ゲスト
(ka0000)
【春郷祭】炎を囲んで呑んで騒いで
マスター:のどか

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/25 22:00
- 完成日
- 2015/07/09 01:17
このシナリオは3日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
今年も大盛況を迎えた村長祭に、同盟各都市は色めいていた。
開催地であるジェオルジは勿論、稼ぎ時に力を振るうヴァリオスの商人やフマーレの職人達。夜煌祭との共同開催で、物流面での力を必要とされたポルトワールに海軍。
所、手段、目的は変わっても、各都市が活気付く事で、同盟全体の活気へと繋がっていた。
ただ1つ、弊害があるとすれば――
「――おはようございます、みんなの可愛いルミちゃんです。今日もお休みはありません」
オフィスに着くなり、抑揚の無い声でそう口にしたルミ・ヘヴンズドア(kz0060)は、そのままどっかりとデスクに腰を落とした。
郷祭が始まって数週間。
同盟領のオフィス支部には関連の依頼がひっきり無しに舞い込んでいた。
それは依頼というよりはお祭参加のお知らせであったり、逆に祭運営のお手伝いを頼むものであったり、内容は千差万別だ。
オフィス職員達はそれらを1つ1つ全て依頼書に纏め、そしてハンター達へと斡旋する。
祭で賑わうこの時期に、休みを取るヒマなどあるわけも無かった。
今日もまたヴァリオスのオフィス支部では、訪れた依頼人の対応に、掲載書類の整備・点検、そして訪れたハンターへの斡旋にと目まぐるしく職員が駆け回っている。
オフィス企画の受付嬢ツアーが、そのまま彼女達のひと時の休暇にもなってしまったかのようであった。
「ルミちゃ~ん! こっちの依頼、今から張り出しだから手伝って~!」
「は~い、行きますよぉ~!」
気の抜けた返事を返しながら、すくりと椅子から立ち上がるルミ。
そうしてコキリと首周りをほぐすと、うんと背伸びをして、パンと両手で頬を張る。
「さ~、今日も頑張りますよっ♪」
そう、きゃるるんと笑顔を作って見せたルミの肩を、ぽんぽんと叩く影。
「あ、ルミちゃん来週お休みね」
そう事務的な口調でそれだけを口にした上司が、そのまま認可前の依頼書の束を持ってスタスタと自分のデスクへと歩いて行った。
「……へ?」
状況が飲み込めず、きゃるるん笑顔そのまんまで首を傾げるルミ。
が……暫くそのまま固まった後に、弾かれたように上司のデスクへと詰め寄っていた。
「おおおおおお、お休みって、あのお休みですかっ!? あの一日まるっと、おはようからおやすみまで自由の!? マジで!?」
「ええ、マジマジ。お祭の最後1週間、皆に順番で休み取って貰ってるのよ。貴方はその最後のシフト。お祭でも見て来たら?」
目を見開いて一気にまくし立てるルミに、上司はぽんぽんと書類に判を押しながら答える。
「あ、はいこれ。今日中に張り出すヤツ」
答えながらも判を押したばかりの依頼書を手渡し、それをなし崩しに受け取るルミ。
まだ状況が飲み込めずぽかんとしていた彼女であったが、それから暫く上機嫌で澱み無い仕事ぶりであった事は言うまでも無い。
そして来るお祭最終日。
ジェオルジのとある村では、広場に大勢の村人が集まり今宵の準備に取り掛かっていた。
広場の周囲に立ち並ぶ屋台には、食材やら酒樽やらが運び込まれ、料理人達が腕を振るう。
その傍らには木箱を並べた簡易なステージが出来上がり、村の有志が楽器を持ち寄り、リハーサルに余念が無い。
そんな広場の中央には、村の男達によって組まれた大きな丸太の塔。
否――その塔には今夜、盛大な灯りが灯される。
お祭の最後を彩る、盛大なファイヤーフェスティバル。
巨大な炎を囲んで、呑んで歌って踊って騒いで、お祭最後のパーリナイ。
「ほむほむ、ここも面白そうな事やってますねー」
準備中の屋台に無理言って作って貰ったイカ焼きを咥え、広場を眺めるルミの視線。
今宵もきっと、楽しいお祭になる事だろう。
開催地であるジェオルジは勿論、稼ぎ時に力を振るうヴァリオスの商人やフマーレの職人達。夜煌祭との共同開催で、物流面での力を必要とされたポルトワールに海軍。
所、手段、目的は変わっても、各都市が活気付く事で、同盟全体の活気へと繋がっていた。
ただ1つ、弊害があるとすれば――
「――おはようございます、みんなの可愛いルミちゃんです。今日もお休みはありません」
オフィスに着くなり、抑揚の無い声でそう口にしたルミ・ヘヴンズドア(kz0060)は、そのままどっかりとデスクに腰を落とした。
郷祭が始まって数週間。
同盟領のオフィス支部には関連の依頼がひっきり無しに舞い込んでいた。
それは依頼というよりはお祭参加のお知らせであったり、逆に祭運営のお手伝いを頼むものであったり、内容は千差万別だ。
オフィス職員達はそれらを1つ1つ全て依頼書に纏め、そしてハンター達へと斡旋する。
祭で賑わうこの時期に、休みを取るヒマなどあるわけも無かった。
今日もまたヴァリオスのオフィス支部では、訪れた依頼人の対応に、掲載書類の整備・点検、そして訪れたハンターへの斡旋にと目まぐるしく職員が駆け回っている。
オフィス企画の受付嬢ツアーが、そのまま彼女達のひと時の休暇にもなってしまったかのようであった。
「ルミちゃ~ん! こっちの依頼、今から張り出しだから手伝って~!」
「は~い、行きますよぉ~!」
気の抜けた返事を返しながら、すくりと椅子から立ち上がるルミ。
そうしてコキリと首周りをほぐすと、うんと背伸びをして、パンと両手で頬を張る。
「さ~、今日も頑張りますよっ♪」
そう、きゃるるんと笑顔を作って見せたルミの肩を、ぽんぽんと叩く影。
「あ、ルミちゃん来週お休みね」
そう事務的な口調でそれだけを口にした上司が、そのまま認可前の依頼書の束を持ってスタスタと自分のデスクへと歩いて行った。
「……へ?」
状況が飲み込めず、きゃるるん笑顔そのまんまで首を傾げるルミ。
が……暫くそのまま固まった後に、弾かれたように上司のデスクへと詰め寄っていた。
「おおおおおお、お休みって、あのお休みですかっ!? あの一日まるっと、おはようからおやすみまで自由の!? マジで!?」
「ええ、マジマジ。お祭の最後1週間、皆に順番で休み取って貰ってるのよ。貴方はその最後のシフト。お祭でも見て来たら?」
目を見開いて一気にまくし立てるルミに、上司はぽんぽんと書類に判を押しながら答える。
「あ、はいこれ。今日中に張り出すヤツ」
答えながらも判を押したばかりの依頼書を手渡し、それをなし崩しに受け取るルミ。
まだ状況が飲み込めずぽかんとしていた彼女であったが、それから暫く上機嫌で澱み無い仕事ぶりであった事は言うまでも無い。
そして来るお祭最終日。
ジェオルジのとある村では、広場に大勢の村人が集まり今宵の準備に取り掛かっていた。
広場の周囲に立ち並ぶ屋台には、食材やら酒樽やらが運び込まれ、料理人達が腕を振るう。
その傍らには木箱を並べた簡易なステージが出来上がり、村の有志が楽器を持ち寄り、リハーサルに余念が無い。
そんな広場の中央には、村の男達によって組まれた大きな丸太の塔。
否――その塔には今夜、盛大な灯りが灯される。
お祭の最後を彩る、盛大なファイヤーフェスティバル。
巨大な炎を囲んで、呑んで歌って踊って騒いで、お祭最後のパーリナイ。
「ほむほむ、ここも面白そうな事やってますねー」
準備中の屋台に無理言って作って貰ったイカ焼きを咥え、広場を眺めるルミの視線。
今宵もきっと、楽しいお祭になる事だろう。
リプレイ本文
●
「ラーン! はやくーはやくー」
空が茜色に染まる頃、村の広場にベル(ka1896)の元気な声が響き渡る。
会場に向かって先を駆ける彼女を優しい瞳で追いかけながら、ゆったりとした歩調で後を歩むラン・ヴィンダールヴ(ka0109)。
「あはは、ベルちゃん、楽しそうだねー?」
「うん! だって、ひさしぶりにランがかえってきたんだもの!」
カランと胸元のカウベルを鳴らしながら、大きく頷くベル。
今日は村のお祭りでうんと遊ぶんだと、満面の笑顔を夕陽で染めていた。
「まったく、いきなり出掛けましょって無理矢理連れてきた理由はこれか」
集まった人々の中に紛れ込みながら、柊 真司(ka0705)は頭に手を当てて小さくため息を吐く。
隣のリーラ・ウルズアイ(ka4343)は、ふふんと小さく鼻を鳴らしながら悪戯っぽく笑みを浮かべた。
「たまには良いじゃないの。ここまで来ちゃったんだし、諦めて楽しんじゃえば♪」
彼女達の視線の先には大きく組まれた丸太の櫓。
その中心には枯草や、藁のような細くカラッとした発火材。
「楽しみ、だね」
ざわめく喧噪から少し距離を置いて、にっこりとほほ笑むミューレ(ka4567)。
「はい。一緒に来られて、よかったです!」
同じようにまた、ほほ笑みを返す来未 結(ka4610)。
「あ、そろそろ始まるみたいですねっ」
独特の空気に、どこかそわりとした様子で櫓を見上げる
結の前に、たいまつを掲げた村人が観客に音頭を求める。
「さーん!」
それに合わせて、一斉に上がる観客の掛け声。
「にー! いーち!」
――ぜろ!
