ゲスト
(ka0000)
【東征】静かなる食料輸送
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/19 15:00
- 完成日
- 2015/06/25 19:33
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
意を決して不安定に揺らぐ転移門を抜けるとそこは天ノ都。ハンター一行は受けた依頼を遂行すべく方々へと走り回った。
必要なのは兵達の胃袋を満たす大量の食料と輸送用の荷馬車である。
苦労しつつも荷馬車三両を借り受けることができた。用意できた兵糧をこれでもかと載せていく。三両の荷台は米俵に芋類や塩漬け肉が入った木箱、更に味噌樽で山ができあがる。
荷馬車を牽く馬については、ハンターが連れてきた愛馬とこちらで借りた両方に頑張ってもらう。
東方軍が奪還した町跡までの道のりは非常に険しい。高低差もあって荷馬車だと急いでも天ノ都から一日半かかる。至る道が記された地図はリゼリオ出発以前に受け取っていた。
町跡の拠点を守り通しているのはドワーフ中心で編成された隊。異名は『髭の荒くれ隊』という。
天ノ都から踏みだせばそこは結界の外。
少ない人数で無事食料を運び込むためには歪虚と接触しないのが一番である。危険を排除するためにできるだけ戦闘を避けて進まなければならない。
早朝の天ノ都に馬の嘶きが響く。まもなく荷馬車の一団が動きだす。
運が良ければ何事もなく拠点の町跡まで辿り着けるかも知れない。ハンター一行が乗り込んだ荷馬車の一団は朝日を浴びながら出立するのだった。
必要なのは兵達の胃袋を満たす大量の食料と輸送用の荷馬車である。
苦労しつつも荷馬車三両を借り受けることができた。用意できた兵糧をこれでもかと載せていく。三両の荷台は米俵に芋類や塩漬け肉が入った木箱、更に味噌樽で山ができあがる。
荷馬車を牽く馬については、ハンターが連れてきた愛馬とこちらで借りた両方に頑張ってもらう。
東方軍が奪還した町跡までの道のりは非常に険しい。高低差もあって荷馬車だと急いでも天ノ都から一日半かかる。至る道が記された地図はリゼリオ出発以前に受け取っていた。
町跡の拠点を守り通しているのはドワーフ中心で編成された隊。異名は『髭の荒くれ隊』という。
天ノ都から踏みだせばそこは結界の外。
少ない人数で無事食料を運び込むためには歪虚と接触しないのが一番である。危険を排除するためにできるだけ戦闘を避けて進まなければならない。
早朝の天ノ都に馬の嘶きが響く。まもなく荷馬車の一団が動きだす。
運が良ければ何事もなく拠点の町跡まで辿り着けるかも知れない。ハンター一行が乗り込んだ荷馬車の一団は朝日を浴びながら出立するのだった。
リプレイ本文
●
「じゃいきますかね。はいやっ!」
御者台のトマーゾ・ヴェント(ka3781)が手綱をしならせて荷馬車・壱を走らせる。続いて佐藤 絢音(ka0552)の荷馬車・弐が動きだした。
「チハたん、がんばるの。ドワーフのおひげふわふわの人たちに、ごはんを届けるの」
チハたんとは荷馬車・弐の先頭に繋がれた彼女の愛馬である。他の馬達を従えて乱れぬ動きで荷馬車を牽いてくれた。
最後に動いた荷馬車・参を操っていたのは蒲公英(ka3795)。愛馬で併走する兄のルピナス(ka0179)と言葉を交わす。
「トランシーバーの具合はどうですか?」
「快調だよ。問題は見透しが悪くなってからだけど、どうなるかな?」
ルピナスは蒲公英と話しながら双眼鏡で遠方を望む。天ノ都を出発したばかりで今はまだ平坦な土地だが、地図が正しければすぐにそうではなくなる。
重装馬を駆るエティ・メルヴィル(ka3732)は列の最後尾で殿を務めていた。
「腹が減っては何とやら……だもんね」
「そうそう。腹が減っててはどうしようもないからね」
エティが後方に下がってきたルピナスに声をかけながら天を指さす。高空を飛翔しているイヌワシはエティの愛鳥だ。
「異変が在ったら、旋回して教えてくれるんだっ☆」
「それは頼もしいな」
笑顔のエティがイヌワシに手を振ってみせる。
荷馬車隊に先行して駆けていたのは斥候のセシル・ディフィール(ka4073)だ。
不安を感じたときにはトランシーバーで後方の仲間に停車待機を指示。安全を確認してから再発車してもらう。セシルだけでなく騎乗護衛の仲間全員がこのような役割を担った。
「イグニィも普通だし、大丈夫のようね」
セシルも連れてきたイヌワシに上空から地上を監視してもらった。
(さて、無事にたどり着けるかね?)
