ゲスト
(ka0000)
夏の浜辺の一時を
マスター:岡本龍馬

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 普通
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/22 07:30
- 完成日
- 2015/07/30 23:39
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●
青い空、青い海、白い砂浜、まぶしい太陽……。
夏真っ盛りの海に人が集まるのはこちらの世界でも同じらしい。
「きゃっきゃ」
「うふふ」
なんて声も聞こえてくるし、
「ほら、つかまえてごらんなさ~い」
「待ってくれよ~」
なんて声も聞こえてくる。
あ、
「君かわうぃ~ね、俺らと一緒に遊ばない?」
「ごめんなさい、連れがいるので」
声をかけた男たちがうなだれている。連敗中なのだろうか。
いや、別に同情はしないよ? うん。
まぁなんにせよ。
平和なことこの上ない海辺の一幕だった。
●
しかしえてして平和というものは壊されるためにあるような物。
どごぉぉぉん。
「な、なんだ!? リア充が爆発したのか!?」
平和だったはずの海辺に唐突に爆発音が響いた。
一瞬にして緊張に包まれる海辺。
「おい! あれを見ろ!」
何かに気がついた男の指さす先、そこでは青いはずの海が緑色に変色していた。
「……なんだあれ?」
徐々に緑色に染まっていく海。
けれどよく見ればよく見るほどそれは自然のものではないように思えてくる。
そして、その真実に気づいた誰かが叫んだ。
「あれ、スライムだわ! 水着を溶かされるわよ!」
不安に包まれる集団の中でそんなことを叫んだらさぁ大変。
あっちこっちへ人が逃げまどい始め、海辺は大混乱に陥った。
……最初の爆発が、一番初めに気づいたハンターが密かにスライムを駆除しようとして失敗したものだとは誰も知る由もなかった。
青い空、青い海、白い砂浜、まぶしい太陽……。
夏真っ盛りの海に人が集まるのはこちらの世界でも同じらしい。
「きゃっきゃ」
「うふふ」
なんて声も聞こえてくるし、
「ほら、つかまえてごらんなさ~い」
「待ってくれよ~」
なんて声も聞こえてくる。
あ、
「君かわうぃ~ね、俺らと一緒に遊ばない?」
「ごめんなさい、連れがいるので」
声をかけた男たちがうなだれている。連敗中なのだろうか。
いや、別に同情はしないよ? うん。
まぁなんにせよ。
平和なことこの上ない海辺の一幕だった。
●
しかしえてして平和というものは壊されるためにあるような物。
どごぉぉぉん。
「な、なんだ!? リア充が爆発したのか!?」
平和だったはずの海辺に唐突に爆発音が響いた。
一瞬にして緊張に包まれる海辺。
「おい! あれを見ろ!」
何かに気がついた男の指さす先、そこでは青いはずの海が緑色に変色していた。
「……なんだあれ?」
徐々に緑色に染まっていく海。
けれどよく見ればよく見るほどそれは自然のものではないように思えてくる。
そして、その真実に気づいた誰かが叫んだ。
「あれ、スライムだわ! 水着を溶かされるわよ!」
不安に包まれる集団の中でそんなことを叫んだらさぁ大変。
あっちこっちへ人が逃げまどい始め、海辺は大混乱に陥った。
……最初の爆発が、一番初めに気づいたハンターが密かにスライムを駆除しようとして失敗したものだとは誰も知る由もなかった。
リプレイ本文
●嵐の前のさわがしさ
ハンターといえど海に来ればテンションは上がる。
そしてその要因の一つはといえば……。
「物が子供っぽくても中身がすごいと破壊力あるんだな」
「ティーアさんは、こういった子供っぽいのがお好みですの?」
太陽の光をまばゆいほどに反射するのはシェリア・プラティーン ( ka1801 )が身に纏う白スク水。
どうやら恋人であるティーア・ズィルバーン ( ka0122 )からのプレゼントのようだ。
「向こうのジャパンの知り合いが強くこだわっていたが……」
そう言って視線をシェリアの下から上へと動かしていくティーア。
ティーアはひとしきり眺め終わると、
「たしかにこのアンバランス感はそそるものがあるな」
本人にとっては軽いスキンシップのつもりだったのだろう。
シェリアへ向けて伸びていくティーアの手。
しかしその手がシェリアに触れることはなく。
「いけませんわ。そういった行為は時間と場所を弁えて下さいませ……」
頬を赤らめながらその行動を窘めてくるシェリアを前に、ティーアは追撃をかけられなかった。
海といえば定番のあのイベントを忘れてはいけない。
「春樹、日焼け止めを背中に塗るのを頼めるかな、1人ではちょっと難しくてね」
浜辺に刺したパラソルの影の下、ブルーシートにうつぶせに寝そべるイーディス・ノースハイド ( ka2106 )が神谷 春樹 ( ka4560 )へ日焼け止めのボトルを手渡す。
しかしただでさえイーディスの水着姿にドギマギしている春樹だ。
ましてやその背中に手を触れるなど……くらくらする頭を必死にこらえながら日焼け止めをイーディスの背中へ垂らしていく。
「冷たっ!」
「あ、ご、ごめん!」
日焼け止めとは、手の上などでそれなりに温めておかないとひんやりしてしまうものなのである。
今度は驚かさないよう、丁寧に日焼け止めを伸ばしていく春樹だったが、自分に対し無防備にさらされるその白い背中が視界に入るとどうにもそわそわしてしまう。
それ故に春樹は少し視線を外して手を動かしていたのだが……。
「ひゃっ!? どこ触って……いや、キミなら……うん、気恥ずかしいけど触られるのも嫌じゃない」
「わ、わ、わ」
本日も快晴なり。
海、それ自体にテンションが上がるハンターも少なくはない。
ほら、その証拠に。
「すっげ! 海ってすっげおっきい!!」
初めて海というものを目の当たりにした鬼百合 ( ka3667 )が感嘆の声をあげる。
そしてその横では、こちらも海デビューの龍華 狼 ( ka4940 )がちょうどスタートダッシュを切ったところだった。
「俺が一番乗りだ!」
「いきなり入って溺れても知りませんぜ。なんか深そうだし」
心配そうな面持ちで狼へ声をかける鬼百合の気持ちなどいざ知らず。
「俺泳げるし! 深くないし! 平気だし!」
そう叫ぶと同時に砂浜を踏み切って海へ飛び込む狼。
……しかしまぁ、お決まりといえばお決まりで。
「!! 言わんこっちゃねぇですぜ!」
鬼百合の視線の先では狼が飛び込んだ先でアップアップと浮き沈みしていた。
その光景にほぼ反射的に体を動かした鬼百合は、気にしていた上着もそこに投げ出して狼の元へと走り寄っていく。
「大丈夫ですかぃ!?」
追いついた鬼百合が半ば引っ張る形で狼を浜辺へ戻す。
鬼百合の対応が早かったこともあり大事には至らなかったものの、狼の目には涙が浮かんでいた。
「泣いてねーし! 俺泣いてねぇもん!」
「泣いてんじゃねぇですかぃ!」
必死にそれをごまかそうとする狼に鬼百合がツッコミを入れる。
……内心で、狼の無事に安堵しながら。
海にはかかせないものがある。
そう、海の家だ。
「いらっしゃいませ~」
夏の浜辺に集う人々でごった返す海の家。
そこには店員のお手伝いをするミオレスカ ( ka3496 )の姿があった。
「嬢ちゃん、焼きそば3つ頼むわ」
「あ、こっちにはかき氷もらえる?」
あっちこっちから飛んでくる注文を的確にさばいていくミオレスカ。
しかしそうしてお手伝いをする中で、ミオレスカにはふと疑問に思うことがあった。
