ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】受付嬢と行く村長祭・ルミ編
マスター:のどか
オープニング
同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。
「と、いう事で企画よろしくね」
ジェオルジでの春のお祭りを目前に控えたある日、ルミはオフィスの上司に1枚の仕様書を手渡されていた。
なんでも、お祭りに合わせてオフィスの顔である受付嬢を引率者として、観光ツアーを企画したいのだそうだ。
ルミ以外にも勤務している受付嬢達には一通り皆声は掛けられているそうで、同盟オフィスでは「どの村に行く?」「何を見る?」といった話で持ち切りだ。
「企画、ねぇ……」
そんな中、仕様書を指先で弄びながら、ルミは自分のデスクにだらんと身を投げ出してその内容に目を通していた。
一言で言えば、日ごろお世話になっているハンターさん達をエスコートして、精いっぱいお返しして来てネ、という内容なわけだったが、それがどうもピンと来ないのだ。
「まー、ルミちゃん、専任じゃなくってハンターとの兼任だしなぁ。立場的に曖昧だよネ、その辺り」
誰に言うでも無く、自分に言い聞かせるように口にする。
とは言え、この仕事に就いてからハンターらしい活動はほとんどしていないわけだが……それでも、心は兼任らしい。
「でもまぁ、いろいろ個人的なお願いも聞いてもらってるし。たまにはこういうのもいっか。ハンターさん達なら、とりあえず村に案内すれば、あとは皆で好き勝手楽しんでくれそうだものね」
言いながら、一緒に渡されたジェオルジの村祭リストに目を通す。
概ねの目玉となりそうな催しや、村の一覧をナナメ読みしながら、よさげなお祭りを探すのだ。
できるだけいろんな催しがあって、ハンターさんが自由に遊べそうな場所……ついでに言えば、自分があんまり頑張らなくって良さそうな場所。
そんな中で、一つの村に目が止まる。
ジェオルジの中心からは少し外れた村であったが、去年の秋のお祭りの盛況具合から、春の盛り上がりを期待して準備を進めていた村のようで、村人を上げて様々な催し物で観光客をお出迎え。
村そのものが、ちょっとしたフラワーパークの装いを見せる、そんな村祭り。
「あっ、飲食コーナーもあるジャンっ。よし、ここで決まりー!」
そんなので決めても良いものか。
それでも、村を上げたお祭りの内容は、傍目にもとても面白そうに見える。
おそらく、十二分に一日遊ぶことができるだろう。
「こういうのは、たまの休みだと思って楽しまなきゃねっ☆」
パチリと誰に飛ばすでも無いウインクを決めながら、自らの企画書を上司の元へと提出するのだった。
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。
「と、いう事で企画よろしくね」
ジェオルジでの春のお祭りを目前に控えたある日、ルミはオフィスの上司に1枚の仕様書を手渡されていた。
なんでも、お祭りに合わせてオフィスの顔である受付嬢を引率者として、観光ツアーを企画したいのだそうだ。
ルミ以外にも勤務している受付嬢達には一通り皆声は掛けられているそうで、同盟オフィスでは「どの村に行く?」「何を見る?」といった話で持ち切りだ。
「企画、ねぇ……」
そんな中、仕様書を指先で弄びながら、ルミは自分のデスクにだらんと身を投げ出してその内容に目を通していた。
一言で言えば、日ごろお世話になっているハンターさん達をエスコートして、精いっぱいお返しして来てネ、という内容なわけだったが、それがどうもピンと来ないのだ。
「まー、ルミちゃん、専任じゃなくってハンターとの兼任だしなぁ。立場的に曖昧だよネ、その辺り」
誰に言うでも無く、自分に言い聞かせるように口にする。
とは言え、この仕事に就いてからハンターらしい活動はほとんどしていないわけだが……それでも、心は兼任らしい。
「でもまぁ、いろいろ個人的なお願いも聞いてもらってるし。たまにはこういうのもいっか。ハンターさん達なら、とりあえず村に案内すれば、あとは皆で好き勝手楽しんでくれそうだものね」
言いながら、一緒に渡されたジェオルジの村祭リストに目を通す。
概ねの目玉となりそうな催しや、村の一覧をナナメ読みしながら、よさげなお祭りを探すのだ。
できるだけいろんな催しがあって、ハンターさんが自由に遊べそうな場所……ついでに言えば、自分があんまり頑張らなくって良さそうな場所。
そんな中で、一つの村に目が止まる。
ジェオルジの中心からは少し外れた村であったが、去年の秋のお祭りの盛況具合から、春の盛り上がりを期待して準備を進めていた村のようで、村人を上げて様々な催し物で観光客をお出迎え。
村そのものが、ちょっとしたフラワーパークの装いを見せる、そんな村祭り。
「あっ、飲食コーナーもあるジャンっ。よし、ここで決まりー!」
そんなので決めても良いものか。
