ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】演じるはハンター
マスター:岡本龍馬

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/05 22:00
- 完成日
- 2015/06/14 21:55
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。
●
今宵、此度の戦の顚末を劇にしたものが演じられる予定になっていた。
……のだが。
着々と進む準備を満足顔で眺める男。そう、彼こそがこの劇団のリーダー、ゲキ=ダンチョーである。
セットの準備、脚本、演者の練度。どれをとっても最高のできと言える今回の劇に、ダンチョーの頬も自然とゆるんでしまう。
だが、彼の下に一人の女性団員が神妙な面持ちで駆け寄ってきたのはそんなときだった。
「あの……ダンチョー団長……」
「なにかあったのか?」
「それが……ですね……」
何とも歯切れの悪い女性団員の言葉。
けれどダンチョーは、その真意をつかめないような男ではなかった。
「……なにが起きた?」
●
先刻までとはうって変わって、悲痛な表情で頭を抱えているダンチョー。
それもそのはず。
出演者全員を乗せた大型馬車が突如として壊れたのだという。
それに加えて、お祭りに向かう人々の多さで追加の馬車などは用意できないらしい。
いくら素晴らしいセットが用意できても。どんなに素晴らしい脚本があっても。
演じる者がいなければ劇は成り立たない。
「はぁ……。どうしたものか」
今夜の上演にむけて劇の準備はすでに終わっている上に、大々的な広告まで出してしまっている。
そもそも劇団のメンツとしてここで退くわけにはいかない。
だからと言って今から新しい役者をそろえたところで練習の時間が取れず、悲惨な結果となるのは目に見えている。
「ぶっつけ本番で演技ができれば?」
しかしそんな役者がいるか? 練習なしでも納得のいく演技をできるような、そんな……。
「……!」
何かに気付きハッとした表情で顔をあげるダンチョー。
次の瞬間にはダンチョーは動き出していた。
同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。
●
今宵、此度の戦の顚末を劇にしたものが演じられる予定になっていた。
……のだが。
着々と進む準備を満足顔で眺める男。そう、彼こそがこの劇団のリーダー、ゲキ=ダンチョーである。
セットの準備、脚本、演者の練度。どれをとっても最高のできと言える今回の劇に、ダンチョーの頬も自然とゆるんでしまう。
だが、彼の下に一人の女性団員が神妙な面持ちで駆け寄ってきたのはそんなときだった。
「あの……ダンチョー団長……」
「なにかあったのか?」
「それが……ですね……」
何とも歯切れの悪い女性団員の言葉。
けれどダンチョーは、その真意をつかめないような男ではなかった。
「……なにが起きた?」
●
先刻までとはうって変わって、悲痛な表情で頭を抱えているダンチョー。
それもそのはず。
出演者全員を乗せた大型馬車が突如として壊れたのだという。
それに加えて、お祭りに向かう人々の多さで追加の馬車などは用意できないらしい。
いくら素晴らしいセットが用意できても。どんなに素晴らしい脚本があっても。
演じる者がいなければ劇は成り立たない。
「はぁ……。どうしたものか」
今夜の上演にむけて劇の準備はすでに終わっている上に、大々的な広告まで出してしまっている。
そもそも劇団のメンツとしてここで退くわけにはいかない。
だからと言って今から新しい役者をそろえたところで練習の時間が取れず、悲惨な結果となるのは目に見えている。
「ぶっつけ本番で演技ができれば?」
しかしそんな役者がいるか? 練習なしでも納得のいく演技をできるような、そんな……。
「……!」
何かに気付きハッとした表情で顔をあげるダンチョー。
次の瞬間にはダンチョーは動き出していた。
リプレイ本文
●開演前のブリーフィング
「え~、おっほん。今晩は突然の呼びかけに集ってくれてありがとう。今日の劇は、君たちのおかげで開演できるようになったといても過言ではない」
本当に感謝する。
そういって帽子を取りつつ一礼するダンチョー団長。
「とは言っても。君たちは現地で経験していたとはいえ、演劇の面で見れば素人もいいところだ」
思い思いの衣装に着替え終わった十九人のハンターたち全員に目をやる。
「それに、一応その手の世界では私の劇団はそこそこ名のある劇団なのだ。今晩もなかなかの客入りが予想される。だが気張らないで演じ切ってほしい」
それこそ下手な演技ができないじゃないか、という非難の目を浴びてしまうダンチョー。
「ふふふ。それはもちろん対策済みさ。今日の新たな広告には、本物に参加したハンターも出演します、と書いておいたからな」
嬉しそうに笑うダンチョー。
ほぼ全員がそうなんですが。というツッコミはわかなかった。
●マギア砦籠城戦
『重々しい風貌の砦の前に、多数の歪曲が集まってきている。そしてその歪曲たちの中心、指揮官の立場にいるのがヤクシーだった』
ナレーションの後、ヤクシーになりきったボルディア・コンフラムス(ka0796)が下手側から登場する。
「さぁアンタ達、やっておしまい!」
ヤクシーが高らかにそう宣言するのとほぼ同時に上手側、砦のセットが用意された後ろ側からミオレスカ(ka3496)が飛び出してくる。
「歪虚なんて、一網打尽ですよ、砦に近づく前に、吹き飛ばしてやります」
しかし、ミオレスカの先にはヤクシーが。
「え、そんな、あんな巨大なヤクシーが目の前にいたら、戦えない~。うわー、もうだめだー」
一気に戦意を喪失したミオレスカがあたふたと慌てだす。
そんなとき、
「ヴォギュエエエエエエ!!」
