたっぷりと水分を含んでしまっている。ましてや斑鳩より大柄で筋肉質だ。失神した人間は余計に重い。
マテリアルの力を帯びているとはいえ、いくらなんでも超人的能力で颯爽と担いで走るとはいかない。
幻炎に更に別の光で全身を覆われて、輝きを増す斑鳩。アルトも同様。早速のフローレンスの援護だ。
それは馬鹿力の足しになる訳ではないので、早速、失神者を担ぎ上げた斑鳩の足元にも1体のスライムが巻き付いて絡みつく。
うねうねぎゅるる、と。
「匂いは最悪だし、さっさと消えちゃうのだ~っ!!」
ネフィリア・レインフォード(ka0444)の小さな身体が四つ足に近い態勢で地すれすれに飛び込む。
マテリアルの力により射出されたナックルが低空飛行で細い物体を打つが、斑鳩の脚に巻きついていない部分なので動きを阻害するには至らない。
その間に身体の方が追いつき、武器は再び拳へと戻る。
「どこまで伸び……ひぁっ……くっ」
「詰まってるけどボクも飛び込んじゃうね!」
邪魔にならないようにとタイミングを伺うつもりでいたモカ・プルーム(ka3411)だが、アルトが四肢を絡め取られてしまっている状況が突入を急いた。一刻も早く彼女を援護せねば。
幸いモカの体格なら一気に向こう側まですり抜けられる。アルトの脚を飛び越して、壁を背に振り向いた。
腰に結びつけたランタンが大きく揺れて光が踊り、奇妙な形の影絵が洞窟内に揺らめく。
「うぷっ……」
最奥の悪臭は強く、まともに呼吸したら吐き気がしそうだ。人一倍鼻が利くのもこんな時は困りもの。
(アルトさん動かないでね)
モカの意思に応じて獣の顎の形に展開した爪が、紙一重の精密さでまずは利き腕を自由にしようとスライムを引っ掛けて抉る。
鋭い爪に千切られた部分から後ろが今度は爪を伝ってモカの腕を這い登り、ぬめぬめと気色悪い感触が伝う。
短く残った部分はまだアルトの腕に巻きついていたが、まだガントレットの上。ひとまず無視して反対側の腕を捉えるスライムを断つ。
「何よりも、この人の安全をか、く、ほ……いやあああっ」
「……っ!?」
「ゃ、スライムこっちきたっ! ふ、服の中入っちゃやだぁっ! ひゃひぃぃんっ♪」
「ああごめん、飛んでいったね。うん、何とかして。こっちもひどいんだ」
華麗なるステップで人を越え、壁を蹴り、救出した人物を、もぞもぞにゅるにゅるの所為で最後は思わず投げ出しそうになって。
これはいけないと自分の身体をクッションにして一緒に転がってしまう斑鳩。
彼女が引き摺った物体の引き剥がしに応じていた星見 香澄(ka0866)が切り飛ばした断片がブリス・レインフォード(ka0445)の襟元に飛び込む。
喜んでいるのか嫌がってるのか判断し難い悲鳴を上げて腰砕けに沈んだブリスに、蠢く断片が更に降ってくる。
「な、なんか頭くらくらして……って、だ、駄目……! 姉様、助けてぇっ」
「くっ!! い、妹達に手出しはさせな、あっ!?」
「ね、姉様ぁぁぁっ!」
「お、落ち着きなさい。ちょ、あ、ああぁぁぁ……!」
末妹の危機に大慌てで助けようとしたフローレンスだが、スライムまみれなブリスにがっしりホールドされて一緒くた。
「フロー姉様の大事なところは、駄目なのぉぉっ!」
もみゅ。
「姉様達に触っていいのはブリスだけなんだからっ!」
もみゅもみゅ。
長姉の無防備になってしまった胸や尻を必死にスライムからガード。ってそれはガードなのか!?
「ぶ、ぶ、ぶ、ブリスぅ!?」
「あらあら見ていられないですわね♪」
声色が隠しきれずにとても嬉しげなアミグダ。姉妹に助け舟、否、彼女の場合は違う。助け舟の善意を装っての魔術行使。
さらさらと洞窟の砂塵を巻き上げてストーンアーマーでパッケージング。
防御力を向上という目的は外部には果たしている。しかしスライムの断片は既に衣服の隙間から滑り込んだ後。
(その、喜悦に歪む顔をじっくり観察、できるなら記録したいところですけれど)
ドォォォンッ!!
