• 東征

【東征】隠の乾御前/求めしは兵ども

マスター:cr

シナリオ形態
ショート
難易度
難しい
オプション
参加費
1,000
参加制限
-
参加人数
4~8人
サポート
0~0人
マテリアルリンク
報酬
普通
相談期間
5日
締切
2015/07/20 19:00
完成日
2015/07/28 01:53

みんなの思い出

思い出設定されたOMC商品がありません。

オープニング


 山本五郎左衛門を討ち果たし、歓喜に湧いた東方が、再び絶望で塗りつぶされようとしていた。
 突如その姿を表した九つの蛇をその尾に宿した大狐。妖怪の首魁にして、憤怒の歪虚の至高存在。比喩抜きに山の如き巨体を誇る妖狐は既に展開されていた結界を抜け、東方の地を蹂躙しながら天の都へと至ろうとしていた。
 ――数多もの東方兵士たちの生命を貪りながら。
 同時に、妖狐は東方の守護結界に大穴を作っていた。今もその穴を通じ妖怪たちが雪崩れ込んでおり、百鬼夜行が成らんとしている。

 かつて無いほどの窮地に立たされながら、東方はそれでも、諦めなかった。
 最後の策は指向性を持った結界を作り九尾を止め、結界に開いた穴を新たなる龍脈の力を持って塞ぐこと。それをもって初めて、最終決戦の為の舞台を作る。

 そのために今必要とされるのは人類たちは九尾達の後方――かつて妖怪たちに奪われし『恵土城』の奪還と、可及的速やかな結界の展開。
 東方の民と東方の兵の亡骸を――僅かでも減らすその為に。


 暴れ回る大妖狐を大きく迂回し、漸く辿り着いた恵土城を遠方に見やったハンターと東方武士達は、言葉を無くしていた。美しき東方の城。その天守閣を覆うほどに黒々と広がった、『泥』。
 同道していた術士が呆然と呟いた。
「……龍脈が」
 喰われている、と。
 地下から吸い上げられた龍脈が天守閣の泥へと吸い上げられている。しかし、果たして、この戦場における狙いは定まった。

 地下と天守閣。その二つを、落とさなくてはならない。
 この局面での失敗は、即ち東方の終わりを意味する。だが、恐れずにハンター達は歩を進めた。
 ――運命に、抗う。
 ハンター達は、その言葉の意義を自ら証するためにこの場にいた。


 恵土城、その大手虎口に設けられた枡形の中に溢れかえる妖怪変化の類。かつては外敵から城を守るために作られたそれも、こう成ってしまっては人々に牙を向くものに他ならない。
 そこに一人の女が表れる。身の丈六尺の大柄な体躯だが、女性らしいしなやかさを備えた身体は見るものの眼を引く。鎧具足を身にまとった容姿端麗なその姿は彼女がこの一群の長を務めていることを表していた。
「御前!」「御前!」「御前!」
 軍勢の中から彼女を呼ぶ声が響く。“御前”と呼ばれた彼女はそれを右手で制す。その手は人のそれではなく、まるで桜の樹皮の様に深い茶褐色のごつごつとしたものであった。
「大体分かった。お前たちはここで待ち、私に続け」
 “御前”は簡潔に命令を下すとふう、と息を一つつき、一言呟く。
「しかし私に城の守りを任せるとは。これでは強者を求めることが出来ぬ。全く、あの方も人が悪い」
 そして彼女は左肩を撫でる。その先には生えているはずの腕が無かった。左腕を持たぬ隻腕の女武者、“御前”と呼ばれた彼女こそ九尾御庭番衆が一人、乾御前であった。