という奇声と共にミオレスカにクラウン・キング(ka4563)が姿を現し、ミオレスカに近づいていく。ヘドバンと腰振りというキングの登場の仕方に、会場がどっと沸いた。
「こないでください~!」
その動作のまま、逃げるミオレスカを追うキング。しばらく舞台上を走った後、二人は舞台の下手へと消えていった。
「ハンターというのもその程度なのかい?」
退場してゆく二人のほうを見ながらヤクシーがハンターたちを煽る。
「いいえ。砦をわたすことはできませんわ」
上手から現れたセシール・フェーヴル(ka4507)がヤクシーに反駁を返す。
「そうこなくては。お前たち、相手をしてやりな」
「あら、セシールさ……こほん。人間の分際で、わたしに楯突こうとは良い度胸です。その強固な意志の力、試して差し上げましょう」
「試すまでもないですわ」
下手に姿を消すヤクシーと入れ替わりで登場したラル・S・コーダ(ka4495)の台詞にセシールが答える。
「……ご主人様に刃向かうとは、いい度胸……だな。貴様、万死に値するぞ」
そのセシールの言葉が気に食わないという様子の歪曲は、ラルに少し遅れるようにして出てきた向日 葵(ka4510)。
ラルはそんな葵の手を取ると、
「砦はわたしたちのもの。今宵は朝まで踊りましょう」
と告げる。だが、
「やらせねぇさ、そのために俺はここにいる」
高務 穂(ka4524)が砦から飛び降りつつ登場し、ラルの台詞に真っ向から対抗する。
「は? 何言ってるんだ、じゃない、えーと……では、私が相手をしてやろう」
「痛いのが嫌なら、大人しくしててくれよ……頼むからさ」
ラルの前に立つ葵がワンドを構えると、穂も剣を抜く。
「さあ、踊ろうか人間たち。みんなみんな、わたしの胸で眠りなさい!」
ラルは一礼すると、舞うようなステップを踏みつつ優雅に槍を振り回し始める。
その台詞を契機にラル、葵、穂、そしてセシールが舞台の中央で殺陣を演じた。
ソードダンスとも言い換えられるような見事な攻防は、金属のぶつかり合う音がアクセントとなって観客の気持ちを高ぶらせる。
ラルの振るう剣を穂が弾き、再び接近し合う互いの剣をやはり弾かせ合う。
「この砦はわたしたちがいただくと決めたもの。あなた方はもうここにいる資格はないのですよ」
言葉遣いは丁寧だが、その内容には好戦的なものがうかがえる。だがその言葉に応えはなく。
「はっ」
と、穂はただ鼻で笑うのみで、そこには金属のはじける小気味良い音のみが響いていた。
舞台を広く使い、縦横無尽に動き回る四人。始めのうちこそ武器を取り合い殺陣を演じていた四人だったか、気づかぬうちに、それは幽玄なダンスへと変化する。
そしてその最中にラルによって口ずさまれる歌によって、四人の踊るダンスはさらに幽玄な、ともすれば夢幻とも言えるような雰囲気を帯びていく。
ラルの差し出した手にセシールが自分の手を重ねて、互いの距離を測り合うように近づいたり遠のいたり。かと思えば、二人の手が離れ、舞のようなものを踊っている。
それが何を意味して舞っているのか理解できる観客は少なかったと思うが、四人の動きにはなにかしらの意味があるのだろうということは多くの者が肌で感じていた。
そしてところどころ挟まれる葵と穂の殺陣。
二人の得物は剣とワンド。穂の剣さばきを、ワンド片手にスルリスルリといなしていく葵。
「ほう、うまいもんだな」
ワンド片手に穂の剣についてくる葵を褒める言葉が思わず口に出た。
けれど葵には劇の台詞だと思われたようで、
「ご、ご主人様のそばにいるためにはこれくらい当然だ」
という的外れな答えが返ってきた。
互角に見えた殺陣だったが、いざ葵が距離を取ってしまえば、自然と穂には攻撃手段がなくなってしまう。
そうしてついにその中でセシールと穂のハンターサイドの敗色が濃厚になり始めたころ、潮時とばかりにラルが歌うのをやめ、代わりに最後の言葉を紡ぐ。
「死の歌を、眠りの歌を。黒薔薇に囚われて貴女、お眠りなさいな!」
その言葉を聞いたセシールは、踊りのキレが悪くなっていく。
そして……
「あぁ、愛する人よ。先に逝くわたくしを許してくださいませ。貴方はどうかお逃げください。生きて! わたくしの死を無駄にしないで!」
その台詞を残し、舞台の前面に設置された城壁のセットから転落するようにしてセシールが退場する。
「え、えーと……あ、こっちもそろそろ終わらせようか」
「なっ! うっ、ぐあぁぁ!」
葵がワンドを振りかざすと、その動きに合わせるようにして穂が後ろへ吹っ飛ぶ。ゴロゴロと転がって上手側へ消えていく穂を追って葵もいなくなると、舞台上にラルが一人残される。
「わたしもいきましょうか」
そうつぶやき、上手側へとゆっくり歩いていった。
四人が退場したのち、アルマ・アニムス(ka4901)が上手側から現れる。
「敵が多すぎる! ここは撤退……いえ、一刻も早く援軍を!」
ハンターたちに呼びかけるように舞台上をうろうろするアルマ。
しかし、その呼びかけに応じたのは、残念ながらハンターではなく歪虚だった。
突然、下手側から飛び出してきた歪虚が叫ぶ。
「アンブッシュ! ここで出会った貴様らはハンターだな!!? クックッ……良いだろう、貴様等にはこの俺の、必殺技を見舞ってくれる!! くらえ、ひいぃっさつ!! ネコダマ・デス・ビィィィムッ!!」
歪虚になりきった久木 満(ka3968)がアルマに向かってLEDライトを照射する。
「えっ……ヴォ、歪虚め!」
わずかに驚きを隠しつつも体を大きくのけぞらせるアルマ。
そして元の体勢に戻ると、どこからか聞こえてくる、ずずっ、ずずっという音。
何事かと首を巡らせるアルマの視線が下手側に向けられて止まる。
そこには、三角錐型の頭をした歪虚が。……もちろんその正体はNo.0(ka4640)なのだが、
「まだ増えるのですか……!」
アルマは新たな歪虚の登場に戦慄した表情を浮かべる。
