ゲスト
(ka0000)
【聖呪】殿軍
マスター:柏木雄馬

- シナリオ形態
- ショート
- 難易度
- やや難しい
- オプション
-
- 参加費
1,000
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 4~8人
- サポート
- 0~0人
- マテリアルリンク
- ○
- 報酬
- 普通
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/28 19:00
- 完成日
- 2015/08/04 20:54
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
----------------------------------
●
戦略的な動きを見せるゴブリンたち。
亜種――茨小鬼(ホロム・ゴブリン)の目撃情報も増え、王国も対策に本腰を入れざるを得なくなった。
比較的平穏な土地。王国北部ルサスール領。
その領主カフェ・W・ルサスールも、頭を悩ませていた。
王族と貴族間の政治的な動き、領民の不安緩和への施策、戦力の確認……。
やらねばならぬことを頭に、王都での会合を終えたのだ。
だが、カフェが帰ってすぐに事態は一変した。
深く考えるだけの時間を、ゴブリンどもは与えてくれはしなかったのだ。
「騎士団の編成はどうなっている? 住民の避難と受け入れ先の確保を……占領された場合に備えて前線基地を築く準備はしておけ」
矢継ぎ早に指示を飛ばすカフェの顔色には、疲れが見える。
ルサスール領内でも北端に位置する町、オーレフェルト。そこを目指して、ゴブリンの軍勢が動き出したというのだ。
「あそこは領の関門にもなっている場所だ。何としても、死守しなければっ」
カフェの息子たちは政治的外遊のため不在。騎士団も散発するゴブリンへの対処で手薄となっていた。
時間も、戦力も足りてはいない。
「すぐに、緊急事態を発令させろ……戦えるものを全てオーレフェルトへ集めるのだ」
せめて、教会だけでも死守しなければならない。
精神的拠り所として、あそこは領北部の村々にとっても重要な位置を占める。
「間に合ってくれればよいのだが……」
オーレフェルトは、空気が変わるのを感じていた。
そよぐ風も、飛び立つ鳥のさえずりも、嵐の前の静けさという言葉を思い起こさせる。
少女は空を見上げ、母の袖をぎゅっと掴んで楽しそうに言う。
「鳥! 大きな鳥がいっぱい!」
次の瞬間、鳥が何かを落とした。いや、そいつらは降り立ったのだ。
ゴブリンの眼が少女をとらえる。
母は叫び、娘は呆然と立ち尽くす。暴虐が、始まろうとしていた。
----------------------------------
●【聖呪】殿軍
その日、オーレフェルトの町に駐屯するルサスール私兵の主力は、北東方面より迫るゴブリンの軍勢に対応すべく、少数の守備隊のみを町に残して出陣していた。
幾つかの情報から、敵が軍を主力と前衛部隊の二つに分けたことが確認されていた。そして、敵の主力はいまだ後方にあり、前衛部隊の方は孤立と呼べる程にこちら側に突出していることも。
「好機である。敵軍が合流を果たす前にこちらから打って出る」
物見の報告によれば敵前衛部隊の兵力の殆どが、茨小鬼と呼ばれる亜種ではなく通常型のゴブリンであったという。その装備もバラバラで、恐らくは茨小鬼が併呑した各部族の寄せ集めであるのだろう。
「烏合の衆である。恐れることはない。一戦にて蹴散らし、彼我の戦力差を縮めておくのだ」
実際にその通りになった。
数に劣るこちらが打って出てくるなど予想だにしなかったのだろう。想定外の場所で会敵したゴブリンたちは目に見えて狼狽し、隊形変換すらままならぬ内に、大して数も多くない騎兵の縦列突撃に蹴散らされた。
そして、直後に歩兵の追撃── 敵は4体の小鬼に1体の茨小鬼をつけて班としていたが…… 逃げようとして茨小鬼から背を斬られる小鬼も、戦わぬ小鬼に逃げられ孤立して兵に斬られる茨小鬼も。戦いを生業とするものから見れば、そのどちらも憐れであった。それを兵に感じさせるほど、戦況の差は圧倒的だった。
「攻撃の手を緩めるな。戦はこの一戦で終わりではない。ここで刈り取れるだけ刈り取れぃ!」
逃げる敵を追い、丘の稜線を越える。
直後、兵たちが見たものは、こちらが想像していた以上の数のゴブリンたちと…… 歴史的・文化的に見てゴブリンたちが持つはずのないモノだった。
「あれは…… まさか、投石器なのか?」
「馬鹿な! 攻城兵器だとっ!?」
完全に、潮目が変わった。それを象徴するような光景が、ダメ押しで彼らの頭上を行き過ぎた。
空を飛ぶ、鳥の大群── 普段、見慣れた鳥の隊形とは異なる飛び方をする、禍々しき凶鳥の群れ。瞬間、兵たちの脳裏の片隅に浮かんだ戦う者特有の嫌な予感が、その鳥に吊下された茨小鬼たちに気づいた瞬間、確信に変わる。
背後に兵力を投下される、と慌てていた兵士たちは…… しかし、鳥たちがそのまま飛び過ぎて行くのを見てホッと息を吐いた。
