ゲスト
(ka0000)
ドワーフの温泉宿
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/22 07:30
- 完成日
- 2015/06/28 19:38
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国北東山岳地帯。
ドワーフの青年ドストンが属する五十名足らずの集落は採鉱が生業である。長年一つのの場所に留まって掘り続けられればよいのだが、そううまくはいかない。
鉱石が採れなくなれば集落ごと移動して新たな地で採鉱を始める。掘れなくなってからでは遅いので、予め次の採鉱場所を探しておく必要があった。
「そう簡単に見つかれば苦労しないんだがな」
夜間の森の中、一人で焚き火をしながらドストンが呟く。新規の採鉱場所を探し求めて一年が経とうとしていたが未だ見つからなかった。
そんな折、古い坑道跡を発見する。
「鉱石が運ばれた形跡はないな。宝石の原石でも採掘していたんだろうか?」
坑道内に入ってランタンで照らす。奥へと進んでいくうちに湿気と熱気が充満してきた。
「……温泉か」
ドストンは地下坑道跡で湧きだす温泉を発見。しばしがっかりしたものの一晩掛けて考え直す。採鉱ばかりが人生ではないと。
久しぶりに集落へ戻ったドストンは温泉を利用した宿の経営を一族に提案した。しかし猛烈な反対を受けてしまう。だが賛同してくれる者も何人か。結果、ドストンを含めた十名が集落から独立することになる。
集落を飛びだしたドワーフ六名は温泉宿の整備に汗を流す。そのままだと熱すぎるので近くの小川から水を引いてちょうどよい温度の露天風呂を作り上げた。
丸太小屋の宿も建てたところで一年が経過したところでドストンは困り果てた。とても重要な客をどうやって呼ぶのかが頭の中から完全に抜けていたのである。
古都【アークエルス】から山森内の温泉宿まで歩いて三日ほどかかる。馬車を用意できるので片道一日で辿り着くことはできるだろう。
「有名でもなんでもないドワーフの宿に果たして客が来てくれるだろうか……?」
ドストンは広い見聞を持つハンターに協力を求めることにする。アークエルスにあるハンターズソサエティ支部に立ち寄ってお願いするのだった。
ドワーフの青年ドストンが属する五十名足らずの集落は採鉱が生業である。長年一つのの場所に留まって掘り続けられればよいのだが、そううまくはいかない。
鉱石が採れなくなれば集落ごと移動して新たな地で採鉱を始める。掘れなくなってからでは遅いので、予め次の採鉱場所を探しておく必要があった。
「そう簡単に見つかれば苦労しないんだがな」
夜間の森の中、一人で焚き火をしながらドストンが呟く。新規の採鉱場所を探し求めて一年が経とうとしていたが未だ見つからなかった。
そんな折、古い坑道跡を発見する。
「鉱石が運ばれた形跡はないな。宝石の原石でも採掘していたんだろうか?」
坑道内に入ってランタンで照らす。奥へと進んでいくうちに湿気と熱気が充満してきた。
「……温泉か」
ドストンは地下坑道跡で湧きだす温泉を発見。しばしがっかりしたものの一晩掛けて考え直す。採鉱ばかりが人生ではないと。
久しぶりに集落へ戻ったドストンは温泉を利用した宿の経営を一族に提案した。しかし猛烈な反対を受けてしまう。だが賛同してくれる者も何人か。結果、ドストンを含めた十名が集落から独立することになる。
集落を飛びだしたドワーフ六名は温泉宿の整備に汗を流す。そのままだと熱すぎるので近くの小川から水を引いてちょうどよい温度の露天風呂を作り上げた。
丸太小屋の宿も建てたところで一年が経過したところでドストンは困り果てた。とても重要な客をどうやって呼ぶのかが頭の中から完全に抜けていたのである。
古都【アークエルス】から山森内の温泉宿まで歩いて三日ほどかかる。馬車を用意できるので片道一日で辿り着くことはできるだろう。
「有名でもなんでもないドワーフの宿に果たして客が来てくれるだろうか……?」
ドストンは広い見聞を持つハンターに協力を求めることにする。アークエルスにあるハンターズソサエティ支部に立ち寄ってお願いするのだった。
リプレイ本文
●
早朝、古都アークエルスの街角。待ち合わせの場所に馬車が停まった。
御者台から飛び降りたのは依頼者のドワーフ青年『ドストン』である。ハンター一行が乗車して出発した。
「ここは集落を飛びださなくてはならないと思いまして」
温泉宿に関する細かな話は車中で語られる。
「自分達のやりたいことの為に、一族を飛び出す……良いわね、その気概」
「……なんか、分かるかも」
フローレンス・レインフォード(ka0443)とブリス・レインフォード(ka0445)がドストンに共鳴。
「ブリスも、故郷捨ててでも姉様と一緒に居たかったから、今こうしてるし」
「姉妹一緒がいいのだ♪」
ネフィリア・レインフォード(ka0444)とブリスがコクリと頷き合う。
「私達も故郷を出奔した身。種族は違えど、協力させてもらうわ。一生懸命頑張っている姿というのは、素敵だもの」
「何だか力が湧いてきました」
御者台のドストンが元気よく片腕をあげた。
馬車は日暮れまでに温泉宿に辿り着く。希望によって部屋が割り当てられる。
(まずは温泉に入らせて頂きましょう!)