一体でも多く倒そうと銃口を向けるアルマだったが、砦から顔を出したミオレスカの台詞がその思考を止めさせた。
「えっと、こんな簡単に、破られていいんでしたっけ?」
その言葉を聞いて、アルマが反射的にそちらを振り向く。
「ですが、この世に悪の栄えた例はなし、ここで私が倒れよう共、かならずや、正義のハンターが、歪虚を倒してくれるでしょう。その時まで、せいぜい勝ち誇っていてください。ぐるぐるぐる、ばたっ」
続くその言葉と倒れて見えなくなったミオレスカの様子が、最悪の状況に陥ったことをアルマに伝えた。
「取り返せばいいんです! 命の方が大事でしょう!?」
拳銃の空砲を打ちつつ、上手側へ向かってアルマが後退していく。
他のハンター達をせかすかのように、ときどき上手側を振り返りながら後ろ歩きで消えていく。
そしてアルマがいなくなったところで再びヤクシーが下手から出てくる。
「拍子抜けだね。まぁくれるって言うんだ。行くよ!」
ヤクシーは満と0を引き連れて、砦のある上手側へと進んでいった。
……暗転……
●ナナミ河防衛線
『ナナミ河。この場所はハンターたちにとって絶対に死守しなければならないポイントだった』
「クックックックッ……! 呼ばれない時に限って現れる! そう、俺が、俺がヒッサキィマンだ! さて、道を開けてもらおうか!」
「悪いけど、ここから先は通行止めだ!」
満に相対するアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が剣を向けながら叫ぶ。
「クックッ……ならば。力ずくで通るのみ! ふはははは!」
高笑いしつつ満もたいがいな動きをしていたが、それを上回る、それでいて優雅な立体機動で満の後ろに回り込むアルト。
「ふははは…ぐはぁっ!!?」
アルトからの容赦のない一撃を食らった満が下手の方へと吹っ飛んでいき、強制的に退場させられる。
「他にも手を貸さねばならないだろうな」
ついさっき満を吹っ飛ばした方の逆、上手側へと走ってアルトが姿を消した。
誰もいない舞台に、上手下手両方から同時に人が出てきた。
「ハンターには負けないぞ! がおー!」
ドラゴンの着ぐるみに身を包んだリューリ・ハルマ(ka0502)が敵を認識して威嚇のポーズをとる。そしてその隣に並ぶのは0とキング。
対するは、本当に戦場にいるのではないかと錯覚させるほどのオーラを放つアルファス(ka3312)とユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)、アイビス・グラス(ka2477)。
「敵主力殲滅を開始……ここは絶対に通さないよ」
「人類の希望……ここで潰えさせません。ここで食い止めます」
弓を引く動作はまさに比翼連理。互いの信頼あってこその連携は美しさを覚えるほど。
二人はアイコンタクトをかわし、同時のタイミングで弦から手を放す。
ビイィィン
実際に矢が飛んだわけではないが、ドラゴン、もといリューリは矢を受けたような動きを見せる。
「どんな逆境だろうと私たちは退くわけには行かないの!」
といい、アイビスがリューリに接近してぶっ飛ばすモーションに入ると、その動きに合わせるようにリューリが自分から後ろに吹っ飛ばされる。
だがアイビスに吹っ飛ばされたように見えたリューリは、
「このくらいでやられるかー!」
と、声をあげながらむくっと起き上がった。
……きっと観客からは不死身のように映っただろう。
しかし敵のそんな様子を前にしても揺るがない、アルファスとユーリの気迫と、その覚悟。そしてそれらは観客を劇へとさらに引き込んでいく。
「どんな絶望的な状況でも、君だけは必ず守る」
「それは私も同じですが、一緒に生きて帰る……が抜けてますよ」
アルファスとユーリが互いの気持ちを再確認して敵に向き直る。
……ドラゴンに三角頭、挙句の果てにヘドバンと腰振りだ。なかなかに絶望的な状況である。
弓を剣に持ち替えたアルファストユーリが歪虚に迫る。その時の二人の様子は、剣を含め、まるで羽を広げた鳥のようであった。
観客の一部がその光景に夢中になっている中、歪虚のモンスターたちが倒されていく。
「ぬうぅぅん……」
「ギュエエエエ!(訳:ぶったな貴様! 我、父さんにもぶたれたことないのに!)」
ステップを踏んだ後にアルファスの剣が0を捉え、ユーリの剣はキングを打ち据えた。
その間に、観客からは不死身と思われているであろうリューリをアイビスがどつきまわしており、アルファスとユーリは一度体勢を立て直す。
「言った筈です、一匹たりとも通さないとっ」
「この先にいる人達を誰一人傷つけさせたりしない!」
アイビスが一番大きい打撃をリューリに打ち込んで吹っ飛ばす。
アルファスとユーリは派手に跳躍すると、飛んでくるリューリに狙いを定めて完ぺきな同時攻撃を浴びせかけた。
「やられた、がおー……」
さすがのドラゴンも二人分の剣を受け、たまらず倒れこむ。
歪虚たちが次々とやられていき、現在舞台上で立っているのはハンター役のみ。
その様子を見るに見かねたヤクシーが下手から姿を現した。
「クソがぁ……! なんであんな奴らを突破できないんだい、アンタ達ぃ!」
ハンターたちの奮戦は素晴らしい。このまま行けば押し負けてしまうのも時間の問題だろう。
「撤退だ! 撤退する!」
歯噛みを隠すことも出できなくなったヤクシーはそう言い放ち、舞台を降りた。
……暗転……
●最終決戦
『多くの犠牲を払ってきた戦い。その戦いに終止符を打つ瞬間がついに訪れる。ヤクシーはもう目の前に迫っていた』
肩を震わせつつ、下手からヤクシーとその配下の歪虚たちが出てくる。
「やることは一つだ。ハンターどもを叩き潰せ!」
もはや指示と呼ぶにはふさわしく無いほどに荒くなった指示を飛ばすヤクシー。
「見つけました!」
ヤクシーの指示が災いしたのだろうか、その指示の直後にミネット・ベアール(ka3282)が上手側から登場する。
