ゲスト
(ka0000)
願いをかけて
マスター:KINUTA

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 6日
- 締切
- 2015/07/26 22:00
- 完成日
- 2015/07/31 19:28
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
東方への道が開け曲がりなりにも行き来出来るようになった現在、長年ベールに包まれていた彼の国についての情報もまた、入るようになってきた。
鎖国状態の元発展してきた独自の文化は、西方の人間にとって物珍しく、興味をそそられるものばかり。商機を掴むに敏な自由都市同盟の市場などでは、早速彼の国の衣装や物品を参考にした新しい商品を作り始めているとか、いないとか。
ところでリアルブルーの一部にも、その東方によく似通った文化がある。らしい。
●
今からこのクリムゾンウェストの一角、辺境の高地において始まるのは、リアルブルー由来の行事。
内容は、短冊という紙切れに願いごとを書いて木の梢に吊るす。さすれば天に住まう星の精霊(男女一対である)が、その願いを叶えてくれる――というもの。
短冊の表面に願い事を、裏面に願い事の対象者名を書くのが決まりだ。
自分に対しての願いを叶えて欲しいときは自分の名前を書けばいいわけだが、他人から『この人のこういう願いを叶えてあげてください』と願をかけてもらった方が聞き届けられやすいという俗信があるため、知り合い同士の交換祈願がよく行われるとか。
会場にはリアルブルー出身者の姿がちらほら。故郷の行事への懐かしさを覚えてのことであろうか。本来短冊を結びつける木には「笹」というものが使われるそうだが、この近辺には存在しないため、代用品として枝垂れ柳が使われている。
色とりどりの紙片が結び付けられた細枝が、夜風に吹かれてさわさわ揺れている。
空は雲一つない満天の星空。
これならはるか天の彼方にいる精霊からも、よく見えるに違いない。
●
「わしっ?」
ジャケットを着込みシルクハットを被ったプードル似のコボルドは、物陰から不審そうに祭りを眺めた。
あんなに人がたくさんいる。おいしそうな匂いもする。
ここは一つ乱入し、奴らを恐れ参らせひれ伏させ、食べ物を巻き上げてやろうか。
「うー……わし」
そんなことを思って足を踏み出そうとしたものの、風に交じってハンターたちの匂いがしてきたので、緊急停止。こそこそ人知れず闇に紛れて逃げて行く。
ハンターは危ない。とにかく危ない。危うきには近寄らず。
鎖国状態の元発展してきた独自の文化は、西方の人間にとって物珍しく、興味をそそられるものばかり。商機を掴むに敏な自由都市同盟の市場などでは、早速彼の国の衣装や物品を参考にした新しい商品を作り始めているとか、いないとか。
ところでリアルブルーの一部にも、その東方によく似通った文化がある。らしい。
●
今からこのクリムゾンウェストの一角、辺境の高地において始まるのは、リアルブルー由来の行事。
内容は、短冊という紙切れに願いごとを書いて木の梢に吊るす。さすれば天に住まう星の精霊(男女一対である)が、その願いを叶えてくれる――というもの。
短冊の表面に願い事を、裏面に願い事の対象者名を書くのが決まりだ。
自分に対しての願いを叶えて欲しいときは自分の名前を書けばいいわけだが、他人から『この人のこういう願いを叶えてあげてください』と願をかけてもらった方が聞き届けられやすいという俗信があるため、知り合い同士の交換祈願がよく行われるとか。
会場にはリアルブルー出身者の姿がちらほら。故郷の行事への懐かしさを覚えてのことであろうか。本来短冊を結びつける木には「笹」というものが使われるそうだが、この近辺には存在しないため、代用品として枝垂れ柳が使われている。
色とりどりの紙片が結び付けられた細枝が、夜風に吹かれてさわさわ揺れている。
空は雲一つない満天の星空。
これならはるか天の彼方にいる精霊からも、よく見えるに違いない。
●
「わしっ?」
ジャケットを着込みシルクハットを被ったプードル似のコボルドは、物陰から不審そうに祭りを眺めた。
あんなに人がたくさんいる。おいしそうな匂いもする。
