ゲスト
(ka0000)
【聖呪】北の戦乙女
マスター:赤山優牙

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/05 07:30
- 完成日
- 2015/06/10 04:14
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
――桜色の髪が踊っていた。
少女は楽しげに王都の石畳を走る。
振り返ると女の子が、柔らかい微笑みの眼差しを向けていた――
●とあるハンターオフィスにて
(うわぁ……大きい……)
思わず、ゴクリと生唾を飲み込むミノリ。
カウンター越しに見えるそれは、一目でそう思わせるのに十分だった。
「大峡谷の亜人に関する依頼を探している」
仕事を探しに来たハンターは、女性だった。身長はミノリとあまり変わらない。
桜色の長いストレートな長髪が、サラサラと流れている。
「だ、大峡谷のですか……少し、お待ち下さい」
手元のいくつかの資料とモニターを調べる。
先々週あたりに王国北部で大きな動きがあった。いずれも、亜人に関する依頼だ。
引き続き、その辺り一帯の依頼が出されており、その依頼目当てのハンターも少なくない。
「えって……お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
(にしても、大きい)とある一点をチラリと見ながらハンターに質問する。
「……リルエナ・ピチカートだ」
「はい。リル……えっ! ま、まさか、『北の戦乙女』のリルエナ様ですか!」
あぁ、と短く答えるハンター。
「わ、私、大ファンなんです!」
ミノリが目を輝かせる。
『北の戦乙女』とは、その美貌と戦闘能力の高さから知る人ぞ知るハンターである。
ただし、彼女の活動範囲は、極めて限定されており、主に王国北部の大峡谷に限られていた。
「そうか……。それで、依頼は?」
「え、えと、これですね!」
モニターに表示されたのは、王国北部に位置するウィーダの街だった。
この街の領主からの依頼という事であるが、内容は可能な限り、多くのゴブリンを退治するというものだった。
「なかなか、珍しい依頼だな」
「そうなんです。それでも、最低討伐数は確保しなければなりませんし、山の中なので、探索も兼ねる形になります」
(どうみても、大きい……)と先程から気になる一点を視界内に入れながらミノリは依頼の説明をした。
メロン? ……いや、スイカ? どうなっているのだろうと思う。自身の物もそれなりに自信はあるのだが、明らか違う。
「他のハンターの協力が必要だが、大丈夫か?」
「はい。複数個所で同一依頼を出していますので、人数は集まると思います」
集まらなかったら、私が同行しますと心の中でミノリは宣言した。
何を食べて、どんな生活をしていたら、あんなに大きくなるか知る機会にはちょうど良い。
「では、頼んだ。私は先にウィーダの街に向かう」
●ウィーダの街
その街は王国北部に位置していた。
王国北部といえば、帝国との境にもなっている大渓谷が近い。ここは、古くからゴブリンなどの亜人の勢力域である。
故に、北部に位置するウィーダの街の住民は、街が成り立つ頃から亜人との戦闘を繰り返していた。住民の誰もが武闘派でもあり、住民も必要であれば民兵として戦地に赴く事もある。
「ゴブリン共の動きが活発だ」
ウィーダの街の領主の、明らかに不機嫌な口調。
もうすぐ40にはなるのだが、発せられる躍動感はもっと若い。
「パルシア村に青の隊隊長が向かったとも聞きます。この辺り一帯でなにか動きがあるかもしれません」
答えたのは、『軍師騎士』と呼ばれる痩せた騎士だった。
「貴様は青の隊ではないのか?」
「所属はしていますが、ご覧の通り、単独であちらこちらに召喚されていますので」
苦笑を浮かべる騎士。
「……そうだったな。フレッサ領での活躍は耳にしている。ここでも、貴様の力、見せてもらおうか」
王国西部に位置し、歪虚に占拠されていた堅牢な街を、住民の解放という手段で歪虚から奪還した。
この時も、ハンターによって事は成し得たので、騎士は自分の手柄とは思っていない。
騎士が複雑そうな顔をしたので、領主はこの話題から外れる。
「我がウィーダの街は、長らく、亜人共に脅かされていた。それも、もうじき、終わる」
窓の外には大渓谷に続く山脈が見える。
