ゲスト
(ka0000)
歴史から消えた小城
マスター:天田洋介

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/24 12:00
- 完成日
- 2015/07/30 20:37
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
グラズヘイム王国、古都【アークエルス】より北方にある村『ミラウラ』。
ミラウラには伝説が残っている。かつてここは谷底だった。そして周囲を取り囲む山々はもっと高かったというものだ。
昔、谷底には小城があって領主の一族が暮らしていたという。だが隣領との関係が悪化した際、戦が起こって大敗を喫してしまった。
新しい領主はこの地に小城はいらないと生き残った現地の人々に命じる。こうして山が崩されて谷底の小城は町ごと埋められた。というのが伝説のあらましである。
今となっては大人が子供達に聞かせるおとぎ話に過ぎない。しかし穀物用の倉を新築する際に土の中から見つけられた。小城の塔と思しき建築物を。
埋まっていた土砂を取り除いてみると地下空間が広がっている。探ってみようと村が有志を募り、五名の青年が潜ることとなった。しかし予定の二日を過ぎても一人として帰って来ない。
救出隊をだそうにも今度は誰もが尻込みしてしまう。そんなミラウラにハンター一行が立ち寄る。
ハンター一行は依頼を終えて帰路の途中にあった。宿で休んでいると村長が直々にやって来る。そして地下に潜った青年五名を助けてやって欲しいと頼まれた。
少しの猶予をもらい、仲間同士で相談して引き受ける。準備が整ったところで地下へと続く塔の螺旋階段を下りていくのだった。
ミラウラには伝説が残っている。かつてここは谷底だった。そして周囲を取り囲む山々はもっと高かったというものだ。
昔、谷底には小城があって領主の一族が暮らしていたという。だが隣領との関係が悪化した際、戦が起こって大敗を喫してしまった。
新しい領主はこの地に小城はいらないと生き残った現地の人々に命じる。こうして山が崩されて谷底の小城は町ごと埋められた。というのが伝説のあらましである。
今となっては大人が子供達に聞かせるおとぎ話に過ぎない。しかし穀物用の倉を新築する際に土の中から見つけられた。小城の塔と思しき建築物を。
埋まっていた土砂を取り除いてみると地下空間が広がっている。探ってみようと村が有志を募り、五名の青年が潜ることとなった。しかし予定の二日を過ぎても一人として帰って来ない。
救出隊をだそうにも今度は誰もが尻込みしてしまう。そんなミラウラにハンター一行が立ち寄る。
ハンター一行は依頼を終えて帰路の途中にあった。宿で休んでいると村長が直々にやって来る。そして地下に潜った青年五名を助けてやって欲しいと頼まれた。
少しの猶予をもらい、仲間同士で相談して引き受ける。準備が整ったところで地下へと続く塔の螺旋階段を下りていくのだった。
リプレイ本文
●
ミラウラの村で発見された土中に埋まる小城の塔。ハンター一行はランタンの灯りを頼りに螺旋階段を下りていく。
五分とかからずに階段を下りきる。辿り着いたそこは長い廊下の中間地点。夏とは思えぬ冷気が背筋をなぞっていく。仲間同士の魔導短伝話登録は済ませてあった。ここで当初の予定通り二班に分かれる。
A班の柊 真司(ka0705)、ザレム・アズール(ka0878)、水流崎トミヲ(ka4852)、榊 刑部(ka4727)の四名は廊下の西側を目指す。
B班のアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)、八島 陽(ka1442)、十 音子(ka0537)は東側だ。
遭難した若者五名を救出すべく地下迷路攻略がここに始まるのだった。
●
「不慮の何かに遭ったと考えるべきだな」
立ち止まったA班の柊真司がランタンで枝道を照らした。
「四日経っていても戻ってこないというのはおかしいからな」
