ゲスト
(ka0000)
【JB】スピード婚の正体は
マスター:四月朔日さくら

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/06/29 07:30
- 完成日
- 2015/07/06 06:19
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
「この店で、結婚式――ですか?」
トワ・トモエは思わず聞き返した。
小虎はピースホライズンの一角にある料理店「ギョーサンアン」。スキンヘッドのコワモテ店主がトレードマークの、リアルブルー風料理を提供する店だ。
ちなみに昼間はカフェとしても機能している。
で、そこに飛び込んできたのが若い男だった。名前をトールといい、もとはリゼリオの出身だという。
「それでこの街に来て、運命の相手に出会った、と」
トモエに聞かれて男は頷いた。相手は見目麗しいナーシャという女性。
ときどき影のある表情を見せるのがまたよいのだという。
「彼女にプロポーズをしたら、オッケーしてくれたんです」
おつきあいの期間は約三か月。正直な話、かなりのスピード婚だ。
トモエは思う。
(これ、何か裏がありそう……)
しかし引き受けない選択肢はない。面白そうなことに首を突っ込みたくなるのは、トモエの性分だ。
「わかった。マスターにはあたしから伝えておくね!」
トモエはにっこりと笑った。
●
一方その頃、街の一角では。
「……それにしてもあのトールというひと、すごいのぼせやすいタイプねぇ」
そんなことを言ってクスクス笑っているのは、ナーシャと呼ばれていた新婦――だった。
傍には黒づくめの服を着た男が二、三人。
「あの人、リゼリオの大商人の息子って話じゃない。あからさまなぼんぼんで、お金をがっぽり持っているはずよねぇ」
……つまりがこの女、結婚詐欺師だ。
むろん、トールはそれに気づいているはずもなく。
「ふふ、楽しみだわぁ」
婀娜っぽい声でそんなことを言うと、女は煙管をフーッと吹かすのであった。
●
「と言うわけで。やっぱりあの新婦さん、クロね」
トモエはそう言いながらため息をつく。
「そう言うことならハンターの力も借りて……懲らしめちまうか?」
店主の佐藤(仮)が言うと、トモエはぱっと顔を輝かせる。
「ああ、そうしよう! やっぱり愛のある結婚って大事だし!」
二人はにっとわらって、拳をつつきあった。
「この店で、結婚式――ですか?」
トワ・トモエは思わず聞き返した。
小虎はピースホライズンの一角にある料理店「ギョーサンアン」。スキンヘッドのコワモテ店主がトレードマークの、リアルブルー風料理を提供する店だ。
ちなみに昼間はカフェとしても機能している。
で、そこに飛び込んできたのが若い男だった。名前をトールといい、もとはリゼリオの出身だという。
「それでこの街に来て、運命の相手に出会った、と」
トモエに聞かれて男は頷いた。相手は見目麗しいナーシャという女性。
ときどき影のある表情を見せるのがまたよいのだという。
「彼女にプロポーズをしたら、オッケーしてくれたんです」
おつきあいの期間は約三か月。正直な話、かなりのスピード婚だ。
トモエは思う。
(これ、何か裏がありそう……)
しかし引き受けない選択肢はない。面白そうなことに首を突っ込みたくなるのは、トモエの性分だ。
「わかった。マスターにはあたしから伝えておくね!」
トモエはにっこりと笑った。
●
一方その頃、街の一角では。
「……それにしてもあのトールというひと、すごいのぼせやすいタイプねぇ」
そんなことを言ってクスクス笑っているのは、ナーシャと呼ばれていた新婦――だった。
傍には黒づくめの服を着た男が二、三人。
「あの人、リゼリオの大商人の息子って話じゃない。あからさまなぼんぼんで、お金をがっぽり持っているはずよねぇ」
……つまりがこの女、結婚詐欺師だ。
むろん、トールはそれに気づいているはずもなく。