領主が言う通り、山に近いこの街は、度々亜人の襲撃を受けていた。
先々代の領主はより安全な南側への移転を決定。長い月日をかけて、移転先の整備も終わった。
「住民達の大移動となれば、危険が伴う」
道中、亜人に襲われるかもしれない。護衛をつけてもその全てを防ぎきれるとは言い難い。
それに、ゴブリン共の動きが活発になっている所も気になる。
「そこで、貴様の出番だ」
王国西部の戦線から『軍師騎士』を引き抜いたのだ。
「はい。まずは、ゴブリンの状況を把握する必要があります。相当数のゴブリンが山の中に潜んでいる様子ですので」
「それの調査、そして、同時に殲滅か」
「ゴブリン程度であれば、ある程度の訓練を行った者でも戦えます。今回の依頼は、その宣伝も兼ねています」
『軍師騎士』が献策したのは、ゴブリンの首に賞金をかける事であった。
ハンターだけではなく、非覚醒者でも腕に自信のある者で、報奨金目当てで人が集まってくるだろう。
「貴様の真意がどこにあるかわからんが、必ずや我らの願いを達成させてくれると信じているよ」
「それだけでも、十分です」
騎士は一礼をしてから退室した。
リプレイ本文
●山の中で(その1)
(……しかし、重くないのかな……)
レウィル=スフェーン(ka4689)がチラリとチラリと気になって、つい、見てしまう。
視線の先には巨大な二つのモノ。その持ち主であるリルエナは、森の中、遠くを見渡していた。
「いないようだな……どうした?」
「ジ、ジロジロ見たりしてないです。はい」
慌ててレウィルは弁明すると、視線を変える。
ハンター達は山の中に潜むゴブリンを討伐する依頼を受けていた。
「……命を奪う事、気は進まない。それでも、人に害を為すのなら」
それも仕方ない事なのだろうと誠堂 匠(ka2876)は心の中で続けて、地図を広げた。
地元の人が書いてくれた大雑把な地図だが、ないよりかはマシである。
「頑張らせてもらおうじゃないか」
オルドレイル(ka0621) は、不敵な笑みを浮かべていた。
依頼が始まるまでは、足手まといになってしまうのではないかと心配していたが、それは杞憂であった。
「こっちから打って出る依頼っていうのも珍しいかもしれないね」
ゴブリンの形跡がないか確認したレウィルが、そんな事を言った。
確かに、ゴブリンに関する依頼は、どちらかというと、ゴブリンが襲撃してきたので、倒して欲しいという依頼の方が多い気がする。
それだけ、王国北部ではゴブリンを含む亜人の活動が活発になっているという事なのだろうか。
「リルエナさん、数が多い時は、打ち合わせ通りよろしくお願いします」
「わかった。誘引は任せた」
匠の言葉にリルエナは頷いた。彼女の大きいモノが揺れる。
ゴブリンが多く出没した際には、リルエナの魔法で一掃するつもりなのだ。
「『北の戦乙女』の噂は聞き及んでいる、なかなかの使い手だそうじゃないか」
オルドレイルが言う様に、リルエナの噂は知る人ぞ知るハンターである。
美貌と大きさと実力を知るには、今回良い機会だったかもしれない。
(彼女と戦う未来があるとするならば……そう考えるだけで心が躍るではないか)
連れて来た二頭の犬の行方を確認し、オルドレイルはワクワクしていた。
チラっとリルエナを見る。彼女は少し照れるように苦笑を浮かべていた。
「無駄に年月だけは長く活動しているからな」
彼女がハンターとなって十年前後は経過しているという。
4人は次の探索ポイントに向かって山を登り始めた。
●山の中で(その2)
男女のハンターが山に入っていた。
当然、デートではない。ハイキングでもない。
(同僚は美人で、しかも、大きいからテンション上がるし楽勝だと思ったら……)
思った以上の山の起伏に肩で荒く息をしながら檜ケ谷 樹(ka5040)が心の中で呟いていた。
実は人生初めての実戦依頼。依頼出発前は美人な仲間と一緒になれて、「人生は差し引きゼロって言ったもんだ」と軽口叩いていたのだが、今、心の中でマイナスになっていた。
「大きければ良いってモノじゃないんだよ。重いし、かさ張るし」
先を行くフィーサ(ka4602)が振り返って、そんな事を言う。
彼女の、それは、豊満であった。北の戦乙女とどっちが大きいのだろうかと思わず樹は考えてしまう。
「そりゃ、視覚的な効果もあるだろうけどさ、普段は目立ってもあまり良い事無いからねー」
