ゲスト
(ka0000)
恐るべきファンシー
マスター:小宮山

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 4日
- 締切
- 2014/07/18 12:00
- 完成日
- 2014/07/25 20:49
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
「……くっ! 逃げろ!! 俺達では足止めにもならない!! 早く!!」
「そんな──!!」
「いいから早く!! お前も餌食になるぞ!!」
街中に奴等の足音が響く。
きゅっ♪ きゅっ♪ ぱぴー♪ ぴゅー♪
楽器の音や鳴き声ではない。足音である。リアルブルーの幼児用スリッパで歩く時に鳴る、あの音である。
きゅっ♪ きゅっ♪ ぱぴー♪ ぴゅー♪
奴等は緊張感のかけらも無い足音を鳴らしながら、街の人々を襲っていた。
脅威に浸食されて行く街中、建物の陰で敵の様子をうかがっていた兵士達が話す。
「何故逃げない!! どうなっても知らんぞ!!」
「ハハッ……襲われたいと思うのは俺だけか?」
「……俺もだ、奇遇だな、兄弟。──行くか。俺達が食い止めるんだ」
ファンシーな見た目と足音が無ければ、映画の様なかっこいいワンシーンだったであろう二人の兵士のやり取りは、今襲い来る敵の前ではコントにしかならない。
いや、天然物のコントだろう。その証拠に、敵を待ち構える彼らの表情は──満面の笑みだ。
きゅっ♪ きゅっ♪ ぱぴー♪ ぴゅー♪
ファンシーな足音の正体は、身長2メートルはあろうかという、二頭身二足歩行の猫の様な姿をしているのである。
おまけに毛並みはふかふか、つぶらな瞳で見つめてくる。肉球だってツヤツヤだ。
兵士達がふかふかを満喫‥‥もとい、足止めに入った時、逃げ惑う街人達は確かに背後で幸せそうな叫び声を聞いたのだった。
偵察隊が街を最後に見た時は、にゃんこ(?)のお世話を甲斐甲斐しく行う兵士達が目撃されたという。
『依頼:逃げ後れた街人及び兵士を救出し、脅威を排除せよ ※脅威の名称を募集する』
「そんな──!!」
「いいから早く!! お前も餌食になるぞ!!」
街中に奴等の足音が響く。
きゅっ♪ きゅっ♪ ぱぴー♪ ぴゅー♪
楽器の音や鳴き声ではない。足音である。リアルブルーの幼児用スリッパで歩く時に鳴る、あの音である。
きゅっ♪ きゅっ♪ ぱぴー♪ ぴゅー♪
奴等は緊張感のかけらも無い足音を鳴らしながら、街の人々を襲っていた。
脅威に浸食されて行く街中、建物の陰で敵の様子をうかがっていた兵士達が話す。
「何故逃げない!! どうなっても知らんぞ!!」
「ハハッ……襲われたいと思うのは俺だけか?」
「……俺もだ、奇遇だな、兄弟。──行くか。俺達が食い止めるんだ」
ファンシーな見た目と足音が無ければ、映画の様なかっこいいワンシーンだったであろう二人の兵士のやり取りは、今襲い来る敵の前ではコントにしかならない。
いや、天然物のコントだろう。その証拠に、敵を待ち構える彼らの表情は──満面の笑みだ。
きゅっ♪ きゅっ♪ ぱぴー♪ ぴゅー♪
ファンシーな足音の正体は、身長2メートルはあろうかという、二頭身二足歩行の猫の様な姿をしているのである。
おまけに毛並みはふかふか、つぶらな瞳で見つめてくる。肉球だってツヤツヤだ。
兵士達がふかふかを満喫‥‥もとい、足止めに入った時、逃げ惑う街人達は確かに背後で幸せそうな叫び声を聞いたのだった。
偵察隊が街を最後に見た時は、にゃんこ(?)のお世話を甲斐甲斐しく行う兵士達が目撃されたという。
『依頼:逃げ後れた街人及び兵士を救出し、脅威を排除せよ ※脅威の名称を募集する』
リプレイ本文
「戦う前にやる事は一つ……! さぁ皆! 命名タイムだ!」
テンシ・アガート(ka0589)が元気一杯に全員の案を回収して行く。ヴァイス(ka0364)と天央 観智(ka0896)の成人男性陣は他に任せたのか、案は無い様だった。
テンシが鼻歌混じりで地面に縦線を案の数だけ引き、横棒で適当に繋いでいく。所謂アミダというやつである。
