ゲスト
(ka0000)
畑を荒らすのは誰?
マスター:池上渉太郎

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 少なめ
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/08 12:00
- 完成日
- 2015/07/16 06:56
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
山の裾野に建つ、ひとつの大きな教会を拠点に、数百程度の人々が自給自足をして暮らす小さな農村があった。
豊かな土壌に支えられ、対外的な輸出も僅かながら行える立派な村。しかしここ数週もの間、その生命線である農作物が全く収穫出来なくなっているのだ。
日差しは常に高く、山から落ちる清流は絶えず、使う種を変えたわけでもない。
土が悪くなったのかと思ったが、むしろ普段よりも良く耕されているように思え、村人は首を傾げるばかりだった。
いったい何が起こっているのか――それから間もなくして、村人は自分達の畑で何が起こっているのかを理解した。
そしてそれは、自らの手ではどうしようもないということも。
「なんでもないただの雑魔、それもかなり低級の雑魔です」
ハンターズソサエティの職員は、こともなげにそう言った。
「しかし幾分、数が多いですからね……気をつけるに越したことはないですが。こちらの資料をご覧ください」
配られた資料に目を通せば、事件のあらましが分かるはずだ。職員が、そこに記述された文章を淡々と読み上げる。
「敵は、雑魔ミミズです。調子の悪い畑の様子を見に行った村の農民が、これに襲われて足に怪我を負ったことで正体が判明しました。予め行われた調査によれば、村に在る畑はおよそ100区画。ひと区画がおよそ2500平方メートル。それなりの広さですね。そのうち7割は連作被害を避けるために休耕地とされており、ミミズが発生しているのは、つい最近まで農作が行われていた、約30区画の畑です。
普通は畑を耕す益虫とされているミミズですが、雑魔ミミズは土を食した際にマテリアルを汚染してしまいます。それによって畑がどんどん衰弱していった結果、農作が上手く立ち行かなくなっているようです。
規模こそ大きいですが、敵の強さはそれほどでもありません。しかし報告によれば、農耕具で雑魔ミミズの身体を身体を寸断したところ、死ぬことなく傷が再生したそうです。
ただし、祝福を受けた武器や魔法で作られた――例えば風の刃。この辺りでダメージを与えた雑魔ミミズは身体の再生が行われず、そのまま衰弱して死に至りました。特に火の魔法が有効なようで、のたうち回る間もなく焼け落ちたそうですよ。尤も敵は土の中に忍んでいます。大規模な殲滅魔法で処理も可能と思われますが、あくまでもそこは農地ですから、あまり荒らさないように……。
相手はマテリアルを感知して寄ってくるようです。怪我を負った農民の方はリアルブルー出身のようですね。剣に覚えのある皆さんには今回、農具を手にしていただくことになりそうです……いえいえ、餌というわけではありませんが」
冗談めかして言ったが、きっとその言葉は現実のものになるだろう。
「それでは、期待していますよ」
そう、職員は言葉を締めて、礼をした。
豊かな土壌に支えられ、対外的な輸出も僅かながら行える立派な村。しかしここ数週もの間、その生命線である農作物が全く収穫出来なくなっているのだ。
日差しは常に高く、山から落ちる清流は絶えず、使う種を変えたわけでもない。
土が悪くなったのかと思ったが、むしろ普段よりも良く耕されているように思え、村人は首を傾げるばかりだった。
いったい何が起こっているのか――それから間もなくして、村人は自分達の畑で何が起こっているのかを理解した。
そしてそれは、自らの手ではどうしようもないということも。
「なんでもないただの雑魔、それもかなり低級の雑魔です」
ハンターズソサエティの職員は、こともなげにそう言った。
「しかし幾分、数が多いですからね……気をつけるに越したことはないですが。こちらの資料をご覧ください」
配られた資料に目を通せば、事件のあらましが分かるはずだ。職員が、そこに記述された文章を淡々と読み上げる。
「敵は、雑魔ミミズです。調子の悪い畑の様子を見に行った村の農民が、これに襲われて足に怪我を負ったことで正体が判明しました。予め行われた調査によれば、村に在る畑はおよそ100区画。ひと区画がおよそ2500平方メートル。それなりの広さですね。そのうち7割は連作被害を避けるために休耕地とされており、ミミズが発生しているのは、つい最近まで農作が行われていた、約30区画の畑です。
普通は畑を耕す益虫とされているミミズですが、雑魔ミミズは土を食した際にマテリアルを汚染してしまいます。それによって畑がどんどん衰弱していった結果、農作が上手く立ち行かなくなっているようです。
