ゲスト
(ka0000)
初夏の幽霊屋敷
マスター:黒木茨

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 不明
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/08 22:00
- 完成日
- 2015/06/17 03:19
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●あなたが三人目
「いい雰囲気の場所だなぁ。タダ同然の値段で住んでいいのかな?」
と言いながら少女は荷物を広げた。
家に困っているところを知り合いの夫婦から紹介してもらった館。掃除は行き渡っていて、窓から見える薔薇園も綺麗だ。
工場で燻っていた程度の自分にこんな館、いいのだろうか。そう少女が疑問に思っていると……
「……!?」
視線を感じたのか、振り返った。しかし、少女の視界の中に可笑しなものは見当たらない。
「引っ越しの疲れが出たのかな……」
首を傾げ、再び荷物の整理をしているとき、少女の肌に骨ばった手が滑った。
「誰!」
骨。
少女の目に広がったのはそれであった。骸骨の空虚な眼孔がじっと少女を見つめている。
絹を裂くような悲鳴が上がった。
「何……何なの……」
隣の部屋に駆け込み、鍵を閉めて震える少女。
館の周囲は森、救いの手はどこにもなかった。
●数日後
その知り合いの夫婦の事務所で、少女は声を荒げている。
「もう嫌! 悪いけど、別のところを探します!」
あれから数日。すっかり顔色の悪くなった少女は机を強く叩き、荷物を抱えて出て行く。
「本当にすまなかった……」
男の謝罪も、既に扉の向こうの少女には届かない。
「これで三人目、冗談じゃない……!」
少女の出て行った事務所で男はぼやく。隣に居る女は顎に手を当てて口を開く。
「一旦、調べたほうがいいんじゃないかしら」
男は頭を抱えた。
「調査しろと……! あれを……?」
女は男に茶を注ぎながら言った。
「たしかに気味が悪いわ……けど、このままじゃ売るに売れないわよ」
売るに売れない、という言葉で男は言葉を止めた。女は続ける。
「もしかしたら変なものが棲みついているかも……」
そういった場合は自分たちには手が負えない。男は考え込み、便箋を取り出した。
「仕方ない……」
そして、ペンを走らせる。
●ある日のハンターオフィス
「あるにはあるんですが……。ヴァリオスからです」
面白い依頼はないだろうか、とあるハンターが問えば歯切れの悪い様子で受付嬢が告げた。
「ポルトワールに依頼人の方が持っている館があるそうなんですが、最近奇妙なことが起こっていて、調査してほしいみたいです」
しかし、ハンターに依頼するというからには……そう思っていると受付嬢が続きを言った。
「中で歪虚が生まれているようだったら、自分たちでは手が負えないから……だそうで。期間は最大で三日間、一日ごとに何らかの形で調査結果の報告をしてほしいみたいです」
なんだかやることが多そうだ。ハンターの顔色が変わったのを受付嬢は素早く読み取り、一言付け加えた。
「その代わり、報酬は多く出るみたいですよ! 受けるのでしたら、あちらで手続きをお願いします」
にこにことした受付嬢の笑顔と、報酬の話にハンターは頭を悩ませた。
「いい雰囲気の場所だなぁ。タダ同然の値段で住んでいいのかな?」
と言いながら少女は荷物を広げた。
家に困っているところを知り合いの夫婦から紹介してもらった館。掃除は行き渡っていて、窓から見える薔薇園も綺麗だ。
工場で燻っていた程度の自分にこんな館、いいのだろうか。そう少女が疑問に思っていると……
「……!?」
視線を感じたのか、振り返った。しかし、少女の視界の中に可笑しなものは見当たらない。
「引っ越しの疲れが出たのかな……」
首を傾げ、再び荷物の整理をしているとき、少女の肌に骨ばった手が滑った。
「誰!」
骨。
少女の目に広がったのはそれであった。骸骨の空虚な眼孔がじっと少女を見つめている。
絹を裂くような悲鳴が上がった。
「何……何なの……」
隣の部屋に駆け込み、鍵を閉めて震える少女。
館の周囲は森、救いの手はどこにもなかった。
●数日後
その知り合いの夫婦の事務所で、少女は声を荒げている。
「もう嫌! 悪いけど、別のところを探します!」
あれから数日。すっかり顔色の悪くなった少女は机を強く叩き、荷物を抱えて出て行く。
「本当にすまなかった……」
男の謝罪も、既に扉の向こうの少女には届かない。
「これで三人目、冗談じゃない……!」
少女の出て行った事務所で男はぼやく。隣に居る女は顎に手を当てて口を開く。
「一旦、調べたほうがいいんじゃないかしら」
男は頭を抱えた。
「調査しろと……! あれを……?」
女は男に茶を注ぎながら言った。
「たしかに気味が悪いわ……けど、このままじゃ売るに売れないわよ」
売るに売れない、という言葉で男は言葉を止めた。女は続ける。