「ふふ、楽しみだわぁ」
婀娜っぽい声でそんなことを言うと、女は煙管をフーッと吹かすのであった。
●
「と言うわけで。やっぱりあの新婦さん、クロね」
トモエはそう言いながらため息をつく。
「そう言うことならハンターの力も借りて……懲らしめちまうか?」
店主の佐藤(仮)が言うと、トモエはぱっと顔を輝かせる。
「ああ、そうしよう! やっぱり愛のある結婚って大事だし!」
二人はにっとわらって、拳をつつきあった。
リプレイ本文
●
ジューンブライドの季節に現れたという結婚詐欺師の話題に、ハンターたちももやもやとすることになってしまった。
特に結婚式と言えば一世一代の晴れ舞台、それを食い物にしようとする悪徳詐欺師は許すまじ。
――なんてトモエは思っていたりするのだが、まあ表向きはそれを隠して祝福の為の準備をすることにしようとする。
何しろギョーサンアンはその結婚パーティの会場として選ばれたのだ、あからさまな悪意を向けるわけにはなかなか行かないのである。
でもまあ、他のハンターもどうも今ひとつな気分なのは同様で、
「結婚なんていうのは互いの契りだ、そいつを穢しちゃなんねぇよな」
そんなことを言ってうんうんと頷くのはどこか素朴そうな見た目のひげ面男性、沖本 権三郎(ka2483)三十五歳。彼自身妻子持ちだが、サルヴァトーレ・ロッソに乗り込む際に妻子と離ればなれになってしまったというけっこう重い過去の持ち主である。だからだろうか、彼の噴気は結構なものだ。
「それにしても、仕方のない方ですね……もっとも、わたくしはそう言う殿方、嫌いではありませんけれど」
そう言って意味ありげに微笑むのは同じくリアルブルー出身のハンター、ユーリカ・エウレーナ(ka2611)。
「あれ、ユーリカさんはこの結婚に反対じゃないの? なんで?」
不思議そうにとうトモエに、また意味ありげに笑ってみせる。
「何故ですって? ふふ、『真実の愛に至るには三日あれば十分』なんて故事もありますから……ね」
「は、はぁ」
まあ確かに愛あるスピード婚も確実に存在するのは事実だ。ただ今回は相手が悪い。前歴のある結婚詐欺師だから。
「でも、どうやって懲らしめようか?」
首をかしげるこのみ(ka3779)に、重 源衛門(ka4715)もむう、とうなった。
「こういうやからは自分の技に自信を持っておることが多い。ならば、その自信を折ってやれば良かろう」
具体的な作戦はなかなか思い浮かばないらしいが、それくらいは思いつける。
さて、どうするか。
「……とりあえず、相手の証拠を掴むのが一番かな?」
このみの言葉に、反対するものはいなかった。
「力尽くってのが普段の俺のやり方だが、それが出来ねぇんなら仕方ねぇし。まあこの店にも迷惑かけちゃいけねぇしなぁ」
権三郎はそううなって、作戦を練り始めた。
●
「……ええと、ご用事と聞いたのですが、もしかしてパーティが出来そうにないとか、そう言うことなんでしょうか……?」
急遽呼び出された新郎・トールはわずかに怯えた顔でトモエに尋ねる。
「あ、ううん。そう言うのじゃないの。ただ、今回のパーティには助っ人でハンターさんにも手伝って貰うことになったから、その顔合わせもかねてね」
ギョーサンアンは決して流行っている店というわけではない。何かと面白い企画をやってはいるが、あくまでその体裁は小料理屋に毛が生えた程度だ。
そしてその場に居合わせたハンターたちもぺこりと頭を下げる。
見れば見るほど、如何にも「チョロそう」な青年だ。少し困り眉の、万人が美形というわけではないだろうが、愛らしい表情を浮かべる感じは如何にも母性本能をくすぐられる。
リゼリオの豪商のでと言うことらしいが、その育ちの良さも出ているのだろう、語り口もおっとりと、そして礼儀正しい。
「沖本権三郎だ。よろしく頼むぞ。……ところで坊ちゃんよ、結婚って言うことの重大さはわかっているよな?」
権三郎が問うと、トールは勿論ですとばかりに唇をひきしめて頷いた。
