ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】食料救出!?
マスター:龍河流

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 寸志
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/08 15:00
- 完成日
- 2015/06/17 03:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。
ある昼過ぎの、ある場所で。
「ぎぃやぁーーーあーあぁぁーーっ!!!」
響いたのは、うら若き乙女の悲鳴だった。
年の頃は十五、六。
ものすごい美人とは言えないが、いかにも健康そうではつらつとした、愛くるしい顔立ちだ。
賑やかな祭りに向かうからか、少し茶がかった黒髪も綺麗にくしけずり、三つ編みにして緑のリボンでまとめてある。
服装も小さな花模様がたくさん入った、可愛らしいワンピース。真っ白に洗い上げられたエプロンが、いかにも働き者そうに見える。
「お兄ちゃんっ! ……こんの役立たずーーーーーーーっ!!!」
その腰のあたりまで垂れる一本おさげをぶんぶん振り回して、喉も裂けんばかりの叫び声をあげていなければ、可愛らしい少女で通る彼女は、青くなったり赤くなったりと忙しい。
しかし、それも当然。
『こけっこっこっこっこっ』
足元では、さっきまで籠に入っていた鶏が、大脱走真っただ中。
『こけっこっこっ』……ひょいぱく
そうかと思えば、麻袋から零れ落ちた豆を拾い食べる鶏あり。
『こけっこっこっ』……むしりっ
これまた籠から落ちた葉野菜を、くちばしで力任せに引きちぎる鶏あり。
つまり、一頭のロバにひかせていた荷車から、あらゆる荷物が道に零れ落ちたのだ。
それはもう、道いっぱいに気持ちいいくらい広がっていた。
主に鶏と豆と葉野菜。鶏には、景気よく走っているのもいる。
たまに乾燥果物や芋類。
古びた鞄も道の端に転がっているが、こちらの中身はちゃんと中に収まったままだ。
あと、荷物ではないが、二十歳前後の青年が荷車の下敷きになっている。
目の前の惨状は、大体こんな感じだった。
先に行こうとすれば、この惨状を踏んで進むか、避けて通るか、はたまた。
さて、どうしようかと迷っていたら、両脇に鶏を抱えた少女と目が合った。
そりゃあもう、バッチリと。
「お願い、荷物を拾うの手伝って!」
荷車の下敷きになっている青年は、放置してもよいらしい?
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。
ある昼過ぎの、ある場所で。
「ぎぃやぁーーーあーあぁぁーーっ!!!」
響いたのは、うら若き乙女の悲鳴だった。
年の頃は十五、六。
ものすごい美人とは言えないが、いかにも健康そうではつらつとした、愛くるしい顔立ちだ。
賑やかな祭りに向かうからか、少し茶がかった黒髪も綺麗にくしけずり、三つ編みにして緑のリボンでまとめてある。
服装も小さな花模様がたくさん入った、可愛らしいワンピース。真っ白に洗い上げられたエプロンが、いかにも働き者そうに見える。
「お兄ちゃんっ! ……こんの役立たずーーーーーーーっ!!!」
その腰のあたりまで垂れる一本おさげをぶんぶん振り回して、喉も裂けんばかりの叫び声をあげていなければ、可愛らしい少女で通る彼女は、青くなったり赤くなったりと忙しい。
しかし、それも当然。
『こけっこっこっこっこっ』
足元では、さっきまで籠に入っていた鶏が、大脱走真っただ中。
『こけっこっこっ』……ひょいぱく
そうかと思えば、麻袋から零れ落ちた豆を拾い食べる鶏あり。
『こけっこっこっ』……むしりっ
これまた籠から落ちた葉野菜を、くちばしで力任せに引きちぎる鶏あり。
つまり、一頭のロバにひかせていた荷車から、あらゆる荷物が道に零れ落ちたのだ。
それはもう、道いっぱいに気持ちいいくらい広がっていた。
主に鶏と豆と葉野菜。鶏には、景気よく走っているのもいる。
たまに乾燥果物や芋類。
古びた鞄も道の端に転がっているが、こちらの中身はちゃんと中に収まったままだ。
あと、荷物ではないが、二十歳前後の青年が荷車の下敷きになっている。
目の前の惨状は、大体こんな感じだった。
先に行こうとすれば、この惨状を踏んで進むか、避けて通るか、はたまた。
さて、どうしようかと迷っていたら、両脇に鶏を抱えた少女と目が合った。
そりゃあもう、バッチリと。
「お願い、荷物を拾うの手伝って!」
荷車の下敷きになっている青年は、放置してもよいらしい?
