ゲスト
(ka0000)
マリッジ(仮)
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~6人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/27 07:30
- 完成日
- 2015/05/28 23:20
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ピースホライズンのとある衣装屋にて
もうじき、ジューンブライドの季節を迎えるに当たって、衣装屋は大忙しであった。
結婚式用の衣装の貸出や販売、修復等、休む間もない。それでも、従業員達は一生懸命だ。
もちろん、衣装屋の主人も奮闘している。
「……つまり、CM作成だよ」
一連の内容を主人は説明する。
衣装屋としての名を広めるには宣伝活動が大切だ。
昨年から、ハンター達の協力を得て行ってきた宣伝の効果があり、売り上げは右肩上がり。
覚醒者を雇う事により転移門を利用しての衣装宅配サービスも始まり、その勢いは留まる事を知らない。
「それはわかってるはいるのだけど、なんで、また、僕なの?」
説明を聞いていたのは、若い脚本家だった。
「恋愛は得意だろ?」
「それ、本気で言っているの?」
得意なわけがない。
昨年、ハンター達の協力を得て脚本した作品が好評だっただけだ。
「私とて、鬼ではないよ。今回もハンターにお願いする。お前はそれをヒントに脚本を練る。それだけだ」
「毎回、そんな手が通用するのかな?」
「CMは、ワンシーンが大事になってくる。よりインパクトのあるフレーズは、演劇とは違うはずだろ。前回と同じではないではないのか」
主人の言う通りだ。
脚本家は不安を隠せないようだが……。
「まぁ、お前はハンターを信じていればいい。なに、心配するな。ハンターへの報酬は、こちらから、全額だすからな」
●とあるハンターオフィスの一室にて
「はい、ソルラさん、これを読み上げて下さい」
受付嬢兼ハンターのミノリがメモをソルラ・クート(kz0096)に手渡した。
そこに書いてある文章を、恥ずかしがりながら、たどたどしく読み上げた。緊張しているのか、オドオドする度に、サイドテールが揺れる。
「『今、とっても幸せなのですけれど』」
「キャァァァァ!」
悲鳴にも近い叫び声をあげて、なにか嬉しそうに、ミノリが机をバンバンと叩く。
さっと、今度は別のメモを渡した。今度はそっちを読みあげろという事のようだ。
「『ガイシュウイッショクヨ』……?」
「いいわ……ソルラさん。まさか、ここまでできるとは……」
鼻血でもでそうな勢いなのか、思わずハンカチで鼻を押さえるミノリ。
「で、ミノリさん、これはなんですか?」
「練習です!」
キリっと表情をキメるミノリ。
大抵、こういう時の彼女は、悪い事しか考えてないのだが。
「実は、ある依頼がありまして、私1人では手に負えないかもしれないので」
「ミノリさんが手に負えない依頼とは……ゴブリンの群れでも討伐しに行くのですか?」
「戦闘ではありませんよ! 寸劇です!」
その言葉に、ソルラは嫌そうな顔をした。
どうも、演じるのは苦手なのだ。すぐに態度や顔に出てしまう。
「ハンターの皆さんと共に、衣装屋のCMのネタ作りをするのです」
「……私、帰ってもいいかしら?」
小隊としての大事な仕事もある。
国を守り、民を守るという大事な使命もある。
立ち上がろうとしたソルラに、ミノリがそっと耳打ちした。
「協力してくれたら、私達には、とびきりのウェディングドレスを仕立ててくれるそうですよ」
「……やりましょう! ミノリさん!」
こうして、2人はピースホライズンへと、転移門で移動するのであった。
●依頼内容とは?
「集まっていただいたハンター諸君。私が依頼主だ。よろしく頼む」
依頼を受けに集まったハンター達に主人が大げさに自己紹介をした。
数名の使用人が依頼の資料を配る。
「結婚式用の衣装の宣伝CMを作成する。諸君らには、そのCM内容のネタを考え、見本を見せて欲しい」
詳細は手元に書いてあった。
必ず2人一組のペアで行う事が強調されている。
「諸君ら同士でも構わないし、ゲスト出演のソルラ嬢とミノリ嬢と組んでもいい。撮影協力で雇ったハンターの中から選んでもよい。とにかく、2人一組だ」
ソルラが始まってもいないのに顔を真っ赤にしている。どんな事を想像しているのだろうか。
それとは対照的にミノリはとても楽しそうだ。
主人の説明は続く。
「それと、もう一つ大切な事は、時間に制限がある事だ」
あまり長い作品にはできないらしい。
もって、30秒程との事。となるとできる行動はおのずと限られてくる事になる。
「あと、細かい所は、資料を読んでもらいたいが、CM内容のネタを考える以外に、諸君らにはもう一つ仕事がある」
それは、キャッチフレーズを考える事だった。
結婚したくなるような素敵なフレーズが欲しいらしい。
「では、諸君、よろしく頼む。細かい質問は、ソルラ嬢を通じてもらう事になる」
主人は高らかに宣言すると、部屋から出て行くのであった。
もうじき、ジューンブライドの季節を迎えるに当たって、衣装屋は大忙しであった。
結婚式用の衣装の貸出や販売、修復等、休む間もない。それでも、従業員達は一生懸命だ。
もちろん、衣装屋の主人も奮闘している。
「……つまり、CM作成だよ」
一連の内容を主人は説明する。
衣装屋としての名を広めるには宣伝活動が大切だ。