料理の味そのものは平均的であるのに対し、顧客の満足度はどうもそれ以上のようなのだ。
「お待たせしました、かき氷4つです」
今料理を運んだお客さんもそう。
……とは言っても、他のお客さんとは少しばかり興味の対象が違うようだったが。
「やっぱり海の家で食べるかき氷は違うよね」
そう言いつつかき氷にスプーンをつきたてるユーリ・ヴァレンティヌス ( ka0239 )にアルファス ( ka3312 )が肯定を示す。
「たしかにこれはのちのちの参考になりそうだね」
一度海の家の中を軽く見まわしてから、アルファスもかき氷を口に運ぶ。
するとその横では、
「あ、あー」
「フィル、もしかして……」
頭を抱えるフィルメリア・クリスティア ( ka3380 )の様子に対してユーリがいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「その痛い部分に外から冷たいものを当てるといい、なんて話を聞いたことがあるのですがどうなのでしょうか?」
マリア・ベルンシュタイン ( ka0482 )のその言葉を受けて頭にかき氷を添えるフィルメリア。
「よくなった、のかな」
気持ちの問題の部分大きいのだろうが、少し痛みの引いたフィルメリアがつぶやく。
なんやかんやで、「琥珀の林檎」メンバーでかき氷を楽しむ時間はそのまま流れていくはずだった。
しかし。
「かき氷もまだまだ侮れませ……あら? 何やら騒がしいですね……」
フィルメリアのつぶやきにマリアが言を重ねようとしたものの、明らかに趣を異にする喧騒によって遮られてしまう。
これは騒がしさではなくざわめき。
なにかいいことが起きている雰囲気でないのは容易に想像がついた。
そこに聞こえる、
「あれ、スライムだわ! 水着を溶かされるわよ!」
の声。
「あーぁ、せっかく新商品の試供と海の家体験に来たのに……」
「全く……折角の休みが台無し……さっさと終わらせて遊びたいね」
ぼやきつつもアルファスとフィルメリアが武器を取り出す。
そしてそれにつられるようにその場にいた他のハンターたちも武器を取り始めた。
「やれやれ……平穏と思っていた海水浴場にも、これですか……難儀ですね」
こちらも食事中であった天央 観智 ( ka0896 )もその例に違わず、食べかけだった焼きそばを置いて戦闘の用意を整えた。
大がかりなスライム討伐の始まりである。
●スライムの海
青い空、緑の海、緑と白のまだらの砂浜、まぶしい太陽……。
そこにはどこにでもある夏の風景が広がっていた。
「またスライムですか……。……どうしてこんなにスライムの相手ばかりなんでしょうか……。ただでさえ今は恥ずかしい格好なのに……」
自分の格好を省みたサクラ・エルフリード ( ka2598 )が、『水着を溶かす』という噂に難色を示す。
万が一のことを考慮して後方からスキルを用いて攻撃を加えるサクラ。
けれどスライムというのはゼリー状なわけで、一地点に強い衝撃があればその周囲ははじけ飛ぶもの。
今回のような密集状態ではそれが顕著であった。
ホーリーライトの着弾点からはじけ飛んだもので、サクラは返り血ならぬ返りスライムを浴びてしまう。
だが水着はいっこうに溶ける様子はなく、ただベタベタするものが張り付いただけだった。
「ん、このスライムは服を溶かす能力はないみたいですね……。数が多い以外は弱いみたいですし……ちょっと安心しました……」
懸念点が解消したことで近接戦闘へと切り替えたサクラはスライムの海へと切り込んでいくのだった。
「全く……こんな暑い中までよくもまあ湧いて出てきますこと。ここはさっさと片付けてバカンスと致しましょうか」
「人々の浜辺の楽しい時間を奪うスライムを、放ってなんて置けないから! それに水着溶かされたら大変だもん」
ものものしいスライムの群れを前に呆れた声でつぶやく舞桜守 巴 ( ka0036 )に、憤慨した様子の時音 ざくろ ( ka1250 )が同調する。
「ざくろも、頑張ったらご褒美あげますわよ?」
巴のその言葉が後押しとなり、
「やるよ! 巴、アルラ」
ざくろの掛け声で、アルラウネ ( ka4841 )を先頭にしてスライムへ突っ込んでいく三人。
そうは言ってもスライムたちに戦闘力などないので、特に型など気にせず、巴が蹴り飛ばすだけで一匹、また一匹と倒れていく。
「そぉれ!」
加えてざくろの振う大剣に至ってはマップ兵器と化している。
けれどまるでそれがハンデであるかのように感じられるほど、スライムの数は多かった。
屠れど屠れど次がやってくる、緑色の世界。
そしてその中を疾風剣を使用して切り込むアルラウネもまた、他の二人と同じような状況であった。
だが。
「……あれ?」
文字通り疾風怒濤の勢いで突き進むアルラウネがはたと足を止める。
……もちろん攻撃しながらではあるが。
周りはただひたすらにスライム。一緒にいたはずのざくろと巴の姿が見当たらなかった。
その気づきはざくろ、巴サイドでもほぼ同タイミングで。
「あれ? アルラどこ?」
「さっきまではそこにいたはずですよ?」
二人であたりを見渡すが、目に映るものはスライムのみ。そこにアルラウネの姿はなかった。
かと思われたのだが。
「あれ、きっとアルラだよね」
視線の先、一回りほど大きなスライムがなにやら物騒なものを振り回している。
ざくろの大剣を主力に、一回り大きいスライムへと近づいていく二人。
三人を隔てる最後の障害となっていたスライム群を切り捨ててアルラウネへ二人が駆け寄る。
「見つけたもう大丈夫……って、またはだk……いや同じ色の水着着てるだけだよね、もう間違え……」
「やっと合りゅ……う……?」
それっきりフリーズしてしまったざくろに不思議そうに首をかしげるアルラウネ。
そう。そこには見事なまでに背景と同化しているアルラウネがいたのだ。
やっとこさ首の動きだけを取り戻したざくろが、ギギギという音が似合うようなぎこちない動きで大剣の切っ先を確認する。
そこには。
「はわわわ」
再びフリーズしたざくろとその視線から、アルラウネはようやく自分の状況を認識した。
「な……み、見られた!? ざくろんにっっ!? こんな所で発情しないでよ……えっちぃ~」
そうこうしている間にもスライムは押し寄せてくる。
そんな二人の様子を横目で見ながらスライムの対応に当たっていた巴は小さくため息をつくと、
「しかし……本当に……数多すぎですわね……」
と言葉をもらした。
おそらくはそれが油断の表れだったのだろう。
背後から襲い掛かったスライムに気づけず、その攻撃のせいで水着がずれてしまった。
「……ひぁっ……! あ、だめ!」
巴は咄嗟にその場にしゃがみ込んでしまう。
三人が体勢を立て直すにはもう少し時間がかかりそうだった。
「暑い日は~、やっぱり海だよねぇ~」
海の中でも沖のほうにいたルシアーノ=アルカナ ( ka4926 )は海側から騒動の様子を観察していた。
すると、浜辺に一筋の光。
それが落ちたかと思うと、その周辺の海が一瞬輝き、周囲のスライムが姿を消した。
「お~? なぁんか、パーティ始まったって感じだ~」
そう言ってルシアーノの眺める地点では、
メトロノーム・ソングライト ( ka1267 )が眼前にはびこるスライムたちをみて、深いため息をついていた。
「静養にと思って来てみたのですけれど。やはり森の避暑地へ行くべきでしたね……」
自身にウォーターウォークをかけてスライムたちとつかず離れずの距離を測って立ち回っている。
