ゲスト
(ka0000)
【不動】Check Mate
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~15人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/23 19:00
- 完成日
- 2015/05/31 11:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「ああ……面倒だわァ……」
女が荒野を駆けていた。只の人間ではない。美しく均整の取れた姿ながら、身の丈4メートルを超える怠惰の歪虚。その恐るべき弓の腕から歪虚の者から“破弓の女王”と呼ばれていた彼女だが、その肉体には幾つもの傷が付いていた。
その後ろに付き従って共に歩みを進んでいるのは、大小様々な雑魔達。ゴブリン、オーガ、オーク。様々な者が居るが、それらはすべて“女王”と同じく、傷だらけになっていた。
聖地を奪還すべく人間は歪虚に戦いを挑んだ。荒野のあちこちで激しい戦いが行われ、多くの人々が傷つき、そして人間は聖地を奪還することに成功した。それだけではない。ガエル=ソトとヤクシー。恐るべき力を持つ歪虚達を討ち滅ぼし、多大な被害は出たものの人類は間違いなく勝利を収めた。その結果がこれだ。生き残った歪虚達は再び力を蓄えるため、撤退を始める。だが“女王”の様に危険な存在をみすみす見逃すわけには行かない。疲弊した人類に送り出せる戦力は限られているが、それでもやらなければいけない。残敵を潰すチャンスは今しかない。結果、掃討作戦が始まった。
●
逃げる“女王”と追うハンター。左右が切り立った崖になっている場所を進む“女王”の霞む視界に、うっそうと茂る森が入ってきた。人類にとっては暗黒の世界だが、歪虚にとっては、そして彼女にとっては勝手知ったる場所。そこに入ってしまえば……だが、ハンター達の足音はもうすぐそこまで聞こえている。森までほんの僅かな距離だが、その僅かな距離が遠い。ならば……“女王”は足を引きずりながらハンター達に向き直る。それに合わせ歪虚達もハンター達に向き直る。
そして“女王”は再び弓を構えた。後ろに少しずつ下がりながら、巨大な弓を引き絞る。放たれれば文字通り一撃必殺となる凶悪な武器。“女王”にはまだこれが残っていた。だが、ハンター達もその弓のことをよく知っている。みすみす喰らうつもりもない。つまり、“女王”の矢をかわしながら、“女王”を討ち取らなければいけない。言葉にすれば簡単だが、一歩でも間違えば只ではすまないだろう。
「本当に面倒だわァ……」
長い戦いは最終盤に差し掛かっていた。果たして、追い詰められたのは歪虚か、それとも人類か。
「ああ……面倒だわァ……」
女が荒野を駆けていた。只の人間ではない。美しく均整の取れた姿ながら、身の丈4メートルを超える怠惰の歪虚。その恐るべき弓の腕から歪虚の者から“破弓の女王”と呼ばれていた彼女だが、その肉体には幾つもの傷が付いていた。
その後ろに付き従って共に歩みを進んでいるのは、大小様々な雑魔達。ゴブリン、オーガ、オーク。様々な者が居るが、それらはすべて“女王”と同じく、傷だらけになっていた。
聖地を奪還すべく人間は歪虚に戦いを挑んだ。荒野のあちこちで激しい戦いが行われ、多くの人々が傷つき、そして人間は聖地を奪還することに成功した。それだけではない。ガエル=ソトとヤクシー。恐るべき力を持つ歪虚達を討ち滅ぼし、多大な被害は出たものの人類は間違いなく勝利を収めた。その結果がこれだ。生き残った歪虚達は再び力を蓄えるため、撤退を始める。だが“女王”の様に危険な存在をみすみす見逃すわけには行かない。疲弊した人類に送り出せる戦力は限られているが、それでもやらなければいけない。残敵を潰すチャンスは今しかない。結果、掃討作戦が始まった。
●
逃げる“女王”と追うハンター。左右が切り立った崖になっている場所を進む“女王”の霞む視界に、うっそうと茂る森が入ってきた。人類にとっては暗黒の世界だが、歪虚にとっては、そして彼女にとっては勝手知ったる場所。そこに入ってしまえば……だが、ハンター達の足音はもうすぐそこまで聞こえている。森までほんの僅かな距離だが、その僅かな距離が遠い。ならば……“女王”は足を引きずりながらハンター達に向き直る。それに合わせ歪虚達もハンター達に向き直る。
そして“女王”は再び弓を構えた。後ろに少しずつ下がりながら、巨大な弓を引き絞る。放たれれば文字通り一撃必殺となる凶悪な武器。“女王”にはまだこれが残っていた。だが、ハンター達もその弓のことをよく知っている。みすみす喰らうつもりもない。つまり、“女王”の矢をかわしながら、“女王”を討ち取らなければいけない。言葉にすれば簡単だが、一歩でも間違えば只ではすまないだろう。
「本当に面倒だわァ……」
長い戦いは最終盤に差し掛かっていた。果たして、追い詰められたのは歪虚か、それとも人類か。
リプレイ本文
●
綺麗に障害物も段差もない荒野。左右は切り立った崖になり逃げることを許さず、奥に控える黒く鬱蒼と茂った森が彼我の勝敗をわける分水嶺となるように設えられた戦場。
「ずいぶんと、開けているな」
それを見てリカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)はそう独りごちていた。この長方形の空間はまるでチェス盤のようだ。
「決着といえばいい場所だが」
だが、これから始まるチェスゲームは命を賭けたもの。そのことを思いバルデラマはもう一度手綱を引き締める。
