ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】あなたに花を
マスター:樹シロカ

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~2人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/26 12:00
- 完成日
- 2015/07/10 01:20
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
扉を開くと、甘い花の香りが身体を包みこむ。
「ああ、急にお呼び立てしてすみません。どうぞお入りください」
こちらを振り向いたのはジェオルジの若き領主、セスト・ジェオルジ(kz0034)だ。
丸太を組んだ小屋の中は外よりも少し涼しい。よく見れば大きな氷があちらこちらに置かれている。そしてそれ以外の場所は、ほとんどが色とりどりの花に埋め尽くされていたのだ。
「ご覧の通りの状態です。お願いできますか?」
普段あまり表情を変えないセストが、白く可憐な花を揺らしているデージーを見て僅かに顔を曇らせている。
春郷祭に参加していたハンター達にこっそりと依頼されたのは、この花々の処分だった。
処分という言葉は不穏だが、要するに今回の祭を彩るために集めた花がかなり余ってしまったので、枯らしてしまう位なら配ってしまおうということになった訳だ。
もちろん、集まったお客に配れば大いに喜ばれるだろう。その手伝いが依頼の内容だった。
「余り数はありませんが、珍しい花もあります。使い道はお任せしますので、どうぞ宜しくお願い致します」
僕も少しは手伝いますので、とセストがつけ加えた。
扉を開くと、甘い花の香りが身体を包みこむ。
「ああ、急にお呼び立てしてすみません。どうぞお入りください」
こちらを振り向いたのはジェオルジの若き領主、セスト・ジェオルジ(kz0034)だ。
丸太を組んだ小屋の中は外よりも少し涼しい。よく見れば大きな氷があちらこちらに置かれている。そしてそれ以外の場所は、ほとんどが色とりどりの花に埋め尽くされていたのだ。
「ご覧の通りの状態です。お願いできますか?」
普段あまり表情を変えないセストが、白く可憐な花を揺らしているデージーを見て僅かに顔を曇らせている。
春郷祭に参加していたハンター達にこっそりと依頼されたのは、この花々の処分だった。
処分という言葉は不穏だが、要するに今回の祭を彩るために集めた花がかなり余ってしまったので、枯らしてしまう位なら配ってしまおうということになった訳だ。
もちろん、集まったお客に配れば大いに喜ばれるだろう。その手伝いが依頼の内容だった。
「余り数はありませんが、珍しい花もあります。使い道はお任せしますので、どうぞ宜しくお願い致します」
僕も少しは手伝いますので、とセストがつけ加えた。
リプレイ本文
●
扉を開くと花の香りが押し寄せる。
日浦・知々田・雄拝(ka2796)はそれを楽しむように目を細めた。
「花を貰って嬉しくない人はいないと思うけど。ふふ……どうせなら思い切りロマンチックに仕立てて見せるわ!」
早速、小屋の中を見て回る。
アルカ・ブラックウェル(ka0790)は思わず声を上げた。
「うっわ~! こんなに色んな花があるなんて凄いや……」
すぐ傍で揺れる花にそっと手を差し伸べる。俯く白い頬を縁取る長い金色の髪が、さらりと肩から流れ落ちた。
その姿に、付き従う家令のリステル=胤・エウゼン(ka3785)はそっと目頭を押さえる。
(そうやって花の中に佇んでおられれば、嬢様も立派な淑女にも見えるというものです)
何やら色々苦労があるようだ。
が。
「綺麗だし香りも良いし……おっとヨダレが」
無情にも口元を拭うアルカ。
不意に振り向き、能面の様な顔になっているリステルに無邪気に笑いかけた。
「えへ、今日はツヅキと一緒だから心強いな♪」
「……全力でサポート致します。なんなりとお申しつけを」
リステルの表情が和らいだ。