「罠、崩落、あるいは、歪虚……。無事でいるとしたら……見つかりにくい所にいるのかな」
大雑把であったがマッピングはザレムと水流崎が担当する。
「ミイラ取りがミイラになるのだけは避けなければ」
榊刑部がLEDライトで石床を照らす。自分達以外の靴底の形をした土の足跡がはっきりと残っていた。しかし湿り気のある石床のせいか徐々に薄れて消えてしまう。
焦ると碌なことはないと水流崎が休憩を提案した。更なる地下へと通じる階段を発見したところでくつろいだ。
「どこまで下があるんだろうな」
柊真司は目印として銃弾を階段の隅に置いてから水筒に口をつける。
「伝説でも小城ですからね。ただ幽閉施設としての地下空間があったと語り継がれているようです」
榊刑部も水分を補給した。
「シバ、もう少ししたらお前の出番だからな」
ザレムは連れてきた柴犬の喉を撫でてあげる。
「歪虚とかいそうな雰囲気だよなぁ、これ?」
水流崎が眼鏡のブリッジを人差し指でくいっと持ち上げる。試しに階段下へ小石を投げてみると音がするまで時間がかかった。
無言だと地下独特の雰囲気に呑まれてしまう。そこで階段を下りながら適当に雑談を交わす。
「男児たるもの、一度は探検しなくちゃいけないよね。僕も行ったものだよ。富○山の樹海とか大陸最南端とか天空都市とか――」
水流崎の身の上話がしばらく続いた。
「そこで思ったのさ。僕はね。命は大事だなあって。オチ? 無いよ」
唐突な締めくくりに他の三人が突っ込みを入れる。
投石の音がするまでに時間がかかったのは石階段が縦坑に繋がっていたからだ。縦坑からは塔の内壁に沿って作られた螺旋階段になっている。
右手側は石壁で左手側は手すりすらない闇の空間。途中に踊り場が存在しない六十センチメートル幅の石階段がひたすら地下の暗闇へと続いていた。
広い床へ辿り着くまでに精神力がごっそりと削り取られる。A班二度目の休憩は一時間半にも及ぶのだった。
●
B班の一同も廊下を進んだ先で長い階段を下りる羽目になる。こちらは手すりのある普通の階段で特に恐い思いはせずに済んだ。
「どう? 密閉された空間だからにおいは残りやすいはずだよね」
アルトが借りてきた青年の衣服を愛犬に嗅がせる。
「連絡をとってみましょうか」
ユキヤは魔導短伝話でA班との交信を試みた。A班も地下に下りたようだ。トランシーバーで呼びかけも行ってみる。遭難者五名のうち誰かが所持していても不思議ではなかった。
「ここまでのマッピングは簡単だったけど、この先はそうはいかないかもね」
平らな石床に辿り着いた八島陽がランタンで廊下向こうを照らす。一本道ではなく枝道がたくさん延びていた。
「これは大昔の凄惨な跡ですね」
十音子は廊下の片隅で槍が刺さったままの白骨死体を発見する。
地面があれば埋葬してあげるところなのだが石床では仕方がない。槍を抜き、綺麗に横にしてあげて祈りを捧げておく。
床には埃が溜まっていて足跡が残っていた。だが進んでいくうちに湿りだして濡れた状態になる。こうなると足跡はつきにくい。場所によっては苔が生えていた。
アルトの愛犬が見つけた苔に残る足跡を眺めて一同が絶句する。
「人の足跡ではないね」
「この大きさで二足歩行だとすれば、身長は三、四メートル前後かな?」
アルトと八島陽が互いに顔を見合わせた。
「大型の雑魔がいると考えるべきだね」
八島陽が闇の向こう側を見つめる。
「枝道の探索が終わるまで階段の下辺りを拠点にしてみてはどうでしょうね?」
十音子の案が採用された。会談下を中心にしてマッピングを行い、徐々に範囲を広げていく。
発見される品々からいって、ここが小城だったのは間違いがないところだ。錆だらけの武器や安物の陶器以外に、倉庫らしき部屋で未使用の刀剣も多数見つかった。
●
深夜の時間帯。離れていたA班、B班の双方とも突然の大音響の洗礼を浴びる。獣の遠吠えのようなそれは五分ほど鳴り響いてから止んだ。
最初の遠吠えからまもなくしてもう一つの遠吠えが呼応したように感じられた。重なり合うことで反響が広がったようである。