それでも、村を上げたお祭りの内容は、傍目にもとても面白そうに見える。
おそらく、十二分に一日遊ぶことができるだろう。
「こういうのは、たまの休みだと思って楽しまなきゃねっ☆」
パチリと誰に飛ばすでも無いウインクを決めながら、自らの企画書を上司の元へと提出するのだった。
リプレイ本文
●花に惑う
受付嬢ツアーで村長祭真っ最中のジェオルジの村を訪れていたハンター達は、一日の自由行動に、めいっぱい羽を伸ばしていた。
「どれから見ようかなー、全部気になって悩んじゃうよね」
道中、早速買って貰った風船を握りしめニッコリと微笑むジュード・エアハート(ka0410)に、隣を歩くエアルドフリス(ka1856)は優しく笑みを浮かべて答える。
「ジュードの行きたい処へ行こう。さ、御希望は?」
「じゃあ……あれかな!」
言いながらエアの手を引いて掛けて行ったのは、村の目玉である花迷路。
入口2つに出口が1つ。二人の将来を占う、人気アトラクション。
「ぜーったい一緒にゴールしようね?」
「結構、お付き合いしよう」
澄ました顔で頷くエアに、ジュードは大輪の笑みで頷き返していた。
「フム……成程、中々面白い趣の迷路だな」
四方に広がる花の壁を興味深く見渡しながら、久延毘 大二郎(ka1771)は感嘆の息を漏らした。
「八雲君は……大丈夫だろうかな」
そうぽつりと口にして、共に迷路に入った少女、八雲 奏(ka4074)の姿を思い描――いて、ハッとしたように我に返る。
そうして取り繕うようにメガネを深く掛け直すと、迷路を先へと進んでゆくのであった。
頭上に広がる花の色と、赤い風船、そして青空とのコントラストをまぶしそうに眺めながら、ジュードはふぅと満たされたような吐息を吐き出していた。
「おっと……エアさんならずっと早く迷路を進めるだろうし、もたもたしていられないな」
そう、大切な人の事を想い浮かべ、名残惜しそうに視線を前方へと戻すジュード。
一方、エアもまた、緑の織りなす混迷の道を歩み進んでいた。
「――ヤァ、こんな所で奇遇だネー」
不意に、背後から響いた気の抜けたカタコト言葉に、エアは弾かれたように振り向いた。
見開く目線の先に、ひらひらと手を振るアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)の姿を捉える。
「奇遇だな……あんたも誰かと?」
こめかみを指で押さえながら問いかけるエアに、アルヴィンはケラケラとして答える。
「エー、一人でも行っちゃイケナイ事はナイヨネ☆」
言われてみれば確かに……だが、なんだか釈然としない様子のエア。
目の前の男はルンルンとステップを踏むように迷路の道を飛び跳ねながら、それはもう迷路を満喫している。
「まぁ、楽しいのならそれで良いのだがね」
「たまには意見が合うじゃなイカ。ま、僕は僕で楽しむカラ、これで退散するかナ。怒りんぼさんなルールーに、怒られる前にネー☆」
「そう言う物言いだから、怒るんだ!」
言いながらぱちりとウインクを返して風のように去ってゆくアルヴィンの姿を尻目に、盛大な溜息を付くエア。
が、そこでふと重要な事に気づいていた。
ゴールの方角……どっちだっけ、と。
「えいっ、わたくしは誰でしょう♪」
不意に、頬に触れた暖かい感触と共に目の前が真っ暗になり、久延毘は声にならない声を上げていた。
「そ、その声は八雲君かっ!?」
「正解です。くすくす、驚きましたか?」
肩口から顔を覗かせた奏の姿に、ふぅと大きな息を吐く久延毘。
「さぁ、この先にゴールがあるみたいですよ」
言いながら迷路の花にも負けない笑顔でほほ笑む奏に、久延毘は一歩踏み出すと――そのまま彼女を追いこすように、隣をすり抜けてゆく。
否、その間際に、自分の手で彼女の手を確かに取って。
「……あらあら、どうしたんですか大二郎様」
「折角合流出来たのに、タイミングが逸れたら元も子もないだろう?」
そう口にした彼の言葉は精いっぱいの男らしいエスコート。
しかし、真っ赤に染まった耳を後ろから眺めて奏はクスリと小さく笑みを浮かべる。
「そうですね……この瞬間、一生忘れませんから」
「……私だって、忘れられんよ」
絞り出すように口にしたその言葉。
迷路を抜けた二人の先に一面に、ゴールを祝うかのような美しい花畑がどこまでも広がっていた。
しくじった……本当ならばジュードよりも先に着いて、買い渡した風船を目印に同着を演出する予定だったのに。
縋る想いで到達したゴール前。
見上げた壁の上に、ふよふよと浮かぶ赤い風船――かと思ったら、満面の笑みのジュードがひょこりと迷路の角から顔を出して見せたのだった。
「やったね、同時だよー!」
満面の笑みで喜んで抱き着くジュードを受け止めながら、エアはふと記憶を巡る。
そう言えば、到着の前から、ずっと赤いものが視線の先にちらついていたような……
「えへへ、ジンクス通りならずっと仲良しだね♪」
「――そうだな」
ジュードも同じことを考えていたのかと……その事の方が嬉しく、小さく笑みを零すエア。
