ゲスト
(ka0000)
オレはガルドブルムではなィッ!
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~10人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/05/30 19:00
- 完成日
- 2015/06/06 20:30
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●的は歪虚
CAMの踵がトロルの顎を砕いた。
踵は止まらず半回転し、機体の背後から迫っていたオーガの頬を蹴り飛ばす。
足を下ろす動作と一緒に一歩半横へ動き、CAMは巨人の群れによる包囲から抜け出した。
『オ前ハ、何ダ』
サイクロプスが部下に指揮をすることも忘れるほど混乱している。
ここはホープから見て北東に位置する場所だ。東に向かえば東方にたどり着き、今なら東方救援に向かったハンターと出会えるかもしれない。
『答エロ!』
返事は増援CAMの出現だった。
宙でブースターを止め、バランスを崩しかけながら危なっかしく着地。
30ミリアサルトライフルを非常に手際悪く構えようとして取り落としかける。
不格好なのに単眼鬼は笑えない。
CAMから漂う気配が人間でなく、歪虚のものだからだ。
『何故ッ』
機械の巨人がドラゴンの如く跳ぶ。
機械の拳がサイクロプスの守りを躱し、巨大な眼球ごとその脳髄を粉砕した。
ようやく構えることに成功した機が射撃を開始する。
ほぼ至近距離なのに命中率は酷い。弾は十分あるはずなのに数分かけても十数発しか当たらない。
格闘家風の動きのCAMが残存歪虚を追う。
援護射撃に効果は無く、元の数が違いすぎるため8割方逃がしてしまい、無言のまま僚機の元へ戻った。
『俺はよ、武器を使えと言わなかったかねェ?』
空から声が降ってくる。
素手のCAMが硬直し、生物的な動きでおそるおそる空を見上げた。
『おいおい、怯えるな情けねェ』
そこにはドラゴンがいた。
神聖というには禍々しすぎ、しかしドラゴンの名に相応しい力を感じさせる。
『チッ……玩具が使えねェのは持ち主が下手ってこった』
鼻を鳴らす。
彼は弓矢の時代から存在していたドラゴンだ。爪と牙とブレスに自身はあるが、銃器に関しては無知に近い。
『ったくよォ……どうしたもんかね』
十三魔ガルドブルムが目を細め、あることに気づいて軽く口笛を吹く。
逃走中の巨人の進行方向で、複数の大型天幕が組み上げられ人間が何かを運び込んでいる。
眼下の30ミリアサルトライフルと、遠方で運搬中の人間用アサルトライフルを見比べる。
『…………、どうしたもんかねェ……』
声に喜悦が濃く混じっている。何かろくでもないことを思いついたらしい。
『お前等、怠惰の生き残りを見つけ次第南西に向けて追い立てろ』
大きく翼を上下させる。
リアルブルーの兵器並みの速度を得て、ガルドブルムは人類の物資集積所に向かっていった。
●物資集積所防衛戦
重要だが危険度の低い依頼のはずだった。
いざというとき短時間で東方に戦力を送れるよう、ひたすら物資を運び込み一応歪虚の襲撃を警戒するだけの依頼のはずだった。
「くそっ、また来やがった」
あなた達ハンターが中心になり、矢弾が詰め込まれた天幕を守り続けている。
「畜生、弦が切れやがった」
「兵士は一旦下が……いや、天幕から銃を持ってこい。歪虚に当てなくても構わん、弾をばらまいて足止めしろ!」
輸送任務で軽装だった兵士がアサルトライフルを持ち出す。
ハンターの指導がなければ自分の足を撃ちかねないほど不慣れだが、北東で活動中のCAMよりずっとましだった。
また歪虚が増える。
これまで同様トロルにオーガ。1体でも強敵なのに10体単位でいる。
巨人に倒される気は全く無いが、このままでは複数ある天幕のうち1つ2つが奪われかねない。
奪われる前に火をつけて消し飛ばすことを検討し始めたとき、重く硬いものが着地する音が大きく響いた。
『助太刀す……』
見覚えのない大男がわざとらしく咳払いする。
「助太刀する」
男が前に出る。
天かける龍の如く速く、力と戦に魅入られた魔性の如く強い。
オーガの腹を拳で貫く。そのままサイクロプスに投げつけて足止めし、まるで翼があるかのように跳ぼうとしてたたらを踏む。
「おっと、翼も牙もねェのを忘れてたぜ」
兵士に向かうトロルのつま先を踏みつぶし、歪虚から距離をとりつつ兵士を凝視する。
「なるほどなァ」
油断とみた巨人が仕掛ける。
が、男は目も向けずに裏拳を放ちオーガの足を潰す。
「なァおい、新兵の俺にちょいとばかし教えてもらいたいんだがな、ガトリングとかいうモンはねェのか?」
ばれていないと思っているのだろうか。
態度も口調も声も某十三魔にしかみえない男が、真面目な顔で尋ねてきた。
いずれにせよあなた達のすべきことははっきりいている。
前門の怠惰残党に訳の分からないドラゴンっぽいの相手に、次の戦のための物資を守り抜くのだ。
●戦場の地形
平平平平巨
平平巨平平
平平ガ平平
平平兵平平
物物平物平
1文字縦横20メートルです。主な戦場になるのは上記の縦横100メートルです。
平:平地です。騎乗して全速力で走ってもこけたりしません。
巨:平地です。歪虚が10体います。個体としても部隊としても練度が極めて低く、人間または人間の所有物を狙おうとします。
ガ:平地です。ガルドブルムっぽいひとが戦っています。
物:平地です。大型の天幕が1つ張られています。中身は主に銃弾と矢。一部水と食糧。
兵:平地です。兵士8名がアサルトライフルで弾幕を張り、騎士2名が護衛についています。
ハンターの初期位置は、上記の縦横100メートルのどこでも指定可能です。