規模こそ大きいですが、敵の強さはそれほどでもありません。しかし報告によれば、農耕具で雑魔ミミズの身体を身体を寸断したところ、死ぬことなく傷が再生したそうです。
ただし、祝福を受けた武器や魔法で作られた――例えば風の刃。この辺りでダメージを与えた雑魔ミミズは身体の再生が行われず、そのまま衰弱して死に至りました。特に火の魔法が有効なようで、のたうち回る間もなく焼け落ちたそうですよ。尤も敵は土の中に忍んでいます。大規模な殲滅魔法で処理も可能と思われますが、あくまでもそこは農地ですから、あまり荒らさないように……。
相手はマテリアルを感知して寄ってくるようです。怪我を負った農民の方はリアルブルー出身のようですね。剣に覚えのある皆さんには今回、農具を手にしていただくことになりそうです……いえいえ、餌というわけではありませんが」
冗談めかして言ったが、きっとその言葉は現実のものになるだろう。
「それでは、期待していますよ」
そう、職員は言葉を締めて、礼をした。
リプレイ本文
●準備
とにかく広大だった。最寄りの転移門から暫く移動し、「ここからが村だよ」と案内役に言われて、村長の住む教会まで辿り着くのに更に暫くかかった。
領地のほとんどが農耕地である。居住スペースなど、農耕地の1割にも満たない。民家はほぼ平屋ばかり。唯一の2階建て、教会の物見やぐらとなっている尖塔から村を見下ろすと、これから『耕す』べき区域の広さに――派遣された六人は辟易した。
「……さあ、腐ってないで夜に向けての作戦立てでもしようか」
ひとまず目前の困難予定から目をそらして、水流崎トミヲ(ka4852)はそれぞれに配られた資料に目を通す。
30区画に及ぶ農地に潜む、雑魔ミミズの排除。縦横がおよそ50メートルはあり、面積に直せば2500平方メートルだ。それが更に30倍。途方も無い。途方も無いが……。
「やるしかないですね……殲滅役と誘引役ということで2人1組を3班作って、10区画ずつ手分けしましょうか?」
意気込むのはミネット・ベアール(ka3282)。各位に問いかける。
「いいと思うよ、僕はA班ということで」
水流崎が同調する。
「じゃあ流れ的に、私はB班で」
メリエ・フリョーシカ(ka1991)も頷いた。
「では……私は誘引役で、A班にします。水流崎さん、よろしくお願いします」
ユズ・コトノハ(ka4706)の言葉に、水流崎の近くで何かに刺されたような声と、それに続いて蚊の鳴くような声も聞こえたが、誰も気に留めなかった。
「ほんなら俺は一応属性攻撃出来るし、ミネットちゃんと一緒に行くわ」
そう言った真龍寺 凱(ka4153)の顔はすでにやや青ざめているようである。理由は推して知るべしか。
これで決まりだ。
誰でもなくそう言って、夜の戦闘に心を備えた。自動的にB班へと振り分けられたセレナ・デュヴァル(ka0206)は、ひとつの想いを持って、その広い農地を静かに見下ろし続けていた。
この、広大な『命の住処』で――。
いったい何が、果たしてどれほど採れるのだろうか?
●闇夜―side A―
小さなその身が燃え上がる――ように見えた。身体ほどに大きな褐色の尾があった。
共に現れた古き龍を想起させる頭部の角には、確かな炎が灯っている。
覚醒し、担当する農地へと足を踏み入れたコトノハを、やや遠目から見る影。水流崎の姿だ。
「うーん……」
何か邪念を振り払うように、トミヲは首を振る。いや、コトノハから目を逸らしたと言ったほうが正しいだろうか。
目線は外しても、LEDの光はきっちりとコトノハを照らす。
やたらと柔らかい土は、雑魔ミミズが土を食い散らかしている証拠だ。泥の中を進むかのように足を取られてしまう。
だが、その柔らかな土もミミズにしてみれば、馬が芝生の上を駆るようなものなのだろう――。
「……! 来ました!」
急襲。見た目には5匹ほど。うねり、時折地表に姿を見せながら、コトノハへと興奮したように迫り来るミミズの群れ。
コトノハは土を蹴り、舞うように宙へ飛んだ。ワンテンポ遅れて、ミミズも土から這い出てくる。しかし所詮は地を這う――どころか、地を掘る生き物で、コトノハの影さえ捉えられない。
5匹のミミズは、絡まるようにして方向を転換し、再度コトノハへ集う。
「それじゃあ行くよ!」
揺らめく炎のような少女には目が泳ぐが、流石にそんなことは言っていられない。水流崎の合図に合わせて、コトノハが射線を退く。
直後、放たれた風の刃が雑魔ミミズ達を切り刻んだ。
よし、と手応えを掴むように拳を握る水流崎。
静かに着地したコトノハは、少し胸を撫で下ろしてから、やや遠く――これから『耕す』農地を見て、コトノハは想う。
後――95体か。
危険こそあまり感じないものの、長い戦いだと息を吐いた。
その姿を見て、水流崎も想う。
「……ほんとに夜でよかったよ」
