辺境ーーさまざまな出来事が起こっていた。
　
　様々な結果、にわかに辺境に人が増える。
　さて、人が増えれば増えるものもある。
　
　とある場所の洞窟。
「お頭、ここに逃げてきてよかったっすね」
「おう、辺境じゃ騎士団の奴らもそんなにいないしな」
　山賊らしき男たちが話している。
　どうやらこの山賊は辺境以外から逃げてきたようだ。
　男たちの奥には略奪したものが積み上げられている。
「しかも、こんないい女も手に入るしな」
　後ろ手に拘束されたエルフの少女。
　猿轡も掛けられて言葉も発せない状況だ。
「『商品』だから手をだすなよ」
　ジロリと周りを見渡していう頭領。
「お頭、味見ぐらいでも……」
　下卑た表情の部下が言うが……。
「馬鹿野郎！　価値を落とすようなことしたら殺すぞ！」
　怒鳴り上げる頭領――彼だけがこの山賊の中での覚醒者だ。
「欲しけりゃ、次に襲った時に女がいることを祈ることだな」
　普通の人族なら部下にやってしまってもいいだろうと、頭領は考えた。
「ハンター達が護衛してしていなければ余裕だしな」
　辺境を交易している商人を襲っているようだ。
「王国や帝国に比べると稼ぎは減るが、俺たちにとっては安全だからな」
「でも、虚歪は怖いっすね」
　山賊といえども人間だ、覚醒者でもないので虚歪には勝てない
「俺達がハンターを雇うわけにもいかないしな」
　さすがに犯罪組織がハンターズソサエティに依頼を出すのは無理だ。
「野郎ども、仕事だ！」
　山賊達が洞窟を出て行く。
　
　
　ブルゲド族居留地　族長のゲル
「ふむ……」
　カーンはある”報告”を受けて思案していた。
「どうしましたか？」
　妻のエリナが思案している族長のカーンに声をかける。
「どうやら、山賊がこの辺りで出没しているらしい」
　馴染みの商人からの情報でどうにかしてほしいといった嘆願でもあった。
「辺境の交易に影響もあるし、我々の土地で我が物顔されるのも腹ただしい」
　出現する場所はある程度絞られているらしい。
　狙われるのはハンターに護衛されていない商人。
　護衛されていると襲撃しないといった用心ぶりだ。
「ハンター達に依頼を出しますか？」
「あぁ、そうだな」
　だからといって通常の護衛依頼では山賊は襲わない。
　ハンターが護衛していないように偽装する必要がある。
　商人の協力も必要だ。
　商人の協力は嘆願してきた商人に頼めば問題ないだろう。
　あとはハンター達だけだ。
「リーナ！」
　エリナがリーナを呼ぶ。
「お母さんどうしたの？」
「依頼を頼むわね――リーナも参加しなさい」
　依頼の詳細を伝え、書かれた依頼書を渡す。
「参加していいの！？」
　依頼に参加させるのは滅多にないことだ。
「ええ、貴方もハンター達と一緒に行動しなさい、それだけの力もあるのだから」
　今回、リーナはハンターとともに行動するようだ。
　
　準備されたのは商人とその馬車。
　山賊をすべて捕縛することができるのか――それはハンター達にかかっている。

　●事前準備
　依頼のために集められたハンター達。
　その中で、事前に調査をする者達がいた。
「……幾つか、らしき届けはありますが……。やはり、聞いたほうがいいですね」
　守原　有希弥(ka0562)はハンターオフィスから近隣の被害届を借りて調べていた。
　被害届の書類の束を持ってブルゲド族の族長のゲルへ向かう守原。
「今回はよろしくお願いします。戦いとは、始める迄に積みあげたものの帰結ですよ」
　それに随行しているのは初月　賢四郎(ka1046)だ。
「始まる迄に何をするかで大体は決まる。故に、その準備を全力で行う……自分はその位しか出来ませんからね」
　クリムゾンウェストでの人脈作りを目的としている初月としては事前調査と人脈作りと言う目的が果たせて一石二鳥であった。
「山賊ねぇ……食いっぱぐれたんなら気の毒やと思うけど……ま、すっぱり往生してくれよ。……あ、殺したらいかんのやったね」
　ちょっと物騒なことを言いながら飄々とした態度の真龍寺　凱(ka4153)。
　彼も事前調査のために守原と共に随行していた。
　
「カーン、ご無沙汰です」
「おお、友よ。どうした」
