ゲスト
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【春郷祭】受付嬢と行く村長祭・モア編
マスター:cr

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/14 12:00
- 完成日
- 2015/06/21 17:51
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。
●
「お断りします」
ここはヴァリオス内にあるハンターオフィス。ここで働く受付嬢であるモア・プリマクラッセ(kz0066)は上役から渡された仕様書を見るなり、2秒後にはそう返していた。
「そう言わずに……」
「とてもツアーをエスコートする時間なんてありません」
と表情一つ変えず言い、仕様書を突き返してモアは業務に戻っていた。
そんなモアのやりとりを見ていた受付嬢が二人。ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)とイルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067)である。
「モアさんもどこかにエスコートすればいいのに」
とはルミの言葉。
「といってもモアさんはバロテッリ商会の番頭ですから。ヴァリオス商工会の商人の方々はとてもじゃないけど、ツアーをエスコートしている時間なんて無いと思いますよ」
とイルムが返す。
「あぁ、そっか……そうですよね……」
とクリムゾンウェスト生まれのモアがどこにエスコートするのか、楽しみにしていたルミは残念そうに机にだらんと身を投げ出していた。
その時、突然ルミが立ち上がる。表情はなにか思いついたような、悪巧みをしているような顔。
早速モアに祭りでどういった仕事をするのか聞きに行くルミ。その様子を見ていたイルムは、後にその時ルミの頭に豆電球が付いたように見えたと語っていたという。
●
「これはどういうことですか」
次の日の朝、オフィスにやって来たルミにモアの顔がずずい、と近づけられる。その後ろには「モア・プリマクラッセと行く村長祭・参加者募集!」と書かれた張り紙。
「文字通りモアさんと行く村長祭ツアーですよ! いやぁ、モアさんが行くところなら行きたいってハンターの人達いっぱいいると思いますよ~」
とお世辞で返すルミ。
「と言われましてもそんな時間はありません。この時期はヴァリオスの商人は皆、ジェオルジに向かってあれやこれや商売を行うということをルミさんもご存知でしょう?」
「そう、それですよ!」
と返したルミが言葉を続ける。
「リアルブルーには様々な職業を体験させて楽しんでもらうテーマパークがあるんですよ! これを、ハンターの皆さんにやってもらうのはいかがでしょうか? ほら、ヴァリオスの一流商人がどういった仕事をしているのか、興味あるハンターの人々も多いと思いますよ!」
しばらく顎に手を当てて考えていたモアだが……
「なるほど……さすがに商談に付いてきてもらうことは出来ませんが、食事ブースの提供の仕事なら体験してもらってもいいかもしれません。ただ、仕事をしてもらうわけですから報酬を払わなければいけませんね」
「そんなのいいですって! みんなツアーを楽しみに来るわけですし!」
「よくありません。大体ルミさんは金勘定が甘すぎます。先日だって……」
と、しばらくモアによるお説教が始まったのだが、それはまた別の話である。
同盟領内に存在する農耕推進地域ジェオルジ。
この地では初夏と晩秋の頃に、各地の村長が統治者一族の土地に集まって報告を行う寄り合いが行われる。その後、労をねぎらうべくささやかなお祭りが催されていたのだが、昨年の秋から状況が一変。同盟の商人や各地からの観光客が集まるお祭りとして賑わっていた。
そして今年の春。遠き辺境の地での戦いが終息に向かったのを見計らい、延期にしていた春の村長祭を開催する運びとなった。
今回は辺境のお祭りとの共催となり、より一層の盛り上がりが予想されるが、今回のジェオルジ村長祭はどんな催しが行われるのか。
●
「お断りします」
ここはヴァリオス内にあるハンターオフィス。ここで働く受付嬢であるモア・プリマクラッセ(kz0066)は上役から渡された仕様書を見るなり、2秒後にはそう返していた。
「そう言わずに……」
「とてもツアーをエスコートする時間なんてありません」
と表情一つ変えず言い、仕様書を突き返してモアは業務に戻っていた。
