ゲスト
(ka0000)
野菜畑でつかまえて
マスター:黒木茨

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~6人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/22 15:00
- 完成日
- 2015/08/03 18:08
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●怨念野菜おまちどう
「俺たち、これからどうすりゃいいんだ……」
先日この村を襲った嵐は、想定以上に甚大な被害を残した。
大荒れの畑の姿は、人々の気を削ぐに充分であった。
「あとちょっとだったのにな……」
溜息をつく彼らに太陽は黙して照りつけるだけだ。
「な、なんだありゃあ!?」
「でけぇ!」
翌朝、起床した農民たちを迎えたのは、雄叫びを上げ、足音を轟かせている野菜たちであった。
それらは、昨日嵐でぼろぼろになった野菜と同じものだ。
「で、でも……危ねぇ!」
野菜たちは畑を転がり、人々を追い始めた。巨体に潰されるわけにもいかず、人々は逃げ惑うばかりだ。
「おい! 今すぐ人を呼んでくるんだ!」
そこを通りがかった若者と少年に農民は叫び、人々のあとを追うように駆けた。
人々が向かった先は、村のはずれにある教会だった。
祈りの場だとしても、あの野菜の脅威を防げるのであればなんでもよかった。
伝達役である二人を除き村人が残らず入ったことを確認した後、人々は扉の前に椅子などを重ね合わせバリケードを作る。
「これで、しばらく持てばいいがな……」
野菜はまだこちらには来ていないようだ。あの地響きは届かない。
助けが来ることを祈って、村人は息を潜めていた。
●オフィスにて
「ちょうど良かった! ジェオルジから緊急の依頼が届いていますよ」
ハンターオフィスで依頼を探しているあなたは、受付嬢から声をかけられた。
「なんでも、嵐でボロボロだった野菜が元気な雑魔になったみたいです」
この言葉だけでは、事態がいまいちつかめない。
詳細な説明を求めると、受付嬢は暫しの間思案して、棚から村からの手紙と地図を用意した。
「突然野菜に手足が生えて二足歩行し、人を襲っているそうで……敵の数は……」
途中で言葉を切った受付嬢は、戸惑ったように手紙を確認して続ける。
「『たくさん』だそうです……出来るだけ急いだほうが良いと思います」
そして、地図を広げてこう言った。
「村の地理はこうなっています。私どもは責任を持って皆さんを送りますけど……行きますか?」
「俺たち、これからどうすりゃいいんだ……」
先日この村を襲った嵐は、想定以上に甚大な被害を残した。
大荒れの畑の姿は、人々の気を削ぐに充分であった。
「あとちょっとだったのにな……」
溜息をつく彼らに太陽は黙して照りつけるだけだ。
「な、なんだありゃあ!?」
「でけぇ!」
翌朝、起床した農民たちを迎えたのは、雄叫びを上げ、足音を轟かせている野菜たちであった。
それらは、昨日嵐でぼろぼろになった野菜と同じものだ。
「で、でも……危ねぇ!」
野菜たちは畑を転がり、人々を追い始めた。巨体に潰されるわけにもいかず、人々は逃げ惑うばかりだ。
「おい! 今すぐ人を呼んでくるんだ!」
そこを通りがかった若者と少年に農民は叫び、人々のあとを追うように駆けた。
人々が向かった先は、村のはずれにある教会だった。
祈りの場だとしても、あの野菜の脅威を防げるのであればなんでもよかった。
伝達役である二人を除き村人が残らず入ったことを確認した後、人々は扉の前に椅子などを重ね合わせバリケードを作る。
「これで、しばらく持てばいいがな……」
野菜はまだこちらには来ていないようだ。あの地響きは届かない。
