ゲスト
(ka0000)
【幻導】『女帝』現る
マスター:桐咲鈴華

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 多め
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/13 12:00
- 完成日
- 2015/07/20 09:13
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
ナルガンド塔でファリフ・スコールを呼ぶ、幻獣の呼びかけ。彼女はそれに応え、ビャスラグ山沿いに南からナルガンド塔を目指し、進軍していく。
彼女が塔へと向かう最中、多数の歪虚もまた幻獣の存在を察知し、蠢いていた。
ビャスラグ山にて、人と歪虚、様々な思惑が交錯していく。
多数の歪虚の集う山にて、混沌と激戦の火蓋が切って落とされようとしていた……。
●
ファリフ・スコールがナルガンド塔へ向かう最中、『アルカナ』の一体である歪虚『The Chariot』が襲撃してきたとの報を受け、募ったハンター達をエフィーリアが送り出した、その直後の出来事だった。
「すみません、エフィーリアさん! この人の治療をお願い出来ますか!?」
突如として、仲間のハンターを担いできた女性ハンターの声にエフィーリアは振り向く。運んで来られたハンターは酷く衰弱しており、ぐったりと身体を預けている。
「これは……一体、どうしましたか?」
問いかけつつも、只事ではない状況にエフィーリアは治療を施していく。だが、通常の回復魔法では衰弱したハンターの容態は一向に回復しない。
「……これは、マテリアルが枯渇しています? ……危険な状態です。しかし……なぜ、このような」
「わかりません、突然痛がったと思うと、急に倒れて……! ……あ、でも、倒れる前に一瞬、『蜂が』って叫んでた気がします!」
「蜂……」
女性ハンターの言葉と、目の前のハンターの容態を照らし合わせるエフィーリア。やがてその2つの点が、ひとつの線で結び付けられ、エフィーリアは目を見開く。
「……まさ、か。『The-Empress』まで、ここに……!? 馬鹿な、二体目のアルカナ……!?」
「『The-Empress』……ですか?
「はい。……女王蜂の姿をした『アルカナ』の一体。『死の子を生み出す羽虫の女帝』という名を冠する歪虚です。産み落とした卵から即座に孵った蜂型の眷属達に手近な人を襲わせる歪虚であり、内包する毒は……体内のマテリアルを急激に奪うという性質を持っています」
恐らくこの方も、という言葉を続け、話を聞く女性ハンターは驚きに身を震わせる。
「……ともかく、この方は今すぐに適切な処置をしなければなりません。後方へと送ってあげて下さい。……私は、Empressに対抗する手段を、他の方に伝えなければ……!」
こうして『戦車』に続き、『女帝』の名を冠するアルカナまで襲撃してきた。エフィーリアはかつてない事態に息を呑みながらも、勤めて冷静に対抗できるハンターを募るのだった。
ナルガンド塔でファリフ・スコールを呼ぶ、幻獣の呼びかけ。彼女はそれに応え、ビャスラグ山沿いに南からナルガンド塔を目指し、進軍していく。
彼女が塔へと向かう最中、多数の歪虚もまた幻獣の存在を察知し、蠢いていた。
ビャスラグ山にて、人と歪虚、様々な思惑が交錯していく。
多数の歪虚の集う山にて、混沌と激戦の火蓋が切って落とされようとしていた……。
●
ファリフ・スコールがナルガンド塔へ向かう最中、『アルカナ』の一体である歪虚『The Chariot』が襲撃してきたとの報を受け、募ったハンター達をエフィーリアが送り出した、その直後の出来事だった。
「すみません、エフィーリアさん! この人の治療をお願い出来ますか!?」
突如として、仲間のハンターを担いできた女性ハンターの声にエフィーリアは振り向く。運んで来られたハンターは酷く衰弱しており、ぐったりと身体を預けている。
「これは……一体、どうしましたか?」
問いかけつつも、只事ではない状況にエフィーリアは治療を施していく。だが、通常の回復魔法では衰弱したハンターの容態は一向に回復しない。
「……これは、マテリアルが枯渇しています? ……危険な状態です。しかし……なぜ、このような」
「わかりません、突然痛がったと思うと、急に倒れて……! ……あ、でも、倒れる前に一瞬、『蜂が』って叫んでた気がします!」
「蜂……」
女性ハンターの言葉と、目の前のハンターの容態を照らし合わせるエフィーリア。やがてその2つの点が、ひとつの線で結び付けられ、エフィーリアは目を見開く。
「……まさ、か。『The-Empress』まで、ここに……!? 馬鹿な、二体目のアルカナ……!?」
「『The-Empress』……ですか?
