ゲスト
(ka0000)
ハナアルキ出た
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/07/06 19:00
- 完成日
- 2015/07/13 18:27
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
ハンターオフィスに1人の少女が駆け込んできた。
年の頃は14、5か。褐色の肌に黒い瞳。黒髪で、手の甲に入れ墨が入っている。
辺境の民であるようだが、服装は帝国風。
「お願いします、助けてくださいっ!」
何事であろうか。歪虚に村が襲撃されでもしたのだろうか。
思うハンターたちに彼女は、こう打ち明けた。
「村の畑に変なものが出たんです! 全体的にネズミっぽいんですけど、鼻がおかしいんです! 鼻で歩いているんです!」
……ハナ?
……鼻で歩く?
いまいちイメージがわかないが、どんな姿をしていたとしても歪虚は歪虚。放置しておくのは危険である。ハンターたちは現場へ急行するとした。
●
なだらかな起伏のある丘陵地帯に、カチャの村はあった。色の違うカードを並べたように、一面畑や牧草地が広がっている。
畑の中にネズミっぽい歪虚がいた。肥大化した3本の鼻で萎んだ体を支え逆立ちし、かさこそ移動している。気ままに作物を齧りながら。
畦に並んで座るハンターたちは、その姿を見て頷きあった。
「……確かに鼻で歩いてるな」
「……ああ、鼻だな」
「……間違いなくな」
見るからにちんけなヤツだが、それでも歪虚は歪虚。退治しておかなければ。思って腰を上げかけた彼らは、真後ろから生暖かい息がかかってくるのを感じた。
振り向いてみるとどうであろう。そこには象っぽい歪虚がいた。ネズミもどきと同様肥大化した鼻で体を支え、逆立ちしている。
鼻は全部で4本あるのだが、1本は支えに使われておらず宙に持ち上げられている。その鼻先から透明な粘液が、まるで牛の涎のように糸を引き垂れている。
ハンターたちはそっと右に移動した。鼻先も右に移動する。
今度は左へ移動した。鼻先も左へ移動する。
一見ぼんやりしてそうな歪虚の瞳は、相手の動きを抜け目なく追っている。
「……こいつ、明らかに狙ってるよな」
「……ああ……」
「間違いなくな……」
年の頃は14、5か。褐色の肌に黒い瞳。黒髪で、手の甲に入れ墨が入っている。
辺境の民であるようだが、服装は帝国風。
「お願いします、助けてくださいっ!」
何事であろうか。歪虚に村が襲撃されでもしたのだろうか。
思うハンターたちに彼女は、こう打ち明けた。
「村の畑に変なものが出たんです! 全体的にネズミっぽいんですけど、鼻がおかしいんです! 鼻で歩いているんです!」
……ハナ?
……鼻で歩く?
いまいちイメージがわかないが、どんな姿をしていたとしても歪虚は歪虚。放置しておくのは危険である。ハンターたちは現場へ急行するとした。
●
なだらかな起伏のある丘陵地帯に、カチャの村はあった。色の違うカードを並べたように、一面畑や牧草地が広がっている。
畑の中にネズミっぽい歪虚がいた。肥大化した3本の鼻で萎んだ体を支え逆立ちし、かさこそ移動している。気ままに作物を齧りながら。
畦に並んで座るハンターたちは、その姿を見て頷きあった。
「……確かに鼻で歩いてるな」
「……ああ、鼻だな」
「……間違いなくな」
見るからにちんけなヤツだが、それでも歪虚は歪虚。退治しておかなければ。思って腰を上げかけた彼らは、真後ろから生暖かい息がかかってくるのを感じた。
振り向いてみるとどうであろう。そこには象っぽい歪虚がいた。ネズミもどきと同様肥大化した鼻で体を支え、逆立ちしている。
鼻は全部で4本あるのだが、1本は支えに使われておらず宙に持ち上げられている。その鼻先から透明な粘液が、まるで牛の涎のように糸を引き垂れている。
ハンターたちはそっと右に移動した。鼻先も右に移動する。
今度は左へ移動した。鼻先も左へ移動する。
一見ぼんやりしてそうな歪虚の瞳は、相手の動きを抜け目なく追っている。
「……こいつ、明らかに狙ってるよな」
「……ああ……」
「間違いなくな……」
リプレイ本文
自然の摂理をどう捻じ曲げると、鼻で歩くという選択に到るのか。この謎は永遠に解けないままで終わるだろう、とシエラ・R・スパーダ(ka3139)は思った。
(それなりに愛らしくもあるのかもしれないけれど……うちの子の方が、百倍、いいえ千倍……)
慈愛に満ちた視線を注がれているのに気づいたジオラ・L・スパーダ(ka2635)は、彼女に問う。
「何だ、姉貴」
「いいえ、何でもないのよジオラ。歪虚と比較する事自体が間違っているわよね」