助けが来ることを祈って、村人は息を潜めていた。
●オフィスにて
「ちょうど良かった! ジェオルジから緊急の依頼が届いていますよ」
ハンターオフィスで依頼を探しているあなたは、受付嬢から声をかけられた。
「なんでも、嵐でボロボロだった野菜が元気な雑魔になったみたいです」
この言葉だけでは、事態がいまいちつかめない。
詳細な説明を求めると、受付嬢は暫しの間思案して、棚から村からの手紙と地図を用意した。
「突然野菜に手足が生えて二足歩行し、人を襲っているそうで……敵の数は……」
途中で言葉を切った受付嬢は、戸惑ったように手紙を確認して続ける。
「『たくさん』だそうです……出来るだけ急いだほうが良いと思います」
そして、地図を広げてこう言った。
「村の地理はこうなっています。私どもは責任を持って皆さんを送りますけど……行きますか?」
リプレイ本文
●悪夢の終わり
被害を受けている村では、相変わらず雄叫びを上げて巨大野菜が足音を轟かせていた。
教会の扉が幾度となく叩かれ、軋み破られようかという頃、立て籠っている村人の耳に、バイクの走る爆音と野菜たちの呻きらしき声、そして何かを殴る鈍い音、風の巻きあがる音が聞こえた。
「ハンターが来たのか……?」
ある村人がそう呟く。
「ああ! そうか、届いたんだな……あいつら」
伝達役が仕事をやり遂げたことを嬉しく思いながら、村人はハンターがあの野菜どもを殲滅する時を待った。
教会の外では、藤堂研司(ka0569)とアステリア・セリーフィア(ka4496)が雑魔の掃討にあたっていた。
先ほど村人の耳に入った打撃音は、アステリアの攻撃によるものだろう。
チャリならぬ魔導バイクで来た研司の銃から放たれる冷気を伴った弾丸が雑魔の胴体を抉る。
銃弾を受けた野菜雑魔――トマトは弾痕から赤い汁を吹き散らすかと思いきや、ぴしりとその場に留まっていた。
「こっちの世界じゃ野菜は冷凍されるもんだ!」
研司は言う。研司に遅れて、アステリアも口を開いた。
「助けに来ましたから安心してください。ばぁんとやっつけちゃいます!」
その声は、壁を越えた教会の中の村人にも届き、希望を与えた。
『教会周辺の敵は減りましたが……やはり畑に多く発生しているようです』
教会から少しばかり離れた畑の近くで、セレナ・デュヴァル(ka0206)は物見櫓から村の全貌を見るリステル=胤・エウゼン(ka3785)からの伝話を聞き、こくりと頷いた。
「おお! 元気で旨そ……もとい、倒し甲斐のありそうな雑魔達よのう」
セレナの隣ではアルマ(ka3330)が畑に転がる巨大野菜たちを見て一言。
「この大きさならば、いろんな意味でアルマを満足させてくれそうじゃて」
「……食べ物大事。美味しいは正義」
アルマの言葉にセレナも口数少ないながらも、同意のそぶりを見せた。
「さぁ、覚悟召されよ! ヌシらは既にまな板の上の野菜じゃ!」
アルマはそう言って自分に向かって真っ直ぐ転がる巨大ピーマンをひらりと避け、そのまま止まるまで進み続けるピーマンの背後を取って強く踏み込み、剣の分厚い刃で叩き斬る。
そうして動きを止めたピーマンをセレナがウィンドスラッシュでパックリと刻んだ。
残されたピーマンは消えることなく、その姿のまま死骸を残した。そのピーマンの末路を見ても畏れることなく、畑の他の巨大野菜たちはセレナとアルマに狙いを定めた――
物見櫓から降りて畑に向かったリステルとキーリ(ka4642)もまた、巨大野菜の標的となったようだった。
「やだかわいい……!」
キーリは巨大野菜にちょんと生える手足を見つつ呟いた。
「かわいい……ですか?」
そんなキーリを、リステルは苦笑しながら一瞥する。キーリは幾度か咳払いをし、口を開く。
「勿論わかっているわよ? 早く村人を救出しなきゃね」
