ゲスト
(ka0000)
【JB】6月にみんなで結婚式パーティー♪
マスター:星群彩佳

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 8日
- 締切
- 2015/06/11 07:30
- 完成日
- 2015/06/23 07:23
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
6月になり、結婚式の季節となりました。
なのでいっそのこと、結婚式パーティーをみなさんでやってみませんか?
天気の良い日、場所はグライズヘイム王国にある小高い山の上です。
周囲は自然に囲まれていまして、白く大きな教会が建っています。
また中庭も広く、外で立食パーティーを行うこともできます。
そして近くに海もありまして、白くて広い綺麗な海岸もあります。
お好きな所で過ごしてください。
衣装は結婚式パーティーに相応しいものなら、何でも良しとします。
ウェディングドレスやタキシード、ワンピースやスーツ、その他でも全然OKです。
そして男装・女装でも構いません。
また結婚式パーティーで余興をやりたい方は、ぜひどうぞ。
楽器を演奏したり、歌を歌ったり、ダンスを踊ったり、一発芸をして見せたりと、盛り上がるなら何でもいいです。
そして恋人や夫婦で参加するのも良いですが、今回は『結婚式パーティー』なので仲間や友達、家族やお一人様で参加をするのも有りです。
本物の結婚式ではなく、あくまでも結婚式に出席するような衣装を着て、パーティーをするというものなので、お気軽に参加してください。
なのでいっそのこと、結婚式パーティーをみなさんでやってみませんか?
天気の良い日、場所はグライズヘイム王国にある小高い山の上です。
周囲は自然に囲まれていまして、白く大きな教会が建っています。
また中庭も広く、外で立食パーティーを行うこともできます。
そして近くに海もありまして、白くて広い綺麗な海岸もあります。
お好きな所で過ごしてください。
衣装は結婚式パーティーに相応しいものなら、何でも良しとします。
ウェディングドレスやタキシード、ワンピースやスーツ、その他でも全然OKです。
そして男装・女装でも構いません。
また結婚式パーティーで余興をやりたい方は、ぜひどうぞ。
楽器を演奏したり、歌を歌ったり、ダンスを踊ったり、一発芸をして見せたりと、盛り上がるなら何でもいいです。
そして恋人や夫婦で参加するのも良いですが、今回は『結婚式パーティー』なので仲間や友達、家族やお一人様で参加をするのも有りです。
本物の結婚式ではなく、あくまでも結婚式に出席するような衣装を着て、パーティーをするというものなので、お気軽に参加してください。
リプレイ本文
○結婚式前
「男性用のタキシードは良いんだけど、胸元はキッツイねぇ。長い髪も後ろで一つに結んではいるけど、重いでさぁ」
女性用の更衣室から出てきた春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)は肩を揉みながら、待ち合わせ場所へと向かう。
着替え終えた後は中庭で待ち合わせをしていたのだが、先に来ていた二人の姿を見た紫苑は思わず破顔して、大声で笑ってしまった。
「ぶっ……あははっ! こっこれはまた、うつっ……美しい『花嫁』達だねぇ!」
「紫苑っ! 貴様、騙したな!」
「わあ! 紫苑ねーさん、カッコイイでさぁ!」
真っ白なウェディングドレスを着ているファウストゥス(ka3689)と鬼百合(ka3667)の性別は男性である。
「何が『女装&男装 結婚式風パーティー』だ! 男性用の更衣室にいたヤツらから、本当の内容を聞いたぞ!」
「しかもこの衣装しか用意されていないのは、ひどすぎでさぁ。ファウの兄さんと仕方なく着たんですよぉ?」
涙目になっている二人を見て、流石にやりすぎたと思った紫苑は何とか笑いを堪える。
「すっすまないねぇ。ホラ、こっちが本当の衣装でさぁ。ちゃんと男性用のタキシードを用意したから、着替えてくると良いですよぉ」
笑いすぎて涙目になっている紫苑は震えながら、二つの大きな紙袋を二人に差し出す。
「ったく……。こんな視界の暴力みたいな姿で、人前に出ていられるか」
「あっ、もちろんねーさんも女性用の衣装に着替えるんですよねぇ」
「へっ? ……ああ、まあそうさねぇ。俺も着替えてくることにするさぁ」
鬼百合の純粋な視線に負けて、紫苑も再び更衣室に戻る。
そして数十分後、改めて正式な衣装に着替えた三人は、先程と同じ場所で再会した。
紫苑は白い生地に紫の花柄のスリット入りのロングドレスに着替え、長い髪はほどいてメイクをしている。
「タキシードの方が良かったねぇ。改めて女の衣装を着ると、落ち着かないでさぁ」
ファウストゥスはタキシードに着替えたが、上げた前髪を気にしていた。
「私もこういう正装は少し苦手だが、模擬とはいえ結婚式を挙げるヤツらがいるんだ。少しの間は我慢しろ」
子供用のタキシードを着た鬼百合は、正装をした二人を見て眼を輝かせる。
「おおっ、ねーさんもにーさんも素敵でさぁ! 二人が結婚するのも良いと思いますぜ?」
「「はあっ!?」」
突然の鬼百合の言葉に、二人は同時に眼を見開いて驚いた表情を浮かべた。
「何だったら今日、オレとねーさんが結婚するってのはどうでさぁ?」
「……鬼百合は俺の婚期が遅れる事は、イヤがっていたじゃねぇか?」
「今回はお遊びですぜ! 楽しまなきゃ損でさぁ!」
紫苑とファウストゥスは顔を見合わせると、鬼百合には敵わないと言うようにため息を吐く。
「まっ、良いでさぁ。でも、誓いのキスはココにな?」
そう言って紫苑はしゃがむと、鬼百合のまぶたに軽く口付けをする。
模擬結婚式を挙げる予定の人達は、着替えを終えると控室で時が来るのを待っていた。
白いタキシードを着た時音ざくろ(ka1250)は控室の扉を開け放つと、四人の花嫁姿を見て満面の笑みを浮かべる。
「みんな、ウェディングドレスがとても良く似合ってて綺麗だよ」
「ざくろん……。褒めてくれるのは嬉しいけれど、よくもまあ誰にも刺されなかったわね」
うっとりしているざくろに最初に声をかけたのは、アルラウネ(ka4841)だ。白いウェディングドレスは上半身はシンプルなノースリーブ、下半身はパニエになっている。
「えっ? どうして?」
アルラウネが半分喜びながらも半分呆れていることに、全く気付いていないざくろは不思議そうに首を傾げた。
実は数日前、アルラウネはざくろにこう言われたのだ。
「アルラ、結婚しよう! ……って間違えた! ほっ本当は結婚式パーティーに一緒に参加しようって……ねっ!」
アタフタしながらもざくろは今回のイベント内容を説明して、アルラウネは自分を選んでくれたことが嬉しかった。
「ざくろんったら、いつもより大胆なお誘いだったわね」
自分だけが誘われたと思い込み、しばらくの間は幸せな気分に浸れたのだ。
ところがいざここへ来てみれば、自分の他にもざくろの恋人達が勢ぞろいしていた。
他の恋人達も同じ言葉で誘われて来たらしく、その理由を聞かれたざくろはあっけらかんと答える。
「だってみんなのウェディングドレス姿、見たかったんだもん」
呆気にとられたものの、そんな彼を恋人にしてしまった自分が悪いのだと彼女達は思った。
「本当の結婚式をする日は、まだまだ遠そうね……」
「まあまあ、アルラウネ。ざくろはこういう人だから、ね?」