そのまま優しくジュードの身を引き剥がすと、その手を取って、くいとゴールの先を指し示す。
「肖るには、共にあそこを潜らねばね」
「うん!」
じっとりと汗ばんだその体温を感じながら歩むその先。
二人の未来には、花のように美しい世界が広がっている事だろう。
●花を愛でる
ハンター達が花迷路で遊んでいる頃、村長宅前の広場では、写生大会の作品が展示されている所であった。
その中に、ひときわ人だかりのできているクロード・N・シックス(ka4741)の絵画があった。
「これは……こんな絵が、この世に存在するとは」
髭面の男性がが、身を震わせて、眼前のキャンバスに目を奪われていた。
そこに描かれていたのは一輪の道端の花。
道路の脇、小屋の軒下に咲いた、小さな雑草。
一件地味な絵ではあるのだが、鉛筆であるにも関わらず水墨画のような繊細かつ大胆なタッチで描かれたその花は、花壇にさくどんな豪華な花よりも、命の輝きを一層光らせているように見えた。
「この絵は、この画法は、あなたが編み出されたものなのですか!?」
がっと男に肩を掴まれ、危うく態勢を崩しそうになるクロード。
「これはエトファリカに伝わる、伝統絵画ネ!」
それは、西方の絵師たちにとってはまさしく未知との遭遇。
これほどシンプルに、モノの本質を描いた絵がこれまでにあっただろうか。
「この東方芸術の神髄こそ、『WABI-SABI』と言いマース!」
そう自慢げに披露するクロードを前に、芸術家たちは「ワビ・サビ」「ワビ・サビ」と木霊のようにその口で繰り返す。
「うおぉぉぉ、WABI-SABIIIIIII!!」
天を貫くその咆哮は、西方の地に新たな文化を生み出す事になる――かもしれない。
広場の角では、村の女性たちによるアレンジメント講座が開かれていた。
多くの観光客の女性陣が押し寄せる中、彼女たちの目を引く存在が1組。
どこか黄色い声でひそひそと話が広がるその中心に、ジル・ティフォージュ(ka3873)とユージーン・L・ローランド(ka1810)の兄弟はせっせとアレンジメントに興じていた。
「よし、できた」
「うん……こちらもなんとかな」
2人で、出来上がった花籠を前に満足げに頷く。
そうしてふと、ユージーンがその籠を持って、ずいと真正面からジルの方へと差し出した。
「じゃあこれ、日ごろの感謝の気持ち!」
虚を突かれたかのように、一瞬言葉に詰まるジル。
が、すぐに調子を取り戻すと、口元に優しげな笑みを浮かべてその籠を受け取った。
「百合か……良い香りだ。我が家の紋でもイメージしてくれたか?」
「と言うよりは――」
――ジル自身をイメージしたのだけれど、と。
が、本人の手前。
少々こっぱずかしく、その言葉は静かに呑み込んだ。
「カサブランカに『高貴』。傍のナルコユリは『貴方は偽れない』。そして、左右の白薔薇 に『心からの尊敬』を……」
「こうして意匠に使われると存外に嬉しいものだ。ありがとう」
その言葉に、照れるように顔を背けるユージーン。
が、その照れは花籠を褒められたからではなく、籠に込めた本当の意味によるもの……隠すように、下方に沿えた枯れた白薔薇。
――生涯を誓います。
たとえ命に代えてもあなたを護ると……決して口にはしない想いを込めて。
「では、これはお返しだ」
そう言って、シルが空いたユージーンの両手に代りに持たせた自分の花籠。
3色のアスターだけで作ったシンプルな花籠。
芸に疎いと言いながら、四苦八苦の末になんとか綺麗に配置された、色とりどりの花たちが咲き誇る花籠。
「あ、ありがとう……えっと、その、ううん、深い意味はないよね」
あしらわれたアスターは白、青、紫の3色。
白に、「わたしを信じてください」。
青に、「あなたを信じているけど心配」。
そして紫に――
――わたしの愛はあなたの愛より深い、と。
「ねえ、僕はジルを誰よりも信頼してるよ。ただ、目の前であんまり無茶されると心配になるだけ」
宛がわれた花言葉に答えるように、ユージーンはそう語り出す。
「目付けとしての本分だ。すまんが、それだけは譲ってやれんぞ」
そう言って、ジルは彼を宥めるように苦笑する。
「――なに、折角お前のお父上に拾われた命だ。あの方の為にも、みすみす無下にはせんさ」
そうして一言付け加えたその言葉は、ユージーンが最も欲しかった言葉であったのだろうか。
彼は噛みしめるように頷き返すと、ニッコリと、満面の笑みで応えるのであった。
●花で飾る
「サァ、このシルクハットの中を注目ダヨー。1・2の3……で、花が出ルー!」
ステージ上でウサギの着ぐるみから顔をだし、にこやかに手品を披露するアルヴィン。
次いで手にした花をそのままステッキに変え、客席からは大きな拍手が飛び交っている。
そんなステージ裏で……1人の少女に詰め寄られる、長髪の男の姿があった。
「こんな事もあろうかと! こんな事もあろうかと!」
ここぞとばかりに連呼しながら、ずずいと手にした桜柄の浴衣を男に進める奏。