そのカウントと同時に、発火材に投じられるたいまつの火。
燃え移った火は次第に大きな炎となり、広場を、そして村全体を照らし始める。
その様に、大きな歓声と拍手が沸き起こり、音楽団の演奏が始まった。
人々は炎を囲んで輪になって、春の郷祭最後の夜が始まるのであった。
●
「炎は……ちょっと、怖いですけど。でも、安心します、ね」
目の前で燃え上がった巨大な炎を前に、見入るように雪加(ka4924)はほうと息をついた。
規模こそ違えど、それは家で家族と囲んだ炎にも似た、暖かな輝き。
「安心、ね。その一方で、熱く燃え上がる、パワフルなシーンだって演出できるわ」
そう言って、艶やかな視線を送るケイ・R・シュトルツェ(ka0242)に、雪加はなるほどと小さく相槌を打つ。
「熱く燃え上がる……そうですね。滾った気持ちを発散しに、踊りでも教えて貰いましょうか。あなたもいかがです?」
炎を囲んで早速始まった村人たちのダンスを眺め、問いかける雪加。
「いえ、せっかくだけど気持ちが滾ったら、私は別の発散法があるのよ」
そう言って、「縁があったらまた会いましょう」と手を振って飲食コーナーへと消えてゆくケイ。
別の……と言ったところに若干引っかかった雪加ではあったが、すぐにその興味をダンス会場に戻して、楽しげに駆けてゆくのであった。
その頃、ふらりと会場を訪れていた楠 那智(ka4269)は、炎で照らされた参加者達の中に見つけたとある存在に、落雷に打たれたかのような衝撃が脊髄を駆け巡る。
視線の先には、その表情を炎に赤く照らされた十色 エニア(ka0370)。
憧れの存在を前にして、思いもよらぬチャンスに心が震える。
「い、いや待て私。『ちょっとコンビニに』……のノリで来たからメイクも髪もテキトー。こんなのじゃ、顔を合わせられるわけねーですよ」
不意にガバリと顔を上げると、適当な物陰へと一目散に駆けだしてゆく那智。
とりあえずメイクは直して、服の皺も伸ばして、準備を整えてからでも遅くない。
彼女の夜は、まだ始まったばかりだ。
「今日は誘ってくれでありがとう、高円寺君」
そんな那智達を他所に、手ごろなテーブルに腰を下ろした八代 遥(ka4481)は、向かいに座った高円寺 義経(ka4362)ににっこりと笑みを浮かべる。
「いや、いいんスよ。ちょうど予定も空いてたッスし」
「一人じゃちょっと来られなかったものね。折角来たんだから楽しみましょう?」
緊張した様子の義経に対し、柔らかい年上の余裕を見せる遥。
「と、とりあえず俺は食べ物を貰って来るッスね! 八代さんはここで待っててくださいッス!」
そう言ってガタリと席から立ち上がると、屋台の方へと駆けだしてゆく義経。
美人のおねーさんとの初デート。
緊張はするけれども楽しんで貰って、イメージアップを計らなければ。
そう心を奮い立たせて、義経は精一杯のおもてなしへと奔走するのだ。
これを青春と呼ばず、何と呼べばよいのか。
「――かんぱーい!」
炎と音楽、そして村人たちの踊りを前に、いい大人たちは早速のアルコールに手を付けていた。
ゴクリと冷たいアルコールが一気に喉を通る音に、思わず漏れたため息が続く。
「いや、いいタイミングで陸に戻って来たもんだ。なんとも運の良いものですね」
「最終日に間に合ってよかった。仕事の後の一杯は格別だね」
海商帰りだと言うアスワド・ララ(ka4239)と青霧 ノゾミ(ka4377)の2人は、完全に船旅の打ち上げの姿勢でテーブルの一角を陣取っていた。
酒を片手に、テーブルには先に買い込んでおいた焼き串などの屋台料理。
足りなくなったらまた買い出しに行けばいい。
祭りの夜は、自由で気ままで気楽なのだ。
「あちこち盛り上がってますね。さてっ、俺たちも呑みますよー!」
そう、一人音頭を取って目の前の仲間達と乾杯する佐久間 恋路(ka4607)。
「うまい酒飲めるんならいいけどよ……だだっぴろい所ってのは、どうも落ち着かなくてな」
ざわりと産毛が立つ首の後ろを掻きながらも、酔いで慣らそうとイプシロン(ka4058)は手にしたグラスを傾ける。
「だけどよ、それ以前になんでお前まで居るんだよディック」
「くひひっ、楽しいの大好きだからな! ぶったおれるまで飲み明かすぜぇえ!」
ただただ楽し気な恋路と、怪訝な表情のイプシロンの間で、嬉々としてマグの中身を煽るディック・シュヴァンツ(ka3904)の姿。
「いーですね。ほら、ミミックさん。僕からも注いであげますよー」
その飲みっぷりを前に、自然に注ぎ注がれも発生し。
「おいおい、ペース考えろよ。俺は知らねぇぞ……」
そう言いながらも話を聞く様子も無い2人を前にして、イプシロンの脳裏に嫌な予感が差したのは言うまでもない。
「叔父上、酒とつまみを持ってまいりました!」
尊敬する叔父の待つテーブルにマグと皿を広げるアリオーシュ・アルセイデス(ka3164)。
「うむ、すまんな。では乾杯と行こう」
そのマグを受け取り、かちりと合わせるラディスラウス・ライツ(ka3084)は、ゴクリと喉を鳴らすと祭りの喧噪を遠巻きに眺める。
「祭の活気はいつも良いものですね♪」
楽しげに語るアリオーシュに対し、ラディはどこかむず痒い様子で肩をソワリ。
「どうもこう、賑やかな感じは慣れんな」
「でしたらここは親類水入らず、飲み明かしましょう」
そう提案するアリオーシュにラディスラウスは「うむ」ともう一度頷いて、再びマグを傾けた。
程よくアルコールも回り始め、背筋が火照る頃には、その耳に入る喧噪も大して気にはなっていなかった。
「はい、アーン♪」
一方、こちらもまた屋台席の一角を陣取った真司とリーラの2人は、目の前に並べられた料理に舌鼓――とは言えない様子で、リーラの「あーん」攻撃を執拗に受ける真司の姿がそこにはあった。
「人が見てる前でそんな事できるかよ!」
やや慌てた様子で、手のひらを突き出してそれを制する真司にリーラはどこか面白くない様子ながらも、挑戦的な笑みで彼をからかっていた。
「――あー、いたいたお嬢ちゃん。さっき頼まれてたヤツだよ」
不意に、屋台のオヤジらしき人物が彼らのテーブルに押しかけ一言。
同時に大量の酒がテーブルの上に所狭しと並べられて行く。
「おいおい、これはどういう事だよ……」
目の前のテーブルの有様に思わず目を見張る真司。
「そりゃ、お祭りと言ったら呑み比べよ! さぁ、勝負よ真司!」
大量の酒を前に瞳を輝かせて、意気揚々とそう宣言するリーラ。
「どういう裏があるのかと警戒してみりゃ……どっちかってっと俺は静かに飲みたいんだがな」
小さくため息を吐きながらぶつくさと文句を口にする真司であったが、そのお人よし体質を前に断るような甲斐性の無い男でもない。
現在飲み掛けのグラスを手に取ると、これが答えだとでも言いたげに、その中身をぐいっと一息で煽るのであった。
「おうおう、良い具合に始まって来ているのう」
飲み比べを始めた彼方のテーブルを見やりながら、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は僅かにその目を細めた。
「えっと……お酒、持ってきましたー!!」
そんな時、大きな酒樽を両手で抱えてひょこひょこと駆け寄って来る五光 除夜(ka4323)の姿に彼女達の席はわっと色めき立つ。
「待っておった! さあ、宴じゃ宴じゃ! 今宵は心行くまで呑むとするぞ!」
どかりと置かれた酒樽を前に、そう高らかに声を上げるフラメディア・イリジア(ka2604)。
「ささ、どうぞどうぞ」
自分は飲めないからと、お酌に回る除夜。
「いやー若い嬢ちゃんに酌されて、美人の姉ちゃんと酒を酌み交わせるなんて贅沢だね」
言いながらも満更でもない様子でなみなみと酒の注がれたマグを受け取るジャンク(ka4072)に、くすくすと蜜鈴が小さく鼻を鳴らす。
「辺境や東方から持って来た酒もある。どれせっかくだ、味を比べながら、こちらも一つ飲み比べとしよるか」
「おー、良いぜ良いぜ。そういう事なら負けねーからな!」
相当自信があるのか、既に数杯マグを開けながらもリュー・グランフェスト(ka2419)が腕を捲って意気込みを語った。