有効範囲すべてにスライムが入るポイントを見つけると、そのたびにライトニングボルトを走らせる。
メトロノームの放った一筋の光はきれいにスライムたちを貫いていき、海の藻屑へと変えていく。
「はぁ、なぜこんなことをしてるのでしょう……」
口ではそう漏らすメトロノームだったが、そうは言いつつも数多のスライムが彼女の餌食になっているのだった。
……そんなメトロノームの様子を観察していたルシアーノだったが、ついに彼女の元へもスライムが侵攻してきた。
「きゃぁ、きもちわる~い!」
ルシアーノは距離を取ろうとするが、思いのほかスライムの追撃がしつこい。
結局浜辺まで逃げたところでルシアーノはその足を止め、スライムへと向き直った。
「仕方ないなぁ~……じゃあ、遊ぼうか?」
ルシアーノの雰囲気が戦闘モードに移行する。
「戦車の威力~! 見っせちゃうよ~!」
踏込からの強打がスライムへと襲い掛かると、オーバーキルとも言えるその一撃にスライムはたまらずはじけ飛ぶ。
しかし一撃が重い反面範囲攻撃に適さないルシアーノの戦い方では、ことあるごとにスライムにへばりつかれてしまう。
そのせいで挙句の果てに水着にまで影響が出始めている。
だが彼女にそれを気にする様子はなく。
「あらら……仕方ないなぁ……。見てもいいけど……高いよ?」
重い一撃の照準が一匹のスライムに合う。
「命一つで……もらおうかな?」
またしてもスライムがはじけ飛んだ。
一見競い合っているようにも見えるもののしっかりと見れば共闘している二人組がいた。
鬼百合と狼である。
狼に至っては紅蓮斬に疾風剣、電光石火ととにかくスキルを使いまくり、おぼれたことのやつあたりをしているようにも見えた。
「へへーん! 俺の方がいっぱい倒してるし!」
狼が前衛となってスライムをみるみる駆逐していく中、もちろん鬼百合も黙ってみているわけではない。
「けっ、負けませんぜ!」
後方からファイアボールをぶちかますとこれまたみるみるうちに多数の敵を葬り去ってゆく。
結果的に討伐数はほぼ互角。しかし狼には納得しがたい差があった。
「な……なんだそれ! 鬼百合ズルいぞ! お前そんな格好良いの持ってるのに何で黙ってたんだよ!」
覚醒した姿の差であった。
しかし鬼百合からしてみればかっこいい、というよりも怖がられると思っていたわけで。
「や、多分格好良くはない、と……?」
「いいもん、俺も格好良いの出るし!」
「なんつー負け惜しみですかぃ!」
しかしそんなこと意に介した様子も見せず、ただ悔しがっている狼の姿は鬼百合にとってとても嬉しいものだった。
本人も意図せずその瞳から落ちる雫。
「な……どうしたんだよ? スライムに殴られたのか?」
鬼百合は、その狼なりのフォローを聞くとふっと笑みを漏らし、
「そんなことあるわけねぇです! まだ勝負はついてませんぜ」
ライトニングボルトでスライムを弾き飛ばして見せた。
「なんか……海にあってない格好の連中が多いな」
そんな鬼百合と狼の様子を見ていた二人組、ティーアとシェリア
「ハンターとして見過ごす訳には参りませんわ! ティーアさん、行きますわよ!!」
「しかし……念の為に持ってきてよかったな」
いざスライムの群れに向き合うと、近場のものを駆逐するまでは逃げ場がなくなるという特典がついてくる。
その状況ではティーアの持ってきていた三節棍が大きな活躍を見せた。
護身用ではあるものの、次々に戦果を上げていくティーア。
「この水着、動きやすくて意外と悪くはありませんわ♪」
シェリアもまた、普段に比べてずいぶんな軽装備にものを言わせて的確にスライムの数を減らしていっている。
だがいくら二人で一緒にいるとはいえ、武器を振り回すようなこの殺伐とした空気は二人きりの甘い雰囲気などとは程遠かった。
「全く……せっかくのデートが台無しじゃないか」
誰へ向けたわけでもなくこぼれ出たティーアの言葉が夏の空に吸い込まれていった。
「水着を溶かされるって言ってたけど、本当にそんなことあるのかな?」
「確かにアレは水着を溶かすよ。ま、放っておいたら骨まで溶かされるけどね」
春樹の問いかけに、イーディスが答える。
確かに酸や麻痺毒を有するスライムも存在する。
そういったものからイーディスを護るという点で、春樹は武器を取っているのだが、しかし春樹を動かしている理由はもう一つあった。
普段は鎧に身を包んで戦闘するイーディスが、今日はとてつもなく薄着をしているということ。
護身用のナイフを片手にスライムと戦闘するイーディスを、極力敵と戦わせないために春樹は右へ左へ動き回っていた。
「そんなに動き回らなくても、私だって戦えるよ?」
春樹のやらんとしていることを察したイーディスが心配そうな声をかける。
だがその答えとして春樹は、
「大丈夫だよ、任せてって」
と返し、その動きには更なるキレが見受けられるようになった。
「……」
「どうしたの?」
少しばかり浮かない表情を見せる希崎 十夜 ( ka3752 )に伊勢・明日奈 ( ka4060 )が疑問を投げかける。
「いや、なんでもないよ。それよりほら、とにかく全力で戦おう!」
「そうだね」
見事に緑の世界とかしている波打ち際へ十夜が日本刀を携えて突撃する。
そしてそれを、
「じゃあいきます!」
スクール水着という出で立ちで弓を構えた明日奈が十夜の障害になりそうな個体に狙いを定め、
「あいました!」
放たれた明日奈の矢が排除し、援護する。
二人の息がぴったりということもあり、スライムの駆逐は順調に進んで行った。
だが、ハプニングというのは何でもないところで起こるからこそハプニング足りうるのである。
「明日奈、危ない!」
「え?」
前衛をしている十夜が振り返った先、明日奈の背後から大量のスライムが押し寄せていた。
後衛の明日奈の対処としてはひとまず距離を取ることが最優先。
しかしその一歩目を踏み出そうとしたとき、足を砂にとられてしまった。
「え、うわぁ!」
地面に倒れこんでしまう明日奈。
それを十夜が射撃で援護しようにも、スライムの数が多すぎるので対応しきれない。
「……っ!」
十夜はランアウトを使用してむりやりスライムと明日奈の間に割って入ると、飛燕で命中をあげたスラッシュエッジを叩き込んでいく。
大量のスライムといえど前衛の十夜にとってはその対処は造作もないこと。
物の数分で全てのスライムが姿を消していた。
「ありがとう」
「大丈夫、気にしないでいいよ」
まだまだスライムは残っているというのに二人の間には甘い空気が流れていた。
スライムの出現からしばらくたち、ハンターも善戦を見せていたのだが、なにぶん数が多い。
浜辺への上陸を果たしウニョウニョしている個体も出てきた。
海の家といえどそれは例外ではないわけで。
「さっさと済ませましょうか」
不愉快オーラをビンビンに放ったフィルメリアを筆頭に、「琥珀の林檎」も戦闘に巻き込まれていった。
だがそうは言っても熟練のハンター達。
四人一組で戦っていることもあり、安定感は非常に高かった。
「なんというか、本当に数だけだね」
ファイアスロワーで薙ぎ払いをかけながらアルファスがつぶやく。
「水着を溶かされるって言うのもデマだったみたいだし、この調子なら想像よりも早めに終わるかもね」
ユーリもまた、スライムを適度にいなしつつ肯定を見せる。
徐々に海の家の前の領域をスライムから奪還しつつあった四人。
しかしハプニングとは少し慣れてきた辺りで起こるものである。
「ス、スライムがこんなところに……?!」
海の家の屋根に上っていたのだろう。
上、というもはや意識の外だったポイントからの奇襲。