そして、次の瞬間には焦燥に駆られた。──ここに落とさなかった。では、どこに落とすと言うのか? ……決まっている。一つしかない。そして、町には少ない兵力しか残してきていない。
「いかん、急ぎ町に戻らねば……!」
慌てて馬首を廻らし、踵を返すルサスール私兵たちに、先程まで逃げ惑っていたゴブリンたちが逆襲に転じた。
隊列など崩れたまま、ただ、怒りに目を赤く光らせ、後退する兵の隊列に飛び込み、組み付き、首を掻き切る。そこには怯えも、異種間の諍いもなかった。強者には怯え諂い、弱者には嵩にかかって攻め立てる── それはゴブリンという種の特性でもある。
「構うな! 町へ戻ることが最優先だ!」
兵たちは一路、町へと駆ける。殿軍には、それまで予備として待機させられていた傭兵団とハンターたちとが当てられた。
「まさかこのような状況で殿軍のお鉢が回ってこようとは……」
「せめて今日だけは楽できると思ってたのになぁ……」
まるで負け戦かの様に『敗走』していく兵たちを見やって、傭兵とハンターたちが嘆き、愚痴を零す。
味方の尻尾に喰らいつきながら、丘の稜線を越えてくる大量のゴブリンたち。
「さて、それじゃあ…… 味方が撤収し終えるまで、時間を稼ぐとしましょうか」
殿軍を任された戦士たちが、それぞれに得物を構えた。
●
戦略的な動きを見せるゴブリンたち。
亜種――茨小鬼(ホロム・ゴブリン)の目撃情報も増え、王国も対策に本腰を入れざるを得なくなった。
比較的平穏な土地。王国北部ルサスール領。
その領主カフェ・W・ルサスールも、頭を悩ませていた。
王族と貴族間の政治的な動き、領民の不安緩和への施策、戦力の確認……。
やらねばならぬことを頭に、王都での会合を終えたのだ。
だが、カフェが帰ってすぐに事態は一変した。
深く考えるだけの時間を、ゴブリンどもは与えてくれはしなかったのだ。
「騎士団の編成はどうなっている? 住民の避難と受け入れ先の確保を……占領された場合に備えて前線基地を築く準備はしておけ」
矢継ぎ早に指示を飛ばすカフェの顔色には、疲れが見える。
ルサスール領内でも北端に位置する町、オーレフェルト。そこを目指して、ゴブリンの軍勢が動き出したというのだ。
「あそこは領の関門にもなっている場所だ。何としても、死守しなければっ」
カフェの息子たちは政治的外遊のため不在。騎士団も散発するゴブリンへの対処で手薄となっていた。
時間も、戦力も足りてはいない。
「すぐに、緊急事態を発令させろ……戦えるものを全てオーレフェルトへ集めるのだ」
せめて、教会だけでも死守しなければならない。
精神的拠り所として、あそこは領北部の村々にとっても重要な位置を占める。
「間に合ってくれればよいのだが……」
オーレフェルトは、空気が変わるのを感じていた。
そよぐ風も、飛び立つ鳥のさえずりも、嵐の前の静けさという言葉を思い起こさせる。
少女は空を見上げ、母の袖をぎゅっと掴んで楽しそうに言う。
「鳥! 大きな鳥がいっぱい!」
次の瞬間、鳥が何かを落とした。いや、そいつらは降り立ったのだ。
ゴブリンの眼が少女をとらえる。
母は叫び、娘は呆然と立ち尽くす。暴虐が、始まろうとしていた。
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●【聖呪】殿軍
その日、オーレフェルトの町に駐屯するルサスール私兵の主力は、北東方面より迫るゴブリンの軍勢に対応すべく、少数の守備隊のみを町に残して出陣していた。
幾つかの情報から、敵が軍を主力と前衛部隊の二つに分けたことが確認されていた。そして、敵の主力はいまだ後方にあり、前衛部隊の方は孤立と呼べる程にこちら側に突出していることも。
「好機である。敵軍が合流を果たす前にこちらから打って出る」
物見の報告によれば敵前衛部隊の兵力の殆どが、茨小鬼と呼ばれる亜種ではなく通常型のゴブリンであったという。その装備もバラバラで、恐らくは茨小鬼が併呑した各部族の寄せ集めであるのだろう。
「烏合の衆である。恐れることはない。一戦にて蹴散らし、彼我の戦力差を縮めておくのだ」
実際にその通りになった。
数に劣るこちらが打って出てくるなど予想だにしなかったのだろう。想定外の場所で会敵したゴブリンたちは目に見えて狼狽し、隊形変換すらままならぬ内に、大して数も多くない騎兵の縦列突撃に蹴散らされた。
そして、直後に歩兵の追撃── 敵は4体の小鬼に1体の茨小鬼をつけて班としていたが…… 逃げようとして茨小鬼から背を斬られる小鬼も、戦わぬ小鬼に逃げられ孤立して兵に斬られる茨小鬼も。戦いを生業とするものから見れば、そのどちらも憐れであった。それを兵に感じさせるほど、戦況の差は圧倒的だった。
「攻撃の手を緩めるな。戦はこの一戦で終わりではない。ここで刈り取れるだけ刈り取れぃ!」
逃げる敵を追い、丘の稜線を越える。
直後、兵たちが見たものは、こちらが想像していた以上の数のゴブリンたちと…… 歴史的・文化的に見てゴブリンたちが持つはずのないモノだった。
「あれは…… まさか、投石器なのか?」
「馬鹿な! 攻城兵器だとっ!?」
完全に、潮目が変わった。それを象徴するような光景が、ダメ押しで彼らの頭上を行き過ぎた。
