真昼の月が囁く刻

マスター:あまねみゆ

シナリオ形態
ショート
難易度
普通
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~6人
サポート
0~12人
マテリアルリンク
報酬
寸志
相談期間
5日
締切
2014/07/10 19:00
完成日
2014/07/30 19:49

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

 グラズヘイム王国において教育とは基本的に「等しく全ての人々は豊かでなければならない」という教会の教義に基づいたものであり、王国による初等教育(プルミエール)と、聖堂教会による講義(エクレシア)によって全王国民に最低限の教育を施すという形態が整えられている。
 六年制のプルミエールは入学金や年間費などがかなり安く、王国内在住の子どもであればほぼ誰でもいける。主要都市や町、場所によっては村などにも学級が存在し、生徒は最寄りの学級に通う形だ。


 * * *


「ヴァリオ、ありがとう。素敵な作文だったわ。じゃあ、次に読んでくれる人?」
 王都のプルミエールの教室のひとつで若い女教師が呼びかけると、次々と挙手をする生徒たち。自分を指してほしいと声を上げながら挙手する子、ちょっと自信なさげに控えめに手を挙げる子、指されたくないと身体を小さくする子と様々な子ども達がいる。
 このクラスを担当する教師のユルシュルはそんな子ども達の様子を、笑みを浮かべて見回して。
「では、次はネリー、読んでくれる?」
「はいっ!」
 目をキラキラさせて指されるのを待っていた三つ編みの少女が元気な返事をして立ち上がった。

「私のおばあちゃんは、遠くの村から王都のおじいちゃんのところにお嫁にやって来ました。
 私はおばあちゃんが話してくれる村のお話がとても好きです。
 この間、犬のペドロが死んじゃって私がしょんぼりしていた時に話してくれてたのは、たまに見える昼の空に浮かぶ月に関する言い伝えです。
 おばあちゃんの村では、昼の空に浮かぶ白い月をじっと見つめていると、亡くなった大切な人の声が聴こえるという言い伝えがあるそうです。おばあちゃんはおじいちゃんが亡くなってから、真昼の月を見つけるといつも見上げるのだそうです。
 おじいちゃんはどんなことを言ってくるのか、聞いたけれど教えてもらえませんでした。それは、おじいちゃんがおばあちゃんにだけ掛けた言葉だから、内緒なのだそうです。私は今度真昼の月を見つけたら、ペドロの声を聞いてみたいと思います」

 ハキハキと作文を読み終わったネリー。子ども達からはパチパチと拍手が起こる。しかし……いつまで経っても先生の声は聞こえてこない。
「……先生?」
 不審に思って教壇を見た少女が、先生の様子がおかしいことに気づいた。
「あー! ユルシュル先生泣いてる!!」
 少年のデリカシーのない指摘に、教室はざわつき始め……席を立った子ども達が心配そうにユルシュルの傍に集まる。
「な、なんでもない、のよ……ごめんなさいね、すぐに涙なんて止ま……」
 ポケットから取り出した白いハンカチを目に当てるユルシュル。だが、涙はいくら拭きとっても止まらない。子ども達は心配そうに声を上げる。
「何事ですか?」
 と、騒ぎを聞きつけて教室の扉を開けたのは、年配の女性教師だ。彼女が怖いのだろうか、子ども達はぴたっと黙りこむ。その隙にユルシュルは子ども達の包囲を抜けて女性教師の横をもすり抜けた。
「すいませんバルテレミー先生、少しの間子ども達をお願いしますっ……」

「ふっ……うくっ……」
 トイレに駆け込んだユルシュルは本能のままに涙をこぼした。
「危険な依頼じゃないから、危ない場所には行かないって言ってたのに……」
 そして顔を洗った後、窓の外から見える青空を見つめたのだった。


