• 東征

【東征】土蜘蛛

マスター:のどか

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/06/22 12:00
完成日
2015/07/03 13:07

みんなの思い出

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オープニング

 ――東方の国、エトファリカ。
 西方とは地続きになる大陸といくつかの島で形成されたその国は、長年の孤立状態から解き放たれ、西方からの新たな風を迎え入れる事となっていた。
 西方からやって来たハンターと呼ばれるモノノフの集団は、転移先に布かれていた憤怒の歪虚の陣を撃退。
 西と東の交流を確立し、共にこの地に住まう妖怪(歪虚)を討ち果たすべくその手を交えようとしていた。
 東方に巣食った歪虚達への反撃の第一手として、支配地域に落とされた龍脈の奪還による結界の磐石化を計る帝・スメラギ。
 その命は、龍脈を操作できる力を持った陰陽寮の巫子――符術師達に、一斉に下されていたのであった。
 
「――明壬殿! どちらにおられるか、明壬殿!」
 その名を呼びながら、陰陽寮の舎屋をどたどたと駆け回る朝廷の使者が1名。
 彼は手当たり次第の部屋の襖をがらりと開け、誰も居ないことを確認すると、小さくため息を吐いてまたどたどたと縁側を駆け回ってゆく。
「全く……このような時に、今度はどちらに行かれたのだ。明壬殿~!」
 そう、ぶつくさと悪態を口にて、使者としての自らの役目を呪いながらも、三度その名を口にする。
 一向に見当たらないその姿を前に、よもやこの屋敷におらぬ事はあるまいと、僅かに嫌な予感も脳裏を駆け巡る。
 しかし、ふと立ち止まったその時に、屋敷の塀ごしに外から聞こえた子供の笑い声を耳にして、使者はより大きなため息を吐いて、声のした方向へと駆けて行くのであった。
 塀の外では、地面に胡坐をかいた一人の男が、数人の子供らに囲まれてやいやいと騒いでいる姿が目に入った。
「ほ~れほれほれ、ほ~れほれ。面白いじゃろう」
 男は、そう赤子をあやすかのような口調とおどけた表情で空中に指先を滑らせると、それに合わせて人型の紙がふわふわと宙を舞う。
 踊るようにゆらゆら、時に宙返りをし、時に子供の頭に乗ってみせ……その度に、子供達はきゃっきゃと嬉しそうな声を上げて、男もまた顔を綻ばせる。
「明壬殿……探しましたぞ!」
 男――汀田明壬のもとに辿り着いた使者の男は、奇異な目で見上げる子供達の視線を他所に、深呼吸をして上がった息を整えながら、その肩に手を置く。
「どうした、今日は随分と精が出るではないか」
 その様子を前に、視線も触れず、肩越しにそう答える明壬。
「誰のおかげだと思っているのです。明壬殿、帝の命でございます」
 言いながら、彼の前に突き出す書状。
「ワシは今、子供らの相手で忙しい。見て分からぬか」
 明壬は書状にすら見向きもせず、ダダを捏ねるようにそう口にすると、相変わらず「ほ~れほれ」と子供相手に符術遊びに没頭する。
「どうせワシの所に来る命じゃ。面倒なことこの上ない」
「帝の結界の力を強めるため、土蜘蛛巣食う城を奪い返し、眠る龍脈を再起動する命でございます」
「聞きとう無い。帰れ」
「明壬殿~」
 この男、明壬。
 こうして使者の知らせを無下にする事の多い男として知られ、いつもこうして何事か別の用事があるように語り、のらりくらりと仕事を断る。
 もちろん、その全てを断る訳ではないのだが……なんというか、気まぐれが過ぎる男であった。
 そんあ相変わらずの様子に、使者も泣きつく様子で彼の名前を呼んだが、それ以上明壬が彼に言葉を返す事は無かった。
 そんな状態に使者は頭をわしゃわしゃと掻き毟ると、困り果てたように口を開く。
「既に、護衛に西方のモノノフ方の約も取り付けているというのに……なんと申し開きをすれば」
 使者がそう口にした時……明壬の耳が、ピクリと小さく揺れ動いた。
「そなた、今なんと申した?」
 子供をあやす指を止め、しかし振り返りはせずに肩越しに問いかける明壬。
「はぁ……『なんと申し開きをすればよいのか』と申しました」
「違う、その前だ」
 諌めるかのように強い口調で語る彼を前に、使者はなんともめんどくさそうにぶつくさと口を開く。
「既に、護衛に西方のモノノフ方の約も取り付けております。だから、たまには私の顔も立ててくだされ」
「――よかろう、参ろうか」
 その言葉を聞いて、明壬はくるりとターンをかましながら使者の方へ向かって立ち上がる。
「それは、まことですか!?」
「ワシに二言は無い。すまぬな、わらし達よ。この続きはまた今度じゃ」
 目を見開いて驚く使者を他所に、彼はそう言って身近な子供の頭をわしわしと撫でてやると、子供達は名残惜しそうな表情を浮かべながらも「ばいばい、みょーじん」と手を振って家路に付いてゆく。
「ほれ、参るぞ。時間が惜しい。早く護衛の者達に引き合わせろ」
 そう、急くように歩き出す明壬に、慌ててその後を追う使者。
 彼の死角となって見えぬ眼前の符術師の表情は、それはもう好奇心に満ちた瞳で、鼻の穴も大きく広げていたと言う。
「西のモノノフ達か……面白いものが、見れそうじゃ」
 言いながら明壬は、にんまりとした子供っぽい笑みを浮かべていたのだった。