「もしかしたら変なものが棲みついているかも……」
そういった場合は自分たちには手が負えない。男は考え込み、便箋を取り出した。
「仕方ない……」
そして、ペンを走らせる。
●ある日のハンターオフィス
「あるにはあるんですが……。ヴァリオスからです」
面白い依頼はないだろうか、とあるハンターが問えば歯切れの悪い様子で受付嬢が告げた。
「ポルトワールに依頼人の方が持っている館があるそうなんですが、最近奇妙なことが起こっていて、調査してほしいみたいです」
しかし、ハンターに依頼するというからには……そう思っていると受付嬢が続きを言った。
「中で歪虚が生まれているようだったら、自分たちでは手が負えないから……だそうで。期間は最大で三日間、一日ごとに何らかの形で調査結果の報告をしてほしいみたいです」
なんだかやることが多そうだ。ハンターの顔色が変わったのを受付嬢は素早く読み取り、一言付け加えた。
「その代わり、報酬は多く出るみたいですよ! 受けるのでしたら、あちらで手続きをお願いします」
にこにことした受付嬢の笑顔と、報酬の話にハンターは頭を悩ませた。
リプレイ本文
●一日目昼・街
「あの館……この街では有名なのかな? 幽霊が出るって聞いたんだけど」
正午。仲間と別れた慈姑 ぽえむ(ka3243)は、館の付近――といっても、かなり離れている喫茶店で聞き込みを始めていた。
「あぁ……あの館か。あの夫婦が管理するようになるまではそんな話もなかったのだがなぁ」
「そうだったの?」
その話を詳しく聞こうと、ぽえむは興味があるようなそぶりを見せる。マスターはのんびりと答えた。
「幽霊の噂が出たのも、他人に貸すようになってからかねぇ……そうだな、最初の一人が長かった気がするが、後はあっという間に出て行っちまう」
常連はおかわりを要求しつつ、ぽえむの方を向く。
「一人目は男だったかな。度々ここで床がすぐ抜けるだとか、二階に骸骨の幽霊が出るとか愚痴を言ってたかね」
マスターは答えながら珈琲をカウンターに置き、また別の作業へ移る。
「その人は、他になにか言っていたかな?」
ぽえむの言葉に常連とマスターは首を振ると、俯きがちに言った。
「……すまないね。他を当たってくれ」
聞き終えるとぽえむは見取り図を広げて、先ほど聞き取った情報を書き込んでいく。
情報をまとめると可愛らしい笑顔を浮かべて礼を言い、別の店へと足を向けた。
「……よし、これだ。確認してくれ」
所変わってヴァリオスの事務所では、巡間 切那(ka0583)が依頼人夫婦の男から名簿を受け取り、ページを繰っている。
「気になってたんだが、どういう経緯であの館を管理することになったんだ?」
「知り合いの家族から頼まれたのよ。その家族がどうなったかはわからないけど……幽霊なんて。いったい何やってたのかしら」
切那に問われ、女は苦々しげに答えた。
「へぇ……」
「他に何か?」
「いいや、とくに。ありがとな」
切那は手の代わりに名簿の写しを振って事務所を出て行った。
そして、急いで転移装置を使い、ポルトワールに向かう。
「例の館の話を聞かせてくれ」
そして、切那も聞き込みを始めた。相手は、かつて例の館を借りた少女である。
「あんた、ハンター……ってことは、歪虚騒ぎなの?」
話しかけられた少女は切那の風貌を見て問う。
「いいや。まだわからないね。まあ、幽霊なんかより対処のしやすいヴォイドである事を祈るのみ、かね?」
「……骸骨の幽霊のほかには、窓の外を見てたら突き落とされたり……」
少女は信用したのか、切那に語り始める。
「ネズミも多くて……もう、あんなところは懲り懲り」
どうやらいろいろと怖い目にあったらしい。少女が首を振りながら答えるのを、切那は頷きながら聞いていた。
●一日目昼・館
ぽえむと切那が聞き込みをしている間、四人は館に向かっていた。
(普段は空き家ですか。ならば……)
馬を繋ぎ終えた瑚月(ka3909)は顎に手を当てて考えつつ、
「幽霊なんている訳ねーじゃん! 俺たちで正体暴いてやろーぜ!」
鳴沢 礼(ka4771)は強がりながら、二人で館の周辺をぐるりと回ることにした。
見取り図と実物を見比べて、瑚月は自分の歩幅と歩数から慎重に計算する。
礼は窓と壁の厚みをじっと観察して、不自然な場所がないか見た。
一時間かけて一周してみたが……外からわかるような不審な点はとくに見られない。二人も先発の女性陣を追い、中に入っていった。
先に中に入っていった女性陣はというと。
「怪談じみた話は苦手……だったんだけどな」
仕事への慣れを複雑に思いながら、八原 篝(ka3104)はランタンで暗所を照らしていた。
「どうもどうもー! 今回は幽霊屋敷と聞いて、取材に来ました!」
おじゃましまーす!といった雰囲気で、アシュリー・クロウ(ka1354)は中を巡る。アシュリーは廊下の長さと部屋の広さに注目しているが、今のところ異常な点は見当たらないようだ。
(借り手が付かない割には掃除が行き渡っている……?)