ルーキフェル・ハーツ(ka1064)とウェスペル・ハーツ(ka1065)の双子の兄弟は、そろって小屋の中をきょろきょろと見渡した。
「こんなにたくさんの花を見るのは初めてだおー!」
「おっきなお花畑みたいなの、すおいの!」
ふたりの守役のアルヴィース・シマヅ(ka2830)は、温厚な笑みで後に続く。
「折角咲いた花々ですからな、一つ残らず役目を全うさせてやりましょう」
「まっとうするなの! お花はひとつも無駄にしないなの!!」
小鼻を膨らませるウェスペルに、ルーキフェルも拳を握る。
「たくさんのお客さんにお花を配りますお! それからどうせなら「わー!」って喜んでもらうのですお!」
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)がくすくすと笑った。
「張り切ってるわね。私も頑張らなくちゃね?」
そうしてつかまえた相手は、セストである。
「とりあえず、ここにある花のリストはない?」
「……少しお待ちください」
袖を引いて顔を近づけると、殆ど反射的にセストは身を引く。エーミが唐突に尋ねた。
「そういえば、領主様は女性が苦手?」
セストもエーミの直球勝負に多少は慣れつつあったが、流石にこの質問にはたじろぐしかない。
「苦手というか、何と言いますか……」
セストは言葉を探るように眉を寄せる。
(あ、そうか)
エーミが何かを思いついた。
花のリストと各自の提案を照らし合わせた話し合いが始まる。
「フラワーティーはどうかな? それからジャムだったら沢山花びらを使うと思うんだ! どうかな?」
アルカの提案は、食材にしてしまうことだった。
「ジャムならバラやスミレがいいんだけど」
「残念ながら、ちょっと難しそうね。全部を使ってしまうわけにもいかないし」
エーミがリストを眺めてつぶやいた。バラなどは花束にも大量に必要になるだろう。
アルカは気にする様子もなく笑って見せる。
「ああ、そういえばそうだね! じゃあカモミールやラベンダーを使ったフラワーティーはどうかな」
「そうですね、カモミールは心を落ち着かせる効果があると聞きます。それから……」
饒舌にセストが語り始め、エーミはくすくすと笑う。
「ごめんなさいね。薬効は色々あるにしても、どちらかといえば花は食卓に飾って、見て楽しんでもらう方がいいわ」
いつも物静かなビスマ・イリアス(ka1701)が、それを聞いて小さく笑った。
「失礼。だが折角これだけ美しく咲いた花だ、全てをむしってしまうのは確かに勿体ないとも思うからな」
何かを懐かしむように、緑の瞳が花を映している。
「まぁ人はタダという響きに弱い、お好きにどうぞと言われれば喜んで手に取るだろうとは思う」
だが、とビスマは考え込む。
「ただ多くの人に興味を持ってもらうには、コーディネイトを競うように飾り、どれを持ち帰るかは相手の感性に委ねるというというのもいいのではないかと思う」
「じゃあ幾つか見本を作ってみるわね?」
知々田が悪戯っ子のように目を輝かせた。
「……花に想いを込める、か……」
ぽつりとつぶやいたミルティア・ミルティエラ(ka0155)の横顔を、アニス・エリダヌス(ka2491)がそっと窺った。
●
ミルティアは花々の間をふらふらと彷徨う。
ふと黄金色に輝くバラに手を伸ばした、その瞬間。
「痛ッ……!」
引っ込めた指先には、赤い血が滲んでいた。
「はは……なんだかバラに叱られたみたいだよね。何考えてるんだか……そう言うのは、込めちゃ、駄目って……」
ミルティアの『想い』は苦い。遠い過去の記憶。美しい憧れは無残に散っていった。
だがミルティアは何かを振り切るように顔を上げてアニスに笑いかける。
「この辺りのを花束にしてみようか!」
花売り娘でもあるアニスは、可愛らしいフリルリボンを用意していた。並んで長椅子に掛けて、花を束ね始める。
暫くしてミルティアが語り始めた。
「つまんない話だけどきいてくれる? ……ボクさ、好きな人がいたんだ、結構前の話だよ?」
アニスは黙って頷く。
「その好きな人が……幸せそうにさ、金持ちの妾みたいな事してて、さ……」
ミルティアは迷った。相手の『幸せ』が長く続くことを祈るべきか、それともまやかしだと手折るべきか。