「はい。……女王蜂の姿をした『アルカナ』の一体。『死の子を生み出す羽虫の女帝』という名を冠する歪虚です。産み落とした卵から即座に孵った蜂型の眷属達に手近な人を襲わせる歪虚であり、内包する毒は……体内のマテリアルを急激に奪うという性質を持っています」
恐らくこの方も、という言葉を続け、話を聞く女性ハンターは驚きに身を震わせる。
「……ともかく、この方は今すぐに適切な処置をしなければなりません。後方へと送ってあげて下さい。……私は、Empressに対抗する手段を、他の方に伝えなければ……!」
こうして『戦車』に続き、『女帝』の名を冠するアルカナまで襲撃してきた。エフィーリアはかつてない事態に息を呑みながらも、勤めて冷静に対抗できるハンターを募るのだった。
リプレイ本文
●迫る女帝
ブゥゥゥゥン……と、聞く者の不安を煽る不快感のある羽音を辺りに響かせて飛翔する存在が、山の中に居た。巨大な巣が腹部に融合し、複数の翅を羽撃かせてゆっくりと飛翔しているそれは、『女帝(The Empress)』と呼ばれる歪虚だった。その複眼が塔を捉えつつ、ゆっくりとそこへと近づいていく……。
その眼が別の気配を察知する。虫であるのに、こちらを『気付き、向いた』感覚はが伝わってくる。
「気づかれちまったか……来るぞ!」
アーサー・ホーガン(ka0471)がその感覚を感じ取り、味方全員に声をかける。ハンター達が戦闘態勢に入ったのを皮切りに、『女帝』の腹部が蠢き、そこからずりゅん、と不快な音を立てて粘性のある体液の塊にくっついた大量の卵が産み落とされる。
「う、気持ち悪い……。けど、四の五の言ってる訳にはいかないわね」
グロテスクな光景にアイビス・グラス(ka2477)はぞぞっと鳥肌をたてつつも、闘士を滾らせて臨戦態勢をとる。こうしてる間にも、次々と卵塊が産み落とされ、3つの塊が配置されていった。
「蜂なんざお断りだぜ、とっととお帰り願おう。まずは美人でもねー女帝さんを引きつけるぞ!」
「合点承知ですよー!」
魔導二輪と馬を走らせて躍り出るのは紫月・海斗(ka0788)と葛音 水月(ka1895)だ。
「水月、気をつけてね。……母の加護を、愛しき子らへ」
パーティの皆を我が子のように心配するのはエリザベタ=III(ka4404)だ。彼女は慈しむような言葉と共に葛音にプロテクションをかける。
「ありがとー!」
水月は短くエリザベタに礼をすると、そのまま『女帝』に対して刀を振りかざし、斬りかかる。『女帝』の外殻は硬く、刀が上手く斬り込まずに表面を滑る。
「むぅー。せっかくいい刀なのに、こんなに硬いなんてずるぅー」
『女帝』は、ブゥン……という衝撃音のような羽音を響かせながら低空を飛び続ける。そこまで高くは飛ばない為に、近接攻撃は問題無さそうだと判断した水月は、諦めずに斬り結び続ける。
そこへ連続した発砲音が響く。海斗のP5が火を吹き、『女帝』の外殻に着弾する。金属音かと思う程の着弾音と共に、銃弾が弾き飛ばされる。
「ち、硬いねぇ。こう見えて改造もしてんだけどよ。けど……無傷って訳じゃあなさそうだ」
銃弾を弾くほどの硬さを誇る外殻だったが、所々にへこみが見える。先程水月が刀をかすらせた場所にもダメージは入っており、硬い外殻を抜いてダメージを与えていくのは十分に可能そうだ。海斗は龍雲を走らせて周囲を旋回。水月が切り結んでいる所へ援護射撃を加えていく。
「よし、今のうちだな。女帝さん、忙しいなら子どもの面倒は俺が見てやるぜ」
2人の突撃によりある程度卵塊と『女帝』の分断に成功したのを確認し、アーサーが卵塊へと攻撃を加える。
「く、粘りついて……」
だが、卵塊を包んでいる体液の塊が庇護膜の役目も果たしているのか、粘り気があり衝撃を吸収する。その感触は単純な切れ味ではダメージを与えにくいとみたが、アーサーの装備しているのは雷撃刀だ。刀身を奔る電撃が卵を焼き焦がす。
「斬撃はちと厳しいが……属性攻撃なら通りやすいみてーだな」
アーサーはそのままなぎ払うように剣を繰り出して卵塊の一つを破壊しきった。
「なら、魔法でっ……!」
マリア・ベルンシュタイン(ka0482)も同じくして、光の弾丸を放ち卵塊を攻撃する。強烈な衝撃が粘液を弾き飛ばし、内部の卵を破裂させる。
「はっ!」
そして僅かに内部に残った卵も、アイビスが振るう鞭によって破壊され、2つ目の卵も沈静化した。卵を破壊されると同時に『女帝』の身体がノイズが走ったかのようにブレる。ダメージを受けているような反応だった。
