ゲスト
(ka0000)
通りすがりの用心棒
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 6~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/06/16 12:00
- 完成日
- 2014/06/24 12:09
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●ちょっとした事件
極彩色の街ヴァリオス。
その名の通り街は鮮やかな色に満ち、多くの人々が賑やかに行き交う。
目抜き通りの建物はどれも美しく意匠を凝らし、この街の豊かさ、そして治安の良さをうかがわせる。
そんな表通りを一歩入った裏道で、今、ちょっとした騒ぎが起きていた。
「話が違う! 期限は今日までという約束だったはず!」
背の高い男が、開いたドアの隙間からから押し出されてきた。
華美ではないがそれなりに仕立ての良い衣服を纏った、商人風の男だ。
続いてドアから顔を覗かせたのは、いかつい顔つきの、いかにも用心棒という風情の大男。
「御主人は不在だと言ってるだろうが。出直しな!」
「いつお戻りですか! なんなら、お帰りになるまで待たせてもらいますぞ!」
長身の男が踏みとどまり、詰め寄る。だが用心棒はその襟元を掴み、乱暴に突き飛ばした。
「うわ……っ!?」
男は石造りの階段を数段転げ落ちた。背中を打ち呻き声を上げたが、それでも顔を上げ用心棒を睨みつける。
用心棒は下卑た笑いを浮かべながら見下ろし、短い棍棒を数回、掌に叩きつけた。
「悪いこたぁ言わねえ。この程度のオハナシで済んでいる間に帰った方がいいぜ?」
「く……っ」
どう考えても力では叶いそうもない相手だ。
目前でドアが乱暴に閉じられる。
服をはたき、悔しそうに立ち上がった男は、ふと自分に向けられた視線に気づいた。
●通りすがりの用心棒
昼時を過ぎた茶店は、賑やかなおしゃべりに満ちている。
その一角、長身の男が不景気そうな顔で、ハンターたちを値踏みするように見渡した。
「ハンター、でいらっしゃいますか」
何か困っているなら力になる。その申し出を男は胡散臭げに聞いていたが、余程困っていたのか、あるいは自棄になったのか。一同を近くの小ぢんまりとした茶店へと誘ったのだ。
男はレオーニ商会のセオと名乗った。
先刻は取引先に商品の代金を請求に行ったところ、約束の期日にもかかわらず主人も番頭も不在と言われ、玄関先から裏口へと押しやられたのだという。
「あそこはいつもそうなのです。金は持っている。それは間違いないのですが、なんだかんだで支払いを先延ばしにしてしまう。だが……」
セオは言葉を切って眉をしかめた。
「さすがに力押しで来たのは初めてなんです。こちらも応戦では、騒動になってしまう。悪い噂は立てたくないのですが、困ったものです……」
ついには頭を抱えてしまうセオだった。
極彩色の街ヴァリオス。
その名の通り街は鮮やかな色に満ち、多くの人々が賑やかに行き交う。
目抜き通りの建物はどれも美しく意匠を凝らし、この街の豊かさ、そして治安の良さをうかがわせる。
そんな表通りを一歩入った裏道で、今、ちょっとした騒ぎが起きていた。
「話が違う! 期限は今日までという約束だったはず!」
背の高い男が、開いたドアの隙間からから押し出されてきた。
華美ではないがそれなりに仕立ての良い衣服を纏った、商人風の男だ。
続いてドアから顔を覗かせたのは、いかつい顔つきの、いかにも用心棒という風情の大男。
「御主人は不在だと言ってるだろうが。出直しな!」
「いつお戻りですか! なんなら、お帰りになるまで待たせてもらいますぞ!」
長身の男が踏みとどまり、詰め寄る。だが用心棒はその襟元を掴み、乱暴に突き飛ばした。
「うわ……っ!?」
男は石造りの階段を数段転げ落ちた。背中を打ち呻き声を上げたが、それでも顔を上げ用心棒を睨みつける。
用心棒は下卑た笑いを浮かべながら見下ろし、短い棍棒を数回、掌に叩きつけた。