今に始まったことではないが姉の言動は変である。まあ、目の前にいるこれのほうがよっぽど変であろうが。
「水槽にでも入れておいたら良い見世物だけどな」
リズ・ルーベルク(ka2102)は依頼書に記されていた歪虚の名を思い起こす。
「ハナアルキ……ですか。なんだか変な感じだけど少し可愛い……かも?」
玉緒(ka5214)はとにかく面白がっている。
「うん、キモかわいいよね! あはははは、見れば見るほど変なのー」
これのどこに「かわいい」要素があるのか。さっぱり同意出来ないと思う鬼童(ka5049)に、ヴァイス(ka0364)が話しかける。
「おい……奴の鼻からだらだらと糸を引いて垂れている液体……嫌な予感がするんだが」
「……お前もか。俺も確かに、怪しい気はしている……こっちの動きについてきてるしな……」
ひそひそ語り合う男たちを尻目に天竜寺 詩(ka0396)は、雑魔の顔をまじまじ眺め回す。眠そうなぼんやりした目付き。頭の働きは鈍そう。
「どうしてこんなに鼻がたくさんあるのかなー……そもそも逆立ちして何かいいことあるのかな?」
モカ・プルーム(ka3411)は雑魔に近づき、指を突き付け宣戦布告。
「鼻自慢の雑魔っぽいけど、ボクだって鼻には自信があるんだから!」
その直後だった。象型ハナアルキの水っ鼻が詩の顔面目がけ超高速で打ち出されたのは。
人倫にもとる攻撃を受けたのはしかし、彼女ではない。電光石火割り込んできたヴァイスだ。
「危ない!」
婦女子を守った代償はけして小さくない。鼻水は臭かった。履き古した靴下の匂いがした。振り払おうとしても振り払えず、ねちょおおおと糸を引く。
「く、見た目の攻撃に反してかなりの威力だ。それにこの粘り、直撃したら動けなくなるかもな。皆、奴の鼻の攻撃には注意してくれ!」
彼がそう言ったときにはすでに皆、ハナアルキから距離を取っていた。詩、リズ、玉緒、ジオラは盾を構え、モカは鬼童の後ろに回り込み、シエラに至っては作ったアースウォールの影に隠れている。
「なんか鼻水バッチイし、とっとと倒そう」
ジオラは所持している狛犬を通じ、コンバートソウル。
「色々気になる事はあるけどともかく退治しちゃわないとね。お百姓さんも仕事出来なくて困っちゃうもんね」
詩が拳をぐっと握った。
「早急に無慈悲な鉄槌を下さなくては」
シエラが断じた。
「うん、そうしよう! 鼻水キケンだからね!」
玉緒が元気よく賛同した。
「頑張ってやっつけちゃいましょう」
リズが頷いた。
「じゃ、まずは鼠の雑魔からサクッといこう!」
最後にモカが締めた。誰ひとりとして先に象型へ向かおうとはしない。
鬼童は畦で戦っているヴァイスを観察する。
「くっそおおお! 動きにくいっ!」
ねとねとになりながらも踏み付け攻撃は避けている。相手の動きが遅すぎるのが幸いしているようだ。助けには行かない。男は自分で身を守るべきだ。
(――そして女を守るべきだ、な)
鬼童は決断した。同行している彼女らに鼻水が飛んできたら、自分もまた身をもって防ごう、と。
●
ネズミハナアルキは近くで何が起きていようと素知らぬ様子で、トウモロコシをかじっている。
警戒心が薄いのか。これならすぐ捕まえられる。そう思って玉緒は、ロケットナックルの照準を合わせる。
「さあっ、覚悟しろハナミズキ! ロケットパンチ!」
発射されたナックルはしかし、空を切る。
「あっ、あれ? どこ行ったの?」
周囲を見回す玉緒に、詩が声をかけた。
「玉緒さん、後ろだよ!」
振り向いてみると確かに敵はが後ろに。気を引き締め直し近づこうとしたところ、ネズミハナアルキが。
ヒュンッ
リズは思わず目をこすった。
「い、今、残像出てませんでしたか?」
速い。おそろく速い。ジオラが胡椒爆弾を投げても全く当たらない。考え込んだシエラは、表情を変えず周囲に言った。
「……皆様、どうしたらよいと思いまして? 遠慮せず言ってご覧なさいな」
質問なのに上から目線。それがシエラである。
モカが手を挙げた。
「これはエサで釣るしかないと思いまーす。ボクと詩さんチーズを持ってきてるから、それで釣れるじゃないかな? なんたって鼠だし!」
●
ヴァイスは奮闘していた。次々繰り出される鼻鉄砲を被るまいとルクス・ソリスを振り回し、衝撃波を打って打って打ちまくる。空中に四散した鼻水は重力に引かれ地面に落ち広がった。それをうっかり踏んで足を滑らせるヴァイス。踏み付けようとし己も鼻を滑らせるハナアルキ。戦いは一進一退だ。
●
詩とモカは、持参してきたチーズを撒き始める。
「こっちだよ~」
「おいでおいで」
