ゲスト
(ka0000)
ジューシー&スパイシー其の二
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/09 07:30
- 完成日
- 2015/06/12 17:45
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国の王都【イルダーナ】。
『ジューシー&スパイシー』は主にハンバーガーとお好み焼きをお客様に提供しているレストランである。略して『ジュースパ』。最近はパスタやオムライスもメニューに書き加えられていた。
約一ヶ月前、ハンター達のおかげで閑古鳥が鳴いていた店が賑わいだす。
当初は経営者兼店長の『満月豊一』と従業員の娘ノーナの二人で切り盛りしていた。しかしそれではとても間に合わない嬉しい状況となる。
そこでノーナの紹介で新たに若者四名を雇う。おかげでまん丸体型の店長、満月豊一はカウンターと調理以外の仕事に取り組むことができるようになった。
ここは奥の休憩室。
(おかげで先行きの不安はなくなったけれど……)
閉店の底なし沼から這いだしたジュースパだが、次の一手をどう打つかでお店の将来は変わってくる。満月豊一の悩みは尽きなかった。
(借金をして二号店、三号店と一気に店舗を増やしたらどうだろう? いや、私の性格じゃ絶対に失敗するな。もっと地道なやり方がいい)
メニューの拡充は新規の従業員が慣れてからがよさそうである。それよりも飲み物の種類を増やしたらどうだろうと考えていたところ、大切なことに気がつく。
「もうすぐ夏……。やはり冷たい飲み物が」
ジュースパには冷蔵庫がなかった。否、世間一般的には冷蔵庫がないのが当たり前。贅沢品故に一部の金持ちが所有している程度である。王都内の飲食店でもごく一部のはずだ。
満月豊一は売上帳簿と睨めっこを始めた。
悩み続けて三日後、ついに冷蔵庫の購入を決断。かなり大きな先行投資だが、冷たい飲み物の提供はそれだけの価値があると算盤を弾く。
グラズヘイム王国は他国に比べて機導術の導入が遅れている。とはいえ王都でも何処ぞの商人が扱っているのかも知れないが、その伝手がまったくなかった。
そこで冒険都市リゼリオへの旅を計画する。馬車で港街【ガンナ・エントラータ】へと向かい、そこから旅客帆船でリゼリオを目指せばよかった。
リゼリオは初めてなので予め依頼をだしてハンター達に案内してもらうつもりである。
「店長、大丈夫です。ジュースパは私に任せて下さい!」
「ありがとう。お土産、買ってくるからね」
ノーナが留守の間、店長代理を引き受けてくれるという。
それから三日後、満月豊一は乗合の馬車に乗って王都を旅立つ。五日後、ガンナ・エントラータに到着。乗船した旅客帆船はリゼリオを目指して出港するのだった。
『ジューシー&スパイシー』は主にハンバーガーとお好み焼きをお客様に提供しているレストランである。略して『ジュースパ』。最近はパスタやオムライスもメニューに書き加えられていた。
約一ヶ月前、ハンター達のおかげで閑古鳥が鳴いていた店が賑わいだす。
当初は経営者兼店長の『満月豊一』と従業員の娘ノーナの二人で切り盛りしていた。しかしそれではとても間に合わない嬉しい状況となる。
そこでノーナの紹介で新たに若者四名を雇う。おかげでまん丸体型の店長、満月豊一はカウンターと調理以外の仕事に取り組むことができるようになった。
ここは奥の休憩室。
(おかげで先行きの不安はなくなったけれど……)
閉店の底なし沼から這いだしたジュースパだが、次の一手をどう打つかでお店の将来は変わってくる。満月豊一の悩みは尽きなかった。
(借金をして二号店、三号店と一気に店舗を増やしたらどうだろう? いや、私の性格じゃ絶対に失敗するな。もっと地道なやり方がいい)
メニューの拡充は新規の従業員が慣れてからがよさそうである。それよりも飲み物の種類を増やしたらどうだろうと考えていたところ、大切なことに気がつく。
「もうすぐ夏……。やはり冷たい飲み物が」
ジュースパには冷蔵庫がなかった。否、世間一般的には冷蔵庫がないのが当たり前。贅沢品故に一部の金持ちが所有している程度である。王都内の飲食店でもごく一部のはずだ。
満月豊一は売上帳簿と睨めっこを始めた。