鷹藤 紅々乃(ka4862)が軽やかに廊下へでると仲間達の姿が。考えていたことは同じようだ。
「東方に行ったら死地を突破することになったり、独断専行した味方の救援をすることになったりと、ここ最近はストレスが溜まることが多かったですからね」
「私、転移したところが東方だったんです」
お喋りしながらエルバッハ・リオン(ka2434)と紅々乃が更衣室を発見する。
「それじゃあ俺はここで」
「では後で会おう」
ラティナ・スランザール(ka3839)とイーディス・ノースハイド(ka2106)が男女別々の更衣室に入っていく。
かけ湯をしてザバンと湯船に浸かった紅々乃とエルバッハの表情がみるみるうちに緩んだ。
「はぅ~極楽なのです~~♪」
「宣伝内容の検討も兼ねて温泉を堪能……よい湯です」
「この湯は、弱食塩泉でしょうね。とすると、飲めますね! 唯一、循環器疾患の方は飲んじゃダメなのですよね。ふふ、蒼世界時代の理科の知識もなかなか役立つものですね♪」
「それ、チラシに書かせてもらいます」
肌に染みいって毒素を散らしてくれるような、そんな湯である。
イーディスと最上 風(ka0891)は隣り合って湯に浸かった。
「なかなか風情があっていいじゃないか」
「ここでビールとか飲めたらよさそうかも」
温泉を楽しみながら改良点を探っていく。
その頃、レインフォード三姉妹は温泉に向かう最中だった。
「宣伝の為に温泉の確認だねー♪ どんな感じなのか調査するのだ♪ フロー姉、ブリスちゃん、早くいくのだー♪」
更衣室で服を脱いで引き戸を開けると湯気立つ露天風呂が目の前に広がる。
「うーん、気持ちいいのだ♪ 後で混浴の方も入ってみるのだ♪ その方が宣伝し易いと思うし♪」
ネフィリアが湯の中で両手両足を思いっきり伸ばす。
「よく出来た岩風呂ね」
「傷に効くみたい……」
フローレンスとイーディスが肩まで浸かった。仕事なのを忘れてしまいそうな安堵の一息である。
男湯のラティナは一人貸し切り状態だ。
「この時期に温泉宿の依頼があって運が良かった……。この前はテミスの毒パルム騒ぎでエラい目にあったしな」
湯船の中で岩に寄りかかっていると、うたた寝をしてしまう。湯に沈んで目を覚ます。
ラティナは先に露天風呂を確かめた。岩風呂は見事。洗い場の石床は滑りにくく仕上げられている。同胞の仕事にラティナは感心した。
「まぁ、俺はエルフとの混血でもあるから純粋なドワーフって訳じゃないがな」
ラティナはもう一度湯船に身体を沈めた。
混浴風呂に踏み込んだエルバッハとネフィリアは湯船の中でドストンを発見する。
「お、お二人!」
「家族用の岩風呂もいいね♪」
ドストンは非常に慌てたが、二人は気にせずに並んで座った。
「サクラ役の可愛い女の子を雇ってみては? 相応の給金で雇えば、水着着用で男性と一緒に入るくらいは我慢する女の子もいるはずです」
エルバッハがドストンに提案したのは家族問わずの『水着着用の混浴風呂』である。一種悩んだドストンだがすぐに表情を明るくした。
雇うのは難しいが、若いドワーフ娘なら二人いる。そして新しい温泉も作っている最中だ。
「ドワーフの娘は髭もなくて綺麗です。温泉が完成して定着するまでは頼めるとかなと。断られたら無理強いはできませんが」
前向きに検討してみるとドストンは答えた。
●
温泉は素晴らしい。しかし食事は普通以下。量だけはたくさんあったが、肝心な味付けがなっていなかった。よかったのは石清水で冷やされたビールだけである。
一日滞在して宿の良さ悪さを調べ尽くす。
