ゲスト
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【春郷祭】ジェオルジ春のパンまつり
マスター:cr

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/07 12:00
- 完成日
- 2015/06/16 15:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。
●
農耕推進地域ジェオルジでは数多くの農作物が生産されている。その性格上、ジェオルジでは膨大な種類の農作物が育てられていたのだが、やはり最も多く生産されているものは小麦を中心とした麦である。その麦の収穫期をまさに今迎えていた。春が終わり、気温が急激に上がり、空気は乾燥している季節。麦秋と呼ばれるそれである。もう少し立つと雨が降り始める。そうすると麦秋は終わる。収穫期と言うのは農家にとって想像以上に短い。
人々は総出で小麦を収穫する。あとは脱穀して製粉すれば小麦粉の完成だ。さらにこの粉を用いて様々な食べ物を作る。同盟ではパスタも非常に多く作られて入るのだが、最も作られているものはパンである。
●
春の村長祭、その目玉イベントの一つがまさに開かれようとしていた。その名もパン祭り。小麦の収穫に感謝に、パンを食べようというもの。実にわかりやすいネーミングである。
今回……というか、毎回そうなのだが、このパン祭りで中心になるイベントは二つ、パンコンクールとパン大食い大会だ。
表題を見るだけで何をやるのかすぐにわかるが、パンコンクールは各自アイデアを凝らして変わり種パンを作り食べ比べるというもの。パン大食い大会は、そうやってコンクールで作られた大量のパンを一番たくさん食べたものが勝ちというもの。
もちろんイベントは他にもあるし、単純に焼きたてのパンの匂いを嗅ぐだけでも構わない。せっかくの村長祭である。ぜひ存分に楽しんでいただきたい。
同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。
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農耕推進地域ジェオルジでは数多くの農作物が生産されている。その性格上、ジェオルジでは膨大な種類の農作物が育てられていたのだが、やはり最も多く生産されているものは小麦を中心とした麦である。その麦の収穫期をまさに今迎えていた。春が終わり、気温が急激に上がり、空気は乾燥している季節。麦秋と呼ばれるそれである。もう少し立つと雨が降り始める。そうすると麦秋は終わる。収穫期と言うのは農家にとって想像以上に短い。
人々は総出で小麦を収穫する。あとは脱穀して製粉すれば小麦粉の完成だ。さらにこの粉を用いて様々な食べ物を作る。同盟ではパスタも非常に多く作られて入るのだが、最も作られているものはパンである。
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春の村長祭、その目玉イベントの一つがまさに開かれようとしていた。その名もパン祭り。小麦の収穫に感謝に、パンを食べようというもの。実にわかりやすいネーミングである。
今回……というか、毎回そうなのだが、このパン祭りで中心になるイベントは二つ、パンコンクールとパン大食い大会だ。
表題を見るだけで何をやるのかすぐにわかるが、パンコンクールは各自アイデアを凝らして変わり種パンを作り食べ比べるというもの。パン大食い大会は、そうやってコンクールで作られた大量のパンを一番たくさん食べたものが勝ちというもの。
もちろんイベントは他にもあるし、単純に焼きたてのパンの匂いを嗅ぐだけでも構わない。せっかくの村長祭である。ぜひ存分に楽しんでいただきたい。
リプレイ本文
●
初夏のきらきらとした日差しが降り注ぐ。普段はこの季節なら、草原の青い匂いが一面に広がっているのだが今日は違う。代わりに漂うのは香ばしく甘く、嗅ぐだけでお腹いっぱいになれそうな焼きたてのパンの匂いだ。
今日はジェオルジ、春の村長祭の名物、パン祭りの日。その一つ目の大イベント、パンコンクールの参加者達が今まさに会場でパンをこね、作り、焼いている最中であった。
●
『どんなパンを作るのですか?』
そんな中、一人参加者の間を周りどんなパンを作るのかヒアリングを行っているものが居た。喋りかけるのではなく、メッセージを書いたスケッチブックを見せて回っているのは、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)である。答えを聞いたエヴァはその場でさらさらと絵筆を走らせると、綺麗なパンのイラストをポスターとして作り上げた。傍らには美味しさのポイントなどをまとめた紹介文。それらを素早く二枚描き上げると、一枚を作者の元に、もう一枚を中央に掲示する。
『コンクールという形をとる以上、多少は順位をつけなきゃね』
さらにエヴァは主催者と共に、順位の付け方についても相談していた。結果、評価の一部に一般のお客さんたちの票が加わることになった。
自分の仕事を終えたエヴァは満足気に会場に消えていった。出来上がったパンがどのようなものか、食べ歩きをするためである。
●
「……よし、やるぞ!」
きゅっとエプロンを付けたのはオルフェ(ka0290)。彼の前には、彼が持ち込んだ三つのガラス瓶が並んでいた。その中にはそれぞれ鮮やかな赤色、濃い紫色、そしてくすんだ緑色の物体が入っている。その上でオルフェは生地をこねる……のではなく、鍋を火にかけその前で付きっきりで中身をチェックしていた。
鍋の中には黒みがかった赤色の物体。粘り気のある液体をまとった丸い形のそれらは、よく見るとチェリーだ。そこに砂糖を加えなじませてから火にかける。砂糖に寄って引き出された果汁は砂糖と混ざり、熱によって煮詰められ、ゆっくり、ゆっくりと粘度が高くなっていく。やがて、鍋の中から甘いいい香りが辺りに漂ってきた。
オルフェは鍋の中身を焦がさないよう丁寧にヘラでかき混ぜながら、根気よく出来上がりの時を待つ。そしてヘラでもうひと混ぜすると、鍋の底が現れた。こうなったら完成のサインだ。特製の自家製チェリージャムの出来上がり。
彼が持ち込んだ他の三つのビンには、それぞれいちごジャム、ブルーベリージャム、そして梅ジャムが入っていた。オルフェは生地を小さく丸めると、中に各種ジャムを加えていく。入れ終わったらそれらをかまどに入れると次々とジャムパンが出来上がっていった。
「……」
そこにのそりと現れたのはオウカ・レンヴォルト(ka0301)だ。大柄の彼の体には似合わない、一口サイズのパンを手に取ると口に放り込む。パンの中からジャムが飛び出す。甘さ控えめにしただけあって果実の酸味が調和した爽やかな味わいだ。
オウカの表情は変わらなかったが、すこし満足気に去っていった。
●
「わたくし、パンコンクールに参加しますわ。パルパルも一緒ですの♪」
とパン生地をこねているのはチョココ(ka2449)だ。彼女の頭上にはパルムがちょこんと乗って彼女と同じ動きをしている。
チョココの小さな体ではなかなかうまくこねられない。ならばと生地を袋に入れて足で踏んでこね上げる。生地の入った袋の上でチョココがダンス。その頭上でパルパルことパルムもダンス。二人で踊るパン作りの舞い。
やがて生地がこねあがった所で、チョココは器用にひとつずつ整形していくと、それらを並べてかまどに入れる。
「美味しくな~れ、美味しくな~れ……」
あとは焼きあがるまでじっくり待機。チョココはかまどに向かっておまじないを何度も繰り返していた。パルパルも一緒に手を組んでおまじない。やがて、白かった生地はキツネ色に変わり焼きあがる。
「出来上がりですわっ!」