外から雨音を掻き消すような轟音。
「ぎゃああああっ!?」
運ばれても転がされたままの姿勢で動かなかった人物が、再度の落雷に甲高い悲鳴と共に身体を跳ね上げた。
香澄は咄嗟に飛びついた。外へ飛び出されても奥へ突っ込まれても困る。安全が確保されるまで大人しく願いたい。
パニックに暴れる身体を押さえるのが一杯で、叫ぶ口元までは塞げない。
ええいと押し倒すように地面へと戻して。できればもう一度お眠り戴きたく。
「アミグダさん、鎮静お願いします!」
「そのままでは巻き込みますよ」
それは承知だが、手を離せば何処へ動いてしまうやら。仕方ない。
「ボクは押さえてるので、寝ちゃったら揺さぶり起こしてよ」
やんわりと、しかし関節の要所を極めた押さえで暴れ方を最小限にする措置を取った香澄。からくり人形も関節の動きは計算が要るからね。
それにしても至近の悲鳴は耳に痛いので早く鎮めたいところ。
青白い雲が視界を包みこみ、すやーと眠りの世界へと導かれる。ああ、心地よい時間。香澄の意識も一緒に遠のく。
そんなのも束の間。すぐに斑鳩に揺さぶり起こされたけれど。
さてその頃、奥の方でもやっぱりスライムまみれの惨状である。
ようよう四肢の束縛から解放されたアルトだが、もう悪臭とぬるぬるまみれ。どうやら酸性ではないようなのは幸い。
お陰で肉体的なダメージはそれ程でもない。数々の戦いを潜り抜けてきた彼女には余裕と称せる範囲。
その代わりというかやたら巻きつきたがるわ、隙間に入り込みたがるわ。切れた断片がそれぞれ生命をもって蠢くわ。
生理的嫌悪感を誘う有様は、闘志以外の何かが掃滅せんとの想いを掻き立てるようだ。
(うっ……臭すぎるよ)
耐えられず反射的に鼻を摘まんだモカ。その摘まんだ指先は今まさに悪臭の元に散々繰り出していた拳だと。
意識するのが半瞬遅かった。
(おぇえっ……)
景色が暗転しそうに。しかし。
動きが止まったところにツナギの裾の中からにゅるにゅる這い登ってくるおぞましい感触に、遠のきかけた意識が蘇る。
「ふぇっ、膝の裏でもぞもぞしたらくすぐったいってば!?」
もう最初6体だったはずの細長~いスライムは切れてバラバラになりすぎて、数えきれない。
こっちが元々何体分なのか、入口の方に行ってしまったのが何体分なのか。
大体、悪臭がいい加減に思考を麻痺させている。
「さて、こ、ここからは、ほ、本気で行くよ……」
殲滅、殲滅、殲滅っ!!
剥がして人体から離れた断片は八握剣が描く広角の軌道で一気にトドメを刺してゆく。
超音波の振動に伴う低い音が、オートMURAMASAの軌跡に響き散る。
アルトの刀が、手裏剣が。一挙に反撃の乱舞へ。
そしてモカの爪が。ネフィリアの双拳が。断片を片っ端から消し去って。
「これでお終いなのだ♪ 強さより匂いが厄介だった気がするのだ。倒したら匂いはしなくなったけど~」
一方、入口の方面に視点を戻すと。修羅場っていた光景は更なる変化を遂げていた。
惨状の中、平和に眠りこける人物の上にはブレザーやらプリーツスカートやらが放り被せられている。あ、ふわふわのマフラーも。
その手前には外套も鎧もパンプスも落ちていて。
装備の持ち主は?