そしてキーリは魔法を用い、巨大野菜のうちの一つ、巨大キュウリに鋭い風の刃を放つ。
巨大キュウリは自らの葉でそれを防ごうとするが、その葉は無残にも微塵切りにとされてしまった。
「研司さんとアステリアさんは、うまくやっているようですね」
巨大南瓜の蔓を避けながら、リステルは上から見た教会の様子を思い出した。
教会には、リステルも時間があれば向かおうと思っていたが、事態が思う以上に切迫していたため、行くことが出来なかったのだ。
無論、教会にこの野菜たちを向かわせるわけにはいけないので、自分たちがここで食い止めねば……とリステルは気を引き締める。
「キーリさん!」
リステルが葉を錫杖で受け流し、キーリのために隙を作った。
「どーもどーも」
キーリはその隙を逃さず、もう一度――今度は燃え盛る炎の矢を放った。
矢をその身に受けた巨大南瓜はその場に倒れるものの、矢はそこで消え、炎も残らない。
巨大南瓜も水分ピチピチのフレッシュな身体でそこに残っていた。
「ありゃ」
とここで、キーリは魔法の効果を思い出したのか、呟く。
「こんがり野菜で一石二鳥だと思ったんだけど」
●ばぁんと、冷凍南瓜
「こんなところ、か!?」
巨大野菜を凍らせながら、研司は辺りを見回す。
アステリアがストライクブロウでばぁんとナスを叩いた後に残った野菜は――三つの南瓜であった。
アステリアは南瓜に対して少し足が竦むものの、勇気……というより闘争心を奮い立たせて立つ。
「皆さん、あと少しです! 待っててください!」
そうして、教会の中に居る村人に語りかけながら、アステリアはフレイルを握り締めた。
三つの巨大南瓜は二人の標的を認めると、蔓と葉を伸ばして攻撃する。
その先にいた研司は寸でのところで避けるものの、巨大南瓜の勢いは止まらない。
蔓と葉を伸ばしているものとは別の二つがアステリアに向かって突進した。
「……嫌……」
アステリアは遠い昔の出来事を巨大南瓜の姿から思い出す。
その時の出来事が、アステリアを侵食する。
「…………チャの……バケ……」
突進する二つのうちの先を行く方は、ぼそぼそと何かを呟くアステリアのすぐ傍まで来ていた。
「………………カボチャの……オバケは」
アステリアの呟きがようやく意味を取れそうなほどになった頃、巨大南瓜の突進はアステリアの目と鼻の先にある。
アステリアの手の中のフレイルは頭上高く掲げられるが、このままでは弾き飛ばされてしまうだろうといったところだった。
「だぁぁぁらっしゃぁぁぁ! オラァッ!」
その時ッ! アステリアの普段の姿からは想像もつかないほどの雄叫びと雄々しい打撃が迫る巨大南瓜を砕いたッ!
砕かれた巨大南瓜の残骸は空中でバラバラになり、地に落ちる!
「あ、あの、アステリアさん?」
研司はまるで人の変わったようなアステリアの様子に困惑したッ! ようにアステリアを二度見するッ!
「ぶち殺すぞこのカボチャオバケ野郎がぁ!」
アステリアの形相と口から放たれた言葉に研司は改めて目を丸くした。
「アステリアさん!? ……いったいどうしたんだ!?」
無残にも砕かれた同胞の姿にも怯むことなく、もう一方の巨大南瓜もまたアステリアに突進するも。
「かかってこいやぁ!」
研司の弾丸による援護もあってか、アステリアの手で綺麗に真っ二つとなった。
「アステリアさんと南瓜の間にいったい何が……?」
巨大南瓜のさっぱり消えた戦場を見て、研司は一人ごちるが、うかうかしてもいられないと教会の扉を叩いた――
●はじける野菜と土の香り、ジャイアントベジタブル。
研司の鳴らした教会の鐘が重々しく鳴り響くのを、セレナは聞いた。
「なに、教会の方は片付いたのか?」
セレナとは距離が離れているものの、同じくそれを耳にしたアルマが、セレナに顔を向ける。
セレナはこくりと頷き、
「そう……でしょうね」