しかし3つ目の卵までは破壊しきる事が出来なかった。パキン、と卵が割れる音と共に幼虫が中から這い出してきては、時が加速したかと見紛うような成長スピードで即座に成虫に成長し、次々と飛翔を始めた。
「蜂が飛び立ってきた、注意して!」
アイビスが声を張り上げ、魔導二輪を走らせる。子蜂達は群れをなし、不快な羽音を奏でながら、一番近くにいたアーサーに対して襲いかかっていった。アーサーはこれに対し雷撃刀を振るって対処。属性を伴う薙ぎ払いは一度に多くの蜂を叩き落として撃墜していくが、一度に出てくる数が多く一撃では対処できない。そこへ黒い影の弾丸と鞭による攻撃が飛来し、更に蜂の数が減る。
「大丈夫ですか!?」
「あぁ、なんとか……痛っ」
エリザベタとアイビスの援護で蜂の群れを何とか全滅させるも、腕を抑えて蹲るアーサー。マリアは急いで駆け寄り、アーサーにキュアを施していく。
(良かった、治せる……けど、それでも一気にマテリアルが減るようですね、危険です……)
マリアはキュアを使える準備をしてきて心底ほっとしていた。キュアにより治療できる毒であるという事は解ったが、それ以上に毒が強力である事に戦慄していたからだ。この僅かな時間の間にアーサーの体力とマテリアルは目に見えて奪われていたのだった。
ブゥゥゥゥゥン!
葛音と海斗が相手をしていた『女帝』は飛行を続けながら更に卵塊を産み落としていく。粘性のある音と共に産み落とされる卵塊の中には、紫色の異質なものもあった。
「あれが話に聞いていた毒塊? 水月さん、海斗さん、離れて!」
「うぅ、せっかく女王様と遊んでましたのにっ」
毒塊に警戒していたアイビスが声を張り上げる。『女帝』の近くで接近戦を仕掛けていた水月だったが、近くに爆発するという毒塊が配置されては離れるしかない。海斗は龍雲で常に距離を調整しつつ、牽制も兼ねた弾丸を浴びせてゆく。
「あれが毒塊ですね……爆発させます、ご注意を!」
その行動を見たマリアが毒塊に向けて光の魔法を放つ。するど毒塊は簡単に爆ぜると、周囲一体に毒を撒き散らした。毒のあたった箇所はマテリアルが枯渇したからか、草木がみるみる痩せ細っていく。
「毒塊は、微弱な衝撃にも反応してすぐ爆発するみたいですね……範囲は、結構広いみたいですっ……半径およそ10m前後が被害を受けてます!」
「ふぅん、成程ね……」
毒塊の反応に対し注意を払っていたマリア、エリザベタは起爆した毒の範囲を認識すると、それらをパーティ内で共有するよう呼びかけ、警戒を厳にする。
「厄介な蜂だ……どらっ!」
アーサーは産み落とされた卵塊に攻撃を加えていく。エリザベタの影の弾丸、海斗の放ったカードが後を追うように着弾してひとつは破壊されるが、毒塊の近くに産み落とされた卵塊は皆が離れてしまった為に健在だ。どうやら卵塊を覆っている庇護膜は毒塊の爆発の影響を全く受け付けないようにする為でもあったらしく、まったくといって言いほどダメージは受けていなかった。パキパキと卵の割れる音から続き、不快な音の塊が飛翔する。子蜂の群れは『女帝』の周囲を取り巻くように展開し、接近を阻んでいるように布陣、守られている『女帝』は更なる卵塊を産み落とす準備に入る。
「可哀想な子達ね。母親を健気に守ろうというのかしら。……武器にされているとも知らずに」
同じく女帝の名を冠すエリザベタは、子蜂達の様子に対しての同情の念と、『女帝』に対する敵愾心を抱いていた。すべての母のような存在であろうとする彼女にとって、自らが産み落とした存在を武器にする『女帝』の存在を認める訳にはいかないからだ。魔法を詠唱し、影の弾丸を生成。射出する。子蜂は影に飲まれて撃墜されていき、その数を減らしてゆく。
「うぅ、蜂の群れなんて嫌な音だし痛いしですから近寄りたくないです。早くどいてください、僕は女王様と遊んでるんですからっ」
水月は周囲を取り巻く蜂を警戒して『女帝』に近寄れずにいた。接近して抑えこむ事は叶わないと判断した彼は、ワイヤーウィップによって周囲の蜂を散らしていく。
「援護します!」
マリアが同じくして光の弾を放つ事で、蜂の群れはようやく沈静化する。しかしmそうしている間に再び『女帝』が産卵の準備に入る。
「くくく、楽しいギャンブルタイムを始めるぜぇ!」
その様子を見計らった海斗が、龍雲を急転換させ、フルスロットルで『女帝』へと接近する。
(外が堅くても、中はどーですかよ?)