斑鳩の現時点での姿については、マテリアルの力で光輝いているとそれだけに記述は留めておこうか。
要するに。
「服に匂いがつくのは嫌ですから!」
当然、下着もね。たぶん外套の下に置いてあるのではないかと。
あ、バンダナはまだ顔にあるよ。全裸じゃないね♪
魔術でパッケージングされた内部でスライムから辱めを受けるという仕打ちに喘ぎ。
息を不規則に弾ませ頬を赤らめながらも、レクイエムを歌い続けるフローレンス。
正ならざる生命に効いている。時折混じる吐息が妙に艶っぽくなってしまっているが男性は居ないので大丈夫。
居合わせようものなら鎮まらず荒ぶりかねない正なる生命が現れるところだったか。
長姉の太腿にしっかりと腕をまわしたブリスは、ウィンドスラッシュの連発で近付くモノを片っ端から微塵にしている。
魔導機械で増幅した雷撃を帯びた爪を振るう香澄。
狭い場所に味方がひしめいているのでリボルバーは使い難く。岩壁に当たる角度まで考えて戦うより動いた方が早いし確実。
活性化されたマテリアルが自己回復を務め、攻撃を受けた事による疲弊は感じなかった。ぬるぬるは残っていても。
そして倒せば倒す程、悪臭が軽減していくのを実感する。
「これで、最後っと!」
●スライムが消えて
「むぅ、倒しても服についた匂い取れないね~? それなら、水はいっぱいあるし雨で洗っちゃうのだ♪」
「賛成だね。どうせ晴れるまで動けないし。雨に濡れたら落とせたりしないかな?」
アルトが服に手をかけた時には、ネフィリアはもうすっぱーんと躊躇なく生まれたままの姿になっていた。
「フロー姉、ブリスちゃんのも洗おうか~?」
「本当、女性ばかりで良かったわ。ってネフィ、私は自分で脱ぐから!? それにほら治療しないとっ」
「……帰ったら、三人でお風呂で温かくなろ、ね」
ブリスの潤む瞳には姉達の姿しか映っていない。
お風呂という単語には同じ事を斑鳩も思っていた。心底同感。
「散々な目に合いましたがお風呂でも入ってスッキリしたいですね。雨早くやまないかな」
「おや、お目覚めかな。まだ天気は悪いけど、まぁ落ち着いて。とりあえず濡れた服を脱ごうか?」
香澄の明るい笑顔。見知らぬ黒髪の女性が覗き込む姿にまだ寝覚めにぼぉっとしている女性。
「ああ、そういえば眼鏡を途中で拾ったよ。他にも色々。きみのかな?」
「……うん」
本人の荷物に間違いないか、ひとつひとつ確かめる香澄の脇にモカがひょっこりと顔を出す。
こちらも悪臭地獄から復活して、本来の可愛らしい瞳と表情に戻っている。
「お姉さん、今ならもう奥に行っても大丈夫だからね。身体拭いたらボクと一緒にそっちに行こう♪」
手当が必要だったら、少し心得があるから。遠慮なく言って。
洞窟の中もすっかり雨の匂いだね。モカは胸一杯に綺麗になった空気を吸い込む。
「女性しか居ないから、安心して」
衣類の洗濯を済ませると、女性ばかりの9人は乾かした肌を寄せ合って雨上がりを待つ事にした。
乱戦には加わらずに済んだアミグダと、戦いの最中から素っ裸だった斑鳩については、洗わずに済んだので着衣だが。
帰る頃にはまだ生乾きかな……とにかく固く絞ったけど。でも臭いまま帰るよりはいいか。
(光源は充分にあったし、映像記録が撮れたら本当に良かったですのに……)
しみじみ、そんな事を思っているアミグダ。もちろん口には出さないが。
「わぁ、雨が上がったら森の気持ちいい匂いが一杯するよ!」
モカの歓声。
時が過ぎて、激しい降雨が嘘のように晴れ渡った空が緑の切れ間に覗く。
街へ帰る途中だったという女性を連れて、一行はスライムまみれになった洞窟を後にした。
「あれれ、おねーさん気絶しちゃってるよ? 雨も楽しいし、雷がなって綺麗なのに~♪」
「ダメよ、動けないじゃないっ。ほら、変なのが出てきたから! 如何にかしないといけないわ!」
片や甘えん坊、片や能天気。緊迫した状況などお構いなしの妹達に、ああもう私がしっかりしないと……凹凸に満ちた体躯に力を漲らせるフローレンス・レインフォード(ka0443)。
「人の出入りがなければ、ファイアーボールで一掃したのですけれどねぇ……」
後ろから微笑ましく眺めながら、アミグダ・ロサ(ka0144)がおしとやかに過激な発言をぶちかます。
その間にも容赦なくスリープクラウドを放つが、一瞬の霧の後の風景は変わらない。
「あの~、それって私達全員吹き飛びますから? アルトさん、突っ込むので敵をお願いします!」
「了解!」
燃え盛る幻炎を帯びた二つの影が悪臭漂う洞窟の最奥へと身体を向ける。
長身のアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が雑魔の進行を阻止すべく立ちはだかり、手早く口元をバンダナで覆った天乃 斑鳩(ka4096)が倒れている人物へ。
