ゲスト
(ka0000)
牧羊犬と偽りの犬
マスター:馬車猪

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 3日
- 締切
- 2014/06/16 12:00
- 完成日
- 2014/06/20 17:36
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
牧畜犬が吼え猛る。
羊達は驚き怯え、数頭が転びかけてしまう。
「どうしたんだ」
牧童が目を剥く。
相棒は羊に舐められるほど優しいたちでで、吼えることなんて滅多にない。
牧畜犬は羊達を追い払うと羊の首を一噛みで食いちぎれそうな顎で牧童のズボンを噛んで引っ張る。
その瞳は、強すぎる恐怖で濁っていた。
「え?」
わふん。
相棒とは明らかに違う鳴き声が聞こえた。
牧童より倍は重い相棒が分厚い筋肉を震わせる。
「野犬?」
西から3頭の犬が近づいてくるのに気付く。
相棒の喉奥から悲鳴が漏れる。
3頭の灰色犬の形が不自然に変わっていく。生気のない灰色の野犬から、犬の要素を残した。のっぺりした金属質の人型へ。
「ヴォ……」
歪虚だ。
頭が現実を認識するより早く足が動く。
180度反転。前傾姿勢から全力疾走。
「ヴォイドだー! やだー!」
ヴォイドの腕が振り下ろされ、小型砲弾の着弾じみた爆発と衝撃が発生する。
幸いなことに効果範囲は広くなく、人型の速度も速くない。
きゃうんきゃうんと哀れっぽい泣き声の相棒と共に、牧童は走って半日の距離にあるハンターソサエティ支部を目指すのだった。
●ハンターズソサエティ本部
少女型というには少し幼いパルムが、宙に浮かんだ灯りを追って元気に駆けている。
リアルブルー出身者なら灯りではなく3D投影ディスプレイと表現したかもしれない。
灯りに意識を集中する。
ディスプレイは複数に別れ、そのうちの1つがあなたの目の前に飛来し停止した。
内容は草原を現す地図と3つの雑魔を現すシンボルだ。
最初犬の形で動いていたシンボルが人型に変形しボクシングっぽく腕を突き出す。
拳が光っているので多分魔法攻撃だろう。デフォルメがきついのでちょっと自信が無いけれども。
地図の端に視線を向ける。
王国西部を現す地図に切り替わった……のはいいのだが敵の所在を示すマークが大きすぎる。直径20キロメートルはあるはずだ。
先程のパルムが別のディスプレイを追いかけている。
ディスプレイは先程と同じように複数に別れ、そのうちの1つがあなたの手元に到着する。
映っているのは精根尽き果てた牧童1人とドーベルマンっぽい牧童犬1頭。
彼等に案内してもらってヴォイドを捜索後撃破、または彼等から情報を引き出しハンターのみでヴォイドを撃破しろということらしかった。
パルムはかけっこに飽きたらしく、珍しい物を求めて本部の外へ飛び出していた。
羊達は驚き怯え、数頭が転びかけてしまう。
「どうしたんだ」
牧童が目を剥く。
相棒は羊に舐められるほど優しいたちでで、吼えることなんて滅多にない。
牧畜犬は羊達を追い払うと羊の首を一噛みで食いちぎれそうな顎で牧童のズボンを噛んで引っ張る。
その瞳は、強すぎる恐怖で濁っていた。
「え?」
わふん。
相棒とは明らかに違う鳴き声が聞こえた。
牧童より倍は重い相棒が分厚い筋肉を震わせる。
「野犬?」
西から3頭の犬が近づいてくるのに気付く。
相棒の喉奥から悲鳴が漏れる。
3頭の灰色犬の形が不自然に変わっていく。生気のない灰色の野犬から、犬の要素を残した。のっぺりした金属質の人型へ。
「ヴォ……」
歪虚だ。
頭が現実を認識するより早く足が動く。
180度反転。前傾姿勢から全力疾走。
「ヴォイドだー! やだー!」
ヴォイドの腕が振り下ろされ、小型砲弾の着弾じみた爆発と衝撃が発生する。
幸いなことに効果範囲は広くなく、人型の速度も速くない。
きゃうんきゃうんと哀れっぽい泣き声の相棒と共に、牧童は走って半日の距離にあるハンターソサエティ支部を目指すのだった。