リプレイ本文

●符術師明壬
 その城は、高く険しい東方の山岳部に存在していた。
 地に流れる龍脈を御し、護るために立てられた建造物は歪虚の支配地域に渡りはや十数年。
 今や廃墟と貸した姿を、ハンター達の目に晒していた。
「これは……かなり老朽化が進んでいますね」
 話には聞いていたが、現物を目の当たりにして神薙 綾女(ka0944)がしみじみと口走る。
「城なのに全部木で出来てるワケ? これ、篭城戦とか大丈夫なの……?」
 レベッカ・アマデーオ(ka1963)の言葉は石造りの城に見慣れた彼らにとっては当然の感想。
 西の世界の人間から見れば、その姿は何とも異質に見えた事だろう。
「石で作ろうが木で作ろうが綿で作ろうが、モノノケどもの前では大した差ではなかろう!」
「いや、突き詰めちゃえばそうだけどさ」
 わっははと豪快に笑う同行人・汀田明壬を尻目に、何とも言いがたい表情を浮かべるレベッカ。
「……東方は独自の文化が根強いとは聞いてましたけど。なるほど、独特ですねぇ」
 そんな彼の姿と、目の前の城とを見比べながら、どこか興味深げに呟くメリエ・フリョーシカ(ka1991)に、オイゲーニエ・N・マラボワ(ka2304)は瞳を輝かせて大きく頷く。
「うむ。不思議な形じゃが、美しいのう……元の姿に直されれば、どれだけ素晴らしいものになろうか!」
 その姿を拝む事ができるかどうかは、ハンター達の手に掛かっている。