(兎にも角にも、重傷からの復帰戦……)
治癒箇所の違和感は感じないが、どこまで体調が戻っているかはやはり戦闘ともなれば動いてみないと確信は持てない。
相手は雑魚ともいえる相手だ。試すにはちょうどいい相手だろう。
対する細長き蛇のような物体は岩肌沿いに6体。ところが露出部が少ないアルトを無視して後方へ突き進もうとする。
闘気に満ちた自分を完全に無視するものとは。そんな驚愕が掠めた思考より先に身体が反射的に動く。
「待て!! うぁ!?」
得物を手にした両の腕では間に合わないと、咄嗟に四肢全てを犠牲にして阻もうとしたのは他者の被害を最小限に抑える選択。
自らの強靭さと充分な武装に自信があってこそ可能な捨て身。初撃を一斉に受けたとて大事には至らぬ。
最大数を捉えようとした結果、身体を開いた状態で巻きつかれてしまった。
(何処まで伸びてるんだ、このスライム)
まだ穴より這いずる長躯の後端を視界に掴めない。
締め上げる特性に合った粘りのある単純な生命体。さすがに四肢同時では振りほどくのに姿勢も厳しい。
だが過半数の進行を一身をもって阻止できた。まずは救出に要する時間を稼げればいい。それが最優先だ。
「ぐ……結構重いですね……」
革鎧を着込んでいる上に撥水を凌ぐほど激しかった豪雨にマントがたっぷりと水分を含んでしまっている。ましてや斑鳩より大柄で筋肉質だ。失神した人間は余計に重い。
マテリアルの力を帯びているとはいえ、いくらなんでも超人的能力で颯爽と担いで走るとはいかない。
幻炎に更に別の光で全身を覆われて、輝きを増す斑鳩。アルトも同様。早速のフローレンスの援護だ。
それは馬鹿力の足しになる訳ではないので、早速、失神者を担ぎ上げた斑鳩の足元にも1体のスライムが巻き付いて絡みつく。
うねうねぎゅるる、と。
「匂いは最悪だし、さっさと消えちゃうのだ~っ!!」
ネフィリア・レインフォード(ka0444)の小さな身体が四つ足に近い態勢で地すれすれに飛び込む。
マテリアルの力により射出されたナックルが低空飛行で細い物体を打つが、斑鳩の脚に巻きついていない部分なので動きを阻害するには至らない。
その間に身体の方が追いつき、武器は再び拳へと戻る。
「どこまで伸び……ひぁっ……くっ」
「詰まってるけどボクも飛び込んじゃうね!」
邪魔にならないようにとタイミングを伺うつもりでいたモカ・プルーム(ka3411)だが、アルトが四肢を絡め取られてしまっている状況が突入を急いた。一刻も早く彼女を援護せねば。
幸いモカの体格なら一気に向こう側まですり抜けられる。アルトの脚を飛び越して、壁を背に振り向いた。
腰に結びつけたランタンが大きく揺れて光が踊り、奇妙な形の影絵が洞窟内に揺らめく。
「うぷっ……」
最奥の悪臭は強く、まともに呼吸したら吐き気がしそうだ。人一倍鼻が利くのもこんな時は困りもの。
(アルトさん動かないでね)
モカの意思に応じて獣の顎の形に展開した爪が、紙一重の精密さでまずは利き腕を自由にしようとスライムを引っ掛けて抉る。
鋭い爪に千切られた部分から後ろが今度は爪を伝ってモカの腕を這い登り、ぬめぬめと気色悪い感触が伝う。
短く残った部分はまだアルトの腕に巻きついていたが、まだガントレットの上。ひとまず無視して反対側の腕を捉えるスライムを断つ。
「何よりも、この人の安全をか、く、ほ……いやあああっ」
「……っ!?」
「ゃ、スライムこっちきたっ! ふ、服の中入っちゃやだぁっ! ひゃひぃぃんっ♪」
「ああごめん、飛んでいったね。うん、何とかして。こっちもひどいんだ」
華麗なるステップで人を越え、壁を蹴り、救出した人物を、もぞもぞにゅるにゅるの所為で最後は思わず投げ出しそうになって。
これはいけないと自分の身体をクッションにして一緒に転がってしまう斑鳩。
彼女が引き摺った物体の引き剥がしに応じていた星見 香澄(ka0866)が切り飛ばした断片がブリス・レインフォード(ka0445)の襟元に飛び込む。
喜んでいるのか嫌がってるのか判断し難い悲鳴を上げて腰砕けに沈んだブリスに、蠢く断片が更に降ってくる。
「な、なんか頭くらくらして……って、だ、駄目……! 姉様、助けてぇっ」
「くっ!! い、妹達に手出しはさせな、あっ!?」
「ね、姉様ぁぁぁっ!」
「お、落ち着きなさい。ちょ、あ、ああぁぁぁ……!」
末妹の危機に大慌てで助けようとしたフローレンスだが、スライムまみれなブリスにがっしりホールドされて一緒くた。
「フロー姉様の大事なところは、駄目なのぉぉっ!」
もみゅ。
「姉様達に触っていいのはブリスだけなんだからっ!」
もみゅもみゅ。
長姉の無防備になってしまった胸や尻を必死にスライムからガード。ってそれはガードなのか!?