畢竟、マリアにべっとりとこびりついてしまったスライムは不快感以上のなにかをもたらすわけではないのだが、その戦闘力が弱すぎるせいで、調整を間違えて攻撃を加えるとハンターの体を傷つけかねなかった。
「ねっちょり、ですね……」
マリアの行動一つ一つが緑色の糸を引く。
「ほら、とってあげるから」
フィルメリアがマリアをスライムから解放するために近づいていく。
が、屋根の上にいたのは一匹ではなかったのだった。
「フィル、上! 上!」
「え?」
フィルメリアへ投げかけられたユーリの言葉は少しばかり遅かった。
……べちゃ。
ミイラ取りがミイラになる、まさにそんな状態。
「……」
ぷっつーん、と何かが勢いよく切れた音がした……ようなきがする。
フィルメリアの放つオーラが極限まで怒気を含んだものへと変化していく。
「アル! アル!」
「え、あ、あぁ」
しばしその光景に目を奪われていたアルファスと共に、ユーリは二人の救出へ駆け寄っていった。
「スライム達よ、お前達に悪意はないのかもしれない……しかし、水着の女性達の為にも、しいては俺自身の為にお前達を殲滅する」
喧騒の中でもしっかりとその存在感をしめしている声が海辺に響く。
「慈悲は無い!」
修羅を思わせるヴァイス ( ka0364 )の薙ぎ払いの前に、彼の言葉通り容赦なく葬り去られていくスライムたち。
すすんでスライムの多いところへと切り込んでいくヴァイスだったが、さすがに数が多い。
たかが烏合の衆、されど烏合の衆。
敵から与えられるダメージはなくても攻撃していれば少しずつ消耗もする。
そしてそれは、ヴァイスの攻撃のインターバルのタイミングだった。
背後からスライムの山が覆いかぶさろうとしてきているのにヴァイスが気づいた時には、一拍分遅かった。
前方に構えている武器を後方へ向ける前に、スライムのほうが先にヴァイスに到達してしまう。
けれど、咄嗟の回避行動をとろうとするヴァイスの背後で雷鳴が轟いた。
「お手伝い、しましょうか?」
そう笑いかけるのは観智。
彼のライトニングボルトがスライムを焼いたのは明らかだった。
「助かった。それにせっかくの誘いだ、乗らせてもらうぜ」
「それでは行きましょうか」
ヴァイスと観智の二人が行動を共にすることにした矢先。
「ふぇぇ……おかあさぁん……」
「女の子が取り残されていますね」
スライムに囲まれて身動きの取れなくなった小さい女の子が砂浜の上でうずくまっていた。
「助けるしかねぇよな?」
「ええ、異論はありません」
観智のファイアボールが手始めにスライムを焼き、そこを突破口にしてヴァイスが切り込んでいく。
「おい、大丈夫か?」
早々に女の子の元へたどり着くと、口調は荒々しいままながらも目線の高さを合わせてヴァイスが話しかける。
「うん……おじちゃん、ありがと……」
「おじちゃん、だそうですよ?」
「……ほら、一緒に探しに行こうぜ」
いくばくかの沈黙の後、女の子を加えた三人は母親を探し始めるのだった。
「大二郎様を魅了しなければ!」
ハンターが奮闘する中以前数的優位に立つスライムの前で、八雲 奏 ( ka4074 )はこの状況を有効活用する方法に思い至った。
隣でともに戦っている久延毘 大二郎 ( ka1771 )に視線を移す。
奏自身、大二郎からのチラチラとした視線を何度か感じていた。
けれど、じっと見つめられるようなことはない。
だったらそうせざるを得ない状況を作ってしまえばいい。
奏はスライムの海へ向かっていく。
当然スライムまみれになり、もみくちゃにされてしまう奏。
「きゃあっ! 大二郎様、た、助けて……」
さらに目のやり場に困るようになった水着やうるんだ瞳、そんなものを見せられてしまっては、男としてなによりも優先させなければならない。
「か、奏ッ…!? おい大丈夫かね!? 今助けるぞ!」
自分がスライムにまみれることなど意に介さず海へと入っていく大二郎。
その腕を奏に回すと、大二郎はそのまま奏を抱きかかえて一目散に海から距離を取る。
そのまましばらく砂浜を駆け抜け、スライムの脅威にさらされていない場所で腰を落ち着かせる二人。
「……ほら、もう大丈夫だから、泣かんでくれよ」
奏にくっついているスライムを払いながらの大二郎その台詞はとても優しい声音だった。
それに対し奏は目に涙を浮かべて大二郎にしなだれかかり、
「怖かったです……大二郎様。格好良かったです。本当にありがとう」
「まったく、とんだ海日和になったな……奏、また近い内に一緒に海に行こう、な?」
甘い雰囲気が二人を包み込む。
……その雰囲気が、意図して作られたものだと大二郎が知ることはないだろう。
胸に平仮名で「べにばら」と入った旧型スク水に身を包み、刀を一振りその手の中に持つ少女、紅薔薇 ( ka4766 )は憮然としていた。
「妾を海で泳がせるのじゃーー!! いったい、この群れは何処から出てきたのじゃ!!」
ただ単に海に遊びに来ただけだった紅薔薇にとって不愉快極まりない今回のこの事件。
せっかく冷やして用意したスイカも、日光に当てられてだんだんとぬるくなっていっている。
もちろん、ただ見ているだけでは収束するはずもないので、紅薔薇も視界に入ったスライムを刀で切り捨てていく。
しかし反撃もせず、大した体力も持たないスライムたちはただの標的でしかない。
練習の相手にすらなっていないのが実情だ。
それに直射日光の中で刀を振り回し続ければ当然疲労もたまる。
「少々つかれたのう……」
紅薔薇はそう言うと適当なところで作業に見切りをつけ、その足を海の家へと向けた。
「焼きトウモロコシをいただけるじゃろうか?」
「少々お待ちください」
海の家の売店には一応戦闘態勢に入っているミオレスカが立っていた。
「はい、お待たせしました」
紅薔薇は手近の椅子に腰掛けると、手渡された焼きトウモロコシにかじりついた。
焼きトウモロコシを紅薔薇が半分ほど食べ終えたあたりで、ミオレスカが売店越しに声をかけた。
「えっと、『べにばら』さんは戦いにでないのですか?」
「こういうのは戦では無くて作業と言うのじゃ。妾はつまらんのじゃ」
些細な雑談、という体で会話が弾んでいく。
「そういうミオレスカ殿こそ、行かぬのか?」
「私はこのお店がありますから。……店長逃げちゃいましたし」
二人しかいない店内を見渡しながらミオレスカがぽしょりと付け加える。
「それは大変じゃのう」
紅薔薇はすでに焼きトウモロコシを完食していたのだが、二人のおしゃべりはもうしばらく続いた。
スライム天国のために各方々で戦闘にもならない戦闘が展開される中、パラソル付きのリクライニングチェアで寛いでいた男がついに動きを見せた。
「やれやれだぜ」
ガーレッド・ロアー ( ka4994 )はかけているグラサンをくいっとずらすと、半分ほど明瞭になった視界で騒ぎの根元を瞥見する。
「おいおい、勘弁してくれ……こんな時にも歪虚かよ」
騒がしい、とは認識していたがまさかその原因が歪虚だとは思ってもみなかった。
こんなときにも歪虚なのか、という思いばかりが募る。
「やれやれだぜ」
武器を手に取るとガーレッドはスライムに向き合う。
と、ちょうどそこに狩場を変えたサクラが通りかかった。
「暑いのですからあまり動き回らせないで欲しいです……。後、もう少しでしょうか……?」
スライム群へと攻撃を仕掛けようとするサクラだったが、ガーレッドの存在に気づいて駆け寄ってくる。
「よろしかったら一緒に戦っていただけないでしょうか?」
「そうだな、人数が多いに越したことはないだろう。共に戦わせてもらう」
