ゲスト
(ka0000)
【聖呪】サチコ・W・ルサスール、邂逅する
マスター:御影堂

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~10人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/30 07:30
- 完成日
- 2015/07/06 20:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
王国北部は今、ゴブリン問題に揺れていた。
活発化、あるいは凶暴化といっても差し支えない動きがゴブリンに見られる。
すでに調査に入っている者もいるというが、北部領主にとってはそれどころではない。
カフェ・W・ルサスールの治めるルサスール領も、この問題に直面していた。
領内へゴブリンが侵入するという事件も、増加の傾向にある。
領民の不安が増す中、カフェはその対応に追われていた。
自警団の再編成、騎士の派遣……自らも視察に出回ることすらある。
何やらルサスール領にとってよくないことが起こっている。
カフェの娘、サチコ・W・ルサスールもそれを感じ取っていた。
彼女は花嫁修業に反発し、ワルサー総帥を名乗って山小屋に住んでいる。
サチコの心は、揺れていた。
「……」
「どうされました、サチコ様?」
普段のサチコなら、高笑いをあげる時間だった。
その後は「ワルサー総帥なのです……だぜ」と自己紹介の練習をしているはずだ。
だが、今日は様子が違った。
「タロ、視察に行きましょう」
いつものはしゃいだ空気はなく、ルサスールの令嬢といった雰囲気を醸し出していた。
いや、ワルサー総帥と名乗っていても令嬢らしくはあるのだが……多分。
「視察……ですか?」
告げられたのは、従者のタロだ。
タロはサチコの真剣な表情に片眉を上げた。
言葉遣いが、「ワルサー総帥」のそれとは違ったからだ。
「えぇ、ゴブリンの話はタロも知っていますわよね?」
「それは……私が持ち帰った話ですから」
返してからタロは「しまった」と思い直した。
サチコはふざけたような態度を取りながらも、領民のことを考える性格である。
何らかの問題が起きていて、じっとしていられる質ではない。
この辺りは、父親に似たのだろう。
「この目で、今、ルサスール領の状況を確認したいのです」
「それは、ワルサー総帥としてですか?」
「いえ」
即答だった。
「サチコ……ワー、ルサスールとしてですわ」
迷いながらも自らルサスールの家名をサチコは口にした。
カフェが聞いたなら嬉しさの余り、卒倒したことだろう。
「……少し時間をください」
タロは迷った。
これは、よい変化だろう……だが、カフェが望んだ変化ではない。
その先にあるのは、淑女として令嬢としての姿ではない。
おそらくは、騎士に近いものだ。
「わかりました。待ちますわ」
しかし、真剣なサチコを無下にするわけにもいかないのだ。
●
「視察程度なら、問題ないだろう」
カフェはすっぱりと告げた。
「ただし、危険がないようハンターを護衛につけることが条件だ」
「わかりました」
タロは結局、サチコに起きている変化について相談はできなかった。
杞憂かもしれないからだ。
従者の相棒であるジロに相談したところ、「静観しよう」といわれた。
「もし、サチコ様が道を選ばれるのなら、そのときはサポートすべきだと思う」
これがジロの答えだった。
タロも同じ気持なのである。それは疑いようもないくらいに……。
●
ルサスール領の領界間際。
複数のゴブリンの姿があった。
中でも、一際目立つ大型のゴブリンがいた。
金属鎧を着こみ、2メートルを超えるオーガのようながっしりとした肉体を持つ。
「……」
自身の体長を超えるバトルアックスを片手に、そいつはルサスール領の方を見ていた。
サチコの視察の日は、近い。
王国北部は今、ゴブリン問題に揺れていた。
活発化、あるいは凶暴化といっても差し支えない動きがゴブリンに見られる。
すでに調査に入っている者もいるというが、北部領主にとってはそれどころではない。
カフェ・W・ルサスールの治めるルサスール領も、この問題に直面していた。
領内へゴブリンが侵入するという事件も、増加の傾向にある。
領民の不安が増す中、カフェはその対応に追われていた。
自警団の再編成、騎士の派遣……自らも視察に出回ることすらある。
何やらルサスール領にとってよくないことが起こっている。
カフェの娘、サチコ・W・ルサスールもそれを感じ取っていた。
彼女は花嫁修業に反発し、ワルサー総帥を名乗って山小屋に住んでいる。
サチコの心は、揺れていた。
「……」
「どうされました、サチコ様?」
普段のサチコなら、高笑いをあげる時間だった。
その後は「ワルサー総帥なのです……だぜ」と自己紹介の練習をしているはずだ。
だが、今日は様子が違った。
「タロ、視察に行きましょう」