リプレイ本文
「なんてこった、もったいねえ!」
横転した荷車に人が下敷きになっている事実より、藤堂研司(ka0569)にとっては、食材が地面に散っていることが大問題だった。おそらく、荷車は見えていても、その下の青年は視覚から遮断されているのだろう。
この騒動に行き合わせたのは、なにも藤堂ばかりではない。
今まさに、手にしていたナッツを口に放り込もうとしていたテンシ・アガート(ka0589)と、ジェオルジの各所で栽培された果物各種を買い込んでほくほく顔だった音速春兔(ka4984)の二人も、あまりの事態に立ち止まっていた。散歩や買い物の続きは、彼らの頭からは抜け落ちたことだろう。
そこに響いたのが、少女の悲鳴。
「お願い、荷物を拾うの手伝って!」
テンシも春兔も、困っている人を放置出来る性格ではない。助けを求めているならばと、早くも荷車から落ち掛けた籠を立て直している藤堂に倣って、まずは足元に転がってきた芋を拾おうとした。
と、その時。
「いってぇっ」
「あいたたたー!」
彼らを襲ったのは、鶏冠を振り立てた雄鶏達。少女の追跡をかわすべく走った道筋に二人がいたとも言うが、とにかく鶏の蹴爪は鋭くて痛い。
こやつらに無防備だった背中を蹴られた二人が悲鳴を上げても、それは致し方ないだろう。ハンターだって、痛いものは痛いのである。
すると、この騒ぎの場に向かう方向に歩いていた男女が駆け寄ってきた。悲鳴を聞いて駆けつけたとすれば、親切な人々である。
が。
「あら、なんたる惨状」
「ぉぉう。何かすっげぇとっちらかってんなー」
「あらあらぁ、大惨事ですぅ」
流石に、何事が起きているのかは一目で理解したものの、すぐさま助けようという気にはならなかったようだ。人が荷車の下敷きになっているのに、鶏と追いかけっこしているとしか見えないのだから、緊迫感は感じられまい。
しかし、確かに緊迫感は存在していた。主に、少女の眼光に。
「助けろと、言われている気がしますわ」
駆け付けた一人、音羽 美沙樹(ka4757)の発言が、全てを表している。
そう、もはや『助けろ』と命令形の気迫を、少女は放っていた。
これはエリセル・ゼノル・グールドーラ(ka2087)にも伝わって、このまま通り過ぎるなんて許されないわぁと思っている。
もう一人のハルワタート・M・マーライカ(ka4557)は、足元を走り去ろうとした鶏を元来た方向に押し返していた。捕まえたかったが、いきなりのことで対処が間に合っていない。
とりあえず。
「悪いな、ちょっと避けて通ってもらえるか」
先んじて居合わせた面々が荷物と鶏に掛かりきりなので、ハルワタートがやってきた通行人に頼んでいる。幸い歩行者ばかりで、食料が踏み荒らされるようなことは避けられた。
少女がどこの何者かも分からず、散らばった荷をどう集めたらいいかの相談もなく、まず鶏をどうにかすべきかとてんでばらばらに動き出しそうになった七人ほどだったが、上手い具合に仕切ってくれた者がいる。
「まずは落ち着いて。お水をどうぞ」
鶏は飛ばないから、追いかけるのは難しくないと、一目散に走り去る一部雄鶏は見えないような爽やかな笑顔で、少女に水を勧めたのは藍那 翠龍(ka1848)だ。
その水も、横転した荷車に積まれていたものを勝手に引っ張り出していたが、この時は誰も気付いていなかった。気付いていたところで、咎められもしなかったろう。
何はともあれ、少女が水を一気飲みしている間に、偶然か必然か、この場を収める協力をする羽目になった七人のハンターは、手早く対策を話し合っていた。
早くしないと、ロバは足元の野菜にじわじわと近付いて行き、雄鶏達はどこまでも走っていく。残っている奴らは、散らばった食材を胃袋に収めるのに忙しい。
「ええい、このナチュラルボーンモヒカンどもめ! 今から、即行捕まえてやるからなっ」
「あーうん、モヒカンな感じがするね。食欲が世紀末って感じ?」
藤堂とテンシの言い分も、なかなか的を得ているような。
しかし、いかに奴らが世紀末オーラを纏うモヒカンチックな生き物だとしても、ハンターの前では所詮は雄鶏。数が十五だと確認さえ出来ていれば、皆に怖いものなどあるはずがない。