昨年から、ハンター達の協力を得て行ってきた宣伝の効果があり、売り上げは右肩上がり。
覚醒者を雇う事により転移門を利用しての衣装宅配サービスも始まり、その勢いは留まる事を知らない。
「それはわかってるはいるのだけど、なんで、また、僕なの?」
説明を聞いていたのは、若い脚本家だった。
「恋愛は得意だろ?」
「それ、本気で言っているの?」
得意なわけがない。
昨年、ハンター達の協力を得て脚本した作品が好評だっただけだ。
「私とて、鬼ではないよ。今回もハンターにお願いする。お前はそれをヒントに脚本を練る。それだけだ」
「毎回、そんな手が通用するのかな?」
「CMは、ワンシーンが大事になってくる。よりインパクトのあるフレーズは、演劇とは違うはずだろ。前回と同じではないではないのか」
主人の言う通りだ。
脚本家は不安を隠せないようだが……。
「まぁ、お前はハンターを信じていればいい。なに、心配するな。ハンターへの報酬は、こちらから、全額だすからな」
●とあるハンターオフィスの一室にて
「はい、ソルラさん、これを読み上げて下さい」
受付嬢兼ハンターのミノリがメモをソルラ・クート(kz0096)に手渡した。
そこに書いてある文章を、恥ずかしがりながら、たどたどしく読み上げた。緊張しているのか、オドオドする度に、サイドテールが揺れる。
「『今、とっても幸せなのですけれど』」
「キャァァァァ!」
悲鳴にも近い叫び声をあげて、なにか嬉しそうに、ミノリが机をバンバンと叩く。
さっと、今度は別のメモを渡した。今度はそっちを読みあげろという事のようだ。
「『ガイシュウイッショクヨ』……?」
「いいわ……ソルラさん。まさか、ここまでできるとは……」
鼻血でもでそうな勢いなのか、思わずハンカチで鼻を押さえるミノリ。
「で、ミノリさん、これはなんですか?」
「練習です!」
キリっと表情をキメるミノリ。
大抵、こういう時の彼女は、悪い事しか考えてないのだが。
「実は、ある依頼がありまして、私1人では手に負えないかもしれないので」
「ミノリさんが手に負えない依頼とは……ゴブリンの群れでも討伐しに行くのですか?」
「戦闘ではありませんよ! 寸劇です!」
その言葉に、ソルラは嫌そうな顔をした。
どうも、演じるのは苦手なのだ。すぐに態度や顔に出てしまう。
「ハンターの皆さんと共に、衣装屋のCMのネタ作りをするのです」
「……私、帰ってもいいかしら?」
小隊としての大事な仕事もある。
国を守り、民を守るという大事な使命もある。
立ち上がろうとしたソルラに、ミノリがそっと耳打ちした。
「協力してくれたら、私達には、とびきりのウェディングドレスを仕立ててくれるそうですよ」
「……やりましょう! ミノリさん!」
こうして、2人はピースホライズンへと、転移門で移動するのであった。
●依頼内容とは?
「集まっていただいたハンター諸君。私が依頼主だ。よろしく頼む」
依頼を受けに集まったハンター達に主人が大げさに自己紹介をした。
数名の使用人が依頼の資料を配る。
「結婚式用の衣装の宣伝CMを作成する。諸君らには、そのCM内容のネタを考え、見本を見せて欲しい」
詳細は手元に書いてあった。
必ず2人一組のペアで行う事が強調されている。
「諸君ら同士でも構わないし、ゲスト出演のソルラ嬢とミノリ嬢と組んでもいい。撮影協力で雇ったハンターの中から選んでもよい。とにかく、2人一組だ」
ソルラが始まってもいないのに顔を真っ赤にしている。どんな事を想像しているのだろうか。
それとは対照的にミノリはとても楽しそうだ。
主人の説明は続く。
「それと、もう一つ大切な事は、時間に制限がある事だ」
あまり長い作品にはできないらしい。
もって、30秒程との事。となるとできる行動はおのずと限られてくる事になる。
「あと、細かい所は、資料を読んでもらいたいが、CM内容のネタを考える以外に、諸君らにはもう一つ仕事がある」
それは、キャッチフレーズを考える事だった。
結婚したくなるような素敵なフレーズが欲しいらしい。
「では、諸君、よろしく頼む。細かい質問は、ソルラ嬢を通じてもらう事になる」
主人は高らかに宣言すると、部屋から出て行くのであった。
リプレイ本文
●衣装屋の屋敷にて
ハンター達は、ゲストを含めた依頼主らと簡単な打ち合わせを終え、各々が準備に取り掛かる。
岩動 巧真(ka1115)とアジュール・L=ローズレ(ka1121)の2人も、それは同様だった。
「結婚の……CM? 巧真がやるなら……付き合うよ」
眠たそうなアジュールを、甘いお菓子で釣って連れてきたのは、巧真であった。
「CM撮影のネタ出し。また奇特っつうか、面白ぇ依頼だろ」
ハンターオフィスを通じての正式な依頼である。
普段、おめかしなどをしないアジュールをめかし込ませる腹積りもあって依頼を受けたのだ。
さっそく衣装選びからなのだが、巧真はさっさと黒が基調のタキシードを選び、ウェディングドレスの品定めに入る。
(こういうの着りゃ化けんだろうな)
実に様々なドレスの中、ミニ丈のものを熱心に眺めながら、アジュールが着ている姿を想像する。
スリットも入っている薄手の物で、重ね着もできなくないだろう。
一方のアジュールは気の抜けた表情でコーディネーターが勧めてくるドレスを見ていた。
普段からお洒落に興味がない彼女にとっては、どれも同じ様に見える。
こんな時、姉や妹なら、どんな反応をするのだろうかと、思う。
(巧真……?)
