ゲスト
(ka0000)
迷い家の吸血鬼
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/12 19:00
- 完成日
- 2015/06/18 20:18
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ハンター一行は貴重な機導装置を運ぶ任務で北西平原地帯へと旅立った。一両の馬車を中心に愛馬に跨がった仲間達が護衛する編成である。
ゴブリンなどの亜人や歪虚が徘徊しているので非常に危険だと聞いていたのだが、肩すかしを食らう。大事なく王国騎士の一団に目的の品を送り届けることができた。
帰り道も順調で、急げば日が暮れる前に大きな町へと辿り着ける。そう考えていた矢先、馬車の車輪が壊れた。
予備があったので交換すれば問題はない。ただ慣れていないせいもあって直すのに二時間を費やす。林中の道を通過する最中に雨が降ってきた。
近くで野宿をしようか決めかねていたところへ道標が目に留まる。導かれて道を逸れるとまもなく集落が見つかった。
雨降りのせいなのか誰もいない。奥に立ち入ってようやく二十歳前後の女性を発見して声をかける。
「それはお困りでしょう。よかったらうちに泊まっていかれたらどうですか?」
とても親切な女性は何故かとても顔色が悪かった。ハンターの一人は女性がやろうとしていた薪割りを手伝う。
石造りの建物に迎えてくれた女性の名はメリンダ。一緒に暮らしている両親や妹は近隣の村まで買い物に出かけているという。帰ってくるのは明日以降らしい。
「粗末なものしかありませんが」
初夏とはいえずぶ濡れだと身体はとても冷える。貸してくれた服に着替えてからシチューを頂く。
メリンダの家はとても部屋数が多かった。一人に一部屋ずつが宛がわれる。
ランタンを手にしながらメリンダが部屋まで安定してくれた。そのとき誰かが彼女の首筋の傷に気がつく。
「林の中にヒルがいるんですよ。たまに落ちてきて困っていまして。みなさんも帰りに気をつけてください」
微笑むメリンダの表情はどこか寂しさを秘めていた。
深夜、狸寝入りをしたハンター達は密かに一つの部屋へと集まる。そして小声で話す。どうも様子がおかしい。調べてみなければと。
ゴブリンなどの亜人や歪虚が徘徊しているので非常に危険だと聞いていたのだが、肩すかしを食らう。大事なく王国騎士の一団に目的の品を送り届けることができた。
帰り道も順調で、急げば日が暮れる前に大きな町へと辿り着ける。そう考えていた矢先、馬車の車輪が壊れた。
予備があったので交換すれば問題はない。ただ慣れていないせいもあって直すのに二時間を費やす。林中の道を通過する最中に雨が降ってきた。
近くで野宿をしようか決めかねていたところへ道標が目に留まる。導かれて道を逸れるとまもなく集落が見つかった。
雨降りのせいなのか誰もいない。奥に立ち入ってようやく二十歳前後の女性を発見して声をかける。
「それはお困りでしょう。よかったらうちに泊まっていかれたらどうですか?」
とても親切な女性は何故かとても顔色が悪かった。ハンターの一人は女性がやろうとしていた薪割りを手伝う。
石造りの建物に迎えてくれた女性の名はメリンダ。一緒に暮らしている両親や妹は近隣の村まで買い物に出かけているという。帰ってくるのは明日以降らしい。
「粗末なものしかありませんが」
初夏とはいえずぶ濡れだと身体はとても冷える。貸してくれた服に着替えてからシチューを頂く。
メリンダの家はとても部屋数が多かった。一人に一部屋ずつが宛がわれる。
ランタンを手にしながらメリンダが部屋まで安定してくれた。そのとき誰かが彼女の首筋の傷に気がつく。
「林の中にヒルがいるんですよ。たまに落ちてきて困っていまして。みなさんも帰りに気をつけてください」
微笑むメリンダの表情はどこか寂しさを秘めていた。
深夜、狸寝入りをしたハンター達は密かに一つの部屋へと集まる。そして小声で話す。どうも様子がおかしい。調べてみなければと。
リプレイ本文
●
深夜、ブレナー ローゼンベック(ka4184)に宛がわれた部屋へハンター全員が集まる。わずかに輝くランタンを中心にして床に座った。
「やはり変ですよね。この集落」