「あの時の屈辱、忘れませんよ……舐めた真似の代償、ここで支払いなさいッ!」
追うようにして出てきたのはアルマ。
その手ににぎられた拳銃は心なしか震えている。
「この戦いは、西方の民だけでは無く、我等東方の民のための戦いでもあるのじゃ」
最後に、傷を負いながらも凛々しい雰囲気を持つ少女が姿を現した。
紅薔薇(ka4766)が演じる、東方の武者である。
紅薔薇は刀を抜くと、高く天へ突くように示して叫んだ。
「皆の者、東方のモノノフの力、今こそココに見せてくれようぞ!!」
宣戦布告ともとれるその言葉は、ハンターとヤクシー率いる歪虚たちの最後の戦いの火ぶたを切って落とした。
ミネットが始めに体を動かしヤクシーへと接近しようとする。
しかしいくらヤクシーに接近できているとはいえ、その取り巻きは健在である。
素通りさせてくれる通りなどなかった。
「ニンゲン、タオス!」
ジェノサイダーマスクとトロルイーターを装備したアルトが、ふらつきながらもミネットの前に出る。
「……っ!」
迂回することができるような雰囲気ではない。どうする? ミネットがたたらを踏むところに、
「妾に任せるのじゃ」
と言って紅薔薇が割り込んだ。
「ありがとうございます!」
一歩ヤクシーへと近づくミネットだったが、障害はまだ控えている。
「ヴォギュエエエエエエ!!」
という奇声を発し、今度はブリッジのままでのエクソシスト走りで登場した歪虚のモンスター。そう、キングである。
ミネットをめがけ一直線で進む中、キングはこんなことを叫んだ。
「ヴォギュゥア……(訳:我、この戦いが終わったらあの娘に告白するのだ……)」
そんなことを言いながら奇行を続けるキングが、ついにミネットへ到達してしまう。
観客のだれもがそう思ったとき、数発の発砲音が空気を揺らした。
直後、
「ギョエエエエエ!」
という断末魔の叫びを残して倒れこみ動かなくなるキング。空砲ではあるのだが、アルマの乱射した弾が当たった、という設定でキングは倒れこんだのだった。
それとちょうど同じタイミングで、もう片方の戦いにも決着がついていた。
怪我を負っているとはとても思えない動きでアルトを翻弄する紅薔薇。
対するアルトはフラフラしており、敵ながらなんとも心もとない動きをしている。
そのアルトへ寸止めを何度かした後、頃合いを見計らって紅薔薇は程よいみねうちをアルトの懐に入れた。
もともとフラフラだったアルトが、さも重い一撃を食らったかのようにさらにフラフラし始める。
よもや戦闘不能と判断したようで、
「オボテロ、ニンゲンー!」
アルトはあわあわとして下手に消えていった。
ミネットの前の障害は二人の尽力によりあと一人。ヤクシーの横で控える0のみとなった。
もう後方から援護してくれる者はいない。ミネットは一戦を交える覚悟でヤクシーへの最後の一歩を踏み出した。
案の定、0は動いた。しかし、思わぬところから制止がかかる。
「ここまで来たんだ。アタシが相手してやっても罰は当たらねぇだろ」
ヤクシーだ。
そう言うが否や手にした巨大な鎌をヤクシーが振り回し始める。
基本的に鎌というのはリーチが長いが、今ヤクシーの手にあるのはその中でも大きい部類に入るもの。
「ボル……ヤクシーさん、ぐぇっ! 絶対に、ぐはっ! 倒して、んぎぃ!」
ミネットが近づこうとするだけでその攻撃範囲の中に入ってしまう。
怒りで我を忘れたヤクシーに止まる様子はない。
台詞もまともに言えないような状況下で、
「うぐぐ……ストーリー的にもなんとか一矢報いないと……」
と、容赦なく襲い掛かる鎌の中を進むしかないミネット。
そして。あと一歩。ついにあと一歩でヤクシーに手が届く距離までやってきた。
「てぇぇええい!」
文字通りの一矢報いる。ミネットは手に持った吸盤付きの矢をヤクシーの目に貼り付け、その場に倒れた。
「うあぁあぁぁ!」
目に矢が刺さったと本当に思わせるほどの名演技を見せるヤクシーがその場でのたうち回る。
「これでしまいじゃ!」
「ぬうぅぅ……!」
アルトを倒した紅薔薇がヤクシーにとどめを刺そうと振りかざした剣。あとは振り下ろされるのみとなったその剣のたどる道に0が立ちはだかった。
夜闇に輝く刀が振り下ろされ0を断つ。
「うぅ……ぅ」
静かな呻吟を残して崩れ落ちる0。
ヤクシーを仕留めそこなったが、もうこれで……。
「ヤクシー、お前を守る者はもうおらぬようじゃのう」
目を抑えたヤクシーがフラフラと立ち上がり、その鎌で紅薔薇の刀を受け止める。
だが背後から響く乾いた発砲音。
「なぜだ……なぜだぁ!」
ヤクシーはそう叫ぶと、片手で鎌を振り回し始めた。
けれどただでさえ視覚が限られているのに、それに加えて我を忘れている状態のヤクシーには、すでにもう勝ち目はなかったのだ。
「歪虚達よ消えるがよい。例えどれだけ傷つこうとも、我等の心をくじく事等できぬ」
鎌の間をアルマからの援護を受けてよけて進んで行き、ヤクシーとのすれ違いざま、紅薔薇は刀を振り下ろした。
……暗転……
●聖地奪還
『激戦の末に奪還した聖地。そこには偉大な龍が住んでいた……はずだったのだが』
「……来たか」
聖地を奪還し、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)やアイビスたちが聖堂に入ると、そこには巨大な白龍の姿があった。
それはイヌワシが、白龍が描かれた布を加えて飛んでいるのだが、パッと口から布を放したかと思うと、ステージが暗転する。
……暗転……
再びステージが明るくなった時、白龍の布があったところにはUisca Amhran(ka0754)が立っていた。
「私は白龍の化身……時間が惜しい……そなた達の知りたい事に応えよう……」
尊大ながらも慈しみのあるその声は、どんな人にも平等で、包み込むようなものだった。
「私たちはこの先どうしたらいいの?」
「星の友と、共に歩むのだ……」