「おや、珍しい。それは私の故郷のお酒ですね」
沸き立つテーブルにふと目を奪われたのか、ふらりと通りがかりの華彩 理子(ka5123)が机の上に並べられた酒瓶の数々の中に故郷の酒が並べられているのに気付き思わず声を掛ける。
「おまえも混ざるか? 死して屍拾うもの無しの大勝負じゃ」
「良いのですか? こう見えて私、けっこう強いですよ」
くいとグラスを傾ける動きで語るフラメディアに、ニッコリと笑顔で返す理子。
役者はこれで整った。
祭りの空気にかこつけて、炎に向けたグラスを前に、手始めにと5人は一斉にその中身を飲み干して見せるのであった。
●
燃え盛る炎の塔を囲んで、音楽団の笛や太鼓、弦楽器の音をバックにクルリクルリと笑顔で踊る男女達。
いわゆる村祭りの踊りの様子であったが、当然参加は飛び入り大歓迎である。
「こ、こうで大丈夫ですか?」
村の有志による踊りの練習コーナーで、頬を赤く染めながらもステップの練習をする那智とそれを笑顔で見守るエニア。
「そうそう、良い感じ。子供でも踊れるみたいだし、そんなに難しい曲では無いみたいね」
「た、たぶん大丈夫そう……です。エ、エニアさん、よろしくお願いしますっ!」
完全に上ずった声で手を差し出す那智。
エニアはコクリと頷いてその手を取ると、那智の手を引くようにして炎の会場へと連れ出して行く。
憧れのエニアを前にしているのはもちろんあるが、那智が終始頬を染めていた一番の理由……この村の踊りは、男女――には限らないが2人1組で踊るものなのだ。
(私……何やってんだろう……)
勢いに任せてここまで来たが、それ故に我に返った時の反動もデカい。
が……それでも今は一時のこの夢を。
否、この現実を噛みしめて、エニアの手を握りしめていた。
「へへー。たのしーねー♪」
カランコロンとカウベルを鳴らしながら、音に合せてくるくる回るベルを前に、社交ダンス経験のあると言うランは若干慌てた様子でその身体を振り回される。
「っと、えっ、ベルちゃん!?」
ステップのお約束など無視して縦横無尽に踏みまくるベルを前に、昔取った杵柄もなんのその、お構い無しの不格好なダンス。
鳴り響くカウベルと、そのある種独特なステップを前に、他の参加者からもどこか微笑ましい視線を投げかけられるベル&ランペア。
(今度、ちゃんと教えてあげなきゃな……)
集まる視線は少々居心地の悪いものではあったが、目の前で楽しそうに踊るベルを前にしてその気持ちもどこかに吹き飛び、ただただ同じようにほほ笑みを返していたランであった。
そんな喧騒をやや遠目に、花の咲き誇る原っぱに腰を下ろすミューレと結。
お茶やジュース類と、軽く摘まんで食べられるものを買い込んで、少し静かな場所を探してやって来ていたのだった。
もちろん、祭りの喧騒が嫌いと言うわけでは無く、二人っきりになりたかったと言う意図の方がお互いに強かったのかもしれない。
何度かお酌をし合って、食べ物でお腹も満たした頃。
うとりと、小さく船を漕いだ結の頭がミューレの肩に触れる。
「あっ……ごめんなさい」
「大丈夫。結こそ寒く無い?」
頭を振って目を覚ます結を傍に寄せ、抱き込むようにしてコートを2人で羽織る。
そうしているうちに、コートの暖かさか、ミューレの暖かさか。
結はすうと瞳を閉じて、ミューレの肩で小さな寝息を立始めてしまっていた。
そんな彼女の姿を見ながら、小さくほほ笑むミューレ。
親元を離れて異世界で、弱音も吐かずに健気に頑張っている少女。
彼女の力になりたい、彼女を支えられる存在になりたい……その想いを胸に、そっと肩を抱き寄せる。
こうして自分の肩で寝息を立てる彼女は今、どんな夢を見ているのだろうか。
義経と遥の2人は、義経がチョイスして来た食べ物や飲み物をテーブルに広げてちょっとしたパーティ気分。
粉ものや肉類に若干の偏りが出たのは年ゆえだろうか、それでもあまり参加した事の無いお祭りの空気に若干浮かれ気味の遥にとっては些細な事で、どれもおいしそうに口に運んで見せる。
「ん、これもなかなかイケるッスね……!」
謎の肉の焼き物を頬張りながら、チラリと正面の少女の顔を盗み見る義経。
料理を頬張る艶やかな唇にドキリとして、慌てて飲み物のコップに顔をうずめて赤くなった頬を隠す。
「えっと、その……辺境での戦いが終わったと思ったら、今度は東方が騒がしいって言うッスね。なんというか、終わったばっかりだけど、また戦いに備えないと」
何か話題を切り出そうと、口に出たのはそんな言葉。
ムードも何もあったものでは無かったが、遥もその言葉に小さく頷いて見せると、こくりと喉を鳴らして飲み物を呑み込む。
「それが仮に私達がこの世界に来た意味なのだとしたら、仕方のない事なのかもいれないわ」
そう口にした遥の言葉には、どこか自分自身に問いかけるような疑問符も垣間見えたが、言っている事の意味としてはなるほどと義経も頷いて見せた。
「そうだとしたら、今よりもっと強くならないとッスね」
「そうね。戦って、生きて……またこんな風に、お祭りに参加できるように」
その言葉に、義経は呑み込み掛けたドリンクを思わず吹き零しそうなほどにむせ返った。
炎を囲んで踊る人々を眺めて楽しそうな笑みを浮かべる遥を前に、ドギマギとした心境で赤く照らされた彼女の横顔を、いつまでも見つめる義経であった。
「どーして、努力しても運命の人には会えないんですかね。会っても相手して頂けないし」
「オイオイ、ちょっと飲みすぎじゃねぇか」
コンとマグをテーブルに置きながら、愚痴るように口にする恋路の肩を揺するイプシロン。
恋路は「よってませんよー」と手を振って答えるが、全く信憑性が無い。
「もういい……どうせ俺なんか! 誰も相手してくれないなら、いっぺん自分で死んで来ます!!!」
「わぁーったわぁーった! いいから飲め。飲んで忘れろ、な」
涙目でキャンプファイヤーに突貫しようと席を立ち上がった恋路を無理やりもとの場所に落ち着かせ、まだ中身の入った彼のマグにお代わりを注ぐ。
「んひっ……俺様、お酒よぇーの、忘れてたやつ……」
一方で、完全に机に突っ伏しながら2人の服の袖を握り締めるディック。
「うぜぇ、寄るな変態。廃棄用クローゼットに閉じ込めんぞ」
掴まれた腕をブンブン振るいながら、イプシロンはディックの脚のスネをガンガンと強く蹴飛ばす。
が、それで離れるようなモノではなく、余計に強く、引き裂けんばかりに袖を握り締める。
「おれよぉ、馬鹿騒ぎすんならお前らやあいつらとがいいなってさ……アレ抜きでもさ、まじ好きだし?」
ろれつも、おそらく意識もハッキリしていないその瞳で、机に向かってそう口にするディック。
「ディック、おまえ……そんな事で俺が優しくなるかと思ったかよ」
一瞬感銘を受けたかのような間を取りつつも、すぐに眉間に皺を寄せてゲシゲシと攻撃を再開(本人曰く躾らしい)。
「ひひっ……ツンデレだ」
「ちげぇよ、前向きに取んな! そして恋路もしれっとディックのグラスに注ぐんじゃねぇよ……これ以上呑ませんな、めんどくせぇ」
にこやかにお酌しようとしていた恋路を制し、イプシロンは小さくため息を吐く。
恋路は潰して抱えて帰るとして、ディックは自分の力で帰らせねばなるまい。
今後の事を考えると、自分はおちおち酔っても居られない……引かされた貧乏籤に、無性に家のクローゼットが恋しくなるイプシロンであった。
その頃、休暇で参加中のルミ・ヘヴンズドア(kz0060)は、賑やかな祭の色気よりも食い気に走っていた。
両手に抱えた屋台料理に満足そうに微笑むと、どこか広げられる席を探してうろうろと彷徨う。
「おや、そこを行くのはオフィスの受付嬢ちゃんじゃありませんか?」
不意に声を掛けられて振り向くテーブルには、既にいい感じに酔いの回ったアスワドとノゾミの姿。
「同盟の受付嬢ちゃん達は、今回すごくかんばっていたと聞いて居たけれど、よかったら労わせてくれないかな?」
「そうそう、飲み物奢るよ。乾杯しよう!」
酔いのせいか、クールな装いとは似つかないノリの軽さでグラスを差し出すノゾミ。