ここは一つ乱入し、奴らを恐れ参らせひれ伏させ、食べ物を巻き上げてやろうか。
「うー……わし」
そんなことを思って足を踏み出そうとしたものの、風に交じってハンターたちの匂いがしてきたので、緊急停止。こそこそ人知れず闇に紛れて逃げて行く。
ハンターは危ない。とにかく危ない。危うきには近寄らず。
リプレイ本文
ミューレ(ka4567)と一緒に祭りへやってきた来未 結(ka4610)は、目をしばたたかせた。
「わあ……色んな夜店が並んでますね。ミューレさんっ」
屋台、提灯の列、のぼり旗。道行く人の服装も自分たちと同じような物が多い。浴衣に甚平――クリムゾン風にアレンジされているが。
(……なんだか元の世界に帰ってきたみたいです……)
しかし夜空を仰ぎ見ても、懐かしき蒼い星は見つからない。
LH044の記憶は、鮮明さこそ薄れてきたものの、けして消え去りはしない。生き別れになったきりの両親と兄は、今頃どうしているだろうか。皆、無事に逃げ果せただろうか。それとも……。
(……ううん……絶対に無事って信じていますっ)
ぐっと拳を握る結の横顔を、ミューレはぼーっと眺めている。
(浴衣姿……着物姿とはまた一味違って可愛らしい……)
ここは男らしく無言で手を握るべきではないか――と思ったが、どうしても照れが入り、ワンクッション入れてしまう。
「え、えっと、それじゃ行こうか」
その声で結は、はたと我に返った。差し出された手を見、満面の笑顔を浮かべ、優しく握り返す。
「はいっ、いきましょう!」
色白なエルフの顔に、ほんのり朱が差す。
「何か食べたいものはある?」
「まずはリンゴ飴からですね! 硝子細工に綿菓子、べびーかすてら――リアルブルーでも色んな夜店があったんですよ!」
うきうきした足取りに引きずられていくことに、ミューレは、限りない幸福感を覚えた。
●
「七夕、か。そんな時期なんだね」
狐の面を顔の横に引っ提げた瀬崎 琴音(ka2560)は、あちらこちらに首を巡らせた。
「食べ物が多いね。流石に水風船や金魚掬いはない、かな?」
この祭りを伝えたリアルブルー住人というのは、あるいは自分と同郷であろうか――等頭の片隅で考えながら、ぶらぶら。
飴屋台の前で結とミューレの二人連れを見つける。
「あ、ほらリンゴ飴があるよ」
「わあ、懐かしいですー。向こうではこれ、よく食べてました」
無粋はすまいと後ろを通り過ぎて行くと、今度は華彩 惺樹(ka5124)と華彩 あやめ(ka5125)の兄妹二人連れを発見。
あやめは、白地に藍の控え目な朝顔柄の浴衣姿。兄に評価を聞いている。
「ちゃんと似合ってますか?」
「可憐で愛らしいな。とても良く似合っている、最高に似合っているとも」
彼らの周囲には不自然な空間が出来ていた。惺樹が間断なく周囲の男たちへガンを飛ばしているせいだ。
「あやめ、気をつけるんだぞ。こうも人が多いと何があるか分からないからな」
「もう、兄さん、心配しすぎですよ。わたし、もうしっかり元気になったんですからね? 心配してくれるのは、嬉しいのですけど」
深入りせずさらに行き過ぎれば、甘い匂いが漂ってきた。ドワーフの大将が、円筒形の機械の中に棒を差し入れている――あれはまごうことなき綿菓子製造機。
「へぇ、この世界にもあるんだ」
好奇心と懐かしさに思わず引き付けられる。子供たちが大勢並んでいる最後尾につく。そこにアルマ・アニムス(ka4901)が通りがかった。
「おや、琴音さん。こんばんは」
「あ、こんばんは」
挨拶もそこそこに彼は、急ぎ足で立ち去って行く。誰かと待ち合わせだろうか。そんな疑問を抱くが、追求はしなかった。自分の番が回ってきたので。
「はいよ。お嬢ちゃん」
外見は完全に綿菓子だ。中身はどうか……ほのかにハッカの味がする。
「ためしに買ってみたけど、これは中々……美味しい」
●
風になびく色とりどりの紙細工、短冊。それらを結び付けているのは――柳。
(……笹、じゃないのか……)
祭りとしては七夕そのものなのに、ここだけが違う。どうしてだろう。
不思議に思う艮(ka4667)は、背中に誰かが突き当たってきたのを感じた。振り向いてみればアルティミシア(ka5289)だ。