アイビスの質問に、ゆっくりと、しかしはっきりと白龍は答えを返す。
「星の友って……」
追加の質問をしようとアイビスが口を開いた時、白龍の体が突如として輝きだした。
「白龍様!? うそ……待って!」
「……伝説の子……私は消えるのではない。マテリアルが歪虚に穢されぬ限り、全てのマテリアルはあるべき場所に還るのみ……。別れは一時……またいずこで……」
少しずつ力を失っていく白龍の様子に、周囲に控えていた巫女装束に身を包んだミオレスカなどがあたふたしだす。
「私の対に……会う事が……あれば……詫びを……私は……しばし眠りに……」
……暗転……
ステージに明かりが戻った時、そこにはもう白龍の姿はなかった。
代わりに、この劇の全出演者が舞台の上に上がっている。
戦いには勝った。しかしこの言い知れぬ感覚は何だろう。
その場にいるみんなが暗い気持ちに包まれ下を向きかけた、そんなとき。
「見よ! 悪しき者たちは正義の光に打倒された!」
十九人の中心で、剣を天高く掲げた一人の少女の声が響く。
「ここに正義は下された! 聖地は奪還されたのだ!」
俯きかけていた人々の心が、その掲げられた剣に引き寄せられるかのように上を向く。
「これもすべて皆の力あってこそだ! さあ祝杯を上げよう!」
その少女、ディアドラ・ド・デイソルクスの言葉。
暗く俯きかけていた人々の心に、奥底から自然と希望をわきあがらせた。
ステージ上に集まる全出演者が歌って踊り、勝利をかみしめる。
そしていつしか観客も巻き込み、劇ではない、現実の勝利をかみしめる。
改めて皆で勝利を感じることこそが、この筋書きのない劇のエンディングだったのかもしれない。
「ついに聖地を奪回したのじゃ。これで東方も救われる。さぁ、いざ行かん!!」
紅薔薇のこの台詞を最後に舞台の幕は降ろされた。
「え~、おっほん。今晩は突然の呼びかけに集ってくれてありがとう。今日の劇は、君たちのおかげで開演できるようになったといても過言ではない」
本当に感謝する。
そういって帽子を取りつつ一礼するダンチョー団長。
「とは言っても。君たちは現地で経験していたとはいえ、演劇の面で見れば素人もいいところだ」
思い思いの衣装に着替え終わった十九人のハンターたち全員に目をやる。
「それに、一応その手の世界では私の劇団はそこそこ名のある劇団なのだ。今晩もなかなかの客入りが予想される。だが気張らないで演じ切ってほしい」
それこそ下手な演技ができないじゃないか、という非難の目を浴びてしまうダンチョー。
「ふふふ。それはもちろん対策済みさ。今日の新たな広告には、本物に参加したハンターも出演します、と書いておいたからな」
嬉しそうに笑うダンチョー。
ほぼ全員がそうなんですが。というツッコミはわかなかった。
●マギア砦籠城戦
『重々しい風貌の砦の前に、多数の歪曲が集まってきている。そしてその歪曲たちの中心、指揮官の立場にいるのがヤクシーだった』
ナレーションの後、ヤクシーになりきったボルディア・コンフラムス(ka0796)が下手側から登場する。
「さぁアンタ達、やっておしまい!」
ヤクシーが高らかにそう宣言するのとほぼ同時に上手側、砦のセットが用意された後ろ側からミオレスカ(ka3496)が飛び出してくる。
「歪虚なんて、一網打尽ですよ、砦に近づく前に、吹き飛ばしてやります」
しかし、ミオレスカの先にはヤクシーが。
「え、そんな、あんな巨大なヤクシーが目の前にいたら、戦えない~。うわー、もうだめだー」
一気に戦意を喪失したミオレスカがあたふたと慌てだす。
そんなとき、
「ヴォギュエエエエエエ!!」
という奇声と共にミオレスカにクラウン・キング(ka4563)が姿を現し、ミオレスカに近づいていく。ヘドバンと腰振りというキングの登場の仕方に、会場がどっと沸いた。
「こないでください~!」
その動作のまま、逃げるミオレスカを追うキング。しばらく舞台上を走った後、二人は舞台の下手へと消えていった。
「ハンターというのもその程度なのかい?」
退場してゆく二人のほうを見ながらヤクシーがハンターたちを煽る。
「いいえ。砦をわたすことはできませんわ」
上手から現れたセシール・フェーヴル(ka4507)がヤクシーに反駁を返す。
「そうこなくては。お前たち、相手をしてやりな」
「あら、セシールさ……こほん。人間の分際で、わたしに楯突こうとは良い度胸です。その強固な意志の力、試して差し上げましょう」
「試すまでもないですわ」
下手に姿を消すヤクシーと入れ替わりで登場したラル・S・コーダ(ka4495)の台詞にセシールが答える。
「……ご主人様に刃向かうとは、いい度胸……だな。貴様、万死に値するぞ」
そのセシールの言葉が気に食わないという様子の歪曲は、ラルに少し遅れるようにして出てきた向日 葵(ka4510)。
ラルはそんな葵の手を取ると、
「砦はわたしたちのもの。今宵は朝まで踊りましょう」
と告げる。だが、
「やらせねぇさ、そのために俺はここにいる」
高務 穂(ka4524)が砦から飛び降りつつ登場し、ラルの台詞に真っ向から対抗する。
「は? 何言ってるんだ、じゃない、えーと……では、私が相手をしてやろう」
「痛いのが嫌なら、大人しくしててくれよ……頼むからさ」
ラルの前に立つ葵がワンドを構えると、穂も剣を抜く。
「さあ、踊ろうか人間たち。みんなみんな、わたしの胸で眠りなさい!」
ラルは一礼すると、舞うようなステップを踏みつつ優雅に槍を振り回し始める。
その台詞を契機にラル、葵、穂、そしてセシールが舞台の中央で殺陣を演じた。
ソードダンスとも言い換えられるような見事な攻防は、金属のぶつかり合う音がアクセントとなって観客の気持ちを高ぶらせる。
ラルの振るう剣を穂が弾き、再び接近し合う互いの剣をやはり弾かせ合う。
「この砦はわたしたちがいただくと決めたもの。あなた方はもうここにいる資格はないのですよ」