ラストスパートへ向けて、二人はスライムの領域へ足を踏み入れた。
●嵐の後のさわがしさ
スライム群が出現した時からどれだけの時間が過ぎただろうか。
すでに陽が傾き始め、海がオレンジ色に染まりだしたころ、スライムの討伐は一応の終息を見た。
「夏の新作です。琥珀の林檎をどうぞよろしく♪」
こうして無事にスライムの殲滅作業を終えたハンターたちが誰からともなく海の家に集まってくると、琥珀の林檎のメンバーたちが配って回っている『金色雪花』、トロピカルなジュースやビールに加えて軽食までふるまわれ、ちょっとしたお祭り状態と化していた。
その騒ぎの横で、女性に話しかけているヴァイスの姿があった。
「あれ? もしかして、さっき小さな女の子のお母さんを探してあげてた人ですか?」
「さっきのあれを見てたやつがいたのか」
なんだか照れくさそうなヴァイス。
「あれ、かっこよかったですよ!」
「面と向かって言われると照れるもんだな。あー、もしよかったら一杯一緒にどうだ?」
ヴァイスは持っていたグラスで乾杯のジェスチャーをしてみせる。
が。
「え? すみません、これから彼氏と待ち合わせがあって……ほんとにごめんなさい」
「……」
ペコリと一礼して走り去っていく女性。
「モテそうに見えますのに、どうして上手くいかないのでしょう?」
少し離れた場所からヴァイスのナンパの顛末を観察していたメトロノームが不思議そうに首をかしげていた。
夜の帳が下りると、海には天の星々が映りこみ、空と海の境界がなくなってしまったかのようにも見える。
それは海が本当に海だからこそ見られる光景なわけで。
ハンターたちの楽しげな声が、その星の世界に響いていた。
ハンターといえど海に来ればテンションは上がる。
そしてその要因の一つはといえば……。
「物が子供っぽくても中身がすごいと破壊力あるんだな」
「ティーアさんは、こういった子供っぽいのがお好みですの?」
太陽の光をまばゆいほどに反射するのはシェリア・プラティーン ( ka1801 )が身に纏う白スク水。
どうやら恋人であるティーア・ズィルバーン ( ka0122 )からのプレゼントのようだ。
「向こうのジャパンの知り合いが強くこだわっていたが……」
そう言って視線をシェリアの下から上へと動かしていくティーア。
ティーアはひとしきり眺め終わると、
「たしかにこのアンバランス感はそそるものがあるな」
本人にとっては軽いスキンシップのつもりだったのだろう。
シェリアへ向けて伸びていくティーアの手。
しかしその手がシェリアに触れることはなく。
「いけませんわ。そういった行為は時間と場所を弁えて下さいませ……」
頬を赤らめながらその行動を窘めてくるシェリアを前に、ティーアは追撃をかけられなかった。
海といえば定番のあのイベントを忘れてはいけない。
「春樹、日焼け止めを背中に塗るのを頼めるかな、1人ではちょっと難しくてね」
浜辺に刺したパラソルの影の下、ブルーシートにうつぶせに寝そべるイーディス・ノースハイド ( ka2106 )が神谷 春樹 ( ka4560 )へ日焼け止めのボトルを手渡す。
しかしただでさえイーディスの水着姿にドギマギしている春樹だ。
ましてやその背中に手を触れるなど……くらくらする頭を必死にこらえながら日焼け止めをイーディスの背中へ垂らしていく。
「冷たっ!」
「あ、ご、ごめん!」
日焼け止めとは、手の上などでそれなりに温めておかないとひんやりしてしまうものなのである。
今度は驚かさないよう、丁寧に日焼け止めを伸ばしていく春樹だったが、自分に対し無防備にさらされるその白い背中が視界に入るとどうにもそわそわしてしまう。
それ故に春樹は少し視線を外して手を動かしていたのだが……。
「ひゃっ!? どこ触って……いや、キミなら……うん、気恥ずかしいけど触られるのも嫌じゃない」
「わ、わ、わ」
本日も快晴なり。
海、それ自体にテンションが上がるハンターも少なくはない。
ほら、その証拠に。
「すっげ! 海ってすっげおっきい!!」
初めて海というものを目の当たりにした鬼百合 ( ka3667 )が感嘆の声をあげる。
そしてその横では、こちらも海デビューの龍華 狼 ( ka4940 )がちょうどスタートダッシュを切ったところだった。
「俺が一番乗りだ!」
「いきなり入って溺れても知りませんぜ。なんか深そうだし」
心配そうな面持ちで狼へ声をかける鬼百合の気持ちなどいざ知らず。
「俺泳げるし! 深くないし! 平気だし!」
そう叫ぶと同時に砂浜を踏み切って海へ飛び込む狼。
……しかしまぁ、お決まりといえばお決まりで。
「!! 言わんこっちゃねぇですぜ!」
鬼百合の視線の先では狼が飛び込んだ先でアップアップと浮き沈みしていた。
その光景にほぼ反射的に体を動かした鬼百合は、気にしていた上着もそこに投げ出して狼の元へと走り寄っていく。
「大丈夫ですかぃ!?」
追いついた鬼百合が半ば引っ張る形で狼を浜辺へ戻す。
鬼百合の対応が早かったこともあり大事には至らなかったものの、狼の目には涙が浮かんでいた。
「泣いてねーし! 俺泣いてねぇもん!」
「泣いてんじゃねぇですかぃ!」
必死にそれをごまかそうとする狼に鬼百合がツッコミを入れる。
……内心で、狼の無事に安堵しながら。
海にはかかせないものがある。
そう、海の家だ。
「いらっしゃいませ~」
夏の浜辺に集う人々でごった返す海の家。
そこには店員のお手伝いをするミオレスカ ( ka3496 )の姿があった。
「嬢ちゃん、焼きそば3つ頼むわ」
「あ、こっちにはかき氷もらえる?」
あっちこっちから飛んでくる注文を的確にさばいていくミオレスカ。
しかしそうしてお手伝いをする中で、ミオレスカにはふと疑問に思うことがあった。
料理の味そのものは平均的であるのに対し、顧客の満足度はどうもそれ以上のようなのだ。
「お待たせしました、かき氷4つです」
今料理を運んだお客さんもそう。
……とは言っても、他のお客さんとは少しばかり興味の対象が違うようだったが。
「やっぱり海の家で食べるかき氷は違うよね」
そう言いつつかき氷にスプーンをつきたてるユーリ・ヴァレンティヌス ( ka0239 )にアルファス ( ka3312 )が肯定を示す。
「たしかにこれはのちのちの参考になりそうだね」
一度海の家の中を軽く見まわしてから、アルファスもかき氷を口に運ぶ。
するとその横では、
「あ、あー」
「フィル、もしかして……」
頭を抱えるフィルメリア・クリスティア ( ka3380 )の様子に対してユーリがいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「その痛い部分に外から冷たいものを当てるといい、なんて話を聞いたことがあるのですがどうなのでしょうか?」
マリア・ベルンシュタイン ( ka0482 )のその言葉を受けて頭にかき氷を添えるフィルメリア。
「よくなった、のかな」
気持ちの問題の部分大きいのだろうが、少し痛みの引いたフィルメリアがつぶやく。
なんやかんやで、「琥珀の林檎」メンバーでかき氷を楽しむ時間はそのまま流れていくはずだった。
しかし。
「かき氷もまだまだ侮れませ……あら? 何やら騒がしいですね……」
フィルメリアのつぶやきにマリアが言を重ねようとしたものの、明らかに趣を異にする喧騒によって遮られてしまう。
これは騒がしさではなくざわめき。
なにかいいことが起きている雰囲気でないのは容易に想像がついた。
そこに聞こえる、
「あれ、スライムだわ! 水着を溶かされるわよ!」
の声。
