ゲスト
(ka0000)
スイカと屋台と海水浴
マスター:蒼かなた

- シナリオ形態
- イベント
- 難易度
- 易しい
- オプション
-
- 参加費
500
- 参加制限
- -
- 参加人数
- 1~25人
- サポート
- 0~0人
- 報酬
- 無し
- 相談期間
- 5日
- 締切
- 2015/07/26 19:00
- 完成日
- 2015/08/02 17:21
みんなの思い出
思い出設定されたOMC商品がありません。
オープニング
●集え、海水浴場!
そこはロゼリオに程近い、砂浜が広がる海岸沿い。
去年は狂気の歪虚の侵攻やら何やらで大わらわだったが、今年は違う。
しっかり綺麗に整備された砂浜は、石ころ一つなく裸足で走っても怪我する心配はなし。
事前にハンター諸君の頑張りによって周囲の雑魔は片付けられ、海の安全も問題なし。
そして天気はからっとした素晴らしい晴れ模様だ。太陽は憎らしくなるくらいに、じりじりと暑い日差しを大地に降り注がせている。
「うむ、完璧だなっ!」
この海岸を管理している海の男、ラルフはノースリーブのシャツに短パン姿で仁王立ちしながら、海を眺める。
既に黒くこげだしている肌は、この海水浴場を開く為に頑張ってきた証だ。
「大将、屋台のほうも準備できたぜ」
「おうっ、海にはやっぱ屋台がないとなっ」
ラルフが振り向いたそこには、十軒ほどの簡素な建物が立ち並んでいる。
建てられたのぼり旗には、『カキ氷』や『焼き蕎麦』、『冷やし中華、あります』などそれぞれの店をアピールする文字がはためいている。
冷たいものが多いが、リアルブルーの文化では暑い砂浜で熱いものを食べるという文化があると聞きいたので、『らーめん』も置いてあったり。
あと、海水浴に来たのにうっかり水着を忘れちゃうなんて人もいるので、『水着・浮き輪』というのぼり旗が立っている店もある。
「大将、届きましたぜ。スイカ!」
「おうっ、やっぱ海のイベントと言ったらスイカ割りだからなっ」
びしっとラルフが指したその先には、『スイカ割り大会 会場はこちら!』という旗が揺れていた。
一際綺麗に整備された浜辺の一角にテントが張ってあり、その下に大量のスイカが山積みされていた。
海水浴に来たお客さんに楽しんで貰い、おまけにスイカも食べられるというナイスなイベントだ。客寄せにはもってこいである。
こうして着々と準備が整えられ、お客さんを呼ぶためにリゼリオのあちこちに海水浴場を宣伝するポスターが貼られる。
それは勿論ハンターオフィスにも張り出され、沢山のハンター達の目に留まることとなった。
そこはロゼリオに程近い、砂浜が広がる海岸沿い。
去年は狂気の歪虚の侵攻やら何やらで大わらわだったが、今年は違う。
しっかり綺麗に整備された砂浜は、石ころ一つなく裸足で走っても怪我する心配はなし。
事前にハンター諸君の頑張りによって周囲の雑魔は片付けられ、海の安全も問題なし。
そして天気はからっとした素晴らしい晴れ模様だ。太陽は憎らしくなるくらいに、じりじりと暑い日差しを大地に降り注がせている。
「うむ、完璧だなっ!」
この海岸を管理している海の男、ラルフはノースリーブのシャツに短パン姿で仁王立ちしながら、海を眺める。
既に黒くこげだしている肌は、この海水浴場を開く為に頑張ってきた証だ。
「大将、屋台のほうも準備できたぜ」
「おうっ、海にはやっぱ屋台がないとなっ」
ラルフが振り向いたそこには、十軒ほどの簡素な建物が立ち並んでいる。
建てられたのぼり旗には、『カキ氷』や『焼き蕎麦』、『冷やし中華、あります』などそれぞれの店をアピールする文字がはためいている。
冷たいものが多いが、リアルブルーの文化では暑い砂浜で熱いものを食べるという文化があると聞きいたので、『らーめん』も置いてあったり。
あと、海水浴に来たのにうっかり水着を忘れちゃうなんて人もいるので、『水着・浮き輪』というのぼり旗が立っている店もある。
「大将、届きましたぜ。スイカ!」
「おうっ、やっぱ海のイベントと言ったらスイカ割りだからなっ」
びしっとラルフが指したその先には、『スイカ割り大会 会場はこちら!』という旗が揺れていた。
一際綺麗に整備された浜辺の一角にテントが張ってあり、その下に大量のスイカが山積みされていた。
海水浴に来たお客さんに楽しんで貰い、おまけにスイカも食べられるというナイスなイベントだ。客寄せにはもってこいである。
こうして着々と準備が整えられ、お客さんを呼ぶためにリゼリオのあちこちに海水浴場を宣伝するポスターが貼られる。
それは勿論ハンターオフィスにも張り出され、沢山のハンター達の目に留まることとなった。
リプレイ本文
●夏のビーチへようこそ
「やっぱり海って気持ちいいわねー。潮風が心地よいわ」
アルフェロア・アルヘイル(ka0568)は頬にかかった髪を掻き上げる。
少し大胆な白いビキニからは、彼女の豊満な母性の象徴が零れだしそうになっているが、それをふしだらと思わせない品性が彼女からは感じられる。
「あら、スイカ割り大会なんてものがあるのね。楽しそうだけど、開始まではまだ時間がありそうね」
となれば、もう少しこのビーチで時間を潰さなければならないようだ。何か他に面白いものはとアルフェロアが辺りを見渡したところで、すぐそばで海に視線を向けたままじっと立っている少女を発見した。
ワンピースタイプの水着の少女――ファリス(ka2853)は初めて海水浴に来たという事もあって、その目から星がでるのではないかと言うくらいに、目を輝かせていた。
「こんにちわ。あなたもお1人かしら?」
「あっ……うん、そうなの。ファリス、海水浴も初めてで、だから楽しみにきたの!」
ファリスは突然話しかけられて驚いたものの、だけど優しそうな年上の同性の相手だったので気を許し、そして今日を楽しみにしていたのもあってか少し興奮気味で捲くし立てるように言葉を口にする。
そんな初心な少女の様子にアルフェロアは小さく笑ってから、彼女の手にしている小瓶へと視線を向ける。
「あら、それは日焼け止めの薬ね」
「そうなの。ファリス、暑い陽射しだと火傷しちゃうから、これを塗っておかないと危ないの」
「あら、それは大変ね。うーん……それなら、塗るの手伝ってあげるわ」
「いいの?」
「ええ、勿論。但し、その後は私の体にも塗るの手伝ってね」
かくりと首を傾げたファリスに、アルフェロアは小さくウィンクしてから答えた。
1人で海に来た海水浴客もいれば、勿論誰かと一緒に来た人達もいる。
「これが2度目のデートッスね」
そんな言葉をしみじみと漏らしながら、高円寺 義経(ka4362)は海の家で借りたパラソルを担ぐ。
今回はそのお相手の彼女の方からデートに誘われたのだ。その事実に義経は思わず頬が緩むが、そんな顔を見せられないと片手でパンと頬を叩く。
「おかえりなさい」
そう言って彼を出迎えたのは、八代 遥(ka4481)である。髪を耳にかけながら振り向くその横顔が笑顔に見えたのは、直前まで日光が反射する眩い海を眺めていたからから、それとも……。
「さっ、まずはパラソルを立てましょう。この前のお礼ってこともあるけど、楽しむ時間を増やす為にも2人でね」
「あっ、了解ッス。それじゃあまずは……」
2人は難なくパラソルを砂浜に立て、大きな日陰を作ってそこに荷物を置く。
義経はそこでささっと服を脱いで、下から来ていたトランクス水着の姿になった。
そして、遥も同じように服を脱ぎだす。肩に羽織っていたシャツをチェアの背もたれにかけ、それから胸元と背中の紐を解くと、彼女の体を隠していたフリル付きのワンピースがゆっくりと足元へと落ちた。
すると、予め着てきていたピンクのビキニが姿を現す。可愛らしいフリルとリボンで飾られた水着は、まっさら白紙のページのように白い彼女の肌にとてもよく似合っていた。
「……高円寺君?」