●ハンターズソサエティ本部
少女型というには少し幼いパルムが、宙に浮かんだ灯りを追って元気に駆けている。
リアルブルー出身者なら灯りではなく3D投影ディスプレイと表現したかもしれない。
灯りに意識を集中する。
ディスプレイは複数に別れ、そのうちの1つがあなたの目の前に飛来し停止した。
内容は草原を現す地図と3つの雑魔を現すシンボルだ。
最初犬の形で動いていたシンボルが人型に変形しボクシングっぽく腕を突き出す。
拳が光っているので多分魔法攻撃だろう。デフォルメがきついのでちょっと自信が無いけれども。
地図の端に視線を向ける。
王国西部を現す地図に切り替わった……のはいいのだが敵の所在を示すマークが大きすぎる。直径20キロメートルはあるはずだ。
先程のパルムが別のディスプレイを追いかけている。
ディスプレイは先程と同じように複数に別れ、そのうちの1つがあなたの手元に到着する。
映っているのは精根尽き果てた牧童1人とドーベルマンっぽい牧童犬1頭。
彼等に案内してもらってヴォイドを捜索後撃破、または彼等から情報を引き出しハンターのみでヴォイドを撃破しろということらしかった。
パルムはかけっこに飽きたらしく、珍しい物を求めて本部の外へ飛び出していた。
リプレイ本文
●へたれ犬と牧童
「テメェ、ポチってのか」
ロクス・カーディナー(ka0162)が牧童犬を撫でる。
武装した兵士を単独で食い殺せそうな顎、筋、骨格の牧童犬が、機嫌良さそうに尻尾を振って愛想を振りまいた。
そんな飼い犬とは対照的に、牧童は見慣れぬハンター達に怯えに近い感情を抱いている。
王都出身者すらほとんど見たことがないのに、他国人どころか別の世界の人間にまで近づかれ、緊張で酷い脂汗を流していた。
自身の名だけでなく飼い犬の名まで聞いて来たロクスがいなければ、彼の緊張はもっと酷くなりハンター達の情報収集は数時間必要だったかもしれない。
「大丈夫、ボク達がやっつけてあげるよ」
弓月 幸子(ka1749)が胸を張る。
清潔で、あか抜けていて、それでいて見下す気配のない幸子を目にした彼の瞳に淡い感情が浮かんだ。
「どの辺りで襲われたのか教えてくれるかな」
相手の感情を刺激しないタイミングと強さでヴァンシュトール・H・R(ka0169)が声をかける。
戸惑う牧童に愛嬌のある笑みを向けて、分かり易く地形が記入された地図を手渡した。
「どうだったかな」
自信のない声がもれる。
多少の読み書きは出来るが地図の読みに自信はないらしい。
「ポチ、分かる?」
わふんと名残惜しげにロクスから離れ、堅い肉球で地図の一点を突く。
「うん、はい、多分ここです」
「ありがとう。逃げ遅れた羊はいたかい?」
メモを手にヴァンシュトールが訊く。
「僕の担当では被害無かったです。でも」
彼とポチほどうまく逃げることが出来ず、羊を何頭も失った羊飼いもいるらしい。
「そっか。できれば取り返すつもりだよ」
多分無理だということは牧童も分かっている。それでも、お願いしますと深々と頭を下げるのだった。
●8対3
「いた」
灰色の犬型の何かを視認した瞬間、ソフィ・アナセン(ka0556)は双眼鏡を下ろして頑丈なケースに片付けた。
リアルブルーとは違って双眼鏡は高級品だ。壊せばいくら請求されるか分からない。
大型の鈴っぽい代物を取り出し思い切り振る。鈍くのどかな金属音が草原に響き、数十秒経ってようやく雑魔の進路がハンター達に向いた。
「耳で気づいたのか聴覚以外で気づいたのか分からないですね」
肩をすくめるソフィの横を通ってギュンター・ベルンシュタイン(ka0339)が進み出る。
身につけているのはローブにバックラーにバスタードソード。クリムゾンウェストでは珍しくもない、前衛ハンターの格好だ。
「今回は盾となれるのがオレたちだけだ、気を抜くなよ」
視線を雑魔に固定したまま、ロクスと七咲 姫乃(ka0411)に声をかける。