篝は不審に思いながら、人の隠れられそうな場所を慎重に当たってみる。
「そこの鍵、開けておいたよ」
篝はちょうど入ってきていた礼に言う。
「ありがとな!」
にかっと笑って、用途不明の部屋とされている場所に入り込んだ礼は、開いた扉の隙間から漂う異臭に顔を顰めた。何かの肉が腐ったような匂いだ。
「なんだこれ……?」
鼻を押さえながら詳しく調べてみると、何らかの魔術道具がいくつか発見できた。
ここで何が行われていたのか? 礼は震える足で調査を進めた。
「ふむ……」
瑚月は算出した寸法を自らの見取り図に書き込んだ。
「妙なスペースは見当たりませんねー」
アシュリーも不思議そうに瑚月の見取り図を眺めている。細かく記されたそれらは緻密で、見る人が見れば深く感銘を受けるものだろう。
「俺はまだ調べてみます。アシュリーさんはどうしますか?」
「そうですねー。私は薔薇園の方を見てきます!」
そうして瑚月は館内の、アシュリーは外の薔薇園の調査へ駆け出した。
「これは……!?」
全体の探索を一段落させた篝は、書斎である書物を発見した。
端的にいえば、魔法生物の研究、ゴーレムの作り方……などの魔術書。そして、日記。
今、篝が開いているのはその日記である。
内容は――この館を使って研究を行い、最終的にはアンデッドの完成を目指す……誰も寄せ付けないよう、来る者はなんとしてでも追い払うこと。手始めに死体や骨を使ったゴーレムを作ってみる――といったものだった。
拾ってきた死体の状態や扱いについて記された部分については、やや読み取りづらい。それがなおさら気持ち悪く感じてか、なんとなく居心地の悪くなった篝は廊下に出た。
「うわーっ!?」
そんなとき、階下で悲鳴が聞こえた。食堂の方向だった。篝は走る。
「いてて……」
悲鳴に駆けつけた瑚月と篝が様子を伺うと、礼が椅子から落ちたのか頭を抑えて立ち上がろうとしていた。
「だ、大丈夫だ!」
礼が気まずそうに目を泳がせた頃にはもう、時計の針は18時を指していた。
館からヴァリオスまで赴き、まとめた情報を夫婦に報告していた篝は、探索中の疑問点を夫婦に聞いた。
「誰かを雇って館の手入れとかしてるの?」
「いいえ? 最近は全然……」
怪訝そうな顔をしている。やはり、誰かが出入りしているのは間違いない。日記の出来事は現在も起こっている……篝は確信して、報告を終えた。
●一日目・夜
「この日記を書いたのは一人目の持ち主みたいね」
「っていうと、じゃあ……」
晩餐の中、情報が交換される。
篝と切那が名簿の写しと日記の書名、礼の見つけた魔術道具が、日記の内容を裏付けた。
それが終わった後、アシュリーと礼は地下のワインセラーまで降りていた。
「こういう物件に黒幕がいるなら、隠し部屋がセオリーなんですけどねぇ。上や薔薇園の方に無いとすればここでしょう。さーて……」
アシュリーは昼と同じ調子で、ワインセラーの壁を注意深く観察する。
「うわ、何だあの影!?」
礼が素っ頓狂な声を上げて、反対側の壁を指差した。
「何もないじゃないですか。怖いなら戻ってもいいですよぉ?」
「怖くねーし!」
怖がる礼とは対照的にへらりと笑うアシュリーは、叩いた壁の音が他の壁と違うことに気がつく。
「ちょっといいですか」
えいっと壁の中から扉を発掘した二人は、その扉に鍵がかかっていないことに気付く。
中に入った礼とアシュリーを迎えたのは、礼が嗅いだものと同じ異臭と、床に描かれた魔法陣である。
他には、樽と机に椅子――生活の痕跡が見られる――ぐらいだ。
樽の中を覗きこんだ礼は、髑髏のぽっかりと開いた眼孔と目が合う。
いくつもの人骨を見てしまった礼は、顔を真っ青にして叫んだ。
「こんな状況でも、就寝前の一杯は欠かせませんよねぇ」
アシュリーはあの部屋を見てもなお、けろりとしてブランデーを呑んでいる。
「怖かった……なんでアシュリーさんは平気なんだ……」
「いったい、何を見たの?」
顔の青い礼を心配してぽえむが尋ねたが、礼は「明日な……」と首を振るばかりだった。
(ワインセラーに何かあるのかな……)