闇に慣れきった目を守ってくれろとばかりに、しっかりと眼鏡を掛け直した。
●闇夜―side B―
明かりが2つ。動く明かりと、動かない明かり。
動く明かりはフリョーシカの肩にあり、担いだクワが振り下ろされる先を照らしていた。
「やーこら……せっ!」
掛け声と共に、クワが土に振り下ろされる。覚醒者の力でそれは土中へ深々と突き刺さり、日頃掘り返されないような硬い土も混ぜこぜに引剥がされているようだ。
まあ畑に悪い話ではない。
「やー、適度な運動は身体にいいねぇ!」
振り上げて。
「こんな時間に――肌に悪いねぇええ!」
振り下ろす。物音のする、しかもマテリアル豊富な方向へ、雑魔ミミズは集まっていくはずだ。
「さっさと……寝かせろオラァ!」
口は悪いが動きはいい。活きのいい餌を用意するのは、釣りの基本だ。
間もなく雑魔ミミズは溢れ出す。寄ってくる雑魔ミミズを振り払いながら、悪い足場の上を器用に立ち回る。
「オラオラ、動き悪いぞォ!」
ライデンシャフトで薙ぎ払われる雑魔ミミズ。少し数も減り、雑魔ミミズ達の『動きの管理』もしやすくなった頃合い。
「――よし、セレナさん、よろしく!」
フリョーシカがバッと飛び退く、刹那。
動かない明かり。デュヴァルの明かりが、瞬間的に強く輝く。その光源はライトではなく――『ライトニングボルト』の、それだ。
直線状の雷が、並ばせられた雑魔ミミズを撃つ。電光の一撃は、強い音を残して一瞬で絶ち消えた。その一瞬で、充分だった。
「ヒューッ。……うん、適度に力を残せて、確実に狩れる。いい感じですね……っと、しまった。仕留めたのは何匹だったか――」
言うが早く、1匹の雑魔ミミズがフリョーシカに飛びかかってきた。
反射的に、ライデンシャフトの腹で叩く。空中へ、放り出された雑魔ミミズを――。
デュヴァルのファイアアローが貫く。
「……10です」
そして続いた言葉に、フリョーシカはにっと笑った。
「ありがとう!」
2人は、次の区画へと足を進める。
●闇夜―side C―
「うりうりうりうりうりぃぃぃいいいいい!」
「ああぁキモいキモいさっさと死ねやァア!」
クワが舞う。土が舞う。雑魔ミミズも舞う。
「舞うなやァァアアアアア!!」
その雑魔ミミズを、岩融が叩き落とした。風の力か、雑魔ミミズはさくりと分断される。
多大なダメージでミミズは瞬間的に衰弱するも、即死には至らない。
また、見れば特別巨大な雑魔ミミズだ。2つになった胴体が、それぞれにうねうねと蠢いた。
「うわっ、キモ」
「キモおおおい!!」
ベアールと真龍寺の想いがシンクロしたところで、ズゴンバゴンベキンと岩融の追撃にて天誅を食らわせた。
攻めの構え――というか暴走そのものにしか見えないが。
「これ、そろそろ10体くらい倒しましたかね」
「分からん……全然数えてへんかった……」
互いに覚醒し、その恩恵かあるいは根性か、農具を片手に軽々と持ち上げているが、当たり前のように肩で息をしていた。
「キツいですね、農作業。農夫の方々は覚醒もしていない身体でこれをやり通すんでしょうか、尊敬しますよ」
「いや、これは何か……ちゃうやろ、そういうん……」
特にミネットちゃんの動きは。その言葉は胸の内に秘める真龍寺だった。
「多分これ、もっといい方法ありますよね」
「うんまあ、それは間違いないわ」
遠目にA班、B班の討伐模様が見えるが、何かこう、こんな感じではない。
「もっと一箇所に集めて――」
「そうやな、ほんで俺がこう――」
畑のど真ん中で作戦会議だ。そこに狩り残しのミミズが居るとなれば出現もやむなし。それは真龍寺の背後にあり、気づいたのはベアール。
「危ないッ!」
咄嗟に持ち替えたナイフで、ミミズを追い払うように振り抜く。
パッと、人間相手なら鮮血が飛び出す場面か。
尤も飛び出したのは、何だか名状しがたい色の体液だった。――体液は、真龍寺にも降り注ぐ。
「……もあああああああああ!! かかってこいやあああああああ!!!!」
岩融を振り回す。細切れになる雑魔ミミズ。真龍寺はその勢いで次の区画に向かった。
「おお、すごい気合……そうですね、あらゆる策を凌駕する――それは気合!」
最善手を得たりとばかりに、ベアールもクワを握り直す。
「燃焼系……網野式!!」
抱え上げたクワを振り下ろし、突き立てる。その勢いに任せて身体を一回転。そしてその一回転の反動でクワを抱え、振り下ろし――。
「うりぃいいいいいいいいいいい!!!!」
人間を辞めたような声で、縦回転する狂気となって農地を耕していく。
果たして……冷静とは……。
●小話―side A―
残るは2面。雑魔ミミズ換算で20匹。
終わりが見えてきたところで、コトノハは自身の覚醒時間にも終わりが見えてきたことを悟った。
水流崎がこの畑で10体目となる雑魔ミミズを倒したところで、コトノハは水流崎のほうへと歩み始めた。
(…………ええっ……?)