「ね、短冊結ぶの手伝ってくんない? ボクね、出来るだけ、高いところに結びたいんだ。下の方混み混みになってるから」
「……わふ」
艮はその頼みを、こころよく引き受けた。アルティミシアは白い歯を見せる。
「ありがとっ。じゃあ、早速書いてくるね」
柳の近くに設置されている書き物机に向かい、備え付けの筆に墨を含ませる。
「うーん……ボクだけ幸せになっても、嬉しくない。皆も一緒」
一筆入魂と言った太文字で以下の願い事を記す。
『ボク、しあわせに、なりたい、けど、皆も一緒に、幸せになれたら、うれしいな』
文字の出来栄えに彼女は満足したようだった。裏返し名前を書き記し、艮のもとへ戻ってくる。相手が無口な分を補おうというのか、ひっきりなし喋りながら。
「そういえば、さ、知ってる? さっきそのへんで聞いたんだけど、このお祭り、リアルブルーだと、ササっていう木を使うんだって」
「……わふ」
「でもこのへんには、それがなかったから、柳の木を代用に、したんだってさ。よく風に、なびくから。ササも、そうなんだって」
なるほどそういうことか。納得した艮は、力を入れて少女の胴を持ち、なるべく高く持ち上げてやる。
(……自分で、結びたいだろう……こういう時には……背が高いと便利……)
柳の枝はわずかな風にも動揺する。アルティミシアは手を伸ばしそれを捕まえ、短冊を結び付けた。
「これで、よし。さ、願うだけじゃなく、ボクも、頑張らないとね」
地面に降ろしてもらい見上げれば、短冊はヒラヒラ揺れている。星空を泳ぐ小魚のように。
「ん、完璧。ありがと!」
「………わん」
礼を言われた艮は困ったように目を泳がせ、小さく頷き、飾りたてられた柳と夜空を見上げる。
彼には星の学がない。この世界の織り姫と彦星はどこか。指そうとするも指はあてどなく迷うばかり。横顔が少し寂しそうだ。
(……よくは…分からないな……出来るなら……主と、来たかったな……)
●
「ううん、一人になると不安になるなぁ……」
呟くあやめは折り畳み椅子に座り、目の前にあるカタ抜き一覧表を眺めている。難易度1の円から難易度MAXのドラゴンまで、品揃えは豊富だ。
「わっ、カタ抜きもあるんですね。やってみましょうよミューレさん」
声に振り向けばそこには、ミューレと結。顔見知りの姿を見て、いくらか彼女もほっとする。
「こんばんは、結さん、ミューレさん」
彼女の存在にカップルたちも気づき、口々に挨拶してきた。
「あ、これはあやめさん。こんばんは」
「こんばんは」
とりあえずそのまま3人仲良くカタ抜きを始める。喧噪の中、この屋台だけは静か。カタを爪楊枝でつついていると、人は無口になるものだ。
沈黙を破ったのは通りすがりのチャラ男。連れがいなさそうなあやめへ、コナをかけに来たのだ。
「ねーねー彼女、一人?」
「あ、はい、わたしですか? いえ、一人ではなくて、兄と一緒に来たんですけど、はぐれちゃって……」
「じゃあ一人じゃん。ねえねえ一緒にその辺歩かない? オレも一人だからさー」
「え? いえ、その、兄を放ってどこかへ行ってしまうのはちょっと……。それに、あまり動きまわってしまうと、二人ですれ違ってしまうかもしれませんし、その……」
「いーじゃんいーじゃんちょっとだけだってー二人で歩きながら探せばいーよお兄さんはー」
はっきり断らないあやめに脈有りと見て押すチャラ男は、直後頭蓋を掴まれた。めきめきいうほどの力で。
あやめが中腰になる。
「あ、兄さん! ごめんなさい、わたし、はぐれてしまって……」
「もう大丈夫だ」
妹を背にしつつ彼は、地に投げ捨てたチャラ男を睨みつける。今しも射殺しかねない勢いで。
「あやめをナンパするなどその罪は万死に値する……が、せっかくの祭を血で汚す無粋な真似はしたくない。さっさと俺達の前から消えろ」
ひとごとではあるが、ミューレは口を挟むことにした。
「惺樹さん、その人気絶してますよ。目が裏返ってます」
「……そうか」
一言で終わらせた惺樹は、あやめの頭を優しく撫でる。
「怖い思いをさせてすまない。気を取り直して祭を楽しもう」
一部始終を離れたところから見ていた琴音は、食べ終わった綿菓子の棒をゴミ箱に捨て、祭り会場の真ん中にある、柳の大樹に向かった。近くに書き物机が設置されており、多数の人が短冊を書いている。