空を飛ぶ、鳥の大群── 普段、見慣れた鳥の隊形とは異なる飛び方をする、禍々しき凶鳥の群れ。瞬間、兵たちの脳裏の片隅に浮かんだ戦う者特有の嫌な予感が、その鳥に吊下された茨小鬼たちに気づいた瞬間、確信に変わる。
背後に兵力を投下される、と慌てていた兵士たちは…… しかし、鳥たちがそのまま飛び過ぎて行くのを見てホッと息を吐いた。
そして、次の瞬間には焦燥に駆られた。──ここに落とさなかった。では、どこに落とすと言うのか? ……決まっている。一つしかない。そして、町には少ない兵力しか残してきていない。
「いかん、急ぎ町に戻らねば……!」
慌てて馬首を廻らし、踵を返すルサスール私兵たちに、先程まで逃げ惑っていたゴブリンたちが逆襲に転じた。
隊列など崩れたまま、ただ、怒りに目を赤く光らせ、後退する兵の隊列に飛び込み、組み付き、首を掻き切る。そこには怯えも、異種間の諍いもなかった。強者には怯え諂い、弱者には嵩にかかって攻め立てる── それはゴブリンという種の特性でもある。
「構うな! 町へ戻ることが最優先だ!」
兵たちは一路、町へと駆ける。殿軍には、それまで予備として待機させられていた傭兵団とハンターたちとが当てられた。
「まさかこのような状況で殿軍のお鉢が回ってこようとは……」
「せめて今日だけは楽できると思ってたのになぁ……」
まるで負け戦かの様に『敗走』していく兵たちを見やって、傭兵とハンターたちが嘆き、愚痴を零す。
味方の尻尾に喰らいつきながら、丘の稜線を越えてくる大量のゴブリンたち。
「さて、それじゃあ…… 味方が撤収し終えるまで、時間を稼ぐとしましょうか」
殿軍を任された戦士たちが、それぞれに得物を構えた。
リプレイ本文
今日の仕事は割と楽かもしれない──
傭兵団と共に後詰として後方に待機しながら水雲 エルザ(ka1831)が抱いた淡い期待は、吹き荒ぶ荒野の乾風に消えた。
上空を行く大鳥の群れ。引き返してくる私兵団── 慌てて街へと取って返すその騎兵の隊列から一騎の伝令がこちらにやって来て。簡潔な状況説明の後に後衛戦闘を言い渡す。
「殿軍か。まあ大王たるもの、非力なものを守るのは当然だな!」
「ええ、分かってましたとも。どうせこんなことになるんじゃないかと……」
馬上にて(薄い)胸を張り、腰に両拳を当てた姿勢で高笑いをしながら応じてみせる、自称・覇王の転生体、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)。その横で、砂混じりの風になびく薄紅色の髪に手をやりながら、エルザが肩を落として嘆息する。
視線を前方へと戻す。そこには、丘を越えてバラバラと逃げ来る歩兵の群れと、辛うじて横隊を維持した最後衛。そして、小虫が集るように群がるゴブリンどもの黒き影──
『騎士』ユナイテル・キングスコート(ka3458)は眉をひそめた。脳裏にはここ最近の一連の騒動と、矛を交えた小鬼たち── この北部でいったい何が起きているのか。起きようとしているのか。
「ともあれ、まずは相手の勢いを止めないといけないですよね……」
「そうだね。弱気を見せれば連中、嵩に懸かって攻めてくる」
戦いの気配に興奮する馬をどぅどぅと宥めながら『猫耳』サクラ・エルフリード(ka2598)。そして、『従騎士』イーディス・ノースハイド(ka2106)が言う。
「……ならば、ええ。まずは最後衛の兵士と入れ替わりに前進を。追撃する連中を蹴散らしに、こちらから参りましょう」
顎に指当て沈思して。エルザは2人にそう答えた。
イーディスは笑みを浮かべた。
「愚痴っていた割にはやる気だね」
「まぁ不謹慎ですけれど…… こういった方が戦いらしくて、少々ワクワクとしてしまいます」
「ま、やっと来た出番です。精々手柄を立てて、報酬、ふんだくりますかね」
方針を了承した傭兵団と共に突撃隊形への移行を終えて── メリエ・フリョーシカ(ka1991)は愛馬の鬣を撫でつつ呟いた。
前方には地獄の戦場── 後退してくる味方の横隊は、激しい敵の追撃に櫛の歯が欠けるようにその数を減らしつつある。
抜刀の指示が飛ぶ。メリエは赤毛の三つ編みを手で背へ弾き、愛馬にそっと囁いた。
「……行くよ、ジール。暴れる時間だ」
剣を前方へと振り下ろすディアドラとユナイテル。前進、襲歩── 逃げて来る味方を避けるようにその横を駆け上がり…… 弧を描くように針路を変えつつ、歩兵を追撃中のゴブリンたちの側面を正面に捉える。
「さあ、ここからがボクたちの出番だよ!」
羽織った学ランをはためかせ、ウィッチハットが飛ばぬよう手で押さえながら── 弓月 幸子(ka1749)は腕のデッキホルダーからシュピッとカードを引き抜いた。
「後攻、ファーストターン、ドロー! 『ファイアーボール』! さあ、敵をいっぱい巻き込むんだよ!」
手にしたカードをキラッとオープンしつつ、生み出した爆裂火球をゴブリンたちに撃ち放つ。緩い弧を描き飛翔した火球は着弾と同時に炸裂。轟音と石片と衝撃波とが周囲の小鬼を薙ぎ払い、敵隊列の横っ腹に突入口を抉じ開ける。
「おー。やるねぇ、嬢ちゃん」
元傭兵・ジャンク(ka4072)は口笛でその手際を称した。
