• 幻導

【幻導】Rock'n'Rolla

マスター:蒼かなた

シナリオ形態
ショート
難易度
やや難しい
オプション
  • relation
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/06/25 22:00
完成日
2015/07/01 06:24

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング

●導かれる者達
 ビャスラグ山北で発見された謎の塔――ナルガンド塔。
 一体、誰が何の為に建造したのか。
 それは今でも分からない。
 しかし、多くの者はこの塔に注目する理由は他にある。
 伝説の刺青を持つスコール族の族長ファリフ・スコール。彼女を呼び掛ける者が、この塔の中にいる。
 聖地の大巫女は大幻獣だと推論を述べるが、未だその結論は見えていない。
 塔周辺の探索と雑魔退治の為、ファリフは再び塔へと向かう。

 一方、同じようにナルガンド塔へ動き出す影が存在した。
 東から移動する影もまた、この大幻獣を求めて動き出したのか――。

●己の道を進む者
 今、搭周辺の雑魔討伐の為に少なくない数のハンターが動員されている。
 誰一人として足を踏み入れることのなかったこの地を知る者は無く、山の中を歩くのもほぼ手探り状態だ。
 そんな中で一番の最前線に出ているのはスコール族の族長、ファリフが率いるメンバー達だった。
 一度件の塔を確認しにきたということもあるが、何よりファリフが自分の腹部の刺青を触って「呼ばれてる気がする」と言って前へ前へと進んでいくのだ。
「おいおい、お嬢ちゃん。急ぎすぎじゃないか?」
 そんな彼女を諌めるのは今回この作戦に参加した1人、ブレアという熟練ハンターだ。
「あれ、そうかな? そんなつもりはなかったんだけど」
 ファリフは言われて初めて気づいたといった様子で足を止めた。言われてみれば思ったより見上げた先にそびえる塔が近くなっている気がする。
「兎に角一旦休憩だ。戦闘前に息があがってたんじゃ笑い話だぞ?」
「うん、それもそうだよね」
 ニィと笑みを見せたブレアはファリフに向けて水筒を放る。難なくそれをキャッチしたファリフはこくりと一度頷いて水筒を傾けた。
 他のハンター達も持参した水筒や携帯食を口に含んで束の間の休憩を取っていた。
「んっ? おかしいな」
 と、そこでブレアが首を傾げる。どうも魔導短電話の調子が悪いようで、バシバシと乱暴に叩いている。
 その異変に気づいたファリフが声を掛ける。
「どうしたの?」
「いや、分からん。通信区域内に誰もいないってことはないと思うんだが」
 故障か? と首を傾げるブレアにファリフは何となく嫌な予感を感じて周囲を見渡す。
 ここは山頂手前の木々に覆われた林の中。今居る場所は広場になっているが、それより外は鬱蒼と茂る木々によって視界は悪い。
「何かいるのか?」
 ファリフの様子にブレアも何か感じたのか、真面目な顔でファリフと同じように周囲へ視線を走らせる。