がっくりと肩を落とすアルラウネに声をかけたのは、コーシカ(ka0903)だ。いつもは髪をツインテールに結んでいるが、今日は下ろしている。漆黒のドレスを着ているものの、どこか悟ったような笑みを浮かべていた。
「こういうイベントに誘ってくれただけでも、嬉しいじゃない。でもこの中では私が一番小さいし、大人の魅力に欠けているのがちょっと寂しいわね」
「そんなことないよ! 今日のコーシカはいつもより大人っぽくて素敵だよ!」
ざくろはコーシカの小さな両手を包み込むように両手で握り締めて、真剣な眼差しで語った。
「あっありがとう……。大好きよ、ざくろ。今日は誘ってくれて、嬉しかったわ」
「ざくろもコーシカのことが……っとと。愛の言葉は結婚式の時に、ね」
ざくろは意味ありげに微笑むと、コーシカからスッ……と離れる。
そんなざくろの後姿を見ながら、コーシカは深いため息を吐く。
「……いつかは本当の結婚式を挙げたいわね。その時は合同じゃなくて、個人的な結婚式を……。ああ、でも今すぐにでもざくろを抱きしめたいわ。いつの日か、遠慮することなくざくろを一人占めできる時がくると良いんだけど……」
コーシカが小さく呟いている間に、ざくろは舞桜守巴(ka0036)の所へ行った。
「うふふっ、ざくろは本当に欲張りですわねぇ。模擬とはいえ、恋人全員と結婚式を挙げるなんて」
「だって一人だけ選ぶのって、不公平だろう?」
「まあ男らしい」
巴は『しょうがない男』と言いたげに、肩を竦める。
Aラインの白いウェディングドレスに身を包んだ巴は、そっとざくろに近付いて耳元で囁く。
「……本音を言えば、二人っきりで結婚式を挙げたいんですよ? けれど今日は楽しいイベントですし、野暮なことは言いませんわ。愛していますから、カッコイイところを見せてくださいな」
「もちろんだよ」
そこへ開いた扉の向こうから、マーメイドラインの白いウェディングドレスを着たアルフェロア・アルヘイル(ka0568)がひょっこり顔を出す。
「あら? そこにいるのはざくろちゃんと巴ちゃん?」
「やあ、アルフェもこのイベントに参加していたんだ。そのドレス、とても良く似合っているね」
「まあ、本当に! とっても綺麗ですわー!」
アルフェロアの姿に感動した巴は、小走りで近付く。
「褒めてくれてありがとう、ざくろちゃん。巴ちゃんもその素敵なドレス、良く似合っているわ」
だがアルフェロアは控室に複数の花嫁がいるのを見て、微笑みが固まる。
「……えっと、もしかしなくても花嫁さん全員、ざくろちゃんのお相手かしら?」
「そうなのです! 今日はみんなで一緒に結婚式をするんですよ。模擬とはいえ、結婚式には変わりありませんわ! うふふっ、今から楽しみでなりません♪」
ざくろの代わりに、はしゃいだ巴が全て説明した。
しかしアルフェロアは、思いっきり遠い目をする。
「模擬……そう、模擬ならば神もお許しになりますね。今日はイベントですし……」
温度差がある二人から離れたざくろは、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)の所へ向かった。
「アデリシア、顔が強張っているけど緊張している?」
「そう見えますか? このマーメイドラインのドレスの制作が間に合ったので、ほっとはしているんですけどね」
アデリシアは自分が着ているドレスの他、肩を覆うケープとウェディングブーケも自作である。
「ああ、でも不安は少しあります。将来、何が起こるか分かりませんけど、ざくろさんと今日一緒に結婚する女性達と一緒ならば、何でも乗り越えられる気がします」
「えっと、あの、アデリシア?」
「きっと出産する時も、心強いでしょうね。ざくろさんは何人ぐらい子供が欲しいですか?」
「かっ家族は多い方が楽しいと思うけど……」
「ですよね。……ああ、でも私が一番年上なんですよね。年齢的にも、子供は早く産みたいものです」
「あの、アデリシア……」
「若い女性にはちょっとヤキモチを焼いちゃいます。なのでざくろさん、誓いのキスは私を一番最後にしてください。ときめきを長く感じていたいですから……」
ざくろは表情が固まったまま、何も言えなくなった。
今日の結婚式はあくまでも模擬であり、本当の結婚式ではないのだが、アデリシアの中では本番真っ只中らしい――。
☆模擬結婚式、開催
新郎のざくろは、新婦のアルラウネ・コーシカ・巴・アデリシアをそれぞれエスコートしながら、牧師の前まで歩いて行く。
そして緊張した面持ちの鬼百合も、紫苑を一生懸命にエスコートしながら式場に入って来た。
入場曲は天竜寺詩(ka0396)が三味線を演奏して、アルフェロアとイレーヌ(ka1372)が歌う。グライズヘイム王国で流行っている結婚式の曲と歌は、美しく教会の中に響き渡る。
参列者席に座るステラ・フォーク(ka0808)は花嫁達を見ながら、隣に座っている兄の仙道・宙(ka2134)の腕に強くしがみつく。
「お兄様、ウェディングドレス姿のお姉様達、素敵ですわ! やっぱり結婚式にはウェディングドレスですわね!」
「今回の俺達は出席者の役目なんだから、大人しくしていろ」
宙は興奮しているステラを、グイッと自分から引き離す。
「あんっ! んもぅ、お兄様ったらイジワルなんだからぁ」
今回の二人は模擬結婚式の出席者という役目なので宙はスーツを着ており、ステラは黒いリボンで髪を束ねて、淡い緑色のシンプルなデザインのドレスと白いグローブを身に着けていた。
「私はいつでもずっと、お兄様の近くにいたいのに……」
「今でも充分、近くにいるだろう? 式が終わるまで、静かにしていろ」
宙に頭をポンポンされたステラは、ふにゃっと笑うと姿勢を正した。
「そうですわね。今は主役の方達をあたたかく見守りましょう」
そう言うと、ステラは新郎と新婦達の方に体を向ける。しかしステラの頭の中では新郎の姿は宙に、新婦の姿は自分に置き換えていた。
「結婚指輪はやっぱり、シンプルなデザインのプラチナリングが良いですわね。お兄様とお揃いのマリッジリング……。結婚式で、お兄様が私の左手の薬指に……やぁん! 想像するだけでもたまりませんわぁ!」
悶え始めるステラの後頭部を、すかさず宙は軽くチョップする。
「ステラ、妄想が口から出ているよ」
「あっアラ、私ったら……」
「まったく……」
仕方がないというように、宙はため息を吐く。だが年相応に結婚式に憧れを抱く妹の姿は、素直に可愛いと思える。
――ブラコンと言えるほど軽くない感情を、ステラが自分に抱いていることは知っていた。
本当は兄としては妹がいずれ他の男性を愛して、結婚することを望まなければならない。
しかし宙はステラが他の男と嬉しそうに結婚式を挙げる様子を思い浮かべると、胸にモヤモヤしたモノが生まれるのを感じた。
「……この感情が良いものなのか悪いものなのかはまだ分からないが、とりあえずは妹の成長を見守っていこう」
小さく呟いた宙の視線は、ステラに向いている。
そんな二人から少し離れた参列者席にいるのは、新郎と新婦達に小声で呪いをかけているフェリル・L・サルバ(ka4516)だ。
「リア充め! 末永く爆発しろ!」
「貴様の脳味噌も爆発してしまえ」
隣にいる常胎ギィ(ka2852)は高いハイヒールのかかとで、思いっきりフェリルの足を踏む。
「ぐほっ!? だっだって常ちゃんがどうしても参加したいと言うから連れて来たけど、彼女も奥さんもいない身としてはこの幸せいっぱいの雰囲気は耐えられないというか……」
「やかましい! ったく……。模擬とはいえ、はじめての結婚式に参加して緊張しているのに、隣でおかしなことをするな」