木の幹に背をもたれかけさせ、風に柳の葉と短冊が擦れる音を聞く。数限りない星の瞬きを目に映す。
遠いリアルブルーの故郷が思い浮かんだ。実家。父や母、優しくしてくれた従兄弟。それらすべてが詰まっているはずの青い星は、どこにも見えない。
(母様や父様は元気かな。……僕が居なくなって、心配していないといいけれど……)
物思いに浸る琴音は、「ねえ」と言う呼びかけで、正面に視線を戻した。
そこにはアルティミシアがいた。白地に青のグラデーションが入った短冊を差し出している。
「よかったら、キミも願かけ、しない? 艮も、今、向こうで書いてるところだよ。ボクはもうすませちゃった」
短冊を受け取った琴音は、ひとまず聞いてみた。
「えーと……これはどう書いたらいいんだい?」
「えっとね、それは――」
説明をしてもらった後、さらに確かめる。
「裏面に書く対象者名は複数でもかまわないのかな?」
「んー。かまわない、と思うよ?」
「そう、なるほど。ありがとう」
机に向かい彼女は、さらさら筆を走らせた。
『大きい怪我をせず、一年過ごせます様に』
裏には友人の名前を思いつく限り、ありったけしたためる。それを短冊を結び付け、星空に住まうという精霊に呼びかける。
「よし。これでいいかな。……あとは、よろしくお願いするね」
アルマが柳の所へやってきた。アルティミシアは彼にも、短冊を持って行く。
「はい、どーぞ」
「ありがとうございますアルティミシアさん。ついでですから、僕と願い事を交換しませんか?」
短冊は一人一枚と決まっている訳ではない。ので、この提案は受け入れられた。
「うん、いいよ。なんて、書くの?」
「『東方に行った友達が無事に帰ってきますように』……と。アルティミシアさんはどんなお願いを?」
少女は少し考え、言った。いつになく照れて。
「えっとね、じゃあ、『いつか恋人がほしい。お父さんも、ボクをなでて、くれなかったから、優しく撫でて、くれる人が、良いな』って、書いて」
●
結とミューレは並んで短冊を書いた。お互い願い事を交換しようと決めて。
「私のお願いは、『家族と再会して ミューレさんにリアルブルーを紹介すること』です。えへへ……少し欲張りですね。でも、叶うといいなあ。ミューレさんの願い事はなんですか?」
「僕はね、『結と一緒に地球へ行けますように』」
「あはは、なんだかそっくりですね。お願い事の内容」
筆を執る手が震えたのは、動揺のしるし。
照れ隠しに笑いながらも結は、胸が高まるのを自覚する。
(ありがとうございます、ミューレさん……)
書き上げた後、同じ梢に同じ願いを結び付ける。
「願い事、叶うといいね」
「はい」
効用があるかは知らないが、結は、柏手を打っておいた。
「ミューレさんの願い事が叶いますように……時も世界も飛び越えて、全ての人の願いが届きますように……」
不意に腰へ手が回ってきた。
「ミューレさん……?」
目と目が合う。
「結……大好きだよ。愛している」
少女のような顔立ちをした恋人の声は若干上ずっていた。結は顔を真っ赤にし、ギュッと目をつぶる。
「私も……大好きです」
軽いキスひとつ。息を吸う間を置いて、深く長いキス。顎に手を添えて。
「結、僕の欲しいモノ、やっと見つけたよ。君の心なんだ」
熱っぽい声に結は、答えることも出来ない。ただ握られる手を、相手以上の力を込めて、握り返すだけ。
ひゅーっと口笛を鳴らす音がしたので、慌ててそちらに顔を向ければ、琴音が目を細めていた。
「いいな。僕も二人で来ればよかったかな?」
からかい交じりの言葉に恋人たちは、耳の先まで赤くなる。
●
「急にいなくなって、心配してたんですよ。……元気そうで良かった」
祭り会場から離れ薮に隠れていたコボルドは、急に目の前に現れたアルマに対し、下顎を突き出し歯をむいている。とはいえ噛み付くようなことはしない。攻撃が十倍二十倍になって返ってくるのを知っているからだ。
「ご飯、買いすぎちゃって。一緒に食べませんか?」
差し出した品々を引ったくって食べる姿に、アルマは目尻を下げた。
ケガや病気の兆候はどこにも見られない。それがうれしい。とりわけ一番うれしいのは、与えた服を着続けてくれているということだ。コボルドが生きていくにあたって服など必要ないにもかかわらず。