「あれが噂の破弓……いいねぇ、俺が獲るに値する大物だ!」
そのバルデラマの前を、一頭の馬が走っていた。その鞍上にはエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が愛馬と共に駆ける。彼が持つ巨大な、余りに巨大な蒼い刀身を持つ剣は、その漲らせていた闘志に呼応するかのごとく、仄かに熱気を持ってその剣の名のように風を巻き起きしていた。
「後が無い者との死合は良い……本質を満たし剣術の研鑽になる故、な」
そして馬の後ろからクリスティン・ガフ(ka1090)が駆ける。クリスティンがその身の丈の二倍を超える長さの太刀を抜き、肩に担ぐ。それと同時に彼女の表情が笑顔に変わった。そして刀に手をわずかに添え、軽やかに駆けていく。その巨大な太刀を持っても彼女が振り回されることはない。
だが、そんな二人にゴブリン達は陣を崩さず迫る。傷つき、もはや虫の息の雑魔達だが、それでも足止めだけならできるとばかりに迫る。
そこに一発の銃声が響いた。その音が晴れたとき、二人の正面に居たゴブリンが倒れ伏していた。
「わっしが道を切り開く、先に行ってくれ」
銃弾の出処は右側に居た対崎 紋次郎(ka1892)。彼は馬にまたがり、ライフルを構えていた。その銃弾が一体の雑魔を屠ったのを気にも止めず、次の一手を放つために馬を走らせる。
エヴァンスとクリスティンは前に一つ穴が開いたことを好機とばかりに前進する。
エヴァンスが駆け、勢いを止めず大剣を一振り。ただそれだけで、もう一体のゴブリンが斬り捨てられる。
クリスティンが駆け、柔らかく握った刀を振るう。自らの体の正中線を通すように縦に振るい、その白刃がゴブリンに触れるまさにその刹那にだけ、手に力を込めた。それにより立った刃が真っ二つにゴブリンを斬り裂く。
そうやって穴を広げた二人の前にはオーク、オーガ。巨人たちの姿。
「再戦の機会があるとは思わなかったぜ、破弓の女王」
だがそれを見ても、藤堂研司(ka0569)は冷静に状況を判断していた。一度戦った相手、その弓の威力がいかほどなのかはわかっている。だから覚悟も決まった。自分が為すべきことを為す。そのためにオークの影に隠れるように左へ回り、弓を引く。その大きさは“女王”のそれと比べてあまりに小さい。しかしそれが何も出来ないことを意味しない。藤堂は自分が女王だったら、と仮定し、敵の動きを読む。自分なら取り巻きを盾に全速力で森へ向かう。ならば……
「さあ、詰将棋だ……逃しはしねぇ、ここで詰めきる!」
藤堂は複数本の矢をまとめて握り、一気に射掛けた。威力の無い矢がバラバラと“女王”の元へ降り注ぐ。慌てて後ろへ下がり、矢をかわす“女王”。しかし取り巻き達はそうではなかった。その矢の雨の前に動けなくなる。結果、“女王”と取り巻き達の間に空間が出来上がった。藤堂の矢は当たらなくとも、“女王”の盾を引き剥がしたのだ。
そして後ろに下がった“女王”にも、ひとつの視線が向けられていた。
(逃がさないって、ここで死ぬ運命だよ)
戦場の右側で銀色のライフルを構え、そう思いながらそのスコープを覗く者が一人。アメリア・フォーサイス(ka4111)だ。大体30メートルほど離れた位置に構え、狙いを付ける。スコープの中心が映すのは“女王”の姿ではなく、その後ろの空間。そこへ照準を合わせただトリガーを引く。喜びも悲しみもなく、淡々と引かれたトリガーは弾丸を連続して発射し、その影を縫い止めるかのごとく“女王”の歩みを止めた。
そうして動きを止めた“女王”に、エヴァンス達が開いた穴を通って一発の弾丸が突き進む。
「女王……ここで仕留めさせて頂きます」
弾丸を放ったのは、エヴァンス達の遙か後ろで銃を構えていたシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)。物々しい鎧の奥深くから、二つの眼は唯一つ“女王”だけを狙っていた。その銃弾は風を切り、一直線に戦場を抜ける。その弾丸は60メートルを通りぬけ、たった一点“女王”の左目に突き刺さる。弾丸がまとった冷気が顔を、体を包みその動きを止める。
「ぐがぁぁぁっ!」
“女王”が聞くものの心に恐怖を巻き起こす悲鳴を上げた所で、その弾丸を追い掛けるように二人の男が駆け抜けた。一人はバルデラマ、そしてもう一人は……
「虎穴に入らずん虎児を得ずだ。いくぜ」
リュー・グランフェスト(ka2419)だ。リューは守りを固め、雑魚には目もくれず一直線に“女王”の元を目指す。だが、それを只で許す女王ではない。左目を撃ちぬかれても己の弓を信じ引き絞る。狙うはこちらに突撃してきているリューの胸元。
リューも無策で飛び込んでいるわけではない。どれだけ危険な相手なのかはすでに聞いている。ならば、なおさら飛び込まなければ危険だ。それに自分に攻撃を引きつけられればそれだけでフォローになる。
「初撃……そいつさえ凌げば!!」
無謀だと誹りを受けても、それが自分の生きる道だ。
「悪い、テンペスト。でも信じてるぜ!」
一言、愛馬に謝り、鐙に足をかけ立ち上がる。
「おおおおおお!」
その咆哮に合わせるかのように“女王”は弓を放った。唸りを上げて矢はリューに迫る。そしてそれが貫くかと思われた瞬間、リューの姿が掻き消えた。
身体を一気に沈み込ませ、そのまま体重を片側に大きくかける。右に傾いたリューとテンペストの上を矢は一瞬のうちに通過していた。
だが、矢はそれで消えるわけではなかった。そのまま戦場を貫いて一直線に飛び、戦場端で構えていたシルヴィアへと向かう。その巨大な鎧が邪魔をしたのか、矢はシルヴィアに吸い込まれるように飛び、彼女の身体は後へと大きく吹っ飛んだ。