「あーぁ、せっかく新商品の試供と海の家体験に来たのに……」
「全く……折角の休みが台無し……さっさと終わらせて遊びたいね」
ぼやきつつもアルファスとフィルメリアが武器を取り出す。
そしてそれにつられるようにその場にいた他のハンターたちも武器を取り始めた。
「やれやれ……平穏と思っていた海水浴場にも、これですか……難儀ですね」
こちらも食事中であった天央 観智 ( ka0896 )もその例に違わず、食べかけだった焼きそばを置いて戦闘の用意を整えた。
大がかりなスライム討伐の始まりである。
●スライムの海
青い空、緑の海、緑と白のまだらの砂浜、まぶしい太陽……。
そこにはどこにでもある夏の風景が広がっていた。
「またスライムですか……。……どうしてこんなにスライムの相手ばかりなんでしょうか……。ただでさえ今は恥ずかしい格好なのに……」
自分の格好を省みたサクラ・エルフリード ( ka2598 )が、『水着を溶かす』という噂に難色を示す。
万が一のことを考慮して後方からスキルを用いて攻撃を加えるサクラ。
けれどスライムというのはゼリー状なわけで、一地点に強い衝撃があればその周囲ははじけ飛ぶもの。
今回のような密集状態ではそれが顕著であった。
ホーリーライトの着弾点からはじけ飛んだもので、サクラは返り血ならぬ返りスライムを浴びてしまう。
だが水着はいっこうに溶ける様子はなく、ただベタベタするものが張り付いただけだった。
「ん、このスライムは服を溶かす能力はないみたいですね……。数が多い以外は弱いみたいですし……ちょっと安心しました……」
懸念点が解消したことで近接戦闘へと切り替えたサクラはスライムの海へと切り込んでいくのだった。
「全く……こんな暑い中までよくもまあ湧いて出てきますこと。ここはさっさと片付けてバカンスと致しましょうか」
「人々の浜辺の楽しい時間を奪うスライムを、放ってなんて置けないから! それに水着溶かされたら大変だもん」
ものものしいスライムの群れを前に呆れた声でつぶやく舞桜守 巴 ( ka0036 )に、憤慨した様子の時音 ざくろ ( ka1250 )が同調する。
「ざくろも、頑張ったらご褒美あげますわよ?」
巴のその言葉が後押しとなり、
「やるよ! 巴、アルラ」
ざくろの掛け声で、アルラウネ ( ka4841 )を先頭にしてスライムへ突っ込んでいく三人。
そうは言ってもスライムたちに戦闘力などないので、特に型など気にせず、巴が蹴り飛ばすだけで一匹、また一匹と倒れていく。
「そぉれ!」
加えてざくろの振う大剣に至ってはマップ兵器と化している。
けれどまるでそれがハンデであるかのように感じられるほど、スライムの数は多かった。
屠れど屠れど次がやってくる、緑色の世界。
そしてその中を疾風剣を使用して切り込むアルラウネもまた、他の二人と同じような状況であった。
だが。
「……あれ?」
文字通り疾風怒濤の勢いで突き進むアルラウネがはたと足を止める。
……もちろん攻撃しながらではあるが。
周りはただひたすらにスライム。一緒にいたはずのざくろと巴の姿が見当たらなかった。
その気づきはざくろ、巴サイドでもほぼ同タイミングで。
「あれ? アルラどこ?」
「さっきまではそこにいたはずですよ?」
二人であたりを見渡すが、目に映るものはスライムのみ。そこにアルラウネの姿はなかった。
かと思われたのだが。
「あれ、きっとアルラだよね」
視線の先、一回りほど大きなスライムがなにやら物騒なものを振り回している。
ざくろの大剣を主力に、一回り大きいスライムへと近づいていく二人。
三人を隔てる最後の障害となっていたスライム群を切り捨ててアルラウネへ二人が駆け寄る。
「見つけたもう大丈夫……って、またはだk……いや同じ色の水着着てるだけだよね、もう間違え……」
「やっと合りゅ……う……?」
それっきりフリーズしてしまったざくろに不思議そうに首をかしげるアルラウネ。
そう。そこには見事なまでに背景と同化しているアルラウネがいたのだ。
やっとこさ首の動きだけを取り戻したざくろが、ギギギという音が似合うようなぎこちない動きで大剣の切っ先を確認する。
そこには。
「はわわわ」
再びフリーズしたざくろとその視線から、アルラウネはようやく自分の状況を認識した。
「な……み、見られた!? ざくろんにっっ!? こんな所で発情しないでよ……えっちぃ~」
そうこうしている間にもスライムは押し寄せてくる。
そんな二人の様子を横目で見ながらスライムの対応に当たっていた巴は小さくため息をつくと、
「しかし……本当に……数多すぎですわね……」
と言葉をもらした。
おそらくはそれが油断の表れだったのだろう。
背後から襲い掛かったスライムに気づけず、その攻撃のせいで水着がずれてしまった。
「……ひぁっ……! あ、だめ!」
巴は咄嗟にその場にしゃがみ込んでしまう。
三人が体勢を立て直すにはもう少し時間がかかりそうだった。
「暑い日は~、やっぱり海だよねぇ~」
海の中でも沖のほうにいたルシアーノ=アルカナ ( ka4926 )は海側から騒動の様子を観察していた。
すると、浜辺に一筋の光。
それが落ちたかと思うと、その周辺の海が一瞬輝き、周囲のスライムが姿を消した。
「お~? なぁんか、パーティ始まったって感じだ~」
そう言ってルシアーノの眺める地点では、
メトロノーム・ソングライト ( ka1267 )が眼前にはびこるスライムたちをみて、深いため息をついていた。
「静養にと思って来てみたのですけれど。やはり森の避暑地へ行くべきでしたね……」
自身にウォーターウォークをかけてスライムたちとつかず離れずの距離を測って立ち回っている。
有効範囲すべてにスライムが入るポイントを見つけると、そのたびにライトニングボルトを走らせる。
メトロノームの放った一筋の光はきれいにスライムたちを貫いていき、海の藻屑へと変えていく。
「はぁ、なぜこんなことをしてるのでしょう……」
口ではそう漏らすメトロノームだったが、そうは言いつつも数多のスライムが彼女の餌食になっているのだった。
……そんなメトロノームの様子を観察していたルシアーノだったが、ついに彼女の元へもスライムが侵攻してきた。
「きゃぁ、きもちわる~い!」
ルシアーノは距離を取ろうとするが、思いのほかスライムの追撃がしつこい。
結局浜辺まで逃げたところでルシアーノはその足を止め、スライムへと向き直った。
「仕方ないなぁ~……じゃあ、遊ぼうか?」
ルシアーノの雰囲気が戦闘モードに移行する。
「戦車の威力~! 見っせちゃうよ~!」
踏込からの強打がスライムへと襲い掛かると、オーバーキルとも言えるその一撃にスライムはたまらずはじけ飛ぶ。
しかし一撃が重い反面範囲攻撃に適さないルシアーノの戦い方では、ことあるごとにスライムにへばりつかれてしまう。
そのせいで挙句の果てに水着にまで影響が出始めている。
だが彼女にそれを気にする様子はなく。
「あらら……仕方ないなぁ……。見てもいいけど……高いよ?」
重い一撃の照準が一匹のスライムに合う。
「命一つで……もらおうかな?」
またしてもスライムがはじけ飛んだ。
一見競い合っているようにも見えるもののしっかりと見れば共闘している二人組がいた。
鬼百合と狼である。
狼に至っては紅蓮斬に疾風剣、電光石火ととにかくスキルを使いまくり、おぼれたことのやつあたりをしているようにも見えた。
「へへーん! 俺の方がいっぱい倒してるし!」
狼が前衛となってスライムをみるみる駆逐していく中、もちろん鬼百合も黙ってみているわけではない。
「けっ、負けませんぜ!」