悩み続けて三日後、ついに冷蔵庫の購入を決断。かなり大きな先行投資だが、冷たい飲み物の提供はそれだけの価値があると算盤を弾く。
グラズヘイム王国は他国に比べて機導術の導入が遅れている。とはいえ王都でも何処ぞの商人が扱っているのかも知れないが、その伝手がまったくなかった。
そこで冒険都市リゼリオへの旅を計画する。馬車で港街【ガンナ・エントラータ】へと向かい、そこから旅客帆船でリゼリオを目指せばよかった。
リゼリオは初めてなので予め依頼をだしてハンター達に案内してもらうつもりである。
「店長、大丈夫です。ジュースパは私に任せて下さい!」
「ありがとう。お土産、買ってくるからね」
ノーナが留守の間、店長代理を引き受けてくれるという。
それから三日後、満月豊一は乗合の馬車に乗って王都を旅立つ。五日後、ガンナ・エントラータに到着。乗船した旅客帆船はリゼリオを目指して出港するのだった。
リプレイ本文
●
冒険都市リゼリオの港に立った満月豊一は周囲を見回す。海に浮かんでいた宇宙戦艦サルヴァトーレ・ロッソを眺めていると、背後から名前を呼ばれた。
「こ、今回は案内よろしくお願いします」
「いい店つくろうよ! 満月さん!」
お辞儀する満月の肩を叩いたのが水流崎トミヲ(ka4852)である。この二人、ふくよかな体型がよく似ていた。
「うちの店からそんなに離れていないかな」
立ち話も何である。アルファス(ka3312)が仲間達とやっている雑貨喫茶『琥珀の林檎』へと向かう。
「この店にも冷蔵庫はあるよ。はい、ザッハトルテ♪ 僕がお菓子作りで保存したりしているからね」
テーブルについた一同の元へアルファスが注文の品を運んだ。
「出来うる限りの協力はさせてもらおう。ところで――」
冷蔵庫といっても用途によって求められる大きさや機能が違う。そこで榊 兵庫(ka0010)は満月に訊ねた。
「冷蔵室は二つに分けて欲しいです。それと氷はたくさん使いますので、冷凍庫は重要です。荷馬車で運べるギリギリが望ましいですね」
満月の答えを隣で聞いていた柊 真司(ka0705)も会話に参加する。
「氷がたくさんか。どんどん暑くなるしな。冷蔵庫を置く厨房はどんな感じなんだ? それと予算も教えてくれ」
「あ、忘れていました! すみません」
柊真司の言葉で思いだした満月が荷物の中からジュースパの見取り図を取りだす。
「確実に業務用の凄いデカいやつが必要だな。すると売っている店が限られていそうだなぁ」
「まずはハンターの本部で訊いてみるのがよさそうじゃ。それか何処かの錬成工房か。灯台もと暗しでギルドショップにあるかも知れんがのう」
キヅカ・リク(ka0038)と紅薔薇(ka4766)が一緒に見取り図を眺めた。
「リアルブルー人にとって冷蔵庫は普通でも、こっちでは新技術なんだよな」
雪ノ下正太郎(ka0539)が紅茶を飲みながら思い出を脳裏に浮かべる。
「機械の作りまではわからんが、運搬なら問題ないわい」
運ぶのは任せろと守屋 昭二(ka5069)は自らの胸を叩いて咳き込んだ。
「うまいね! おかわり!」
水流崎の冷たいオレンジジュースのおかわりはこれで三杯目である。
「実はもう一つお願いがありまして」
満月は色々なジュースの作り方が知りたいのだという。特に炭酸コーラについて強く希望していた。
●
ジュースの作り方はひとまず横に置いておき、冷蔵庫の手配に取りかかる。
「少し小さいけれど、機能は満点ですね」
最初はアルファスの伝手で、あるレストランの冷蔵庫を見せてもらう。
「この世界の冷蔵庫は電気では動いていないんだよな」
「鉱物性マテリアルでうごかしているのかなぁ。整備は点検や部品交換だけでなく、それの補充もするんじゃないかな?」
雪ノ下とキヅカは冷蔵庫の裏側を覗き込んだ。
「斜向かいの店もよさそうな冷蔵庫があるらしいぞ」
榊兵庫に呼ばれて全員が別の店に移動。そこでも購入先を教えてもらった。
「では本部で聞き込みじゃ。錬成工房しかり、ギルドショップしかり、情報があるじゃろう」
冷蔵庫の現物を知ったところで、紅薔薇を先頭にしてハンターソサエティ本部を訪ねる。
公開されている情報から錬成工房や各アイテムショップを検索。技師となり得る機導師についても調べ上げた。次は分かれて探すことに。宿を決めてから散らばる。
「僕は冷蔵庫を使っている店探しを継続するよ。やだな。暑いから涼みたいってわけじゃないんだ。はは」