「ぶ、ぶ、ぶ、ブリスぅ!?」
「あらあら見ていられないですわね♪」
声色が隠しきれずにとても嬉しげなアミグダ。姉妹に助け舟、否、彼女の場合は違う。助け舟の善意を装っての魔術行使。
さらさらと洞窟の砂塵を巻き上げてストーンアーマーでパッケージング。
防御力を向上という目的は外部には果たしている。しかしスライムの断片は既に衣服の隙間から滑り込んだ後。
(その、喜悦に歪む顔をじっくり観察、できるなら記録したいところですけれど)
ドォォォンッ!!
外から雨音を掻き消すような轟音。
「ぎゃああああっ!?」
運ばれても転がされたままの姿勢で動かなかった人物が、再度の落雷に甲高い悲鳴と共に身体を跳ね上げた。
香澄は咄嗟に飛びついた。外へ飛び出されても奥へ突っ込まれても困る。安全が確保されるまで大人しく願いたい。
パニックに暴れる身体を押さえるのが一杯で、叫ぶ口元までは塞げない。
ええいと押し倒すように地面へと戻して。できればもう一度お眠り戴きたく。
「アミグダさん、鎮静お願いします!」
「そのままでは巻き込みますよ」
それは承知だが、手を離せば何処へ動いてしまうやら。仕方ない。
「ボクは押さえてるので、寝ちゃったら揺さぶり起こしてよ」
やんわりと、しかし関節の要所を極めた押さえで暴れ方を最小限にする措置を取った香澄。からくり人形も関節の動きは計算が要るからね。
それにしても至近の悲鳴は耳に痛いので早く鎮めたいところ。
青白い雲が視界を包みこみ、すやーと眠りの世界へと導かれる。ああ、心地よい時間。香澄の意識も一緒に遠のく。
そんなのも束の間。すぐに斑鳩に揺さぶり起こされたけれど。
さてその頃、奥の方でもやっぱりスライムまみれの惨状である。
ようよう四肢の束縛から解放されたアルトだが、もう悪臭とぬるぬるまみれ。どうやら酸性ではないようなのは幸い。
お陰で肉体的なダメージはそれ程でもない。数々の戦いを潜り抜けてきた彼女には余裕と称せる範囲。
その代わりというかやたら巻きつきたがるわ、隙間に入り込みたがるわ。切れた断片がそれぞれ生命をもって蠢くわ。
生理的嫌悪感を誘う有様は、闘志以外の何かが掃滅せんとの想いを掻き立てるようだ。
(うっ……臭すぎるよ)
耐えられず反射的に鼻を摘まんだモカ。その摘まんだ指先は今まさに悪臭の元に散々繰り出していた拳だと。
意識するのが半瞬遅かった。
(おぇえっ……)
景色が暗転しそうに。しかし。
動きが止まったところにツナギの裾の中からにゅるにゅる這い登ってくるおぞましい感触に、遠のきかけた意識が蘇る。
「ふぇっ、膝の裏でもぞもぞしたらくすぐったいってば!?」
もう最初6体だったはずの細長~いスライムは切れてバラバラになりすぎて、数えきれない。
こっちが元々何体分なのか、入口の方に行ってしまったのが何体分なのか。
大体、悪臭がいい加減に思考を麻痺させている。
「さて、こ、ここからは、ほ、本気で行くよ……」
殲滅、殲滅、殲滅っ!!
剥がして人体から離れた断片は八握剣が描く広角の軌道で一気にトドメを刺してゆく。
超音波の振動に伴う低い音が、オートMURAMASAの軌跡に響き散る。
アルトの刀が、手裏剣が。一挙に反撃の乱舞へ。
そしてモカの爪が。ネフィリアの双拳が。断片を片っ端から消し去って。
「これでお終いなのだ♪ 強さより匂いが厄介だった気がするのだ。倒したら匂いはしなくなったけど~」
一方、入口の方面に視点を戻すと。修羅場っていた光景は更なる変化を遂げていた。
惨状の中、平和に眠りこける人物の上にはブレザーやらプリーツスカートやらが放り被せられている。あ、ふわふわのマフラーも。
その手前には外套も鎧もパンプスも落ちていて。
装備の持ち主は?