 * * *


「お願いします!」
「先生を元気にしてあげたいの!」
 ハンターオフィスで職員に詰め寄っているのは子ども達だ。聞くところによると、プルミエールの生徒らしい。
「事情はわかりました。ユルシュル先生が泣いたきっかけは、ネリーちゃんの作文みたいね。でも、ネリーちゃんが悪いんじゃないから、そこは気にしないこと。きっと、ユルシュル先生の心の中に、その原因があると思うの。何か、これまで先生に変わった様子はなかった?」
 職員の問いに子ども達は首を傾げる。精一杯記憶をまさぐっているのだろう。そして一番最初に声を上げたのは、おとなしそうな少年だった。
「あ、あの……去年ね、先生、突然一週間くらいおやすみしたことがあったんだ。代わりに来た先生は、ユルシュル先生は体調を崩しちゃって、安静にしていないといけないから暫くおやすみするって言ったんだけど……」
「あ、あたしも覚えてる! おやすみする前はすごく嬉しそうだったのに、おやすみしたあとは元気なかったよ。いつもみたいに笑ってたけど、元気なかったよ!」
「うーん、なるほどね。その間に何かあったのは間違いなさそうだけど……」
 職員は言葉を切って、自分をじっと見つめる子ども達をぐるりと見渡した。そして。
「君達は、好奇心で先生に何かあったか知りたいだけ? それとも、元気が無いのが心配で、純粋に、元気をだして欲しいの?」
 職員の言葉に子ども達ははっと表情を変えて顔を見合わせあった。そして。
「もちろん、心配なんだよ!」
「先生に、元気になってほしい!」
「ぼくたちの大切な先生だもん!」
 身を乗り出すようにして訴えかける子ども達。用意出来た報酬はお小遣いをかき集めたわずかばかりのお金と、家から持ち出してきた現物だけれど。
「そうね……」
 職員も、一生懸命な子ども達の依頼を断るの気が引けて。少ないとはいえ報酬を用意してきているのだから、これは立派な依頼なのだし。
「分かった、じゃあ協力してくれるハンターを探してみるから」
 笑顔で告げられた職員の言葉に、子ども達はわぁっと歓声を上げた。


 * * *


 もしも、もしも死んでしまったあなたの声が聞けるのなら。
 もう一度、もう一度だけ、愛してるって言ってほしい。
 お願い、聞かせて、真昼の月よ。
 あの人の、声を……。

リプレイ本文

●涙の理由

 集まったハンター達はユルシュルについて調べるところから始めた。
(最近の様子と子供達の話を聞いていると……ユルシュルは大切な人を亡くしたのかもしれないのね……)
 プリムラ・モデスタ(ka0507)の想像は他の皆も同様に考えていること。だからこそ真実なのかどうかを確かめなければいけなかった。
 子供達が大事に思う気持ちはとても暖かいものだから、先生の気持ちに何か変化を与えることができるだろう。でもその方法を間違えることだけは避けなくてはいけないのだから。
(大切な人を失うという気落ちを深く理解することは、殆どの記憶がない私には難しいかもしれないけれど)
 子供達の思いをまっすぐに届ける手伝いをするため、ハンター達は動き出した。

 まずはプルミエール。ユルシュルと子供達に鉢合わせしないよう時間を調べに向かった時音 ざくろ(ka1250)と友人のイレーヌ(ka1372)は、ユルシュルの事情を知っていそうな同僚に、話を聞きたい旨を伝えておく。
 改めてハンター達と揃って訪れた時には、ユルシュルと同期だという女性が対応に出てくれた。
 プリムラが事の経緯を説明し、協力を頼みたいと申し出れば、同僚は少しだけためらい、ハンター達の顔を見回した後、彼女をお願いしますと言いながら話してくれた。
「恋人を失っているのか……そうか」
 事故で旦那を失った過去のある紅・L・諾子(ka1466)は、ユルシュルに親近感を覚えた。そして同時に、この仕事の難しさも強く実感することになる。
(完全に立ち直らせる事は無理だろう、すぐにどうにかなることではない。……だが)
 少しだけでも前を向き、ユルシュルを心配し元気づけようとしている子供達に気付かせてやることができれば。その切欠を与えることが自分達の役割だと思った。

(こういった依頼は今まで受けた事はありませんが、先生のためにも子供達のためにも。報酬は度外視で、何とかしてあげたい所ですね)
 エヴリル・コーンウォリス(ka2206)は、同僚に改めて協力を要請する。
「子供達と私達で、できればユルシュルさんの目に触れない形で話をする時間をつくれないでしょうか?」
 ヴィルマ・ネーベル(ka2549)も持参の画用紙やクレヨン、折り紙を見せながら頼み込む。
「その時間で、子供達に先生への贈り物をつくれるとなお助かるのじゃ」
 同僚は、課外授業という形で手配すると請け負ってくれた。流石に急に割り込ませることは難しく、翌日になってしまったけれど。