　『ブルゲド族の友』の称号を持ち、ブルゲド族との関わりの深い守原だからこその反応だろう。
「実は、山賊の情報――襲撃の期間や回数と被害について知りたいのです」
　守原は山賊の具体的な被害の情報をカーンから聞くことになった。
「コレが山賊の被害の報告書だ」
　守原に報告書を渡すカーン。
「では、失礼して……」
　報告書を読む守原と初月と真龍寺。
　元連合宙軍主計科と言う経歴を活かして、被害額から敵の規模を割り出す初月。
「……事前の情報より大規模かも知れない」
　初月の算出した概算から敵の規模が事前に知らされていた規模より大きいことが判明した。
「これは確りした拠点と予備人員がいないと……」
　それに同意する守原。
「違法な物は……」
　被害から人身売買されそうな人物がいないか探している真龍寺。
「ん……？　エルフの商隊で一人、行方不明……？」
　家族で営んでいる商隊で死亡した家族以外に少女だけが行方不明となっている報告があった。
「……もしかすると、攫われたか……？」
　真龍寺は捕らえられているかもしれないエルフの少女の情報を手に入れることができた。
「なるほど、山賊に囚われている人がいる可能性がある、ですか」
「事実であれば救出する必要がありますね」
　真龍寺から知らされた守原と初月は少女が囚われている可能性を考慮に入れた。
　
　こうして事前調査を終えた。
　
　●襲撃
　さて、用意された馬車と商人で襲撃が多い地域へ向かう。
　馬車馬の中にハンターの馬も紛れている。
「ったく、西も東もごたごたしてるって時に。メンドーな奴らめ」
　そう、愚痴っているのは見つからぬようにボロ布に包まっている岩井崎　旭(ka0234)だ。
「ま、片っ端から殴ってふん捕まえるとすっか」
　どこか楽しげな様子でもあった岩井崎であった。
「むぅ、じっとしているのは苦手だけど頑張るのだっ。悪い人はしっかりと懲らしめないとだしね」
　レインフォード三姉妹の次女のネフィリア・レインフォード(ka0444)は馬車の中に潜んでじっとしている。
　性格だろうか、ネフィリアにとってはじっとしているのが苦手のようだ。
「ネフィリアさん、頑張りましょう」
　馬車内に積んであるバイクの影に隠れている守原がネフィリアに話しかけている。
「さて、食らいついてくれるといいのですが……」
　事前に調べた情報から襲われる可能性が高いことはわかっているが、気になる初月は馬車の中で潜んでいる。
「……救って差し上げたい、ですね。この土地を」
「ああ……」
　巡礼者を装い御者台で商人と会話しつつそれとなく周囲警戒しているレイ・T・ベッドフォード(ka2398)。
「現状は問題なしですか」
　馬車内で布に隠れながら、御者席側と情報交換して外の様子の把握を行っているのはＪ(ka3142)。
　すぐに動けるよう幌の出口側面に隠れている。
「これ以上辺境に被害が出ないように鎮圧しよう」
　馬車内で待機しているエリス・ブーリャ(ka3419)。
　（リーナちゃんの頼みなら断われないしね）
「さて、蛇が出るやら鬼が出るやら」
　毛布をかぶって身を潜めている真龍寺。
　
　偽装した馬車は進む。
「あれは……」
　御者席から見えるこちらへ向かってくる大規模な砂塵を見つけたレイ。
「引きつける必要がありますね」
　目的は山賊の捕縛、そのために逃げる演技をする必要があった。
「荷物を捨てて身軽にして逃げるんだ」
　馬車から物を投げ捨てる行動をする初月。
「へへっ、逃げようだってそうは行かないぜ」
　更に近づいてくる山賊たち。
「にゃ、襲撃来たのかな？　かな？　それじゃあ飛び出すのだ♪　今まで動けなかった分、思いっきり暴れさせてもらうよー！」
　馬車から軽々と飛び出すネフィリア。
「まずは逃げないようにするのが一番かな？　かな？　そういうわけで……お馬さんはごめんなさいなのだ！」
　飛び出したネフィリアは騎乗している馬に対して攻撃を開始。
「ヒヒーン！　うお！」
　馬が倒れ、落馬する山賊――狙い通りだ。
「足がいたければ逃げられないよねー？」
　倒れた山賊に対して逃げないように足を狙って攻撃する。
「ぐぁ！」
　足をやられ、逃げられない山賊。