シンプルなワンピースに身を包んだギィは、実はこれがはじめての結婚式参加になる。慣れない雰囲気に落ち着かなくてソワソワしていたのだが、一緒に来たスーツ姿のフェリルの奇行によって一気に冷静になれた。冷静になれば、落ち着いて結婚式を見て楽しめる。
「ふむ。はじめて結婚式を見るが、なかなか素敵じゃないか。私もいずれは素敵な殿方と出会い、教会で永遠の愛を誓いたいものだ」
真剣な表情で語るギィを見て、ふとフェリルは声をかけた。
「そういやぁ常ちゃんは、結婚式の流れはまだ知らないんだよな?」
「ああ、それはこれから見て覚えようかと……」
「その前に説明してやるよ。今回は模擬だから、正式な結婚式とはちょっとやり方が違うと思うからな」
「むっ……。それもそうだな」
フェリルはニッと笑うと、ギィに顔をぐいっと近付ける。
「簡単に説明すると、新郎と新婦が誓いの言葉を言った後、指輪を交換して、人前で誓いのキスをするんだ」
そう言ってフェリルはギィの小さな唇を、人差し指でちょんっとつっつく。
「ひっ人前でキスだとぉ!? そっそんなハレンチなっ……」
途端に真っ赤になってアタフタするギィを見て、フェリルはククッと笑いながら離れる。
「常ちゃんはまだまだお子様だな。これじゃあ結婚する日は遠そうだ」
口ではそう言いながらもフェリルは、ギィが美しい女性に成長して花嫁になる姿を思い浮かべた。
「……常ちゃんはいつかは俺から離れていくんだよなぁ。やっぱりちょっと寂しいね」
「あっ、そういえばフェリル、ちょっと聞きたいんだが……」
「何だ?」
「結婚は複数の女性と行ってもいいのか?」
ギィが不思議そうに指差した所には、ざくろと複数の新婦の姿がある。
フェリルの顔が強張り、頭の中ではざくろへの恨み言と共に、ギィへの説明を必死に考えていた。
そんな参列者達の気持ちに一切気付いていないざくろは、新婦達の前で誓いの言葉を言う。
「みんな、大好きだよ。ざくろ、絶対に幸せにするからね!」
声高く宣言すると、新婦達にキスをして強く抱きしめていく――。
☆立食パーティー
全員が中庭のパーティー会場に集まると、カゴを腕にかけた詩が参加者達に声をかけながら近付いていた。
「手作りのクッキーをどうぞ♪ ちなみにハート型のクッキーがピンク色なのは、イチゴのチョコレートをかけているからだよ。甘酸っぱくて、美味しいからね」
笑顔でクッキーを配っていくも、花嫁達を見ると少し羨ましそうな表情になる。
「詩ちゃん。さっきは楽器演奏、ありがとうね」
「教会で三味線の音色を聞くというのも、なかなかオツなものだった」
「あっ、アルフェロアさんとイレーヌさん。二人の歌声もスゴク良かったよ!」
結婚式で歌と楽器演奏を担当した三人が合流した。
「詩ちゃんは今回の結婚式が、はじめての参加なのよね。どうだった?」
「詩ぐらいの年齢ならば、結婚式に憧れるものだろう?」
「うん。楽しみにしていたけど、実際はもっと素敵でビックリしちゃった。新郎と新婦はとても綺麗で可愛かったし、私も早く恋人ができて、ウェディングドレスを着たいなって思ったよ」
照れる詩をあたたかな眼差しで見ていたアルフェロアはふと、疲れたように大きく息を吐いた。
「でもお色直し用のドレスかワンピースを持ってくるべきだったわね。体のラインにピッタリなウェディングドレスを着たから動きづらくて、さっきカクテルグラスを傾けちゃったし、お料理もあんまり食べられなかったのよね」
「そういえばアルフェロア、『結婚前にウェディングドレスを着ると婚期が遅れる』と言われているが……」
「ふっ、そんなの気にしないわ!」
イレーヌの言葉を、アルフェロアは力強く否定する。
「まっ、確かに根拠はないしな」
イレーヌは白いチャイナドレス風のウェディングドレスを着ながら各国の酒や料理を味わっていたが、迷信は特に気にしていないようだ。
そこへ花嫁達を引き連れたざくろがやって来る。
「三人にお願いがあるんだ。ざくろの花嫁達が、もう一度三人の歌と演奏を聞きたいと言ってね。良いかな?」
「良いわよ。私は三味線しか弾けないけれど、結婚をテーマにした知っている曲なら何でも演奏できるから。愛し合う人達に祝福が与えられるような曲を、演奏しながら歌うわね」
詩は三味線を取りに、教会へ戻って行く。
「それじゃあ私は、友達の結婚を祝う歌を歌おうかしら。巴ちゃんの友人代表として、明るく楽しい歌をね♪」
「ならば私は、結婚を行う恋人達の心情を歌った曲を歌おう。バラードが良いかな?」
余興の話で盛り上がっている中、雪峰楓(ka5060)は連れて来た桜宮飛鳥(ka5072)の姿を見て、一人で盛り上がっている。
「飛鳥さんを半ば強引に連れて来てしまいましたが、良かったです。だって、こんなに綺麗な花嫁姿を見られたんですもの!」
「そっそうか……。楓も綺麗だよ」
興奮する楓にやや押されながらも、飛鳥の手はしっかりと酒が入ったグラスを握っていた。
楓は白いベルラインドレスを着ており、飛鳥はマーメイドラインのウェディングドレスを着ている。
「はあ……。洋装なんてあまりしないから、少々緊張するな。この衣装は楓に選んでもらったものなんだが……」
飛鳥はため息を吐きながら、つい先日のことを思い出す。
数日前に突然、楓から「結婚式パーティーに参加しましょう」と言われて、てっきり知り合いの結婚式に参加するのだと思っていた。
だが何故か自分達がウェディングドレスを着ることになっており、頭の中が疑問符でいっぱいになっていたが、ようやく今日になってイベントの意味を理解した。
「ふふっ、でも確かにわたくし達は下手をすると、ウェディングドレスを一生着なかったかもしれませんわね。そういう土地に住んでいますし。ですがだからこそ、この機会を逃したくはなかったのです!」
「まっまあ、ウェディングドレスを着る機会はあまりないしな。しかし衣装を選んでもらった立場から言うのも何だが、やはりウェディングドレスは私よりも可愛らしい女性の方が似合うのではないか? あっ、でも別にこの衣装が気に入らないと言うわけではなく……」
そこまで言った飛鳥は、楓が何故か恥ずかしそうにモジモジしていることに気付く。
「飛鳥さんったら、わたくしのことを『綺麗だよ』なんておっしゃって……。そのせいで、胸のドキドキが止まりませんの。飛鳥さんのお言葉は、わたくしの胸に深く突き刺さりましたわ」
「あの、楓? もしもーし?」
飛鳥は楓の目の前で軽く手を振るも、自分の世界に入り込んだ彼女は戻ってこない。
「ああっ……! 胸が高鳴り過ぎて、痛いですわ。これはきっと、病にかかったに違いありません。なので飛鳥さん、恋の病をかけた犯人として、わたくしをお嫁にもらってくださいまし!」
突如飛びかかってきた楓を、飛鳥は冷静な目つきと動作でヒラッと避ける。
「悪いが今のところ、嫁は募集していないんだ。他をあたってくれ」
「あぁん! 冷たいお方!」
しかし楓はすぐに態勢を直して、再び飛鳥に迫っていく。
一方で、中庭の隅では固まった笑みを浮かべているエルシス・ファルツ(ka4163)と、柔らかく微笑んでいるセドリック・L・ファルツ(ka4167)が対峙していた。
エルシスは白いパコダスリーブのドレスを着ており、胸元にはワインレッド色のビジューが飾られている。結婚式の参加者としては正装をしているものの、身にまとう空気は暗い。
「……お義父様はどうしてこのイベントに参加されたのですか? あたしの幸せを身勝手な理由で奪った人が、どうして他人の幸せを祝う場にいるんでしょう?」