「じゃ、ウサギウマは僕に任せて。ノエミさん、この辺りの野菜を拾っちゃってください」
藍那が的確に少女の名前を聞き出してくれたので、春兔がロバに持参の果物を示して気を惹きつつ、ノエミに野菜の回収を頼んでいた。
ちなみに、後になってからの春兔の解説によれば、ロバは別名をウサギウマというそうだ。理由は耳が長いから。言われれば納得できなくもないが、それがすらっと出て来る春兔の知識は底が知れない。ただし、これはウサギに関する知識限定らしい。
ウサギと付けば大抵のモノに詳しい春兔は、ロバは牧草や野菜より甘いものが好きと、果物を与えて食材が転げる場所から上手に引き離していった。元が大人しい性質のロバは、飼い主から離されても落ち着いている。
ノエミもほっとした様子で、散らばる芋や豆を、空になってしまった袋を箒代わりに道の端に寄せようとし始めた。その手を止めたのは、藍那である。
「あぁ、豆や芋は僕らが拾いますから。せっかくの服が汚れたら、大変でしょう?」
非の打ち所がない美青年に祭り用のお洒落を気遣われたノエミが、たっぷり十秒は立ち尽くしたが、誰も気にしなかった。藍那自身、自分の顔の造作に何の感慨も自覚もないので、『ちょっと気疲れしたんだな』くらいにしか思っていない。
他の六人は、そもそもこの会話を見ていなかった。
ナチュラルボーンモヒカンの半数は、自由を求めて、すでに旅立ってしまっているのだ。
鶏は、羽の付け根をしっかりと持って押さえると、暴れられない。
「逃げたい気持ちも分かりますがぁ、諦めてください~」
もちろん背後から近づくのが良策だが、辺境の放浪を良しとする部族の生まれであるエリセルにとっては、正面からでもたいした問題にはならない。なにしろランアウトも使っていることだし。
素早く正面に回り込み、抵抗する間も与えずにモヒカンをしっかり両手で押さえこむ。その後でどれだけじたばたされようが、彼女の細腕はびくともしなかった。
「モヒカンってぇ、どういう意味でしたかしらぁ。後で、忘れずに訊きましょうねぇ」
『ね?』と同意を求められた雄鶏は、引き攣った鳴き声を上げるばかり。心中で、エリセルが『この子はまるまるしていて美味しそう』と思ったことを、敏感に察知したのだろう。
せっかくのモヒカン鶏冠も、今ではへたりと元気がない。
ぐったりしてしまった一羽を抱えた彼女が、それを籠詰めしている仲間に渡そうと来た道を戻りかけると。
「うわぁっ、なんだこいつぅ! おとなしく捕まれーっ!!」
一緒にこの騒ぎに巻き込まれたテンシが、特別大きな一羽と戦っていた。蹴爪の一撃を喰らわしてやろうと羽根を広げる鶏と睨みあう彼の背後には、別の一羽が走って来ているのだが……エリセルは気にしない。
相手が鶏でも、敵意には気付いて当然だしと考える彼女が冷たい訳ではないのだろう。
その証拠に、テンシは今度はこの一撃を素早くかわしている。
その上で、二羽を同時に捕えるのは無理だと思ったらしく、皆がいる方にじわじわと追い立て始めた。勢いよく追わないのは、まだ食料が散っているところに飛び込ませてはいけないとの配慮に違いない。
「ほんとに、すばしっこいわ、凶暴だわ、ある意味難敵ですわね。っと、囲い込んだ方がよいかしら?」
こちらは首尾よくとらえた一羽を、足を掴んで逆さにぶら下げた美沙樹が、同じ方向に戻りつつ、テンシの様子に気付いた。話し掛けたのはエリセルに対してで、ひときわ暴れる二羽を捕える方法の提案だ。
それが良いと同意したエリセルと共に、美沙樹が囲い込みに使えそうな籠を物色してくる間に、テンシはポケットに残っていたナッツを地面に撒いた。鶏を追い立てるのも止めて、餌に気が向くように見守っている。
元が家禽のモヒカン達は、追われなくなるとたいして時間も掛からずに落ち着きを取り戻した。テンシを警戒はしているが、目の前のナッツも気に掛かるといった風情である。
時折、テンシに対して羽を広げる威嚇をするが、それでも手出しされないから、ナッツをついばみ始めたその時。
「ふふっ、きっとそれが最後のお食事ですわよぅ」
「……ひでぇ」
そっと近寄ってきたエリセルと美沙樹が、二羽に麻袋を被せてしまった。