いつものはしゃいだ空気はなく、ルサスールの令嬢といった雰囲気を醸し出していた。
いや、ワルサー総帥と名乗っていても令嬢らしくはあるのだが……多分。
「視察……ですか?」
告げられたのは、従者のタロだ。
タロはサチコの真剣な表情に片眉を上げた。
言葉遣いが、「ワルサー総帥」のそれとは違ったからだ。
「えぇ、ゴブリンの話はタロも知っていますわよね?」
「それは……私が持ち帰った話ですから」
返してからタロは「しまった」と思い直した。
サチコはふざけたような態度を取りながらも、領民のことを考える性格である。
何らかの問題が起きていて、じっとしていられる質ではない。
この辺りは、父親に似たのだろう。
「この目で、今、ルサスール領の状況を確認したいのです」
「それは、ワルサー総帥としてですか?」
「いえ」
即答だった。
「サチコ……ワー、ルサスールとしてですわ」
迷いながらも自らルサスールの家名をサチコは口にした。
カフェが聞いたなら嬉しさの余り、卒倒したことだろう。
「……少し時間をください」
タロは迷った。
これは、よい変化だろう……だが、カフェが望んだ変化ではない。
その先にあるのは、淑女として令嬢としての姿ではない。
おそらくは、騎士に近いものだ。
「わかりました。待ちますわ」
しかし、真剣なサチコを無下にするわけにもいかないのだ。
●
「視察程度なら、問題ないだろう」
カフェはすっぱりと告げた。
「ただし、危険がないようハンターを護衛につけることが条件だ」
「わかりました」
タロは結局、サチコに起きている変化について相談はできなかった。
杞憂かもしれないからだ。
従者の相棒であるジロに相談したところ、「静観しよう」といわれた。
「もし、サチコ様が道を選ばれるのなら、そのときはサポートすべきだと思う」
これがジロの答えだった。
タロも同じ気持なのである。それは疑いようもないくらいに……。
●
ルサスール領の領界間際。
複数のゴブリンの姿があった。
中でも、一際目立つ大型のゴブリンがいた。
金属鎧を着こみ、2メートルを超えるオーガのようながっしりとした肉体を持つ。
「……」
自身の体長を超えるバトルアックスを片手に、そいつはルサスール領の方を見ていた。
サチコの視察の日は、近い。
リプレイ本文
●
風雲急を告げる王国北部の騒ぎに、一人の少女の心も動かされていた。
少女の名は、サチコ・W・ルサスール。
北部領ルサスール家の息女にして、ワルワル団ワルサー総帥である。
だが、今は総帥の肩書を脇において、彼女はここにいた。
「サチコさん、最近どうですか? 何か変わった事がありましたか?」
普段と違う表情に、最上 風(ka0891)はそうつついてみる。
出発前にも、ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)が、
「わるわ……」
「皆さん、本日は視察にご同行いただき、ありがとうございます」
「……あれ?」とワルワル団公式挨拶「わるわるさー」をしようとして肩透かしを食らっていた。
今に至るまでサチコは、硬い表情を崩さないでいる。
風の質問にも、
「このあいだの報告を聞きました。私自身、事態を見極めたいと思います」
等と返答していた。
「少し見ねぇうちにイイ面構えになってんじゃねぇか」
そうサチコを見やるのは、ボルディア・コンフラムス(ka0796)である。
「危険な話の絶えぬこの時期の視察……いえ、斯様な状況だからこそでしょうか」
ふと歩調を合わせて、麗奈 三春(ka4744)もサチコに視線をやる。
隣から紅薔薇(ka4766)も、会話に加わる。
「サチコ殿は偉いのう。民の為を思って外敵を排除しようとするとは、乙女の鏡なのじゃ」
「そういうことでございましたら、単なる酔狂ではございませんね」
「やりてぇことが決まってきたってことなら、いいんじゃねぇか」
ボルティアにとっては、サチコの成長が好ましく思えた。
「この変化は、サチコさんにとって良い変化なのでしょうか?」
誰にも聞こえない声で、エルバッハ・リオン(ka2434)が呟く。
変化というのは常に良し悪し、両面の性質を持つものだ。
「今、あれこれ考えても仕方ないですね。依頼達成が今の最優先です」
領界が近づく中、エルは考えを切り替える。
サチコ談義が続く中、シェリー・ポルトゥマ・ディーラ(ka4756)がふと足を止めた。
「あれは……ジェニファー殿」
「まさしくビンゴ、というやつじゃ」
ジェニファー・ラングストン(ka4564)が鋭い視覚で、確認する。
視線の先にいたのは、十数匹のゴブリン達と……一際目立つゴブリンであった。
巨大な上、自身の体躯と合わせた戦斧を担いでいた。
「アレはもはやゴブリンといえるのかわからんな」
ガーレッド・ロアー(ka4994)がシェリーに追いついて、同じ相手を見た。
ゴブリンというよりは、オーガに近い。
表情も肉質も、ゴブリンの枠を大きくはみ出ていた。
