ゲスト
(ka0000)
綺羅星を見つめて
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/14 22:00
- 完成日
- 2014/07/20 14:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
クリムゾンウェストも、夜になれば星がまたたく。
とはいえ、リゼリオをはじめとした都市部では、やはり結構明るくて――空は薄くけぶっている。
本当の星空は、そこにはない。
●
ところで。
とある依頼のさなかで辺境を訪れたリアルブルー出身ハンター・カイトは、その夜の美しさに感動した。リアルブルーとは異なるが、満天の星空が非常に美しいのだ。
(……そういえば、七夕もこの時期だっけ)
リアルブルーでいう日本人のカイトは、そんなことを思いながら空に思いを馳せる。
天の川、織姫、彦星、そしてカササギの橋……
幼いころに聞いた七夕伝説を思い出す。
(クリムゾンウェストには、七夕のようなイベントはないんだろうか)
辺境は確かに生活環境としては厳しい。
しかし、だからこそ見えるものも存在する。この、満天の星々のように。
「……そうだ」
この星空の美しさを、皆に知ってもらおう。
きっとクリムゾンウェストの人だって、こんな星空を見慣れていない人はきっといる。都会の喧騒の中では、この星はきっと見えないだろうから。
依頼で肩肘張ってばかりでは疲れてしまう。
こういう、少しゆったり時間を過ごすことも、ハンターにはきっと必要なのだ――カイトはそう思って、口元をわずかにほころばせた。
クリムゾンウェストも、夜になれば星がまたたく。
とはいえ、リゼリオをはじめとした都市部では、やはり結構明るくて――空は薄くけぶっている。
本当の星空は、そこにはない。
●
ところで。
とある依頼のさなかで辺境を訪れたリアルブルー出身ハンター・カイトは、その夜の美しさに感動した。リアルブルーとは異なるが、満天の星空が非常に美しいのだ。
(……そういえば、七夕もこの時期だっけ)
リアルブルーでいう日本人のカイトは、そんなことを思いながら空に思いを馳せる。
天の川、織姫、彦星、そしてカササギの橋……
幼いころに聞いた七夕伝説を思い出す。
(クリムゾンウェストには、七夕のようなイベントはないんだろうか)
辺境は確かに生活環境としては厳しい。
しかし、だからこそ見えるものも存在する。この、満天の星々のように。
「……そうだ」
この星空の美しさを、皆に知ってもらおう。
きっとクリムゾンウェストの人だって、こんな星空を見慣れていない人はきっといる。都会の喧騒の中では、この星はきっと見えないだろうから。
依頼で肩肘張ってばかりでは疲れてしまう。
こういう、少しゆったり時間を過ごすことも、ハンターにはきっと必要なのだ――カイトはそう思って、口元をわずかにほころばせた。
リプレイ本文
●
人は星を見て何を思うのだろう。
星にどんな思いを馳せるのだろう。
そして、交わった2つの世界の住人達は、星空をどう見つめるのだろう。
●
(……星なんて、軍時代に宇宙で飽きるほど眺めたはずなんだが、な)
榊 兵庫(ka0010)は、そっとひとりごちる。
リアルブルー出身者には、宇宙での生活経験者も少なくない。兵庫もまた、かのサルヴァトーレ・ロッソに勤務していた元軍人である。
(まあ、こちらの世界では夜空もまるで違って見えるし、折角の機会だ)
酒と自分で作った簡単なつまみを持参して、星見酒と洒落込むつもりは十分だ。
「……にしても、酒に貴賎はないとは言うが、せっかくのこの星空で日本酒がないというのは色々勿体無い限りだな」
リアルブルーの一地域、日本人としての感性が、思わずそうつぶやかせる。洒脱とはいかないが、こういう浪漫ある場所で飲むならやはり日本酒――そう思わせてしまうのだ。
「……ま、この素敵な夜空に、乾杯しようぜ!」
そう言いながら、兵庫は杯を傾ける。
元軍人で星見にやってきた――という意味ではカグラ・シュヴァルツ(ka0105)も同様だった。従妹でやはり軍人だったシュネー・シュヴァルツ(ka0352)がそわそわとしながら、
「カグラ兄さん、星見ですって。いつも私を放り出してばかりいないで、カグラ兄さんも外に出ましょうよ」
と誘ってみれば、ややインドア派のカグラとしても、ふむと頷く。
「……星、ですか。たまにはゆっくりするのも、いいかもしれませんね」
空に広がる満天の星を見ながら語らうのも、悪くない。
二人はのんびり、夜空を眺めにでたのだった。
「そういえば、こっちに来てからはのんびり見る機会もなかったなぁ。折角もらった機会だし、こちらの世界の夜空を楽しませてもらおうかな!」
小柄な少女がそう言って笑う。少女の名前は神原 菫(ka0193)、こう見えてもれっきとしたリアルブルーの元戦闘員だ。
「周囲すべてが星空っていうのもいいけれど、こうやって見上げる星空もいいものだよね」
そんなことを呟きながら地面に腰を下ろし、と、どこかで見かけたような人々も近くにいるのに気づく。恐らく、リアルブルーの出身者たちだ。軽く手を振り、にっこりと笑う。
「ね、皆で一緒に見ない?」
無論ここに集うのはリアルブルー出身者だけではない。紅き世界・クリムゾンウェストで生を受けた人々も、同じように星を見にやってきている。リアルブルーの人も、クリムゾンウェストの人も、ともに――それはなんと素晴らしいことなのだろう。
しかし、シュネーはそんなふうに話しかけられて、慌てて従兄の後ろに回った。それまでは普通にカグラと話していたのだが、シュネー自身はどうにも人見知りをするタイプなのだ。それでも菫に敵意がないのはわかるから、小さくペコリと挨拶をする。そんな様子を見てカグラはいつもの様に静かに微笑んだ。
一方、リアルブルー出身といっても軍人ばかりではない。
「風音さん、こんばんは。……浴衣、なんですね」
柔和な微笑みをたたえた少年、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)は、待ち合わせしていた相手――夕影 風音(ka0275)を見て、わずかに驚いたような表情を見せた。というのも、風音が浴衣を着つけて現れたからである。クリムゾンウェストではあまり見られないその服装に、ユキヤはどこか懐かしさを覚える。
「あ、ユキヤ君も星空を見に来たの? 良かった、周りが知らない人だらけでちょっと心細かったの」
ユキヤと風音は元から友人というわけではない。この世界、クリムゾンウェストに転移してから出会ったという関係である。