CAMの踵がトロルの顎を砕いた。
踵は止まらず半回転し、機体の背後から迫っていたオーガの頬を蹴り飛ばす。
足を下ろす動作と一緒に一歩半横へ動き、CAMは巨人の群れによる包囲から抜け出した。
『オ前ハ、何ダ』
サイクロプスが部下に指揮をすることも忘れるほど混乱している。
ここはホープから見て北東に位置する場所だ。東に向かえば東方にたどり着き、今なら東方救援に向かったハンターと出会えるかもしれない。
『答エロ!』
返事は増援CAMの出現だった。
宙でブースターを止め、バランスを崩しかけながら危なっかしく着地。
30ミリアサルトライフルを非常に手際悪く構えようとして取り落としかける。
不格好なのに単眼鬼は笑えない。
CAMから漂う気配が人間でなく、歪虚のものだからだ。
『何故ッ』
機械の巨人がドラゴンの如く跳ぶ。
機械の拳がサイクロプスの守りを躱し、巨大な眼球ごとその脳髄を粉砕した。
ようやく構えることに成功した機が射撃を開始する。
ほぼ至近距離なのに命中率は酷い。弾は十分あるはずなのに数分かけても十数発しか当たらない。
格闘家風の動きのCAMが残存歪虚を追う。
援護射撃に効果は無く、元の数が違いすぎるため8割方逃がしてしまい、無言のまま僚機の元へ戻った。
『俺はよ、武器を使えと言わなかったかねェ?』
空から声が降ってくる。
素手のCAMが硬直し、生物的な動きでおそるおそる空を見上げた。
『おいおい、怯えるな情けねェ』
そこにはドラゴンがいた。
神聖というには禍々しすぎ、しかしドラゴンの名に相応しい力を感じさせる。
『チッ……玩具が使えねェのは持ち主が下手ってこった』
鼻を鳴らす。
彼は弓矢の時代から存在していたドラゴンだ。爪と牙とブレスに自身はあるが、銃器に関しては無知に近い。
『ったくよォ……どうしたもんかね』
十三魔ガルドブルムが目を細め、あることに気づいて軽く口笛を吹く。
逃走中の巨人の進行方向で、複数の大型天幕が組み上げられ人間が何かを運び込んでいる。
眼下の30ミリアサルトライフルと、遠方で運搬中の人間用アサルトライフルを見比べる。
『…………、どうしたもんかねェ……』
声に喜悦が濃く混じっている。何かろくでもないことを思いついたらしい。
『お前等、怠惰の生き残りを見つけ次第南西に向けて追い立てろ』
大きく翼を上下させる。
リアルブルーの兵器並みの速度を得て、ガルドブルムは人類の物資集積所に向かっていった。
●物資集積所防衛戦
重要だが危険度の低い依頼のはずだった。
いざというとき短時間で東方に戦力を送れるよう、ひたすら物資を運び込み一応歪虚の襲撃を警戒するだけの依頼のはずだった。
「くそっ、また来やがった」
あなた達ハンターが中心になり、矢弾が詰め込まれた天幕を守り続けている。
「畜生、弦が切れやがった」
「兵士は一旦下が……いや、天幕から銃を持ってこい。歪虚に当てなくても構わん、弾をばらまいて足止めしろ!」
輸送任務で軽装だった兵士がアサルトライフルを持ち出す。
ハンターの指導がなければ自分の足を撃ちかねないほど不慣れだが、北東で活動中のCAMよりずっとましだった。
また歪虚が増える。
これまで同様トロルにオーガ。1体でも強敵なのに10体単位でいる。
巨人に倒される気は全く無いが、このままでは複数ある天幕のうち1つ2つが奪われかねない。
奪われる前に火をつけて消し飛ばすことを検討し始めたとき、重く硬いものが着地する音が大きく響いた。
『助太刀す……』
見覚えのない大男がわざとらしく咳払いする。
「助太刀する」
男が前に出る。
天かける龍の如く速く、力と戦に魅入られた魔性の如く強い。
オーガの腹を拳で貫く。そのままサイクロプスに投げつけて足止めし、まるで翼があるかのように跳ぼうとしてたたらを踏む。
「おっと、翼も牙もねェのを忘れてたぜ」
兵士に向かうトロルのつま先を踏みつぶし、歪虚から距離をとりつつ兵士を凝視する。
「なるほどなァ」
油断とみた巨人が仕掛ける。
が、男は目も向けずに裏拳を放ちオーガの足を潰す。
「なァおい、新兵の俺にちょいとばかし教えてもらいたいんだがな、ガトリングとかいうモンはねェのか?」
ばれていないと思っているのだろうか。
態度も口調も声も某十三魔にしかみえない男が、真面目な顔で尋ねてきた。
いずれにせよあなた達のすべきことははっきりいている。
前門の怠惰残党に訳の分からないドラゴンっぽいの相手に、次の戦のための物資を守り抜くのだ。
●戦場の地形
平平平平巨
平平巨平平
平平ガ平平
平平兵平平
物物平物平
1文字縦横20メートルです。主な戦場になるのは上記の縦横100メートルです。
平:平地です。騎乗して全速力で走ってもこけたりしません。
巨:平地です。歪虚が10体います。個体としても部隊としても練度が極めて低く、人間または人間の所有物を狙おうとします。
ガ:平地です。ガルドブルムっぽいひとが戦っています。
物:平地です。大型の天幕が1つ張られています。中身は主に銃弾と矢。一部水と食糧。
兵:平地です。兵士8名がアサルトライフルで弾幕を張り、騎士2名が護衛についています。
ハンターの初期位置は、上記の縦横100メートルのどこでも指定可能です。
リプレイ本文
全身の関節と筋を制御し、地面を強く踏みつける。
狙うはオーガの腹。
グレイブ(ka3719)の拳が腹に触れ、全身金属鎧込みで100キロ越えの大重量に支えられた威力が炸裂する。
『コノテイッ』
オーガの巨体がくの字に折れた。
呼吸も出来ずに何度も口を開閉させ、中身が潰れた腹を両手で押さえる。
「いいねいいねェ!」
大男が口角を吊り上げる。