「ふむ、奇妙には感じるな……。安心するためにも、少々調べてみるか」
眉をひそめたブレナーとニケ・ヴェレッド(ka4135)が小声で話す。これまでに集落の人物と接したのはメリンダ一人のみ。さらにメリンダの顔色の悪さと首の傷跡。これで嫌な予感がしなければ嘘である。
「メリンダの首の傷、訳ありってこったな。可哀想に」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は集落に入ったときから違和感を覚えていた。
「ヒルがどうのといっていましたが」
「ヒルの傷なら短い間隔で平行して二つ並ばないはずじゃーん。大きな蛭がいるのは間違いなさそうジャン」
アルマ・アニムス(ka4901)とゾファル・G・初火(ka4407)も、メリンダがした傷の説明に納得していなかった。
「世話になっている恩人を疑いたくはないが、さすがにこのままではな」
天ヶ瀬 焔騎(ka4251)の脳裏では疑念が渦巻いている。どうであれ納得するためには晴らす必要があった。
シェルミ=K=シュルシュタット(ka3047)は瞼をわずかに落としてうっとりとした表情を浮かべる。
「優しくって綺麗なおねーさん、惚れちゃいそうだぜぇったくよぉぉお」
「メリンダさんのこと、気に入ったことはわかりましたから」
ブレナーが口元に人差し指を当ててシェルミに自制を促す。幸い雨脚が強まった瞬間だった。室外に声は漏れていないはずである。
「アニムス様、同行してもらえますか?」
「もちろんですっ」
ニケとアルマはメリンダから直接話を訊くつもりでいた。
「探索は任せて、嬢ちゃんのことを見ててくれ」
エヴァンスは単独で集落の全体を探る。
「この部屋を調べてみようと思っています」
「その次はてめぇらの部屋も丸裸だぜぇぇ」
ブレナーとシェルミは各部屋を隈無く調べてみることに。
「ここはひとつホラー映画の定番で殺される役の人が必要じゃーん」
「俺は離れ過ぎぬ程度の位置でゾファルさんの周囲を警戒するか」
ゾファルは集落の背後に暗躍する『何か』を誘うための囮。天ヶ瀬は監視兼護衛役だ。
魔導短伝話の設定は済んでいる。雨降り止まぬ長い夜、一行はひっそりと動きだした。
●
「どうかされましたか?」
ノックからしばらくしてドアが開いた。灯火に浮かぶメリンダの顔が隙間から見える。
「夜分遅くすみません。どうやら彼女、怪我をしてしまったようで」
「すまない。暗いところで鋭い何かに引っかけたみたいで。皆の前で言うのは……少し、気が引けてしまって……」
ニケとアルマが理由を告げるとメリンダは部屋に入れてくれた。アルマはニケに肩を貸して椅子へと座らせる。
「アニムス様は、ボクがお願いしてついて来てもらったんだ。慣れない場所を一人ってのは、少し怖くて」
ニケが血で滲んだ自分の左太腿を指さす。
「あ、僕後ろ向いてますっ。終わったら声かけてくださいっ」
アルマは後退りながら壁の方を向いた。たまたま飾られていた正面の絵を眺めて時間をやり過ごす。
「しかし、色々と参ったな。此処から一番近い町はどのくらいなのだろう? 朝になったら、手当道具も買っておくべきかな……」
「馬で半日ぐらいはかかりますよ。少し染みますからね」
蒸留酒で傷口を消毒。メリンダの治療は理に適っている。止血の軟膏を塗って包帯を巻いて手当は終わった。
「終わりましたよ、アルマさん」
「それはよかった。実はもう眠っていらしたら悪いなと思っていたんです」
「いつも本を読んでいる時間ですから」
「それなら、ちょっとお喋りしませんか?」
メリンダが薬缶の湯でお茶を淹れてくれる。薪焜炉の火はまだ落とされていない。シチューの鍋とパンが残っていた。
「やれやれ、妹も連れてくれば良かったです」
「アルマ様のご兄妹でしたら心強いですね」
ニケとアルマは兄弟を話題にしてメリンダに振る。
「妹さんがおられるといっていましたよね?」
「は、はい」
何故かメリンダが畏まった。
「壁に飾られている絵の人物はご両親でしょうか?」
「お歳を召したご夫婦の絵だ」
アルマとニケの問いには答えず、メリンダは目を泳がせて黙る。
ニケは紙とペンを取りだして書き始めた。盗み聞きを恐れているのではと推測して。