水流崎は分かりやすく狼狽した。次へ、次へと、殲滅完了すればすぐ新たな区画へ向かっていたコトノハが、何故か自分のほうへ歩いてくるのだ。
しかも何かちょっと、覚醒とは違うニュアンスの光を帯びながら。何だろう、何か無礼を働いたから身体強化みたいな感じで殴られるのだろうか? ――いや、その光はコトノハのマテリアルヒーリングに因るものだったが、そんな頭は働かない。
「水流崎さん、お怪我はありませんか?」
「え、あ、はい。お、お陰様で……」
「水流崎さん」
「は、はい」
気づけば水流崎は直立、気をつけの姿勢になってしまっていた。目が泳ぎ回る。
「飲み物はお持ちですか?」
「へ? あ、ああ……そういえば、ライトやら何やらの準備でうっかり……」
「では、私のを半分差し上げます」
「へぁ!? ええっ、いや」
「嫌ですか」
「あああそうではなくて!」
何かもう、オロオロという音が聞こえてきそうなほどである。
「あ、ありがたく頂戴するでござるよ……」
「? はい、どうぞ」
言葉の違和感に首を傾げたコトノハだったが、手にした飲み物を水流崎へ渡す。
(うおおお……ま、まさに天使……見たところ覚醒も切れたようだし、残り2面は……僕が頑張らねばならないようだね!)
水流崎は、強く拳を握り締めた。その後、少しやり過ぎたような魔法の轟音が聞こえてくるのだが……。
●小話―side B―
殲滅が最も順調なのはこの班か。
デュヴァルはライトニングボルトを使い切り、畑の中央でフリョーシカと共に背中合わせで陣を組んでいる。
半ば飛びかかってくるようにして群がる雑魔ミミズを、次々と狩っていく。入れ替わりに立ち位置を変え、フリョーシカがライデンシャフトで豪快に雑魔ミミズを蹴散らして、デュヴァルがその広い視野で、討ち漏らした雑魔ミミズを撃つ。
「やれやれ、永遠に感じますねぇー、っと!」
いい加減面倒だと言わんばかりにフリョーシカが叫ぶ。その声に、デュヴァルは同調するように頷いた。
「ミミズもこう、よわっちいんだからチョロチョロしないで、もっとワーッと出てきてくれませんかね!」
撃破、移動。撃破、移動。思えば遠くへ来たものだ。最初のステージでいっそ100体が集まってきたほうが楽だったのではないかと――愚痴るフリョーシカに、デュヴァルは同調するように頷いた。
「ふぅ、ライトも心もとなくなってきましたね、セレナさんは大丈夫ですか?」
こくり。またデュヴァルは頷いて――。
「……固まって巨大化すればいいんですけど」
ぽつりと呟く。その言葉に、フリョーシカもまた、同調するように頷いた。
「それそれ、そういう展開でいいんですよ!」
分かる分かる、私もそう思ってたんだと言わんばかりに大きなリアクションで。
デュヴァルが、静かに続ける。
「そうすると……多少は食べられる部分も出てくるんでしょうか」
「……」
フリョーシカは――頷けなかった。
●小話―side C―
C班の殲滅行動が終わったのは、日没と共に現れた月が、空の頂点を下り始め程々の時間が経った頃であった。
「よ、よし。夜明けまでには終われましたね……」
クワを地面に突き立て、それに寄り掛かるようにしてぜぃぜぃと息をするのはベアール。
「ほんまやな、まあ討伐が数日かかったところで、マジのギリギリやないらしいから、大丈夫やったんやろうけど。敵も弱かったし、さっさと終われたんはいいことや。はよ帰ってシャワー浴びたい……帰りたい……」
真龍寺も似たようなもので、まだ急ぎ足のビートを刻む心臓に、早く落ち着けと言わんばかりの大きな呼吸。農耕用道路に座り込んでいる。
「でもいい加減、身体を動かすのもつらいですね。教会で一眠りして、村長さんに報告して、帰路に着く、と。そんな感じでしょうか」
はー、いい運動になったと。多少は呼吸も整ってきたか、ベアールは一度大きく伸びをした。