「我が輩の案が採用されるとイイナー……」とテンシの指先を目で追うのは黒の夢(ka0187)──……だけでは無く、何かしら腹に一物抱えた女性陣はみんなしてテンシ指を追う。
メトロノーム・ソングライト(ka1267)は真顔。
敷島 吹雪(ka1358)は溢れる欲望を隠す事も忘れた目で。
ノアール=プレアール(ka1623)は「キュットシー、とても可愛いし、何よりも珍しいし珍しいし非常に珍しいのでじっくり観察していたいところなんだけどー……」と、他とは違った欲望を感じさせる目で。
全員の目の前でテンシの指がたどり着いた名称はノアールが案を出した『キュットシー』だった。
「よっし! 今からアイツらはキュットシーな!」
テンシが地面に『命名! キュットシー』と書きなぐると、改めてターゲットの様子を全員が目に入れる。
「魅了されるとあんな風に世話させられるのか……恐ろしいな」
ヴァイスがキュットシーに洗脳され、四つん這いで人間椅子になったり、大団扇でキュットシー様を扇ぐ人々を遠目に数えながらひとりごちた。
「……困ったキュットシーたちだことですね……さて、どうにかしませんと──」
その横でキュットシーを数えていたアティエイル(ka0002)が軽く息をつく。
その横で突入準備をしながらソワソワする女性陣に、天央が釘を刺していた。
「見掛けに騙されてはいけません。アレは脅威です」
……とは言う物の、実際のところどうやって脅威を脅威ではなくするのか、という事を考える。
どうやら捕獲したいという案もあり、なかなかに高難度なミッションとしてレベルアップしている様である。
愛らしい見た目で攻撃力がほぼ無いとは言えども、能力的には街を簡単に支配下においてしまう事も可能な雑魔である。
全員の戦闘準備が整ったところで、ハンター達が戦場へ一歩踏み出す。
「俺、みんなが街の人達を救出してる間にやる事あるから!」
「キュットシーを独り占めして、モフモフハンターになるであります!」
と、テンシと敷島が飛び出していった。
「テンシさんはまだ良いとして、敷島さんは大丈夫なんでしょうか…」
溜息混じりの天央の声が空しく響いた。
●とりあえず、やってみよう。
街人や兵士の救出は、意外と簡単だった。
キュットシー達は、顎で『お前が行けよ』とお世話係を顎で使い、それを仁王立ちで腕組みをして眺めるという余裕の見せっぷりだったからである。無表情でつぶらな瞳の筈が、その時だけ少し悪い顔に見えたとか。
それは、リアルブルーのエンターテイメントによくありそうな光景だった。
キュットシーに向かって敵意(?)を放つハンターの動きに敏感に反応した街人が、虚ろな目でハンター達を拘束にかかる。
「時間も掛けられないし少し強引だが、仮にも兵士をやっているんだし大丈夫だろ。悪いな」
ヴァイスが兵士の頭部に剣の柄を打ち付け、昏倒させ……たら逃げる事が出来ないので、昏倒させてしまった兵士に平手打ちで意識を回復させる。
「さあさ、しっかりなさいませ!」
スパーン! と快音を鳴らし、アティエイルが叱咤と共にハリセンで街人を叩き、メトロノームが鞭で兵士を叩く。いや、武器が武器だけにドツく、シバくという表現の方が正しいのかもしれないが。
皆、思い思いの方法で衝撃を与えて街人の目を覚まして行くのだが、殆どの反応が同じ物なのだ。
見事に目を覚ます街人は、目を白黒させて我に返り──キュットシーの方向に戻ろうとする。
無言で後頭部に一発追加、威嚇攻撃、その他諸々の後、目で避難しろと言う。ちょっと怖い。「す、すみません……」とキュットシーの方を一瞥し、街人は街の外へ去って行った。
一通り見当たる範囲の救出が済んだ後、ハンター達は各々の案を試す事になる。各々考えた方法で試してみたい事がある様だった。
アティエイルと黒の夢は、街角に大きな箱とツナ缶を設置して物陰からじっと見守っていた。キュットシーがツナ缶の臭いに引かれ、猫の様に箱に入ったりしないかを試したい様である。
「わぁーおいでおいでーであるー」