満月の前で笑った水流崎が角を曲がって姿を消す。
アルファスと守屋昭二は満月と行動を共にした。先ずロッソの生産プラントを見学させてもらった。
「さすがですね」
「長生きはするもんじゃ」
理解はできないが凄い設備なのはよくわかる。
「植物を育てる農業プラントもあるんですよ」
アルファスはロッソでこちらに来たので何かと詳しい。
「昔は氷室の氷で冷やしてたもんで、瓜なんぞもぬるいのが当たり前じゃったが……冷蔵庫があるのが当たり前と思えるまで日本で暮らしてからの転移じゃったがの」
ロッソ内でも冷蔵庫は販売していた。冷蔵庫の扉を開けながら守屋昭二が昔を懐かしむ。
柊真司は錬成工房を巡る。
「デカイ冷蔵庫を探してるんだが、此処の工房で扱ってないか?」
特注品があると聞いて見せてもらう。性能は申し分ないが値段と整備コストが馬鹿高であった。
別の錬成工房では紅薔薇が交渉中。
「大きさは申し分ないが温度調節ができないのはな……。うむ、見積もりを頼むのじゃ」
容量、重量、整備のしやすさなど考慮すべき項目は多い。保守部品の入手性も大事な点だ。
雪ノ下はたまたま気があった機導師に食事を奢っていろいろと教えてもらった。
(一度習えば俺にも冷蔵庫の整備そのものはできそうだな)
請負の値段だけで整備を頼む相手を決めるのは危険だという。真面目さも大切な条件の一つだ。
キヅカは機導師が多く所属するギルドで話を聞いていた。
「王国のイルダーナ付近で整備されている技師がいたら紹介してくれませんか?」
「あそこは機導術の導入が遅れ気味でね」
王国でも貴族や大商人なら冷蔵庫を所有している。まもなく榊兵庫もこのギルドにやってきた。
「冷蔵庫を導入したいのは大衆レストランだ。王国で機導術が流行っていないのは知っているが、だからこそ今回を足がかりにして進出を図ってみてはどうだろうか?」
「殆ど手つかずの地域です。潜在の顧客がたくさんいるんです」
キヅカと榊兵庫はその辺の事情も含めて条件の合った技師を探し続ける。
宵の口、宿に戻った一同は情報をまとめた。
「こんなに多く!」
満月は完成したばかりの冷蔵庫性能一覧表と技師の機導師名簿を熟読して検討する。
冷蔵庫は既製品の扉部分を改造してくれる業者を選んだ。二年の交換保証付きである。
「……王都で商売を広げるつもりなんですね」
保守点検の機導師は悩んだ末、駆け出しの若者に決めた。少し前の自分を見るような気持ちで。
●
翌日、満月自らが確かめて注文と契約が行われる。機導師は同行して設置の面倒も見てくれることとなった。
冷蔵庫の改造が終わるまでの数日間、ジュースのレシピを探す。
リゼリオの店なら様々なジュースが売っている。人によっては懐かしく、また初めての味を試した。
「ふむん。初めて飲んだが複雑な味じゃのう。おそらくは大量の砂糖に、数種類の香辛料……バニラ、シナモン、あとは判らんが、これは自作するのは相当大変では無いかのう?」
紅薔薇は炭酸コーラを吟味する。
「昔、コーラを自作しようとした人がいたけど濃縮液を作ろうとして二万くらいすっ飛ばしてたはずだよ」
「コーラのレシピ本ならリアルブルー系の物を扱うお店とかにあるかな? ロッソのデータベースを探ることができればレシピそのものを入手できるかも」
「分樹のライブラリで調べてみるのも一つの手だよね」
「それもいいね。全部試してみようか」
キヅカとアルファスのやり取りを聞いた満月が大きく頷いた。
手分けして探すとコーラレシピは比較的簡単にわかった。
「えっと、砂糖、ライムジュース、バニラにキャラメル――」
但し、手に入りにくい食材ばかり。特に七種類の香料については難度が高すぎる。
「そう落ち込むな。奇をてらった飲み物よりまずは定番なものが、受け入れやすいだろう」
榊兵庫が野外のベンチで肩を落とす満月に買ってきたジュースを差しだす。それはレモネードであった。
「おいしいですね」
「レモネードなら材料費はある程度抑えられるだろう? 柑橘類や蜂蜜なら手に入りやすいし。まず、ここから始めるべきと思う」
励まされて満月は立ち上がる。
コーラレシピも無駄ではなかった。付随していた資料に炭酸水の作り方が記されていたからだ。自然由来で手に入る重曹に柑橘系の果汁を足せばよい。
「そうこなくちゃ。実は僕、この辺りの美味しそうなお店のジュースはチェック済みなんだ!」