(つまり、気に入っているということですよね)
アルマはフリルリボンを取り出した。相手の首につけてやる。眉間にしわを寄せられながら。
「そうそう、君が稼いだ分のお金、君が今着てる衣装になったんですよ。……だって、あれは最初っから君のものですっ」
友好的な意識を持っているのかどうかはなはだ微妙であるが、コボルドは一応大人しく聞いている。
「ついでですから、お祭りを見て回りませんか? 僕と一緒ならハンターがいても大丈夫です。でも、お行儀よくしててくださいね?」
彼は距離を取りつつアルマの後についてきた。そして祭り会場に入るや、流しに来ていた猿回しの猿と喧嘩をし始めた。
「わしわしわしわし!」
「キーキーキーキー!」
言われたことについて全く理解してなかったらしい。
コボルドの耳を引っ張りアルマは、大急ぎで場から離れた。
「おいあんちゃん、それは……なんだ?」
猿回しの不審そうな視線を笑顔でかわし、以下の説明で打ち切る。
「僕のお友達ですっ。可愛いでしょう?」
●
『3人で暮らせますように』『華彩あやめ』
そう書いた短冊を吊るす惺樹に、あやめが頼む。
「兄さん、わたしのも吊るしてくれませんか? 兄さんの方が背が高いですから」
「おお、そのくらいお安い御用だ」
受け取った短冊には、こう書かれていた。
『姉にもう一度会えますように』『華彩 惺樹』
あやめはにっこり笑って言う。
「こうやって書いておいて、兄さんとわたしがずっと一緒にいれば、私も姉さんに会えますよね」
惺樹は妹の優しさを嬉しく思うとともに、胸が痛んだ。行方知れずの姉が早く見つけてもらいたがっている、そんな気がして。
(何処にいても必ず見つけ出す。待っていてくれ、姉貴…)
●
艮は短冊を書き上げ、嬉しそうに掲げ見る。薄桃色の地の上に記されている願い事は『富貴栄華』。署名は『主』。
(……上出来……♪)
出来栄えに大満足な彼は、さっそくそれを、手の届く限り高い場所に結び付けた。
彼は知らなかったが、その下には、次のように書かれた短冊が揺れていた。
『弟と妹ともう一度会えますように』
星明かりの下、あまたの願いが風に舞う。
「わあ……色んな夜店が並んでますね。ミューレさんっ」
屋台、提灯の列、のぼり旗。道行く人の服装も自分たちと同じような物が多い。浴衣に甚平――クリムゾン風にアレンジされているが。
(……なんだか元の世界に帰ってきたみたいです……)
しかし夜空を仰ぎ見ても、懐かしき蒼い星は見つからない。
LH044の記憶は、鮮明さこそ薄れてきたものの、けして消え去りはしない。生き別れになったきりの両親と兄は、今頃どうしているだろうか。皆、無事に逃げ果せただろうか。それとも……。
(……ううん……絶対に無事って信じていますっ)
ぐっと拳を握る結の横顔を、ミューレはぼーっと眺めている。
(浴衣姿……着物姿とはまた一味違って可愛らしい……)
ここは男らしく無言で手を握るべきではないか――と思ったが、どうしても照れが入り、ワンクッション入れてしまう。
「え、えっと、それじゃ行こうか」
その声で結は、はたと我に返った。差し出された手を見、満面の笑顔を浮かべ、優しく握り返す。
「はいっ、いきましょう!」
色白なエルフの顔に、ほんのり朱が差す。
「何か食べたいものはある?」
「まずはリンゴ飴からですね! 硝子細工に綿菓子、べびーかすてら――リアルブルーでも色んな夜店があったんですよ!」
うきうきした足取りに引きずられていくことに、ミューレは、限りない幸福感を覚えた。
●
「七夕、か。そんな時期なんだね」
狐の面を顔の横に引っ提げた瀬崎 琴音(ka2560)は、あちらこちらに首を巡らせた。
「食べ物が多いね。流石に水風船や金魚掬いはない、かな?」
この祭りを伝えたリアルブルー住人というのは、あるいは自分と同郷であろうか――等頭の片隅で考えながら、ぶらぶら。
飴屋台の前で結とミューレの二人連れを見つける。
「あ、ほらリンゴ飴があるよ」
「わあ、懐かしいですー。向こうではこれ、よく食べてました」
無粋はすまいと後ろを通り過ぎて行くと、今度は華彩 惺樹(ka5124)と華彩 あやめ(ka5125)の兄妹二人連れを発見。
あやめは、白地に藍の控え目な朝顔柄の浴衣姿。兄に評価を聞いている。