最上風、イーディス、紅々乃は温泉宿に残る。レインフォード三姉妹、エルバッハ、ラティナは馬車で古都へと向かうのだった。
●
ハンター三人と宿のドワーフ全員が一室に集まる。
「それでは忌憚のない意見を聞かせてもらえますか?」
会議の場、ドストンがハンター達にお願いした。まずは最上風からだ。
「他の宿のマネをしても、劣化コピーが出来るだけなので、ココにしか無いもので勝負ですよ」
「といいますと?」
「リピーターを獲得するには、やはりインパクトが必須です」
最上風は肉料理について言及した。肉質はとてもよいので工夫を施せば客の気を引く料理になり得ると。
「野生肉や川魚を客の目の前で焼くのはどうですか? 調理にビールを使う手もあります」
「ビール?」
「ビールに漬けることで野生肉のにおいが緩和されるんです。他にもスープの隠し味に使うとか、饅頭とかにも利用出来るかもですね」
調理担当のドワーフは最上風の言葉を懸命にメモしていた。
続いてイーディスの番である。
「客を呼び込むだけなら宣伝を大々的に掛ければいい、でもリピーターによる口コミも割と大事らしい。口コミが何かよくわからないけど、この本にそう書いてある」
イーディスは『はじめての経営~温泉編~』と表紙に書かれた本を取りだす。
「ドワーフの温泉宿なら、やはり料理のメインはドワーフ料理。レシピ本も買ってきたんだ」
二冊をドストンに手渡す。
「料理はレシピ通りに作れば失敗することはないさ。気楽に行こうじゃないか。ビールが美味しいのなら、それに合う料理が良いだろうね。私はビールはただ苦いだけで美味しくないと思うから良く分からないんだよ。ジュースの方が何倍も美味しいと思うんだけどな」
「ソーセージがよいかも」
本に目を通していたドストンが呟くとイーディスは『それだ!』と叫んだ。
「家族連れなら子供向けの食事も必要だね。おこさまランチが最強と聞く」
「おこさまランチ?」
詳しくは後で教えると伝えてイーディスの提案は終わる。最後は紅々乃だ。
「まずはこの近辺で手に入りやすい食材を確認させて下さい。地元のモノをメインに使う方が良いでしょう。野生のお肉はどんなのが手に入ります?」
「鹿、猪、兎、雉、鴨だな」
猟担当のドワーフが答えてくれる。大体予想のしていた答えが帰ってきた。森で採取したベリーのジャム、蜂蜜もあると聞いて紅々乃は瞳を輝かせた。
「それを使って肉料理にかけるソースを作りましょう。ドライベリーは胡桃等と一緒にお酒のつまみにも出来そうです!」
料理担当ドワーフのメモが激しさを増す。他にも案はあったが、細かい内容なので後での説明になる。
「宣伝の方々を信じて、お客様を出迎える為に頑張ってみましょう」
ドストンの言葉で締めくくられる。ハンター達は調理や狩猟担当のドワーフ達と更に相談を深めるのだった。
●
古都に戻ったハンター達はドストンの友人家族が経営する宿『アト』に泊まる。担当区分を決めて翌日から本格的な宣伝を開始した。
「胸元をもうちょっと開きましょうか」
着替えたエルバッハが鏡で確認する。胸元やスカートの丈等ギリギリを狙ったメイド服姿だ。宿へ向かう前に仕立屋に頼んでおいたものである。
用意してきたチラシを抱えて一人街中へと出かけていく。
「こんにちは。あら、間違ってしまいました。すみません」
人違いを装って男性通行人の背中や腕に掴まって胸元をぎゅっと押しつける。
「ど、どう致しまして」
「そうです。あの、たまの休暇に温泉に浸かりたいとは思いませんか?」
顔を赤くしたり鼻を伸ばす通行人にチラシを手渡す。そして家族や友人に相談して欲しいと頼んだ。予約は宿『アト』でと付け加えつつ。