「……駄目だね、綺麗な心でブーケにしてあげないと、花が、可哀想だよね……?」
ミニブーケの花に使ったのは蘭菊。忘れ得ぬ思い、そして悩みが心の中に色褪せることなく咲き続けているように。
「……憎しみが、何を生み出すか知っていますか?」
アニスの穏やかな声。大切な友へ、そして想い人の復讐のために戦いに身を投じた少し前の自分へ。
本懐を遂げたアニスには何も残らなかった。
「……できましたよ。これはミルティアさんに」
ゼラニウムの花言葉は『慰め』。ミルティアは受け取った小さな花束を胸に抱いた。
「うん、折角の、お祭りなんだから、さ。花束に暗い気持ちなんか籠めちゃダメだよね」
ミルティアは目を伏せる。大切な友人の心に向き合うように。
「……せめて、大好きな皆への想いを、込めようかな」
「それが良いと思います」
ふたりは改めて、花を求めて立ちあがった。
(忘れ得ぬ思いか)
聞くともなく耳にした会話に、ビスマは目を伏せる。
彼の中にも大切な想いは確かにあった。もう会うことのできない最愛の妻の面影に、胸が痛む。
失った物は戻らない。過ぎ去った時は還らない。
それは分かっている。少なくとも分かっているつもりだ。
(俺は恐れているのかもしれない)
彼女の面影で、声で、いっぱいの心が、何かによって揺り動かされたときこそ、本当に彼女を失ってしまうのではないかと。
ビスマは目の前の花を見つめる。
露を含んだ紫陽花の花が、ビスマを気遣う様に揺れていた。
●
アルヴィースは椅子に掛け、花を編んでいる。
「しまー、それなにするなの?」
「ほっほ、少しだけお待ちくだされ」
楽しそうに、お日様のような黄色の花と、夕暮の空のような紫色の花を使って、花冠を作り上げた。
「ふぉ……しまー上手だお!」
アルヴィースはそれを双子の頭にひとつずつ乗せる。
「坊ちゃま方は爺にとっての一等賞ですからな」
「一等賞の冠すおいの、素敵なの!」
ウェスペルとルーキフェルは嬉しくて、手を繋いでくるくる回って踊り出す。
「これはみんなにもあげたいの!」
「他の子にもあげたいお、一等賞の王冠ですお!」
「坊ちゃま方は本当にお優しいですな。では作り方をお教えて進ぜしましょうぞ」
歓声を上げるふたりは、それから一生懸命花冠を作り上げた。
男性用の花冠は、青や紫、黄色で堂々と。女性用には赤や桃、白などで可憐に。
花冠の材料がなくなった頃、ルーキフェルは残った花でなにやら作り始めた。
「ふぉ? こうして、こうすると……」
白い花を短く切って丸く並べ、赤いミニバラを飾ったそれは。
「お花のケーキなの!」
ウェスペルがパチパチ手を叩く。が、固定できない花束はすぐに崩れてしまった。
「うまくいかないお……困ったお……」
「これをつかうなの!」
ウェスペルは用意した紙コップを半分に切り、その中に花を敷き詰めた。レースペーパーで包んでリボンを飾れば、小さなケーキの花束の完成である。
「うー、すごいお! ほんとのケーキそっくりなんだお!」
「これならいっぱい作れるなの!」
ふたりはすぐに作業にのめり込んで行った。
●
大量の花は、それぞれが形を変えて小屋から運び出された。
並んだ花の傍らで、アルカはリステル伴奏で故郷の歌を歌い始め、祭に集まった人々の足を止める。
「お花をどうぞ! それからちょっとお疲れの人には、フラワーティーがおすすめだよ!」
歌いながら花束を差し出す。
ミニブーケは色とりどりの花を綺麗に束ねて。バラをメインにしたリースは、そのまま飾ってドライフラワーにもなるように。
故郷の村で作っていた花束、幼いころの記憶。それを伝えるように、アルカは歌う。
「それからこれは、明日にはパンに塗ったりお茶に入れたりして楽しめるよ♪」
スミレやカモミール、ラベンダーを蜂蜜に漬け込んだものだ。優しい香りと甘さが、明日もきっと皆を幸せにするだろう。
紫陽花の花束を手に取って頬を染める若い娘に、ビスマは妻の面影を見出した。
いや、その娘だけではない。紫陽花の花言葉は『乙女の愛』。そこここで微笑む娘や、かつて娘だった女の中に、優しい面影は宿っている。