「敵影発見、タロさん! ジロさん!」
天竜寺 舞(ka0377)がサチコの従者に告げる。
サチコもその巨大なゴブリンを前に、目を見開いた。
ゴブリンもサチコを見た、視線が合う。
押しつぶされそうな鬼迫を撥ねつけるように、サチコは深く息を吸った。
「皆さん、任せました」
「当たり前! サチコの前でカッコ悪い戦いはできないからね」
「うむ、そのとおりぞ!」
舞に続いてジェニファーも気合を入れる。
巨大なゴブリンが、
「ドンナァアアアアアアアア!!」と雄叫びを上げ、大地を揺らした。
●
雄叫びが収束し、ゴブリンたちの目が変わる。
今にも戦いが始まる……その序曲は、焔だった。
「距離はありますが……いきます」
できるだけ中心を狙い、エルがファイアボールを放つ。
炎弾が前衛を担うゴブリンたちへ襲いかかる。
「地の利はやや向こう側にあるか……が」
ガーレッドはぽつりつぶやくと、隣を疾駆する紅薔薇へエネルギーを与える。
魔導バイクのエンジン音を響かせ、紅薔薇が行く。
後を追って、舞、ボルティア、ヴォーイが馬に乗って続く。
足並みをそろえ、ゴブリンが迫る一歩手前で止まったところへ、矢が降る。
矢を小型の盾で弾きながら、紅薔薇は奥に構える大型ゴブリンへ目をやった。
「……一体だけ、少々面倒な奴がおるのう」
「あいつには、あたしが行ってみるよ」
舞が戦馬の上から声をかける。
ふむ、と紅薔薇が頷く前でエルの炎弾が再び弾けた。
「皆、敵の数が少々多いようじゃ、孤立して囲まれんように気をつけるのじゃよ」
そういいながら、紅薔薇は敵陣に切り込む。
精神を統一したところから、素早く立ち回り周囲の敵を切りつける。
前を固めていたゴブリンの列が乱れた。
先に駆け抜けていったのは、大型ゴブリンを狙う舞。
次いでリーダー格から狙いをつける、ヴォーイとボルティアだ。
「調子にのるんじゃ……ねぇよ!」
自身の乗る戦馬を通して精霊の力を借り受け、ボルティアは戦斧を振るう。
脇腹にやや体躯のいいゴブリンの一撃を受けながら、振り下ろす。
矢も飛んできたが、そちらはいななく戦馬が避けてみせた。
「おら!」と気合一閃、ゴブリンの腕へ切り込む。
「援護するぞよ」
さらにボルティアを狙うゴブリンへ、追いついたジェニファーが銃口を向ける。
攻撃の瞬間、無防備になったところを撃たれジェニファーに視線が向く。
「連携して立ち向かうのじゃ」
睨み返すようにジェニファーは目を合わせるのだった。
逆側では、精鋭らしきゴブリンの攻撃をすり抜け、ヴォーイがリーダー格へ肉薄する。
手痛い一撃を受けながらも、大鎌で切って返す。
「今日はつぶさせねぇぜ」
先日の戦いで、情報源を潰したゴブリンリーダーがいた。
その失敗を糧に、先にヴォーイは切り込んだのだ。
次の攻撃へ移ろうとした時、
「……っ!」
矢が腕を掠め、ゴブリンの大剣が胴部を打った。
一筋縄でいかないか、と呟きながらマテリアルを循環させる。
前線が熱気を帯びる中、サチコに最も近い戦場では三春とシェリーが奮闘していた。
「あくまで攻撃を続けるのでございますね」
エルの炎弾で黒い部分を作りながらも、ゴブリンたちは武器を振り上げる。
「すみやかに対処するといたしましょう」
三春は、最も自身に近いゴブリンへ一気に間合いを詰める。
水平に切り裂けば、ゴブリンの体が大きく揺らぐ。
「囲むつもりで、ございますか?」
二体のゴブリンが同時にダガーを振るう。
ほんの僅かに、脚部を血が伝う。だが、それまでだ。
追撃の矢を太刀で払い落とすと、手近な一体に一太刀浴びせる。続けざまに、身体を反転させもう一体へ刃を切り入れる。
「……っ!?」
ゴブリンの理解が追いつくより前に、エルが三春を外すようにして炎弾を重ねた。
蓄積したダメージにより、一体が地に伏せる。もう一体は光の中へ消えた。
「こっちよりも、あちらを」
「ん?」
光を放ったのは、ガーレッドだ。
三春に促され視線をやれば、シェリーが連携攻撃を受け、負傷していた。
「おっと、一気に駆け下りてきたか」
光が収束し、まだ息の根のあるゴブリンへ三春が踏み込む。
こちら側の多勢は、崩されていた。
その少し前。
シェリーもまた、円を意識した動きの中で、ゴブリンへ斬り掛かっていた。
「さあ……拙者の刀舞、見せたげる!」
まるで舞を躍るような、動きを見せた。
攻防一体のこの動きは、近づいてきたゴブリンをまずは一撫でにする。
「わ、ちょっと」
放たれた一撃を小刀で流そうとして、バランスを崩す。
さらに連携して別の角度から、二体目が斬りかかりに来る。
日本刀で受け止めようとするが、微妙に間に合っていない。
「え」
さらには、弓を持っていたゴブリンも近接戦闘に切り替えていた。
このままでは囲まれる、と思った所でガーレッドが飛び出してきた。
「下がるんだ。一時、引き受ける」
ロボットアームのような拳をつきたて、ガーレッドが告げる。
ガーレッドはシェリーを下がらせると、ゴブリンに近づく。