ぽえむはぽっと考えた。
●二日目・朝&昼
夜明け前。酒場から館に戻った瑚月は真新しい足跡を発見した。
「誰か来ている……!? まさか」
瑚月はそのことを目覚めた仲間に報告した。
アシュリーと礼から伝えられていた場所をぽえむと篝が調べてようとしていたところだ。瑚月も調査に加わることにした。
篝が読んだ日記と書斎の魔術書の内容から考えるに、滞在者が試みていた魔術はここで行われていたようだが……
「この匂い……あの部屋でも嗅いだ」
篝の言葉に瑚月が反応する。
「では、そちらも調べますか」
「わかった! 前の住人が突き落とされた場所は」
その時、聞き込みから戻ってきた切那と礼の声が響く。
が……雨音に紛れていても目立つような、物音と悲鳴でほとんど掻き消されてしまった。
「うう……痛いですねぇ」
その場にいた者が慌てて向かうと、アシュリーが生垣の上に倒れている。
前の住人が突き落とされた場所――子供部屋から薔薇園を覗いていたアシュリーは、前の住人とそっくり同じ様に外に投げ出されたらしい。誰がやったかは見ていない、という。
運が良かったのか、大した怪我でないことがわかり、ハンターたちは探索を再開した。
礼はキッチンの扉を開けた。
というのも、午前の聞き込みで調理器具が襲い掛かるという情報を得た故にである。
「あ、ちょうどお昼ご飯を作ろうと思ってて……」
そう言って先客ぽえむが棚を開けたそのとき。調理器具がひとりでにガタガタッと激しい音を立てて動き出す。
「ぴゃぁぁぁ……」
その場にしゃがみこみ、情けない悲鳴を上げるぽえむをそのままにしておくわけにもいかず、礼は日本刀を抜いた。
自分に向かって襲い掛かるそれらを受け流していると、そのうち動きを止める。
がちゃがちゃと煩い音を立てて調理器具が床に転がっていった。
切那たちは用途不明の部屋とされている部屋……そこをもう一度調べることとなった。
「なるほど……同じですね」
瑚月も異臭の意味に気付き、肩を竦める。
「最初は鍵がかかっていたわね。もしかしたら、地下と同じことをしていたのかも」
篝がランタンで中を照らす。光に浮かび上がったのは、拭き損ねたのか、うっすらと残っている血の痕跡。
雷鳴が轟く。窓を激しい雨が叩いていた。
「じゃあ、この部屋の用途ってつまり……あれか?」
切那が鋭くもたどり着く。
「いえ……元々は真っ当な用途があったはずでしょう」
瑚月は首を振り、かつての家族を思って言った。
「一人目……彼が捻じ曲げてしまったのね」
篝は日記を開き、更なる手がかりを求めた。
●二日目・夜
その夜、瑚月が報告に向かう前に、それぞれの行動を送っていたハンターたちは、玄関の開く音を聞く。
不審に思った六人が見ると、そこには深くフードを被った人間が立っている。
「そうか……さっき男が馬で走り去って行ったからまさかとは思っていたが……気付かなかった。……見たのか?」
ハンターたちを男は鋭い眼光で睨みつけた。彼が気にしているのは、隠し部屋や日記のことだろう。
「当然! 取材ですからねぇ」
「ええ、もちろんです」
アシュリーと瑚月は堂々と応じる。
「やっぱり、幽霊じゃなかったんだな!」
礼も相手が人間と分かって安堵したのか、迷いの無い動きで抜刀する。
「聞くまでもないか……これだけはしたくなかったんだが、見られちまったなら仕方ない」
男はポケットからネズミを出し、床に放った。
「ここで全員始末してやる!」
そう言って、魔術師がぶつぶつとうわ言のように詠唱すれば、地下からスケルトンが這い上がってきたのか、人が到底立てられないような足音が響いている。
ネズミ、魔術師、スケルトン……これらを同時に相手することになった。
最初に動いたのは瑚月だった。ワイヤーウィップがネズミを薙ぎ払う。
「なんてことしやがる!」
瑚月の攻撃で魔術師は詠唱を中断し、スケルトンの動きが緩んだ。
その隙を突き、アシュリーは魔術師にショートソードを振りまわし威嚇する。
「早く降参するなら怪我も少ないと思いますよぉ」
「なめやがって!」