そんなモアのやりとりを見ていた受付嬢が二人。ルミ・ヘヴンズドア(kz0060)とイルムトラウト・イトゥリツァガ(kz0067)である。
「モアさんもどこかにエスコートすればいいのに」
とはルミの言葉。
「といってもモアさんはバロテッリ商会の番頭ですから。ヴァリオス商工会の商人の方々はとてもじゃないけど、ツアーをエスコートしている時間なんて無いと思いますよ」
とイルムが返す。
「あぁ、そっか……そうですよね……」
とクリムゾンウェスト生まれのモアがどこにエスコートするのか、楽しみにしていたルミは残念そうに机にだらんと身を投げ出していた。
その時、突然ルミが立ち上がる。表情はなにか思いついたような、悪巧みをしているような顔。
早速モアに祭りでどういった仕事をするのか聞きに行くルミ。その様子を見ていたイルムは、後にその時ルミの頭に豆電球が付いたように見えたと語っていたという。
●
「これはどういうことですか」
次の日の朝、オフィスにやって来たルミにモアの顔がずずい、と近づけられる。その後ろには「モア・プリマクラッセと行く村長祭・参加者募集!」と書かれた張り紙。
「文字通りモアさんと行く村長祭ツアーですよ! いやぁ、モアさんが行くところなら行きたいってハンターの人達いっぱいいると思いますよ~」
とお世辞で返すルミ。
「と言われましてもそんな時間はありません。この時期はヴァリオスの商人は皆、ジェオルジに向かってあれやこれや商売を行うということをルミさんもご存知でしょう?」
「そう、それですよ!」
と返したルミが言葉を続ける。
「リアルブルーには様々な職業を体験させて楽しんでもらうテーマパークがあるんですよ! これを、ハンターの皆さんにやってもらうのはいかがでしょうか? ほら、ヴァリオスの一流商人がどういった仕事をしているのか、興味あるハンターの人々も多いと思いますよ!」
しばらく顎に手を当てて考えていたモアだが……
「なるほど……さすがに商談に付いてきてもらうことは出来ませんが、食事ブースの提供の仕事なら体験してもらってもいいかもしれません。ただ、仕事をしてもらうわけですから報酬を払わなければいけませんね」
「そんなのいいですって! みんなツアーを楽しみに来るわけですし!」
「よくありません。大体ルミさんは金勘定が甘すぎます。先日だって……」
と、しばらくモアによるお説教が始まったのだが、それはまた別の話である。
リプレイ本文
●
「今回はようこそおいでくださいました。『受付嬢と行く村長祭』ツアーにご参加くださりありがとうございます」
村長祭当日、モアが参加者に挨拶する。
「モアさん、今回はよろしくお願いしますね」
その挨拶を受けて、参加者の一人、火椎 帝(ka5027)が前に進み出て手を伸ばし、そしてモアの顔をしばらくじーっと見つめていた。
「火椎さんですね。よろしくお願いします……何か付いていますか?」
初対面の相手の顔と名前を一致させながら、モアは戸惑いつつそう返す。その頃火椎は、
(随分な美人さんだな……)
と、思っていたのであった。
そんな風に火椎がたっぷりモアの事を見つめたところで、レオン・フォイアロート(ka0829)が間に入る。
「見聞を広めるためにハンターになったのですしね、これもいい機会と思って全力を尽くしましょう。真摯に取り組めば、きっと何か得るものがあるでしょうからね」
と、手を差し出しながら挨拶するレオン。それに対し、
「レオンさんですね。お久しぶりですね。あれからもうそろそろ一年になるのでしょうか」
と握手しながら返すモア。モアが受付嬢として担当した一つの依頼。その依頼を請け負った、言い換えるとそれだけの関係の相手の顔を覚えていた。そしてモアはそのまま他の参加者達にも挨拶をしていく。
「村長祭ですか、開催できて何よりです」
「ええ、何よりですね。これもミオさん達ハンターの皆さんのお陰ですよ」
そう会話を交わしたのはミオレスカ(ka3496)。ミオは半年前にモアが出した依頼を請け負っている。その時、ゴブリンの襲撃を討ち払った。そういったハンター達の活躍があってこそ、現在の平和な村長祭がある。この祭りの場所の賑やかで穏やかな空気はハンター達の力で勝ち取ったものだ。
「それから茜さんですね。茜さんはどうして参加されたのですか?」
「ええ、どんぶり物を作れる人を募集って聞いて」
モアのちょっとした質問に答えたのは天王寺茜(ka4080)だ。茜はモアが企画した、バレンタインデーでのチョコレート販促のためのアイドル活動に参加していた。その時、茜がアイドル衣装を着られることを喜んでいたのをこうやって会話しながら、モアは思い出していた。