 ユルシュルの恋人がハンターだったとの話を聞いて、ざくろとイレーヌはオフィスへも足を運んだ。
 歪虚との戦いで亡くなったこと、仕事に向かう前『この仕事の報酬で目標額に届く』と周囲に話していたこと、そろそろ一年が経とうとして……命日が近いことを知る。
「ねぇイレーヌ、ざくろまだ彼女居たこと無いけど、突然大切な人が居なくなるのって、もの凄く辛いだろうね……ざくろだって、イレーヌやギルドのみんなに何かあったら……」
 来た道を戻りながら、隣を歩く友人にこぼす。
「大切な人が突然いなくなるというのは、確かに悲しいだろうな。だが心配してくれる者達がいるのなら、いつまでも悲しんでいてはいけないだろう。大切な人も、それは望んでいないだろうから」
 少なくとも私なら、ざくろに悲しんだままでいてほしくなはいぞと続ける。
「えっ、それってどういう事っ」
「例え話だ」

 再びプルミエールにたどり着き、ざくろはユルシュルの姿を探す。そこは屋上で、彼女は空を見上げていた。既に赤みがかっている空に浮かぶ月を。
「やっぱり、この時間じゃ……」
 風向きが良かったのか、幸運にもユルシュルの呟きがざくろのもとに届けられる。
「休日なら……ねえ、私の声が聞こえるなら、どうか……」

●大切なこと

「重ねての頼みで申し訳ないのだが。明日の昼、子供達と共に再び集まる許可をもらえると嬉しい」
 到着してすぐのイレーヌの申し出に驚いたものの、事情を把握した同僚は頷いた。
 休日に家の手伝いがある子も居るだろうから、子供たち自身の意思で自由参加となってしまうだろうけれど、それでも良ければと。

 準備を整えたハンター達は、表向きボランティア講師のハンターとして子供達の待つ教室へと向かった。
「それでは、今日は宜しくお願いします。……みんな、ハンターさん達のいうことをよく聞くんですよ」
 ユルシュルはそう言って教室を出ていく。別の仕事を手配してもらっているので、この授業時間中は教室に戻ってくることもない。急に決まったことなので顔を合わせた時は首をかしげていたが、子供達の前では『秘密で準備をしていた、特別な授業』と話していた。
(本当に慕われてる先生なんだな、ざくろも頑張って子供達に答えなきゃね!)
 彼女の足音が聞こえなくなったことを確認し、ハンター達は子供達に向き直った。
「ハンターオフィスで、依頼を受けてきたんです」
 エヴリルが口火を切った。
「ユルシュル先生には秘密にしてもらえるよう、他の先生方にお願いして、こうして皆でやってきました」
 あっと驚いた顔をしたり、やったと叫んだり、ほっとした顔をしたりする子供達を前に、これからの計画を話していく。
「先生が元気になるような手紙や絵、工作を作ってもらえる……?」
 プリムラが用意してきた工作道具を取り出し、配り始める。
 それを明日、屋上に登るだろうユルシュル先生に渡すのだと聞いて、子供達は口々に声をあげた。
「それで、先生元気になる?」
「どんなことをかけばいいのー?」
「悲しそうな顔、しないでくれるかな?」
「前みたいに笑ってくれるようになる?」
「絵、苦手だけど大丈夫かな?」
 先生が心配だけど、自分達で本当にうまくできるかな、大丈夫かな。不安と期待が混じった空気が教室に溢れ出す。
「折り紙もあるぞ。そなた達が、大好きなユルシュル先生に元気になってほしいという気持ちを込めればいいのじゃ」
 ヴィルマも配りながら話す。
「今回は一つのきっかけ。君達が作ったものをプレゼントすれば、先生はきっと前を向いてくれる」
 そう断言した諾子に子供達の視線が集まる。しかし彼女の表情を見て皆が静かになった。諾子の表情に、この後の言葉はとても大事なことだと感じ取ったのだ。
「だが、これからももしかしたら先生に元気が無い時があるかもしれない。その時、そなた達は元気に笑顔でいなさい。笑顔は伝染するから。笑顔に救われる事もあるから」
 先生が抱えている悲しみは、すぐに消えるものではない。そう言葉にして伝えるのは簡単だ。けれど、どうすれば先生を助けられるのか、彼らは知りたくなるだろう。それは一つの答えに絞れない問題で、だからこそ難しい。諾子は自分の経験も思い出しながら、なるべくわかりやすいように伝えようと努めた。
(妾なりの、答えだ)