この時のエリセルの一言について、美沙樹は特別な感想は口にしていない。腹の中では、何か思っていたかもしれないが。
何はともあれ、新天地を目指したモヒカン達は、一通り捕らわれたのであった。
落ちた豆に夢中の鶏達は、逃げた仲間と違って、藍那やハルワタートにあっさりと捕まっていた。
「昔飼ってた鶏が凶暴でよー、よく突かれたもんだ。こいつらは、大人しいなぁ」
おとなしいという割に、結構羽ではたかれていたが、ハルワタートにはその程度は痛いうちに入らない。よほど、以前の飼い鶏にひどい目に遭わされたのだろう。誘き寄せ用に、葉野菜の傷んだ部分を手にしていたが、そこを突き回されているのに平気の平左だ。
藍那は、豆をむさぼっていた鶏を掬い上げて、ぽいと藤堂に投げていた。藤堂も器用に受け止めて、鶏用の籠に次々と押し込んでいく。入れた数を数えることも忘れない。
「スキルを使う必要もなくて、助かりましたねぇ。さて、後は野菜とお芋と豆ですが」
「石ころなんかも混じっちまうが、まずは集めなきゃならん。箒でも借りてくるしかないだろ」
食材が傷むのは心苦しいが、誰かに踏まれたりするのはもっともったいないと、回収方法にしばし悩んだ藍那に、藤堂が少し離れた場所に見える民家を顎で示した。手は、籠を閉めるのに忙しく動いている。
その声を聞いて、ノエミが慌てて民家に向かおうとした横を、ハルワタートが駆け過ぎた。
「ざるも借りてくるから、それで豆からゴミを取り除けようぜ。先に野菜、よろしくなー」
またノエミがぼうっとなっているが、これまた誰も気付かない。
「先に荷車を直して、集めた野菜は乗せた方がいいよな。地面に置いてちゃ、余計に汚れるし」
「そうですね。壊れていないと良いですが」
藤堂と藍那の二人が息を合わせて、荷車を立て直した。しばらく調べて、問題なしと判断したのだろう。すでに集めた芋の入った籠を、よいしょと積んでいる。
この間に、未だ高いびきの兄キーンを、ノエミがぽかりと蹴飛ばしていたのは、二人とも見ないふりをしてあげた。気持ちは分かる。
分からないのは、未だに高いびきのキーンの神経だ。
理解の及ばない生命体はさておき。
「あそこの家の綺麗なお姉さんが、気持ちよく貸してくれたよ」
ハルワタートが言った『綺麗なお姉さん』は、後ほど道具を返しに行った際に、六十代の人間の女性と判明したが、エルフの彼には『お姉さん』と呼ぶべき年齢なのかもしれない。
何はともあれ、ノエミが借りた箒で豆を一か所に寄せている間に、鶏を捕えた六人がせっせと芋や野菜などを拾い集めた。エリセルの桜型妖精アリスのあーちゃんも、乾燥果物拾いをお手伝い。
『ふきゃーっ!!』
突如響く威嚇の声は、藍那の連れている虎猫ニャコが集まったカラスを威嚇するものだ。柴犬も加勢している。テンシにくっついていたパルムが、その戦いを観察中。
もうひたすらに、野菜を拾い、芋を拾い、乾燥果物を集め、荷車に積み直し……
あとは地道に豆をざるに掬って、ゴミや石と選り分ける。人手と道具はあるので、これもさほどの時間は掛からずに終わった。料理人でもある藤堂はもう少し綺麗にしたい様子ながら、いつまでも道端に陣取っているのもよろしくない。
それに、この食材はそのまま売るのではなく、ノエミ達の親戚のところで料理されると耳にして、藤堂と美沙樹が興味を示した。かたや異世界の、かたや西方の地方料理を、見てみたいのだろう。
加えて、他の者だってそろそろおなかが空いてきた。賑やかなところに出て、美味しいものにありつきたいのは人情というものだろう。
「そうだ、この鞄はノエミさんのかな? ここに乗せればいい?」
「あ、それは自分で持って行くから」
荷車には、いつの間にやらちゃっかりとニャコ達が乗り込んでいて、鞄を置くのにいい場所がない。それでノエミが手を出したのを、テンシは自分が持つよとにかっと笑う。ノエミの何度目かの赤面が展開されているが、気付いたのは女性二人くらいのもの。
その二人は、兄があれじゃねと納得しきりだった。
キーンはこの時、自分の家のロバに髪を齧られている。ロバは、起こしているつもりかもしれない。
「ウサギウマさん、怪我もしてないし、お水と果物もあげたから、元気だよ。あぁっと、荷車にはどう繋いだらいいですか?」