手応えがあった相手は何となくわかる。予約までには間があるだろうが、開始初日に客三人をゲットしたと思われた。家族、友人を含めれば人数は膨らむはずである。
「さて、温泉で楽しんだ分も含めて働こうか」
ラティナも独自に作ったチラシを抱えて街へと繰りだす。向かった先はドワーフがたくさんいそうな工房ギルドだ。
「ドワーフがやっている温泉? そりゃ珍しいな」
「どうでしょう? 普通のとは別に『湯治』プランが用意されています」
ラティナがドストンに頼んで新たに作ってもらったのが『湯治』プランだ。怪我の治療を念頭に置いて長期で泊まってもらう。
手応えを感じたラティナは医療関係者が集まりそうな薬種問屋界隈にも向かう。
「食塩泉か。傷を治すにはもってこいだな」
「さらに効果を高める薬とかはありませんか?」
店主に薬草等の独特な香りが漂う中で説明するとよい反応が返ってくる。湯治に関する情報も集めた。客に聞かれたときのためによい治療薬を教えてもらう。この店の紹介も忘れないと伝えて。この辺りは持ちつ持たれつである。
宵の口からは酒場で竪琴を鳴らし、ドストンの温泉宿のことを唄った。
「知ってるか? ドワーフ要塞の『ノアーラ・クンタウ』で、最近は温泉が流行ってるんだぜ。とはいえさすがに辺境は遠すぎるからな。だがドストンがやっている宿ならこの街から馬車が出ているから行き帰りがとても楽。しかもよく効く温泉だ」
意気投合した酒場の客達に温泉の良さについて語るラティナであった。
フローレンス、ネフィリア、ブリスのレインフォード三姉妹が絞った宣伝相手はハンター仲間である。
「ネフィ、ブリス。私達も、出来ることをやりましょう」
フローレンスが先頭になって古都のハンターズソサエティー支部を訪ねた。
「ハンターもよく怪我するお仕事の人だよね……」
「ハンターさん達に来てもらえるよう頑張ろうー♪ 一回来ていい印象持ってもらえれば、口伝いにきっとハンターさん増えるのだ♪」
ブリスとネフィリアも支部内を見渡す。ハンターはそれなりにいる。馬車の貸し借りや情報を求めてなど、支部に立ち寄るのはハンターにとって極普通の行為だからだ。
「戦士にも休息が必要だから、ちょうど良いとは思わないかしら?」
「怪我に効く温泉か。どうしても怪我は付き物だからな」
フローレンスがチラシを手渡しするとかなりの確率で聞いてくれる。温泉は非常に受けがよい。
「おにーさん、おねーさん、一度この温泉に行ってみるのだ♪」
「温泉? そりゃいいけど、飯はどうなんだい?」
「野生肉を使った美味しいご飯があるのだー♪ 傷によく効く温泉だから一度行ってみるのだ♪」
ネフィリアは手作り看板でサンドイッチマンとなり、改良してくれるであろう料理のあらましを伝える。男女ともに食べ物に釣られる者多しだ。
「湯治にぴったりの温泉宿、この近くにあるんだけど……どう、かな?」
「へぇ。どんなとこ?」
場所を変えて支部近くの料理店でブリスがハンターに説明する。
「割と静かな場所だから、依頼の合間にゆっくり骨休めするには良いかも……」
「なるほどね。この依頼が終わったらいってみようかね。チラシ何枚かもらえるかい? 仲間にも渡しておくからさ」
親切なハンターに出会ったようでたくさんのチラシも受け取ってくれた。ブリスはほっと胸をなで下ろす。
宵の口、宿『アト』に戻った三姉妹は疲れていた。特にブリスはふらふらである。一緒にお風呂へ入り、晩御飯を食べたらすぐに眠くなった。
「ブリスちゃん、寝てるよ」
「人前であまり話すことないからね。気疲れしたようね」