そして、ゴブリンを引き離すようにそのアームから、機導剣が放たれた。
「しばらく、付き合ってもらおう」
ゴブリンと組手をするように、腕を動かしながらガーレッドは少し笑みを浮かべるのだった。
●
「大丈夫だとは思いますが」
戦端が開かれ、戦いの音が響く。
風はサチコたちとの別れ際、タロとジロをしかりと見上げた。
「何かあったらタロさん、ジロさん。サチコさんはお任せしますよ?」
当然、二人ならそうするだろう。返事を待たず、風も丘の根本へ向かう。
シェリーがちょうど、戦線から下がってきたところだった。
「おや、あれは」
ふと丘の上の方を見上げ、風が目を見開く。
舞がゆっくりと丘を、転がってきたのだ。起点に合ったのは、地面に崩れ落ちる戦馬の姿。
そして、斧を振り切り、悠然と構え直す、大型ゴブリンの姿であった。
「舞殿……何がおきたんだ?」
「油断した」
重体には至っていないらしく、舞はゆっくりと起き上がる。
戦闘を続行できるだけの力は残っているらしい。
「とりあえずー」
風が二人を見て告げる。
「回復しますよー。皆さん、もっと密着して下さい、お互いの吐息を感じるくらいに」
風がゆったりと、ヒーリングスフィアを展開した。
その間に舞の身に何が起こったのかを説明しよう。
エルの炎弾が散らし、紅薔薇が開いた戦場を舞はまっすぐに大型ゴブリンまで駆けて行った。
戦馬に乗っているはずだというのに、ゴブリンは頭ひとつ飛び抜けていた。
「……試させてもらうよ」
間合いまで最後の一歩を踏み切ると同時に、舞はゴブリンを切り払った。
構えから動きに隙を見せない一撃である。
冴え渡った、剣筋はそうそうに避けられるはずがなかった。
事実、そのゴブリンは避けなかった。
「……~っ!」
叫びも上げなかった。声を出したのは、舞の方である。
合わせたように、どでかい斧が舞の切っ先に覆いかぶさった。
痺れが刃先から指先を伝わり、腕全体に奔ったのだ。
「見た目通りのパワータイプ……」
感想を零した時、ゴブリンの口に笑みが浮かんだ。
悪寒が走る。馬が急に暴れ、思わず舞は手綱を離した。
同時に風が巻き起こり、舞は丘の下へ飛ばされたのである。
「ドンナァアアアアア」
不甲斐ない部下を叱咤するように、大型ゴブリンは叫びを上げた。
叫びの残響が消えるのと同時に、馬の首が地面に落ちる。
「フンッ」と鼻で笑いながら、馬の頭を掴むと大型ゴブリンは先に去っていった。
「ふむん、逃げたかのう? いや、アレはただ去っただけじゃな」
その様子を見て、紅薔薇はぽつりと零すのだった。
●
残されたゴブリンたちの目つきが変わる。
「回復したなら、れっつごー!」
状況を見て素早くヒールスフィアを重ねがけし、風が二人を送り出す。
馬をなくした舞はガーレッドが押さえていたゴブリンにまずは相対する。
シェリーと連携して、斬りかかる。
「混戦気味ですわね」
多勢に無勢から、同等数へ次第に近づく。
エルは魔法をファイアーボールから切り替えていた。
射線に注意し稲妻を走らせる。
「まだ、やる気なのかい?」
劣勢とわかってなお、襲い掛かってくるゴブリンにシェリーは問う。
答えは、刃であった。
三春は二人が戻ってきたのを確認すると、自分側の残り一体へとどめを刺した。
深々と刺さった太刀を抜き去り、ヴォーイの応援へ向かう。
リーダー級を引き受けていたヴォーイは、自己治癒も辛くなっていた。
「きっついねぇ! でも、それはお互い様だ!」
騎乗している重騎馬とシンクロし、魔力を帯びさせる。
そのままリーダー格への突撃、反撃の剣は大鎌で捌く。
「助太刀でございます」
攻撃を避け、よろめいていたリーダー級へ三春の刃が襲い掛かる。
脚元へ横薙ぎに一撃。
ヴォーイに、削られていたダメージが着実に効いていた。
動きが止まる。反撃の手が動かない。
ゴブリンリーダーの目には、馬の蹄が飛び込んで来た。
「あと、一体!」
残るもう一体のリーダーへ、ヴォーイが切っ先を向ける。
「お」
すでに紅薔薇がリーダーに対して、熾烈な攻撃を浴びせていた。
強力な剣の舞に、リーダーへの道筋を阻んでいた精鋭が蹴散らされたからだ。
残る精鋭はニ体。
「これで、どうだ!」
そのうち、一体目の精鋭を蹴散らしたボルティアは、二体目に苦慮していた。
最後の一撃が決まらない。
ジェニファーの射撃も援護しているが、悪あがきが過ぎていた。
「もういっちょ」
ボルティアが大振りに戦斧を振り回す。
だが、空を切る。ゴブリンはなんとか刃先すれすれで耐えていた。
「終わりじゃ」
不意にジェニファーの声が聞こえた。
同時にゴブリンが、前のめりに倒れる。背中には袈裟斬りに傷が残されていた。
「最後くらい、パッと決めなければのう」
余裕をなくしたゴブリンを、ジェニファーは無駄のない動きで斬り掛かったのだ。
「よし、行くか」
ボルティアは息も絶え絶えになっていたリーダー級へゆっくりと馬を差し向ける。
紅薔薇の攻撃に、リーダー級はボロボロになっていた。