言葉遣いは丁寧だが、その内容には好戦的なものがうかがえる。だがその言葉に応えはなく。
「はっ」
と、穂はただ鼻で笑うのみで、そこには金属のはじける小気味良い音のみが響いていた。
舞台を広く使い、縦横無尽に動き回る四人。始めのうちこそ武器を取り合い殺陣を演じていた四人だったか、気づかぬうちに、それは幽玄なダンスへと変化する。
そしてその最中にラルによって口ずさまれる歌によって、四人の踊るダンスはさらに幽玄な、ともすれば夢幻とも言えるような雰囲気を帯びていく。
ラルの差し出した手にセシールが自分の手を重ねて、互いの距離を測り合うように近づいたり遠のいたり。かと思えば、二人の手が離れ、舞のようなものを踊っている。
それが何を意味して舞っているのか理解できる観客は少なかったと思うが、四人の動きにはなにかしらの意味があるのだろうということは多くの者が肌で感じていた。
そしてところどころ挟まれる葵と穂の殺陣。
二人の得物は剣とワンド。穂の剣さばきを、ワンド片手にスルリスルリといなしていく葵。
「ほう、うまいもんだな」
ワンド片手に穂の剣についてくる葵を褒める言葉が思わず口に出た。
けれど葵には劇の台詞だと思われたようで、
「ご、ご主人様のそばにいるためにはこれくらい当然だ」
という的外れな答えが返ってきた。
互角に見えた殺陣だったが、いざ葵が距離を取ってしまえば、自然と穂には攻撃手段がなくなってしまう。
そうしてついにその中でセシールと穂のハンターサイドの敗色が濃厚になり始めたころ、潮時とばかりにラルが歌うのをやめ、代わりに最後の言葉を紡ぐ。
「死の歌を、眠りの歌を。黒薔薇に囚われて貴女、お眠りなさいな!」
その言葉を聞いたセシールは、踊りのキレが悪くなっていく。
そして……
「あぁ、愛する人よ。先に逝くわたくしを許してくださいませ。貴方はどうかお逃げください。生きて! わたくしの死を無駄にしないで!」
その台詞を残し、舞台の前面に設置された城壁のセットから転落するようにしてセシールが退場する。
「え、えーと……あ、こっちもそろそろ終わらせようか」
「なっ! うっ、ぐあぁぁ!」
葵がワンドを振りかざすと、その動きに合わせるようにして穂が後ろへ吹っ飛ぶ。ゴロゴロと転がって上手側へ消えていく穂を追って葵もいなくなると、舞台上にラルが一人残される。
「わたしもいきましょうか」
そうつぶやき、上手側へとゆっくり歩いていった。
四人が退場したのち、アルマ・アニムス(ka4901)が上手側から現れる。
「敵が多すぎる! ここは撤退……いえ、一刻も早く援軍を!」
ハンターたちに呼びかけるように舞台上をうろうろするアルマ。
しかし、その呼びかけに応じたのは、残念ながらハンターではなく歪虚だった。
突然、下手側から飛び出してきた歪虚が叫ぶ。
「アンブッシュ! ここで出会った貴様らはハンターだな!!? クックッ……良いだろう、貴様等にはこの俺の、必殺技を見舞ってくれる!! くらえ、ひいぃっさつ!! ネコダマ・デス・ビィィィムッ!!」
歪虚になりきった久木 満(ka3968)がアルマに向かってLEDライトを照射する。
「えっ……ヴォ、歪虚め!」
わずかに驚きを隠しつつも体を大きくのけぞらせるアルマ。
そして元の体勢に戻ると、どこからか聞こえてくる、ずずっ、ずずっという音。
何事かと首を巡らせるアルマの視線が下手側に向けられて止まる。
そこには、三角錐型の頭をした歪虚が。……もちろんその正体はNo.0(ka4640)なのだが、
「まだ増えるのですか……!」
アルマは新たな歪虚の登場に戦慄した表情を浮かべる。
一体でも多く倒そうと銃口を向けるアルマだったが、砦から顔を出したミオレスカの台詞がその思考を止めさせた。
「えっと、こんな簡単に、破られていいんでしたっけ?」
その言葉を聞いて、アルマが反射的にそちらを振り向く。
「ですが、この世に悪の栄えた例はなし、ここで私が倒れよう共、かならずや、正義のハンターが、歪虚を倒してくれるでしょう。その時まで、せいぜい勝ち誇っていてください。ぐるぐるぐる、ばたっ」
続くその言葉と倒れて見えなくなったミオレスカの様子が、最悪の状況に陥ったことをアルマに伝えた。
「取り返せばいいんです! 命の方が大事でしょう!?」
拳銃の空砲を打ちつつ、上手側へ向かってアルマが後退していく。
他のハンター達をせかすかのように、ときどき上手側を振り返りながら後ろ歩きで消えていく。
そしてアルマがいなくなったところで再びヤクシーが下手から出てくる。
「拍子抜けだね。まぁくれるって言うんだ。行くよ!」
ヤクシーは満と0を引き連れて、砦のある上手側へと進んでいった。
……暗転……
●ナナミ河防衛線
『ナナミ河。この場所はハンターたちにとって絶対に死守しなければならないポイントだった』
「クックックックッ……! 呼ばれない時に限って現れる! そう、俺が、俺がヒッサキィマンだ! さて、道を開けてもらおうか!」
「悪いけど、ここから先は通行止めだ!」
満に相対するアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)が剣を向けながら叫ぶ。
「クックッ……ならば。力ずくで通るのみ! ふはははは!」
高笑いしつつ満もたいがいな動きをしていたが、それを上回る、それでいて優雅な立体機動で満の後ろに回り込むアルト。
「ふははは…ぐはぁっ!!?」
アルトからの容赦のない一撃を食らった満が下手の方へと吹っ飛んでいき、強制的に退場させられる。
「他にも手を貸さねばならないだろうな」
ついさっき満を吹っ飛ばした方の逆、上手側へと走ってアルトが姿を消した。
誰もいない舞台に、上手下手両方から同時に人が出てきた。
「ハンターには負けないぞ! がおー!」
ドラゴンの着ぐるみに身を包んだリューリ・ハルマ(ka0502)が敵を認識して威嚇のポーズをとる。そしてその隣に並ぶのは0とキング。