魔術師は隠し持っていたナイフでショートソードを受け流した。詠唱が再開される。
スケルトンが後ろから雪崩込むように向かってくる。
「おらよぉ!」
その勢いを殺すように、振り向いた切那の飛燕とスラッシュエッジが唸る。
砕けた骨の欠片が館の廊下に次々と落ちていった。
「壊すわけにはいかないよね」
まだ後方に控えているスケルトンには、篝のダーツのプレゼントが待っていた。
「いっけー!」
そして最後にはぽえむのホーリーライトによる衝撃で跡形もなくなっていく。
「この……! 食らえ!」
アシュリーの剣を弾き返した魔術師の眼前に、刀を振り上げた礼の姿が浮かび上がる。
礼はそのまま魔術師の額を峰打ちし、相手を気絶させた。
「報告に行くなら、依頼主の他に軍にもこのことを伝えましょう」
篝の持っていたロープで縛り上げられた魔術師を椅子に座らせながら、瑚月が言う。
この場にいるハンターも、異論はなかった。
●三日目
「離せ! 俺が誰だかわかっているのか!」
ハンター達に暴言を吐きながら、魔術師は軍へ引き渡されていった。
魔術の実験ついでに、動物を捕まえては酷いやり方で殺していたという。
人骨は秘密裏に引き取った死体から抜き取ったもの……らしい。
状況が状況だけに、今回は軍に加えて、魔術師協会も取り調べに同伴するという。
それから暫く待って、他にこれといった怪異現象が起こらないことを確認したハンターたちは、事の全てを依頼人夫婦に報告に行った。
「そうだったんですか……ありがとうございました。報酬は後にお支払いします」
こう依頼の終了を告げられ、彼らの中にはどこか肩の荷が下りたような気持ちになっている者もいた。
もう幽霊屋敷に関わらずに済むことに喜ぶものもいただろう。
「……これで終わりか。怖かったけど楽しかったかなぁ。帰ったらまた一人かぁ……ちょっと、寂しい」
ぽえむは、いつもの口調とは違う言葉でぽつりと呟いた。
(幽霊でもいいから誰かいてくれれば……なんて、ね)
「あの館……この街では有名なのかな? 幽霊が出るって聞いたんだけど」
正午。仲間と別れた慈姑 ぽえむ(ka3243)は、館の付近――といっても、かなり離れている喫茶店で聞き込みを始めていた。
「あぁ……あの館か。あの夫婦が管理するようになるまではそんな話もなかったのだがなぁ」
「そうだったの?」
その話を詳しく聞こうと、ぽえむは興味があるようなそぶりを見せる。マスターはのんびりと答えた。
「幽霊の噂が出たのも、他人に貸すようになってからかねぇ……そうだな、最初の一人が長かった気がするが、後はあっという間に出て行っちまう」
常連はおかわりを要求しつつ、ぽえむの方を向く。
「一人目は男だったかな。度々ここで床がすぐ抜けるだとか、二階に骸骨の幽霊が出るとか愚痴を言ってたかね」
マスターは答えながら珈琲をカウンターに置き、また別の作業へ移る。
「その人は、他になにか言っていたかな?」
ぽえむの言葉に常連とマスターは首を振ると、俯きがちに言った。
「……すまないね。他を当たってくれ」
聞き終えるとぽえむは見取り図を広げて、先ほど聞き取った情報を書き込んでいく。
情報をまとめると可愛らしい笑顔を浮かべて礼を言い、別の店へと足を向けた。
「……よし、これだ。確認してくれ」
所変わってヴァリオスの事務所では、巡間 切那(ka0583)が依頼人夫婦の男から名簿を受け取り、ページを繰っている。
「気になってたんだが、どういう経緯であの館を管理することになったんだ?」
「知り合いの家族から頼まれたのよ。その家族がどうなったかはわからないけど……幽霊なんて。いったい何やってたのかしら」
切那に問われ、女は苦々しげに答えた。
「へぇ……」
「他に何か?」
「いいや、とくに。ありがとな」
切那は手の代わりに名簿の写しを振って事務所を出て行った。
そして、急いで転移装置を使い、ポルトワールに向かう。
「例の館の話を聞かせてくれ」
そして、切那も聞き込みを始めた。相手は、かつて例の館を借りた少女である。
「あんた、ハンター……ってことは、歪虚騒ぎなの?」