一太刀浴びせ、さらに一太刀。
「はい、そこまで」
ボルティアの声に、紅薔薇は刀を止める。
「なんじゃ?」
「情報が聞き出せそうなら、それにこしたことはないからな」
「ふむ」
馬を降り、斧をあてがいながらボルティアは尋ねる。
その後ろをヴォーイが通って行った。
彼の狙いは、より雑魚で、口の軽そうなゴブリンだ。
●
結果から言えば、人語を操るゴブリンはいなかった。
そして、ゴブリンの言葉がわかる者もいなかった。
「自害するとは……」
ジェニファーが顔をしかめる。
リーダー級のゴブリンは、自分の状況を悟ると自ら刃を喉元に突き立てた。
一方で、ヴォーイは手下ゴブリンを捕縛していた。
「言葉のわかるやつのところへ……」
連れて行けば何かわかるかもしれない。
だが、不意に、あのドンナァという叫び声が風に混じって聞こえたのだ。
表情が変わり身構えるハンターたちの中心で、声を聞いたゴブリンは、舌を噛み切っていた。
「次元の彼方でまた会おう!」
人差し指と中指を立て、目尻に添えながらガーレッドが丘に告げる。
後味の悪さをガーレッドが晴らし、ハンターたちはサチコの下へ戻っていった。
●
「ワルサー総帥をやめたくなった?」
舞は帰り道、サチコに不意に問いかけた。
サチコは硬い表情を変えず、黙していた。
「見当違いのことを言ってたら御免。でもさ、決めるのはあんただから。悩んで迷って答えを出したらいいよ。もしそれが間違ってたなら、ぶん殴ってでも、引き戻してあげるから」
「……舞さん」
「友達だからね」
少し驚いた様子のサチコに、舞は笑ってみせる。
「そうそう、何を迷っておるかは知らんが」
紅薔薇も言葉を重ねる。
「後悔することだけはしないほうがいいと思うのじゃ」
できる、できないではなく、とサチコの目を見る。
「自分が何をしたいのか。それが重要ではないかのう」
「きっとお前にしかできねぇ大事な仕事があるはずだよ。精一杯やってみやがれ、サチコ・W・ルサスール」
ボルティアもサチコに笑いかける。
どうしたいのか、という問いにはまだ答えない。
何にせよ、とヴォーイはサチコの正面に回る。
「ンな顔でさ、領民は幸せに……笑顔になれんのかな?」
サチコの頬をぐにっと引っ張って、続ける。
「一人の笑顔はみんなの笑顔も士気も呼んでくれる。だから俺はにっこり笑うのさ」
「はにゃしてくだしゃい……」
「何かあったら、風たちが駆けつけますから」
柄にもなくそんなことをいう風の手は、円マークを作っていた。
本心は藪の中である。
「そうですわね……私も笑顔を……」といいながらサチコは笑みを作る。
「とりあえず全滅させたのじゃが、去った奴のことを思えば、またここが戦場になるかもしれんのぅ」
「今後なにかあるかもだし、警戒はしておいた方がよさそうかな?」
後方で紅薔薇とシェリーが会話を交わす。
気がかりは、やはり大型のゴブリンのことだ。
「杞憂ではございませんね」
「大型ゴブリンは、より北側へ向かったようですが……より詳しいことは調査をしないといけませんね」
三春やエルも混じえて、談義する。
推測が尽きない中、ジェニファーがいう。
「いずれにせよ、向かってくるなら精鋭ハンターで連携するのみじゃ」
「そうじゃな」
ドンナァと雄叫びを上げる、大型ゴブリン。
奴が再び現れる時、それは王国北部に本格的に暗雲が立ち込めるときなのかもしれない……。
風雲急を告げる王国北部の騒ぎに、一人の少女の心も動かされていた。
少女の名は、サチコ・W・ルサスール。
北部領ルサスール家の息女にして、ワルワル団ワルサー総帥である。
だが、今は総帥の肩書を脇において、彼女はここにいた。
「サチコさん、最近どうですか? 何か変わった事がありましたか?」
普段と違う表情に、最上 風(ka0891)はそうつついてみる。
出発前にも、ヴォーイ・スマシェストヴィエ(ka1613)が、
「わるわ……」
「皆さん、本日は視察にご同行いただき、ありがとうございます」
「……あれ?」とワルワル団公式挨拶「わるわるさー」をしようとして肩透かしを食らっていた。
今に至るまでサチコは、硬い表情を崩さないでいる。
風の質問にも、
「このあいだの報告を聞きました。私自身、事態を見極めたいと思います」
等と返答していた。
「少し見ねぇうちにイイ面構えになってんじゃねぇか」
そうサチコを見やるのは、ボルディア・コンフラムス(ka0796)である。
「危険な話の絶えぬこの時期の視察……いえ、斯様な状況だからこそでしょうか」
ふと歩調を合わせて、麗奈 三春(ka4744)もサチコに視線をやる。
隣から紅薔薇(ka4766)も、会話に加わる。
「サチコ殿は偉いのう。民の為を思って外敵を排除しようとするとは、乙女の鏡なのじゃ」
「そういうことでございましたら、単なる酔狂ではございませんね」
「やりてぇことが決まってきたってことなら、いいんじゃねぇか」
ボルティアにとっては、サチコの成長が好ましく思えた。