かまどから彼女が取り出したのは数多くのパルム。正しくはパルム型のパンだ。可愛らしく焼きあがったパルム型パンを眺めて満足気なチョココとパルム。
「パンが欲しいのよ。紅茶に合うものをね」
そこに一人の少女が歩いてきた。彼女の名前はシルフィウム=クイーン=ハート(ka3981)である。
「げー……なんで俺が女王のお守りせなあかんねん……だるい……めっちゃだるい……」
その後ろから大量の荷物を持って付いてきた男が一人。彼は、アーク=ゼロ=シュバイツァー(ka3801)。
二人は祭りを練り歩きながら、チョココのいるブースに近づいてくる。そこをチョココが呼び止めた。
「パルム型パンどうですか? た~くさん焼き上がりましたわよ」
「一ついただくわ」
受け取ったシルフィウムがパクリを加えると、中からチョコクリームが飛び出してくる。しかし、このパルム型パンの仕掛けはこれだけではなかったようだ。
「中身は数種類をご用意、二つの味が一緒に入っていますわっ。勿論、手に取るまではわかりませんから……誰かと半分こはいかがです?」
と案内したチョココの視線の先にはアーク。彼女はこの二人をカップル同士だと思ったようだ。
だが、肝心のシルフィウムはその言葉もどこ吹く風とばかりに立ち去っていた。果たして、チョココの思いは彼女に伝わったのだろうか。
●
「よーし、それじゃ頑張るぞー!」
赤羽 颯(ka3193)もパンコンクールに参加すべく気合を入れていた。赤羽はリアルブルーに転移してからは、幼なじみの高瀬 未悠(ka3199)と、転移後に知り合った蒼綺 碧流(ka3373)との3人で同居している。そして、基本的に食べる専門の二人のために様々な料理を作っている間にどんどんと料理の腕前が上達していったのだ。特に甘い物が大好きな二人のために作っているうちに菓子類に関してはプロ並みの腕前になっている。
そして一緒に付いてきた未悠と碧流の二人も、ただ赤羽のパンを食べるためだけに来たわけでは無い。
「そうだ……この機会を活かして二人に美味しいパンを食べてもらおう」
碧流はこのパン祭りの光景を見て、そう閃いた。彼女は先日ロールパンの作り方を身につけたばかり。身につけたからには試してみたくなる。幸い、この祭りでは必要な材料は全て揃っている。というわけで、材料を取りに行く碧流。
そして同じく未悠も、パン作りに挑戦しようと決意した。
「二人の為に美味しいパンを作るから楽しみにしてて」
が、その未悠の言葉を聞いて恐れおののく二人。それもそのはず、未悠の料理の腕前は壊滅的。彼女に作らせたらどんな恐ろしい物ができるかわかったものではない。しかしそんな二人の反応に気付かず、無表情ながら意欲満々に材料を持ってくる未悠。
ともかく、早速パン作りに取り掛かる赤羽。今回作るのは自分が得意な菓子作りの腕を活かせる菓子パン類だ。どういうのを作ろうか、少し思案した赤羽は自分の前で生地を作り始めた碧流を見て一つひらめく。
生地で別に作っておいたカスタードクリームをたっぷりと包み込み円筒形の型に入れると、カラメルを混ぜたビスケット生地を上に乗せて焼き上げる。
さらに焼き上がりを待つ間にもうひと品。今度は未悠の方を見て何か思いついたようだ。残した生地を薄く広げると、間にバターを挟んで三角形に切り分ける。そしてチョコレートを乗せクルクルと包み込むとチョコ入りクロワッサンの完成だ。チョコは未悠の好物だ。
一方、碧流はパン生地を前に悪戦苦闘していた。彼女が作ろうとしているものはレーズンロールパン。だが、まだまだ慣れていない彼女にとってこれだけでも難しい。
「やっぱり上手く整形するのが難しい……はふ……」
それでもどうにか丸め終えると、赤羽のチョコクロワッサンと共にかまどに入れる。
「料理を美味しくする呪文は確か……美味しくなーれ……美味しくなーれ……」
するとかまどとにらめっこして未悠がつぶやいていた。どうやら彼女のパンも焼き始めたらしい。が、無表情でそうつぶやき続ける未悠の姿は何だか怖い。
「……日頃の感謝の気持ちを込めた、是非食べてもらいたい」
パンが焼きあがった所で互いに味見。まず碧流はチョコレートミルクを添えて二人に差し出す。
「すごく美味しい……今日が私の人生で最高の一日だわ……ありがとう、碧流」
早速口に運んだ未悠はその味と、込められた愛情に感動し碧流を抱きしめていた。
「碧流ちゃん、ありがとうね」
赤羽も思いは同じだ。碧流の頭を撫でて、感謝の意を示す。
そして次は赤羽のパンだ。未悠にはチョコクロワッサン。
「そしてこれがプリンパンだよ」
碧流の好物のプリンを思いながら作ったプリンパン。下の生地はプリンのようなクリーム入り。上にはカラメル。見た目も味わいもプリンを思わせる一品だ。
「パンも美味しく作れるなんてさすがだわ」
食感、味わい共に完璧なクロワッサンをかじりながら、未悠は顔をほころばせていた。
その隣では碧流もプリンパンを食べて、表情は余り変わらないが付き合いの長い二人にはわかる。喜んでいる。
「さあ私の愛情たっぷりのパンを食べてみて」
最後は未悠のパンだ。彼女のパンは大量の野菜が上に乗り、さらにその上に緑色のソースがかかっている。
赤羽はそのパンを前に覚悟を決めていた。食べるときっとヤバい。だが未悠の思いを無下にすることも出来ない。口に無理矢理押し込む。
「残したら勿体無い……」
プリンパンを美味しく食べ終えた碧流は、赤羽が立ったまま気絶していることに気づいた。目の前には彼が食べ残した未悠のパン。普通にそれを口に運び、そしてそのままパタリと倒れた。
二人のパンを食べ終えた未悠は感想を聞こうと振り返る。その時彼女が見たのは気絶している二人の姿。いきなりの事態に呆然としている。
「まさかこの会場に歪虚が……!?」
気絶の原因が自分がバジルソースと間違えてハラペーニョソースを大量にかけたことに最後まで気づかない未悠であった。
●
「こういう催し事ではそこそこいい食材が入るしな。ま、彼奴らも彼奴らにしては……頑張った方だろうしよ」
カルロ・カルカ(ka1608)は食堂で働いている。一緒に働く仲間がコンクールに参加することを聞きつけたカルロは、彼女達の分も食材を揃え、自分自身もパン作りに取り掛かることにした。
「ていうか、あれって同じ海の家で働いてるカルロじゃん。ねこねこもいるー!」
とそんなカルロを見つけ駆け寄ってきた少女が一人。海野 星(ka3735)だ。その側には鮫島 寝子(ka1658)もいる。
「お、ステラん一緒に生地こねよー!」
というわけで、ステラと寝子は一時的に共同戦線を張ることになった。そんな二人に兄貴分たるカルロは食材を渡す。
「これ、使いな」
ステラにはドライフルーツ、寝子には各種野菜にスパイス。これが今回二人が作るパンのためのアイテムだ。
秘密兵器を手に入れた二人は、自分達のブースに戻り早速生地をこねる。が、そこには既に先客が居た。生地を前に悪戦苦闘している桜蘭(ka2051)だ。何せ桜蘭はパン作り初体験。周囲の人達の見よう見まねで作り始めたはいいものの、知識が全く無いためどうすればいいのかわからない。
「……う、あの、教えてもらっても、いいですか?」
「うん、いいよー!」
結局彼女はあきらめステラを頼ることにした。二つ返事でOKするステラ。
三人は横に並んで生地をこね始める。心をこめて生地をこねる。真っ先に生地をこね上げたのは寝子だ。すると彼女はフライパンに細かく切った野菜と魚介類を入れ、炒め始める。
やや遅れて、桜蘭に教えながら生地を作っていたステラもこね終える。ステラは生地を1つ分づつに切り分け、整形していく。五本の角を造るように整えるとあっという間に可愛い星形パンの完成だ。