ツナ缶をカンカンと叩いて気を引き、黒の夢がキュットシーをダンボールに近づける。一体がおもむろに設置されたツナ缶を拾い上げると、缶ごと口に放り込み咀嚼したかと思えば、まるで唾を吐くかの様に「カランッ」と缶を吐き出したのだった。
問題はツナの食べ方ではない。ここからが本番である。
大きな箱をじーっと見つめていたキュットシーは、箱に近付き…そして、被った。
さらに底を抜いて胴に装着したのである。無表情な筈のつぶらな瞳が、今度はドヤ顔に見えてくるから不思議だ。
──そして、アティエイルの方向に顔を向け、明らかに『ニヤリ』と口を歪め、攻撃を仕掛けようとする。襲いかかる肉球パンチにアティエイルのウィンドスラッシュによる鋭い風が当たり、キュットシーの動きが止まる。
「おいたが過ぎるようですね……躾は確りといたしませんと」
今度はアティエイルの微笑みがキュットシーに向けられた。
黒の夢は、キュットシーをあくまで猫として扱っていた。引きつける為に手に持っていたツナ缶と魚の干物も、まさに餌付け目的の様な差し出し方である。
アティエイルの目的も達せられた様なので、とりあえず食べさせても良いかな。と、キュットシーの顔の前に差し出した。キュットシーは『あーんぐ』と口を開けたかと思うと、黒の夢の両手をガシッと掴み、そのまま口の中へ。黒の夢の手に何ともいえない奇妙な感触が一通り走った後、キュットシーのさば折り攻撃にさらされた。
「我輩も『ふかふか』できるのなっ」
と目をキラキラと輝かせ、長身と自慢の豊満な胸を生かしてふかふか返しを試みる。
二頭身のキュットシーは上手く胸元に鼻先が埋もれる様で、苦しそうに暴れるのだが、黒の夢は足を胴に回して楽しそうに笑う。正に姿がファンシーVS頭がファンシー。何だか仲が良さそうなので、暫くはこのままの状態が続きそう。他に視点を移そう。
●──話は少し戻る。
街人達を避難させた後、メトロノームとヴァイスにも、二体のキュットシーが襲いかかっていた。
ヴァイスは剣による踏み込みに強打を合わせ、距離が開けば着実に銃撃とキュットシーを追いつめていくのだが、メトロノームはのらりくらりと攻撃をかわし、少しずつヴァイスと距離を離していく。
けして押されている訳ではなく、彼女自信の意思によってだ。
肉球パンチを避けながら、ついにメトロノームはヴァイスの死角へと一体のキュットシーを引き込んだ。そして、一人ごちる。
「ふぅ…これで街人達や仲間、邪魔者は排除できましたね…つまり、もうわたしの野望を阻む者はいなくなった訳です。愛らしいキュットシーさんのもふもふを存分に堪能するとともに、魅了の力によって、この呪縛をも解かすという完璧なるプラン。さあ、始めましょうか──」
メトロノームの様子が変わった事に戸惑ったのか、攻撃の手を止めたキュットシーに、彼女はそっと身を委ね、その柔らかな毛並みへと頬を埋めた。
魅了されれば、この凍り付いた表情も解けるかもしれない。しかももふもふして可愛い物に魅了されてなら……
メトロノームが欲望に身を任せ、魅了の力を受け入れた時、姿を見失ったヴァイスが一匹を仕留めて支援へと駆けつけた。そしてヴァイスは見る事になる。幸せそうに柔らかな笑顔を浮かべながらキュットシーに頬擦りするメトロノームの姿を。そして繰り出される、仲間への攻撃。
「邪魔をしないで下さい。私の至福の時間なのですから──」
ヴァイスは思わぬ苦戦を強いられる。メトロノームのアースバレットとウィンドスラッシュによって中々近接での当て身を敢行出来ず、その上中々攻撃が当てられない。
手加減をして何とかなる相手ではないと判断し、ノアール達の方へメトロノームとキュットシーを誘導する立ち回りへと変更する。
●はっけよい! SUMOUファイト
テンシは皆が街人達を救出避難させている間に作り上げた、リアルブルー東方の国の国技に使われるリング、ドヒョウ・サークルにキュットシーを誘い込んでいた。