「皆さんのおかげでリアルブルーの“和食”を提供することができたのですが、もっと様々な料理を提供したいと思っています。よろしくお願いしますね」
「はい! お洒落な料理は苦手なんだけど、こういう料理なら!」
そう元気に返事する茜。
(丼、というとどうしても休みの日の手抜き昼ご飯になっちゃってるので、ちょっと思考を転換せねば)
その頃、葵(ka2143)は腕を組んで難しい顔をして考えていた。そんな葵の考えを知ってか知らずか、モアは葵にも挨拶をしていく。
「葵さんがいるなら安心ですね。今回も和食を教えてください」
モアが先ほど言っていた“和食”を提供することが出来た、そのきっかけの一人が葵である。“和食”の存在を聞きつけたモアが、和食を知るため集めたハンター達。そのうちの一人が葵であった。その時葵が提供したおにぎりは、今や彼女の仕事には欠かせない食べ物になっている。
「ああ、そうだな。こちらこそよろしく頼むぜ」
そうやって一行は自分たちの場所へと向かった。
●
「リアルブルー式のどんぶり物を出すので、リアルブルー風の制服があれば物珍しさもあって、客も引けないかと思うのですが」
向かう前、レオンはそう全員に提案していた。幸い、ここにはリアルブルー出身者が三人も居る。彼らに話を聞けばどういった制服が使われていたのか分かりそうだ。
「えっと、それなら……」
茜はそれに対し、しばらく考えた後アイデアを出していった。茜はロッソ内では大衆食堂兼居酒屋を手伝っていたため、一般的なものがどういうものかはわかる。が、それが人目を引くかは別だ。そこで彼女はリアルブルーに居た時、かわいいと思ったファミレスの制服を思い出していた。
「なるほど、これですか」
茜のアイデアに対し、モアが取り急ぎ集めてきた服、これが今回の制服となる。白いドレスシャツに下は女性なら青いスカート、男性なら青いスラックス。そこに水色のエプロンと蝶ネクタイを合わせたもの。リアルブルーで人気だったファミレスの衣装を基にした制服は確かに可愛らしいし、清潔感にもあふれている。茜は実物を見て目を輝かせていた。
「で、これは……何なのでしょうか」
が、モアはその制服を見てそう言っていた。なぜならエプロンには大きく「モアどん!」と書かれていたからである。
「これは……火椎さんの仕業ですね?」
ずずい、と表情を変えず火椎に顔を近づけるモア。一切表情が変わらないのが逆に怖い。
「ええっと、こういうのがいいかな~、って思って……」
と目をそらして答える火椎。
「余り目立ちたく無いのですが……」
しかし今から制服を変える時間は無い。結局制服のエプロンにはモアの名前が大きく書かれることになった。
●
「えーと玉葱、ジャガイモ、人参に三つ葉……野菜なら大抵は使える料理ですね。カキアゲドンって言うんですけど」
制服に身を包み、ブースに出てきた参加者達。いざ丼を作る段階になって、茜はモアに相談していた。茜はモアに作ろうとしているものを説明する。曰く細かく切った野菜に小麦粉と卵、それに冷水を合わせて作った衣をさっくりと混ぜ、油で揚げたものを載せたどんぶりである。
「ああ、なるほど。天ぷらですね」
「え? 知っているんですか?」
茜は知らなかったが、モアが葵達に和食を作ってもらった時に天ぷらのことも教えられていた。年末に行われた街コンでもその天ぷらを提供し、好評を博していた。
「それなら話は早いや。油で揚げなきゃいけないから、食用に使える油と大きなお鍋が必要なんだけど」
「ええ、大丈夫ですよ」
「やった! それなら、もう一つお願いがあるんですけど……サクラエビってあります?」
「それなら、ポルトワールで手に入りますね。すぐに手配しましょう」
言葉通り、すぐにサクラエビが茜のもとに届けられた。村長祭の期間ならクリムゾンウェストで手に入るものは全てジェオルジで手に入る。
そこで早速調理を始める茜。野菜を千切りにして衣を混ぜる。野菜はジェオルジで作られている美味しい野菜達だ。そこにサクラエビを加えると、白と緑の所に赤い差し色が入り一気に華やかになる。
あとはこれを油の中に落とし、じっくり揚げていく。かき揚げを生にならないように揚げるのはなかなか難しい。それを苦もなく揚げて行く茜。それは料理が得意な彼女の面目躍如であった。
●
「ジェオルジって野菜が美味い所だし、野菜丼なんてどうですか?」
火椎が提案したのは野菜丼であった。
「といっても、かき揚げ丼にも野菜は沢山入っていますよ?」
「そこですよ。女性とか、油モノ、こってりしたものがきつい年配の人向けのどんぶりにするんです」
