ゲスト
(ka0000)
悠久なる大河と悪巧み
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/26 12:00
- 完成日
- 2015/05/31 21:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国の国土を横断するように二筋の大河が流れている。
ティベリス河は王都【イルダーナ】の近くを通っているので、物資の輸送によく使われていた。緩やかな流れの大河なので帆船による遡上が容易だからである。
「やはり、こうなるか……」
商会の事務室で手紙に目を通したオーナーのナナスマンが深いため息をついて頭を抱えた。ナナスマン商会は水上交易を生業としている。
主に扱っているのは植物油だ。季節によって変わるのだが、これから数ヶ月間は菜種油を扱うことになるだろう。
精製すれば食用にも使えるが、主な用途は灯りの燃料である。魔法の灯を所有する者はほんのわずか。王都であっても植物油がなければ大部分の家庭が闇に包まれるだろう。
三ヶ月前、帆船の帆が破られた。
二ヶ月前、底に穴が空いて帆船が沈没しかける。
一ヶ月前、船員の集団食中毒が発生。
そして二日前、何者かによって帆船のマストが切り倒された。
事件事故は複数の帆船に跨がっていたが、すべてナナスマン商会所有の帆船だった。脅されている自覚はあったものの、だからといって事業を放りだす訳にはいかない。
そして今日、一般の手紙に偽装された犯人からの脅迫文が初めて届いた。
文章は修辞に満ちていたが、要約すれば『油の取り扱いから手を引け』と書かれている。従わないのであれば、今度は帆船を沈めると仄めかされていた。
これまでも警戒に努めてきたのだが、自社のみでの対応は難しいと判断。ナナスマンはハンターズソサエティーに協力を求めた。
「ともあれハンターのみなさんには船員と帆船を護って頂けるようお願いしたい。積み荷の菜種油の樽はその次です。犯人を捕まえて欲しいのは山々なのですが――」
依頼における犯人捕縛の優先順位は低いが、逃がしてしまえばまた襲われることだろう。同業他社の妨害だと決めつけるのは時期尚早。だからといって除外するのも愚かすぎる。
依頼の翌日、ナナスマンは同業の三社と秘密裏に連絡をとった。偶然を装ってサロンで会合を開く。
話してみると三社も似たような事案に頭を悩ませているという。中には諦めて扱う積み荷を変えた社もあった。
それから一週間後、ハンター達が乗り込んだ帆船が王都近くの河岸から出航する。四日後には上流の湖岸で錨を下ろす。そして一日かけて近隣の村から運ばれた樽詰めの菜種油が積まれていく。
翌日、帆船は王都目指して復路を辿るのだった。
ティベリス河は王都【イルダーナ】の近くを通っているので、物資の輸送によく使われていた。緩やかな流れの大河なので帆船による遡上が容易だからである。
「やはり、こうなるか……」
商会の事務室で手紙に目を通したオーナーのナナスマンが深いため息をついて頭を抱えた。ナナスマン商会は水上交易を生業としている。
主に扱っているのは植物油だ。季節によって変わるのだが、これから数ヶ月間は菜種油を扱うことになるだろう。
精製すれば食用にも使えるが、主な用途は灯りの燃料である。魔法の灯を所有する者はほんのわずか。王都であっても植物油がなければ大部分の家庭が闇に包まれるだろう。
三ヶ月前、帆船の帆が破られた。
二ヶ月前、底に穴が空いて帆船が沈没しかける。
一ヶ月前、船員の集団食中毒が発生。
そして二日前、何者かによって帆船のマストが切り倒された。
事件事故は複数の帆船に跨がっていたが、すべてナナスマン商会所有の帆船だった。脅されている自覚はあったものの、だからといって事業を放りだす訳にはいかない。
そして今日、一般の手紙に偽装された犯人からの脅迫文が初めて届いた。
文章は修辞に満ちていたが、要約すれば『油の取り扱いから手を引け』と書かれている。従わないのであれば、今度は帆船を沈めると仄めかされていた。
これまでも警戒に努めてきたのだが、自社のみでの対応は難しいと判断。ナナスマンはハンターズソサエティーに協力を求めた。