二人にもたれ掛かるブリス。そっと担いで静かにベットまで運んであげる。
「……姉様…ブリス、頑張れてた……?」
目を覚ましたと思ったら寝言である。フローレンスとネフィリアも横になってゆっくりと休むのだった。
●
ハンター達が古都にいる間にも予約の客が馬車で温泉宿へと旅立っていく。宣伝が終わって温泉宿に戻ったハンター達は変わった様子に目を見張った。
野外ステージのドワーフ料理人が鉄串に刺した鴨を炭火の上でぐるぐると回す。ソースが塗られて炙られるとおいしそうな匂いが辺り漂ってきた。
鴨の丸焼きローストが切り分けられる。泊まり客は目と鼻、舌で料理を味わった。
ハンター達も味見をしたところ、旨味だけが引きだされている。下味に使ったビールが功を奏しているのだろう。
テーブルには石製の箸置きやコースターが置かれていた。綺麗に表面が磨かれていてよい仕上がりである。
(さすがドワーフですね)
最上風は心の中でよしと頷く。
ビールを使った饅頭も料理の一品だ。箸置きなどと一緒にお土産として注文受け付け中である。焼きたての川魚も好評だった。
ドワーフ料理も人気を博す。ハーブが利いたソーセージとビールだけで食事を済ます客もいる。
イーディス自らが手ほどきしたおこさまランチも注文が入った。
「すごい豪勢だな」
親が見てもびっくりな出来である。チキンライス、ハンバーグ、スパゲティ、エビフライ、プリンといった内容だ。立っているドワーフ顔の絵付き旗が目立つ。親が単品として料理を頼むことが多く、その意味での宣伝にもなっている。
紅々乃が提案した料理は恋人達に人気のようだ。
温泉で蒸された肉にベリージャムや蜂蜜で作られたソースがかけられる。まるで絵のように皿へと盛られていた。香草のサラダやスープも憎い演出である。ちなみに野外バーベキュー施設は現在建築中だ。
「湯治コースにはこちらを」
長期滞在の湯治客にはニンニクで味付けした肉料理や、薬膳香草サラダ等で体力を回復してもらう。
露天風呂でジュースやビールの提供。水着専用温泉も始まった。
ハンター一行は数日滞在し、新たなチラシを用意してから古都へと戻る。
「これから十五名のお客様を連れて帰ります。みなさんのおかげです」
別れ際、感謝したドストンは礼と一緒に土産をみんなに手渡す。
「今度は私達も客として来させてもらうわね」
フローレンスに続いて仲間達がドストンに別れの言葉を投げかける。ハンター達は用意したチラシを配り終わってから帰路に就いたのだった。
早朝、古都アークエルスの街角。待ち合わせの場所に馬車が停まった。
御者台から飛び降りたのは依頼者のドワーフ青年『ドストン』である。ハンター一行が乗車して出発した。
「ここは集落を飛びださなくてはならないと思いまして」
温泉宿に関する細かな話は車中で語られる。
「自分達のやりたいことの為に、一族を飛び出す……良いわね、その気概」
「……なんか、分かるかも」
フローレンス・レインフォード(ka0443)とブリス・レインフォード(ka0445)がドストンに共鳴。
「ブリスも、故郷捨ててでも姉様と一緒に居たかったから、今こうしてるし」
「姉妹一緒がいいのだ♪」
ネフィリア・レインフォード(ka0444)とブリスがコクリと頷き合う。
「私達も故郷を出奔した身。種族は違えど、協力させてもらうわ。一生懸命頑張っている姿というのは、素敵だもの」
「何だか力が湧いてきました」
御者台のドストンが元気よく片腕をあげた。
馬車は日暮れまでに温泉宿に辿り着く。希望によって部屋が割り当てられる。
(まずは温泉に入らせて頂きましょう!)