「リアルブルーでは七夕なんだなあって思ったら、なんだか浴衣を着たくなっちゃって」
たしかにこの時期、リアルブルーでは祭りが行われることが多い。クリムゾンウェストの『祭祀』とは趣が異なるが、七夕もそんなリアルブルーの祭りの一つ。ユキヤは素直に微笑んだ。
「久しぶりにリアルブルーを色濃く感じて、なんだか嬉しいです。よくお似合いですね」
言われて風音は、照れくさそうに笑った。そして空を見つめる。
「こっちでも天の川って見られるのかな?」
風音は空を見上げながら、昔聞いた七夕の伝説を思い出す。
こと座のベガ、わし座のアルタイル、そしてはくちょう座のデネブ――リアルブルーで見られる夏の大三角は、たしかにこのクリムゾンウェストで見られることはない。見たことのない星々が、夜空を覆い尽くしている。
でも、天の川は。
乳の流れた跡と言われた銀河によく似た、星の集まりはクリムゾンウェストからも見えて。
もちろんそれはリアルブルーから見えるそれとは異なるけれど、妙に親近感を覚えた。
「綺麗ね……違う世界でも、ちゃんと星は輝いているのね」
あの星の海の彼方に、リアルブルーがあるのだろうか。そんなことを思って、少女は虚空に手を伸ばす。
「まるで降ってきそうですね……。手が届きそうで届かないのも、もどかしいけれど、それも魅力の一つなのかもしれません」
少年はそう言って、静かに頷いた。
「ふむ、興味深い。リアルブルーの高知でも、こうもきれいな星空は見られないのではないかな」
久延毘 大二郎(ka1771)は大きく頷きながら空を眺める。飽くなき知的好奇心が彼を突き動かす原動力だが、きょうの興味はこの星空だ。
転移してからというもの、見るものどれも目新しく、しかし星空に気を配ることは言われてみればなかった大二郎。ぶらりぶらりと歩きながら、星空を見て楽しむことにしたらしい。
彼の専門は考古学。天文学は専門外だが、目指すものは同じと考えている。それは、人の手を離れた遥か先にある深淵に真実が眠っているということ。
(天にあるか、地にあるかの違いだがね)
そして大二郎は、それはそれはいい笑顔で笑った。
「そんな深淵のすべてが解き明かされる日がくるのが、私は非常に楽しみなのだよ」
●
「機会をありがとう、カイトさん」
依頼主たる青年にそう言って一礼するのは鍛冶屋の跡取り娘・クレール(ka0586)だ。七夕というリアルブルーの行事については、以前リアルブルー出身者に教えてもらったらしい。
地面にシートを敷き、楽な格好で寝そべって空を見上げる。
「ん~♪ 満天の星空、綺羅星……どれも綺麗だな、久しぶりだな~……あれ? 星空なんて見上げたの、何年ぶりだっけ……?」
これまで過ごした日々を振り返るクレール。
思えば鍛冶の道に悩み始めてから、見上げた覚えがない。家を出てまで技術を追っても逆に道を見失い、上を向くことも忘れてしまっていた。
(……家のみんなも、同じ星空を眺めてるかな……会いたいな……帰りた、い……)
ポロリ、零れるひとしずく。それに気づいて、胸の中で思う。
(……泣いたのも、何年ぶりだっけ……)
「おい、お嬢さん。大丈夫か?」
クレールの様子を見た青年――ティーア・ズィルバーン(ka0122)が、小さく首を傾げながら尋ねた。その手にはきょうのために作ったのであろう、星形に切ったじゃがいもをフライしたものがある。クレールは慌てて涙を拭った。
「それにしても、やっぱりむこうと違って星の光が綺麗だな」
ティーアは呟いて、それからフライドポテトをいくつか少女に渡す。
「ま、こうやってのんびり過ごしたってバチは当たらないよな。だから、少し気分を楽に持ったらいいと思うぜ? そうだ、折角ならこっちにも星や星座の言い伝えとかあるなら、リアルブルーの似た伝承と比較しても面白そうだよな」
「あなたは、リアルブルーの人?」
「ああ。ま、これも何かの縁だろ」
クレールの問いに、ティーアは笑った。
「ほら、そっちのお嬢さんもさ」
「えっ、ボク?」
ティーアがひょいと手を差し出した方には、小柄な少女。ドワーフのアニス(ka0306)だ。彼女もまた故郷を思い出して、すこしばかりセンチメンタルな心持ちになっていたらしい。
(みんな元気にやってるかなぁ、ボクがいなくてもご飯はちゃんと食べてるかなあ、あとそれから……。ちょっと心配になってきちゃったなぁ……)
アニスもそんなことを思っていたが、話しかけられれば別だ。にっこり笑ってフレンドリーに、挨拶をする。
「今日の星空はすごい綺麗だねっ。見上げるところで見え方って、やっぱり違うのかなー?」
ホームシックなんて忘れてしまったかのようにして、そしてティーアの差し出すポテトを有り難く受取った。
「星の伝承だと?」
と、ワイワイと賑わっているのが伝わったのだろう、そこへ話しかけにくる人影があった。
「辺境は我が故郷。どうだ、素晴らしい夜空だろう?」
黒髪の小柄な少女が得意げな笑顔でやってくる。そしてごろりと大の字で寝そべった。
「我が名はオンサ・ラ・マーニョ(ka2329)。我が部族では星見の際は大地に臥するのが作法でな。いちいち首を上に向けるのもつかれるであろう?」
そう言いながらストローをさした牛乳とジュースを口に含むあたりはまだお子様という感じだ。
「オンサちゃんだっけ? フライドポテト食べるかい?」
「おお、いただこう。こちらのものも良ければ食うが良い」
ティーアと順繰りにオンサが差し出したのは塩味のきいたプルルッカ。そして空高く、ひときわ煌く星を指差す。
「かの星は我が部族に伝わる、聖地アカギオー湖に住まう竜神の瞳。あの金色の瞳で世界を睥睨し、善をたすけ悪を懲らすという我が部族の精霊よ」
自信たっぷりに言うその姿は誇らしげだ。自分の部族の伝承を話せる機会なんて早々無いだろうから、よけいに嬉しいのかもしれない。
「そうか、辺境だと部族ごとで伝承というのは違うだろうね、結構」
アニスがふむふむと頷く。
むろん王国でも帝国でも、集落に伝わる伝承というのはそれそれの違いがあるだろう。しかし辺境部族は信仰対象からして部族ごとに大きく異なる。認識もそれぞれで大きく変わってくるはずだ。
「うむ! 龍神様、つまり精霊は我が部族の誇りだ。我もかくありたいものだ」
オンサは実に嬉しそう。そんな無邪気な少女の笑顔に、ついほかの者からも微笑みが零れるのだった。
そんな賑やかな声から少し離れた場所で、エテ(ka1888)は友人のオウカ・カゲツ(ka0830)とともに星を見つめている。
「偶にはこうして、ゆっくりと星を眺めるのも良いものですね」