「あっ、いや。申し訳ないッス! その水着、可愛い感じで凄い似合ってるッス」
彼女の姿をじっと見つめていた義経は我に返り、謝罪と共に賛辞の言葉を送る。
「ありがとう。それじゃあ、泳ぐ前に日焼け止めを塗っておきましょう」
お互いに肌が弱いと知っているので、自然とそういう流れになる。
「高円寺君、くすぐったくない?」
「いや、大丈夫ッス!」
始めは義経の背中に遥の細指が触れる度にぴくりと体が僅かに動いたが、それもすぐ収まり背中全体に塗り終わる。
「それじゃあ、今度は自分が……」
「……そうね。それじゃあ、お願い」
遥は僅かな逡巡の後、チェアの上でうつ伏せになる。
「……それじゃ、失礼するッス」
純情な少年は鼓動が早くなってしまうのを抑えようとしながら、そっとオイルを垂らした手で彼女の柔肌に触れた。
「青春してるねぇ」
そんな様子を偶然遠目で見ていた鵤(ka3319)は、パラソルの日陰の下で煙草を吸っていた。
普段の街の喧騒から離れ、このバカンスで思いっきりごろごろして過ごすのが彼の予定だ。勿論1人で。
「お兄さーん!」
そう、1人でのはずだったのだが。この浜辺に着いたところでばったり出会った知人とご一緒することになってしまった。
「はい、これ。買って来ましたよ!」
その知人、アルマ・アニムス(ka4901)は鵤の寝そべっているところに駆け寄り、両手に持っている焼き鳥を差し出す。
「おう、ご苦労さん。いやぁ、便利な子が1人いるとおっさん楽チンだぜ」
「はいっ。これくらいお安い御用です」
鵤はアルマから焼き鳥を受け取ると、傍らにある一抱えほどあるボックスを開く。そこからは白い靄が漏れ出て、鵤はその中に手を突っ込むとそこからキンッキン冷えた缶ビールを取り出した。
「夏の浜辺で水着のねーちゃんを眺めながら、ツマミと一緒に冷えたビールを飲む。これぞバカンスってもんだ」
鵤は思わず笑みを浮かべながら、泡立つ黄金色のアルコール飲料で喉を潤す。
「お兄さん、僕ちょっと貝殻探してきますね!」
アルマはそこで立ち上がり、波打ち際へと走り出す。
「おう、溺れるんじゃないぞー」
「わんっ!」
鵙の言葉に、アルマは恐らく返事をしたのだろう犬の鳴き真似を返して走っていった。
「ルゥ君、海だよ!」
「ああ、そうだな」
眩しい笑顔で振り返るミコト=S=レグルス(ka3953)に、ルドルフ・デネボラ(ka3749)は額の汗を腕で拭いながらそれに応えた。
「よーし、泳ぐぞー! いっぱい遊ぶぞー!」
元気一杯! といった様子のミコトに、ルドルフは僅かに苦笑しながらそれを見守る。
「あっ、そうだ。ねぇねぇ、この水着どうかな? 似合う? 似合う?」
ふと思い出したように波打ち際から走って戻ってきたミコトは、ルドルフの前で一度胸を張り。それからその場で来るっと回って見せる。
ルドルフの視界では赤と白の水玉が横に流れ、いつも割と露出した服ばかりを着ている彼女のその姿には見慣れていたつもりだったが、今日は不思議とその胸を高鳴らせる何かがあった。
「うん、良く似合ってるよ」
「ふふー、でしょ?」
一辺も曇りもなく、目を弓なりにして笑う彼女の笑顔に、ルドルフは夏が似合うなぁとぽつりと零す。
「ん、何か言った?」
「何でも。それより、遊ぶんだろ?」
「そうそう! よし、まずは泳ごうっ。海まで競争ね!」
ミコトはそう言って砂浜を蹴りながら走り出す。
ルドルフはその後姿を眺め、先ほど浮かんできた気持ちをさらりと思い出の中に溶かすと、その後を追った。
「はいっ、うちの勝ちっ。ルゥ君はあとでラムネ奢りね!」
「おいおい、聞いてないぞ」
「勿論、今決めたからね!」
どうにも勝てない。ルドルフはそんな感想を抱きながら、ミコトの待つ海の中へとゆっくり足を進めた。
●眼鏡ライダー、散る
皆が楽しむ海。そのちょっと沖のほうで、何かが走っていた。そう、文字通り海面を走っているのだ。
「眼鏡ライダー、トミヲ……再臨だ!」
そう言って水流崎トミヲ(ka4852)は、アクセルグリップを限界まで回す。
「ヒュォォォォォォ! 僕は今最高に夏だ!!!!」
雄叫びを上げるトミオ。今の彼は、夏という概念そのものになっていた。
そんな彼の目前に小さな島が見えてきた。トミオはその島へとバイクを走らせることにする。
「丁度いいや、あそこで休憩しよっと」
誰もいない無人島。のんびりするには絶好の場所だろう。そう、思っていた。
突然小島の近くの海面が揺れ、そこから1人の女性が姿を現した。その女性が着ているのは特に飾り気のない、機能性だけのワンピース水着だった。しかし、しっかりと女性らしい凹凸したラインを浮き出させており、後ろで纏めた濡れた黒髪は艶やかに、そして光を浴びて光を反射させて輝いている。
それだけでは終わらなかった。それから数秒遅れて、もう1人女性が水面から顔を出す。こちらは先ほどの女性とは対照的に、挑戦的と言えるくらいに大胆なビキニ姿だ。揺れるその豊満な胸の上下の柔らかい部分は全く隠されておらず、V字型のハイレグは恐らく後ろから見れば綺麗なヒップラインを拝むことが出来るだろう。
「どうやら、私の勝ちみたいですね」
「ええ、私の負けですね。少しは自信があったんですけど」
雨月彩萌(ka3925)は表情は変えず、ただ少し楽しげな声で。エルバッハ・リオン(ka2434)はそれに一度肩を竦めて見せ、だが感情をそのままに笑みを浮かべて応えた。
が、そんなところで2人は何かが視界を横切っていったことに気づく。
「なんだよ皆そんなナンパな水着なんか着ちゃってさ! 危ないだろ~!!」
そんな叫びのような、悲鳴のような声が響いた。それと同時に、何かが水面に落ちる音と、地面に落ちる音が続けて聞こえた。
「……バイク?」
「あら、大丈夫かしら?」
彩萌は沈んでいくバイクを見て、エルバッハは小島の砂浜に頭から突き刺さっているぽっちゃりした体型の男の姿を見て、それぞれぽつりと言葉を漏らした。
●海の家
「夏と言えば、やっぱり海だね」
浜辺に着いたばかりのシェラリンデ(ka3332)は、荷物を肩に担いだまま青く広い海を眺める。
その荷物を持つ反対の手には、シェラリンデの肩ほどの高さの少女――泉(ka3737)の手が握られていた。
「皆と一緒なんじゃも~ん♪ にゃっ? おいしそーな匂いがするんじゃもん!」
上機嫌な泉は鼻をひくひくと鳴らし、美味しそうな食べ物の匂いが香ってくる海の家へと視線が釘付けになる。
そしてシェラリンデとは反対側の泉の手を繋いでいる有城 蔵人(ka3880)も、泉に釣られるようにしてそちらに目を向けた。
「あれは焼きそばかな~? よし、腹ごなしにれっつご~」
蔵人はそう言うと共に、泉と一緒に焼きそばの屋台へと走り出す。
「ああ、こらこら。全く、しょうがないな。お店は逃げたりしないから大丈夫なのにね」
シェラリンデはそんな2人の背中を微笑ましさ半分、苦笑半分に後を追う。
「焼きそば欲しいんじゃもーん……にゃっ、ライエル!」
が、そこで焼きそばを焼いていた人物に泉はちょっと驚いた。
「いらっしゃい、ようやく来たな」
そこでコテを両手に焼きそばを作っていたのは、ライエル・エルファンド(ka3811)だった。
「ライエルさん、お仕事中~? あっ、それと焼きそばくださいな~」
「何、早く着いたからお前達を待つ間に手伝いをちょっとな」
ライエルはそう言いながらエプロンを脱ぎ、本来の店員らしい男性にそれを渡す。
「よし、これで全員揃ったようだね。それじゃあ、まずはご飯にしようか」
揃った皆の顔を一度眺めてから、シェラリンデは微笑む。
「にゃぁ♪ ご飯一杯食べるんじゃも~ん♪」
「焼きそばだけじゃ物足りないよねー。あっ、向こうにフランクフルト売ってる。あれも買ってこよー」
「ああ、こら。勝手に単独行動はするな。シェラ、泉のことは頼むぞ」
蔵人はそう言うと、雑踏賑わう別の海の家へとふらふらと歩いていってしまう。