久延毘は、ひきつった笑みでその浴衣を押し戻そうとしていたが……しばらくして観念したかのように頷いて見せた。
「分かった。こりゃ君の厚意に応えなきゃならんようだ」
「ホントですか! 着付けはお任せ下さいませ♪」
そう言って、嬉々として久延毘を着飾ってゆく奏。
されるがままの久延毘であるが、彼女が楽しそうなので、まあたまにはいいかと……。
そうして、アルヴィンの次に上ったステージ。
舞い散る花吹雪が、浴衣にあしらわれたそれと相まってステージをピンクに染め上げる。
そんな色を切り裂くように振りかざされた長髪で、肩ごしに見返る日本男児の姿があった。
「とっても素敵です。せくしーでお似合いですよ♪」
そんな彼の姿を裏から眺める奏の前で、はち切れんばかりの歓声がステージ上に響き渡っていた。
「なれない事はするもんじゃ無いな……おかげで変な汗がびっしょりだ」
ステージから降坂した久延毘は、そんな悪態を吐きながらもどこか満足げに奏の下へと駆け寄って……目を奪われた。
「うふふ……お揃いですね」
そう言ってくるりと回って見せる彼女の身には、お揃いの桜の浴衣。
「今日はとっても楽しくて、幸せで……満たされた時間でした。またいつか、思い出を作りに行きましょうね」
そう言って差し出された奏の手。
今度は真正面からその手を取って、久延毘はしっかりとした口調で言葉を返していた。
「一緒に居るのが私で良ければ……幾らでも付き合うよ」
「よー、ハンターのジャック・エルギンだ。応援、よろしくな!」
入れ替わり立ち代わり、ステージに上がったジャック・エルギン(ka1522)はいつもの調子で挨拶する。
「よージャック! いいとこ見せろよ!」
「げぇ、港のオッサン達!?」
冷やかすように拍手と笑いで答えた客席後列の男達に、ジャックはしかめっ面で応えてみせた。
そりゃ、同盟都市のお祭りだ。
運が良ければ(?)知り合いだって、居るだろう。
「まーまー、気を取り直して。俺の好きな赤色の花ってことで、コイツでハンターの技を披露すんぜ」
そう言って、後ろ手に取り出したのは真っ赤に染まる薔薇の花束。
それをステージ上に1本ずつ配置すると、今度は懐からカードの束を取り出して見せた。
それで何をするのか分かったのか、ステージに、そして客席にも、緊張の糸が流れる。
「ほっ……よっ……そりゃっ!」
小気味良く放たれたカードがステージを綺麗に舞い、バラの花を根元からすっぱりと切り落とす。
ひらりと花びらが宙を舞い、客席から歓声が沸き起こる。
「良い調子じゃねぇか……っと!?」
不意に、身体の芯を貫く激痛。
先に受けた依頼の傷か……その痛みに、カードを投げる手元が狂う。
結果、あらぬ方向へと飛び去ったカードと共に、1本だけバラがステージに残る事となってしまった。
「失敗失敗……なんつって。1本残さなきゃ、こういう事もできねーからな!」
そう言って、残った花をひらりと客席に向かって投げるジャック。
黄色い声援が沸き起こり、前列の女の子が、その花をキャッチしていた。
「そいつは俺からのプレゼントだ」
「ハハ、ミスったんじゃねーのかよ!」
黄色い歓声に交じって上がる、野太い漢の笑い声。
「うるせー、パフォーマンスだよ!」
ジャックがそれに言葉を返すと、客席中にも盛大な笑いが沸き起こっていた。
●花を楽しむ
郷祭で賑わうメインストリートには、祭に合わせて様々な屋台が立ち並んで居た。
「記念になりそうな物でも……あれば良いんですけれど」
そんな屋台の間を、興味深げに物色する天央 観智(ka0896)の姿があった。
特に誰かへのお土産と言う事でも無い、自分への記念品……そんな位置づけて探していた露店めぐり。
が、しばらく歩いたところで、見知った顔が両手いっぱいにバーベキューの串を持って嬉しそうにしている所に出くわしていた。
「あー、あまなはさん、ほんにひわー」
もぐもぐと串にささった肉野菜を粗食しながら、ぺこりとお辞儀をするルミ・ヘヴンズドア(kz0060)。
「こんにちわ。こちらにいらしたのですね」
そんなルミの様子を微笑ましく見守りながら、観智も真似てお辞儀を返す。
「ルミさん、ずっとこちらにいらしたのですか?」
「ごくん……はいはい。食べ歩きですよー。とりあえず、あそこっからあそこまでは制覇しましたっ!」
そう(無い)胸を張って指さす方向は、対岸一体の屋台はすべて含まれていたと言って良いだろう。
「なるほど、相変わらずで。ところで、何かいいお土産物屋さんとかありませんでしたか?」
「お土産ですか? うーん……ずっとご飯食べてたからなぁ」
観智の質問に、うんと明後日の方向を見て唸るルミ。
「そう言えば、あっちの方に鉢植えとかおいてるお店があったかもー?」
「鉢植えですか。こちらの世界の植物……というのも面白そうですね」
ルミの答えに、何か思い当ったかのように頷く観智。
「よー、こんな所に居たのか!」
「みなサン、じゃないけどお揃いネー」
