ゲスト
(ka0000)
海の魔女が嗤う
マスター:雨龍一

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2014/07/20 22:00
- 完成日
- 2014/07/27 14:18
このシナリオは5日間納期が延長されています。
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
海が荒れているのは気付いていた。
だが、船の運航には支障がないものであり……今夜の運航を止められる予想は誰にもできないものだった。
蒼の世界では機器で観測できるという。――だが、それは気象の予測にしか過ぎない。
魔法があるから。――いや、その危険性について思い当らなかったからでしかない。
精霊に聞けばよい。――そう答える者もいるだろう。
マテリアルの様子がおかしい。――確かに操縦が意図しない状況だったのかもしれない。
が、此処ではどれも意味のなかったことかもしれない。
全ては――歪虚の起こした事象の一つにすぎなかったのだから。
「帆を下ろせ!」
怒声が上がる。
高く競る波が大きく船を飲み込もうと迫ってくる。
先程まで穏やかだった波は、今では嘘のように荒々しくなっていた。
港を出て数時間、目的地まであとすぐといった状況であった。ここからは小さな岩場が多く、進むのにいつも慎重になる。特に、この船は頑丈な客船ではない。
せいぜい小さな積み荷を運ぶ船にすぎない。船員もそんなにいないが、それでも海の男たちだ。
ちょっとのことでは動じない猛者たちがそろっている。
だが、この航海では様子が違う。
空は、いつまでも澄んでいるのだ。これは――嵐ではない。
船員たちに緊張が走った。
次の瞬間、大きな衝撃と共に冷たい水が全身を襲っていた。
そして――目の前に揺れる大きな魚の尾を見ながら、男たちは水底へと吸い込まれていったのだった。
◆
「回収は後だ! とにかく救出するぞ!」
海岸には流れ着いた木片が散らばっていた。
積荷だろう、たっぷりと水分を吸った布が色とりどりと波に乗って漂っている。
細長い木を用いて回収していくも、夥しい数に嫌気がさしてくる。
そして――
「くっ……」
散らばる布の中から見つかる船員たちは、どこかしか部位が欠けて出てきていた。
抜け出た血の量は既に時が遅いことを示していると思われる。
変色した四肢をみて、胸が気持ち悪くなってくる。
「ぐわっ!」
絶叫とともに、絶望的な血渋きが舞う。
そこには――助けたと思った女を隠す布の下から、複数の獣の顔がのぞかせていた。
だが、船の運航には支障がないものであり……今夜の運航を止められる予想は誰にもできないものだった。
蒼の世界では機器で観測できるという。――だが、それは気象の予測にしか過ぎない。
魔法があるから。――いや、その危険性について思い当らなかったからでしかない。
精霊に聞けばよい。――そう答える者もいるだろう。
マテリアルの様子がおかしい。――確かに操縦が意図しない状況だったのかもしれない。
が、此処ではどれも意味のなかったことかもしれない。
全ては――歪虚の起こした事象の一つにすぎなかったのだから。
「帆を下ろせ!」
怒声が上がる。
高く競る波が大きく船を飲み込もうと迫ってくる。
先程まで穏やかだった波は、今では嘘のように荒々しくなっていた。
港を出て数時間、目的地まであとすぐといった状況であった。ここからは小さな岩場が多く、進むのにいつも慎重になる。特に、この船は頑丈な客船ではない。
せいぜい小さな積み荷を運ぶ船にすぎない。船員もそんなにいないが、それでも海の男たちだ。
ちょっとのことでは動じない猛者たちがそろっている。
だが、この航海では様子が違う。
空は、いつまでも澄んでいるのだ。これは――嵐ではない。
船員たちに緊張が走った。
次の瞬間、大きな衝撃と共に冷たい水が全身を襲っていた。
そして――目の前に揺れる大きな魚の尾を見ながら、男たちは水底へと吸い込まれていったのだった。
◆
「回収は後だ! とにかく救出するぞ!」
海岸には流れ着いた木片が散らばっていた。
積荷だろう、たっぷりと水分を吸った布が色とりどりと波に乗って漂っている。