ライエルはシェラリンデに泉を任すと、そんな蔵人の後を追っていった。
「おいしー♪ シェラも食べるんじゃもん!」
と、先に焼きそばを食べだしていた泉が、シェラリンデの手を引いた。そちらを見てみれば、にっこり笑顔の泉がいる。但し、口元には青海苔とソースがたっぷり着いているが。
「しょうがないね。ほら、動いちゃ駄目だよ」
シェラリンデは店員から受け取ったお手拭で、泉の口元を拭ってやった。
「へい、お待ち!」
そんな威勢のいい声と共に、コトラン・ストライプ(ka0971)の前に出されたのはラーメンだ。
「よし、桃ねーちゃん。どっちが早く食べられるか競争な!」
箸を手にしながら、コトランは隣に座っている銀 桃花 (ka1507)に勝負を持ちかける。
「あら、私に食べ物で勝負を挑もうって言うの?」
桃花は長い髪を後ろで束ね直しながら、コトランへと視線を向ける。露出は控えめながら、肩の部分を隠すのは一本の紐のみ。夏の暑さに僅かに汗ばむ綺麗な腋から、しっかりと浮かんだ鎖骨へのラインは威勢であれば艶かしさを覚えることだろう。
「おうっ! この後はカキ氷にイカ焼きに、あと焼きそばも食べたいし。どれだけ食べられるかも勝負しようぜ!」
だが、その辺りのことは全く意識していないらしいコトランは、これから制覇する食べ物のことで頭が一杯のようだ。
「そう、ならいいわ。なら勝負開始よ! 着いて来られるかしら、トラ君☆」
「上等だぜ!」
そうして始まる早食い&大食い勝負。姉弟のような2人は多少の口元の汚れなんか気にせず、全力でラーメンを啜っている。その顔は、いろんな意味で楽しそうだった。
「海だあ! すごーい。綺麗!」
セラ・グレンフェル(ka1049)は一番に砂浜に走り、楽しいという感情を振りまきながら動き回る。フリル付きの水着と一緒に腰に巻いたパレオがひらひらと舞っている。
「ああ、そうだな。これは楽しめそうだ」
彼女の同伴者であるディッシュ・ハーツ(ka1048)もそう同意しながら浜辺を見渡した。
と、そんなディッシュの腕が突然引っ張られる。そちらを見れば、じぃーっと何か言いたげなセラがそこにはいた。
「ハハ、そんなに心配しなくてもいいのに」
「でも……うん、でも大丈夫だから。これからだもん!」
セラはディッシュの腕を強引に組むが、彼はそれに苦笑を交えながら優しい声で言葉を返す。
「そうだね。その水着だって可愛いし、それを着ているセラも愛らしいよ」
「本当?」
照れてはにかむような笑みを浮かべたセラは、今度は別の理由でぎゅっとディッシュの腕を抱きしめる。
「ああ、本当だ。それに俺は脚派だしな」
真顔でカミングアウトするディッシュであったが、どうやらセラの耳には届いていなかったようだ。
「いやいや、お若いですな。御二人とも」
くすりと笑う声が聞こえたその先には、麦藁帽子を被る老人、アルヴィース・シマヅ ( ka2830 )がいた。
「アル爺、ってアレ? ウィズとルークは?」
「はい、あちらでお食事中でございます。坊ちゃま方が御二人のこともお呼びだったので、野暮かとも思いましたがお声掛けさせていただきました」
アルヴィースが指した方向には、海の家に用意された食事スペースの席がある。そこにはまるっきり同じ顔の兄弟が座っており、3人に向かって手を振っていた。
ディッシュとセラは顔を見合わせ、くすりと一度笑ってから、アルヴィースと共にそちらへと向かう。
「遅いですお2人共。おにくぅはるーが制圧しましたお!」
「その通りなの。とうもろこしは美味しかったの!」
満足、と言った顔をするルーキフェル・ハーツ(ka1064)とウェスペル・ハーツ(ka1065)は、完璧に同じ笑顔をしていた。
「それより、今度は皆でアレを食べるんですお!」
そう言ってルーキフェルが指差したのは、カキ氷屋であった。
「へえ、カキ氷か。実は食べたことがないんだよな」
「そうなの? じゃあ初チャレンジね。私は苺!」
「うーはメロン味がいいの。るーはどれにするの?」
「むむむ、それならるーはこの水色のにしますお!」
「それでは爺はこのオレンジを」
「あー……じゃあ、俺は誰も選んでないこのグレープにするかな」
5人はそれぞれカキ氷を買い、仲良くテーブルを囲んでシャクシャクと、氷が溶けてしまう前に口の中へと運んでいく。
そして……。
「ふおー! 頭がキーンってするなの!」
「……これは、中々なもんだね」
「あはは、皆お揃いね」
それもまた、夏の風物詩。
そんな賑やかな一行もいれば、静かにこの海を楽しむカップルもいる。
「このトロピカルジュース、美味しいです」
幼さを残す顔でほわっと幸せそうな笑みを浮かべる来未 結(ka4610)を、正面に座っているミューレ(ka4567)は微笑ましく見守っている。
そうしていると、ふとしたタイミングで結がそわそわとしだす。ちらちらとミューレを見ては、やや視線を逸らすのだ。
「どうかしたのかな?」
「あの、そんなにじっと見つめられてると……何だか恥ずかしくなってきて」
「あっ、そうだよね。ごめん、つい」
結のその言葉に、ミューレも少し恥ずかしくなって何となしに頬を掻く。
「そろそろ海、行こうか」
「あっ、はいっ!」
力強く返事をした結は、羽織っていたパーカーを脱いで椅子にかけた。結の水着は白地に水色の水玉模様の入ったビキニで、アクセントについているフリルが色気とは違う可愛らしさを引き立てている。
ミューレは彼女の水着姿に暫し見惚れ、少しの気恥ずかしさを誤魔化すかのようにその手を繋ぎ、海辺へと彼女を誘っていく。
「泳ぐのも良いけど、今日は海の上をお散歩なんてどうかな?」
ミューレはそう言うと、誰にも聞こえないような小さな詠唱を紡ぐ。すると結の足首の周りに水が現れ、リングの形を保ちながらふわふわと浮いている。
同じものを自分の足元にも作ると、ミューレは結の手を引いて海の上を歩き出した。
「わっ、わわっ。み……ミューレさんっ、まだ心の準備がっ」
結は波が来る度に浮き沈みする体に戸惑い、ミューレの手を離すまいと強く握る。
「ふふっ。さあ、行くよ?」
2人はそのまま沖へと向かって歩いていった。
●スイカ割り大会
昼時をちょっと過ぎたところで、ついにスイカ割り大会が始まった。
「ルーク坊ちゃま、もう少し右へ。ああ、ウィズ坊ちゃまはそのまま真っ直ぐでございます」
「2人とも頑張れー」
今はアルヴィースやセラの応援の下、ルーキフェルとウェスペルの兄弟が挑戦中だ。
「まっすぐ、まっすぐ行くなの!」
「しまー、少しってどれくらいですかお! これくらいかお?」
ウェスペルは直進、だが段々と横へとずれていく。そしてルーキフェルも「もう少し」という具合が分からず、ふらふらと砂を踏んでいる。
「あっ、危ないっ」
セラの一声とほぼ同時、動き回っていた2人の頭がごつんとぶつかった。
「あたたー、うーは石頭ですお」
「るーも石頭なの。目がまわりますなの~」
互いに砂浜に尻餅を突き、ぶつけた頭を摩っている。そこにアルヴィースが近寄り、2人を助け起こした。
「大丈夫ですか、お坊ちゃま方?」
「問題ないなの。次はきっと割ってみせるなの」
「今度こそ、うーにカッコいいとこ見せますお!」
どうやら2人とも無事のようで、何より楽しそうな様子にアルヴィースは思わず笑みを見せた。
勿論1人、もとい一箇所ずつしていては日が暮れてしまうのでスイカ割りは数箇所に分かれて行われている。
目隠しをされてよろよろと、慎重に歩を進めているファリスに応援の声が届く。
「ファリスちゃん、その調子よー」
アルフェロアの声に導かれてファリスはそのまま数歩進み、大きく振りかぶった棒を振り下ろす。
だが、残念なことにあと半歩分ほど手前で振り下ろした棒は砂浜を叩いていた。
「……残念なの」
しょんぼりとするファリスの肩をアルフェロアが優しく叩く。