そんな時、景気のいい声が露店街に響き渡った。
見ると、ジャックとクロードが硬貨ぎっしりの袋を片手にこちらに歩いてくるところであった。
「エルギンさん、クロードさん、どうしたんですかそれ!?」
「いやー、コンテストで賞金貰ったんだけどよ、こういう金はパーッと使うに限るだろ?」
「だから、皆さんにご飯を奢ろうかと思いましテ。探してたんですヨー!」
「奢り!? マジで!?」
二人の言葉に、明らかに目の色を変えて反応するルミ。
「それはそれは。では、買い物を済ませたらご相伴にお預かりましょう」
「おー、食っとけ食っとけ。ルミは良い店教えてくれよな」
「もっちロンですよっ! やったー、奢り奢り!」
そう言って、観智は足早に植木商の下へと向かい、ルミ達は再び飲食屋台へと繰り出して行く。
「――お……これはルミ嬢。こんな所で」
道中出会う、エアとジュードの2人組にルミは同じように両手に料理を持ってぺこりと挨拶。
「エアさん、ジュードさん、こんにちわー! 2人もお買い物ですかー……いや、デート?」
視線をエアの右手の鉢植えから、左手のジュードと繋いだ手のほうに映しながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるルミ。
「っ……いや、これは親愛というもので――」
「んー、このクレープ美味しい! ほらほらエアさん、あーん♪」
取り繕おうとしたのか、エアのその口にジュードの手のクレープが押し込まれる。
モガモガ言いながら、それを粗食するエアであったが、ルミはニヤニヤとした視線をそのままにそれ以上は何も言及しなかった。
「今、コンテストの賞金で皆にメシ奢ろうかと思っててよ。よかったらどうだ?」
「それは、我々も頂いてしまって良いのか?」
「もちろんデス! みんなで親睦深めまショー!」
エアのそう言って、イエイと拳を振り上げるクロード。
「なんだか楽しそうなコトしてるネ。僕も混ぜて欲しいヨー♪」
そんな彼らの背後から、音も無く現れたアルヴィンにビクリとする一同。
「あー! 久延毘さんが、女の子連れてなんか楽しそうなことしてるー!!」
が、そんな空気を吹き飛ばすようにルミが大声を上げて指さした先で、「しまった」といった表情で真っ赤になる久延毘カップル。
目がけて一目散に駆け出したルミであったが……つんのめって、手に持った食べ物と一緒に地面にダイブ。
涙目なその姿を見て、盛大な笑いが出店街に響き渡っていた。
受付嬢ツアーで村長祭真っ最中のジェオルジの村を訪れていたハンター達は、一日の自由行動に、めいっぱい羽を伸ばしていた。
「どれから見ようかなー、全部気になって悩んじゃうよね」
道中、早速買って貰った風船を握りしめニッコリと微笑むジュード・エアハート(ka0410)に、隣を歩くエアルドフリス(ka1856)は優しく笑みを浮かべて答える。
「ジュードの行きたい処へ行こう。さ、御希望は?」
「じゃあ……あれかな!」
言いながらエアの手を引いて掛けて行ったのは、村の目玉である花迷路。
入口2つに出口が1つ。二人の将来を占う、人気アトラクション。
「ぜーったい一緒にゴールしようね?」
「結構、お付き合いしよう」
澄ました顔で頷くエアに、ジュードは大輪の笑みで頷き返していた。
「フム……成程、中々面白い趣の迷路だな」
四方に広がる花の壁を興味深く見渡しながら、久延毘 大二郎(ka1771)は感嘆の息を漏らした。
「八雲君は……大丈夫だろうかな」
そうぽつりと口にして、共に迷路に入った少女、八雲 奏(ka4074)の姿を思い描――いて、ハッとしたように我に返る。
そうして取り繕うようにメガネを深く掛け直すと、迷路を先へと進んでゆくのであった。
頭上に広がる花の色と、赤い風船、そして青空とのコントラストをまぶしそうに眺めながら、ジュードはふぅと満たされたような吐息を吐き出していた。
「おっと……エアさんならずっと早く迷路を進めるだろうし、もたもたしていられないな」
そう、大切な人の事を想い浮かべ、名残惜しそうに視線を前方へと戻すジュード。
一方、エアもまた、緑の織りなす混迷の道を歩み進んでいた。
「――ヤァ、こんな所で奇遇だネー」
不意に、背後から響いた気の抜けたカタコト言葉に、エアは弾かれたように振り向いた。
見開く目線の先に、ひらひらと手を振るアルヴィン = オールドリッチ(ka2378)の姿を捉える。
「奇遇だな……あんたも誰かと?」
こめかみを指で押さえながら問いかけるエアに、アルヴィンはケラケラとして答える。
「エー、一人でも行っちゃイケナイ事はナイヨネ☆」
言われてみれば確かに……だが、なんだか釈然としない様子のエア。
目の前の男はルンルンとステップを踏むように迷路の道を飛び跳ねながら、それはもう迷路を満喫している。
「まぁ、楽しいのならそれで良いのだがね」
「たまには意見が合うじゃなイカ。ま、僕は僕で楽しむカラ、これで退散するかナ。怒りんぼさんなルールーに、怒られる前にネー☆」