 既に外れかかった戸口に手を掛け、慎重に城内へと侵入する。
 隊列は前衛と後衛――殿に近接職を配し、中央に明壬。
 その直衛として2名のハンターが就く輪形陣。
「いや、ひどい荒れようですね……私の知り合いの部屋より酷い」
 甲冑の隙間から僅かに瞳を光らせ、ジーク・ヴュラード(ka3589)はまじまじと城の様子を見渡した。
 壁は穴が開き放題、畳はささくれ放題。
 ゴミ屋敷でもまだまともに見えるくらいの有様だ。
「それで、上階への道はどう繋がっていますか?」
 薄暗い城内で自らの片手にライトの灯りを灯し、傍らの明壬に地図を預ける神代 誠一(ka2086)。
「中央から階段があるようじゃな……して、それはどういうカラクリになっておるのだ?」
 酸化した地図を読むのもそこそこに、誠一の持つライトの方に興味深々の明壬。
 それに対し、誠一はまるで子供にでも語って聞かせるかのようにライトの仕組みを説明しては、明壬がうんうんと感心して頷く。
「ところでさ、龍脈って結局なんなのかな?」
 前衛の位置取りで目の前に広がる和風建築を楽しげに眺めながら、アリア(ka2394)は好奇心に満ちた表情で尋ねる。
「一言で言えば、大きな力の泉のようなものよ。その力を使って都を中心に大規模な結界を張り、この東方の地はモノノケ共の支配地域のど真ん中にありながら最低限の生活を保っておる」
 言いながら、明壬は城の天井と地面とを交互に指で指し示す。
「その池から水を汲み出す『つるべ』がこの城。桶を吊るした縄を引くのがわしら符術師であり、その最たる者が帝である。帝は四六時中、結界の維持をしておられるのだ」
 狂言のように芝居がかった動きで水をくみ上げる様子を表しながら、わしなら絶対にやりたくは無いがな、と最後に付け加えて再びわっははと笑う明壬。
「OK。それなら任せといて! 祭壇まで手をわずらせたりしないんだからね!」
 その話を聞いて何となく理解も得たのか、アリアは彼に視線を投げかけながらどんと自分の胸を叩いて見せた。
「シッ……騒ぐな、何か居るぞ」
 そんな道中、キャリコ・ビューイ(ka5044)が口元に指を当てて、もう片方の手で他のハンター達を制する。
「――そこか」
 抜き放つリボルバーの轟音が城に響く。
 風化した襖が銃弾に打ち貫かれ四散。
 その先に、ぎょろりとした目を見張る人型の存在。
 餓鬼――この地では妖怪と呼ばれる憤怒の雑魔だ。
「……敵は一体では無いようですね」
 音に釣られたのか、いつの間にかハンター達の周囲は、十数体の餓鬼に取り囲まれていた。
「すぐに楽にして差し上げます」
 言いながらジークは腰に提げた振動刀を抜き放つと、一心に餓鬼の群れへと切りかかる。
「同感です。雑魚は散れッ!」
「そなたらの相手は妾じゃ!」
 メリエの太刀が大振りから唸りを上げると共に、地面を抉る強烈な踏み込みで駆けるオイゲーニエの小さな体。
 閃く2本の刃は、それぞれ別の餓鬼の身体に突き立った。
「んむ……こやつら!」
 大剣を振りぬいた手ごたえに、オイゲーニエが僅かに目を見開く。
 叩ききったつもりの刃は、確かに餓鬼の体に袈裟の傷を付けていた。
 しかし餓鬼はその歩みを止める事無く、彼女の体に掴みかかろうと手を伸ばす。
「気をつけてください、この敵……しぶといです!」
 オイゲーニエに迫る歪虚を、壁を足場にして頭上から迫る綾女の刃が切り裂いた。
 2度の攻撃に流石に餓鬼も足元をふらつかせるも、その牙の生えた顎を大きく広げて見せる。
「ほほほ、それ右じゃ! おっと、今度は左じゃ!」
「手を出さないのは別にいいけどさ、死にたく無かったらこっちの指示は聞いてよね!」
 ひょいひょい飛び上がりながら口を挟む明壬に、肩越しに一喝するレベッカ。
 吼える銃弾が、飛び掛った餓鬼の脳天を貫き、ようやく1匹を仕留める。
 しぶといながらも、動きが単調でそれほど攻撃に威力も無い餓鬼に次第に慣れ始めてくるハンター達。
 想定よりも多少時間を掛けながらでもあったが、何とか1階層を突破する事ができたのであった。