「……女子供でも俺よかよっぽど実力のある奴ばかりかい。世も末だねぇ。ま、俺は俺の仕事をするだけだあな」
嘯き、ジャンクは馬上に腰を上げると、マントを棚引かせたまま両手で魔導銃を構えた。締めた両脚で馬の上下運動を緩和しつつ、逃げる味方に今にも追い迫らんとする小鬼どもへ向け連射する。
放たれた銃弾は戦場を横断し、小鬼たちの足元に立て続けに着弾した。慌てて足を止めるゴブリンたち。その間隙に幸子2発目の爆裂火球が着弾、爆発する。
「これ以上は行かせないですよ……! 私たちがいる限りは!」
そこへ突進していくサクラたち。立ち込める砂塵の中、生き残りのゴブリンたちが慌てて小弓を引き絞る。サクラに放たれた迎撃の矢は『幸運なことに』カチューシャの土台に当たり、乾いた金属音と共に逸れた。瞬き一つ分も動じずに突撃を継続したサクラがその射手に槍を突き入れ。さらに突撃してきたディアドラとイーディスがそれぞれの得物で敵を蹴散らしにかかる。
「ウラァァァ! さぁ、ターン交代だ、亜人ども! 今度はこっちの番だぞ!」
メリエは敵が固まっている場所に敢えて自分から突っ込むと、手にした太刀を振り回して小鬼どもを薙ぎ払った。舞い上がる血煙の中、容赦なくこれを切り飛ばすメリエ。陽炎と蒼い燐光を曳く彼女の顔に浮かぶ笑み。その横に構えた得物の刀身に鬼の影が浮かび上がる……
あらかた敵がいなくなるや、メリエは石が水面を跳ねるように次の敵へと突っ込んだ。そして、そこでも、暴風の如く敵を薙ぐ……
その後方、敵の第二線── 前方で起きた喧騒に「ん?」と頭を伸ばしたゴブリンは、次の瞬間、横合いからその首を斬り飛ばされた。別班率いるユナイテルが疾風の如く襲い掛かったのだ。
「油断し過ぎです」
返す刀でもう1体を槍ごと袈裟切りに捨てつつ、跳ね飛んだ首が地に落ちるより早くその傍らを駆け抜ける。
エルザは己の身の内のマテリアルを昂らせると、混乱する小鬼を無視するように馬蹄にかけつつ、通常種を率いるホロム・ゴブリンに突進すると、馬上からその首筋目掛けて十文字槍を突き入れた。
ジャンクもまた混乱する敵中に分け入り、周りを叱咤激励する茨小鬼を次々と狙い撃った。小鬼たちは長を討たれた途端、不利な戦場から逃げ出した。やがてそれは全体に波及し、雪崩を打って丘の向こうへ引き返し始める。
「相手は隊列も何もなく勢いだけ。逆にこちらから突撃して勢いを挫いてしまえば……」
「自分たちが追い込まれた途端、簡単に士気が崩壊すると言うわけさ」
敵の追撃隊を蹴散らし、再び合流を果たしたエルザとイーディスが手を打ち鳴らす。
「中傷以上の傭兵は後方に下がって応急処置をしろ。その他の者は稼ぎ時だ。敵の主力が合流する前に、突出した残敵を片付けるぞ!」
傭兵たちを振り返り、追撃の指示を出すジャンク。ディアドラとメリエが先頭に立ち、動揺する敵の第二陣を打ち破って丘の稜線までの道筋を確保する。
丘の上にたどり着いたユナイテルは…… 思わず手綱を強く引いて愛馬を棹立ちにさせた。
丘の向こうには、まだ大地を埋め尽くさんがばかりのゴブリンたちが控えていた。──前衛部隊だけでこの有様。後方の本隊にはいったい、どれ程の戦力が控えているのか……!
「あ、これは無理そうであるな」
ディアドラはさっさと馬首を廻らせた。無謀な突撃で無駄に兵を損なうは大王の取るべき所業ではない。
●
ハンターたちは1里ほど後方に下がり、小川と橋を中心に防衛線を引き直すことにした。
「橋か…… ここなら正面以外はあまり気にしないで済むな」
「ジール、お前は下がっておいで。ここはお前が暴れるには狭すぎる」
馬から降りて橋上に隊列を組むハンターと傭兵たち。イーディスはまだ若い傭兵に声をかけて、何事かを頼み込む。
「敵は弱っちぃが数が多い。列ごとにローテーションを組んで当たるのだ!」
ディアドラが説明している内に、敵の先遣隊が来た。いずれも傷も疲労もない、まっさらな敵の新手だ。
「敵、突入を開始します」
報告し、交代要員として後衛についたサクラが前衛の皆を守りの光で包み込む。
激突──
雄叫びと共に突進しながら槍を繰り出す小鬼たち。応じて騎士剣を突き出すディアドラの刺突一閃、メリエやイーディスの薙ぎ払い── 千切れ、吹き飛ぶ向こうから、敵の新手が次々と押し寄せてくる……
「第一列、後退します。第二列はフォローを!」
槍の柄で剣を受け弾き、石突で敵を突き返しながら。エルザはジリジリ下がる第一列を見て第二列に交代を頼んだ。その頃には敵は弓兵の配置を終え、こちらに矢の雨を降らせるようになっていた。盾を掲げてそれを防ぎながら交代する第一列と第二列。その間隙に付け入るべく圧を強める敵へ向けて、後列から手を伸ばした幸子が雷撃でもって撃ち貫く。
バタバタと倒れる小鬼たちの間を抜けて、敵の決死隊が仲間の背を蹴り、盾の壁の内側へと入り込むべく跳躍してきた。槍を上げるのは間に合わない──! 断じたサクラが盾でその落下を受け止める。
「こ……のぉ……!」
衝撃に耐え、逆にそれを弾き返し。宙に浮いた敵を盾の縁でもって叩き落す。ダンッ、と木の板に跳ね返ったそれを今度は爪先で眼前の敵へと蹴り飛ばし。構え直した盾の陰から槍の穂先で突き通す。