ロクスは普段とかわらぬ平然とした態度で軽く手を振って、姫乃は微かな緊張を実力に裏打ちされた笑みで隠し軽くうなずいた。
「争いの元はいつも貴様らだ。だからここで死んでもらう。世に平穏の」
冗談じみた加速で雑魔が近づく。
3体とも人型ではなく犬型。人間よりはるかに速く駆け喉笛をかみ切るはずだった。
「あらんことを」
言い終えたときには、ギュンターはトップスピードで自分から雑魔に近づいている。
バックラーとそれを支える自分の体を雑魔の進路上に置き、軽装の仲間の盾になる。
牙と盾がぶつかり耳障りな音がうまれ、衝突の衝撃がギュンターの腕を襲った。
「オレを越えていけるものなら、行ってみな!」
わずかな重心移動で無理な体勢を攻撃可能な体勢へ変更、大重量の刃を振り下ろす。
灰色の毛と腐れた体液が弾け、緑の大地を汚した。
鋭く息を吐いて姫乃が加速。
ギュンターの斜め後ろから首筋を狙った犬型雑魔にダガーをねじ込んだ。
「気は抜いてないぞ。そもそも軽装備の回避型だから気を抜いたら落ちるからな」
ダガーを引き抜くと同時に思い切りよく後退する。
ただの犬なら痛みに泣きわめくが相手は雑魔とはいえヴォイドだ。
うめきもせずに高速で反転、目の前の1体を防ぐのに手一杯なギュンターを無視して姫乃を狙う。
「ちっ」
姫乃が感じる時間の流れが遅くなる。
動物霊から借り受けた力となにより姫乃自身の集中力が、雑魔の牙を寄せ付けない反応と速度をもたらす。
しかし姫乃もこれがハンターとしての初陣だ。
「俺でもわかるぞ、お前攻撃が直線的過ぎるだろ」
初撃はかわして二撃目も直撃は避けた。が、受けに向いていないダガーでは密集した牙によるかみつきを防ぎきれない。
噛みつかれてすぐにふりほどきはしたが、トレーニングウェアが赤に染まってすぐに黒くなる。
柊 恭也(ka0711)は決して慌てず、3体目と1体目の雑魔が近づいてこないことを確認してから引き金を引く。
物理的な形を持つ銃弾ではなく、マテリアル由来のエネルギーが銃口から飛び出す。
2メートル近い鍛え抜かれた体躯を持つギュンターでもせいぜい2センチ程度の深さまで切れなかったのに、恭也の一撃は雑魔の毛と皮と筋を貫き骨まで届いた。
「カス当たりか」
直撃直前で受けられた感触に、恭也が小さく吐き捨てる。
同じハンターの攻撃でもスキルの有無で大きな差が出ていた。
「おい七咲生きてるかっ」
姫乃の体は淡い光に包まれている。
血塗れのウェアの下では急速かつ安全に治療が進行中だ。リアルブルーの医者が診れば憤死しかねない、ハンターとしての基本的な能力だった。
「いやいやいや! 死んでないっ、痛くないっ 痛くないしぃ!?」
姫乃は雑魔を抑えるため前に出ようとするが一瞬だけ送れる。
重傷の雑魔が姫乃に比べれば装甲薄の恭也に向かって飛びかかろうとし、しかし跳躍距離が足らずに恭也の十歩ほど手前に落下した。
先程使ったのは機導砲。
有効射程に関しては恭也のリアルブルー製拳銃を上回る攻撃術だ。
「そんじゃさっさと死にくされってな!」
エネルギーの束が雑魔の前足を焼き切り。
「現代っ子なめんなよ? 結構ダンスとかで体力あんだぜ」
ダガーが首筋を切り裂く。
悲鳴をあげることすらできず、犬型雑魔が倒れた。
●8対2
「回るぞ!」
レンコン型弾倉の回転は正確に60度。
スーズリー(ka1687)はその精度のすさまじさに深い満足を感じ、強くも弱くもなく最適な力で引き金を引く。
第一射と同じく強烈な衝撃。
ドワーフの腕力に勝るかもしれない力を、スーズリーは気合と根性と鍛えた体で押さえつける。
銃弾は適度に回転しつつギュンターが抑える雑魔に着弾し、毛、皮、肉、骨を貫通し肩から宙へ飛び出した。
「リアルブルーの技術は面白いな!」
60度回転。
リボルバーにマテリアルを一時的に付与し射程を延長。
発射の瞬間に付与を強めることで銃撃の威力と精度を強くする。
「やはり今の時代、斧は時代遅れだ!」
うかれた言葉とは逆に銃を持つ腕と支える体が精妙に動く。
銃弾はギュンターの脇を通り過ぎ、動きの鈍った雑魔の腹に弾痕を刻む。