とあるドレスをマジマジと見て、手に取る巧真の姿が視界に入った。
直後、彼はタキシードを用意してきた店員に声をかけられ、試着室へ向かって行く。
沢山あるドレスの中で、巧真が選んでいたドレスが眩しく見えた。
「……ボク、アレにする」
コーディネーターの物凄いお勧めの話をバッサリとぶった切り、アジュールは巧真がマジマジと品定めしていたドレスを取りに行った。
●もう一度君に恋をした
(恋愛劇の次は、結婚衣装の宣伝か……)
トライフ・A・アルヴァイン(ka0657)が昨年の事を思い出していた。
その時と違って、今回はソルラも居るし、役得だと思った矢先、視界の中に孤児院の仲間の姿が映る。
(……アレは極力無視するか)
ただ、ソルラにあることあること色々と告げ口されるのには気をつけておこうと思う。油断大敵だ。
「さて、折角の機会だ。あまり気負わず楽しもうか、ソルラ嬢」
「は、はい! よろしくお願いします!」
撮影直前、緊張を解そうと話しかけたが、ソルラは既に気負っていた。
無理もない。ソルラに恋愛系の綿密な演技を期待するのは酷なのだ。
以前にもソルラの恋人役をトライフはやった事があるのだが、その時も彼女の演技は散々だった。
「俺が合わせれば何とかなる」
トライフの言葉にソルラは頷く。
ここは庭園。花嫁を待つ花婿が、現れた花嫁に、更に見惚れるという内容だ。
シナリオ通り、ピンク色のドレス姿で現れるソルラ。2人の間に風が、花びらと共に吹き抜けた。
(結婚したくなる、だからな)
爽やかさや初々しさは大事なポイントだ。無駄な言葉は要らない。
時に態度はどんな多くの言葉よりも雄弁なのをトライフは知っていた。
花嫁に見惚れながら、ゆっくりとソルラに近付く。そして、頬に手を添える。
ソルラの瞳が揺れている。ちょっと、彼女には刺激が強すぎたかもしれない。なので、一言だけトライフは優しく告げた。
「──僕と結婚して下さい」
シンプルだけど、一番分かりやすい台詞。
思わず、ハイと返事してしまうソルラだった。
●家族に贈る、生涯最高の贈り物に
(こういうのに参加するとは思ってなかったな……)
シンプルな長袖シャツにズボンといった普段着姿のネグロ・ノーチェ(ka0237)が、複雑な心境で、義姉の姿を眺めていた。
正直、家族という存在は苦手だった。だから、結婚に関するこの依頼に自分が参加する事が意外なのだ。孤児院時代からの仲間と一緒でなければ、ここには居なかったかもしれない。
(一緒に過ごしてきたヤツらの幸せを願えない訳じゃねぇし、不幸になるより幸せになる方がいいか)
そんな事を心の中で思う。さすがに、声に出す訳にもいかない。
なにしろ、既に撮影は始まっているのだ。そんな事、言ってしまった暁には、演技どころではなくなる。
それにしてもと、ふと、感じた。
もし、本当に、エヴァが結婚して衣装合わせに俺を連れて行くとして……エヴァには何が似合うのだろうかと。
白も良いが、カラードレスも似合うかもしれない。
(エヴァ……どうでもいいとか思ってたが、案外そうでもねーのな)
義弟の熱心な視線を感じつつ、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は真剣に衣装を選んでいた。
ベールだけは頭に被っているが、フォーマルな普段着姿だ。
なぜなら、二人は結婚式の衣装選びにやってきた姉弟という設定だから。
結婚とは恋人同士だけの事ではなく、家族や周囲も関わる大事な事なので、家族向けにと考えたのだ。
『幸せを飾り巣立つ姿を、最初に見せたい人がいます』
キャッチコピーを掲げた時に脚本家は驚いていた。
その発想は無かったという事ともう一つ。脚本家にとっては、エヴァが思い出深い人でもあったからのようだ。
チラリと衣装を探す振りをして視線を巡らす。今回の依頼を共にするハンターの何人かは見知った仲である。
(後でソルラさんに色々教えてあげた方がいいよね)
ある一組のペアを見ながらエヴァは心に誓う。
ふと、目に付いた一着のドレスを手に取る……が、慌てて、別のドレスに手を伸ばす。
演技である。決して、落ち着かないわけでも、必死めいているわけでもない。
(練習の成果、見せてね)
撮影開始前に表情練習をこっそりとネグロがやっていたのを見ていたので、どの程度のものか、つい、心の中でニヤニヤとしてしまう。これは、後々からかいのネタになるはずと確信していた。
タイミングを見計らって、あるドレスを身体に当てる様に持って、ネグロに向かって首を傾げつつ、一周くるりと軽やかに回る。
ふわっとドレスがひらめく。
「よく似合ってる。綺麗だ」
そして、ネグロは少し涙ぐ……む。たぶん、出来た。
「幸せになれよ、姉さん」
嬉しさと悲しさが混じったような難しい表情を……たぶん、しているはず。