揺らしながら山の傾斜を登る。
「目立ってあまり良い事はないのか~」
そんな物なのかと思う。
持たない者には分からない。あればあるで良いのではないかと思っていた。
「……」
急にフィーサが立ち止まる。
その豊満が反動で揺れた。
「ん? 武器の話だよね?」
「……え? そうなの?」
二人の間に風が吹き抜けていった。
●山の中で(その3)
屋外(ka3530)は単独で山に入っていた。
荷物を降ろした。
当初は敵を発見したら、引き付けつつ次の探索ポイントに向かうつもりだったが、勝手が違ったからだ。
山の中の起伏がそれを阻んでいた。馬も山には入れなかったので、徒歩というのも、ゴブリンの追撃を許す状況になっている。
「ブロークンアロー!」
仕方ないので、見つけたゴブリンをその場で倒す事にした。
マテリアルを込める事でナックルが射出され、直撃を受けたゴブリンは一撃で崩れ落ちた。
他のゴブリンが距離を詰めるが、屋外は囲まれない為に、高低の地形を活かし、軽く飛び上がって間を作った。
(普通のゴブリンですね)
彼はリルエナに、この一帯のゴブリンの話しを聞いていた。
特に変わった所は見られない……ただ、微妙な違和感を屋外は感じずにはいられなかたった。
●ゴブリンはいずこに
犬が吠えた。
斜面を駆けのぼり、オルドレイルが見たのは逃げる1匹のゴブリンだった。
「また、一匹か」
指を差して、その方角を示す。
先程から、見つける事はできても、運が悪いのか、単体か少数ばかりなのだ。
群れから逸れたゴブリンなのだろうか。
「俺が行ってこよう」
匠が刀を構えて起伏を気にせず、ゴブリンを追いかける。
もう勝負は決したようなものだ。オルドレイルは双眼鏡を取りだすと周囲を索敵する。
フィーサの班から連絡は入っていた。計画とは違い、二人で行動していると。ならば、戦力的に有利な自分達が数多く討伐する必要があるはずだ。
なにせ、討伐数に応じて報酬の増える依頼だ。裏を返せば、依頼主には、数多くのゴブリンを討伐しなくてはならない理由が存在するのだろう。
(こういう時の為にエルフの母さんに死ぬほどしごかれたんだから……)
レウィルは心の中でそう思いながら、ロープを手繰り寄せる。
ロープの先にはフックを括りつけているので、山や木を登るのに役立っていた。
ふわりと香水の香りが漂ったが、こうも起伏が激しい状態だと、香りによる誘き出しの効果は期待しない方がいいかもしれないと思う。
「僕はあっちの方向を見るよ」
望遠鏡をオルドレイルとは違う方向に向ける。
勘は鋭い方ではないという自負があるので、あてずっぽではなく、探索ポイントを絞りつつ確認していく。
そうして確認した方向や地帯を、匠が用意した地図に記録していた。
「皆さん、こちらに!」
その匠から、声が届く。
ゴブリンは倒したようだ。だが、それ以上になにかを発見したようだった。
オルドレイルとレウィルは視線を合わすと頷いてから向かう。リルエナも後に続いた。爆裂的な動きをしつつ。
匠が示した場所には、亜人が数体居た様な痕跡が残っていた。鹿でも食べていたのだろうか、無残な残骸が横たわっていた。
「複数の足跡が向こうに向かっているようだね」
地面を注視していた匠が呟く。
「地図によると、山に登っていくか川にあたるか……かな」
「それなら、水場の方が可能性はありそうだね」
レウィルの言葉に、匠がゴブリンの行方を予測する。
水は生きる上で必要不可欠であるはずだ。ならば、山を更に登るよりかは、水場の方に向かうと推測した。
「良い判断だと思う」
リルエナが感心したように言葉を発した。
彼女は王国北部の亜人を専門に狩るハンターだ。経験も豊富なのだろう。
「次こそ、だな」
オルドレイルが武器を構えた。
今まで遭遇しても不発気味だったが、次は多くのゴブリンと遭遇できるだろうと思ったからだ。
●アレの話し
「歩合制とは、気合入っちゃうよねー」
フィーサの表情は長い前髪に覆われて分かりにくいが、それでも、どこか嬉しそうな感じに聞こえた。
今しがた、大量に現れたゴブリン共を殲滅した所だ。
豊満なそれを惜しげもなく揺らしながら、乱れた呼吸を整えている。
「さすがに、2人で6匹はブラックだ……」
これで、眼福できなかったら、樹の心はへし折れていたかもしれない。働く環境は大事だ。
マテリアルヒーリングで怪我を癒しながら、無残な死体となったゴブリンをみつめる。