「ともあれハンターのみなさんには船員と帆船を護って頂けるようお願いしたい。積み荷の菜種油の樽はその次です。犯人を捕まえて欲しいのは山々なのですが――」
依頼における犯人捕縛の優先順位は低いが、逃がしてしまえばまた襲われることだろう。同業他社の妨害だと決めつけるのは時期尚早。だからといって除外するのも愚かすぎる。
依頼の翌日、ナナスマンは同業の三社と秘密裏に連絡をとった。偶然を装ってサロンで会合を開く。
話してみると三社も似たような事案に頭を悩ませているという。中には諦めて扱う積み荷を変えた社もあった。
それから一週間後、ハンター達が乗り込んだ帆船が王都近くの河岸から出航する。四日後には上流の湖岸で錨を下ろす。そして一日かけて近隣の村から運ばれた樽詰めの菜種油が積まれていく。
翌日、帆船は王都目指して復路を辿るのだった。
リプレイ本文
●
ハンター一行を乗せたナナスマン商会の帆船は王都【イルダーナ】に程近いティベリスの河岸から出港する。
目的の上流河岸に到着したのは四日目の夕方。翌日から菜種油が詰まった樽の積み込み作業が始まった。近隣の村から運び込むため丸一日を要す。
六日目の昼前、錨を上げた帆船は下流を目指した。往路とは違って河の流れに乗るので二日もあれば出港の湖岸へと戻ることが可能である。
まもなく昼食の時間。鐘音が鳴り響いて手が空いた者から順番に列に並んだ。
「お昼は豚肉の香草オーブン焼きですよ♪」
メイド服に身を包んで給仕をしていたのはエリス・カルディコット(ka2572)だ。
フリルの裾をひらひらと揺らしていたが牙は忘れない。スカートの下には『オート「サイレント66」』を潜ませていた。
「とても美味しそうですね」
「たくさん食べてくださいね。大盛りにしておきます」
マヘル・ハシバス(ka0440)は庶務として帆船に乗り込んでいる。早めに食事を済ませてから庶務室へ。エリスが準備してくれた食事入りの包みを抱えて船倉へと向かう。
マヘルは船倉の隅に置かれた樽に近づいて天板を叩いた。
「お食事ですよ」
「何もなしだ」
隠し扉が開いて包みを押し込むと素知らぬ顔で後にする。
樽の中に潜んで船倉内を見張っていたのは伊勢 渚(ka2038)であった。
(これはありがたいぜ。早めに食ってしまおうか)
非常食を保っているが、やはり新しい食べ物はありがたい。
(張り込みってのは粘り強さが大事な要素を占める、悪党にはココマデするかって思わせれば勝ちなんだよ。オレの執念ってやつを見せてやるぜ)
設定済みの魔導短伝話を使えば仲間達との連絡も容易い。仮眠をとるのは大勢の人が船倉にいるときだけ。誰もいなくなる夜間はずっと起きていた。
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は甲板のマストに保たれながら、どぶろくを呷る。
「ご機嫌だねぇ」
「見張りは俺に任せときなー、鷹の目と言われたことのある俺にかかれば夜間の見張りなんぞ……ヒック」
船員に声をかけられたエヴァンスはシャックリをしながら自分の胸を叩いた。
彼はアイ・シャ(ka2762)、秋桜(ka4378)と組んで二四時間体制の巡回監視をしている。二二時からの夜番担当なのでまもなくベットに戻って横になった。
秋桜もエヴァンスと同じく酔っていたが意味が全く違う。
「うっぷ……」
目が覚めたばかりだというのに顔が青ざめている。出航からこれまでこの調子。秋桜は船酔いを演じていた。
「顔色悪いぞ。寝てた方がいいんじゃねぇか?」
「だ、大丈夫です! ほらこのとお……」
心配してくれた船員の前で口元を抑えて我慢我慢。実は本当に乗り物酔いしやすい体質なのは仲間達にも内緒である。
(流石にゲロインにはなりたくありませんし)
秋桜の巡回は一四時から。朝食代わりの昼食を食べようとしたものの、起きたばかりでしかも船酔い状態。豚肉の塊料理はとてもヘビーだった。
巡回担当中のアイは見かけた船員達に笑顔を振りまく。
「こんにちは♪ おいしそうなお昼ですね」
「塩漬けじゃない肉料理は珍しいからな。アイちゃん、早く取りに行かないとなくなっちまうぞ」
アイは船員達とすっかり顔なじみである。名前と顔もばっちり覚えていた。