離れたところから彼女らを伺っていたネズミハナアルキは、近くまで転がってきたものを鼻で取り口に運んだ。おいしいと思ったらしい。近づいてくる。
素早さが折り紙付であるのは先刻承知。メンバーは気取られないよう分散し囲みを作る。
詩は近場に生えていた葱を一本抜いた。シエラが尋ねる。
「何をしているのです?」
「んー、あの象鼻水ばっかり垂らしてるから風邪でもひいてるんじゃないかなーって……だからちょっと借りようかなって。知ってる? 葱って、風邪にきくんだって」
「そのことなら私はすでに存じておりますわ。エルフの世界では常識ですもの」
「ふーん……森にも食用葱ってあるの?」
「もちろんですわ。泉のほとりにザクザク生えていましてよ」
適当なことを言ったシエラは己も葱を抜き取り、スリープクラウドを発動した。ネズミハナアルキはばったり倒れる。しかしすぐ起きた。彼女が葱で思い切り首を締めてきたので。暴れまわり葱を千切り逃げ出すところに、ジオラのロッドが唸った。
●
ヴァイスが衝撃波で散らした鼻水が、畑方面に乱れ飛んで来る。射線上にいるのは――ジオラ。
彼女をかばわないわけにはいかない。鬼童は走る。鼻水よりも早く。
●
当たればホームランどころかその場で消し飛ぶ衝撃は、ネズミハナアルキを掠めるに終わる。打線が乱れたのだ。急に鬼童が押してきたので。
攻撃を外したジオラは文句を言おうと振り向いた。鼻水を頭から被っている相手を目の当たりにして、罵倒を引っ込める。
「……あ、ああ、ありがと」
リズがシャドウブリットを、シエラがアースパレットを仕掛ける。2方面からの攻撃を避け切れなかったネズミハナアルキは地面に叩きつけられた。そこをすかさず詩が、ホーリーメイスで横殴り。モカがチェーンウイップで受け天高く弾き飛ばす。落ちてくる。
待ち受けるのは玉緒のパンチ。
「飛べ、ハナモラケ!」
再度宙に吹っ飛び落ちてきたところ、鬼童が止めのドリルナックル。
ネズミハナアルキは跡形もなく消滅した。鼻持って振り回してやろうかと目算していたジオラは、少々がっかりである。
「意外と脆かったなー」
とにかくこれでハナネズミの始末はついた。今度はゾウハナミズの番だ。
頭を切り替えてそちらを見やると、ヴァイスが悲惨なことになっていた。全身くまなく鼻水だらけ。とはいっても士気は衰え知らず。
「奴は俺に狙いを定めている、俺は気にせず奴をやるんだ。頼んだぐぇ」
ハナアルキが彼の体にぎゅむと鼻を乗せた。これはまずい。リズと詩、モカは急いで助けに向かう。
水っ鼻がロックオンしてきた。
盾では防ぎ切れない。彼女らの本能はそう告げていた。脊髄反射で全員鬼童の後ろに滑り込む。
「御免なさい!」
炸裂する鼻水。
犠牲を踏み台にした彼女らは、ゾウハナアルキに飛びかかる。
モカは鼻の先端にチーズを詰め、ぎゅむと握った。ぬるっとして気持ち悪かったがとにかく押さえた。噴出を出来なくさせるために。
残りの2人は相手の後方、逆立ち態勢に即して言うと腹側に回りこんだ。
リズは体を支えている鼻を引っ張り、進行の妨害を試みる。
詩は矮小化した手足を支えにてっぺんまで上る。
それらを見ていた玉緒は、ただ面白そうだという理由から、自分も雑魔に飛びつき上り始めた。
てっぺんにたどり着いた後両手を挙げ、子供らしい高声を上げる。
「ハナモゲラ山、とーはんっ! でっかいの見てるー!」
呼びかけられた鬼童は鎧にくっついた鼻水を拭うのに忙しく、返事している余裕がなかった。
ヴァイスは蠅取り紙にひっかかった蝿のようになりながら、懸命に態勢を立て直そうとしている。
ところでハナアルキは逆立ちしている。上半身すなわち下半身だ。天を向いている後足の間には穴がある。
風邪には葱。安易な連想のもと詩は、そこにずぶりと葱を差し込んだ。押し返され出てきそうになったので、それ以上の力で押し返す。
「駄目だよ、ちゃんと奥まで飲み込まないとー」
あれやこれやの刺激によるものか、ハナアルキはぶるると体を震わせた。握られている鼻が、先端を踏まれた水道ホースのごとく、みるみる大きく膨らんで行く。
不吉な予感を覚えたモカは冷や汗をかいた。
「え、あ、待って待って待ってそんなに膨らます必要とかないと思うんだ、ボクは! ねえ聞いてる!?」
明らかな危機を察したヴァイスが駆け寄ってくる。粘液にまみれつつもがき動く様は、ほとんどゾンビ。
「ここは俺が変わろう。お嬢ちゃんは離れるんだ」
微笑んで彼はゾウハナアルキの鼻を握る。モカはその男気に胸を打たれた。うっすら涙を浮かべ手を放し、全速力で後方に下がる。
「ありがとうございます、ヴァイスさんのことは……一生忘れませんからっ!」
(あれ、もしかして俺死ぬ前提?)