「そりゃあいつかはお前も、結婚をするだろう? 他人の結婚式を見て、勉強することは多いからね。私もお前も今のうちに、こういう場に慣れた方が良いと思って」
いつも着ているスーツに身を包んでいるセドリックは、肩を竦めた。
「よくもまあ、ぬけぬけと言いますわね」
セドリックを見ていられないと言うように、エルシスは近くのテーブルに置いてあったワイングラスを掴み、赤ワインを口の中に流し入れる。芳醇なワインの香りとアルコールの熱のおかげで、気分が変わっていく。体は熱くなるのに、頭が冷静になった。
そしてどこか諦めにも似た空虚な眼差しを、義父に向ける。
「……あなたは変わりませんね」
「そんなことはないよ。お前がいつか嫁ぐことを考えれば寂しくなるし、歳をとると昔のように熱くはなれないものさ。まっ、身も心も落ち着いたってことかな?」
あくまでも優しい義父の態度を崩さないセドリックを見て、エルシスは深いため息を吐きながらワイングラスを静かにテーブルの上に置く。
そしてパーティーで盛り上がっている人々を見て眼を細めた後、セドリックに向かって歩き出す。
「……いつまでも良い人ぶれると思わないで。あなたの不幸を願っている人は、必ずいるんだから」
セドリックにすれ違い様、怒りを含んだ口調で囁くと、そのままエルシスは中庭から出て行った。
「おやおや、恐ろしいことを言う義娘に成長したものだ」
セドリックは白ワインが入ったグラスを手に取り、義娘が行ってしまった方向に体を向ける。
「ではお前に私の全てを暴かれる日まで、良き義父・良き人でいられるように頑張らないとな。まだまだ現役でいなければ」
細めた眼に一瞬、鋭い光が宿った。しかし隠すように眼を閉じた後、開かれたな眼差しは柔らかいものになっている。
セドリックは軽くグラスを揺らすと、白いワインを飲んだ。
○パーティーを抜け出して
「兄さん、正式なものではないけれど、結婚式パーティーって楽しいものだね! 教会は白くて綺麗な建物、結婚式はみんなに祝福されること、そしてパーティーは美味しい物がたくさんあるんだね!」
「そうだな」
クラース・シャール(ka4986)は眼を輝かせながら、結婚式パーティーを楽しんでいた。
そんな弟の後ろに控えるように立っているのは、兄のクローディオ・シャール(ka0030)だ。二人はいつも着ている洋装で、参加している。
「でも僕、複数の花嫁さん達と結婚する人を見たのは、はじめてだったからビックリしたな。住んでいる地域によっていろんな結婚の仕方があるなんて、兄さんに教えられるまで知らなかったよ」
「あっああ……、そうか」
クローディオは『一夫多妻』という言葉を教えるか否か迷った挙句、それとなく誤魔化したのだ。
クラースはこういったイベントに参加するのがはじめてだったので、いろいろとクローディオに質問してくる。しかしどれも純粋な好奇心からの問いかけなので、クローディオは教えられることは全て教えていた。
パーティーでは美味しい料理と余興を楽しんでいたが、クローディオはクラースの顔が赤く染まり、少しぼ~っとしていることに気付く。
「クラース、少し疲れたんじゃないか? 近くに海があるようだし、休みがてらにそっちに行こうか?」
「つっ疲れてはいないけど、でも海には行って見たいな」
二人は誰にも気づかれないように気配を消しながら、そっと中庭から出た。
海は透き通るような青色をしていて、白い砂浜には誰の姿もない。六月の太陽は少し暑いものの、海風は涼しくて心地良い。
「わあっ! 兄さん、海ってとても綺麗なんだね! こんな所に兄さんと一緒に来れるなんて、まるで夢みたいだ」
クラースははしゃぎながら波打ち際ギリギリまで来ると、目の前に広がる景色を見て、満面の笑みを浮かべる。
「今日はこのイベントに参加して、本当に良かったよ。今まで知らなかったことを知ることができて、とても楽しいし嬉しい! 最高の思い出になるよ」
「何を言っている。クラースが知らない世界は、まだまだあるんだ。これからもお前が望むなら、私がどこへだって連れて行くさ」
優しい眼差しと言葉をかけながら、クローディオはクラースの頭を撫でる。
「兄さん……。ありがとう」
クラースは心から礼を言った後、水平線に視線を向けた。
二人の兄弟は今、肩を並べながら同じ景色を見ている。
教会の中では、疲れた顔をしているシェリー・カートライト(ka3502)が参列者席に座っていた。
そこへ扉が開き、イリス・キャロル(ka3503)が姿を現す。
「シェリー、ここにいたのね。疲れちゃった?」
「慣れない衣装を着て、ちょっと……ね」
シェリーはマーメイドラインの白いウェディングドレスを着ており、しかし緊張していたのか肩を揉んでいる。
イリスはピンク色のプリンセスラインの可愛らしいドレスを着ているが、こういった衣装は着慣れているので平然としていた。
「イリスはどうしたの? まだパーティーは続いているんでしょう?」
「まーね。でもいろんな意味でお熱い新郎と新婦がいる場って、何だか居づらくて」
「ああ……。まあ、ね」
イリスはシェリーの隣に座り、美しいステンドグラスを見上げる。
「教会の中って落ち着くから、休憩するには良い場所だね」
「ええ。それに綺麗で神聖な場所で、ここで結婚式を挙げられた女の人達は幸せね。さっきの花嫁さん達のウェディングドレス姿もとても綺麗で、可愛かった……。あっ、イリスもスゴク可愛いわよ。そのドレス、良く似合っているし……」
そう言いつつシェリーは思わず、イリスを横から抱きしめてしまう。
「ふふっ♪ 大胆ね、シェリー。だったら今からでも、二人っきりの結婚式をしちゃおうか?」
「えっ?」
イリスはニンマリすると、唇を少しとがらせてシェリーに顔を近付ける。
「誓いのちゅー!」
「えっ……ええっ!?」
ぎょっとして離れたシェリーを見て、イリスはお腹を抱えて笑い出した。
「あははっ! ゴメン、冗談よ。可愛いシェリーの反応が見たくて、ね?」
イリスは両手を合わせると、ペロッと舌を出して見せる。
「……んもう。こういう所で、そういう冗談はなしよ」
「きゃんっ!」
一瞬、本気で驚いたシェリーは、デコピンをシェリーにするのであった。
盛り上がっているパーティー会場では、ユーチャリス・フェアフィールド(ka3511)が酒を飲み過ぎたせいで頬が赤くなり、眼つきもトロンとなっている。
「あふぅ……。何だかあっついわねぇ」
「……ユーチャリス、明らかに飲み過ぎよ」
ふらついたユーチャリスの体を後ろから支えたのは、一緒に参加していたクロエ・フェアフィールド(ka3512)だ。生まれも育ちも全く別の二人は同じ苗字をしている為、二人ではじめて会う人に自己紹介すると必ずと言っていいほど姉妹に間違われる。
「クロエちゃーん、何だかこの衣装を着ていると、脱ぎたくなるの~」
「わーっ! うっ海へ行きましょう! あそこなら涼しいし、きっと酔いがさめるわよ!」
本来ならばユーチャリスの方が年上なので姉役になるものだが、年下のクロエがしっかりしているので、姉妹の役は正反対になっていた。
「う~ん……。やっぱりこの淡い水色のマーメイドラインのドレス、ちょっと初心者には厳しかったかなぁ? 私、ウェディングドレスなんて着るの生まれてはじめてだから、動き方も変になっちゃう」
「大丈夫よ、よく似合っているから」
ヨロヨロしながら歩くユーチャリスを支えるクロエは、薔薇柄のプリンセスラインのドレスに身を包んでいた。
清楚なユーチャリスと派手なクロエのドレスは対象的で、色んな意味で視線を集めている。