鷹藤 紅々乃(ka4862)が軽やかに廊下へでると仲間達の姿が。考えていたことは同じようだ。
「東方に行ったら死地を突破することになったり、独断専行した味方の救援をすることになったりと、ここ最近はストレスが溜まることが多かったですからね」
「私、転移したところが東方だったんです」
お喋りしながらエルバッハ・リオン(ka2434)と紅々乃が更衣室を発見する。
「それじゃあ俺はここで」
「では後で会おう」
ラティナ・スランザール(ka3839)とイーディス・ノースハイド(ka2106)が男女別々の更衣室に入っていく。
かけ湯をしてザバンと湯船に浸かった紅々乃とエルバッハの表情がみるみるうちに緩んだ。
「はぅ~極楽なのです~~♪」
「宣伝内容の検討も兼ねて温泉を堪能……よい湯です」
「この湯は、弱食塩泉でしょうね。とすると、飲めますね! 唯一、循環器疾患の方は飲んじゃダメなのですよね。ふふ、蒼世界時代の理科の知識もなかなか役立つものですね♪」
「それ、チラシに書かせてもらいます」
肌に染みいって毒素を散らしてくれるような、そんな湯である。
イーディスと最上 風(ka0891)は隣り合って湯に浸かった。
「なかなか風情があっていいじゃないか」
「ここでビールとか飲めたらよさそうかも」
温泉を楽しみながら改良点を探っていく。
その頃、レインフォード三姉妹は温泉に向かう最中だった。
「宣伝の為に温泉の確認だねー♪ どんな感じなのか調査するのだ♪ フロー姉、ブリスちゃん、早くいくのだー♪」
更衣室で服を脱いで引き戸を開けると湯気立つ露天風呂が目の前に広がる。
「うーん、気持ちいいのだ♪ 後で混浴の方も入ってみるのだ♪ その方が宣伝し易いと思うし♪」
ネフィリアが湯の中で両手両足を思いっきり伸ばす。
「よく出来た岩風呂ね」
「傷に効くみたい……」
フローレンスとイーディスが肩まで浸かった。仕事なのを忘れてしまいそうな安堵の一息である。
男湯のラティナは一人貸し切り状態だ。
「この時期に温泉宿の依頼があって運が良かった……。この前はテミスの毒パルム騒ぎでエラい目にあったしな」
湯船の中で岩に寄りかかっていると、うたた寝をしてしまう。湯に沈んで目を覚ます。
ラティナは先に露天風呂を確かめた。岩風呂は見事。洗い場の石床は滑りにくく仕上げられている。同胞の仕事にラティナは感心した。
「まぁ、俺はエルフとの混血でもあるから純粋なドワーフって訳じゃないがな」
ラティナはもう一度湯船に身体を沈めた。
混浴風呂に踏み込んだエルバッハとネフィリアは湯船の中でドストンを発見する。
「お、お二人!」
「家族用の岩風呂もいいね♪」
ドストンは非常に慌てたが、二人は気にせずに並んで座った。
「サクラ役の可愛い女の子を雇ってみては? 相応の給金で雇えば、水着着用で男性と一緒に入るくらいは我慢する女の子もいるはずです」
エルバッハがドストンに提案したのは家族問わずの『水着着用の混浴風呂』である。一種悩んだドストンだがすぐに表情を明るくした。
雇うのは難しいが、若いドワーフ娘なら二人いる。そして新しい温泉も作っている最中だ。
「ドワーフの娘は髭もなくて綺麗です。温泉が完成して定着するまでは頼めるとかなと。断られたら無理強いはできませんが」
前向きに検討してみるとドストンは答えた。
●
温泉は素晴らしい。しかし食事は普通以下。量だけはたくさんあったが、肝心な味付けがなっていなかった。よかったのは石清水で冷やされたビールだけである。
一日滞在して宿の良さ悪さを調べ尽くす。
最上風、イーディス、紅々乃は温泉宿に残る。レインフォード三姉妹、エルバッハ、ラティナは馬車で古都へと向かうのだった。
●
ハンター三人と宿のドワーフ全員が一室に集まる。
「それでは忌憚のない意見を聞かせてもらえますか?」
会議の場、ドストンがハンター達にお願いした。まずは最上風からだ。
「他の宿のマネをしても、劣化コピーが出来るだけなので、ココにしか無いもので勝負ですよ」
「といいますと?」
「リピーターを獲得するには、やはりインパクトが必須です」
最上風は肉料理について言及した。肉質はとてもよいので工夫を施せば客の気を引く料理になり得ると。
「野生肉や川魚を客の目の前で焼くのはどうですか? 調理にビールを使う手もあります」
「ビール?」
「ビールに漬けることで野生肉のにおいが緩和されるんです。他にもスープの隠し味に使うとか、饅頭とかにも利用出来るかもですね」
調理担当のドワーフは最上風の言葉を懸命にメモしていた。
続いてイーディスの番である。