亡き妻に捧げたビスマの花束が、優しい微笑みを連れて来る。
(俺がいつまでも囚われていては彼女も笑うことができないかもしれないな)
永遠に忘れることのない想いがある。 けれど残った者は生きていかねばならない。
だからゆっくりと歩き出そう。胸の痛みと共に。
ミルティアは通りかかった青年に声をかけた。
「お花はどう? プレゼントしたら喜ばれるよ!」
青年が振り向いたとき、一瞬『似ている』と思った。だがよく見ると、そうでもない。
花を手に嬉しそうに立ち去る相手を見送り、小さく息を吐く。アニスが心配そうに見ているのに気づき、ミルティアは笑顔を向けた。
「うん。もう、大丈夫だよ」
今は大切な友人がこうして寄り添ってくれるから。
知々田は丁寧に作った花束を、手に取りやすく並べる。バラの花束は置いておくだけでどんどんはけていくのだが。
「あらそこの素敵なご夫婦、お花は如何?」
驚いたように振り向く熟年夫婦の手に、クレマチスとエーデルワイスのリースブーケを手渡した。
「クレマチスは心の美、エーデルワイスは大切な思い出を意味するって言うわよ。つ・ま・り、私の心は貴方と共にってわけね! これからも元気で仲良くね?」
手を振りながらも知々田の目は次の対象を捕らえる。
「あらちょっとそこの妬けるお二人さん、ついでにお花持って行きなさいよ!」
飾らない愛を意味する白のホリホックと、かけがえのない時間を意味するミントのアームブーケはふたりにぴったりだ。
ただ束ねるだけではなく、組み合わせで意味を作りだす。
片思いのお嬢さんには、私の心に気付いてほしいと願う心を。
旅立つ恋人に贈るのは、私の元へ帰って来て欲しいという祈りを。
「やっぱり花は良いわね。あとは、と……」
知々田はこっそり作って置いた花束を横目に微笑む。
エーミは通りかかった女に、笑顔で花束を差し出した。
「どうぞ。言葉の代わりに、花が想いを伝えるわ」
ガーベラ、バラ、トルコキキョウを彩りよくまとめた花束には『日頃の感謝を込めて』。
外に出て働く、内に居て支える。それがいつしか当たり前になる。そして言葉は想いを上手く紡げるとは限らない。
なおざりになる日常の中、偶には互いの存在を確かめる日があってもいい。
「エーミ殿、カードと花を手配しました」
「ありがとう、領主様」
商家や農家など、多くの人が集まる場所に花束と籠めた想いを届けてもらったのだ。
「花言葉って、古人の知恵よね」
「そう言われてみればそうかもしれません」
セストが頷く。
「わずかなことでも、人を笑顔にできるなら。やらない手はないっていうのが私の、私の師匠の考えね」
エーミの言葉に、素直にセストも同意した。
「素晴らしいことです。僕もそうありたいと思います」
「ふふ、頑張ってね♪」
「ごめんなさいねー、お邪魔していいかしら?」
知々田が茶目っ気たっぷりにセストに花を差し出した。
「これは……?」
「お疲れ様。私からのプレゼントよ」
たゆまぬ努力を意味するピンクのグラジオラスに、臨機応変な態度を意味するバーパスカム。
これからも頑張ってねという知々田からのエールである。
「逆さにして1~2週間ほど吊るしておけばドライフラワーになると思うわよ、それか押し花でもいいかもね」
「ありがとうございます。……大事にします」
セストは花の香りを吸い込んだ。
「セスト、これあげるお!」
「セストも一等賞なのー!」
危なっかしい足取りで、ルーキフェルとウェスペルが運んで来たのは、お花のケーキの特大版だった。
「これは……すごいですね」
ふたりは胸を逸らすが、花冠が落ちそうになるので少し控え目に。
「るーとうーとでつくったのですお! ……ちょっとしまーにも手伝ってもらいましたお」
「セストはおともだち一等賞なの、お祭りも頑張りましたですなの!」
セストの被った帽子に似せた緑と白のアレンジメントに、黄色と紫のお花がのぞく。
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
セストの顔に、それが言葉だけではないことがはっきりと表れている。
双子は顔を見合わせてくすくす笑う。