後方からファイアボールをぶちかますとこれまたみるみるうちに多数の敵を葬り去ってゆく。
結果的に討伐数はほぼ互角。しかし狼には納得しがたい差があった。
「な……なんだそれ! 鬼百合ズルいぞ! お前そんな格好良いの持ってるのに何で黙ってたんだよ!」
覚醒した姿の差であった。
しかし鬼百合からしてみればかっこいい、というよりも怖がられると思っていたわけで。
「や、多分格好良くはない、と……?」
「いいもん、俺も格好良いの出るし!」
「なんつー負け惜しみですかぃ!」
しかしそんなこと意に介した様子も見せず、ただ悔しがっている狼の姿は鬼百合にとってとても嬉しいものだった。
本人も意図せずその瞳から落ちる雫。
「な……どうしたんだよ? スライムに殴られたのか?」
鬼百合は、その狼なりのフォローを聞くとふっと笑みを漏らし、
「そんなことあるわけねぇです! まだ勝負はついてませんぜ」
ライトニングボルトでスライムを弾き飛ばして見せた。
「なんか……海にあってない格好の連中が多いな」
そんな鬼百合と狼の様子を見ていた二人組、ティーアとシェリア
「ハンターとして見過ごす訳には参りませんわ! ティーアさん、行きますわよ!!」
「しかし……念の為に持ってきてよかったな」
いざスライムの群れに向き合うと、近場のものを駆逐するまでは逃げ場がなくなるという特典がついてくる。
その状況ではティーアの持ってきていた三節棍が大きな活躍を見せた。
護身用ではあるものの、次々に戦果を上げていくティーア。
「この水着、動きやすくて意外と悪くはありませんわ♪」
シェリアもまた、普段に比べてずいぶんな軽装備にものを言わせて的確にスライムの数を減らしていっている。
だがいくら二人で一緒にいるとはいえ、武器を振り回すようなこの殺伐とした空気は二人きりの甘い雰囲気などとは程遠かった。
「全く……せっかくのデートが台無しじゃないか」
誰へ向けたわけでもなくこぼれ出たティーアの言葉が夏の空に吸い込まれていった。
「水着を溶かされるって言ってたけど、本当にそんなことあるのかな?」
「確かにアレは水着を溶かすよ。ま、放っておいたら骨まで溶かされるけどね」
春樹の問いかけに、イーディスが答える。
確かに酸や麻痺毒を有するスライムも存在する。
そういったものからイーディスを護るという点で、春樹は武器を取っているのだが、しかし春樹を動かしている理由はもう一つあった。
普段は鎧に身を包んで戦闘するイーディスが、今日はとてつもなく薄着をしているということ。
護身用のナイフを片手にスライムと戦闘するイーディスを、極力敵と戦わせないために春樹は右へ左へ動き回っていた。
「そんなに動き回らなくても、私だって戦えるよ?」
春樹のやらんとしていることを察したイーディスが心配そうな声をかける。
だがその答えとして春樹は、
「大丈夫だよ、任せてって」
と返し、その動きには更なるキレが見受けられるようになった。
「……」
「どうしたの?」
少しばかり浮かない表情を見せる希崎 十夜 ( ka3752 )に伊勢・明日奈 ( ka4060 )が疑問を投げかける。
「いや、なんでもないよ。それよりほら、とにかく全力で戦おう!」
「そうだね」
見事に緑の世界とかしている波打ち際へ十夜が日本刀を携えて突撃する。
そしてそれを、
「じゃあいきます!」
スクール水着という出で立ちで弓を構えた明日奈が十夜の障害になりそうな個体に狙いを定め、
「あいました!」
放たれた明日奈の矢が排除し、援護する。
二人の息がぴったりということもあり、スライムの駆逐は順調に進んで行った。
だが、ハプニングというのは何でもないところで起こるからこそハプニング足りうるのである。
「明日奈、危ない!」
「え?」
前衛をしている十夜が振り返った先、明日奈の背後から大量のスライムが押し寄せていた。
後衛の明日奈の対処としてはひとまず距離を取ることが最優先。
しかしその一歩目を踏み出そうとしたとき、足を砂にとられてしまった。
「え、うわぁ!」
地面に倒れこんでしまう明日奈。
それを十夜が射撃で援護しようにも、スライムの数が多すぎるので対応しきれない。
「……っ!」
十夜はランアウトを使用してむりやりスライムと明日奈の間に割って入ると、飛燕で命中をあげたスラッシュエッジを叩き込んでいく。
大量のスライムといえど前衛の十夜にとってはその対処は造作もないこと。
物の数分で全てのスライムが姿を消していた。
「ありがとう」
「大丈夫、気にしないでいいよ」
まだまだスライムは残っているというのに二人の間には甘い空気が流れていた。
スライムの出現からしばらくたち、ハンターも善戦を見せていたのだが、なにぶん数が多い。
浜辺への上陸を果たしウニョウニョしている個体も出てきた。
海の家といえどそれは例外ではないわけで。
「さっさと済ませましょうか」
不愉快オーラをビンビンに放ったフィルメリアを筆頭に、「琥珀の林檎」も戦闘に巻き込まれていった。
だがそうは言っても熟練のハンター達。
四人一組で戦っていることもあり、安定感は非常に高かった。
「なんというか、本当に数だけだね」
ファイアスロワーで薙ぎ払いをかけながらアルファスがつぶやく。
「水着を溶かされるって言うのもデマだったみたいだし、この調子なら想像よりも早めに終わるかもね」
ユーリもまた、スライムを適度にいなしつつ肯定を見せる。
徐々に海の家の前の領域をスライムから奪還しつつあった四人。
しかしハプニングとは少し慣れてきた辺りで起こるものである。
「ス、スライムがこんなところに……?!」
海の家の屋根に上っていたのだろう。
上、というもはや意識の外だったポイントからの奇襲。
畢竟、マリアにべっとりとこびりついてしまったスライムは不快感以上のなにかをもたらすわけではないのだが、その戦闘力が弱すぎるせいで、調整を間違えて攻撃を加えるとハンターの体を傷つけかねなかった。
「ねっちょり、ですね……」
マリアの行動一つ一つが緑色の糸を引く。
「ほら、とってあげるから」
フィルメリアがマリアをスライムから解放するために近づいていく。
が、屋根の上にいたのは一匹ではなかったのだった。
「フィル、上! 上!」
「え?」
フィルメリアへ投げかけられたユーリの言葉は少しばかり遅かった。
……べちゃ。
ミイラ取りがミイラになる、まさにそんな状態。
「……」
ぷっつーん、と何かが勢いよく切れた音がした……ようなきがする。
フィルメリアの放つオーラが極限まで怒気を含んだものへと変化していく。
「アル! アル!」
「え、あ、あぁ」
しばしその光景に目を奪われていたアルファスと共に、ユーリは二人の救出へ駆け寄っていった。
「スライム達よ、お前達に悪意はないのかもしれない……しかし、水着の女性達の為にも、しいては俺自身の為にお前達を殲滅する」
喧騒の中でもしっかりとその存在感をしめしている声が海辺に響く。
「慈悲は無い!」
修羅を思わせるヴァイス ( ka0364 )の薙ぎ払いの前に、彼の言葉通り容赦なく葬り去られていくスライムたち。
すすんでスライムの多いところへと切り込んでいくヴァイスだったが、さすがに数が多い。
たかが烏合の衆、されど烏合の衆。
敵から与えられるダメージはなくても攻撃していれば少しずつ消耗もする。
そしてそれは、ヴァイスの攻撃のインターバルのタイミングだった。
背後からスライムの山が覆いかぶさろうとしてきているのにヴァイスが気づいた時には、一拍分遅かった。
前方に構えている武器を後方へ向ける前に、スライムのほうが先にヴァイスに到達してしまう。