雑魔か幻獣かはわからないが、得体の知れない敵が二体以上潜んでいることをハンター達は確信するのだった。
●
充分に休んだところでA班が探検を再開する。縦坑の底には東西南北の方角に出入り口の穴があり、それぞれに廊下が延びていた。
まずは適当に北から探すことにする。
「ふふ……僕のDT魔力が囁いているぜ……そこだ!」
水流崎が振り向きざまに廊下沿いの扉を指さす。彼の横を柴犬を連れたザレムが通り過ぎていく。
「どうやら遭難者のにおいを嗅ぎつけたようだ」
「それは頼もしいな。においを消さないよう先頭を歩くのは控えようか」
ザレムと柊真司のやり取りを聴きながら水流崎が笑い飛ばす。ある意味において水流崎はとても大物だった。
「ここ、戦った形跡が残っていますね」
榊刑部が広間に立っていた鉄柱の不自然さに気がついた。
「本当だ。傷が真新しいね」
水流崎も確認する。赤錆だらけの太い鉄柱の一部が削れて金属の地肌が露出していた。
ランタンだけでなく、LEDライトも駆使して全員で周囲を確かめる。
「血痕のようなものはないな。遭難者が遠吠えの主と接触していたとしても、きっと生き延びているだろう」
屈んで床を確かめた柊真司が立ち上がった。
「遠吠えの主が徘徊しているところへ踏み込んだともいえるな」
連れてきた柴犬がやけにそわそわしている。恐怖を感じさせるにおいが残っているのだろうとザレムは想像した。
この辺りは床が濡れていない。積もった埃の中に人らしき足跡が多数見つかる。A班の一同は慎重に辿っていくのだった。
●
B班は廊下の奥まった小部屋に隠れていた遭難者一人を発見した。
「よく頑張った。もう大丈夫だからな」
八島陽は縮こまっていた青年に声をかける。名を訊ねるとゴリゴと答えた。長く一人だったようで恐怖と空腹で衰弱している。
「怪我は……ないようですね。こちらをどうぞ」
ユキヤはゴリゴに非常食を手渡してから念のためにヒーリングスフィアをかけておく。
「どうしてこうなってしまったのかを教えてもらえますか?」
ゴリゴが落ち着いてきたのを見計らって十音子が訊ねる。
「あの……みんなと一緒のとき熊のような頭をした巨人と遭遇したんです。焦って逃げたら巨人の足がとても遅くて。それで安心していたら反対側から別の巨人が現れて。そのあとのことは無我夢中で覚えていません。気がついたら俺一人になっていて――」
B班はゴリゴが語った巨人を『ベアマン』と呼ぶことにした。このような地下で充分な食べ物が得られるとは考えにくいので、幻獣ではなく雑魔だと考えられる。
ゴリゴはベアマンとの遭遇から半日ほど逃げ回ったらしい。それが正しいのか判断に迷うところだが、ここからかなり離れていることは確かなようだ。
「毎夜の遠吠えの他に、一度だけこの小部屋前の廊下を巨人が通り過ぎたんです。この扉の前で足を滑らせて転んだときには生きた心地がしませんでした」
安心したようでゴリゴがうつらうつらとし始める。ついでにB班は長期の休憩を取ることにした。
魔導短伝話でA班との交信を試みたが繋がらなかった。二班の位置はかなり離れていると思われる。
「この壁の染みがそうだよね」
アルトはベアマンが転んだ際に壁へともたれた痕跡を廊下で発見した。持っていた布で拭ってにおいを移す。もしもの時に備えて愛犬に覚えさせておくのだった。
●
「ここは……?!」
前方を歩いていた愛犬に合わせてザレムが立ち止まってLEDライトで照らす。
「酷いな」
柊真司はランタンを掲げる。
辿り着いた廊下の周辺は酷く荒らされていた。石壁がハンマーで叩かれたようにいくつも窪んでおり、壁に飾られていたはずの額縁も床で踏みつぶされている。
「ここでも戦いがあったようですね。つい最近のようです」
「ボクもそう思ったところさ。この辺りを重点的に探してみたらどう……?」
榊刑部と水流崎が二人同時に黙り込んだ。暗闇から届いた呼吸音の響きを耳にしたからである。