狙いは外れたが、まずは敵を一人倒し、満足気な笑みを浮かべる“女王”。しかし、片眼を失った“女王”はシルヴィアの動きに不自然な点があったことに気づいていなかった。
●
“女王”は一つになった眼で敵を見据える。陣の真ん中を突き破り突進するリューを、エヴァンスを、クリスティンを、バルデラマを見据える。この距離なら外さない。チャンスを伺い隙を狙う。
だが、“女王”は気づいていなかった。大きく回りこんで忍び寄る者達の姿に。
「最後のひと踏ん張りやね。今回はぜったい逃がさへんよ!」
突如として姿を表したのは、イチカ・ウルヴァナ(ka4012)。大きく左を突進し、そこから一気に斜めに切れ込んで入ってきたイチカにとっさに弓を向ける“女王”。しかし、彼女が矢を放つよりも早くイチカは少し離れて壁となろうとしていたオークの懐に潜り込み、手にした八角棍をありったけの力でフルスイングする。その強烈な一撃にぐらり、と身体を崩す敵。
「あたしは一陣の碧き風、誰もあたしを止められはしないっ!」
さらにテトラ・ティーニストラ(ka3565)が飛び込んでくる。テトラは自慢の回避能力を信じ、恐るべきことに盾と“女王”の間に生まれていたスペースへと飛び込んでいた。当然のごとく“女王”はテトラに弓を向け直し、ちょこまかと動く彼女を仕留めるべく狙いを絞る。
だが、そうやって弓を向けたことで“女王”の視線は中央に集中した。
「あれが破弓の女王か……怠惰の女巨人は美女って相場があるのかね」
その様子を左側から見ながらヴァイス(ka0364)は走っていた。同じく左側を進んでいたイチカと途中で別れ、“女王”を横目に真っ直ぐ走り抜ける。
「追ってるのはこっちなのに狙われるのこわーですねっ」
そんなヴァイスの後ろを、葛音 水月(ka1895)が走っていた。葛音はこれほど強大な敵を見てなお、心底楽しんでいた。
「当たれば一撃、な弓を避けながら制限時間付き……ふふ、スリリングで楽しそうですねー♪」
そう語る葛音の表情には狂気の色が滲んでいた。
「女王を討ち取るならば今」
そして二人からやや遅れて、追走しているのはユキヤ・S・ディールス(ka0382)である。ユキヤは一人、目的のために動いていた。だが、彼の目的は他の者達と同じ。
「逆を言えば、此処で討ち取ってしまわないと……ですね」
その言葉に反応したのか、ヴァイスと葛音が頷いた様に感じた。
一方逆サイドの崖沿いにも、同様に森へ向かって駆ける者達がいた。
「女王駒の名に恥じぬよう……!」
前を行くのは劉 培花(ka4266)である。そんな彼の姿に“女王”は気づかない。オーガも、オークも気づいていなかった。ただ一人、陣の端で守りを固めていたゴブリンだけが気づき、投石を行ってくる。
「投石……また厄介な」
眉間に皺を寄せつつも、劉はその勢いを止めることなく走り抜けた。そんな彼に石つぶては当たるわけがなかった。
そしてその後ろからは白神 霧華(ka0915)が馬を走らせていた。戦いを避け、外を大きく動く霧華と劉の考えは、いや、左側を駆ける三人の考えも同じく一つだった。
「たとえ無駄になろうとも退路を塞ぐように動くのが良いでしょう」
その考え通り、5人は一気に駆け抜け森の手前までやって来る。そしてそこまで来たらくるりと逆方向を向き、“女王”の背中目指して走り始めた。
「邪魔はさせねぇ……突撃の進路を開く!」
一方、女王が向いている方向では、ゴブリン達の穴に飛び込んだエヴァンス達を、ゴブリンが背中から襲いかかろうとしていた。だが、藤堂はそれを許さない。弓を捨て、ライフルに持ち替え、トリガーを引きっぱなしにした。
「詰めろは今、ここだぁぁぁっ!!」
次々と止めどなく銃弾がばら撒かれ、それが天からゴブリンたちに死を告げる雨となって降り注ぐ。それを受けゴブリンは無様に踊り狂う他無かった。
「後は任せたぜ、突撃隊っ! 」
その藤堂の願いを聞き届けたように、そこにリューが突っ込んでいった。“女王”の矢をかわしたらすぐに体制を戻しながら、刀の切っ先を敵に向ける。そして愛馬とともに勢いを乗せて突き立てた。その刃は振動し、低い音を辺りに響かせる。そして横に一瞬稲妻が走ったかと思うと、次の瞬間にはリューの前にいたオーガとオーク、その両方に刀が突き刺さっていた。
崩れていくオークとオーガ。しかしまだ息があったのか、最後の力を振り絞り棍棒をリューの脳天目掛け振り下ろそうとする。だが、その執念を二発の弾丸が断ち切る。
「一匹排除、次」
一発はアメリア。狙いすまして放たれた弾丸は寸分違わずオークの頭を撃ち抜き、額に風穴を開けてその命脈を切った。しかし彼女には感慨も何も無い。
やや遅れて放たれた弾丸を、受けたオーガはどこから来たのか気づいていなかっただろう。その弾丸はかの雑魔の後ろから放たれたのだから。葛音が放った弾丸は炎の精霊の加護を受け、赤い光を残しながら向かう。撃たれたことをオーガが気づいた時には、既に弾丸は胸を撃ち抜き飛び出していた後だった。
ほんの一瞬の間の後に、二体の雑魔は崩れ落ちていく。
そして残ったオーガに、バルデラマが近づいた。バルデラマはそのまま馬の背から転げ落ちるように飛び降りる。彼の馬は戦場から外れ駆けていく。それを一瞬見送り、
「さてあまり時間は掛けられないんでな、滅茶苦茶痛いぞ」
そう言って二本の刀を柔らかく構えた。
そして一呼吸入れるとオーガの手をピンポイントで狙う。リズムを取るようにステップし、指先に向けてまず一突き。それは確かに狙い通り敵の神経を切り裂き、得物を振るう手を止める。そのまま側面に回りこむと続けて足の甲へ流れるように一撃。これで完全に動きは止まった。