細長い木を用いて回収していくも、夥しい数に嫌気がさしてくる。
そして――
「くっ……」
散らばる布の中から見つかる船員たちは、どこかしか部位が欠けて出てきていた。
抜け出た血の量は既に時が遅いことを示していると思われる。
変色した四肢をみて、胸が気持ち悪くなってくる。
「ぐわっ!」
絶叫とともに、絶望的な血渋きが舞う。
そこには――助けたと思った女を隠す布の下から、複数の獣の顔がのぞかせていた。
リプレイ本文
その姿を表現するとすれば、一見獣に跨った女――そう言えるだろう。
違和感を持つのは、その獣の顔が3つであり、胴は一つ――そして尾は魚の形をしている。
また女の方も、空虚を見つめる硝子の様な瞳と脚が見当たらない――獣と一体化している。
全ての獣の口からは滴る赤黒い液体が見える。女は、光悦とした口元で立ち上がったのだった。
◆
「下がれーー!!」
作業を行っていたハンターたちにシャルラッハ・グルート(ka0508)は声を荒げながら駆けつける。
ハンターたちの手元にある木材は、船の残骸に過ぎない。それでいくら牽制しても事態が変わらないことはすぐに想像できた。
それよりも――
「まだ息のある奴等を探してそいつ等連れて早く引き上げな! そん位の時間稼ぎはしてやっからよ」
すれ違いざまにハンターたちが礼の声を上げる。
後でいい、ただ早く――海の魔女――いや、この目の前の化け物と対峙することに力を注ぐのだった。
白神 霧華(ka0915)は痛みで絶叫を上げる男のそばに駆け寄る。
肘から先の――あるはずの部分が獣の口から出ているのが視界の隅に入った。
素早く先ほどまで回収指定布を巻きつけると、きつく縛り上げる。
「可能な限り時間を稼ぎます。捜索はお任せいたしました」
そして、シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)が牽制をしている中を抜け出し、後ろへと誘導していく。
血の匂いが、より誘惑を呼び寄せるのことを懸念したのだ。
ロクス・カーディナー(ka0162)は気分が悪かった。
周囲にはまだ先程の血の匂いが立ち込めている。
自分の中には確かに常人外の強さが眠っている。そして、それはこれからも強くなり続けていくだろう。
だが――今目の前にしているのは強さというものとは違う、何かであった。
――潰すだけの力があるだけで十分だ。
理不尽な思いをしなくて済む、そんな世界にするための力だけで。ロクスは握る武器に力を込めた。
「血のついてる布を探してください! その周囲にいる可能性が高いです!」
白神の声が通る。行動を考えると、無傷の可能性のほうが低い。僅かでも早期発見に繋がるのは怪我した人物の痕跡を見つけることだと判断した。
その言葉を聞きながら、クリスティン・ガフ(ka1090)と共にハンターたちを促し駆け寄るフラヴィ・ボー(ka0698)は唇を噛み締める。
目の前には重症の――既に意識が無いかもしれない男が横たわっている。ハンターたちが発見した船員たちだ。
クリスティンが持っていたウィスキーをシャツを切り裂き浸した布を着つく巻きつける。止血処置だ。夥しい量の血が流れていたのだろう、既に手遅れかもしれないと血の気の引いた顔が物語っている――しかし、ここで何もしないよりはマシだ。
フラヴィも同じく処置を施していく。ただ――震えそうになる指先を二人はだましていた。
処置が終わった片端からハンターたちに指示を出し抱えるようにと海から離れた所へと運び出す。
シルヴィアのアサルトライフルがハンターたちへと近づこうとする敵の足元に向け発射された。牽制射撃だ。
「これ以上はやらせねえぞ、覚醒! 機導特捜! ガイアァァァドッ!」
鳴神 真吾(ka2626)が叫んだ。それと同時に光が彼を包み始めた。――覚醒だ。遠目にみるとまぁ……駆けつけるヒーローに見えるのかもしれない。
「あれが船を襲ったと見ていいだろうが、あの獣だけでこうも船をバラバラに出来るものなのか? ……嫌な予感がするな」
周囲に転がる船の残骸と目の前の女を見比べてしまう。パッと見、そんなに凶悪には見えない。いや、下の獣たちは獰猛そのものなのだが。
女が顔を上げる。