A班全員でその方向へと進んでいく。やがて他の音も聞こえだす。破壊音や人の怒鳴り、泣き叫ぶ声だった。
覚悟を決めてLEDライトで遠方を照射してみた。すると熊顔の巨人『ベアマン』が闇から浮かび上がる。鉄扉を鉄棒で叩いて壊そうとしていた。人の声はどうやら鉄扉の向こう側からのようだ。
A班の全員が即座に反応する。
覚醒した柊真司とザレムが魔導拳銃で銃弾を叩き込む。
水流崎と榊刑部は今のところ覚醒化は控える。どのように戦局が変わるのかわからなかったからだ。
ベアマンはすぐに姿を消す。近づいてわかったが、鉄扉近くの石床は一部が崩れて穴が空いていた。そこから飛び降りて逃げたようである。
「村長に頼まれて救出しに来たハンターです」
榊刑部が刀を仕舞いつつ拉げた鉄扉の向こう側に話しかける。
「ほ、本当ですか!」
青年達の声がはっきりと聞こえた。隙間からランタンで照らすと家具を退かそうとする内部の様子が窺える。それから五分後にようやく鉄扉は開く。
「や、諸君。命拾いおめでとう!」
威風堂々と部屋の中に入った榊刑部が水筒を手渡す。室内にいた村の青年は聞いていた人数よりも少ない四人だった。
●
A班が発見した青年四名は食料があったおかげで健康を維持していた。しかしベアマンの恐怖に長く晒されたせいで精神的には参っている。
すぐに地上へ向かうことは叶わず、半日の滞在を余儀なくされた。B班との連絡が途絶えてから丸一日が経過する。
もう一人の安否は気になるものの、まずは青年四名の安全を優先する。ひとまず地上を目指す。マッピングのおかげで帰り道に迷うことはなかった。
歩きだして三時間後、魔導短伝話を通じてB班との連絡が取れる。これでA班が青年四名、B班が一名保護したことがわかった。双方の班が安堵の空気に包まれる。
やがて縦坑の螺旋階段へと辿り着いたとき、耳をつんざく遠吠えが響き渡った。
追いかけてきたのか、偶然かはわからないがベアマンと再遭遇したのである。今度こそはと黒漆太刀を抜いた榊刑部が先手必勝で攻撃を仕掛けた。
初遭遇時の銃撃負傷は癒えていない。振るわれた鉄棒の威力は凄まじいが、とにかく動きが鈍かった。背中を袈裟斬りして間合いを取る。
榊刑部、ザレムが威嚇射撃をしている間に水流崎が魔法詠唱。榊刑部が鉄棒を持つベアマンの右腕を叩っ切ったその直後、水流崎の雷撃が首元を貫く。
石床へと倒れたベアマンが消滅して全員が胸をなで下ろした。
「狭い階段の途中で襲われたら大変だったな」
「もう一体いるらしいからな。焦らず急ごうか」
柊真司とザレムが先頭になって階段を上る。
「もう一体はどこでしょうね?」
「この瞬間にB班と鉢合わせてしているのかも……まさかね」
榊刑部と水流崎の想像は偶然にも当たる。B班はまさにそのときもう一体のベアマンと遭遇していたのだった。
●
B班とベアマンとの遭遇は唐突だった。
廊下角での出会い頭に近かったが、それでもにおいに気づいたアルトの愛犬が吠えたおかげで約十秒のアドバンテージを得る。その間に覚醒などを済ます。
「走って!」
八島陽がゴリゴに叫びながらすでに視界に入っていた階段を指さした。
「まさかこんなところで!」
ベアマンの強烈な拳をアルトはシールドで受ける。衝撃に耐えて受けきり、試作振動刀で反撃に転じた。
「ここは通しませんからね」
ユキヤは自らの身体で廊下を塞ぎながらホーリーライトを唱えた。輝く光の弾がベアマンの脇腹に命中する。呻き声が狭い空間で響き渡った。
「敵影は一体のみです。他にはいないようです」
ゴリゴを一人にしておくわけにはいかないので十音子が護衛する。その前にベアマンの片眼を手裏剣で潰しておく。
ベアマンは凄まじい体力の持ち主だが言い換えればそれだけだ。丁寧に削り取ってしまえばよかった。
敵が弱気になったところを見計らってB班はもう一歩踏み込む。のちの憂いがないよう倒してしまう。
階段をあがったところで十音子とゴリゴがA班と接触した。遠くから騒ぎを耳にして駆けつけてくれたようである。
まもなく残るB班の三名も階段から姿を現す。ベアマン退治でA班の手を煩わせることはなかった。