海斗の狙いは、硬い外殻に覆われた中身だ。生物である以上、内蔵や身体の内部が弱くない訳がない。そこに直接射撃攻撃を浴びせれば、大ダメージを与える事が出来る筈だ。
「援護は頼むぜ!」
「任せて!」
海斗の強襲に応じ、アイビスがワイヤーウィップを放って『女帝』を拘束する。腹部に巻き付いた鞭の影響で動きを制限される『女帝』、翅を必死に羽撃かせるも、アイビスの膂力に振り解けないでいる。
「へっ、読み通りか? 嫌がるってことはやっぱり中は弱いと見るな。賭けは俺の勝ちだ、貰ったぜ!」
海斗は勝利を確信し、ジェットブーツによって龍雲から飛び立ち、上空に逃れようともがく『女帝』の腹部に迫った。
だが、彼の先程放ったカード。彼は今回の敵アルカナに趣向を合わせてタロットカードの絵柄で戦いに臨んでいた。先程卵塊を破壊する為に放ったカードの絵柄は……
『愚者』。逆位置の意味は……『見落とし』。
『女帝』は卵を産み落とす動作と全く同じ予兆で、毒塊をその腹部から産み落とした。卵塊と毒塊を産み落とすモーションが同じ動作であった為に、彼は気づく事が出来なかったのだった。
「な、っ……!?」
そして彼は確かに見た。『女帝』の複眼が妖しく煌めくのを。まるで、出し抜いてやったと言わんばかりの、嘲笑うような意思ある眼光を。
「野郎……劣勢は、フリかよ……!」
毒塊は飛び移る海斗に直撃し、まともにそれを受けた海斗のマテリアルが急激に枯渇する。
「な、っ! 海斗さん!」
「ち、ぇっ……! 勝利の女神さんは、微笑んじゃくれなかったか……」
彼の体が地に落ちる。叫んだアイビスは慌てて『女帝』の拘束を解くと、海斗に巻きつけて引き寄せる。彼の覚醒の象徴である、巻き起こる風がなりを潜めた。覚醒が解除されたのだ。
「マリア!」
「わかってます!」
アーサーの呼びかけに応じたマリアが急いでキュアを海斗に施す。何とか彼の毒を取り除く事は出来たものの、失ってしまったマテリアルはすぐには戻らない。
「大丈夫よ、母さんが護るわ。愛しい子……」
更にエリザベタもヒールを詠唱し、海斗の失った体力を癒やす。何とか一命を取り留めた海斗だったが、大勢が守勢に回った事で戦局は傾いてしまう。
『女帝』は海斗を沈めた毒塊に続いて更に2つの卵塊を産み落としていた。アーサーと水月が一つは破壊するものの、また一つの卵塊はパキパキと音をたてて孵化し、眷属の子蜂が一斉に飛び立っていく。
「う、ぐッ!」
「痛ぁぃ! もう、どっかいってくださいー!」
近くに居たアーサーと水月が子蜂に刺されつつも、薙ぎ払いや連撃を繰り出してすぐさま蜂群を叩き落とす。そうこうしているうちに『女帝』は高く飛び上がると、今度は連続で毒塊を生み出し始めた。
高度のある状態で産み落とされた毒塊は、地面に激突すると共に衝撃で破裂し、爆発する。さながら爆撃機の爆撃のような毒の飛沫に、パーティ全体がダメージを受ける。
「皆さん、気をしっかり持って下さい!」
「大丈夫よ、お母さんがついてるから……」
だが、それでも尚パーティが瓦解しなかったのはマリアの解毒と、エリザベタの治療のお陰だった。枯渇してゆくマテリアルを早期の段階でマリアが取り除き、エリザベタが失った体力を治癒していく。二人がかりの治療によってハンター達はなんとか戦局を立て直すことに成功した。だが、次々と産み落とされる卵塊の物量は、メンバーの欠けた状態では捌き切れない。
「『女帝』も弱っている……ここからは短期決戦でいくしかないみたいね、仕留めにいくわよ!」