つまり火椎が提案したものはこうだ。油で揚げずに、炒めた野菜をご飯の上に載せてどんぶりにする。
「それなら俺もあるぜ」
そんな火椎の提案を聞いて、葵も自分のアイデアを披露する。葵が作ろうと思っていたものは焼き野菜丼。焼くか炒めるかの違いがあるだけで同じものだ。後もう一つ、違いがあったのだが。
「何で味を付けようと思っています? 僕はこれなんですけど」
と取り出したのは白い物体。それに対し、葵も、
「俺はこれを使う」
と出してきたものは野菜の切れ端。二人の出してきたものを見てモアは、
「ええっと……これはカビの生えた米なのでしょうか……それから、こちらは野菜くずですよね」
と戸惑う。
「これはカビではありませんよ。塩麹というものです」
「こっちもこの野菜くずをそのまま使うわけじゃ無いぜ。ここから出汁を取るんだ。いわゆるベジブロスってやつだな」
「それは……知りませんでした」
二人の説明に、モアの鉄面皮がほんの少し緩んだ、そんな気がした。
そして調理が始まる。火椎は塩麹に予め野菜を漬け込んでおき、それをざっと炒める。
「塩麹で甘みが出るっていうか、野菜の味が濃くなるんですよね」
と、一つ味見。
「塩麹の味も効くし、野菜そのものが美味いんだからきっと美味いと思います」
炒め終えた所でご飯の上に載せ、さらにその上に予め作っておいた温泉卵を載せれば完成だ。
「お好みで醤油やソース等で味を整えてください」
そう差し出された火椎の野菜丼をモアは一口試食。そして、
「これで十分美味しいですよ。このまま提供しましょう」
とお墨付きを与えた。
「祭り用だろ? なら即座に出せるものがいい! それに、作り置きができて、手軽で、食べやすい物……ライブ感もあるといいし」
一方葵は鉄板の上で野菜を焼いていた。なるほど、こうやって調理の過程を見せることで人を集めようということだ。あとは焼いた野菜をご飯の上に載せる。
別の鍋では、ベジブロスが作られていた。たっぷりの水にいっぱいの野菜くず。これを弱火でじっくりと煮だしていく。やがて透明だった水は野菜のエキスを受け黄金色に輝く液体へと変化していた。
そうやって作られたベジブロスをたっぷりとかける。下のご飯は黄金色の液体に浸かり美味しそうな輝きを放っていた。
「まぁ、なんていうかあれだ。汁ダク?」
「汁ダク? それは何なのでしょうか」
「まあ専門用語みたいなもんだ」
そうやって葵は会話をかわしながら、試食するモアに声をかける。
「暑すぎる日だったら、出汁冷やすとまた一味違うと思うんだよな。動物性の出汁と違って、脂浮かないから冷やしたときの手間がひとつ減るし」
「それならば冷たい出汁も用意しておきましょう。おそらく今日は暑くなりそうですし」
こうして二人の野菜丼はそれぞれ差別化される形で作られたのだった。
●
その頃ミオは何を作ろうかイメージしていた。ハンター達に毎日与えられる支給品、それでよく貰うレトルトカレー。これのレトルトでないもの、つまりカレーライスを作ろうと考えていた。
早速モアに必要な食材を集めてもらう。ずらりと勢揃いしたスパイスに各種野菜。これだけあればカレーを作ることができそうだ。
そこでフライパンにバターを入れて溶かし、小麦粉を入れてゆっくり炒める。焦がさないように丁寧にするのがポイントだ。
そしてきつね色に変わってきた所でミックススパイスを加えると食欲をそそる香りが立ち上る。カレールーの完成だ。
お腹が空くのを我慢しつつ、もうひとつの鍋に水を張り、そこに多くの野菜を入れていく。
「ヴァリオスのお野菜をふんだんに使えば、とても、それらしい物になると思います」
特に多く加えたのはトマトだ。この時期のヴァリオスで多く作られ、美味しい野菜の代表格。そこから出る旨味がカレーに深みを与えてくれる。
あとはそこにカレールーを加えればカレーの出来上がり。ミオは別に各種魚や鶏肉のフライを作り、これを一つ添えて出すことを提案した。
●
やがて祭りにもどんどん人が集まってくる。ミオが立ち上らせているカレーの香りと、葵の前から出ている野菜が焼けるいい音がいやがおうにも人を集めていく。
「美味いよー? 食べてってー!」
そこで、集まってきた人に葵が声をかける。強引なのは無しだ。それでも、その美味しさが嗅覚と聴覚を直接刺激する。ブースの中には吸い込まれる用に人が入っていきあっという間に満員御礼になった。
中に入った人達にはレオンが中心となって接客だ。笑顔を心がけ、お客さん達が美味しく食べられるように意識して接客するレオン。騎士の家系に生まれた彼がそうやって接すると、女性にとっては王子様に相手してもらっているように感じたとかいないとか。