しかしグレイブの表情は優れない。威力はリアルブルーにいた頃よりずっと上なのだが、震脚も沈墜勁も狙い通りの効果が出ていない気がする。
「これだからファンタジーは」
中腰オーガの胸に己の掌を重ねて当てる。
心臓マッサージの手法を破壊方向に転用した致命的一打だ。
大男は舌なめずりして見て覚え、同時に別のトロル相手に実践している。
「これだから……」
無性に煙が恋しい。
伝統と科学に裏付けられた技より覚醒者のスキルの方が現実に効果があるらしいという現実は、正直少々どころでなく寂しい。
「あれは使わねェのか、なァ?」
1体片付け別のトロル複数を相手にしながら大男が問う。
「撃たないで。誤射が怖いです。あれの準備を……」
後方からリリティア・オルベール(ka3054)の声が聞こえ、数秒遅れで銃器が下ろされ仕舞われる音も聞こえた。
大男がトロル達を牽制し下がる。
あわよくば目当ての武器に似通った銃器を手に入れるつもりだ。
予備動作無しで大男が屈む。グレートソードが頭部をかすめ、十数本の髪が乾いた風に吹かれて散る。
巨大な刃は回避されても止まらない。大男を追いかけてきたトロルの顔面にめり込み、蒼い刀身を伝って毒々しい色の体液が伝っていった。
「お久しぶりです」
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)が一見軽く、実際は鋼を握りつぶせる力を込めて刃を半回転させる。
トロルは断末魔に近い叫びを上げて数歩下がり、もう1体もヴァルナと大男を警戒してゆっくりと後退していく。
「本日はどのようなご用件で?」
名門出身らしい気品ある表情なのに、相容れぬ敵を見る目をしている。
「……チ。この俺の擬態を見抜くたァ……」
正体に気づかれているのにようやく気付き、ガルドブルムは本人としては人間らしいつもりだった表情を崩した。強欲の方向に限を無くした、歪虚でしかあり得ない笑みが浮かぶ。
『奴等ハ無視ダッ。総員突撃!』
巨人達が一斉に加速する。
巨体10体近くの突撃は躱しきるのが難しく、グレイブは3体の勢いと重さをたった1人で受ける。
重傷未満で済んだのは、遠くにいる仲間の祈りがあったからかもしれない。
「そこの! 新兵なら指揮下に入れ! CAMに興味があるんだか知らんが戦闘が終われば新兵訓練でも何でも付き合ってやる!」
ガルドブルムがまた屈む。
蒼の斬撃は、十三魔に傷をつけようとしたトロルの首を飛ばし大男の首の頭頂を掠めた。
「私の間合いは見た目よりも長いですよ?」
ヴァルナの表情は最初と変わらない。
金の瞳は闘志と冷静さ保ったまま十三魔を観察している。
このドラゴン、強欲に戦いを求める魔物ではあるが人間をからかうために出てくる精神的雑魚とも思えない。
「CAMの扱いに苦労していますね」
大男の顔から一瞬表情が消えた。大声で肯定しているのと同じ事だ。
「ガルドの旦那ー、鱗くれね?」
紫月・海斗(ka0788) が軽薄に笑ってアサルトライフルを振り回す。
CAM用装備に似た雰囲気を持つそれに十三魔の視線が引きつけられる。
が、精緻にして頑強な機構は本来の使い方はされず、その銃口近くから複数の光が現れ横と斜め後ろの巨人を打つ。
「旦那の鱗、ソッコ錬金して鉄屑にしちまってよ」
だからくれと悪びれずに言う。
ガルドブルムの悪評を知っている者なら海斗がドラゴンにかみ砕かれる姿を想像したはずだ。
だが実際の十三魔は人型のままだった。
「ハ、今日はサービスなしだ。直接抉ってみせろ」
「へっ。ケチだな旦那」
海斗の銃から炎が放たれる。属性は物理ではなく魔法で威力はささやかだが、高度な銃器操作技術を求めるドラゴンに一欠片の技術も与えない。
「よォく言うぜェ」
強い力と心を兼ね備えた男に対し、彼は口元だけでにやりと笑うのだった。
●
「この馬鹿ドラゴン! ワイバーン未満!」
弾薬が満載された天幕の間近で、リリティアが悲鳴に近い声をあげる。
大男は傷一つうけず巨人を倒し続けているが、トロルやオーガの足止めはほとんど出来ていなかった。
ガルドブルムの額に汗が浮かぶ。罵りへの怒りによる汗ではない。思い通り動かぬ体に対する怒りの汗だ。防衛戦闘の経験がないも同然とはいえ酷すぎた。
いっそ人化を解こうかと思ったドラゴンの耳に、弾丸が大気を押しのける音が届いた。
利き手で目の前のトロルを殴りつつ振り返る。
リリティアの側、人間達にとってはそれ以上下がれない場所で、流麗でありながら禍々しい人型が守りを固めていた。
『またガルドブルムの眷属かぁ!』
5メートル近いトロル複数が吼えた。
「あァ?」
ガルドブルムは見覚えのない竜的な何かに戸惑っている。
シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)本人は歪虚達の混乱を気にもせずにリロードを済ませ、通常より長い銃身の向きを微修正の後引き金を引く。
銃架の効果も有り、揺れはとても小さかった。
短い時間で30発の弾が撃ち出される。1つ1つの威力はとうに対人武器の域を超え、全てあわせれば砲の域にまで達していた。
『ッ』
トロルの胸から背中に穴が開く。隣のトロルの腹からも血と砕けた内臓がこぼれていく。
「私は眷属ではないです」
強大な破壊力からは想像しにくい、非常に若い声で声で礼儀正しくコメント。
じいっと大男を見る。
「まさか、こんな大物に出会えるとは思いませんでした」
熱を持ったヴォロンテAC47に30発の弾を補給する。
「眷属ではないですよ?」
トロルに答をくれてやって制圧射撃。オーガを含む複数を消滅させた。
「あァ。欲しがるなら考えてはやるがな」
竜はシルヴィアの得物と手元を凝視している。
今最も欲しい高度な銃操作技術が行われているはずの場所は、迷彩柄の何かで完全に隠されていた。