一四時になり、秋桜と見張りを交代する。それから遅い昼食を頂いたが料理は熱々。エリスが気を利かせてくれたおかげだ。
昼下がり、辻・十字朗(ka4739)は甲板で釣り糸を垂れていた。
「こういうのもよいものです。んっ?」
アタリを感じて竿をあげると大物が掛かっている。ふと鳴き声が聞こえて足元を見てみれば猫が座っていた。
「猫さん、こんなところに。あら辻さん、鼠退治は?」
猫を追いかけるようにして慈姑 ぽえむ(ka3243)が物陰から現れる。
午前中、辻十字朗は船内の鼠退治を手伝った。あくまで名目に過ぎず、実際には樽の中に隠れている伊勢渚のフォローである。慈姑によれば船長が飼う足元の猫は鼠を一度も捕まえたことがないらしい。
「午前中に終わりました。そこで午後は釣りでもと思いまして」
「それはとても……あ、猫さんったらもう。私の膝から逃げだしたのに、辻さんには自分から座っているし」
慈姑はお嬢様として、辻十字朗は彼女の執事として帆船に乗り込んでいた。船旅に興味を持った良家のお嬢様一行に扮している。
商談めいた会話を船長と交わすことで、潜伏しているであろう敵に新規の商談相手と勘違いさせる作戦だった。執事役なのに辻十字朗が慈姑の側から離れがちなのもそのため。敵から接触してくれたのなら探す手間が省ける。
様々な立場で帆船に乗り込んでいたハンター達だが、魔導短伝話やトランシーバーを活用して情報交換を密にしていた。
船長一名、副船長一名、船員八名のうち、今のところあからさまに怪しい人物は見当たらない。
後片付けを手伝うエリスは食器を洗いながら頭を働かす。
(……以前の事件を考えると内通者がいるのは間違いない。犯人側から考えると、脅迫しやすいのは……ずばり、副船長! 船長よりも副船長の方が船員へ命令する機会も多く、各船員の配置や行動も把握できるし、その変更も自然に出来る! 犯人が利用するのなら、副船長だ!)
にやりと笑って顎に手を当てるエリスだが誰にもいわなかった。
魚釣りの辻十字朗も敵の正体を脳内で探る。
(私が犯人ならば、船を沈ませるのは外からでも中からでも、陸地‥‥王都の近くで仕掛けるな。何事も無ければ良いんだが)
王都に程近い河岸に辿り着くのは明日の夕方頃。帆船に破壊工作を仕掛けるとすれば今晩しかあり得なかった。
●
河の流れる音が支配する深夜零時。伊勢渚が樽の中で干し肉を囓っていると監視用の隙間から灯りが射す。
二二時過ぎにエヴァンスが船倉を巡回している。二度目かと思って伊勢渚が隙間を覗いてみればランタンを手にしていたのは違う人物だった。名前は覚えていないが気弱そうな顔をした青年船員である。
(野郎……何しようってんだ?)
青年船員は菜種油が詰まった樽の山を見上げていた。大きなため息をつくだけで樽には何もしない。そのうち白墨で内壁に何かを書き始める。
(悪党かどうか、迷うところだな……)
魔導短伝話で辻十字朗との連絡がついたので少し泳がせることにした。青年船員が姿を消した後、樽から這いだした伊勢渚は近づいて内壁を眺める。
「敵に通じているのは間違いないな」
白墨で書かれていたのは脅迫文。帆船沈没を想像させる文言が綴られている。
「用心に越したことはない、オレは又潜るぜ」
伊勢渚は伝話をしながら樽の中へ戻って自ら蓋を閉めた。潜入の敵が青年船員一人とは限らないからである。
青年船員が甲板へ移動。船縁から上半身を乗りだして側板に何かを書こうと腕を伸ばす。
「何をしているんですか? えっと、カールさんでしたよね?」
操船室から現れたマヘルが声をかける。後部へと逃げようとした青年船員カールだが、隠れていたエリスが立ち塞がった。
「逃がしません!」
エリスは河へ飛び込もうとしたカールに威嚇発砲。立ち竦んだカールにエヴァンスが迫る。月光の輝きをまとう刃がカールの右ふくらはぎに突き刺さった。
カールは甲板に倒れ込んだ。
「ち、違うんです!」
「何が違うんだ。いってみろ」
エヴァンスに右足を踏まれたカールが脂汗を額に浮かべながら悲鳴をあげる。
アイ、慈姑、秋桜が甲板に現れた。その中に辻十字朗の姿はない。脅迫文の内容を確かめるために彼は船倉に向かったからだ。
「弟が、弟の命が――」