硝子の瞳に底知れぬ恐怖を抱く。
「きたなっ」
女の動きに変化が見られた。何かがくる――そう感じたロクスは気を引き締める。
思わず一歩下がったとき、魚の形をした尾が揺れ動いた。
風がないのに、水が――射るように撃ちつけてきた。
「くっ、いきなりとは……」
ある可能性は予測していた。が、いきなり遠方にも来ると思っていなかった攻撃に、守りの体制のみで凌ぐ。
後ろに回っていたシャルラッハは被害が大きくなっていた。傷ついた体に、即座にマテリアルを巡らせ回復を図った。
第一にハンターたちを後ろに引き下げれたのは運が良かったとしか言いようがないだろう。
その間に立ちはだかる壁となった鳴神や柊 真司(ka0705)が衝撃を和らげたのもあったのかもしれない。柊は、優しい暖かな光に一瞬包まれた気がしていた。
匂いを追わせようと思っていた犬たちは、先程の攻撃の為か――それともその存在の為か、竦み上がって動ける様子はなかった。
「一匹づつだ! 無理せず数を減らせ」
確実に相手を滅ぼすのなら、むやみに攻撃するよりも堅実に攻撃手段を減らしていくのが一番だ。
今の所、狙いは目の前の獣である。一匹に集中攻撃を行えば、どんなにか大敵でも徐々に変化が見られるだろう。
早々の遠距離攻撃に焦りは生まれるものの、此処は引き締めなければいけない。水撃が届いた位置から、攻撃の範囲はおおよそ見当がついてきた。
それ以上の間合いを置けば、とりあえずは安全といえるだろう。その範囲までハンターたちは下がらせる。
ただし、警戒は怠れない。ハンターたちの行動には白神が付き添っていた。
周りでは白神の予想が功を奏したのか発見できた遭難者をハンターたちが回収し、最後の一人を二人が探し回っていた。
柊の剣は一撃が強烈だった。マテリアルが光の剣となり現れた一筋の剣は、魔法を帯びた一振りだ。
強化されたのは柊自体なのか、それとも――彼を思う祈りの形だったのか。
普段とは違うその一撃は大きな打撃となって獣たちを退けさせる。そしてその退避を防ぐシャルラッハ、ロクスの攻撃が続けざまに入り、その隙を縫ってシルヴィアの弾丸が襲った。
だが、獣たちも負けてはいない。
一瞬怯んだと見せかけ、次には猛攻に出てくるのだ。その姿は、静かに怒りを振りまいているようにも見える。
女が右腕を薙ぎ払うと、獰猛な獣が、次々と襲いかかってくる。
それは広範囲に及び、前方にいた者たち全員に襲いかかってきた。
次々と噛み付いてくる牙を除けようとしても、狙いはどうやら腕や足などであり、防御が薄いところを狙ってきているように見える。
食いつきやすさもあるのだろう。ロクスはシールドで受け流しつつ、剣を突き付けていく。
鳴神の攻撃はまだ不慣れな様子ではあった。しかし、それでも攻撃に対しての勢いは他と引けを取らない。
彼の中の蒼の時代のヒーローへの思いが明確な形となり攻撃へとつながっていっているようだ。
一撃も、威力は他のものと比べると少ないもののダメージの蓄積は大きなものへと繋がっていく。
身動きがないかと思ったら、次々と獣が襲いかかってきた。突撃だ。狙われたのは柊だった。
一気に三匹が襲ってきたのを、体中に回していたマテリアルが瞬時に衝撃を和らげていく。
元々の防御力の高さと盾もあり、思ったように傷は受け付けなかったようだ。
その反撃にと、剣で切り付けていく。既に獣の首は3つから2つへと減り、今の攻撃で2つ目の首もやや苦しげな様子を見せていた。
獣たちの動きがないと思うと、女が大きく口を開けた。
高すぎて聞き取れない声が――耳の奥へと響き渡ってくる。超音波だ。
盾でも防ぎきれない攻撃に、思わず怯んでしまう。どうやら魔法攻撃の一種のようだ。
シャルラッハは後ろから強打で切り付ける。どうやら魔法系よりも効きやすいのだろうか、先程から引けを取らぬ傷をつけていっていた。
そして、とうとう残りの首が一つへとなった。
少し後ずさりながら、どうやら様子を見ているらしい。
既に獣の頭は一つ。しかし、攻撃を止めようとはしない。
痛みを伴いつつも、攻撃はより勢いを増していた。静かな怒り――それが、この獣たち――憤怒に塗り潰された歪虚たちの特徴がより強調されていた。
◆