改めて、自らが今宵に残した実績をぐるりと、見渡して。
僅かながら、東の空が白んできたようにも感じる。真っ黒だった空は紫色の輝きを孕み始め、闇に慣れた瞳は、僅かな光ではっきりとした世界を認識した。
「――ああ」
畑の様子を伺っているのは、ベアールも真龍寺も同じであり、その絶望にも似た溜息混じりの声は、どちらが出したものだったのだろう。
「これは……ダメですよね」
「ああ。これは、あかんな」
雑魔ミミズをおびき寄せるための豪快な動き。派手な立ち回り。容赦のない戦いの傷跡。
二人は見る。果たしてその畑は、耕したというよりも、荒らしたというか。
究極の戦いを前に、二人はもう覚醒を使い切っていることに気づく――いや、そのことを心が認めるまで。
暫く、ぼんやりと畑の惨状を眺めていた。
●平穏、無事。
六人が、戦いの末に荒れてしまった畑を均していると、朝日が地平線から顔を出す頃には村の農夫達も集まってきた。
およそ全てのミミズを討伐したであろうことを伝えると、村人達は大いに喜び、久しぶりに畑の土を弄れることに対して安堵を感じているようだった。
村人達の協力もあり、それからの整地作業はすみやかに進み、まだ朝と呼べる時間の内に、全ての作業が終了した。
「これで安心です! もう安心です! 規則的な生活も安心です! 貴方がたに良し私達に良し! これぞまさにWin Winですねっ! ハハッ!」
徹夜明けというのはどうしてもこういうものらしく、代表して挨拶をしたフリョーシカに限らず、みなこの気持ちだっただろう。
大きな危険はなく、誰も怪我らしい怪我はしていない。
それでもみなが全力を、あるいは死力を尽くしてこの依頼に当たったことには違いない。
その証拠は、ほら。
全員の目の下に、薄く、しかしはっきりと見える紫がかった痕があるではないか。
とにかく広大だった。最寄りの転移門から暫く移動し、「ここからが村だよ」と案内役に言われて、村長の住む教会まで辿り着くのに更に暫くかかった。
領地のほとんどが農耕地である。居住スペースなど、農耕地の1割にも満たない。民家はほぼ平屋ばかり。唯一の2階建て、教会の物見やぐらとなっている尖塔から村を見下ろすと、これから『耕す』べき区域の広さに――派遣された六人は辟易した。
「……さあ、腐ってないで夜に向けての作戦立てでもしようか」
ひとまず目前の困難予定から目をそらして、水流崎トミヲ(ka4852)はそれぞれに配られた資料に目を通す。
30区画に及ぶ農地に潜む、雑魔ミミズの排除。縦横がおよそ50メートルはあり、面積に直せば2500平方メートルだ。それが更に30倍。途方も無い。途方も無いが……。
「やるしかないですね……殲滅役と誘引役ということで2人1組を3班作って、10区画ずつ手分けしましょうか?」
意気込むのはミネット・ベアール(ka3282)。各位に問いかける。
「いいと思うよ、僕はA班ということで」
水流崎が同調する。
「じゃあ流れ的に、私はB班で」
メリエ・フリョーシカ(ka1991)も頷いた。
「では……私は誘引役で、A班にします。水流崎さん、よろしくお願いします」
ユズ・コトノハ(ka4706)の言葉に、水流崎の近くで何かに刺されたような声と、それに続いて蚊の鳴くような声も聞こえたが、誰も気に留めなかった。
「ほんなら俺は一応属性攻撃出来るし、ミネットちゃんと一緒に行くわ」
そう言った真龍寺 凱(ka4153)の顔はすでにやや青ざめているようである。理由は推して知るべしか。
これで決まりだ。
誰でもなくそう言って、夜の戦闘に心を備えた。自動的にB班へと振り分けられたセレナ・デュヴァル(ka0206)は、ひとつの想いを持って、その広い農地を静かに見下ろし続けていた。
この、広大な『命の住処』で――。
いったい何が、果たしてどれほど採れるのだろうか?