「悪いこたぁ言わねえ。この程度のオハナシで済んでいる間に帰った方がいいぜ?」
「く……っ」
どう考えても力では叶いそうもない相手だ。
目前でドアが乱暴に閉じられる。
服をはたき、悔しそうに立ち上がった男は、ふと自分に向けられた視線に気づいた。
●通りすがりの用心棒
昼時を過ぎた茶店は、賑やかなおしゃべりに満ちている。
その一角、長身の男が不景気そうな顔で、ハンターたちを値踏みするように見渡した。
「ハンター、でいらっしゃいますか」
何か困っているなら力になる。その申し出を男は胡散臭げに聞いていたが、余程困っていたのか、あるいは自棄になったのか。一同を近くの小ぢんまりとした茶店へと誘ったのだ。
男はレオーニ商会のセオと名乗った。
先刻は取引先に商品の代金を請求に行ったところ、約束の期日にもかかわらず主人も番頭も不在と言われ、玄関先から裏口へと押しやられたのだという。
「あそこはいつもそうなのです。金は持っている。それは間違いないのですが、なんだかんだで支払いを先延ばしにしてしまう。だが……」
セオは言葉を切って眉をしかめた。
「さすがに力押しで来たのは初めてなんです。こちらも応戦では、騒動になってしまう。悪い噂は立てたくないのですが、困ったものです……」
ついには頭を抱えてしまうセオだった。
リプレイ本文
●いざ取り立てへ
一同は目的地に到着した。
(取り立てかあ……)
星見 香澄(ka0866)は内心ほくそ笑む。
直感が、この仕事を上手く片付ければ今後色々と楽しそうな事が待っていると告げている。
「ねえ、ちょっと確認なんだけど」
「はい、なんでしょう?」
香澄はセオに相手の名前、そして取引内容を尋ねる。
「我がレオーニ商会は主に装飾用の貴金属を扱っております。こちらのノッキオ宝飾店は老舗の大店で、当会が納品した細工物に宝石などを取り付け、販売しているのです」
その代金の支払いが遅れれば、レオーニ商会は次の仕入れに困る。だがいくら相手に非があれど、老舗の体面を敢えて傷つけるような事は商人の街ヴァリオスでは好まれないという訳だ。
ジュード・エアハート(ka0410)はセオに人懐こく笑って見せる。
「セオさんが困らないよう穏便に代金を徴収するよ。あとは俺達に任せて」
商売もハンターも信用第一。セオの信頼が得られるように無事に解決を図りたいところだ。
「要は、相手に大人しく従った方が得になる、若しくは損害を少なく抑えられる……と分からせれば良いのだろう」
眼鏡の位置を直しつつ、ロイド・ブラック(ka0408)が同行者を見まわした。
「隠れて支払いを逃れるとは、いい度胸っす! 払わないとどうなるか、思い知らせてやるっす!」
弱い相手には強い、神楽(ka2032)はえらく乗り気だった。
フワ ハヤテ(ka0004)が小さく肩をすくめて見せる。
「できればボクの活躍がないことを願うよ。それはつまり、万事うまく片付いたということだからね」
ハヤテはひらひらと手を振ると一行から離れ、路地裏に姿を消す。持ち場に向かったのだ。
「嘘偽りなしは面倒だが、要は本物の商談であればいいのではないかね?」
ロイドはまずは相手に接触することが第一だと思う。
相手が何を考えているのか。それさえ分かれば与しやすい。まして今回は、こちらに理があるのだ、堂々と正面から当たればよい。
ジング(ka0342)はトランシーバーの具合を確かめ身につけると、ローブをさり気なく巻きつけた。
「できれば話し合いで済んで、荒事にならなきゃ良いんだがね」
きちんと仕事を果たして、報酬を受け取る。そうやって信用を積み重ねれば、これからも仕事が回ってくるだろう。
生きて行くためには稼がねばならないのだ。
「じゃあ行こっか、ジング君。後でそのローブの下の物、分けてもらえると嬉しいんだけどな!」
香澄の探るような目線に、ジングは思わず苦笑いを浮かべた。
●問題の店
実に立派な玄関扉だった。
ライオンの口が咥えたノッカーのリングに手をかけ、香澄は力いっぱい打ちつける。
「ノッキオさーん、今日が期限の代金を頂きに来ましたよー。しっかり払ってくださいね♪」