 一方ここは龍尾城大広間。そこではエトフェリカの者、救援に来た西方諸国の人々が互いに喧々諤々と意見を交わしている。
 広間の一段高くなった場所にはこの城の主である八代目征夷大将軍、立花院 紫草が座していた。彼は人々の意見をじっくりと聞き、そしてその口を開く。
「さて、かの大妖狐を止め、力を削ぐためには、龍脈上にある恵土城を押さえ要石を設置することが必要です。状況は一刻を争いますが……そろそろ向かわせた草が帰って来ます。各々方の考えも分かりますが、急いては事を仕損じるとも言います。我々は仕損じるわけにはいかないのです。まずは状況を把握しようではありませんか」
 その時、天井裏から一つの声が響いた。
「将軍様、故あってこの場所からで失礼致しますが、ご報告を差し上げます」
 それは彼が送った草、つまり忍びからの一報であった。何故このような形での報告になるのか、と訝しむ者も居たが、その理由はすぐに分かった。将軍の前に紅い滴がぽつりぽつりと落ちる。恐らく忍びは最後の命の炎を燃やし、ここに辿り着いたのであろう。その天晴な忠心を思いばかりながら、人々は彼の報告を聞く。
「大手、搦手どちらにも数多くの敵が居ります。それを指揮するのは大手側では隻腕の女武者……」
 その時、紫草の眉が少し動いた。
「乾御前、ですか」
「将軍様、ご存知なのですか?!」
 思わず下に座る者達が声を上げる。将軍はそれを咎めるわけではなく、微笑んだまま頷くと天井裏に向けて一声かける。
「よくぞ知らせてくれました。これで我々は攻め入ることができます」
 そして彼は恵土城周辺の地図を開き、その大手虎口枡形部を扇子の要で指し示した。
「ここに居るのは乾御前と呼ばれている者、そしてその配下達。配下はともかく、彼女は刀の達人です。正面から立ち向かうのは愚策でしょう」
 彼ほどの剣の使い手があっさりと達人と認める敵。それが示す敵の力量を知り、一同は恐怖を感じていた。
「しかしこれは同時に光明です。乾御前にいかにして与するか、それがわかれば城内に多くの者を送り込むことが出来ます」
 そして将軍は要を左側から虎口に向けて滑らせる。
「まずはこちらから一度仕掛けます。数は要りません。少数精鋭であれば良い。これで乾御前を枡形から釣り出し、その隙に逆側から塀を壊して一気に突入します」
 将軍が立てた案に場は重苦しい空気に包まれる。乾御前なる敵は果たして、彼が思うとおりに動き釣り出されるのか、その疑問に将軍は答えた。
「乾御前は彼女の眼に適うほどの強者であれば、どこまでも追いかけるでしょう」
 その時、将軍は昔を思い返すかのようにすう、と眼を細めた。


 場面は戻って恵土城大手虎口枡形。乾御前の前には一人の忍びが倒れていた。その背には六尺にもなる大太刀が突き刺さっている。
「一人逃したか。まあいい、これであいつが来てくれることがわかった」
 そして彼女は右腕を引く。それに合わせ、背中に刺さっていた太刀はひとりでに抜け、彼女の元へと戻りその手に納まった。これこそが彼女の切り札となる技、「戻り刃」である。
 手元に戻った太刀の刃にべったりと付いた血を御前はべろりと一なめする。その口元には血をすするための白い牙が見えていた。
「さあ、どんな強者が来てくれるんだ? 私は待っているよ」
 そして御前は誰に聞かせるともなく、失った左腕の付け根を撫でながら、こう付け加えた。
「愛しているわ、紫草」

リプレイ本文


「敵襲!」「敵襲!」
 戦場に声が響く。待ち構えていた妖怪どものその声は、しかし一瞬のうちにかき消された。扉が打ち破られる音。それに続き銃声が幾重にも重なって鳴り響いたかと思うと、すぐに武器と武器がぶつかり合う金属音が轟く。
 左から出たのは和泉 澪(ka4070)だ。彼女は突入し一瞬周囲を見ると最も敵の影の濃いところへと一目散に向かっていった。当然のごとく殺到する妖怪変化達。
 だが、敵の渦の中心で澪が手にした黒鉄の刃を振るう度、一つ、また一つと斬り捨てられている。もちろん敵も前後左右から襲いかかるが、それも彼女の舞を引き立てるものにすぎなかった。
 中央からはアーサー・ホーガン(ka0471)が進む。妖怪たちはアーサーを止めようと二重、三重に取り囲む。それを引き付けきった所でアーサーはただ、その手の剣を振るう。それだけで十分だった。
 取り囲んでいた妖怪たちの黒い影は一瞬で散り散りに、文字通り薙ぎ払われた。まさしく鎧袖一触の働きであった。
 一方右から出たのはミュオ(ka1308)だ。枡形内へ飛び込んだ彼は、挨拶とばかりに手近な妖怪へと突進する。その小柄な体より遙かに大きな両手剣を軽々と持ち上げるとそのまま一撃。これだけで妖怪には十分だった。
 しかしミュオはこれで止まらない。もう一度剣を振り上げ奥を覗く。
「かかれー! 我が配下に遅れを取るような小物は居ないはずだぞ!」
 そこには指示を送る御前の姿が見える。その美しい姿に一瞬胸を高鳴らせるが、それだけだ。ミュオはすぐさま体を一回転させると、剣の峰を今まさに斬り捨てた妖怪にぶつける。それは強烈な加速を持って戦場を飛び、御前の元へと向かう。
「ちっ!」
 御前が一太刀の元に斬り捨てたその先にあるのは笑顔で剣先を向けるミュオの姿。
 それを見た御前は確かに笑っていた。