その時、エヴァがベールを上げてはにかみながら、背伸びをすると、ネグロの黒髪をかき撫でる。
くすぐったいと思った次には、ネグロの頬にエヴァが唇を当てていた。
そこへ撮影が終了したと声がかかる。
「お前ッ!」
頬を抑えながらネグロは顔を真っ赤にしていた。
怒っているわけではないのは、誰の目からも明らかだ。
彼は……思いっきり照れていたのであった。
●ドレスに描かれた愛は、永遠に咲く
午前最後の撮影は、ルピナス(ka0179)とミノリのペアであった。
花々が咲き誇る庭園の中、タキシード姿のルピナスが花嫁を探して駆けていた。
(なんだか、こう身なりを整えると昔を思い出すよね)
とある騎士の名家の長男坊だったので、家から出る前の事を思い出させ、撮影中というのに、思わず苦笑を浮かべてしまいそうになる。
庭園の中、一段上がった場所に白いウェディングドレス姿のミノリが見えた。
タンザナイトの宝石の様な、青紫色の長い髪が、白いドレスに映えている。
(ミノリちゃんも楽しみにしていたし、あまり無い機会だから楽しまないとね)
そう思いながら、ミノリに近付く。
陽の光が、白いドレスを際立たせる。
ルピナスは彼女の透ける様な白い肌を手に取り、貴族のような優雅な動きで、その甲に軽くキスをする。
「とても美しいよ」
ルピナスの甘い言葉にミノリは満面の笑みを浮かべていた。
そして、こっからはサプライズだと心の中でルピナスは呟くと、ミノリのベールをそっと上げる。
それが何を意味するのか、察しの良いミノリはすぐに分かったようだ。静かに瞳を閉じ、わずかに顔を上げる。
ルピナスがそんなミノリに顔を近づけた瞬間、弾けるような音と共に、大量のブルースターが舞った。
「すご~い!」
突然の事に驚いたミノリは、白いドレスをキャンバスに、鮮やかに青く飾る花に嬉しそうな声をあげる。
「互いの想いを象徴するように、『ドレスに描かれた愛は、永遠に咲く』なんて、ね」
花言葉は、幸福な愛。信じあう心。
ミノリが嬉しそうにその場でふわっと回る。青紫の髪と共に、ブルータスの花が揺れた。
●最後の撮影までの間
トライフ、ネグロ、ルピナスの野郎3人とエヴァ、ソルラ、ミノリの美女3人は、それぞれ仕事が終わったので、集まって休憩していた。
「やっぱり、結婚したいなぁ~!」
ミノリが純白のドレスを力強く握り締めていた。
乙女には結婚というのはなにか、特別な響きでもあるのだろうか。
(結婚ね。何を好き好んでそんなものをするんだか、さっぱり理解出来ないが)
(俺を置いていったヤツらと同じに思いたくねーから)
(結婚にあんまり良いイメージが無いや)
結婚に対して前向きではない野郎3人の気持ちが心の中でリンクした。
エヴァはその野郎共のリンクが手に取るように分かった。
『これだから男は』
スケッチブックに自らの心の声を書き、キュッとした顔で睨みつける。
トライフがとぼけるように視線を外すと、ルピナスは誤魔化すように微笑む。
ネグロだけが、先程の撮影内容を思い出して、また赤面する。
しばらくは、顔に出てしまうだろう。
これは、もう、事情を知っている人の玩具かもしれない。
「本当に美しくて感動しちゃったよ!」
ルピナスが興奮から冷めていないのか、そんな事を言う。
その言葉にミノリが顔を赤くしてモジモジしていた。
「そ、そう?」
「そうだよ! ドレスってさ、人形用のも作れたりしない!?」
「……え?」
ミノリの表情が凍てつく。
この男は一体、何を言っているのだろうか。
「うちのヴィオレッタにも着せてあげたいな~」
人形の名前なのだろうか。今の彼の表情は、今日一番輝いていた。
私の事じゃないの~と叫ぶミノリに苦笑を浮かべながら、トライフが隣に座るソルラに話しかけた。
「そういえば、ドレスを仕立てて貰うんだって?」
「はい。今から、楽しみです♪」
「何時か着ているのを見たいな。出来れば隣に……」
立ってねと言おうとした所で、エヴァがサッとスケッチブックを差し出した。
『猫かぶりトライフ』
「エヴァ、言葉の使い方を誤っているよ」
心の中で、こんにゃろと思いながら、優しげにトライフはエヴァに言った。
負けじと、エヴァは『たらしトライフ』やら『中身はオオカミ』他には『危険人物』とスケッチブックに書いていく。それを、落ち着いて軽くいなしていくトライフ。ソルラの前では、あくまで真摯なのだ。
そんな、2人のやり取りにソルラは首を傾げて困った顔を浮かべていた。
そして、急に手をパンと鳴らす。全員が彼女に注目する。
「わかりました!」
自分に話しかけるトライフ。それを阻止しようとするエヴァ。
つまり……エヴァさんは、実はトライフさんが大好きで、他の人と話して欲しくないから、うんぬん。トライフさんはそんなエヴァさんが他の人から嫌われないように、うんうん。この素晴らしい推理から導き出される答えはただ一つ!