「彼女は非常に聡明で、綺麗な人なんです。心からの美人というのは、きっと彼女のことをいうのだと思います。そんな彼女と愛を誓えるのなら、僕はとても幸せ者です」
しかし口からもれいづる言葉は、既にのろけ以外の何者でもなかった。
「うーん……俺は一応結婚してるから、こういう言葉をつい言っちまうんだが。自分がどのくらい危険な橋を渡ってるか、まだ理解出来てねぇ見てぇだからな」
「?」
トールは首をかしげたままだ。
「いや、スピード婚が悪いとは言わねぇ。ただ、相手がそれをもし望んでいるのだとすると、それなりの理由があるってこった。その辺の理由、聞いてるか?」
「……いえ、それは……でも彼女が何かあやしいとか、そんなことはないはずです。ええ」
盲信状態の言葉は重いけれど、同時にどこか薄っぺらい。
「まあ、俺たちも手伝うのは了解してくれよ」
「はい、勿論。ありがとうございます」
トールはそう言うと、「まだ結婚パーティの準備が色々ありますので」と足早に出て行った。
「……さて。けっこう重傷のようですわね」
ユーリカはため息をつく。このみは
「あれじゃあ、気づかないって言うよりも気づけない、だよね。なんて言うか、残念なくらいに詐欺とかに引っかかりやすいタイプ」
「だからこそ、ワシらで止めるべきなのだろう。証拠でもつかめるといいが」
源衛門がそう言うと、それなら任せて、とトモエが張り切りだした。
「ああ、そうだな。証拠の写真や動画があれば、相手もぐうの音が出ないだろうさ。俺は他の被害者とやらを探してみたいと思う。この街を縄張りにしてるなら、いそうな気がするしな。名前が知られてないのは、偽名を使っているとか、そう言うことかも知れねぇ。調べるのは任せて貰うぜ」
権三郎がそう言うと、ユーリカは
「それなら当日の為の仕込みを、こちらでしておきますわ」
このみはトモエに、源衛門が権三郎に手伝うと言うことで、作戦会議は終了した。
●
ピースホライズンの一角、閑静な住宅街――ここにまさか、結婚詐欺師が住んでいるとは誰も夢にも思うまい。しかしいるんだからどうしようもない。
トールに教えてもらったナーシャの住まいは、まさにそんな場所だった。
周囲の人に聞き込みをしても、彼女は何かと羽振りが良く、詳しくは知らないが仕事の為の外出も多くないこと、更によくがタイのいい黒服の男がやってきていることなどを教えてくれた。
「……どう考えてもクロよね、やっぱり」
トモエはため息をつく。しかしまずは証拠となるべき資料の採集が優先だ。
家の玄関、特に表札を写真に収める。また様々な角度からの撮影も済ませ、少し休憩していると――なにやら低い男の声が聞こえて、トモエははっとなって近くの路地に隠れた。近所の人々の言っていた、人相の良くない黒服の男二人――どうやらこいつらがそうらしい。
「さっさと写真に収めとかないと」
相手がナーシャの家の門をくぐる瞬間を、トモエは撮影することに何とか成功した。
●
源衛門と権三郎は図書館に向かった。リアルブルーにはよく新聞の縮刷版というのが図書館に置かれているが、それに似たものがあるかも知れない。
司書に尋ねると、過去数年分の新聞は集めてあるとのことだった。流石に縮刷版は存在しないが、そのあたりは気が利いているといえるだろう。
「ふむふむ、これは……」
結婚詐欺なんてなかなか自分からは言い出せないのが常だが、過去にそれらしき被害に遭っている男性はどれもこれも豪商の次男や三男という立場で、訴えを出したのはその父親らしい。金儲けの上手い人物だからこそ、金を奪われるのが我慢ならないらしい。たとえ、家の恥でも、色ぼけ息子だとしても、大事な家族だからだ。
おかげさまで、随分資料が集まった。
彼女はどうやら過去に二回、似たような手口で金を奪っている。相手は上記の通り、各地の豪商の息子、それも嫡子ではない。
相手の特徴はあくまで文章にとどまっていたが、それでも十分な情報だろう。
さらさらと書き写し、被害者の名前も記録しておく。