オウカがそう微笑めば、エテも頷く。
(私の、過去の集落から見えていた星も、この辺境からなら見られるでしょうか……)
その想いを胸に抱きながら、エテは尋ねる。
「オウカさんの集落からは、一体どんな星空が見えていたんですか?」
問われると、オウカは一瞬考えてからゆっくりと言葉を発した。長い艶やかな黒髪が、風に揺れる。
「そうですね……同じ辺境とはいえど、ここの空は私の生まれ育った集落とは違いますね。故郷では、誕生星というものを独自で定める風習があるのですが、ここからでは私の誕生星は見えませんから」
へえ、とエテは関心したように声を上げた。
「同じ空を見ていたはずなのに、ほんとうに世界は……広いのですね。オウカさんの誕生星というのは、どういうものなんですか?」
「……私の誕生星ですか? 『グライティア』という、優美の意味を持った、きれいな紅い光を発する星ですよ。エテの集落では、どうだったのです?」
オウカも尋ね返す。
「私のいた集落は、季節によって様々な花や動植物を、星空の中に描いていたのですよ」
そう言いながら、エテはそっと空のきらめきを指さした。
「そうですね、この場所からなら……初夏に見られるダリアの花の星座。丸く描かれた星を、八重咲きの花と見立てたんです」
ダリアの花。どことなくエテに似合いそうな、可愛らしい花だ。
静かで、安穏なる時。
二人は笑いあいながら、星を見ながら語り続けた。
●
暗い中でしゃっしゃ、という音がする。紙に鉛筆を走らせる音だ。
音の源にいるのは、Jyu=Bee(ka1681)。片目に眼帯をした、エルフの少女である。
「リアルブルーには星座を元にした漫画って、結構多いのよねぇ。こっちでも同じ星座が作れれば、二次創作のリアリティも増すんだけど……」
注:彼女はリアルブルーで言われる『中二病患者』である。
最近読んだ、リアルブルーの星座をモチーフにしたバトル漫画の二次創作を作りたいと思い、今回星を見る絶好の機会と聞いて参加したジュウベエ。特に強く輝いている星の位置をスケッチし、星図らしきものを描いていく。そして手に入れたリアルブルーの星座知識と照らし合わせたりして、似た星座が作れないかなんて試行錯誤している。
と、ジュウベエはふと顔をあげた。周囲で彼女のことを遠巻きに見ている他のハンター達に、ふっと笑いかける。そして手元にあるワインの瓶を軽く振った。
「まだ、飲み物とつまみ程度ならあるけど、あなた達も飲む?」
その顔はいかにも楽しそうで、周りの者も頷いた。
その中には、燃えるような赤い髪の男がいた。朱殷(ka1359)という名のその男性は、彼と同じ一族であるスヴィトラーナ=ヴァジム(ka1376)とともに、ゆったりと座り込む。
「一人で見るのも楽しいが、やはり酒の供は欲しいものよの」
手酌で酒をつぎつつ、スヴィトラーナにも酒をすすめる。
「ありがとう……ふふ、酒は飲むなら、綺麗なものを肴にするのが一番ね。もう少しくらい、賑やかなくらいでもいいかもしれないけれど」
いつもは賑やかな環境にいるせいか、耳がなんとなく寂しい。
「やはり、女が横におると酒もいっそう美味くなるな」
朱殷は呵々と笑う。
「へえ、お二人は知り合いなんだ」
ジュウベエが尋ねれば、二人は鷹揚に頷く。
「とはいえ、お酒を飲み過ぎても身体によくありませんから」
スヴィトラーナは、朱殷の酒量を気にかけている。そしてふと言葉にした。
「……酒をただ静かに飲みたい人がいれば……『月が綺麗ね』と言ってみるといいわ」
月が綺麗というのは、リアルブルーのある作家が、愛おしさを表すときに使った比喩表現。朱殷は知ってか知らずか首をわずかにかしげたが、すぐに笑った。
「なぁに、私の月なればもう少しで迎えに来る」
彼の言う月とは、愛する幼馴染のことを指す。それだけ信頼している相手がいることはきっと幸せなことで、スヴィトラーナも微笑んだ。
「幸せそうな人だね」
朱殷を見てジュウベエが小さく笑う。
「ええ……」
スヴィトラーナはそう頷き、そして空を見つめる。
(月が綺麗……変化する星か、それとも燃えて尽きる星か……一体どちらが、愛に向いているのでしょうね……)
誰かを思っての、言葉だろうか。赤く煌く星を見つけてわずかに目を細めたが、思わずすぐに視線を逸らしてしまった――その理由は、彼女にしかわからない。
●
「わぁ……お星様ってほんとうはこうやってぱちぱち、瞬きしているみたいに見えるのね~。ご本の中のお星さまは、お空でじっとしてたのに」
感慨深そうに声を上げるのは、夢路 まよい(ka1328)。リアルブルーではごく古い洋館で箱入り娘として育てられた彼女、まだ夢と現実の間で生きているような幼い部分が見え隠れしている。
(リアルブルーにいた頃は、ずっとお家で地面の下のお部屋にいたから、こ~いうのってと~っても新鮮♪)
まよいは楽しそうに、寝っ転がって空を見上げる。
「それにしてもお星さまって真っ直ぐ見つめると、隠れちゃう子もいるのね。あっちこっち見てて、隅っこの方にひょっこり出てきたり、とか……恥ずかしがり屋さんなのかしら~?」
思うままに呟いていると、近くにいた若い女性がそっと近づいて、横に腰掛けた。
「お嬢ちゃん、一人できたのかしら?」
鮮やかなピンクゴールドの髪が、風にわずかになびく。
「ええ。お姉さんも一人なの?」
言われて、女性――イオ・アル・レサート(ka0392)が、そっと頷く。
(でも、辺境も暫くぶりね……ゆっくり星を見られる夜なんて、貴重だわ)
ランタンの火を消して、イオは微笑んだ。
「これだけ星があるなら、迷わないでしょうし……」
(それも、あの時も見上げたことはあったけれど、多少の余裕のあるなしで、見え方もずいぶんと違うものね)
かつての日々を思い出しながら、彼女は空を見上げる。
「うん。真っ暗に見えるふか~い闇でも、こ~やって斜めに見れば、小さな明かりを見つけられる……のかもね♪」
迷いも、心情が異なるものの、その意見には賛成らしい。
と、イオはふと思い立ったのか、静かに覚醒する。手のひらに赤い光が集約し、やがてそれはちいさな蠍の姿を形どった。光の蠍をそっと風に流せば、ほの赤い光が揺らめく。
「毒があっても、この時ばかりは綺麗な火よね」
そうひとりごちると、横でまよいが目を輝かせていた。どうやら昔読んだ本にあった蠍を思い出したらしい。
「なんだかステキね♪」
言われて一瞬瞬きしたが、イオは目を細めた。
「……そうね。招待人に、一言くらいお礼を伝えなくちゃね……素敵な時間をくれたことに」
その表情は、どこか楽しそうだった。
(わぁ、きれいな空……っと!?)