よく通る声に、道行く人が何事かと振り返った。
内側で慌ただしい音がしてドアが開き、隙間から覗いた赤毛の男が香澄を見下ろした。
「おめえ、どこのモンだ? 見慣れねえ顔だな」
「オレ達はとある人の代理で、取引の代金を回収に来たんだ。中に入れてくれんか」
香澄の後ろからジングが顔を出した。
「……とある人? 怪しい連中だな、帰んな」
用心棒がドアを閉めようとするところに、ジングが片膝を突っ込む。
「まあそう言うなって。オレ達も雇われの身なんでね、手ぶらじゃ帰れねえ。とりあえずご主人と形だけでも話をさせてくれんか?」
ローブの下から、ちらりと覗く酒瓶。
「払うもの払わないなんて、商人の沽券に関わりますよ♪」
畳みかけるように香澄が声を張り上げた。
「ったく、とりあえず入れ!」
用心棒が舌打ちしながらドアを開く。香澄とジングはひとまずは中に入ることに成功した。
「よし、行こう」
「了解っす!」
ドアがまだ閉まりきる前に、素早くジュード、ロイド、神楽が物陰から姿を表し、駆け寄っていく。
「うまくいったみたいだね」
陽炎(ka0142)が囁く。だがセオは首を横に振った。
「あの後、裏口から押し出されるんですよ」
「大丈夫じゃないかな? 何かあったらこっちに連絡は入ると思うよ。それにしても面白いよねぇ、この『とらんしぃばぁ』って道具……」
ザザっと時折呟く小箱を、陽炎は興味深そうに眺める。
「うひひひひひひひっ!! お邪魔シマスして金取り立ててハイそれでお仕舞いってんじゃゲロつまんねーしなァ!」
毒々沼 冥々(ka0696)が口の端を釣りあげて笑う。
「しっかし待ってるだけってのもゲロかったりーな。とびきりハイなのを一曲トバしてこうか!タイトルは――『冥々イズム』!!」
大通りでノリノリで歌い始める冥々。
「毒々沼冥々! 毒々沼冥々! 毒々沼冥々だぜ野郎共!! 今日も僕の事愛してるかいッ!?心で音楽を奏でているかいッ!?」
すごく目立つ。だがお陰で、物陰からあからさまにノッキオ商会を見張っているセオ達は目立たない。
陽炎はふと思いついたように、セオに尋ねた。
「そういえばさ、ここの主人って今回はどうも様子がおかしい気がするんだ。何か最近変わった事とかなかったのかな?」
暫く考え込むセオ。
「どうでしょう……? 特に思い当たることはありませんが」
「ご近所に聞いてみようか?」
その提案にはセオが反対した。『何か揉め事がある』と近所に触れまわっているような物だからだ。
「じゃあさ、どんな人なのか教えてもらっていい?」
「そうですね……」
主人は50前後。恰幅のいい、いかにも裕福な商人という風情。美しい奥方の尻に敷かれているという噂もある。そんなところであった。
「そっか。あのね、君の立場上難しい頼みかもしれないけど……まず主人の話を聞いてみてはくれないかな? 何か事情があるかもしれないから」
「勿論、当人が出て来て下さればお話ぐらいは伺いますよ。会う前に追い出されなければ、ですけれど」
セオが溜息をついた。
●用心棒
家の中も中々に立派だった。品の良い調度品がきれいに飾られていて、金に困っているようにはとても見えない。
「おい、どうした」
奥から身体の大きな禿頭の男が現れた。
「何、表で騒ぎやがるんで。軽く脅して帰らせまさあ」
赤毛の男の口ぶりからして、禿頭が格上らしい。
「オレ達は喧嘩しに来た訳じゃなく、正当な代金を受け取りに来ただけだぞ」
「うるせえ。今日の支払いはないんだよ。ごちゃごちゃぬかしやがると……」
赤毛はこれ見よがしに袖をまくり上げた太い腕に、棍棒をちらつかせる。
ジングはこっそりとローブの下でトランシーバーのスイッチを入れた。
「ん、ボクみたいな華奢な女性を殴るの?」
香澄が挑むように目を向ける。
無言のまま振り下ろされる棍棒をかわすと、香澄はさっき入ってきた玄関先へ。
鍵を開けると、思いきり扉を開いた。
「きゃーこわーい、力づくでもお金払わないとか、ここのご主人って……!」
「この女……!」
香澄はまたも引き摺りこまれる。
だが逆に掴まれた腕を捻り、香澄は赤毛を床に叩きつけた。