カールによれば出航の前日に実弟が拐かされたという。犯人の正体はわからない。実弟を無事返して欲しければ、乗り込む帆船を沈める手伝いをしろと脅迫されたようだ。
犯人に指示された工作は二段構え。
船員達の隙を突いて積載している菜種油に火を放てというのが一段目。それが難しいのであれば帆船の構造的弱点がわかるように印をつけろといわれていた。船倉内壁の脅迫文は外装に描く印を目立たなくさせるためのまやかしに過ぎないらしい。
菜種油への火付けは良心が咎めて断念した。実行に移そうとしていれば樽の中に隠れていた伊勢渚に阻止されていたことだろう。
そこでカールは船体構造を確かめて甲板へあがった。側板に印を書き込もうとしたところでマヘルに声をかけられて今に至る。
「他の帆船で起きた事故は知りません。やっていません。ほんとう、本当なんです」
カールへの脅しは充分に効いていた。
被害を受けた商会の帆船は数隻に跨がっている。この帆船が被害を受けたのは初めて。カールを含めて他船から移ってきた船員は一人もいない。
その場にいたハンター達はひとまずカールの言葉を信じることにした。但し、他船で脅されたり買収された船員はいないか後日確かめる必要が残る。
「これで血は止まったから大丈夫よ」
慈姑がカールの右ふくらはぎをヒールで治療した。仲間の意向もあって逃げられないように完全には治さない。
「謝ってすむことでじゃありませんが……本当にすみません」
カールは鍵付きの船室で監禁される。ハンター達は得られた新情報を加味して作戦を練り直すのだった。
●
夜明けと同時に集合の鐘音が帆船内に響き渡った。舵取り等の一部船員を除いて全員が甲板に集まる。
船長の挨拶に続いて、副船長の口から追い込まれた状況が船員達に伝えられた。
「――というわけだ。到着までに攻撃されるかも知れないが、慌てないで対処して欲しい」
一部のハンターの正体については秘匿される。
(死にたい! 恥ずかしい!! 誰にも言わなくてよかった!)
副船長の説明が続いている間、真っ赤な顔をしたエリスがマストに掴まって身を捩らせた。
秋桜にはエリスの様子が見えていたのだが、何もしないままぐったりと段差にもたれ掛かかる。
(ま、参りました。ですがあともう少しの辛抱です)
船酔いが本格的になってきて、声をかける気力すら残っていなかったのである。
カール以外にも恫喝された船員はいるかも知れない。ハンター達はそのことを頭の隅に置きながら動いていた。
脅迫者の出方は未だわからず。ただ帆船の脆弱な部分を知りたがっていたところからいっても、外部から攻撃を仕掛けてくるのはまず間違いない。
「船長、目的の河岸まで後三時間ほどですね。少し緊張続きで疲れました」
解散の後、マヘルは船長室で書類整理の続きを行う。
油に関係する取引を詳しく精査したところ重要な事実が浮かび上がる。ナナスマン商会の繁盛の裏で売り上げを大幅に落としている商社があった。
その名は『マーシナス商』。これまでわからなかったのは巧妙に他の商材の売り上げを油取引に見せかけていたからである。確たる証拠ではないが注意すべき存在だと船長に伝えておく。
慈姑は船室に監禁されているカールと扉越しに話す。
「あなたの弟さんのこともちゃんと考えていますからね。十字郎ならすぐに見つけてくれます。私も手伝わせてもらいますから」
慈姑が話題にした辻十字朗は迫る危機を凌ぐべく甲板で監視していた。
一二時半頃、上流を目指す一隻の帆船が前方に現れる。
「みなさん! ご注意を!」
双眼鏡を覗いていた辻十字朗が声を張り上げた。
操舵手が避けようと舵を切っても、向かい合わせの帆船は同じ側へと寄ってくる。船のすれ違いには暗黙のルールがあった。上流へ向かおうとしている帆船は守ろうとはしない。
「正面の帆船、敵として扱え!」
船長から攻撃許可がでる。
「帆を使えなくすればいいんですね」
アイはシーマンズボウに矢をかけて次々と放つ。マストと帆を繋げている縄を狙って切り離していく。
「いくら緩やかな流れでも、帆がなければ進めません。絶対に!」
『アサルトライフル「ヴォロンテAC47」』を構えたエリスは、マストと水平に繋がるヤードを狙った。アイとエリスの遠隔攻撃によって敵帆船の帆がボロボロになる。