と言った。
「私たちも……やりましょう」
次いで、セレナが自らの周囲に集まりつつある巨大野菜をスリープクラウドで眠らせる。
「助かるぞ!」
そこを、アルマが確実に仕留めるよう接近し、その分の力を剣に込めて突いた。
身動きの出来ない巨大野菜たちはその攻撃を避けることも出来ず、次々にアルマの剣によって穴を空けていく。
「援護します……」
しかし、途中で効果が切れ始めたのか、目覚めつつある巨大野菜がアルマに蔓を伸ばすのを見、セレナは改めて魔法を放つ。
風の力を受けて巨大野菜は鋭い雄叫びを上げるが、そこをアルマがトドメを刺して反撃の手を止めさせた。
「かたじけない」
アルマはセレナに礼を言いつつ、屈みこむ。
そうして巨大野菜の死角に潜り込めたのが幸いとして、巨大野菜はアルマの予期せぬ攻撃にただ屠られるばかりであった。
「そう……美味しいは正義」
自らの遠く離れた場所に居る巨大野菜をもセレナは魔法の矢で射抜き、次々と巨大野菜の残骸を地に転がす。
畑にはセレナとアルマの他にリステルとキーリが野菜雑魔の討伐に当たっているため、そう長くはかからない、ものの……
「ぬう!」
アルマは唸る。やはり体格差というものは大きいのか、攻撃が通らないこともある……しかし。
覚醒したリステルの飛ばした影の一撃が敵を砕く。こうして連携し、暴れる野菜を次々とただの『美味しい野菜』としてきたのだった。
畑に居るものでは最後の巨大野菜……巨大ナスを倒しきったところで、リステルは口を開く。
「建物の中にもいるかもしれません。探しましょう」
土の香りと野菜の転がる畑に喋るリステルの白銀の長髪が煌く。覚醒の力で伸びたものだろう。農村の長閑な風景ではとても目立っていた。
「そうだね。もしかしたら――」
キーリも同意して、リステルの後に続いた。
みっしり。この状態を形容するとしたらこの語が適切なのだろうか。
村人の狭い家の扉をどう潜ったのかは定かではないが、それぞれの建物の中にはトマト、キュウリ、ナス、じゃが芋――がみっしりと詰まっていた。
窮屈そうに身じろぎすら出来ない様子の野菜雑魔を見て、キーリは案の定といった表情で、
「ご愁傷様」
と言い、魔法による攻撃を加える。
「斬りやすくて助かります」
キーリの攻撃に続き、リステルも一片の容赦もなしに小太刀で斬る。
それにしてもこの巨大野菜、図体の割りに軟いのか、すぐに倒れるような気がする。もともとが野菜だったからであろうか。
しかし。大人しいピチピチフレッシュボディに戻った野菜を見てリステルは首を傾げる。
「……焼き野菜にはならないのですね」
「でしょ」
キーリもそれを見て肩をすぼめた。キーリも先ほどファイアアローで燃やした後にもかかわらずフレッシュな野菜を見たのだ。
「ふむ……」
アルマは地図を広げて、セレナとともに村を巡回している。建物の中はキーリとアルマが見ている。
また、研司たちが物見櫓から狙撃準備をしているため、残るは……
「ここか」
村長の家。そこに残った巨大野菜の二つが転がっていた。リステルとキーリにも連絡を回し、万全の状態で迎え撃つ。
四人の力を一つに! ……とまでいったかは定かではないが、絶妙な連携で無事その二つは元の元気な野菜姿に戻されたのだった。
たとえば。
伸ばされた蔓をアルマとリステルが切り刻めば、その隙にキーリとセレナが魔法により本体を攻撃する。
逆に、セレナが野菜を引き付けて眠らせたところを、キーリがファイアアローで射抜き、アルマが強打を浴びせるといったこともした。
そんな具合に、巨大野菜は一掃されたのだった。
物見櫓から双眼鏡で覗き込んだとき、全ての野菜雑魔が倒されたことを見た研司は鐘を鳴らし、ハンターを呼んだ。
●できたら美味しくいただきます
いつもの雑魔と違い、珍しく死骸を残している巨大野菜雑魔たちの残骸をこのまま残しておくにも……と人々は考える。