近くの町まで馬なら二時間程度のはずで半日はかからない。残っているシチューとパンは誰かのための食事ではないかと綴る。目を通してすぐにメリンダは涙ぐんだ。
「そういえばヒルが出るんでしたね。ちょっとやですね……どの辺で特にたくさん落ちてくるとかあります? 近寄らないようにしないと」
アリバイ作りとしてアルマが他愛もないお喋りをメリンダに投げかける。メリンダは適当な受け答えをしつつ、ニケとの筆談を続けた。
●
「う~ん、特に変なところはないかな?」
「まったくよおっ。隠しちゃいやよん」
ブレナーとシェルミは室内を調べたものの、これといったものは見つからなかった。
「もしメリンダさんや集落の人と会ったら、トイレを探すフリですよ。シェルミさん」
「わかったぜぇぇぇ」
他の部屋を探すために静かにドアを開けてそっと廊下にでる。極端なシェルミの忍び足に吹きだしそうになりながらブレナーがついていった。
三部屋調べるものの梨の礫。次はどこに入ろうかブレナーが悩んでいたところ、シェルミが立ち止まって背中にぶつかる。
シェルミが激しい手振り身振りで右側のドアを指し示す。雑な字で物置部屋と貼り紙がされていた。
「おっじゃましまぁぁす?」
先に入ったシェルミがランタンで照らす。物置部屋に相応しく、雑多な品がところ狭しと置かれていた。
「でも、なんか変だな?」
埃こそ被っていたが大抵の物品はどれも使えそうである。
「変じゃない? どかしちまおぉぜぇぇよお」
シェルミに誘われてブレナーは一緒に棚を移動させた。隠れていた壁面にはどす黒い染みがある。
「じゃねぇか。血のにおいがしてたからよん」
「大量の血しぶきの跡だよね」
二人は部屋の奥も確かめた。血しぶきの跡がそこかしこで見つかる。
「掃除しても消せなかったんだろうね」
「隠すために物置部屋かよ。ご苦労なこってですね」
凄惨な何かがここで起きたことに間違いは無かった。
●
(超期待外れな依頼かと思ってたら帰り道に当たりが転がってたじゃーん)
宛がわれた部屋に戻ったゾファルは今か今かとベットに寝転がって待ち構える。天ヶ瀬はクローゼットの中で息を潜めていた。
ただ雨音を聞くだけの時が過ぎていく。
(ヒルとやらが現れるとして……どうなる、か)
ゾファルが突然に上半身を起こしたので天ヶ瀬が身構える。
「トイレじゃん」
彼女の呟きを聞いた天ヶ瀬は隠密の技を駆使しながらこっそりとついていく。
家に隣接していたがトイレの小屋は離れである。用を済ませて戻ろうとしたゾファルは車庫兼厩舎の建物を見かけて思いだす。
(馬車にイタズラされてたら逃げるとき大変じゃん)
雨脚が弱まったときに駆けて厩舎まで辿り着いた。扉を開けてランタンで照らすと闇の中から馬車が浮かび上がる。破壊や小細工されていないか確かめた。
「どうやら大丈夫じゃん!」
ゾファルが呟いてすぐ、光が差し込んで凄まじい轟音が鳴り響いた。雷が近くに落ちたのである。
ゾファルは外を眺めるために出入り口の扉の側に立つ。闇に紛れて背後から忍び寄る影が一つ。鋭い二つの牙がゾファルの首筋に迫った。
「ゾファルさん!」
天ヶ瀬の叫びと同時に光の弾が闇を切り裂く。ホーリーライトの光弾が命中した相手は赤髪にマントを羽織った色白の人物だった。
ゾファルが長い袖の下に隠していた拳のナックルで振り向きざまに攻撃。赤髪は笑みを浮かべながら土砂降りの外へ。
天ヶ瀬が赤髪を追いかける。ゾファルは魔導短伝話で仲間達に緊急伝達を行った。
●
ゾファルと天ヶ瀬が赤髪と接触する十分程前、エヴァンスは四軒目の建物を調べ終わっていた。
(あの埃と蜘蛛の巣だらけだと四、五年は放置されているな)
四軒分を確かめたエヴァンスの感想である。
魔導短伝話で状況を連絡したときに重要情報を教えてもらった。メリンダが吸血鬼について証言しているようだが、詳しく聞いている余裕はない。
隠密の技を隠れつつ強い雨の中、集落の南方に位置している最後の一軒へと向かう。
茂みの中に隠れながら窓や玄関を確かめたが、ここだけ戸締まりが変わっている。窓には石材が填められていた。玄関口は赤錆が浮いた鉄扉である。他の家も同じ石造りだったが、どれも木製の戸板やドアだった。
突然に夜空が明るくなり、刹那轟音が響き渡る。落雷は何度か続いた。