被害者と面会するのは骨が折れたが、それでも何のかんので捕まえることのできたそれらしき男性は
「是非あの女狐には……」
と、いまも怒りをあらわにしていた。まあ、そんなものだろう。
とりあえず、材料は調った。
あとは、どういう風にするか、だ。
●
そして結婚パーティ当日。
ギョーサンアンには多くの客が訪れていた。
むろんハンターたちもその中に紛れている。このみとトモエは配膳係、ユーリカは受付にいる。
そして男性陣二人は、いまはまだ厨房に潜み、佐藤(仮)と最後の作戦会議を練っていた。
「ユーリカが面白い飲みもんを提案したんで作ってみたんだが」
赤みの強い色合いのカクテルがそこには置かれている。如何にも毒々しいが、人によってはパーティの席だからと浮かれて飲みそうだ。
「なるほど、こいつはいい」
にやりと笑い合う三人の男たち。
料理は最近リゼリオでハンターたちにも人気のメニューが目白押しだ。
これはひとえにユーリカのアイデアである。
とくに花籠パイは見た目も美しく、参列客にも大好評の一品であった。
と、そこで拍手が巻き上がった。新郎新婦の入場だ。
ナーシャは如何にも初々しい花嫁を演じているが、その正体を知っているハンターたちからすれば白々しいにも程がある。一方、かちこちに固まったトールの純情っぷりが、逆に切なく見えるのはこれまた仕方のないことなのだろう。
「今回はハンターの皆さんにも頼んで、色々企画して貰ったんです」
トールがそう言うと、ナーシャは複雑そうな笑みを浮かべた。
「ではよろしくお願いします――」
トールの言葉に、トモエと権三郎が躍り出る。
そして、ガリ版刷りの紙をいっせいに配り始めた。そこには、ナーシャの過去の事件とその被害者の声、そして現在のナーシャの様子が細々と記されている。
「な、なによこれっ」
ナーシャは当然顔を青ざめる。後ろのほうに控えていた黒服の男――以前ナーシャと話していた不審な男性たち――は、慌てて近づこうとするが、そこにすっとユーリカが現れて真っ赤なカクテルを差し出す。
「お祝いの席でお酒も飲みませんの? ほら、どうぞ」
しかしそれ、実は唐辛子たっぷりのカクテルなのだ。進められるままにのんで、たちまちぶっ倒れる男たち。
「こんなの嘘っぱちよ! ねえ、貴方信じて……!」
ナーシャはそう言ってトールにすがりつく。
しかし、そこにこのみがなにやら持ってきた。リゼリオに住むトールの親から預かってきた手紙だ。
「ええとね、『こんなやくざな女と結婚するなら勘当だ』だって」
顔面蒼白になる新郎新婦。
とくにトールの財産目当てで結婚しようとしているナーシャにはかなり堪えたらしい。
「これが天罰ってやつだよね」
ナーシャはそう言い放つと、トールにそっとホットミルクを出した。
「源衛門さんがね、傷ついたときには温かい飲み物が一番だからって」
しかしトールの顔は、無様に歪んでしまっていた。
●
結局、前科もしっかりと判明した上で、ナーシャは警察に連行された。むろん、黒服の男たちも一緒である。
「何から何まで申し訳ありませんでした」
トールはひたすら謝るばかり。自分の軽率な行動がこれだけの騒ぎになるとは思っていなかったのだろう。
「でも、よかった。貴方が傷つかないで」
「そうだな」
トモエは佐藤(仮)とそう言い合う。しかしトールとしては複雑そうだ。
「素敵な人ではあったんです……僕の見る目がなかったんですね、うう」
でも、とユーリカは励ます。
「だからこそ、これを反面教師だと思えばいいんじゃないですか? 大丈夫、絶対素敵な相手が見つかりますよ」
「うん、そうそう」
トモエ(彼氏いない歴=年齢)にもそう言われ、そうですね、と小さく頷く青年。
「お互い頑張ろうね!」
「はい、本当にお世話を懸けました」
でもそう言って頭を下げるトールの顔は、どこか吹っ切れていて。
きっと彼なら素敵な相手を見つけることが出来るだろう。いつか。
(ちょっと花嫁に憧れるなぁ)