全員で小さな塔の螺旋階段を一段ずつ踏みしめる。
「また太陽を拝めたから良し!」
地上へ戻ってきた八島陽が叫ぶ。青空にはさんさんと太陽が輝いていた。
●
その後、四日かけて地下の探検が行われる。
伝説はかなり脚色されていて、宝物の類いは殆ど見つからなかった。ただ未使用の武器は村にとってかなりの益となる。遭難者捜索の際に見かけられた量の十倍が発見されたからだ。村の鍛冶屋によって新しい鍋釜や農具に生まれ変わることだろう。
村人にも手伝ってもらい、白骨化した遺体は回収して地上に埋葬する。
「今回遭遇した雑魔以外にもどのような歪虚が住処としているか分かりません。いずれきちんとした調査が必要となるでしょうね」
榊刑部のいう通り、このまま放置しておくわけにはいかなかった。他に潜んでいても地上へ出てこられないよう一旦埋めて封印される。
突然舞い込んだ依頼だが、無事やり遂げたハンター一行の心中は晴れやかだった。
ミラウラの村で発見された土中に埋まる小城の塔。ハンター一行はランタンの灯りを頼りに螺旋階段を下りていく。
五分とかからずに階段を下りきる。辿り着いたそこは長い廊下の中間地点。夏とは思えぬ冷気が背筋をなぞっていく。仲間同士の魔導短伝話登録は済ませてあった。ここで当初の予定通り二班に分かれる。
A班の柊 真司(ka0705)、ザレム・アズール(ka0878)、水流崎トミヲ(ka4852)、榊 刑部(ka4727)の四名は廊下の西側を目指す。
B班のアルト・ヴァレンティーニ(ka3109)、ユキヤ・S・ディールス(ka0382)、八島 陽(ka1442)、十 音子(ka0537)は東側だ。
遭難した若者五名を救出すべく地下迷路攻略がここに始まるのだった。
●
「不慮の何かに遭ったと考えるべきだな」
立ち止まったA班の柊真司がランタンで枝道を照らした。
「四日経っていても戻ってこないというのはおかしいからな」
「罠、崩落、あるいは、歪虚……。無事でいるとしたら……見つかりにくい所にいるのかな」
大雑把であったがマッピングはザレムと水流崎が担当する。
「ミイラ取りがミイラになるのだけは避けなければ」
榊刑部がLEDライトで石床を照らす。自分達以外の靴底の形をした土の足跡がはっきりと残っていた。しかし湿り気のある石床のせいか徐々に薄れて消えてしまう。
焦ると碌なことはないと水流崎が休憩を提案した。更なる地下へと通じる階段を発見したところでくつろいだ。
「どこまで下があるんだろうな」
柊真司は目印として銃弾を階段の隅に置いてから水筒に口をつける。
「伝説でも小城ですからね。ただ幽閉施設としての地下空間があったと語り継がれているようです」
榊刑部も水分を補給した。
「シバ、もう少ししたらお前の出番だからな」
ザレムは連れてきた柴犬の喉を撫でてあげる。
「歪虚とかいそうな雰囲気だよなぁ、これ?」
水流崎が眼鏡のブリッジを人差し指でくいっと持ち上げる。試しに階段下へ小石を投げてみると音がするまで時間がかかった。
無言だと地下独特の雰囲気に呑まれてしまう。そこで階段を下りながら適当に雑談を交わす。
「男児たるもの、一度は探検しなくちゃいけないよね。僕も行ったものだよ。富○山の樹海とか大陸最南端とか天空都市とか――」
水流崎の身の上話がしばらく続いた。
「そこで思ったのさ。僕はね。命は大事だなあって。オチ? 無いよ」
唐突な締めくくりに他の三人が突っ込みを入れる。
投石の音がするまでに時間がかかったのは石階段が縦坑に繋がっていたからだ。縦坑からは塔の内壁に沿って作られた螺旋階段になっている。
右手側は石壁で左手側は手すりすらない闇の空間。途中に踊り場が存在しない六十センチメートル幅の石階段がひたすら地下の暗闇へと続いていた。
広い床へ辿り着くまでに精神力がごっそりと削り取られる。A班二度目の休憩は一時間半にも及ぶのだった。
●
B班の一同も廊下を進んだ先で長い階段を下りる羽目になる。こちらは手すりのある普通の階段で特に恐い思いはせずに済んだ。