それはハンターたちも同じだったのだろう。
「真の豊作を祈って!」
なんやかやと、荒れた村を少しだけでも元の姿に戻し終えたハンターと村人による宴会が始まった。
最初の一声を上げた研司は、大きく残った野菜を大包丁で切り分けていく。
「絵本でも書こうかなと思って」
「ほう、どういう?」
キーリがリトルファイアで火付けを行うのを見ていたアルマがキーリの言葉に興味を示せば、キーリはふふと笑う。
「野菜を食べなかったり、食べ物を粗末にするとジャイアントベジタブルが攻めて来るぞ! ってね」
そのキーリの言葉を聞いた村の子供はびくり、と体を震わせる。
「……それは……怖いですね……」
セレナは生野菜をかじりながら、ぽつりと零した。
「ふむ、うむ。うまいな」
それからアルマが野菜をパンに挟んで一口。リステルもキッシュを作りながら、頷いた。
「そういえば……すみません、よければ野菜をいくつか譲っていただけないでしょうか?」
「ふむ……どうしてだい?」
報酬は半分でもよいので、と訊くリステルに、村人は不思議そうに返した。
「うちの食べ盛り二人の食費が浮くかと……」
リステルは少し苦笑しながらも、自らの帰りを待つ人を思い浮かべる。そこをキーリが
「さっきまで雄叫びを上げていたものよ?」
と言えば、それに続き。
「すっかり元気になったとはいえ、一度はボロボロになった野菜だぁ。今はすんごくうめぇけど、後からどうなるかわからんね。家の人には新鮮なものを食べてもらうのがいいよぉ」
村人も、心配そうにリステルの顔を覗き込む。
「……やはりやめておきます」
「それがいいね」
リステルの返答ににっこりと、村人は応えた。
「野菜買うときゃうちの村の野菜買ってくれや。安くしとくよ」
だけでなく、ちゃっかりしていた。
がやがやどんちゃん騒いでいるうちに、空には星が瞬き始めてくる。そんな中で、
「宴にばぁんと、華を添えようと思いまして」
というアステリアの吹くオカリナの演奏は遠くまで響き渡り、平和の戻った農村の夜を飾った。
被害を受けている村では、相変わらず雄叫びを上げて巨大野菜が足音を轟かせていた。
教会の扉が幾度となく叩かれ、軋み破られようかという頃、立て籠っている村人の耳に、バイクの走る爆音と野菜たちの呻きらしき声、そして何かを殴る鈍い音、風の巻きあがる音が聞こえた。
「ハンターが来たのか……?」
ある村人がそう呟く。
「ああ! そうか、届いたんだな……あいつら」
伝達役が仕事をやり遂げたことを嬉しく思いながら、村人はハンターがあの野菜どもを殲滅する時を待った。
教会の外では、藤堂研司(ka0569)とアステリア・セリーフィア(ka4496)が雑魔の掃討にあたっていた。
先ほど村人の耳に入った打撃音は、アステリアの攻撃によるものだろう。
チャリならぬ魔導バイクで来た研司の銃から放たれる冷気を伴った弾丸が雑魔の胴体を抉る。
銃弾を受けた野菜雑魔――トマトは弾痕から赤い汁を吹き散らすかと思いきや、ぴしりとその場に留まっていた。
「こっちの世界じゃ野菜は冷凍されるもんだ!」
研司は言う。研司に遅れて、アステリアも口を開いた。
「助けに来ましたから安心してください。ばぁんとやっつけちゃいます!」
その声は、壁を越えた教会の中の村人にも届き、希望を与えた。
『教会周辺の敵は減りましたが……やはり畑に多く発生しているようです』
教会から少しばかり離れた畑の近くで、セレナ・デュヴァル(ka0206)は物見櫓から村の全貌を見るリステル=胤・エウゼン(ka3785)からの伝話を聞き、こくりと頷いた。
「おお! 元気で旨そ……もとい、倒し甲斐のありそうな雑魔達よのう」
セレナの隣ではアルマ(ka3330)が畑に転がる巨大野菜たちを見て一言。