「こちらB班。次の探索ポイントに向かう」
魔導短電話で別の班に報告だけ入れると、呼吸を整えながら歩き出す。
「そういえば、北の戦乙女さんは、噂通りだねー」
「え? なにがですか?」
樹は瞬時にアレの事だと思ったが、先程の事があったので、とぼけてみせた。
「樹ちゃんは、あれを見て、なにも思わないなのぉ?」
「そ、そんな事はないけど……」
アレね……と思わず、フィーサのそれに目が行ってしまう。彼女もリルエナに負けず劣らず……。
「絶対重いよね、アレ……よく前衛で動けるなー」
感心しているのか、そう言いながら何度も深く頷くフィーサ。
その度に重そうなそれが主張してくる。
「いや、それは、棚上げだよね」
「ん? 鎧の話だよね?」
「……え? そうなの?」
再び二人の間に風が吹き抜けていったのであった。
●ソロ
「時間がかかったかもしれませんね」
屋外がゴブリンの1体を文字通り粉砕しながら呟いた。
運が良かったのか、探索の成果があったのか、複数のゴブリンと屋外は遭遇していた。
「探す手間が省けたという事でいいでしょう」
ゴブリンの攻撃を避けつつ、太い樹木の枝に飛び上がると、眼下でゴブリン同士がぶつかり合う。
そこへ、ナックルを射出する屋外。
一人ではあったが、それなりにゴブリンを倒したはずだ。
「……良いんですよ」
資金稼ぎの為に亜人を殺す事に、それを気にしていた人の事に想いを馳せながら、屋外はそんな台詞を口にした。
射出されたナックルがマテリアルの力で引き戻される。
そして、次のゴブリンに狙いを定めた。
●殲滅戦(その1)
ゴブリンの汚れた棍棒が掠めた。
匠は身体を捻じらせて続く別のゴブリンの攻撃を避けると疾影士としての能力を用いて、その場を離れる。
「リルエナさん、よろしくお願いします」
「わかった」
入れ替わる様に前線に出たのは北の戦乙女だった。
掲げた剣全体が光るとそこから光の波動が発せられる。
ゴブリンの何体かは、その波動が直撃し、吹き飛ばされた。起き上がってくる事はない。それほど、彼女の技は強力であった。
「僕には無駄だよ」
波動から逃れるように障害物に隠れたゴブリンを、障害物となっている木片ごと蹴り飛ばしたのはレウィルだった。
地面を転がっていく哀れなゴブリンをオルドレイルが的確にトドメを差す。
誰もが続く戦闘で傷だらけであった。
前半の不発が嘘の様に、立て続けに複数の群れと遭遇したからだ。
「戦闘後に回復をかける」
傷が深くならないのは、リルエナの回復魔法のおかげでもあった。
散開したゴブリンを追う事を優先していた。依頼の時間は迫っていたからだ。
「……あぁくそ、やっぱり銃は苦手だよ……」
悔しそうにレウィルが呟く。
距離が離れたので、魔導拳銃を使おうと思ったのだが、思うような結果にならなかったからだ。
「俺がやります」
「私は突貫するのみだな」
匠とオルドレイルが追いかけて距離を詰めていった。
「あれで、終わりそうか」
北の戦乙女が剣を鞘に戻した。
彼女の言う通り、二人のハンターが最後、それぞれのゴブリンを倒して依頼の終了時刻を迎えたのであった。
●殲滅戦(その2)
まばゆい輝くを放つ白い鞭が不規則な動きの見せて、まるで、光っている蛇の様だった。
それは、ゴブリンの胴体を締め上げる。フィーサが放ったものだ。
「逃がさないよー」
身動きが出来なくなった所で、後方から樹が拳銃で撃ち抜いた。
すぐさま、鞭を戻しながら、高所へ跳ぶフィーサ。
複数体現れたゴブリンは前衛に立つ彼女を集中して狙っていた。だが、その尽くをフィーサは避けて行く。
「揺れ……揺れてる」
樹がそんな言葉を呟きながら、自身も揺れていた。
後方から援護するのに、最適な位置取りをしていたからだ。
「逃げるヤツは、ゴブリンだー。逃げないヤツは、よく訓練されたゴブリンだー」
フィーサはゴブリンを追い詰めながら台詞を口にする。
ゴブリンは……もはや、恐慌状態だった。たった2人の人間と思ったら、強かったのだ。
背を向けて逃げ出すゴブリンを2人が逃がすわけがない。
「これで、ラストだね」
魔導拳銃から放たれた高温の弾丸は、ゴブリンの後頭部を直撃したのだった。
●【聖呪】戦乙女の目的
ハンター達がオフィスに戻って来た。
受付嬢のミノリが申し訳なさそうな顔をしていた。忙しくて同行できなかったからだ。
「よかった。これだけの数の討伐なら、依頼主も大満足でしょう」