「トライフさんと、エヴァさんは、相思相愛だったのですね!」
ソルラの言葉に、ある者は咥えていたタバコを掌に、ある者はスケッチブックを落とし、それ以外の者もバランスを崩し転倒、転落しかけるのであった。
●マリッジブルーを吹き飛ばせ!
真っ青なドレスを身に纏ったアジュールが、身体を丸くしてしゃがみこんでいた。
まるで、結婚を前に悩んでいる花嫁の様に。それが、巧真が考えたシナリオだった。
結婚前に、本当に結婚していいのだろうかという苦悩と解放を演じるつもりだ。
「なんだか、とても面倒になったかも……」
呟いた内容は台本の指示通りなのだが、もともとの性格からか、素で呆けている感じにも見える。
そこへ、タキシードでビシっとキメた巧真が、凄く真面目な顔付きで現れた。
「な、なんで!?」
指示された通り驚くのだが、実は本当に驚いていた。
この男の、ここまで真面目な顔など見た事が無いかもしれない。
「行くぞ」
「……行かない」
上げた顔をもう一度埋めるアジュール。だが、巧真が彼女の手を取り、蹲った身体を一気に引き上げる。
床に留める仕掛けをつけていた青いドレスが一瞬で、脱げ、アジュールは白いウェディングドレス姿に替わった。
キョトンとした表情の彼女をお姫様抱っこすると、駆けだす巧真。
脚本家が用意した無数の花びらが舞い散る中、巧真はアジュールを抱き上げたまま、屋上に出る。
「綺麗……」
花吹雪は屋上に出ても続いていた。ゆっくりと降ろされたアジュールはその光景に呟く。
台本はここまでだった。だが、正面に立ち、自分を見つめ続ける巧真の雰囲気にそのまま立ちつくす。
スッと優しく頬を撫でられ、そのまま、静かに顔先に添えられる手。
呆けた顔のアジュールは、思わず微笑んだ。巧真に対する想いを遂げられる機会に巡り合えたからだ。
誓いのキスの様に、2人の唇が重なるのを花吹雪が被い隠すのであった。
●月だけが見ていた事
月明かりの夜景の中、屋上のオープンカフェで撮影を終えた巧真とアジュールが一息ついていた。
寄り添いながら、酒を飲み、月を静かに見上げている。
カフェの店員は仕入れの為、下の階へと降りて行ったので、今は屋上に、二人っきりだ。
「お前、俺がそれ見てるの見てたな?」
アジュールが青いドレスの下に着ていた白いウェディングドレスは、巧真が品定めしていた物だった。
そのドレスは薄手の物なので、少し肌寒そうにも見えるが、彼女は今、少し上気した様にも感じられる。お酒のせいなのか、それとも……。
「……ボクには、これを着ろって意味のように思えたから」
「おまえには、予想以上に、良い仕上がりだ」
アジュールの腰をグッと引き寄せる巧真。
その流れにまま、先程のように、突然のキス。アジュールはただ茫然と受け入れるだけだった。
「最後のアレは、アドリブだったはずなのに、おまえにしては良い笑顔で上出来だ」
唇を離し、お互いの額を当てながら小さく囁くと、僅かな間の後にアジュールが答えた。
「……気持ちが入ったからかな」
「正直じゃないな」
「どう受け取っても構わな……」
微笑んだ彼女の台詞が全て発せられるよりも先に、巧真が唇をキスで塞いだ。
背中に回された彼の手に力が入る。アジュールもそれに応えるように、身体を預けた。
床に散らばったままの花びらが、月に向かって舞い上がる。
それは、まるで、唯一の目撃者からの視線を塞ぐかのようだった。
こうして、ハンター達の素晴らしい演技の元、脚本家が作った衣装屋のCMは作成され、一部で流された。
『花びら舞う屋上で愛を誓う恋人』と『花嫁を送り出す家族』の二つのパターンが用意され、好評だったという。
おしまい。
ハンター達は、ゲストを含めた依頼主らと簡単な打ち合わせを終え、各々が準備に取り掛かる。
岩動 巧真(ka1115)とアジュール・L=ローズレ(ka1121)の2人も、それは同様だった。
「結婚の……CM? 巧真がやるなら……付き合うよ」
眠たそうなアジュールを、甘いお菓子で釣って連れてきたのは、巧真であった。
「CM撮影のネタ出し。また奇特っつうか、面白ぇ依頼だろ」
ハンターオフィスを通じての正式な依頼である。
普段、おめかしなどをしないアジュールをめかし込ませる腹積りもあって依頼を受けたのだ。
さっそく衣装選びからなのだが、巧真はさっさと黒が基調のタキシードを選び、ウェディングドレスの品定めに入る。
(こういうの着りゃ化けんだろうな)
実に様々なドレスの中、ミニ丈のものを熱心に眺めながら、アジュールが着ている姿を想像する。
スリットも入っている薄手の物で、重ね着もできなくないだろう。
一方のアジュールは気の抜けた表情でコーディネーターが勧めてくるドレスを見ていた。
普段からお洒落に興味がない彼女にとっては、どれも同じ様に見える。
こんな時、姉や妹なら、どんな反応をするのだろうかと、思う。
(巧真……?)