「俺が引きつける!」
青毛の馬が兵士達の前に走り込む。
濃さを増したマテリアルが巨大なミミズクの翼の如く広がる。
オーガでも扱い切れない大きさの斧がトロルですら反応出来ない速度で振るわれて、騎士を押し潰す直前のトロルの首を飛ばした。
兵士が興奮して一旦安全装置をかけた銃を取り出そうとする。
「戦友諸君! 私達が時間を稼いでいる間に逆転の策を準備してくれ!」
Charlotte・V・K(ka0468)が頼りになる女性指揮官を演じて兵士の行動を誘導する。
特に目立つ兵士に攻性強化をかけて飴を見せ、後は仲間に任せてメルヴイルM38を構える。
視線を感じる。命も魂も消し飛ばされてしまいそうな、飛び抜けて高位の歪虚の視線を感じる。
Charlotteの金と黒の瞳が、一瞬だけ冷たく見返した。
引き金を引く。銃口から放たれたのは砲弾に近い弾ではなく光の球だ。威力は本来の銃弾より弱い。操作の仕方も本来の使い方をするにはあまり適していない。
彼女の狙い通り、ガルドブルムは間違ってはいなくても正しくもない情報を記憶していく。
「北東方向からトロルが6つ……」
春日 啓一(ka1621)の目が細められた。
巨人達が加速する。
ゴースロンの高速で砲並みの威力を繰り出す岩井崎 旭(ka0234)や、多種多様で強力な銃撃を浴びせるハンターと戦っても勝てないと判断し、せめて天幕だけは潰そうと後先考えない全力疾走を開始したのだ。
クリスティン・ガフ(ka1090)が無造作に前に出る。
腰を少し落とし、3.4メートルに達する刀を肩担ぎに構え、マテリアルを限界まで活性化させながらすり足で位置を調整。
巨人の大津波が剣の間合いに入った瞬間、マテリアルと物理的な力が骨盤を起点に動き出す。
大男の顔に歓喜が浮かぶ。銃の件が無けれは巨人を追い抜きクリスティンに襲いかかっていた。
長大な刀が内側から紅く鈍く光り、大気ごと大津波を切り裂いた。
悲鳴は聞こえない。
心技体だけでなく装備とスキルまで調えられたその一撃は、決して弱くはないオーガ達を一太刀で沈めた。
最前列を消したとはいえ歪虚は10体以上健在だ。
クリスティンの二の太刀は更に冴えを増してはいたが、危険な相手と見た巨人達は彼女を避けんと左右に分かれそれぞれ別の天幕を目指す。
「やれ!」
啓一が指示を出す。
兵士達が必死の表情で火打ち石や古ぼけたライターを操作して、清潔な毛布と高価な良質油で急造したものに火をつけた。
炎上より爆発という表現が相応しい。
広がる熱波に兵士がよろめき、巨人達も炎を前に怯んで速度を落とす。
啓一が一定の速度で息を吐く。
滑るように距離を詰め、トロルが地面に足をつき力を込めたタイミングで脛に拳を入れる。
それは戦闘開始直後にガルドブルムが見せた技に酷似していた。
トロルの骨は砕けて神経と肉と皮を巻き込む。絶叫して体を下げた巨人に追撃の拳を送り込み、衝突する前にトロルが薄れて消えていった。
啓一の攻めに遅滞はない。倒したと認識すると同時に拳の向きを微修正してさらに踏み込み、同属を討たれ呆然とする別のトロルの膝を砕いた。
「よし」
流れるような動きで距離をとる。
寸前まで啓一がいた場所を、左右から降ってきた岩の如き拳が通過し地面にめり込んだ。
「マテリアルも馴染んだ」
流星砕きを装着した掌を開閉する。試した技も思った通りの威力が出ている。
「普通に殴るのも」
斜め前方の左右から来る巨人を下半身の動きだけで回避。前のめりになった右のトロルの米神を撃ち抜く。
人間なら即死か一生苦しむ後遺症確実な一撃も、トロルにとっては時間がたてば直る傷でしかない。
「同程度の威力か」
下がった顔面を文字通り凹ませ止めを刺す。
覚醒の結果、ただのパンチに錬磨された技と力を込めることが可能になったのかもしれない。
●
ハンターの猛攻と一部ドラゴンの乱行により、怠惰残党はもともとわずかだった統制を完全に失った。
逃げようとするものは騎馬と銃に撃たれ、一部は行くも下がるも出来ずに棒立ちになり、極少数が目的を忘れず立派な天幕目指して傷だらけの力を動かす。
天幕内に保管されているのはハンター用の弾薬であり、巨人が力任せに殴りつければ歪んでしまったり最悪火花が散って誘爆する可能性があった。
「今!」
リリティアが声を出す。
汗と砂にまみれた兵士達が数人がかりで箱を運び、声を合わせて炎の中に投げ入れる。
何も起きない。
リリティアは兵士に下がるよう命じてからワイヤーウィップを繰り出し、命中する前にその場に伏せた。
木箱が割れ多数の銃弾が炎に触れ、弾けた。
派手なのは爆音くらいでハンターによる攻撃の威力には到底及ばない。
しかし怠惰の巨人にとってはこれが初めの経験であり、怯え、足が鈍り、天幕の手前で完全に止まってしまった。
このまま進むかそれとも逃げるか。
本能と理性の衝突は、1体のトロルの悲鳴が聞こえるまで続いた。
「よっ」
アルビルダ=ティーチ(ka0026)がもう一度、今度は1メートル上の背中に鉤爪を突き入れる。
絶叫するトロルが体を捻るがより深く突き入れることで振り落とされるのを防ぐ。
そして、器用にトロルの肩まで登り、生き残りの怠惰の群れを堂々と見下ろした。
「鬼さんこちら、てね」
可愛らしく手を振ってやる。
返り血にまみれた爪と強すぎる眼光がなければ、舞台の上に立っても違和感がない。
『殺せ!』
竦んでいた巨人達が行動を再開する。
リアルブルーの乗用車以上の威力の拳が3つ、アルビルダの細い腰目がけて3方から迫る。
「ほら、ちゃんと追わないと他の人に目移りしちゃうわよ?」
トロルの肩を蹴る。
数十センチの跳躍で回避を成功させ、全力でぶつかり変形した拳を踏みつけた。