討伐数を確認し、受付嬢は安堵の表情を浮かべる。
31体目以上のゴブリンには1体につき追加報酬が決められている。
ハンター達で割ったら微々たるものかもしれないが、それでも、稼げた事に間違いないはずだ。
「……生きて帰れ……た」
疲労困憊の樹が感無量な感じだ。
手からすり抜けた依頼の書類が、床に落ち、それを拾おうとする動きが、北の戦乙女と重なって、身体がぶつかった。
「!?」
なにか、柔らかい感触に当たったのは分かった。
気まずい空気が流れたと思ったが、彼女は特に気にもしていないようだった。
「そ、そういえばゴブリンってこんなに一気に沸くものだっけ?」
慌てながら、樹が空気の流れを変えようとそんな質問を投げかける。
「タツキの疑問は、私としても同様だな」
オルドレイルが追随した。
今回の依頼で50体以上のゴブリンを討伐している。
これだけの数のゴブリンを一回の依頼の中で確認されるのもなかなか無い事かもしれないし、一度に50体が相手だったら、今回の様にはいかなかっただろう。
「王国北部でなにかが起こっている可能性はあると見るべきかもしれませんね」
考える様な表情を浮かべる匠。さすがに可能性の中身までわからないが。
匠の言葉に、そういえばと、レウィルは思った。
「北の大峡谷に限定した活動っていうのも、何か理由があったりするのかな?」
リルエナに向かって、彼女は訊ねた。
もしかして、北の戦乙女と呼ばれるリルエナであれば、なにか知っているかもしれないと。
「残念だが、これほどの亜人の活動の理由は、私も見当がつかない」
戦乙女は桜色の髪と、大き過ぎるそれを揺らすながら、首を横に振った。
「それじゃ、リルエナちゃんが、亜人狩りにこだわる理由ってなんなのぉ?」
フィーサも彼女に負けないほど揺らしながら訊ねる。
その質問に、瞳を閉じ、少し想い耽るリルエナ。
やがて、ゆっくりと瞼を開けると、フィーサ質問に答える。だが、視線は、屋外に向けられていた。
「いつか、大切な人と再会した時に、胸を張れる様、誇れる自分で在りたいからだ」
その眼差しは、『北の戦乙女』の名に相応しい強さと輝きを放っていたのであった。
ハンター達の調査区域内にいたゴブリンは概ね討伐され、その規模から、大峡谷へと続く山に潜むゴブリンのおおよその数を、『軍師騎士』は予測した。
ウィーダの街の移転が早まる事になるお知らせが街に張り出された。やがて、それは大きな意味を持つ事を、多くの住民は思いもしなかったのである。
おしまい。
(……しかし、重くないのかな……)
レウィル=スフェーン(ka4689)がチラリとチラリと気になって、つい、見てしまう。
視線の先には巨大な二つのモノ。その持ち主であるリルエナは、森の中、遠くを見渡していた。
「いないようだな……どうした?」
「ジ、ジロジロ見たりしてないです。はい」
慌ててレウィルは弁明すると、視線を変える。
ハンター達は山の中に潜むゴブリンを討伐する依頼を受けていた。
「……命を奪う事、気は進まない。それでも、人に害を為すのなら」
それも仕方ない事なのだろうと誠堂 匠(ka2876)は心の中で続けて、地図を広げた。
地元の人が書いてくれた大雑把な地図だが、ないよりかはマシである。
「頑張らせてもらおうじゃないか」
オルドレイル(ka0621) は、不敵な笑みを浮かべていた。
依頼が始まるまでは、足手まといになってしまうのではないかと心配していたが、それは杞憂であった。
「こっちから打って出る依頼っていうのも珍しいかもしれないね」
ゴブリンの形跡がないか確認したレウィルが、そんな事を言った。
確かに、ゴブリンに関する依頼は、どちらかというと、ゴブリンが襲撃してきたので、倒して欲しいという依頼の方が多い気がする。
それだけ、王国北部ではゴブリンを含む亜人の活動が活発になっているという事なのだろうか。
「リルエナさん、数が多い時は、打ち合わせ通りよろしくお願いします」
「わかった。誘引は任せた」
匠の言葉にリルエナは頷いた。彼女の大きいモノが揺れる。
ゴブリンが多く出没した際には、リルエナの魔法で一掃するつもりなのだ。
「『北の戦乙女』の噂は聞き及んでいる、なかなかの使い手だそうじゃないか」
オルドレイルが言う様に、リルエナの噂は知る人ぞ知るハンターである。
美貌と大きさと実力を知るには、今回良い機会だったかもしれない。