●闇夜―side A―
小さなその身が燃え上がる――ように見えた。身体ほどに大きな褐色の尾があった。
共に現れた古き龍を想起させる頭部の角には、確かな炎が灯っている。
覚醒し、担当する農地へと足を踏み入れたコトノハを、やや遠目から見る影。水流崎の姿だ。
「うーん……」
何か邪念を振り払うように、トミヲは首を振る。いや、コトノハから目を逸らしたと言ったほうが正しいだろうか。
目線は外しても、LEDの光はきっちりとコトノハを照らす。
やたらと柔らかい土は、雑魔ミミズが土を食い散らかしている証拠だ。泥の中を進むかのように足を取られてしまう。
だが、その柔らかな土もミミズにしてみれば、馬が芝生の上を駆るようなものなのだろう――。
「……! 来ました!」
急襲。見た目には5匹ほど。うねり、時折地表に姿を見せながら、コトノハへと興奮したように迫り来るミミズの群れ。
コトノハは土を蹴り、舞うように宙へ飛んだ。ワンテンポ遅れて、ミミズも土から這い出てくる。しかし所詮は地を這う――どころか、地を掘る生き物で、コトノハの影さえ捉えられない。
5匹のミミズは、絡まるようにして方向を転換し、再度コトノハへ集う。
「それじゃあ行くよ!」
揺らめく炎のような少女には目が泳ぐが、流石にそんなことは言っていられない。水流崎の合図に合わせて、コトノハが射線を退く。
直後、放たれた風の刃が雑魔ミミズ達を切り刻んだ。
よし、と手応えを掴むように拳を握る水流崎。
静かに着地したコトノハは、少し胸を撫で下ろしてから、やや遠く――これから『耕す』農地を見て、コトノハは想う。
後――95体か。
危険こそあまり感じないものの、長い戦いだと息を吐いた。
その姿を見て、水流崎も想う。
「……ほんとに夜でよかったよ」
闇に慣れきった目を守ってくれろとばかりに、しっかりと眼鏡を掛け直した。
●闇夜―side B―
明かりが2つ。動く明かりと、動かない明かり。
動く明かりはフリョーシカの肩にあり、担いだクワが振り下ろされる先を照らしていた。
「やーこら……せっ!」
掛け声と共に、クワが土に振り下ろされる。覚醒者の力でそれは土中へ深々と突き刺さり、日頃掘り返されないような硬い土も混ぜこぜに引剥がされているようだ。
まあ畑に悪い話ではない。
「やー、適度な運動は身体にいいねぇ!」
振り上げて。
「こんな時間に――肌に悪いねぇええ!」
振り下ろす。物音のする、しかもマテリアル豊富な方向へ、雑魔ミミズは集まっていくはずだ。
「さっさと……寝かせろオラァ!」
口は悪いが動きはいい。活きのいい餌を用意するのは、釣りの基本だ。
間もなく雑魔ミミズは溢れ出す。寄ってくる雑魔ミミズを振り払いながら、悪い足場の上を器用に立ち回る。
「オラオラ、動き悪いぞォ!」
ライデンシャフトで薙ぎ払われる雑魔ミミズ。少し数も減り、雑魔ミミズ達の『動きの管理』もしやすくなった頃合い。
「――よし、セレナさん、よろしく!」
フリョーシカがバッと飛び退く、刹那。
動かない明かり。デュヴァルの明かりが、瞬間的に強く輝く。その光源はライトではなく――『ライトニングボルト』の、それだ。
直線状の雷が、並ばせられた雑魔ミミズを撃つ。電光の一撃は、強い音を残して一瞬で絶ち消えた。その一瞬で、充分だった。
「ヒューッ。……うん、適度に力を残せて、確実に狩れる。いい感じですね……っと、しまった。仕留めたのは何匹だったか――」
言うが早く、1匹の雑魔ミミズがフリョーシカに飛びかかってきた。
反射的に、ライデンシャフトの腹で叩く。空中へ、放り出された雑魔ミミズを――。
デュヴァルのファイアアローが貫く。
「……10です」
そして続いた言葉に、フリョーシカはにっと笑った。
「ありがとう!」
2人は、次の区画へと足を進める。
●闇夜―side C―
「うりうりうりうりうりぃぃぃいいいいい!」
「ああぁキモいキモいさっさと死ねやァア!」
クワが舞う。土が舞う。雑魔ミミズも舞う。