「ちゃんと似合ってますか?」
「可憐で愛らしいな。とても良く似合っている、最高に似合っているとも」
彼らの周囲には不自然な空間が出来ていた。惺樹が間断なく周囲の男たちへガンを飛ばしているせいだ。
「あやめ、気をつけるんだぞ。こうも人が多いと何があるか分からないからな」
「もう、兄さん、心配しすぎですよ。わたし、もうしっかり元気になったんですからね? 心配してくれるのは、嬉しいのですけど」
深入りせずさらに行き過ぎれば、甘い匂いが漂ってきた。ドワーフの大将が、円筒形の機械の中に棒を差し入れている――あれはまごうことなき綿菓子製造機。
「へぇ、この世界にもあるんだ」
好奇心と懐かしさに思わず引き付けられる。子供たちが大勢並んでいる最後尾につく。そこにアルマ・アニムス(ka4901)が通りがかった。
「おや、琴音さん。こんばんは」
「あ、こんばんは」
挨拶もそこそこに彼は、急ぎ足で立ち去って行く。誰かと待ち合わせだろうか。そんな疑問を抱くが、追求はしなかった。自分の番が回ってきたので。
「はいよ。お嬢ちゃん」
外見は完全に綿菓子だ。中身はどうか……ほのかにハッカの味がする。
「ためしに買ってみたけど、これは中々……美味しい」
●
風になびく色とりどりの紙細工、短冊。それらを結び付けているのは――柳。
(……笹、じゃないのか……)
祭りとしては七夕そのものなのに、ここだけが違う。どうしてだろう。
不思議に思う艮(ka4667)は、背中に誰かが突き当たってきたのを感じた。振り向いてみればアルティミシア(ka5289)だ。
「ね、短冊結ぶの手伝ってくんない? ボクね、出来るだけ、高いところに結びたいんだ。下の方混み混みになってるから」
「……わふ」
艮はその頼みを、こころよく引き受けた。アルティミシアは白い歯を見せる。
「ありがとっ。じゃあ、早速書いてくるね」
柳の近くに設置されている書き物机に向かい、備え付けの筆に墨を含ませる。
「うーん……ボクだけ幸せになっても、嬉しくない。皆も一緒」
一筆入魂と言った太文字で以下の願い事を記す。
『ボク、しあわせに、なりたい、けど、皆も一緒に、幸せになれたら、うれしいな』
文字の出来栄えに彼女は満足したようだった。裏返し名前を書き記し、艮のもとへ戻ってくる。相手が無口な分を補おうというのか、ひっきりなし喋りながら。
「そういえば、さ、知ってる? さっきそのへんで聞いたんだけど、このお祭り、リアルブルーだと、ササっていう木を使うんだって」
「……わふ」
「でもこのへんには、それがなかったから、柳の木を代用に、したんだってさ。よく風に、なびくから。ササも、そうなんだって」
なるほどそういうことか。納得した艮は、力を入れて少女の胴を持ち、なるべく高く持ち上げてやる。
(……自分で、結びたいだろう……こういう時には……背が高いと便利……)
柳の枝はわずかな風にも動揺する。アルティミシアは手を伸ばしそれを捕まえ、短冊を結び付けた。
「これで、よし。さ、願うだけじゃなく、ボクも、頑張らないとね」
地面に降ろしてもらい見上げれば、短冊はヒラヒラ揺れている。星空を泳ぐ小魚のように。
「ん、完璧。ありがと!」
「………わん」
礼を言われた艮は困ったように目を泳がせ、小さく頷き、飾りたてられた柳と夜空を見上げる。
彼には星の学がない。この世界の織り姫と彦星はどこか。指そうとするも指はあてどなく迷うばかり。横顔が少し寂しそうだ。
(……よくは…分からないな……出来るなら……主と、来たかったな……)
●
「ううん、一人になると不安になるなぁ……」
呟くあやめは折り畳み椅子に座り、目の前にあるカタ抜き一覧表を眺めている。難易度1の円から難易度MAXのドラゴンまで、品揃えは豊富だ。
「わっ、カタ抜きもあるんですね。やってみましょうよミューレさん」
声に振り向けばそこには、ミューレと結。顔見知りの姿を見て、いくらか彼女もほっとする。
「こんばんは、結さん、ミューレさん」
彼女の存在にカップルたちも気づき、口々に挨拶してきた。
「あ、これはあやめさん。こんばんは」
「こんばんは」
とりあえずそのまま3人仲良くカタ抜きを始める。喧噪の中、この屋台だけは静か。カタを爪楊枝でつついていると、人は無口になるものだ。