 一方、歪虚達も数に任せて押し寄せ、後ろからは石礫を投げつける。だが投げつけた歪虚達が見たのは、その何倍もの量になって降り注ぐ銃弾の雨だった。
 高麗門から離れて戦場の最後方。そこにミオレスカ(ka3496)とアメリア・フォーサイス(ka4111)が居た。
 ミオは素早くマガジンを交換するとじっくりと狙いを付ける。狭い門をくぐり、味方達をすり抜けて敵に刺さる弾道を計算すると、トリガーを連射する。発射された銃弾はまさしく彼女の思い通りに敵へ向かって進み、そこにいる一団に死の雨を降らせた。
 対してアメリアはライフルを構え直すと、ぞんざいに引き金を引いた。連なって撃ちだされる弾丸も、明後日の方向へと飛び門の内側に当たる。だが、それはアメリアの狙いだった。
 弾丸は門に当たると跳ね返り、もう一方の敵へと突き進んでいた。その予想をあざ笑う死神の鎌は石を投げようとした歪虚達の命を刈り取っていた。

 そして押し寄せる敵達を、続けて城内に入った三人が押さえる。
 まず飛び込んだのはクリスティン・ガフ(ka1090)だ。彼女は魔導バイクにまたがり一気に突入する。たとえ乗るものが鉄の馬だとしても、彼女が見せる斬魔剛剣術に曇りは無い。丹田に回したマテリアルをそこから全身に巡らせると、担いだ体の倍以上の大きさの斬魔刀を振るう。それが巻き起こす剣風は、次々と歪虚達に死をもたらして行く。
 続いてアイビス・グラス(ka2477)が行く。彼女はその機動力を活かし、前に立つ三人の後ろから手裏剣を投げつけ、ワイヤーウィップを振るう。その前に敵はアイビスはもちろん、前衛達にまともな一太刀を浴びせることも叶わず斬り払われて行く。
 そしてもう一方には小柄な少女が立っていた。その小さな姿を見て与し易いとばかりに押し掛かる歪虚達。しかし彼らは、近づいた彼らの元に赤黒い残像が降り注いだ。
 そこに居たのはターニャ=リュイセンヴェルグ(ka4979)だ。彼女は刀が届くその外からそのグレイブを振るう。黒い柄に赤い装飾が施された美しいそれも、歪虚にとっては禍々しく狩るものに他ならない。敵達はターニャに近づくこと叶わず、ただその槍に貫かれるのみであった。


 だが、やがて少しずつ歪虚側が押し始めた。止めどなく襲い来る歪虚達。ハンター達の一騎当千の立ち振舞の前にも、将として御前を持つ歪虚達は士気が高い。
「私自らが出るぞ! さあ人間ども、存分に斬り合おうではないか!」
 さらに御前は前へと出る。それを受けさらに一気呵成に攻め立てる歪虚。
 しかしこれはハンター達の狙いだった。確かに御前は将軍の情報通り前に出てきた。自分達の目的は枡形を突破することではない。
 そこでまず、前に立っていた三人が下がる。代わって前に出たクリス達が敵の攻撃を受け止め、また下がる。これを繰り返し、少しずつ敵に背を見せること無く下がっていく。誘い込まれていることに気付かず追い掛ける歪虚無。
 やがてハンター達は、そして先駆けに立つ御前は門の外へ出た。配下の妖怪たちも雪崩を打って後に続く。
 その時門の逆側では、別働隊が塀を壊し城内へ進入する道を確保しようとしていた。果たして御前はそれに気づいていたのだろうか。しかし、彼女が例え気づいたとして城内に戻ろうにも、その前には一人のハンターが立っていた。