ぼんやりと空を見上げながら歩いていたエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は、同じようにそぞろ歩きをしていた体格の良い女性に正面衝突してしまった。顔を上げれば、相手は燃えるような赤い髪のエルフである。しかも自分がぶつかったのが彼女の胸元と相まって、エヴァはすっかり慌ててしまう。
「あら~? 可愛い女の子を捕まえちゃったわ☆」
そう言って楽しそうにほほえむ彼女の名前はオーキッド=フォーカスライト(ka2578)。愉快そうに笑いながら、エヴァをきゅっと抱きしめる。
「もし良かったら一緒に星を見ない? 一人で見るのも寂しいでしょ♪」
オーキッドの提案はもっともだ。エヴァはわずかに頬を染めながらも、このエルフの女性と一緒に星を見ることにした。旅は道連れ、である。
『でも、私でいいんですか? 私には学はありませんし、星にも詳しくはないんですけれども』
不安そうに筆談でそれを告げるエヴァ――彼女は孤児院の出身だ。そして、過去の怪我のために言葉を発することができなくなってしまった、後天的聴唖者。
と、オーキッドはそんなことは気にしないというように笑う。
「そんなことを思ってたらダメよ? これからだって学ぶことは出来るじゃない。そうすればいいのよ」
言われ、エヴァはコクリと頷く。
『そういえば、エルフの中では、人とはまた違う星座というのがあるのですか?』
学は確かにないかもしれないが好奇心は旺盛なエヴァ、オーキッドに尋ねてみると、彼女は「まあね♪」とばかりに笑った。
「少なくとも住んでた地方で伝えられている星座程度ならわかるわ。ええと、あれとあれと……ほら、あのひときわ輝く星をつなげていけば、踊るユニコーン座。その上にあるのは詠うサラマンダー座。他にも色々あるわ♪」
そして、もし良かったら、人の星座というのはどんなステキなストーリーがあるのかしら?
オーキッドは蠱惑的な微笑みを浮かべる。その声は詠うように滑らかで、そのまま彼女はエヴァの手を取り軽快なステップを踏み出す。くるりくるりと踊りだせば、踊り慣れていないこともあってはじめは戸惑っていたエヴァもやがて楽しそうに笑い出した。
周りの参加者も、それにつられて笑顔を浮かべる。やがて踊り疲れて座り込むと、エヴァは紙に星空を描きだした。折角出しといことで、教えてもらったエルフの星座というのも一緒に。
『これで、忘れないですね』
オーキッドに見せてから、エヴァはそれを大切そうに胸に押し抱いた。覚えた大事なものを、忘れないように。
夜は良いものだ。
マリーシュカ(ka2336)はそう思いながら、口元に笑みを浮かべていた。
(静かだし、星空は綺麗だし、月は仄かに明るいし……何より、自由に動けるもの。昼間とは大違いだわ)
黒い衣装が色素の薄い肌によく映えるマリーシュカは、その体質のために直射日光に弱い。その分、夜の行動を好んでいる。ごろりと寝転がってみれば、見慣れて新鮮味には欠けているけれど、美しい星空が広がっていて、それを見るだけでなんとなく嬉しい気分になる。
(そうね、たまには普段とは違うことをしてみましょうか。かつての牧童が行ったように、自分で星座を作ってみるとか)
そして脇にいたペットのフクロウを腕の中に抱きかかえながら、星々をつなげていく。
「折角だもの、実物がいるんだからフクロウをテーマにするわ。大人しくしてちょうだいね?」
口元に浮かんだ笑みは、いかにも楽しそうだった。
●
(星ねぇ……貧乏人も金持ちも、雑兵も英雄も、市民も貴族も王サマであろうとも、誰にも手が届かねぇって考えりゃ、それこそ平等なんでねえかね……いいじゃねェか、誰もが触れることのかなわねぇ星空なんて、最高の肴だぜ)
貧しい生まれの一見粗野に見える青年、ロクス・カーディナー(ka0162)は、そんなことを考えながら酒を飲む。自身があずかっている酒場宿から酒を持ち込んで、人の気離れた酒の席を求めてほっつき歩きながら。持ち込んだエールはラッパ飲み、その足取りはほろ酔い気味。
「ま、夜空に誘われた、なんてガラじゃあねェんだがな」
粗野にも見えるが心根は真っ直ぐなところのあるロクスは、空を見て楽しそうに笑う。
(俺みたいな野郎にさえ綺麗に感じさせる、心躍らせる星々に乾杯、だな)
気持ちのよい夜なればこそ、心のなかもなんとなくクリアになっていく。手持ち無沙汰な参加者に酒や炭酸飲料を振る舞いながら、青年は笑った。
そんな、ロクスからエールを渡された中に、ドワーフの女性がいた。と言っても男勝りの外見や言動のため、女性として見られることはめったにないらしいのだが――
ドミノ・ウィル(ka0208)というのが、彼女の名前である。
「星形だきらめくのを見るだけでなく、そこに線を引いて動物や物に当てはめていくというところに、俺は星座の浪漫を感じるな。……それも師匠の教え……というか、感想か」
女性っぽいところはあまりないが、星を眺めるのは嫌いではない。渡されたエールを煽りながら、夜空を見上げる。
そして同時に、近くにいる人々が話す星の物語を、そっと聞き耳を立てて聞いていた。
(俺の知らない星の話、か……一体、どんな感じなんだろうな)
ロクスはそんなドミノの飲みっぷりにやんやの喝采を与えた。
「いい飲みっぷりだな。さすがはドワーフといったところか」
「まあな。それに星見酒と洒落込めるなんて、なかなか粋なものだ」
そしてやはり、最高の肴はきらめく星々。それをドミノが言うと、ロクスも
「同感だな」
と笑顔を浮かべた。
「そっちの嬢ちゃんもどうだい。星見なんて乙なもんだろう?」
声をかけられたのは赤と青のオッドアイが特徴的な銀髪の少女、シルヴェーヌ=プラン(ka1583)。呼び止められた少女は、ふむ、と頷く。
「星空、のう。わしの郷は山間部の深き森じゃったゆえ、星にはほとんど縁がなかったのじゃよ」
彼女自身は人間だが、両親はエルフという、いわゆる取り替え子なシルヴェーヌ。育ったのもエルフの住まう郷だったこともあって、少し普通とずれた感性を持っているようだ。もっとも、時代がかった言葉遣いについては、尊敬する祖父の真似なのだが。しかしその言葉でおおよそ察したのだろうか、ロクスは「へぇ」と口にした。
「アンタはみたところ魔術師のようだが、星を見るとなんか面白いことでもあるかい?」
ドミノも興味深そうに尋ねる。シルヴェーヌは頷いた。
「星を用いた学問や、占いなどがあると聞いたことはあるのぅ。詳しいものがおれば、教えてもらいたいところなのじゃが」
知的好奇心が、観測よりもそこから派生することに反応してしまう。
「ああ、星占いなら女や子どもは結構好きみたいだな。俺も詳しくはねぇが、ここにはそういう興味を持っている奴もいるんじゃねぇか?」
ロクスの言葉に、ああ、とシルヴェーヌが顔を明るくさせる。
「そうじゃな。聞けそうな相手を探してみることにするかの……何分わしは星とは今までろくに縁がなくてのう。しかし……星とはかくも美しきものなのじゃな」
その言葉は誰もが思うことで。その場にいたハンター達は誰もが同意した。
そしてそんな喧騒から少し離れた場所に、青銀の髪をしたエルフが一人立っていた。服装などは男性のそれだが、その人物――ルシオ・セレステ(ka0673)は女性である。温かな紅茶を用意して、そして空をみあげている。
(森でも星は見えたけれど、こんな遮るもののない星空というのはまたいいね……美しいと思うよ。そう、それこそ吸い込まれそうな……心の深淵を覗いているような気持ちになる)
リアルブルーの若者が語っていた星の物語を思い出しながら、見つめる空には満天の輝き。
「星の川を隔てて……か」
チクリと胸が痛くなる。会えるだけでも幸せだと思ってしまうこの気持ちは僻みだろうか。
亡くなった婚約者を思いながら、星の川の対岸を思い浮かべる。そこは彼岸にも続いているのだろうか、と。
いつか一緒に旅をしようと約束していたその人を思い出す。胸にこみ上げてくるもので、いっぱいになった。
(……叶うことならあなたと二人で、こんな星空を見たかった……きっと私に見せたかったのでしょう? こんな、森のなかでは見られない風景があるんだって。あの星の中に、貴方の魂も輝いているの……?)