敵の体力を鑑み、そう判断したアイビスは闘脚絆に換装し、地面を蹴って『女帝』に接近する。彼女の本来の戦闘スタイルだ。
「はぁっ!」
立体攻撃によって樹を蹴り、高く飛び上がったアイビスの蹴りが『女帝』に炸裂する。ここで『女帝』は苦しそうに呻くような素振りを見せた。
「……そうか、海斗さんの予想は外れてなかったのね。外は確かに硬いけど、中は弱い……だからこそ、衝撃の通りやすい打撃攻撃には弱いのね!」
劣勢を感じた『女帝』は羽を羽撃かせて距離を取る。だが、そうさせまいと地上から伸びてきたワイヤーウィップが腹部に絡みついた。
「そっちばっか見てないで、こっちもいるんですよ?」
水月の鞭が『女帝』を捉え、サポートする。そこへ樹を蹴り、枝を飛び、宙を舞うアイビスが飛び蹴りを浴びせていく。
『女帝』は今まで卵塊を破壊されて蓄積されたダメージと、アイビスから繰り出される相性の悪い攻撃に対して大きく体力を削られていった。先程のように眷属を周囲に纏って防備しようと複眼を卵塊に向けるが……。
「親が子を頼ってどうするの。母なら、頼られるようにしなさい」
その複眼を狙って放たれたエリザベタの影弾が炸裂する。複眼が割れ、急所である場所にヒットした一撃が『女帝』の体を大きく揺らせる。
「手のかかるお子さんを持ってる事で。……これで仕舞だ!」
雷撃刀を構えたアーサーが大きく踏み込みながら刺突を繰り出し、残る卵塊を刺し貫き、破壊する。それがトドメになったのか、『女帝』の姿がブレ、ノイズが走ったかのようにブブブブ……と揺れる。
「…………」
昆虫はものを言わない、喋らない。だが、沈黙とも思える雰囲気の羽音を発しながら……『女帝』は、光となって消えていった。
こうして、本隊を襲撃した『アルカナ』の一体である『女帝』は討伐された。
しかし、僅かに討ち漏らした蜂群が森の中へと消えていくのを、ハンター達は捉える事が出来なかった。
無尽蔵ともいえる子蜂を生み出す『女帝』を、少ない被害で食い止める事が出来たハンター達だったが、『女帝』の厄介な性質にただただ、戦慄を覚えていたのだった。
ブゥゥゥゥン……と、聞く者の不安を煽る不快感のある羽音を辺りに響かせて飛翔する存在が、山の中に居た。巨大な巣が腹部に融合し、複数の翅を羽撃かせてゆっくりと飛翔しているそれは、『女帝(The Empress)』と呼ばれる歪虚だった。その複眼が塔を捉えつつ、ゆっくりとそこへと近づいていく……。
その眼が別の気配を察知する。虫であるのに、こちらを『気付き、向いた』感覚はが伝わってくる。
「気づかれちまったか……来るぞ!」
アーサー・ホーガン(ka0471)がその感覚を感じ取り、味方全員に声をかける。ハンター達が戦闘態勢に入ったのを皮切りに、『女帝』の腹部が蠢き、そこからずりゅん、と不快な音を立てて粘性のある体液の塊にくっついた大量の卵が産み落とされる。
「う、気持ち悪い……。けど、四の五の言ってる訳にはいかないわね」
グロテスクな光景にアイビス・グラス(ka2477)はぞぞっと鳥肌をたてつつも、闘士を滾らせて臨戦態勢をとる。こうしてる間にも、次々と卵塊が産み落とされ、3つの塊が配置されていった。
「蜂なんざお断りだぜ、とっととお帰り願おう。まずは美人でもねー女帝さんを引きつけるぞ!」
「合点承知ですよー!」
魔導二輪と馬を走らせて躍り出るのは紫月・海斗(ka0788)と葛音 水月(ka1895)だ。
「水月、気をつけてね。……母の加護を、愛しき子らへ」