数分だけ敵帆船からの弓攻撃に堪えた。やがてスリープクラウドの射程に入って秋桜の出番がくる。
「これで眠ってくださいね♪」
船酔いは辛かったがここは笑顔。沸き上がった青白い雲状のガスが敵帆船の甲板に広がった。吸った敵船員達がバタバタと倒れていく。
ガスが散った頃、エヴァンスは敵帆船に飛び移る。
商会の帆船に残った辻十字朗はエヴァンスが動きやすいようバトルライフルで威嚇射撃を行う。
「俺の前で尻尾を出したのが運のつきだ」
これまでエヴァンスは酔いどれの姿しか晒していなかった。しかし敵船長を目の前にしたときは別。獲物を見つけた獰猛な鷹の目つきで睨みつけながら鞘から『日本刀「白霞」』を抜いた。
攻めの構えから勢いをつけて強く上段から振り下ろす。
「ほう、受け止めたか。只者じゃなさそうだ。狼のような目つき、お前も覚醒者か?」
火花を散らせて互いの刃が宙を斬り割く。
エヴァンスは振り向きざまにどぶろくを投げつける。半歩下がって一文字の切っ先を躱す。深く踏み込んで酒を頭から被った敵船長に深手を負わせた。倒しきりたいところだが口を割らせる必要があったのでやめておく。
敵船長と何人かを捕縛。商会の帆船に戻ってそのまま下流を目指す。二時間後、王都に程近い河岸へと到着した。
「わたくしもお手伝いします」
アイは慈姑、辻十字朗と一緒にカールの実弟救出へと向かう。幽閉されている場所は敵船長を吐かせたので判明している。
吐くといえば秋桜だが、どうやら一線は越えなかったようだ。
「風呂も飯も済ませたいところだが……まずはこいつだ……」
ようやく樽の中から開放された伊勢渚は煙草を咥えて盛大に紫煙を吐きだす。カール以外に間者はいなかったようである。
樽の菜種油は一滴も零れずにすべて王都へ運び込まれた。
●
船員カールの実弟は無事救出される。
マヘルが睨んだ通り、一連の嫌がらせはマーシナス商の差し金だった。派手な表向きとは違って内情は火の車。ナナスマン商会を逆恨みしていた。異常な安値で農家から油を買い叩いて、高く売り捌いてきた報いである。
「おかげさまで船員や帆船、商品の菜種油も無事です。さあ、食べて食べて」
商会の主ナナスマンがハンター一同を夕食の席に招待した。どれも美味しいが特に鴨のコンフィは絶品だった。
たらふく食べて風呂に入ってゆっくりと休む。翌日、ハンター一行はリゼリオへの帰路に就くのだった。
ハンター一行を乗せたナナスマン商会の帆船は王都【イルダーナ】に程近いティベリスの河岸から出港する。
目的の上流河岸に到着したのは四日目の夕方。翌日から菜種油が詰まった樽の積み込み作業が始まった。近隣の村から運び込むため丸一日を要す。
六日目の昼前、錨を上げた帆船は下流を目指した。往路とは違って河の流れに乗るので二日もあれば出港の湖岸へと戻ることが可能である。
まもなく昼食の時間。鐘音が鳴り響いて手が空いた者から順番に列に並んだ。
「お昼は豚肉の香草オーブン焼きですよ♪」
メイド服に身を包んで給仕をしていたのはエリス・カルディコット(ka2572)だ。
フリルの裾をひらひらと揺らしていたが牙は忘れない。スカートの下には『オート「サイレント66」』を潜ませていた。
「とても美味しそうですね」
「たくさん食べてくださいね。大盛りにしておきます」
マヘル・ハシバス(ka0440)は庶務として帆船に乗り込んでいる。早めに食事を済ませてから庶務室へ。エリスが準備してくれた食事入りの包みを抱えて船倉へと向かう。
マヘルは船倉の隅に置かれた樽に近づいて天板を叩いた。
「お食事ですよ」
「何もなしだ」
隠し扉が開いて包みを押し込むと素知らぬ顔で後にする。
樽の中に潜んで船倉内を見張っていたのは伊勢 渚(ka2038)であった。
(これはありがたいぜ。早めに食ってしまおうか)
非常食を保っているが、やはり新しい食べ物はありがたい。
(張り込みってのは粘り強さが大事な要素を占める、悪党にはココマデするかって思わせれば勝ちなんだよ。オレの執念ってやつを見せてやるぜ)
設定済みの魔導短伝話を使えば仲間達との連絡も容易い。仮眠をとるのは大勢の人が船倉にいるときだけ。誰もいなくなる夜間はずっと起きていた。