その頃、ようやく最後の一人を見つけたフラヴィとクリスティンは気を失っている船員をハンターたちの元へと運んでいく。
さすがに気を失っている大の男一人を運ぶには、二人がかりでも女性にはきついところだ。
既に見つけた者たちも白神の護衛の元、ハンターたちが手当の続きを行っていた。先ほど渡していた酒やシャツはどうやらそれに利用されているようだ。
また、腕を失くした男も口に煙草を咥えたまま今は少しばかり意識を失っているようだ。滲んでくる血が痛々しさを増している。
運び終わると、護衛の白神とクリスティンを残しフラヴィは戦う仲間たちの元へと走っていった。
合流してきた救護班と入れ替わるようにロクスは後ろへと下がる。選手交代だ。
フラヴィはやや後ろに下がりつつ、敵の攻撃が来ない位置を保ちつつ機導砲を構える。
既に獣の首も一つだ……これから警戒するのは、遠距離攻撃が主体となるだろう。
先程とは違い、後ろへの余裕もできた所だ。作戦を開始するには、いい機会だ。
海に戻ることを警戒していた状況から、今度は水の無い――陸地へと誘導するように攻撃形態を変えていく。
先程まで正面に回っていたロクスが後方へ下がると同時に、今度は敵の後ろ側に回り込むように移動していったのだ。
最初から後ろ側に回れるような位置へとついていたシャルラッハも同時に後ろ側へと回りだす。
その二人を補助するように、向けられそうになる視線をシルヴィアが射撃して意識を逸らしていた。 最初とは違い首は2つのみ。目は4つだ。
敵の死角を意識しつつ、誘導作戦が始まっていった。
既に救助は終了した。本番は――これからである。
柊の剣が砲撃へと変化する中、鳴神も続くように剣を砲撃へと持ち替えていた。
残る獣の首に向かって撃ち込んでいく。
シルヴィアの銃口はいつしか女の方へと向けられ、後ろから切り付けていくロクスとシャルラッハへの攻撃を補助する動きへと繋がっていた。
フラヴィもそれを助けるように上手く機動剣で切り付けていく。
女の攻撃は水撃と超音波のようで、獣の数が少なくなった今、前方に対しての一斉攻撃もなくなっている。
そして、今また獣の首が落とされた。
怒り狂った様子で腕を振り回すも、その女もまた――シャルラッハの全力を乗せた刃を受けて動きを止めたのだった。
◆
砂浜の上には、まだ数多くの布や木片が散乱していた。
「どうせ帰っても宿は閑古鳥だ、付き合ってやるよ」
戦いの疲れを感じさせぬよう軽い口調でロクスはいい、それを一つ一つ拾っては一か所に集めていく。フラヴィも習う様にして続いた。
先ほど、怪我人を運びに行った荷車が白神と共に戻ってきた。
重傷者を先行して運んだが――彼らの時間は残り少ないのかもしれない。
でも、僅かな期待を持って運ぶと言ったハンターたちが、残骸を片づけるように持ってきた荷車で近くの人里まで連れて行ったのだ。
何が出るかわからないと、白神も護衛についていった。
戦いの初めに施した応急処置がどれほど役に立ったのかはわからないが、何もしないよりは彼らの時間を長くしているだろう。
一緒に持たせた酒や水も、痛みの緩和や紛らわすのに役に立っているかもしれない。
幸いだったのは、発見された殆どの者が気を失っていた事だった。
苦しみの声は少ないほうがいい……。
「いくら新しい力を手に入れたとしても、やはり守れない物はあるのですね」
シルヴィアが木片を運びつつ呟く。先ほど運ばれていく者たちに、ヘルメットを脱いで敬礼を捧げた。
意識の無いものの中には、もう目覚めることの無いものも含まれていた。
「強くなりましょう。これから救える何かのために」
この経験を生かせれる様にと、自分の胸へと誓いを立てる。
煙のように女の残骸が消えたのも、既に先刻のこと。
早々に当初の目的だった荷物を一通り纏め上げたのは何とも言えない気まずさを隠す一つの手段だったのかもしれない。
「蒼き故郷を、この紅き大地を、貴様らヴォイドの好きにはっ!」
鳴神もまた、思いを募らせる。
シャルラッハは煙草を咥えた。
海は、先程と一転して穏やかだ。寄せては引く波は、先程までの喧騒を静かに片づけていくようでもある。
「……ちっ、湿気て吸えねえか」
それは、まるで今の心の内を現しているようだった。
違和感を持つのは、その獣の顔が3つであり、胴は一つ――そして尾は魚の形をしている。