●土蜘蛛の巣
 2階層に到達したハンター達の目に飛び込んで来たのは、ところどころに張り渡った白い糸。
「……邪魔な糸だな」
 太く粘着性のその糸をナイフで切り裂きながらキャリコが周囲を見渡す。
「これだけ古いと足場も脆くなってるかもしれないね。慎重に進もう」
 ギシギシと音を立てて沈む足場に僅かに不安を覚えながらも、アリアの掛け声に勇気を出して一歩一歩足を進めるのである。
 暫く行くと、足元に大きな穴。このままでは先に進めそうに無い。
「先行して縄を張るから、ちょっと待ってて」
 そう言って、慣れた足取りで穴の縁の僅かな足場を渡ってゆくレベッカ。
 伊達に人生の半分を船の上で過ごしては居ない。
 これくらいの軽業はお手の物である。
「即席じゃこれが限界だけど、渡れるようになってるはずだよ」
 対岸の柱にロープの先を括り、穴に渡す。
 それを手摺にして、危なげながらも何とか穴をやり越した。
「皆さん、無事に渡れましたね」
 一難去って一息つく綾女……が、その視線がふと何かに気づく。
「……明壬さんは?」
 不意にくるりと周りを見渡しても、その姿が見当たらない。
「何をしておる、休んでる暇は無いぞ!」
 まさか――と、危機感も脳裏に浮かんだが、この先の階段で声を張り上げる明壬と苦笑しながらそれを追いかける誠一の姿を見て、一同大きなため息を吐いたのは言うまでも無い。
 