「ああっ!? 敵だよ! 渡河してくるよ!」
再び雷光で橋上の敵を薙ぎ払いつつ。幸子は川面に分け入る敵集団を視界の端に捉えて叫んだ。
「渡させないよ! 傭兵さんたちも手伝って!」
欄干へと走り寄りつつ1枚カードを引いて、風の刃を撃ち下ろす幸子。ジャンクや傭兵たちもまた欄干に銃や弩を乗せて一斉に射撃を開始する。
「のろのろとまぁ、ご苦労なこって…… お陰でこちらの良い的だ」
川面をジャブジャブと渡ってくる小鬼たちを見下ろしながら、ジャンクは一切の遠慮も躊躇もなく敵を狙い撃ちにしていった。炸裂し水柱を上げる幸子の爆裂火球。傭兵に壁役を託したサクラも参加し、投擲の度に手元へ戻る魔槍と光弾とで攻撃。川面を小鬼の血で染める。
だが、それすら敵の陽動だったのだろう。橋から射程外となる箇所から更に別の敵集団が渡河を始めた。
応じて、対岸に配置していた予備兵力が展開した。その中に、隊長の一人としてユナイテルがいた。
「目標、正面、渡河中の敵部隊。一斉射撃の後、騎兵突撃を敢行する!」
ユナイテルは敵が川の2/3を渡河したところで投射部隊に射撃を指示じた。遠距離攻撃はこの1回のみ。対岸の弓兵が配置を終える前に、渡河中の敵との乱戦に持ち込む。
「突撃!」
ユナイテルは自ら先頭に立って突撃を開始した。馬蹄が上げる水飛沫。川の水を蹴散らし進みながら、ユナイテルは最も近い茨小鬼へ一直線に突っ込んだ。速攻である。敵が対応するより早く、マテリアルを込めた一撃を叩き込む。
最初の渡河は、ハンターと傭兵たちの圧勝に終わった。だが、すぐに別の新手が押し寄せ始めた。配置を終えた弓兵の支援の下、敵が再び渡河を始める。
「ゴブリンがここまで統率の取れた行動を……? 馬鹿な」
呻くユナイテル。
(こいつはいよいよどうしようもねぇな……)
内心でジャンクが呟いた。
●
四肢に纏わりつく疲労が戦士たちの動きを徐々に緩慢なものに変えていった。
一瞬、乱れる盾の壁── 隙間から槍を捻じ込まれ、悲鳴と共に傭兵が倒れ込む。
穿たれた穴に身をねじ込み、突破口を広げにかかるゴブリンたち。崩れかかる防衛線。倒れた味方に止めを刺さんと槍を振り上げた敵に対して── 雄叫びと共にディアドラがその身をぶつけ、文字通り身を挺して立ちはだかった。
「大王たるボクがいるのだ。全員無事で帰還するぞ!」
眼前の敵を斬り飛ばしながら、そう味方を鼓舞するディアドラ『大王』。その身に三度、立て続けに入るクリティカル。いずれも疲労がなければ鎧で受け切れていたはずの攻撃だ。
イーディスは開戦以来、群がる敵を長剣で薙ぎ払い続けたが、終わりの見えぬ長期戦にその余力もなくしていた。今では振り下ろされた刃を避けもせずただ鎧に当たるに任せ。逆に敵に掴みかかって敵に切っ先を突き入れる。
「はっはは! どうしたぁ? 来いよ! 首の掻き合いだろ!? 死線の上で足掻くのは楽しいなぁ! お前もそうだろう!? やってみろよぉぉ!」
叫び、薙いだ一撃でもって2体を川へと落とすメリエ。その彼女の息も荒い。回復で傷を癒すことは出来ても、体内で不足した酸素まで補ってはくれない……
「皆の限界も近いです。……そろそろ潮時ではないでしょうか?」
サクラが最後の『ヒーリングスフィア』で味方を癒しながら訊く。
ユナイテルも川原から橋の南詰に上がって来た。渡河を試みる敵を数度に亘って撃退してきたが、激戦の渦中で急所に一撃もらっている。
「敵が上流を渡河します。おそらくこれ以上は阻止できません」
ユナイテルの言に、ディアドラは周囲を見渡した。
押し寄せる小鬼の大群。その血に染まった橋と川── 疲れ切った戦士たちの顔はとても勝者とは言い難い。
だが、彼らは間違いなく『勝者』だった。──街へ帰還するルサスール私兵への追撃は阻止された。
「……なんであれ、引き際は大事だ。孤立して逃げられないといった事態は避けねばな」
撤収を周囲に告げるディアドラ。『殿軍の殿軍』には、体力に余力を残した後衛組が当たることになった。
「やるぞ、嬢ちゃん」
「うん! これがラストターン…… ドロー!」
退く味方の最後尾にあって、ジャンクは調子に乗って攻めかかってくる小鬼たちの眼前に、とっておきの『制圧射撃』を叩き込んだ。たたらを踏む小鬼たち。そこへ放たれる爆裂火球。爆発と轟音を背景にジャンクが魔導銃に再度、弾を込め…… 砂塵を越えてくる敵に、再度、同様の攻撃を加える。
「走れ!」
全速力で後退し、馬へと飛び乗るジャンクと幸子。そこへ投槍を投擲しようとした小鬼たちは、意表を突いて逆進してきたエルザの馬体に度肝を抜かれた。
蹄鉄の音高くその馬首を廻らせるエルザ。グルリと頭上で回した槍の柄の端を握り…… その穂先をぶぅんと全周へぶん回す。
不意打ちで敵を蹴散らしたエルザは、孤立せぬようその一撃だけでササッと後ろへ撤収した。
通過後、イーディスはありったけの油──先程、若い傭兵たちに用意させたもの──を橋へとぶち撒け、火を放った。
「橋が焼け落ちたら投石器が通れなくなるもんね。そりゃ必死に消すよねぇ」