開いたドアから野次馬のような振りをして、神楽が駆けこむ。
「だいじょうぶっすか?」
内部の状況的には『どっちがだ?』という雰囲気ではあるが。
「こいつらおねえさんの敵っすか?」
「よくわかんないんだけどね! いきなり脅されちゃった♪」
呻く男を邪気のない顔で抑えつけながら、香澄がぬけぬけと言い放つ。
「それはひどいっす!」
床に転がった棍棒を取り上げ、神楽は容易く折り曲げた。
「お前達の右腕をこんな感じに曲げてやるっす! 大丈夫! 左腕は残してやるっすから! 神楽さんの優しさに感謝するっすよ!」
禿頭がそれを見て、ようやくこちらの正体に勘づいたようだ。
続いてロイドがドアから顔を覗かせる。
「お邪魔いたします」
「お前は誰だ!」
禿頭が睨みつけると、ロイドは堂々と胸を逸らす。
「さる御方の使いで、こちらに取引の話に来たのだが。直ぐに暴力に訴える部下、か」
すっと細めた目で広間を見まわす。
「……これが客に対する態度なれば、このまま帰る事も考えねばな」
力では不利。理屈でも不利。用心棒の迷いに、ジングがつけこむように声をかける。
「な、ちょっとの間だけ、静かに話でもしようぜ。怪我すんのもうまい話逃すのもまずいんだろ?」
「う……むむ」
さり気なくジングが用心棒の肩を抱えて、視線を玄関から逸らした。
●捜索開始
香澄からの連絡を受け、ジュードと冥々がドアの隙間から滑りこむ。
用心棒達が背中を向けているうちに、広間を横切った。
冥々は軍人らしい身のこなしで低い姿勢のまま、素早く階段を上がった。
「こういうゲロでっかい家って、隠し通路とかあったりして……うひひ! ロマンだね!」
3階に躍り出たところで、家の中の雰囲気が変わる。事務所然としていたのが、生活の匂いが感じられるのだ。
「ここが住居ってことか?」
鍵のかかっていない扉を静かに開け、そっと忍びこんだ。
……つもりだったが、中に人がいた。
「お姉ちゃん……誰?」
「うおっ!?」
10歳ぐらいの子供がきょとんとした顔でこちらを見ていたのだ。
「あー、びっくりしたぜ。僕は冥々さんってんだ。ここんちの子か?」
冥々はどっかりと床に座り込む。見ると子供の物だろうか、小さなウクレレが転がっていた。
「だァれか知らねー? 僕らあの金がねーと困るんだよ」
ポロンとかき鳴らすと、子供は興味深そうに見つめる。
「そこの奴は母親の難病を治す為に金が必要で……あっちの奴は両親のせいで多額の借金を背負わされ……」
勿論大ウソである。だが冥々は切なげに歌って見せる。
「僕は家族を人質に取られて身代金を払わねーとみいんな殺されちまう……
セオっておっさんなんて……先天性オカネタベナイートシンデシマーウ病っつー奇病に冒されてて……
すぐにでも大金を食わせてやらねーとY字バランスで激しく回転しながら頭がハゲて死ぬ……
だからここのオヤジのことを知ってたら、是非教えて欲しいんだ……!」
セオが聞いていたら、履物で後頭部を殴られても文句は言えないだろう。
だが子供はびっくりしたように立ちあがった。
その頃、ジュードは2階の事務所で3人目の用心棒と対峙していた。
先の2人より一回り小さいように見えるが、凄みは上だ。
「お前は誰だ」
ジュードは慌てることも無く穏やかな笑顔を向け、丁寧に帽子をとってお辞儀する。
「失礼します、レオーニ商会の者ですが御主人様か番頭さんはいらっしゃいますか?」
男はじろりと眺めまわすと、淡々と答えた。
「さっき留守だと言ったはずだ。お前の所は腹癒せによその店で騒ぎを起こすような店なのか」
「おやそれは。ご都合の悪いときに度々お伺いしてすみません」
ジュードも引き下がらない。
「何かお身体が優れないとか、事情がおありでしたらお聞かせ願えませんか? 内容によっては上の方に僕の方からも説明しましょう」
「くどいぞ。今日は帰れと……!」
「何の騒ぎですか」
突然の鋭い女の声に、用心棒が動きを止める。
「お、奥様……」
美人だが険しい顔の女性が立っており、そのドレスの裾には10歳ぐらいの子供が半泣きでしがみ付いていた。
●無事解決……?