それを目を輝かせて見ていた桜蘭も、やっと生地をこね終え自分のパンを作り始める。彼女は悩んだ挙句、自分の大好きな猫型のパンを作ることにした。早速生地を丸め、耳をつけたり瞳をつけたり猫型に整形しようと生地と格闘し始める。しかし彼女には猫型のような複雑なものは難しかったようだ。ああでもないこうでもないと長時間やった後なんとか作り終えた桜蘭。
「にゃんこさんはツナが好きだし……美味しくなるかなー?」
最後に、仕上げとばかりに中にツナを加える。
一方カルロは、そんな三人の様子を眼では見守りながら、手では黙々とパン作りを始めていた。彼の今日の目的は、何よりこの祭りに来れなかった食堂で共に働くメンバーのためのおみやげを作ることだ。更に言うと、先日まで行われていた怠惰の歪虚との戦い。その労をねぎらう意味もある。
そこでカルロはこね終えた生地をメンバーをイメージした形に整形していく。鯨型、アザラシ型にマンボウ型……。
「……リュウグウノツカイ、なぁ……どうオーブンに入れりゃいいんだこれ……」
見事に作り上げた生地を目の前にして途方に暮れるカルロ。
一方寝子のフライパンの中にはいつの間にかスパイスが加わり、いい匂いを漂わせていた。これをパンの中に入れるとサメ型に整形し、かまどに入れるのではなく油で揚げ始めた。
「サクサクとろりのリアルブルー風鮫型パン! リアルブルーにはこうやって揚げたカレーパンっていうのがメジャーなんだってさ!」
彼女の言うとおり、リアルブルーではこのようなパンが人気を博している。
その様子を微笑ましく見守っていたカルロだが
「……待ても出来やしねぇのか。帰ったらちゃんと食わせるっていってんだよ……!」
というや否やそこに居た人物を蹴飛ばした。蹴飛ばされていったのはガレアス・クーヴェイ(ka3848)。ガレアスも食堂で働く仲間である。が、彼はどうやら「ヒレのついたゴミ箱」とも称されるイタチサメを祖霊に持つらしく、まだ焼いていない生地をつまみ食いしようとしてバレていたのだった。
「坊主にはバレんと思ったのにのう」
「バレバレだよ!」
とガレアスを追い払いつつかまどにパンを入れるカルロ。
「海の家のアイドルのステラちゃんが来たからには優勝は超間違いなし的な!」
その頃、ステラのパンづくりは最後の仕上げに入っていた。かまどを開くと中から星型パンが出てくる。ただの星型パンではない。中にドライフルーツを入れたものだ。そこにチョコペンでデコレーションを施すステラ。
「……私にも出来た! パパとママに自慢しなきゃ!」
その隣では桜蘭が感動していた。かまどの中から現れたのは、少々不格好ながらも彼女の思いがたっぷり詰まった猫型パン。自分でも作ることが出来たことに感動し、何個かおみやげに持って帰ろうと思う桜蘭。
「はぅ! 甘くておいしいパンを見つけてみせるのですー!」
そんな二人のもとに、ネプ・ヴィンダールヴ(ka4436)が近づいてきた。自分好みのパンを見つけるため、意気揚々と会場にやってきた彼女はいいものは無いかなと探しまわった結果ステラのブースにやって来たのであった。そこには甘く匂うチョコで飾られた星型パン。
「はぅ! とりあえず、5個下さいなのです!」
「初めましてだね☆ はい、どうぞ」
と早速渡されるともぐもぐと食べ始める。フルーツの酸味とチョコの甘みの組み合わせに幸せそうに食べ続けるネプ。やがて食べ終えると、
「もう5個……いや10個追加でお願いしますなのですー!」
とお願い。しかしこれ以上は審査のためのパンが無くなる。結局ネプは大食い大会の方に参加することになった。
「アニキアニキ! アニキはどんなパンを作るのかなー」
自分のパンを作り終えた寝子はカルロの元へやって来る。カルロはかまどからパンを取り出している。
「わ、わ! 流石だな、美味しそう!」
見事に造形された各種パンを見て、やはりすごいと再確認する寝子。そして側でカルロに追い払われていた人物を見つけ
「ガレアスさんもいっぱい食べてってね!」
「そんなことしたら審査の前に全部喰われちまうよ!」
とガレアスにパンを食べさせようとする寝子を止めるカルロ。結局全員でネプとガレアスを大食い会場の方に連れて行くことになったのであった。
●
「自慢では無いがパンは焼けん!」
堂々とどーんと効果音が付きそうな勢いで宣言したのはチリュウ・ミカ(ka4110)だ。しかし、パンが焼けないミカがどうやってコンクールに参加するというのか。
「だが心配ないぞ。わたしは『蒸しパン』で参加だ」
というわけで、ミカのパン作りが始まる。小麦粉に水と砂糖、ふくらし粉を加えすばやく、しっかりと練り合わせる。
そして出来上がった生地を四等分。一つはそのままにして、残りには紅茶、緑茶、それにブランデーを加え香りづけを施す。
「おぅ。ケイルカではないか」
そんな作業の最中、ミカは友達のケイルカ(ka4121)を発見して手を振る。早速駆け寄るケイルカ。
「わぁ、蒸しパンなのね。食べやすそう! 甘く仕上げてね♪」
ケイルカの方は大食い大会に参加する予定のようだ。自分が食べることになるパンがどのようなものなのか気になって見学にやって来た彼女。自分好みになるように友達にお願いする。
「大丈夫。甘味もばっちりだ。砂糖漬けの果物を細かく切ってトッピングするぞ」
それに対し、ミカもしっかりと答えると葉で包み蒸籠に入れて蒸し始める。湯気とともに甘い香りが広がり、やがて出来上がる。
「さあ出来上がりをとくと堪能するがいい」
そこにはドヤ顔で出してきたのにふさわしい、ちまきを思わせる蒸しパンが出来上がった。
●
「美味しい美味しいパン作り、楽しませていただきますね?」
材料を集め終えたシュシュシレリア(ka4959)はやっと自分のブースに戻ってきてパン作りに取りかかっていた。彼女が材料集めに苦労したのには理由がある。
「できればジェオルジ領でとれるものを使わせていただき、この土地を大切にする気持ちを込めたパンを作りたいのです」
というわけで材料を厳選するため、一つ一つ目で見て選んでいた彼女。そんな彼女の思いに、ジェオルジの農家の人々も答えようととっておきの品を出してきてくれていた。
そして集まったジェオルジ産の各種材料。それを混ぜあわせ、こねて発酵。生地を休ませさらにこねる。そこにシュシュシレリアは“魔法”を一つかけた。
「ジェオルジの風を使いました風味豊かなパンになりますように」
加えたのは紅茶。それもジェオルジで作られる中では最高級品の物だ。甘く、柔らかく、さわやかな香りが風のように吹き抜ける。さらに沢山の種類のドライフルーツを加えてから焼き上げる。
かくして出来上がったそれは、見た目はどこにでもあるパンながら、ほのかな甘みを持った飽きの来ない優しい味に仕上がっていた。
●
「パンコンクールか! 最近色々勉強させてもらったし、成果を試すいい機会!」
と気合十分で藤堂研司(ka0569)がパン作りに取り掛かった。作るのは普通の小麦粉ではなく、ライ麦粉と全粒粉で作る田舎パンだ。
「固い田舎パンだから、一口サイズに切り分けて……」
単にパンを作るだけなら藤堂にかかれば造作も無いことだ。しかし単に焼いただけでは面白く無い。焼きたてより冷めた方が美味しい田舎パンの特製を考え、一口分ずつに切り分けると盛りつけ方に一つ工夫を凝らすことにした。
「デザインは、春郷祭に絡めて……」
と藤堂は切り分けたパンの半分に各種野菜を載せていく。茹で上げられたそれは鮮やかな緑色になっている。当然載せたパンも綺麗な緑に彩られていた。
さらに一部にはまめしを載せ、パズルでも作るように並べ始める。やがて並べられたそれは、一面に広がる緑とそこに生えるまめしの姿を象っていた。これが今回藤堂が作るパン、田舎パンの春郷祭タルティーヌである。
しかしこれだけでは半分。今までのジェオルジ、ひいてはクリムゾンウェストにしかならない。藤堂はこれからのクリムゾンウェストを象徴する意味を込めて、残りの半分にも具材を載せ始めていた。その上に乗るのはチーズ。そして卵黄を溶いて作った特製ソース。黄金色に輝くそれらは、やがてひとつの絵、つまり人類が命がけで奪還したホープと聖地を表すものへと組み上げられる。