隊の左翼で騎乗併走していたリック・オルコット(ka4663)は双眼鏡を取りだす。
奇襲する側にとって森林などの深い茂みは絶好の隠れ場所だ。不審な点を見逃さぬようにして目を光らせる。
「オルコット様、そちらの様子は如何ですか?」
『大丈夫さね。ロシャーデはどうだい?』
右翼で警戒していた騎乗のロシャーデ・ルーク(ka4752)はトランシーバーでリックとやり取りをした。彼女にとってリックは文字通りの主である。
天ノ都を出発して一時間も経たないうちに丘向こうで集団を発見。一瞬緊張に包まれたが帰還途中の東方軍だとわかって一同がほっと胸をなで下ろす。
「これから先は危険だ。雑魔がどこにいても不思議ではないから気をつけるようにな。上位の歪虚と戦うぐらいの覚悟を持っていた方がよい。ご武運を」
軍の隊長がいくらかの情報を教えてくれる。礼をいって走りだす荷馬車一行であった。
●
荷馬車一行は見晴らしのよい場所で停まって昼食をとる。ゆっくりとしている余裕はないので食べたのは握り飯と水のみ。十数分ですぐに再出発した。
それから三十分後、雑魔を発見する。
イヌワシ二羽がそれぞれの主人に報せることでわかった。セシルとルピナスが状況を把握するために斥候にでる。
道沿いの斜面で屯していたのは狼の雑魔だった。ざっと十体以上はいる。鼻が利くかも知れず、本来の経路から外れて大きく迂回する道を選択した。
「こちらの道なら風下ですから大丈夫ですわね」
「もう少し、護衛の人数が多ければなー」
ロシャーデとリックは他にも敵が潜んでいないか用心深く眼をこらす。時に馬を停めて双眼鏡でじっくりと景色を観察する。
青空で小鳥が羽ばたき、野の花には蝶が舞っていた。
反面、かつて人が住んでいた土地には悲壮さが残っている。倒壊寸前の腐りかけた家屋が立ち並ぶ。地面に転がる赤茶けた塊は農機具の鉄部分であろう。
遠回りにはなったものの、狼雑魔の群れに気づかれずに済んだ。まだ太陽は高かったが、予定していた道に戻りながら野営地を探す。
「ちょっと聞いてほしいの」
「絢音ちゃん、どうかしたっ?」
御者台の佐藤絢音が騎乗のエティに声をかける。
「何かみえたの」
木々が生い茂る小高い土地を佐藤絢音が指さす。エティが愛馬で近づいて確かめたところ、うち捨てられた寺院が建っていた。雑草で隠れていた坂道も探し当てる。
坂道を上った先の平地に寺院があった。
「屋根があるのはいいな。馬たちも充分に休めるし」
荷馬車・壱から下りたトマーゾにパルムが頷く。全員で隈無く調べて安全の確信を得た。
「見晴らしもよいですし、佐藤氏が見つけたここで野営はどうかしら?」
ロシャーデの挙手に合わせて、全員賛成で野営地が決まる。
放置されていた炭俵の中身はまだ使えた。炭火なら煙を気にしないでよいので、ひっそりとしたいときにはとても便利である。簡易な鍋を作り、パンと一緒に食べて空腹を満たした。
就寝時の見張りは二人一組二時間交代で行う。最初に担当したのは蒲公英とルピナスだ。
「においで探し当てる雑魔がいるとすれば、常に風向きには注意するべきです」
「リオって……真面目だよね」
兄弟で日中の斥候内容をおさらいする。ルピナスは渋々といった感じだが、それでも逃げだしたりはしなかった。
次の見張りはセシルとエティの番である。
「うぅ……エティ、眠きないもんっ!!」
「丁度お湯が沸いていますし」
目を擦って身体を揺らしているエティにセシルが紅茶を淹れてくれる。飲み過ぎると今度は眠れなくなるのでほんの一杯だけ。
「お星さま。綺麗……」
セシルとエティは敷地内を軽く巡回した。ランタンは灯していたが遠くから気づかれないように足元だけを照らす。