「良いんですか~? じゃあ、一杯だけ♪」
ルミはニッコリ微笑むと、渡されたグラスを手に取って2人の席に。
「「ルミちゃんにかんぱーい!」」
声を揃えてグラスを鳴らす2人に、ルミは「ありがとー☆」と笑顔で返すと、グラスをグビリ。
同時に「っぷはー!」と3人分の吐息が漏れたのは言うまでも無い。
「お礼に、良かったらこれ食べてねー。なくなったらまた買えば良いからっ」
言いながら自分の抱える食べ物をテーブルに広げるルミ。
「はぁ……可愛いコと乾杯できたら幸せだなぁ」
どこか恍惚とした表情で答えるノゾミ。
その酔った瞳に、ルミの笑顔がものすごい美少女に映っていた……のかもしれない。
「もー、そんな事あるけどー、何も出ないんだからねー☆」
当のルミも満更でも無い様子であるから、なんかもう、どうでもいいや。
「やっぱり呑みは良いね。楽しい。キャンプファイヤーも最高。燃え盛る炎に日頃のウサも投げ込んで、空へと高く舞い上がれ――ってね!」
やんやと炎を仰ぐように、グラスを天に掲げるアスワドに習うように2人もぐいとグラスを掲げて見せる。
「そう言えばルミちゃん、お酒呑めるんだね?」
「え゛……あの、いや、まあ嗜む程度にはねー。あははははー」
唐突に呟いたノゾミの言葉に、思わず冷や汗を垂らすルミ。
これだけ酔っているのだ、明日には詳しくは覚えているまい……そう願って、グラスをぐいと傾けるのであった。
他方、大人数でテーブルを占領し飲み比べを始めていたハンター達。
その自信も確かなものか、誰一人まだ潰れる気配も無く、意気揚々に杯を酌み交わしている。
「よー、なかなかやるじゃねぇか。オッサンのくせによ」
「はっはっ、おじさんだからこそ若い子とは場数が違うんだよ場数が」
お互い顔を赤く染めながらも、憎まれ口を叩く程度には意識はまだハッキリしているリューとジャンク。
「ジャンク殿の買うて来たこの芋は、辛味が良いつまみになるのう」
「そりゃ良かった、姉ちゃんの目に叶って嬉しいよ」
「味のハッキリしたものはな、酒で流すに丁度いい。そこな娘、狐鬼の面のおんしじゃ。ちと酌をしてはくれぬかの?」
ジャンクの見繕ってきた摘みに舌鼓を打ちながら掲げた蜜鈴の杯に、除夜がはいはいと樽の酒を汲み上げる。
「その面、ちょっと気になっておったのじゃが、片面なるのは何か意味があってのことかえ?」
「あー、これはその……ちょっと昔の怪我の痕でして、その」
女の子ですから、とちょっと困ったような笑顔で返す除夜に、蜜鈴が神妙な様子で頭を下げた。
「いや、これは無粋な事を聞いた。許せ」
「そ、そんな畏まらなくっても良いですよ。お酒の席ですし……そうだ! ではここで一つ、五光除夜が踊らせてもらいます!」
慌てて手を振って蜜鈴の謝罪を制した除夜は立ち上がると、ひらりと服の裾を靡かせてみんなの前でお辞儀をする。
「お、余興か。良いぞ良いぞ」
そう言って手を打つフラメディアにもう一度ペコリと笑顔で頭を下げると、部族の踊りだろうか、西方ではどこか独特な――しいて言えば東方のそれに近いような、ゆったりとした雅な舞を披露する。
「これはこれは、除夜ちゃんももしかして出身は――」
故郷のそれに似た舞いに、理子が僅かに眉を動かす。
「いいえ。私もよくは知らないのですけど、遥か先祖がリアルブルーから伝えたものだと聞いています」
除夜はそれに対して小さく首を振ると、踊りながらそう答える。
「リアルブルー! なるほど、あちらにも東方のような文化が」
まだ見ぬ世界にちょっとした親近感を湧かせながらも、こちらの世界の文化と融合したその姿に、西方文化の奥深さも垣間見る。
「ああ……やはりここは、面白い世界ですね」
「その通りじゃ。のう、せっかく蜜鈴の持ってきた東方の酒もあることじゃ。その肴に、あちらの話を聞かせてはくれぬか。まだまだ見知らぬ異国の地、じゃからのう」
しみじみと感じ入る理子に、フラメディアが杯片手にそう問いかける。
理子は「良いでしょう」と同じく杯を手に取ると、遠いかの地の話を、その口で語ってゆくのである。
「あーー! リューおさけいっぱい!」
そんな宴会テーブルに、元気一杯の声が響き渡った。
「おー、ベル。お前も居たのか。どうだ、楽しんでるかー?」
若干ろれつの怪しい口調でそう言葉を返すリューに、ベルは「おさけくちゃい」と鼻を摘んで手を仰ぐ。
「もお、おーおばさまにいいつけちゃうんだからね!」
「そー言うなよ、せっかくの祭だぜ?」
ビシリと責めるように指を指し示すベルに、呑んだくれ特有の論法で見栄を張るリュー。
「お前こそ……はしゃいでまよったりすんなよなー」
「そんなにこどもじゃないよー! もお、いこうよラン!」
リューの言葉にベルはぷりぷりと怒って見せながら、ランの手を引いて祭の喧騒へと消えてゆく。
去り際に視線を合わせたランとリュー。
クイと顎でベルを指し示すリューに、ランはコクリと笑顔で頷き返していた。
「叔父上、我々も早呑み勝負をしませんか!? このマグの中身を早く飲み干した方が勝ちで!」
呑み比べ席の熱気に当てられたのか、アリオーシュが唐突にそう提案していた。
「むぅ、俺なんかと勝負してもつまらんぞ。だが、良いだろう。まだまだ若いモンには負けんつもりだ」
対するラディスラウスも、酔った勢いのせいか、どこか高揚した気分でその勝負を引き受ける。
「それでは、よーいで行きますよ!」
武芸ではまだ敵わなくとも、これなら良い勝負が出来るはず……そう願うアリオーシュに、ラディスラウスはニヤリと大人の余裕をかもし出すと、同時にマグの中身を喉へと流し込んでゆくのであった。
「いい具合にあったまって来たわね……それじゃあ、そろそろ行こうかしら」
最高潮の盛り上がりを見せる会場を前にして、ケイがすくりと重い腰を持ち上げていた。
「お、ねーちゃんそろそろ演るのか?」
音楽団のオヤジ達が、ヒューと口笛を吹き、手を叩きながら彼女の登壇を出迎える。
「ええ、あの炎に負けないように……パワフルでロックな曲をお願いするわ」
音楽団達もニヤリと笑みを浮かべて楽器を手に取ると、奏でるはジャズバンドのように重厚で、しかしどこかシックな演奏。
「音楽で繋がる、2つの世界の融合――魅了するわよ」
炎立ち上る会場に、リアルブルーの歌姫の声が響き渡っていた。
「この声……ケイさん?」
村人に混ざって踊りに参加していた雪加が、響く声にふと顔を上げる。
「なるほど。発散と言うのは、こう言うことなのね」
言いながらも、鼻歌でその曲調を追って歌のリズムに乗る。
「曲調が変わったね。これはもう……自由に踊っちゃっていいのかも?」
様変わりした曲とテンポに、エニアはするりと鞭を抜き放つと、マテリアルの炎を纏わせてさながらファイヤーダンスのように自身の周りでクルクルと螺旋を描く。
「すごいです、エニアさん……大勢の前で、そんなに堂々と」
自分は個人の前ですら、あんなにおどおどとしていたのに……と、その言葉は飲み込んで、那智が呟いた。
「私も、恥ずかしいけど……でもいっそ開き直って、楽しんだ方が得よね。だってお祭だもの」
その言葉に那智はどこか当てられたようにぽかんとし……そして小さく、頷いた。
「楽しめたら勝ち、じゃねーといけねーですよね……うん」
そう、自分を奮い立たせるように口にすると、もう一度エニアの方へと手を差し出す。
「もう一回、踊ってもらえますか? 自分も、いけることまでいってやりてーですよ」
「もちろん!」
エニアは改めてその手を取ると、炎の鞭の軌道に彼女の姿も捉える。
このチャンスに、恥は残しても悔いは残したくない。
那智の願いはエニアの言葉によって、確かに繋がれていたのかもしれない。
●
「んふふ~、ほら、ちゅーしてあげる。ちゅー♪」
「やめろって、こら、腕に絡みつくな!」
大量に空いた酒瓶やマグを前にして執拗に絡みつくリーラに対し、真司は激しく後悔していた。
呑みまくって酔ってくれば、もはや勝負なんて関係なしの酔っ払いになるであろう事を、2人とも予期などしていなかったのだから。
「あ~、くそ。少し飲み過ぎたな……これは二日酔い確実だ」
既にガンガンと主張するこめかみ辺りの血流を前に、頭を抱えてテーブルに突っ伏す真司。