再び輝いた瞬間、頭上を跳び越えていった影に気がつく。それは調査中の家の屋根へと降りて姿を消した。
着信を示す魔導短伝話の小さなライトが点灯。耳に当てるとゾファルからの連絡だった。
●
メリンダは筆談でニケとアルマに洗いざらいを伝える。
二ヶ月ほど前、林を馬車で通過しているときにゾンビの群れに襲われた。自分と妹を含めて八名が囚われる。ゾンビを操っていたのが赤髪の吸血鬼。奴に血を吸われて仲間が次々と死んでいく中、姉妹だけが残った。
メリンダは吸血鬼に命じられる。集落に人間を誘い込んで足止めしろ。そうすれば妹の命は助けてやると。こうするしかなかったと筆談の紙に涙粒が落ちた。
妹が閉じ込められているのは集落の一番南にある建物。吸血鬼もそこに隠れているという。
雷光と雷鳴に三人は窓へと振り返る。まもなくゾファルから魔導短伝話がかかってきた。吸血鬼と遭遇。現在天ヶ瀬が追いかけていると。エヴァンスからも連絡が。南の建物周辺で吸血鬼らしき人影を発見したようだ。
ニケはマテリアルヒーリングで自らの傷を癒やす。
「必ず、君も妹君も守ってみせるよ」
「メリンダさんもご一緒に。妹さんのことは任せて下さい」
ニケとアルマに誘われてメリンダも雨打つ野外へ。三人が駆けつけると他の全員が集まっていた。
鉄扉が外れて地面に倒れる。窓枠を埋めていた石材が押しだされて泥の地面へと転がった。現れた前屈みのゾンビが千鳥足で泥に足先を沈める。無闇に顎を動かして汚らしい汁を垂らす。
そのとき、メリンダが懇願した。ミリアを救出するために力を貸して欲しいと。
「ほら、よそ見してると雷が落ちますよォ?」
アルマの雷撃に痺れたゾンビが窓枠に引っかかる。続いてでようとしていたゾンビが詰まって立ち往生。そうやってゾンビの出現を抑えていく。
「フルボッコにするじゃん!」
「つぅぅうかよぉぉおまじであんな顔色悪い女よりも俺の首に牙とか突き立ててくれちゃったりとかしちゃったりとかはしたりしてくんねぇの?? どこよ吸血鬼」
鉄扉がなくなった玄関口からのゾンビに対抗したのはゾファルとシェルミだ。ゾファルの渾身拳やシェルミのナイフ刻みによってゾンビの一部が周囲に飛び散る。
「咲き穿て、閃椿――ッ」
大きめの窓枠から這いだしてくるゾンビに天ヶ瀬が大身槍「紅椿」を突き立てた。ホーリーライトで追い打ちをかけて弾く。
雨降りは今に限って幸いだった。すぐに汚れを洗い流してくれる。
このときニケ、エヴァンス、ブレナーはメリンダと行動を共にしていた。
問題の家には増築された部分が存在する。ここにミリアは囚われていて、メリンダは小窓を通じて一日に一回食事を運んでいた。
メリンダが話しかけるとミリアの声が返ってくる。
エヴァンスとニケが邪魔なゾンビを排除。ニケは近くの木に登って高い位置にある換気用の小窓から中へ忍び込もうとした。
「虫けら以下の分際で何をしているのです」
突如枝の上に現れた赤髪の吸血鬼がニケを襲う。運良く気づいたニケが咄嗟に蹴飛ばす。
泥に落ちた赤髪の吸血鬼との間合いをブレナーが詰めた。攻撃の瞬間、雨に打たれたヒートソードから激しい蒸気が立ち上る。
エヴァンスが振り下ろすグレートソード「テンペスト」も赤髪の吸血鬼に休みを与えなかった。
ブレナーとエヴァンスはメリンダの保護を最優先する。ニケを追わせないこともだ。
ミリアを抱えたニケが換気小窓から地面へと飛び降りた。合わせたようにエヴァンスは言葉にならない雄叫びを張り上げる。仲間だけが知る撤退の合図だった。
「恨むなら、俺達を招いた運の悪さを恨むんだな」
「右から来たゾンビは私が抑えます!」
エヴァンスとブレナーはメリンダとミリアを抱えるニケに何者も近寄せない。それまでゾンビを抑え込んでいたハンター仲間が攻撃対象を赤髪の吸血鬼に切り替える。
「ここから先に行かせるつもりはない!」
天ヶ瀬の槍突きによって赤髪の吸血鬼が後退していく。
「言っとくけど俺ちゃんまじ健康体よ? どうよ? 若いよ? かわいいよ??? 一発お試しキャンペェェェェンとかしちゃったりとかしねぇ? だめ???」
シェルミはヒャッハーと両手のナイフを舞わせて赤髪の吸血鬼に迫った。
「よくも俺様を狙ってくれたじゃん」
赤髪の吸血鬼の背後に回ったゾファルが拳をねじ込む。くの字に曲がった赤髪の吸血鬼が家壁へと叩きつけられた。