男装して旅をしているのは、婚約者との果たせなかった約束を果たすため。クッキーをひとつ摘んで、ぼんやりと思う。――せめて、夢では隣に姿を現してほしいと。
●
きらきら、きらきら。
星はまたたいている。
そしてそれを見つめる人々の心もまた、綺羅星のように輝いているのだった――。
人は星を見て何を思うのだろう。
星にどんな思いを馳せるのだろう。
そして、交わった2つの世界の住人達は、星空をどう見つめるのだろう。
●
(……星なんて、軍時代に宇宙で飽きるほど眺めたはずなんだが、な)
榊 兵庫(ka0010)は、そっとひとりごちる。
リアルブルー出身者には、宇宙での生活経験者も少なくない。兵庫もまた、かのサルヴァトーレ・ロッソに勤務していた元軍人である。
(まあ、こちらの世界では夜空もまるで違って見えるし、折角の機会だ)
酒と自分で作った簡単なつまみを持参して、星見酒と洒落込むつもりは十分だ。
「……にしても、酒に貴賎はないとは言うが、せっかくのこの星空で日本酒がないというのは色々勿体無い限りだな」
リアルブルーの一地域、日本人としての感性が、思わずそうつぶやかせる。洒脱とはいかないが、こういう浪漫ある場所で飲むならやはり日本酒――そう思わせてしまうのだ。
「……ま、この素敵な夜空に、乾杯しようぜ!」
そう言いながら、兵庫は杯を傾ける。
元軍人で星見にやってきた――という意味ではカグラ・シュヴァルツ(ka0105)も同様だった。従妹でやはり軍人だったシュネー・シュヴァルツ(ka0352)がそわそわとしながら、
「カグラ兄さん、星見ですって。いつも私を放り出してばかりいないで、カグラ兄さんも外に出ましょうよ」
と誘ってみれば、ややインドア派のカグラとしても、ふむと頷く。
「……星、ですか。たまにはゆっくりするのも、いいかもしれませんね」
空に広がる満天の星を見ながら語らうのも、悪くない。
二人はのんびり、夜空を眺めにでたのだった。
「そういえば、こっちに来てからはのんびり見る機会もなかったなぁ。折角もらった機会だし、こちらの世界の夜空を楽しませてもらおうかな!」
小柄な少女がそう言って笑う。少女の名前は神原 菫(ka0193)、こう見えてもれっきとしたリアルブルーの元戦闘員だ。
「周囲すべてが星空っていうのもいいけれど、こうやって見上げる星空もいいものだよね」
そんなことを呟きながら地面に腰を下ろし、と、どこかで見かけたような人々も近くにいるのに気づく。恐らく、リアルブルーの出身者たちだ。軽く手を振り、にっこりと笑う。
「ね、皆で一緒に見ない?」
無論ここに集うのはリアルブルー出身者だけではない。紅き世界・クリムゾンウェストで生を受けた人々も、同じように星を見にやってきている。リアルブルーの人も、クリムゾンウェストの人も、ともに――それはなんと素晴らしいことなのだろう。
しかし、シュネーはそんなふうに話しかけられて、慌てて従兄の後ろに回った。それまでは普通にカグラと話していたのだが、シュネー自身はどうにも人見知りをするタイプなのだ。それでも菫に敵意がないのはわかるから、小さくペコリと挨拶をする。そんな様子を見てカグラはいつもの様に静かに微笑んだ。
一方、リアルブルー出身といっても軍人ばかりではない。
「風音さん、こんばんは。……浴衣、なんですね」
柔和な微笑みをたたえた少年、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)は、待ち合わせしていた相手――夕影 風音(ka0275)を見て、わずかに驚いたような表情を見せた。というのも、風音が浴衣を着つけて現れたからである。クリムゾンウェストではあまり見られないその服装に、ユキヤはどこか懐かしさを覚える。
「あ、ユキヤ君も星空を見に来たの? 良かった、周りが知らない人だらけでちょっと心細かったの」
ユキヤと風音は元から友人というわけではない。この世界、クリムゾンウェストに転移してから出会ったという関係である。
「リアルブルーでは七夕なんだなあって思ったら、なんだか浴衣を着たくなっちゃって」
たしかにこの時期、リアルブルーでは祭りが行われることが多い。クリムゾンウェストの『祭祀』とは趣が異なるが、七夕もそんなリアルブルーの祭りの一つ。ユキヤは素直に微笑んだ。
「久しぶりにリアルブルーを色濃く感じて、なんだか嬉しいです。よくお似合いですね」
言われて風音は、照れくさそうに笑った。そして空を見つめる。
「こっちでも天の川って見られるのかな?」
風音は空を見上げながら、昔聞いた七夕の伝説を思い出す。
こと座のベガ、わし座のアルタイル、そしてはくちょう座のデネブ――リアルブルーで見られる夏の大三角は、たしかにこのクリムゾンウェストで見られることはない。見たことのない星々が、夜空を覆い尽くしている。
でも、天の川は。
乳の流れた跡と言われた銀河によく似た、星の集まりはクリムゾンウェストからも見えて。
もちろんそれはリアルブルーから見えるそれとは異なるけれど、妙に親近感を覚えた。
「綺麗ね……違う世界でも、ちゃんと星は輝いているのね」
あの星の海の彼方に、リアルブルーがあるのだろうか。そんなことを思って、少女は虚空に手を伸ばす。
「まるで降ってきそうですね……。手が届きそうで届かないのも、もどかしいけれど、それも魅力の一つなのかもしれません」
少年はそう言って、静かに頷いた。
「ふむ、興味深い。リアルブルーの高知でも、こうもきれいな星空は見られないのではないかな」
久延毘 大二郎(ka1771)は大きく頷きながら空を眺める。飽くなき知的好奇心が彼を突き動かす原動力だが、きょうの興味はこの星空だ。
転移してからというもの、見るものどれも目新しく、しかし星空に気を配ることは言われてみればなかった大二郎。ぶらりぶらりと歩きながら、星空を見て楽しむことにしたらしい。
彼の専門は考古学。天文学は専門外だが、目指すものは同じと考えている。それは、人の手を離れた遥か先にある深淵に真実が眠っているということ。
(天にあるか、地にあるかの違いだがね)
そして大二郎は、それはそれはいい笑顔で笑った。
「そんな深淵のすべてが解き明かされる日がくるのが、私は非常に楽しみなのだよ」
●
「機会をありがとう、カイトさん」