斑鳩の現時点での姿については、マテリアルの力で光輝いているとそれだけに記述は留めておこうか。
要するに。
「服に匂いがつくのは嫌ですから!」
当然、下着もね。たぶん外套の下に置いてあるのではないかと。
あ、バンダナはまだ顔にあるよ。全裸じゃないね♪
魔術でパッケージングされた内部でスライムから辱めを受けるという仕打ちに喘ぎ。
息を不規則に弾ませ頬を赤らめながらも、レクイエムを歌い続けるフローレンス。
正ならざる生命に効いている。時折混じる吐息が妙に艶っぽくなってしまっているが男性は居ないので大丈夫。
居合わせようものなら鎮まらず荒ぶりかねない正なる生命が現れるところだったか。
長姉の太腿にしっかりと腕をまわしたブリスは、ウィンドスラッシュの連発で近付くモノを片っ端から微塵にしている。
魔導機械で増幅した雷撃を帯びた爪を振るう香澄。
狭い場所に味方がひしめいているのでリボルバーは使い難く。岩壁に当たる角度まで考えて戦うより動いた方が早いし確実。
活性化されたマテリアルが自己回復を務め、攻撃を受けた事による疲弊は感じなかった。ぬるぬるは残っていても。
そして倒せば倒す程、悪臭が軽減していくのを実感する。
「これで、最後っと!」
●スライムが消えて
「むぅ、倒しても服についた匂い取れないね~? それなら、水はいっぱいあるし雨で洗っちゃうのだ♪」
「賛成だね。どうせ晴れるまで動けないし。雨に濡れたら落とせたりしないかな?」
アルトが服に手をかけた時には、ネフィリアはもうすっぱーんと躊躇なく生まれたままの姿になっていた。
「フロー姉、ブリスちゃんのも洗おうか~?」
「本当、女性ばかりで良かったわ。ってネフィ、私は自分で脱ぐから!? それにほら治療しないとっ」
「……帰ったら、三人でお風呂で温かくなろ、ね」
ブリスの潤む瞳には姉達の姿しか映っていない。
お風呂という単語には同じ事を斑鳩も思っていた。心底同感。
「散々な目に合いましたがお風呂でも入ってスッキリしたいですね。雨早くやまないかな」
「おや、お目覚めかな。まだ天気は悪いけど、まぁ落ち着いて。とりあえず濡れた服を脱ごうか?」
香澄の明るい笑顔。見知らぬ黒髪の女性が覗き込む姿にまだ寝覚めにぼぉっとしている女性。
「ああ、そういえば眼鏡を途中で拾ったよ。他にも色々。きみのかな?」
「……うん」
本人の荷物に間違いないか、ひとつひとつ確かめる香澄の脇にモカがひょっこりと顔を出す。
こちらも悪臭地獄から復活して、本来の可愛らしい瞳と表情に戻っている。
「お姉さん、今ならもう奥に行っても大丈夫だからね。身体拭いたらボクと一緒にそっちに行こう♪」
手当が必要だったら、少し心得があるから。遠慮なく言って。
洞窟の中もすっかり雨の匂いだね。モカは胸一杯に綺麗になった空気を吸い込む。
「女性しか居ないから、安心して」
衣類の洗濯を済ませると、女性ばかりの9人は乾かした肌を寄せ合って雨上がりを待つ事にした。
乱戦には加わらずに済んだアミグダと、戦いの最中から素っ裸だった斑鳩については、洗わずに済んだので着衣だが。
帰る頃にはまだ生乾きかな……とにかく固く絞ったけど。でも臭いまま帰るよりはいいか。
(光源は充分にあったし、映像記録が撮れたら本当に良かったですのに……)
しみじみ、そんな事を思っているアミグダ。もちろん口には出さないが。
「わぁ、雨が上がったら森の気持ちいい匂いが一杯するよ!」
モカの歓声。
時が過ぎて、激しい降雨が嘘のように晴れ渡った空が緑の切れ間に覗く。
街へ帰る途中だったという女性を連れて、一行はスライムまみれになった洞窟を後にした。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/22 21:19:47 |
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作戦相談卓 フローレンス・レインフォード(ka0443) エルフ|23才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/05/25 03:35:34 |