「そう言う物言いだから、怒るんだ!」
言いながらぱちりとウインクを返して風のように去ってゆくアルヴィンの姿を尻目に、盛大な溜息を付くエア。
が、そこでふと重要な事に気づいていた。
ゴールの方角……どっちだっけ、と。
「えいっ、わたくしは誰でしょう♪」
不意に、頬に触れた暖かい感触と共に目の前が真っ暗になり、久延毘は声にならない声を上げていた。
「そ、その声は八雲君かっ!?」
「正解です。くすくす、驚きましたか?」
肩口から顔を覗かせた奏の姿に、ふぅと大きな息を吐く久延毘。
「さぁ、この先にゴールがあるみたいですよ」
言いながら迷路の花にも負けない笑顔でほほ笑む奏に、久延毘は一歩踏み出すと――そのまま彼女を追いこすように、隣をすり抜けてゆく。
否、その間際に、自分の手で彼女の手を確かに取って。
「……あらあら、どうしたんですか大二郎様」
「折角合流出来たのに、タイミングが逸れたら元も子もないだろう?」
そう口にした彼の言葉は精いっぱいの男らしいエスコート。
しかし、真っ赤に染まった耳を後ろから眺めて奏はクスリと小さく笑みを浮かべる。
「そうですね……この瞬間、一生忘れませんから」
「……私だって、忘れられんよ」
絞り出すように口にしたその言葉。
迷路を抜けた二人の先に一面に、ゴールを祝うかのような美しい花畑がどこまでも広がっていた。
しくじった……本当ならばジュードよりも先に着いて、買い渡した風船を目印に同着を演出する予定だったのに。
縋る想いで到達したゴール前。
見上げた壁の上に、ふよふよと浮かぶ赤い風船――かと思ったら、満面の笑みのジュードがひょこりと迷路の角から顔を出して見せたのだった。
「やったね、同時だよー!」
満面の笑みで喜んで抱き着くジュードを受け止めながら、エアはふと記憶を巡る。
そう言えば、到着の前から、ずっと赤いものが視線の先にちらついていたような……
「えへへ、ジンクス通りならずっと仲良しだね♪」
「――そうだな」
ジュードも同じことを考えていたのかと……その事の方が嬉しく、小さく笑みを零すエア。
そのまま優しくジュードの身を引き剥がすと、その手を取って、くいとゴールの先を指し示す。
「肖るには、共にあそこを潜らねばね」
「うん!」
じっとりと汗ばんだその体温を感じながら歩むその先。
二人の未来には、花のように美しい世界が広がっている事だろう。
●花を愛でる
ハンター達が花迷路で遊んでいる頃、村長宅前の広場では、写生大会の作品が展示されている所であった。
その中に、ひときわ人だかりのできているクロード・N・シックス(ka4741)の絵画があった。
「これは……こんな絵が、この世に存在するとは」
髭面の男性がが、身を震わせて、眼前のキャンバスに目を奪われていた。
そこに描かれていたのは一輪の道端の花。
道路の脇、小屋の軒下に咲いた、小さな雑草。
一件地味な絵ではあるのだが、鉛筆であるにも関わらず水墨画のような繊細かつ大胆なタッチで描かれたその花は、花壇にさくどんな豪華な花よりも、命の輝きを一層光らせているように見えた。
「この絵は、この画法は、あなたが編み出されたものなのですか!?」
がっと男に肩を掴まれ、危うく態勢を崩しそうになるクロード。
「これはエトファリカに伝わる、伝統絵画ネ!」
それは、西方の絵師たちにとってはまさしく未知との遭遇。
これほどシンプルに、モノの本質を描いた絵がこれまでにあっただろうか。
「この東方芸術の神髄こそ、『WABI-SABI』と言いマース!」
そう自慢げに披露するクロードを前に、芸術家たちは「ワビ・サビ」「ワビ・サビ」と木霊のようにその口で繰り返す。
「うおぉぉぉ、WABI-SABIIIIIII!!」
天を貫くその咆哮は、西方の地に新たな文化を生み出す事になる――かもしれない。
広場の角では、村の女性たちによるアレンジメント講座が開かれていた。
多くの観光客の女性陣が押し寄せる中、彼女たちの目を引く存在が1組。
どこか黄色い声でひそひそと話が広がるその中心に、ジル・ティフォージュ(ka3873)とユージーン・L・ローランド(ka1810)の兄弟はせっせとアレンジメントに興じていた。
「よし、できた」
「うん……こちらもなんとかな」
2人で、出来上がった花籠を前に満足げに頷く。
そうしてふと、ユージーンがその籠を持って、ずいと真正面からジルの方へと差し出した。
「じゃあこれ、日ごろの感謝の気持ち!」
虚を突かれたかのように、一瞬言葉に詰まるジル。
が、すぐに調子を取り戻すと、口元に優しげな笑みを浮かべてその籠を受け取った。
「百合か……良い香りだ。我が家の紋でもイメージしてくれたか?」
「と言うよりは――」
――ジル自身をイメージしたのだけれど、と。
が、本人の手前。
少々こっぱずかしく、その言葉は静かに呑み込んだ。
「カサブランカに『高貴』。傍のナルコユリは『貴方は偽れない』。そして、左右の白薔薇 に『心からの尊敬』を……」
「こうして意匠に使われると存外に嬉しいものだ。ありがとう」