歪虚の目が血走る。馬鹿にされたことに気づいて頭に血が上り、天幕周辺の歪虚全てがアルビルダを狙う。
兵士が落としたアサルトライフルが、トロルの足に踏み砕かれた。
「おいおい、俺のモンになる予定だったのによォ」
踏んだトロルが後ろから蹴り上げられる。
倒れ込んでくる巨体をアルビルダが避け、蹴り上げた直後の大男と彼女の視線が一瞬交差する。
「ねぇ、七つの大罪で言ったら私は何だと思う?」
「酷ェ口説き文句だな、おい」
ガルドブルムは、底無しの渇望が覗く瞳を完全に記憶していた。
「鍛えろ。そんな貧相な体、置いてっちまうぜ」
「あら、貴方の背中の予約、有効みたいね」
両者とも、兵士が見れば気を失うほどの気配を振りまきながら巨人達をその場に押さえ込んでいた。
「どこかで見たような……違う、感じた気配と喋り方……うーん?」
リリティアが木箱を開けつつ小首を傾げる。何のため背後にも側面にも歪虚の新手が見えないのを確認した後、まだ燃えている炎に中身を投げ入れた。
最初と同程度の爆発が起きる。
ハンターと大男は気にもせず、騎士と兵士は驚きはしても動揺はしない。トロルとオーガは少し動きが鈍る程度だったが、覚醒者と十三魔がひしめくこの場では致命的な行動だった。
銃弾が分厚い皮膚を耕す。
白兵武器を持ったハンターが包囲して、逃げ場どころか回避の空間も奪われた巨人が次々に討たれて消えていく。
「止めだ!」
旭の巨大斧が振り落とされ、最後に残っていたトロルが両断されて地面に倒れた。
沈黙が大地を支配する。
人間と十三魔の間に敵意以上戦意未満の緊張した空気が発生する。
そんな気配を正しく認識した上で堂々と無視するのがリリティアである。
「ガルドブルム本人ですか」
「お前らが望むならな」
人型歪虚の答えが返ってくるまで、大きすぎる間があった。
クリスティンが剣の間合いの手前で止まる。
「いいだろうか」
斬魔刀を鞘に収めたままたずる。
「はっ、ヤるんだろ? 聞くことじゃあねェ」
「それもそうだな」
鞘から赤い刃が解放され、2つの拳が静かに構えられるより速く、 ゴースロンと旭がガルドブルムの背後から駆け寄り巨大斧を振り抜いた。
大男の背から赤い血が噴き出す。
「いいねェ、お前らの強欲を見せてみろ!!」
満面の笑みを浮かべクリスティンの攻撃を促す。
奇襲は有って当然。戦いを楽しむための調味料とでも言いたげだ。
祢々切丸の切っ先が加速する。クリスティンの前進による加速を得て、重武装の騎士でも受けきれない威力の、軽装の戦士でも躱すのが困難な一撃を送り込む。
ガルドブルムは利き手で牽制しながら半歩だけ前に出る。黒い鱗が変じた皮膚に薄い線が刻まれ、数滴の血が流れた。
クリスティンが超長期戦を覚悟する。この人間に化けた竜の回避力は高い。熟練ハンターにたまにいる、真正面からの戦いでは基本的に当たらないレベルだ。
「ほーらよっ」
海斗が投げる。投擲武器にしては威圧感のないものが回転しつつ大男の頭に近づく。
大きな手の平が無造作に掴み、炭酸の圧力に負けて蓋が弾けた。
「手合わせならそれで十分だろ。やりたいなら最後まで付き合うがよ」
へらへら緊張感なく笑っていても、強力なアサルトライフルがいつでも使える状態で手元にある。
戦えば数の差で『大男』が倒れ、『竜』が蹂躙という展開になるのはお互い良く理解していた。
ガルドブルムが炭酸飲料を飲み干し眉を顰める。
「おい、イイモンはねェのか」
「悪ぃな。とってくるからつまみでも食っててくれ」
包みを投げ渡す。ペットボトル1本で物資と人命を救った男が、飄々と天幕の中に消えていった。
●
「何をしている新兵! ささっと走らんか!」
Charlotteが蹴り飛ばす勢いでガルドブルムを走らせる。
特に何の強化もされていないアサルトライフルが吼え、反動を完全に押さえ込まれているのに明後日の方向に弾をばらまいた。
『……ねェな。こいつァ流石にねェ……』
怒りのあまり変化が解けかけていた。
「なんだ、十三魔という大層な呼ばれ方をされているのに泣き言か? ほら攻性強化でもかけてやる。がんばれー、がんばるんだ十三魔ー」
歯ぎしりの音が遠くまで聞こえた。
Charlotteは嘘だけを教えている訳ではないので、ガルドブルムも訓練を投げ出し暴れる訳にはいかない。
たとえ訓練の中に弾詰まりを引き起こしかねない癖が含まれていても、銃初心者なら誰でも知っているやり方でしかなくてもだ。
「お疲れさん」
グレイブがひらひら手を振りつつ近づいてくる。
「俺達も強欲でな。本当に新兵なら約束通り教えてやる」
息を吐く。強いアルコール臭が漂うが、グレイブに酔いの気配はない。
「が、お前は違う。俺達は付き合わせた上で踏み倒す気満々だったわけだ。強欲だろ?」
人化した竜は己の頭を掻きむしってから古ぼけた銃を肩に担いだ。
『ハ。ま、面白けりゃあ許す。面白けりゃあな』
禍々しい風が吹き付ける。
ハンターに翻弄された大男は消え、ガルドブルムが本来の姿を取り戻す。
「次は切り刻んであげるから期待してね」
リリティアがグラスを揺らす。
琥珀色の酒越しに、北東に向けて飛び去るドラゴンを見送るのだった。
狙うはオーガの腹。
グレイブ(ka3719)の拳が腹に触れ、全身金属鎧込みで100キロ越えの大重量に支えられた威力が炸裂する。
『コノテイッ』
オーガの巨体がくの字に折れた。
呼吸も出来ずに何度も口を開閉させ、中身が潰れた腹を両手で押さえる。
「いいねいいねェ!」
大男が口角を吊り上げる。
しかしグレイブの表情は優れない。威力はリアルブルーにいた頃よりずっと上なのだが、震脚も沈墜勁も狙い通りの効果が出ていない気がする。
「これだからファンタジーは」
中腰オーガの胸に己の掌を重ねて当てる。
心臓マッサージの手法を破壊方向に転用した致命的一打だ。