その美しく思いの込められた絵を見て、自分も食べ歩きに参加していたエヴァは暫くの間前から離れることができなかった。
●
会場を歩き回って疲れたシルフィウムは紅茶を飲んで一息ついていた。
「あら嫌だわ。この荷物を置いて、どこに行っていたのかしら? ほら、さっさと行くわよ」
そこにアークが戻ってきた。彼女が紅茶を楽しんでいる間に逃げ出そうとしたのだが、店主に捕まっていたのだ。それもこれも、
「お金? そんなものがいるの? ……仕方ないわね。アレが払うわ」
とシルフィウムが指示したからだ。
「なんでや! 経費で落とせるんやろなこれ!?」
結果、会場にアークの悲鳴がこだました。
●
全参加者のパンが出揃い、しばしの時間の後にコンクールの順位が発表される。
まず特別賞が与えられたのはミカの蒸しパン。これは激しい戦いの舞台となりこれから復興していかなければならない辺境でも、美味しく素早くつくり上げることができることが評価されたようだ。
第3位はチョココのパルム型パン。その可愛らしい姿が評価になった。
第2位はシュシュシレリアの紅茶パン。なによりジェオルジで取れた物にこだわったその思いが、高く評価された結果だった。
そして栄えある優勝は藤堂の春郷祭タルティーヌに決まった。高い芸術性と今、この時だからこそのパンであることが決め手になった。
順位の発表が終わると素早くセッティングが整えられ、作られたパンが運ばれていく。これからパン祭りのもう一つの目玉イベント、大食い大会が始まるのだ。
●
「どんだけ食っても怒られないんだろ? すげーよな! オイラいっぱい食べるぞ!」
コトラン・ストライプ(ka0971)はそう、大食い大会に向けやる気を漲らせていた。世界を巡って美味しいものを沢山食べたいと思っている彼にとって、この大食い大会はまさに渡りに船。しかしそうは問屋がおろさなかった。
「色んなパンがおなかいっぱい食べられるなんて、此処が天国かー!」
とコトランと同じような反応を示していたのは銀 桃花(ka1507)だ。そんな二人の目と目があい、しばしフリーズ。そして、
「オイラ絶対負けないからな! 桃ねーちゃんの分まで食ってやるぞ!」
「負けないわよー! 頂上決戦で待つ!」
とライバル関係が出来上がっていた。
(美味しいパンが其処にある……此処にいる理由なんてそれだけで良い!)
一方、米本 剛(ka0320)は、外面は平静を装っていたが、その実心のなかでは楽しみで仕方なかった。
個人的には米食派を自認する米本だが、パンも大好きなのだ。その大食いに向いた大柄な体の中で、彼の心は燃えていた。
「勿論。言う事なしに大食い大会に参加します。ええ。同然です」
その隣ではセレナ・デュヴァル(ka0206)が静かに大会の始まる時を待っていた。二人が並ぶと随分と体格が違うが、考えは同じなのか二人の前には牛乳。これで水分を補給しつつパンを食べようということだ。
(飲み物でお腹が膨れるかも知れませんが、望むところです……)
そう思うセレナ。そしてその考えは米本も同じだった。
「ナッツや干した果実が入っていると腹持ちが良くて好きですよ」
一方逆の方では静架(ka0387)が司会のインタビューに答えていた。傭兵上がりで常に食事できるとは限らない生活を送ってきた彼の信条は食べられる時に遠慮なく食べる。好き嫌いもなく、腹が満たされればそれでいいと考えていた。
さらにそこにネプとガレアスも並び、いよいよ大食い大会開始……と思った所で、
「あー! ステラとサクラみーっけ!」
と飛び込んできた小柄な影が一つ。それはベル(ka1896)だった。もちろんステラと桜蘭は大食い大会に参加していない。ベルが指差したもの、それは二人が作った星型パンと猫型パンであった。
そして、全員が揃ったのを確認した司会者の合図と共に大食い大会が始まる。
まず最初に参加者の前に並べられたのは赤羽の作ったメロンパンとクリームパンだ。大食い大会用に彼がたくさん作ったものだったが、あっという間に食べ尽くされると次のパン、藤堂の春郷祭タルティーヌが並べられる。
一口サイズで食べやすく切られたそれを挑戦者達は次々と口に運んでいく。
だが、そんな中意外なことに、米本が苦戦していた。理由は二つ。まず彼は合図と同時に食べるのではなく、「いただきます」としっかり挨拶をしてから食事を始めたこと。そしてタルティーヌには彼が苦手とするカリフラワーとゆで卵が使われていたことだ。だが、味は抜群に美味しいしと焦らずに食事を進めていた。
「かみ! ひっほょ! ふふひほ!!」
一方ベルと桃花、それにネプはこの時点で意気投合をしていた。ベルは口いっぱいにパンを詰めながら、桃花に話しかけるが何を言っているのかよくわからない。どうやら「髪、一緒、桃色」と言いたかったようだ。
「はぅ! おそろいですねー?」
気づいたネプも美味しく食べている。なお、ネプは甘いパンだけを選んで食べているので勝負からは降りている。
一方の桃花も反応しつつパンをもしゃもしゃと食べながら、ここで仕掛けた。
「むむむ……。さすが桃ねーちゃん、早いな。桃ねーちゃんの苦手なものってなんだろ」
食べながら桃花の方を注目しているコトランの隙をついて、ピーマンのたくさん乗ったタルティーヌをすかさず彼の前に差し出す。何の疑問もなく、差し出されたそれを口に運ぶコトラン。そしてがぶりと口に入れ、
「この苦味……! そして追ってやってくる青臭さ……! ピーマンだあああ! 不味いいいいいい!」
と悶絶していた。
「許せトラ君!勝負の世界は非情なのよ……!」
と悶絶するコトランを見送りながら、タルティーヌを食べ終えた桃花は次のパンに手を出す。そして一口食べて、
「って、これ辛子パンじゃないのぉぉぉ!!」
と気絶してしまった。彼女がこの時食べたのは未悠のパン。つまりハラペーニョソースたっぷりのパンだったのだ。
「すききらい、めっ! おばさまいってた!」
そんな二人を見て、間に居たベルは指差しで注意しつつ次のパンを口に運ぶ。お目当ての星型パンと猫型パンだ。そこに、それらのパンの作者がやって来た。
「ベルベルが食べてくれてる! 超嬉しい!」
ステラはベルに向かって手を振る。ベルも反応して振り返すと、ベルの音がカランコロンと鳴った。
「ベルさーん! 頑張れー!!」
そんなベルに、桜蘭は全身で手を振って応援する。ステラも一緒に応援しようとしたが、ベルの隣で異変が起きていたことに気が付いた。
「お水持ってくよ! 大丈夫?」
気絶していた桃花にあわてて水を持っていく。
「うー……まだ口の中ひりひりするぅ……」
ここで桃花も気が付いた。
「あ、飲み物……?」
目を上げると水を持ったステラの姿。
「星ちゃんありがとー! お礼にこれ♪ ベルちゃんにも!」
と星型の飴をプレゼント。
一方ケイルカは順調にパンを胃に収めていた。が、そんなケイルカが固まる。彼女の手にはキノコ。何を隠そうケイルカはキノコが大の苦手なのだ。
しかしよくよく見ればこれはチョココの作ったパルム型パン。なーんだと安心して食べると甘いクリームが広がる。しかも一種類ではない。食べ進めると二種類の味わいが広がる。
「おいひい……もぐもぐ」
牛乳と一緒に食べ終え満足気なケイルカは次のパンに手を伸ばし口に入れ、そして……
「いやぁぁぁ! きっ……きのっ……こっ!」
油断大敵。見事ケイルカはテーブルの上に突っ伏していた。
トップ争いの方はベル、ガレアス、セレナ、静架の4人に絞られていた。が、ここでベルに異変が起きた。
「……け、けぷぅ。も、たべれない……」
流石に彼女の体には食べ過ぎたようだ。そのままバタンキューと倒れて脱落。
残る三人のペースは一切変わらない。
「美味しいモノは正義ですね」