実はお互いに、相手に内緒で花束を作っていたこと。それを取り出してプレゼントしあって、とっても嬉しい気持ちになったこと。
「上手にできて良かったですな」
そう言って笑うアルヴィースにもサプライズが待っていた。ルーキフェルからは緑に銀のラインが入ったリボンを、ウェスペルからはオレンジのリボンを飾った、フラワーケーキだ。
「この爺はもういつ死んでも惜しくはありませんぞ……!」
思わず感涙にむせび、双子をぎゅうと抱き締める。
「しま-、それはめーなの、長生きするなのー!」
「しまー長生きしてくださいおおお!」
苦しい程に抱きしめられながら、双子はアルヴィースに訴えるのだった。
花が綺麗に片付いた頃、セストが皆を呼んだ。
「お疲れ様です、お腹は空いていませんか?」
いそいそと父の作ったおにぎりがわりになる不思議な植物、まめしを配る。
食用ではあるが、これにも言葉にできない程の父の思いが籠っているのだ。
「やった! もらっていいの!?」
「嬢様……」
早速受け取るアルカに、リステルの悩みはまだまだ尽きないようだった。
<了>
扉を開くと花の香りが押し寄せる。
日浦・知々田・雄拝(ka2796)はそれを楽しむように目を細めた。
「花を貰って嬉しくない人はいないと思うけど。ふふ……どうせなら思い切りロマンチックに仕立てて見せるわ!」
早速、小屋の中を見て回る。
アルカ・ブラックウェル(ka0790)は思わず声を上げた。
「うっわ~! こんなに色んな花があるなんて凄いや……」
すぐ傍で揺れる花にそっと手を差し伸べる。俯く白い頬を縁取る長い金色の髪が、さらりと肩から流れ落ちた。
その姿に、付き従う家令のリステル=胤・エウゼン(ka3785)はそっと目頭を押さえる。
(そうやって花の中に佇んでおられれば、嬢様も立派な淑女にも見えるというものです)
何やら色々苦労があるようだ。
が。
「綺麗だし香りも良いし……おっとヨダレが」
無情にも口元を拭うアルカ。
不意に振り向き、能面の様な顔になっているリステルに無邪気に笑いかけた。
「えへ、今日はツヅキと一緒だから心強いな♪」
「……全力でサポート致します。なんなりとお申しつけを」
リステルの表情が和らいだ。
ルーキフェル・ハーツ(ka1064)とウェスペル・ハーツ(ka1065)の双子の兄弟は、そろって小屋の中をきょろきょろと見渡した。
「こんなにたくさんの花を見るのは初めてだおー!」
「おっきなお花畑みたいなの、すおいの!」
ふたりの守役のアルヴィース・シマヅ(ka2830)は、温厚な笑みで後に続く。
「折角咲いた花々ですからな、一つ残らず役目を全うさせてやりましょう」
「まっとうするなの! お花はひとつも無駄にしないなの!!」
小鼻を膨らませるウェスペルに、ルーキフェルも拳を握る。
「たくさんのお客さんにお花を配りますお! それからどうせなら「わー!」って喜んでもらうのですお!」
エーミ・エーテルクラフト(ka2225)がくすくすと笑った。
「張り切ってるわね。私も頑張らなくちゃね?」
そうしてつかまえた相手は、セストである。
「とりあえず、ここにある花のリストはない?」
「……少しお待ちください」
袖を引いて顔を近づけると、殆ど反射的にセストは身を引く。エーミが唐突に尋ねた。
「そういえば、領主様は女性が苦手?」
セストもエーミの直球勝負に多少は慣れつつあったが、流石にこの質問にはたじろぐしかない。
「苦手というか、何と言いますか……」
セストは言葉を探るように眉を寄せる。
(あ、そうか)
エーミが何かを思いついた。
花のリストと各自の提案を照らし合わせた話し合いが始まる。
「フラワーティーはどうかな? それからジャムだったら沢山花びらを使うと思うんだ! どうかな?」
アルカの提案は、食材にしてしまうことだった。
「ジャムならバラやスミレがいいんだけど」
「残念ながら、ちょっと難しそうね。全部を使ってしまうわけにもいかないし」
エーミがリストを眺めてつぶやいた。バラなどは花束にも大量に必要になるだろう。
アルカは気にする様子もなく笑って見せる。
「ああ、そういえばそうだね! じゃあカモミールやラベンダーを使ったフラワーティーはどうかな」