また女の方も、空虚を見つめる硝子の様な瞳と脚が見当たらない――獣と一体化している。
全ての獣の口からは滴る赤黒い液体が見える。女は、光悦とした口元で立ち上がったのだった。
◆
「下がれーー!!」
作業を行っていたハンターたちにシャルラッハ・グルート(ka0508)は声を荒げながら駆けつける。
ハンターたちの手元にある木材は、船の残骸に過ぎない。それでいくら牽制しても事態が変わらないことはすぐに想像できた。
それよりも――
「まだ息のある奴等を探してそいつ等連れて早く引き上げな! そん位の時間稼ぎはしてやっからよ」
すれ違いざまにハンターたちが礼の声を上げる。
後でいい、ただ早く――海の魔女――いや、この目の前の化け物と対峙することに力を注ぐのだった。
白神 霧華(ka0915)は痛みで絶叫を上げる男のそばに駆け寄る。
肘から先の――あるはずの部分が獣の口から出ているのが視界の隅に入った。
素早く先ほどまで回収指定布を巻きつけると、きつく縛り上げる。
「可能な限り時間を稼ぎます。捜索はお任せいたしました」
そして、シルヴィア=ライゼンシュタイン(ka0338)が牽制をしている中を抜け出し、後ろへと誘導していく。
血の匂いが、より誘惑を呼び寄せるのことを懸念したのだ。
ロクス・カーディナー(ka0162)は気分が悪かった。
周囲にはまだ先程の血の匂いが立ち込めている。
自分の中には確かに常人外の強さが眠っている。そして、それはこれからも強くなり続けていくだろう。
だが――今目の前にしているのは強さというものとは違う、何かであった。
――潰すだけの力があるだけで十分だ。
理不尽な思いをしなくて済む、そんな世界にするための力だけで。ロクスは握る武器に力を込めた。
「血のついてる布を探してください! その周囲にいる可能性が高いです!」
白神の声が通る。行動を考えると、無傷の可能性のほうが低い。僅かでも早期発見に繋がるのは怪我した人物の痕跡を見つけることだと判断した。
その言葉を聞きながら、クリスティン・ガフ(ka1090)と共にハンターたちを促し駆け寄るフラヴィ・ボー(ka0698)は唇を噛み締める。
目の前には重症の――既に意識が無いかもしれない男が横たわっている。ハンターたちが発見した船員たちだ。
クリスティンが持っていたウィスキーをシャツを切り裂き浸した布を着つく巻きつける。止血処置だ。夥しい量の血が流れていたのだろう、既に手遅れかもしれないと血の気の引いた顔が物語っている――しかし、ここで何もしないよりはマシだ。
フラヴィも同じく処置を施していく。ただ――震えそうになる指先を二人はだましていた。
処置が終わった片端からハンターたちに指示を出し抱えるようにと海から離れた所へと運び出す。
シルヴィアのアサルトライフルがハンターたちへと近づこうとする敵の足元に向け発射された。牽制射撃だ。
「これ以上はやらせねえぞ、覚醒! 機導特捜! ガイアァァァドッ!」
鳴神 真吾(ka2626)が叫んだ。それと同時に光が彼を包み始めた。――覚醒だ。遠目にみるとまぁ……駆けつけるヒーローに見えるのかもしれない。
「あれが船を襲ったと見ていいだろうが、あの獣だけでこうも船をバラバラに出来るものなのか? ……嫌な予感がするな」
周囲に転がる船の残骸と目の前の女を見比べてしまう。パッと見、そんなに凶悪には見えない。いや、下の獣たちは獰猛そのものなのだが。
女が顔を上げる。
硝子の瞳に底知れぬ恐怖を抱く。
「きたなっ」
女の動きに変化が見られた。何かがくる――そう感じたロクスは気を引き締める。
思わず一歩下がったとき、魚の形をした尾が揺れ動いた。
風がないのに、水が――射るように撃ちつけてきた。
「くっ、いきなりとは……」
ある可能性は予測していた。が、いきなり遠方にも来ると思っていなかった攻撃に、守りの体制のみで凌ぐ。
後ろに回っていたシャルラッハは被害が大きくなっていた。傷ついた体に、即座にマテリアルを巡らせ回復を図った。
第一にハンターたちを後ろに引き下げれたのは運が良かったとしか言いようがないだろう。