「ええと、縛り方は確かこれでよかったかな？　かな？　前にそう聞いたのだ♪」
　逃げられなくなった山賊を捕縛するネフィリア――縛り方が亀甲っぽいきっと気のせいだ。
　
「げぇ！　『不死殺し』！」
　岩井崎を見つけた山賊が叫ぶ。
「覚醒してねーってのに俺を知ってるとは思わなかったぜ。意外と物知りだな、山賊……その物知り、後で存分に役立ててもらうぜ」
　そう言って戦闘体制へ移行する岩井崎。
「おら、来いよ。死なねー程度には手加減してやるぜ？」
　『戦槍「ボロフグイ」』で叩きのめされ、落馬する山賊。
「っと！」
　攻撃を『試作型パリィグローブ』で受け流して掴んで投げとばされる山賊。
「これで逃げられねーだろ」
　『レイピア「ヴァーチカル・ウィンド」』で落馬した山賊の足を攻撃して逃亡を阻止する。
　岩井崎は出来るだけ急所に当たらないように手加減しながら攻撃を続ける。
「盗ってみろ、やれるならな」
　バイクに搭乗した守原は『ランアウト』を使い敵最後尾を目指す。
「先ず、機動力を削る」
　『デリンジャー』で馬を銃撃して落馬させていく守原。
「逃走させない」
　足を撃ち抜き、移動できなくさせる――致命傷にはなっていない。
「連絡されたら面倒だ」
　捕縛しながら、通信機を破壊する。
　これが功を奏するのは後になってわかる。
「逃さぬことが肝心ですね」
　『デリンジャー「デッドリーキッス」』で馬を射撃。
　攻撃を受けて、落馬していく山賊たち。
「逃亡防止措置です」
　さらに、落馬した山賊の足へ致命傷にならないように銃撃する初月だった。
「おい、『流麗なる守護者』だ！」
　素早く騎乗したレイは山賊を包囲するように機動し始める。
「……哀しいものですね。罪人は生き、罪なき馬は死なねばならない」
　『魔導拳銃「エア・スティーラー」』で山賊の肩や足を狙う。
「ちぃ、逃げるぜ！」
　逃げようとしているのをみたレイは山賊の馬に『ブロウビート』をかけて怯えさせる。
「可能な限り馬は無傷にしたいものです」
　（これは、私の我儘だと自覚している――だからといって、盗賊達を逃していい理由にはならない、ですから）
「ですが――残念です」
　逃げられそうな山賊の馬を銃撃して倒す。
「反抗開始ですね」
　Jは『神楽鈴「奏」』で『デルタレイ』を放つ。
　光でできた三角形が現れ、三条の光が馬を襲い、倒す。
「離脱させません」
　離脱して逃げようとする山賊に対して『試作型魔導銃「狂乱せしアルコル」』で狙撃するJ。
　狙撃された馬は斃れ、放り出される山賊。
「えいっ！」
　馬車内に入ろうとしてきた山賊に対して『エレクトリックショック』を浴びせて麻痺させるエリス。
　麻痺した山賊を縛り上げるエリス。
「『金色の闘将』！　……グヘッ！」
「はいはい、残念でした〜！」
　近寄ってきた山賊に対して奇襲をかける真龍寺。
　捕縛する時間はないと判断して、山賊の足を折る。
「逃げようとしたら……次は斬り落とす」
　逃げないように脅す真龍寺。
　
　こうして、大半の山賊が捕縛されたが――。
「っち、逃げるぞ！」
　ごく一部の山賊が逃走を開始していた。
　
　●追撃戦
　逃走した山賊を追撃するハンター達。
「逃すか！」
　騎乗して追撃する岩井崎――幸い、相対距離は遠くないので追いつきそうだ。
「そちらの首尾はどうです？」
　尋問班と連携を取りながら行動している守原。
「逃げられるとやっかいですね」
　並走して『シールド「トゥルム」』で突き落とし、味方へ回収を頼むレイ。
「ええ――アジトの位置は判別しましたか」
　バイクに搭乗してエリスと連絡を取り合い、泳がすのを不要と判断し逃亡している馬を撃つJ。
「ぱんぱかぱーん！騎兵隊登場ー」
　バイクで颯爽と登場するエリス。
　搭乗したバイクで追撃を開始する。
　『デルタレイ』の光が敵を襲う。
「やったよ！」
　倒すごとに味方に知らせるエリス。
　一方では、捕縛した山賊に対して尋問を行っている。
「さて、それじゃあ他の人達がどこに逃げたのか教えて貰うのだ♪　教えてくれないと……きっと誰かが酷いことするかもなのだ」
　捕縛した山賊を尋問するネフィリア――笑顔だが、物言わせぬ迫力がある。