 先に階段を上っていってしまった同行者を慌てて追った3階層。
 到着した瞬間に、明壬と先行する事になってしまった誠一の声が城に響き渡っていた。
「皆さん、気をつけて!」
 そう注意を促すや否や、ハンター達の頭上から真っ白な紐状の物体が、覆いかぶさるカーテンのように振り掛かったのである。
「これは……蜘蛛の糸ですか!」
 自らの腕と脚に絡みつき、垂れ下がるままに大地に張り付いた太くしなやかな糸をその身に、ジークは吐き捨てるように言い放った。
 逃れようともがけばもがくだけ、糸は余計に絡まり粘着化してゆく。
 そうして糸に巻かれて立ちつくすハンター達の前に、暗がりから土蜘蛛の巨大な身体がのそりと這い出すのであった。
「これはまずいですね……無事な人は急いでみんなの救出を!」
 運よく目測から外れていたメリエが、同じように難を逃れたレベッカ、誠一、綾女へと声を掛ける。
 眼前に現れた巨大な虎蜘蛛を前に、戦力の過半数に加え要の明壬まで囚われては戦闘どころではない。
 救出は、急務である。
「その間は、私がやるしかない……来い、化け物!」
 腹を空かせたようにヨダレを垂らし、喉で低く唸りを上げる土蜘蛛。
 救出の時間を稼ぐため、メリエは単騎、その虎頭の眼前に踊りかかっていた。
「今助けます!」
 糸に巻かれた仲間に駆け寄り、頑丈な糸を刀の切っ先で弾くように切り裂いてゆく綾女。
「この糸……構造としては普通の蜘蛛と同じなのね」
 ダガーで要所要所に切り込みを入れ、糸をばらしながらレベッカはぽつりと呟いていた。
 が、まじまじと観察をしている余裕も無い。
 騒ぎを聞きつけたのか、何処からともなく餓鬼達が群がり始めていたのだ。
「援護するぞ、誠一。その間に、明壬を!」
 キャリコは僅かに動くリボルバーを握った腕で、威嚇程度にでも引き金を引き絞る。
「すみません、お願いします!」
 額に汗を浮かべながら、明壬の和装に絡まる糸を慎重に外してゆく誠一。
「城は……返して貰う!」
 一方で、土蜘蛛に対峙するメリエもまた重々苦戦を強いられていた。
 息を吐かせず迫り来る鋭い前脚に腕を、脚を、頬を切り裂かれながらも、決してその身を引かずに、大きく薙ぎ込むよう太刀を閃かせる。
 不意に、土蜘蛛の尻先から放たれる白い糸が遥か上空、天井へと張り付く。
 同時に、8つの脚で大きく屈伸をつけると、土蜘蛛の身体がふわりと宙に舞った。
「面倒を掛ける、何か礼を――」
 誠一の手助けで何とか身体が開放された明壬は、代わらぬ飄々とした物言いで礼を言おうと口を開くも、言葉の変わりにカッと両の目を見開いた。
「――上じゃ!」
 不意に迫った激しさで、そう怒鳴り立てる明壬。
 咄嗟に振り向いた誠一達のその上空から、巨大な影が降りかかる。
 鈍い音と共に土蜘蛛の巨体が床に着地。
 同時に、ミシミシとけたたましい音を立てて、彼らの立っていた床が土蜘蛛ごと抜け落ちて行った。
「せーいちッ!?」
 奈落へと落ちてゆく友を前に、アリアの悲痛の叫びが響く。
「大丈夫、無事です!」
 埃の舞い上がる穴を覗き込み、ジークは下階の様子を手短に伝えていた。
 大きな怪我をした様子の無い2人が、土蜘蛛を相手に対峙している、と。
「今、ロープを垂らすから待ってて!」
「そんなヒマは無いじゃろう! 跳ぶぞ!」
「そういう事ですね」
 叫ぶレベッカの横で、命綱もつけずにふわりと穴に飛び込むオイゲーニエ。
 それに続いて綾女の体も宙を舞う。
 飛び降り様に大きく振りかぶった大剣が、2人を飲み込もうと大きく口を開いた土蜘蛛の頭上から叩き込まれ、さらにその背後から、むき出しの梁を駆ける綾女の放った手裏剣が突き立った。
 土蜘蛛は一瞬怯んだかのように見えたが、すぐにその鋭利な脚が眼前に立つ誠一とオイゲーニエを襲う。
 万事休す――そう思った瞬間、マテリアルの輝きが2人の視界を遮る。
 その輝きに勢いを削がれた一撃が、弾き飛ばされるように引いてゆく。
「これは……」
 思わず目を見開く誠一。
 障壁……いや、結界?
「先ほどの礼じゃ、釣りは要らんぞ」
 そう不敵に笑う明壬の手には不可解な術式の書かれた札が1枚、ぼうとマテリアルの炎に包まれて消え去っていった。
「なんと、それはどういう術なのじゃ!?」
「なに、やっている事はそなたたちと変わらん。その使い方が、少々違うだけよ」
 どこか興奮したように声を荒げるオイゲーニエに、明壬は狩衣の袖から新たな札を取り出して、敵の追撃に備える。
 そんな彼を背にし、オイゲーニエ達もまた虎の牙を前にして、その剣を構えなおす。
「せーいち、助けに来たわよ!」
 そんな時、するすると降りたロープの途中から飛び降りるようにして2階へ着地したアリアが、脚にマテリアルを宿し一気に駆け出していた。
「よくも大切な友達を……許さないから!」
 格子のようにそそり立つ8本の脚の間を縫うように接近しながら、一気に背後を取ると、手にした小太刀をその腹目掛けて一気に突き立てる。
 柔らかい所をやられたのか、その身を大きく捩り咆哮を上げる土蜘蛛。
「……そこか」
 その様子を目にしたキャリコもまた、無慈悲にリボルバーの引き金を絞る。
 着弾、炸裂し、飛び散る緑色の液体。
 土蜘蛛は再び体を大きく揺らすと、それでも戦意を潰えず、ゴウと唸りを上げながら群がるハンター達へ一斉に襲い掛かる。
「――これでも食らいな!」
 攻撃が一端落ち着いたその瞬間、レベッカが上階の穴から白い網のようなものを放り投げていた。
 それは、上階に張り巡らされていた巣の一部。
 切り取り、投げ網の如く蜘蛛へと撒き散らしたのだ。
「こちらからもです!」
 対岸の梁からも同様に綾女の手によって巣網が投げられる。
 不意を突かれた土蜘蛛は、八肢をバタバタと動かして網から逃れようとするが、もがけばもがくだけ絡まる糸。
「ジークさん、メリエさん、今です!」
 叫ぶ誠一の声に、土蜘蛛の両サイドから現れた黒赤二つの影が手に持った獲物を高々と振りかぶる。
「こちらの都合ではございますが、ここから出て行って頂きましょう」
「その脚ごと……裂き飛ばす!」
 振り下ろされた2本の刃は、両の前脚を一刀の元に切り飛ばした。
 前傾の重心の支えを失った蜘蛛の巨体が、埃を上げて胸から倒れこむ。
 同時に、倒れ伏した虎の頭に、がちゃりと鎧の軋む音が近寄った。
「そなたに、この城の主はふさわしくなかろう……ッ!」
 大降りから、腰を入れて叩き込まれたオイゲーニエの剣。
 その一撃に土蜘蛛の頭部は弾け飛び、同時に残る6つの脚に伝わる力もまた消え去って行くのであった。
 