話しかけられた少女は切那の風貌を見て問う。
「いいや。まだわからないね。まあ、幽霊なんかより対処のしやすいヴォイドである事を祈るのみ、かね?」
「……骸骨の幽霊のほかには、窓の外を見てたら突き落とされたり……」
少女は信用したのか、切那に語り始める。
「ネズミも多くて……もう、あんなところは懲り懲り」
どうやらいろいろと怖い目にあったらしい。少女が首を振りながら答えるのを、切那は頷きながら聞いていた。
●一日目昼・館
ぽえむと切那が聞き込みをしている間、四人は館に向かっていた。
(普段は空き家ですか。ならば……)
馬を繋ぎ終えた瑚月(ka3909)は顎に手を当てて考えつつ、
「幽霊なんている訳ねーじゃん! 俺たちで正体暴いてやろーぜ!」
鳴沢 礼(ka4771)は強がりながら、二人で館の周辺をぐるりと回ることにした。
見取り図と実物を見比べて、瑚月は自分の歩幅と歩数から慎重に計算する。
礼は窓と壁の厚みをじっと観察して、不自然な場所がないか見た。
一時間かけて一周してみたが……外からわかるような不審な点はとくに見られない。二人も先発の女性陣を追い、中に入っていった。
先に中に入っていった女性陣はというと。
「怪談じみた話は苦手……だったんだけどな」
仕事への慣れを複雑に思いながら、八原 篝(ka3104)はランタンで暗所を照らしていた。
「どうもどうもー! 今回は幽霊屋敷と聞いて、取材に来ました!」
おじゃましまーす!といった雰囲気で、アシュリー・クロウ(ka1354)は中を巡る。アシュリーは廊下の長さと部屋の広さに注目しているが、今のところ異常な点は見当たらないようだ。
(借り手が付かない割には掃除が行き渡っている……?)
篝は不審に思いながら、人の隠れられそうな場所を慎重に当たってみる。
「そこの鍵、開けておいたよ」
篝はちょうど入ってきていた礼に言う。
「ありがとな!」
にかっと笑って、用途不明の部屋とされている場所に入り込んだ礼は、開いた扉の隙間から漂う異臭に顔を顰めた。何かの肉が腐ったような匂いだ。
「なんだこれ……?」
鼻を押さえながら詳しく調べてみると、何らかの魔術道具がいくつか発見できた。
ここで何が行われていたのか? 礼は震える足で調査を進めた。
「ふむ……」
瑚月は算出した寸法を自らの見取り図に書き込んだ。
「妙なスペースは見当たりませんねー」
アシュリーも不思議そうに瑚月の見取り図を眺めている。細かく記されたそれらは緻密で、見る人が見れば深く感銘を受けるものだろう。
「俺はまだ調べてみます。アシュリーさんはどうしますか?」
「そうですねー。私は薔薇園の方を見てきます!」
そうして瑚月は館内の、アシュリーは外の薔薇園の調査へ駆け出した。
「これは……!?」
全体の探索を一段落させた篝は、書斎である書物を発見した。
端的にいえば、魔法生物の研究、ゴーレムの作り方……などの魔術書。そして、日記。
今、篝が開いているのはその日記である。
内容は――この館を使って研究を行い、最終的にはアンデッドの完成を目指す……誰も寄せ付けないよう、来る者はなんとしてでも追い払うこと。手始めに死体や骨を使ったゴーレムを作ってみる――といったものだった。
拾ってきた死体の状態や扱いについて記された部分については、やや読み取りづらい。それがなおさら気持ち悪く感じてか、なんとなく居心地の悪くなった篝は廊下に出た。
「うわーっ!?」
そんなとき、階下で悲鳴が聞こえた。食堂の方向だった。篝は走る。
「いてて……」
悲鳴に駆けつけた瑚月と篝が様子を伺うと、礼が椅子から落ちたのか頭を抑えて立ち上がろうとしていた。
「だ、大丈夫だ!」
礼が気まずそうに目を泳がせた頃にはもう、時計の針は18時を指していた。
館からヴァリオスまで赴き、まとめた情報を夫婦に報告していた篝は、探索中の疑問点を夫婦に聞いた。
「誰かを雇って館の手入れとかしてるの?」
「いいえ? 最近は全然……」
怪訝そうな顔をしている。やはり、誰かが出入りしているのは間違いない。日記の出来事は現在も起こっている……篝は確信して、報告を終えた。