「あれは……?」
セシルは眼下の平地にいくつかの光点を見つける。まるで人魂のようだ。
「あれも雑魔かなっ?」
「きっとそうだと思いますね」
安心はできないものの、高台のここまで上ってくる気配は感じられなかった。この事実は次の見張り役であるロシャーデとリックに伝えられる。
二人も眼下で漂っている光点を目撃した。
「平地周辺で野営をしていたら接触していたかも知れませんわ」
「だろうなー。何事もなくいくのが一番さね」
二人は緊張のまま見張りの時間を過ごす。人魂もどきが寺院跡に近づく素振りを見せたのならすぐに仲間を起こすつもりでいた。
最後の見張りは佐藤絢音とトマーゾだ。
「なんかいなくなったぞ?」
「どこにもいないの」
トマーゾが眼を凝らす。佐藤絢音は茂みの前で懸命に背伸びして眼下を眺める。夜明け前に人魂もどきは消えてしまう。空が白んできて全員起床の時間となった。
「温かい食べ物はおいしいの」
「俺達も腹ぺこじゃ動けないしな!」
佐藤絢音とトマーゾが作った干飯と味噌を使ったおじやを朝食として頂いた。馬達も庭跡に生えてきた草を存分に食べている。
昨日の移動は早めに切り上げたので、本日は頑張らなくてはならない。髭の荒くれ隊が待つ拠点目指して荷馬車一行は再び走りだした。
●
周辺の丘陵地は標高を除けばまるで山岳部のように感じられた。
切り立った崖に沿って荷馬車一行が駆けていく。襲われたのなら逃げ道がない状態が続いたものの、前もっての斥候が意味を成す。
「私に任せて頂けるかしら」
ロシャーデが狼の雑魔との間合いを詰めてサーベルを振るう。一体目は不意をついて斬り捨てる。二体目には牙を剥かれたが、背後にうまく回り込むことで難なく仕留めた。
セシルのファイアアローが細道を塞いでいた熊雑魔の右足に命中。障害物は足を滑らせて斜面を転がり落ちていく。
「ふぅ。これで前に進めますね」
午前中に覚醒して戦ったのはセシルとロシャーデのみ。
昼食をとらずに拠点まで一気に向かうことが決まる。ひたすらに荒れ地を駆けた。ただ貨物の多さと悪路のせいで速く走ることは叶わない。
午後二時頃、リックが地図で現在位置を再確認する。今の速さを維持できれば髭の荒くれ隊が守る町跡の拠点まで一時間を切った。
希望が見えたとき、行く手を阻む障害が現れる。烏雑魔の群れに荷馬車が襲われたのである。
「ロシャーデ、馬を頼んださねー!」
リックは佐藤絢音が御者を務める荷馬車・弐の荷台へと飛び移った。集ろうとする烏雑魔を愛剣で叩き落とす。上空から迫る鋭い嘴にはデリンジャーの銃口を向ける。
「た、たいへんなの。アルコルはどこに……あったの!」
御者台の佐藤絢音は輝きのシルエットをまとって幼き姿から少女へと変身を遂げた。試作型魔導銃を手に取り、烏雑魔の群れに向けて銃爪を絞る。
荷馬車の壱と参も襲われていた。
「先頭の車両は俺に任せてくれよ」
ルピナスがチャクラムを広角投射して荷馬車・壱に迫る烏雑魔を払う。
「こういうのは頂けませんね」
蒲公英は荷馬車・参を幅寄せさせて取りつこうとした狐雑魔を弾きとばす。狐雑魔は地面を跳ねながら土煙と一緒に後方へと消えていった。
「パルムは左側を見ててくれ。物資はやらせられないんでね。死守だぜ!」
髪を赤く変えたトマーゾは御者台で立ち上がって小太刀を抜く。しばらく直線のタイミングで刃を舞わせて烏雑魔を両断する。
「食料は渡さないからね!!」
最後尾のエティは荷馬車・参に集ろうとする烏雑魔をオートマチック拳銃で撃ち落とす。
そうこうするうちに茂みの向こうで併走している狐雑魔に気づいた。参の車輪に跳びかかる瞬間を撃ち抜いて事なきを得る。