 と、そこで突然近くの茂みが揺れた。ファリフとブレアが同時にそちらに視線を向ける。
 そこから姿を現したのは黄色い肌に茶色の斑模様をした四足歩行の動物だった。リアルブルーを知る人間が見ればそれがキリンとよく似ていると思っただろう。
「っ! こいつは!」
「何だこの生物? お嬢ちゃんは知って……いや、この気配は歪虚か!」
 ファリフにはその存在に見覚えがあった。先の探索で見かけた歪虚に間違いない。
 ブレアのほうも目の前のキリンのような生物が発している気配の質に気がついた。生物を死へと導く恐ろしいソレを。
 そこで更にキリン型歪虚が出てきた茂みが再度揺れる。
「おい、ちょっと待て。キキ、お前はどうも歩くのが早くていけない」
 数秒してそこから姿を現したのは1人の男だった。黒のスーツ姿に白い杖を手にした初老の人間に見える。
 この老人が何者なのかは分からない、だが明らかに人間ではない。そう、その身に纏う気配は人間にはあるまじき薄ら寒さを覚えさせるものだったからだ。
「んっ? 何だお前達は」
 老人はそこでやっと周りに居るハンター達に気づいたのか視線を巡らせる。その中で唯一ファリフにだけ興味を示したのかふむと顎をさすり口を開く。
「また会ったな。やはりお前も塔を目指すのか」
「……そうだよ」
 それは問いというよりは確認の言葉だった。ファリフは油断なく構えそれに答えた。
「お前はあの塔に何が存在しているのか知っているのか?」
 老人は再び問う。今度はこっちを試しているようだと、ファリフは直感だがそう感じた。
「お嬢ちゃん、答える必要はないぞ。つーか例え知ってたとしても歪虚なんかに誰が言うか」
 そこでブレアが剣を構えながらファリフの前に立つ。だが、それがいけなかった。
「邪魔だ」
 老人が突然剣呑な雰囲気に変わりブレアを睨みつける。次の瞬間ブレアの体に衝撃が走り、気づけば真横に吹き飛ばされて地面を転がっていた。
「話の邪魔をするんじゃない。常識だろう」
「ごほっ……歪虚が常識語ってんじゃねーよ」
 老人は不愉快だとはっきり分かる表情をしながら吐き捨てるように言う。だが剣を支えにしながらも立ち上がるブレアに少しだけ表情を緩める。
「だが、手加減したとはいえ今ので死なないか。お前は中々熱いもの持っているな」
 老人はそんな賛辞の言葉をブレアに送ると、今度は品定めをするかのような目でファリフと他のハンター達を一瞥する。
「折角だ。他のお前達も熱い魂を持っているか試してやろう」
「試すって、何をするつもり!」
「何って、決まっているだろう?」
 老人はトントンとまるでリズムを取るかのように靴を鳴らしながらスーツの襟首のボタンを外す。
「さあ、ハートを揺らす時間だ。脳がヒートするまで熱狂しよう」
 そして老人が手にしていた杖をくるりと回して両手で持ち直すと、突然その体から負のマテリアルが溢れ出し周囲の空間を侵食していく。
「ああ、その前に名乗っておこう。俺はBADDAS、ロックを愛する男だ。よろしく、ロックンロール」
 静かだが熱さを覚えるその宣言と共に物凄い圧力がハンター達に襲い掛かった。