パーティの皆を我が子のように心配するのはエリザベタ=III(ka4404)だ。彼女は慈しむような言葉と共に葛音にプロテクションをかける。
「ありがとー!」
水月は短くエリザベタに礼をすると、そのまま『女帝』に対して刀を振りかざし、斬りかかる。『女帝』の外殻は硬く、刀が上手く斬り込まずに表面を滑る。
「むぅー。せっかくいい刀なのに、こんなに硬いなんてずるぅー」
『女帝』は、ブゥン……という衝撃音のような羽音を響かせながら低空を飛び続ける。そこまで高くは飛ばない為に、近接攻撃は問題無さそうだと判断した水月は、諦めずに斬り結び続ける。
そこへ連続した発砲音が響く。海斗のP5が火を吹き、『女帝』の外殻に着弾する。金属音かと思う程の着弾音と共に、銃弾が弾き飛ばされる。
「ち、硬いねぇ。こう見えて改造もしてんだけどよ。けど……無傷って訳じゃあなさそうだ」
銃弾を弾くほどの硬さを誇る外殻だったが、所々にへこみが見える。先程水月が刀をかすらせた場所にもダメージは入っており、硬い外殻を抜いてダメージを与えていくのは十分に可能そうだ。海斗は龍雲を走らせて周囲を旋回。水月が切り結んでいる所へ援護射撃を加えていく。
「よし、今のうちだな。女帝さん、忙しいなら子どもの面倒は俺が見てやるぜ」
2人の突撃によりある程度卵塊と『女帝』の分断に成功したのを確認し、アーサーが卵塊へと攻撃を加える。
「く、粘りついて……」
だが、卵塊を包んでいる体液の塊が庇護膜の役目も果たしているのか、粘り気があり衝撃を吸収する。その感触は単純な切れ味ではダメージを与えにくいとみたが、アーサーの装備しているのは雷撃刀だ。刀身を奔る電撃が卵を焼き焦がす。
「斬撃はちと厳しいが……属性攻撃なら通りやすいみてーだな」
アーサーはそのままなぎ払うように剣を繰り出して卵塊の一つを破壊しきった。
「なら、魔法でっ……!」
マリア・ベルンシュタイン(ka0482)も同じくして、光の弾丸を放ち卵塊を攻撃する。強烈な衝撃が粘液を弾き飛ばし、内部の卵を破裂させる。
「はっ!」
そして僅かに内部に残った卵も、アイビスが振るう鞭によって破壊され、2つ目の卵も沈静化した。卵を破壊されると同時に『女帝』の身体がノイズが走ったかのようにブレる。ダメージを受けているような反応だった。
しかし3つ目の卵までは破壊しきる事が出来なかった。パキン、と卵が割れる音と共に幼虫が中から這い出してきては、時が加速したかと見紛うような成長スピードで即座に成虫に成長し、次々と飛翔を始めた。
「蜂が飛び立ってきた、注意して!」
アイビスが声を張り上げ、魔導二輪を走らせる。子蜂達は群れをなし、不快な羽音を奏でながら、一番近くにいたアーサーに対して襲いかかっていった。アーサーはこれに対し雷撃刀を振るって対処。属性を伴う薙ぎ払いは一度に多くの蜂を叩き落として撃墜していくが、一度に出てくる数が多く一撃では対処できない。そこへ黒い影の弾丸と鞭による攻撃が飛来し、更に蜂の数が減る。
「大丈夫ですか!?」
「あぁ、なんとか……痛っ」
エリザベタとアイビスの援護で蜂の群れを何とか全滅させるも、腕を抑えて蹲るアーサー。マリアは急いで駆け寄り、アーサーにキュアを施していく。
(良かった、治せる……けど、それでも一気にマテリアルが減るようですね、危険です……)
マリアはキュアを使える準備をしてきて心底ほっとしていた。キュアにより治療できる毒であるという事は解ったが、それ以上に毒が強力である事に戦慄していたからだ。この僅かな時間の間にアーサーの体力とマテリアルは目に見えて奪われていたのだった。
ブゥゥゥゥゥン!