「大丈夫、私が仇を取ってあげるわ。指示は任せたわよ」
目隠しと棒をファリスから受け取ったアルフェロアは、その場で回ること5回ほど。棒をきっちり両手で持ってスイカへと向かって歩き出す。
「んー、この辺りかしら?」
周囲の指示を受けながらアルフェロアはスイカへと近づいていく。ファリスもそれを助けようと、いつもは出さないくらい大きな声を出していた。
「あっ……もう少し、左に。そう、あと一歩くらい前で……そこなの!」
「よーし、行くわよ!」
気合の声と共に、アルフェロアは棒を振り下ろす。その一撃は見事、スイカのど真ん中に命中してスイカを割った。
ただ、勢い余ったのかアルフェロアは前のめりに傾いて、それに耐えようとして結局スイカの隣に転んでしまった。
「あはは、転んじゃったわ。ちょっと恥ずかしい」
「……! アル姉様、早く立つの!」
そこで何かに気づいたファリスが慌ててそう言うが、アルフェロアは「はて?」と不思議そうな顔をしながら、立ち上がる。
それから胸元に入った砂を払う為に指を引っ掛けて少し水着を浮かせるのだが、そこに視線が集まってしまうのは仕方がないことだろうか。
その他の場所でも続々とスイカが割られ、改めて綺麗にカットされたスイカが皆に配られる。
「はい、スイカ貰ってきましたよ」
「スイカ! 美味しいんじゃもん♪」
シェラリンデが運んできたスイカを受け取り、泉はシャクシャクとその赤い部分を頬張る。
「いやー、けど俺がやって良かったのかなぁ~?」
「問題ないだろう。スイカはどうやら余るほどあるらしいしな」
普段からよく目隠しをして過ごしている蔵人は、正直このスイカ割りは楽勝だった。ズルと言われるかもしれないとも思ったが、ライエルの言う通り大会本部のテントの下には、まだスイカが山のように積み上げられている。
「うん、問題ないみたいだね~。もう一個割ってこようかな」
「待て、まずはその両手に持ってるスイカを食べてからにしろ」
ライエルは、立ち上がった蔵人の水着の端を掴んでそれを止める。彼の言う通り、蔵人の手には大きめのカットされたスイカが握られていた。
「だよね~。うん、それじゃあ食べ終えたらあと2~3個くらい割るわ」
「蔵人殿、割るのは食べられる分だけでいいよ?」
そんな彼に、シェラリンデは苦笑交じりにそう言って釘を刺しておく。
「ボクも割るんじゃもん。そして一杯食べるんじゃもん!」
けど構わずにまだ割って食べる気満々の泉は、皮と白い部分だけになったスイカを両手に万歳のポーズを取る。
そんな彼女の耳に、ライエルは囁くように言った。
「知ってるか、泉?」
「にゃ?」
「スイカは食べ過ぎるとな、ヘソから芽が出て生えてくるんだぞ」
「にゃっ!?」
ふるふると震えだす泉に、これでよしとライエルは一息吐く。
「これを食べ終えたら一泳ぎしに行こうか」
シェラリンデはそう提案にする。今はパーカーを羽織っているが、彼女もこの夏の為に少しだけ可愛い水着を用意したのだ。それを使わずに帰るのは惜しい。
「賛成~、でもこれ外せないから波打ち際で」
「それなら水掛け合いっこするんじゃもん!」
「やれやれ、若い奴等は元気だね」
それぞれの友人達の反応に、シェラリンデは僅かに微笑んでみせた。
「食いモンがいっぱいあるのって幸せだなー」
スイカを齧りながら、コトランはしみじみとその言葉を噛み締め、スイカの味を楽しむ。
「ホントにね。美味しいものっていくらでも食べられちゃうから、不思議よね」
同じくスイカに塩をぱっぱと振りかけて食べる桃花は、その甘みにほわんと幸せそうな笑みを浮かべる。
そんな2人の前には、ちょっとこんもりした砂の山があった。
「俺は、なぜここにいるのだろうか」
その砂山が喋った。否、砂に埋められていたルース(ka3999)が口を開いた。
「あっ、起きた。おじさん、大丈夫ですかー?」
「……お前は誰だ。というか、そもそもここは何処だ?」
ルースは桃花の声に対して目を細める。そもそも首以外が動かずに桃花の姿が見えない。
「そーだ、たこ焼き食べる? ふーふーしたげよっか♪」
桃花はルースの問いには応えず、傍らに置いてあったたこ焼きパックを手に取った。
「あっ、桃ねーちゃん! それおいらが食べようと思ってた奴だぞ!」
「いいじゃない、一つや二つや一パックくらい」
先ほどまで仲の良かった2人の間で、結局喧嘩が勃発したようだ。
ぎゃいぎゃい騒ぐ声だけが聞こえるルースは、顔の横にある溶けかけのカキ氷を見て思う。
「何日眠っていなかっただろうか」
もはや思考はでたらめで、まともなことは考えられない。ただ、涼しげなこの場所で少し時間を潰すのは悪いことではないだろう。
「ふぅー! お城も出来たし、スイカも美味しいし。最高だね!」
「ああ、流石に疲れたけどな」
ルドルフとミコトは、2人で作った西洋風の砂の城の横に座り、配られているスイカを齧る。
「そういや、小さい頃もよくこうして海に来てたな」
「うん、そうだね。こっちの世界でも来れてよかったね、海」
2人は転移してくる前、リアルブルーで見た海のことを思い出す。
砂浜も、揺れる波も、空の太陽もそっくりだけど、それはやはり故郷のものとどこか違う。
「よしっ、ルゥ君。泳ぐよ!」
「はぁ? ちょっと待て、まだ食べ終わって……」
「いいからっ。早く!」
ミコトに腕を引っ張られて、ルドルフは仕方なく引きずられるようにして海へと走った。
「あづ……」
賑やかなスイカ割り大会の会場を眺めるように、砂浜に敷いたシートの上でトミオが横になっている。
トミオはそのままぐるりと砂浜を見渡す。誰もが皆はしゃりでおり、とても楽しげに笑みを浮べている。
「……なんだ、平和じゃないか」
どこか懐かしさを覚える光景に、安堵の混じった溜息が漏れた。
「そうですね。これこそ、この正常な光景です」
「うひゃああぁぁぁ!?」
凜と鈴を鳴らしたような、女性らしい澄んだ声にトミオは思わず悲鳴を上げる。
「……何故悲鳴を上げられたのでしょうか?」
まるでこちらが驚かしたかのような、そんな想定外の反応に彩萌は眉を顰める。
「な、なんでもないよ。ち、ちょっと吃驚した、だけだから……ふひっ」
弁明と共に振り返ったところで、タオルケットを頭に被る水着姿の彩萌の姿を見上げることになり、トミオの口から変な音が出た。
「あっ、いましたね。2人とも、スイカは如何です?」
そこにエルバッハが少し大きめのお皿の上にスイカを乗せてやってくる。
先ほどの縁ということでスイカを確保してきてくれたようだが、そんな彼女の姿を見たところトミオは突然立ち上がった。
「海が! ボクを! 呼んでいるんだぁぁぁ!!」
突然走り出し、海へとダイブするトミオ。
「どうしたのでしょうか? 変な人です」
「さあ? それより食べましょう」
突然走っていったトミオを彩萌は訝しげに見つめる。
エルバッハはそれに小さく肩を竦めて、ずれていたビキニの肩紐をそっと直した。
●海上散歩
「この発想は無かったッス」
義経は今、海の上を歩いていた。その驚いた顔に、隣にいる遥が小さく微笑む。
「見て、高円寺君」
「おっ、一杯泳いでるッスね」
遥の指した海面の下では、青く光る魚の群れがさっと、その群れが1つの生き物であるかのように右へ左へと泳いでいる。
と、そこで一匹の魚が海面からぴょんと跳ねた。
「きゃっ!」
「八代さん!?」
丁度遥の目の前で跳ねた魚は、そのままぽちゃんと海の中に戻っていく。
そんな小さなアクシデントの後に残ったのは、後ろに倒れそうになった遥と、その肩を支える義経の姿だった。
「あっ、も、申し訳ないッス!」
義経は慌ててその手を離して、一歩距離を取る。
遥のほうはと言うと、自分が照れる暇もなくあたふたとしている義経を見て、その顔には自然と笑みが浮かんでいた。
別の場所でも、海上散歩を楽しむカップルがいた。
海の上を散歩するという未知の体験に初めは恐る恐るだった結も、今では夢中になり足元で泳ぐ魚達をきらきらした目で見つめる。