「え? やっぱり中にご主人がいたの?」
陽炎の声に、セオが腰を浮かせた。
「うん……うん、わかった」
トランシーバーを切って、セオに説明する。
「一応交渉は順調だって。用心棒もゲロ弱くて……」
「ゲロ?」
報告者は冥々だったようだ。首を傾げるセオに、陽炎もわからないまま適当に説明する。
「多分リアルブルーの軍人さんの暗号か何かなんじゃないかな……? とにかく俺たちもそろそろ行こう!」
そこでまたトランシーバーに連絡が入る。ハヤテだ。
その少し前まで、ハヤテは建物内の騒ぎをよそに静かな裏口の階段に腰掛けていた。
「ま、こっちが暇なのが一番だけどね」
取っ手を厳重に縄で縛った上で扉にハヤテがもたれかかっているので、簡単には開きそうもない。
そうしていたハヤテはふと建物を見上げ、軽く眉を顰めてトランシーバーでセオを呼び出したのだ。
「あー……一応確認したいんだけどね。ここの主人の人相とか背格好とか、教えてもらえるかな」
セオの返答を最後まで聞かず、ハヤテが立ちあがる。
「わかった。2階のバルコニーのアレだよね?」
そこから伸びたローブには恰幅のいい男がぶら下がっていたのだった。
男が地上に降りるのを待って、ハヤテが声をかける。
「こんにちは。ノッキオさんだよね、どこへ行くのかな?」
「ひっ!?」
おびえたように振り向く男に、ハヤテが薄い笑いを浮かべてみせた。
「お留守じゃなかったのかなあ? まあここで会えたなら話は早い、戻ってもらおうか……ボクは魔術師だからね。手加減下手だよ?」
本来は魔術に使う杖だが、殴られると充分痛そうではある。
「み、見逃してくれ! なんならこれを……!!」
男はポケットをまさぐり、数枚の銀貨を取り出す。
「ハハハ、いやだなあ。それじゃあボクが脅してるみたいじゃないか」
にこにこ微笑みながらハヤテは杖で軽く自分の肩を叩く。
「ボクは仕事できただけだからね。払う相手が違うんじゃないかな?」
軽く首を傾げて見せた相手は、駆けつけたセオ。
「ノッキオさん……! やっぱりいらっしゃったんですね……!!」
「うわあああ!!!」
振り向いたノッキオは悲鳴を上げる。だが見ているのは、セオではなくその背後の女性だった。
「アナタ! どういうことですの!?」
「うわあああああああああ!!!」
今度は全員が丁寧に応接間に通され、セオにはノッキオの奥方からきっちりと代金が支払われた。
「お恥ずかしいことで申し訳ありません」
こめかみに青筋が浮かんでいたが、奥方はあくまでも上品な笑顔でセオに詫びた。
どうやらノッキオは奥方に内緒の使いこみがあり、比較的おとなしい支払先を選んで先延べにしては、資金繰りを誤魔化していたらしい。
その詳細に触れる事は紳士的ではないので、セオも敢えて尋ねる事はなかった。
「今後とも当商会を宜しくお願い致します」
「こちらこそ、どうぞ宜しくお願いしますわ」
一見穏やかにお茶を頂きつつ、回収は無事完了。
冥々は椅子に掛け、子供のためにウクレレをつま弾く。
見るからにロッカーな冥々だが、偶にはバラードだって歌うのだ。
お父さんはみんなに届ける
幸せっていうぴかぴかを
魔法でお金の姿に変えて
みんなに届けるお父さん
優しいセオが幸せ受け取り
みんなに配ってあげるのさ
次に届ける日はいつか
セオが知ってる
聞いてごらん
「しあわせってなにー?」
何も知らない子供が冥々を見上げた。
「そうだなあ、皆が楽しく仲良くご飯が食べられることかな」
ポロン。
冥々は、ノッキオ商会主人の後の処遇についてはあえて考えない事にした。
<了>
一同は目的地に到着した。
(取り立てかあ……)
星見 香澄(ka0866)は内心ほくそ笑む。
直感が、この仕事を上手く片付ければ今後色々と楽しそうな事が待っていると告げている。
「ねえ、ちょっと確認なんだけど」
「はい、なんでしょう?」
香澄はセオに相手の名前、そして取引内容を尋ねる。
「我がレオーニ商会は主に装飾用の貴金属を扱っております。こちらのノッキオ宝飾店は老舗の大店で、当会が納品した細工物に宝石などを取り付け、販売しているのです」
その代金の支払いが遅れれば、レオーニ商会は次の仕入れに困る。だがいくら相手に非があれど、老舗の体面を敢えて傷つけるような事は商人の街ヴァリオスでは好まれないという訳だ。
ジュード・エアハート(ka0410)はセオに人懐こく笑って見せる。
「セオさんが困らないよう穏便に代金を徴収するよ。あとは俺達に任せて」
商売もハンターも信用第一。セオの信頼が得られるように無事に解決を図りたいところだ。
「要は、相手に大人しく従った方が得になる、若しくは損害を少なく抑えられる……と分からせれば良いのだろう」
眼鏡の位置を直しつつ、ロイド・ブラック(ka0408)が同行者を見まわした。