水流崎が右手に持ったワンドをクルクルと回しながらポーズをつける。
「ジュースか……昭和のラムネとか再現できんかの? それにしてもその頬、どうしたのじゃ?」
守屋昭二が見つめる水流崎の頬には張り手の跡がくっきりと残っていた。
「僕の身体に免じてちょっとだけレシピを教えてくれって迫っただけなんだけどね」
彼曰く、もう一押しだったらしい。
それはそれとして水流崎が選んだ店を回ってみる。
「なんじゃあの店で売っとるすむーじーとかいうどりんくは」
守屋昭二は片っ端に飲んでみた。
おかげで見聞が広がり、その知識を確かなものにするために何冊かシレピ本を購入する。
数日後、冷蔵庫の改造が終わった。
「クッション材も毛布を持ってきたからね」
アルファスが荷車に毛布などを敷き詰める。
「ここは拙者に任せるのじゃ。ふんっ!」
覚醒して二十年ほど若返った守屋昭二が木枠梱包された冷蔵庫に手を掛けた。荷車に積んでから縄をかけて、グラズヘイム王国行きの帆船へと運び込む。
機導師も呼んで一同はそのまま乗船。帆船はリゼリオを出港するのだった。
●
数日後、帆船はガンナ・エントラータに入港。荷車と一緒に一同は下船する。
「港町は海風の匂いが良いのう。海の男の荒さも相変わらずじゃな。おっ、牡蛎に酢をかけたものが売っとるぞ。買っていい?」
「美味しそうですね」
守屋昭二にせがまれた満月がまとめて購入。昼食の一品として牡蛎を頂いた。
荷車にハンターの馬を繋いで簡易な荷馬車にする。交代で御者を務めながら満月達が乗り込んだ馬車を追いかけていく。一部のハンターは愛馬で同行した。
途中の町村で宿をとりながら都市間の馬車を乗り継いだ。そうやって王都のジュースパへと辿り着く。
「店長、おかえりなさい!」
ノーナを含めた従業員達はちゃんと店を守ってくれていた。
さっそく冷蔵庫を厨房へと運び込む。ドアからは無理なので窓を外してそこから。ギリギリで肝を冷やしたが厨房内の片隅に収まった。
内部を掃除したところで機導師が冷蔵庫を稼働させようとする。何人かのハンターがそれを手伝う。
稼働開始から一時間後。扉を開けてみるとひんやりとした空気が流れてきた。
冷蔵庫内に食材を並べる。水を注いだ容器を冷凍庫内へ。ジュースの仕込みを行うハンターもいたが、すべては明日のお楽しみになった。
●
翌日は朝から夏のように暑かった。
「いいですね。スカッシュ!」
「だろ? よし俺も飲むぞ」
榊兵庫が作ったレモネードスカッシュを満月が味わう。レモンの蜂蜜漬けなら王都でも手に入りやすい。それを冷たい炭酸水で割れば出来上がりである。
榊兵庫はアイスティーも用意していた。
「こちらでは熱いお茶が定番なのだろう? ならば、香りを残した上で冷たいお茶というものは、これからの夏に受け入れやすいと思うんだが」
「アイス珈琲もよさそうですね。冷たい紅茶や珈琲、お客様達驚くだろうなあ……」
「この店のことはこれからなるべく宣伝させてもらうことにするな。こちらの人間にも旨いものを知ってもらうべきだしな」
「嬉しいです。王都に来たときには立ち寄ってくださいね」
榊兵庫と満月がアイスティーを口にする。朝食のハンバーガーも一緒に堪能した。
「そうそう。これじゃこれ!」
「レシピ本に書いてあってな。配合を変えて作ってみたのだ」
守屋昭二が喜んで飲んでいたのはラムネである。こちらも榊兵庫が調理した。
甘い炭酸水にレモン風味を加えたものがラムネ。レモネードの親戚のようなものだ。ちなみにシードルなどで林檎風味を加えたものがサイダーとなる。微妙な風味の違いがあるだけだ。
「こじゃれた飲み物はよくわからん。絞ったかぼすのほうがよいの」
守屋昭二が自ら作ってみたカシスオレンジはあまり美味しくなかったようだ。
「これなんてどうでしょうね? グレープフルーツの代わりにオレンジを使ってみたんですが」
キヅカが運んできた飲み物はオレンジが容器になっている。中身は解した果実とサイダー。刻んだ苺も加えられていた。
「まるでデザートみたいですね」
「美味しいです♪」
満月とノーナが満面の笑みを浮かべる。
キヅカも自信作を一口。思い通りの仕上がりに二人と同じく微笑んだ。
お腹いっぱいになったところでお楽しみは昼食に引き継がれる。かき入れ時は終わり、夕方の仕込みのために一時的な店仕舞いとなった。遅い昼食時間でもある。