もっとも、最初から準備があったわけじゃないから、焼け落ちることはないだろうけど。……ああ、ちゃんと時間があれば、上流に堤の一つくらい築いて水攻めしてみせるのに。
「おっと」
頭上を矢が通過して、イーディスはひょいと首を竦めた。渡河した小鬼たちが矢を射駆けて来たのだ。
慌てて消火にかかる小鬼たちをよそに、イーディスはとっととその場から離脱した。
「はあ~、疲れたんだよ…… どれだけの人が下がれたかな?」
「ははっ、きっつぅ…… 家帰って水浴びしてご飯食べて寝たいなぁ……」
走る馬の背の上。疲れ切って肩を落とした幸子とエルザの視線の先に、行く手、街から立ち昇る幾多の黒煙──
「まだまだ休めないようだねぇ……」
ハンターたちは息を吐いた。
傭兵団と共に後詰として後方に待機しながら水雲 エルザ(ka1831)が抱いた淡い期待は、吹き荒ぶ荒野の乾風に消えた。
上空を行く大鳥の群れ。引き返してくる私兵団── 慌てて街へと取って返すその騎兵の隊列から一騎の伝令がこちらにやって来て。簡潔な状況説明の後に後衛戦闘を言い渡す。
「殿軍か。まあ大王たるもの、非力なものを守るのは当然だな!」
「ええ、分かってましたとも。どうせこんなことになるんじゃないかと……」
馬上にて(薄い)胸を張り、腰に両拳を当てた姿勢で高笑いをしながら応じてみせる、自称・覇王の転生体、ディアドラ・ド・デイソルクス(ka0271)。その横で、砂混じりの風になびく薄紅色の髪に手をやりながら、エルザが肩を落として嘆息する。
視線を前方へと戻す。そこには、丘を越えてバラバラと逃げ来る歩兵の群れと、辛うじて横隊を維持した最後衛。そして、小虫が集るように群がるゴブリンどもの黒き影──
『騎士』ユナイテル・キングスコート(ka3458)は眉をひそめた。脳裏にはここ最近の一連の騒動と、矛を交えた小鬼たち── この北部でいったい何が起きているのか。起きようとしているのか。
「ともあれ、まずは相手の勢いを止めないといけないですよね……」
「そうだね。弱気を見せれば連中、嵩に懸かって攻めてくる」
戦いの気配に興奮する馬をどぅどぅと宥めながら『猫耳』サクラ・エルフリード(ka2598)。そして、『従騎士』イーディス・ノースハイド(ka2106)が言う。
「……ならば、ええ。まずは最後衛の兵士と入れ替わりに前進を。追撃する連中を蹴散らしに、こちらから参りましょう」
顎に指当て沈思して。エルザは2人にそう答えた。
イーディスは笑みを浮かべた。
「愚痴っていた割にはやる気だね」
「まぁ不謹慎ですけれど…… こういった方が戦いらしくて、少々ワクワクとしてしまいます」
「ま、やっと来た出番です。精々手柄を立てて、報酬、ふんだくりますかね」
方針を了承した傭兵団と共に突撃隊形への移行を終えて── メリエ・フリョーシカ(ka1991)は愛馬の鬣を撫でつつ呟いた。
前方には地獄の戦場── 後退してくる味方の横隊は、激しい敵の追撃に櫛の歯が欠けるようにその数を減らしつつある。
抜刀の指示が飛ぶ。メリエは赤毛の三つ編みを手で背へ弾き、愛馬にそっと囁いた。
「……行くよ、ジール。暴れる時間だ」
剣を前方へと振り下ろすディアドラとユナイテル。前進、襲歩── 逃げて来る味方を避けるようにその横を駆け上がり…… 弧を描くように針路を変えつつ、歩兵を追撃中のゴブリンたちの側面を正面に捉える。
「さあ、ここからがボクたちの出番だよ!」
羽織った学ランをはためかせ、ウィッチハットが飛ばぬよう手で押さえながら── 弓月 幸子(ka1749)は腕のデッキホルダーからシュピッとカードを引き抜いた。
「後攻、ファーストターン、ドロー! 『ファイアーボール』! さあ、敵をいっぱい巻き込むんだよ!」
手にしたカードをキラッとオープンしつつ、生み出した爆裂火球をゴブリンたちに撃ち放つ。緩い弧を描き飛翔した火球は着弾と同時に炸裂。轟音と石片と衝撃波とが周囲の小鬼を薙ぎ払い、敵隊列の横っ腹に突入口を抉じ開ける。
「おー。やるねぇ、嬢ちゃん」
元傭兵・ジャンク(ka4072)は口笛でその手際を称した。
「……女子供でも俺よかよっぽど実力のある奴ばかりかい。世も末だねぇ。ま、俺は俺の仕事をするだけだあな」
嘯き、ジャンクは馬上に腰を上げると、マントを棚引かせたまま両手で魔導銃を構えた。締めた両脚で馬の上下運動を緩和しつつ、逃げる味方に今にも追い迫らんとする小鬼どもへ向け連射する。
放たれた銃弾は戦場を横断し、小鬼たちの足元に立て続けに着弾した。慌てて足を止めるゴブリンたち。その間隙に幸子2発目の爆裂火球が着弾、爆発する。
「これ以上は行かせないですよ……! 私たちがいる限りは!」
そこへ突進していくサクラたち。立ち込める砂塵の中、生き残りのゴブリンたちが慌てて小弓を引き絞る。サクラに放たれた迎撃の矢は『幸運なことに』カチューシャの土台に当たり、乾いた金属音と共に逸れた。瞬き一つ分も動じずに突撃を継続したサクラがその射手に槍を突き入れ。さらに突撃してきたディアドラとイーディスがそれぞれの得物で敵を蹴散らしにかかる。
「ウラァァァ! さぁ、ターン交代だ、亜人ども! 今度はこっちの番だぞ!」