「隠れて支払いを逃れるとは、いい度胸っす! 払わないとどうなるか、思い知らせてやるっす!」
弱い相手には強い、神楽(ka2032)はえらく乗り気だった。
フワ ハヤテ(ka0004)が小さく肩をすくめて見せる。
「できればボクの活躍がないことを願うよ。それはつまり、万事うまく片付いたということだからね」
ハヤテはひらひらと手を振ると一行から離れ、路地裏に姿を消す。持ち場に向かったのだ。
「嘘偽りなしは面倒だが、要は本物の商談であればいいのではないかね?」
ロイドはまずは相手に接触することが第一だと思う。
相手が何を考えているのか。それさえ分かれば与しやすい。まして今回は、こちらに理があるのだ、堂々と正面から当たればよい。
ジング(ka0342)はトランシーバーの具合を確かめ身につけると、ローブをさり気なく巻きつけた。
「できれば話し合いで済んで、荒事にならなきゃ良いんだがね」
きちんと仕事を果たして、報酬を受け取る。そうやって信用を積み重ねれば、これからも仕事が回ってくるだろう。
生きて行くためには稼がねばならないのだ。
「じゃあ行こっか、ジング君。後でそのローブの下の物、分けてもらえると嬉しいんだけどな!」
香澄の探るような目線に、ジングは思わず苦笑いを浮かべた。
●問題の店
実に立派な玄関扉だった。
ライオンの口が咥えたノッカーのリングに手をかけ、香澄は力いっぱい打ちつける。
「ノッキオさーん、今日が期限の代金を頂きに来ましたよー。しっかり払ってくださいね♪」
よく通る声に、道行く人が何事かと振り返った。
内側で慌ただしい音がしてドアが開き、隙間から覗いた赤毛の男が香澄を見下ろした。
「おめえ、どこのモンだ? 見慣れねえ顔だな」
「オレ達はとある人の代理で、取引の代金を回収に来たんだ。中に入れてくれんか」
香澄の後ろからジングが顔を出した。
「……とある人? 怪しい連中だな、帰んな」
用心棒がドアを閉めようとするところに、ジングが片膝を突っ込む。
「まあそう言うなって。オレ達も雇われの身なんでね、手ぶらじゃ帰れねえ。とりあえずご主人と形だけでも話をさせてくれんか?」
ローブの下から、ちらりと覗く酒瓶。
「払うもの払わないなんて、商人の沽券に関わりますよ♪」
畳みかけるように香澄が声を張り上げた。
「ったく、とりあえず入れ!」
用心棒が舌打ちしながらドアを開く。香澄とジングはひとまずは中に入ることに成功した。
「よし、行こう」
「了解っす!」
ドアがまだ閉まりきる前に、素早くジュード、ロイド、神楽が物陰から姿を表し、駆け寄っていく。
「うまくいったみたいだね」
陽炎(ka0142)が囁く。だがセオは首を横に振った。
「あの後、裏口から押し出されるんですよ」
「大丈夫じゃないかな? 何かあったらこっちに連絡は入ると思うよ。それにしても面白いよねぇ、この『とらんしぃばぁ』って道具……」
ザザっと時折呟く小箱を、陽炎は興味深そうに眺める。
「うひひひひひひひっ!! お邪魔シマスして金取り立ててハイそれでお仕舞いってんじゃゲロつまんねーしなァ!」
毒々沼 冥々(ka0696)が口の端を釣りあげて笑う。
「しっかし待ってるだけってのもゲロかったりーな。とびきりハイなのを一曲トバしてこうか!タイトルは――『冥々イズム』!!」
大通りでノリノリで歌い始める冥々。
「毒々沼冥々! 毒々沼冥々! 毒々沼冥々だぜ野郎共!! 今日も僕の事愛してるかいッ!?心で音楽を奏でているかいッ!?」
すごく目立つ。だがお陰で、物陰からあからさまにノッキオ商会を見張っているセオ達は目立たない。
陽炎はふと思いついたように、セオに尋ねた。
「そういえばさ、ここの主人って今回はどうも様子がおかしい気がするんだ。何か最近変わった事とかなかったのかな?」
暫く考え込むセオ。
「どうでしょう……? 特に思い当たることはありませんが」
「ご近所に聞いてみようか?」
その提案にはセオが反対した。『何か揉め事がある』と近所に触れまわっているような物だからだ。
「じゃあさ、どんな人なのか教えてもらっていい?」
「そうですね……」
主人は50前後。恰幅のいい、いかにも裕福な商人という風情。美しい奥方の尻に敷かれているという噂もある。そんなところであった。
「そっか。あのね、君の立場上難しい頼みかもしれないけど……まず主人の話を聞いてみてはくれないかな? 何か事情があるかもしれないから」
「勿論、当人が出て来て下さればお話ぐらいは伺いますよ。会う前に追い出されなければ、ですけれど」
セオが溜息をついた。
●用心棒
家の中も中々に立派だった。品の良い調度品がきれいに飾られていて、金に困っているようにはとても見えない。
「おい、どうした」
奥から身体の大きな禿頭の男が現れた。
「何、表で騒ぎやがるんで。軽く脅して帰らせまさあ」
赤毛の男の口ぶりからして、禿頭が格上らしい。