大男は舌なめずりして見て覚え、同時に別のトロル相手に実践している。
「これだから……」
無性に煙が恋しい。
伝統と科学に裏付けられた技より覚醒者のスキルの方が現実に効果があるらしいという現実は、正直少々どころでなく寂しい。
「あれは使わねェのか、なァ?」
1体片付け別のトロル複数を相手にしながら大男が問う。
「撃たないで。誤射が怖いです。あれの準備を……」
後方からリリティア・オルベール(ka3054)の声が聞こえ、数秒遅れで銃器が下ろされ仕舞われる音も聞こえた。
大男がトロル達を牽制し下がる。
あわよくば目当ての武器に似通った銃器を手に入れるつもりだ。
予備動作無しで大男が屈む。グレートソードが頭部をかすめ、十数本の髪が乾いた風に吹かれて散る。
巨大な刃は回避されても止まらない。大男を追いかけてきたトロルの顔面にめり込み、蒼い刀身を伝って毒々しい色の体液が伝っていった。
「お久しぶりです」
ヴァルナ=エリゴス(ka2651)が一見軽く、実際は鋼を握りつぶせる力を込めて刃を半回転させる。
トロルは断末魔に近い叫びを上げて数歩下がり、もう1体もヴァルナと大男を警戒してゆっくりと後退していく。
「本日はどのようなご用件で?」
名門出身らしい気品ある表情なのに、相容れぬ敵を見る目をしている。
「……チ。この俺の擬態を見抜くたァ……」
正体に気づかれているのにようやく気付き、ガルドブルムは本人としては人間らしいつもりだった表情を崩した。強欲の方向に限を無くした、歪虚でしかあり得ない笑みが浮かぶ。
『奴等ハ無視ダッ。総員突撃!』
巨人達が一斉に加速する。
巨体10体近くの突撃は躱しきるのが難しく、グレイブは3体の勢いと重さをたった1人で受ける。
重傷未満で済んだのは、遠くにいる仲間の祈りがあったからかもしれない。
「そこの! 新兵なら指揮下に入れ! CAMに興味があるんだか知らんが戦闘が終われば新兵訓練でも何でも付き合ってやる!」
ガルドブルムがまた屈む。
蒼の斬撃は、十三魔に傷をつけようとしたトロルの首を飛ばし大男の首の頭頂を掠めた。
「私の間合いは見た目よりも長いですよ?」
ヴァルナの表情は最初と変わらない。
金の瞳は闘志と冷静さ保ったまま十三魔を観察している。
このドラゴン、強欲に戦いを求める魔物ではあるが人間をからかうために出てくる精神的雑魚とも思えない。
「CAMの扱いに苦労していますね」
大男の顔から一瞬表情が消えた。大声で肯定しているのと同じ事だ。
「ガルドの旦那ー、鱗くれね?」
紫月・海斗(ka0788) が軽薄に笑ってアサルトライフルを振り回す。
CAM用装備に似た雰囲気を持つそれに十三魔の視線が引きつけられる。
が、精緻にして頑強な機構は本来の使い方はされず、その銃口近くから複数の光が現れ横と斜め後ろの巨人を打つ。
「旦那の鱗、ソッコ錬金して鉄屑にしちまってよ」
だからくれと悪びれずに言う。
ガルドブルムの悪評を知っている者なら海斗がドラゴンにかみ砕かれる姿を想像したはずだ。
だが実際の十三魔は人型のままだった。
「ハ、今日はサービスなしだ。直接抉ってみせろ」
「へっ。ケチだな旦那」
海斗の銃から炎が放たれる。属性は物理ではなく魔法で威力はささやかだが、高度な銃器操作技術を求めるドラゴンに一欠片の技術も与えない。
「よォく言うぜェ」
強い力と心を兼ね備えた男に対し、彼は口元だけでにやりと笑うのだった。
●
「この馬鹿ドラゴン! ワイバーン未満!」
弾薬が満載された天幕の間近で、リリティアが悲鳴に近い声をあげる。
大男は傷一つうけず巨人を倒し続けているが、トロルやオーガの足止めはほとんど出来ていなかった。
ガルドブルムの額に汗が浮かぶ。罵りへの怒りによる汗ではない。思い通り動かぬ体に対する怒りの汗だ。防衛戦闘の経験がないも同然とはいえ酷すぎた。
いっそ人化を解こうかと思ったドラゴンの耳に、弾丸が大気を押しのける音が届いた。
利き手で目の前のトロルを殴りつつ振り返る。
リリティアの側、人間達にとってはそれ以上下がれない場所で、流麗でありながら禍々しい人型が守りを固めていた。
『またガルドブルムの眷属かぁ!』
5メートル近いトロル複数が吼えた。
「あァ?」
ガルドブルムは見覚えのない竜的な何かに戸惑っている。
シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)本人は歪虚達の混乱を気にもせずにリロードを済ませ、通常より長い銃身の向きを微修正の後引き金を引く。
銃架の効果も有り、揺れはとても小さかった。
短い時間で30発の弾が撃ち出される。1つ1つの威力はとうに対人武器の域を超え、全てあわせれば砲の域にまで達していた。
『ッ』
トロルの胸から背中に穴が開く。隣のトロルの腹からも血と砕けた内臓がこぼれていく。
「私は眷属ではないです」
強大な破壊力からは想像しにくい、非常に若い声で声で礼儀正しくコメント。
じいっと大男を見る。
「まさか、こんな大物に出会えるとは思いませんでした」
熱を持ったヴォロンテAC47に30発の弾を補給する。
「眷属ではないですよ?」
トロルに答をくれてやって制圧射撃。オーガを含む複数を消滅させた。
「あァ。欲しがるなら考えてはやるがな」
竜はシルヴィアの得物と手元を凝視している。
今最も欲しい高度な銃操作技術が行われているはずの場所は、迷彩柄の何かで完全に隠されていた。
「俺が引きつける!」
青毛の馬が兵士達の前に走り込む。
濃さを増したマテリアルが巨大なミミズクの翼の如く広がる。
オーガでも扱い切れない大きさの斧がトロルですら反応出来ない速度で振るわれて、騎士を押し潰す直前のトロルの首を飛ばした。