ドヒョウ・サークルの上で睨み合う二匹、もとい、一人と一匹。互いの風体からか、キュットシーの方からもライバル意識がある様な動きが見える。対してテンシも二度と着ぐるみが脱げなくなっても良い……という覚悟で闘心昂揚を発動する。
がっぷり四つに構え、つぶらな瞳同士が火花を散らし、心の会話がなされる。
『噴水は壊したくない……This way』
『コイツ食ったら美味いかな……』
勿論、前者がテンシ、後者がキュットシーである。
ちなみに後者については無表情な為勝手に表現している。
同時に飛び出した一人と一匹は、ドヒョウ・サークルの中でおよそ見ないであろう動きを見せた。
テンシは飛び上がり空中前転、フランケンシュタイナーの動き。
足をキュットシーの首にかけようとするが、いかんせん体格が違い過ぎる為、キュットシーの胸部に跳ね返され地面に落ちる事となった。
対してキュットシーは鈍重かと思われたその姿で軽快なステップを踏んでいる。
ファンシーな戦いは、今正に熱戦となろうとしていた──
●その時、噴水近くでは。
噴水の中に天央とノアールは立っていた。
まるで結婚式の悪ノリで友人達に噴水へと投げ込まれたカップルの様な状態である。
真っ先に猫と同じなら水が苦手であろうという予測から、噴水に飛び込んだ二人だが、そんな二人を見てキュットシーは「じー」っと見つめていたかと思うと、おもむろに例の足音を鳴らしながら二人に近寄り、ふかふかでは無くじっとり湿った毛並みのハグをプレゼントされる事になった。
雑魔故、猫っぽいからと言って性質が猫という訳では無いらしい。そもそも、猫は二頭身でもないし、二足歩行でもないのだが、それはこの際猫っぽいから「にゃんこ(仮)」と仮命名した人のせいと言う事にしておこう。
──とはいえ、位置取りは抜群だった。
遮蔽物が無い広場の中央、細かい路地に入ってしまわなければ、殆ど動く事も無く武器射程内に敵が収まるからだ。
周囲には大の字になって転がる四体と、未だ健在の二体。そしてウサギ雑魔。もとい、まるごとうさぎを着込んで、息を切らせたテンシ。
キュットシーにお姫様抱っこで連れられ、満面の笑みで頬擦りするメトロノーム、縛り上げたキュットシーを引きずり、広場の端に転がすアティエイル。
そしてどうやらVSファンシー対決は頭がファンシーが勝利した様で、四つん這いにさせたキュットシーの上に股がる黒の夢の姿。
さらに──
「このモフモフは自分のものであります! 我が野望の為、邪魔者は排除するであります」
ドーン!! とでも効果音が付きそうな大の字で、二体のキュットシーの前に立ち塞がるのは敷島だ。これ以上無いくらいに独占欲丸出しな上に完璧な魅了状態、しかも血みどろである。血みどろの理由は追々解るので、少し待って欲しい。
ノアールと天央、ヴァイスが正気に戻しても、目を離した瞬間魅了されているので非常にタチが悪い。
ややこしいので纏めておこう。
現在残っている戦闘可能なキュットシーは4体。
魅了されている物は──
メトロノーム、敷島、そして──テンシ。
ヴァイスが何とかメトロノームとキュットシーを天央とノアールの射程内へと誘い込み、遠距離でのスキルの打ち合いへと持ち込めた。
そして、テンシはファンシーSUMOU対決の際、キュットシー山の肉球パンチによる魅了を受けてしまっていた。幸い対決で息が切れているのか、動きは鈍いので後回しにされている。
そして問題の敷島血みどろ問題である。
メトロノームとの戦闘を天央達に引き継ぎ、何度正気に戻しても魅了されてしまう敷島を正気に戻す作業を行っていた。
「……またか……これではキュットシーの方に手が回らないな……」
そう言いつつ柄で敷島を強打するのだが、女性に対して加減をしているとはいえ、回数が重なると……ということである。
「あらら、自ら魅了されにいくような悪い子は私の人体実験に……って、自らじゃ無いのも多いから冗談も言いにくいわねー……そぉれ、いくわよー! ノアールさん特製魔導バースト!」
天央にメトロノームの応戦を任せ、威力を弱めた当社比威力40%減の魔導砲を敷島に撃ち込み、敷島を正気に戻す。
「はっ……?! 自分は一体何故血塗れでありますか?!」