「貴女と戦う前に礼儀として挨拶させて貰うわね。私はアイビス・グラス、武器は私自身よ」
 その時御前の前に出た彼女は、先程まで使っていた武器を持っていなかった。ただその拳と脚でもって立ち向かおうというのだ。
 御前は周りを一瞥する。そこには、続こうとした配下たちをそのグレイブ一つで押さえるターニャの姿があった。御前はアイビスの元へ向き直ると、壮絶な笑みを見せる。
「お膳立て感謝する。さあ存分に斬り合おうじゃないか……!」
 その言葉が終わるか終わらぬか時に御前は進み出ていた。一瞬の内に間合いを詰め右腕に持った太刀を横薙ぎに振るう。
 だが、刃が振るわれた時アイビスの姿はかき消えていた。横か、後ろか……いや、上だ!
 空高く舞ったアイビスはその勢いのまま門を蹴り跳ね返ると、振り上げた踵を御前目掛けて振り下ろす。ネリチャギと呼ばれる必殺の一撃。
 とっさに身をよじった御前だが、それは御前の右肩を捉えた。そして音もなく着地するアイビス。
「いい蹴りだね……おかげで思ったとおりの所に来れた」
 その時、御前は笑っていた。アイビスの攻撃を受けながら一瞬で体を入れ替え、立つはハンター達の中心。これぞ舞刀士の技の一つ、『電光石火』である。
 その時アーサーはその武勇を楽しんでいた。彼は御前が見せた隙に突進の勢いを加えた一撃を食らわせようと考えていた。だが、御前はその上を行ってきた。刃と蹴りを交錯させた後に立っていたのはまさしくアーサーの目の前だったのだから。これでは突進しようにも、突進するための距離が無い。
「乾御前、強者を求めるのは、俺も同じだからな」
 だがアーサーは止まらない。ならばと大きく踏み込み、その剣を御前の死角、左半身目掛けて突き出す。しかし御前はその一撃を受け止めると、その次の瞬間、受け止めた太刀が消えた。
 一瞬の内に、前へ後ろへ、右へ左へ振るわれる御前の太刀。縦横無尽に薙ぎ払われる刃を、ハンター達はただ受け止めることしか出来ない。
 後方に居たミオとアイリアはとっさに銃弾を撃ちこむ。特にミオは冷気をまとった銃弾でその剣劇を止めようとする。だがそれは、ただ彼女の刃の元に打ち払われるのみだった。
 面を制圧するような攻撃に留意していたクリスはすかさず、バイクに乗ったまま突進し、渾身の一撃をその刃に向けて放つ。だが、それすら御前には届かなかった。刃を振るいながら同時に突進を捌く。クリスは攻撃を受けないよう離脱するしか無かった。
 そして襲い来る刃。アイビスはすかさず見切り、再びかわそうとするが、多少威力が落ちようとも空間を切り取るかのごとく何度も振るわれる刃の前には、避ける場所が残されていない。その刃が少しずつ彼女の体を傷つけていく。
 アーサーは剣で身体を覆うように構える。そしてわざと一箇所、隙を用意する。
 これだけの早さで太刀を振り回していても、御前は正確にそこを狙ってくる。だが、狙いが絞られれば対処することも容易い。急所目掛けて襲い来る刃をギリギリの集中力で交わし、それ以外の攻撃を跳ね返していた。
 一方ミュオはただ、じっと耐えていた。嵐のようにぶつけられる攻撃を、剣を構えひたすら耐える。目の前の攻撃を捌くことに集中していた。
 自らの力量で何ができるのか、ミュオは冷静に把握し、それを愚直なほどに実践していた。そして機会を待つ。
 対して澪はしっかりと御前の動きを見て回避しようと考えていた。だが実際に目の前にして、それが甘かったことを思い知らされる。見切りを超える速さの連撃。刃が澪の体を容赦なく傷つける。だが、それでも必死に刃を捌き一瞬を待つ。
 そしてその時は来た。御前の剣劇の終わり際。それを狙う。
「鳴隼一刀流、和泉澪、行きます!」
 流れた御前の体目掛け刀を振るう。白刃がきらめき確かに一太刀を浴びせた感触が残る。
 だが