 子供達が真剣な顔で先生への気持ちを込めていく中、イレーヌとエブリルは何にするか迷っている子供達の相談を受けながら、ユルシュルへの想いにも耳を傾けていた。
「これは?」
 先生の顔の横に書かれた物体を指さしてイレーヌが訪ねる。
「お花だよ。先生がね、いつも大事にしているブローチがね、こんな形なの」
「身に着けて居なかったと思うけど」
 飾りらしい飾りをつけていなかったように思い、首をかしげる。
「とっても大事だからつけられないんだって聞いたことあるの」
 それだけ大好きなものなら、絵にかいたら元気になってくれると信じているようだ。
「先生って普段はどんな人?」
「笑うと綺麗! ……でも、最近あんまり笑ってくれないんだ」
 だからみんなで頑張って、もっと笑ってくれる先生に戻ってほしいと話す少年に、エブリルも先ほど会ったユルシュルの様子を思い出す。寂しそう、といよりはどこか感情を忘れてきてしまったような状態で、子供達の心配がより手に取るようにわかる気がした。

 手紙。
 先生の笑顔の絵。
 紙の花束。
 子供たち自身の笑顔の絵。
 全員が贈り物を完成させることができた。
「明日のお昼、みんなで隠れて先生の後を追いかけて。屋上で一番いいタイミングを待って。それでみんなでプレゼントしよう! びっくりさせて、悲しい顔も吹き飛ばしちゃおうね!」
 ざくろの言葉に、子供達の返事が大きく重なった。

●過去と今と

 ユルシュルが学校にたどり着き屋上へと向かったとの知らせに、子供達の顔に緊張が走った。
「一番いいタイミングって、昨日、ざくろが言っていたでしょう?」
 プリムラが子供達にささやくように伝える。
「こういう事って、少しでもずれてしまうと、うまくいかなかったり、悪い方に向かってしまったり……だから、もう少し、落ち着いて待ってて」
 どうしても来られなかった子の作品を大事に抱えもった彼女の言葉に、子供達も次第に落ち着いていく。
「私達も、みんなの気持ちをうまく伝えたい……先生をびっくりさせたいから、屋上の前で待つ間は、静かにね……」
 しっかりと言い含め、全員が頷くのを確認する。
「じゃあ、行こうか」

 屋上に先客がいたことに、ユルシュルは戸惑いを隠せないでいた。
「昨日いらしていたハンターさん達が……どうなさったのですか?」
「妾達は存じておる通りハンターじゃ。最近、そなたの影がかかった様子を心配する者達からの依頼を受けたのじゃ」
 そう言いながら、ヴィルマは真昼の月を見上げた。
「少し耳を拝借じゃ。我の心の中には生前の両親との思い出が溢れている……我が覚えているかぎり、死んでしまった者達の生きていた証は消えないのじゃ。ただ、思い出にしがみついて悲しみに暮れ静止するのはいかんのぅ。それでは死んでいるのと同じじゃ。死者の分も、しっかり生きるのが生きる者の務め。我の場合は両親の分も人生を楽しもうと考える事にしたのじゃよ」
 生前、思い出、悲しみ……そして死者。語られる話の中、自らにも当てはまる言葉にびくりとするユルシュル。その様子を目にしながら、諾子も呟く。
「人はいつか死ぬもの、わかってはいるが……そうだな。辛いな」
「……」
 自らの肩を抱いたユルシュルは、ただその場に立ち止っている。
「……なんの、事ですか……?」
 絞り出すような声に、エブリルがそっとユルシュルの横に立った。
「不躾な事なのは承知しています。依頼を引き受けたことで、私達はあなたを知ろうと動きました」
 依頼人達ではできないこと、彼らにさせてはいけないことを請け負ったのです。堂々とした態度、落ち着いたその声にユルシュルは動揺しかけていた心にブレーキをかけた。
「彼女達も、そして私も。大事な人を失くしています。だからあなたを知って、言わずにはいられないのです」
 そうしてエブリルも告げる。
「亡くなった大切な人と会いたいという心、それが落ち着くには時間がかかるものです……ただ、似たような経験をした身からすると、誰かに話す事も心の安らぎに繋がると思います」
 親しい人に話せないことでも、私達のような行きずりの相手に話せることだってあるかもしれませんと、促した。

「……自分のように悲しい思いをする人を減らしたいと、力があるなら役立てるべきだと。そういう、優しい人でした」
 ぽつり、ぽつりと紡がれる言葉。
「大事な話があるから、楽しみに待っていてくれと言って……歪虚退治に行ったんです」
 結婚も考えていた相手だったのだと、小さな声で話し出す。次第に嗚咽が混じっていく。
「あの人も、私のことを同じように想ってくれているのだと……信じて……待って……」
 帰ってこなかった。その言葉は声にならない。
「一度だけでも、もう一度だけでいいから、声を聞けるなら。だから……っ」
 声にならない叫びがユルシュルの心を満たしている。誰も遮らず、ただ静かに待った。