と、そこで急にミューレが結の手を少し引くと、そのまま彼女の体をそっと抱きしめた。
「えっ、ミューレさ――」
どぼん、と。結の言葉は最後まで告げられず、2人の体が海面へと落ちた。どうやら魔法の効果が丁度切れたようだ。
「も、もう……」
「あはは、ごめんごめん」
夏でもひんやりと冷たい海の中で、触れ合っているお互いの体温だけが伝わりあう。
自然と、どちらからともなくミューレと結は互いを抱きしめあった。
とくんとくんと、相手の心臓の鼓動を感じる中で、結はぼーっとミューレの顔を見つめている。
「そろそろ、戻ろうか」
優しく微笑む彼のその言葉に、ただ、この時は少しだけ我儘な言葉が口からでてしまう。
「もう少しだけ……駄目、ですか?」
ミューレは少し驚いたような顔をした後、言葉無く一度頷いて、もう一度しっかりと結の体を自分の体に引き寄せる。
この時を永遠に。そんな叶うはずのない願いを本気で祈ってしまうほど、今この時は幸福で満ちていた。
●夕日の浜辺
「んー、ふぅっ! よく寝たねぇ」
シートの上で頭に新聞を被せて寝ていた鵤が、ぐっと伸びをしながら起き上がる。
辺りを見渡せば日もすっかり傾き、ビーチがオレンジ色に染められた頃。海水浴客達もまばらになっている。
「あっ、お兄さん起きましたね! 見てください、綺麗な貝殻ありましたっ」
そんな鵤の隣で、彼が起きるまでじっと待っていたアルマは見つけてきた大きめの貝殻を自慢げに見せ付ける。
「あー、はいはい。よかったね。それよりそろそろ帰るよ。片付けもお願いね」
「はいっ!」
頭を掻きながら立ち上がる鵤は、片付けをアルマに頼んだところでさっさと砂浜を出ていく。
アルマも急いでシートとパラソルを畳みそれを追った。
休暇は終わり。ハンター達はまたそれぞれの冒険や戦いの場へと戻るだろう。
それでも、また疲れた時には。気晴らしをしたい時には。このビーチを訪れて欲しい。
そして誰もいなくなったビーチの砂浜で、小さな声が聞こえた。
「そろそろ帰りたいんだが、動けん」
埋められたままのルースの、誰かへ向けた助けを求めるメッセージが波の音に掻き消された。
「やっぱり海って気持ちいいわねー。潮風が心地よいわ」
アルフェロア・アルヘイル(ka0568)は頬にかかった髪を掻き上げる。
少し大胆な白いビキニからは、彼女の豊満な母性の象徴が零れだしそうになっているが、それをふしだらと思わせない品性が彼女からは感じられる。
「あら、スイカ割り大会なんてものがあるのね。楽しそうだけど、開始まではまだ時間がありそうね」
となれば、もう少しこのビーチで時間を潰さなければならないようだ。何か他に面白いものはとアルフェロアが辺りを見渡したところで、すぐそばで海に視線を向けたままじっと立っている少女を発見した。
ワンピースタイプの水着の少女――ファリス(ka2853)は初めて海水浴に来たという事もあって、その目から星がでるのではないかと言うくらいに、目を輝かせていた。
「こんにちわ。あなたもお1人かしら?」
「あっ……うん、そうなの。ファリス、海水浴も初めてで、だから楽しみにきたの!」
ファリスは突然話しかけられて驚いたものの、だけど優しそうな年上の同性の相手だったので気を許し、そして今日を楽しみにしていたのもあってか少し興奮気味で捲くし立てるように言葉を口にする。
そんな初心な少女の様子にアルフェロアは小さく笑ってから、彼女の手にしている小瓶へと視線を向ける。
「あら、それは日焼け止めの薬ね」
「そうなの。ファリス、暑い陽射しだと火傷しちゃうから、これを塗っておかないと危ないの」
「あら、それは大変ね。うーん……それなら、塗るの手伝ってあげるわ」
「いいの?」
「ええ、勿論。但し、その後は私の体にも塗るの手伝ってね」
かくりと首を傾げたファリスに、アルフェロアは小さくウィンクしてから答えた。
1人で海に来た海水浴客もいれば、勿論誰かと一緒に来た人達もいる。
「これが2度目のデートッスね」
そんな言葉をしみじみと漏らしながら、高円寺 義経(ka4362)は海の家で借りたパラソルを担ぐ。
今回はそのお相手の彼女の方からデートに誘われたのだ。その事実に義経は思わず頬が緩むが、そんな顔を見せられないと片手でパンと頬を叩く。
「おかえりなさい」
そう言って彼を出迎えたのは、八代 遥(ka4481)である。髪を耳にかけながら振り向くその横顔が笑顔に見えたのは、直前まで日光が反射する眩い海を眺めていたからから、それとも……。
「さっ、まずはパラソルを立てましょう。この前のお礼ってこともあるけど、楽しむ時間を増やす為にも2人でね」
「あっ、了解ッス。それじゃあまずは……」
2人は難なくパラソルを砂浜に立て、大きな日陰を作ってそこに荷物を置く。
義経はそこでささっと服を脱いで、下から来ていたトランクス水着の姿になった。
そして、遥も同じように服を脱ぎだす。肩に羽織っていたシャツをチェアの背もたれにかけ、それから胸元と背中の紐を解くと、彼女の体を隠していたフリル付きのワンピースがゆっくりと足元へと落ちた。
すると、予め着てきていたピンクのビキニが姿を現す。可愛らしいフリルとリボンで飾られた水着は、まっさら白紙のページのように白い彼女の肌にとてもよく似合っていた。
「……高円寺君?」
「あっ、いや。申し訳ないッス! その水着、可愛い感じで凄い似合ってるッス」
彼女の姿をじっと見つめていた義経は我に返り、謝罪と共に賛辞の言葉を送る。
「ありがとう。それじゃあ、泳ぐ前に日焼け止めを塗っておきましょう」
お互いに肌が弱いと知っているので、自然とそういう流れになる。
「高円寺君、くすぐったくない?」
「いや、大丈夫ッス!」
始めは義経の背中に遥の細指が触れる度にぴくりと体が僅かに動いたが、それもすぐ収まり背中全体に塗り終わる。
「それじゃあ、今度は自分が……」
「……そうね。それじゃあ、お願い」
遥は僅かな逡巡の後、チェアの上でうつ伏せになる。
「……それじゃ、失礼するッス」
純情な少年は鼓動が早くなってしまうのを抑えようとしながら、そっとオイルを垂らした手で彼女の柔肌に触れた。
「青春してるねぇ」
そんな様子を偶然遠目で見ていた鵤(ka3319)は、パラソルの日陰の下で煙草を吸っていた。
普段の街の喧騒から離れ、このバカンスで思いっきりごろごろして過ごすのが彼の予定だ。勿論1人で。
「お兄さーん!」
そう、1人でのはずだったのだが。この浜辺に着いたところでばったり出会った知人とご一緒することになってしまった。
「はい、これ。買って来ましたよ!」
その知人、アルマ・アニムス(ka4901)は鵤の寝そべっているところに駆け寄り、両手に持っている焼き鳥を差し出す。
「おう、ご苦労さん。いやぁ、便利な子が1人いるとおっさん楽チンだぜ」
「はいっ。これくらいお安い御用です」
鵤はアルマから焼き鳥を受け取ると、傍らにある一抱えほどあるボックスを開く。そこからは白い靄が漏れ出て、鵤はその中に手を突っ込むとそこからキンッキン冷えた缶ビールを取り出した。
「夏の浜辺で水着のねーちゃんを眺めながら、ツマミと一緒に冷えたビールを飲む。これぞバカンスってもんだ」
鵤は思わず笑みを浮かべながら、泡立つ黄金色のアルコール飲料で喉を潤す。
「お兄さん、僕ちょっと貝殻探してきますね!」
アルマはそこで立ち上がり、波打ち際へと走り出す。
「おう、溺れるんじゃないぞー」
「わんっ!」
鵙の言葉に、アルマは恐らく返事をしたのだろう犬の鳴き真似を返して走っていった。
「ルゥ君、海だよ!」
「ああ、そうだな」
眩しい笑顔で振り返るミコト=S=レグルス(ka3953)に、ルドルフ・デネボラ(ka3749)は額の汗を腕で拭いながらそれに応えた。
「よーし、泳ぐぞー! いっぱい遊ぶぞー!」