その頬や首にリーラが執拗にキスしてくるのももう意識の外に、彼は深い眠りの世界へとついていた。
目が覚めた時、2人がどうなっていたかは――それはまた、別の話である。
「歌、とても素敵でした。私のお父様も、歌が上手なのよ」
ステージを降りたケイを捕まえて、屋台の一角に腰を下ろした雪加。
「お父様は、お母様の歌が好きって言ってたけど……お母様は、お父様の前では照れちゃうみたいだったわ」
「そう。なら、その血を引いた貴方だって、素敵な歌を歌えるんじゃない?」
相槌を打ちながら彼女の話を聞いて居たケイが、グラスを傾けながらそう問いかける。
「どうでしょう、あんまり人前で披露する事が無いから」
雪加はどこか恥ずかしげに答えると、同時に自らにいろいろと教えてくれた両親を思い出し、少し寂しげな表情を浮かべる。
「でも、女の子だもの。家事もお歌も……戦うことだって、たくさん出来ていいのよ。それが魅力になるんですもの」
「……いいわね、そういう考え方。とってもロックで好きよ」
顔を上げてそう微笑んだ雪加に、ケイは再び相槌を打って見せていた。
「いや~完敗です。さすが叔父上~!」
新しく注文したマグを傾けながら言うアリオーシュに、ラディスラウスはどんなモンだとちょっと胸を張って応えていた。
一気飲みが効いたのか、互いに中々に酔ってきた様子。
自慢のヒゲをもしゃもしゃと触ってじゃれるアリオーシュにも、にこやかに笑ってそれを許す。
「不思議だな……お前の飲む酒はいつもより美味い」
その理由はラディスラウス自身にも分からない。
炎を囲んだ踊りにやんややんやと合いの手を入れる甥を横目に、そうポツリと呟いた。
「また息抜きしにどこか行きましょう! ね!」
不意に、視線をこちらに戻して楽しげに口にしたアリオーシュ。
「あぁ……そうだな」
応えながら甥の頭をわしわしと撫でるラディスラウスに、どこかくすぐったそうに、しかし気持ち良さそうに、アリオーシュは大きく頷くのであった。
「おーい、次いくぞ次!」
ベロベロのリューの肩を抱いて、そう高らかに宣言するジャンクの声が響く。
そんな喧騒を遠巻きに、更け行く夜を前にして、ミューレと結は帰り支度を始めていた。
「ごめんなさい、私、ぐっすり寝ちゃって……」
申し訳無さそうにぺこりと頭を下げる結にをミューレは優しく制する。
「いいよ、可愛い寝顔も見れたしね」
そう言って微笑むと、結の頬がかぁっと赤く染まる。
「お、お詫びに、私にできる事ならなんでもします。だから、遠慮なく言いつけてくださいねっ」
そう口にしたのは咄嗟の事。
本当は、そんな事じゃなくったって、ミューレの望む事なら何だってしてあげたい。
リアルブルーでの出来事がウソだったみたいに、安らぎを与えてくれる彼ともっとずっと、一緒に居たいと。
「分かったよ。じゃあ、何か考えておくね」
そう言って再び微笑むミューレに、勢いよく頷く結。
大きく天に立ち上る炎を前に、2人の若い命の心は、確かに重なり合っていた。
「ラーン! はやくーはやくー」
空が茜色に染まる頃、村の広場にベル(ka1896)の元気な声が響き渡る。
会場に向かって先を駆ける彼女を優しい瞳で追いかけながら、ゆったりとした歩調で後を歩むラン・ヴィンダールヴ(ka0109)。
「あはは、ベルちゃん、楽しそうだねー?」
「うん! だって、ひさしぶりにランがかえってきたんだもの!」
カランと胸元のカウベルを鳴らしながら、大きく頷くベル。
今日は村のお祭りでうんと遊ぶんだと、満面の笑顔を夕陽で染めていた。
「まったく、いきなり出掛けましょって無理矢理連れてきた理由はこれか」
集まった人々の中に紛れ込みながら、柊 真司(ka0705)は頭に手を当てて小さくため息を吐く。
隣のリーラ・ウルズアイ(ka4343)は、ふふんと小さく鼻を鳴らしながら悪戯っぽく笑みを浮かべた。
「たまには良いじゃないの。ここまで来ちゃったんだし、諦めて楽しんじゃえば♪」
彼女達の視線の先には大きく組まれた丸太の櫓。
その中心には枯草や、藁のような細くカラッとした発火材。
「楽しみ、だね」
ざわめく喧噪から少し距離を置いて、にっこりとほほ笑むミューレ(ka4567)。
「はい。一緒に来られて、よかったです!」
同じようにまた、ほほ笑みを返す来未 結(ka4610)。
「あ、そろそろ始まるみたいですねっ」
独特の空気に、どこかそわりとした様子で櫓を見上げる
結の前に、たいまつを掲げた村人が観客に音頭を求める。
「さーん!」
それに合わせて、一斉に上がる観客の掛け声。
「にー! いーち!」
――ぜろ!
そのカウントと同時に、発火材に投じられるたいまつの火。
燃え移った火は次第に大きな炎となり、広場を、そして村全体を照らし始める。
その様に、大きな歓声と拍手が沸き起こり、音楽団の演奏が始まった。
人々は炎を囲んで輪になって、春の郷祭最後の夜が始まるのであった。
●
「炎は……ちょっと、怖いですけど。でも、安心します、ね」
目の前で燃え上がった巨大な炎を前に、見入るように雪加(ka4924)はほうと息をついた。
規模こそ違えど、それは家で家族と囲んだ炎にも似た、暖かな輝き。
「安心、ね。その一方で、熱く燃え上がる、パワフルなシーンだって演出できるわ」
そう言って、艶やかな視線を送るケイ・R・シュトルツェ(ka0242)に、雪加はなるほどと小さく相槌を打つ。
「熱く燃え上がる……そうですね。滾った気持ちを発散しに、踊りでも教えて貰いましょうか。あなたもいかがです?」
炎を囲んで早速始まった村人たちのダンスを眺め、問いかける雪加。
「いえ、せっかくだけど気持ちが滾ったら、私は別の発散法があるのよ」
そう言って、「縁があったらまた会いましょう」と手を振って飲食コーナーへと消えてゆくケイ。
別の……と言ったところに若干引っかかった雪加ではあったが、すぐにその興味をダンス会場に戻して、楽しげに駆けてゆくのであった。
その頃、ふらりと会場を訪れていた楠 那智(ka4269)は、炎で照らされた参加者達の中に見つけたとある存在に、落雷に打たれたかのような衝撃が脊髄を駆け巡る。
視線の先には、その表情を炎に赤く照らされた十色 エニア(ka0370)。
憧れの存在を前にして、思いもよらぬチャンスに心が震える。
「い、いや待て私。『ちょっとコンビニに』……のノリで来たからメイクも髪もテキトー。こんなのじゃ、顔を合わせられるわけねーですよ」
不意にガバリと顔を上げると、適当な物陰へと一目散に駆けだしてゆく那智。
とりあえずメイクは直して、服の皺も伸ばして、準備を整えてからでも遅くない。
彼女の夜は、まだ始まったばかりだ。
「今日は誘ってくれでありがとう、高円寺君」
そんな那智達を他所に、手ごろなテーブルに腰を下ろした八代 遥(ka4481)は、向かいに座った高円寺 義経(ka4362)ににっこりと笑みを浮かべる。
「いや、いいんスよ。ちょうど予定も空いてたッスし」
「一人じゃちょっと来られなかったものね。折角来たんだから楽しみましょう?」
緊張した様子の義経に対し、柔らかい年上の余裕を見せる遥。
「と、とりあえず俺は食べ物を貰って来るッスね! 八代さんはここで待っててくださいッス!」
そう言ってガタリと席から立ち上がると、屋台の方へと駆けだしてゆく義経。
美人のおねーさんとの初デート。
緊張はするけれども楽しんで貰って、イメージアップを計らなければ。
そう心を奮い立たせて、義経は精一杯のおもてなしへと奔走するのだ。
これを青春と呼ばず、何と呼べばよいのか。
「――かんぱーい!」
炎と音楽、そして村人たちの踊りを前に、いい大人たちは早速のアルコールに手を付けていた。
ゴクリと冷たいアルコールが一気に喉を通る音に、思わず漏れたため息が続く。
「いや、いいタイミングで陸に戻って来たもんだ。なんとも運の良いものですね」
「最終日に間に合ってよかった。仕事の後の一杯は格別だね」
海商帰りだと言うアスワド・ララ(ka4239)と青霧 ノゾミ(ka4377)の2人は、完全に船旅の打ち上げの姿勢でテーブルの一角を陣取っていた。