リプレイ本文

●ロックは好きか?
 謎の歪虚、BADDASと対峙するハンター達とブレア、そしてファリフ。
 負のマテリアルが周囲の空間に満ちた瞬間に、突然全員の耳を劈くような爆音が響き渡る。
「何、この凄い音は!?」
 ファリフは思わず耳を押さえる。鼓動するように強弱を繰り返すその音は、肌に痛みを与えるほどに空気を振るわせる。
「まさかこれは……音楽、ロックなのか?」
 深い傷を負って尚この探索に参加していた真田 天斗(ka0014)は隊の中で一番後ろに位置していた。そのおかげか他の者より耳を貫く音は小さくそれを認識することができた。
 ギターやベースの掻き鳴らす高音に、ドラムの重低音が重なり1つの音となって周囲の空間に響き渡っている。
「これがクリムゾンウェストのロックですか。BADDASと言いましたね、お初にお目にかかります。私は真田天斗と申します。以後、お見知りおきを」
「聞こえんな。腹から声も出せないのか」
 見た目から明らかに重傷を負い戦える状態にない天斗に興味を失ったのか、BADDASは一瞥して一言口にしただけですぐに他のハンター達に視線を移す。
「なら次は俺! 俺はテンシ・アガート! 可能性を諦めない男さ! よろしく!」
 大音量のロックな音楽が鳴り響く中で、テンシ・アガート(ka0589)は精一杯の大声で自分の名を高らかに叫ぶ。
「まだ小さい。だがさっきの奴よりはマシだ」
 BADDASは言葉と共につま先でリズムを取るように地面を叩く、その瞬間テンシの体が揺さぶられる。その予兆に気づいた時にはその体は宙を舞っていた。
「また! やっぱり攻撃が見えない……でも、ここで足踏みしてる訳にもいかないんだ!」
 ファリフは漸く少しは慣れてきた周囲に満ちる爆音に耳を押さえるのを止め、バトルアックスを振り上げBADDASに挑む。
 姿勢を低く、獣のように駆けて飛び掛り、身の丈以上ある斧の刃を叩きつける。
「まだ序奏も終わってないぞ。若い癖に焦るんじゃない」
 だがBADDASはその攻撃を軽々と受け止める。十分な速度と重さを乗せたファリフの一撃を、杖の先端で受け止め僅かにも後退すらしない。さらにBADDASは片手を杖から放し、ファリフへと伸ばす。
「ファリフはん、引くんやっ!」
 その動作に危機感を覚えたアカーシャ・ヘルメース(ka0473)は、BADDASに向けて棍に捻りを加えながら放つ。
 BADDASはファリフへと伸ばそうとしていたその手の目的を変え、アカーシャの突きをその手で受け止めた。
「最近の人間の女はせっかちが多いようだな」
 BADDASはその言葉と共に僅かに力を籠めて両腕を押し出す。ただそれだけでファリフとアカーシャの足は地面から離れ、数メートル後方へと突き飛ばされた。
「謎の不可視の攻撃だけじゃなく、腕力もハンパないってか。とんでもない爺さんだな。で、何か分かったか?」
 このロックな音楽にのるタイミングを計っていたデルフィーノ(ka1548)は改めて感じるBADDASの強さを確認しつつ、自分の傍に転がってきたテンシに尋ねた。
「全然。直前に体が震えたと思ったら吹っ飛ばされてたよ。ブレアさんは?」
「俺も似た感じだ。あの攻撃の所為かさっきから右耳が痛ぇよ」
 ぺっと口に入った土を吐き出し、ブレアは改めてグレートソードを構え直す。
「ところで、そっちのお嬢ちゃん。例の奴を貰えるかい?」
 ブレアは突撃前にエハウィイ・スゥ(ka0006)に視線を向けて語りかける。だが、当のエハウィイはじぃーっとBADDASを見つめているだけで返事がない。
「おじ様とキリン。キキだっけ。性別どっちだろう? いや、ここは♂と仮定して、そうしたらおじ様×キリンで……うひゃあああ!」
「何を興奮してるんだお前は……」
 突然奇声を上げながら興奮しだしたエハウィイに、ブレアもデルフィーノもテンシも奇怪なものを見る目を向ける。
「あっ、プロテクションね。はいはい、俄然やる気の出てきた私の力を注ぎ込んであげよう」
「ちょっと遠慮したくなったが、そうも言ってられないな。ありがとよ、お嬢ちゃん」
 エハウィイのマテリアルの力を鎧に籠めて貰い、ブレアは一言礼を言ってBADDASへと突撃していく。
「んじゃ、俺達も魂をぶつけに行くか。とびっきりホットでとびっきりクールな……、な」
「オッケー、俺は側面から行くよ!」
 デルフィーノとテンシも各々の武器を構え、BADDASへの攻撃に参加する。