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は甲板のマストに保たれながら、どぶろくを呷る。
「ご機嫌だねぇ」
「見張りは俺に任せときなー、鷹の目と言われたことのある俺にかかれば夜間の見張りなんぞ……ヒック」
船員に声をかけられたエヴァンスはシャックリをしながら自分の胸を叩いた。
彼はアイ・シャ(ka2762)、秋桜(ka4378)と組んで二四時間体制の巡回監視をしている。二二時からの夜番担当なのでまもなくベットに戻って横になった。
秋桜もエヴァンスと同じく酔っていたが意味が全く違う。
「うっぷ……」
目が覚めたばかりだというのに顔が青ざめている。出航からこれまでこの調子。秋桜は船酔いを演じていた。
「顔色悪いぞ。寝てた方がいいんじゃねぇか?」
「だ、大丈夫です! ほらこのとお……」
心配してくれた船員の前で口元を抑えて我慢我慢。実は本当に乗り物酔いしやすい体質なのは仲間達にも内緒である。
(流石にゲロインにはなりたくありませんし)
秋桜の巡回は一四時から。朝食代わりの昼食を食べようとしたものの、起きたばかりでしかも船酔い状態。豚肉の塊料理はとてもヘビーだった。
巡回担当中のアイは見かけた船員達に笑顔を振りまく。
「こんにちは♪ おいしそうなお昼ですね」
「塩漬けじゃない肉料理は珍しいからな。アイちゃん、早く取りに行かないとなくなっちまうぞ」
アイは船員達とすっかり顔なじみである。名前と顔もばっちり覚えていた。
一四時になり、秋桜と見張りを交代する。それから遅い昼食を頂いたが料理は熱々。エリスが気を利かせてくれたおかげだ。
昼下がり、辻・十字朗(ka4739)は甲板で釣り糸を垂れていた。
「こういうのもよいものです。んっ?」
アタリを感じて竿をあげると大物が掛かっている。ふと鳴き声が聞こえて足元を見てみれば猫が座っていた。
「猫さん、こんなところに。あら辻さん、鼠退治は?」
猫を追いかけるようにして慈姑 ぽえむ(ka3243)が物陰から現れる。
午前中、辻十字朗は船内の鼠退治を手伝った。あくまで名目に過ぎず、実際には樽の中に隠れている伊勢渚のフォローである。慈姑によれば船長が飼う足元の猫は鼠を一度も捕まえたことがないらしい。
「午前中に終わりました。そこで午後は釣りでもと思いまして」
「それはとても……あ、猫さんったらもう。私の膝から逃げだしたのに、辻さんには自分から座っているし」
慈姑はお嬢様として、辻十字朗は彼女の執事として帆船に乗り込んでいた。船旅に興味を持った良家のお嬢様一行に扮している。
商談めいた会話を船長と交わすことで、潜伏しているであろう敵に新規の商談相手と勘違いさせる作戦だった。執事役なのに辻十字朗が慈姑の側から離れがちなのもそのため。敵から接触してくれたのなら探す手間が省ける。
様々な立場で帆船に乗り込んでいたハンター達だが、魔導短伝話やトランシーバーを活用して情報交換を密にしていた。
船長一名、副船長一名、船員八名のうち、今のところあからさまに怪しい人物は見当たらない。
後片付けを手伝うエリスは食器を洗いながら頭を働かす。
(……以前の事件を考えると内通者がいるのは間違いない。犯人側から考えると、脅迫しやすいのは……ずばり、副船長! 船長よりも副船長の方が船員へ命令する機会も多く、各船員の配置や行動も把握できるし、その変更も自然に出来る! 犯人が利用するのなら、副船長だ!)
にやりと笑って顎に手を当てるエリスだが誰にもいわなかった。
魚釣りの辻十字朗も敵の正体を脳内で探る。
(私が犯人ならば、船を沈ませるのは外からでも中からでも、陸地‥‥王都の近くで仕掛けるな。何事も無ければ良いんだが)
王都に程近い河岸に辿り着くのは明日の夕方頃。帆船に破壊工作を仕掛けるとすれば今晩しかあり得なかった。
●
河の流れる音が支配する深夜零時。伊勢渚が樽の中で干し肉を囓っていると監視用の隙間から灯りが射す。
二二時過ぎにエヴァンスが船倉を巡回している。二度目かと思って伊勢渚が隙間を覗いてみればランタンを手にしていたのは違う人物だった。名前は覚えていないが気弱そうな顔をした青年船員である。
(野郎……何しようってんだ?)