「この大きさならば、いろんな意味でアルマを満足させてくれそうじゃて」
「……食べ物大事。美味しいは正義」
アルマの言葉にセレナも口数少ないながらも、同意のそぶりを見せた。
「さぁ、覚悟召されよ! ヌシらは既にまな板の上の野菜じゃ!」
アルマはそう言って自分に向かって真っ直ぐ転がる巨大ピーマンをひらりと避け、そのまま止まるまで進み続けるピーマンの背後を取って強く踏み込み、剣の分厚い刃で叩き斬る。
そうして動きを止めたピーマンをセレナがウィンドスラッシュでパックリと刻んだ。
残されたピーマンは消えることなく、その姿のまま死骸を残した。そのピーマンの末路を見ても畏れることなく、畑の他の巨大野菜たちはセレナとアルマに狙いを定めた――
物見櫓から降りて畑に向かったリステルとキーリ(ka4642)もまた、巨大野菜の標的となったようだった。
「やだかわいい……!」
キーリは巨大野菜にちょんと生える手足を見つつ呟いた。
「かわいい……ですか?」
そんなキーリを、リステルは苦笑しながら一瞥する。キーリは幾度か咳払いをし、口を開く。
「勿論わかっているわよ? 早く村人を救出しなきゃね」
そしてキーリは魔法を用い、巨大野菜のうちの一つ、巨大キュウリに鋭い風の刃を放つ。
巨大キュウリは自らの葉でそれを防ごうとするが、その葉は無残にも微塵切りにとされてしまった。
「研司さんとアステリアさんは、うまくやっているようですね」
巨大南瓜の蔓を避けながら、リステルは上から見た教会の様子を思い出した。
教会には、リステルも時間があれば向かおうと思っていたが、事態が思う以上に切迫していたため、行くことが出来なかったのだ。
無論、教会にこの野菜たちを向かわせるわけにはいけないので、自分たちがここで食い止めねば……とリステルは気を引き締める。
「キーリさん!」
リステルが葉を錫杖で受け流し、キーリのために隙を作った。
「どーもどーも」
キーリはその隙を逃さず、もう一度――今度は燃え盛る炎の矢を放った。
矢をその身に受けた巨大南瓜はその場に倒れるものの、矢はそこで消え、炎も残らない。
巨大南瓜も水分ピチピチのフレッシュな身体でそこに残っていた。
「ありゃ」
とここで、キーリは魔法の効果を思い出したのか、呟く。
「こんがり野菜で一石二鳥だと思ったんだけど」
●ばぁんと、冷凍南瓜
「こんなところ、か!?」
巨大野菜を凍らせながら、研司は辺りを見回す。
アステリアがストライクブロウでばぁんとナスを叩いた後に残った野菜は――三つの南瓜であった。
アステリアは南瓜に対して少し足が竦むものの、勇気……というより闘争心を奮い立たせて立つ。
「皆さん、あと少しです! 待っててください!」
そうして、教会の中に居る村人に語りかけながら、アステリアはフレイルを握り締めた。
三つの巨大南瓜は二人の標的を認めると、蔓と葉を伸ばして攻撃する。
その先にいた研司は寸でのところで避けるものの、巨大南瓜の勢いは止まらない。
蔓と葉を伸ばしているものとは別の二つがアステリアに向かって突進した。
「……嫌……」
アステリアは遠い昔の出来事を巨大南瓜の姿から思い出す。
その時の出来事が、アステリアを侵食する。
「…………チャの……バケ……」
突進する二つのうちの先を行く方は、ぼそぼそと何かを呟くアステリアのすぐ傍まで来ていた。
「………………カボチャの……オバケは」
アステリアの呟きがようやく意味を取れそうなほどになった頃、巨大南瓜の突進はアステリアの目と鼻の先にある。
アステリアの手の中のフレイルは頭上高く掲げられるが、このままでは弾き飛ばされてしまうだろうといったところだった。
「だぁぁぁらっしゃぁぁぁ! オラァッ!」
その時ッ! アステリアの普段の姿からは想像もつかないほどの雄叫びと雄々しい打撃が迫る巨大南瓜を砕いたッ!