酒を片手に、テーブルには先に買い込んでおいた焼き串などの屋台料理。
足りなくなったらまた買い出しに行けばいい。
祭りの夜は、自由で気ままで気楽なのだ。
「あちこち盛り上がってますね。さてっ、俺たちも呑みますよー!」
そう、一人音頭を取って目の前の仲間達と乾杯する佐久間 恋路(ka4607)。
「うまい酒飲めるんならいいけどよ……だだっぴろい所ってのは、どうも落ち着かなくてな」
ざわりと産毛が立つ首の後ろを掻きながらも、酔いで慣らそうとイプシロン(ka4058)は手にしたグラスを傾ける。
「だけどよ、それ以前になんでお前まで居るんだよディック」
「くひひっ、楽しいの大好きだからな! ぶったおれるまで飲み明かすぜぇえ!」
ただただ楽し気な恋路と、怪訝な表情のイプシロンの間で、嬉々としてマグの中身を煽るディック・シュヴァンツ(ka3904)の姿。
「いーですね。ほら、ミミックさん。僕からも注いであげますよー」
その飲みっぷりを前に、自然に注ぎ注がれも発生し。
「おいおい、ペース考えろよ。俺は知らねぇぞ……」
そう言いながらも話を聞く様子も無い2人を前にして、イプシロンの脳裏に嫌な予感が差したのは言うまでもない。
「叔父上、酒とつまみを持ってまいりました!」
尊敬する叔父の待つテーブルにマグと皿を広げるアリオーシュ・アルセイデス(ka3164)。
「うむ、すまんな。では乾杯と行こう」
そのマグを受け取り、かちりと合わせるラディスラウス・ライツ(ka3084)は、ゴクリと喉を鳴らすと祭りの喧噪を遠巻きに眺める。
「祭の活気はいつも良いものですね♪」
楽しげに語るアリオーシュに対し、ラディはどこかむず痒い様子で肩をソワリ。
「どうもこう、賑やかな感じは慣れんな」
「でしたらここは親類水入らず、飲み明かしましょう」
そう提案するアリオーシュにラディスラウスは「うむ」ともう一度頷いて、再びマグを傾けた。
程よくアルコールも回り始め、背筋が火照る頃には、その耳に入る喧噪も大して気にはなっていなかった。
「はい、アーン♪」
一方、こちらもまた屋台席の一角を陣取った真司とリーラの2人は、目の前に並べられた料理に舌鼓――とは言えない様子で、リーラの「あーん」攻撃を執拗に受ける真司の姿がそこにはあった。
「人が見てる前でそんな事できるかよ!」
やや慌てた様子で、手のひらを突き出してそれを制する真司にリーラはどこか面白くない様子ながらも、挑戦的な笑みで彼をからかっていた。
「――あー、いたいたお嬢ちゃん。さっき頼まれてたヤツだよ」
不意に、屋台のオヤジらしき人物が彼らのテーブルに押しかけ一言。
同時に大量の酒がテーブルの上に所狭しと並べられて行く。
「おいおい、これはどういう事だよ……」
目の前のテーブルの有様に思わず目を見張る真司。
「そりゃ、お祭りと言ったら呑み比べよ! さぁ、勝負よ真司!」
大量の酒を前に瞳を輝かせて、意気揚々とそう宣言するリーラ。
「どういう裏があるのかと警戒してみりゃ……どっちかってっと俺は静かに飲みたいんだがな」
小さくため息を吐きながらぶつくさと文句を口にする真司であったが、そのお人よし体質を前に断るような甲斐性の無い男でもない。
現在飲み掛けのグラスを手に取ると、これが答えだとでも言いたげに、その中身をぐいっと一息で煽るのであった。
「おうおう、良い具合に始まって来ているのう」
飲み比べを始めた彼方のテーブルを見やりながら、蜜鈴=カメーリア・ルージュ(ka4009)は僅かにその目を細めた。
「えっと……お酒、持ってきましたー!!」
そんな時、大きな酒樽を両手で抱えてひょこひょこと駆け寄って来る五光 除夜(ka4323)の姿に彼女達の席はわっと色めき立つ。
「待っておった! さあ、宴じゃ宴じゃ! 今宵は心行くまで呑むとするぞ!」
どかりと置かれた酒樽を前に、そう高らかに声を上げるフラメディア・イリジア(ka2604)。
「ささ、どうぞどうぞ」
自分は飲めないからと、お酌に回る除夜。
「いやー若い嬢ちゃんに酌されて、美人の姉ちゃんと酒を酌み交わせるなんて贅沢だね」
言いながらも満更でもない様子でなみなみと酒の注がれたマグを受け取るジャンク(ka4072)に、くすくすと蜜鈴が小さく鼻を鳴らす。
「辺境や東方から持って来た酒もある。どれせっかくだ、味を比べながら、こちらも一つ飲み比べとしよるか」
「おー、良いぜ良いぜ。そういう事なら負けねーからな!」
相当自信があるのか、既に数杯マグを開けながらもリュー・グランフェスト(ka2419)が腕を捲って意気込みを語った。
「おや、珍しい。それは私の故郷のお酒ですね」
沸き立つテーブルにふと目を奪われたのか、ふらりと通りがかりの華彩 理子(ka5123)が机の上に並べられた酒瓶の数々の中に故郷の酒が並べられているのに気付き思わず声を掛ける。
「おまえも混ざるか? 死して屍拾うもの無しの大勝負じゃ」
「良いのですか? こう見えて私、けっこう強いですよ」
くいとグラスを傾ける動きで語るフラメディアに、ニッコリと笑顔で返す理子。
役者はこれで整った。
祭りの空気にかこつけて、炎に向けたグラスを前に、手始めにと5人は一斉にその中身を飲み干して見せるのであった。
●
燃え盛る炎の塔を囲んで、音楽団の笛や太鼓、弦楽器の音をバックにクルリクルリと笑顔で踊る男女達。
いわゆる村祭りの踊りの様子であったが、当然参加は飛び入り大歓迎である。
「こ、こうで大丈夫ですか?」
村の有志による踊りの練習コーナーで、頬を赤く染めながらもステップの練習をする那智とそれを笑顔で見守るエニア。
「そうそう、良い感じ。子供でも踊れるみたいだし、そんなに難しい曲では無いみたいね」
「た、たぶん大丈夫そう……です。エ、エニアさん、よろしくお願いしますっ!」
完全に上ずった声で手を差し出す那智。
エニアはコクリと頷いてその手を取ると、那智の手を引くようにして炎の会場へと連れ出して行く。
憧れのエニアを前にしているのはもちろんあるが、那智が終始頬を染めていた一番の理由……この村の踊りは、男女――には限らないが2人1組で踊るものなのだ。
(私……何やってんだろう……)
勢いに任せてここまで来たが、それ故に我に返った時の反動もデカい。
が……それでも今は一時のこの夢を。
否、この現実を噛みしめて、エニアの手を握りしめていた。
「へへー。たのしーねー♪」
カランコロンとカウベルを鳴らしながら、音に合せてくるくる回るベルを前に、社交ダンス経験のあると言うランは若干慌てた様子でその身体を振り回される。
「っと、えっ、ベルちゃん!?」
ステップのお約束など無視して縦横無尽に踏みまくるベルを前に、昔取った杵柄もなんのその、お構い無しの不格好なダンス。
鳴り響くカウベルと、そのある種独特なステップを前に、他の参加者からもどこか微笑ましい視線を投げかけられるベル&ランペア。
(今度、ちゃんと教えてあげなきゃな……)
集まる視線は少々居心地の悪いものではあったが、目の前で楽しそうに踊るベルを前にしてその気持ちもどこかに吹き飛び、ただただ同じようにほほ笑みを返していたランであった。
そんな喧騒をやや遠目に、花の咲き誇る原っぱに腰を下ろすミューレと結。
お茶やジュース類と、軽く摘まんで食べられるものを買い込んで、少し静かな場所を探してやって来ていたのだった。
もちろん、祭りの喧騒が嫌いと言うわけでは無く、二人っきりになりたかったと言う意図の方がお互いに強かったのかもしれない。
何度かお酌をし合って、食べ物でお腹も満たした頃。
うとりと、小さく船を漕いだ結の頭がミューレの肩に触れる。
「あっ……ごめんなさい」
「大丈夫。結こそ寒く無い?」
頭を振って目を覚ます結を傍に寄せ、抱き込むようにしてコートを2人で羽織る。
そうしているうちに、コートの暖かさか、ミューレの暖かさか。
結はすうと瞳を閉じて、ミューレの肩で小さな寝息を立始めてしまっていた。
そんな彼女の姿を見ながら、小さくほほ笑むミューレ。
親元を離れて異世界で、弱音も吐かずに健気に頑張っている少女。