依頼主たる青年にそう言って一礼するのは鍛冶屋の跡取り娘・クレール(ka0586)だ。七夕というリアルブルーの行事については、以前リアルブルー出身者に教えてもらったらしい。
地面にシートを敷き、楽な格好で寝そべって空を見上げる。
「ん~♪ 満天の星空、綺羅星……どれも綺麗だな、久しぶりだな~……あれ? 星空なんて見上げたの、何年ぶりだっけ……?」
これまで過ごした日々を振り返るクレール。
思えば鍛冶の道に悩み始めてから、見上げた覚えがない。家を出てまで技術を追っても逆に道を見失い、上を向くことも忘れてしまっていた。
(……家のみんなも、同じ星空を眺めてるかな……会いたいな……帰りた、い……)
ポロリ、零れるひとしずく。それに気づいて、胸の中で思う。
(……泣いたのも、何年ぶりだっけ……)
「おい、お嬢さん。大丈夫か?」
クレールの様子を見た青年――ティーア・ズィルバーン(ka0122)が、小さく首を傾げながら尋ねた。その手にはきょうのために作ったのであろう、星形に切ったじゃがいもをフライしたものがある。クレールは慌てて涙を拭った。
「それにしても、やっぱりむこうと違って星の光が綺麗だな」
ティーアは呟いて、それからフライドポテトをいくつか少女に渡す。
「ま、こうやってのんびり過ごしたってバチは当たらないよな。だから、少し気分を楽に持ったらいいと思うぜ? そうだ、折角ならこっちにも星や星座の言い伝えとかあるなら、リアルブルーの似た伝承と比較しても面白そうだよな」
「あなたは、リアルブルーの人?」
「ああ。ま、これも何かの縁だろ」
クレールの問いに、ティーアは笑った。
「ほら、そっちのお嬢さんもさ」
「えっ、ボク?」
ティーアがひょいと手を差し出した方には、小柄な少女。ドワーフのアニス(ka0306)だ。彼女もまた故郷を思い出して、すこしばかりセンチメンタルな心持ちになっていたらしい。
(みんな元気にやってるかなぁ、ボクがいなくてもご飯はちゃんと食べてるかなあ、あとそれから……。ちょっと心配になってきちゃったなぁ……)
アニスもそんなことを思っていたが、話しかけられれば別だ。にっこり笑ってフレンドリーに、挨拶をする。
「今日の星空はすごい綺麗だねっ。見上げるところで見え方って、やっぱり違うのかなー?」
ホームシックなんて忘れてしまったかのようにして、そしてティーアの差し出すポテトを有り難く受取った。
「星の伝承だと?」
と、ワイワイと賑わっているのが伝わったのだろう、そこへ話しかけにくる人影があった。
「辺境は我が故郷。どうだ、素晴らしい夜空だろう?」
黒髪の小柄な少女が得意げな笑顔でやってくる。そしてごろりと大の字で寝そべった。
「我が名はオンサ・ラ・マーニョ(ka2329)。我が部族では星見の際は大地に臥するのが作法でな。いちいち首を上に向けるのもつかれるであろう?」
そう言いながらストローをさした牛乳とジュースを口に含むあたりはまだお子様という感じだ。
「オンサちゃんだっけ? フライドポテト食べるかい?」
「おお、いただこう。こちらのものも良ければ食うが良い」
ティーアと順繰りにオンサが差し出したのは塩味のきいたプルルッカ。そして空高く、ひときわ煌く星を指差す。
「かの星は我が部族に伝わる、聖地アカギオー湖に住まう竜神の瞳。あの金色の瞳で世界を睥睨し、善をたすけ悪を懲らすという我が部族の精霊よ」
自信たっぷりに言うその姿は誇らしげだ。自分の部族の伝承を話せる機会なんて早々無いだろうから、よけいに嬉しいのかもしれない。
「そうか、辺境だと部族ごとで伝承というのは違うだろうね、結構」
アニスがふむふむと頷く。
むろん王国でも帝国でも、集落に伝わる伝承というのはそれそれの違いがあるだろう。しかし辺境部族は信仰対象からして部族ごとに大きく異なる。認識もそれぞれで大きく変わってくるはずだ。
「うむ! 龍神様、つまり精霊は我が部族の誇りだ。我もかくありたいものだ」
オンサは実に嬉しそう。そんな無邪気な少女の笑顔に、ついほかの者からも微笑みが零れるのだった。
そんな賑やかな声から少し離れた場所で、エテ(ka1888)は友人のオウカ・カゲツ(ka0830)とともに星を見つめている。
「偶にはこうして、ゆっくりと星を眺めるのも良いものですね」
オウカがそう微笑めば、エテも頷く。
(私の、過去の集落から見えていた星も、この辺境からなら見られるでしょうか……)
その想いを胸に抱きながら、エテは尋ねる。
「オウカさんの集落からは、一体どんな星空が見えていたんですか?」
問われると、オウカは一瞬考えてからゆっくりと言葉を発した。長い艶やかな黒髪が、風に揺れる。
「そうですね……同じ辺境とはいえど、ここの空は私の生まれ育った集落とは違いますね。故郷では、誕生星というものを独自で定める風習があるのですが、ここからでは私の誕生星は見えませんから」
へえ、とエテは関心したように声を上げた。
「同じ空を見ていたはずなのに、ほんとうに世界は……広いのですね。オウカさんの誕生星というのは、どういうものなんですか?」
「……私の誕生星ですか? 『グライティア』という、優美の意味を持った、きれいな紅い光を発する星ですよ。エテの集落では、どうだったのです?」
オウカも尋ね返す。
「私のいた集落は、季節によって様々な花や動植物を、星空の中に描いていたのですよ」
そう言いながら、エテはそっと空のきらめきを指さした。
「そうですね、この場所からなら……初夏に見られるダリアの花の星座。丸く描かれた星を、八重咲きの花と見立てたんです」
ダリアの花。どことなくエテに似合いそうな、可愛らしい花だ。
静かで、安穏なる時。
二人は笑いあいながら、星を見ながら語り続けた。
●
暗い中でしゃっしゃ、という音がする。紙に鉛筆を走らせる音だ。
音の源にいるのは、Jyu=Bee(ka1681)。片目に眼帯をした、エルフの少女である。
「リアルブルーには星座を元にした漫画って、結構多いのよねぇ。こっちでも同じ星座が作れれば、二次創作のリアリティも増すんだけど……」
注:彼女はリアルブルーで言われる『中二病患者』である。
最近読んだ、リアルブルーの星座をモチーフにしたバトル漫画の二次創作を作りたいと思い、今回星を見る絶好の機会と聞いて参加したジュウベエ。特に強く輝いている星の位置をスケッチし、星図らしきものを描いていく。そして手に入れたリアルブルーの星座知識と照らし合わせたりして、似た星座が作れないかなんて試行錯誤している。