ウサギウマことロバの世話をしっかり済ませてくれた春兔は、すっかり仲良しになったロバを上手に引いてきた。それでも荷車への繋ぎ方がよく分からず、ノエミに尋ねる時は改まった口調になっている。美沙樹とエリセルにも敬語なので、女性は尊重すべしと教育されたのだろうか。
それにしては腰が引けていると思ったのはハルワタートと藤堂くらいで、ノエミは敬語なんかいらないと照れ、女性ハンター二人は気にしていない。
正確には、別のものを気にしていた。
「そういえば、コレがいたか」
「いっそ置いて行っちゃうぅ?」
「水でもぶっかければ、目が覚めるだろ」
「まあまあ、ここはひとつ、気付けに僕がプロレス技の吊り天井を掛けてあげるよ!」
ハルワタートとテンシも加わり、キーンをどう叩き起こすかの相談中だ。傍らでは、ロバが懸命に鼻を鳴らして、キーンを揺り動かしている。このまま放置してはいけないと、一応は主人の心配でもしているものか。
これを素晴らしい絆だと感心したのは、傍で見ている藤堂だけ。藍那は、気が付いたら飲ませようと、水の用意を怠りなく進めていた。
しかし、このままでは水を飲ませる前にひどい目に遭わされそうだと、キーンの心配をしているのはもしかすると春兔一人。ノエミは、また今にも蹴飛ばしに行きそうである。
「なんにしても、この元凶さんにはぁ、今夜のご飯くらいは奢ってもらうですぅ」
そのためにも置いてはいけないが、どう目を覚まさせてやろうか。
なにやらとんでもない方法を目覚ましにしそうな相談に、春兔は溜息を吐いた。手には、キーンに分けてあげようと、この時期にはかなり珍しい林檎を一つ、大事に持っている。
しかし、そんな同情的な彼とて、キーンに水をぶっかけようかという相談を止めはしなかった。
だって、ウサギウマを苦労させたのは、キーンなのだ。
横転した荷車に人が下敷きになっている事実より、藤堂研司(ka0569)にとっては、食材が地面に散っていることが大問題だった。おそらく、荷車は見えていても、その下の青年は視覚から遮断されているのだろう。
この騒動に行き合わせたのは、なにも藤堂ばかりではない。
今まさに、手にしていたナッツを口に放り込もうとしていたテンシ・アガート(ka0589)と、ジェオルジの各所で栽培された果物各種を買い込んでほくほく顔だった音速春兔(ka4984)の二人も、あまりの事態に立ち止まっていた。散歩や買い物の続きは、彼らの頭からは抜け落ちたことだろう。
そこに響いたのが、少女の悲鳴。
「お願い、荷物を拾うの手伝って!」
テンシも春兔も、困っている人を放置出来る性格ではない。助けを求めているならばと、早くも荷車から落ち掛けた籠を立て直している藤堂に倣って、まずは足元に転がってきた芋を拾おうとした。
と、その時。
「いってぇっ」
「あいたたたー!」
彼らを襲ったのは、鶏冠を振り立てた雄鶏達。少女の追跡をかわすべく走った道筋に二人がいたとも言うが、とにかく鶏の蹴爪は鋭くて痛い。
こやつらに無防備だった背中を蹴られた二人が悲鳴を上げても、それは致し方ないだろう。ハンターだって、痛いものは痛いのである。
すると、この騒ぎの場に向かう方向に歩いていた男女が駆け寄ってきた。悲鳴を聞いて駆けつけたとすれば、親切な人々である。
が。
「あら、なんたる惨状」
「ぉぉう。何かすっげぇとっちらかってんなー」
「あらあらぁ、大惨事ですぅ」
流石に、何事が起きているのかは一目で理解したものの、すぐさま助けようという気にはならなかったようだ。人が荷車の下敷きになっているのに、鶏と追いかけっこしているとしか見えないのだから、緊迫感は感じられまい。
しかし、確かに緊迫感は存在していた。主に、少女の眼光に。
「助けろと、言われている気がしますわ」
駆け付けた一人、音羽 美沙樹(ka4757)の発言が、全てを表している。
そう、もはや『助けろ』と命令形の気迫を、少女は放っていた。
これはエリセル・ゼノル・グールドーラ(ka2087)にも伝わって、このまま通り過ぎるなんて許されないわぁと思っている。