元気一杯! といった様子のミコトに、ルドルフは僅かに苦笑しながらそれを見守る。
「あっ、そうだ。ねぇねぇ、この水着どうかな? 似合う? 似合う?」
ふと思い出したように波打ち際から走って戻ってきたミコトは、ルドルフの前で一度胸を張り。それからその場で来るっと回って見せる。
ルドルフの視界では赤と白の水玉が横に流れ、いつも割と露出した服ばかりを着ている彼女のその姿には見慣れていたつもりだったが、今日は不思議とその胸を高鳴らせる何かがあった。
「うん、良く似合ってるよ」
「ふふー、でしょ?」
一辺も曇りもなく、目を弓なりにして笑う彼女の笑顔に、ルドルフは夏が似合うなぁとぽつりと零す。
「ん、何か言った?」
「何でも。それより、遊ぶんだろ?」
「そうそう! よし、まずは泳ごうっ。海まで競争ね!」
ミコトはそう言って砂浜を蹴りながら走り出す。
ルドルフはその後姿を眺め、先ほど浮かんできた気持ちをさらりと思い出の中に溶かすと、その後を追った。
「はいっ、うちの勝ちっ。ルゥ君はあとでラムネ奢りね!」
「おいおい、聞いてないぞ」
「勿論、今決めたからね!」
どうにも勝てない。ルドルフはそんな感想を抱きながら、ミコトの待つ海の中へとゆっくり足を進めた。
●眼鏡ライダー、散る
皆が楽しむ海。そのちょっと沖のほうで、何かが走っていた。そう、文字通り海面を走っているのだ。
「眼鏡ライダー、トミヲ……再臨だ!」
そう言って水流崎トミヲ(ka4852)は、アクセルグリップを限界まで回す。
「ヒュォォォォォォ! 僕は今最高に夏だ!!!!」
雄叫びを上げるトミオ。今の彼は、夏という概念そのものになっていた。
そんな彼の目前に小さな島が見えてきた。トミオはその島へとバイクを走らせることにする。
「丁度いいや、あそこで休憩しよっと」
誰もいない無人島。のんびりするには絶好の場所だろう。そう、思っていた。
突然小島の近くの海面が揺れ、そこから1人の女性が姿を現した。その女性が着ているのは特に飾り気のない、機能性だけのワンピース水着だった。しかし、しっかりと女性らしい凹凸したラインを浮き出させており、後ろで纏めた濡れた黒髪は艶やかに、そして光を浴びて光を反射させて輝いている。
それだけでは終わらなかった。それから数秒遅れて、もう1人女性が水面から顔を出す。こちらは先ほどの女性とは対照的に、挑戦的と言えるくらいに大胆なビキニ姿だ。揺れるその豊満な胸の上下の柔らかい部分は全く隠されておらず、V字型のハイレグは恐らく後ろから見れば綺麗なヒップラインを拝むことが出来るだろう。
「どうやら、私の勝ちみたいですね」
「ええ、私の負けですね。少しは自信があったんですけど」
雨月彩萌(ka3925)は表情は変えず、ただ少し楽しげな声で。エルバッハ・リオン(ka2434)はそれに一度肩を竦めて見せ、だが感情をそのままに笑みを浮かべて応えた。
が、そんなところで2人は何かが視界を横切っていったことに気づく。
「なんだよ皆そんなナンパな水着なんか着ちゃってさ! 危ないだろ~!!」
そんな叫びのような、悲鳴のような声が響いた。それと同時に、何かが水面に落ちる音と、地面に落ちる音が続けて聞こえた。
「……バイク?」
「あら、大丈夫かしら?」
彩萌は沈んでいくバイクを見て、エルバッハは小島の砂浜に頭から突き刺さっているぽっちゃりした体型の男の姿を見て、それぞれぽつりと言葉を漏らした。
●海の家
「夏と言えば、やっぱり海だね」
浜辺に着いたばかりのシェラリンデ(ka3332)は、荷物を肩に担いだまま青く広い海を眺める。
その荷物を持つ反対の手には、シェラリンデの肩ほどの高さの少女――泉(ka3737)の手が握られていた。
「皆と一緒なんじゃも~ん♪ にゃっ? おいしそーな匂いがするんじゃもん!」
上機嫌な泉は鼻をひくひくと鳴らし、美味しそうな食べ物の匂いが香ってくる海の家へと視線が釘付けになる。
そしてシェラリンデとは反対側の泉の手を繋いでいる有城 蔵人(ka3880)も、泉に釣られるようにしてそちらに目を向けた。
「あれは焼きそばかな~? よし、腹ごなしにれっつご~」
蔵人はそう言うと共に、泉と一緒に焼きそばの屋台へと走り出す。
「ああ、こらこら。全く、しょうがないな。お店は逃げたりしないから大丈夫なのにね」
シェラリンデはそんな2人の背中を微笑ましさ半分、苦笑半分に後を追う。
「焼きそば欲しいんじゃもーん……にゃっ、ライエル!」
が、そこで焼きそばを焼いていた人物に泉はちょっと驚いた。
「いらっしゃい、ようやく来たな」
そこでコテを両手に焼きそばを作っていたのは、ライエル・エルファンド(ka3811)だった。
「ライエルさん、お仕事中~? あっ、それと焼きそばくださいな~」
「何、早く着いたからお前達を待つ間に手伝いをちょっとな」
ライエルはそう言いながらエプロンを脱ぎ、本来の店員らしい男性にそれを渡す。
「よし、これで全員揃ったようだね。それじゃあ、まずはご飯にしようか」
揃った皆の顔を一度眺めてから、シェラリンデは微笑む。
「にゃぁ♪ ご飯一杯食べるんじゃも~ん♪」
「焼きそばだけじゃ物足りないよねー。あっ、向こうにフランクフルト売ってる。あれも買ってこよー」
「ああ、こら。勝手に単独行動はするな。シェラ、泉のことは頼むぞ」
蔵人はそう言うと、雑踏賑わう別の海の家へとふらふらと歩いていってしまう。
ライエルはシェラリンデに泉を任すと、そんな蔵人の後を追っていった。
「おいしー♪ シェラも食べるんじゃもん!」
と、先に焼きそばを食べだしていた泉が、シェラリンデの手を引いた。そちらを見てみれば、にっこり笑顔の泉がいる。但し、口元には青海苔とソースがたっぷり着いているが。
「しょうがないね。ほら、動いちゃ駄目だよ」
シェラリンデは店員から受け取ったお手拭で、泉の口元を拭ってやった。
「へい、お待ち!」
そんな威勢のいい声と共に、コトラン・ストライプ(ka0971)の前に出されたのはラーメンだ。
「よし、桃ねーちゃん。どっちが早く食べられるか競争な!」
箸を手にしながら、コトランは隣に座っている銀 桃花 (ka1507)に勝負を持ちかける。
「あら、私に食べ物で勝負を挑もうって言うの?」
桃花は長い髪を後ろで束ね直しながら、コトランへと視線を向ける。露出は控えめながら、肩の部分を隠すのは一本の紐のみ。夏の暑さに僅かに汗ばむ綺麗な腋から、しっかりと浮かんだ鎖骨へのラインは威勢であれば艶かしさを覚えることだろう。
「おうっ! この後はカキ氷にイカ焼きに、あと焼きそばも食べたいし。どれだけ食べられるかも勝負しようぜ!」
だが、その辺りのことは全く意識していないらしいコトランは、これから制覇する食べ物のことで頭が一杯のようだ。
「そう、ならいいわ。なら勝負開始よ! 着いて来られるかしら、トラ君☆」
「上等だぜ!」
そうして始まる早食い&大食い勝負。姉弟のような2人は多少の口元の汚れなんか気にせず、全力でラーメンを啜っている。その顔は、いろんな意味で楽しそうだった。
「海だあ! すごーい。綺麗!」
セラ・グレンフェル(ka1049)は一番に砂浜に走り、楽しいという感情を振りまきながら動き回る。フリル付きの水着と一緒に腰に巻いたパレオがひらひらと舞っている。
「ああ、そうだな。これは楽しめそうだ」
彼女の同伴者であるディッシュ・ハーツ(ka1048)もそう同意しながら浜辺を見渡した。
と、そんなディッシュの腕が突然引っ張られる。そちらを見れば、じぃーっと何か言いたげなセラがそこにはいた。
「ハハ、そんなに心配しなくてもいいのに」
「でも……うん、でも大丈夫だから。これからだもん!」
セラはディッシュの腕を強引に組むが、彼はそれに苦笑を交えながら優しい声で言葉を返す。
「そうだね。その水着だって可愛いし、それを着ているセラも愛らしいよ」
「本当?」