(彼女と戦う未来があるとするならば……そう考えるだけで心が躍るではないか)
連れて来た二頭の犬の行方を確認し、オルドレイルはワクワクしていた。
チラっとリルエナを見る。彼女は少し照れるように苦笑を浮かべていた。
「無駄に年月だけは長く活動しているからな」
彼女がハンターとなって十年前後は経過しているという。
4人は次の探索ポイントに向かって山を登り始めた。
●山の中で(その2)
男女のハンターが山に入っていた。
当然、デートではない。ハイキングでもない。
(同僚は美人で、しかも、大きいからテンション上がるし楽勝だと思ったら……)
思った以上の山の起伏に肩で荒く息をしながら檜ケ谷 樹(ka5040)が心の中で呟いていた。
実は人生初めての実戦依頼。依頼出発前は美人な仲間と一緒になれて、「人生は差し引きゼロって言ったもんだ」と軽口叩いていたのだが、今、心の中でマイナスになっていた。
「大きければ良いってモノじゃないんだよ。重いし、かさ張るし」
先を行くフィーサ(ka4602)が振り返って、そんな事を言う。
彼女の、それは、豊満であった。北の戦乙女とどっちが大きいのだろうかと思わず樹は考えてしまう。
「そりゃ、視覚的な効果もあるだろうけどさ、普段は目立ってもあまり良い事無いからねー」
揺らしながら山の傾斜を登る。
「目立ってあまり良い事はないのか~」
そんな物なのかと思う。
持たない者には分からない。あればあるで良いのではないかと思っていた。
「……」
急にフィーサが立ち止まる。
その豊満が反動で揺れた。
「ん? 武器の話だよね?」
「……え? そうなの?」
二人の間に風が吹き抜けていった。
●山の中で(その3)
屋外(ka3530)は単独で山に入っていた。
荷物を降ろした。
当初は敵を発見したら、引き付けつつ次の探索ポイントに向かうつもりだったが、勝手が違ったからだ。
山の中の起伏がそれを阻んでいた。馬も山には入れなかったので、徒歩というのも、ゴブリンの追撃を許す状況になっている。
「ブロークンアロー!」
仕方ないので、見つけたゴブリンをその場で倒す事にした。
マテリアルを込める事でナックルが射出され、直撃を受けたゴブリンは一撃で崩れ落ちた。
他のゴブリンが距離を詰めるが、屋外は囲まれない為に、高低の地形を活かし、軽く飛び上がって間を作った。
(普通のゴブリンですね)
彼はリルエナに、この一帯のゴブリンの話しを聞いていた。
特に変わった所は見られない……ただ、微妙な違和感を屋外は感じずにはいられなかたった。
●ゴブリンはいずこに
犬が吠えた。
斜面を駆けのぼり、オルドレイルが見たのは逃げる1匹のゴブリンだった。
「また、一匹か」
指を差して、その方角を示す。
先程から、見つける事はできても、運が悪いのか、単体か少数ばかりなのだ。
群れから逸れたゴブリンなのだろうか。
「俺が行ってこよう」
匠が刀を構えて起伏を気にせず、ゴブリンを追いかける。
もう勝負は決したようなものだ。オルドレイルは双眼鏡を取りだすと周囲を索敵する。
フィーサの班から連絡は入っていた。計画とは違い、二人で行動していると。ならば、戦力的に有利な自分達が数多く討伐する必要があるはずだ。
なにせ、討伐数に応じて報酬の増える依頼だ。裏を返せば、依頼主には、数多くのゴブリンを討伐しなくてはならない理由が存在するのだろう。
(こういう時の為にエルフの母さんに死ぬほどしごかれたんだから……)
レウィルは心の中でそう思いながら、ロープを手繰り寄せる。
ロープの先にはフックを括りつけているので、山や木を登るのに役立っていた。
ふわりと香水の香りが漂ったが、こうも起伏が激しい状態だと、香りによる誘き出しの効果は期待しない方がいいかもしれないと思う。
「僕はあっちの方向を見るよ」
望遠鏡をオルドレイルとは違う方向に向ける。
勘は鋭い方ではないという自負があるので、あてずっぽではなく、探索ポイントを絞りつつ確認していく。
そうして確認した方向や地帯を、匠が用意した地図に記録していた。
「皆さん、こちらに!」
その匠から、声が届く。
ゴブリンは倒したようだ。だが、それ以上になにかを発見したようだった。
オルドレイルとレウィルは視線を合わすと頷いてから向かう。リルエナも後に続いた。爆裂的な動きをしつつ。
匠が示した場所には、亜人が数体居た様な痕跡が残っていた。鹿でも食べていたのだろうか、無残な残骸が横たわっていた。