砕かれた巨大南瓜の残骸は空中でバラバラになり、地に落ちる!
「あ、あの、アステリアさん?」
研司はまるで人の変わったようなアステリアの様子に困惑したッ! ようにアステリアを二度見するッ!
「ぶち殺すぞこのカボチャオバケ野郎がぁ!」
アステリアの形相と口から放たれた言葉に研司は改めて目を丸くした。
「アステリアさん!? ……いったいどうしたんだ!?」
無残にも砕かれた同胞の姿にも怯むことなく、もう一方の巨大南瓜もまたアステリアに突進するも。
「かかってこいやぁ!」
研司の弾丸による援護もあってか、アステリアの手で綺麗に真っ二つとなった。
「アステリアさんと南瓜の間にいったい何が……?」
巨大南瓜のさっぱり消えた戦場を見て、研司は一人ごちるが、うかうかしてもいられないと教会の扉を叩いた――
●はじける野菜と土の香り、ジャイアントベジタブル。
研司の鳴らした教会の鐘が重々しく鳴り響くのを、セレナは聞いた。
「なに、教会の方は片付いたのか?」
セレナとは距離が離れているものの、同じくそれを耳にしたアルマが、セレナに顔を向ける。
セレナはこくりと頷き、
「そう……でしょうね」
と言った。
「私たちも……やりましょう」
次いで、セレナが自らの周囲に集まりつつある巨大野菜をスリープクラウドで眠らせる。
「助かるぞ!」
そこを、アルマが確実に仕留めるよう接近し、その分の力を剣に込めて突いた。
身動きの出来ない巨大野菜たちはその攻撃を避けることも出来ず、次々にアルマの剣によって穴を空けていく。
「援護します……」
しかし、途中で効果が切れ始めたのか、目覚めつつある巨大野菜がアルマに蔓を伸ばすのを見、セレナは改めて魔法を放つ。
風の力を受けて巨大野菜は鋭い雄叫びを上げるが、そこをアルマがトドメを刺して反撃の手を止めさせた。
「かたじけない」
アルマはセレナに礼を言いつつ、屈みこむ。
そうして巨大野菜の死角に潜り込めたのが幸いとして、巨大野菜はアルマの予期せぬ攻撃にただ屠られるばかりであった。
「そう……美味しいは正義」
自らの遠く離れた場所に居る巨大野菜をもセレナは魔法の矢で射抜き、次々と巨大野菜の残骸を地に転がす。
畑にはセレナとアルマの他にリステルとキーリが野菜雑魔の討伐に当たっているため、そう長くはかからない、ものの……
「ぬう!」
アルマは唸る。やはり体格差というものは大きいのか、攻撃が通らないこともある……しかし。
覚醒したリステルの飛ばした影の一撃が敵を砕く。こうして連携し、暴れる野菜を次々とただの『美味しい野菜』としてきたのだった。
畑に居るものでは最後の巨大野菜……巨大ナスを倒しきったところで、リステルは口を開く。
「建物の中にもいるかもしれません。探しましょう」
土の香りと野菜の転がる畑に喋るリステルの白銀の長髪が煌く。覚醒の力で伸びたものだろう。農村の長閑な風景ではとても目立っていた。
「そうだね。もしかしたら――」
キーリも同意して、リステルの後に続いた。
みっしり。この状態を形容するとしたらこの語が適切なのだろうか。
村人の狭い家の扉をどう潜ったのかは定かではないが、それぞれの建物の中にはトマト、キュウリ、ナス、じゃが芋――がみっしりと詰まっていた。
窮屈そうに身じろぎすら出来ない様子の野菜雑魔を見て、キーリは案の定といった表情で、
「ご愁傷様」
と言い、魔法による攻撃を加える。
「斬りやすくて助かります」
キーリの攻撃に続き、リステルも一片の容赦もなしに小太刀で斬る。
それにしてもこの巨大野菜、図体の割りに軟いのか、すぐに倒れるような気がする。もともとが野菜だったからであろうか。
しかし。大人しいピチピチフレッシュボディに戻った野菜を見てリステルは首を傾げる。
「……焼き野菜にはならないのですね」
「でしょ」