年頃の少女らしいことを、トモエは思わず胸で思いながら。
「みんなも協力ありがとうね!」
トモエはハンターたちにそう言って、にっこりと笑ったのだった。
ジューンブライドの季節に現れたという結婚詐欺師の話題に、ハンターたちももやもやとすることになってしまった。
特に結婚式と言えば一世一代の晴れ舞台、それを食い物にしようとする悪徳詐欺師は許すまじ。
――なんてトモエは思っていたりするのだが、まあ表向きはそれを隠して祝福の為の準備をすることにしようとする。
何しろギョーサンアンはその結婚パーティの会場として選ばれたのだ、あからさまな悪意を向けるわけにはなかなか行かないのである。
でもまあ、他のハンターもどうも今ひとつな気分なのは同様で、
「結婚なんていうのは互いの契りだ、そいつを穢しちゃなんねぇよな」
そんなことを言ってうんうんと頷くのはどこか素朴そうな見た目のひげ面男性、沖本 権三郎(ka2483)三十五歳。彼自身妻子持ちだが、サルヴァトーレ・ロッソに乗り込む際に妻子と離ればなれになってしまったというけっこう重い過去の持ち主である。だからだろうか、彼の噴気は結構なものだ。
「それにしても、仕方のない方ですね……もっとも、わたくしはそう言う殿方、嫌いではありませんけれど」
そう言って意味ありげに微笑むのは同じくリアルブルー出身のハンター、ユーリカ・エウレーナ(ka2611)。
「あれ、ユーリカさんはこの結婚に反対じゃないの? なんで?」
不思議そうにとうトモエに、また意味ありげに笑ってみせる。
「何故ですって? ふふ、『真実の愛に至るには三日あれば十分』なんて故事もありますから……ね」
「は、はぁ」
まあ確かに愛あるスピード婚も確実に存在するのは事実だ。ただ今回は相手が悪い。前歴のある結婚詐欺師だから。
「でも、どうやって懲らしめようか?」
首をかしげるこのみ(ka3779)に、重 源衛門(ka4715)もむう、とうなった。
「こういうやからは自分の技に自信を持っておることが多い。ならば、その自信を折ってやれば良かろう」
具体的な作戦はなかなか思い浮かばないらしいが、それくらいは思いつける。
さて、どうするか。
「……とりあえず、相手の証拠を掴むのが一番かな?」
このみの言葉に、反対するものはいなかった。
「力尽くってのが普段の俺のやり方だが、それが出来ねぇんなら仕方ねぇし。まあこの店にも迷惑かけちゃいけねぇしなぁ」
権三郎はそううなって、作戦を練り始めた。
●
「……ええと、ご用事と聞いたのですが、もしかしてパーティが出来そうにないとか、そう言うことなんでしょうか……?」
急遽呼び出された新郎・トールはわずかに怯えた顔でトモエに尋ねる。
「あ、ううん。そう言うのじゃないの。ただ、今回のパーティには助っ人でハンターさんにも手伝って貰うことになったから、その顔合わせもかねてね」
ギョーサンアンは決して流行っている店というわけではない。何かと面白い企画をやってはいるが、あくまでその体裁は小料理屋に毛が生えた程度だ。
そしてその場に居合わせたハンターたちもぺこりと頭を下げる。
見れば見るほど、如何にも「チョロそう」な青年だ。少し困り眉の、万人が美形というわけではないだろうが、愛らしい表情を浮かべる感じは如何にも母性本能をくすぐられる。
リゼリオの豪商のでと言うことらしいが、その育ちの良さも出ているのだろう、語り口もおっとりと、そして礼儀正しい。
「沖本権三郎だ。よろしく頼むぞ。……ところで坊ちゃんよ、結婚って言うことの重大さはわかっているよな?」
権三郎が問うと、トールは勿論ですとばかりに唇をひきしめて頷いた。
「彼女は非常に聡明で、綺麗な人なんです。心からの美人というのは、きっと彼女のことをいうのだと思います。そんな彼女と愛を誓えるのなら、僕はとても幸せ者です」
しかし口からもれいづる言葉は、既にのろけ以外の何者でもなかった。