●一日目・夜
「この日記を書いたのは一人目の持ち主みたいね」
「っていうと、じゃあ……」
晩餐の中、情報が交換される。
篝と切那が名簿の写しと日記の書名、礼の見つけた魔術道具が、日記の内容を裏付けた。
それが終わった後、アシュリーと礼は地下のワインセラーまで降りていた。
「こういう物件に黒幕がいるなら、隠し部屋がセオリーなんですけどねぇ。上や薔薇園の方に無いとすればここでしょう。さーて……」
アシュリーは昼と同じ調子で、ワインセラーの壁を注意深く観察する。
「うわ、何だあの影!?」
礼が素っ頓狂な声を上げて、反対側の壁を指差した。
「何もないじゃないですか。怖いなら戻ってもいいですよぉ?」
「怖くねーし!」
怖がる礼とは対照的にへらりと笑うアシュリーは、叩いた壁の音が他の壁と違うことに気がつく。
「ちょっといいですか」
えいっと壁の中から扉を発掘した二人は、その扉に鍵がかかっていないことに気付く。
中に入った礼とアシュリーを迎えたのは、礼が嗅いだものと同じ異臭と、床に描かれた魔法陣である。
他には、樽と机に椅子――生活の痕跡が見られる――ぐらいだ。
樽の中を覗きこんだ礼は、髑髏のぽっかりと開いた眼孔と目が合う。
いくつもの人骨を見てしまった礼は、顔を真っ青にして叫んだ。
「こんな状況でも、就寝前の一杯は欠かせませんよねぇ」
アシュリーはあの部屋を見てもなお、けろりとしてブランデーを呑んでいる。
「怖かった……なんでアシュリーさんは平気なんだ……」
「いったい、何を見たの?」
顔の青い礼を心配してぽえむが尋ねたが、礼は「明日な……」と首を振るばかりだった。
(ワインセラーに何かあるのかな……)
ぽえむはぽっと考えた。
●二日目・朝&昼
夜明け前。酒場から館に戻った瑚月は真新しい足跡を発見した。
「誰か来ている……!? まさか」
瑚月はそのことを目覚めた仲間に報告した。
アシュリーと礼から伝えられていた場所をぽえむと篝が調べてようとしていたところだ。瑚月も調査に加わることにした。
篝が読んだ日記と書斎の魔術書の内容から考えるに、滞在者が試みていた魔術はここで行われていたようだが……
「この匂い……あの部屋でも嗅いだ」
篝の言葉に瑚月が反応する。
「では、そちらも調べますか」
「わかった! 前の住人が突き落とされた場所は」
その時、聞き込みから戻ってきた切那と礼の声が響く。
が……雨音に紛れていても目立つような、物音と悲鳴でほとんど掻き消されてしまった。
「うう……痛いですねぇ」
その場にいた者が慌てて向かうと、アシュリーが生垣の上に倒れている。
前の住人が突き落とされた場所――子供部屋から薔薇園を覗いていたアシュリーは、前の住人とそっくり同じ様に外に投げ出されたらしい。誰がやったかは見ていない、という。
運が良かったのか、大した怪我でないことがわかり、ハンターたちは探索を再開した。
礼はキッチンの扉を開けた。
というのも、午前の聞き込みで調理器具が襲い掛かるという情報を得た故にである。
「あ、ちょうどお昼ご飯を作ろうと思ってて……」
そう言って先客ぽえむが棚を開けたそのとき。調理器具がひとりでにガタガタッと激しい音を立てて動き出す。
「ぴゃぁぁぁ……」
その場にしゃがみこみ、情けない悲鳴を上げるぽえむをそのままにしておくわけにもいかず、礼は日本刀を抜いた。
自分に向かって襲い掛かるそれらを受け流していると、そのうち動きを止める。
がちゃがちゃと煩い音を立てて調理器具が床に転がっていった。
切那たちは用途不明の部屋とされている部屋……そこをもう一度調べることとなった。
「なるほど……同じですね」
瑚月も異臭の意味に気付き、肩を竦める。
「最初は鍵がかかっていたわね。もしかしたら、地下と同じことをしていたのかも」
篝がランタンで中を照らす。光に浮かび上がったのは、拭き損ねたのか、うっすらと残っている血の痕跡。
雷鳴が轟く。窓を激しい雨が叩いていた。
「じゃあ、この部屋の用途ってつまり……あれか?」
切那が鋭くもたどり着く。