と、ジュウベエはふと顔をあげた。周囲で彼女のことを遠巻きに見ている他のハンター達に、ふっと笑いかける。そして手元にあるワインの瓶を軽く振った。
「まだ、飲み物とつまみ程度ならあるけど、あなた達も飲む?」
その顔はいかにも楽しそうで、周りの者も頷いた。
その中には、燃えるような赤い髪の男がいた。朱殷(ka1359)という名のその男性は、彼と同じ一族であるスヴィトラーナ=ヴァジム(ka1376)とともに、ゆったりと座り込む。
「一人で見るのも楽しいが、やはり酒の供は欲しいものよの」
手酌で酒をつぎつつ、スヴィトラーナにも酒をすすめる。
「ありがとう……ふふ、酒は飲むなら、綺麗なものを肴にするのが一番ね。もう少しくらい、賑やかなくらいでもいいかもしれないけれど」
いつもは賑やかな環境にいるせいか、耳がなんとなく寂しい。
「やはり、女が横におると酒もいっそう美味くなるな」
朱殷は呵々と笑う。
「へえ、お二人は知り合いなんだ」
ジュウベエが尋ねれば、二人は鷹揚に頷く。
「とはいえ、お酒を飲み過ぎても身体によくありませんから」
スヴィトラーナは、朱殷の酒量を気にかけている。そしてふと言葉にした。
「……酒をただ静かに飲みたい人がいれば……『月が綺麗ね』と言ってみるといいわ」
月が綺麗というのは、リアルブルーのある作家が、愛おしさを表すときに使った比喩表現。朱殷は知ってか知らずか首をわずかにかしげたが、すぐに笑った。
「なぁに、私の月なればもう少しで迎えに来る」
彼の言う月とは、愛する幼馴染のことを指す。それだけ信頼している相手がいることはきっと幸せなことで、スヴィトラーナも微笑んだ。
「幸せそうな人だね」
朱殷を見てジュウベエが小さく笑う。
「ええ……」
スヴィトラーナはそう頷き、そして空を見つめる。
(月が綺麗……変化する星か、それとも燃えて尽きる星か……一体どちらが、愛に向いているのでしょうね……)
誰かを思っての、言葉だろうか。赤く煌く星を見つけてわずかに目を細めたが、思わずすぐに視線を逸らしてしまった――その理由は、彼女にしかわからない。
●
「わぁ……お星様ってほんとうはこうやってぱちぱち、瞬きしているみたいに見えるのね~。ご本の中のお星さまは、お空でじっとしてたのに」
感慨深そうに声を上げるのは、夢路 まよい(ka1328)。リアルブルーではごく古い洋館で箱入り娘として育てられた彼女、まだ夢と現実の間で生きているような幼い部分が見え隠れしている。
(リアルブルーにいた頃は、ずっとお家で地面の下のお部屋にいたから、こ~いうのってと~っても新鮮♪)
まよいは楽しそうに、寝っ転がって空を見上げる。
「それにしてもお星さまって真っ直ぐ見つめると、隠れちゃう子もいるのね。あっちこっち見てて、隅っこの方にひょっこり出てきたり、とか……恥ずかしがり屋さんなのかしら~?」
思うままに呟いていると、近くにいた若い女性がそっと近づいて、横に腰掛けた。
「お嬢ちゃん、一人できたのかしら?」
鮮やかなピンクゴールドの髪が、風にわずかになびく。
「ええ。お姉さんも一人なの?」
言われて、女性――イオ・アル・レサート(ka0392)が、そっと頷く。
(でも、辺境も暫くぶりね……ゆっくり星を見られる夜なんて、貴重だわ)
ランタンの火を消して、イオは微笑んだ。
「これだけ星があるなら、迷わないでしょうし……」
(それも、あの時も見上げたことはあったけれど、多少の余裕のあるなしで、見え方もずいぶんと違うものね)
かつての日々を思い出しながら、彼女は空を見上げる。
「うん。真っ暗に見えるふか~い闇でも、こ~やって斜めに見れば、小さな明かりを見つけられる……のかもね♪」
迷いも、心情が異なるものの、その意見には賛成らしい。
と、イオはふと思い立ったのか、静かに覚醒する。手のひらに赤い光が集約し、やがてそれはちいさな蠍の姿を形どった。光の蠍をそっと風に流せば、ほの赤い光が揺らめく。
「毒があっても、この時ばかりは綺麗な火よね」
そうひとりごちると、横でまよいが目を輝かせていた。どうやら昔読んだ本にあった蠍を思い出したらしい。
「なんだかステキね♪」
言われて一瞬瞬きしたが、イオは目を細めた。
「……そうね。招待人に、一言くらいお礼を伝えなくちゃね……素敵な時間をくれたことに」
その表情は、どこか楽しそうだった。
(わぁ、きれいな空……っと!?)
ぼんやりと空を見上げながら歩いていたエヴァ・A・カルブンクルス(ka0029)は、同じようにそぞろ歩きをしていた体格の良い女性に正面衝突してしまった。顔を上げれば、相手は燃えるような赤い髪のエルフである。しかも自分がぶつかったのが彼女の胸元と相まって、エヴァはすっかり慌ててしまう。
「あら~? 可愛い女の子を捕まえちゃったわ☆」
そう言って楽しそうにほほえむ彼女の名前はオーキッド=フォーカスライト(ka2578)。愉快そうに笑いながら、エヴァをきゅっと抱きしめる。
「もし良かったら一緒に星を見ない? 一人で見るのも寂しいでしょ♪」
オーキッドの提案はもっともだ。エヴァはわずかに頬を染めながらも、このエルフの女性と一緒に星を見ることにした。旅は道連れ、である。
『でも、私でいいんですか? 私には学はありませんし、星にも詳しくはないんですけれども』
不安そうに筆談でそれを告げるエヴァ――彼女は孤児院の出身だ。そして、過去の怪我のために言葉を発することができなくなってしまった、後天的聴唖者。
と、オーキッドはそんなことは気にしないというように笑う。
「そんなことを思ってたらダメよ? これからだって学ぶことは出来るじゃない。そうすればいいのよ」
言われ、エヴァはコクリと頷く。
『そういえば、エルフの中では、人とはまた違う星座というのがあるのですか?』
学は確かにないかもしれないが好奇心は旺盛なエヴァ、オーキッドに尋ねてみると、彼女は「まあね♪」とばかりに笑った。
「少なくとも住んでた地方で伝えられている星座程度ならわかるわ。ええと、あれとあれと……ほら、あのひときわ輝く星をつなげていけば、踊るユニコーン座。その上にあるのは詠うサラマンダー座。他にも色々あるわ♪」
そして、もし良かったら、人の星座というのはどんなステキなストーリーがあるのかしら?