「そうですね、カモミールは心を落ち着かせる効果があると聞きます。それから……」
饒舌にセストが語り始め、エーミはくすくすと笑う。
「ごめんなさいね。薬効は色々あるにしても、どちらかといえば花は食卓に飾って、見て楽しんでもらう方がいいわ」
いつも物静かなビスマ・イリアス(ka1701)が、それを聞いて小さく笑った。
「失礼。だが折角これだけ美しく咲いた花だ、全てをむしってしまうのは確かに勿体ないとも思うからな」
何かを懐かしむように、緑の瞳が花を映している。
「まぁ人はタダという響きに弱い、お好きにどうぞと言われれば喜んで手に取るだろうとは思う」
だが、とビスマは考え込む。
「ただ多くの人に興味を持ってもらうには、コーディネイトを競うように飾り、どれを持ち帰るかは相手の感性に委ねるというというのもいいのではないかと思う」
「じゃあ幾つか見本を作ってみるわね?」
知々田が悪戯っ子のように目を輝かせた。
「……花に想いを込める、か……」
ぽつりとつぶやいたミルティア・ミルティエラ(ka0155)の横顔を、アニス・エリダヌス(ka2491)がそっと窺った。
●
ミルティアは花々の間をふらふらと彷徨う。
ふと黄金色に輝くバラに手を伸ばした、その瞬間。
「痛ッ……!」
引っ込めた指先には、赤い血が滲んでいた。
「はは……なんだかバラに叱られたみたいだよね。何考えてるんだか……そう言うのは、込めちゃ、駄目って……」
ミルティアの『想い』は苦い。遠い過去の記憶。美しい憧れは無残に散っていった。
だがミルティアは何かを振り切るように顔を上げてアニスに笑いかける。
「この辺りのを花束にしてみようか!」
花売り娘でもあるアニスは、可愛らしいフリルリボンを用意していた。並んで長椅子に掛けて、花を束ね始める。
暫くしてミルティアが語り始めた。
「つまんない話だけどきいてくれる? ……ボクさ、好きな人がいたんだ、結構前の話だよ?」
アニスは黙って頷く。
「その好きな人が……幸せそうにさ、金持ちの妾みたいな事してて、さ……」
ミルティアは迷った。相手の『幸せ』が長く続くことを祈るべきか、それともまやかしだと手折るべきか。
「……駄目だね、綺麗な心でブーケにしてあげないと、花が、可哀想だよね……?」
ミニブーケの花に使ったのは蘭菊。忘れ得ぬ思い、そして悩みが心の中に色褪せることなく咲き続けているように。
「……憎しみが、何を生み出すか知っていますか?」
アニスの穏やかな声。大切な友へ、そして想い人の復讐のために戦いに身を投じた少し前の自分へ。
本懐を遂げたアニスには何も残らなかった。
「……できましたよ。これはミルティアさんに」
ゼラニウムの花言葉は『慰め』。ミルティアは受け取った小さな花束を胸に抱いた。
「うん、折角の、お祭りなんだから、さ。花束に暗い気持ちなんか籠めちゃダメだよね」
ミルティアは目を伏せる。大切な友人の心に向き合うように。
「……せめて、大好きな皆への想いを、込めようかな」
「それが良いと思います」
ふたりは改めて、花を求めて立ちあがった。
(忘れ得ぬ思いか)
聞くともなく耳にした会話に、ビスマは目を伏せる。
彼の中にも大切な想いは確かにあった。もう会うことのできない最愛の妻の面影に、胸が痛む。
失った物は戻らない。過ぎ去った時は還らない。
それは分かっている。少なくとも分かっているつもりだ。
(俺は恐れているのかもしれない)
彼女の面影で、声で、いっぱいの心が、何かによって揺り動かされたときこそ、本当に彼女を失ってしまうのではないかと。
ビスマは目の前の花を見つめる。
露を含んだ紫陽花の花が、ビスマを気遣う様に揺れていた。
●
アルヴィースは椅子に掛け、花を編んでいる。
「しまー、それなにするなの?」
「ほっほ、少しだけお待ちくだされ」
楽しそうに、お日様のような黄色の花と、夕暮の空のような紫色の花を使って、花冠を作り上げた。
「ふぉ……しまー上手だお!」
アルヴィースはそれを双子の頭にひとつずつ乗せる。
「坊ちゃま方は爺にとっての一等賞ですからな」
「一等賞の冠すおいの、素敵なの!」