敷島は正気と魅了を行き来しすぎて混乱状態だが、スナイパーの性か、敵は敵と認識出来ている様だった。
敷島の寝起き(?)の一発がキュットシーの一体を、天央の攻撃でメトロノームの愛らしい笑顔が消えて……違う。更にもう一体を倒す。
そして、ヴァイスに当て身を入れられ正気に戻ったテンシが──SUMOUファイトだった筈がファンシーヴァーリトゥードとなり(最初からだったが)、最後はマウントポジションからのハートフル(ボッコ)で勝利となった。
最後の一体となったキュットシーは集中攻撃を悟ったのか、とあるジェスチャーをして見せた。
親指(?)を立て、首を切る動作、そしてその親指を下へ向ける。所謂悪人の最後っ屁の典型ポーズだった。
──その時。
件のポーズの後、万歳をしたかと思うと、キュットシーは自らを塵へと返したのか、砂が溢れる様な音とともに塵へと帰った。
それと同時にアティエイルが縛って転がしていたもの、黒の夢が股がっていたものも塵へと帰った。
「ああー……もっと仲良しらぶらぶしたかったのなー……」
「捕獲は無理でしたか……あんなに可愛いのに……」
「解剖したかったわぁ……」
捕獲出来なかった事を残念がる女性陣と。
「やっと……終わった……」
「本当にな……」
ただただ疲れ脱力する男性陣と。
──言葉も出さず燃え尽きた物が二名。
そんなハンター達を物陰から眺める影があった。
それは、つぶらな瞳から涙を流すキュットシー。
ふと天央が視線を感じてその方を向くと、そこにはもう何も居なかった。
しかし、予感はある。
奴等はまた、きっと来る。
テンシ・アガート(ka0589)が元気一杯に全員の案を回収して行く。ヴァイス(ka0364)と天央 観智(ka0896)の成人男性陣は他に任せたのか、案は無い様だった。
テンシが鼻歌混じりで地面に縦線を案の数だけ引き、横棒で適当に繋いでいく。所謂アミダというやつである。
「我が輩の案が採用されるとイイナー……」とテンシの指先を目で追うのは黒の夢(ka0187)──……だけでは無く、何かしら腹に一物抱えた女性陣はみんなしてテンシ指を追う。
メトロノーム・ソングライト(ka1267)は真顔。
敷島 吹雪(ka1358)は溢れる欲望を隠す事も忘れた目で。
ノアール=プレアール(ka1623)は「キュットシー、とても可愛いし、何よりも珍しいし珍しいし非常に珍しいのでじっくり観察していたいところなんだけどー……」と、他とは違った欲望を感じさせる目で。
全員の目の前でテンシの指がたどり着いた名称はノアールが案を出した『キュットシー』だった。
「よっし! 今からアイツらはキュットシーな!」
テンシが地面に『命名! キュットシー』と書きなぐると、改めてターゲットの様子を全員が目に入れる。
「魅了されるとあんな風に世話させられるのか……恐ろしいな」
ヴァイスがキュットシーに洗脳され、四つん這いで人間椅子になったり、大団扇でキュットシー様を扇ぐ人々を遠目に数えながらひとりごちた。
「……困ったキュットシーたちだことですね……さて、どうにかしませんと──」
その横でキュットシーを数えていたアティエイル(ka0002)が軽く息をつく。
その横で突入準備をしながらソワソワする女性陣に、天央が釘を刺していた。
「見掛けに騙されてはいけません。アレは脅威です」
……とは言う物の、実際のところどうやって脅威を脅威ではなくするのか、という事を考える。
どうやら捕獲したいという案もあり、なかなかに高難度なミッションとしてレベルアップしている様である。
愛らしい見た目で攻撃力がほぼ無いとは言えども、能力的には街を簡単に支配下においてしまう事も可能な雑魔である。
全員の戦闘準備が整ったところで、ハンター達が戦場へ一歩踏み出す。
「俺、みんなが街の人達を救出してる間にやる事あるから!」
「キュットシーを独り占めして、モフモフハンターになるであります!」
と、テンシと敷島が飛び出していった。
「テンシさんはまだ良いとして、敷島さんは大丈夫なんでしょうか…」