兵士が興奮して一旦安全装置をかけた銃を取り出そうとする。
「戦友諸君! 私達が時間を稼いでいる間に逆転の策を準備してくれ!」
Charlotte・V・K(ka0468)が頼りになる女性指揮官を演じて兵士の行動を誘導する。
特に目立つ兵士に攻性強化をかけて飴を見せ、後は仲間に任せてメルヴイルM38を構える。
視線を感じる。命も魂も消し飛ばされてしまいそうな、飛び抜けて高位の歪虚の視線を感じる。
Charlotteの金と黒の瞳が、一瞬だけ冷たく見返した。
引き金を引く。銃口から放たれたのは砲弾に近い弾ではなく光の球だ。威力は本来の銃弾より弱い。操作の仕方も本来の使い方をするにはあまり適していない。
彼女の狙い通り、ガルドブルムは間違ってはいなくても正しくもない情報を記憶していく。
「北東方向からトロルが6つ……」
春日 啓一(ka1621)の目が細められた。
巨人達が加速する。
ゴースロンの高速で砲並みの威力を繰り出す岩井崎 旭(ka0234)や、多種多様で強力な銃撃を浴びせるハンターと戦っても勝てないと判断し、せめて天幕だけは潰そうと後先考えない全力疾走を開始したのだ。
クリスティン・ガフ(ka1090)が無造作に前に出る。
腰を少し落とし、3.4メートルに達する刀を肩担ぎに構え、マテリアルを限界まで活性化させながらすり足で位置を調整。
巨人の大津波が剣の間合いに入った瞬間、マテリアルと物理的な力が骨盤を起点に動き出す。
大男の顔に歓喜が浮かぶ。銃の件が無けれは巨人を追い抜きクリスティンに襲いかかっていた。
長大な刀が内側から紅く鈍く光り、大気ごと大津波を切り裂いた。
悲鳴は聞こえない。
心技体だけでなく装備とスキルまで調えられたその一撃は、決して弱くはないオーガ達を一太刀で沈めた。
最前列を消したとはいえ歪虚は10体以上健在だ。
クリスティンの二の太刀は更に冴えを増してはいたが、危険な相手と見た巨人達は彼女を避けんと左右に分かれそれぞれ別の天幕を目指す。
「やれ!」
啓一が指示を出す。
兵士達が必死の表情で火打ち石や古ぼけたライターを操作して、清潔な毛布と高価な良質油で急造したものに火をつけた。
炎上より爆発という表現が相応しい。
広がる熱波に兵士がよろめき、巨人達も炎を前に怯んで速度を落とす。
啓一が一定の速度で息を吐く。
滑るように距離を詰め、トロルが地面に足をつき力を込めたタイミングで脛に拳を入れる。
それは戦闘開始直後にガルドブルムが見せた技に酷似していた。
トロルの骨は砕けて神経と肉と皮を巻き込む。絶叫して体を下げた巨人に追撃の拳を送り込み、衝突する前にトロルが薄れて消えていった。
啓一の攻めに遅滞はない。倒したと認識すると同時に拳の向きを微修正してさらに踏み込み、同属を討たれ呆然とする別のトロルの膝を砕いた。
「よし」
流れるような動きで距離をとる。
寸前まで啓一がいた場所を、左右から降ってきた岩の如き拳が通過し地面にめり込んだ。
「マテリアルも馴染んだ」
流星砕きを装着した掌を開閉する。試した技も思った通りの威力が出ている。
「普通に殴るのも」
斜め前方の左右から来る巨人を下半身の動きだけで回避。前のめりになった右のトロルの米神を撃ち抜く。
人間なら即死か一生苦しむ後遺症確実な一撃も、トロルにとっては時間がたてば直る傷でしかない。
「同程度の威力か」
下がった顔面を文字通り凹ませ止めを刺す。
覚醒の結果、ただのパンチに錬磨された技と力を込めることが可能になったのかもしれない。
●
ハンターの猛攻と一部ドラゴンの乱行により、怠惰残党はもともとわずかだった統制を完全に失った。
逃げようとするものは騎馬と銃に撃たれ、一部は行くも下がるも出来ずに棒立ちになり、極少数が目的を忘れず立派な天幕目指して傷だらけの力を動かす。
天幕内に保管されているのはハンター用の弾薬であり、巨人が力任せに殴りつければ歪んでしまったり最悪火花が散って誘爆する可能性があった。
「今!」
リリティアが声を出す。
汗と砂にまみれた兵士達が数人がかりで箱を運び、声を合わせて炎の中に投げ入れる。
何も起きない。
リリティアは兵士に下がるよう命じてからワイヤーウィップを繰り出し、命中する前にその場に伏せた。
木箱が割れ多数の銃弾が炎に触れ、弾けた。
派手なのは爆音くらいでハンターによる攻撃の威力には到底及ばない。
しかし怠惰の巨人にとってはこれが初めの経験であり、怯え、足が鈍り、天幕の手前で完全に止まってしまった。
このまま進むかそれとも逃げるか。
本能と理性の衝突は、1体のトロルの悲鳴が聞こえるまで続いた。
「よっ」
アルビルダ=ティーチ(ka0026)がもう一度、今度は1メートル上の背中に鉤爪を突き入れる。
絶叫するトロルが体を捻るがより深く突き入れることで振り落とされるのを防ぐ。
そして、器用にトロルの肩まで登り、生き残りの怠惰の群れを堂々と見下ろした。
「鬼さんこちら、てね」
可愛らしく手を振ってやる。
返り血にまみれた爪と強すぎる眼光がなければ、舞台の上に立っても違和感がない。
『殺せ!』
竦んでいた巨人達が行動を再開する。
リアルブルーの乗用車以上の威力の拳が3つ、アルビルダの細い腰目がけて3方から迫る。
「ほら、ちゃんと追わないと他の人に目移りしちゃうわよ?」
トロルの肩を蹴る。
数十センチの跳躍で回避を成功させ、全力でぶつかり変形した拳を踏みつけた。
歪虚の目が血走る。馬鹿にされたことに気づいて頭に血が上り、天幕周辺の歪虚全てがアルビルダを狙う。
兵士が落としたアサルトライフルが、トロルの足に踏み砕かれた。
「おいおい、俺のモンになる予定だったのによォ」
踏んだトロルが後ろから蹴り上げられる。