「この変化は、サチコさんにとって良い変化なのでしょうか?」
誰にも聞こえない声で、エルバッハ・リオン(ka2434)が呟く。
変化というのは常に良し悪し、両面の性質を持つものだ。
「今、あれこれ考えても仕方ないですね。依頼達成が今の最優先です」
領界が近づく中、エルは考えを切り替える。
サチコ談義が続く中、シェリー・ポルトゥマ・ディーラ(ka4756)がふと足を止めた。
「あれは……ジェニファー殿」
「まさしくビンゴ、というやつじゃ」
ジェニファー・ラングストン(ka4564)が鋭い視覚で、確認する。
視線の先にいたのは、十数匹のゴブリン達と……一際目立つゴブリンであった。
巨大な上、自身の体躯と合わせた戦斧を担いでいた。
「アレはもはやゴブリンといえるのかわからんな」
ガーレッド・ロアー(ka4994)がシェリーに追いついて、同じ相手を見た。
ゴブリンというよりは、オーガに近い。
表情も肉質も、ゴブリンの枠を大きくはみ出ていた。
「敵影発見、タロさん! ジロさん!」
天竜寺 舞(ka0377)がサチコの従者に告げる。
サチコもその巨大なゴブリンを前に、目を見開いた。
ゴブリンもサチコを見た、視線が合う。
押しつぶされそうな鬼迫を撥ねつけるように、サチコは深く息を吸った。
「皆さん、任せました」
「当たり前! サチコの前でカッコ悪い戦いはできないからね」
「うむ、そのとおりぞ!」
舞に続いてジェニファーも気合を入れる。
巨大なゴブリンが、
「ドンナァアアアアアアアア!!」と雄叫びを上げ、大地を揺らした。
●
雄叫びが収束し、ゴブリンたちの目が変わる。
今にも戦いが始まる……その序曲は、焔だった。
「距離はありますが……いきます」
できるだけ中心を狙い、エルがファイアボールを放つ。
炎弾が前衛を担うゴブリンたちへ襲いかかる。
「地の利はやや向こう側にあるか……が」
ガーレッドはぽつりつぶやくと、隣を疾駆する紅薔薇へエネルギーを与える。
魔導バイクのエンジン音を響かせ、紅薔薇が行く。
後を追って、舞、ボルティア、ヴォーイが馬に乗って続く。
足並みをそろえ、ゴブリンが迫る一歩手前で止まったところへ、矢が降る。
矢を小型の盾で弾きながら、紅薔薇は奥に構える大型ゴブリンへ目をやった。
「……一体だけ、少々面倒な奴がおるのう」
「あいつには、あたしが行ってみるよ」
舞が戦馬の上から声をかける。
ふむ、と紅薔薇が頷く前でエルの炎弾が再び弾けた。
「皆、敵の数が少々多いようじゃ、孤立して囲まれんように気をつけるのじゃよ」
そういいながら、紅薔薇は敵陣に切り込む。
精神を統一したところから、素早く立ち回り周囲の敵を切りつける。
前を固めていたゴブリンの列が乱れた。
先に駆け抜けていったのは、大型ゴブリンを狙う舞。
次いでリーダー格から狙いをつける、ヴォーイとボルティアだ。
「調子にのるんじゃ……ねぇよ!」
自身の乗る戦馬を通して精霊の力を借り受け、ボルティアは戦斧を振るう。
脇腹にやや体躯のいいゴブリンの一撃を受けながら、振り下ろす。
矢も飛んできたが、そちらはいななく戦馬が避けてみせた。
「おら!」と気合一閃、ゴブリンの腕へ切り込む。
「援護するぞよ」
さらにボルティアを狙うゴブリンへ、追いついたジェニファーが銃口を向ける。
攻撃の瞬間、無防備になったところを撃たれジェニファーに視線が向く。
「連携して立ち向かうのじゃ」
睨み返すようにジェニファーは目を合わせるのだった。
逆側では、精鋭らしきゴブリンの攻撃をすり抜け、ヴォーイがリーダー格へ肉薄する。
手痛い一撃を受けながらも、大鎌で切って返す。
「今日はつぶさせねぇぜ」
先日の戦いで、情報源を潰したゴブリンリーダーがいた。
その失敗を糧に、先にヴォーイは切り込んだのだ。
次の攻撃へ移ろうとした時、
「……っ!」
矢が腕を掠め、ゴブリンの大剣が胴部を打った。
一筋縄でいかないか、と呟きながらマテリアルを循環させる。
前線が熱気を帯びる中、サチコに最も近い戦場では三春とシェリーが奮闘していた。
「あくまで攻撃を続けるのでございますね」
エルの炎弾で黒い部分を作りながらも、ゴブリンたちは武器を振り上げる。
「すみやかに対処するといたしましょう」
三春は、最も自身に近いゴブリンへ一気に間合いを詰める。
水平に切り裂けば、ゴブリンの体が大きく揺らぐ。
「囲むつもりで、ございますか?」
二体のゴブリンが同時にダガーを振るう。
ほんの僅かに、脚部を血が伝う。だが、それまでだ。
追撃の矢を太刀で払い落とすと、手近な一体に一太刀浴びせる。続けざまに、身体を反転させもう一体へ刃を切り入れる。
「……っ!?」
ゴブリンの理解が追いつくより前に、エルが三春を外すようにして炎弾を重ねた。
蓄積したダメージにより、一体が地に伏せる。もう一体は光の中へ消えた。
「こっちよりも、あちらを」
「ん?」
光を放ったのは、ガーレッドだ。