溜息混じりの天央の声が空しく響いた。
●とりあえず、やってみよう。
街人や兵士の救出は、意外と簡単だった。
キュットシー達は、顎で『お前が行けよ』とお世話係を顎で使い、それを仁王立ちで腕組みをして眺めるという余裕の見せっぷりだったからである。無表情でつぶらな瞳の筈が、その時だけ少し悪い顔に見えたとか。
それは、リアルブルーのエンターテイメントによくありそうな光景だった。
キュットシーに向かって敵意(?)を放つハンターの動きに敏感に反応した街人が、虚ろな目でハンター達を拘束にかかる。
「時間も掛けられないし少し強引だが、仮にも兵士をやっているんだし大丈夫だろ。悪いな」
ヴァイスが兵士の頭部に剣の柄を打ち付け、昏倒させ……たら逃げる事が出来ないので、昏倒させてしまった兵士に平手打ちで意識を回復させる。
「さあさ、しっかりなさいませ!」
スパーン! と快音を鳴らし、アティエイルが叱咤と共にハリセンで街人を叩き、メトロノームが鞭で兵士を叩く。いや、武器が武器だけにドツく、シバくという表現の方が正しいのかもしれないが。
皆、思い思いの方法で衝撃を与えて街人の目を覚まして行くのだが、殆どの反応が同じ物なのだ。
見事に目を覚ます街人は、目を白黒させて我に返り──キュットシーの方向に戻ろうとする。
無言で後頭部に一発追加、威嚇攻撃、その他諸々の後、目で避難しろと言う。ちょっと怖い。「す、すみません……」とキュットシーの方を一瞥し、街人は街の外へ去って行った。
一通り見当たる範囲の救出が済んだ後、ハンター達は各々の案を試す事になる。各々考えた方法で試してみたい事がある様だった。
アティエイルと黒の夢は、街角に大きな箱とツナ缶を設置して物陰からじっと見守っていた。キュットシーがツナ缶の臭いに引かれ、猫の様に箱に入ったりしないかを試したい様である。
「わぁーおいでおいでーであるー」
ツナ缶をカンカンと叩いて気を引き、黒の夢がキュットシーをダンボールに近づける。一体がおもむろに設置されたツナ缶を拾い上げると、缶ごと口に放り込み咀嚼したかと思えば、まるで唾を吐くかの様に「カランッ」と缶を吐き出したのだった。
問題はツナの食べ方ではない。ここからが本番である。
大きな箱をじーっと見つめていたキュットシーは、箱に近付き…そして、被った。
さらに底を抜いて胴に装着したのである。無表情な筈のつぶらな瞳が、今度はドヤ顔に見えてくるから不思議だ。
──そして、アティエイルの方向に顔を向け、明らかに『ニヤリ』と口を歪め、攻撃を仕掛けようとする。襲いかかる肉球パンチにアティエイルのウィンドスラッシュによる鋭い風が当たり、キュットシーの動きが止まる。
「おいたが過ぎるようですね……躾は確りといたしませんと」
今度はアティエイルの微笑みがキュットシーに向けられた。
黒の夢は、キュットシーをあくまで猫として扱っていた。引きつける為に手に持っていたツナ缶と魚の干物も、まさに餌付け目的の様な差し出し方である。
アティエイルの目的も達せられた様なので、とりあえず食べさせても良いかな。と、キュットシーの顔の前に差し出した。キュットシーは『あーんぐ』と口を開けたかと思うと、黒の夢の両手をガシッと掴み、そのまま口の中へ。黒の夢の手に何ともいえない奇妙な感触が一通り走った後、キュットシーのさば折り攻撃にさらされた。
「我輩も『ふかふか』できるのなっ」
と目をキラキラと輝かせ、長身と自慢の豊満な胸を生かしてふかふか返しを試みる。
二頭身のキュットシーは上手く胸元に鼻先が埋もれる様で、苦しそうに暴れるのだが、黒の夢は足を胴に回して楽しそうに笑う。正に姿がファンシーVS頭がファンシー。何だか仲が良さそうなので、暫くはこのままの状態が続きそう。他に視点を移そう。
●──話は少し戻る。
街人達を避難させた後、メトロノームとヴァイスにも、二体のキュットシーが襲いかかっていた。
ヴァイスは剣による踏み込みに強打を合わせ、距離が開けば着実に銃撃とキュットシーを追いつめていくのだが、メトロノームはのらりくらりと攻撃をかわし、少しずつヴァイスと距離を離していく。