とあるドレスをマジマジと見て、手に取る巧真の姿が視界に入った。
直後、彼はタキシードを用意してきた店員に声をかけられ、試着室へ向かって行く。
沢山あるドレスの中で、巧真が選んでいたドレスが眩しく見えた。
「……ボク、アレにする」
コーディネーターの物凄いお勧めの話をバッサリとぶった切り、アジュールは巧真がマジマジと品定めしていたドレスを取りに行った。
●もう一度君に恋をした
(恋愛劇の次は、結婚衣装の宣伝か……)
トライフ・A・アルヴァイン(ka0657)が昨年の事を思い出していた。
その時と違って、今回はソルラも居るし、役得だと思った矢先、視界の中に孤児院の仲間の姿が映る。
(……アレは極力無視するか)
ただ、ソルラにあることあること色々と告げ口されるのには気をつけておこうと思う。油断大敵だ。
「さて、折角の機会だ。あまり気負わず楽しもうか、ソルラ嬢」
「は、はい! よろしくお願いします!」
撮影直前、緊張を解そうと話しかけたが、ソルラは既に気負っていた。
無理もない。ソルラに恋愛系の綿密な演技を期待するのは酷なのだ。
以前にもソルラの恋人役をトライフはやった事があるのだが、その時も彼女の演技は散々だった。
「俺が合わせれば何とかなる」
トライフの言葉にソルラは頷く。
ここは庭園。花嫁を待つ花婿が、現れた花嫁に、更に見惚れるという内容だ。
シナリオ通り、ピンク色のドレス姿で現れるソルラ。2人の間に風が、花びらと共に吹き抜けた。
(結婚したくなる、だからな)
爽やかさや初々しさは大事なポイントだ。無駄な言葉は要らない。
時に態度はどんな多くの言葉よりも雄弁なのをトライフは知っていた。
花嫁に見惚れながら、ゆっくりとソルラに近付く。そして、頬に手を添える。
ソルラの瞳が揺れている。ちょっと、彼女には刺激が強すぎたかもしれない。なので、一言だけトライフは優しく告げた。
「──僕と結婚して下さい」
シンプルだけど、一番分かりやすい台詞。
思わず、ハイと返事してしまうソルラだった。
●家族に贈る、生涯最高の贈り物に
(こういうのに参加するとは思ってなかったな……)
シンプルな長袖シャツにズボンといった普段着姿のネグロ・ノーチェ(ka0237)が、複雑な心境で、義姉の姿を眺めていた。
正直、家族という存在は苦手だった。だから、結婚に関するこの依頼に自分が参加する事が意外なのだ。孤児院時代からの仲間と一緒でなければ、ここには居なかったかもしれない。
(一緒に過ごしてきたヤツらの幸せを願えない訳じゃねぇし、不幸になるより幸せになる方がいいか)
そんな事を心の中で思う。さすがに、声に出す訳にもいかない。
なにしろ、既に撮影は始まっているのだ。そんな事、言ってしまった暁には、演技どころではなくなる。
それにしてもと、ふと、感じた。
もし、本当に、エヴァが結婚して衣装合わせに俺を連れて行くとして……エヴァには何が似合うのだろうかと。
白も良いが、カラードレスも似合うかもしれない。
(エヴァ……どうでもいいとか思ってたが、案外そうでもねーのな)
義弟の熱心な視線を感じつつ、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は真剣に衣装を選んでいた。
ベールだけは頭に被っているが、フォーマルな普段着姿だ。
なぜなら、二人は結婚式の衣装選びにやってきた姉弟という設定だから。
結婚とは恋人同士だけの事ではなく、家族や周囲も関わる大事な事なので、家族向けにと考えたのだ。
『幸せを飾り巣立つ姿を、最初に見せたい人がいます』
キャッチコピーを掲げた時に脚本家は驚いていた。
その発想は無かったという事ともう一つ。脚本家にとっては、エヴァが思い出深い人でもあったからのようだ。
チラリと衣装を探す振りをして視線を巡らす。今回の依頼を共にするハンターの何人かは見知った仲である。
(後でソルラさんに色々教えてあげた方がいいよね)
ある一組のペアを見ながらエヴァは心に誓う。
ふと、目に付いた一着のドレスを手に取る……が、慌てて、別のドレスに手を伸ばす。
演技である。決して、落ち着かないわけでも、必死めいているわけでもない。
(練習の成果、見せてね)
撮影開始前に表情練習をこっそりとネグロがやっていたのを見ていたので、どの程度のものか、つい、心の中でニヤニヤとしてしまう。これは、後々からかいのネタになるはずと確信していた。
タイミングを見計らって、あるドレスを身体に当てる様に持って、ネグロに向かって首を傾げつつ、一周くるりと軽やかに回る。
ふわっとドレスがひらめく。
「よく似合ってる。綺麗だ」
そして、ネグロは少し涙ぐ……む。たぶん、出来た。
「幸せになれよ、姉さん」
嬉しさと悲しさが混じったような難しい表情を……たぶん、しているはず。