「ははっ」
心底楽しげに笑うスーズリーの真横で、ソフィが態度には出さずに動揺していた。
スーズリーと雑魔の距離は20メートルだ。厳しい訓練を積んだ兵士でも外しかねない距離なのに、拳銃に触れたばかりのスーズリーは全弾当てている。
動揺の原因はそれだけではない。
武器を除けば皮または布装備にもかかわらずギュンターが猛獣以上の力を持つヴォイドを押さえ込んでいる。しかもかすり傷以上のダメージを受けずにだ。
個人がこれほどの力を持てるならリアルブルーと異なる社会がうまれるのは当然だろう。
そんなことを頭の片隅で考えながら術の発動準備を終える。
「発射します」
ギュンターが犬の突撃をかわすことでソフィの射撃のための空間を確保する。
犬型雑魔がたたらを踏んで体勢をわずかに崩し、ソフィに集まる力を呆然とみつめる。
距離はスーズリーよりさらに離れて20メートル強。ソフィの魔力矢を止める方法はなかった。
光る矢に見える力が雑魔との距離を0にする。
エネルギーが全て破壊の力に変換され、雑魔の頭蓋を中身ごと砕いて破裂させた。
「伸びしろ有りでこの威力……」
自分が得た力を恐怖はしないが呆れとそれを圧倒する知的好奇心がわき起こる。
とはいえまだ戦闘中だ。
ソフィは油断無く次の矢を準備しながら、ギュンターに護衛されつつ残る雑魔を目指すのだった。
●8対1
「三下同士ィ、仲良くしようぜェ!」
卑下など一欠片も含まれていない。
ロクスは前方から駆け寄る犬型を避けもせずに刃で以て出迎える。
ロングソードと牙がかみ合い火花が散る。
欠けた金属と骨、さらに衝撃がハンターとヴォイドを襲う。
「はっ」
死の危険を鼻で笑って蹴り飛ばす。
雑魔は他の2体と比べて明らかに素早い。距離を保つ動きも的確だ。さらに不吉な光が灰色の毛に纏わり付きヴォイドの骨格が変化を始めようとしていた。
「ボクのターンだね!」
幸子の瞳が爛々と輝く。
戦闘前より背が高くなっているように見えるのは気のせいではない。
覚醒状態への移行と同時に生命力が大きく引き上げられ術行使能力も向上。ついでに攻撃性が前面にあらわれているのは、ひょっとしたら幸子の思い込みのせいかもしれない。
「精霊さんボクに力を貸して」
ためをいれて撃つと見せかけ台詞の途中でマジックアローを発射する。
徹甲弾が分厚い装甲に穴を開けるが如き音が小さく響く。雑魔は口から体液をこぼし、変身を強引に解除して血塗れの体で逃げようとする。
「それはいけない」
ヴァンシュトールは飄々とした態度を崩さない。教本にそのまま載せたくなる構えで引き金を引く。
あえて近づいていたため雑魔が後退しても必中距離であり、当然のように雑魔の腹に穴を開けた。
敵意と表現するには強すぎるものが雑魔の瞳ににじむ。
「逃がさないの優先で!」
ヴァンシュトールは余裕を失わずに要請し、ロクスは踏み込みからの強打を雑魔に浴びせることで返答する。
退路は目の前にしかないと判断したのだろう。4本の足を最高の効率で操りヴァンシュトールに飛びかかる。
「痛いのは好きじゃないんだよね、これがっ!」
左肘を雑魔の口腔に叩き込む形で無理矢理防御。血が流れ痛みが脳髄をかきまわすが姿勢は崩さない。
幸子が一瞬だけ生じた弱気を強気で塗りつぶす。
マテリアルがさらに強まり胸元のタイが揺る。うずまくエネルギーが矢の形をとって、加速と飛行の過程をほとんど省略し雑魔の腰を撃ち抜いた。
それでも滅ばない。
けれど即座に動きを再開できるほど浅い傷ではない。
「動きが止まった! 今だよ!」
「たすかったよ」
笑顔で答えてヴァンシュトールが銃口を雑魔に押し当てる。
「ごめんね、さようなら」
脇腹から侵入した銃弾が背骨にあたる箇所を粉砕する。
その場でぐるりと一回転した雑魔の体が落ちるよりも早く、はるか昔に死を迎えていた犬の体が薄れ、消えていった。
「終わっ……た?」
幸子が右を見て左を見てついでに上下を確認する。
他の雑魔2体もほぼ同時刻に倒されていた。