ウェスペルとルーキフェルは嬉しくて、手を繋いでくるくる回って踊り出す。
「これはみんなにもあげたいの!」
「他の子にもあげたいお、一等賞の王冠ですお!」
「坊ちゃま方は本当にお優しいですな。では作り方をお教えて進ぜしましょうぞ」
歓声を上げるふたりは、それから一生懸命花冠を作り上げた。
男性用の花冠は、青や紫、黄色で堂々と。女性用には赤や桃、白などで可憐に。
花冠の材料がなくなった頃、ルーキフェルは残った花でなにやら作り始めた。
「ふぉ? こうして、こうすると……」
白い花を短く切って丸く並べ、赤いミニバラを飾ったそれは。
「お花のケーキなの!」
ウェスペルがパチパチ手を叩く。が、固定できない花束はすぐに崩れてしまった。
「うまくいかないお……困ったお……」
「これをつかうなの!」
ウェスペルは用意した紙コップを半分に切り、その中に花を敷き詰めた。レースペーパーで包んでリボンを飾れば、小さなケーキの花束の完成である。
「うー、すごいお! ほんとのケーキそっくりなんだお!」
「これならいっぱい作れるなの!」
ふたりはすぐに作業にのめり込んで行った。
●
大量の花は、それぞれが形を変えて小屋から運び出された。
並んだ花の傍らで、アルカはリステル伴奏で故郷の歌を歌い始め、祭に集まった人々の足を止める。
「お花をどうぞ! それからちょっとお疲れの人には、フラワーティーがおすすめだよ!」
歌いながら花束を差し出す。
ミニブーケは色とりどりの花を綺麗に束ねて。バラをメインにしたリースは、そのまま飾ってドライフラワーにもなるように。
故郷の村で作っていた花束、幼いころの記憶。それを伝えるように、アルカは歌う。
「それからこれは、明日にはパンに塗ったりお茶に入れたりして楽しめるよ♪」
スミレやカモミール、ラベンダーを蜂蜜に漬け込んだものだ。優しい香りと甘さが、明日もきっと皆を幸せにするだろう。
紫陽花の花束を手に取って頬を染める若い娘に、ビスマは妻の面影を見出した。
いや、その娘だけではない。紫陽花の花言葉は『乙女の愛』。そこここで微笑む娘や、かつて娘だった女の中に、優しい面影は宿っている。
亡き妻に捧げたビスマの花束が、優しい微笑みを連れて来る。
(俺がいつまでも囚われていては彼女も笑うことができないかもしれないな)
永遠に忘れることのない想いがある。 けれど残った者は生きていかねばならない。
だからゆっくりと歩き出そう。胸の痛みと共に。
ミルティアは通りかかった青年に声をかけた。
「お花はどう? プレゼントしたら喜ばれるよ!」
青年が振り向いたとき、一瞬『似ている』と思った。だがよく見ると、そうでもない。
花を手に嬉しそうに立ち去る相手を見送り、小さく息を吐く。アニスが心配そうに見ているのに気づき、ミルティアは笑顔を向けた。
「うん。もう、大丈夫だよ」
今は大切な友人がこうして寄り添ってくれるから。
知々田は丁寧に作った花束を、手に取りやすく並べる。バラの花束は置いておくだけでどんどんはけていくのだが。
「あらそこの素敵なご夫婦、お花は如何?」
驚いたように振り向く熟年夫婦の手に、クレマチスとエーデルワイスのリースブーケを手渡した。
「クレマチスは心の美、エーデルワイスは大切な思い出を意味するって言うわよ。つ・ま・り、私の心は貴方と共にってわけね! これからも元気で仲良くね?」
手を振りながらも知々田の目は次の対象を捕らえる。
「あらちょっとそこの妬けるお二人さん、ついでにお花持って行きなさいよ!」
飾らない愛を意味する白のホリホックと、かけがえのない時間を意味するミントのアームブーケはふたりにぴったりだ。
ただ束ねるだけではなく、組み合わせで意味を作りだす。
片思いのお嬢さんには、私の心に気付いてほしいと願う心を。
旅立つ恋人に贈るのは、私の元へ帰って来て欲しいという祈りを。
「やっぱり花は良いわね。あとは、と……」
知々田はこっそり作って置いた花束を横目に微笑む。
エーミは通りかかった女に、笑顔で花束を差し出した。
「どうぞ。言葉の代わりに、花が想いを伝えるわ」