彼女の力になりたい、彼女を支えられる存在になりたい……その想いを胸に、そっと肩を抱き寄せる。
こうして自分の肩で寝息を立てる彼女は今、どんな夢を見ているのだろうか。
義経と遥の2人は、義経がチョイスして来た食べ物や飲み物をテーブルに広げてちょっとしたパーティ気分。
粉ものや肉類に若干の偏りが出たのは年ゆえだろうか、それでもあまり参加した事の無いお祭りの空気に若干浮かれ気味の遥にとっては些細な事で、どれもおいしそうに口に運んで見せる。
「ん、これもなかなかイケるッスね……!」
謎の肉の焼き物を頬張りながら、チラリと正面の少女の顔を盗み見る義経。
料理を頬張る艶やかな唇にドキリとして、慌てて飲み物のコップに顔をうずめて赤くなった頬を隠す。
「えっと、その……辺境での戦いが終わったと思ったら、今度は東方が騒がしいって言うッスね。なんというか、終わったばっかりだけど、また戦いに備えないと」
何か話題を切り出そうと、口に出たのはそんな言葉。
ムードも何もあったものでは無かったが、遥もその言葉に小さく頷いて見せると、こくりと喉を鳴らして飲み物を呑み込む。
「それが仮に私達がこの世界に来た意味なのだとしたら、仕方のない事なのかもいれないわ」
そう口にした遥の言葉には、どこか自分自身に問いかけるような疑問符も垣間見えたが、言っている事の意味としてはなるほどと義経も頷いて見せた。
「そうだとしたら、今よりもっと強くならないとッスね」
「そうね。戦って、生きて……またこんな風に、お祭りに参加できるように」
その言葉に、義経は呑み込み掛けたドリンクを思わず吹き零しそうなほどにむせ返った。
炎を囲んで踊る人々を眺めて楽しそうな笑みを浮かべる遥を前に、ドギマギとした心境で赤く照らされた彼女の横顔を、いつまでも見つめる義経であった。
「どーして、努力しても運命の人には会えないんですかね。会っても相手して頂けないし」
「オイオイ、ちょっと飲みすぎじゃねぇか」
コンとマグをテーブルに置きながら、愚痴るように口にする恋路の肩を揺するイプシロン。
恋路は「よってませんよー」と手を振って答えるが、全く信憑性が無い。
「もういい……どうせ俺なんか! 誰も相手してくれないなら、いっぺん自分で死んで来ます!!!」
「わぁーったわぁーった! いいから飲め。飲んで忘れろ、な」
涙目でキャンプファイヤーに突貫しようと席を立ち上がった恋路を無理やりもとの場所に落ち着かせ、まだ中身の入った彼のマグにお代わりを注ぐ。
「んひっ……俺様、お酒よぇーの、忘れてたやつ……」
一方で、完全に机に突っ伏しながら2人の服の袖を握り締めるディック。
「うぜぇ、寄るな変態。廃棄用クローゼットに閉じ込めんぞ」
掴まれた腕をブンブン振るいながら、イプシロンはディックの脚のスネをガンガンと強く蹴飛ばす。
が、それで離れるようなモノではなく、余計に強く、引き裂けんばかりに袖を握り締める。
「おれよぉ、馬鹿騒ぎすんならお前らやあいつらとがいいなってさ……アレ抜きでもさ、まじ好きだし?」
ろれつも、おそらく意識もハッキリしていないその瞳で、机に向かってそう口にするディック。
「ディック、おまえ……そんな事で俺が優しくなるかと思ったかよ」
一瞬感銘を受けたかのような間を取りつつも、すぐに眉間に皺を寄せてゲシゲシと攻撃を再開(本人曰く躾らしい)。
「ひひっ……ツンデレだ」
「ちげぇよ、前向きに取んな! そして恋路もしれっとディックのグラスに注ぐんじゃねぇよ……これ以上呑ませんな、めんどくせぇ」
にこやかにお酌しようとしていた恋路を制し、イプシロンは小さくため息を吐く。
恋路は潰して抱えて帰るとして、ディックは自分の力で帰らせねばなるまい。
今後の事を考えると、自分はおちおち酔っても居られない……引かされた貧乏籤に、無性に家のクローゼットが恋しくなるイプシロンであった。
その頃、休暇で参加中のルミ・ヘヴンズドア(kz0060)は、賑やかな祭の色気よりも食い気に走っていた。
両手に抱えた屋台料理に満足そうに微笑むと、どこか広げられる席を探してうろうろと彷徨う。
「おや、そこを行くのはオフィスの受付嬢ちゃんじゃありませんか?」
不意に声を掛けられて振り向くテーブルには、既にいい感じに酔いの回ったアスワドとノゾミの姿。
「同盟の受付嬢ちゃん達は、今回すごくかんばっていたと聞いて居たけれど、よかったら労わせてくれないかな?」
「そうそう、飲み物奢るよ。乾杯しよう!」
酔いのせいか、クールな装いとは似つかないノリの軽さでグラスを差し出すノゾミ。
「良いんですか~? じゃあ、一杯だけ♪」
ルミはニッコリ微笑むと、渡されたグラスを手に取って2人の席に。
「「ルミちゃんにかんぱーい!」」
声を揃えてグラスを鳴らす2人に、ルミは「ありがとー☆」と笑顔で返すと、グラスをグビリ。
同時に「っぷはー!」と3人分の吐息が漏れたのは言うまでも無い。
「お礼に、良かったらこれ食べてねー。なくなったらまた買えば良いからっ」
言いながら自分の抱える食べ物をテーブルに広げるルミ。
「はぁ……可愛いコと乾杯できたら幸せだなぁ」
どこか恍惚とした表情で答えるノゾミ。
その酔った瞳に、ルミの笑顔がものすごい美少女に映っていた……のかもしれない。
「もー、そんな事あるけどー、何も出ないんだからねー☆」
当のルミも満更でも無い様子であるから、なんかもう、どうでもいいや。
「やっぱり呑みは良いね。楽しい。キャンプファイヤーも最高。燃え盛る炎に日頃のウサも投げ込んで、空へと高く舞い上がれ――ってね!」
やんやと炎を仰ぐように、グラスを天に掲げるアスワドに習うように2人もぐいとグラスを掲げて見せる。
「そう言えばルミちゃん、お酒呑めるんだね?」
「え゛……あの、いや、まあ嗜む程度にはねー。あははははー」
唐突に呟いたノゾミの言葉に、思わず冷や汗を垂らすルミ。
これだけ酔っているのだ、明日には詳しくは覚えているまい……そう願って、グラスをぐいと傾けるのであった。
他方、大人数でテーブルを占領し飲み比べを始めていたハンター達。
その自信も確かなものか、誰一人まだ潰れる気配も無く、意気揚々に杯を酌み交わしている。
「よー、なかなかやるじゃねぇか。オッサンのくせによ」
「はっはっ、おじさんだからこそ若い子とは場数が違うんだよ場数が」
お互い顔を赤く染めながらも、憎まれ口を叩く程度には意識はまだハッキリしているリューとジャンク。
「ジャンク殿の買うて来たこの芋は、辛味が良いつまみになるのう」
「そりゃ良かった、姉ちゃんの目に叶って嬉しいよ」
「味のハッキリしたものはな、酒で流すに丁度いい。そこな娘、狐鬼の面のおんしじゃ。ちと酌をしてはくれぬかの?」
ジャンクの見繕ってきた摘みに舌鼓を打ちながら掲げた蜜鈴の杯に、除夜がはいはいと樽の酒を汲み上げる。
「その面、ちょっと気になっておったのじゃが、片面なるのは何か意味があってのことかえ?」
「あー、これはその……ちょっと昔の怪我の痕でして、その」
女の子ですから、とちょっと困ったような笑顔で返す除夜に、蜜鈴が神妙な様子で頭を下げた。
「いや、これは無粋な事を聞いた。許せ」
「そ、そんな畏まらなくっても良いですよ。お酒の席ですし……そうだ! ではここで一つ、五光除夜が踊らせてもらいます!」
慌てて手を振って蜜鈴の謝罪を制した除夜は立ち上がると、ひらりと服の裾を靡かせてみんなの前でお辞儀をする。
「お、余興か。良いぞ良いぞ」
そう言って手を打つフラメディアにもう一度ペコリと笑顔で頭を下げると、部族の踊りだろうか、西方ではどこか独特な――しいて言えば東方のそれに近いような、ゆったりとした雅な舞を披露する。
「これはこれは、除夜ちゃんももしかして出身は――」
故郷のそれに似た舞いに、理子が僅かに眉を動かす。
「いいえ。私もよくは知らないのですけど、遥か先祖がリアルブルーから伝えたものだと聞いています」
除夜はそれに対して小さく首を振ると、踊りながらそう答える。
「リアルブルー! なるほど、あちらにも東方のような文化が」
まだ見ぬ世界にちょっとした親近感を湧かせながらも、こちらの世界の文化と融合したその姿に、西方文化の奥深さも垣間見る。