あとはとどめの一撃。そのまま背中側から脊髄へ、そして首へ向けて刀を振り上げる。それは一瞬のうちにオーガの肉体に斜めに傷を刻み、そして首を跳ね飛ばした。
その頃、テトラは“女王”の前で舞い踊るように動いていた。ひらひらと舞う蝶の様に動くテトラに、“女王”はいくら弓を動かしても狙いを絞ることが出来ない。
「ひっさしぶりだね女王さま! 覚えるのも面倒かもしれないけど、あたしの身軽さとしつこさは覚えてるでしょ?」
テトラはさらに挑発して、自分に攻撃を誘う。その言葉に“女王”はくすり、と笑ったような気がした。
「危ねぇっ!」
その時、“女王”の本当の狙いに気づいたのはヴァイスだけだった。とっさにあらん限りの声量で叫ぶ。だが、もう遅かった。
“女王”はテトラに向けて構えていた弓を左へ振る。そこに居たのは、崩れ落ちるオーガの外に出ていたバルデラマ。
次の瞬間、バルデラマの大柄な肉体が吹き飛ばされていた。その肉体は戦場を横断するように吹き飛び、崖沿いに落ちる。ぐったりと倒れ伏し動かなくなった彼の身体を、彼の愛馬が心配するようになめていた。
「畜生っ!」
ヴァイスは怒りを力に変え、守りを捨てて捨て身の一撃を喰らわせる。その勢いのまま渾身の力でリボルビングソーを振り上げる。そこにテトラはピッタリとタイミングを合わせてワイヤーウィップを絡ませると、ヴァイスの怒りを受けてか、高速回転したノコギリ刃が高周波の音を鳴らしながら“女王”の脚を切り裂いた。
●
“女王”はやっと今、森側が既に固められた事を知った。脚を引きずりながら後ろに振り向き逃げ出そうとする。だが、その“女王”の思いは叶わない。
ヴァイスの身体を幕にして、黒緑色の蛇が飛ぶ。それは“女王”のもう片方の脚に絡みつく。大蛇が脚に跳びかかり、絡まり、激しく動くと“女王”の体のバランスが崩れていく。そして程なくして、“女王”は戦場に倒れ伏した。
“女王”が倒れると蛇はシュルシュルと音を立てて元の位置に戻っていく。そこに居たのは劉だった。彼が放った鞭が、蛇のように絡まり“女王”の動きを止めたのだ。
それでも這いずるように動こうとする“女王”。その彼女の左眼に映ったのは森の側で待ち構える霧華。そしてこちらに近づいてきたユキヤの姿だった。
ユキヤはこちらに向かってくる“女王”を一瞥すると、腕輪を掲げる。一瞬集中し祈りを捧げるユキヤ。するとそこに光が集まり、ややあってその光は弾と化して“女王”に襲いかかった。
もはや“女王”に逃げる術は残されていなかった。その光は“女王”を捉え、光で持ってその身を灼く。それでもごそごそと蠢き、弓を引く“女王”。
しかし、そこで放たれたのは“女王”の矢では無かった。彼女の背後に対崎が近づいてきていた。かつてゴブリンが居たであろう場所まで来た彼は、魔導計算機のキーボードに数字を打ち込む。そして対崎が入力キーを叩くと、彼の目の前に光で出来た三角形が現れた。その頂点はさらに強く光り輝やき放たれる。そして光線は一点を目指し飛んで行く。
「……破弓って奴だ」
そう対崎がつぶやいた時には、収束していった光線が“女王”の背中を貫いていた。一点に集まり三角錐を描いたその光線は、まるで鏃の様に見えた。
しかし、まだ“女王”は弓を放とうとしていた。ここまで傷付き、もはやその身に力が入らなくなってきたとしても、最後までその矢で敵を貫く。それは覚悟なのか。はたまたそれ以外の選択肢を「怠けた」のか。
伏せて引いた弓の先端は巨大な剣を担いだエヴァンスの方を向く。エヴァンスの身体は彼の闘志がもたらす熱気がそうさせたのか、ゆらゆらとかげろうのように揺らめく。それを“女王”は霞む眼で見つめ、確実に貫こうとしていた。
そこに風を切る音が鳴った。それはこの広い戦場を一瞬のうちに縦断し、“女王”の腕を吹き飛ばす。
「……Check Mate」
その弾丸を放ったのは“女王”の矢を受けて倒れたはずのシルヴィアだった。シルヴィアは流れ弾が自分の方へ向けて飛んできた時に、とっさに後ろに跳んでかわしながら戦場の全てを騙すように倒れ、射抜かれたフリをしたのだった。しかし“女王”は全くそのことに気づいていなかった。
後は息を殺し、狙撃手としてその時を待つ。そしてシルヴィアがマテリアルを込めた弾丸は常識を遥かに超えた距離を飛び、恐るべき速度で肩口へと突き刺さった。
腕を吹き飛ばされ、矢は勝手に放たれる。それをエヴァンスは愛馬ロレックと共に弧を描くように動き、上から流す……というより叩き払った。彼女の自慢の極太の矢も、その巨剣の質量の前になすすべなく真っ二つにへし折られる。
「てめぇの相棒はその弓なんだろ?」
馬上から冷徹に“女王”に向かって語りかけるエヴァンス。
「だったら、そいつと一緒に終わらせてやらぁぁぁ!」
彼は振り下ろした剣の勢いをそのままに、ぐるりともう一回転させると大上段から全ての力を込めて振り下ろした。刃は熱風と共に“女王”に叩きつけられる。最後まで彼女が手にし、信じていた巨大な弓。それを刃は叩き折り、そして“女王”の身体へと食いこんでいく。
「歪虚が逃げるなんて選択をした時点で……」
頭、胸、脚。熱風が吹き抜け終えた時、縦に引き裂かれた“女王”の身体が転がっていた。
「負け確定なんだよ」
そう一言つぶやき、振り下ろした剣を背中に担いだ鞘にしまうエヴァンス。
そしてテトラは拳銃を向け、トリガーを引く。
「知らなかったの? 美少女からは逃げられない!」
銃声と共に、“破弓の女王”と呼ばれた恐るべき歪虚の身体は、風に吹かれた塵の様に崩れ、消え去っていった。
●