その時、エヴァがベールを上げてはにかみながら、背伸びをすると、ネグロの黒髪をかき撫でる。
くすぐったいと思った次には、ネグロの頬にエヴァが唇を当てていた。
そこへ撮影が終了したと声がかかる。
「お前ッ!」
頬を抑えながらネグロは顔を真っ赤にしていた。
怒っているわけではないのは、誰の目からも明らかだ。
彼は……思いっきり照れていたのであった。
●ドレスに描かれた愛は、永遠に咲く
午前最後の撮影は、ルピナス(ka0179)とミノリのペアであった。
花々が咲き誇る庭園の中、タキシード姿のルピナスが花嫁を探して駆けていた。
(なんだか、こう身なりを整えると昔を思い出すよね)
とある騎士の名家の長男坊だったので、家から出る前の事を思い出させ、撮影中というのに、思わず苦笑を浮かべてしまいそうになる。
庭園の中、一段上がった場所に白いウェディングドレス姿のミノリが見えた。
タンザナイトの宝石の様な、青紫色の長い髪が、白いドレスに映えている。
(ミノリちゃんも楽しみにしていたし、あまり無い機会だから楽しまないとね)
そう思いながら、ミノリに近付く。
陽の光が、白いドレスを際立たせる。
ルピナスは彼女の透ける様な白い肌を手に取り、貴族のような優雅な動きで、その甲に軽くキスをする。
「とても美しいよ」
ルピナスの甘い言葉にミノリは満面の笑みを浮かべていた。
そして、こっからはサプライズだと心の中でルピナスは呟くと、ミノリのベールをそっと上げる。
それが何を意味するのか、察しの良いミノリはすぐに分かったようだ。静かに瞳を閉じ、わずかに顔を上げる。
ルピナスがそんなミノリに顔を近づけた瞬間、弾けるような音と共に、大量のブルースターが舞った。
「すご~い!」
突然の事に驚いたミノリは、白いドレスをキャンバスに、鮮やかに青く飾る花に嬉しそうな声をあげる。
「互いの想いを象徴するように、『ドレスに描かれた愛は、永遠に咲く』なんて、ね」
花言葉は、幸福な愛。信じあう心。
ミノリが嬉しそうにその場でふわっと回る。青紫の髪と共に、ブルータスの花が揺れた。
●最後の撮影までの間
トライフ、ネグロ、ルピナスの野郎3人とエヴァ、ソルラ、ミノリの美女3人は、それぞれ仕事が終わったので、集まって休憩していた。
「やっぱり、結婚したいなぁ~!」
ミノリが純白のドレスを力強く握り締めていた。
乙女には結婚というのはなにか、特別な響きでもあるのだろうか。
(結婚ね。何を好き好んでそんなものをするんだか、さっぱり理解出来ないが)
(俺を置いていったヤツらと同じに思いたくねーから)
(結婚にあんまり良いイメージが無いや)
結婚に対して前向きではない野郎3人の気持ちが心の中でリンクした。
エヴァはその野郎共のリンクが手に取るように分かった。
『これだから男は』
スケッチブックに自らの心の声を書き、キュッとした顔で睨みつける。
トライフがとぼけるように視線を外すと、ルピナスは誤魔化すように微笑む。
ネグロだけが、先程の撮影内容を思い出して、また赤面する。
しばらくは、顔に出てしまうだろう。
これは、もう、事情を知っている人の玩具かもしれない。
「本当に美しくて感動しちゃったよ!」
ルピナスが興奮から冷めていないのか、そんな事を言う。
その言葉にミノリが顔を赤くしてモジモジしていた。
「そ、そう?」
「そうだよ! ドレスってさ、人形用のも作れたりしない!?」
「……え?」
ミノリの表情が凍てつく。
この男は一体、何を言っているのだろうか。
「うちのヴィオレッタにも着せてあげたいな~」
人形の名前なのだろうか。今の彼の表情は、今日一番輝いていた。
私の事じゃないの~と叫ぶミノリに苦笑を浮かべながら、トライフが隣に座るソルラに話しかけた。
「そういえば、ドレスを仕立てて貰うんだって?」
「はい。今から、楽しみです♪」
「何時か着ているのを見たいな。出来れば隣に……」
立ってねと言おうとした所で、エヴァがサッとスケッチブックを差し出した。
『猫かぶりトライフ』
「エヴァ、言葉の使い方を誤っているよ」
心の中で、こんにゃろと思いながら、優しげにトライフはエヴァに言った。
負けじと、エヴァは『たらしトライフ』やら『中身はオオカミ』他には『危険人物』とスケッチブックに書いていく。それを、落ち着いて軽くいなしていくトライフ。ソルラの前では、あくまで真摯なのだ。
そんな、2人のやり取りにソルラは首を傾げて困った顔を浮かべていた。
そして、急に手をパンと鳴らす。全員が彼女に注目する。
「わかりました!」
自分に話しかけるトライフ。それを阻止しようとするエヴァ。
つまり……エヴァさんは、実はトライフさんが大好きで、他の人と話して欲しくないから、うんぬん。トライフさんはそんなエヴァさんが他の人から嫌われないように、うんうん。この素晴らしい推理から導き出される答えはただ一つ!