ソフィが優しくうなずく。幸子はようやく戦闘の終わりを実感して全身の力が抜けるのを感じた。
「終わったー!」
心地よい脱力感に身を任せてその場に座り込む。
緑の草が地球の少女を優しくうけとめた。
「まるでゲームだ」
恭也がつぶやく。
散々害をまき散らしたのに死に際だけはゲームじみて何も残らない。死んだふりを警戒し追い打ちする必要もなかった。
「ヴォイドにやられてすぐなら残るかもしれないぜ」
ロクスはロングソードの状態を確かめて鞘におさめる。
まだ覚醒状態と解いていない。マテリアルヒーリングで直しておく必要があるからだ。
「そうか。……これ、そこそこの報酬貰えんのか?」
恭也の口から所帯じみていると同時に深刻な台詞がこぼれた。
「生活には困らないだけもらえるはずですよ。上を見ればきりがないですけど」
ハンター本部で借りた水筒を投げ渡す。
ヴァンシュトールから受け取った恭也は、皮の味が染みているのに気付いて眉をしかめた。
「本当に消えてるわ」
ソフィが、直前まで雑魔がいた場所を凝視している。
ピンセットで残留物を探して小さな袋に入れているが、おそらく不自然なものは含まれていないだろう。
「後は戻って報告すれば終わり……あら」
機嫌よさげな犬のなきごえが聞こえる。どうやら戦闘終結に気づいて牧童達が現れたらしい。もちろん牧童犬も含まれている。
ソフィは立ち上がり相好を崩して臆病な犬を出迎えた。
「良い子ね」
ポチはハンターが自分では勝ち目がない雑魔を倒したことに気付いている。立派な体を大地に寝かせ、ソフィに腹を撫でられ気持ちよさそうに目を細めていた。
幸子が空を見上げる。
まだマジックアローは複数回使える。多少気を抜いても切り抜けられる程度の危険ですむはずだ。
「平和だねー」
空は青く、まだヴォイドの本格的な脅威は感じられなかった。
「テメェ、ポチってのか」
ロクス・カーディナー(ka0162)が牧童犬を撫でる。
武装した兵士を単独で食い殺せそうな顎、筋、骨格の牧童犬が、機嫌良さそうに尻尾を振って愛想を振りまいた。
そんな飼い犬とは対照的に、牧童は見慣れぬハンター達に怯えに近い感情を抱いている。
王都出身者すらほとんど見たことがないのに、他国人どころか別の世界の人間にまで近づかれ、緊張で酷い脂汗を流していた。
自身の名だけでなく飼い犬の名まで聞いて来たロクスがいなければ、彼の緊張はもっと酷くなりハンター達の情報収集は数時間必要だったかもしれない。
「大丈夫、ボク達がやっつけてあげるよ」
弓月 幸子(ka1749)が胸を張る。
清潔で、あか抜けていて、それでいて見下す気配のない幸子を目にした彼の瞳に淡い感情が浮かんだ。
「どの辺りで襲われたのか教えてくれるかな」
相手の感情を刺激しないタイミングと強さでヴァンシュトール・H・R(ka0169)が声をかける。
戸惑う牧童に愛嬌のある笑みを向けて、分かり易く地形が記入された地図を手渡した。
「どうだったかな」
自信のない声がもれる。
多少の読み書きは出来るが地図の読みに自信はないらしい。
「ポチ、分かる?」
わふんと名残惜しげにロクスから離れ、堅い肉球で地図の一点を突く。
「うん、はい、多分ここです」
「ありがとう。逃げ遅れた羊はいたかい?」
メモを手にヴァンシュトールが訊く。
「僕の担当では被害無かったです。でも」
彼とポチほどうまく逃げることが出来ず、羊を何頭も失った羊飼いもいるらしい。
「そっか。できれば取り返すつもりだよ」
多分無理だということは牧童も分かっている。それでも、お願いしますと深々と頭を下げるのだった。
●8対3
「いた」
灰色の犬型の何かを視認した瞬間、ソフィ・アナセン(ka0556)は双眼鏡を下ろして頑丈なケースに片付けた。
リアルブルーとは違って双眼鏡は高級品だ。壊せばいくら請求されるか分からない。
大型の鈴っぽい代物を取り出し思い切り振る。鈍くのどかな金属音が草原に響き、数十秒経ってようやく雑魔の進路がハンター達に向いた。