もう一人のハルワタート・M・マーライカ(ka4557)は、足元を走り去ろうとした鶏を元来た方向に押し返していた。捕まえたかったが、いきなりのことで対処が間に合っていない。
とりあえず。
「悪いな、ちょっと避けて通ってもらえるか」
先んじて居合わせた面々が荷物と鶏に掛かりきりなので、ハルワタートがやってきた通行人に頼んでいる。幸い歩行者ばかりで、食料が踏み荒らされるようなことは避けられた。
少女がどこの何者かも分からず、散らばった荷をどう集めたらいいかの相談もなく、まず鶏をどうにかすべきかとてんでばらばらに動き出しそうになった七人ほどだったが、上手い具合に仕切ってくれた者がいる。
「まずは落ち着いて。お水をどうぞ」
鶏は飛ばないから、追いかけるのは難しくないと、一目散に走り去る一部雄鶏は見えないような爽やかな笑顔で、少女に水を勧めたのは藍那 翠龍(ka1848)だ。
その水も、横転した荷車に積まれていたものを勝手に引っ張り出していたが、この時は誰も気付いていなかった。気付いていたところで、咎められもしなかったろう。
何はともあれ、少女が水を一気飲みしている間に、偶然か必然か、この場を収める協力をする羽目になった七人のハンターは、手早く対策を話し合っていた。
早くしないと、ロバは足元の野菜にじわじわと近付いて行き、雄鶏達はどこまでも走っていく。残っている奴らは、散らばった食材を胃袋に収めるのに忙しい。
「ええい、このナチュラルボーンモヒカンどもめ! 今から、即行捕まえてやるからなっ」
「あーうん、モヒカンな感じがするね。食欲が世紀末って感じ?」
藤堂とテンシの言い分も、なかなか的を得ているような。
しかし、いかに奴らが世紀末オーラを纏うモヒカンチックな生き物だとしても、ハンターの前では所詮は雄鶏。数が十五だと確認さえ出来ていれば、皆に怖いものなどあるはずがない。
「じゃ、ウサギウマは僕に任せて。ノエミさん、この辺りの野菜を拾っちゃってください」
藍那が的確に少女の名前を聞き出してくれたので、春兔がロバに持参の果物を示して気を惹きつつ、ノエミに野菜の回収を頼んでいた。
ちなみに、後になってからの春兔の解説によれば、ロバは別名をウサギウマというそうだ。理由は耳が長いから。言われれば納得できなくもないが、それがすらっと出て来る春兔の知識は底が知れない。ただし、これはウサギに関する知識限定らしい。
ウサギと付けば大抵のモノに詳しい春兔は、ロバは牧草や野菜より甘いものが好きと、果物を与えて食材が転げる場所から上手に引き離していった。元が大人しい性質のロバは、飼い主から離されても落ち着いている。
ノエミもほっとした様子で、散らばる芋や豆を、空になってしまった袋を箒代わりに道の端に寄せようとし始めた。その手を止めたのは、藍那である。
「あぁ、豆や芋は僕らが拾いますから。せっかくの服が汚れたら、大変でしょう?」
非の打ち所がない美青年に祭り用のお洒落を気遣われたノエミが、たっぷり十秒は立ち尽くしたが、誰も気にしなかった。藍那自身、自分の顔の造作に何の感慨も自覚もないので、『ちょっと気疲れしたんだな』くらいにしか思っていない。
他の六人は、そもそもこの会話を見ていなかった。
ナチュラルボーンモヒカンの半数は、自由を求めて、すでに旅立ってしまっているのだ。
鶏は、羽の付け根をしっかりと持って押さえると、暴れられない。
「逃げたい気持ちも分かりますがぁ、諦めてください~」
もちろん背後から近づくのが良策だが、辺境の放浪を良しとする部族の生まれであるエリセルにとっては、正面からでもたいした問題にはならない。なにしろランアウトも使っていることだし。
素早く正面に回り込み、抵抗する間も与えずにモヒカンをしっかり両手で押さえこむ。その後でどれだけじたばたされようが、彼女の細腕はびくともしなかった。
「モヒカンってぇ、どういう意味でしたかしらぁ。後で、忘れずに訊きましょうねぇ」
『ね?』と同意を求められた雄鶏は、引き攣った鳴き声を上げるばかり。心中で、エリセルが『この子はまるまるしていて美味しそう』と思ったことを、敏感に察知したのだろう。
せっかくのモヒカン鶏冠も、今ではへたりと元気がない。