「トライフさんと、エヴァさんは、相思相愛だったのですね!」
ソルラの言葉に、ある者は咥えていたタバコを掌に、ある者はスケッチブックを落とし、それ以外の者もバランスを崩し転倒、転落しかけるのであった。
●マリッジブルーを吹き飛ばせ!
真っ青なドレスを身に纏ったアジュールが、身体を丸くしてしゃがみこんでいた。
まるで、結婚を前に悩んでいる花嫁の様に。それが、巧真が考えたシナリオだった。
結婚前に、本当に結婚していいのだろうかという苦悩と解放を演じるつもりだ。
「なんだか、とても面倒になったかも……」
呟いた内容は台本の指示通りなのだが、もともとの性格からか、素で呆けている感じにも見える。
そこへ、タキシードでビシっとキメた巧真が、凄く真面目な顔付きで現れた。
「な、なんで!?」
指示された通り驚くのだが、実は本当に驚いていた。
この男の、ここまで真面目な顔など見た事が無いかもしれない。
「行くぞ」
「……行かない」
上げた顔をもう一度埋めるアジュール。だが、巧真が彼女の手を取り、蹲った身体を一気に引き上げる。
床に留める仕掛けをつけていた青いドレスが一瞬で、脱げ、アジュールは白いウェディングドレス姿に替わった。
キョトンとした表情の彼女をお姫様抱っこすると、駆けだす巧真。
脚本家が用意した無数の花びらが舞い散る中、巧真はアジュールを抱き上げたまま、屋上に出る。
「綺麗……」
花吹雪は屋上に出ても続いていた。ゆっくりと降ろされたアジュールはその光景に呟く。
台本はここまでだった。だが、正面に立ち、自分を見つめ続ける巧真の雰囲気にそのまま立ちつくす。
スッと優しく頬を撫でられ、そのまま、静かに顔先に添えられる手。
呆けた顔のアジュールは、思わず微笑んだ。巧真に対する想いを遂げられる機会に巡り合えたからだ。
誓いのキスの様に、2人の唇が重なるのを花吹雪が被い隠すのであった。
●月だけが見ていた事
月明かりの夜景の中、屋上のオープンカフェで撮影を終えた巧真とアジュールが一息ついていた。
寄り添いながら、酒を飲み、月を静かに見上げている。
カフェの店員は仕入れの為、下の階へと降りて行ったので、今は屋上に、二人っきりだ。
「お前、俺がそれ見てるの見てたな?」
アジュールが青いドレスの下に着ていた白いウェディングドレスは、巧真が品定めしていた物だった。
そのドレスは薄手の物なので、少し肌寒そうにも見えるが、彼女は今、少し上気した様にも感じられる。お酒のせいなのか、それとも……。
「……ボクには、これを着ろって意味のように思えたから」
「おまえには、予想以上に、良い仕上がりだ」
アジュールの腰をグッと引き寄せる巧真。
その流れにまま、先程のように、突然のキス。アジュールはただ茫然と受け入れるだけだった。
「最後のアレは、アドリブだったはずなのに、おまえにしては良い笑顔で上出来だ」
唇を離し、お互いの額を当てながら小さく囁くと、僅かな間の後にアジュールが答えた。
「……気持ちが入ったからかな」
「正直じゃないな」
「どう受け取っても構わな……」
微笑んだ彼女の台詞が全て発せられるよりも先に、巧真が唇をキスで塞いだ。
背中に回された彼の手に力が入る。アジュールもそれに応えるように、身体を預けた。
床に散らばったままの花びらが、月に向かって舞い上がる。
それは、まるで、唯一の目撃者からの視線を塞ぐかのようだった。
こうして、ハンター達の素晴らしい演技の元、脚本家が作った衣装屋のCMは作成され、一部で流された。
『花びら舞う屋上で愛を誓う恋人』と『花嫁を送り出す家族』の二つのパターンが用意され、好評だったという。
おしまい。
依頼結果
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質問卓 トライフ・A・アルヴァイン(ka0657) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/05/26 01:06:29 |
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結婚しようそうしよう トライフ・A・アルヴァイン(ka0657) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/05/27 00:00:43 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/26 22:11:41 |