「いいのを寄越してくれたわ……ならば答えてあげないとな!」
 下から上へ、刷り上げるように振るわれた太刀が描いた円は澪の体を弾き飛ばしていた。そして
「あと貴様らは目障りなんだよ!」
 その体を逆にひねり、そのまま太刀を手から滑らせる。
 ミュオはこの時を待っていた。自身のマテリアルを剣に込め、出来る限りでの最速の一撃を放つ。少しでも手元が狂えば……。だが、御前はその思いをあざ笑うかのように踊るように足を運び、ひらりとかわしてみせる。強い踏み込みをした証拠として勢い余ってつんのめるように転がるミュオ。
 その頃太刀は空を飛び一直線にミオへと飛ぶ。そしてそのまま彼女の体に突き刺さった。どんなものも立っていられないような強烈な一撃。
 だが、ミオは深く傷つきながらも立っていた。皇帝から下賜された盾と、それと共に託された仲間の思いが致命傷を避けてくれた。
 そしてハンター達もただやられているばかりではなかった。そんな思いとともに放たれた一撃は御前が刀を放つのには間に合わなかったが、それでも彼女のバランスを崩す働きをしてみせた。
 御前は追撃に備え、すかさず太刀を戻す。ミオの身体から抜けた太刀は巻き戻しを見ているかのごとく宙を舞い御前の手元へと飛ぶ。
 アイリアはそれを妨害するため刃に何度も銃弾を撃ち込む。しかし、澄んだ金属音と共に弾丸は跳ね返される。
 そこでアーサーはとっさに戻る太刀に剣を叩きつけた。ガキンという衝撃音と共に、太刀は空高く回転して吹き飛ぶ。
「いい考えだね……でも人の理を抜けられてないな!」
 しかし御前は余裕を崩さずそう言い放った。吹き飛んだ太刀は鋭くカーブしながら御前の手元へと戻っていく。御前の太刀は例え何があろうと彼女の手元へと戻るのだ。
(名乗り合って、お互い正々堂々と戦えるのなら、それはきっと気持ちのいい強さだと思います)
 その時だった。太刀と御前の手の間に極厚の金属が突き出される。
「でも――それだけが強さじゃ、ない」
 それは転がったはずのミュオだった。太刀は手元に収まる瞬間に弾かれる。ほんの少しだけずれて再び御前の手元に収まりはしたが、その紙一重の差が戦いを分けた。
「やるじゃないか!」
 御前は刀を戻すと同時に、ミュオ目掛け刃を叩きつける。鎧の肩口に食い込むような痛烈な一撃。だが、そこから一呼吸で返されたもう一撃をミュオはその固い守りで受けきる。
 一方、アーサーは目の前で暴れまわる御前を手をこまねいて見ているわけではなかった。御前の斬撃の終わり際に、死角目掛けて乾坤一擲の突きを繰り出す。
 御前もとっさに太刀を振るい返す。二つの刃が交わり赤いものが飛び散る。
 アーサーの頭部、黒い羽飾りの付いたヘルムを変形させるほどの強烈な一撃が叩きつけられていた。アーサーの目の前に、だらりと血が滴る。
 だが、アーサーの繰り出した一撃は確かに御前の左肩へと突き刺さっていた。
 それを見て配下達は押し寄せようとする。しかしターニャが振るうグレイブを抜けることは叶わず、一人、また一人と赤黒い色と共に貫かれていく。
 そしてバイクの駆動音が鳴り響いた。
「乾御前、一騎打ちを!」
 飛び込んできたのはクリスだった。彼女はそのままバイクを降り、斬魔刀を肩に乗せ構える。
「斬魔剛剣術が剣士、クリスティン・ガフ! 推して参る!!」
「次から次へと……楽しませてくれるよ、お前達は!」
 怒りとも快感ともつかない叫びと共に、御前は上段に構えた太刀を振り下ろす。クリスはそれに併せ、ほぼ同時、ほんの一瞬だけ遅らせて振り下ろす。刃にマテリアルを込め、斬撃と同時に呼吸を用いて丹田に回し加速する一撃。刃と刃が交わった後、そこには互いの斬撃を髪一本の差でかわした両者が立っていた。
 再び斬り合うため両者はジリジリと間合いを詰める。その時、奥からひとつの声が響いた。