「朝にアイス珈琲といっていたようじゃが、妾が一工夫加えてみたぞよ。飲んでみるがいい!」
紅薔薇が用意したアイス珈琲のグラスを満月が覗き込む。ミルク入りのカフェオレ風で生クリームやチョコレートが浮かんでいる。
「美味しいです。とってもすごく」
蜂蜜が使われた溢れる甘味は満月を虜にした。
「いいですね!」
アルファスもアイス珈琲を気に入る。うまさについて満月と話している間に別の話題となった。
「肉料理を使う時に炭酸を使うと柔らかくなるみたいだよ。炭酸飲料と炭酸を使ったメニューのセットで大々的に売り出したりさ。それなら相乗効果もあって、投資分の回収も見込めると思うんだ」
「いいことを聞きました。今晩にでも試してみますね」
より料理が美味くなるのならやってみる価値はある。
「このハンバーガー、あちらの味をよく再現しているな。それはそれとして冷蔵庫がうまく動いて本当によかった」
「取扱説明書をもらっておいたぞ。いざというときのために保存しておけよ」
雪ノ下と柊真司のおかげで昨日の冷蔵庫の稼働が早めに終わったようだ。そうでなければ今日にずれ込んでいたことだろう。
「おかげで大きさも用途もぴったりな冷蔵庫が買えました。大切に使っていくつもりです」
席から達があった満月は全員に礼をいって頭を下げる。
「ビックバーガーに炭酸スプラーッシュ!! いいねぇ、夏場はこうでないと」
むしゃむしゃと飲食していた水流崎の前に満月が新しいグラスを置いた。
「船での移動時に寝言を聞いてしまいまして。冷蔵庫で冷やしておきましたのでどうぞ」
満月が注いでくれたグラスのビールを水流崎はしばらく見つめる。がばっと手にとって一気に飲み干す。その顔は天使と出逢ったような笑みを浮かべていた。
「……くっふっふ、満月どのォ……次は漫画も置いてくれるかな? できればリゼリオにも店開いてよね!!」
「で、できるだけ善処しますが……すぐには難しいですかね」
「何とかしてぇ。お願いだよ」
ノーナが助け船をだしてくれて満月はようやく水流崎から開放された。
ハンター一行はその日のうちに帰路に就く。帰りは転移門なので非常に楽である。真っ赤な夕日を浴びながら満月とノーナに見送られて店を去っていくのだった。
冒険都市リゼリオの港に立った満月豊一は周囲を見回す。海に浮かんでいた宇宙戦艦サルヴァトーレ・ロッソを眺めていると、背後から名前を呼ばれた。
「こ、今回は案内よろしくお願いします」
「いい店つくろうよ! 満月さん!」
お辞儀する満月の肩を叩いたのが水流崎トミヲ(ka4852)である。この二人、ふくよかな体型がよく似ていた。
「うちの店からそんなに離れていないかな」
立ち話も何である。アルファス(ka3312)が仲間達とやっている雑貨喫茶『琥珀の林檎』へと向かう。
「この店にも冷蔵庫はあるよ。はい、ザッハトルテ♪ 僕がお菓子作りで保存したりしているからね」
テーブルについた一同の元へアルファスが注文の品を運んだ。
「出来うる限りの協力はさせてもらおう。ところで――」
冷蔵庫といっても用途によって求められる大きさや機能が違う。そこで榊 兵庫(ka0010)は満月に訊ねた。
「冷蔵室は二つに分けて欲しいです。それと氷はたくさん使いますので、冷凍庫は重要です。荷馬車で運べるギリギリが望ましいですね」
満月の答えを隣で聞いていた柊 真司(ka0705)も会話に参加する。
「氷がたくさんか。どんどん暑くなるしな。冷蔵庫を置く厨房はどんな感じなんだ? それと予算も教えてくれ」
「あ、忘れていました! すみません」
柊真司の言葉で思いだした満月が荷物の中からジュースパの見取り図を取りだす。
「確実に業務用の凄いデカいやつが必要だな。すると売っている店が限られていそうだなぁ」
「まずはハンターの本部で訊いてみるのがよさそうじゃ。それか何処かの錬成工房か。灯台もと暗しでギルドショップにあるかも知れんがのう」
キヅカ・リク(ka0038)と紅薔薇(ka4766)が一緒に見取り図を眺めた。
「リアルブルー人にとって冷蔵庫は普通でも、こっちでは新技術なんだよな」
雪ノ下正太郎(ka0539)が紅茶を飲みながら思い出を脳裏に浮かべる。
「機械の作りまではわからんが、運搬なら問題ないわい」
運ぶのは任せろと守屋 昭二(ka5069)は自らの胸を叩いて咳き込んだ。