青年船員は菜種油が詰まった樽の山を見上げていた。大きなため息をつくだけで樽には何もしない。そのうち白墨で内壁に何かを書き始める。
(悪党かどうか、迷うところだな……)
魔導短伝話で辻十字朗との連絡がついたので少し泳がせることにした。青年船員が姿を消した後、樽から這いだした伊勢渚は近づいて内壁を眺める。
「敵に通じているのは間違いないな」
白墨で書かれていたのは脅迫文。帆船沈没を想像させる文言が綴られている。
「用心に越したことはない、オレは又潜るぜ」
伊勢渚は伝話をしながら樽の中へ戻って自ら蓋を閉めた。潜入の敵が青年船員一人とは限らないからである。
青年船員が甲板へ移動。船縁から上半身を乗りだして側板に何かを書こうと腕を伸ばす。
「何をしているんですか? えっと、カールさんでしたよね?」
操船室から現れたマヘルが声をかける。後部へと逃げようとした青年船員カールだが、隠れていたエリスが立ち塞がった。
「逃がしません!」
エリスは河へ飛び込もうとしたカールに威嚇発砲。立ち竦んだカールにエヴァンスが迫る。月光の輝きをまとう刃がカールの右ふくらはぎに突き刺さった。
カールは甲板に倒れ込んだ。
「ち、違うんです!」
「何が違うんだ。いってみろ」
エヴァンスに右足を踏まれたカールが脂汗を額に浮かべながら悲鳴をあげる。
アイ、慈姑、秋桜が甲板に現れた。その中に辻十字朗の姿はない。脅迫文の内容を確かめるために彼は船倉に向かったからだ。
「弟が、弟の命が――」
カールによれば出航の前日に実弟が拐かされたという。犯人の正体はわからない。実弟を無事返して欲しければ、乗り込む帆船を沈める手伝いをしろと脅迫されたようだ。
犯人に指示された工作は二段構え。
船員達の隙を突いて積載している菜種油に火を放てというのが一段目。それが難しいのであれば帆船の構造的弱点がわかるように印をつけろといわれていた。船倉内壁の脅迫文は外装に描く印を目立たなくさせるためのまやかしに過ぎないらしい。
菜種油への火付けは良心が咎めて断念した。実行に移そうとしていれば樽の中に隠れていた伊勢渚に阻止されていたことだろう。
そこでカールは船体構造を確かめて甲板へあがった。側板に印を書き込もうとしたところでマヘルに声をかけられて今に至る。
「他の帆船で起きた事故は知りません。やっていません。ほんとう、本当なんです」
カールへの脅しは充分に効いていた。
被害を受けた商会の帆船は数隻に跨がっている。この帆船が被害を受けたのは初めて。カールを含めて他船から移ってきた船員は一人もいない。
その場にいたハンター達はひとまずカールの言葉を信じることにした。但し、他船で脅されたり買収された船員はいないか後日確かめる必要が残る。
「これで血は止まったから大丈夫よ」
慈姑がカールの右ふくらはぎをヒールで治療した。仲間の意向もあって逃げられないように完全には治さない。
「謝ってすむことでじゃありませんが……本当にすみません」
カールは鍵付きの船室で監禁される。ハンター達は得られた新情報を加味して作戦を練り直すのだった。
●
夜明けと同時に集合の鐘音が帆船内に響き渡った。舵取り等の一部船員を除いて全員が甲板に集まる。
船長の挨拶に続いて、副船長の口から追い込まれた状況が船員達に伝えられた。
「――というわけだ。到着までに攻撃されるかも知れないが、慌てないで対処して欲しい」
一部のハンターの正体については秘匿される。
(死にたい! 恥ずかしい!! 誰にも言わなくてよかった!)