　山賊はそんなネフィリアの尋問に答えるしか無かった。
「依頼内容は山賊の捕縛だ。こちらの必要な情報をいち早く提供してくれた一名に限り、有利な取り扱いを約束しよう」
　そう言って山賊を尋問する初月。
「誰が言うか！」
「わかった、なら他の者に聞こう」
　反抗的な態度をとる山賊の足を撃つ初月――その行動におそれをなしたのか、スムーズに尋問を行えた。
「さ、お兄さんとお話しようか♪」
「話すことなんてねぇよ！」
　当初は穏便に尋問していたが、山賊の態度でどんどん荒っぽくなる。
「ガッ！」
　一人を徹底的に痛めて見せしめにする真龍寺。
　その結果、尋問は難なく行えた。
　尋問の結果――アジトの位置、アジトの見取り、残りの山賊や人質等々の情報を得ることが出来た。
　追撃している山賊の全員捕縛の方向となり、捕縛された。
　
　●山賊の洞窟にて
　アジトへは追撃班が先行し、尋問班がその後を追っている。
「敵の様子は……」
　後続を待ちながら『超聴覚』を使い、耳を澄ませて敵の動向を探る岩井崎。
「敵は気づいていない様子ですね」
　尋問で得た情報を元に監視している守原。
　通信機を壊した事で敵には情報が渡っていないため、敵に動きはない。
「見張りは……いないようですね」
　『超聴覚』を使って聴覚で敵の様子を探るレイ。
　襲撃部隊の全滅が知らされていないため見張りもアジト前にはいない。
「……ええ、こちらになります――」
　無線機を介して尋問班の誘導を行うJ。
　
　こうしているうちに、尋問班も合流。
　アジトの洞窟へ突入するハンター達。
　完全な奇襲となった。
「げぇ、『混沌系アイドル』！」
「エルちゃんも有名になったねー。欲しいならサインあげちゃうよん？」
　そう言って現れるエリス。
「何だ！　何だ！」
　洞窟内に反響するエリスのバイク音に混乱する敵。
「一気に行くで～」
　混乱に乗じて迅速に突入していく真龍寺。
「逃げられると思うな！　怯えて竦め！」
　山賊へ『ブロウビート』で竦ませる岩井崎。
「残念、ここまでだ」
　同じく、守原も洞窟でバイクのエンジンを吹かして反響で混乱させる。
　『ランアウト』を使い壁面を走り、人質のいる部屋まで向かう守原。
「助けなければ」
　大盾を遮蔽と目隠しし、至近から肩や手を銃撃するレイ。

「ここ、ですね」
「人身売買、しかも女か……。貴様らぁ……こっの、外道がぁっ！！」
　人質がいる部屋へ着いた守原と真龍寺――真龍寺は少女の扱いに激高している。
　部屋にいた山賊たちを倒していき――全て倒しきる。
　人質のエルフの少女を開放する。
「…不安だったでしょう。よろしければこちらを」
　やってきたレイがエルフの少女に装束を貸し与える。
「お名前は？」
「アリス……アリス・エルナンデス……です」
「もう、大丈夫ですよ」
　エリフの少女――アリス・エルナンデスに声を掛けるレイ。
　
「ちっ、ここまでか」
　頭領らしき男が現れる。
「てめぇが頭領か！」
　エリスの放つ光が頭領と手下へ向かう。
　あえて急所を外した光が敵へ当たる。
「後悔の時間だ！」
　『日本刀「景幸」』を振りかざし、頭領へ攻撃を行う。
　あくまでも捕縛が目的――峰打ちでの攻撃だ。
　ハンター達と頭領達との戦闘はまず、手下がやられ。
　残った頭領とハンター達との戦闘になった。
　だが――多勢に無勢。
　覚醒者の山賊の頭領といえども捕まってしまった。
　
　●依頼が終わって
　こうして、山賊の頭領含む全ての山賊が捕縛された。
　捕縛された山賊は連絡を受けて用意された別の馬車に乗せられてしかるべきところへ運ばれていく。
　馬車には回収された山賊の盗品とハンターたちが乗っている――山賊と共にしかるべき所へ送られるだろう。
　開放されたエルフの少女――アリス・エルナンデスはブルゲド族で面倒をみることになった。
　
　ちょっとした打ち上げが行われた。
　倒さざる得なかった馬の供養の為に食することとなった。
　楽しげに宴をするハンター達――アリスも表情が心なしか明るくなっている。
　あまりにも多いので残った馬肉は馬車へ積まれることとなった。　
　こうして、依頼は無事達成された。
　
　少女と山賊　Fin