「さあ、次だ。お前の熱いハートを見せてみろ」
「……熱い、ハート?」
 そんなものは知らないとばかりに、シュメルツ(ka4367)はガントンファーを叩き込む。BADDASはそれを防ぐ素振りすら見せず、その攻撃を脇腹に受ける。
「っ!」
 殴りつけたシュメルツは思わず顔を顰める。まるで岩、いや鉄の塊でも殴ったかのような感触。攻撃したはずのこちらの手のほうが痺れて痛みを伴うくらいだ。
「何だそれは。全く足りん」
 その言葉と共にBADDASは腕を横に振るい、シュメルツの横顔を殴りつける。その一発で地面へと叩きつけられたシュメルツに、BADDASはさらに足を持ち上げ、踏み砕こうと構える。
「それ以上はさせないっての」
 そこに盾を構えたレウィル=スフェーン(ka4689)が割り込む。BADDASは構わず足を振り下ろし、レウィルの構えた盾を蹴りつける。
 レウィルの盾を構えるタイミングも、威力を逸らす技巧も完璧だった。だが、それでも殺しきれなかった威力はレウィルをそのまま後方に吹き飛ばすには十分だった。
「……強い、ね」
「それは違う。お前が弱いだけだ」
 BADDASの言葉にシュメルツは唇を噛む。彼女の戦友達との約束である“『シュテルプリヒ』こそが最強であると証明する” という目的、それを真っ向から否定された。
 それは怒りか、悲しみか。その感情の高まりに呼応するように、シュメルツの隊服の下で左腕の炎の黒痣が拡大していく。
「……倒す」
「口を開く前に。その力を見せてみろ」
 BADDASの挑発とも取れる言葉に、シュメルツは構わず全身にマテリアルを高速で巡らせる。放つのは最速。それも1つじゃない。一撃の軽さは数で補う。
 ガントンファーによる殴打、銃撃、さらに拳打、脚撃も織り交ぜた乱打をBADDASの体に浴びせる。
「やはり足りないな」
 だがBADDASは全く堪えた様子を見せず、殴打を受けた口を軽く拭う。次の瞬間にはシュメルツの体は側面から衝撃により吹き飛ばされ、広場の周りに生える木にその身を打ちつける。
「ふむ。お前、今何かしたな?」
 BADDASの赤い瞳が白い機杖を構える青年、八島 陽(ka1442)へと向けられた。
「本当はファリフの為に取っておきたかったんだけどね」
 それだけ言うと陽は機杖にマテリアルを充填させる。
「お前も以前に見たな。覚えている」
「それはどうも。俺もアンタとはまた出会う気がしてたんだ」
 陽の言葉にBADDASはニィと僅かに唇の端を上げる。
「ファリフ、いけるか?」
「勿論。こいつを倒して、塔に向かわないといけないんだ」
「そうや。ファリフはんの歩みは止めさせへんで」
 ファリフに加えアカーシャも棍を構えて隣に並ぶ。3人での同時攻撃、前と左右を挟むように3種の攻撃が繰り出される。
 BADDASは陽の光剣を杖で受け止め、ファリフの斧をもう片方の手で、そしてアカーシャの一撃は防がれずに胴を捉えた。
「面白い」
 BADDASがそう一言呟くと、辺りに鳴り響いていた音楽がその音量を急激に増す。何とか慣れ始めていたハンター達もそれに思わず顔を顰めるが、まだ耐えられる音量、そう思った時だった。
 一際甲高いギターの音が掻き鳴らされた。それはBADDASを中心に波紋の様に広がり、陽・アカーシャ・ファリフを周囲の地面諸共吹き飛ばす。
「不可視な攻撃の次は範囲攻撃か。多才だな、爺さん!」
 前衛が全員吹き飛ばされ、一時的にフリーになったBADDASへ牽制するようにデルフィーノは機導砲を放つ。BADDASはそれを杖で叩き落とすと、ジロリと睨むような視線をデルフィーノに向けた。
「う、おぉ!?」
 デルフィーノの体が突然宙を舞う。ほぼ真上に打ち上げられ、錐揉み回転しながら落ち、そのまま地面に叩きつけられた。
 そこでBADDASは視線を一度外すが、次の瞬間には片手を自分の顔の横に上げる。その手に白熱した一条の光が突き刺さった。
「俺様のビッグ・ビートの味はどうだ?」
 地面に伏せたままデルフィーノが口にする。実は先ほどの一撃の時、脚に集めていたマテリアルで自分から飛び上がったのだ。だが衝撃は完全に避けきれず、今脚が痺れて全く動く気配がない。
「小賢しいな。だが、気に入った」
 BADDASの言葉に苦笑いで返したデルフィーノの体が今度こそ衝撃を諸に受けて後方へと吹き飛ぶ。
「さあ、次はどんな熱い魂の響きを聞かせてくれるんだ?」
 BADDASは笑みを浮かべ、赤く光る瞳でハンター達を一瞥する。