「あっ、でもクロエちゃんのドレス姿は華麗で素敵よ♪」
「ありがと。ユーチャリスもドレス共々綺麗よ」
そうして二人が海岸についた頃には、太陽は夕日になっていた。
「わぁ! 夕日の海も素敵ねぇ。ロマンチックだわ」
「ロマンチックといえば、さっきの結婚式も良かったわね。小さい男の子が年上の女性をエスコートする姿は、とても愛らしかったわ」
結婚式とは、愛する者同士が永遠を誓う儀式である。
親友であるユーチャリスとクロエが行う儀式ではないことは、百も承知なのだが……。
「ん? ユーチャリス、何で私を見ているの?」
「だって、夕日に照らされてクロエちゃんの髪や眼の色が、金色に輝いているんだもの。まるで夕日の女神様みたい」
ユーチャリスは眩しそうに眼を細めながら、クロエの頬に触れる。
「クロエちゃん。こんな頼りない私だけど、これからもずっと仲良くしてくれる?」
「……ええ、もちろんよ」
クロエの力強い返答が嬉しかったのか、ユーチャリスはふひゃっと表情を緩めた。
「これからもよろしくね、お姉ちゃん」
「『お姉ちゃん』と呼ばれるのは、あなたの方なのに……。でもまあ良いわ。ユーチャリスは可愛過ぎるし、これからもずっと仲良くしましょう!」
クロエはユーチャリスに抱き着くと、その頬に軽くキスをする。
親友との永遠の誓いは、夕日が照らす海辺で行われた。
「男性用のタキシードは良いんだけど、胸元はキッツイねぇ。長い髪も後ろで一つに結んではいるけど、重いでさぁ」
女性用の更衣室から出てきた春咲=桜蓮・紫苑(ka3668)は肩を揉みながら、待ち合わせ場所へと向かう。
着替え終えた後は中庭で待ち合わせをしていたのだが、先に来ていた二人の姿を見た紫苑は思わず破顔して、大声で笑ってしまった。
「ぶっ……あははっ! こっこれはまた、うつっ……美しい『花嫁』達だねぇ!」
「紫苑っ! 貴様、騙したな!」
「わあ! 紫苑ねーさん、カッコイイでさぁ!」
真っ白なウェディングドレスを着ているファウストゥス(ka3689)と鬼百合(ka3667)の性別は男性である。
「何が『女装&男装 結婚式風パーティー』だ! 男性用の更衣室にいたヤツらから、本当の内容を聞いたぞ!」
「しかもこの衣装しか用意されていないのは、ひどすぎでさぁ。ファウの兄さんと仕方なく着たんですよぉ?」
涙目になっている二人を見て、流石にやりすぎたと思った紫苑は何とか笑いを堪える。
「すっすまないねぇ。ホラ、こっちが本当の衣装でさぁ。ちゃんと男性用のタキシードを用意したから、着替えてくると良いですよぉ」
笑いすぎて涙目になっている紫苑は震えながら、二つの大きな紙袋を二人に差し出す。
「ったく……。こんな視界の暴力みたいな姿で、人前に出ていられるか」
「あっ、もちろんねーさんも女性用の衣装に着替えるんですよねぇ」
「へっ? ……ああ、まあそうさねぇ。俺も着替えてくることにするさぁ」
鬼百合の純粋な視線に負けて、紫苑も再び更衣室に戻る。
そして数十分後、改めて正式な衣装に着替えた三人は、先程と同じ場所で再会した。
紫苑は白い生地に紫の花柄のスリット入りのロングドレスに着替え、長い髪はほどいてメイクをしている。
「タキシードの方が良かったねぇ。改めて女の衣装を着ると、落ち着かないでさぁ」
ファウストゥスはタキシードに着替えたが、上げた前髪を気にしていた。
「私もこういう正装は少し苦手だが、模擬とはいえ結婚式を挙げるヤツらがいるんだ。少しの間は我慢しろ」
子供用のタキシードを着た鬼百合は、正装をした二人を見て眼を輝かせる。
「おおっ、ねーさんもにーさんも素敵でさぁ! 二人が結婚するのも良いと思いますぜ?」
「「はあっ!?」」
突然の鬼百合の言葉に、二人は同時に眼を見開いて驚いた表情を浮かべた。
「何だったら今日、オレとねーさんが結婚するってのはどうでさぁ?」
「……鬼百合は俺の婚期が遅れる事は、イヤがっていたじゃねぇか?」
「今回はお遊びですぜ! 楽しまなきゃ損でさぁ!」
紫苑とファウストゥスは顔を見合わせると、鬼百合には敵わないと言うようにため息を吐く。
「まっ、良いでさぁ。でも、誓いのキスはココにな?」
そう言って紫苑はしゃがむと、鬼百合のまぶたに軽く口付けをする。
模擬結婚式を挙げる予定の人達は、着替えを終えると控室で時が来るのを待っていた。
白いタキシードを着た時音ざくろ(ka1250)は控室の扉を開け放つと、四人の花嫁姿を見て満面の笑みを浮かべる。
「みんな、ウェディングドレスがとても良く似合ってて綺麗だよ」
「ざくろん……。褒めてくれるのは嬉しいけれど、よくもまあ誰にも刺されなかったわね」
うっとりしているざくろに最初に声をかけたのは、アルラウネ(ka4841)だ。白いウェディングドレスは上半身はシンプルなノースリーブ、下半身はパニエになっている。
「えっ? どうして?」
アルラウネが半分喜びながらも半分呆れていることに、全く気付いていないざくろは不思議そうに首を傾げた。
実は数日前、アルラウネはざくろにこう言われたのだ。
「アルラ、結婚しよう! ……って間違えた! ほっ本当は結婚式パーティーに一緒に参加しようって……ねっ!」
アタフタしながらもざくろは今回のイベント内容を説明して、アルラウネは自分を選んでくれたことが嬉しかった。
「ざくろんったら、いつもより大胆なお誘いだったわね」
自分だけが誘われたと思い込み、しばらくの間は幸せな気分に浸れたのだ。
ところがいざここへ来てみれば、自分の他にもざくろの恋人達が勢ぞろいしていた。
他の恋人達も同じ言葉で誘われて来たらしく、その理由を聞かれたざくろはあっけらかんと答える。
「だってみんなのウェディングドレス姿、見たかったんだもん」
呆気にとられたものの、そんな彼を恋人にしてしまった自分が悪いのだと彼女達は思った。
「本当の結婚式をする日は、まだまだ遠そうね……」
「まあまあ、アルラウネ。ざくろはこういう人だから、ね?」
がっくりと肩を落とすアルラウネに声をかけたのは、コーシカ(ka0903)だ。いつもは髪をツインテールに結んでいるが、今日は下ろしている。漆黒のドレスを着ているものの、どこか悟ったような笑みを浮かべていた。
「こういうイベントに誘ってくれただけでも、嬉しいじゃない。でもこの中では私が一番小さいし、大人の魅力に欠けているのがちょっと寂しいわね」
「そんなことないよ! 今日のコーシカはいつもより大人っぽくて素敵だよ!」
ざくろはコーシカの小さな両手を包み込むように両手で握り締めて、真剣な眼差しで語った。
「あっありがとう……。大好きよ、ざくろ。今日は誘ってくれて、嬉しかったわ」
「ざくろもコーシカのことが……っとと。愛の言葉は結婚式の時に、ね」
ざくろは意味ありげに微笑むと、コーシカからスッ……と離れる。
そんなざくろの後姿を見ながら、コーシカは深いため息を吐く。
「……いつかは本当の結婚式を挙げたいわね。その時は合同じゃなくて、個人的な結婚式を……。ああ、でも今すぐにでもざくろを抱きしめたいわ。いつの日か、遠慮することなくざくろを一人占めできる時がくると良いんだけど……」
コーシカが小さく呟いている間に、ざくろは舞桜守巴(ka0036)の所へ行った。
「うふふっ、ざくろは本当に欲張りですわねぇ。模擬とはいえ、恋人全員と結婚式を挙げるなんて」
「だって一人だけ選ぶのって、不公平だろう?」
「まあ男らしい」
巴は『しょうがない男』と言いたげに、肩を竦める。
Aラインの白いウェディングドレスに身を包んだ巴は、そっとざくろに近付いて耳元で囁く。