「ここをお願いします」
「状況を観察して仲間に声かけしますわ」
セシルはロシャーデに話しかけてから全速力で愛馬を走らせる。
数分後、拠点らしき町跡が視界に入った。敵意がないことを示すために、片手を大きく振って大声をだしながら敷地内へと飛び込んだ。
「何だ、おめぇは?!」
「兵糧を持ってきました! もうすぐ一団が見えるように……あれです! 今、雑魔に襲われています!」
セシルは目が合ったドワーフ兵に事情を話す。するとすぐに対応してくれた。列になったドワーフ兵が一斉に矢を放つ。まもなく上空の烏雑魔の群れが四散していく。
すべてが欠けることなく無事に拠点へ到達したのだった。
●
「てめぇら、よく来てくれたなぁ!」
他のドワーフ兵よりも一回り大きなドワーフがハンター一行の前に現れる。
「俺が隊長だ。よろしくな。んで、荷は全部もらっちまっていいんだな?」
異名の髭の荒くれ隊に相応しく隊長も立派な髭を蓄えていた。口元から胸元までが髭に覆われている。
「そ、そのつもりだけど、ちょっと待って欲しいんだもん」
兎のぬいぐるみを抱きしめながらエティが隊長を見上げる。
「十日ぐれぇ野菜煮込みばっかりでな。みんな米や肉が恋しくてよ。ほらあの姿を見てくれ」
隊長が振り向いた先にはたくさんの兵が立っていた。羨望の眼差しで荷馬車の荷を見つめている。
「ちょいと俺達に料理を振る舞わせてくれ。それだけの話だ」
「そういうことか!」
トマーゾと隊長が笑いながら互いに背中をバンバンと叩き合う。
「うんしょっ」
「ほら、任せろ」
佐藤絢音が運ぼうとした大鍋を兵が代わりに持ち上げる。
「井戸はありますか?」
「小川が流れているんだ」
セシルがしようとした水汲みも兵達が手伝ってくれた。
「こちらが塩漬け肉ですわ」
「味噌樽は向こうにあるさね」
荷馬車の荷台に乗ったロシャーデとリックが兵達に積み荷を渡していく。仲間が使う食材は優先して運んでもらう。
「これだけでは身体が持ちませんね」
「うまそうな芋でもこればっかりじゃな」
蒲公英とルピナスは自生の野菜を手に入れる。綺麗に洗って調理が行われている小屋へと運び込んだ。
「お味噌と豚肉があるなら作るものは一つしか無いの。豚汁、なの」
佐藤絢音が豚汁の作り方を仲間達に教えていく。
「肉といったら焼かないとな。キャベツは付け合わせに使おうか!」
トマーゾは仲間に手伝って炊飯の準備を済ませる。それから野外に鉄板を用意した。
皮剥きは慣れないと難しいが、単に切ったり水にさらす程度の調理作業は不慣れな者でもできる。
「ルピナス兄さん、今もしかして?」
「ん? どうかしたのかな?」
ルピナスが炙った肉片をぺろりとつまみ食い。蒲公英に注意されたが笑って誤魔化して食器運びを手伝う。
「豚汁って肉とか野菜をぶち込めばできにんじゃないんだな。こんなにやることがあるたぁ知らなかったぜ」
佐藤絢音の調理作業をしばらく眺めていた隊長が声をかける。
「出汁もしっかり取らないとダメなの。お野菜から煮るのよ、あやねのママが言ってたの」
「母ちゃんに教えてもらったのか」
「あやねのぱぱとままは居なくなっちゃったけど、教えてくれたことはちゃんと生きてるの。でも、やっぱりさびしいの」
佐藤絢音が一瞬項垂れてから隊長を仰ぎ見る。瞳は涙で滲んでいたが笑顔だった。
「ドワーフのおひげ隊の人も死ぬのはダメなの、守るのも大事だけど場所は取り返せるの。でも人は生き返らないの。最後まで諦めないのが大事なのよ」
「……ありがとうよ」
隊長が佐藤絢音に背中を向ける。返す言葉には嗚咽が混じっていた。