「うまいね! おかわり!」
水流崎の冷たいオレンジジュースのおかわりはこれで三杯目である。
「実はもう一つお願いがありまして」
満月は色々なジュースの作り方が知りたいのだという。特に炭酸コーラについて強く希望していた。
●
ジュースの作り方はひとまず横に置いておき、冷蔵庫の手配に取りかかる。
「少し小さいけれど、機能は満点ですね」
最初はアルファスの伝手で、あるレストランの冷蔵庫を見せてもらう。
「この世界の冷蔵庫は電気では動いていないんだよな」
「鉱物性マテリアルでうごかしているのかなぁ。整備は点検や部品交換だけでなく、それの補充もするんじゃないかな?」
雪ノ下とキヅカは冷蔵庫の裏側を覗き込んだ。
「斜向かいの店もよさそうな冷蔵庫があるらしいぞ」
榊兵庫に呼ばれて全員が別の店に移動。そこでも購入先を教えてもらった。
「では本部で聞き込みじゃ。錬成工房しかり、ギルドショップしかり、情報があるじゃろう」
冷蔵庫の現物を知ったところで、紅薔薇を先頭にしてハンターソサエティ本部を訪ねる。
公開されている情報から錬成工房や各アイテムショップを検索。技師となり得る機導師についても調べ上げた。次は分かれて探すことに。宿を決めてから散らばる。
「僕は冷蔵庫を使っている店探しを継続するよ。やだな。暑いから涼みたいってわけじゃないんだ。はは」
満月の前で笑った水流崎が角を曲がって姿を消す。
アルファスと守屋昭二は満月と行動を共にした。先ずロッソの生産プラントを見学させてもらった。
「さすがですね」
「長生きはするもんじゃ」
理解はできないが凄い設備なのはよくわかる。
「植物を育てる農業プラントもあるんですよ」
アルファスはロッソでこちらに来たので何かと詳しい。
「昔は氷室の氷で冷やしてたもんで、瓜なんぞもぬるいのが当たり前じゃったが……冷蔵庫があるのが当たり前と思えるまで日本で暮らしてからの転移じゃったがの」
ロッソ内でも冷蔵庫は販売していた。冷蔵庫の扉を開けながら守屋昭二が昔を懐かしむ。
柊真司は錬成工房を巡る。
「デカイ冷蔵庫を探してるんだが、此処の工房で扱ってないか?」
特注品があると聞いて見せてもらう。性能は申し分ないが値段と整備コストが馬鹿高であった。
別の錬成工房では紅薔薇が交渉中。
「大きさは申し分ないが温度調節ができないのはな……。うむ、見積もりを頼むのじゃ」
容量、重量、整備のしやすさなど考慮すべき項目は多い。保守部品の入手性も大事な点だ。
雪ノ下はたまたま気があった機導師に食事を奢っていろいろと教えてもらった。
(一度習えば俺にも冷蔵庫の整備そのものはできそうだな)
請負の値段だけで整備を頼む相手を決めるのは危険だという。真面目さも大切な条件の一つだ。
キヅカは機導師が多く所属するギルドで話を聞いていた。
「王国のイルダーナ付近で整備されている技師がいたら紹介してくれませんか?」
「あそこは機導術の導入が遅れ気味でね」
王国でも貴族や大商人なら冷蔵庫を所有している。まもなく榊兵庫もこのギルドにやってきた。
「冷蔵庫を導入したいのは大衆レストランだ。王国で機導術が流行っていないのは知っているが、だからこそ今回を足がかりにして進出を図ってみてはどうだろうか?」
「殆ど手つかずの地域です。潜在の顧客がたくさんいるんです」
キヅカと榊兵庫はその辺の事情も含めて条件の合った技師を探し続ける。
宵の口、宿に戻った一同は情報をまとめた。
「こんなに多く!」
満月は完成したばかりの冷蔵庫性能一覧表と技師の機導師名簿を熟読して検討する。
冷蔵庫は既製品の扉部分を改造してくれる業者を選んだ。二年の交換保証付きである。
「……王都で商売を広げるつもりなんですね」
保守点検の機導師は悩んだ末、駆け出しの若者に決めた。少し前の自分を見るような気持ちで。
●
翌日、満月自らが確かめて注文と契約が行われる。機導師は同行して設置の面倒も見てくれることとなった。
冷蔵庫の改造が終わるまでの数日間、ジュースのレシピを探す。
リゼリオの店なら様々なジュースが売っている。人によっては懐かしく、また初めての味を試した。
「ふむん。初めて飲んだが複雑な味じゃのう。おそらくは大量の砂糖に、数種類の香辛料……バニラ、シナモン、あとは判らんが、これは自作するのは相当大変では無いかのう?」
紅薔薇は炭酸コーラを吟味する。