葛音と海斗が相手をしていた『女帝』は飛行を続けながら更に卵塊を産み落としていく。粘性のある音と共に産み落とされる卵塊の中には、紫色の異質なものもあった。
「あれが話に聞いていた毒塊? 水月さん、海斗さん、離れて!」
「うぅ、せっかく女王様と遊んでましたのにっ」
毒塊に警戒していたアイビスが声を張り上げる。『女帝』の近くで接近戦を仕掛けていた水月だったが、近くに爆発するという毒塊が配置されては離れるしかない。海斗は龍雲で常に距離を調整しつつ、牽制も兼ねた弾丸を浴びせてゆく。
「あれが毒塊ですね……爆発させます、ご注意を!」
その行動を見たマリアが毒塊に向けて光の魔法を放つ。するど毒塊は簡単に爆ぜると、周囲一体に毒を撒き散らした。毒のあたった箇所はマテリアルが枯渇したからか、草木がみるみる痩せ細っていく。
「毒塊は、微弱な衝撃にも反応してすぐ爆発するみたいですね……範囲は、結構広いみたいですっ……半径およそ10m前後が被害を受けてます!」
「ふぅん、成程ね……」
毒塊の反応に対し注意を払っていたマリア、エリザベタは起爆した毒の範囲を認識すると、それらをパーティ内で共有するよう呼びかけ、警戒を厳にする。
「厄介な蜂だ……どらっ!」
アーサーは産み落とされた卵塊に攻撃を加えていく。エリザベタの影の弾丸、海斗の放ったカードが後を追うように着弾してひとつは破壊されるが、毒塊の近くに産み落とされた卵塊は皆が離れてしまった為に健在だ。どうやら卵塊を覆っている庇護膜は毒塊の爆発の影響を全く受け付けないようにする為でもあったらしく、まったくといって言いほどダメージは受けていなかった。パキパキと卵の割れる音から続き、不快な音の塊が飛翔する。子蜂の群れは『女帝』の周囲を取り巻くように展開し、接近を阻んでいるように布陣、守られている『女帝』は更なる卵塊を産み落とす準備に入る。
「可哀想な子達ね。母親を健気に守ろうというのかしら。……武器にされているとも知らずに」
同じく女帝の名を冠すエリザベタは、子蜂達の様子に対しての同情の念と、『女帝』に対する敵愾心を抱いていた。すべての母のような存在であろうとする彼女にとって、自らが産み落とした存在を武器にする『女帝』の存在を認める訳にはいかないからだ。魔法を詠唱し、影の弾丸を生成。射出する。子蜂は影に飲まれて撃墜されていき、その数を減らしてゆく。
「うぅ、蜂の群れなんて嫌な音だし痛いしですから近寄りたくないです。早くどいてください、僕は女王様と遊んでるんですからっ」
水月は周囲を取り巻く蜂を警戒して『女帝』に近寄れずにいた。接近して抑えこむ事は叶わないと判断した彼は、ワイヤーウィップによって周囲の蜂を散らしていく。
「援護します!」
マリアが同じくして光の弾を放つ事で、蜂の群れはようやく沈静化する。しかしmそうしている間に再び『女帝』が産卵の準備に入る。
「くくく、楽しいギャンブルタイムを始めるぜぇ!」
その様子を見計らった海斗が、龍雲を急転換させ、フルスロットルで『女帝』へと接近する。
(外が堅くても、中はどーですかよ?)
海斗の狙いは、硬い外殻に覆われた中身だ。生物である以上、内蔵や身体の内部が弱くない訳がない。そこに直接射撃攻撃を浴びせれば、大ダメージを与える事が出来る筈だ。
「援護は頼むぜ!」
「任せて!」
海斗の強襲に応じ、アイビスがワイヤーウィップを放って『女帝』を拘束する。腹部に巻き付いた鞭の影響で動きを制限される『女帝』、翅を必死に羽撃かせるも、アイビスの膂力に振り解けないでいる。
「へっ、読み通りか? 嫌がるってことはやっぱり中は弱いと見るな。賭けは俺の勝ちだ、貰ったぜ!」
海斗は勝利を確信し、ジェットブーツによって龍雲から飛び立ち、上空に逃れようともがく『女帝』の腹部に迫った。
だが、彼の先程放ったカード。彼は今回の敵アルカナに趣向を合わせてタロットカードの絵柄で戦いに臨んでいた。先程卵塊を破壊する為に放ったカードの絵柄は……
『愚者』。逆位置の意味は……『見落とし』。
『女帝』は卵を産み落とす動作と全く同じ予兆で、毒塊をその腹部から産み落とした。卵塊と毒塊を産み落とすモーションが同じ動作であった為に、彼は気づく事が出来なかったのだった。
「な、っ……!?」
そして彼は確かに見た。『女帝』の複眼が妖しく煌めくのを。まるで、出し抜いてやったと言わんばかりの、嘲笑うような意思ある眼光を。
「野郎……劣勢は、フリかよ……!」
毒塊は飛び移る海斗に直撃し、まともにそれを受けた海斗のマテリアルが急激に枯渇する。
「な、っ! 海斗さん!」
「ち、ぇっ……! 勝利の女神さんは、微笑んじゃくれなかったか……」
彼の体が地に落ちる。叫んだアイビスは慌てて『女帝』の拘束を解くと、海斗に巻きつけて引き寄せる。彼の覚醒の象徴である、巻き起こる風がなりを潜めた。覚醒が解除されたのだ。
「マリア!」