「ああ……やはりここは、面白い世界ですね」
「その通りじゃ。のう、せっかく蜜鈴の持ってきた東方の酒もあることじゃ。その肴に、あちらの話を聞かせてはくれぬか。まだまだ見知らぬ異国の地、じゃからのう」
しみじみと感じ入る理子に、フラメディアが杯片手にそう問いかける。
理子は「良いでしょう」と同じく杯を手に取ると、遠いかの地の話を、その口で語ってゆくのである。
「あーー! リューおさけいっぱい!」
そんな宴会テーブルに、元気一杯の声が響き渡った。
「おー、ベル。お前も居たのか。どうだ、楽しんでるかー?」
若干ろれつの怪しい口調でそう言葉を返すリューに、ベルは「おさけくちゃい」と鼻を摘んで手を仰ぐ。
「もお、おーおばさまにいいつけちゃうんだからね!」
「そー言うなよ、せっかくの祭だぜ?」
ビシリと責めるように指を指し示すベルに、呑んだくれ特有の論法で見栄を張るリュー。
「お前こそ……はしゃいでまよったりすんなよなー」
「そんなにこどもじゃないよー! もお、いこうよラン!」
リューの言葉にベルはぷりぷりと怒って見せながら、ランの手を引いて祭の喧騒へと消えてゆく。
去り際に視線を合わせたランとリュー。
クイと顎でベルを指し示すリューに、ランはコクリと笑顔で頷き返していた。
「叔父上、我々も早呑み勝負をしませんか!? このマグの中身を早く飲み干した方が勝ちで!」
呑み比べ席の熱気に当てられたのか、アリオーシュが唐突にそう提案していた。
「むぅ、俺なんかと勝負してもつまらんぞ。だが、良いだろう。まだまだ若いモンには負けんつもりだ」
対するラディスラウスも、酔った勢いのせいか、どこか高揚した気分でその勝負を引き受ける。
「それでは、よーいで行きますよ!」
武芸ではまだ敵わなくとも、これなら良い勝負が出来るはず……そう願うアリオーシュに、ラディスラウスはニヤリと大人の余裕をかもし出すと、同時にマグの中身を喉へと流し込んでゆくのであった。
「いい具合にあったまって来たわね……それじゃあ、そろそろ行こうかしら」
最高潮の盛り上がりを見せる会場を前にして、ケイがすくりと重い腰を持ち上げていた。
「お、ねーちゃんそろそろ演るのか?」
音楽団のオヤジ達が、ヒューと口笛を吹き、手を叩きながら彼女の登壇を出迎える。
「ええ、あの炎に負けないように……パワフルでロックな曲をお願いするわ」
音楽団達もニヤリと笑みを浮かべて楽器を手に取ると、奏でるはジャズバンドのように重厚で、しかしどこかシックな演奏。
「音楽で繋がる、2つの世界の融合――魅了するわよ」
炎立ち上る会場に、リアルブルーの歌姫の声が響き渡っていた。
「この声……ケイさん?」
村人に混ざって踊りに参加していた雪加が、響く声にふと顔を上げる。
「なるほど。発散と言うのは、こう言うことなのね」
言いながらも、鼻歌でその曲調を追って歌のリズムに乗る。
「曲調が変わったね。これはもう……自由に踊っちゃっていいのかも?」
様変わりした曲とテンポに、エニアはするりと鞭を抜き放つと、マテリアルの炎を纏わせてさながらファイヤーダンスのように自身の周りでクルクルと螺旋を描く。
「すごいです、エニアさん……大勢の前で、そんなに堂々と」
自分は個人の前ですら、あんなにおどおどとしていたのに……と、その言葉は飲み込んで、那智が呟いた。
「私も、恥ずかしいけど……でもいっそ開き直って、楽しんだ方が得よね。だってお祭だもの」
その言葉に那智はどこか当てられたようにぽかんとし……そして小さく、頷いた。
「楽しめたら勝ち、じゃねーといけねーですよね……うん」
そう、自分を奮い立たせるように口にすると、もう一度エニアの方へと手を差し出す。
「もう一回、踊ってもらえますか? 自分も、いけることまでいってやりてーですよ」
「もちろん!」
エニアは改めてその手を取ると、炎の鞭の軌道に彼女の姿も捉える。
このチャンスに、恥は残しても悔いは残したくない。
那智の願いはエニアの言葉によって、確かに繋がれていたのかもしれない。
●
「んふふ~、ほら、ちゅーしてあげる。ちゅー♪」
「やめろって、こら、腕に絡みつくな!」
大量に空いた酒瓶やマグを前にして執拗に絡みつくリーラに対し、真司は激しく後悔していた。
呑みまくって酔ってくれば、もはや勝負なんて関係なしの酔っ払いになるであろう事を、2人とも予期などしていなかったのだから。
「あ~、くそ。少し飲み過ぎたな……これは二日酔い確実だ」
既にガンガンと主張するこめかみ辺りの血流を前に、頭を抱えてテーブルに突っ伏す真司。
その頬や首にリーラが執拗にキスしてくるのももう意識の外に、彼は深い眠りの世界へとついていた。
目が覚めた時、2人がどうなっていたかは――それはまた、別の話である。
「歌、とても素敵でした。私のお父様も、歌が上手なのよ」
ステージを降りたケイを捕まえて、屋台の一角に腰を下ろした雪加。
「お父様は、お母様の歌が好きって言ってたけど……お母様は、お父様の前では照れちゃうみたいだったわ」
「そう。なら、その血を引いた貴方だって、素敵な歌を歌えるんじゃない?」
相槌を打ちながら彼女の話を聞いて居たケイが、グラスを傾けながらそう問いかける。
「どうでしょう、あんまり人前で披露する事が無いから」
雪加はどこか恥ずかしげに答えると、同時に自らにいろいろと教えてくれた両親を思い出し、少し寂しげな表情を浮かべる。
「でも、女の子だもの。家事もお歌も……戦うことだって、たくさん出来ていいのよ。それが魅力になるんですもの」
「……いいわね、そういう考え方。とってもロックで好きよ」
顔を上げてそう微笑んだ雪加に、ケイは再び相槌を打って見せていた。
「いや~完敗です。さすが叔父上~!」
新しく注文したマグを傾けながら言うアリオーシュに、ラディスラウスはどんなモンだとちょっと胸を張って応えていた。
一気飲みが効いたのか、互いに中々に酔ってきた様子。
自慢のヒゲをもしゃもしゃと触ってじゃれるアリオーシュにも、にこやかに笑ってそれを許す。
「不思議だな……お前の飲む酒はいつもより美味い」
その理由はラディスラウス自身にも分からない。
炎を囲んだ踊りにやんややんやと合いの手を入れる甥を横目に、そうポツリと呟いた。
「また息抜きしにどこか行きましょう! ね!」
不意に、視線をこちらに戻して楽しげに口にしたアリオーシュ。
「あぁ……そうだな」
応えながら甥の頭をわしわしと撫でるラディスラウスに、どこかくすぐったそうに、しかし気持ち良さそうに、アリオーシュは大きく頷くのであった。
「おーい、次いくぞ次!」
ベロベロのリューの肩を抱いて、そう高らかに宣言するジャンクの声が響く。
そんな喧騒を遠巻きに、更け行く夜を前にして、ミューレと結は帰り支度を始めていた。
「ごめんなさい、私、ぐっすり寝ちゃって……」
申し訳無さそうにぺこりと頭を下げる結にをミューレは優しく制する。
「いいよ、可愛い寝顔も見れたしね」
そう言って微笑むと、結の頬がかぁっと赤く染まる。
「お、お詫びに、私にできる事ならなんでもします。だから、遠慮なく言いつけてくださいねっ」
そう口にしたのは咄嗟の事。
本当は、そんな事じゃなくったって、ミューレの望む事なら何だってしてあげたい。
リアルブルーでの出来事がウソだったみたいに、安らぎを与えてくれる彼ともっとずっと、一緒に居たいと。
「分かったよ。じゃあ、何か考えておくね」
そう言って再び微笑むミューレに、勢いよく頷く結。
大きく天に立ち上る炎を前に、2人の若い命の心は、確かに重なり合っていた。
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相談卓 フラメディア・イリジア(ka2604) ドワーフ|14才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2015/06/21 22:06:12 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/24 12:48:06 |