照れてはにかむような笑みを浮かべたセラは、今度は別の理由でぎゅっとディッシュの腕を抱きしめる。
「ああ、本当だ。それに俺は脚派だしな」
真顔でカミングアウトするディッシュであったが、どうやらセラの耳には届いていなかったようだ。
「いやいや、お若いですな。御二人とも」
くすりと笑う声が聞こえたその先には、麦藁帽子を被る老人、アルヴィース・シマヅ ( ka2830 )がいた。
「アル爺、ってアレ? ウィズとルークは?」
「はい、あちらでお食事中でございます。坊ちゃま方が御二人のこともお呼びだったので、野暮かとも思いましたがお声掛けさせていただきました」
アルヴィースが指した方向には、海の家に用意された食事スペースの席がある。そこにはまるっきり同じ顔の兄弟が座っており、3人に向かって手を振っていた。
ディッシュとセラは顔を見合わせ、くすりと一度笑ってから、アルヴィースと共にそちらへと向かう。
「遅いですお2人共。おにくぅはるーが制圧しましたお!」
「その通りなの。とうもろこしは美味しかったの!」
満足、と言った顔をするルーキフェル・ハーツ(ka1064)とウェスペル・ハーツ(ka1065)は、完璧に同じ笑顔をしていた。
「それより、今度は皆でアレを食べるんですお!」
そう言ってルーキフェルが指差したのは、カキ氷屋であった。
「へえ、カキ氷か。実は食べたことがないんだよな」
「そうなの? じゃあ初チャレンジね。私は苺!」
「うーはメロン味がいいの。るーはどれにするの?」
「むむむ、それならるーはこの水色のにしますお!」
「それでは爺はこのオレンジを」
「あー……じゃあ、俺は誰も選んでないこのグレープにするかな」
5人はそれぞれカキ氷を買い、仲良くテーブルを囲んでシャクシャクと、氷が溶けてしまう前に口の中へと運んでいく。
そして……。
「ふおー! 頭がキーンってするなの!」
「……これは、中々なもんだね」
「あはは、皆お揃いね」
それもまた、夏の風物詩。
そんな賑やかな一行もいれば、静かにこの海を楽しむカップルもいる。
「このトロピカルジュース、美味しいです」
幼さを残す顔でほわっと幸せそうな笑みを浮かべる来未 結(ka4610)を、正面に座っているミューレ(ka4567)は微笑ましく見守っている。
そうしていると、ふとしたタイミングで結がそわそわとしだす。ちらちらとミューレを見ては、やや視線を逸らすのだ。
「どうかしたのかな?」
「あの、そんなにじっと見つめられてると……何だか恥ずかしくなってきて」
「あっ、そうだよね。ごめん、つい」
結のその言葉に、ミューレも少し恥ずかしくなって何となしに頬を掻く。
「そろそろ海、行こうか」
「あっ、はいっ!」
力強く返事をした結は、羽織っていたパーカーを脱いで椅子にかけた。結の水着は白地に水色の水玉模様の入ったビキニで、アクセントについているフリルが色気とは違う可愛らしさを引き立てている。
ミューレは彼女の水着姿に暫し見惚れ、少しの気恥ずかしさを誤魔化すかのようにその手を繋ぎ、海辺へと彼女を誘っていく。
「泳ぐのも良いけど、今日は海の上をお散歩なんてどうかな?」
ミューレはそう言うと、誰にも聞こえないような小さな詠唱を紡ぐ。すると結の足首の周りに水が現れ、リングの形を保ちながらふわふわと浮いている。
同じものを自分の足元にも作ると、ミューレは結の手を引いて海の上を歩き出した。
「わっ、わわっ。み……ミューレさんっ、まだ心の準備がっ」
結は波が来る度に浮き沈みする体に戸惑い、ミューレの手を離すまいと強く握る。
「ふふっ。さあ、行くよ?」
2人はそのまま沖へと向かって歩いていった。
●スイカ割り大会
昼時をちょっと過ぎたところで、ついにスイカ割り大会が始まった。
「ルーク坊ちゃま、もう少し右へ。ああ、ウィズ坊ちゃまはそのまま真っ直ぐでございます」
「2人とも頑張れー」
今はアルヴィースやセラの応援の下、ルーキフェルとウェスペルの兄弟が挑戦中だ。
「まっすぐ、まっすぐ行くなの!」
「しまー、少しってどれくらいですかお! これくらいかお?」
ウェスペルは直進、だが段々と横へとずれていく。そしてルーキフェルも「もう少し」という具合が分からず、ふらふらと砂を踏んでいる。
「あっ、危ないっ」
セラの一声とほぼ同時、動き回っていた2人の頭がごつんとぶつかった。
「あたたー、うーは石頭ですお」
「るーも石頭なの。目がまわりますなの~」
互いに砂浜に尻餅を突き、ぶつけた頭を摩っている。そこにアルヴィースが近寄り、2人を助け起こした。
「大丈夫ですか、お坊ちゃま方?」
「問題ないなの。次はきっと割ってみせるなの」
「今度こそ、うーにカッコいいとこ見せますお!」
どうやら2人とも無事のようで、何より楽しそうな様子にアルヴィースは思わず笑みを見せた。
勿論1人、もとい一箇所ずつしていては日が暮れてしまうのでスイカ割りは数箇所に分かれて行われている。
目隠しをされてよろよろと、慎重に歩を進めているファリスに応援の声が届く。
「ファリスちゃん、その調子よー」
アルフェロアの声に導かれてファリスはそのまま数歩進み、大きく振りかぶった棒を振り下ろす。
だが、残念なことにあと半歩分ほど手前で振り下ろした棒は砂浜を叩いていた。
「……残念なの」
しょんぼりとするファリスの肩をアルフェロアが優しく叩く。
「大丈夫、私が仇を取ってあげるわ。指示は任せたわよ」
目隠しと棒をファリスから受け取ったアルフェロアは、その場で回ること5回ほど。棒をきっちり両手で持ってスイカへと向かって歩き出す。
「んー、この辺りかしら?」
周囲の指示を受けながらアルフェロアはスイカへと近づいていく。ファリスもそれを助けようと、いつもは出さないくらい大きな声を出していた。
「あっ……もう少し、左に。そう、あと一歩くらい前で……そこなの!」
「よーし、行くわよ!」
気合の声と共に、アルフェロアは棒を振り下ろす。その一撃は見事、スイカのど真ん中に命中してスイカを割った。
ただ、勢い余ったのかアルフェロアは前のめりに傾いて、それに耐えようとして結局スイカの隣に転んでしまった。
「あはは、転んじゃったわ。ちょっと恥ずかしい」
「……! アル姉様、早く立つの!」
そこで何かに気づいたファリスが慌ててそう言うが、アルフェロアは「はて?」と不思議そうな顔をしながら、立ち上がる。
それから胸元に入った砂を払う為に指を引っ掛けて少し水着を浮かせるのだが、そこに視線が集まってしまうのは仕方がないことだろうか。
その他の場所でも続々とスイカが割られ、改めて綺麗にカットされたスイカが皆に配られる。
「はい、スイカ貰ってきましたよ」
「スイカ! 美味しいんじゃもん♪」
シェラリンデが運んできたスイカを受け取り、泉はシャクシャクとその赤い部分を頬張る。
「いやー、けど俺がやって良かったのかなぁ~?」
「問題ないだろう。スイカはどうやら余るほどあるらしいしな」
普段からよく目隠しをして過ごしている蔵人は、正直このスイカ割りは楽勝だった。ズルと言われるかもしれないとも思ったが、ライエルの言う通り大会本部のテントの下には、まだスイカが山のように積み上げられている。
「うん、問題ないみたいだね~。もう一個割ってこようかな」
「待て、まずはその両手に持ってるスイカを食べてからにしろ」
ライエルは、立ち上がった蔵人の水着の端を掴んでそれを止める。彼の言う通り、蔵人の手には大きめのカットされたスイカが握られていた。
「だよね~。うん、それじゃあ食べ終えたらあと2~3個くらい割るわ」
「蔵人殿、割るのは食べられる分だけでいいよ?」
そんな彼に、シェラリンデは苦笑交じりにそう言って釘を刺しておく。
「ボクも割るんじゃもん。そして一杯食べるんじゃもん!」
けど構わずにまだ割って食べる気満々の泉は、皮と白い部分だけになったスイカを両手に万歳のポーズを取る。