「耳で気づいたのか聴覚以外で気づいたのか分からないですね」
肩をすくめるソフィの横を通ってギュンター・ベルンシュタイン(ka0339)が進み出る。
身につけているのはローブにバックラーにバスタードソード。クリムゾンウェストでは珍しくもない、前衛ハンターの格好だ。
「今回は盾となれるのがオレたちだけだ、気を抜くなよ」
視線を雑魔に固定したまま、ロクスと七咲 姫乃(ka0411)に声をかける。
ロクスは普段とかわらぬ平然とした態度で軽く手を振って、姫乃は微かな緊張を実力に裏打ちされた笑みで隠し軽くうなずいた。
「争いの元はいつも貴様らだ。だからここで死んでもらう。世に平穏の」
冗談じみた加速で雑魔が近づく。
3体とも人型ではなく犬型。人間よりはるかに速く駆け喉笛をかみ切るはずだった。
「あらんことを」
言い終えたときには、ギュンターはトップスピードで自分から雑魔に近づいている。
バックラーとそれを支える自分の体を雑魔の進路上に置き、軽装の仲間の盾になる。
牙と盾がぶつかり耳障りな音がうまれ、衝突の衝撃がギュンターの腕を襲った。
「オレを越えていけるものなら、行ってみな!」
わずかな重心移動で無理な体勢を攻撃可能な体勢へ変更、大重量の刃を振り下ろす。
灰色の毛と腐れた体液が弾け、緑の大地を汚した。
鋭く息を吐いて姫乃が加速。
ギュンターの斜め後ろから首筋を狙った犬型雑魔にダガーをねじ込んだ。
「気は抜いてないぞ。そもそも軽装備の回避型だから気を抜いたら落ちるからな」
ダガーを引き抜くと同時に思い切りよく後退する。
ただの犬なら痛みに泣きわめくが相手は雑魔とはいえヴォイドだ。
うめきもせずに高速で反転、目の前の1体を防ぐのに手一杯なギュンターを無視して姫乃を狙う。
「ちっ」
姫乃が感じる時間の流れが遅くなる。
動物霊から借り受けた力となにより姫乃自身の集中力が、雑魔の牙を寄せ付けない反応と速度をもたらす。
しかし姫乃もこれがハンターとしての初陣だ。
「俺でもわかるぞ、お前攻撃が直線的過ぎるだろ」
初撃はかわして二撃目も直撃は避けた。が、受けに向いていないダガーでは密集した牙によるかみつきを防ぎきれない。
噛みつかれてすぐにふりほどきはしたが、トレーニングウェアが赤に染まってすぐに黒くなる。
柊 恭也(ka0711)は決して慌てず、3体目と1体目の雑魔が近づいてこないことを確認してから引き金を引く。
物理的な形を持つ銃弾ではなく、マテリアル由来のエネルギーが銃口から飛び出す。
2メートル近い鍛え抜かれた体躯を持つギュンターでもせいぜい2センチ程度の深さまで切れなかったのに、恭也の一撃は雑魔の毛と皮と筋を貫き骨まで届いた。
「カス当たりか」
直撃直前で受けられた感触に、恭也が小さく吐き捨てる。
同じハンターの攻撃でもスキルの有無で大きな差が出ていた。
「おい七咲生きてるかっ」
姫乃の体は淡い光に包まれている。
血塗れのウェアの下では急速かつ安全に治療が進行中だ。リアルブルーの医者が診れば憤死しかねない、ハンターとしての基本的な能力だった。
「いやいやいや! 死んでないっ、痛くないっ 痛くないしぃ!?」
姫乃は雑魔を抑えるため前に出ようとするが一瞬だけ送れる。
重傷の雑魔が姫乃に比べれば装甲薄の恭也に向かって飛びかかろうとし、しかし跳躍距離が足らずに恭也の十歩ほど手前に落下した。
先程使ったのは機導砲。
有効射程に関しては恭也のリアルブルー製拳銃を上回る攻撃術だ。
「そんじゃさっさと死にくされってな!」
エネルギーの束が雑魔の前足を焼き切り。
「現代っ子なめんなよ? 結構ダンスとかで体力あんだぜ」
ダガーが首筋を切り裂く。
悲鳴をあげることすらできず、犬型雑魔が倒れた。
●8対2
「回るぞ!」
レンコン型弾倉の回転は正確に60度。
スーズリー(ka1687)はその精度のすさまじさに深い満足を感じ、強くも弱くもなく最適な力で引き金を引く。
第一射と同じく強烈な衝撃。