そんなことを思うヴァイスの頭の上を、ジオラの胡椒爆弾が通過する。胡椒爆弾は見事弾けた。
鼻はこの新たな刺激を持ちこたえられなかった。
鬼童は迷わずリズの前に割り込む。シエラは自分とジオラの前にアースウォールを作る。詩と玉尾は雑魔の体の後ろ側に隠れる。
鼻から出たものが一気に噴出し、ぶわっと周囲を汚染した。
モカはヴァイスの奮闘によって直撃を避けたものの、ねばつきに足を取られてしまう。よろけた彼女は、咄嗟にリズの背へしがみついた。
「あわぅ、ちっ、ちょっと引っ張らないでくださ……」
地面がぬるぬるなので頼られる方も踏ん張りがきかない。滑って転んで同じ場所でもだもだする羽目になる。
「うぅぅ……とれない~」
リズは思った。これが象の水浴びというものなんだろうか、と。
女性陣を守ろうと努めたヴァイスはゾンビからスライムへと進化していた。鬼童も似たようなものである。
雑魔はクシャミが止まらない。鼻鉄砲を振り回し、あたりかまわず汚染していく。足用の鼻もクシャミを連発し、そのたび垂直ジャンプを繰り返す。
「もう、しつこい風邪だな~」
詩はホーリーメイスでゾウハナアルキの腹を叩いた。どむんどむんという愉快な音がした。それを見習い玉緒も、ロケットナックルでお尻をボカボカ殴った。こちらもどむんどむん音がした。もしかしてこの雑魔、鼻に力を注ぎ過ぎて体の中身は空っぽなのだろうか。とりあえず玉緒は大ウケである。
「わっ、なんだこれ、おもしろーい!」
表情には出ないが、ハナミズアルキは攻撃に辟易してきたらしい。鼻を持ち上げ体の上に乗っている彼女らを攻撃しようとする。が、なにしろコショウの後遺症が残っている。うまく狙いが定められない。
飛沫がまたしてもあさってに飛び散る。
「あぶないっ!」
シエラは咄嗟に姿勢を低くし、妹の後ろに回った。
飛来してきた鼻水の滴が、べちゃとジオラの頭にかかる。
それを見た彼女の心は、怒りに燃えた。
「よくも私の愛する妹に不埒な真似をっ! これでもくらいなさい!」
青白い霧が沸き上がり不埒な敵を包む。雑魔はあっさり眠りに落ちその場に崩れこんだ。
上に乗っていた詩と玉緒は巻き込まれないよう、鼻水溜まりと化した地面に飛び降りる。
「あっ、靴の裏すごくくっつく!」
「本当だー。おーいヴォイドさん、でっかいの、大丈夫-? 息してるー?」
彼女らは鬼童とヴォイドを救出するため、えっちらおっちら歩いて行く。
ようやっと体勢を立て直していたリズは、脱いだ鼻水だらけのマントを手に雑魔へと歩み寄り、鼻が出ている鼻に被せた。少しでも攻撃の妨害になるかと思って。
結果、またぞろ鼻が膨らんできた。
このパターンはまずい。
先程の悪夢を脳裏に蘇らせた彼女は、急いで場を離れようとしたが、何しろ足元が泥田状態なのでうまくいかない。詩と玉緒の救出活動により鼻水から抜け出したヴァイスが、その危機に立ち向かう。
「まずい! 水の逃げ道をつくらないと!」
手裏剣が放たれた。
鼻に無数の穴が空き圧力のかかった粘液が水芸のごとく四方八方。エルフ姉妹目がけまたもや飛んで来る。
「――おのれ一度ならず二度までも私の妹に汚物をかけるとは、万死に値しますわ!」
シエラはこの段階に至っても汚れひとつないきれいな体。その分を引っ被る形となっていたジオラが、とうとうキレた。
「何度も何度も汚ぇもん撒き散らしてんじゃねえよっ!」
持ち込みバイクに跨りアクセルをふかし、まだ寝こんでいる敵の上を一直線に駆け抜ける暴走エルフ。
一発で起きたゾウハナアルキは、車輪跡のついた体で起き上がった。その鼻目がけ鬼道が、ドリルナックルの一撃を加えた。