「どう? 密閉された空間だからにおいは残りやすいはずだよね」
アルトが借りてきた青年の衣服を愛犬に嗅がせる。
「連絡をとってみましょうか」
ユキヤは魔導短伝話でA班との交信を試みた。A班も地下に下りたようだ。トランシーバーで呼びかけも行ってみる。遭難者五名のうち誰かが所持していても不思議ではなかった。
「ここまでのマッピングは簡単だったけど、この先はそうはいかないかもね」
平らな石床に辿り着いた八島陽がランタンで廊下向こうを照らす。一本道ではなく枝道がたくさん延びていた。
「これは大昔の凄惨な跡ですね」
十音子は廊下の片隅で槍が刺さったままの白骨死体を発見する。
地面があれば埋葬してあげるところなのだが石床では仕方がない。槍を抜き、綺麗に横にしてあげて祈りを捧げておく。
床には埃が溜まっていて足跡が残っていた。だが進んでいくうちに湿りだして濡れた状態になる。こうなると足跡はつきにくい。場所によっては苔が生えていた。
アルトの愛犬が見つけた苔に残る足跡を眺めて一同が絶句する。
「人の足跡ではないね」
「この大きさで二足歩行だとすれば、身長は三、四メートル前後かな?」
アルトと八島陽が互いに顔を見合わせた。
「大型の雑魔がいると考えるべきだね」
八島陽が闇の向こう側を見つめる。
「枝道の探索が終わるまで階段の下辺りを拠点にしてみてはどうでしょうね?」
十音子の案が採用された。会談下を中心にしてマッピングを行い、徐々に範囲を広げていく。
発見される品々からいって、ここが小城だったのは間違いがないところだ。錆だらけの武器や安物の陶器以外に、倉庫らしき部屋で未使用の刀剣も多数見つかった。
●
深夜の時間帯。離れていたA班、B班の双方とも突然の大音響の洗礼を浴びる。獣の遠吠えのようなそれは五分ほど鳴り響いてから止んだ。
最初の遠吠えからまもなくしてもう一つの遠吠えが呼応したように感じられた。重なり合うことで反響が広がったようである。
雑魔か幻獣かはわからないが、得体の知れない敵が二体以上潜んでいることをハンター達は確信するのだった。
●
充分に休んだところでA班が探検を再開する。縦坑の底には東西南北の方角に出入り口の穴があり、それぞれに廊下が延びていた。
まずは適当に北から探すことにする。
「ふふ……僕のDT魔力が囁いているぜ……そこだ!」
水流崎が振り向きざまに廊下沿いの扉を指さす。彼の横を柴犬を連れたザレムが通り過ぎていく。
「どうやら遭難者のにおいを嗅ぎつけたようだ」
「それは頼もしいな。においを消さないよう先頭を歩くのは控えようか」
ザレムと柊真司のやり取りを聴きながら水流崎が笑い飛ばす。ある意味において水流崎はとても大物だった。
「ここ、戦った形跡が残っていますね」
榊刑部が広間に立っていた鉄柱の不自然さに気がついた。
「本当だ。傷が真新しいね」
水流崎も確認する。赤錆だらけの太い鉄柱の一部が削れて金属の地肌が露出していた。
ランタンだけでなく、LEDライトも駆使して全員で周囲を確かめる。
「血痕のようなものはないな。遭難者が遠吠えの主と接触していたとしても、きっと生き延びているだろう」
屈んで床を確かめた柊真司が立ち上がった。
「遠吠えの主が徘徊しているところへ踏み込んだともいえるな」
連れてきた柴犬がやけにそわそわしている。恐怖を感じさせるにおいが残っているのだろうとザレムは想像した。
この辺りは床が濡れていない。積もった埃の中に人らしき足跡が多数見つかる。A班の一同は慎重に辿っていくのだった。
●
B班は廊下の奥まった小部屋に隠れていた遭難者一人を発見した。
「よく頑張った。もう大丈夫だからな」
八島陽は縮こまっていた青年に声をかける。名を訊ねるとゴリゴと答えた。長く一人だったようで恐怖と空腹で衰弱している。
「怪我は……ないようですね。こちらをどうぞ」
ユキヤはゴリゴに非常食を手渡してから念のためにヒーリングスフィアをかけておく。