「いえ……元々は真っ当な用途があったはずでしょう」
瑚月は首を振り、かつての家族を思って言った。
「一人目……彼が捻じ曲げてしまったのね」
篝は日記を開き、更なる手がかりを求めた。
●二日目・夜
その夜、瑚月が報告に向かう前に、それぞれの行動を送っていたハンターたちは、玄関の開く音を聞く。
不審に思った六人が見ると、そこには深くフードを被った人間が立っている。
「そうか……さっき男が馬で走り去って行ったからまさかとは思っていたが……気付かなかった。……見たのか?」
ハンターたちを男は鋭い眼光で睨みつけた。彼が気にしているのは、隠し部屋や日記のことだろう。
「当然! 取材ですからねぇ」
「ええ、もちろんです」
アシュリーと瑚月は堂々と応じる。
「やっぱり、幽霊じゃなかったんだな!」
礼も相手が人間と分かって安堵したのか、迷いの無い動きで抜刀する。
「聞くまでもないか……これだけはしたくなかったんだが、見られちまったなら仕方ない」
男はポケットからネズミを出し、床に放った。
「ここで全員始末してやる!」
そう言って、魔術師がぶつぶつとうわ言のように詠唱すれば、地下からスケルトンが這い上がってきたのか、人が到底立てられないような足音が響いている。
ネズミ、魔術師、スケルトン……これらを同時に相手することになった。
最初に動いたのは瑚月だった。ワイヤーウィップがネズミを薙ぎ払う。
「なんてことしやがる!」
瑚月の攻撃で魔術師は詠唱を中断し、スケルトンの動きが緩んだ。
その隙を突き、アシュリーは魔術師にショートソードを振りまわし威嚇する。
「早く降参するなら怪我も少ないと思いますよぉ」
「なめやがって!」
魔術師は隠し持っていたナイフでショートソードを受け流した。詠唱が再開される。
スケルトンが後ろから雪崩込むように向かってくる。
「おらよぉ!」
その勢いを殺すように、振り向いた切那の飛燕とスラッシュエッジが唸る。
砕けた骨の欠片が館の廊下に次々と落ちていった。
「壊すわけにはいかないよね」
まだ後方に控えているスケルトンには、篝のダーツのプレゼントが待っていた。
「いっけー!」
そして最後にはぽえむのホーリーライトによる衝撃で跡形もなくなっていく。
「この……! 食らえ!」
アシュリーの剣を弾き返した魔術師の眼前に、刀を振り上げた礼の姿が浮かび上がる。
礼はそのまま魔術師の額を峰打ちし、相手を気絶させた。
「報告に行くなら、依頼主の他に軍にもこのことを伝えましょう」
篝の持っていたロープで縛り上げられた魔術師を椅子に座らせながら、瑚月が言う。
この場にいるハンターも、異論はなかった。
●三日目
「離せ! 俺が誰だかわかっているのか!」
ハンター達に暴言を吐きながら、魔術師は軍へ引き渡されていった。
魔術の実験ついでに、動物を捕まえては酷いやり方で殺していたという。
人骨は秘密裏に引き取った死体から抜き取ったもの……らしい。
状況が状況だけに、今回は軍に加えて、魔術師協会も取り調べに同伴するという。
それから暫く待って、他にこれといった怪異現象が起こらないことを確認したハンターたちは、事の全てを依頼人夫婦に報告に行った。
「そうだったんですか……ありがとうございました。報酬は後にお支払いします」
こう依頼の終了を告げられ、彼らの中にはどこか肩の荷が下りたような気持ちになっている者もいた。
もう幽霊屋敷に関わらずに済むことに喜ぶものもいただろう。
「……これで終わりか。怖かったけど楽しかったかなぁ。帰ったらまた一人かぁ……ちょっと、寂しい」
ぽえむは、いつもの口調とは違う言葉でぽつりと呟いた。
(幽霊でもいいから誰かいてくれれば……なんて、ね)
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/03 03:21:19 |
|
![]() |
幽霊屋敷調査!【相談】 鳴沢 礼(ka4771) 人間(リアルブルー)|15才|男性|舞刀士(ソードダンサー) |
最終発言 2015/06/08 17:28:39 |