「昔、コーラを自作しようとした人がいたけど濃縮液を作ろうとして二万くらいすっ飛ばしてたはずだよ」
「コーラのレシピ本ならリアルブルー系の物を扱うお店とかにあるかな? ロッソのデータベースを探ることができればレシピそのものを入手できるかも」
「分樹のライブラリで調べてみるのも一つの手だよね」
「それもいいね。全部試してみようか」
キヅカとアルファスのやり取りを聞いた満月が大きく頷いた。
手分けして探すとコーラレシピは比較的簡単にわかった。
「えっと、砂糖、ライムジュース、バニラにキャラメル――」
但し、手に入りにくい食材ばかり。特に七種類の香料については難度が高すぎる。
「そう落ち込むな。奇をてらった飲み物よりまずは定番なものが、受け入れやすいだろう」
榊兵庫が野外のベンチで肩を落とす満月に買ってきたジュースを差しだす。それはレモネードであった。
「おいしいですね」
「レモネードなら材料費はある程度抑えられるだろう? 柑橘類や蜂蜜なら手に入りやすいし。まず、ここから始めるべきと思う」
励まされて満月は立ち上がる。
コーラレシピも無駄ではなかった。付随していた資料に炭酸水の作り方が記されていたからだ。自然由来で手に入る重曹に柑橘系の果汁を足せばよい。
「そうこなくちゃ。実は僕、この辺りの美味しそうなお店のジュースはチェック済みなんだ!」
水流崎が右手に持ったワンドをクルクルと回しながらポーズをつける。
「ジュースか……昭和のラムネとか再現できんかの? それにしてもその頬、どうしたのじゃ?」
守屋昭二が見つめる水流崎の頬には張り手の跡がくっきりと残っていた。
「僕の身体に免じてちょっとだけレシピを教えてくれって迫っただけなんだけどね」
彼曰く、もう一押しだったらしい。
それはそれとして水流崎が選んだ店を回ってみる。
「なんじゃあの店で売っとるすむーじーとかいうどりんくは」
守屋昭二は片っ端に飲んでみた。
おかげで見聞が広がり、その知識を確かなものにするために何冊かシレピ本を購入する。
数日後、冷蔵庫の改造が終わった。
「クッション材も毛布を持ってきたからね」
アルファスが荷車に毛布などを敷き詰める。
「ここは拙者に任せるのじゃ。ふんっ!」
覚醒して二十年ほど若返った守屋昭二が木枠梱包された冷蔵庫に手を掛けた。荷車に積んでから縄をかけて、グラズヘイム王国行きの帆船へと運び込む。
機導師も呼んで一同はそのまま乗船。帆船はリゼリオを出港するのだった。
●
数日後、帆船はガンナ・エントラータに入港。荷車と一緒に一同は下船する。
「港町は海風の匂いが良いのう。海の男の荒さも相変わらずじゃな。おっ、牡蛎に酢をかけたものが売っとるぞ。買っていい?」
「美味しそうですね」
守屋昭二にせがまれた満月がまとめて購入。昼食の一品として牡蛎を頂いた。
荷車にハンターの馬を繋いで簡易な荷馬車にする。交代で御者を務めながら満月達が乗り込んだ馬車を追いかけていく。一部のハンターは愛馬で同行した。
途中の町村で宿をとりながら都市間の馬車を乗り継いだ。そうやって王都のジュースパへと辿り着く。
「店長、おかえりなさい!」
ノーナを含めた従業員達はちゃんと店を守ってくれていた。
さっそく冷蔵庫を厨房へと運び込む。ドアからは無理なので窓を外してそこから。ギリギリで肝を冷やしたが厨房内の片隅に収まった。
内部を掃除したところで機導師が冷蔵庫を稼働させようとする。何人かのハンターがそれを手伝う。
稼働開始から一時間後。扉を開けてみるとひんやりとした空気が流れてきた。
冷蔵庫内に食材を並べる。水を注いだ容器を冷凍庫内へ。ジュースの仕込みを行うハンターもいたが、すべては明日のお楽しみになった。
●
翌日は朝から夏のように暑かった。
「いいですね。スカッシュ!」
「だろ? よし俺も飲むぞ」
榊兵庫が作ったレモネードスカッシュを満月が味わう。レモンの蜂蜜漬けなら王都でも手に入りやすい。それを冷たい炭酸水で割れば出来上がりである。
榊兵庫はアイスティーも用意していた。
「こちらでは熱いお茶が定番なのだろう? ならば、香りを残した上で冷たいお茶というものは、これからの夏に受け入れやすいと思うんだが」
「アイス珈琲もよさそうですね。冷たい紅茶や珈琲、お客様達驚くだろうなあ……」