「オレ達は喧嘩しに来た訳じゃなく、正当な代金を受け取りに来ただけだぞ」
「うるせえ。今日の支払いはないんだよ。ごちゃごちゃぬかしやがると……」
赤毛はこれ見よがしに袖をまくり上げた太い腕に、棍棒をちらつかせる。
ジングはこっそりとローブの下でトランシーバーのスイッチを入れた。
「ん、ボクみたいな華奢な女性を殴るの?」
香澄が挑むように目を向ける。
無言のまま振り下ろされる棍棒をかわすと、香澄はさっき入ってきた玄関先へ。
鍵を開けると、思いきり扉を開いた。
「きゃーこわーい、力づくでもお金払わないとか、ここのご主人って……!」
「この女……!」
香澄はまたも引き摺りこまれる。
だが逆に掴まれた腕を捻り、香澄は赤毛を床に叩きつけた。
開いたドアから野次馬のような振りをして、神楽が駆けこむ。
「だいじょうぶっすか?」
内部の状況的には『どっちがだ?』という雰囲気ではあるが。
「こいつらおねえさんの敵っすか?」
「よくわかんないんだけどね! いきなり脅されちゃった♪」
呻く男を邪気のない顔で抑えつけながら、香澄がぬけぬけと言い放つ。
「それはひどいっす!」
床に転がった棍棒を取り上げ、神楽は容易く折り曲げた。
「お前達の右腕をこんな感じに曲げてやるっす! 大丈夫! 左腕は残してやるっすから! 神楽さんの優しさに感謝するっすよ!」
禿頭がそれを見て、ようやくこちらの正体に勘づいたようだ。
続いてロイドがドアから顔を覗かせる。
「お邪魔いたします」
「お前は誰だ!」
禿頭が睨みつけると、ロイドは堂々と胸を逸らす。
「さる御方の使いで、こちらに取引の話に来たのだが。直ぐに暴力に訴える部下、か」
すっと細めた目で広間を見まわす。
「……これが客に対する態度なれば、このまま帰る事も考えねばな」
力では不利。理屈でも不利。用心棒の迷いに、ジングがつけこむように声をかける。
「な、ちょっとの間だけ、静かに話でもしようぜ。怪我すんのもうまい話逃すのもまずいんだろ?」
「う……むむ」
さり気なくジングが用心棒の肩を抱えて、視線を玄関から逸らした。
●捜索開始
香澄からの連絡を受け、ジュードと冥々がドアの隙間から滑りこむ。
用心棒達が背中を向けているうちに、広間を横切った。
冥々は軍人らしい身のこなしで低い姿勢のまま、素早く階段を上がった。
「こういうゲロでっかい家って、隠し通路とかあったりして……うひひ! ロマンだね!」
3階に躍り出たところで、家の中の雰囲気が変わる。事務所然としていたのが、生活の匂いが感じられるのだ。
「ここが住居ってことか?」
鍵のかかっていない扉を静かに開け、そっと忍びこんだ。
……つもりだったが、中に人がいた。
「お姉ちゃん……誰?」
「うおっ!?」
10歳ぐらいの子供がきょとんとした顔でこちらを見ていたのだ。
「あー、びっくりしたぜ。僕は冥々さんってんだ。ここんちの子か?」
冥々はどっかりと床に座り込む。見ると子供の物だろうか、小さなウクレレが転がっていた。
「だァれか知らねー? 僕らあの金がねーと困るんだよ」
ポロンとかき鳴らすと、子供は興味深そうに見つめる。
「そこの奴は母親の難病を治す為に金が必要で……あっちの奴は両親のせいで多額の借金を背負わされ……」
勿論大ウソである。だが冥々は切なげに歌って見せる。
「僕は家族を人質に取られて身代金を払わねーとみいんな殺されちまう……
セオっておっさんなんて……先天性オカネタベナイートシンデシマーウ病っつー奇病に冒されてて……
すぐにでも大金を食わせてやらねーとY字バランスで激しく回転しながら頭がハゲて死ぬ……
だからここのオヤジのことを知ってたら、是非教えて欲しいんだ……!」
セオが聞いていたら、履物で後頭部を殴られても文句は言えないだろう。
だが子供はびっくりしたように立ちあがった。
その頃、ジュードは2階の事務所で3人目の用心棒と対峙していた。
先の2人より一回り小さいように見えるが、凄みは上だ。
「お前は誰だ」
ジュードは慌てることも無く穏やかな笑顔を向け、丁寧に帽子をとってお辞儀する。
「失礼します、レオーニ商会の者ですが御主人様か番頭さんはいらっしゃいますか?」
男はじろりと眺めまわすと、淡々と答えた。
「さっき留守だと言ったはずだ。お前の所は腹癒せによその店で騒ぎを起こすような店なのか」
「おやそれは。ご都合の悪いときに度々お伺いしてすみません」
ジュードも引き下がらない。
「何かお身体が優れないとか、事情がおありでしたらお聞かせ願えませんか? 内容によっては上の方に僕の方からも説明しましょう」
「くどいぞ。今日は帰れと……!」
「何の騒ぎですか」
突然の鋭い女の声に、用心棒が動きを止める。
「お、奥様……」
美人だが険しい顔の女性が立っており、そのドレスの裾には10歳ぐらいの子供が半泣きでしがみ付いていた。
●無事解決……?