「複数の足跡が向こうに向かっているようだね」
地面を注視していた匠が呟く。
「地図によると、山に登っていくか川にあたるか……かな」
「それなら、水場の方が可能性はありそうだね」
レウィルの言葉に、匠がゴブリンの行方を予測する。
水は生きる上で必要不可欠であるはずだ。ならば、山を更に登るよりかは、水場の方に向かうと推測した。
「良い判断だと思う」
リルエナが感心したように言葉を発した。
彼女は王国北部の亜人を専門に狩るハンターだ。経験も豊富なのだろう。
「次こそ、だな」
オルドレイルが武器を構えた。
今まで遭遇しても不発気味だったが、次は多くのゴブリンと遭遇できるだろうと思ったからだ。
●アレの話し
「歩合制とは、気合入っちゃうよねー」
フィーサの表情は長い前髪に覆われて分かりにくいが、それでも、どこか嬉しそうな感じに聞こえた。
今しがた、大量に現れたゴブリン共を殲滅した所だ。
豊満なそれを惜しげもなく揺らしながら、乱れた呼吸を整えている。
「さすがに、2人で6匹はブラックだ……」
これで、眼福できなかったら、樹の心はへし折れていたかもしれない。働く環境は大事だ。
マテリアルヒーリングで怪我を癒しながら、無残な死体となったゴブリンをみつめる。
「こちらB班。次の探索ポイントに向かう」
魔導短電話で別の班に報告だけ入れると、呼吸を整えながら歩き出す。
「そういえば、北の戦乙女さんは、噂通りだねー」
「え? なにがですか?」
樹は瞬時にアレの事だと思ったが、先程の事があったので、とぼけてみせた。
「樹ちゃんは、あれを見て、なにも思わないなのぉ?」
「そ、そんな事はないけど……」
アレね……と思わず、フィーサのそれに目が行ってしまう。彼女もリルエナに負けず劣らず……。
「絶対重いよね、アレ……よく前衛で動けるなー」
感心しているのか、そう言いながら何度も深く頷くフィーサ。
その度に重そうなそれが主張してくる。
「いや、それは、棚上げだよね」
「ん? 鎧の話だよね?」
「……え? そうなの?」
再び二人の間に風が吹き抜けていったのであった。
●ソロ
「時間がかかったかもしれませんね」
屋外がゴブリンの1体を文字通り粉砕しながら呟いた。
運が良かったのか、探索の成果があったのか、複数のゴブリンと屋外は遭遇していた。
「探す手間が省けたという事でいいでしょう」
ゴブリンの攻撃を避けつつ、太い樹木の枝に飛び上がると、眼下でゴブリン同士がぶつかり合う。
そこへ、ナックルを射出する屋外。
一人ではあったが、それなりにゴブリンを倒したはずだ。
「……良いんですよ」
資金稼ぎの為に亜人を殺す事に、それを気にしていた人の事に想いを馳せながら、屋外はそんな台詞を口にした。
射出されたナックルがマテリアルの力で引き戻される。
そして、次のゴブリンに狙いを定めた。
●殲滅戦(その1)
ゴブリンの汚れた棍棒が掠めた。
匠は身体を捻じらせて続く別のゴブリンの攻撃を避けると疾影士としての能力を用いて、その場を離れる。
「リルエナさん、よろしくお願いします」
「わかった」
入れ替わる様に前線に出たのは北の戦乙女だった。
掲げた剣全体が光るとそこから光の波動が発せられる。
ゴブリンの何体かは、その波動が直撃し、吹き飛ばされた。起き上がってくる事はない。それほど、彼女の技は強力であった。
「僕には無駄だよ」
波動から逃れるように障害物に隠れたゴブリンを、障害物となっている木片ごと蹴り飛ばしたのはレウィルだった。
地面を転がっていく哀れなゴブリンをオルドレイルが的確にトドメを差す。
誰もが続く戦闘で傷だらけであった。
前半の不発が嘘の様に、立て続けに複数の群れと遭遇したからだ。
「戦闘後に回復をかける」
傷が深くならないのは、リルエナの回復魔法のおかげでもあった。
散開したゴブリンを追う事を優先していた。依頼の時間は迫っていたからだ。
「……あぁくそ、やっぱり銃は苦手だよ……」
悔しそうにレウィルが呟く。
距離が離れたので、魔導拳銃を使おうと思ったのだが、思うような結果にならなかったからだ。
「俺がやります」
「私は突貫するのみだな」
匠とオルドレイルが追いかけて距離を詰めていった。
「あれで、終わりそうか」
北の戦乙女が剣を鞘に戻した。
彼女の言う通り、二人のハンターが最後、それぞれのゴブリンを倒して依頼の終了時刻を迎えたのであった。