「舞うなやァァアアアアア!!」
その雑魔ミミズを、岩融が叩き落とした。風の力か、雑魔ミミズはさくりと分断される。
多大なダメージでミミズは瞬間的に衰弱するも、即死には至らない。
また、見れば特別巨大な雑魔ミミズだ。2つになった胴体が、それぞれにうねうねと蠢いた。
「うわっ、キモ」
「キモおおおい!!」
ベアールと真龍寺の想いがシンクロしたところで、ズゴンバゴンベキンと岩融の追撃にて天誅を食らわせた。
攻めの構え――というか暴走そのものにしか見えないが。
「これ、そろそろ10体くらい倒しましたかね」
「分からん……全然数えてへんかった……」
互いに覚醒し、その恩恵かあるいは根性か、農具を片手に軽々と持ち上げているが、当たり前のように肩で息をしていた。
「キツいですね、農作業。農夫の方々は覚醒もしていない身体でこれをやり通すんでしょうか、尊敬しますよ」
「いや、これは何か……ちゃうやろ、そういうん……」
特にミネットちゃんの動きは。その言葉は胸の内に秘める真龍寺だった。
「多分これ、もっといい方法ありますよね」
「うんまあ、それは間違いないわ」
遠目にA班、B班の討伐模様が見えるが、何かこう、こんな感じではない。
「もっと一箇所に集めて――」
「そうやな、ほんで俺がこう――」
畑のど真ん中で作戦会議だ。そこに狩り残しのミミズが居るとなれば出現もやむなし。それは真龍寺の背後にあり、気づいたのはベアール。
「危ないッ!」
咄嗟に持ち替えたナイフで、ミミズを追い払うように振り抜く。
パッと、人間相手なら鮮血が飛び出す場面か。
尤も飛び出したのは、何だか名状しがたい色の体液だった。――体液は、真龍寺にも降り注ぐ。
「……もあああああああああ!! かかってこいやあああああああ!!!!」
岩融を振り回す。細切れになる雑魔ミミズ。真龍寺はその勢いで次の区画に向かった。
「おお、すごい気合……そうですね、あらゆる策を凌駕する――それは気合!」
最善手を得たりとばかりに、ベアールもクワを握り直す。
「燃焼系……網野式!!」
抱え上げたクワを振り下ろし、突き立てる。その勢いに任せて身体を一回転。そしてその一回転の反動でクワを抱え、振り下ろし――。
「うりぃいいいいいいいいいいい!!!!」
人間を辞めたような声で、縦回転する狂気となって農地を耕していく。
果たして……冷静とは……。
●小話―side A―
残るは2面。雑魔ミミズ換算で20匹。
終わりが見えてきたところで、コトノハは自身の覚醒時間にも終わりが見えてきたことを悟った。
水流崎がこの畑で10体目となる雑魔ミミズを倒したところで、コトノハは水流崎のほうへと歩み始めた。
(…………ええっ……?)
水流崎は分かりやすく狼狽した。次へ、次へと、殲滅完了すればすぐ新たな区画へ向かっていたコトノハが、何故か自分のほうへ歩いてくるのだ。
しかも何かちょっと、覚醒とは違うニュアンスの光を帯びながら。何だろう、何か無礼を働いたから身体強化みたいな感じで殴られるのだろうか? ――いや、その光はコトノハのマテリアルヒーリングに因るものだったが、そんな頭は働かない。
「水流崎さん、お怪我はありませんか?」
「え、あ、はい。お、お陰様で……」
「水流崎さん」
「は、はい」
気づけば水流崎は直立、気をつけの姿勢になってしまっていた。目が泳ぎ回る。
「飲み物はお持ちですか?」
「へ? あ、ああ……そういえば、ライトやら何やらの準備でうっかり……」
「では、私のを半分差し上げます」
「へぁ!? ええっ、いや」
「嫌ですか」
「あああそうではなくて!」
何かもう、オロオロという音が聞こえてきそうなほどである。
「あ、ありがたく頂戴するでござるよ……」
「? はい、どうぞ」
言葉の違和感に首を傾げたコトノハだったが、手にした飲み物を水流崎へ渡す。
(うおおお……ま、まさに天使……見たところ覚醒も切れたようだし、残り2面は……僕が頑張らねばならないようだね!)