その言葉に、照れるように顔を背けるユージーン。
が、その照れは花籠を褒められたからではなく、籠に込めた本当の意味によるもの……隠すように、下方に沿えた枯れた白薔薇。
――生涯を誓います。
たとえ命に代えてもあなたを護ると……決して口にはしない想いを込めて。
「では、これはお返しだ」
そう言って、シルが空いたユージーンの両手に代りに持たせた自分の花籠。
3色のアスターだけで作ったシンプルな花籠。
芸に疎いと言いながら、四苦八苦の末になんとか綺麗に配置された、色とりどりの花たちが咲き誇る花籠。
「あ、ありがとう……えっと、その、ううん、深い意味はないよね」
あしらわれたアスターは白、青、紫の3色。
白に、「わたしを信じてください」。
青に、「あなたを信じているけど心配」。
そして紫に――
――わたしの愛はあなたの愛より深い、と。
「ねえ、僕はジルを誰よりも信頼してるよ。ただ、目の前であんまり無茶されると心配になるだけ」
宛がわれた花言葉に答えるように、ユージーンはそう語り出す。
「目付けとしての本分だ。すまんが、それだけは譲ってやれんぞ」
そう言って、ジルは彼を宥めるように苦笑する。
「――なに、折角お前のお父上に拾われた命だ。あの方の為にも、みすみす無下にはせんさ」
そうして一言付け加えたその言葉は、ユージーンが最も欲しかった言葉であったのだろうか。
彼は噛みしめるように頷き返すと、ニッコリと、満面の笑みで応えるのであった。
●花で飾る
「サァ、このシルクハットの中を注目ダヨー。1・2の3……で、花が出ルー!」
ステージ上でウサギの着ぐるみから顔をだし、にこやかに手品を披露するアルヴィン。
次いで手にした花をそのままステッキに変え、客席からは大きな拍手が飛び交っている。
そんなステージ裏で……1人の少女に詰め寄られる、長髪の男の姿があった。
「こんな事もあろうかと! こんな事もあろうかと!」
ここぞとばかりに連呼しながら、ずずいと手にした桜柄の浴衣を男に進める奏。
久延毘は、ひきつった笑みでその浴衣を押し戻そうとしていたが……しばらくして観念したかのように頷いて見せた。
「分かった。こりゃ君の厚意に応えなきゃならんようだ」
「ホントですか! 着付けはお任せ下さいませ♪」
そう言って、嬉々として久延毘を着飾ってゆく奏。
されるがままの久延毘であるが、彼女が楽しそうなので、まあたまにはいいかと……。
そうして、アルヴィンの次に上ったステージ。
舞い散る花吹雪が、浴衣にあしらわれたそれと相まってステージをピンクに染め上げる。
そんな色を切り裂くように振りかざされた長髪で、肩ごしに見返る日本男児の姿があった。
「とっても素敵です。せくしーでお似合いですよ♪」
そんな彼の姿を裏から眺める奏の前で、はち切れんばかりの歓声がステージ上に響き渡っていた。
「なれない事はするもんじゃ無いな……おかげで変な汗がびっしょりだ」
ステージから降坂した久延毘は、そんな悪態を吐きながらもどこか満足げに奏の下へと駆け寄って……目を奪われた。
「うふふ……お揃いですね」
そう言ってくるりと回って見せる彼女の身には、お揃いの桜の浴衣。
「今日はとっても楽しくて、幸せで……満たされた時間でした。またいつか、思い出を作りに行きましょうね」
そう言って差し出された奏の手。
今度は真正面からその手を取って、久延毘はしっかりとした口調で言葉を返していた。
「一緒に居るのが私で良ければ……幾らでも付き合うよ」
「よー、ハンターのジャック・エルギンだ。応援、よろしくな!」
入れ替わり立ち代わり、ステージに上がったジャック・エルギン(ka1522)はいつもの調子で挨拶する。
「よージャック! いいとこ見せろよ!」
「げぇ、港のオッサン達!?」
冷やかすように拍手と笑いで答えた客席後列の男達に、ジャックはしかめっ面で応えてみせた。
そりゃ、同盟都市のお祭りだ。
運が良ければ(?)知り合いだって、居るだろう。
「まーまー、気を取り直して。俺の好きな赤色の花ってことで、コイツでハンターの技を披露すんぜ」
そう言って、後ろ手に取り出したのは真っ赤に染まる薔薇の花束。
それをステージ上に1本ずつ配置すると、今度は懐からカードの束を取り出して見せた。
それで何をするのか分かったのか、ステージに、そして客席にも、緊張の糸が流れる。
「ほっ……よっ……そりゃっ!」
小気味良く放たれたカードがステージを綺麗に舞い、バラの花を根元からすっぱりと切り落とす。
ひらりと花びらが宙を舞い、客席から歓声が沸き起こる。
「良い調子じゃねぇか……っと!?」
不意に、身体の芯を貫く激痛。
先に受けた依頼の傷か……その痛みに、カードを投げる手元が狂う。
結果、あらぬ方向へと飛び去ったカードと共に、1本だけバラがステージに残る事となってしまった。
「失敗失敗……なんつって。1本残さなきゃ、こういう事もできねーからな!」
そう言って、残った花をひらりと客席に向かって投げるジャック。