「……本音を言えば、二人っきりで結婚式を挙げたいんですよ? けれど今日は楽しいイベントですし、野暮なことは言いませんわ。愛していますから、カッコイイところを見せてくださいな」
「もちろんだよ」
そこへ開いた扉の向こうから、マーメイドラインの白いウェディングドレスを着たアルフェロア・アルヘイル(ka0568)がひょっこり顔を出す。
「あら? そこにいるのはざくろちゃんと巴ちゃん?」
「やあ、アルフェもこのイベントに参加していたんだ。そのドレス、とても良く似合っているね」
「まあ、本当に! とっても綺麗ですわー!」
アルフェロアの姿に感動した巴は、小走りで近付く。
「褒めてくれてありがとう、ざくろちゃん。巴ちゃんもその素敵なドレス、良く似合っているわ」
だがアルフェロアは控室に複数の花嫁がいるのを見て、微笑みが固まる。
「……えっと、もしかしなくても花嫁さん全員、ざくろちゃんのお相手かしら?」
「そうなのです! 今日はみんなで一緒に結婚式をするんですよ。模擬とはいえ、結婚式には変わりありませんわ! うふふっ、今から楽しみでなりません♪」
ざくろの代わりに、はしゃいだ巴が全て説明した。
しかしアルフェロアは、思いっきり遠い目をする。
「模擬……そう、模擬ならば神もお許しになりますね。今日はイベントですし……」
温度差がある二人から離れたざくろは、アデリシア=R=エルミナゥ(ka0746)の所へ向かった。
「アデリシア、顔が強張っているけど緊張している?」
「そう見えますか? このマーメイドラインのドレスの制作が間に合ったので、ほっとはしているんですけどね」
アデリシアは自分が着ているドレスの他、肩を覆うケープとウェディングブーケも自作である。
「ああ、でも不安は少しあります。将来、何が起こるか分かりませんけど、ざくろさんと今日一緒に結婚する女性達と一緒ならば、何でも乗り越えられる気がします」
「えっと、あの、アデリシア?」
「きっと出産する時も、心強いでしょうね。ざくろさんは何人ぐらい子供が欲しいですか?」
「かっ家族は多い方が楽しいと思うけど……」
「ですよね。……ああ、でも私が一番年上なんですよね。年齢的にも、子供は早く産みたいものです」
「あの、アデリシア……」
「若い女性にはちょっとヤキモチを焼いちゃいます。なのでざくろさん、誓いのキスは私を一番最後にしてください。ときめきを長く感じていたいですから……」
ざくろは表情が固まったまま、何も言えなくなった。
今日の結婚式はあくまでも模擬であり、本当の結婚式ではないのだが、アデリシアの中では本番真っ只中らしい――。
☆模擬結婚式、開催
新郎のざくろは、新婦のアルラウネ・コーシカ・巴・アデリシアをそれぞれエスコートしながら、牧師の前まで歩いて行く。
そして緊張した面持ちの鬼百合も、紫苑を一生懸命にエスコートしながら式場に入って来た。
入場曲は天竜寺詩(ka0396)が三味線を演奏して、アルフェロアとイレーヌ(ka1372)が歌う。グライズヘイム王国で流行っている結婚式の曲と歌は、美しく教会の中に響き渡る。
参列者席に座るステラ・フォーク(ka0808)は花嫁達を見ながら、隣に座っている兄の仙道・宙(ka2134)の腕に強くしがみつく。
「お兄様、ウェディングドレス姿のお姉様達、素敵ですわ! やっぱり結婚式にはウェディングドレスですわね!」
「今回の俺達は出席者の役目なんだから、大人しくしていろ」
宙は興奮しているステラを、グイッと自分から引き離す。
「あんっ! んもぅ、お兄様ったらイジワルなんだからぁ」
今回の二人は模擬結婚式の出席者という役目なので宙はスーツを着ており、ステラは黒いリボンで髪を束ねて、淡い緑色のシンプルなデザインのドレスと白いグローブを身に着けていた。
「私はいつでもずっと、お兄様の近くにいたいのに……」
「今でも充分、近くにいるだろう? 式が終わるまで、静かにしていろ」
宙に頭をポンポンされたステラは、ふにゃっと笑うと姿勢を正した。
「そうですわね。今は主役の方達をあたたかく見守りましょう」
そう言うと、ステラは新郎と新婦達の方に体を向ける。しかしステラの頭の中では新郎の姿は宙に、新婦の姿は自分に置き換えていた。
「結婚指輪はやっぱり、シンプルなデザインのプラチナリングが良いですわね。お兄様とお揃いのマリッジリング……。結婚式で、お兄様が私の左手の薬指に……やぁん! 想像するだけでもたまりませんわぁ!」
悶え始めるステラの後頭部を、すかさず宙は軽くチョップする。
「ステラ、妄想が口から出ているよ」
「あっアラ、私ったら……」
「まったく……」
仕方がないというように、宙はため息を吐く。だが年相応に結婚式に憧れを抱く妹の姿は、素直に可愛いと思える。
――ブラコンと言えるほど軽くない感情を、ステラが自分に抱いていることは知っていた。
本当は兄としては妹がいずれ他の男性を愛して、結婚することを望まなければならない。
しかし宙はステラが他の男と嬉しそうに結婚式を挙げる様子を思い浮かべると、胸にモヤモヤしたモノが生まれるのを感じた。
「……この感情が良いものなのか悪いものなのかはまだ分からないが、とりあえずは妹の成長を見守っていこう」
小さく呟いた宙の視線は、ステラに向いている。
そんな二人から少し離れた参列者席にいるのは、新郎と新婦達に小声で呪いをかけているフェリル・L・サルバ(ka4516)だ。
「リア充め! 末永く爆発しろ!」
「貴様の脳味噌も爆発してしまえ」
隣にいる常胎ギィ(ka2852)は高いハイヒールのかかとで、思いっきりフェリルの足を踏む。
「ぐほっ!? だっだって常ちゃんがどうしても参加したいと言うから連れて来たけど、彼女も奥さんもいない身としてはこの幸せいっぱいの雰囲気は耐えられないというか……」
「やかましい! ったく……。模擬とはいえ、はじめての結婚式に参加して緊張しているのに、隣でおかしなことをするな」
シンプルなワンピースに身を包んだギィは、実はこれがはじめての結婚式参加になる。慣れない雰囲気に落ち着かなくてソワソワしていたのだが、一緒に来たスーツ姿のフェリルの奇行によって一気に冷静になれた。冷静になれば、落ち着いて結婚式を見て楽しめる。
「ふむ。はじめて結婚式を見るが、なかなか素敵じゃないか。私もいずれは素敵な殿方と出会い、教会で永遠の愛を誓いたいものだ」
真剣な表情で語るギィを見て、ふとフェリルは声をかけた。
「そういやぁ常ちゃんは、結婚式の流れはまだ知らないんだよな?」
「ああ、それはこれから見て覚えようかと……」
「その前に説明してやるよ。今回は模擬だから、正式な結婚式とはちょっとやり方が違うと思うからな」
「むっ……。それもそうだな」
フェリルはニッと笑うと、ギィに顔をぐいっと近付ける。
「簡単に説明すると、新郎と新婦が誓いの言葉を言った後、指輪を交換して、人前で誓いのキスをするんだ」
そう言ってフェリルはギィの小さな唇を、人差し指でちょんっとつっつく。
「ひっ人前でキスだとぉ!? そっそんなハレンチなっ……」
途端に真っ赤になってアタフタするギィを見て、フェリルはククッと笑いながら離れる。
「常ちゃんはまだまだお子様だな。これじゃあ結婚する日は遠そうだ」
口ではそう言いながらもフェリルは、ギィが美しい女性に成長して花嫁になる姿を思い浮かべた。
「……常ちゃんはいつかは俺から離れていくんだよなぁ。やっぱりちょっと寂しいね」
「あっ、そういえばフェリル、ちょっと聞きたいんだが……」