沈黙を破ったのは通りすがりのチャラ男。連れがいなさそうなあやめへ、コナをかけに来たのだ。
「ねーねー彼女、一人?」
「あ、はい、わたしですか? いえ、一人ではなくて、兄と一緒に来たんですけど、はぐれちゃって……」
「じゃあ一人じゃん。ねえねえ一緒にその辺歩かない? オレも一人だからさー」
「え? いえ、その、兄を放ってどこかへ行ってしまうのはちょっと……。それに、あまり動きまわってしまうと、二人ですれ違ってしまうかもしれませんし、その……」
「いーじゃんいーじゃんちょっとだけだってー二人で歩きながら探せばいーよお兄さんはー」
はっきり断らないあやめに脈有りと見て押すチャラ男は、直後頭蓋を掴まれた。めきめきいうほどの力で。
あやめが中腰になる。
「あ、兄さん! ごめんなさい、わたし、はぐれてしまって……」
「もう大丈夫だ」
妹を背にしつつ彼は、地に投げ捨てたチャラ男を睨みつける。今しも射殺しかねない勢いで。
「あやめをナンパするなどその罪は万死に値する……が、せっかくの祭を血で汚す無粋な真似はしたくない。さっさと俺達の前から消えろ」
ひとごとではあるが、ミューレは口を挟むことにした。
「惺樹さん、その人気絶してますよ。目が裏返ってます」
「……そうか」
一言で終わらせた惺樹は、あやめの頭を優しく撫でる。
「怖い思いをさせてすまない。気を取り直して祭を楽しもう」
一部始終を離れたところから見ていた琴音は、食べ終わった綿菓子の棒をゴミ箱に捨て、祭り会場の真ん中にある、柳の大樹に向かった。近くに書き物机が設置されており、多数の人が短冊を書いている。
木の幹に背をもたれかけさせ、風に柳の葉と短冊が擦れる音を聞く。数限りない星の瞬きを目に映す。
遠いリアルブルーの故郷が思い浮かんだ。実家。父や母、優しくしてくれた従兄弟。それらすべてが詰まっているはずの青い星は、どこにも見えない。
(母様や父様は元気かな。……僕が居なくなって、心配していないといいけれど……)
物思いに浸る琴音は、「ねえ」と言う呼びかけで、正面に視線を戻した。
そこにはアルティミシアがいた。白地に青のグラデーションが入った短冊を差し出している。
「よかったら、キミも願かけ、しない? 艮も、今、向こうで書いてるところだよ。ボクはもうすませちゃった」
短冊を受け取った琴音は、ひとまず聞いてみた。
「えーと……これはどう書いたらいいんだい?」
「えっとね、それは――」
説明をしてもらった後、さらに確かめる。
「裏面に書く対象者名は複数でもかまわないのかな?」
「んー。かまわない、と思うよ?」
「そう、なるほど。ありがとう」
机に向かい彼女は、さらさら筆を走らせた。
『大きい怪我をせず、一年過ごせます様に』
裏には友人の名前を思いつく限り、ありったけしたためる。それを短冊を結び付け、星空に住まうという精霊に呼びかける。
「よし。これでいいかな。……あとは、よろしくお願いするね」
アルマが柳の所へやってきた。アルティミシアは彼にも、短冊を持って行く。
「はい、どーぞ」
「ありがとうございますアルティミシアさん。ついでですから、僕と願い事を交換しませんか?」
短冊は一人一枚と決まっている訳ではない。ので、この提案は受け入れられた。
「うん、いいよ。なんて、書くの?」
「『東方に行った友達が無事に帰ってきますように』……と。アルティミシアさんはどんなお願いを?」
少女は少し考え、言った。いつになく照れて。
「えっとね、じゃあ、『いつか恋人がほしい。お父さんも、ボクをなでて、くれなかったから、優しく撫でて、くれる人が、良いな』って、書いて」
●
結とミューレは並んで短冊を書いた。お互い願い事を交換しようと決めて。
「私のお願いは、『家族と再会して ミューレさんにリアルブルーを紹介すること』です。えへへ……少し欲張りですね。でも、叶うといいなあ。ミューレさんの願い事はなんですか?」
「僕はね、『結と一緒に地球へ行けますように』」
「あはは、なんだかそっくりですね。お願い事の内容」
筆を執る手が震えたのは、動揺のしるし。
照れ隠しに笑いながらも結は、胸が高まるのを自覚する。
(ありがとうございます、ミューレさん……)
書き上げた後、同じ梢に同じ願いを結び付ける。
「願い事、叶うといいね」