三春に促され視線をやれば、シェリーが連携攻撃を受け、負傷していた。
「おっと、一気に駆け下りてきたか」
光が収束し、まだ息の根のあるゴブリンへ三春が踏み込む。
こちら側の多勢は、崩されていた。
その少し前。
シェリーもまた、円を意識した動きの中で、ゴブリンへ斬り掛かっていた。
「さあ……拙者の刀舞、見せたげる!」
まるで舞を躍るような、動きを見せた。
攻防一体のこの動きは、近づいてきたゴブリンをまずは一撫でにする。
「わ、ちょっと」
放たれた一撃を小刀で流そうとして、バランスを崩す。
さらに連携して別の角度から、二体目が斬りかかりに来る。
日本刀で受け止めようとするが、微妙に間に合っていない。
「え」
さらには、弓を持っていたゴブリンも近接戦闘に切り替えていた。
このままでは囲まれる、と思った所でガーレッドが飛び出してきた。
「下がるんだ。一時、引き受ける」
ロボットアームのような拳をつきたて、ガーレッドが告げる。
ガーレッドはシェリーを下がらせると、ゴブリンに近づく。
そして、ゴブリンを引き離すようにそのアームから、機導剣が放たれた。
「しばらく、付き合ってもらおう」
ゴブリンと組手をするように、腕を動かしながらガーレッドは少し笑みを浮かべるのだった。
●
「大丈夫だとは思いますが」
戦端が開かれ、戦いの音が響く。
風はサチコたちとの別れ際、タロとジロをしかりと見上げた。
「何かあったらタロさん、ジロさん。サチコさんはお任せしますよ?」
当然、二人ならそうするだろう。返事を待たず、風も丘の根本へ向かう。
シェリーがちょうど、戦線から下がってきたところだった。
「おや、あれは」
ふと丘の上の方を見上げ、風が目を見開く。
舞がゆっくりと丘を、転がってきたのだ。起点に合ったのは、地面に崩れ落ちる戦馬の姿。
そして、斧を振り切り、悠然と構え直す、大型ゴブリンの姿であった。
「舞殿……何がおきたんだ?」
「油断した」
重体には至っていないらしく、舞はゆっくりと起き上がる。
戦闘を続行できるだけの力は残っているらしい。
「とりあえずー」
風が二人を見て告げる。
「回復しますよー。皆さん、もっと密着して下さい、お互いの吐息を感じるくらいに」
風がゆったりと、ヒーリングスフィアを展開した。
その間に舞の身に何が起こったのかを説明しよう。
エルの炎弾が散らし、紅薔薇が開いた戦場を舞はまっすぐに大型ゴブリンまで駆けて行った。
戦馬に乗っているはずだというのに、ゴブリンは頭ひとつ飛び抜けていた。
「……試させてもらうよ」
間合いまで最後の一歩を踏み切ると同時に、舞はゴブリンを切り払った。
構えから動きに隙を見せない一撃である。
冴え渡った、剣筋はそうそうに避けられるはずがなかった。
事実、そのゴブリンは避けなかった。
「……~っ!」
叫びも上げなかった。声を出したのは、舞の方である。
合わせたように、どでかい斧が舞の切っ先に覆いかぶさった。
痺れが刃先から指先を伝わり、腕全体に奔ったのだ。
「見た目通りのパワータイプ……」
感想を零した時、ゴブリンの口に笑みが浮かんだ。
悪寒が走る。馬が急に暴れ、思わず舞は手綱を離した。
同時に風が巻き起こり、舞は丘の下へ飛ばされたのである。
「ドンナァアアアアア」
不甲斐ない部下を叱咤するように、大型ゴブリンは叫びを上げた。
叫びの残響が消えるのと同時に、馬の首が地面に落ちる。
「フンッ」と鼻で笑いながら、馬の頭を掴むと大型ゴブリンは先に去っていった。
「ふむん、逃げたかのう? いや、アレはただ去っただけじゃな」
その様子を見て、紅薔薇はぽつりと零すのだった。
●
残されたゴブリンたちの目つきが変わる。
「回復したなら、れっつごー!」
状況を見て素早くヒールスフィアを重ねがけし、風が二人を送り出す。
馬をなくした舞はガーレッドが押さえていたゴブリンにまずは相対する。
シェリーと連携して、斬りかかる。
「混戦気味ですわね」
多勢に無勢から、同等数へ次第に近づく。
エルは魔法をファイアーボールから切り替えていた。
射線に注意し稲妻を走らせる。
「まだ、やる気なのかい?」
劣勢とわかってなお、襲い掛かってくるゴブリンにシェリーは問う。
答えは、刃であった。
三春は二人が戻ってきたのを確認すると、自分側の残り一体へとどめを刺した。
深々と刺さった太刀を抜き去り、ヴォーイの応援へ向かう。
リーダー級を引き受けていたヴォーイは、自己治癒も辛くなっていた。
「きっついねぇ! でも、それはお互い様だ!」
騎乗している重騎馬とシンクロし、魔力を帯びさせる。
そのままリーダー格への突撃、反撃の剣は大鎌で捌く。
「助太刀でございます」
攻撃を避け、よろめいていたリーダー級へ三春の刃が襲い掛かる。
脚元へ横薙ぎに一撃。
ヴォーイに、削られていたダメージが着実に効いていた。
動きが止まる。反撃の手が動かない。
ゴブリンリーダーの目には、馬の蹄が飛び込んで来た。
「あと、一体!」