「どうせやるなら、繁盛させたいですね」
もちろんレオンだけが接客するわけではない。火椎も自分の調理が一段落すると、接客を手伝いはじめる。
そうやって火椎が出てきた所で交代するようにレオンが下がった。別にサボっているわけでは無い。汚れたところを見つけたんでさっと掃除。
「汚い所で食事をしようとは思わないでしょうからね」
レオンのその心遣いで、ブースの中は最後まで清潔に保たれていた。
「リアルブルーの料理、カキアゲドンでーす!」
ブース前では今度は茜が呼び込みを行っていた。美味しい料理に足を止めたのか、それとも茜の制服姿に足が止まったのか。
「取れたて野菜を、揚げたてサクサクのテンプラに、どうぞ食べてみてくださーい!」
その茜の声に何人かがブース内に入っていく。そうやって多くの客が来たことで、予想より早く野菜が無くなってしまった。急いで追加の野菜が運び込まれる。
それをレオンは受け取り、大切に各人へと配っていった。食材は農家が手間暇かけて、子供のようにかわいがって作ったもの。だから敬意を払う意味でも、雑に扱うことは避ける。それがレオンの考えだ。
一方ミオは、カレーを食べ終わった客にお土産を販売していた。カレーを作るのに使った野菜にスパイスを、盛りつけたどんぶりと一緒に販売するものだ。これを持って帰れば家でも同じ味が食べられる。そういう算段だ。見れば他のどんぶりの材料セットも販売している。
「レトルトでないカレーも是非、支給していただきたいですし」
そう思いながらミオは販売していた。
その頃レオンは子供の手を引いていた。これだけの人が集まる村長祭となると、迷子の子供も現れる。そんな子供に飴をあげてなだめ、世話係のものへ連れて行く。すぐに親が現れ、ぺこぺこと頭を下げた後に客として店舗へ来てくれた。将来の客にも接客。知らない間にレオンは商売の極意を体得していたようだ。
●
昼時が終わると随分と客が減った。今回はあくまで村長祭ツアーがメインである。そこでモアは早めに店じまいにすることにした。終われば参加者には自由時間である。
「美味しいものを食べるときって、楽しいですね」
そこで、ミオは他のどんぶりを試食することにした。かき揚げ丼や野菜丼を頬張り、笑顔で幸せをかみしめていた。
「俺も食べたいー!!」
そこに葵が入ってくる。結果少し遅いランチが始まり、その後各々存分に村長祭を楽しんだようだ。
●
夜、参加者達が帰宅の途についた頃、モアはまだ一人ジェオルジにいた。彼女にとっての本番はここから、この期に集まった村長に商談を行うのだ。そんなモアの小脇には、皆が作ってくれたどんぶりが抱えられていた。
「あんなに沢山の人に、美味いっていってもらったんです。だから、モアさんも商談自信もって行ってきてください」
別れ際、火椎の言葉がモアの胸に残っていた。美味しい料理で村長の心の壁を溶かす――その目論見は上手くいったのか。モアは教えてはくれなかったが、彼女の顔はほんの少し、笑顔だったように見えたと言う。
「今回はようこそおいでくださいました。『受付嬢と行く村長祭』ツアーにご参加くださりありがとうございます」
村長祭当日、モアが参加者に挨拶する。
「モアさん、今回はよろしくお願いしますね」
その挨拶を受けて、参加者の一人、火椎 帝(ka5027)が前に進み出て手を伸ばし、そしてモアの顔をしばらくじーっと見つめていた。
「火椎さんですね。よろしくお願いします……何か付いていますか?」
初対面の相手の顔と名前を一致させながら、モアは戸惑いつつそう返す。その頃火椎は、
(随分な美人さんだな……)
と、思っていたのであった。
そんな風に火椎がたっぷりモアの事を見つめたところで、レオン・フォイアロート(ka0829)が間に入る。
「見聞を広めるためにハンターになったのですしね、これもいい機会と思って全力を尽くしましょう。真摯に取り組めば、きっと何か得るものがあるでしょうからね」
と、手を差し出しながら挨拶するレオン。それに対し、
「レオンさんですね。お久しぶりですね。あれからもうそろそろ一年になるのでしょうか」
と握手しながら返すモア。モアが受付嬢として担当した一つの依頼。その依頼を請け負った、言い換えるとそれだけの関係の相手の顔を覚えていた。そしてモアはそのまま他の参加者達にも挨拶をしていく。
「村長祭ですか、開催できて何よりです」
「ええ、何よりですね。これもミオさん達ハンターの皆さんのお陰ですよ」