●突破口
 大音量のロックが鳴り響く中でハンター達は戦い続ける。
 エハウィイは既に何度目かの治癒魔法を発動させる。癒しの力は彼女を中心に拡散し、仲間の傷を少しだけ癒していく。
「それにしてもおじ様の試験、合格基準厳しすぎじゃない?」
「歪虚の定める基準など、人に計れるものではないということでしょう」
 後方でただ1人待機している天斗は苦々しげな表情をしながらそう口にする。彼に出来る事はただ見ることのみ。その中で何か気づけることがあれば。その一心で戦場を見つめ続ける。
「もう少しで何か掴めそうな気がするんだがな」
 デルフィーノは今一度吹き飛ばされ、顔に付いた泥を肩で拭いながらリボルバーに銃弾を装填する。
「そういや俺も1つ気づいたことがある」
 そう口にしたのはブレアだった。
「アイツ、滅茶苦茶硬ぇ。俺の自慢の剣がこんなになっちまった」
 ブレアはそう言って自分の剣を見せる。分厚く広い刀身を持つその剣の刃はあちこち刃毀れしてしまっていた。
「だが、アイツ。必ず反応する攻撃がある」
「……ああ、確かにそうだな。試すか?」
 デルフィーノも気になっていたことが何なのか気づいた。
「んじゃ、一発かますぞ」
 ブレアは剣を突き出すように構え、BADDASに向かって突撃する。
「またお前か。タフな奴だ」
「これでも凄腕って呼ばれてるんでな!」
 ブレアの突きをBADDASは白い杖で受け止めた。鎧の重量を含めて百キロを越える突進を受けてもBADDASは身じろぎ1つしない。
 と、その次の間に左右に展開したデルフィーノがマテリアルを充填した武器を振るう。放たれた光の一閃にBADDASは反応するが、振るおうと動かした杖をブレアは力を籠めて無理矢理に押さえ込んだ。一条の光がBADDASに直撃する。
「むっ……」
 その時、BADDASは初めて顔を一瞬だけ顰めた。
「やっぱり。爺さん、アンタ魔法に弱いな?」
 デルフィーノの放った機導砲はBADDASの肩に当たっていた。その部分の外套が破け、露出した肌からシュウッと黒い瘴気のような煙が上がっている。
 BADDASはデルフィーノの言葉には返事を返さず、ニィと笑みを浮かべた。
「そうか。皆、魔法で攻撃できる人は備えてて。隙はボクが作るから!」
 ファリフはそう言うと、体にマテリアルを巡らせてまた獣の如くBADDASに喰らいつく。
「……諦めない」
 ガントンファーを構えなおしたシュメルツもファリフそしてブレアと共にBADDASに攻撃をしかける。
 だがまた掻き鳴らされるギターの音。それと共に前衛が押し戻される。
「セッションしよーぜ、クソジジイ」
 そこに穴を埋めるためレウィルが接近する。黒い瘴気で腕の動きを隠し一撃を。そう思い振るった一撃だった、が。刀を握るその腕をBADDASは掴み取った。
「なっ、見切られた!?」
「何を驚いている? 見えていたぞ、お前の攻撃は」
 呆れたようなもの言い。そしてBADDASはレウィルの腕を掴んだまま、そこから強引にマテリアルの奪い取る。
「ぐあああぁぁぁ!?」
 内臓を掻き回されるような痛みにレウィルは苦悶の叫びをあげる。
「あかんっ、ファルシャード!」
 アカーシャがその名を呼ぶと同時に、上空で待機していたイヌワシが急降下しその身に纏うマテリアルをBADDASに叩き込む。その一撃でBADDASの動きが僅かに止まり、掴んでいたレウィルの腕を放す。
 その瞬間を狙い、マテリアルを魔法の力へと変換したハンター達の攻撃が連続してBADDASを襲う。
「どうだぁ! 響いたかぁ!」
 最後に、ワイヤーの一閃がBADDASの胸元に一本の傷を作り出す。
「……ククッ、熱いもの持ってるじゃねぇか。気に入った」
 その時、BADDASから吹き出る圧力の質が変わった。それは今までの圧力が生温いと感じるくらいに、凶悪なものへと変質していく。