戦いは終わった。人間側の被害は一人。完勝と言っていい内容だった。
だが、その一人の被害は甚大だ。ユキヤは戦いが終わるや否やバルデラマの元へ向かい、治療を心みる。
仰向けに倒れたバルデラマの腹部に深く突き刺さっている太い太い矢。ここまでの深い傷では、ユキヤが得意とする治癒の術も役には立たない。せめてもと、アメリアは血が溢れ出さないように傷を押さえ、包帯などで止血を行いながら矢をゆっくりと引き抜いていく。その光景を、バルデラマの愛馬は心配そうに見つめていた。
しばし後、その矢が抜き取られた。霧華はその矢を手に取り見つめていた。今回、彼女は“女王”が森へ逃げ込む前の最後の砦として備えていた。結果的に彼女の元へ攻撃は来なかったわけだが、それは致し方ない。むしろ隙無く詰め切ったのだから喜ぶべきだ。だがそれでも、もしこの矢が自分の元へ飛んできた時、受け止められただろうか。そう想像する。
自分の身長に近い大きな緑色の盾と、太陽を模った前立て飾りが付いた武者兜。この二つでどんな攻撃だって受け止める自信はある。しかし、もしも今回“女王”がこちらに矢を放ってきたら……戦いにifは禁物だが、そう想像してしまう。それに
「ハイルタイの一撃を受けきるためには、この程度の攻撃を受けきれないとダメですからね」
災厄の十三魔の名を口の中で転がし、もしもまた機会があるなら……そう思っていた彼女の手の中で、矢はその持ち主と運命を共にした。一つ吹いた風に矢は崩れ、吹き流されていくのであった。
綺麗に障害物も段差もない荒野。左右は切り立った崖になり逃げることを許さず、奥に控える黒く鬱蒼と茂った森が彼我の勝敗をわける分水嶺となるように設えられた戦場。
「ずいぶんと、開けているな」
それを見てリカルド=イージス=バルデラマ(ka0356)はそう独りごちていた。この長方形の空間はまるでチェス盤のようだ。
「決着といえばいい場所だが」
だが、これから始まるチェスゲームは命を賭けたもの。そのことを思いバルデラマはもう一度手綱を引き締める。
「あれが噂の破弓……いいねぇ、俺が獲るに値する大物だ!」
そのバルデラマの前を、一頭の馬が走っていた。その鞍上にはエヴァンス・カルヴィ(ka0639)が愛馬と共に駆ける。彼が持つ巨大な、余りに巨大な蒼い刀身を持つ剣は、その漲らせていた闘志に呼応するかのごとく、仄かに熱気を持ってその剣の名のように風を巻き起きしていた。
「後が無い者との死合は良い……本質を満たし剣術の研鑽になる故、な」
そして馬の後ろからクリスティン・ガフ(ka1090)が駆ける。クリスティンがその身の丈の二倍を超える長さの太刀を抜き、肩に担ぐ。それと同時に彼女の表情が笑顔に変わった。そして刀に手をわずかに添え、軽やかに駆けていく。その巨大な太刀を持っても彼女が振り回されることはない。
だが、そんな二人にゴブリン達は陣を崩さず迫る。傷つき、もはや虫の息の雑魔達だが、それでも足止めだけならできるとばかりに迫る。
そこに一発の銃声が響いた。その音が晴れたとき、二人の正面に居たゴブリンが倒れ伏していた。
「わっしが道を切り開く、先に行ってくれ」
銃弾の出処は右側に居た対崎 紋次郎(ka1892)。彼は馬にまたがり、ライフルを構えていた。その銃弾が一体の雑魔を屠ったのを気にも止めず、次の一手を放つために馬を走らせる。
エヴァンスとクリスティンは前に一つ穴が開いたことを好機とばかりに前進する。
エヴァンスが駆け、勢いを止めず大剣を一振り。ただそれだけで、もう一体のゴブリンが斬り捨てられる。
クリスティンが駆け、柔らかく握った刀を振るう。自らの体の正中線を通すように縦に振るい、その白刃がゴブリンに触れるまさにその刹那にだけ、手に力を込めた。それにより立った刃が真っ二つにゴブリンを斬り裂く。
そうやって穴を広げた二人の前にはオーク、オーガ。巨人たちの姿。
「再戦の機会があるとは思わなかったぜ、破弓の女王」
だがそれを見ても、藤堂研司(ka0569)は冷静に状況を判断していた。一度戦った相手、その弓の威力がいかほどなのかはわかっている。だから覚悟も決まった。自分が為すべきことを為す。そのためにオークの影に隠れるように左へ回り、弓を引く。その大きさは“女王”のそれと比べてあまりに小さい。しかしそれが何も出来ないことを意味しない。藤堂は自分が女王だったら、と仮定し、敵の動きを読む。自分なら取り巻きを盾に全速力で森へ向かう。ならば……
「さあ、詰将棋だ……逃しはしねぇ、ここで詰めきる!」
藤堂は複数本の矢をまとめて握り、一気に射掛けた。威力の無い矢がバラバラと“女王”の元へ降り注ぐ。慌てて後ろへ下がり、矢をかわす“女王”。しかし取り巻き達はそうではなかった。その矢の雨の前に動けなくなる。結果、“女王”と取り巻き達の間に空間が出来上がった。藤堂の矢は当たらなくとも、“女王”の盾を引き剥がしたのだ。
そして後ろに下がった“女王”にも、ひとつの視線が向けられていた。
(逃がさないって、ここで死ぬ運命だよ)
戦場の右側で銀色のライフルを構え、そう思いながらそのスコープを覗く者が一人。アメリア・フォーサイス(ka4111)だ。大体30メートルほど離れた位置に構え、狙いを付ける。スコープの中心が映すのは“女王”の姿ではなく、その後ろの空間。そこへ照準を合わせただトリガーを引く。喜びも悲しみもなく、淡々と引かれたトリガーは弾丸を連続して発射し、その影を縫い止めるかのごとく“女王”の歩みを止めた。
そうして動きを止めた“女王”に、エヴァンス達が開いた穴を通って一発の弾丸が突き進む。
「女王……ここで仕留めさせて頂きます」