ぐったりしてしまった一羽を抱えた彼女が、それを籠詰めしている仲間に渡そうと来た道を戻りかけると。
「うわぁっ、なんだこいつぅ! おとなしく捕まれーっ!!」
一緒にこの騒ぎに巻き込まれたテンシが、特別大きな一羽と戦っていた。蹴爪の一撃を喰らわしてやろうと羽根を広げる鶏と睨みあう彼の背後には、別の一羽が走って来ているのだが……エリセルは気にしない。
相手が鶏でも、敵意には気付いて当然だしと考える彼女が冷たい訳ではないのだろう。
その証拠に、テンシは今度はこの一撃を素早くかわしている。
その上で、二羽を同時に捕えるのは無理だと思ったらしく、皆がいる方にじわじわと追い立て始めた。勢いよく追わないのは、まだ食料が散っているところに飛び込ませてはいけないとの配慮に違いない。
「ほんとに、すばしっこいわ、凶暴だわ、ある意味難敵ですわね。っと、囲い込んだ方がよいかしら?」
こちらは首尾よくとらえた一羽を、足を掴んで逆さにぶら下げた美沙樹が、同じ方向に戻りつつ、テンシの様子に気付いた。話し掛けたのはエリセルに対してで、ひときわ暴れる二羽を捕える方法の提案だ。
それが良いと同意したエリセルと共に、美沙樹が囲い込みに使えそうな籠を物色してくる間に、テンシはポケットに残っていたナッツを地面に撒いた。鶏を追い立てるのも止めて、餌に気が向くように見守っている。
元が家禽のモヒカン達は、追われなくなるとたいして時間も掛からずに落ち着きを取り戻した。テンシを警戒はしているが、目の前のナッツも気に掛かるといった風情である。
時折、テンシに対して羽を広げる威嚇をするが、それでも手出しされないから、ナッツをついばみ始めたその時。
「ふふっ、きっとそれが最後のお食事ですわよぅ」
「……ひでぇ」
そっと近寄ってきたエリセルと美沙樹が、二羽に麻袋を被せてしまった。
この時のエリセルの一言について、美沙樹は特別な感想は口にしていない。腹の中では、何か思っていたかもしれないが。
何はともあれ、新天地を目指したモヒカン達は、一通り捕らわれたのであった。
落ちた豆に夢中の鶏達は、逃げた仲間と違って、藍那やハルワタートにあっさりと捕まっていた。
「昔飼ってた鶏が凶暴でよー、よく突かれたもんだ。こいつらは、大人しいなぁ」
おとなしいという割に、結構羽ではたかれていたが、ハルワタートにはその程度は痛いうちに入らない。よほど、以前の飼い鶏にひどい目に遭わされたのだろう。誘き寄せ用に、葉野菜の傷んだ部分を手にしていたが、そこを突き回されているのに平気の平左だ。
藍那は、豆をむさぼっていた鶏を掬い上げて、ぽいと藤堂に投げていた。藤堂も器用に受け止めて、鶏用の籠に次々と押し込んでいく。入れた数を数えることも忘れない。
「スキルを使う必要もなくて、助かりましたねぇ。さて、後は野菜とお芋と豆ですが」
「石ころなんかも混じっちまうが、まずは集めなきゃならん。箒でも借りてくるしかないだろ」
食材が傷むのは心苦しいが、誰かに踏まれたりするのはもっともったいないと、回収方法にしばし悩んだ藍那に、藤堂が少し離れた場所に見える民家を顎で示した。手は、籠を閉めるのに忙しく動いている。
その声を聞いて、ノエミが慌てて民家に向かおうとした横を、ハルワタートが駆け過ぎた。
「ざるも借りてくるから、それで豆からゴミを取り除けようぜ。先に野菜、よろしくなー」
またノエミがぼうっとなっているが、これまた誰も気付かない。
「先に荷車を直して、集めた野菜は乗せた方がいいよな。地面に置いてちゃ、余計に汚れるし」
「そうですね。壊れていないと良いですが」
藤堂と藍那の二人が息を合わせて、荷車を立て直した。しばらく調べて、問題なしと判断したのだろう。すでに集めた芋の入った籠を、よいしょと積んでいる。
この間に、未だ高いびきの兄キーンを、ノエミがぽかりと蹴飛ばしていたのは、二人とも見ないふりをしてあげた。気持ちは分かる。
分からないのは、未だに高いびきのキーンの神経だ。
理解の及ばない生命体はさておき。
「あそこの家の綺麗なお姉さんが、気持ちよく貸してくれたよ」
ハルワタートが言った『綺麗なお姉さん』は、後ほど道具を返しに行った際に、六十代の人間の女性と判明したが、エルフの彼には『お姉さん』と呼ぶべき年齢なのかもしれない。