「何だ?」
「結婚は複数の女性と行ってもいいのか?」
ギィが不思議そうに指差した所には、ざくろと複数の新婦の姿がある。
フェリルの顔が強張り、頭の中ではざくろへの恨み言と共に、ギィへの説明を必死に考えていた。
そんな参列者達の気持ちに一切気付いていないざくろは、新婦達の前で誓いの言葉を言う。
「みんな、大好きだよ。ざくろ、絶対に幸せにするからね!」
声高く宣言すると、新婦達にキスをして強く抱きしめていく――。
☆立食パーティー
全員が中庭のパーティー会場に集まると、カゴを腕にかけた詩が参加者達に声をかけながら近付いていた。
「手作りのクッキーをどうぞ♪ ちなみにハート型のクッキーがピンク色なのは、イチゴのチョコレートをかけているからだよ。甘酸っぱくて、美味しいからね」
笑顔でクッキーを配っていくも、花嫁達を見ると少し羨ましそうな表情になる。
「詩ちゃん。さっきは楽器演奏、ありがとうね」
「教会で三味線の音色を聞くというのも、なかなかオツなものだった」
「あっ、アルフェロアさんとイレーヌさん。二人の歌声もスゴク良かったよ!」
結婚式で歌と楽器演奏を担当した三人が合流した。
「詩ちゃんは今回の結婚式が、はじめての参加なのよね。どうだった?」
「詩ぐらいの年齢ならば、結婚式に憧れるものだろう?」
「うん。楽しみにしていたけど、実際はもっと素敵でビックリしちゃった。新郎と新婦はとても綺麗で可愛かったし、私も早く恋人ができて、ウェディングドレスを着たいなって思ったよ」
照れる詩をあたたかな眼差しで見ていたアルフェロアはふと、疲れたように大きく息を吐いた。
「でもお色直し用のドレスかワンピースを持ってくるべきだったわね。体のラインにピッタリなウェディングドレスを着たから動きづらくて、さっきカクテルグラスを傾けちゃったし、お料理もあんまり食べられなかったのよね」
「そういえばアルフェロア、『結婚前にウェディングドレスを着ると婚期が遅れる』と言われているが……」
「ふっ、そんなの気にしないわ!」
イレーヌの言葉を、アルフェロアは力強く否定する。
「まっ、確かに根拠はないしな」
イレーヌは白いチャイナドレス風のウェディングドレスを着ながら各国の酒や料理を味わっていたが、迷信は特に気にしていないようだ。
そこへ花嫁達を引き連れたざくろがやって来る。
「三人にお願いがあるんだ。ざくろの花嫁達が、もう一度三人の歌と演奏を聞きたいと言ってね。良いかな?」
「良いわよ。私は三味線しか弾けないけれど、結婚をテーマにした知っている曲なら何でも演奏できるから。愛し合う人達に祝福が与えられるような曲を、演奏しながら歌うわね」
詩は三味線を取りに、教会へ戻って行く。
「それじゃあ私は、友達の結婚を祝う歌を歌おうかしら。巴ちゃんの友人代表として、明るく楽しい歌をね♪」
「ならば私は、結婚を行う恋人達の心情を歌った曲を歌おう。バラードが良いかな?」
余興の話で盛り上がっている中、雪峰楓(ka5060)は連れて来た桜宮飛鳥(ka5072)の姿を見て、一人で盛り上がっている。
「飛鳥さんを半ば強引に連れて来てしまいましたが、良かったです。だって、こんなに綺麗な花嫁姿を見られたんですもの!」
「そっそうか……。楓も綺麗だよ」
興奮する楓にやや押されながらも、飛鳥の手はしっかりと酒が入ったグラスを握っていた。
楓は白いベルラインドレスを着ており、飛鳥はマーメイドラインのウェディングドレスを着ている。
「はあ……。洋装なんてあまりしないから、少々緊張するな。この衣装は楓に選んでもらったものなんだが……」
飛鳥はため息を吐きながら、つい先日のことを思い出す。
数日前に突然、楓から「結婚式パーティーに参加しましょう」と言われて、てっきり知り合いの結婚式に参加するのだと思っていた。
だが何故か自分達がウェディングドレスを着ることになっており、頭の中が疑問符でいっぱいになっていたが、ようやく今日になってイベントの意味を理解した。
「ふふっ、でも確かにわたくし達は下手をすると、ウェディングドレスを一生着なかったかもしれませんわね。そういう土地に住んでいますし。ですがだからこそ、この機会を逃したくはなかったのです!」
「まっまあ、ウェディングドレスを着る機会はあまりないしな。しかし衣装を選んでもらった立場から言うのも何だが、やはりウェディングドレスは私よりも可愛らしい女性の方が似合うのではないか? あっ、でも別にこの衣装が気に入らないと言うわけではなく……」
そこまで言った飛鳥は、楓が何故か恥ずかしそうにモジモジしていることに気付く。
「飛鳥さんったら、わたくしのことを『綺麗だよ』なんておっしゃって……。そのせいで、胸のドキドキが止まりませんの。飛鳥さんのお言葉は、わたくしの胸に深く突き刺さりましたわ」
「あの、楓? もしもーし?」
飛鳥は楓の目の前で軽く手を振るも、自分の世界に入り込んだ彼女は戻ってこない。
「ああっ……! 胸が高鳴り過ぎて、痛いですわ。これはきっと、病にかかったに違いありません。なので飛鳥さん、恋の病をかけた犯人として、わたくしをお嫁にもらってくださいまし!」
突如飛びかかってきた楓を、飛鳥は冷静な目つきと動作でヒラッと避ける。
「悪いが今のところ、嫁は募集していないんだ。他をあたってくれ」
「あぁん! 冷たいお方!」
しかし楓はすぐに態勢を直して、再び飛鳥に迫っていく。
一方で、中庭の隅では固まった笑みを浮かべているエルシス・ファルツ(ka4163)と、柔らかく微笑んでいるセドリック・L・ファルツ(ka4167)が対峙していた。
エルシスは白いパコダスリーブのドレスを着ており、胸元にはワインレッド色のビジューが飾られている。結婚式の参加者としては正装をしているものの、身にまとう空気は暗い。
「……お義父様はどうしてこのイベントに参加されたのですか? あたしの幸せを身勝手な理由で奪った人が、どうして他人の幸せを祝う場にいるんでしょう?」
「そりゃあいつかはお前も、結婚をするだろう? 他人の結婚式を見て、勉強することは多いからね。私もお前も今のうちに、こういう場に慣れた方が良いと思って」
いつも着ているスーツに身を包んでいるセドリックは、肩を竦めた。
「よくもまあ、ぬけぬけと言いますわね」
セドリックを見ていられないと言うように、エルシスは近くのテーブルに置いてあったワイングラスを掴み、赤ワインを口の中に流し入れる。芳醇なワインの香りとアルコールの熱のおかげで、気分が変わっていく。体は熱くなるのに、頭が冷静になった。
そしてどこか諦めにも似た空虚な眼差しを、義父に向ける。
「……あなたは変わりませんね」
「そんなことはないよ。お前がいつか嫁ぐことを考えれば寂しくなるし、歳をとると昔のように熱くはなれないものさ。まっ、身も心も落ち着いたってことかな?」
あくまでも優しい義父の態度を崩さないセドリックを見て、エルシスは深いため息を吐きながらワイングラスを静かにテーブルの上に置く。
そしてパーティーで盛り上がっている人々を見て眼を細めた後、セドリックに向かって歩き出す。
「……いつまでも良い人ぶれると思わないで。あなたの不幸を願っている人は、必ずいるんだから」
セドリックにすれ違い様、怒りを含んだ口調で囁くと、そのままエルシスは中庭から出て行った。
「おやおや、恐ろしいことを言う義娘に成長したものだ」
セドリックは白ワインが入ったグラスを手に取り、義娘が行ってしまった方向に体を向ける。