「うーん……俺は一応結婚してるから、こういう言葉をつい言っちまうんだが。自分がどのくらい危険な橋を渡ってるか、まだ理解出来てねぇ見てぇだからな」
「?」
トールは首をかしげたままだ。
「いや、スピード婚が悪いとは言わねぇ。ただ、相手がそれをもし望んでいるのだとすると、それなりの理由があるってこった。その辺の理由、聞いてるか?」
「……いえ、それは……でも彼女が何かあやしいとか、そんなことはないはずです。ええ」
盲信状態の言葉は重いけれど、同時にどこか薄っぺらい。
「まあ、俺たちも手伝うのは了解してくれよ」
「はい、勿論。ありがとうございます」
トールはそう言うと、「まだ結婚パーティの準備が色々ありますので」と足早に出て行った。
「……さて。けっこう重傷のようですわね」
ユーリカはため息をつく。このみは
「あれじゃあ、気づかないって言うよりも気づけない、だよね。なんて言うか、残念なくらいに詐欺とかに引っかかりやすいタイプ」
「だからこそ、ワシらで止めるべきなのだろう。証拠でもつかめるといいが」
源衛門がそう言うと、それなら任せて、とトモエが張り切りだした。
「ああ、そうだな。証拠の写真や動画があれば、相手もぐうの音が出ないだろうさ。俺は他の被害者とやらを探してみたいと思う。この街を縄張りにしてるなら、いそうな気がするしな。名前が知られてないのは、偽名を使っているとか、そう言うことかも知れねぇ。調べるのは任せて貰うぜ」
権三郎がそう言うと、ユーリカは
「それなら当日の為の仕込みを、こちらでしておきますわ」
このみはトモエに、源衛門が権三郎に手伝うと言うことで、作戦会議は終了した。
●
ピースホライズンの一角、閑静な住宅街――ここにまさか、結婚詐欺師が住んでいるとは誰も夢にも思うまい。しかしいるんだからどうしようもない。
トールに教えてもらったナーシャの住まいは、まさにそんな場所だった。
周囲の人に聞き込みをしても、彼女は何かと羽振りが良く、詳しくは知らないが仕事の為の外出も多くないこと、更によくがタイのいい黒服の男がやってきていることなどを教えてくれた。
「……どう考えてもクロよね、やっぱり」
トモエはため息をつく。しかしまずは証拠となるべき資料の採集が優先だ。
家の玄関、特に表札を写真に収める。また様々な角度からの撮影も済ませ、少し休憩していると――なにやら低い男の声が聞こえて、トモエははっとなって近くの路地に隠れた。近所の人々の言っていた、人相の良くない黒服の男二人――どうやらこいつらがそうらしい。
「さっさと写真に収めとかないと」
相手がナーシャの家の門をくぐる瞬間を、トモエは撮影することに何とか成功した。
●
源衛門と権三郎は図書館に向かった。リアルブルーにはよく新聞の縮刷版というのが図書館に置かれているが、それに似たものがあるかも知れない。
司書に尋ねると、過去数年分の新聞は集めてあるとのことだった。流石に縮刷版は存在しないが、そのあたりは気が利いているといえるだろう。
「ふむふむ、これは……」
結婚詐欺なんてなかなか自分からは言い出せないのが常だが、過去にそれらしき被害に遭っている男性はどれもこれも豪商の次男や三男という立場で、訴えを出したのはその父親らしい。金儲けの上手い人物だからこそ、金を奪われるのが我慢ならないらしい。たとえ、家の恥でも、色ぼけ息子だとしても、大事な家族だからだ。
おかげさまで、随分資料が集まった。
彼女はどうやら過去に二回、似たような手口で金を奪っている。相手は上記の通り、各地の豪商の息子、それも嫡子ではない。
相手の特徴はあくまで文章にとどまっていたが、それでも十分な情報だろう。
さらさらと書き写し、被害者の名前も記録しておく。
被害者と面会するのは骨が折れたが、それでも何のかんので捕まえることのできたそれらしき男性は
「是非あの女狐には……」
と、いまも怒りをあらわにしていた。まあ、そんなものだろう。
とりあえず、材料は調った。
あとは、どういう風にするか、だ。
●
そして結婚パーティ当日。