メリエは敵が固まっている場所に敢えて自分から突っ込むと、手にした太刀を振り回して小鬼どもを薙ぎ払った。舞い上がる血煙の中、容赦なくこれを切り飛ばすメリエ。陽炎と蒼い燐光を曳く彼女の顔に浮かぶ笑み。その横に構えた得物の刀身に鬼の影が浮かび上がる……
あらかた敵がいなくなるや、メリエは石が水面を跳ねるように次の敵へと突っ込んだ。そして、そこでも、暴風の如く敵を薙ぐ……
その後方、敵の第二線── 前方で起きた喧騒に「ん?」と頭を伸ばしたゴブリンは、次の瞬間、横合いからその首を斬り飛ばされた。別班率いるユナイテルが疾風の如く襲い掛かったのだ。
「油断し過ぎです」
返す刀でもう1体を槍ごと袈裟切りに捨てつつ、跳ね飛んだ首が地に落ちるより早くその傍らを駆け抜ける。
エルザは己の身の内のマテリアルを昂らせると、混乱する小鬼を無視するように馬蹄にかけつつ、通常種を率いるホロム・ゴブリンに突進すると、馬上からその首筋目掛けて十文字槍を突き入れた。
ジャンクもまた混乱する敵中に分け入り、周りを叱咤激励する茨小鬼を次々と狙い撃った。小鬼たちは長を討たれた途端、不利な戦場から逃げ出した。やがてそれは全体に波及し、雪崩を打って丘の向こうへ引き返し始める。
「相手は隊列も何もなく勢いだけ。逆にこちらから突撃して勢いを挫いてしまえば……」
「自分たちが追い込まれた途端、簡単に士気が崩壊すると言うわけさ」
敵の追撃隊を蹴散らし、再び合流を果たしたエルザとイーディスが手を打ち鳴らす。
「中傷以上の傭兵は後方に下がって応急処置をしろ。その他の者は稼ぎ時だ。敵の主力が合流する前に、突出した残敵を片付けるぞ!」
傭兵たちを振り返り、追撃の指示を出すジャンク。ディアドラとメリエが先頭に立ち、動揺する敵の第二陣を打ち破って丘の稜線までの道筋を確保する。
丘の上にたどり着いたユナイテルは…… 思わず手綱を強く引いて愛馬を棹立ちにさせた。
丘の向こうには、まだ大地を埋め尽くさんがばかりのゴブリンたちが控えていた。──前衛部隊だけでこの有様。後方の本隊にはいったい、どれ程の戦力が控えているのか……!
「あ、これは無理そうであるな」
ディアドラはさっさと馬首を廻らせた。無謀な突撃で無駄に兵を損なうは大王の取るべき所業ではない。
●
ハンターたちは1里ほど後方に下がり、小川と橋を中心に防衛線を引き直すことにした。
「橋か…… ここなら正面以外はあまり気にしないで済むな」
「ジール、お前は下がっておいで。ここはお前が暴れるには狭すぎる」
馬から降りて橋上に隊列を組むハンターと傭兵たち。イーディスはまだ若い傭兵に声をかけて、何事かを頼み込む。
「敵は弱っちぃが数が多い。列ごとにローテーションを組んで当たるのだ!」
ディアドラが説明している内に、敵の先遣隊が来た。いずれも傷も疲労もない、まっさらな敵の新手だ。
「敵、突入を開始します」
報告し、交代要員として後衛についたサクラが前衛の皆を守りの光で包み込む。
激突──
雄叫びと共に突進しながら槍を繰り出す小鬼たち。応じて騎士剣を突き出すディアドラの刺突一閃、メリエやイーディスの薙ぎ払い── 千切れ、吹き飛ぶ向こうから、敵の新手が次々と押し寄せてくる……
「第一列、後退します。第二列はフォローを!」
槍の柄で剣を受け弾き、石突で敵を突き返しながら。エルザはジリジリ下がる第一列を見て第二列に交代を頼んだ。その頃には敵は弓兵の配置を終え、こちらに矢の雨を降らせるようになっていた。盾を掲げてそれを防ぎながら交代する第一列と第二列。その間隙に付け入るべく圧を強める敵へ向けて、後列から手を伸ばした幸子が雷撃でもって撃ち貫く。
バタバタと倒れる小鬼たちの間を抜けて、敵の決死隊が仲間の背を蹴り、盾の壁の内側へと入り込むべく跳躍してきた。槍を上げるのは間に合わない──! 断じたサクラが盾でその落下を受け止める。
「こ……のぉ……!」
衝撃に耐え、逆にそれを弾き返し。宙に浮いた敵を盾の縁でもって叩き落す。ダンッ、と木の板に跳ね返ったそれを今度は爪先で眼前の敵へと蹴り飛ばし。構え直した盾の陰から槍の穂先で突き通す。
「ああっ!? 敵だよ! 渡河してくるよ!」
再び雷光で橋上の敵を薙ぎ払いつつ。幸子は川面に分け入る敵集団を視界の端に捉えて叫んだ。
「渡させないよ! 傭兵さんたちも手伝って!」
欄干へと走り寄りつつ1枚カードを引いて、風の刃を撃ち下ろす幸子。ジャンクや傭兵たちもまた欄干に銃や弩を乗せて一斉に射撃を開始する。
「のろのろとまぁ、ご苦労なこって…… お陰でこちらの良い的だ」
川面をジャブジャブと渡ってくる小鬼たちを見下ろしながら、ジャンクは一切の遠慮も躊躇もなく敵を狙い撃ちにしていった。炸裂し水柱を上げる幸子の爆裂火球。傭兵に壁役を託したサクラも参加し、投擲の度に手元へ戻る魔槍と光弾とで攻撃。川面を小鬼の血で染める。
だが、それすら敵の陽動だったのだろう。橋から射程外となる箇所から更に別の敵集団が渡河を始めた。
応じて、対岸に配置していた予備兵力が展開した。その中に、隊長の一人としてユナイテルがいた。
「目標、正面、渡河中の敵部隊。一斉射撃の後、騎兵突撃を敢行する!」