何はともあれ、ノエミが借りた箒で豆を一か所に寄せている間に、鶏を捕えた六人がせっせと芋や野菜などを拾い集めた。エリセルの桜型妖精アリスのあーちゃんも、乾燥果物拾いをお手伝い。
『ふきゃーっ!!』
突如響く威嚇の声は、藍那の連れている虎猫ニャコが集まったカラスを威嚇するものだ。柴犬も加勢している。テンシにくっついていたパルムが、その戦いを観察中。
もうひたすらに、野菜を拾い、芋を拾い、乾燥果物を集め、荷車に積み直し……
あとは地道に豆をざるに掬って、ゴミや石と選り分ける。人手と道具はあるので、これもさほどの時間は掛からずに終わった。料理人でもある藤堂はもう少し綺麗にしたい様子ながら、いつまでも道端に陣取っているのもよろしくない。
それに、この食材はそのまま売るのではなく、ノエミ達の親戚のところで料理されると耳にして、藤堂と美沙樹が興味を示した。かたや異世界の、かたや西方の地方料理を、見てみたいのだろう。
加えて、他の者だってそろそろおなかが空いてきた。賑やかなところに出て、美味しいものにありつきたいのは人情というものだろう。
「そうだ、この鞄はノエミさんのかな? ここに乗せればいい?」
「あ、それは自分で持って行くから」
荷車には、いつの間にやらちゃっかりとニャコ達が乗り込んでいて、鞄を置くのにいい場所がない。それでノエミが手を出したのを、テンシは自分が持つよとにかっと笑う。ノエミの何度目かの赤面が展開されているが、気付いたのは女性二人くらいのもの。
その二人は、兄があれじゃねと納得しきりだった。
キーンはこの時、自分の家のロバに髪を齧られている。ロバは、起こしているつもりかもしれない。
「ウサギウマさん、怪我もしてないし、お水と果物もあげたから、元気だよ。あぁっと、荷車にはどう繋いだらいいですか?」
ウサギウマことロバの世話をしっかり済ませてくれた春兔は、すっかり仲良しになったロバを上手に引いてきた。それでも荷車への繋ぎ方がよく分からず、ノエミに尋ねる時は改まった口調になっている。美沙樹とエリセルにも敬語なので、女性は尊重すべしと教育されたのだろうか。
それにしては腰が引けていると思ったのはハルワタートと藤堂くらいで、ノエミは敬語なんかいらないと照れ、女性ハンター二人は気にしていない。
正確には、別のものを気にしていた。
「そういえば、コレがいたか」
「いっそ置いて行っちゃうぅ?」
「水でもぶっかければ、目が覚めるだろ」
「まあまあ、ここはひとつ、気付けに僕がプロレス技の吊り天井を掛けてあげるよ!」
ハルワタートとテンシも加わり、キーンをどう叩き起こすかの相談中だ。傍らでは、ロバが懸命に鼻を鳴らして、キーンを揺り動かしている。このまま放置してはいけないと、一応は主人の心配でもしているものか。
これを素晴らしい絆だと感心したのは、傍で見ている藤堂だけ。藍那は、気が付いたら飲ませようと、水の用意を怠りなく進めていた。
しかし、このままでは水を飲ませる前にひどい目に遭わされそうだと、キーンの心配をしているのはもしかすると春兔一人。ノエミは、また今にも蹴飛ばしに行きそうである。
「なんにしても、この元凶さんにはぁ、今夜のご飯くらいは奢ってもらうですぅ」
そのためにも置いてはいけないが、どう目を覚まさせてやろうか。
なにやらとんでもない方法を目覚ましにしそうな相談に、春兔は溜息を吐いた。手には、キーンに分けてあげようと、この時期にはかなり珍しい林檎を一つ、大事に持っている。
しかし、そんな同情的な彼とて、キーンに水をぶっかけようかという相談を止めはしなかった。
だって、ウサギウマを苦労させたのは、キーンなのだ。
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救出作戦会議 藍那 翠龍(ka1848) 人間(クリムゾンウェスト)|21才|男性|霊闘士(ベルセルク) |
最終発言 2015/06/08 02:52:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/07 01:00:30 |