弾丸を放ったのは、エヴァンス達の遙か後ろで銃を構えていたシルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)。物々しい鎧の奥深くから、二つの眼は唯一つ“女王”だけを狙っていた。その銃弾は風を切り、一直線に戦場を抜ける。その弾丸は60メートルを通りぬけ、たった一点“女王”の左目に突き刺さる。弾丸がまとった冷気が顔を、体を包みその動きを止める。
「ぐがぁぁぁっ!」
“女王”が聞くものの心に恐怖を巻き起こす悲鳴を上げた所で、その弾丸を追い掛けるように二人の男が駆け抜けた。一人はバルデラマ、そしてもう一人は……
「虎穴に入らずん虎児を得ずだ。いくぜ」
リュー・グランフェスト(ka2419)だ。リューは守りを固め、雑魚には目もくれず一直線に“女王”の元を目指す。だが、それを只で許す女王ではない。左目を撃ちぬかれても己の弓を信じ引き絞る。狙うはこちらに突撃してきているリューの胸元。
リューも無策で飛び込んでいるわけではない。どれだけ危険な相手なのかはすでに聞いている。ならば、なおさら飛び込まなければ危険だ。それに自分に攻撃を引きつけられればそれだけでフォローになる。
「初撃……そいつさえ凌げば!!」
無謀だと誹りを受けても、それが自分の生きる道だ。
「悪い、テンペスト。でも信じてるぜ!」
一言、愛馬に謝り、鐙に足をかけ立ち上がる。
「おおおおおお!」
その咆哮に合わせるかのように“女王”は弓を放った。唸りを上げて矢はリューに迫る。そしてそれが貫くかと思われた瞬間、リューの姿が掻き消えた。
身体を一気に沈み込ませ、そのまま体重を片側に大きくかける。右に傾いたリューとテンペストの上を矢は一瞬のうちに通過していた。
だが、矢はそれで消えるわけではなかった。そのまま戦場を貫いて一直線に飛び、戦場端で構えていたシルヴィアへと向かう。その巨大な鎧が邪魔をしたのか、矢はシルヴィアに吸い込まれるように飛び、彼女の身体は後へと大きく吹っ飛んだ。
狙いは外れたが、まずは敵を一人倒し、満足気な笑みを浮かべる“女王”。しかし、片眼を失った“女王”はシルヴィアの動きに不自然な点があったことに気づいていなかった。
●
“女王”は一つになった眼で敵を見据える。陣の真ん中を突き破り突進するリューを、エヴァンスを、クリスティンを、バルデラマを見据える。この距離なら外さない。チャンスを伺い隙を狙う。
だが、“女王”は気づいていなかった。大きく回りこんで忍び寄る者達の姿に。
「最後のひと踏ん張りやね。今回はぜったい逃がさへんよ!」
突如として姿を表したのは、イチカ・ウルヴァナ(ka4012)。大きく左を突進し、そこから一気に斜めに切れ込んで入ってきたイチカにとっさに弓を向ける“女王”。しかし、彼女が矢を放つよりも早くイチカは少し離れて壁となろうとしていたオークの懐に潜り込み、手にした八角棍をありったけの力でフルスイングする。その強烈な一撃にぐらり、と身体を崩す敵。
「あたしは一陣の碧き風、誰もあたしを止められはしないっ!」
さらにテトラ・ティーニストラ(ka3565)が飛び込んでくる。テトラは自慢の回避能力を信じ、恐るべきことに盾と“女王”の間に生まれていたスペースへと飛び込んでいた。当然のごとく“女王”はテトラに弓を向け直し、ちょこまかと動く彼女を仕留めるべく狙いを絞る。
だが、そうやって弓を向けたことで“女王”の視線は中央に集中した。
「あれが破弓の女王か……怠惰の女巨人は美女って相場があるのかね」
その様子を左側から見ながらヴァイス(ka0364)は走っていた。同じく左側を進んでいたイチカと途中で別れ、“女王”を横目に真っ直ぐ走り抜ける。
「追ってるのはこっちなのに狙われるのこわーですねっ」
そんなヴァイスの後ろを、葛音 水月(ka1895)が走っていた。葛音はこれほど強大な敵を見てなお、心底楽しんでいた。
「当たれば一撃、な弓を避けながら制限時間付き……ふふ、スリリングで楽しそうですねー♪」
そう語る葛音の表情には狂気の色が滲んでいた。
「女王を討ち取るならば今」
そして二人からやや遅れて、追走しているのはユキヤ・S・ディールス(ka0382)である。ユキヤは一人、目的のために動いていた。だが、彼の目的は他の者達と同じ。
「逆を言えば、此処で討ち取ってしまわないと……ですね」
その言葉に反応したのか、ヴァイスと葛音が頷いた様に感じた。
一方逆サイドの崖沿いにも、同様に森へ向かって駆ける者達がいた。
「女王駒の名に恥じぬよう……!」
前を行くのは劉 培花(ka4266)である。そんな彼の姿に“女王”は気づかない。オーガも、オークも気づいていなかった。ただ一人、陣の端で守りを固めていたゴブリンだけが気づき、投石を行ってくる。
「投石……また厄介な」
眉間に皺を寄せつつも、劉はその勢いを止めることなく走り抜けた。そんな彼に石つぶては当たるわけがなかった。
そしてその後ろからは白神 霧華(ka0915)が馬を走らせていた。戦いを避け、外を大きく動く霧華と劉の考えは、いや、左側を駆ける三人の考えも同じく一つだった。
「たとえ無駄になろうとも退路を塞ぐように動くのが良いでしょう」
その考え通り、5人は一気に駆け抜け森の手前までやって来る。そしてそこまで来たらくるりと逆方向を向き、“女王”の背中目指して走り始めた。
「邪魔はさせねぇ……突撃の進路を開く!」
一方、女王が向いている方向では、ゴブリン達の穴に飛び込んだエヴァンス達を、ゴブリンが背中から襲いかかろうとしていた。だが、藤堂はそれを許さない。弓を捨て、ライフルに持ち替え、トリガーを引きっぱなしにした。