エティとセシルはトマーゾに教えてもらった通りに炊飯の釜を見守る。
「そろそろ蒸らしの時間ですかね」
「美味しそうなにおいがするねっ」
釜の近くにいたのはエティとセシルだけではない。窓外にはびっしりと兵達の姿があった。蒸らし終わって釜の蓋を外すと、蒸気と一緒に炊きたて御飯のにおいが漂う。
まもなく料理の配膳が始まった。
「こちらに沿って一列に並んで下さい」
「荒くれさんたちはお疲れさま!」
ルピナスと蒲公英は豚汁や御飯を椀によそっていく。それらを並んだ兵達が受け取っていった。
「肉はまだまだあるからな! よし食いまくれ野郎ども!」
トマーゾは野外に用意した鉄板で肉を焼いた。求める兵は引っ切りなし。リックとロシャーデが手伝ってくれる。
ここでとっておきの酒樽が開けられた。一人一杯ずつだが全員に振る舞われる。量が少ないのは、ここが死と隣り合わせの戦場だからだ。
「今だけでも、一時の休息をとって下さいね」
「おー、ありがとうよ。お前さんたちも疲れているだろうによ」
セシルは隊長に酌をする。兵への配膳が終わってハンター一行も料理を頂く。
「飯食って騒ぐのが一番楽しいな」
トマーゾがトンテキをぺろり。焼いている間、食べたくて仕方なかったようだ。
「とってもおいしいっ♪」
「よかったの」
エティと佐藤絢音が並んで豚汁を味わう。満足な出来の豚汁を食べてもらえて佐藤絢音は終始笑顔である。
「それでは一つ」
立ち上がったルピナスが歌を披露。兵達による合いの手が入り、締めは拍手で盛り上がった。
●
帰路の途中まで髭の荒くれ隊の十五名が送ってくれる。往路と同じく寺院跡での野営では何事も起こらなかった。
雑魔と遭遇したものの、帰りは身軽なので対処もしやすい。ハンターによる荷馬車一行は帰路二日目の宵の口までに無事天ノ都へ辿り着いたのだった。
「じゃいきますかね。はいやっ!」
御者台のトマーゾ・ヴェント(ka3781)が手綱をしならせて荷馬車・壱を走らせる。続いて佐藤 絢音(ka0552)の荷馬車・弐が動きだした。
「チハたん、がんばるの。ドワーフのおひげふわふわの人たちに、ごはんを届けるの」
チハたんとは荷馬車・弐の先頭に繋がれた彼女の愛馬である。他の馬達を従えて乱れぬ動きで荷馬車を牽いてくれた。
最後に動いた荷馬車・参を操っていたのは蒲公英(ka3795)。愛馬で併走する兄のルピナス(ka0179)と言葉を交わす。
「トランシーバーの具合はどうですか?」
「快調だよ。問題は見透しが悪くなってからだけど、どうなるかな?」
ルピナスは蒲公英と話しながら双眼鏡で遠方を望む。天ノ都を出発したばかりで今はまだ平坦な土地だが、地図が正しければすぐにそうではなくなる。
重装馬を駆るエティ・メルヴィル(ka3732)は列の最後尾で殿を務めていた。
「腹が減っては何とやら……だもんね」
「そうそう。腹が減っててはどうしようもないからね」
エティが後方に下がってきたルピナスに声をかけながら天を指さす。高空を飛翔しているイヌワシはエティの愛鳥だ。
「異変が在ったら、旋回して教えてくれるんだっ☆」
「それは頼もしいな」
笑顔のエティがイヌワシに手を振ってみせる。
荷馬車隊に先行して駆けていたのは斥候のセシル・ディフィール(ka4073)だ。
不安を感じたときにはトランシーバーで後方の仲間に停車待機を指示。安全を確認してから再発車してもらう。セシルだけでなく騎乗護衛の仲間全員がこのような役割を担った。
「イグニィも普通だし、大丈夫のようね」
セシルも連れてきたイヌワシに上空から地上を監視してもらった。
(さて、無事にたどり着けるかね?)