ペースを変えず淡々と食べるセレナ。
「うまいのう、うまいのう」
と何でもムシャムシャ食べてるガレアス。そして、
「味わって頂くのは食べる側の義務です」
と一口ずつちぎって口に運ぶ静架だが、恐ろしいペースで目の前に皿が積み上がっていく。
そしてここで時間切れになった。
「ごちそうさまでした」
米本は食事を終えた挨拶も欠かさない。スタートこそ遅れたものの、随分と挽回したようだ。
そして結果が発表される。
3位は米本とガレアスの同着だった。スタートが遅れた米本と、つまみ食いをした分遅れたガレアスがこの順位で落ち着いた。
そして2位はセレナ。優勝は静架だった。二人を分けたもの。それは、
「肉を挟めば、主食とおかずが同時にとれますし、甘い味付けにすればデザートにもなる……素敵ですよね」
食べ方位工夫を加えた静架との差であった。
●
祭りが終わり、会場から人が去っていく。
「私からのお土産だもの。皆も喜ぶでしょうね」
そんな中、シルフィウムは意気揚々と帰っていく。もちろんおみやげを抱えているのは彼女ではなくアークだ。
「何が祭りや……これ罰ゲームやないか……」
大量の荷物を持ってうなだれるアークに、シルフィウムは声をかけた。
「お前も、今日はよくやったわ。褒めてあげる」
そう言って彼女が差し出したのは、パルム型パンの半分だった。
初夏のきらきらとした日差しが降り注ぐ。普段はこの季節なら、草原の青い匂いが一面に広がっているのだが今日は違う。代わりに漂うのは香ばしく甘く、嗅ぐだけでお腹いっぱいになれそうな焼きたてのパンの匂いだ。
今日はジェオルジ、春の村長祭の名物、パン祭りの日。その一つ目の大イベント、パンコンクールの参加者達が今まさに会場でパンをこね、作り、焼いている最中であった。
●
『どんなパンを作るのですか?』
そんな中、一人参加者の間を周りどんなパンを作るのかヒアリングを行っているものが居た。喋りかけるのではなく、メッセージを書いたスケッチブックを見せて回っているのは、エヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)である。答えを聞いたエヴァはその場でさらさらと絵筆を走らせると、綺麗なパンのイラストをポスターとして作り上げた。傍らには美味しさのポイントなどをまとめた紹介文。それらを素早く二枚描き上げると、一枚を作者の元に、もう一枚を中央に掲示する。
『コンクールという形をとる以上、多少は順位をつけなきゃね』
さらにエヴァは主催者と共に、順位の付け方についても相談していた。結果、評価の一部に一般のお客さんたちの票が加わることになった。
自分の仕事を終えたエヴァは満足気に会場に消えていった。出来上がったパンがどのようなものか、食べ歩きをするためである。
●
「……よし、やるぞ!」
きゅっとエプロンを付けたのはオルフェ(ka0290)。彼の前には、彼が持ち込んだ三つのガラス瓶が並んでいた。その中にはそれぞれ鮮やかな赤色、濃い紫色、そしてくすんだ緑色の物体が入っている。その上でオルフェは生地をこねる……のではなく、鍋を火にかけその前で付きっきりで中身をチェックしていた。
鍋の中には黒みがかった赤色の物体。粘り気のある液体をまとった丸い形のそれらは、よく見るとチェリーだ。そこに砂糖を加えなじませてから火にかける。砂糖に寄って引き出された果汁は砂糖と混ざり、熱によって煮詰められ、ゆっくり、ゆっくりと粘度が高くなっていく。やがて、鍋の中から甘いいい香りが辺りに漂ってきた。
オルフェは鍋の中身を焦がさないよう丁寧にヘラでかき混ぜながら、根気よく出来上がりの時を待つ。そしてヘラでもうひと混ぜすると、鍋の底が現れた。こうなったら完成のサインだ。特製の自家製チェリージャムの出来上がり。
彼が持ち込んだ他の三つのビンには、それぞれいちごジャム、ブルーベリージャム、そして梅ジャムが入っていた。オルフェは生地を小さく丸めると、中に各種ジャムを加えていく。入れ終わったらそれらをかまどに入れると次々とジャムパンが出来上がっていった。
「……」
そこにのそりと現れたのはオウカ・レンヴォルト(ka0301)だ。大柄の彼の体には似合わない、一口サイズのパンを手に取ると口に放り込む。パンの中からジャムが飛び出す。甘さ控えめにしただけあって果実の酸味が調和した爽やかな味わいだ。
オウカの表情は変わらなかったが、すこし満足気に去っていった。
●
「わたくし、パンコンクールに参加しますわ。パルパルも一緒ですの♪」
とパン生地をこねているのはチョココ(ka2449)だ。彼女の頭上にはパルムがちょこんと乗って彼女と同じ動きをしている。
チョココの小さな体ではなかなかうまくこねられない。ならばと生地を袋に入れて足で踏んでこね上げる。生地の入った袋の上でチョココがダンス。その頭上でパルパルことパルムもダンス。二人で踊るパン作りの舞い。
やがて生地がこねあがった所で、チョココは器用にひとつずつ整形していくと、それらを並べてかまどに入れる。
「美味しくな~れ、美味しくな~れ……」
あとは焼きあがるまでじっくり待機。チョココはかまどに向かっておまじないを何度も繰り返していた。パルパルも一緒に手を組んでおまじない。やがて、白かった生地はキツネ色に変わり焼きあがる。
「出来上がりですわっ!」
かまどから彼女が取り出したのは数多くのパルム。正しくはパルム型のパンだ。可愛らしく焼きあがったパルム型パンを眺めて満足気なチョココとパルム。
「パンが欲しいのよ。紅茶に合うものをね」
そこに一人の少女が歩いてきた。彼女の名前はシルフィウム=クイーン=ハート(ka3981)である。
「げー……なんで俺が女王のお守りせなあかんねん……だるい……めっちゃだるい……」
その後ろから大量の荷物を持って付いてきた男が一人。彼は、アーク=ゼロ=シュバイツァー(ka3801)。
二人は祭りを練り歩きながら、チョココのいるブースに近づいてくる。そこをチョココが呼び止めた。
「パルム型パンどうですか? た~くさん焼き上がりましたわよ」
「一ついただくわ」
受け取ったシルフィウムがパクリを加えると、中からチョコクリームが飛び出してくる。しかし、このパルム型パンの仕掛けはこれだけではなかったようだ。
「中身は数種類をご用意、二つの味が一緒に入っていますわっ。勿論、手に取るまではわかりませんから……誰かと半分こはいかがです?」
と案内したチョココの視線の先にはアーク。彼女はこの二人をカップル同士だと思ったようだ。
だが、肝心のシルフィウムはその言葉もどこ吹く風とばかりに立ち去っていた。果たして、チョココの思いは彼女に伝わったのだろうか。
●
「よーし、それじゃ頑張るぞー!」
赤羽 颯(ka3193)もパンコンクールに参加すべく気合を入れていた。赤羽はリアルブルーに転移してからは、幼なじみの高瀬 未悠(ka3199)と、転移後に知り合った蒼綺 碧流(ka3373)との3人で同居している。そして、基本的に食べる専門の二人のために様々な料理を作っている間にどんどんと料理の腕前が上達していったのだ。特に甘い物が大好きな二人のために作っているうちに菓子類に関してはプロ並みの腕前になっている。
そして一緒に付いてきた未悠と碧流の二人も、ただ赤羽のパンを食べるためだけに来たわけでは無い。
「そうだ……この機会を活かして二人に美味しいパンを食べてもらおう」
碧流はこのパン祭りの光景を見て、そう閃いた。彼女は先日ロールパンの作り方を身につけたばかり。身につけたからには試してみたくなる。幸い、この祭りでは必要な材料は全て揃っている。というわけで、材料を取りに行く碧流。
そして同じく未悠も、パン作りに挑戦しようと決意した。
「二人の為に美味しいパンを作るから楽しみにしてて」