粘土細工よろしく鼻がつぶれた。こうなると象ではない。豚だ。豚は食われるだけの存在である。
●
戦いは終わった。歪虚は破れ風船のごとき姿を晒し、消え行く。
ヴォイドは自分の匂いを嗅ぐ。
「ぐ、やはり消えないか……でも、女性陣には殆ど被害がでなかったみたいだし、良かった」
呟く彼の隣では、リズがカチャに聞いている。
「すいません、このあたりに水浴びとか洗濯とかが出来る場所が有りますか?」
「はい。川が近くにありますよ。ご案内しますね」
続いて詩がカチャに言う。
「あ、そうだカチャ。私とシエラ、畑の葱勝手に使っちゃったんだ。ごめんね」
「いいですよいいですよそのくらい全然」
モカはぐってりげんにゃり。
「うぅぅ……面白そうなニオイがしたと思ったのに……。ちょっと勘が外れちゃった……かな」
玉緒は遊びに満足してご機嫌だ。
「あー、面白かった!」
ジオラは川へ行ったらついでにバイクも洗っておこうと思った。
鬼童は鎧を洗っておこうと思った。
とにかく何もかも洗い流したい、初夏の午後。
(それなりに愛らしくもあるのかもしれないけれど……うちの子の方が、百倍、いいえ千倍……)
慈愛に満ちた視線を注がれているのに気づいたジオラ・L・スパーダ(ka2635)は、彼女に問う。
「何だ、姉貴」
「いいえ、何でもないのよジオラ。歪虚と比較する事自体が間違っているわよね」
今に始まったことではないが姉の言動は変である。まあ、目の前にいるこれのほうがよっぽど変であろうが。
「水槽にでも入れておいたら良い見世物だけどな」
リズ・ルーベルク(ka2102)は依頼書に記されていた歪虚の名を思い起こす。
「ハナアルキ……ですか。なんだか変な感じだけど少し可愛い……かも?」
玉緒(ka5214)はとにかく面白がっている。
「うん、キモかわいいよね! あはははは、見れば見るほど変なのー」
これのどこに「かわいい」要素があるのか。さっぱり同意出来ないと思う鬼童(ka5049)に、ヴァイス(ka0364)が話しかける。
「おい……奴の鼻からだらだらと糸を引いて垂れている液体……嫌な予感がするんだが」
「……お前もか。俺も確かに、怪しい気はしている……こっちの動きについてきてるしな……」
ひそひそ語り合う男たちを尻目に天竜寺 詩(ka0396)は、雑魔の顔をまじまじ眺め回す。眠そうなぼんやりした目付き。頭の働きは鈍そう。
「どうしてこんなに鼻がたくさんあるのかなー……そもそも逆立ちして何かいいことあるのかな?」
モカ・プルーム(ka3411)は雑魔に近づき、指を突き付け宣戦布告。
「鼻自慢の雑魔っぽいけど、ボクだって鼻には自信があるんだから!」
その直後だった。象型ハナアルキの水っ鼻が詩の顔面目がけ超高速で打ち出されたのは。
人倫にもとる攻撃を受けたのはしかし、彼女ではない。電光石火割り込んできたヴァイスだ。
「危ない!」
婦女子を守った代償はけして小さくない。鼻水は臭かった。履き古した靴下の匂いがした。振り払おうとしても振り払えず、ねちょおおおと糸を引く。
「く、見た目の攻撃に反してかなりの威力だ。それにこの粘り、直撃したら動けなくなるかもな。皆、奴の鼻の攻撃には注意してくれ!」
彼がそう言ったときにはすでに皆、ハナアルキから距離を取っていた。詩、リズ、玉緒、ジオラは盾を構え、モカは鬼童の後ろに回り込み、シエラに至っては作ったアースウォールの影に隠れている。
「なんか鼻水バッチイし、とっとと倒そう」
ジオラは所持している狛犬を通じ、コンバートソウル。