隊の左翼で騎乗併走していたリック・オルコット(ka4663)は双眼鏡を取りだす。
奇襲する側にとって森林などの深い茂みは絶好の隠れ場所だ。不審な点を見逃さぬようにして目を光らせる。
「オルコット様、そちらの様子は如何ですか?」
『大丈夫さね。ロシャーデはどうだい?』
右翼で警戒していた騎乗のロシャーデ・ルーク(ka4752)はトランシーバーでリックとやり取りをした。彼女にとってリックは文字通りの主である。
天ノ都を出発して一時間も経たないうちに丘向こうで集団を発見。一瞬緊張に包まれたが帰還途中の東方軍だとわかって一同がほっと胸をなで下ろす。
「これから先は危険だ。雑魔がどこにいても不思議ではないから気をつけるようにな。上位の歪虚と戦うぐらいの覚悟を持っていた方がよい。ご武運を」
軍の隊長がいくらかの情報を教えてくれる。礼をいって走りだす荷馬車一行であった。
●
荷馬車一行は見晴らしのよい場所で停まって昼食をとる。ゆっくりとしている余裕はないので食べたのは握り飯と水のみ。十数分ですぐに再出発した。
それから三十分後、雑魔を発見する。
イヌワシ二羽がそれぞれの主人に報せることでわかった。セシルとルピナスが状況を把握するために斥候にでる。
道沿いの斜面で屯していたのは狼の雑魔だった。ざっと十体以上はいる。鼻が利くかも知れず、本来の経路から外れて大きく迂回する道を選択した。
「こちらの道なら風下ですから大丈夫ですわね」
「もう少し、護衛の人数が多ければなー」
ロシャーデとリックは他にも敵が潜んでいないか用心深く眼をこらす。時に馬を停めて双眼鏡でじっくりと景色を観察する。
青空で小鳥が羽ばたき、野の花には蝶が舞っていた。
反面、かつて人が住んでいた土地には悲壮さが残っている。倒壊寸前の腐りかけた家屋が立ち並ぶ。地面に転がる赤茶けた塊は農機具の鉄部分であろう。
遠回りにはなったものの、狼雑魔の群れに気づかれずに済んだ。まだ太陽は高かったが、予定していた道に戻りながら野営地を探す。
「ちょっと聞いてほしいの」
「絢音ちゃん、どうかしたっ?」
御者台の佐藤絢音が騎乗のエティに声をかける。
「何かみえたの」
木々が生い茂る小高い土地を佐藤絢音が指さす。エティが愛馬で近づいて確かめたところ、うち捨てられた寺院が建っていた。雑草で隠れていた坂道も探し当てる。
坂道を上った先の平地に寺院があった。
「屋根があるのはいいな。馬たちも充分に休めるし」
荷馬車・壱から下りたトマーゾにパルムが頷く。全員で隈無く調べて安全の確信を得た。
「見晴らしもよいですし、佐藤氏が見つけたここで野営はどうかしら?」
ロシャーデの挙手に合わせて、全員賛成で野営地が決まる。
放置されていた炭俵の中身はまだ使えた。炭火なら煙を気にしないでよいので、ひっそりとしたいときにはとても便利である。簡易な鍋を作り、パンと一緒に食べて空腹を満たした。
就寝時の見張りは二人一組二時間交代で行う。最初に担当したのは蒲公英とルピナスだ。
「においで探し当てる雑魔がいるとすれば、常に風向きには注意するべきです」
「リオって……真面目だよね」
兄弟で日中の斥候内容をおさらいする。ルピナスは渋々といった感じだが、それでも逃げだしたりはしなかった。
次の見張りはセシルとエティの番である。
「うぅ……エティ、眠きないもんっ!!」
「丁度お湯が沸いていますし」
目を擦って身体を揺らしているエティにセシルが紅茶を淹れてくれる。飲み過ぎると今度は眠れなくなるのでほんの一杯だけ。
「お星さま。綺麗……」
セシルとエティは敷地内を軽く巡回した。ランタンは灯していたが遠くから気づかれないように足元だけを照らす。
「あれは……?」
セシルは眼下の平地にいくつかの光点を見つける。まるで人魂のようだ。
「あれも雑魔かなっ?」
「きっとそうだと思いますね」
安心はできないものの、高台のここまで上ってくる気配は感じられなかった。この事実は次の見張り役であるロシャーデとリックに伝えられる。
二人も眼下で漂っている光点を目撃した。
「平地周辺で野営をしていたら接触していたかも知れませんわ」
「だろうなー。何事もなくいくのが一番さね」
二人は緊張のまま見張りの時間を過ごす。人魂もどきが寺院跡に近づく素振りを見せたのならすぐに仲間を起こすつもりでいた。
最後の見張りは佐藤絢音とトマーゾだ。
「なんかいなくなったぞ?」
「どこにもいないの」