「詰めろは今、ここだぁぁぁっ!!」
次々と止めどなく銃弾がばら撒かれ、それが天からゴブリンたちに死を告げる雨となって降り注ぐ。それを受けゴブリンは無様に踊り狂う他無かった。
「後は任せたぜ、突撃隊っ! 」
その藤堂の願いを聞き届けたように、そこにリューが突っ込んでいった。“女王”の矢をかわしたらすぐに体制を戻しながら、刀の切っ先を敵に向ける。そして愛馬とともに勢いを乗せて突き立てた。その刃は振動し、低い音を辺りに響かせる。そして横に一瞬稲妻が走ったかと思うと、次の瞬間にはリューの前にいたオーガとオーク、その両方に刀が突き刺さっていた。
崩れていくオークとオーガ。しかしまだ息があったのか、最後の力を振り絞り棍棒をリューの脳天目掛け振り下ろそうとする。だが、その執念を二発の弾丸が断ち切る。
「一匹排除、次」
一発はアメリア。狙いすまして放たれた弾丸は寸分違わずオークの頭を撃ち抜き、額に風穴を開けてその命脈を切った。しかし彼女には感慨も何も無い。
やや遅れて放たれた弾丸を、受けたオーガはどこから来たのか気づいていなかっただろう。その弾丸はかの雑魔の後ろから放たれたのだから。葛音が放った弾丸は炎の精霊の加護を受け、赤い光を残しながら向かう。撃たれたことをオーガが気づいた時には、既に弾丸は胸を撃ち抜き飛び出していた後だった。
ほんの一瞬の間の後に、二体の雑魔は崩れ落ちていく。
そして残ったオーガに、バルデラマが近づいた。バルデラマはそのまま馬の背から転げ落ちるように飛び降りる。彼の馬は戦場から外れ駆けていく。それを一瞬見送り、
「さてあまり時間は掛けられないんでな、滅茶苦茶痛いぞ」
そう言って二本の刀を柔らかく構えた。
そして一呼吸入れるとオーガの手をピンポイントで狙う。リズムを取るようにステップし、指先に向けてまず一突き。それは確かに狙い通り敵の神経を切り裂き、得物を振るう手を止める。そのまま側面に回りこむと続けて足の甲へ流れるように一撃。これで完全に動きは止まった。
あとはとどめの一撃。そのまま背中側から脊髄へ、そして首へ向けて刀を振り上げる。それは一瞬のうちにオーガの肉体に斜めに傷を刻み、そして首を跳ね飛ばした。
その頃、テトラは“女王”の前で舞い踊るように動いていた。ひらひらと舞う蝶の様に動くテトラに、“女王”はいくら弓を動かしても狙いを絞ることが出来ない。
「ひっさしぶりだね女王さま! 覚えるのも面倒かもしれないけど、あたしの身軽さとしつこさは覚えてるでしょ?」
テトラはさらに挑発して、自分に攻撃を誘う。その言葉に“女王”はくすり、と笑ったような気がした。
「危ねぇっ!」
その時、“女王”の本当の狙いに気づいたのはヴァイスだけだった。とっさにあらん限りの声量で叫ぶ。だが、もう遅かった。
“女王”はテトラに向けて構えていた弓を左へ振る。そこに居たのは、崩れ落ちるオーガの外に出ていたバルデラマ。
次の瞬間、バルデラマの大柄な肉体が吹き飛ばされていた。その肉体は戦場を横断するように吹き飛び、崖沿いに落ちる。ぐったりと倒れ伏し動かなくなった彼の身体を、彼の愛馬が心配するようになめていた。
「畜生っ!」
ヴァイスは怒りを力に変え、守りを捨てて捨て身の一撃を喰らわせる。その勢いのまま渾身の力でリボルビングソーを振り上げる。そこにテトラはピッタリとタイミングを合わせてワイヤーウィップを絡ませると、ヴァイスの怒りを受けてか、高速回転したノコギリ刃が高周波の音を鳴らしながら“女王”の脚を切り裂いた。
●
“女王”はやっと今、森側が既に固められた事を知った。脚を引きずりながら後ろに振り向き逃げ出そうとする。だが、その“女王”の思いは叶わない。
ヴァイスの身体を幕にして、黒緑色の蛇が飛ぶ。それは“女王”のもう片方の脚に絡みつく。大蛇が脚に跳びかかり、絡まり、激しく動くと“女王”の体のバランスが崩れていく。そして程なくして、“女王”は戦場に倒れ伏した。
“女王”が倒れると蛇はシュルシュルと音を立てて元の位置に戻っていく。そこに居たのは劉だった。彼が放った鞭が、蛇のように絡まり“女王”の動きを止めたのだ。
それでも這いずるように動こうとする“女王”。その彼女の左眼に映ったのは森の側で待ち構える霧華。そしてこちらに近づいてきたユキヤの姿だった。
ユキヤはこちらに向かってくる“女王”を一瞥すると、腕輪を掲げる。一瞬集中し祈りを捧げるユキヤ。するとそこに光が集まり、ややあってその光は弾と化して“女王”に襲いかかった。
もはや“女王”に逃げる術は残されていなかった。その光は“女王”を捉え、光で持ってその身を灼く。それでもごそごそと蠢き、弓を引く“女王”。
しかし、そこで放たれたのは“女王”の矢では無かった。彼女の背後に対崎が近づいてきていた。かつてゴブリンが居たであろう場所まで来た彼は、魔導計算機のキーボードに数字を打ち込む。そして対崎が入力キーを叩くと、彼の目の前に光で出来た三角形が現れた。その頂点はさらに強く光り輝やき放たれる。そして光線は一点を目指し飛んで行く。
「……破弓って奴だ」
そう対崎がつぶやいた時には、収束していった光線が“女王”の背中を貫いていた。一点に集まり三角錐を描いたその光線は、まるで鏃の様に見えた。
しかし、まだ“女王”は弓を放とうとしていた。ここまで傷付き、もはやその身に力が入らなくなってきたとしても、最後までその矢で敵を貫く。それは覚悟なのか。はたまたそれ以外の選択肢を「怠けた」のか。
伏せて引いた弓の先端は巨大な剣を担いだエヴァンスの方を向く。エヴァンスの身体は彼の闘志がもたらす熱気がそうさせたのか、ゆらゆらとかげろうのように揺らめく。それを“女王”は霞む眼で見つめ、確実に貫こうとしていた。