「ははははッ、吸血鬼! 成程、ヒルとは言い得て妙だ!」
覚醒のアルマは真っ赤な瞳に牙のような八重歯に変化していた。まるで吸血鬼のような姿で本物に銃弾を撃ち込んだ。
天ヶ瀬は後を仲間に任せて先に厩舎へと向かう。着いて真っ先に衰弱していたミリアとメリンダをヒールで癒やした。それまで朦朧としていたミリアが目を覚ます。
準備が整い、厩舎から発車する。ニケは魔導短伝話で撤退のコールを鳴らした。赤髪の吸血鬼を抑えていた仲間達が追いついて馬車に乗り込んでいく。
「よく来たじゃん」
重装馬に跨がったゾファルは殿として赤髪の吸血鬼との戦いを引き受ける。足の遅いゾンビはついて来られなかった。
林を貫く本道にでても赤髪の吸血鬼が追いかけてくる。しかし林を抜けると諦めるのだった。
町に辿り着いたハンター一行は事件のあらましを官憲に伝えた。
「後はこちらに任せてくれ」
把握されていた林での行方不明事件の件数はとても少なかった。隠蔽された事例が多いからだろう。メリンダ達が囚われた件もそうである。
「お兄ちゃんにお姉ちゃんたち、ありがとう!」
「本当に、本当に……ありがとうございました」
メリンダとミリアがハンター一行を見送ってくれた。
「健康な怪我は健康な身体から! そんなにぐったりじゃ素敵な痛みにも出会えねぇぜぇお姉さん方よぉ。糖分取ってゆっくり眠ってそれからたっぷり陽の光を浴びろよぉ? 俺ちゃんとのお約束だぜぇぇえ!」
馬車の屋根に座るシェルミが両手を振る。こうしてハンター一行は本当の意味での帰路に就いたのだった。
深夜、ブレナー ローゼンベック(ka4184)に宛がわれた部屋へハンター全員が集まる。わずかに輝くランタンを中心にして床に座った。
「やはり変ですよね。この集落」
「ふむ、奇妙には感じるな……。安心するためにも、少々調べてみるか」
眉をひそめたブレナーとニケ・ヴェレッド(ka4135)が小声で話す。これまでに集落の人物と接したのはメリンダ一人のみ。さらにメリンダの顔色の悪さと首の傷跡。これで嫌な予感がしなければ嘘である。
「メリンダの首の傷、訳ありってこったな。可哀想に」
エヴァンス・カルヴィ(ka0639)は集落に入ったときから違和感を覚えていた。
「ヒルがどうのといっていましたが」
「ヒルの傷なら短い間隔で平行して二つ並ばないはずじゃーん。大きな蛭がいるのは間違いなさそうジャン」
アルマ・アニムス(ka4901)とゾファル・G・初火(ka4407)も、メリンダがした傷の説明に納得していなかった。
「世話になっている恩人を疑いたくはないが、さすがにこのままではな」
天ヶ瀬 焔騎(ka4251)の脳裏では疑念が渦巻いている。どうであれ納得するためには晴らす必要があった。
シェルミ=K=シュルシュタット(ka3047)は瞼をわずかに落としてうっとりとした表情を浮かべる。
「優しくって綺麗なおねーさん、惚れちゃいそうだぜぇったくよぉぉお」
「メリンダさんのこと、気に入ったことはわかりましたから」
ブレナーが口元に人差し指を当ててシェルミに自制を促す。幸い雨脚が強まった瞬間だった。室外に声は漏れていないはずである。
「アニムス様、同行してもらえますか?」
「もちろんですっ」
ニケとアルマはメリンダから直接話を訊くつもりでいた。
「探索は任せて、嬢ちゃんのことを見ててくれ」
エヴァンスは単独で集落の全体を探る。
「この部屋を調べてみようと思っています」
「その次はてめぇらの部屋も丸裸だぜぇぇ」
ブレナーとシェルミは各部屋を隈無く調べてみることに。
「ここはひとつホラー映画の定番で殺される役の人が必要じゃーん」
「俺は離れ過ぎぬ程度の位置でゾファルさんの周囲を警戒するか」
ゾファルは集落の背後に暗躍する『何か』を誘うための囮。天ヶ瀬は監視兼護衛役だ。
魔導短伝話の設定は済んでいる。雨降り止まぬ長い夜、一行はひっそりと動きだした。
●
「どうかされましたか?」
ノックからしばらくしてドアが開いた。灯火に浮かぶメリンダの顔が隙間から見える。
「夜分遅くすみません。どうやら彼女、怪我をしてしまったようで」
「すまない。暗いところで鋭い何かに引っかけたみたいで。皆の前で言うのは……少し、気が引けてしまって……」