「わかってます!」
アーサーの呼びかけに応じたマリアが急いでキュアを海斗に施す。何とか彼の毒を取り除く事は出来たものの、失ってしまったマテリアルはすぐには戻らない。
「大丈夫よ、母さんが護るわ。愛しい子……」
更にエリザベタもヒールを詠唱し、海斗の失った体力を癒やす。何とか一命を取り留めた海斗だったが、大勢が守勢に回った事で戦局は傾いてしまう。
『女帝』は海斗を沈めた毒塊に続いて更に2つの卵塊を産み落としていた。アーサーと水月が一つは破壊するものの、また一つの卵塊はパキパキと音をたてて孵化し、眷属の子蜂が一斉に飛び立っていく。
「う、ぐッ!」
「痛ぁぃ! もう、どっかいってくださいー!」
近くに居たアーサーと水月が子蜂に刺されつつも、薙ぎ払いや連撃を繰り出してすぐさま蜂群を叩き落とす。そうこうしているうちに『女帝』は高く飛び上がると、今度は連続で毒塊を生み出し始めた。
高度のある状態で産み落とされた毒塊は、地面に激突すると共に衝撃で破裂し、爆発する。さながら爆撃機の爆撃のような毒の飛沫に、パーティ全体がダメージを受ける。
「皆さん、気をしっかり持って下さい!」
「大丈夫よ、お母さんがついてるから……」
だが、それでも尚パーティが瓦解しなかったのはマリアの解毒と、エリザベタの治療のお陰だった。枯渇してゆくマテリアルを早期の段階でマリアが取り除き、エリザベタが失った体力を治癒していく。二人がかりの治療によってハンター達はなんとか戦局を立て直すことに成功した。だが、次々と産み落とされる卵塊の物量は、メンバーの欠けた状態では捌き切れない。
「『女帝』も弱っている……ここからは短期決戦でいくしかないみたいね、仕留めにいくわよ!」
敵の体力を鑑み、そう判断したアイビスは闘脚絆に換装し、地面を蹴って『女帝』に接近する。彼女の本来の戦闘スタイルだ。
「はぁっ!」
立体攻撃によって樹を蹴り、高く飛び上がったアイビスの蹴りが『女帝』に炸裂する。ここで『女帝』は苦しそうに呻くような素振りを見せた。
「……そうか、海斗さんの予想は外れてなかったのね。外は確かに硬いけど、中は弱い……だからこそ、衝撃の通りやすい打撃攻撃には弱いのね!」
劣勢を感じた『女帝』は羽を羽撃かせて距離を取る。だが、そうさせまいと地上から伸びてきたワイヤーウィップが腹部に絡みついた。
「そっちばっか見てないで、こっちもいるんですよ?」
水月の鞭が『女帝』を捉え、サポートする。そこへ樹を蹴り、枝を飛び、宙を舞うアイビスが飛び蹴りを浴びせていく。
『女帝』は今まで卵塊を破壊されて蓄積されたダメージと、アイビスから繰り出される相性の悪い攻撃に対して大きく体力を削られていった。先程のように眷属を周囲に纏って防備しようと複眼を卵塊に向けるが……。
「親が子を頼ってどうするの。母なら、頼られるようにしなさい」
その複眼を狙って放たれたエリザベタの影弾が炸裂する。複眼が割れ、急所である場所にヒットした一撃が『女帝』の体を大きく揺らせる。
「手のかかるお子さんを持ってる事で。……これで仕舞だ!」
雷撃刀を構えたアーサーが大きく踏み込みながら刺突を繰り出し、残る卵塊を刺し貫き、破壊する。それがトドメになったのか、『女帝』の姿がブレ、ノイズが走ったかのようにブブブブ……と揺れる。
「…………」
昆虫はものを言わない、喋らない。だが、沈黙とも思える雰囲気の羽音を発しながら……『女帝』は、光となって消えていった。
こうして、本隊を襲撃した『アルカナ』の一体である『女帝』は討伐された。
しかし、僅かに討ち漏らした蜂群が森の中へと消えていくのを、ハンター達は捉える事が出来なかった。
無尽蔵ともいえる子蜂を生み出す『女帝』を、少ない被害で食い止める事が出来たハンター達だったが、『女帝』の厄介な性質にただただ、戦慄を覚えていたのだった。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
依頼相談掲示板 | |||
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/09 12:36:51 |
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エフィーリアさんに質問 アイビス・グラス(ka2477) 人間(リアルブルー)|17才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/07/08 21:41:18 |
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「女帝」対策&作戦会議 アイビス・グラス(ka2477) 人間(リアルブルー)|17才|女性|疾影士(ストライダー) |
最終発言 2015/07/13 09:58:39 |