その間に立ちはだかる壁となった鳴神や柊 真司(ka0705)が衝撃を和らげたのもあったのかもしれない。柊は、優しい暖かな光に一瞬包まれた気がしていた。
匂いを追わせようと思っていた犬たちは、先程の攻撃の為か――それともその存在の為か、竦み上がって動ける様子はなかった。
「一匹づつだ! 無理せず数を減らせ」
確実に相手を滅ぼすのなら、むやみに攻撃するよりも堅実に攻撃手段を減らしていくのが一番だ。
今の所、狙いは目の前の獣である。一匹に集中攻撃を行えば、どんなにか大敵でも徐々に変化が見られるだろう。
早々の遠距離攻撃に焦りは生まれるものの、此処は引き締めなければいけない。水撃が届いた位置から、攻撃の範囲はおおよそ見当がついてきた。
それ以上の間合いを置けば、とりあえずは安全といえるだろう。その範囲までハンターたちは下がらせる。
ただし、警戒は怠れない。ハンターたちの行動には白神が付き添っていた。
周りでは白神の予想が功を奏したのか発見できた遭難者をハンターたちが回収し、最後の一人を二人が探し回っていた。
柊の剣は一撃が強烈だった。マテリアルが光の剣となり現れた一筋の剣は、魔法を帯びた一振りだ。
強化されたのは柊自体なのか、それとも――彼を思う祈りの形だったのか。
普段とは違うその一撃は大きな打撃となって獣たちを退けさせる。そしてその退避を防ぐシャルラッハ、ロクスの攻撃が続けざまに入り、その隙を縫ってシルヴィアの弾丸が襲った。
だが、獣たちも負けてはいない。
一瞬怯んだと見せかけ、次には猛攻に出てくるのだ。その姿は、静かに怒りを振りまいているようにも見える。
女が右腕を薙ぎ払うと、獰猛な獣が、次々と襲いかかってくる。
それは広範囲に及び、前方にいた者たち全員に襲いかかってきた。
次々と噛み付いてくる牙を除けようとしても、狙いはどうやら腕や足などであり、防御が薄いところを狙ってきているように見える。
食いつきやすさもあるのだろう。ロクスはシールドで受け流しつつ、剣を突き付けていく。
鳴神の攻撃はまだ不慣れな様子ではあった。しかし、それでも攻撃に対しての勢いは他と引けを取らない。
彼の中の蒼の時代のヒーローへの思いが明確な形となり攻撃へとつながっていっているようだ。
一撃も、威力は他のものと比べると少ないもののダメージの蓄積は大きなものへと繋がっていく。
身動きがないかと思ったら、次々と獣が襲いかかってきた。突撃だ。狙われたのは柊だった。
一気に三匹が襲ってきたのを、体中に回していたマテリアルが瞬時に衝撃を和らげていく。
元々の防御力の高さと盾もあり、思ったように傷は受け付けなかったようだ。
その反撃にと、剣で切り付けていく。既に獣の首は3つから2つへと減り、今の攻撃で2つ目の首もやや苦しげな様子を見せていた。
獣たちの動きがないと思うと、女が大きく口を開けた。
高すぎて聞き取れない声が――耳の奥へと響き渡ってくる。超音波だ。
盾でも防ぎきれない攻撃に、思わず怯んでしまう。どうやら魔法攻撃の一種のようだ。
シャルラッハは後ろから強打で切り付ける。どうやら魔法系よりも効きやすいのだろうか、先程から引けを取らぬ傷をつけていっていた。
そして、とうとう残りの首が一つへとなった。
少し後ずさりながら、どうやら様子を見ているらしい。
既に獣の頭は一つ。しかし、攻撃を止めようとはしない。
痛みを伴いつつも、攻撃はより勢いを増していた。静かな怒り――それが、この獣たち――憤怒に塗り潰された歪虚たちの特徴がより強調されていた。
◆
その頃、ようやく最後の一人を見つけたフラヴィとクリスティンは気を失っている船員をハンターたちの元へと運んでいく。
さすがに気を失っている大の男一人を運ぶには、二人がかりでも女性にはきついところだ。
既に見つけた者たちも白神の護衛の元、ハンターたちが手当の続きを行っていた。先ほど渡していた酒やシャツはどうやらそれに利用されているようだ。
また、腕を失くした男も口に煙草を咥えたまま今は少しばかり意識を失っているようだ。滲んでくる血が痛々しさを増している。
運び終わると、護衛の白神とクリスティンを残しフラヴィは戦う仲間たちの元へと走っていった。
合流してきた救護班と入れ替わるようにロクスは後ろへと下がる。選手交代だ。