●龍脈の巫子
 残る餓鬼も退治し終えたハンター達は、周囲の安全を確保し、天守閣へとたどり着く。
 そこに据えられた祭壇を前にすると、明壬は「面倒だが」と小言を口にしながら、それへと向かって行く。
 札を手に持ち何事か術式を唱えると、その衣服がマテリアルの輝きに乗ってふわりと浮き上がる。
 次の瞬間、城を支える大地――いや、そのもっと下方からつき上がる大きな光の柱が、城の周囲を包み込むように立ち上るのであった。
「これが龍脈の結界――」
 噴出した光の輝きに、見惚れるように声を漏らす綾女。
 彼女だけではない。西の世界では見ることの無い、これほど大きな力のうねりを前にして、誰もがその光景を、息を呑んで見守っていた。
「――これで儀式は終了じゃ。いやいや、各々方、大義であった」
 明壬は多少疲れが入った様子でふうと大きなため息を吐くと、ハンター達を見渡し、労いの言葉を掛ける。
「いやぁ、もう少し楽を出来るかと思ったがの。やり手のモノノフ共でも手こずる相手、そう易々とはいかなんだか」
 そう言って何度目かの高笑いを見せる明壬を前にして、どっと疲れが押し寄せたハンター達であった。

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  • 影の戦士
    神薙 綾女ka0944
  • 強者
    メリエ・フリョーシカka1991

重体一覧

参加者一覧

  • 影の戦士
    神薙 綾女(ka0944
    人間(蒼)|22才|女性|疾影士
  • 嵐影海光
    レベッカ・アマデーオ(ka1963
    人間(紅)|20才|女性|機導師
  • 強者
    メリエ・フリョーシカ(ka1991
    人間(紅)|17才|女性|闘狩人
  • その力は未来ある誰かの為
    神代 誠一(ka2086
    人間(蒼)|32才|男性|疾影士
  • スパイス・ボンバー
    オイゲーニエ・N・マラボワ(ka2304
    ドワーフ|10才|女性|闘狩人
  • 愛おしき『母』
    アリア(ka2394
    人間(紅)|14才|女性|疾影士
  • 黒の騎士
    ジーク・ヴュラード(ka3589
    人間(紅)|21才|男性|闘狩人
  • 自在の弾丸
    キャリコ・ビューイ(ka5044
    人間(紅)|18才|男性|猟撃士

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 龍脈奪還作戦
メリエ・フリョーシカ(ka1991
人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|闘狩人(エンフォーサー)
最終発言
2015/06/22 01:06:06
アイコン 質問(NPCとの質問相談用)
キャリコ・ビューイ(ka5044
人間(クリムゾンウェスト)|18才|男性|猟撃士(イェーガー)
最終発言
2015/06/19 22:19:21
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/19 16:01:05