ガーベラ、バラ、トルコキキョウを彩りよくまとめた花束には『日頃の感謝を込めて』。
外に出て働く、内に居て支える。それがいつしか当たり前になる。そして言葉は想いを上手く紡げるとは限らない。
なおざりになる日常の中、偶には互いの存在を確かめる日があってもいい。
「エーミ殿、カードと花を手配しました」
「ありがとう、領主様」
商家や農家など、多くの人が集まる場所に花束と籠めた想いを届けてもらったのだ。
「花言葉って、古人の知恵よね」
「そう言われてみればそうかもしれません」
セストが頷く。
「わずかなことでも、人を笑顔にできるなら。やらない手はないっていうのが私の、私の師匠の考えね」
エーミの言葉に、素直にセストも同意した。
「素晴らしいことです。僕もそうありたいと思います」
「ふふ、頑張ってね♪」
「ごめんなさいねー、お邪魔していいかしら?」
知々田が茶目っ気たっぷりにセストに花を差し出した。
「これは……?」
「お疲れ様。私からのプレゼントよ」
たゆまぬ努力を意味するピンクのグラジオラスに、臨機応変な態度を意味するバーパスカム。
これからも頑張ってねという知々田からのエールである。
「逆さにして1~2週間ほど吊るしておけばドライフラワーになると思うわよ、それか押し花でもいいかもね」
「ありがとうございます。……大事にします」
セストは花の香りを吸い込んだ。
「セスト、これあげるお!」
「セストも一等賞なのー!」
危なっかしい足取りで、ルーキフェルとウェスペルが運んで来たのは、お花のケーキの特大版だった。
「これは……すごいですね」
ふたりは胸を逸らすが、花冠が落ちそうになるので少し控え目に。
「るーとうーとでつくったのですお! ……ちょっとしまーにも手伝ってもらいましたお」
「セストはおともだち一等賞なの、お祭りも頑張りましたですなの!」
セストの被った帽子に似せた緑と白のアレンジメントに、黄色と紫のお花がのぞく。
「ありがとうございます。とても嬉しいです」
セストの顔に、それが言葉だけではないことがはっきりと表れている。
双子は顔を見合わせてくすくす笑う。
実はお互いに、相手に内緒で花束を作っていたこと。それを取り出してプレゼントしあって、とっても嬉しい気持ちになったこと。
「上手にできて良かったですな」
そう言って笑うアルヴィースにもサプライズが待っていた。ルーキフェルからは緑に銀のラインが入ったリボンを、ウェスペルからはオレンジのリボンを飾った、フラワーケーキだ。
「この爺はもういつ死んでも惜しくはありませんぞ……!」
思わず感涙にむせび、双子をぎゅうと抱き締める。
「しま-、それはめーなの、長生きするなのー!」
「しまー長生きしてくださいおおお!」
苦しい程に抱きしめられながら、双子はアルヴィースに訴えるのだった。
花が綺麗に片付いた頃、セストが皆を呼んだ。
「お疲れ様です、お腹は空いていませんか?」
いそいそと父の作ったおにぎりがわりになる不思議な植物、まめしを配る。
食用ではあるが、これにも言葉にできない程の父の思いが籠っているのだ。
「やった! もらっていいの!?」
「嬢様……」
早速受け取るアルカに、リステルの悩みはまだまだ尽きないようだった。
<了>
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/26 02:51:26 |
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【質問卓】セストに質問! アルカ・ブラックウェル(ka0790) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/06/25 09:42:19 |
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【相談卓】切り花の使い道 アルカ・ブラックウェル(ka0790) 人間(クリムゾンウェスト)|17才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/06/25 09:40:34 |