対するは、本当に戦場にいるのではないかと錯覚させるほどのオーラを放つアルファス(ka3312)とユーリ・ヴァレンティヌス(ka0239)、アイビス・グラス(ka2477)。
「敵主力殲滅を開始……ここは絶対に通さないよ」
「人類の希望……ここで潰えさせません。ここで食い止めます」
弓を引く動作はまさに比翼連理。互いの信頼あってこその連携は美しさを覚えるほど。
二人はアイコンタクトをかわし、同時のタイミングで弦から手を放す。
ビイィィン
実際に矢が飛んだわけではないが、ドラゴン、もといリューリは矢を受けたような動きを見せる。
「どんな逆境だろうと私たちは退くわけには行かないの!」
といい、アイビスがリューリに接近してぶっ飛ばすモーションに入ると、その動きに合わせるようにリューリが自分から後ろに吹っ飛ばされる。
だがアイビスに吹っ飛ばされたように見えたリューリは、
「このくらいでやられるかー!」
と、声をあげながらむくっと起き上がった。
……きっと観客からは不死身のように映っただろう。
しかし敵のそんな様子を前にしても揺るがない、アルファスとユーリの気迫と、その覚悟。そしてそれらは観客を劇へとさらに引き込んでいく。
「どんな絶望的な状況でも、君だけは必ず守る」
「それは私も同じですが、一緒に生きて帰る……が抜けてますよ」
アルファスとユーリが互いの気持ちを再確認して敵に向き直る。
……ドラゴンに三角頭、挙句の果てにヘドバンと腰振りだ。なかなかに絶望的な状況である。
弓を剣に持ち替えたアルファストユーリが歪虚に迫る。その時の二人の様子は、剣を含め、まるで羽を広げた鳥のようであった。
観客の一部がその光景に夢中になっている中、歪虚のモンスターたちが倒されていく。
「ぬうぅぅん……」
「ギュエエエエ!(訳:ぶったな貴様! 我、父さんにもぶたれたことないのに!)」
ステップを踏んだ後にアルファスの剣が0を捉え、ユーリの剣はキングを打ち据えた。
その間に、観客からは不死身と思われているであろうリューリをアイビスがどつきまわしており、アルファスとユーリは一度体勢を立て直す。
「言った筈です、一匹たりとも通さないとっ」
「この先にいる人達を誰一人傷つけさせたりしない!」
アイビスが一番大きい打撃をリューリに打ち込んで吹っ飛ばす。
アルファスとユーリは派手に跳躍すると、飛んでくるリューリに狙いを定めて完ぺきな同時攻撃を浴びせかけた。
「やられた、がおー……」
さすがのドラゴンも二人分の剣を受け、たまらず倒れこむ。
歪虚たちが次々とやられていき、現在舞台上で立っているのはハンター役のみ。
その様子を見るに見かねたヤクシーが下手から姿を現した。
「クソがぁ……! なんであんな奴らを突破できないんだい、アンタ達ぃ!」
ハンターたちの奮戦は素晴らしい。このまま行けば押し負けてしまうのも時間の問題だろう。
「撤退だ! 撤退する!」
歯噛みを隠すことも出できなくなったヤクシーはそう言い放ち、舞台を降りた。
……暗転……
●最終決戦
『多くの犠牲を払ってきた戦い。その戦いに終止符を打つ瞬間がついに訪れる。ヤクシーはもう目の前に迫っていた』
肩を震わせつつ、下手からヤクシーとその配下の歪虚たちが出てくる。
「やることは一つだ。ハンターどもを叩き潰せ!」
もはや指示と呼ぶにはふさわしく無いほどに荒くなった指示を飛ばすヤクシー。
「見つけました!」
ヤクシーの指示が災いしたのだろうか、その指示の直後にミネット・ベアール(ka3282)が上手側から登場する。
「あの時の屈辱、忘れませんよ……舐めた真似の代償、ここで支払いなさいッ!」
追うようにして出てきたのはアルマ。
その手ににぎられた拳銃は心なしか震えている。
「この戦いは、西方の民だけでは無く、我等東方の民のための戦いでもあるのじゃ」
最後に、傷を負いながらも凛々しい雰囲気を持つ少女が姿を現した。
紅薔薇(ka4766)が演じる、東方の武者である。
紅薔薇は刀を抜くと、高く天へ突くように示して叫んだ。
「皆の者、東方のモノノフの力、今こそココに見せてくれようぞ!!」
宣戦布告ともとれるその言葉は、ハンターとヤクシー率いる歪虚たちの最後の戦いの火ぶたを切って落とした。
ミネットが始めに体を動かしヤクシーへと接近しようとする。
しかしいくらヤクシーに接近できているとはいえ、その取り巻きは健在である。
素通りさせてくれる通りなどなかった。
「ニンゲン、タオス!」
ジェノサイダーマスクとトロルイーターを装備したアルトが、ふらつきながらもミネットの前に出る。
「……っ!」
迂回することができるような雰囲気ではない。どうする? ミネットがたたらを踏むところに、
「妾に任せるのじゃ」
と言って紅薔薇が割り込んだ。
「ありがとうございます!」
一歩ヤクシーへと近づくミネットだったが、障害はまだ控えている。
「ヴォギュエエエエエエ!!」
という奇声を発し、今度はブリッジのままでのエクソシスト走りで登場した歪虚のモンスター。そう、キングである。
ミネットをめがけ一直線で進む中、キングはこんなことを叫んだ。
「ヴォギュゥア……(訳:我、この戦いが終わったらあの娘に告白するのだ……)」
そんなことを言いながら奇行を続けるキングが、ついにミネットへ到達してしまう。
観客のだれもがそう思ったとき、数発の発砲音が空気を揺らした。
直後、
「ギョエエエエエ!」
という断末魔の叫びを残して倒れこみ動かなくなるキング。空砲ではあるのだが、アルマの乱射した弾が当たった、という設定でキングは倒れこんだのだった。
それとちょうど同じタイミングで、もう片方の戦いにも決着がついていた。
怪我を負っているとはとても思えない動きでアルトを翻弄する紅薔薇。
対するアルトはフラフラしており、敵ながらなんとも心もとない動きをしている。
そのアルトへ寸止めを何度かした後、頃合いを見計らって紅薔薇は程よいみねうちをアルトの懐に入れた。