そう会話を交わしたのはミオレスカ(ka3496)。ミオは半年前にモアが出した依頼を請け負っている。その時、ゴブリンの襲撃を討ち払った。そういったハンター達の活躍があってこそ、現在の平和な村長祭がある。この祭りの場所の賑やかで穏やかな空気はハンター達の力で勝ち取ったものだ。
「それから茜さんですね。茜さんはどうして参加されたのですか?」
「ええ、どんぶり物を作れる人を募集って聞いて」
モアのちょっとした質問に答えたのは天王寺茜(ka4080)だ。茜はモアが企画した、バレンタインデーでのチョコレート販促のためのアイドル活動に参加していた。その時、茜がアイドル衣装を着られることを喜んでいたのをこうやって会話しながら、モアは思い出していた。
「皆さんのおかげでリアルブルーの“和食”を提供することができたのですが、もっと様々な料理を提供したいと思っています。よろしくお願いしますね」
「はい! お洒落な料理は苦手なんだけど、こういう料理なら!」
そう元気に返事する茜。
(丼、というとどうしても休みの日の手抜き昼ご飯になっちゃってるので、ちょっと思考を転換せねば)
その頃、葵(ka2143)は腕を組んで難しい顔をして考えていた。そんな葵の考えを知ってか知らずか、モアは葵にも挨拶をしていく。
「葵さんがいるなら安心ですね。今回も和食を教えてください」
モアが先ほど言っていた“和食”を提供することが出来た、そのきっかけの一人が葵である。“和食”の存在を聞きつけたモアが、和食を知るため集めたハンター達。そのうちの一人が葵であった。その時葵が提供したおにぎりは、今や彼女の仕事には欠かせない食べ物になっている。
「ああ、そうだな。こちらこそよろしく頼むぜ」
そうやって一行は自分たちの場所へと向かった。
●
「リアルブルー式のどんぶり物を出すので、リアルブルー風の制服があれば物珍しさもあって、客も引けないかと思うのですが」
向かう前、レオンはそう全員に提案していた。幸い、ここにはリアルブルー出身者が三人も居る。彼らに話を聞けばどういった制服が使われていたのか分かりそうだ。
「えっと、それなら……」
茜はそれに対し、しばらく考えた後アイデアを出していった。茜はロッソ内では大衆食堂兼居酒屋を手伝っていたため、一般的なものがどういうものかはわかる。が、それが人目を引くかは別だ。そこで彼女はリアルブルーに居た時、かわいいと思ったファミレスの制服を思い出していた。
「なるほど、これですか」
茜のアイデアに対し、モアが取り急ぎ集めてきた服、これが今回の制服となる。白いドレスシャツに下は女性なら青いスカート、男性なら青いスラックス。そこに水色のエプロンと蝶ネクタイを合わせたもの。リアルブルーで人気だったファミレスの衣装を基にした制服は確かに可愛らしいし、清潔感にもあふれている。茜は実物を見て目を輝かせていた。
「で、これは……何なのでしょうか」
が、モアはその制服を見てそう言っていた。なぜならエプロンには大きく「モアどん!」と書かれていたからである。
「これは……火椎さんの仕業ですね?」
ずずい、と表情を変えず火椎に顔を近づけるモア。一切表情が変わらないのが逆に怖い。
「ええっと、こういうのがいいかな~、って思って……」
と目をそらして答える火椎。
「余り目立ちたく無いのですが……」
しかし今から制服を変える時間は無い。結局制服のエプロンにはモアの名前が大きく書かれることになった。
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「えーと玉葱、ジャガイモ、人参に三つ葉……野菜なら大抵は使える料理ですね。カキアゲドンって言うんですけど」
制服に身を包み、ブースに出てきた参加者達。いざ丼を作る段階になって、茜はモアに相談していた。茜はモアに作ろうとしているものを説明する。曰く細かく切った野菜に小麦粉と卵、それに冷水を合わせて作った衣をさっくりと混ぜ、油で揚げたものを載せたどんぶりである。
「ああ、なるほど。天ぷらですね」
「え? 知っているんですか?」
茜は知らなかったが、モアが葵達に和食を作ってもらった時に天ぷらのことも教えられていた。年末に行われた街コンでもその天ぷらを提供し、好評を博していた。
「それなら話は早いや。油で揚げなきゃいけないから、食用に使える油と大きなお鍋が必要なんだけど」
「ええ、大丈夫ですよ」
「やった! それなら、もう一つお願いがあるんですけど……サクラエビってあります?」
「それなら、ポルトワールで手に入りますね。すぐに手配しましょう」
言葉通り、すぐにサクラエビが茜のもとに届けられた。村長祭の期間ならクリムゾンウェストで手に入るものは全てジェオルジで手に入る。