「どうしてこうなってしまったのかを教えてもらえますか?」
ゴリゴが落ち着いてきたのを見計らって十音子が訊ねる。
「あの……みんなと一緒のとき熊のような頭をした巨人と遭遇したんです。焦って逃げたら巨人の足がとても遅くて。それで安心していたら反対側から別の巨人が現れて。そのあとのことは無我夢中で覚えていません。気がついたら俺一人になっていて――」
B班はゴリゴが語った巨人を『ベアマン』と呼ぶことにした。このような地下で充分な食べ物が得られるとは考えにくいので、幻獣ではなく雑魔だと考えられる。
ゴリゴはベアマンとの遭遇から半日ほど逃げ回ったらしい。それが正しいのか判断に迷うところだが、ここからかなり離れていることは確かなようだ。
「毎夜の遠吠えの他に、一度だけこの小部屋前の廊下を巨人が通り過ぎたんです。この扉の前で足を滑らせて転んだときには生きた心地がしませんでした」
安心したようでゴリゴがうつらうつらとし始める。ついでにB班は長期の休憩を取ることにした。
魔導短伝話でA班との交信を試みたが繋がらなかった。二班の位置はかなり離れていると思われる。
「この壁の染みがそうだよね」
アルトはベアマンが転んだ際に壁へともたれた痕跡を廊下で発見した。持っていた布で拭ってにおいを移す。もしもの時に備えて愛犬に覚えさせておくのだった。
●
「ここは……?!」
前方を歩いていた愛犬に合わせてザレムが立ち止まってLEDライトで照らす。
「酷いな」
柊真司はランタンを掲げる。
辿り着いた廊下の周辺は酷く荒らされていた。石壁がハンマーで叩かれたようにいくつも窪んでおり、壁に飾られていたはずの額縁も床で踏みつぶされている。
「ここでも戦いがあったようですね。つい最近のようです」
「ボクもそう思ったところさ。この辺りを重点的に探してみたらどう……?」
榊刑部と水流崎が二人同時に黙り込んだ。暗闇から届いた呼吸音の響きを耳にしたからである。
A班全員でその方向へと進んでいく。やがて他の音も聞こえだす。破壊音や人の怒鳴り、泣き叫ぶ声だった。
覚悟を決めてLEDライトで遠方を照射してみた。すると熊顔の巨人『ベアマン』が闇から浮かび上がる。鉄扉を鉄棒で叩いて壊そうとしていた。人の声はどうやら鉄扉の向こう側からのようだ。
A班の全員が即座に反応する。
覚醒した柊真司とザレムが魔導拳銃で銃弾を叩き込む。
水流崎と榊刑部は今のところ覚醒化は控える。どのように戦局が変わるのかわからなかったからだ。
ベアマンはすぐに姿を消す。近づいてわかったが、鉄扉近くの石床は一部が崩れて穴が空いていた。そこから飛び降りて逃げたようである。
「村長に頼まれて救出しに来たハンターです」
榊刑部が刀を仕舞いつつ拉げた鉄扉の向こう側に話しかける。
「ほ、本当ですか!」
青年達の声がはっきりと聞こえた。隙間からランタンで照らすと家具を退かそうとする内部の様子が窺える。それから五分後にようやく鉄扉は開く。
「や、諸君。命拾いおめでとう!」
威風堂々と部屋の中に入った榊刑部が水筒を手渡す。室内にいた村の青年は聞いていた人数よりも少ない四人だった。
●
A班が発見した青年四名は食料があったおかげで健康を維持していた。しかしベアマンの恐怖に長く晒されたせいで精神的には参っている。
すぐに地上へ向かうことは叶わず、半日の滞在を余儀なくされた。B班との連絡が途絶えてから丸一日が経過する。
もう一人の安否は気になるものの、まずは青年四名の安全を優先する。ひとまず地上を目指す。マッピングのおかげで帰り道に迷うことはなかった。
歩きだして三時間後、魔導短伝話を通じてB班との連絡が取れる。これでA班が青年四名、B班が一名保護したことがわかった。双方の班が安堵の空気に包まれる。
やがて縦坑の螺旋階段へと辿り着いたとき、耳をつんざく遠吠えが響き渡った。
追いかけてきたのか、偶然かはわからないがベアマンと再遭遇したのである。今度こそはと黒漆太刀を抜いた榊刑部が先手必勝で攻撃を仕掛けた。