ユナイテルは敵が川の2/3を渡河したところで投射部隊に射撃を指示じた。遠距離攻撃はこの1回のみ。対岸の弓兵が配置を終える前に、渡河中の敵との乱戦に持ち込む。
「突撃!」
ユナイテルは自ら先頭に立って突撃を開始した。馬蹄が上げる水飛沫。川の水を蹴散らし進みながら、ユナイテルは最も近い茨小鬼へ一直線に突っ込んだ。速攻である。敵が対応するより早く、マテリアルを込めた一撃を叩き込む。
最初の渡河は、ハンターと傭兵たちの圧勝に終わった。だが、すぐに別の新手が押し寄せ始めた。配置を終えた弓兵の支援の下、敵が再び渡河を始める。
「ゴブリンがここまで統率の取れた行動を……? 馬鹿な」
呻くユナイテル。
(こいつはいよいよどうしようもねぇな……)
内心でジャンクが呟いた。
●
四肢に纏わりつく疲労が戦士たちの動きを徐々に緩慢なものに変えていった。
一瞬、乱れる盾の壁── 隙間から槍を捻じ込まれ、悲鳴と共に傭兵が倒れ込む。
穿たれた穴に身をねじ込み、突破口を広げにかかるゴブリンたち。崩れかかる防衛線。倒れた味方に止めを刺さんと槍を振り上げた敵に対して── 雄叫びと共にディアドラがその身をぶつけ、文字通り身を挺して立ちはだかった。
「大王たるボクがいるのだ。全員無事で帰還するぞ!」
眼前の敵を斬り飛ばしながら、そう味方を鼓舞するディアドラ『大王』。その身に三度、立て続けに入るクリティカル。いずれも疲労がなければ鎧で受け切れていたはずの攻撃だ。
イーディスは開戦以来、群がる敵を長剣で薙ぎ払い続けたが、終わりの見えぬ長期戦にその余力もなくしていた。今では振り下ろされた刃を避けもせずただ鎧に当たるに任せ。逆に敵に掴みかかって敵に切っ先を突き入れる。
「はっはは! どうしたぁ? 来いよ! 首の掻き合いだろ!? 死線の上で足掻くのは楽しいなぁ! お前もそうだろう!? やってみろよぉぉ!」
叫び、薙いだ一撃でもって2体を川へと落とすメリエ。その彼女の息も荒い。回復で傷を癒すことは出来ても、体内で不足した酸素まで補ってはくれない……
「皆の限界も近いです。……そろそろ潮時ではないでしょうか?」
サクラが最後の『ヒーリングスフィア』で味方を癒しながら訊く。
ユナイテルも川原から橋の南詰に上がって来た。渡河を試みる敵を数度に亘って撃退してきたが、激戦の渦中で急所に一撃もらっている。
「敵が上流を渡河します。おそらくこれ以上は阻止できません」
ユナイテルの言に、ディアドラは周囲を見渡した。
押し寄せる小鬼の大群。その血に染まった橋と川── 疲れ切った戦士たちの顔はとても勝者とは言い難い。
だが、彼らは間違いなく『勝者』だった。──街へ帰還するルサスール私兵への追撃は阻止された。
「……なんであれ、引き際は大事だ。孤立して逃げられないといった事態は避けねばな」
撤収を周囲に告げるディアドラ。『殿軍の殿軍』には、体力に余力を残した後衛組が当たることになった。
「やるぞ、嬢ちゃん」
「うん! これがラストターン…… ドロー!」
退く味方の最後尾にあって、ジャンクは調子に乗って攻めかかってくる小鬼たちの眼前に、とっておきの『制圧射撃』を叩き込んだ。たたらを踏む小鬼たち。そこへ放たれる爆裂火球。爆発と轟音を背景にジャンクが魔導銃に再度、弾を込め…… 砂塵を越えてくる敵に、再度、同様の攻撃を加える。
「走れ!」
全速力で後退し、馬へと飛び乗るジャンクと幸子。そこへ投槍を投擲しようとした小鬼たちは、意表を突いて逆進してきたエルザの馬体に度肝を抜かれた。
蹄鉄の音高くその馬首を廻らせるエルザ。グルリと頭上で回した槍の柄の端を握り…… その穂先をぶぅんと全周へぶん回す。
不意打ちで敵を蹴散らしたエルザは、孤立せぬようその一撃だけでササッと後ろへ撤収した。
通過後、イーディスはありったけの油──先程、若い傭兵たちに用意させたもの──を橋へとぶち撒け、火を放った。
「橋が焼け落ちたら投石器が通れなくなるもんね。そりゃ必死に消すよねぇ」
もっとも、最初から準備があったわけじゃないから、焼け落ちることはないだろうけど。……ああ、ちゃんと時間があれば、上流に堤の一つくらい築いて水攻めしてみせるのに。
「おっと」
頭上を矢が通過して、イーディスはひょいと首を竦めた。渡河した小鬼たちが矢を射駆けて来たのだ。
慌てて消火にかかる小鬼たちをよそに、イーディスはとっととその場から離脱した。
「はあ~、疲れたんだよ…… どれだけの人が下がれたかな?」
「ははっ、きっつぅ…… 家帰って水浴びしてご飯食べて寝たいなぁ……」
走る馬の背の上。疲れ切って肩を落とした幸子とエルザの視線の先に、行く手、街から立ち昇る幾多の黒煙──
「まだまだ休めないようだねぇ……」
ハンターたちは息を吐いた。
依頼結果
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相談卓 ジャンク(ka4072) 人間(クリムゾンウェスト)|53才|男性|猟撃士(イェーガー) |
最終発言 2015/07/28 17:18:48 |
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/24 05:47:26 |