「はい」
効用があるかは知らないが、結は、柏手を打っておいた。
「ミューレさんの願い事が叶いますように……時も世界も飛び越えて、全ての人の願いが届きますように……」
不意に腰へ手が回ってきた。
「ミューレさん……?」
目と目が合う。
「結……大好きだよ。愛している」
少女のような顔立ちをした恋人の声は若干上ずっていた。結は顔を真っ赤にし、ギュッと目をつぶる。
「私も……大好きです」
軽いキスひとつ。息を吸う間を置いて、深く長いキス。顎に手を添えて。
「結、僕の欲しいモノ、やっと見つけたよ。君の心なんだ」
熱っぽい声に結は、答えることも出来ない。ただ握られる手を、相手以上の力を込めて、握り返すだけ。
ひゅーっと口笛を鳴らす音がしたので、慌ててそちらに顔を向ければ、琴音が目を細めていた。
「いいな。僕も二人で来ればよかったかな?」
からかい交じりの言葉に恋人たちは、耳の先まで赤くなる。
●
「急にいなくなって、心配してたんですよ。……元気そうで良かった」
祭り会場から離れ薮に隠れていたコボルドは、急に目の前に現れたアルマに対し、下顎を突き出し歯をむいている。とはいえ噛み付くようなことはしない。攻撃が十倍二十倍になって返ってくるのを知っているからだ。
「ご飯、買いすぎちゃって。一緒に食べませんか?」
差し出した品々を引ったくって食べる姿に、アルマは目尻を下げた。
ケガや病気の兆候はどこにも見られない。それがうれしい。とりわけ一番うれしいのは、与えた服を着続けてくれているということだ。コボルドが生きていくにあたって服など必要ないにもかかわらず。
(つまり、気に入っているということですよね)
アルマはフリルリボンを取り出した。相手の首につけてやる。眉間にしわを寄せられながら。
「そうそう、君が稼いだ分のお金、君が今着てる衣装になったんですよ。……だって、あれは最初っから君のものですっ」
友好的な意識を持っているのかどうかはなはだ微妙であるが、コボルドは一応大人しく聞いている。
「ついでですから、お祭りを見て回りませんか? 僕と一緒ならハンターがいても大丈夫です。でも、お行儀よくしててくださいね?」
彼は距離を取りつつアルマの後についてきた。そして祭り会場に入るや、流しに来ていた猿回しの猿と喧嘩をし始めた。
「わしわしわしわし!」
「キーキーキーキー!」
言われたことについて全く理解してなかったらしい。
コボルドの耳を引っ張りアルマは、大急ぎで場から離れた。
「おいあんちゃん、それは……なんだ?」
猿回しの不審そうな視線を笑顔でかわし、以下の説明で打ち切る。
「僕のお友達ですっ。可愛いでしょう?」
●
『3人で暮らせますように』『華彩あやめ』
そう書いた短冊を吊るす惺樹に、あやめが頼む。
「兄さん、わたしのも吊るしてくれませんか? 兄さんの方が背が高いですから」
「おお、そのくらいお安い御用だ」
受け取った短冊には、こう書かれていた。
『姉にもう一度会えますように』『華彩 惺樹』
あやめはにっこり笑って言う。
「こうやって書いておいて、兄さんとわたしがずっと一緒にいれば、私も姉さんに会えますよね」
惺樹は妹の優しさを嬉しく思うとともに、胸が痛んだ。行方知れずの姉が早く見つけてもらいたがっている、そんな気がして。
(何処にいても必ず見つけ出す。待っていてくれ、姉貴…)
●
艮は短冊を書き上げ、嬉しそうに掲げ見る。薄桃色の地の上に記されている願い事は『富貴栄華』。署名は『主』。
(……上出来……♪)
出来栄えに大満足な彼は、さっそくそれを、手の届く限り高い場所に結び付けた。
彼は知らなかったが、その下には、次のように書かれた短冊が揺れていた。
『弟と妹ともう一度会えますように』
星明かりの下、あまたの願いが風に舞う。
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お祭りを楽しむために! アルマ・A・エインズワース(ka4901) エルフ|26才|男性|機導師(アルケミスト) |
最終発言 2015/07/26 13:08:45 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/24 15:29:39 |