ギョーサンアンには多くの客が訪れていた。
むろんハンターたちもその中に紛れている。このみとトモエは配膳係、ユーリカは受付にいる。
そして男性陣二人は、いまはまだ厨房に潜み、佐藤(仮)と最後の作戦会議を練っていた。
「ユーリカが面白い飲みもんを提案したんで作ってみたんだが」
赤みの強い色合いのカクテルがそこには置かれている。如何にも毒々しいが、人によってはパーティの席だからと浮かれて飲みそうだ。
「なるほど、こいつはいい」
にやりと笑い合う三人の男たち。
料理は最近リゼリオでハンターたちにも人気のメニューが目白押しだ。
これはひとえにユーリカのアイデアである。
とくに花籠パイは見た目も美しく、参列客にも大好評の一品であった。
と、そこで拍手が巻き上がった。新郎新婦の入場だ。
ナーシャは如何にも初々しい花嫁を演じているが、その正体を知っているハンターたちからすれば白々しいにも程がある。一方、かちこちに固まったトールの純情っぷりが、逆に切なく見えるのはこれまた仕方のないことなのだろう。
「今回はハンターの皆さんにも頼んで、色々企画して貰ったんです」
トールがそう言うと、ナーシャは複雑そうな笑みを浮かべた。
「ではよろしくお願いします――」
トールの言葉に、トモエと権三郎が躍り出る。
そして、ガリ版刷りの紙をいっせいに配り始めた。そこには、ナーシャの過去の事件とその被害者の声、そして現在のナーシャの様子が細々と記されている。
「な、なによこれっ」
ナーシャは当然顔を青ざめる。後ろのほうに控えていた黒服の男――以前ナーシャと話していた不審な男性たち――は、慌てて近づこうとするが、そこにすっとユーリカが現れて真っ赤なカクテルを差し出す。
「お祝いの席でお酒も飲みませんの? ほら、どうぞ」
しかしそれ、実は唐辛子たっぷりのカクテルなのだ。進められるままにのんで、たちまちぶっ倒れる男たち。
「こんなの嘘っぱちよ! ねえ、貴方信じて……!」
ナーシャはそう言ってトールにすがりつく。
しかし、そこにこのみがなにやら持ってきた。リゼリオに住むトールの親から預かってきた手紙だ。
「ええとね、『こんなやくざな女と結婚するなら勘当だ』だって」
顔面蒼白になる新郎新婦。
とくにトールの財産目当てで結婚しようとしているナーシャにはかなり堪えたらしい。
「これが天罰ってやつだよね」
ナーシャはそう言い放つと、トールにそっとホットミルクを出した。
「源衛門さんがね、傷ついたときには温かい飲み物が一番だからって」
しかしトールの顔は、無様に歪んでしまっていた。
●
結局、前科もしっかりと判明した上で、ナーシャは警察に連行された。むろん、黒服の男たちも一緒である。
「何から何まで申し訳ありませんでした」
トールはひたすら謝るばかり。自分の軽率な行動がこれだけの騒ぎになるとは思っていなかったのだろう。
「でも、よかった。貴方が傷つかないで」
「そうだな」
トモエは佐藤(仮)とそう言い合う。しかしトールとしては複雑そうだ。
「素敵な人ではあったんです……僕の見る目がなかったんですね、うう」
でも、とユーリカは励ます。
「だからこそ、これを反面教師だと思えばいいんじゃないですか? 大丈夫、絶対素敵な相手が見つかりますよ」
「うん、そうそう」
トモエ(彼氏いない歴=年齢)にもそう言われ、そうですね、と小さく頷く青年。
「お互い頑張ろうね!」
「はい、本当にお世話を懸けました」
でもそう言って頭を下げるトールの顔は、どこか吹っ切れていて。
きっと彼なら素敵な相手を見つけることが出来るだろう。いつか。
(ちょっと花嫁に憧れるなぁ)
年頃の少女らしいことを、トモエは思わず胸で思いながら。
「みんなも協力ありがとうね!」
トモエはハンターたちにそう言って、にっこりと笑ったのだった。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/06/28 12:42:17 |