ドワーフの腕力に勝るかもしれない力を、スーズリーは気合と根性と鍛えた体で押さえつける。
銃弾は適度に回転しつつギュンターが抑える雑魔に着弾し、毛、皮、肉、骨を貫通し肩から宙へ飛び出した。
「リアルブルーの技術は面白いな!」
60度回転。
リボルバーにマテリアルを一時的に付与し射程を延長。
発射の瞬間に付与を強めることで銃撃の威力と精度を強くする。
「やはり今の時代、斧は時代遅れだ!」
うかれた言葉とは逆に銃を持つ腕と支える体が精妙に動く。
銃弾はギュンターの脇を通り過ぎ、動きの鈍った雑魔の腹に弾痕を刻む。
「ははっ」
心底楽しげに笑うスーズリーの真横で、ソフィが態度には出さずに動揺していた。
スーズリーと雑魔の距離は20メートルだ。厳しい訓練を積んだ兵士でも外しかねない距離なのに、拳銃に触れたばかりのスーズリーは全弾当てている。
動揺の原因はそれだけではない。
武器を除けば皮または布装備にもかかわらずギュンターが猛獣以上の力を持つヴォイドを押さえ込んでいる。しかもかすり傷以上のダメージを受けずにだ。
個人がこれほどの力を持てるならリアルブルーと異なる社会がうまれるのは当然だろう。
そんなことを頭の片隅で考えながら術の発動準備を終える。
「発射します」
ギュンターが犬の突撃をかわすことでソフィの射撃のための空間を確保する。
犬型雑魔がたたらを踏んで体勢をわずかに崩し、ソフィに集まる力を呆然とみつめる。
距離はスーズリーよりさらに離れて20メートル強。ソフィの魔力矢を止める方法はなかった。
光る矢に見える力が雑魔との距離を0にする。
エネルギーが全て破壊の力に変換され、雑魔の頭蓋を中身ごと砕いて破裂させた。
「伸びしろ有りでこの威力……」
自分が得た力を恐怖はしないが呆れとそれを圧倒する知的好奇心がわき起こる。
とはいえまだ戦闘中だ。
ソフィは油断無く次の矢を準備しながら、ギュンターに護衛されつつ残る雑魔を目指すのだった。
●8対1
「三下同士ィ、仲良くしようぜェ!」
卑下など一欠片も含まれていない。
ロクスは前方から駆け寄る犬型を避けもせずに刃で以て出迎える。
ロングソードと牙がかみ合い火花が散る。
欠けた金属と骨、さらに衝撃がハンターとヴォイドを襲う。
「はっ」
死の危険を鼻で笑って蹴り飛ばす。
雑魔は他の2体と比べて明らかに素早い。距離を保つ動きも的確だ。さらに不吉な光が灰色の毛に纏わり付きヴォイドの骨格が変化を始めようとしていた。
「ボクのターンだね!」
幸子の瞳が爛々と輝く。
戦闘前より背が高くなっているように見えるのは気のせいではない。
覚醒状態への移行と同時に生命力が大きく引き上げられ術行使能力も向上。ついでに攻撃性が前面にあらわれているのは、ひょっとしたら幸子の思い込みのせいかもしれない。
「精霊さんボクに力を貸して」
ためをいれて撃つと見せかけ台詞の途中でマジックアローを発射する。
徹甲弾が分厚い装甲に穴を開けるが如き音が小さく響く。雑魔は口から体液をこぼし、変身を強引に解除して血塗れの体で逃げようとする。
「それはいけない」
ヴァンシュトールは飄々とした態度を崩さない。教本にそのまま載せたくなる構えで引き金を引く。
あえて近づいていたため雑魔が後退しても必中距離であり、当然のように雑魔の腹に穴を開けた。
敵意と表現するには強すぎるものが雑魔の瞳ににじむ。
「逃がさないの優先で!」
ヴァンシュトールは余裕を失わずに要請し、ロクスは踏み込みからの強打を雑魔に浴びせることで返答する。
退路は目の前にしかないと判断したのだろう。4本の足を最高の効率で操りヴァンシュトールに飛びかかる。
「痛いのは好きじゃないんだよね、これがっ!」
左肘を雑魔の口腔に叩き込む形で無理矢理防御。血が流れ痛みが脳髄をかきまわすが姿勢は崩さない。
幸子が一瞬だけ生じた弱気を強気で塗りつぶす。
マテリアルがさらに強まり胸元のタイが揺る。うずまくエネルギーが矢の形をとって、加速と飛行の過程をほとんど省略し雑魔の腰を撃ち抜いた。
それでも滅ばない。