そこで早速調理を始める茜。野菜を千切りにして衣を混ぜる。野菜はジェオルジで作られている美味しい野菜達だ。そこにサクラエビを加えると、白と緑の所に赤い差し色が入り一気に華やかになる。
あとはこれを油の中に落とし、じっくり揚げていく。かき揚げを生にならないように揚げるのはなかなか難しい。それを苦もなく揚げて行く茜。それは料理が得意な彼女の面目躍如であった。
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「ジェオルジって野菜が美味い所だし、野菜丼なんてどうですか?」
火椎が提案したのは野菜丼であった。
「といっても、かき揚げ丼にも野菜は沢山入っていますよ?」
「そこですよ。女性とか、油モノ、こってりしたものがきつい年配の人向けのどんぶりにするんです」
つまり火椎が提案したものはこうだ。油で揚げずに、炒めた野菜をご飯の上に載せてどんぶりにする。
「それなら俺もあるぜ」
そんな火椎の提案を聞いて、葵も自分のアイデアを披露する。葵が作ろうと思っていたものは焼き野菜丼。焼くか炒めるかの違いがあるだけで同じものだ。後もう一つ、違いがあったのだが。
「何で味を付けようと思っています? 僕はこれなんですけど」
と取り出したのは白い物体。それに対し、葵も、
「俺はこれを使う」
と出してきたものは野菜の切れ端。二人の出してきたものを見てモアは、
「ええっと……これはカビの生えた米なのでしょうか……それから、こちらは野菜くずですよね」
と戸惑う。
「これはカビではありませんよ。塩麹というものです」
「こっちもこの野菜くずをそのまま使うわけじゃ無いぜ。ここから出汁を取るんだ。いわゆるベジブロスってやつだな」
「それは……知りませんでした」
二人の説明に、モアの鉄面皮がほんの少し緩んだ、そんな気がした。
そして調理が始まる。火椎は塩麹に予め野菜を漬け込んでおき、それをざっと炒める。
「塩麹で甘みが出るっていうか、野菜の味が濃くなるんですよね」
と、一つ味見。
「塩麹の味も効くし、野菜そのものが美味いんだからきっと美味いと思います」
炒め終えた所でご飯の上に載せ、さらにその上に予め作っておいた温泉卵を載せれば完成だ。
「お好みで醤油やソース等で味を整えてください」
そう差し出された火椎の野菜丼をモアは一口試食。そして、
「これで十分美味しいですよ。このまま提供しましょう」
とお墨付きを与えた。
「祭り用だろ? なら即座に出せるものがいい! それに、作り置きができて、手軽で、食べやすい物……ライブ感もあるといいし」
一方葵は鉄板の上で野菜を焼いていた。なるほど、こうやって調理の過程を見せることで人を集めようということだ。あとは焼いた野菜をご飯の上に載せる。
別の鍋では、ベジブロスが作られていた。たっぷりの水にいっぱいの野菜くず。これを弱火でじっくりと煮だしていく。やがて透明だった水は野菜のエキスを受け黄金色に輝く液体へと変化していた。
そうやって作られたベジブロスをたっぷりとかける。下のご飯は黄金色の液体に浸かり美味しそうな輝きを放っていた。
「まぁ、なんていうかあれだ。汁ダク?」
「汁ダク? それは何なのでしょうか」
「まあ専門用語みたいなもんだ」
そうやって葵は会話をかわしながら、試食するモアに声をかける。
「暑すぎる日だったら、出汁冷やすとまた一味違うと思うんだよな。動物性の出汁と違って、脂浮かないから冷やしたときの手間がひとつ減るし」
「それならば冷たい出汁も用意しておきましょう。おそらく今日は暑くなりそうですし」
こうして二人の野菜丼はそれぞれ差別化される形で作られたのだった。
●
その頃ミオは何を作ろうかイメージしていた。ハンター達に毎日与えられる支給品、それでよく貰うレトルトカレー。これのレトルトでないもの、つまりカレーライスを作ろうと考えていた。
早速モアに必要な食材を集めてもらう。ずらりと勢揃いしたスパイスに各種野菜。これだけあればカレーを作ることができそうだ。
そこでフライパンにバターを入れて溶かし、小麦粉を入れてゆっくり炒める。焦がさないように丁寧にするのがポイントだ。
そしてきつね色に変わってきた所でミックススパイスを加えると食欲をそそる香りが立ち上る。カレールーの完成だ。
お腹が空くのを我慢しつつ、もうひとつの鍋に水を張り、そこに多くの野菜を入れていく。
「ヴァリオスのお野菜をふんだんに使えば、とても、それらしい物になると思います」
特に多く加えたのはトマトだ。この時期のヴァリオスで多く作られ、美味しい野菜の代表格。そこから出る旨味がカレーに深みを与えてくれる。