初遭遇時の銃撃負傷は癒えていない。振るわれた鉄棒の威力は凄まじいが、とにかく動きが鈍かった。背中を袈裟斬りして間合いを取る。
榊刑部、ザレムが威嚇射撃をしている間に水流崎が魔法詠唱。榊刑部が鉄棒を持つベアマンの右腕を叩っ切ったその直後、水流崎の雷撃が首元を貫く。
石床へと倒れたベアマンが消滅して全員が胸をなで下ろした。
「狭い階段の途中で襲われたら大変だったな」
「もう一体いるらしいからな。焦らず急ごうか」
柊真司とザレムが先頭になって階段を上る。
「もう一体はどこでしょうね?」
「この瞬間にB班と鉢合わせてしているのかも……まさかね」
榊刑部と水流崎の想像は偶然にも当たる。B班はまさにそのときもう一体のベアマンと遭遇していたのだった。
●
B班とベアマンとの遭遇は唐突だった。
廊下角での出会い頭に近かったが、それでもにおいに気づいたアルトの愛犬が吠えたおかげで約十秒のアドバンテージを得る。その間に覚醒などを済ます。
「走って!」
八島陽がゴリゴに叫びながらすでに視界に入っていた階段を指さした。
「まさかこんなところで!」
ベアマンの強烈な拳をアルトはシールドで受ける。衝撃に耐えて受けきり、試作振動刀で反撃に転じた。
「ここは通しませんからね」
ユキヤは自らの身体で廊下を塞ぎながらホーリーライトを唱えた。輝く光の弾がベアマンの脇腹に命中する。呻き声が狭い空間で響き渡った。
「敵影は一体のみです。他にはいないようです」
ゴリゴを一人にしておくわけにはいかないので十音子が護衛する。その前にベアマンの片眼を手裏剣で潰しておく。
ベアマンは凄まじい体力の持ち主だが言い換えればそれだけだ。丁寧に削り取ってしまえばよかった。
敵が弱気になったところを見計らってB班はもう一歩踏み込む。のちの憂いがないよう倒してしまう。
階段をあがったところで十音子とゴリゴがA班と接触した。遠くから騒ぎを耳にして駆けつけてくれたようである。
まもなく残るB班の三名も階段から姿を現す。ベアマン退治でA班の手を煩わせることはなかった。
全員で小さな塔の螺旋階段を一段ずつ踏みしめる。
「また太陽を拝めたから良し!」
地上へ戻ってきた八島陽が叫ぶ。青空にはさんさんと太陽が輝いていた。
●
その後、四日かけて地下の探検が行われる。
伝説はかなり脚色されていて、宝物の類いは殆ど見つからなかった。ただ未使用の武器は村にとってかなりの益となる。遭難者捜索の際に見かけられた量の十倍が発見されたからだ。村の鍛冶屋によって新しい鍋釜や農具に生まれ変わることだろう。
村人にも手伝ってもらい、白骨化した遺体は回収して地上に埋葬する。
「今回遭遇した雑魔以外にもどのような歪虚が住処としているか分かりません。いずれきちんとした調査が必要となるでしょうね」
榊刑部のいう通り、このまま放置しておくわけにはいかなかった。他に潜んでいても地上へ出てこられないよう一旦埋めて封印される。
突然舞い込んだ依頼だが、無事やり遂げたハンター一行の心中は晴れやかだった。
依頼結果
依頼成功度 | 成功 |
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面白かった! | 4人 |
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MVP一覧
- DTよ永遠に
水流崎トミヲ(ka4852)
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依頼相談掲示板 | |||
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集え ミステリハンター 水流崎トミヲ(ka4852) 人間(リアルブルー)|27才|男性|魔術師(マギステル) |
最終発言 2015/07/24 07:46:00 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/23 12:08:51 |