が、その未悠の言葉を聞いて恐れおののく二人。それもそのはず、未悠の料理の腕前は壊滅的。彼女に作らせたらどんな恐ろしい物ができるかわかったものではない。しかしそんな二人の反応に気付かず、無表情ながら意欲満々に材料を持ってくる未悠。
ともかく、早速パン作りに取り掛かる赤羽。今回作るのは自分が得意な菓子作りの腕を活かせる菓子パン類だ。どういうのを作ろうか、少し思案した赤羽は自分の前で生地を作り始めた碧流を見て一つひらめく。
生地で別に作っておいたカスタードクリームをたっぷりと包み込み円筒形の型に入れると、カラメルを混ぜたビスケット生地を上に乗せて焼き上げる。
さらに焼き上がりを待つ間にもうひと品。今度は未悠の方を見て何か思いついたようだ。残した生地を薄く広げると、間にバターを挟んで三角形に切り分ける。そしてチョコレートを乗せクルクルと包み込むとチョコ入りクロワッサンの完成だ。チョコは未悠の好物だ。
一方、碧流はパン生地を前に悪戦苦闘していた。彼女が作ろうとしているものはレーズンロールパン。だが、まだまだ慣れていない彼女にとってこれだけでも難しい。
「やっぱり上手く整形するのが難しい……はふ……」
それでもどうにか丸め終えると、赤羽のチョコクロワッサンと共にかまどに入れる。
「料理を美味しくする呪文は確か……美味しくなーれ……美味しくなーれ……」
するとかまどとにらめっこして未悠がつぶやいていた。どうやら彼女のパンも焼き始めたらしい。が、無表情でそうつぶやき続ける未悠の姿は何だか怖い。
「……日頃の感謝の気持ちを込めた、是非食べてもらいたい」
パンが焼きあがった所で互いに味見。まず碧流はチョコレートミルクを添えて二人に差し出す。
「すごく美味しい……今日が私の人生で最高の一日だわ……ありがとう、碧流」
早速口に運んだ未悠はその味と、込められた愛情に感動し碧流を抱きしめていた。
「碧流ちゃん、ありがとうね」
赤羽も思いは同じだ。碧流の頭を撫でて、感謝の意を示す。
そして次は赤羽のパンだ。未悠にはチョコクロワッサン。
「そしてこれがプリンパンだよ」
碧流の好物のプリンを思いながら作ったプリンパン。下の生地はプリンのようなクリーム入り。上にはカラメル。見た目も味わいもプリンを思わせる一品だ。
「パンも美味しく作れるなんてさすがだわ」
食感、味わい共に完璧なクロワッサンをかじりながら、未悠は顔をほころばせていた。
その隣では碧流もプリンパンを食べて、表情は余り変わらないが付き合いの長い二人にはわかる。喜んでいる。
「さあ私の愛情たっぷりのパンを食べてみて」
最後は未悠のパンだ。彼女のパンは大量の野菜が上に乗り、さらにその上に緑色のソースがかかっている。
赤羽はそのパンを前に覚悟を決めていた。食べるときっとヤバい。だが未悠の思いを無下にすることも出来ない。口に無理矢理押し込む。
「残したら勿体無い……」
プリンパンを美味しく食べ終えた碧流は、赤羽が立ったまま気絶していることに気づいた。目の前には彼が食べ残した未悠のパン。普通にそれを口に運び、そしてそのままパタリと倒れた。
二人のパンを食べ終えた未悠は感想を聞こうと振り返る。その時彼女が見たのは気絶している二人の姿。いきなりの事態に呆然としている。
「まさかこの会場に歪虚が……!?」
気絶の原因が自分がバジルソースと間違えてハラペーニョソースを大量にかけたことに最後まで気づかない未悠であった。
●
「こういう催し事ではそこそこいい食材が入るしな。ま、彼奴らも彼奴らにしては……頑張った方だろうしよ」
カルロ・カルカ(ka1608)は食堂で働いている。一緒に働く仲間がコンクールに参加することを聞きつけたカルロは、彼女達の分も食材を揃え、自分自身もパン作りに取り掛かることにした。
「ていうか、あれって同じ海の家で働いてるカルロじゃん。ねこねこもいるー!」
とそんなカルロを見つけ駆け寄ってきた少女が一人。海野 星(ka3735)だ。その側には鮫島 寝子(ka1658)もいる。
「お、ステラん一緒に生地こねよー!」
というわけで、ステラと寝子は一時的に共同戦線を張ることになった。そんな二人に兄貴分たるカルロは食材を渡す。
「これ、使いな」
ステラにはドライフルーツ、寝子には各種野菜にスパイス。これが今回二人が作るパンのためのアイテムだ。
秘密兵器を手に入れた二人は、自分達のブースに戻り早速生地をこねる。が、そこには既に先客が居た。生地を前に悪戦苦闘している桜蘭(ka2051)だ。何せ桜蘭はパン作り初体験。周囲の人達の見よう見まねで作り始めたはいいものの、知識が全く無いためどうすればいいのかわからない。
「……う、あの、教えてもらっても、いいですか?」
「うん、いいよー!」
結局彼女はあきらめステラを頼ることにした。二つ返事でOKするステラ。
三人は横に並んで生地をこね始める。心をこめて生地をこねる。真っ先に生地をこね上げたのは寝子だ。すると彼女はフライパンに細かく切った野菜と魚介類を入れ、炒め始める。
やや遅れて、桜蘭に教えながら生地を作っていたステラもこね終える。ステラは生地を1つ分づつに切り分け、整形していく。五本の角を造るように整えるとあっという間に可愛い星形パンの完成だ。
それを目を輝かせて見ていた桜蘭も、やっと生地をこね終え自分のパンを作り始める。彼女は悩んだ挙句、自分の大好きな猫型のパンを作ることにした。早速生地を丸め、耳をつけたり瞳をつけたり猫型に整形しようと生地と格闘し始める。しかし彼女には猫型のような複雑なものは難しかったようだ。ああでもないこうでもないと長時間やった後なんとか作り終えた桜蘭。
「にゃんこさんはツナが好きだし……美味しくなるかなー?」
最後に、仕上げとばかりに中にツナを加える。
一方カルロは、そんな三人の様子を眼では見守りながら、手では黙々とパン作りを始めていた。彼の今日の目的は、何よりこの祭りに来れなかった食堂で共に働くメンバーのためのおみやげを作ることだ。更に言うと、先日まで行われていた怠惰の歪虚との戦い。その労をねぎらう意味もある。
そこでカルロはこね終えた生地をメンバーをイメージした形に整形していく。鯨型、アザラシ型にマンボウ型……。
「……リュウグウノツカイ、なぁ……どうオーブンに入れりゃいいんだこれ……」
見事に作り上げた生地を目の前にして途方に暮れるカルロ。
一方寝子のフライパンの中にはいつの間にかスパイスが加わり、いい匂いを漂わせていた。これをパンの中に入れるとサメ型に整形し、かまどに入れるのではなく油で揚げ始めた。
「サクサクとろりのリアルブルー風鮫型パン! リアルブルーにはこうやって揚げたカレーパンっていうのがメジャーなんだってさ!」
彼女の言うとおり、リアルブルーではこのようなパンが人気を博している。
その様子を微笑ましく見守っていたカルロだが
「……待ても出来やしねぇのか。帰ったらちゃんと食わせるっていってんだよ……!」
というや否やそこに居た人物を蹴飛ばした。蹴飛ばされていったのはガレアス・クーヴェイ(ka3848)。ガレアスも食堂で働く仲間である。が、彼はどうやら「ヒレのついたゴミ箱」とも称されるイタチサメを祖霊に持つらしく、まだ焼いていない生地をつまみ食いしようとしてバレていたのだった。
「坊主にはバレんと思ったのにのう」
「バレバレだよ!」
とガレアスを追い払いつつかまどにパンを入れるカルロ。
「海の家のアイドルのステラちゃんが来たからには優勝は超間違いなし的な!」
その頃、ステラのパンづくりは最後の仕上げに入っていた。かまどを開くと中から星型パンが出てくる。ただの星型パンではない。中にドライフルーツを入れたものだ。そこにチョコペンでデコレーションを施すステラ。
「……私にも出来た! パパとママに自慢しなきゃ!」
その隣では桜蘭が感動していた。かまどの中から現れたのは、少々不格好ながらも彼女の思いがたっぷり詰まった猫型パン。自分でも作ることが出来たことに感動し、何個かおみやげに持って帰ろうと思う桜蘭。