ニケとアルマが理由を告げるとメリンダは部屋に入れてくれた。アルマはニケに肩を貸して椅子へと座らせる。
「アニムス様は、ボクがお願いしてついて来てもらったんだ。慣れない場所を一人ってのは、少し怖くて」
ニケが血で滲んだ自分の左太腿を指さす。
「あ、僕後ろ向いてますっ。終わったら声かけてくださいっ」
アルマは後退りながら壁の方を向いた。たまたま飾られていた正面の絵を眺めて時間をやり過ごす。
「しかし、色々と参ったな。此処から一番近い町はどのくらいなのだろう? 朝になったら、手当道具も買っておくべきかな……」
「馬で半日ぐらいはかかりますよ。少し染みますからね」
蒸留酒で傷口を消毒。メリンダの治療は理に適っている。止血の軟膏を塗って包帯を巻いて手当は終わった。
「終わりましたよ、アルマさん」
「それはよかった。実はもう眠っていらしたら悪いなと思っていたんです」
「いつも本を読んでいる時間ですから」
「それなら、ちょっとお喋りしませんか?」
メリンダが薬缶の湯でお茶を淹れてくれる。薪焜炉の火はまだ落とされていない。シチューの鍋とパンが残っていた。
「やれやれ、妹も連れてくれば良かったです」
「アルマ様のご兄妹でしたら心強いですね」
ニケとアルマは兄弟を話題にしてメリンダに振る。
「妹さんがおられるといっていましたよね?」
「は、はい」
何故かメリンダが畏まった。
「壁に飾られている絵の人物はご両親でしょうか?」
「お歳を召したご夫婦の絵だ」
アルマとニケの問いには答えず、メリンダは目を泳がせて黙る。
ニケは紙とペンを取りだして書き始めた。盗み聞きを恐れているのではと推測して。
近くの町まで馬なら二時間程度のはずで半日はかからない。残っているシチューとパンは誰かのための食事ではないかと綴る。目を通してすぐにメリンダは涙ぐんだ。
「そういえばヒルが出るんでしたね。ちょっとやですね……どの辺で特にたくさん落ちてくるとかあります? 近寄らないようにしないと」
アリバイ作りとしてアルマが他愛もないお喋りをメリンダに投げかける。メリンダは適当な受け答えをしつつ、ニケとの筆談を続けた。
●
「う~ん、特に変なところはないかな?」
「まったくよおっ。隠しちゃいやよん」
ブレナーとシェルミは室内を調べたものの、これといったものは見つからなかった。
「もしメリンダさんや集落の人と会ったら、トイレを探すフリですよ。シェルミさん」
「わかったぜぇぇぇ」
他の部屋を探すために静かにドアを開けてそっと廊下にでる。極端なシェルミの忍び足に吹きだしそうになりながらブレナーがついていった。
三部屋調べるものの梨の礫。次はどこに入ろうかブレナーが悩んでいたところ、シェルミが立ち止まって背中にぶつかる。
シェルミが激しい手振り身振りで右側のドアを指し示す。雑な字で物置部屋と貼り紙がされていた。
「おっじゃましまぁぁす?」
先に入ったシェルミがランタンで照らす。物置部屋に相応しく、雑多な品がところ狭しと置かれていた。
「でも、なんか変だな?」
埃こそ被っていたが大抵の物品はどれも使えそうである。
「変じゃない? どかしちまおぉぜぇぇよお」
シェルミに誘われてブレナーは一緒に棚を移動させた。隠れていた壁面にはどす黒い染みがある。
「じゃねぇか。血のにおいがしてたからよん」
「大量の血しぶきの跡だよね」
二人は部屋の奥も確かめた。血しぶきの跡がそこかしこで見つかる。
「掃除しても消せなかったんだろうね」
「隠すために物置部屋かよ。ご苦労なこってですね」
凄惨な何かがここで起きたことに間違いは無かった。
●
(超期待外れな依頼かと思ってたら帰り道に当たりが転がってたじゃーん)
宛がわれた部屋に戻ったゾファルは今か今かとベットに寝転がって待ち構える。天ヶ瀬はクローゼットの中で息を潜めていた。
ただ雨音を聞くだけの時が過ぎていく。
(ヒルとやらが現れるとして……どうなる、か)
ゾファルが突然に上半身を起こしたので天ヶ瀬が身構える。
「トイレじゃん」
彼女の呟きを聞いた天ヶ瀬は隠密の技を駆使しながらこっそりとついていく。
家に隣接していたがトイレの小屋は離れである。用を済ませて戻ろうとしたゾファルは車庫兼厩舎の建物を見かけて思いだす。
(馬車にイタズラされてたら逃げるとき大変じゃん)