オーキッドは蠱惑的な微笑みを浮かべる。その声は詠うように滑らかで、そのまま彼女はエヴァの手を取り軽快なステップを踏み出す。くるりくるりと踊りだせば、踊り慣れていないこともあってはじめは戸惑っていたエヴァもやがて楽しそうに笑い出した。
周りの参加者も、それにつられて笑顔を浮かべる。やがて踊り疲れて座り込むと、エヴァは紙に星空を描きだした。折角出しといことで、教えてもらったエルフの星座というのも一緒に。
『これで、忘れないですね』
オーキッドに見せてから、エヴァはそれを大切そうに胸に押し抱いた。覚えた大事なものを、忘れないように。
夜は良いものだ。
マリーシュカ(ka2336)はそう思いながら、口元に笑みを浮かべていた。
(静かだし、星空は綺麗だし、月は仄かに明るいし……何より、自由に動けるもの。昼間とは大違いだわ)
黒い衣装が色素の薄い肌によく映えるマリーシュカは、その体質のために直射日光に弱い。その分、夜の行動を好んでいる。ごろりと寝転がってみれば、見慣れて新鮮味には欠けているけれど、美しい星空が広がっていて、それを見るだけでなんとなく嬉しい気分になる。
(そうね、たまには普段とは違うことをしてみましょうか。かつての牧童が行ったように、自分で星座を作ってみるとか)
そして脇にいたペットのフクロウを腕の中に抱きかかえながら、星々をつなげていく。
「折角だもの、実物がいるんだからフクロウをテーマにするわ。大人しくしてちょうだいね?」
口元に浮かんだ笑みは、いかにも楽しそうだった。
●
(星ねぇ……貧乏人も金持ちも、雑兵も英雄も、市民も貴族も王サマであろうとも、誰にも手が届かねぇって考えりゃ、それこそ平等なんでねえかね……いいじゃねェか、誰もが触れることのかなわねぇ星空なんて、最高の肴だぜ)
貧しい生まれの一見粗野に見える青年、ロクス・カーディナー(ka0162)は、そんなことを考えながら酒を飲む。自身があずかっている酒場宿から酒を持ち込んで、人の気離れた酒の席を求めてほっつき歩きながら。持ち込んだエールはラッパ飲み、その足取りはほろ酔い気味。
「ま、夜空に誘われた、なんてガラじゃあねェんだがな」
粗野にも見えるが心根は真っ直ぐなところのあるロクスは、空を見て楽しそうに笑う。
(俺みたいな野郎にさえ綺麗に感じさせる、心躍らせる星々に乾杯、だな)
気持ちのよい夜なればこそ、心のなかもなんとなくクリアになっていく。手持ち無沙汰な参加者に酒や炭酸飲料を振る舞いながら、青年は笑った。
そんな、ロクスからエールを渡された中に、ドワーフの女性がいた。と言っても男勝りの外見や言動のため、女性として見られることはめったにないらしいのだが――
ドミノ・ウィル(ka0208)というのが、彼女の名前である。
「星形だきらめくのを見るだけでなく、そこに線を引いて動物や物に当てはめていくというところに、俺は星座の浪漫を感じるな。……それも師匠の教え……というか、感想か」
女性っぽいところはあまりないが、星を眺めるのは嫌いではない。渡されたエールを煽りながら、夜空を見上げる。
そして同時に、近くにいる人々が話す星の物語を、そっと聞き耳を立てて聞いていた。
(俺の知らない星の話、か……一体、どんな感じなんだろうな)
ロクスはそんなドミノの飲みっぷりにやんやの喝采を与えた。
「いい飲みっぷりだな。さすがはドワーフといったところか」
「まあな。それに星見酒と洒落込めるなんて、なかなか粋なものだ」
そしてやはり、最高の肴はきらめく星々。それをドミノが言うと、ロクスも
「同感だな」
と笑顔を浮かべた。
「そっちの嬢ちゃんもどうだい。星見なんて乙なもんだろう?」
声をかけられたのは赤と青のオッドアイが特徴的な銀髪の少女、シルヴェーヌ=プラン(ka1583)。呼び止められた少女は、ふむ、と頷く。
「星空、のう。わしの郷は山間部の深き森じゃったゆえ、星にはほとんど縁がなかったのじゃよ」
彼女自身は人間だが、両親はエルフという、いわゆる取り替え子なシルヴェーヌ。育ったのもエルフの住まう郷だったこともあって、少し普通とずれた感性を持っているようだ。もっとも、時代がかった言葉遣いについては、尊敬する祖父の真似なのだが。しかしその言葉でおおよそ察したのだろうか、ロクスは「へぇ」と口にした。
「アンタはみたところ魔術師のようだが、星を見るとなんか面白いことでもあるかい?」
ドミノも興味深そうに尋ねる。シルヴェーヌは頷いた。
「星を用いた学問や、占いなどがあると聞いたことはあるのぅ。詳しいものがおれば、教えてもらいたいところなのじゃが」
知的好奇心が、観測よりもそこから派生することに反応してしまう。
「ああ、星占いなら女や子どもは結構好きみたいだな。俺も詳しくはねぇが、ここにはそういう興味を持っている奴もいるんじゃねぇか?」
ロクスの言葉に、ああ、とシルヴェーヌが顔を明るくさせる。
「そうじゃな。聞けそうな相手を探してみることにするかの……何分わしは星とは今までろくに縁がなくてのう。しかし……星とはかくも美しきものなのじゃな」
その言葉は誰もが思うことで。その場にいたハンター達は誰もが同意した。
そしてそんな喧騒から少し離れた場所に、青銀の髪をしたエルフが一人立っていた。服装などは男性のそれだが、その人物――ルシオ・セレステ(ka0673)は女性である。温かな紅茶を用意して、そして空をみあげている。
(森でも星は見えたけれど、こんな遮るもののない星空というのはまたいいね……美しいと思うよ。そう、それこそ吸い込まれそうな……心の深淵を覗いているような気持ちになる)
リアルブルーの若者が語っていた星の物語を思い出しながら、見つめる空には満天の輝き。
「星の川を隔てて……か」
チクリと胸が痛くなる。会えるだけでも幸せだと思ってしまうこの気持ちは僻みだろうか。
亡くなった婚約者を思いながら、星の川の対岸を思い浮かべる。そこは彼岸にも続いているのだろうか、と。
いつか一緒に旅をしようと約束していたその人を思い出す。胸にこみ上げてくるもので、いっぱいになった。
(……叶うことならあなたと二人で、こんな星空を見たかった……きっと私に見せたかったのでしょう? こんな、森のなかでは見られない風景があるんだって。あの星の中に、貴方の魂も輝いているの……?)
男装して旅をしているのは、婚約者との果たせなかった約束を果たすため。クッキーをひとつ摘んで、ぼんやりと思う。――せめて、夢では隣に姿を現してほしいと。
●
きらきら、きらきら。
星はまたたいている。
そしてそれを見つめる人々の心もまた、綺羅星のように輝いているのだった――。
依頼結果
依頼成功度 | 大成功 |
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面白かった! | 14人 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/14 00:16:03 |