●殲滅戦(その2)
まばゆい輝くを放つ白い鞭が不規則な動きの見せて、まるで、光っている蛇の様だった。
それは、ゴブリンの胴体を締め上げる。フィーサが放ったものだ。
「逃がさないよー」
身動きが出来なくなった所で、後方から樹が拳銃で撃ち抜いた。
すぐさま、鞭を戻しながら、高所へ跳ぶフィーサ。
複数体現れたゴブリンは前衛に立つ彼女を集中して狙っていた。だが、その尽くをフィーサは避けて行く。
「揺れ……揺れてる」
樹がそんな言葉を呟きながら、自身も揺れていた。
後方から援護するのに、最適な位置取りをしていたからだ。
「逃げるヤツは、ゴブリンだー。逃げないヤツは、よく訓練されたゴブリンだー」
フィーサはゴブリンを追い詰めながら台詞を口にする。
ゴブリンは……もはや、恐慌状態だった。たった2人の人間と思ったら、強かったのだ。
背を向けて逃げ出すゴブリンを2人が逃がすわけがない。
「これで、ラストだね」
魔導拳銃から放たれた高温の弾丸は、ゴブリンの後頭部を直撃したのだった。
●【聖呪】戦乙女の目的
ハンター達がオフィスに戻って来た。
受付嬢のミノリが申し訳なさそうな顔をしていた。忙しくて同行できなかったからだ。
「よかった。これだけの数の討伐なら、依頼主も大満足でしょう」
討伐数を確認し、受付嬢は安堵の表情を浮かべる。
31体目以上のゴブリンには1体につき追加報酬が決められている。
ハンター達で割ったら微々たるものかもしれないが、それでも、稼げた事に間違いないはずだ。
「……生きて帰れ……た」
疲労困憊の樹が感無量な感じだ。
手からすり抜けた依頼の書類が、床に落ち、それを拾おうとする動きが、北の戦乙女と重なって、身体がぶつかった。
「!?」
なにか、柔らかい感触に当たったのは分かった。
気まずい空気が流れたと思ったが、彼女は特に気にもしていないようだった。
「そ、そういえばゴブリンってこんなに一気に沸くものだっけ?」
慌てながら、樹が空気の流れを変えようとそんな質問を投げかける。
「タツキの疑問は、私としても同様だな」
オルドレイルが追随した。
今回の依頼で50体以上のゴブリンを討伐している。
これだけの数のゴブリンを一回の依頼の中で確認されるのもなかなか無い事かもしれないし、一度に50体が相手だったら、今回の様にはいかなかっただろう。
「王国北部でなにかが起こっている可能性はあると見るべきかもしれませんね」
考える様な表情を浮かべる匠。さすがに可能性の中身までわからないが。
匠の言葉に、そういえばと、レウィルは思った。
「北の大峡谷に限定した活動っていうのも、何か理由があったりするのかな?」
リルエナに向かって、彼女は訊ねた。
もしかして、北の戦乙女と呼ばれるリルエナであれば、なにか知っているかもしれないと。
「残念だが、これほどの亜人の活動の理由は、私も見当がつかない」
戦乙女は桜色の髪と、大き過ぎるそれを揺らすながら、首を横に振った。
「それじゃ、リルエナちゃんが、亜人狩りにこだわる理由ってなんなのぉ?」
フィーサも彼女に負けないほど揺らしながら訊ねる。
その質問に、瞳を閉じ、少し想い耽るリルエナ。
やがて、ゆっくりと瞼を開けると、フィーサ質問に答える。だが、視線は、屋外に向けられていた。
「いつか、大切な人と再会した時に、胸を張れる様、誇れる自分で在りたいからだ」
その眼差しは、『北の戦乙女』の名に相応しい強さと輝きを放っていたのであった。
ハンター達の調査区域内にいたゴブリンは概ね討伐され、その規模から、大峡谷へと続く山に潜むゴブリンのおおよその数を、『軍師騎士』は予測した。
ウィーダの街の移転が早まる事になるお知らせが街に張り出された。やがて、それは大きな意味を持つ事を、多くの住民は思いもしなかったのである。
おしまい。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/01 06:48:59 |
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大きい、とは レウィル=スフェーン(ka4689) 人間(クリムゾンウェスト)|16才|男性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/06/05 03:15:05 |