「客を呼び込むだけなら宣伝を大々的に掛ければいい、でもリピーターによる口コミも割と大事らしい。口コミが何かよくわからないけど、この本にそう書いてある」
イーディスは『はじめての経営~温泉編~』と表紙に書かれた本を取りだす。
「ドワーフの温泉宿なら、やはり料理のメインはドワーフ料理。レシピ本も買ってきたんだ」
二冊をドストンに手渡す。
「料理はレシピ通りに作れば失敗することはないさ。気楽に行こうじゃないか。ビールが美味しいのなら、それに合う料理が良いだろうね。私はビールはただ苦いだけで美味しくないと思うから良く分からないんだよ。ジュースの方が何倍も美味しいと思うんだけどな」
「ソーセージがよいかも」
本に目を通していたドストンが呟くとイーディスは『それだ!』と叫んだ。
「家族連れなら子供向けの食事も必要だね。おこさまランチが最強と聞く」
「おこさまランチ?」
詳しくは後で教えると伝えてイーディスの提案は終わる。最後は紅々乃だ。
「まずはこの近辺で手に入りやすい食材を確認させて下さい。地元のモノをメインに使う方が良いでしょう。野生のお肉はどんなのが手に入ります?」
「鹿、猪、兎、雉、鴨だな」
猟担当のドワーフが答えてくれる。大体予想のしていた答えが帰ってきた。森で採取したベリーのジャム、蜂蜜もあると聞いて紅々乃は瞳を輝かせた。
「それを使って肉料理にかけるソースを作りましょう。ドライベリーは胡桃等と一緒にお酒のつまみにも出来そうです!」
料理担当ドワーフのメモが激しさを増す。他にも案はあったが、細かい内容なので後での説明になる。
「宣伝の方々を信じて、お客様を出迎える為に頑張ってみましょう」
ドストンの言葉で締めくくられる。ハンター達は調理や狩猟担当のドワーフ達と更に相談を深めるのだった。
●
古都に戻ったハンター達はドストンの友人家族が経営する宿『アト』に泊まる。担当区分を決めて翌日から本格的な宣伝を開始した。
「胸元をもうちょっと開きましょうか」
着替えたエルバッハが鏡で確認する。胸元やスカートの丈等ギリギリを狙ったメイド服姿だ。宿へ向かう前に仕立屋に頼んでおいたものである。
用意してきたチラシを抱えて一人街中へと出かけていく。
「こんにちは。あら、間違ってしまいました。すみません」
人違いを装って男性通行人の背中や腕に掴まって胸元をぎゅっと押しつける。
「ど、どう致しまして」
「そうです。あの、たまの休暇に温泉に浸かりたいとは思いませんか?」
顔を赤くしたり鼻を伸ばす通行人にチラシを手渡す。そして家族や友人に相談して欲しいと頼んだ。予約は宿『アト』でと付け加えつつ。
手応えがあった相手は何となくわかる。予約までには間があるだろうが、開始初日に客三人をゲットしたと思われた。家族、友人を含めれば人数は膨らむはずである。
「さて、温泉で楽しんだ分も含めて働こうか」
ラティナも独自に作ったチラシを抱えて街へと繰りだす。向かった先はドワーフがたくさんいそうな工房ギルドだ。
「ドワーフがやっている温泉? そりゃ珍しいな」
「どうでしょう? 普通のとは別に『湯治』プランが用意されています」
ラティナがドストンに頼んで新たに作ってもらったのが『湯治』プランだ。怪我の治療を念頭に置いて長期で泊まってもらう。
手応えを感じたラティナは医療関係者が集まりそうな薬種問屋界隈にも向かう。
「食塩泉か。傷を治すにはもってこいだな」
「さらに効果を高める薬とかはありませんか?」
店主に薬草等の独特な香りが漂う中で説明するとよい反応が返ってくる。湯治に関する情報も集めた。客に聞かれたときのためによい治療薬を教えてもらう。この店の紹介も忘れないと伝えて。この辺りは持ちつ持たれつである。
宵の口からは酒場で竪琴を鳴らし、ドストンの温泉宿のことを唄った。
「知ってるか? ドワーフ要塞の『ノアーラ・クンタウ』で、最近は温泉が流行ってるんだぜ。とはいえさすがに辺境は遠すぎるからな。だがドストンがやっている宿ならこの街から馬車が出ているから行き帰りがとても楽。しかもよく効く温泉だ」
意気投合した酒場の客達に温泉の良さについて語るラティナであった。
フローレンス、ネフィリア、ブリスのレインフォード三姉妹が絞った宣伝相手はハンター仲間である。
「ネフィ、ブリス。私達も、出来ることをやりましょう」
フローレンスが先頭になって古都のハンターズソサエティー支部を訪ねた。
「ハンターもよく怪我するお仕事の人だよね……」
「ハンターさん達に来てもらえるよう頑張ろうー♪ 一回来ていい印象持ってもらえれば、口伝いにきっとハンターさん増えるのだ♪」