あとはそこにカレールーを加えればカレーの出来上がり。ミオは別に各種魚や鶏肉のフライを作り、これを一つ添えて出すことを提案した。
●
やがて祭りにもどんどん人が集まってくる。ミオが立ち上らせているカレーの香りと、葵の前から出ている野菜が焼けるいい音がいやがおうにも人を集めていく。
「美味いよー? 食べてってー!」
そこで、集まってきた人に葵が声をかける。強引なのは無しだ。それでも、その美味しさが嗅覚と聴覚を直接刺激する。ブースの中には吸い込まれる用に人が入っていきあっという間に満員御礼になった。
中に入った人達にはレオンが中心となって接客だ。笑顔を心がけ、お客さん達が美味しく食べられるように意識して接客するレオン。騎士の家系に生まれた彼がそうやって接すると、女性にとっては王子様に相手してもらっているように感じたとかいないとか。
「どうせやるなら、繁盛させたいですね」
もちろんレオンだけが接客するわけではない。火椎も自分の調理が一段落すると、接客を手伝いはじめる。
そうやって火椎が出てきた所で交代するようにレオンが下がった。別にサボっているわけでは無い。汚れたところを見つけたんでさっと掃除。
「汚い所で食事をしようとは思わないでしょうからね」
レオンのその心遣いで、ブースの中は最後まで清潔に保たれていた。
「リアルブルーの料理、カキアゲドンでーす!」
ブース前では今度は茜が呼び込みを行っていた。美味しい料理に足を止めたのか、それとも茜の制服姿に足が止まったのか。
「取れたて野菜を、揚げたてサクサクのテンプラに、どうぞ食べてみてくださーい!」
その茜の声に何人かがブース内に入っていく。そうやって多くの客が来たことで、予想より早く野菜が無くなってしまった。急いで追加の野菜が運び込まれる。
それをレオンは受け取り、大切に各人へと配っていった。食材は農家が手間暇かけて、子供のようにかわいがって作ったもの。だから敬意を払う意味でも、雑に扱うことは避ける。それがレオンの考えだ。
一方ミオは、カレーを食べ終わった客にお土産を販売していた。カレーを作るのに使った野菜にスパイスを、盛りつけたどんぶりと一緒に販売するものだ。これを持って帰れば家でも同じ味が食べられる。そういう算段だ。見れば他のどんぶりの材料セットも販売している。
「レトルトでないカレーも是非、支給していただきたいですし」
そう思いながらミオは販売していた。
その頃レオンは子供の手を引いていた。これだけの人が集まる村長祭となると、迷子の子供も現れる。そんな子供に飴をあげてなだめ、世話係のものへ連れて行く。すぐに親が現れ、ぺこぺこと頭を下げた後に客として店舗へ来てくれた。将来の客にも接客。知らない間にレオンは商売の極意を体得していたようだ。
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昼時が終わると随分と客が減った。今回はあくまで村長祭ツアーがメインである。そこでモアは早めに店じまいにすることにした。終われば参加者には自由時間である。
「美味しいものを食べるときって、楽しいですね」
そこで、ミオは他のどんぶりを試食することにした。かき揚げ丼や野菜丼を頬張り、笑顔で幸せをかみしめていた。
「俺も食べたいー!!」
そこに葵が入ってくる。結果少し遅いランチが始まり、その後各々存分に村長祭を楽しんだようだ。
●
夜、参加者達が帰宅の途についた頃、モアはまだ一人ジェオルジにいた。彼女にとっての本番はここから、この期に集まった村長に商談を行うのだ。そんなモアの小脇には、皆が作ってくれたどんぶりが抱えられていた。
「あんなに沢山の人に、美味いっていってもらったんです。だから、モアさんも商談自信もって行ってきてください」
別れ際、火椎の言葉がモアの胸に残っていた。美味しい料理で村長の心の壁を溶かす――その目論見は上手くいったのか。モアは教えてはくれなかったが、彼女の顔はほんの少し、笑顔だったように見えたと言う。
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【相談】モアどんぶりを作ろう ミオレスカ(ka3496) エルフ|18才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/06/13 13:38:05 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/13 12:24:30 |