「色々気になる事はあるけどともかく退治しちゃわないとね。お百姓さんも仕事出来なくて困っちゃうもんね」
詩が拳をぐっと握った。
「早急に無慈悲な鉄槌を下さなくては」
シエラが断じた。
「うん、そうしよう! 鼻水キケンだからね!」
玉緒が元気よく賛同した。
「頑張ってやっつけちゃいましょう」
リズが頷いた。
「じゃ、まずは鼠の雑魔からサクッといこう!」
最後にモカが締めた。誰ひとりとして先に象型へ向かおうとはしない。
鬼童は畦で戦っているヴァイスを観察する。
「くっそおおお! 動きにくいっ!」
ねとねとになりながらも踏み付け攻撃は避けている。相手の動きが遅すぎるのが幸いしているようだ。助けには行かない。男は自分で身を守るべきだ。
(――そして女を守るべきだ、な)
鬼童は決断した。同行している彼女らに鼻水が飛んできたら、自分もまた身をもって防ごう、と。
●
ネズミハナアルキは近くで何が起きていようと素知らぬ様子で、トウモロコシをかじっている。
警戒心が薄いのか。これならすぐ捕まえられる。そう思って玉緒は、ロケットナックルの照準を合わせる。
「さあっ、覚悟しろハナミズキ! ロケットパンチ!」
発射されたナックルはしかし、空を切る。
「あっ、あれ? どこ行ったの?」
周囲を見回す玉緒に、詩が声をかけた。
「玉緒さん、後ろだよ!」
振り向いてみると確かに敵はが後ろに。気を引き締め直し近づこうとしたところ、ネズミハナアルキが。
ヒュンッ
リズは思わず目をこすった。
「い、今、残像出てませんでしたか?」
速い。おそろく速い。ジオラが胡椒爆弾を投げても全く当たらない。考え込んだシエラは、表情を変えず周囲に言った。
「……皆様、どうしたらよいと思いまして? 遠慮せず言ってご覧なさいな」
質問なのに上から目線。それがシエラである。
モカが手を挙げた。
「これはエサで釣るしかないと思いまーす。ボクと詩さんチーズを持ってきてるから、それで釣れるじゃないかな? なんたって鼠だし!」
●
ヴァイスは奮闘していた。次々繰り出される鼻鉄砲を被るまいとルクス・ソリスを振り回し、衝撃波を打って打って打ちまくる。空中に四散した鼻水は重力に引かれ地面に落ち広がった。それをうっかり踏んで足を滑らせるヴァイス。踏み付けようとし己も鼻を滑らせるハナアルキ。戦いは一進一退だ。
●
詩とモカは、持参してきたチーズを撒き始める。
「こっちだよ~」
「おいでおいで」
離れたところから彼女らを伺っていたネズミハナアルキは、近くまで転がってきたものを鼻で取り口に運んだ。おいしいと思ったらしい。近づいてくる。
素早さが折り紙付であるのは先刻承知。メンバーは気取られないよう分散し囲みを作る。
詩は近場に生えていた葱を一本抜いた。シエラが尋ねる。
「何をしているのです?」
「んー、あの象鼻水ばっかり垂らしてるから風邪でもひいてるんじゃないかなーって……だからちょっと借りようかなって。知ってる? 葱って、風邪にきくんだって」
「そのことなら私はすでに存じておりますわ。エルフの世界では常識ですもの」
「ふーん……森にも食用葱ってあるの?」
「もちろんですわ。泉のほとりにザクザク生えていましてよ」
適当なことを言ったシエラは己も葱を抜き取り、スリープクラウドを発動した。ネズミハナアルキはばったり倒れる。しかしすぐ起きた。彼女が葱で思い切り首を締めてきたので。暴れまわり葱を千切り逃げ出すところに、ジオラのロッドが唸った。
●
ヴァイスが衝撃波で散らした鼻水が、畑方面に乱れ飛んで来る。射線上にいるのは――ジオラ。