雨脚が弱まったときに駆けて厩舎まで辿り着いた。扉を開けてランタンで照らすと闇の中から馬車が浮かび上がる。破壊や小細工されていないか確かめた。
「どうやら大丈夫じゃん!」
ゾファルが呟いてすぐ、光が差し込んで凄まじい轟音が鳴り響いた。雷が近くに落ちたのである。
ゾファルは外を眺めるために出入り口の扉の側に立つ。闇に紛れて背後から忍び寄る影が一つ。鋭い二つの牙がゾファルの首筋に迫った。
「ゾファルさん!」
天ヶ瀬の叫びと同時に光の弾が闇を切り裂く。ホーリーライトの光弾が命中した相手は赤髪にマントを羽織った色白の人物だった。
ゾファルが長い袖の下に隠していた拳のナックルで振り向きざまに攻撃。赤髪は笑みを浮かべながら土砂降りの外へ。
天ヶ瀬が赤髪を追いかける。ゾファルは魔導短伝話で仲間達に緊急伝達を行った。
●
ゾファルと天ヶ瀬が赤髪と接触する十分程前、エヴァンスは四軒目の建物を調べ終わっていた。
(あの埃と蜘蛛の巣だらけだと四、五年は放置されているな)
四軒分を確かめたエヴァンスの感想である。
魔導短伝話で状況を連絡したときに重要情報を教えてもらった。メリンダが吸血鬼について証言しているようだが、詳しく聞いている余裕はない。
隠密の技を隠れつつ強い雨の中、集落の南方に位置している最後の一軒へと向かう。
茂みの中に隠れながら窓や玄関を確かめたが、ここだけ戸締まりが変わっている。窓には石材が填められていた。玄関口は赤錆が浮いた鉄扉である。他の家も同じ石造りだったが、どれも木製の戸板やドアだった。
突然に夜空が明るくなり、刹那轟音が響き渡る。落雷は何度か続いた。
再び輝いた瞬間、頭上を跳び越えていった影に気がつく。それは調査中の家の屋根へと降りて姿を消した。
着信を示す魔導短伝話の小さなライトが点灯。耳に当てるとゾファルからの連絡だった。
●
メリンダは筆談でニケとアルマに洗いざらいを伝える。
二ヶ月ほど前、林を馬車で通過しているときにゾンビの群れに襲われた。自分と妹を含めて八名が囚われる。ゾンビを操っていたのが赤髪の吸血鬼。奴に血を吸われて仲間が次々と死んでいく中、姉妹だけが残った。
メリンダは吸血鬼に命じられる。集落に人間を誘い込んで足止めしろ。そうすれば妹の命は助けてやると。こうするしかなかったと筆談の紙に涙粒が落ちた。
妹が閉じ込められているのは集落の一番南にある建物。吸血鬼もそこに隠れているという。
雷光と雷鳴に三人は窓へと振り返る。まもなくゾファルから魔導短伝話がかかってきた。吸血鬼と遭遇。現在天ヶ瀬が追いかけていると。エヴァンスからも連絡が。南の建物周辺で吸血鬼らしき人影を発見したようだ。
ニケはマテリアルヒーリングで自らの傷を癒やす。
「必ず、君も妹君も守ってみせるよ」
「メリンダさんもご一緒に。妹さんのことは任せて下さい」
ニケとアルマに誘われてメリンダも雨打つ野外へ。三人が駆けつけると他の全員が集まっていた。
鉄扉が外れて地面に倒れる。窓枠を埋めていた石材が押しだされて泥の地面へと転がった。現れた前屈みのゾンビが千鳥足で泥に足先を沈める。無闇に顎を動かして汚らしい汁を垂らす。
そのとき、メリンダが懇願した。ミリアを救出するために力を貸して欲しいと。
「ほら、よそ見してると雷が落ちますよォ?」
アルマの雷撃に痺れたゾンビが窓枠に引っかかる。続いてでようとしていたゾンビが詰まって立ち往生。そうやってゾンビの出現を抑えていく。
「フルボッコにするじゃん!」
「つぅぅうかよぉぉおまじであんな顔色悪い女よりも俺の首に牙とか突き立ててくれちゃったりとかしちゃったりとかはしたりしてくんねぇの?? どこよ吸血鬼」
鉄扉がなくなった玄関口からのゾンビに対抗したのはゾファルとシェルミだ。ゾファルの渾身拳やシェルミのナイフ刻みによってゾンビの一部が周囲に飛び散る。
「咲き穿て、閃椿――ッ」
大きめの窓枠から這いだしてくるゾンビに天ヶ瀬が大身槍「紅椿」を突き立てた。ホーリーライトで追い打ちをかけて弾く。
雨降りは今に限って幸いだった。すぐに汚れを洗い流してくれる。
このときニケ、エヴァンス、ブレナーはメリンダと行動を共にしていた。
問題の家には増築された部分が存在する。ここにミリアは囚われていて、メリンダは小窓を通じて一日に一回食事を運んでいた。