「まさか、今まで本気を出していなかったのですか……」
 天斗の言葉通りなのか、BADDASの体に刻まれていた傷は急速に塞がっていく。
「さあ、もっと熱いロックを――」
 BADDASの負のマテリアルが限界を超え爆発しようとしたその瞬間、突然この場に静寂が訪れた。
「音が、止まった?」
 広場中で鳴り響いていたロックな音楽が止まったのだ。今まで耳を劈くように掻き鳴らされていた音が嘘のように消え、幻聴なのかキーンと耳が痛くなるような静寂がその場に訪れた。
「一曲終わってしまったか。キキ、アンコールはないのか?」
 BADDASは後ろに振り返りキリンのキキに話しかける。その体からは先ほどまで感じていた凶悪な圧力が既になくなっていた。
 ずっと大人しくしていたキキは、前脚で地面を数度蹴ると後ろを向いてそのまま林の中へと歩みだしてしまった。
「やれやれ、しょうがない奴だ」
 BADDASはキキのその対応が始めから分かっていた様に、杖を突きながらその後を追うために歩き出す。
「待て! 歪虚があの塔に一体何の用があるっていうの!」
 だがそれを止めるようにファリフが声を掛けて問う。BADDASもそれに応えるように歩みを止め、顔だけ振り返り赤い瞳にファリフを映す。
「決まってる。俺のハートが叫ぶように言っているのさ、あそこに行けば最高のロックを味わえるってな」
 BADDASはそれだけ言うと、キキの後を追いそのまま林の向こうへと姿を消した。後を追うことは出来る、だがファリフ自身は勿論ハンター達ももはや戦える体力は残っていなかった。今は退くしかない、ファリフはそう判断する。
「でも、あいつよりも早く塔に辿り着かないと」
 そうしないと、とても大変なことになる気がする。ファリフは一抹の不安と共に今一度遠くに聳える塔を見上げた。

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MVP一覧

  • 星の慧守
    アカーシャ・ヘルメースka0473
  • 遥かなる未来
    テンシ・アガートka0589

重体一覧

  • 山岳部の集落を救った者
    レウィル=スフェーンka4689

参加者一覧

  • もえもえきゅん
    エハウィイ・スゥ(ka0006
    人間(紅)|17才|女性|聖導士
  • Pクレープ店員
    真田 天斗(ka0014
    人間(蒼)|20才|男性|疾影士
  • 星の慧守
    アカーシャ・ヘルメース(ka0473
    人間(紅)|16才|女性|霊闘士
  • 遥かなる未来
    テンシ・アガート(ka0589
    人間(蒼)|18才|男性|霊闘士
  • 真実を見通す瞳
    八島 陽(ka1442
    人間(蒼)|20才|男性|機導師
  • 誘惑者
    デルフィーノ(ka1548
    エルフ|27才|男性|機導師
  • 無情なる拳
    シュメルツ(ka4367
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 山岳部の集落を救った者
    レウィル=スフェーン(ka4689
    人間(紅)|16才|男性|疾影士

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ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/06/21 10:42:19
アイコン 仕事の時間です
真田 天斗(ka0014
人間(リアルブルー)|20才|男性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/06/25 20:24:42