彼女をかばわないわけにはいかない。鬼童は走る。鼻水よりも早く。
●
当たればホームランどころかその場で消し飛ぶ衝撃は、ネズミハナアルキを掠めるに終わる。打線が乱れたのだ。急に鬼童が押してきたので。
攻撃を外したジオラは文句を言おうと振り向いた。鼻水を頭から被っている相手を目の当たりにして、罵倒を引っ込める。
「……あ、ああ、ありがと」
リズがシャドウブリットを、シエラがアースパレットを仕掛ける。2方面からの攻撃を避け切れなかったネズミハナアルキは地面に叩きつけられた。そこをすかさず詩が、ホーリーメイスで横殴り。モカがチェーンウイップで受け天高く弾き飛ばす。落ちてくる。
待ち受けるのは玉緒のパンチ。
「飛べ、ハナモラケ!」
再度宙に吹っ飛び落ちてきたところ、鬼童が止めのドリルナックル。
ネズミハナアルキは跡形もなく消滅した。鼻持って振り回してやろうかと目算していたジオラは、少々がっかりである。
「意外と脆かったなー」
とにかくこれでハナネズミの始末はついた。今度はゾウハナミズの番だ。
頭を切り替えてそちらを見やると、ヴァイスが悲惨なことになっていた。全身くまなく鼻水だらけ。とはいっても士気は衰え知らず。
「奴は俺に狙いを定めている、俺は気にせず奴をやるんだ。頼んだぐぇ」
ハナアルキが彼の体にぎゅむと鼻を乗せた。これはまずい。リズと詩、モカは急いで助けに向かう。
水っ鼻がロックオンしてきた。
盾では防ぎ切れない。彼女らの本能はそう告げていた。脊髄反射で全員鬼童の後ろに滑り込む。
「御免なさい!」
炸裂する鼻水。
犠牲を踏み台にした彼女らは、ゾウハナアルキに飛びかかる。
モカは鼻の先端にチーズを詰め、ぎゅむと握った。ぬるっとして気持ち悪かったがとにかく押さえた。噴出を出来なくさせるために。
残りの2人は相手の後方、逆立ち態勢に即して言うと腹側に回りこんだ。
リズは体を支えている鼻を引っ張り、進行の妨害を試みる。
詩は矮小化した手足を支えにてっぺんまで上る。
それらを見ていた玉緒は、ただ面白そうだという理由から、自分も雑魔に飛びつき上り始めた。
てっぺんにたどり着いた後両手を挙げ、子供らしい高声を上げる。
「ハナモゲラ山、とーはんっ! でっかいの見てるー!」
呼びかけられた鬼童は鎧にくっついた鼻水を拭うのに忙しく、返事している余裕がなかった。
ヴァイスは蠅取り紙にひっかかった蝿のようになりながら、懸命に態勢を立て直そうとしている。
ところでハナアルキは逆立ちしている。上半身すなわち下半身だ。天を向いている後足の間には穴がある。
風邪には葱。安易な連想のもと詩は、そこにずぶりと葱を差し込んだ。押し返され出てきそうになったので、それ以上の力で押し返す。
「駄目だよ、ちゃんと奥まで飲み込まないとー」
あれやこれやの刺激によるものか、ハナアルキはぶるると体を震わせた。握られている鼻が、先端を踏まれた水道ホースのごとく、みるみる大きく膨らんで行く。
不吉な予感を覚えたモカは冷や汗をかいた。
「え、あ、待って待って待ってそんなに膨らます必要とかないと思うんだ、ボクは! ねえ聞いてる!?」
明らかな危機を察したヴァイスが駆け寄ってくる。粘液にまみれつつもがき動く様は、ほとんどゾンビ。
「ここは俺が変わろう。お嬢ちゃんは離れるんだ」
微笑んで彼はゾウハナアルキの鼻を握る。モカはその男気に胸を打たれた。うっすら涙を浮かべ手を放し、全速力で後方に下がる。
「ありがとうございます、ヴァイスさんのことは……一生忘れませんからっ!」
(あれ、もしかして俺死ぬ前提?)