けれど即座に動きを再開できるほど浅い傷ではない。
「動きが止まった! 今だよ!」
「たすかったよ」
笑顔で答えてヴァンシュトールが銃口を雑魔に押し当てる。
「ごめんね、さようなら」
脇腹から侵入した銃弾が背骨にあたる箇所を粉砕する。
その場でぐるりと一回転した雑魔の体が落ちるよりも早く、はるか昔に死を迎えていた犬の体が薄れ、消えていった。
「終わっ……た?」
幸子が右を見て左を見てついでに上下を確認する。
他の雑魔2体もほぼ同時刻に倒されていた。
ソフィが優しくうなずく。幸子はようやく戦闘の終わりを実感して全身の力が抜けるのを感じた。
「終わったー!」
心地よい脱力感に身を任せてその場に座り込む。
緑の草が地球の少女を優しくうけとめた。
「まるでゲームだ」
恭也がつぶやく。
散々害をまき散らしたのに死に際だけはゲームじみて何も残らない。死んだふりを警戒し追い打ちする必要もなかった。
「ヴォイドにやられてすぐなら残るかもしれないぜ」
ロクスはロングソードの状態を確かめて鞘におさめる。
まだ覚醒状態と解いていない。マテリアルヒーリングで直しておく必要があるからだ。
「そうか。……これ、そこそこの報酬貰えんのか?」
恭也の口から所帯じみていると同時に深刻な台詞がこぼれた。
「生活には困らないだけもらえるはずですよ。上を見ればきりがないですけど」
ハンター本部で借りた水筒を投げ渡す。
ヴァンシュトールから受け取った恭也は、皮の味が染みているのに気付いて眉をしかめた。
「本当に消えてるわ」
ソフィが、直前まで雑魔がいた場所を凝視している。
ピンセットで残留物を探して小さな袋に入れているが、おそらく不自然なものは含まれていないだろう。
「後は戻って報告すれば終わり……あら」
機嫌よさげな犬のなきごえが聞こえる。どうやら戦闘終結に気づいて牧童達が現れたらしい。もちろん牧童犬も含まれている。
ソフィは立ち上がり相好を崩して臆病な犬を出迎えた。
「良い子ね」
ポチはハンターが自分では勝ち目がない雑魔を倒したことに気付いている。立派な体を大地に寝かせ、ソフィに腹を撫でられ気持ちよさそうに目を細めていた。
幸子が空を見上げる。
まだマジックアローは複数回使える。多少気を抜いても切り抜けられる程度の危険ですむはずだ。
「平和だねー」
空は青く、まだヴォイドの本格的な脅威は感じられなかった。
依頼結果
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面白かった! | 12人 |
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MVP一覧
- 人の上下に人を造らず
ロクス・カーディナー(ka0162)
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マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
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相談卓 スーズリー・アイアンアックス(ka1687) ドワーフ|20才|女性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2014/06/16 11:18:25 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/06/11 18:48:47 |
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仮プレ ギュンター・ベルンシュタイン(ka0339) 人間(クリムゾンウェスト)|23才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2014/06/11 23:51:54 |