「御前は意外と弱いんですね」
「何を言う貴様っ!」
 それはミオの声だった。その挑発に激昂する御前。だが、その言葉は別の意味を持っていた。
(突入が完了したようだ。撤退するぞ)
 配下を一手に食い止めていたターニャが送る視線。それは、別働隊の突破が完了したことを意味していた。御前を挑発する言葉は同時に、陽動を務めていた彼らが撤退をするサインである。

「何れまた死合おう! 乾殿」
 退くハンター達。追う御前。だが、その前に一人の影が立ちふさがった。
「最後に一本、勝負ですっ!」
 それは澪であった。痛烈な一撃を受けた彼女だが、体内のマテリアルを活性化させ必死に傷を癒していた。万全とは言えぬが再び立つことならできる。
「まずは貴様からだ!」
 怒りとともに放たれる斬撃。それを澪は踏み込みながらかわす。そして
「鳴隼一刀流、隼風旋!」
 そのまま通りぬけ、その黒ずんだ刃を振るう。その一撃は見事御前の身体に傷を刻み込んだ。
「ああ、認めてやるよ」
 傷口を気にしようともせず、御前は澪にそう言った。
「覚えておきな! そしてあいつに伝えるんだな! この乾直虎の名を!」
 そこから振るわれた最速最強の一撃は澪の体を大きく吹き飛ばす。だが、澪が稼いだ時間が両者に大きな距離を作っていた。とっさにその体を受け止め、退くハンター達。ここまでの距離では例え御前にもどうしようもない。ハンター達は見事本懐を遂げたのだ。


「ああ……あの方に何と報告しようかねぇ」
 ハンター達が去った枡形に御前は一人立っていた。彼女の前には盛大に壊された塀の残骸がある。だが、御前は追うこともせず、そこに立っていた。
「全く、やってくれるよ」
 そう一つ呟く御前の顔は、しかし修羅の如く笑っていた。

依頼結果

依頼成功度成功
面白かった! 9
ポイントがありませんので、拍手できません

現在のあなたのポイント:-753 ※拍手1回につき1ポイントを消費します。
あなたの拍手がマスターの活力につながります。
このリプレイが面白かったと感じた人は拍手してみましょう!

MVP一覧

  • 純粋若葉
    ミュオka1308
  • Centuria
    和泉 澪ka4070

重体一覧

  • Centuria
    和泉 澪ka4070

参加者一覧

  • 蒼き世界の守護者
    アーサー・ホーガン(ka0471
    人間(蒼)|27才|男性|闘狩人
  • 天に届く刃
    クリスティン・ガフ(ka1090
    人間(紅)|19才|女性|闘狩人
  • 純粋若葉
    ミュオ(ka1308
    ドワーフ|13才|男性|闘狩人
  • 戦いを選ぶ閃緑
    アイビス・グラス(ka2477
    人間(蒼)|17才|女性|疾影士
  • 師岬の未来をつなぐ
    ミオレスカ(ka3496
    エルフ|18才|女性|猟撃士
  • Centuria
    和泉 澪(ka4070
    人間(蒼)|19才|女性|疾影士
  • Ms.“Deadend”
    アメリア・フォーサイス(ka4111
    人間(蒼)|22才|女性|猟撃士
  • 黒衣の小狼娘
    ターニャ=リュイセンヴェルグ(ka4979
    人間(蒼)|12才|女性|闘狩人

サポート一覧

マテリアルリンク参加者一覧

依頼相談掲示板
アイコン 依頼前の挨拶スレッド
ミリア・クロスフィールド(kz0012
人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人
最終発言
2015/07/17 09:54:55
アイコン 相談卓
和泉 澪(ka4070
人間(リアルブルー)|19才|女性|疾影士(ストライダー)
最終発言
2015/07/20 12:46:10