そんな彼女の耳に、ライエルは囁くように言った。
「知ってるか、泉?」
「にゃ?」
「スイカは食べ過ぎるとな、ヘソから芽が出て生えてくるんだぞ」
「にゃっ!?」
ふるふると震えだす泉に、これでよしとライエルは一息吐く。
「これを食べ終えたら一泳ぎしに行こうか」
シェラリンデはそう提案にする。今はパーカーを羽織っているが、彼女もこの夏の為に少しだけ可愛い水着を用意したのだ。それを使わずに帰るのは惜しい。
「賛成~、でもこれ外せないから波打ち際で」
「それなら水掛け合いっこするんじゃもん!」
「やれやれ、若い奴等は元気だね」
それぞれの友人達の反応に、シェラリンデは僅かに微笑んでみせた。
「食いモンがいっぱいあるのって幸せだなー」
スイカを齧りながら、コトランはしみじみとその言葉を噛み締め、スイカの味を楽しむ。
「ホントにね。美味しいものっていくらでも食べられちゃうから、不思議よね」
同じくスイカに塩をぱっぱと振りかけて食べる桃花は、その甘みにほわんと幸せそうな笑みを浮かべる。
そんな2人の前には、ちょっとこんもりした砂の山があった。
「俺は、なぜここにいるのだろうか」
その砂山が喋った。否、砂に埋められていたルース(ka3999)が口を開いた。
「あっ、起きた。おじさん、大丈夫ですかー?」
「……お前は誰だ。というか、そもそもここは何処だ?」
ルースは桃花の声に対して目を細める。そもそも首以外が動かずに桃花の姿が見えない。
「そーだ、たこ焼き食べる? ふーふーしたげよっか♪」
桃花はルースの問いには応えず、傍らに置いてあったたこ焼きパックを手に取った。
「あっ、桃ねーちゃん! それおいらが食べようと思ってた奴だぞ!」
「いいじゃない、一つや二つや一パックくらい」
先ほどまで仲の良かった2人の間で、結局喧嘩が勃発したようだ。
ぎゃいぎゃい騒ぐ声だけが聞こえるルースは、顔の横にある溶けかけのカキ氷を見て思う。
「何日眠っていなかっただろうか」
もはや思考はでたらめで、まともなことは考えられない。ただ、涼しげなこの場所で少し時間を潰すのは悪いことではないだろう。
「ふぅー! お城も出来たし、スイカも美味しいし。最高だね!」
「ああ、流石に疲れたけどな」
ルドルフとミコトは、2人で作った西洋風の砂の城の横に座り、配られているスイカを齧る。
「そういや、小さい頃もよくこうして海に来てたな」
「うん、そうだね。こっちの世界でも来れてよかったね、海」
2人は転移してくる前、リアルブルーで見た海のことを思い出す。
砂浜も、揺れる波も、空の太陽もそっくりだけど、それはやはり故郷のものとどこか違う。
「よしっ、ルゥ君。泳ぐよ!」
「はぁ? ちょっと待て、まだ食べ終わって……」
「いいからっ。早く!」
ミコトに腕を引っ張られて、ルドルフは仕方なく引きずられるようにして海へと走った。
「あづ……」
賑やかなスイカ割り大会の会場を眺めるように、砂浜に敷いたシートの上でトミオが横になっている。
トミオはそのままぐるりと砂浜を見渡す。誰もが皆はしゃりでおり、とても楽しげに笑みを浮べている。
「……なんだ、平和じゃないか」
どこか懐かしさを覚える光景に、安堵の混じった溜息が漏れた。
「そうですね。これこそ、この正常な光景です」
「うひゃああぁぁぁ!?」
凜と鈴を鳴らしたような、女性らしい澄んだ声にトミオは思わず悲鳴を上げる。
「……何故悲鳴を上げられたのでしょうか?」
まるでこちらが驚かしたかのような、そんな想定外の反応に彩萌は眉を顰める。
「な、なんでもないよ。ち、ちょっと吃驚した、だけだから……ふひっ」
弁明と共に振り返ったところで、タオルケットを頭に被る水着姿の彩萌の姿を見上げることになり、トミオの口から変な音が出た。
「あっ、いましたね。2人とも、スイカは如何です?」
そこにエルバッハが少し大きめのお皿の上にスイカを乗せてやってくる。
先ほどの縁ということでスイカを確保してきてくれたようだが、そんな彼女の姿を見たところトミオは突然立ち上がった。
「海が! ボクを! 呼んでいるんだぁぁぁ!!」
突然走り出し、海へとダイブするトミオ。
「どうしたのでしょうか? 変な人です」
「さあ? それより食べましょう」
突然走っていったトミオを彩萌は訝しげに見つめる。
エルバッハはそれに小さく肩を竦めて、ずれていたビキニの肩紐をそっと直した。
●海上散歩
「この発想は無かったッス」
義経は今、海の上を歩いていた。その驚いた顔に、隣にいる遥が小さく微笑む。
「見て、高円寺君」
「おっ、一杯泳いでるッスね」
遥の指した海面の下では、青く光る魚の群れがさっと、その群れが1つの生き物であるかのように右へ左へと泳いでいる。
と、そこで一匹の魚が海面からぴょんと跳ねた。
「きゃっ!」
「八代さん!?」
丁度遥の目の前で跳ねた魚は、そのままぽちゃんと海の中に戻っていく。
そんな小さなアクシデントの後に残ったのは、後ろに倒れそうになった遥と、その肩を支える義経の姿だった。
「あっ、も、申し訳ないッス!」
義経は慌ててその手を離して、一歩距離を取る。
遥のほうはと言うと、自分が照れる暇もなくあたふたとしている義経を見て、その顔には自然と笑みが浮かんでいた。
別の場所でも、海上散歩を楽しむカップルがいた。
海の上を散歩するという未知の体験に初めは恐る恐るだった結も、今では夢中になり足元で泳ぐ魚達をきらきらした目で見つめる。
と、そこで急にミューレが結の手を少し引くと、そのまま彼女の体をそっと抱きしめた。
「えっ、ミューレさ――」
どぼん、と。結の言葉は最後まで告げられず、2人の体が海面へと落ちた。どうやら魔法の効果が丁度切れたようだ。
「も、もう……」
「あはは、ごめんごめん」
夏でもひんやりと冷たい海の中で、触れ合っているお互いの体温だけが伝わりあう。
自然と、どちらからともなくミューレと結は互いを抱きしめあった。
とくんとくんと、相手の心臓の鼓動を感じる中で、結はぼーっとミューレの顔を見つめている。
「そろそろ、戻ろうか」
優しく微笑む彼のその言葉に、ただ、この時は少しだけ我儘な言葉が口からでてしまう。
「もう少しだけ……駄目、ですか?」
ミューレは少し驚いたような顔をした後、言葉無く一度頷いて、もう一度しっかりと結の体を自分の体に引き寄せる。
この時を永遠に。そんな叶うはずのない願いを本気で祈ってしまうほど、今この時は幸福で満ちていた。
●夕日の浜辺
「んー、ふぅっ! よく寝たねぇ」
シートの上で頭に新聞を被せて寝ていた鵤が、ぐっと伸びをしながら起き上がる。
辺りを見渡せば日もすっかり傾き、ビーチがオレンジ色に染められた頃。海水浴客達もまばらになっている。
「あっ、お兄さん起きましたね! 見てください、綺麗な貝殻ありましたっ」
そんな鵤の隣で、彼が起きるまでじっと待っていたアルマは見つけてきた大きめの貝殻を自慢げに見せ付ける。
「あー、はいはい。よかったね。それよりそろそろ帰るよ。片付けもお願いね」
「はいっ!」
頭を掻きながら立ち上がる鵤は、片付けをアルマに頼んだところでさっさと砂浜を出ていく。
アルマも急いでシートとパラソルを畳みそれを追った。
休暇は終わり。ハンター達はまたそれぞれの冒険や戦いの場へと戻るだろう。
それでも、また疲れた時には。気晴らしをしたい時には。このビーチを訪れて欲しい。
そして誰もいなくなったビーチの砂浜で、小さな声が聞こえた。
「そろそろ帰りたいんだが、動けん」
埋められたままのルースの、誰かへ向けた助けを求めるメッセージが波の音に掻き消された。
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依頼前の挨拶スレッド ミリア・クロスフィールド(kz0012) 人間(クリムゾンウェスト)|18才|女性|一般人 |
最終発言 2015/07/26 16:34:58 |