キーリもそれを見て肩をすぼめた。キーリも先ほどファイアアローで燃やした後にもかかわらずフレッシュな野菜を見たのだ。
「ふむ……」
アルマは地図を広げて、セレナとともに村を巡回している。建物の中はキーリとアルマが見ている。
また、研司たちが物見櫓から狙撃準備をしているため、残るは……
「ここか」
村長の家。そこに残った巨大野菜の二つが転がっていた。リステルとキーリにも連絡を回し、万全の状態で迎え撃つ。
四人の力を一つに! ……とまでいったかは定かではないが、絶妙な連携で無事その二つは元の元気な野菜姿に戻されたのだった。
たとえば。
伸ばされた蔓をアルマとリステルが切り刻めば、その隙にキーリとセレナが魔法により本体を攻撃する。
逆に、セレナが野菜を引き付けて眠らせたところを、キーリがファイアアローで射抜き、アルマが強打を浴びせるといったこともした。
そんな具合に、巨大野菜は一掃されたのだった。
物見櫓から双眼鏡で覗き込んだとき、全ての野菜雑魔が倒されたことを見た研司は鐘を鳴らし、ハンターを呼んだ。
●できたら美味しくいただきます
いつもの雑魔と違い、珍しく死骸を残している巨大野菜雑魔たちの残骸をこのまま残しておくにも……と人々は考える。
それはハンターたちも同じだったのだろう。
「真の豊作を祈って!」
なんやかやと、荒れた村を少しだけでも元の姿に戻し終えたハンターと村人による宴会が始まった。
最初の一声を上げた研司は、大きく残った野菜を大包丁で切り分けていく。
「絵本でも書こうかなと思って」
「ほう、どういう?」
キーリがリトルファイアで火付けを行うのを見ていたアルマがキーリの言葉に興味を示せば、キーリはふふと笑う。
「野菜を食べなかったり、食べ物を粗末にするとジャイアントベジタブルが攻めて来るぞ! ってね」
そのキーリの言葉を聞いた村の子供はびくり、と体を震わせる。
「……それは……怖いですね……」
セレナは生野菜をかじりながら、ぽつりと零した。
「ふむ、うむ。うまいな」
それからアルマが野菜をパンに挟んで一口。リステルもキッシュを作りながら、頷いた。
「そういえば……すみません、よければ野菜をいくつか譲っていただけないでしょうか?」
「ふむ……どうしてだい?」
報酬は半分でもよいので、と訊くリステルに、村人は不思議そうに返した。
「うちの食べ盛り二人の食費が浮くかと……」
リステルは少し苦笑しながらも、自らの帰りを待つ人を思い浮かべる。そこをキーリが
「さっきまで雄叫びを上げていたものよ?」
と言えば、それに続き。
「すっかり元気になったとはいえ、一度はボロボロになった野菜だぁ。今はすんごくうめぇけど、後からどうなるかわからんね。家の人には新鮮なものを食べてもらうのがいいよぉ」
村人も、心配そうにリステルの顔を覗き込む。
「……やはりやめておきます」
「それがいいね」
リステルの返答ににっこりと、村人は応えた。
「野菜買うときゃうちの村の野菜買ってくれや。安くしとくよ」
だけでなく、ちゃっかりしていた。
がやがやどんちゃん騒いでいるうちに、空には星が瞬き始めてくる。そんな中で、
「宴にばぁんと、華を添えようと思いまして」
というアステリアの吹くオカリナの演奏は遠くまで響き渡り、平和の戻った農村の夜を飾った。
依頼結果
参加者一覧
サポート一覧
マテリアルリンク参加者一覧
依頼相談掲示板 | |||
---|---|---|---|
![]() |
依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/18 23:26:46 |
|
![]() |
野菜型雑魔を退治しましょう。 リステル=胤・エウゼン(ka3785) エルフ|21才|男性|聖導士(クルセイダー) |
最終発言 2015/07/22 13:19:53 |