「はぅ! 甘くておいしいパンを見つけてみせるのですー!」
そんな二人のもとに、ネプ・ヴィンダールヴ(ka4436)が近づいてきた。自分好みのパンを見つけるため、意気揚々と会場にやってきた彼女はいいものは無いかなと探しまわった結果ステラのブースにやって来たのであった。そこには甘く匂うチョコで飾られた星型パン。
「はぅ! とりあえず、5個下さいなのです!」
「初めましてだね☆ はい、どうぞ」
と早速渡されるともぐもぐと食べ始める。フルーツの酸味とチョコの甘みの組み合わせに幸せそうに食べ続けるネプ。やがて食べ終えると、
「もう5個……いや10個追加でお願いしますなのですー!」
とお願い。しかしこれ以上は審査のためのパンが無くなる。結局ネプは大食い大会の方に参加することになった。
「アニキアニキ! アニキはどんなパンを作るのかなー」
自分のパンを作り終えた寝子はカルロの元へやって来る。カルロはかまどからパンを取り出している。
「わ、わ! 流石だな、美味しそう!」
見事に造形された各種パンを見て、やはりすごいと再確認する寝子。そして側でカルロに追い払われていた人物を見つけ
「ガレアスさんもいっぱい食べてってね!」
「そんなことしたら審査の前に全部喰われちまうよ!」
とガレアスにパンを食べさせようとする寝子を止めるカルロ。結局全員でネプとガレアスを大食い会場の方に連れて行くことになったのであった。
●
「自慢では無いがパンは焼けん!」
堂々とどーんと効果音が付きそうな勢いで宣言したのはチリュウ・ミカ(ka4110)だ。しかし、パンが焼けないミカがどうやってコンクールに参加するというのか。
「だが心配ないぞ。わたしは『蒸しパン』で参加だ」
というわけで、ミカのパン作りが始まる。小麦粉に水と砂糖、ふくらし粉を加えすばやく、しっかりと練り合わせる。
そして出来上がった生地を四等分。一つはそのままにして、残りには紅茶、緑茶、それにブランデーを加え香りづけを施す。
「おぅ。ケイルカではないか」
そんな作業の最中、ミカは友達のケイルカ(ka4121)を発見して手を振る。早速駆け寄るケイルカ。
「わぁ、蒸しパンなのね。食べやすそう! 甘く仕上げてね♪」
ケイルカの方は大食い大会に参加する予定のようだ。自分が食べることになるパンがどのようなものなのか気になって見学にやって来た彼女。自分好みになるように友達にお願いする。
「大丈夫。甘味もばっちりだ。砂糖漬けの果物を細かく切ってトッピングするぞ」
それに対し、ミカもしっかりと答えると葉で包み蒸籠に入れて蒸し始める。湯気とともに甘い香りが広がり、やがて出来上がる。
「さあ出来上がりをとくと堪能するがいい」
そこにはドヤ顔で出してきたのにふさわしい、ちまきを思わせる蒸しパンが出来上がった。
●
「美味しい美味しいパン作り、楽しませていただきますね?」
材料を集め終えたシュシュシレリア(ka4959)はやっと自分のブースに戻ってきてパン作りに取りかかっていた。彼女が材料集めに苦労したのには理由がある。
「できればジェオルジ領でとれるものを使わせていただき、この土地を大切にする気持ちを込めたパンを作りたいのです」
というわけで材料を厳選するため、一つ一つ目で見て選んでいた彼女。そんな彼女の思いに、ジェオルジの農家の人々も答えようととっておきの品を出してきてくれていた。
そして集まったジェオルジ産の各種材料。それを混ぜあわせ、こねて発酵。生地を休ませさらにこねる。そこにシュシュシレリアは“魔法”を一つかけた。
「ジェオルジの風を使いました風味豊かなパンになりますように」
加えたのは紅茶。それもジェオルジで作られる中では最高級品の物だ。甘く、柔らかく、さわやかな香りが風のように吹き抜ける。さらに沢山の種類のドライフルーツを加えてから焼き上げる。
かくして出来上がったそれは、見た目はどこにでもあるパンながら、ほのかな甘みを持った飽きの来ない優しい味に仕上がっていた。
●
「パンコンクールか! 最近色々勉強させてもらったし、成果を試すいい機会!」
と気合十分で藤堂研司(ka0569)がパン作りに取り掛かった。作るのは普通の小麦粉ではなく、ライ麦粉と全粒粉で作る田舎パンだ。
「固い田舎パンだから、一口サイズに切り分けて……」
単にパンを作るだけなら藤堂にかかれば造作も無いことだ。しかし単に焼いただけでは面白く無い。焼きたてより冷めた方が美味しい田舎パンの特製を考え、一口分ずつに切り分けると盛りつけ方に一つ工夫を凝らすことにした。
「デザインは、春郷祭に絡めて……」
と藤堂は切り分けたパンの半分に各種野菜を載せていく。茹で上げられたそれは鮮やかな緑色になっている。当然載せたパンも綺麗な緑に彩られていた。
さらに一部にはまめしを載せ、パズルでも作るように並べ始める。やがて並べられたそれは、一面に広がる緑とそこに生えるまめしの姿を象っていた。これが今回藤堂が作るパン、田舎パンの春郷祭タルティーヌである。
しかしこれだけでは半分。今までのジェオルジ、ひいてはクリムゾンウェストにしかならない。藤堂はこれからのクリムゾンウェストを象徴する意味を込めて、残りの半分にも具材を載せ始めていた。その上に乗るのはチーズ。そして卵黄を溶いて作った特製ソース。黄金色に輝くそれらは、やがてひとつの絵、つまり人類が命がけで奪還したホープと聖地を表すものへと組み上げられる。
その美しく思いの込められた絵を見て、自分も食べ歩きに参加していたエヴァは暫くの間前から離れることができなかった。
●
会場を歩き回って疲れたシルフィウムは紅茶を飲んで一息ついていた。
「あら嫌だわ。この荷物を置いて、どこに行っていたのかしら? ほら、さっさと行くわよ」
そこにアークが戻ってきた。彼女が紅茶を楽しんでいる間に逃げ出そうとしたのだが、店主に捕まっていたのだ。それもこれも、
「お金? そんなものがいるの? ……仕方ないわね。アレが払うわ」
とシルフィウムが指示したからだ。
「なんでや! 経費で落とせるんやろなこれ!?」
結果、会場にアークの悲鳴がこだました。
●
全参加者のパンが出揃い、しばしの時間の後にコンクールの順位が発表される。
まず特別賞が与えられたのはミカの蒸しパン。これは激しい戦いの舞台となりこれから復興していかなければならない辺境でも、美味しく素早くつくり上げることができることが評価されたようだ。
第3位はチョココのパルム型パン。その可愛らしい姿が評価になった。
第2位はシュシュシレリアの紅茶パン。なによりジェオルジで取れた物にこだわったその思いが、高く評価された結果だった。
そして栄えある優勝は藤堂の春郷祭タルティーヌに決まった。高い芸術性と今、この時だからこそのパンであることが決め手になった。
順位の発表が終わると素早くセッティングが整えられ、作られたパンが運ばれていく。これからパン祭りのもう一つの目玉イベント、大食い大会が始まるのだ。
●
「どんだけ食っても怒られないんだろ? すげーよな! オイラいっぱい食べるぞ!」
コトラン・ストライプ(ka0971)はそう、大食い大会に向けやる気を漲らせていた。世界を巡って美味しいものを沢山食べたいと思っている彼にとって、この大食い大会はまさに渡りに船。しかしそうは問屋がおろさなかった。
「色んなパンがおなかいっぱい食べられるなんて、此処が天国かー!」
とコトランと同じような反応を示していたのは銀 桃花(ka1507)だ。そんな二人の目と目があい、しばしフリーズ。そして、
「オイラ絶対負けないからな! 桃ねーちゃんの分まで食ってやるぞ!」
「負けないわよー! 頂上決戦で待つ!」
とライバル関係が出来上がっていた。
(美味しいパンが其処にある……此処にいる理由なんてそれだけで良い!)