そこに風を切る音が鳴った。それはこの広い戦場を一瞬のうちに縦断し、“女王”の腕を吹き飛ばす。
「……Check Mate」
その弾丸を放ったのは“女王”の矢を受けて倒れたはずのシルヴィアだった。シルヴィアは流れ弾が自分の方へ向けて飛んできた時に、とっさに後ろに跳んでかわしながら戦場の全てを騙すように倒れ、射抜かれたフリをしたのだった。しかし“女王”は全くそのことに気づいていなかった。
後は息を殺し、狙撃手としてその時を待つ。そしてシルヴィアがマテリアルを込めた弾丸は常識を遥かに超えた距離を飛び、恐るべき速度で肩口へと突き刺さった。
腕を吹き飛ばされ、矢は勝手に放たれる。それをエヴァンスは愛馬ロレックと共に弧を描くように動き、上から流す……というより叩き払った。彼女の自慢の極太の矢も、その巨剣の質量の前になすすべなく真っ二つにへし折られる。
「てめぇの相棒はその弓なんだろ?」
馬上から冷徹に“女王”に向かって語りかけるエヴァンス。
「だったら、そいつと一緒に終わらせてやらぁぁぁ!」
彼は振り下ろした剣の勢いをそのままに、ぐるりともう一回転させると大上段から全ての力を込めて振り下ろした。刃は熱風と共に“女王”に叩きつけられる。最後まで彼女が手にし、信じていた巨大な弓。それを刃は叩き折り、そして“女王”の身体へと食いこんでいく。
「歪虚が逃げるなんて選択をした時点で……」
頭、胸、脚。熱風が吹き抜け終えた時、縦に引き裂かれた“女王”の身体が転がっていた。
「負け確定なんだよ」
そう一言つぶやき、振り下ろした剣を背中に担いだ鞘にしまうエヴァンス。
そしてテトラは拳銃を向け、トリガーを引く。
「知らなかったの? 美少女からは逃げられない!」
銃声と共に、“破弓の女王”と呼ばれた恐るべき歪虚の身体は、風に吹かれた塵の様に崩れ、消え去っていった。
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戦いは終わった。人間側の被害は一人。完勝と言っていい内容だった。
だが、その一人の被害は甚大だ。ユキヤは戦いが終わるや否やバルデラマの元へ向かい、治療を心みる。
仰向けに倒れたバルデラマの腹部に深く突き刺さっている太い太い矢。ここまでの深い傷では、ユキヤが得意とする治癒の術も役には立たない。せめてもと、アメリアは血が溢れ出さないように傷を押さえ、包帯などで止血を行いながら矢をゆっくりと引き抜いていく。その光景を、バルデラマの愛馬は心配そうに見つめていた。
しばし後、その矢が抜き取られた。霧華はその矢を手に取り見つめていた。今回、彼女は“女王”が森へ逃げ込む前の最後の砦として備えていた。結果的に彼女の元へ攻撃は来なかったわけだが、それは致し方ない。むしろ隙無く詰め切ったのだから喜ぶべきだ。だがそれでも、もしこの矢が自分の元へ飛んできた時、受け止められただろうか。そう想像する。
自分の身長に近い大きな緑色の盾と、太陽を模った前立て飾りが付いた武者兜。この二つでどんな攻撃だって受け止める自信はある。しかし、もしも今回“女王”がこちらに矢を放ってきたら……戦いにifは禁物だが、そう想像してしまう。それに
「ハイルタイの一撃を受けきるためには、この程度の攻撃を受けきれないとダメですからね」
災厄の十三魔の名を口の中で転がし、もしもまた機会があるなら……そう思っていた彼女の手の中で、矢はその持ち主と運命を共にした。一つ吹いた風に矢は崩れ、吹き流されていくのであった。
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リカルド=フェアバーン(ka0356)
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- アニス・エリダヌス(ka2491) → エヴァンス・カルヴィ(ka0639)
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- エイル・メヌエット(ka2807) → ヴァイス・エリダヌス(ka0364)
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- アルファス(ka3312) → テトラ・ティーニストラ(ka3565)
- フィルメリア・クリスティア(ka3380) → エヴァンス・カルヴィ(ka0639)
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依頼相談掲示板 | |||
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質問卓! エヴァンス・カルヴィ(ka0639) 人間(クリムゾンウェスト)|29才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/05/20 00:09:05 |
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相談卓 藤堂研司(ka0569) 人間(リアルブルー)|26才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/05/23 18:07:57 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/21 04:09:50 |