フラヴィはやや後ろに下がりつつ、敵の攻撃が来ない位置を保ちつつ機導砲を構える。
既に獣の首も一つだ……これから警戒するのは、遠距離攻撃が主体となるだろう。
先程とは違い、後ろへの余裕もできた所だ。作戦を開始するには、いい機会だ。
海に戻ることを警戒していた状況から、今度は水の無い――陸地へと誘導するように攻撃形態を変えていく。
先程まで正面に回っていたロクスが後方へ下がると同時に、今度は敵の後ろ側に回り込むように移動していったのだ。
最初から後ろ側に回れるような位置へとついていたシャルラッハも同時に後ろ側へと回りだす。
その二人を補助するように、向けられそうになる視線をシルヴィアが射撃して意識を逸らしていた。 最初とは違い首は2つのみ。目は4つだ。
敵の死角を意識しつつ、誘導作戦が始まっていった。
既に救助は終了した。本番は――これからである。
柊の剣が砲撃へと変化する中、鳴神も続くように剣を砲撃へと持ち替えていた。
残る獣の首に向かって撃ち込んでいく。
シルヴィアの銃口はいつしか女の方へと向けられ、後ろから切り付けていくロクスとシャルラッハへの攻撃を補助する動きへと繋がっていた。
フラヴィもそれを助けるように上手く機動剣で切り付けていく。
女の攻撃は水撃と超音波のようで、獣の数が少なくなった今、前方に対しての一斉攻撃もなくなっている。
そして、今また獣の首が落とされた。
怒り狂った様子で腕を振り回すも、その女もまた――シャルラッハの全力を乗せた刃を受けて動きを止めたのだった。
◆
砂浜の上には、まだ数多くの布や木片が散乱していた。
「どうせ帰っても宿は閑古鳥だ、付き合ってやるよ」
戦いの疲れを感じさせぬよう軽い口調でロクスはいい、それを一つ一つ拾っては一か所に集めていく。フラヴィも習う様にして続いた。
先ほど、怪我人を運びに行った荷車が白神と共に戻ってきた。
重傷者を先行して運んだが――彼らの時間は残り少ないのかもしれない。
でも、僅かな期待を持って運ぶと言ったハンターたちが、残骸を片づけるように持ってきた荷車で近くの人里まで連れて行ったのだ。
何が出るかわからないと、白神も護衛についていった。
戦いの初めに施した応急処置がどれほど役に立ったのかはわからないが、何もしないよりは彼らの時間を長くしているだろう。
一緒に持たせた酒や水も、痛みの緩和や紛らわすのに役に立っているかもしれない。
幸いだったのは、発見された殆どの者が気を失っていた事だった。
苦しみの声は少ないほうがいい……。
「いくら新しい力を手に入れたとしても、やはり守れない物はあるのですね」
シルヴィアが木片を運びつつ呟く。先ほど運ばれていく者たちに、ヘルメットを脱いで敬礼を捧げた。
意識の無いものの中には、もう目覚めることの無いものも含まれていた。
「強くなりましょう。これから救える何かのために」
この経験を生かせれる様にと、自分の胸へと誓いを立てる。
煙のように女の残骸が消えたのも、既に先刻のこと。
早々に当初の目的だった荷物を一通り纏め上げたのは何とも言えない気まずさを隠す一つの手段だったのかもしれない。
「蒼き故郷を、この紅き大地を、貴様らヴォイドの好きにはっ!」
鳴神もまた、思いを募らせる。
シャルラッハは煙草を咥えた。
海は、先程と一転して穏やかだ。寄せては引く波は、先程までの喧騒を静かに片づけていくようでもある。
「……ちっ、湿気て吸えねえか」
それは、まるで今の心の内を現しているようだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
相談用スレッド 鳴神 真吾(ka2626) 人間(リアルブルー)|22才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2014/07/20 21:31:58 |
|
![]() |
プレ板(確認用 クリスティン・ガフ(ka1090) 人間(クリムゾンウェスト)|19才|女性|闘狩人(エンフォーサー) |
最終発言 2014/07/20 19:59:59 |
|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/15 17:30:41 |