 イレーヌの差し出したハンカチで涙をぬぐったユルシュル。まだ肩を落としたままとはいえ落ち着いた様子に、再び声がかけられた。
「ユルシュル、失ったばかりで悲嘆にくれ下を向いている最中だとは思うがのぅ。ちと顔をあげて周りを見たら、前に進むきっかけがあるかもしれないぞ?」
「無理に立ち直れとはいわぬ。失ったものを受け入れるには時間がかかるものじゃ……だが、少しだけでも前をみてみぬか? そなたの周りにはまだそなたに残っているものが沢山あるじゃろう?」
 ヴィルマに続いて、諾子も。どちらも伝えたいのは、依頼人である子供達のこと。
「今、月は答えてくれた? ユルシュルの大事なものを覚えていて、それを見れば先生が喜ぶと信じて……それだけ、先生を大事に思っている子達が、あなたにはいるって、言ってくれなかった?」
 イレーヌは少女のことを思い出す。そしてドアの陰に隠れていたざくろに合図を送った。
「あのね、もし聞こえなかったんだとしても、それはユルシュル先生がそんな顔をしてるからじゃないかな? ……生徒想いの先生が、いつまでもそんな顔してないで、ちゃんと笑顔で子供達と向きあってって……だって生徒さん達みんな、ほら」
 ざくろが、子供達を隠していた扉を開いた。

●下は見ないで

「「「ユルシュル先生!」」」
 今がその時だよとプリムラの声に、子供達がユルシュルへと一斉に駆け出す。涙の跡が残る顔を見て、心配そうに見上げる少年も、美味くかけた絵を早く見せたくてしかたない少女も皆、彼女を取り囲む。けれど諾子の言葉を思い出して、笑ってほしくて、一生延命に笑顔を向けた。
 その様子に、依頼人が彼らなのだと思い至ったユルシュルは、前の日の課外授業もこのための準備だったのだと理解する。
「みんなも、ハンターさん達も、先生方もみんな……私のために、やってくれたのね」
 緩んでいた涙腺から、涙が落ちる。
「先生、まだ悲しい!?」
「笑って?」
「嬉しいから、泣いちゃうこともあるの……ありがとう」

(これから先はユルシュル次第じゃな)
 月を見上げるヴィルマ。10年前かに失くした、両親の声が聞こえたらいいと思う。
『生きていてくれて良かった』
(そうじゃな、忘れぬためにも、この名前も抱いたまま生きると決めたんじゃから)
 気のせいかもしれない声でも、自分が納得できればそれでいい。
「未だに立ち直れていないなんてあいつに怒られては嫌じゃからのう」
 いつか向こう側に行ったときのことを想像して、諾子は月から目をそらす。
 昔を切り捨てたいわけではないけれど、思い出さないために。過去として、そっとしまっておくために。
(昼空の白い月を見つめていると、亡くなった大切な人の声が聴こえる……そんな素敵な話があるなら、どんな悪罵を受けようと、一度だけ、聞いてみたい)
 思いはするけれど、同時に自分を戒めるエヴリル。
「……私は約束を果たしてからですね」
 後で、子供達に頑張ったご褒美のお菓子を渡そう。自分は今、前へと進んでいるのだから。

(代筆:石田まきば)

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MVP一覧

  • 挫けぬ守護者
    エヴリル・コーンウォリスka2206
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタインka2549

重体一覧

参加者一覧


  • プリムラ・モデスタ(ka0507
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • 神秘を掴む冒険家
    時音 ざくろ(ka1250
    人間(蒼)|18才|男性|機導師
  • 白嶺の慧眼
    イレーヌ(ka1372
    ドワーフ|10才|女性|聖導士
  • 笑顔を咲かせて
    紅・L・諾子(ka1466
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士
  • 挫けぬ守護者
    エヴリル・コーンウォリス(ka2206
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • 其の霧に、籠め給ひしは
    ヴィルマ・レーヴェシュタイン(ka2549
    人間(紅)|23才|女性|魔術師

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2014/07/05 00:09:35
アイコン 相談卓:真昼の月が囁く刻
エヴリル・コーンウォリス(ka2206
人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|聖導士(クルセイダー)
最終発言
2014/07/10 08:43:26