倒れ込んでくる巨体をアルビルダが避け、蹴り上げた直後の大男と彼女の視線が一瞬交差する。
「ねぇ、七つの大罪で言ったら私は何だと思う?」
「酷ェ口説き文句だな、おい」
ガルドブルムは、底無しの渇望が覗く瞳を完全に記憶していた。
「鍛えろ。そんな貧相な体、置いてっちまうぜ」
「あら、貴方の背中の予約、有効みたいね」
両者とも、兵士が見れば気を失うほどの気配を振りまきながら巨人達をその場に押さえ込んでいた。
「どこかで見たような……違う、感じた気配と喋り方……うーん?」
リリティアが木箱を開けつつ小首を傾げる。何のため背後にも側面にも歪虚の新手が見えないのを確認した後、まだ燃えている炎に中身を投げ入れた。
最初と同程度の爆発が起きる。
ハンターと大男は気にもせず、騎士と兵士は驚きはしても動揺はしない。トロルとオーガは少し動きが鈍る程度だったが、覚醒者と十三魔がひしめくこの場では致命的な行動だった。
銃弾が分厚い皮膚を耕す。
白兵武器を持ったハンターが包囲して、逃げ場どころか回避の空間も奪われた巨人が次々に討たれて消えていく。
「止めだ!」
旭の巨大斧が振り落とされ、最後に残っていたトロルが両断されて地面に倒れた。
沈黙が大地を支配する。
人間と十三魔の間に敵意以上戦意未満の緊張した空気が発生する。
そんな気配を正しく認識した上で堂々と無視するのがリリティアである。
「ガルドブルム本人ですか」
「お前らが望むならな」
人型歪虚の答えが返ってくるまで、大きすぎる間があった。
クリスティンが剣の間合いの手前で止まる。
「いいだろうか」
斬魔刀を鞘に収めたままたずる。
「はっ、ヤるんだろ? 聞くことじゃあねェ」
「それもそうだな」
鞘から赤い刃が解放され、2つの拳が静かに構えられるより速く、 ゴースロンと旭がガルドブルムの背後から駆け寄り巨大斧を振り抜いた。
大男の背から赤い血が噴き出す。
「いいねェ、お前らの強欲を見せてみろ!!」
満面の笑みを浮かべクリスティンの攻撃を促す。
奇襲は有って当然。戦いを楽しむための調味料とでも言いたげだ。
祢々切丸の切っ先が加速する。クリスティンの前進による加速を得て、重武装の騎士でも受けきれない威力の、軽装の戦士でも躱すのが困難な一撃を送り込む。
ガルドブルムは利き手で牽制しながら半歩だけ前に出る。黒い鱗が変じた皮膚に薄い線が刻まれ、数滴の血が流れた。
クリスティンが超長期戦を覚悟する。この人間に化けた竜の回避力は高い。熟練ハンターにたまにいる、真正面からの戦いでは基本的に当たらないレベルだ。
「ほーらよっ」
海斗が投げる。投擲武器にしては威圧感のないものが回転しつつ大男の頭に近づく。
大きな手の平が無造作に掴み、炭酸の圧力に負けて蓋が弾けた。
「手合わせならそれで十分だろ。やりたいなら最後まで付き合うがよ」
へらへら緊張感なく笑っていても、強力なアサルトライフルがいつでも使える状態で手元にある。
戦えば数の差で『大男』が倒れ、『竜』が蹂躙という展開になるのはお互い良く理解していた。
ガルドブルムが炭酸飲料を飲み干し眉を顰める。
「おい、イイモンはねェのか」
「悪ぃな。とってくるからつまみでも食っててくれ」
包みを投げ渡す。ペットボトル1本で物資と人命を救った男が、飄々と天幕の中に消えていった。
●
「何をしている新兵! ささっと走らんか!」
Charlotteが蹴り飛ばす勢いでガルドブルムを走らせる。
特に何の強化もされていないアサルトライフルが吼え、反動を完全に押さえ込まれているのに明後日の方向に弾をばらまいた。
『……ねェな。こいつァ流石にねェ……』
怒りのあまり変化が解けかけていた。
「なんだ、十三魔という大層な呼ばれ方をされているのに泣き言か? ほら攻性強化でもかけてやる。がんばれー、がんばるんだ十三魔ー」
歯ぎしりの音が遠くまで聞こえた。
Charlotteは嘘だけを教えている訳ではないので、ガルドブルムも訓練を投げ出し暴れる訳にはいかない。
たとえ訓練の中に弾詰まりを引き起こしかねない癖が含まれていても、銃初心者なら誰でも知っているやり方でしかなくてもだ。
「お疲れさん」
グレイブがひらひら手を振りつつ近づいてくる。
「俺達も強欲でな。本当に新兵なら約束通り教えてやる」
息を吐く。強いアルコール臭が漂うが、グレイブに酔いの気配はない。
「が、お前は違う。俺達は付き合わせた上で踏み倒す気満々だったわけだ。強欲だろ?」
人化した竜は己の頭を掻きむしってから古ぼけた銃を肩に担いだ。
『ハ。ま、面白けりゃあ許す。面白けりゃあな』
禍々しい風が吹き付ける。
ハンターに翻弄された大男は消え、ガルドブルムが本来の姿を取り戻す。
「次は切り刻んであげるから期待してね」
リリティアがグラスを揺らす。
琥珀色の酒越しに、北東に向けて飛び去るドラゴンを見送るのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/05/26 07:49:29 |
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相談卓 リリティア・オルベール(ka3054) 人間(リアルブルー)|19才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/05/30 18:25:14 |
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質問卓 リリティア・オルベール(ka3054) 人間(リアルブルー)|19才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/05/24 21:28:57 |