残るもう一体のリーダーへ、ヴォーイが切っ先を向ける。
「お」
すでに紅薔薇がリーダーに対して、熾烈な攻撃を浴びせていた。
強力な剣の舞に、リーダーへの道筋を阻んでいた精鋭が蹴散らされたからだ。
残る精鋭はニ体。
「これで、どうだ!」
そのうち、一体目の精鋭を蹴散らしたボルティアは、二体目に苦慮していた。
最後の一撃が決まらない。
ジェニファーの射撃も援護しているが、悪あがきが過ぎていた。
「もういっちょ」
ボルティアが大振りに戦斧を振り回す。
だが、空を切る。ゴブリンはなんとか刃先すれすれで耐えていた。
「終わりじゃ」
不意にジェニファーの声が聞こえた。
同時にゴブリンが、前のめりに倒れる。背中には袈裟斬りに傷が残されていた。
「最後くらい、パッと決めなければのう」
余裕をなくしたゴブリンを、ジェニファーは無駄のない動きで斬り掛かったのだ。
「よし、行くか」
ボルティアは息も絶え絶えになっていたリーダー級へゆっくりと馬を差し向ける。
紅薔薇の攻撃に、リーダー級はボロボロになっていた。
一太刀浴びせ、さらに一太刀。
「はい、そこまで」
ボルティアの声に、紅薔薇は刀を止める。
「なんじゃ?」
「情報が聞き出せそうなら、それにこしたことはないからな」
「ふむ」
馬を降り、斧をあてがいながらボルティアは尋ねる。
その後ろをヴォーイが通って行った。
彼の狙いは、より雑魚で、口の軽そうなゴブリンだ。
●
結果から言えば、人語を操るゴブリンはいなかった。
そして、ゴブリンの言葉がわかる者もいなかった。
「自害するとは……」
ジェニファーが顔をしかめる。
リーダー級のゴブリンは、自分の状況を悟ると自ら刃を喉元に突き立てた。
一方で、ヴォーイは手下ゴブリンを捕縛していた。
「言葉のわかるやつのところへ……」
連れて行けば何かわかるかもしれない。
だが、不意に、あのドンナァという叫び声が風に混じって聞こえたのだ。
表情が変わり身構えるハンターたちの中心で、声を聞いたゴブリンは、舌を噛み切っていた。
「次元の彼方でまた会おう!」
人差し指と中指を立て、目尻に添えながらガーレッドが丘に告げる。
後味の悪さをガーレッドが晴らし、ハンターたちはサチコの下へ戻っていった。
●
「ワルサー総帥をやめたくなった?」
舞は帰り道、サチコに不意に問いかけた。
サチコは硬い表情を変えず、黙していた。
「見当違いのことを言ってたら御免。でもさ、決めるのはあんただから。悩んで迷って答えを出したらいいよ。もしそれが間違ってたなら、ぶん殴ってでも、引き戻してあげるから」
「……舞さん」
「友達だからね」
少し驚いた様子のサチコに、舞は笑ってみせる。
「そうそう、何を迷っておるかは知らんが」
紅薔薇も言葉を重ねる。
「後悔することだけはしないほうがいいと思うのじゃ」
できる、できないではなく、とサチコの目を見る。
「自分が何をしたいのか。それが重要ではないかのう」
「きっとお前にしかできねぇ大事な仕事があるはずだよ。精一杯やってみやがれ、サチコ・W・ルサスール」
ボルティアもサチコに笑いかける。
どうしたいのか、という問いにはまだ答えない。
何にせよ、とヴォーイはサチコの正面に回る。
「ンな顔でさ、領民は幸せに……笑顔になれんのかな?」
サチコの頬をぐにっと引っ張って、続ける。
「一人の笑顔はみんなの笑顔も士気も呼んでくれる。だから俺はにっこり笑うのさ」
「はにゃしてくだしゃい……」
「何かあったら、風たちが駆けつけますから」
柄にもなくそんなことをいう風の手は、円マークを作っていた。
本心は藪の中である。
「そうですわね……私も笑顔を……」といいながらサチコは笑みを作る。
「とりあえず全滅させたのじゃが、去った奴のことを思えば、またここが戦場になるかもしれんのぅ」
「今後なにかあるかもだし、警戒はしておいた方がよさそうかな?」
後方で紅薔薇とシェリーが会話を交わす。
気がかりは、やはり大型のゴブリンのことだ。
「杞憂ではございませんね」
「大型ゴブリンは、より北側へ向かったようですが……より詳しいことは調査をしないといけませんね」
三春やエルも混じえて、談義する。
推測が尽きない中、ジェニファーがいう。
「いずれにせよ、向かってくるなら精鋭ハンターで連携するのみじゃ」
「そうじゃな」
ドンナァと雄叫びを上げる、大型ゴブリン。
奴が再び現れる時、それは王国北部に本格的に暗雲が立ち込めるときなのかもしれない……。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/26 22:16:44 |
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相談卓 最上 風(ka0891) 人間(リアルブルー)|10才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/06/29 21:54:12 |