一方、米本 剛(ka0320)は、外面は平静を装っていたが、その実心のなかでは楽しみで仕方なかった。
個人的には米食派を自認する米本だが、パンも大好きなのだ。その大食いに向いた大柄な体の中で、彼の心は燃えていた。
「勿論。言う事なしに大食い大会に参加します。ええ。同然です」
その隣ではセレナ・デュヴァル(ka0206)が静かに大会の始まる時を待っていた。二人が並ぶと随分と体格が違うが、考えは同じなのか二人の前には牛乳。これで水分を補給しつつパンを食べようということだ。
(飲み物でお腹が膨れるかも知れませんが、望むところです……)
そう思うセレナ。そしてその考えは米本も同じだった。
「ナッツや干した果実が入っていると腹持ちが良くて好きですよ」
一方逆の方では静架(ka0387)が司会のインタビューに答えていた。傭兵上がりで常に食事できるとは限らない生活を送ってきた彼の信条は食べられる時に遠慮なく食べる。好き嫌いもなく、腹が満たされればそれでいいと考えていた。
さらにそこにネプとガレアスも並び、いよいよ大食い大会開始……と思った所で、
「あー! ステラとサクラみーっけ!」
と飛び込んできた小柄な影が一つ。それはベル(ka1896)だった。もちろんステラと桜蘭は大食い大会に参加していない。ベルが指差したもの、それは二人が作った星型パンと猫型パンであった。
そして、全員が揃ったのを確認した司会者の合図と共に大食い大会が始まる。
まず最初に参加者の前に並べられたのは赤羽の作ったメロンパンとクリームパンだ。大食い大会用に彼がたくさん作ったものだったが、あっという間に食べ尽くされると次のパン、藤堂の春郷祭タルティーヌが並べられる。
一口サイズで食べやすく切られたそれを挑戦者達は次々と口に運んでいく。
だが、そんな中意外なことに、米本が苦戦していた。理由は二つ。まず彼は合図と同時に食べるのではなく、「いただきます」としっかり挨拶をしてから食事を始めたこと。そしてタルティーヌには彼が苦手とするカリフラワーとゆで卵が使われていたことだ。だが、味は抜群に美味しいしと焦らずに食事を進めていた。
「かみ! ひっほょ! ふふひほ!!」
一方ベルと桃花、それにネプはこの時点で意気投合をしていた。ベルは口いっぱいにパンを詰めながら、桃花に話しかけるが何を言っているのかよくわからない。どうやら「髪、一緒、桃色」と言いたかったようだ。
「はぅ! おそろいですねー?」
気づいたネプも美味しく食べている。なお、ネプは甘いパンだけを選んで食べているので勝負からは降りている。
一方の桃花も反応しつつパンをもしゃもしゃと食べながら、ここで仕掛けた。
「むむむ……。さすが桃ねーちゃん、早いな。桃ねーちゃんの苦手なものってなんだろ」
食べながら桃花の方を注目しているコトランの隙をついて、ピーマンのたくさん乗ったタルティーヌをすかさず彼の前に差し出す。何の疑問もなく、差し出されたそれを口に運ぶコトラン。そしてがぶりと口に入れ、
「この苦味……! そして追ってやってくる青臭さ……! ピーマンだあああ! 不味いいいいいい!」
と悶絶していた。
「許せトラ君!勝負の世界は非情なのよ……!」
と悶絶するコトランを見送りながら、タルティーヌを食べ終えた桃花は次のパンに手を出す。そして一口食べて、
「って、これ辛子パンじゃないのぉぉぉ!!」
と気絶してしまった。彼女がこの時食べたのは未悠のパン。つまりハラペーニョソースたっぷりのパンだったのだ。
「すききらい、めっ! おばさまいってた!」
そんな二人を見て、間に居たベルは指差しで注意しつつ次のパンを口に運ぶ。お目当ての星型パンと猫型パンだ。そこに、それらのパンの作者がやって来た。
「ベルベルが食べてくれてる! 超嬉しい!」
ステラはベルに向かって手を振る。ベルも反応して振り返すと、ベルの音がカランコロンと鳴った。
「ベルさーん! 頑張れー!!」
そんなベルに、桜蘭は全身で手を振って応援する。ステラも一緒に応援しようとしたが、ベルの隣で異変が起きていたことに気が付いた。
「お水持ってくよ! 大丈夫?」
気絶していた桃花にあわてて水を持っていく。
「うー……まだ口の中ひりひりするぅ……」
ここで桃花も気が付いた。
「あ、飲み物……?」
目を上げると水を持ったステラの姿。
「星ちゃんありがとー! お礼にこれ♪ ベルちゃんにも!」
と星型の飴をプレゼント。
一方ケイルカは順調にパンを胃に収めていた。が、そんなケイルカが固まる。彼女の手にはキノコ。何を隠そうケイルカはキノコが大の苦手なのだ。
しかしよくよく見ればこれはチョココの作ったパルム型パン。なーんだと安心して食べると甘いクリームが広がる。しかも一種類ではない。食べ進めると二種類の味わいが広がる。
「おいひい……もぐもぐ」
牛乳と一緒に食べ終え満足気なケイルカは次のパンに手を伸ばし口に入れ、そして……
「いやぁぁぁ! きっ……きのっ……こっ!」
油断大敵。見事ケイルカはテーブルの上に突っ伏していた。
トップ争いの方はベル、ガレアス、セレナ、静架の4人に絞られていた。が、ここでベルに異変が起きた。
「……け、けぷぅ。も、たべれない……」
流石に彼女の体には食べ過ぎたようだ。そのままバタンキューと倒れて脱落。
残る三人のペースは一切変わらない。
「美味しいモノは正義ですね」
ペースを変えず淡々と食べるセレナ。
「うまいのう、うまいのう」
と何でもムシャムシャ食べてるガレアス。そして、
「味わって頂くのは食べる側の義務です」
と一口ずつちぎって口に運ぶ静架だが、恐ろしいペースで目の前に皿が積み上がっていく。
そしてここで時間切れになった。
「ごちそうさまでした」
米本は食事を終えた挨拶も欠かさない。スタートこそ遅れたものの、随分と挽回したようだ。
そして結果が発表される。
3位は米本とガレアスの同着だった。スタートが遅れた米本と、つまみ食いをした分遅れたガレアスがこの順位で落ち着いた。
そして2位はセレナ。優勝は静架だった。二人を分けたもの。それは、
「肉を挟めば、主食とおかずが同時にとれますし、甘い味付けにすればデザートにもなる……素敵ですよね」
食べ方位工夫を加えた静架との差であった。
●
祭りが終わり、会場から人が去っていく。
「私からのお土産だもの。皆も喜ぶでしょうね」
そんな中、シルフィウムは意気揚々と帰っていく。もちろんおみやげを抱えているのは彼女ではなくアークだ。
「何が祭りや……これ罰ゲームやないか……」
大量の荷物を持ってうなだれるアークに、シルフィウムは声をかけた。
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最終発言 2015/06/06 01:06:12 |