「この店のことはこれからなるべく宣伝させてもらうことにするな。こちらの人間にも旨いものを知ってもらうべきだしな」
「嬉しいです。王都に来たときには立ち寄ってくださいね」
榊兵庫と満月がアイスティーを口にする。朝食のハンバーガーも一緒に堪能した。
「そうそう。これじゃこれ!」
「レシピ本に書いてあってな。配合を変えて作ってみたのだ」
守屋昭二が喜んで飲んでいたのはラムネである。こちらも榊兵庫が調理した。
甘い炭酸水にレモン風味を加えたものがラムネ。レモネードの親戚のようなものだ。ちなみにシードルなどで林檎風味を加えたものがサイダーとなる。微妙な風味の違いがあるだけだ。
「こじゃれた飲み物はよくわからん。絞ったかぼすのほうがよいの」
守屋昭二が自ら作ってみたカシスオレンジはあまり美味しくなかったようだ。
「これなんてどうでしょうね? グレープフルーツの代わりにオレンジを使ってみたんですが」
キヅカが運んできた飲み物はオレンジが容器になっている。中身は解した果実とサイダー。刻んだ苺も加えられていた。
「まるでデザートみたいですね」
「美味しいです♪」
満月とノーナが満面の笑みを浮かべる。
キヅカも自信作を一口。思い通りの仕上がりに二人と同じく微笑んだ。
お腹いっぱいになったところでお楽しみは昼食に引き継がれる。かき入れ時は終わり、夕方の仕込みのために一時的な店仕舞いとなった。遅い昼食時間でもある。
「朝にアイス珈琲といっていたようじゃが、妾が一工夫加えてみたぞよ。飲んでみるがいい!」
紅薔薇が用意したアイス珈琲のグラスを満月が覗き込む。ミルク入りのカフェオレ風で生クリームやチョコレートが浮かんでいる。
「美味しいです。とってもすごく」
蜂蜜が使われた溢れる甘味は満月を虜にした。
「いいですね!」
アルファスもアイス珈琲を気に入る。うまさについて満月と話している間に別の話題となった。
「肉料理を使う時に炭酸を使うと柔らかくなるみたいだよ。炭酸飲料と炭酸を使ったメニューのセットで大々的に売り出したりさ。それなら相乗効果もあって、投資分の回収も見込めると思うんだ」
「いいことを聞きました。今晩にでも試してみますね」
より料理が美味くなるのならやってみる価値はある。
「このハンバーガー、あちらの味をよく再現しているな。それはそれとして冷蔵庫がうまく動いて本当によかった」
「取扱説明書をもらっておいたぞ。いざというときのために保存しておけよ」
雪ノ下と柊真司のおかげで昨日の冷蔵庫の稼働が早めに終わったようだ。そうでなければ今日にずれ込んでいたことだろう。
「おかげで大きさも用途もぴったりな冷蔵庫が買えました。大切に使っていくつもりです」
席から達があった満月は全員に礼をいって頭を下げる。
「ビックバーガーに炭酸スプラーッシュ!! いいねぇ、夏場はこうでないと」
むしゃむしゃと飲食していた水流崎の前に満月が新しいグラスを置いた。
「船での移動時に寝言を聞いてしまいまして。冷蔵庫で冷やしておきましたのでどうぞ」
満月が注いでくれたグラスのビールを水流崎はしばらく見つめる。がばっと手にとって一気に飲み干す。その顔は天使と出逢ったような笑みを浮かべていた。
「……くっふっふ、満月どのォ……次は漫画も置いてくれるかな? できればリゼリオにも店開いてよね!!」
「で、できるだけ善処しますが……すぐには難しいですかね」
「何とかしてぇ。お願いだよ」
ノーナが助け船をだしてくれて満月はようやく水流崎から開放された。
ハンター一行はその日のうちに帰路に就く。帰りは転移門なので非常に楽である。真っ赤な夕日を浴びながら満月とノーナに見送られて店を去っていくのだった。
依頼結果
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水流崎トミヲ(ka4852)
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ジューシー & スパイシー 水流崎トミヲ(ka4852) 人間(リアルブルー)|27才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/06/08 23:41:50 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/08 20:13:39 |