そんなことを思うヴァイスの頭の上を、ジオラの胡椒爆弾が通過する。胡椒爆弾は見事弾けた。
鼻はこの新たな刺激を持ちこたえられなかった。
鬼童は迷わずリズの前に割り込む。シエラは自分とジオラの前にアースウォールを作る。詩と玉尾は雑魔の体の後ろ側に隠れる。
鼻から出たものが一気に噴出し、ぶわっと周囲を汚染した。
モカはヴァイスの奮闘によって直撃を避けたものの、ねばつきに足を取られてしまう。よろけた彼女は、咄嗟にリズの背へしがみついた。
「あわぅ、ちっ、ちょっと引っ張らないでくださ……」
地面がぬるぬるなので頼られる方も踏ん張りがきかない。滑って転んで同じ場所でもだもだする羽目になる。
「うぅぅ……とれない~」
リズは思った。これが象の水浴びというものなんだろうか、と。
女性陣を守ろうと努めたヴァイスはゾンビからスライムへと進化していた。鬼童も似たようなものである。
雑魔はクシャミが止まらない。鼻鉄砲を振り回し、あたりかまわず汚染していく。足用の鼻もクシャミを連発し、そのたび垂直ジャンプを繰り返す。
「もう、しつこい風邪だな~」
詩はホーリーメイスでゾウハナアルキの腹を叩いた。どむんどむんという愉快な音がした。それを見習い玉緒も、ロケットナックルでお尻をボカボカ殴った。こちらもどむんどむん音がした。もしかしてこの雑魔、鼻に力を注ぎ過ぎて体の中身は空っぽなのだろうか。とりあえず玉緒は大ウケである。
「わっ、なんだこれ、おもしろーい!」
表情には出ないが、ハナミズアルキは攻撃に辟易してきたらしい。鼻を持ち上げ体の上に乗っている彼女らを攻撃しようとする。が、なにしろコショウの後遺症が残っている。うまく狙いが定められない。
飛沫がまたしてもあさってに飛び散る。
「あぶないっ!」
シエラは咄嗟に姿勢を低くし、妹の後ろに回った。
飛来してきた鼻水の滴が、べちゃとジオラの頭にかかる。
それを見た彼女の心は、怒りに燃えた。
「よくも私の愛する妹に不埒な真似をっ! これでもくらいなさい!」
青白い霧が沸き上がり不埒な敵を包む。雑魔はあっさり眠りに落ちその場に崩れこんだ。
上に乗っていた詩と玉緒は巻き込まれないよう、鼻水溜まりと化した地面に飛び降りる。
「あっ、靴の裏すごくくっつく!」
「本当だー。おーいヴォイドさん、でっかいの、大丈夫-? 息してるー?」
彼女らは鬼童とヴォイドを救出するため、えっちらおっちら歩いて行く。
ようやっと体勢を立て直していたリズは、脱いだ鼻水だらけのマントを手に雑魔へと歩み寄り、鼻が出ている鼻に被せた。少しでも攻撃の妨害になるかと思って。
結果、またぞろ鼻が膨らんできた。
このパターンはまずい。
先程の悪夢を脳裏に蘇らせた彼女は、急いで場を離れようとしたが、何しろ足元が泥田状態なのでうまくいかない。詩と玉緒の救出活動により鼻水から抜け出したヴァイスが、その危機に立ち向かう。
「まずい! 水の逃げ道をつくらないと!」
手裏剣が放たれた。
鼻に無数の穴が空き圧力のかかった粘液が水芸のごとく四方八方。エルフ姉妹目がけまたもや飛んで来る。
「――おのれ一度ならず二度までも私の妹に汚物をかけるとは、万死に値しますわ!」
シエラはこの段階に至っても汚れひとつないきれいな体。その分を引っ被る形となっていたジオラが、とうとうキレた。
「何度も何度も汚ぇもん撒き散らしてんじゃねえよっ!」
持ち込みバイクに跨りアクセルをふかし、まだ寝こんでいる敵の上を一直線に駆け抜ける暴走エルフ。
一発で起きたゾウハナアルキは、車輪跡のついた体で起き上がった。その鼻目がけ鬼道が、ドリルナックルの一撃を加えた。
粘土細工よろしく鼻がつぶれた。こうなると象ではない。豚だ。豚は食われるだけの存在である。
●
戦いは終わった。歪虚は破れ風船のごとき姿を晒し、消え行く。
ヴォイドは自分の匂いを嗅ぐ。
「ぐ、やはり消えないか……でも、女性陣には殆ど被害がでなかったみたいだし、良かった」
呟く彼の隣では、リズがカチャに聞いている。
「すいません、このあたりに水浴びとか洗濯とかが出来る場所が有りますか?」
「はい。川が近くにありますよ。ご案内しますね」
続いて詩がカチャに言う。
「あ、そうだカチャ。私とシエラ、畑の葱勝手に使っちゃったんだ。ごめんね」
「いいですよいいですよそのくらい全然」
モカはぐってりげんにゃり。
「うぅぅ……面白そうなニオイがしたと思ったのに……。ちょっと勘が外れちゃった……かな」
玉緒は遊びに満足してご機嫌だ。
「あー、面白かった!」
ジオラは川へ行ったらついでにバイクも洗っておこうと思った。
鬼童は鎧を洗っておこうと思った。
とにかく何もかも洗い流したい、初夏の午後。
依頼結果
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/04 02:23:56 |
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相談卓だよ 天竜寺 詩(ka0396) 人間(リアルブルー)|18才|女性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/07/06 19:01:20 |