メリンダが話しかけるとミリアの声が返ってくる。
エヴァンスとニケが邪魔なゾンビを排除。ニケは近くの木に登って高い位置にある換気用の小窓から中へ忍び込もうとした。
「虫けら以下の分際で何をしているのです」
突如枝の上に現れた赤髪の吸血鬼がニケを襲う。運良く気づいたニケが咄嗟に蹴飛ばす。
泥に落ちた赤髪の吸血鬼との間合いをブレナーが詰めた。攻撃の瞬間、雨に打たれたヒートソードから激しい蒸気が立ち上る。
エヴァンスが振り下ろすグレートソード「テンペスト」も赤髪の吸血鬼に休みを与えなかった。
ブレナーとエヴァンスはメリンダの保護を最優先する。ニケを追わせないこともだ。
ミリアを抱えたニケが換気小窓から地面へと飛び降りた。合わせたようにエヴァンスは言葉にならない雄叫びを張り上げる。仲間だけが知る撤退の合図だった。
「恨むなら、俺達を招いた運の悪さを恨むんだな」
「右から来たゾンビは私が抑えます!」
エヴァンスとブレナーはメリンダとミリアを抱えるニケに何者も近寄せない。それまでゾンビを抑え込んでいたハンター仲間が攻撃対象を赤髪の吸血鬼に切り替える。
「ここから先に行かせるつもりはない!」
天ヶ瀬の槍突きによって赤髪の吸血鬼が後退していく。
「言っとくけど俺ちゃんまじ健康体よ? どうよ? 若いよ? かわいいよ??? 一発お試しキャンペェェェェンとかしちゃったりとかしねぇ? だめ???」
シェルミはヒャッハーと両手のナイフを舞わせて赤髪の吸血鬼に迫った。
「よくも俺様を狙ってくれたじゃん」
赤髪の吸血鬼の背後に回ったゾファルが拳をねじ込む。くの字に曲がった赤髪の吸血鬼が家壁へと叩きつけられた。
「ははははッ、吸血鬼! 成程、ヒルとは言い得て妙だ!」
覚醒のアルマは真っ赤な瞳に牙のような八重歯に変化していた。まるで吸血鬼のような姿で本物に銃弾を撃ち込んだ。
天ヶ瀬は後を仲間に任せて先に厩舎へと向かう。着いて真っ先に衰弱していたミリアとメリンダをヒールで癒やした。それまで朦朧としていたミリアが目を覚ます。
準備が整い、厩舎から発車する。ニケは魔導短伝話で撤退のコールを鳴らした。赤髪の吸血鬼を抑えていた仲間達が追いついて馬車に乗り込んでいく。
「よく来たじゃん」
重装馬に跨がったゾファルは殿として赤髪の吸血鬼との戦いを引き受ける。足の遅いゾンビはついて来られなかった。
林を貫く本道にでても赤髪の吸血鬼が追いかけてくる。しかし林を抜けると諦めるのだった。
町に辿り着いたハンター一行は事件のあらましを官憲に伝えた。
「後はこちらに任せてくれ」
把握されていた林での行方不明事件の件数はとても少なかった。隠蔽された事例が多いからだろう。メリンダ達が囚われた件もそうである。
「お兄ちゃんにお姉ちゃんたち、ありがとう!」
「本当に、本当に……ありがとうございました」
メリンダとミリアがハンター一行を見送ってくれた。
「健康な怪我は健康な身体から! そんなにぐったりじゃ素敵な痛みにも出会えねぇぜぇお姉さん方よぉ。糖分取ってゆっくり眠ってそれからたっぷり陽の光を浴びろよぉ? 俺ちゃんとのお約束だぜぇぇえ!」
馬車の屋根に座るシェルミが両手を振る。こうしてハンター一行は本当の意味での帰路に就いたのだった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
---|
面白かった! | 6人 |
---|
ポイントがありませんので、拍手できません
現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!
MVP一覧
- 刃の先に見る理想
ブレナー ローゼンベック(ka4184)
重体一覧
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談卓 ブレナー ローゼンベック(ka4184) 人間(リアルブルー)|14才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/06/12 18:32:38 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/10 14:57:00 |