もともとフラフラだったアルトが、さも重い一撃を食らったかのようにさらにフラフラし始める。
よもや戦闘不能と判断したようで、
「オボテロ、ニンゲンー!」
アルトはあわあわとして下手に消えていった。
ミネットの前の障害は二人の尽力によりあと一人。ヤクシーの横で控える0のみとなった。
もう後方から援護してくれる者はいない。ミネットは一戦を交える覚悟でヤクシーへの最後の一歩を踏み出した。
案の定、0は動いた。しかし、思わぬところから制止がかかる。
「ここまで来たんだ。アタシが相手してやっても罰は当たらねぇだろ」
ヤクシーだ。
そう言うが否や手にした巨大な鎌をヤクシーが振り回し始める。
基本的に鎌というのはリーチが長いが、今ヤクシーの手にあるのはその中でも大きい部類に入るもの。
「ボル……ヤクシーさん、ぐぇっ! 絶対に、ぐはっ! 倒して、んぎぃ!」
ミネットが近づこうとするだけでその攻撃範囲の中に入ってしまう。
怒りで我を忘れたヤクシーに止まる様子はない。
台詞もまともに言えないような状況下で、
「うぐぐ……ストーリー的にもなんとか一矢報いないと……」
と、容赦なく襲い掛かる鎌の中を進むしかないミネット。
そして。あと一歩。ついにあと一歩でヤクシーに手が届く距離までやってきた。
「てぇぇええい!」
文字通りの一矢報いる。ミネットは手に持った吸盤付きの矢をヤクシーの目に貼り付け、その場に倒れた。
「うあぁあぁぁ!」
目に矢が刺さったと本当に思わせるほどの名演技を見せるヤクシーがその場でのたうち回る。
「これでしまいじゃ!」
「ぬうぅぅ……!」
アルトを倒した紅薔薇がヤクシーにとどめを刺そうと振りかざした剣。あとは振り下ろされるのみとなったその剣のたどる道に0が立ちはだかった。
夜闇に輝く刀が振り下ろされ0を断つ。
「うぅ……ぅ」
静かな呻吟を残して崩れ落ちる0。
ヤクシーを仕留めそこなったが、もうこれで……。
「ヤクシー、お前を守る者はもうおらぬようじゃのう」
目を抑えたヤクシーがフラフラと立ち上がり、その鎌で紅薔薇の刀を受け止める。
だが背後から響く乾いた発砲音。
「なぜだ……なぜだぁ!」
ヤクシーはそう叫ぶと、片手で鎌を振り回し始めた。
けれどただでさえ視覚が限られているのに、それに加えて我を忘れている状態のヤクシーには、すでにもう勝ち目はなかったのだ。
「歪虚達よ消えるがよい。例えどれだけ傷つこうとも、我等の心をくじく事等できぬ」
鎌の間をアルマからの援護を受けてよけて進んで行き、ヤクシーとのすれ違いざま、紅薔薇は刀を振り下ろした。
……暗転……
●聖地奪還
『激戦の末に奪還した聖地。そこには偉大な龍が住んでいた……はずだったのだが』
「……来たか」
聖地を奪還し、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)やアイビスたちが聖堂に入ると、そこには巨大な白龍の姿があった。
それはイヌワシが、白龍が描かれた布を加えて飛んでいるのだが、パッと口から布を放したかと思うと、ステージが暗転する。
……暗転……
再びステージが明るくなった時、白龍の布があったところにはUisca Amhran(ka0754)が立っていた。
「私は白龍の化身……時間が惜しい……そなた達の知りたい事に応えよう……」
尊大ながらも慈しみのあるその声は、どんな人にも平等で、包み込むようなものだった。
「私たちはこの先どうしたらいいの?」
「星の友と、共に歩むのだ……」
アイビスの質問に、ゆっくりと、しかしはっきりと白龍は答えを返す。
「星の友って……」
追加の質問をしようとアイビスが口を開いた時、白龍の体が突如として輝きだした。
「白龍様!? うそ……待って!」
「……伝説の子……私は消えるのではない。マテリアルが歪虚に穢されぬ限り、全てのマテリアルはあるべき場所に還るのみ……。別れは一時……またいずこで……」
少しずつ力を失っていく白龍の様子に、周囲に控えていた巫女装束に身を包んだミオレスカなどがあたふたしだす。
「私の対に……会う事が……あれば……詫びを……私は……しばし眠りに……」
……暗転……
ステージに明かりが戻った時、そこにはもう白龍の姿はなかった。
代わりに、この劇の全出演者が舞台の上に上がっている。
戦いには勝った。しかしこの言い知れぬ感覚は何だろう。
その場にいるみんなが暗い気持ちに包まれ下を向きかけた、そんなとき。
「見よ! 悪しき者たちは正義の光に打倒された!」
十九人の中心で、剣を天高く掲げた一人の少女の声が響く。
「ここに正義は下された! 聖地は奪還されたのだ!」
俯きかけていた人々の心が、その掲げられた剣に引き寄せられるかのように上を向く。
「これもすべて皆の力あってこそだ! さあ祝杯を上げよう!」
その少女、ディアドラ・ド・デイソルクスの言葉。
暗く俯きかけていた人々の心に、奥底から自然と希望をわきあがらせた。
ステージ上に集まる全出演者が歌って踊り、勝利をかみしめる。
そしていつしか観客も巻き込み、劇ではない、現実の勝利をかみしめる。
改めて皆で勝利を感じることこそが、この筋書きのない劇のエンディングだったのかもしれない。
「ついに聖地を奪回したのじゃ。これで東方も救われる。さぁ、いざ行かん!!」
紅薔薇のこの台詞を最後に舞台の幕は降ろされた。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 アルファス(ka3312) 人間(リアルブルー)|20才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/06/05 21:38:52 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/05 20:58:51 |