「ではお前に私の全てを暴かれる日まで、良き義父・良き人でいられるように頑張らないとな。まだまだ現役でいなければ」
細めた眼に一瞬、鋭い光が宿った。しかし隠すように眼を閉じた後、開かれたな眼差しは柔らかいものになっている。
セドリックは軽くグラスを揺らすと、白いワインを飲んだ。
○パーティーを抜け出して
「兄さん、正式なものではないけれど、結婚式パーティーって楽しいものだね! 教会は白くて綺麗な建物、結婚式はみんなに祝福されること、そしてパーティーは美味しい物がたくさんあるんだね!」
「そうだな」
クラース・シャール(ka4986)は眼を輝かせながら、結婚式パーティーを楽しんでいた。
そんな弟の後ろに控えるように立っているのは、兄のクローディオ・シャール(ka0030)だ。二人はいつも着ている洋装で、参加している。
「でも僕、複数の花嫁さん達と結婚する人を見たのは、はじめてだったからビックリしたな。住んでいる地域によっていろんな結婚の仕方があるなんて、兄さんに教えられるまで知らなかったよ」
「あっああ……、そうか」
クローディオは『一夫多妻』という言葉を教えるか否か迷った挙句、それとなく誤魔化したのだ。
クラースはこういったイベントに参加するのがはじめてだったので、いろいろとクローディオに質問してくる。しかしどれも純粋な好奇心からの問いかけなので、クローディオは教えられることは全て教えていた。
パーティーでは美味しい料理と余興を楽しんでいたが、クローディオはクラースの顔が赤く染まり、少しぼ~っとしていることに気付く。
「クラース、少し疲れたんじゃないか? 近くに海があるようだし、休みがてらにそっちに行こうか?」
「つっ疲れてはいないけど、でも海には行って見たいな」
二人は誰にも気づかれないように気配を消しながら、そっと中庭から出た。
海は透き通るような青色をしていて、白い砂浜には誰の姿もない。六月の太陽は少し暑いものの、海風は涼しくて心地良い。
「わあっ! 兄さん、海ってとても綺麗なんだね! こんな所に兄さんと一緒に来れるなんて、まるで夢みたいだ」
クラースははしゃぎながら波打ち際ギリギリまで来ると、目の前に広がる景色を見て、満面の笑みを浮かべる。
「今日はこのイベントに参加して、本当に良かったよ。今まで知らなかったことを知ることができて、とても楽しいし嬉しい! 最高の思い出になるよ」
「何を言っている。クラースが知らない世界は、まだまだあるんだ。これからもお前が望むなら、私がどこへだって連れて行くさ」
優しい眼差しと言葉をかけながら、クローディオはクラースの頭を撫でる。
「兄さん……。ありがとう」
クラースは心から礼を言った後、水平線に視線を向けた。
二人の兄弟は今、肩を並べながら同じ景色を見ている。
教会の中では、疲れた顔をしているシェリー・カートライト(ka3502)が参列者席に座っていた。
そこへ扉が開き、イリス・キャロル(ka3503)が姿を現す。
「シェリー、ここにいたのね。疲れちゃった?」
「慣れない衣装を着て、ちょっと……ね」
シェリーはマーメイドラインの白いウェディングドレスを着ており、しかし緊張していたのか肩を揉んでいる。
イリスはピンク色のプリンセスラインの可愛らしいドレスを着ているが、こういった衣装は着慣れているので平然としていた。
「イリスはどうしたの? まだパーティーは続いているんでしょう?」
「まーね。でもいろんな意味でお熱い新郎と新婦がいる場って、何だか居づらくて」
「ああ……。まあ、ね」
イリスはシェリーの隣に座り、美しいステンドグラスを見上げる。
「教会の中って落ち着くから、休憩するには良い場所だね」
「ええ。それに綺麗で神聖な場所で、ここで結婚式を挙げられた女の人達は幸せね。さっきの花嫁さん達のウェディングドレス姿もとても綺麗で、可愛かった……。あっ、イリスもスゴク可愛いわよ。そのドレス、良く似合っているし……」
そう言いつつシェリーは思わず、イリスを横から抱きしめてしまう。
「ふふっ♪ 大胆ね、シェリー。だったら今からでも、二人っきりの結婚式をしちゃおうか?」
「えっ?」
イリスはニンマリすると、唇を少しとがらせてシェリーに顔を近付ける。
「誓いのちゅー!」
「えっ……ええっ!?」
ぎょっとして離れたシェリーを見て、イリスはお腹を抱えて笑い出した。
「あははっ! ゴメン、冗談よ。可愛いシェリーの反応が見たくて、ね?」
イリスは両手を合わせると、ペロッと舌を出して見せる。
「……んもう。こういう所で、そういう冗談はなしよ」
「きゃんっ!」
一瞬、本気で驚いたシェリーは、デコピンをシェリーにするのであった。
盛り上がっているパーティー会場では、ユーチャリス・フェアフィールド(ka3511)が酒を飲み過ぎたせいで頬が赤くなり、眼つきもトロンとなっている。
「あふぅ……。何だかあっついわねぇ」
「……ユーチャリス、明らかに飲み過ぎよ」
ふらついたユーチャリスの体を後ろから支えたのは、一緒に参加していたクロエ・フェアフィールド(ka3512)だ。生まれも育ちも全く別の二人は同じ苗字をしている為、二人ではじめて会う人に自己紹介すると必ずと言っていいほど姉妹に間違われる。
「クロエちゃーん、何だかこの衣装を着ていると、脱ぎたくなるの~」
「わーっ! うっ海へ行きましょう! あそこなら涼しいし、きっと酔いがさめるわよ!」
本来ならばユーチャリスの方が年上なので姉役になるものだが、年下のクロエがしっかりしているので、姉妹の役は正反対になっていた。
「う~ん……。やっぱりこの淡い水色のマーメイドラインのドレス、ちょっと初心者には厳しかったかなぁ? 私、ウェディングドレスなんて着るの生まれてはじめてだから、動き方も変になっちゃう」
「大丈夫よ、よく似合っているから」
ヨロヨロしながら歩くユーチャリスを支えるクロエは、薔薇柄のプリンセスラインのドレスに身を包んでいた。
清楚なユーチャリスと派手なクロエのドレスは対象的で、色んな意味で視線を集めている。
「あっ、でもクロエちゃんのドレス姿は華麗で素敵よ♪」
「ありがと。ユーチャリスもドレス共々綺麗よ」
そうして二人が海岸についた頃には、太陽は夕日になっていた。
「わぁ! 夕日の海も素敵ねぇ。ロマンチックだわ」
「ロマンチックといえば、さっきの結婚式も良かったわね。小さい男の子が年上の女性をエスコートする姿は、とても愛らしかったわ」
結婚式とは、愛する者同士が永遠を誓う儀式である。
親友であるユーチャリスとクロエが行う儀式ではないことは、百も承知なのだが……。
「ん? ユーチャリス、何で私を見ているの?」
「だって、夕日に照らされてクロエちゃんの髪や眼の色が、金色に輝いているんだもの。まるで夕日の女神様みたい」
ユーチャリスは眩しそうに眼を細めながら、クロエの頬に触れる。
「クロエちゃん。こんな頼りない私だけど、これからもずっと仲良くしてくれる?」
「……ええ、もちろんよ」
クロエの力強い返答が嬉しかったのか、ユーチャリスはふひゃっと表情を緩めた。
「これからもよろしくね、お姉ちゃん」
「『お姉ちゃん』と呼ばれるのは、あなたの方なのに……。でもまあ良いわ。ユーチャリスは可愛過ぎるし、これからもずっと仲良くしましょう!」
クロエはユーチャリスに抱き着くと、その頬に軽くキスをする。
親友との永遠の誓いは、夕日が照らす海辺で行われた。
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最終発言 2015/06/05 22:25:47 |