けして押されている訳ではなく、彼女自信の意思によってだ。
肉球パンチを避けながら、ついにメトロノームはヴァイスの死角へと一体のキュットシーを引き込んだ。そして、一人ごちる。
「ふぅ…これで街人達や仲間、邪魔者は排除できましたね…つまり、もうわたしの野望を阻む者はいなくなった訳です。愛らしいキュットシーさんのもふもふを存分に堪能するとともに、魅了の力によって、この呪縛をも解かすという完璧なるプラン。さあ、始めましょうか──」
メトロノームの様子が変わった事に戸惑ったのか、攻撃の手を止めたキュットシーに、彼女はそっと身を委ね、その柔らかな毛並みへと頬を埋めた。
魅了されれば、この凍り付いた表情も解けるかもしれない。しかももふもふして可愛い物に魅了されてなら……
メトロノームが欲望に身を任せ、魅了の力を受け入れた時、姿を見失ったヴァイスが一匹を仕留めて支援へと駆けつけた。そしてヴァイスは見る事になる。幸せそうに柔らかな笑顔を浮かべながらキュットシーに頬擦りするメトロノームの姿を。そして繰り出される、仲間への攻撃。
「邪魔をしないで下さい。私の至福の時間なのですから──」
ヴァイスは思わぬ苦戦を強いられる。メトロノームのアースバレットとウィンドスラッシュによって中々近接での当て身を敢行出来ず、その上中々攻撃が当てられない。
手加減をして何とかなる相手ではないと判断し、ノアール達の方へメトロノームとキュットシーを誘導する立ち回りへと変更する。
●はっけよい! SUMOUファイト
テンシは皆が街人達を救出避難させている間に作り上げた、リアルブルー東方の国の国技に使われるリング、ドヒョウ・サークルにキュットシーを誘い込んでいた。
ドヒョウ・サークルの上で睨み合う二匹、もとい、一人と一匹。互いの風体からか、キュットシーの方からもライバル意識がある様な動きが見える。対してテンシも二度と着ぐるみが脱げなくなっても良い……という覚悟で闘心昂揚を発動する。
がっぷり四つに構え、つぶらな瞳同士が火花を散らし、心の会話がなされる。
『噴水は壊したくない……This way』
『コイツ食ったら美味いかな……』
勿論、前者がテンシ、後者がキュットシーである。
ちなみに後者については無表情な為勝手に表現している。
同時に飛び出した一人と一匹は、ドヒョウ・サークルの中でおよそ見ないであろう動きを見せた。
テンシは飛び上がり空中前転、フランケンシュタイナーの動き。
足をキュットシーの首にかけようとするが、いかんせん体格が違い過ぎる為、キュットシーの胸部に跳ね返され地面に落ちる事となった。
対してキュットシーは鈍重かと思われたその姿で軽快なステップを踏んでいる。
ファンシーな戦いは、今正に熱戦となろうとしていた──
●その時、噴水近くでは。
噴水の中に天央とノアールは立っていた。
まるで結婚式の悪ノリで友人達に噴水へと投げ込まれたカップルの様な状態である。
真っ先に猫と同じなら水が苦手であろうという予測から、噴水に飛び込んだ二人だが、そんな二人を見てキュットシーは「じー」っと見つめていたかと思うと、おもむろに例の足音を鳴らしながら二人に近寄り、ふかふかでは無くじっとり湿った毛並みのハグをプレゼントされる事になった。
雑魔故、猫っぽいからと言って性質が猫という訳では無いらしい。そもそも、猫は二頭身でもないし、二足歩行でもないのだが、それはこの際猫っぽいから「にゃんこ(仮)」と仮命名した人のせいと言う事にしておこう。
──とはいえ、位置取りは抜群だった。
遮蔽物が無い広場の中央、細かい路地に入ってしまわなければ、殆ど動く事も無く武器射程内に敵が収まるからだ。
周囲には大の字になって転がる四体と、未だ健在の二体。そしてウサギ雑魔。もとい、まるごとうさぎを着込んで、息を切らせたテンシ。
キュットシーにお姫様抱っこで連れられ、満面の笑みで頬擦りするメトロノーム、縛り上げたキュットシーを引きずり、広場の端に転がすアティエイル。