水流崎は、強く拳を握り締めた。その後、少しやり過ぎたような魔法の轟音が聞こえてくるのだが……。
●小話―side B―
殲滅が最も順調なのはこの班か。
デュヴァルはライトニングボルトを使い切り、畑の中央でフリョーシカと共に背中合わせで陣を組んでいる。
半ば飛びかかってくるようにして群がる雑魔ミミズを、次々と狩っていく。入れ替わりに立ち位置を変え、フリョーシカがライデンシャフトで豪快に雑魔ミミズを蹴散らして、デュヴァルがその広い視野で、討ち漏らした雑魔ミミズを撃つ。
「やれやれ、永遠に感じますねぇー、っと!」
いい加減面倒だと言わんばかりにフリョーシカが叫ぶ。その声に、デュヴァルは同調するように頷いた。
「ミミズもこう、よわっちいんだからチョロチョロしないで、もっとワーッと出てきてくれませんかね!」
撃破、移動。撃破、移動。思えば遠くへ来たものだ。最初のステージでいっそ100体が集まってきたほうが楽だったのではないかと――愚痴るフリョーシカに、デュヴァルは同調するように頷いた。
「ふぅ、ライトも心もとなくなってきましたね、セレナさんは大丈夫ですか?」
こくり。またデュヴァルは頷いて――。
「……固まって巨大化すればいいんですけど」
ぽつりと呟く。その言葉に、フリョーシカもまた、同調するように頷いた。
「それそれ、そういう展開でいいんですよ!」
分かる分かる、私もそう思ってたんだと言わんばかりに大きなリアクションで。
デュヴァルが、静かに続ける。
「そうすると……多少は食べられる部分も出てくるんでしょうか」
「……」
フリョーシカは――頷けなかった。
●小話―side C―
C班の殲滅行動が終わったのは、日没と共に現れた月が、空の頂点を下り始め程々の時間が経った頃であった。
「よ、よし。夜明けまでには終われましたね……」
クワを地面に突き立て、それに寄り掛かるようにしてぜぃぜぃと息をするのはベアール。
「ほんまやな、まあ討伐が数日かかったところで、マジのギリギリやないらしいから、大丈夫やったんやろうけど。敵も弱かったし、さっさと終われたんはいいことや。はよ帰ってシャワー浴びたい……帰りたい……」
真龍寺も似たようなもので、まだ急ぎ足のビートを刻む心臓に、早く落ち着けと言わんばかりの大きな呼吸。農耕用道路に座り込んでいる。
「でもいい加減、身体を動かすのもつらいですね。教会で一眠りして、村長さんに報告して、帰路に着く、と。そんな感じでしょうか」
はー、いい運動になったと。多少は呼吸も整ってきたか、ベアールは一度大きく伸びをした。
改めて、自らが今宵に残した実績をぐるりと、見渡して。
僅かながら、東の空が白んできたようにも感じる。真っ黒だった空は紫色の輝きを孕み始め、闇に慣れた瞳は、僅かな光ではっきりとした世界を認識した。
「――ああ」
畑の様子を伺っているのは、ベアールも真龍寺も同じであり、その絶望にも似た溜息混じりの声は、どちらが出したものだったのだろう。
「これは……ダメですよね」
「ああ。これは、あかんな」
雑魔ミミズをおびき寄せるための豪快な動き。派手な立ち回り。容赦のない戦いの傷跡。
二人は見る。果たしてその畑は、耕したというよりも、荒らしたというか。
究極の戦いを前に、二人はもう覚醒を使い切っていることに気づく――いや、そのことを心が認めるまで。
暫く、ぼんやりと畑の惨状を眺めていた。
●平穏、無事。
六人が、戦いの末に荒れてしまった畑を均していると、朝日が地平線から顔を出す頃には村の農夫達も集まってきた。
およそ全てのミミズを討伐したであろうことを伝えると、村人達は大いに喜び、久しぶりに畑の土を弄れることに対して安堵を感じているようだった。
村人達の協力もあり、それからの整地作業はすみやかに進み、まだ朝と呼べる時間の内に、全ての作業が終了した。
「これで安心です! もう安心です! 規則的な生活も安心です! 貴方がたに良し私達に良し! これぞまさにWin Winですねっ! ハハッ!」
徹夜明けというのはどうしてもこういうものらしく、代表して挨拶をしたフリョーシカに限らず、みなこの気持ちだっただろう。
大きな危険はなく、誰も怪我らしい怪我はしていない。
それでもみなが全力を、あるいは死力を尽くしてこの依頼に当たったことには違いない。
その証拠は、ほら。
全員の目の下に、薄く、しかしはっきりと見える紫がかった痕があるではないか。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 4人 |
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ミミズ退治 水流崎トミヲ(ka4852) 人間(リアルブルー)|27才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/07/08 09:20:47 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/06 22:01:48 |