トマーゾが眼を凝らす。佐藤絢音は茂みの前で懸命に背伸びして眼下を眺める。夜明け前に人魂もどきは消えてしまう。空が白んできて全員起床の時間となった。
「温かい食べ物はおいしいの」
「俺達も腹ぺこじゃ動けないしな!」
佐藤絢音とトマーゾが作った干飯と味噌を使ったおじやを朝食として頂いた。馬達も庭跡に生えてきた草を存分に食べている。
昨日の移動は早めに切り上げたので、本日は頑張らなくてはならない。髭の荒くれ隊が待つ拠点目指して荷馬車一行は再び走りだした。
●
周辺の丘陵地は標高を除けばまるで山岳部のように感じられた。
切り立った崖に沿って荷馬車一行が駆けていく。襲われたのなら逃げ道がない状態が続いたものの、前もっての斥候が意味を成す。
「私に任せて頂けるかしら」
ロシャーデが狼の雑魔との間合いを詰めてサーベルを振るう。一体目は不意をついて斬り捨てる。二体目には牙を剥かれたが、背後にうまく回り込むことで難なく仕留めた。
セシルのファイアアローが細道を塞いでいた熊雑魔の右足に命中。障害物は足を滑らせて斜面を転がり落ちていく。
「ふぅ。これで前に進めますね」
午前中に覚醒して戦ったのはセシルとロシャーデのみ。
昼食をとらずに拠点まで一気に向かうことが決まる。ひたすらに荒れ地を駆けた。ただ貨物の多さと悪路のせいで速く走ることは叶わない。
午後二時頃、リックが地図で現在位置を再確認する。今の速さを維持できれば髭の荒くれ隊が守る町跡の拠点まで一時間を切った。
希望が見えたとき、行く手を阻む障害が現れる。烏雑魔の群れに荷馬車が襲われたのである。
「ロシャーデ、馬を頼んださねー!」
リックは佐藤絢音が御者を務める荷馬車・弐の荷台へと飛び移った。集ろうとする烏雑魔を愛剣で叩き落とす。上空から迫る鋭い嘴にはデリンジャーの銃口を向ける。
「た、たいへんなの。アルコルはどこに……あったの!」
御者台の佐藤絢音は輝きのシルエットをまとって幼き姿から少女へと変身を遂げた。試作型魔導銃を手に取り、烏雑魔の群れに向けて銃爪を絞る。
荷馬車の壱と参も襲われていた。
「先頭の車両は俺に任せてくれよ」
ルピナスがチャクラムを広角投射して荷馬車・壱に迫る烏雑魔を払う。
「こういうのは頂けませんね」
蒲公英は荷馬車・参を幅寄せさせて取りつこうとした狐雑魔を弾きとばす。狐雑魔は地面を跳ねながら土煙と一緒に後方へと消えていった。
「パルムは左側を見ててくれ。物資はやらせられないんでね。死守だぜ!」
髪を赤く変えたトマーゾは御者台で立ち上がって小太刀を抜く。しばらく直線のタイミングで刃を舞わせて烏雑魔を両断する。
「食料は渡さないからね!!」
最後尾のエティは荷馬車・参に集ろうとする烏雑魔をオートマチック拳銃で撃ち落とす。
そうこうするうちに茂みの向こうで併走している狐雑魔に気づいた。参の車輪に跳びかかる瞬間を撃ち抜いて事なきを得る。
「ここをお願いします」
「状況を観察して仲間に声かけしますわ」
セシルはロシャーデに話しかけてから全速力で愛馬を走らせる。
数分後、拠点らしき町跡が視界に入った。敵意がないことを示すために、片手を大きく振って大声をだしながら敷地内へと飛び込んだ。
「何だ、おめぇは?!」
「兵糧を持ってきました! もうすぐ一団が見えるように……あれです! 今、雑魔に襲われています!」
セシルは目が合ったドワーフ兵に事情を話す。するとすぐに対応してくれた。列になったドワーフ兵が一斉に矢を放つ。まもなく上空の烏雑魔の群れが四散していく。
すべてが欠けることなく無事に拠点へ到達したのだった。
●
「てめぇら、よく来てくれたなぁ!」
他のドワーフ兵よりも一回り大きなドワーフがハンター一行の前に現れる。
「俺が隊長だ。よろしくな。んで、荷は全部もらっちまっていいんだな?」
異名の髭の荒くれ隊に相応しく隊長も立派な髭を蓄えていた。口元から胸元までが髭に覆われている。
「そ、そのつもりだけど、ちょっと待って欲しいんだもん」
兎のぬいぐるみを抱きしめながらエティが隊長を見上げる。
「十日ぐれぇ野菜煮込みばっかりでな。みんな米や肉が恋しくてよ。ほらあの姿を見てくれ」
隊長が振り向いた先にはたくさんの兵が立っていた。羨望の眼差しで荷馬車の荷を見つめている。
「ちょいと俺達に料理を振る舞わせてくれ。それだけの話だ」
「そういうことか!」
トマーゾと隊長が笑いながら互いに背中をバンバンと叩き合う。
「うんしょっ」
「ほら、任せろ」
佐藤絢音が運ぼうとした大鍋を兵が代わりに持ち上げる。