そしてどうやらVSファンシー対決は頭がファンシーが勝利した様で、四つん這いにさせたキュットシーの上に股がる黒の夢の姿。
さらに──
「このモフモフは自分のものであります! 我が野望の為、邪魔者は排除するであります」
ドーン!! とでも効果音が付きそうな大の字で、二体のキュットシーの前に立ち塞がるのは敷島だ。これ以上無いくらいに独占欲丸出しな上に完璧な魅了状態、しかも血みどろである。血みどろの理由は追々解るので、少し待って欲しい。
ノアールと天央、ヴァイスが正気に戻しても、目を離した瞬間魅了されているので非常にタチが悪い。
ややこしいので纏めておこう。
現在残っている戦闘可能なキュットシーは4体。
魅了されている物は──
メトロノーム、敷島、そして──テンシ。
ヴァイスが何とかメトロノームとキュットシーを天央とノアールの射程内へと誘い込み、遠距離でのスキルの打ち合いへと持ち込めた。
そして、テンシはファンシーSUMOU対決の際、キュットシー山の肉球パンチによる魅了を受けてしまっていた。幸い対決で息が切れているのか、動きは鈍いので後回しにされている。
そして問題の敷島血みどろ問題である。
メトロノームとの戦闘を天央達に引き継ぎ、何度正気に戻しても魅了されてしまう敷島を正気に戻す作業を行っていた。
「……またか……これではキュットシーの方に手が回らないな……」
そう言いつつ柄で敷島を強打するのだが、女性に対して加減をしているとはいえ、回数が重なると……ということである。
「あらら、自ら魅了されにいくような悪い子は私の人体実験に……って、自らじゃ無いのも多いから冗談も言いにくいわねー……そぉれ、いくわよー! ノアールさん特製魔導バースト!」
天央にメトロノームの応戦を任せ、威力を弱めた当社比威力40%減の魔導砲を敷島に撃ち込み、敷島を正気に戻す。
「はっ……?! 自分は一体何故血塗れでありますか?!」
敷島は正気と魅了を行き来しすぎて混乱状態だが、スナイパーの性か、敵は敵と認識出来ている様だった。
敷島の寝起き(?)の一発がキュットシーの一体を、天央の攻撃でメトロノームの愛らしい笑顔が消えて……違う。更にもう一体を倒す。
そして、ヴァイスに当て身を入れられ正気に戻ったテンシが──SUMOUファイトだった筈がファンシーヴァーリトゥードとなり(最初からだったが)、最後はマウントポジションからのハートフル(ボッコ)で勝利となった。
最後の一体となったキュットシーは集中攻撃を悟ったのか、とあるジェスチャーをして見せた。
親指(?)を立て、首を切る動作、そしてその親指を下へ向ける。所謂悪人の最後っ屁の典型ポーズだった。
──その時。
件のポーズの後、万歳をしたかと思うと、キュットシーは自らを塵へと返したのか、砂が溢れる様な音とともに塵へと帰った。
それと同時にアティエイルが縛って転がしていたもの、黒の夢が股がっていたものも塵へと帰った。
「ああー……もっと仲良しらぶらぶしたかったのなー……」
「捕獲は無理でしたか……あんなに可愛いのに……」
「解剖したかったわぁ……」
捕獲出来なかった事を残念がる女性陣と。
「やっと……終わった……」
「本当にな……」
ただただ疲れ脱力する男性陣と。
──言葉も出さず燃え尽きた物が二名。
そんなハンター達を物陰から眺める影があった。
それは、つぶらな瞳から涙を流すキュットシー。
ふと天央が視線を感じてその方を向くと、そこにはもう何も居なかった。
しかし、予感はある。
奴等はまた、きっと来る。
依頼結果
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相談所 天央 観智(ka0896) 人間(リアルブルー)|25才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2014/07/17 07:18:56 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2014/07/15 18:53:05 |