「え? やっぱり中にご主人がいたの?」
陽炎の声に、セオが腰を浮かせた。
「うん……うん、わかった」
トランシーバーを切って、セオに説明する。
「一応交渉は順調だって。用心棒もゲロ弱くて……」
「ゲロ?」
報告者は冥々だったようだ。首を傾げるセオに、陽炎もわからないまま適当に説明する。
「多分リアルブルーの軍人さんの暗号か何かなんじゃないかな……? とにかく俺たちもそろそろ行こう!」
そこでまたトランシーバーに連絡が入る。ハヤテだ。
その少し前まで、ハヤテは建物内の騒ぎをよそに静かな裏口の階段に腰掛けていた。
「ま、こっちが暇なのが一番だけどね」
取っ手を厳重に縄で縛った上で扉にハヤテがもたれかかっているので、簡単には開きそうもない。
そうしていたハヤテはふと建物を見上げ、軽く眉を顰めてトランシーバーでセオを呼び出したのだ。
「あー……一応確認したいんだけどね。ここの主人の人相とか背格好とか、教えてもらえるかな」
セオの返答を最後まで聞かず、ハヤテが立ちあがる。
「わかった。2階のバルコニーのアレだよね?」
そこから伸びたローブには恰幅のいい男がぶら下がっていたのだった。
男が地上に降りるのを待って、ハヤテが声をかける。
「こんにちは。ノッキオさんだよね、どこへ行くのかな?」
「ひっ!?」
おびえたように振り向く男に、ハヤテが薄い笑いを浮かべてみせた。
「お留守じゃなかったのかなあ? まあここで会えたなら話は早い、戻ってもらおうか……ボクは魔術師だからね。手加減下手だよ?」
本来は魔術に使う杖だが、殴られると充分痛そうではある。
「み、見逃してくれ! なんならこれを……!!」
男はポケットをまさぐり、数枚の銀貨を取り出す。
「ハハハ、いやだなあ。それじゃあボクが脅してるみたいじゃないか」
にこにこ微笑みながらハヤテは杖で軽く自分の肩を叩く。
「ボクは仕事できただけだからね。払う相手が違うんじゃないかな?」
軽く首を傾げて見せた相手は、駆けつけたセオ。
「ノッキオさん……! やっぱりいらっしゃったんですね……!!」
「うわあああ!!!」
振り向いたノッキオは悲鳴を上げる。だが見ているのは、セオではなくその背後の女性だった。
「アナタ! どういうことですの!?」
「うわあああああああああ!!!」
今度は全員が丁寧に応接間に通され、セオにはノッキオの奥方からきっちりと代金が支払われた。
「お恥ずかしいことで申し訳ありません」
こめかみに青筋が浮かんでいたが、奥方はあくまでも上品な笑顔でセオに詫びた。
どうやらノッキオは奥方に内緒の使いこみがあり、比較的おとなしい支払先を選んで先延べにしては、資金繰りを誤魔化していたらしい。
その詳細に触れる事は紳士的ではないので、セオも敢えて尋ねる事はなかった。
「今後とも当商会を宜しくお願い致します」
「こちらこそ、どうぞ宜しくお願いしますわ」
一見穏やかにお茶を頂きつつ、回収は無事完了。
冥々は椅子に掛け、子供のためにウクレレをつま弾く。
見るからにロッカーな冥々だが、偶にはバラードだって歌うのだ。
お父さんはみんなに届ける
幸せっていうぴかぴかを
魔法でお金の姿に変えて
みんなに届けるお父さん
優しいセオが幸せ受け取り
みんなに配ってあげるのさ
次に届ける日はいつか
セオが知ってる
聞いてごらん
「しあわせってなにー?」
何も知らない子供が冥々を見上げた。
「そうだなあ、皆が楽しく仲良くご飯が食べられることかな」
ポロン。
冥々は、ノッキオ商会主人の後の処遇についてはあえて考えない事にした。
<了>
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相談卓 ジュード・エアハート(ka0410) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/06/16 00:04:00 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/11 09:43:26 |