けれど、咄嗟の回避行動をとろうとするヴァイスの背後で雷鳴が轟いた。
「お手伝い、しましょうか?」
そう笑いかけるのは観智。
彼のライトニングボルトがスライムを焼いたのは明らかだった。
「助かった。それにせっかくの誘いだ、乗らせてもらうぜ」
「それでは行きましょうか」
ヴァイスと観智の二人が行動を共にすることにした矢先。
「ふぇぇ……おかあさぁん……」
「女の子が取り残されていますね」
スライムに囲まれて身動きの取れなくなった小さい女の子が砂浜の上でうずくまっていた。
「助けるしかねぇよな?」
「ええ、異論はありません」
観智のファイアボールが手始めにスライムを焼き、そこを突破口にしてヴァイスが切り込んでいく。
「おい、大丈夫か?」
早々に女の子の元へたどり着くと、口調は荒々しいままながらも目線の高さを合わせてヴァイスが話しかける。
「うん……おじちゃん、ありがと……」
「おじちゃん、だそうですよ?」
「……ほら、一緒に探しに行こうぜ」
いくばくかの沈黙の後、女の子を加えた三人は母親を探し始めるのだった。
「大二郎様を魅了しなければ!」
ハンターが奮闘する中以前数的優位に立つスライムの前で、八雲 奏 ( ka4074 )はこの状況を有効活用する方法に思い至った。
隣でともに戦っている久延毘 大二郎 ( ka1771 )に視線を移す。
奏自身、大二郎からのチラチラとした視線を何度か感じていた。
けれど、じっと見つめられるようなことはない。
だったらそうせざるを得ない状況を作ってしまえばいい。
奏はスライムの海へ向かっていく。
当然スライムまみれになり、もみくちゃにされてしまう奏。
「きゃあっ! 大二郎様、た、助けて……」
さらに目のやり場に困るようになった水着やうるんだ瞳、そんなものを見せられてしまっては、男としてなによりも優先させなければならない。
「か、奏ッ…!? おい大丈夫かね!? 今助けるぞ!」
自分がスライムにまみれることなど意に介さず海へと入っていく大二郎。
その腕を奏に回すと、大二郎はそのまま奏を抱きかかえて一目散に海から距離を取る。
そのまましばらく砂浜を駆け抜け、スライムの脅威にさらされていない場所で腰を落ち着かせる二人。
「……ほら、もう大丈夫だから、泣かんでくれよ」
奏にくっついているスライムを払いながらの大二郎その台詞はとても優しい声音だった。
それに対し奏は目に涙を浮かべて大二郎にしなだれかかり、
「怖かったです……大二郎様。格好良かったです。本当にありがとう」
「まったく、とんだ海日和になったな……奏、また近い内に一緒に海に行こう、な?」
甘い雰囲気が二人を包み込む。
……その雰囲気が、意図して作られたものだと大二郎が知ることはないだろう。
胸に平仮名で「べにばら」と入った旧型スク水に身を包み、刀を一振りその手の中に持つ少女、紅薔薇 ( ka4766 )は憮然としていた。
「妾を海で泳がせるのじゃーー!! いったい、この群れは何処から出てきたのじゃ!!」
ただ単に海に遊びに来ただけだった紅薔薇にとって不愉快極まりない今回のこの事件。
せっかく冷やして用意したスイカも、日光に当てられてだんだんとぬるくなっていっている。
もちろん、ただ見ているだけでは収束するはずもないので、紅薔薇も視界に入ったスライムを刀で切り捨てていく。
しかし反撃もせず、大した体力も持たないスライムたちはただの標的でしかない。
練習の相手にすらなっていないのが実情だ。
それに直射日光の中で刀を振り回し続ければ当然疲労もたまる。
「少々つかれたのう……」
紅薔薇はそう言うと適当なところで作業に見切りをつけ、その足を海の家へと向けた。
「焼きトウモロコシをいただけるじゃろうか?」
「少々お待ちください」
海の家の売店には一応戦闘態勢に入っているミオレスカが立っていた。
「はい、お待たせしました」
紅薔薇は手近の椅子に腰掛けると、手渡された焼きトウモロコシにかじりついた。
焼きトウモロコシを紅薔薇が半分ほど食べ終えたあたりで、ミオレスカが売店越しに声をかけた。
「えっと、『べにばら』さんは戦いにでないのですか?」
「こういうのは戦では無くて作業と言うのじゃ。妾はつまらんのじゃ」
些細な雑談、という体で会話が弾んでいく。
「そういうミオレスカ殿こそ、行かぬのか?」
「私はこのお店がありますから。……店長逃げちゃいましたし」
二人しかいない店内を見渡しながらミオレスカがぽしょりと付け加える。
「それは大変じゃのう」
紅薔薇はすでに焼きトウモロコシを完食していたのだが、二人のおしゃべりはもうしばらく続いた。
スライム天国のために各方々で戦闘にもならない戦闘が展開される中、パラソル付きのリクライニングチェアで寛いでいた男がついに動きを見せた。
「やれやれだぜ」
ガーレッド・ロアー ( ka4994 )はかけているグラサンをくいっとずらすと、半分ほど明瞭になった視界で騒ぎの根元を瞥見する。
「おいおい、勘弁してくれ……こんな時にも歪虚かよ」
騒がしい、とは認識していたがまさかその原因が歪虚だとは思ってもみなかった。
こんなときにも歪虚なのか、という思いばかりが募る。
「やれやれだぜ」
武器を手に取るとガーレッドはスライムに向き合う。
と、ちょうどそこに狩場を変えたサクラが通りかかった。
「暑いのですからあまり動き回らせないで欲しいです……。後、もう少しでしょうか……?」
スライム群へと攻撃を仕掛けようとするサクラだったが、ガーレッドの存在に気づいて駆け寄ってくる。
「よろしかったら一緒に戦っていただけないでしょうか?」
「そうだな、人数が多いに越したことはないだろう。共に戦わせてもらう」
ラストスパートへ向けて、二人はスライムの領域へ足を踏み入れた。
●嵐の後のさわがしさ
スライム群が出現した時からどれだけの時間が過ぎただろうか。
すでに陽が傾き始め、海がオレンジ色に染まりだしたころ、スライムの討伐は一応の終息を見た。
「夏の新作です。琥珀の林檎をどうぞよろしく♪」
こうして無事にスライムの殲滅作業を終えたハンターたちが誰からともなく海の家に集まってくると、琥珀の林檎のメンバーたちが配って回っている『金色雪花』、トロピカルなジュースやビールに加えて軽食までふるまわれ、ちょっとしたお祭り状態と化していた。
その騒ぎの横で、女性に話しかけているヴァイスの姿があった。
「あれ? もしかして、さっき小さな女の子のお母さんを探してあげてた人ですか?」
「さっきのあれを見てたやつがいたのか」
なんだか照れくさそうなヴァイス。
「あれ、かっこよかったですよ!」
「面と向かって言われると照れるもんだな。あー、もしよかったら一杯一緒にどうだ?」
ヴァイスは持っていたグラスで乾杯のジェスチャーをしてみせる。
が。
「え? すみません、これから彼氏と待ち合わせがあって……ほんとにごめんなさい」
「……」
ペコリと一礼して走り去っていく女性。
「モテそうに見えますのに、どうして上手くいかないのでしょう?」
少し離れた場所からヴァイスのナンパの顛末を観察していたメトロノームが不思議そうに首をかしげていた。
夜の帳が下りると、海には天の星々が映りこみ、空と海の境界がなくなってしまったかのようにも見える。
それは海が本当に海だからこそ見られる光景なわけで。
ハンターたちの楽しげな声が、その星の世界に響いていた。
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最終発言 2015/07/20 20:59:58 |