黄色い声援が沸き起こり、前列の女の子が、その花をキャッチしていた。
「そいつは俺からのプレゼントだ」
「ハハ、ミスったんじゃねーのかよ!」
黄色い歓声に交じって上がる、野太い漢の笑い声。
「うるせー、パフォーマンスだよ!」
ジャックがそれに言葉を返すと、客席中にも盛大な笑いが沸き起こっていた。
●花を楽しむ
郷祭で賑わうメインストリートには、祭に合わせて様々な屋台が立ち並んで居た。
「記念になりそうな物でも……あれば良いんですけれど」
そんな屋台の間を、興味深げに物色する天央 観智(ka0896)の姿があった。
特に誰かへのお土産と言う事でも無い、自分への記念品……そんな位置づけて探していた露店めぐり。
が、しばらく歩いたところで、見知った顔が両手いっぱいにバーベキューの串を持って嬉しそうにしている所に出くわしていた。
「あー、あまなはさん、ほんにひわー」
もぐもぐと串にささった肉野菜を粗食しながら、ぺこりとお辞儀をするルミ・ヘヴンズドア(kz0060)。
「こんにちわ。こちらにいらしたのですね」
そんなルミの様子を微笑ましく見守りながら、観智も真似てお辞儀を返す。
「ルミさん、ずっとこちらにいらしたのですか?」
「ごくん……はいはい。食べ歩きですよー。とりあえず、あそこっからあそこまでは制覇しましたっ!」
そう(無い)胸を張って指さす方向は、対岸一体の屋台はすべて含まれていたと言って良いだろう。
「なるほど、相変わらずで。ところで、何かいいお土産物屋さんとかありませんでしたか?」
「お土産ですか? うーん……ずっとご飯食べてたからなぁ」
観智の質問に、うんと明後日の方向を見て唸るルミ。
「そう言えば、あっちの方に鉢植えとかおいてるお店があったかもー?」
「鉢植えですか。こちらの世界の植物……というのも面白そうですね」
ルミの答えに、何か思い当ったかのように頷く観智。
「よー、こんな所に居たのか!」
「みなサン、じゃないけどお揃いネー」
そんな時、景気のいい声が露店街に響き渡った。
見ると、ジャックとクロードが硬貨ぎっしりの袋を片手にこちらに歩いてくるところであった。
「エルギンさん、クロードさん、どうしたんですかそれ!?」
「いやー、コンテストで賞金貰ったんだけどよ、こういう金はパーッと使うに限るだろ?」
「だから、皆さんにご飯を奢ろうかと思いましテ。探してたんですヨー!」
「奢り!? マジで!?」
二人の言葉に、明らかに目の色を変えて反応するルミ。
「それはそれは。では、買い物を済ませたらご相伴にお預かりましょう」
「おー、食っとけ食っとけ。ルミは良い店教えてくれよな」
「もっちロンですよっ! やったー、奢り奢り!」
そう言って、観智は足早に植木商の下へと向かい、ルミ達は再び飲食屋台へと繰り出して行く。
「――お……これはルミ嬢。こんな所で」
道中出会う、エアとジュードの2人組にルミは同じように両手に料理を持ってぺこりと挨拶。
「エアさん、ジュードさん、こんにちわー! 2人もお買い物ですかー……いや、デート?」
視線をエアの右手の鉢植えから、左手のジュードと繋いだ手のほうに映しながら、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるルミ。
「っ……いや、これは親愛というもので――」
「んー、このクレープ美味しい! ほらほらエアさん、あーん♪」
取り繕おうとしたのか、エアのその口にジュードの手のクレープが押し込まれる。
モガモガ言いながら、それを粗食するエアであったが、ルミはニヤニヤとした視線をそのままにそれ以上は何も言及しなかった。
「今、コンテストの賞金で皆にメシ奢ろうかと思っててよ。よかったらどうだ?」
「それは、我々も頂いてしまって良いのか?」
「もちろんデス! みんなで親睦深めまショー!」
エアのそう言って、イエイと拳を振り上げるクロード。
「なんだか楽しそうなコトしてるネ。僕も混ぜて欲しいヨー♪」
そんな彼らの背後から、音も無く現れたアルヴィンにビクリとする一同。
「あー! 久延毘さんが、女の子連れてなんか楽しそうなことしてるー!!」
が、そんな空気を吹き飛ばすようにルミが大声を上げて指さした先で、「しまった」といった表情で真っ赤になる久延毘カップル。
目がけて一目散に駆け出したルミであったが……つんのめって、手に持った食べ物と一緒に地面にダイブ。
涙目なその姿を見て、盛大な笑いが出店街に響き渡っていた。
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お祭りの前に(相談兼雑談卓) ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/06/04 21:48:58 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/05 02:07:23 |