ブリスとネフィリアも支部内を見渡す。ハンターはそれなりにいる。馬車の貸し借りや情報を求めてなど、支部に立ち寄るのはハンターにとって極普通の行為だからだ。
「戦士にも休息が必要だから、ちょうど良いとは思わないかしら?」
「怪我に効く温泉か。どうしても怪我は付き物だからな」
フローレンスがチラシを手渡しするとかなりの確率で聞いてくれる。温泉は非常に受けがよい。
「おにーさん、おねーさん、一度この温泉に行ってみるのだ♪」
「温泉? そりゃいいけど、飯はどうなんだい?」
「野生肉を使った美味しいご飯があるのだー♪ 傷によく効く温泉だから一度行ってみるのだ♪」
ネフィリアは手作り看板でサンドイッチマンとなり、改良してくれるであろう料理のあらましを伝える。男女ともに食べ物に釣られる者多しだ。
「湯治にぴったりの温泉宿、この近くにあるんだけど……どう、かな?」
「へぇ。どんなとこ?」
場所を変えて支部近くの料理店でブリスがハンターに説明する。
「割と静かな場所だから、依頼の合間にゆっくり骨休めするには良いかも……」
「なるほどね。この依頼が終わったらいってみようかね。チラシ何枚かもらえるかい? 仲間にも渡しておくからさ」
親切なハンターに出会ったようでたくさんのチラシも受け取ってくれた。ブリスはほっと胸をなで下ろす。
宵の口、宿『アト』に戻った三姉妹は疲れていた。特にブリスはふらふらである。一緒にお風呂へ入り、晩御飯を食べたらすぐに眠くなった。
「ブリスちゃん、寝てるよ」
「人前であまり話すことないからね。気疲れしたようね」
二人にもたれ掛かるブリス。そっと担いで静かにベットまで運んであげる。
「……姉様…ブリス、頑張れてた……?」
目を覚ましたと思ったら寝言である。フローレンスとネフィリアも横になってゆっくりと休むのだった。
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ハンター達が古都にいる間にも予約の客が馬車で温泉宿へと旅立っていく。宣伝が終わって温泉宿に戻ったハンター達は変わった様子に目を見張った。
野外ステージのドワーフ料理人が鉄串に刺した鴨を炭火の上でぐるぐると回す。ソースが塗られて炙られるとおいしそうな匂いが辺り漂ってきた。
鴨の丸焼きローストが切り分けられる。泊まり客は目と鼻、舌で料理を味わった。
ハンター達も味見をしたところ、旨味だけが引きだされている。下味に使ったビールが功を奏しているのだろう。
テーブルには石製の箸置きやコースターが置かれていた。綺麗に表面が磨かれていてよい仕上がりである。
(さすがドワーフですね)
最上風は心の中でよしと頷く。
ビールを使った饅頭も料理の一品だ。箸置きなどと一緒にお土産として注文受け付け中である。焼きたての川魚も好評だった。
ドワーフ料理も人気を博す。ハーブが利いたソーセージとビールだけで食事を済ます客もいる。
イーディス自らが手ほどきしたおこさまランチも注文が入った。
「すごい豪勢だな」
親が見てもびっくりな出来である。チキンライス、ハンバーグ、スパゲティ、エビフライ、プリンといった内容だ。立っているドワーフ顔の絵付き旗が目立つ。親が単品として料理を頼むことが多く、その意味での宣伝にもなっている。
紅々乃が提案した料理は恋人達に人気のようだ。
温泉で蒸された肉にベリージャムや蜂蜜で作られたソースがかけられる。まるで絵のように皿へと盛られていた。香草のサラダやスープも憎い演出である。ちなみに野外バーベキュー施設は現在建築中だ。
「湯治コースにはこちらを」
長期滞在の湯治客にはニンニクで味付けした肉料理や、薬膳香草サラダ等で体力を回復してもらう。
露天風呂でジュースやビールの提供。水着専用温泉も始まった。
ハンター一行は数日滞在し、新たなチラシを用意してから古都へと戻る。
「これから十五名のお客様を連れて帰ります。みなさんのおかげです」
別れ際、感謝したドストンは礼と一緒に土産をみんなに手渡す。
「今度は私達も客として来させてもらうわね」
フローレンスに続いて仲間達がドストンに別れの言葉を投げかける。ハンター達は用意したチラシを配り終わってから帰路に就いたのだった。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/20 03:10:47 |
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相談卓 最上 風(ka0891) 人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/06/21 08:20:01 |