副船長の説明が続いている間、真っ赤な顔をしたエリスがマストに掴まって身を捩らせた。
秋桜にはエリスの様子が見えていたのだが、何もしないままぐったりと段差にもたれ掛かかる。
(ま、参りました。ですがあともう少しの辛抱です)
船酔いが本格的になってきて、声をかける気力すら残っていなかったのである。
カール以外にも恫喝された船員はいるかも知れない。ハンター達はそのことを頭の隅に置きながら動いていた。
脅迫者の出方は未だわからず。ただ帆船の脆弱な部分を知りたがっていたところからいっても、外部から攻撃を仕掛けてくるのはまず間違いない。
「船長、目的の河岸まで後三時間ほどですね。少し緊張続きで疲れました」
解散の後、マヘルは船長室で書類整理の続きを行う。
油に関係する取引を詳しく精査したところ重要な事実が浮かび上がる。ナナスマン商会の繁盛の裏で売り上げを大幅に落としている商社があった。
その名は『マーシナス商』。これまでわからなかったのは巧妙に他の商材の売り上げを油取引に見せかけていたからである。確たる証拠ではないが注意すべき存在だと船長に伝えておく。
慈姑は船室に監禁されているカールと扉越しに話す。
「あなたの弟さんのこともちゃんと考えていますからね。十字郎ならすぐに見つけてくれます。私も手伝わせてもらいますから」
慈姑が話題にした辻十字朗は迫る危機を凌ぐべく甲板で監視していた。
一二時半頃、上流を目指す一隻の帆船が前方に現れる。
「みなさん! ご注意を!」
双眼鏡を覗いていた辻十字朗が声を張り上げた。
操舵手が避けようと舵を切っても、向かい合わせの帆船は同じ側へと寄ってくる。船のすれ違いには暗黙のルールがあった。上流へ向かおうとしている帆船は守ろうとはしない。
「正面の帆船、敵として扱え!」
船長から攻撃許可がでる。
「帆を使えなくすればいいんですね」
アイはシーマンズボウに矢をかけて次々と放つ。マストと帆を繋げている縄を狙って切り離していく。
「いくら緩やかな流れでも、帆がなければ進めません。絶対に!」
『アサルトライフル「ヴォロンテAC47」』を構えたエリスは、マストと水平に繋がるヤードを狙った。アイとエリスの遠隔攻撃によって敵帆船の帆がボロボロになる。
数分だけ敵帆船からの弓攻撃に堪えた。やがてスリープクラウドの射程に入って秋桜の出番がくる。
「これで眠ってくださいね♪」
船酔いは辛かったがここは笑顔。沸き上がった青白い雲状のガスが敵帆船の甲板に広がった。吸った敵船員達がバタバタと倒れていく。
ガスが散った頃、エヴァンスは敵帆船に飛び移る。
商会の帆船に残った辻十字朗はエヴァンスが動きやすいようバトルライフルで威嚇射撃を行う。
「俺の前で尻尾を出したのが運のつきだ」
これまでエヴァンスは酔いどれの姿しか晒していなかった。しかし敵船長を目の前にしたときは別。獲物を見つけた獰猛な鷹の目つきで睨みつけながら鞘から『日本刀「白霞」』を抜いた。
攻めの構えから勢いをつけて強く上段から振り下ろす。
「ほう、受け止めたか。只者じゃなさそうだ。狼のような目つき、お前も覚醒者か?」
火花を散らせて互いの刃が宙を斬り割く。
エヴァンスは振り向きざまにどぶろくを投げつける。半歩下がって一文字の切っ先を躱す。深く踏み込んで酒を頭から被った敵船長に深手を負わせた。倒しきりたいところだが口を割らせる必要があったのでやめておく。
敵船長と何人かを捕縛。商会の帆船に戻ってそのまま下流を目指す。二時間後、王都に程近い河岸へと到着した。
「わたくしもお手伝いします」
アイは慈姑、辻十字朗と一緒にカールの実弟救出へと向かう。幽閉されている場所は敵船長を吐かせたので判明している。
吐くといえば秋桜だが、どうやら一線は越えなかったようだ。
「風呂も飯も済ませたいところだが……まずはこいつだ……」
ようやく樽の中から開放された伊勢渚は煙草を咥えて盛大に紫煙を吐きだす。カール以外に間者はいなかったようである。
樽の菜種油は一滴も零れずにすべて王都へ運び込まれた。
●
船員カールの実弟は無事救出される。
マヘルが睨んだ通り、一連の嫌がらせはマーシナス商の差し金だった。派手な表向きとは違って内情は火の車。ナナスマン商会を逆恨みしていた。異常な安値で農家から油を買い叩いて、高く売り捌いてきた報いである。
「おかげさまで船員や帆船、商品の菜種油も無事です。さあ、食べて食べて」
商会の主ナナスマンがハンター一同を夕食の席に招待した。どれも美味しいが特に鴨のコンフィは絶品だった。
たらふく食べて風呂に入ってゆっくりと休む。翌日、ハンター一行はリゼリオへの帰路に就くのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/25 16:43:55 |
|
![]() |
護衛相談所 アイ・シャ(ka2762) エルフ|18才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/05/26 09:32:04 |