「井戸はありますか?」
「小川が流れているんだ」
セシルがしようとした水汲みも兵達が手伝ってくれた。
「こちらが塩漬け肉ですわ」
「味噌樽は向こうにあるさね」
荷馬車の荷台に乗ったロシャーデとリックが兵達に積み荷を渡していく。仲間が使う食材は優先して運んでもらう。
「これだけでは身体が持ちませんね」
「うまそうな芋でもこればっかりじゃな」
蒲公英とルピナスは自生の野菜を手に入れる。綺麗に洗って調理が行われている小屋へと運び込んだ。
「お味噌と豚肉があるなら作るものは一つしか無いの。豚汁、なの」
佐藤絢音が豚汁の作り方を仲間達に教えていく。
「肉といったら焼かないとな。キャベツは付け合わせに使おうか!」
トマーゾは仲間に手伝って炊飯の準備を済ませる。それから野外に鉄板を用意した。
皮剥きは慣れないと難しいが、単に切ったり水にさらす程度の調理作業は不慣れな者でもできる。
「ルピナス兄さん、今もしかして?」
「ん? どうかしたのかな?」
ルピナスが炙った肉片をぺろりとつまみ食い。蒲公英に注意されたが笑って誤魔化して食器運びを手伝う。
「豚汁って肉とか野菜をぶち込めばできにんじゃないんだな。こんなにやることがあるたぁ知らなかったぜ」
佐藤絢音の調理作業をしばらく眺めていた隊長が声をかける。
「出汁もしっかり取らないとダメなの。お野菜から煮るのよ、あやねのママが言ってたの」
「母ちゃんに教えてもらったのか」
「あやねのぱぱとままは居なくなっちゃったけど、教えてくれたことはちゃんと生きてるの。でも、やっぱりさびしいの」
佐藤絢音が一瞬項垂れてから隊長を仰ぎ見る。瞳は涙で滲んでいたが笑顔だった。
「ドワーフのおひげ隊の人も死ぬのはダメなの、守るのも大事だけど場所は取り返せるの。でも人は生き返らないの。最後まで諦めないのが大事なのよ」
「……ありがとうよ」
隊長が佐藤絢音に背中を向ける。返す言葉には嗚咽が混じっていた。
エティとセシルはトマーゾに教えてもらった通りに炊飯の釜を見守る。
「そろそろ蒸らしの時間ですかね」
「美味しそうなにおいがするねっ」
釜の近くにいたのはエティとセシルだけではない。窓外にはびっしりと兵達の姿があった。蒸らし終わって釜の蓋を外すと、蒸気と一緒に炊きたて御飯のにおいが漂う。
まもなく料理の配膳が始まった。
「こちらに沿って一列に並んで下さい」
「荒くれさんたちはお疲れさま!」
ルピナスと蒲公英は豚汁や御飯を椀によそっていく。それらを並んだ兵達が受け取っていった。
「肉はまだまだあるからな! よし食いまくれ野郎ども!」
トマーゾは野外に用意した鉄板で肉を焼いた。求める兵は引っ切りなし。リックとロシャーデが手伝ってくれる。
ここでとっておきの酒樽が開けられた。一人一杯ずつだが全員に振る舞われる。量が少ないのは、ここが死と隣り合わせの戦場だからだ。
「今だけでも、一時の休息をとって下さいね」
「おー、ありがとうよ。お前さんたちも疲れているだろうによ」
セシルは隊長に酌をする。兵への配膳が終わってハンター一行も料理を頂く。
「飯食って騒ぐのが一番楽しいな」
トマーゾがトンテキをぺろり。焼いている間、食べたくて仕方なかったようだ。
「とってもおいしいっ♪」
「よかったの」
エティと佐藤絢音が並んで豚汁を味わう。満足な出来の豚汁を食べてもらえて佐藤絢音は終始笑顔である。
「それでは一つ」
立ち上がったルピナスが歌を披露。兵達による合いの手が入り、締めは拍手で盛り上がった。
●
帰路の途中まで髭の荒くれ隊の十五名が送ってくれる。往路と同じく寺院跡での野営では何事も起こらなかった。
雑魔と遭遇したものの、帰りは身軽なので対処もしやすい。ハンターによる荷馬車一行は帰路二日目の宵の口までに無事天ノ都へ辿り着いたのだった。
依頼結果
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依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 リック・オルコット(ka4663) 人間(クリムゾンウェスト)|22才|男性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/06/19 13:22:02 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/18 18:54:58 |